(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-03
(45)【発行日】2022-06-13
(54)【発明の名称】組み換え酵母、構築方法、並びに、その組み換え酵母を用いたチロソール及び誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/19 20060101AFI20220606BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20220606BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20220606BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20220606BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20220606BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220606BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20220606BHJP
C12N 15/61 20060101ALN20220606BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12P7/22
C12N9/88
C12N9/02
C12N9/90
C12N15/53
C12N15/60
C12N15/61
(21)【出願番号】P 2021502824
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 CN2020080627
(87)【国際公開番号】W WO2020199952
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-01-13
(31)【優先権主張番号】202010012886.7
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910262724.6
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/113879
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522142844
【氏名又は名称】山東恒魯生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】方 ▲シゥ▼
(72)【発明者】
【氏名】郭 偉
(72)【発明者】
【氏名】侯 少莉
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-531904(JP,A)
【文献】特表2016-519577(JP,A)
【文献】Journal of agricultural and food chemistry,2018年04月19日,Vol.66,p4431-4438
【文献】Biotechnology and Bioengineering,2020年,Vol.117, No.8,p2410-2419
【文献】Frontiers in Bioengineering and Biotechnology,2019年07月03日,Volume7,Article152,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6616077/参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-38
C12N 15/00-90
C12P 7/00-66
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリトロース-4-リン酸とホスホエノールピルビン酸からチロソールを合成する代謝経路を備えるように改変させた酵母細胞に、外因性のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子を導入して構築されたチロソール及び誘導体の生産に利用できる組み換え酵母であって、
前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子はビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、に由来であることを特徴とする組み換え酵母。
【請求項2】
前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号1又は配列番号2に記載のとおりであり、好ましくは、前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号30に記載のとおりであることを特徴とする請求項1に記載の組み換え酵母。
【請求項3】
前記改変させた酵母細胞は、芳香族アルデヒド合成酵素及びコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼを組み込むことによって、又は芳香族アルデヒド合成酵素を組み込むことによって得られ、
好ましくは、前記芳香族アルデヒド合成酵素はパセリに由来し、酵素番号はEC4.1.1.25であり、前記コリスミ酸ムターゼは大腸菌に由来し、酵素番号はEC1.3.1.12、EC5.4.99.5であり、前記プレフェン酸デヒドラターゼは大腸菌に由来し、酵素番号は5.4.99.5であることを特徴とする
請求項1又は2に記載の組み換え酵母。
【請求項4】
前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾサッカロミケス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、サッカロミケス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、シェフェルソマイセス・スティピィティス(Scheffersomyces stipites)、メイエロザイマ・ギリエルモンディイ(Meyerozyma guilliermondii)、ロデロマイセス・エロンギスポラス(Lodderomyces elongisporus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・オルソプシローシス(Candida orthopsilosis)、カンジダ・メタプシロシス(Candida metapsilosis)、カンジダ・デュブリニエンシス(Candida dubliniensis)、カンジダ・アウリス(Candida auris)であり、 好ましくは、前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、菌種番号はCICC1964であり、前記クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)であり、菌種番号はNBRC1777であり、 好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込むことによって得られ、
より好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでサッカロミケス・セレビシエCICC1964のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られ、
好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のデルタ(delta)12サイトに組み込むことによって得られ、より好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれかに記載の組み換え酵母。
【請求項5】
(1)発現カセットを構築するステップであって、発現カセットはプロモータ、ターミネータ、ホモロジーアーム及びフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子を融合させて得られるステップと、
(2)改変させた酵母細胞に、ステップ(1)によって構築された発現カセットを形質転換して、チロソール高生産性組み換え酵母を得るステップとを含み、
前記改変させた酵母細胞はエリトロース-4-リン酸とホスホエノールピルビン酸からチロソールを合成する代謝経路を備え、
前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子はビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、に由来であることを特徴とするチロソール高生産性組み換え酵母の構築方法。
【請求項6】
前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号1又は配列番号2に記載のとおりであり、発現遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号3又は配列番号4に記載のとおりであり、
好ましくは、前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号30に記載のとおりであり、発現遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号31に記載のとおりであり、
好ましくは、前記ステップ(1)で、ホモロジーアームはサッカロミケス・セレビシエ菌株CICC1964又はクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のゲノムをテンプレートとし、プライマーを利用してプレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase)遺伝子pha2の上流及び下流を500bp増幅させた遺伝子断片であり、前記上流ホモロジーアームの増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号5、配列番号6に記載のとおりであり、下流ホモロジーアームの増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号7、配列番号8に記載のとおりであり、
好ましくは、前記ステップ(1)で、プロモータはサッカロミケス・セレビシエ菌株CICC1964又はクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のゲノムをテンプレートとし、プライマーを利用して増幅させたプロモータtpi1であり、前記プロモータtpi1の増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号9、配列番号10に記載のとおりであり、
好ましくは、前記ステップ(1)で、ターミネータはサッカロミケス・セレビシエ菌株CICC1964又はクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のゲノムをテンプレートとし、プライマーを利用して増幅させたターミネータgpm1であり、前記ターミネータgpm1の増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号11及び配列番号12に記載のとおりであり、
好ましくは、前記ステップ(2)で、改変させた酵母細胞は芳香族アルデヒド合成酵素及びコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼを組み込むことによって、又は芳香族アルデヒド合成酵素を組み込むことによって得られ、
より好ましくは、前記ステップ(2)で、芳香族アルデヒド合成酵素はパセリ(Petroselinum crispum)に由来し、酵素番号はEC4.1.1.25であり、前記コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼは大腸菌(E.coli)に由来し、酵素番号はEC1.3.1.12、EC5.4.99.5であり、
好ましくは、前記ステップ(2)で、前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾサッカロミケス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、トルロプシス・グラブラタ(Torulopsis glabrata)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、ロドトルラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、サッカロミケス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、シェフェルソマイセス・スティピィティス(Scheffersomyces stipites)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・オルソプシローシス(Candida orthopsilosis)、カンジダ・メタプシロシス(Candida metapsilosis)、カンジダ・デュブリニエンシス(Candida dubliniensis)、カンジダ・アウリス(Candida auris)であり、
より好ましくは、前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエであり、菌種番号はCICC1964であり、前記クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)であり、菌種番号はNBRC1777であり、
より好ましくは、前記ステップ(2)で、改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込むことによって得られ、
さらに好ましくは、前記ステップ(2)で、改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta12)サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでサッカロミケス・セレビシエCICC1964のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られ、
より好ましくは、前記ステップ(2)で、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のデルタ(delta)12サイトに組み込むことによって得られ、
さらに好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られることを特徴とする請求項5に記載の構築方法。
【請求項7】
請求項5もしくは請求項6に記載の方法で構築されたチロソール高生産性組み換え酵母を用いるチロソール及びその誘導体の生産方法。
【請求項8】
チロソールの発酵製造において、発酵培地に少なくともグルコース、フルクトース、スクロースの1種又は2種以上の組み合わせ及びチロシンが含まれることが好ましい、請求項7に記載のチロソール及びその誘導体の生産方法。
【請求項9】
請求項7に記載のチロソール高生産性組み換え酵母を用いるヒドロキシチロソールの生産方法。
【請求項10】
請求項7に記載のチロソール高生産性組み換え酵母を発酵させることによってチロソー
ルを製造した後、4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼによって反応させてヒド
ロキシチロソールを得、 好ましくは、4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼを過剰発現する大腸菌で、請求項8に従って製造されたチロソールを触媒することによって、ヒドロキシチロソールを得、 より好ましくは、前記発酵の発酵培地に少なくともグルコース、フルクトース、スクロースの1種又は2種以上の組み合わせ及びチロシンが含まれることを特徴とするヒドロキシチロソールの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物遺伝子工学の技術分野に属し、組み換え酵母、構築方法、並びに、その組み換え酵母を用いたチロソール及び誘導体の製造方法に関し、特に、外因性のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Fructose-6-phosphate phosphoketolase、略称fxp)の発現遺伝子を酵母に導入し、当該菌株を用いてチロソール及びその誘導体を効率的に生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チロソールは、オリーブ油に由来する天然の抗酸化物質であり、フェネチルアルコールの誘導体である。コウケイテン(和名イワベンケイ)の主な薬用有効成分として知られ、サリドロシド、ヒドロキシチロソールの前駆体である。細胞を酸化損傷から防御する効果が認められることから、産業上価値の高いフェノール類化合物とされる。チロソール及びその誘導体は様々な有機化合物の合成の前駆体である。チロソールは医薬品に使用することができ、チロソールの誘導体、ヒドロキシチロソールは、抗酸化作用に優れ、様々な生理的・医学的機能を持ち、チロソールよりも抗酸化能が高く、様々なポリマーの合成に使うことができ、しかも毒性を持たないため、生物医学、機能性食品等分野で心血管疾患、骨減少症等の予防など幅広く用いられる。現在、ヒドロキシチロソールはオリーブの葉から抽出したのがほとんどで、コストが高く、オリーブの栽培には大量の農地が必要になる。
【0003】
化学的手法で合成する場合、フェネチルアルコールが用いられ、その多くはヒドロキシ基保護を行いながら、硝化、還元、ジアゾ化、加水分解という手順でp-ヒドロキシフェネチルアルコールを得る。収率は70%と低く、高価なフェネチルアルコールを原料とするため、原料の確保に問題がある。ニトロトルエンから合成する場合は、価格は安いが工程が長く、全工程収率も低い。p-ヒドロキシスチレンから合成する場合は、収率が96%、純度が99%とある程度価値が認められるが、原料コストが高いのは問題である。このように化学的手法でチロソールを製造する場合、製造コストが高く、環境に優しくない。これらの理由からチロソールの大量生産が制限され、生物学的手法によるチロソール及びその誘導体の合成は、研究のホットスポットになっている。
【0004】
チロソール(Tyrosol)の化学名は、4-(2-ヒドロキシエチル)フェノール(4-(2-Hydroxyethyl)phenol)であり、分子式はC8H10O2であり、分子量は138.164であり、CAS登録番号は501-94-0である。構造式は次に示すとおりである。
【0005】
【0006】
特許文献1には、チロソール及びヒドロキシチロソールを生産する酵母及びその構築方法を開示されている。PcAAS及びADH配列を酵母BY4741に導入し、チロソールを生産するPcAAS-ADH組み換え酵母を得るステップと、前記PcAAS-ADH組み換え酵母にpdc1遺伝子ノックアウトカセット、tyrA発現カセットを導入してチロソールを生産するPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA組み換え酵母を得るステップと、HpaBCのDNA配列をPcAAS-ADH-Δpdc1-tyrA組み換え酵母に導入して、ヒドロキシチロソールを生産するPcAAS-ADH-HpaBC-Δpdc1-tyrA組み換え酵母を得るステップとを含む。酵母BY4741を用いてチロソール又はヒドロキシチロソールの生合成経路を構築し、チロソール又はヒドロキシチロソールの生産量を高めるというものである。しかし、当該技術により酵母におけるチロソールの生産量を向上させたものの、大量生産を満たすほどの生産量ではない。酵母によるチロソール合成は様々な代謝経路から影響を受け、関連の代謝経路はまだ完全に解明されておらず、酵母発酵によるチロソール生産の産業化をどのように実現するかは解決すべき課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Satoh et al.,Journal of Agricultural and Food Chemistry,60,979-984,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の欠点に対し、組み換え酵母、構築方法、並びに、その組み換え酵母を用いたチロソール及び誘導体の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第1態様は、発明特許出願(出願番号201810601213.8)を踏まえ、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis、菌種番号ATCC 15703)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Fructose-6-phosphate phosphoketolase、EC4.1.2.22、アミノ酸配列はGenBank:BAF39468.1に記載、配列番号1)又はビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)BBRI4に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Fructose-6-phosphate phosphoketolase、EC4.1.2.22、アミノ酸配列はGenBank:KND53308.1に記載、配列番号2)の遺伝子断片等を酵母において発現するものであり、フルクトース-6-リン酸の触媒により、チロソールの生合成の重要な前駆体であるエリスロース-4-リン酸を生成するという新規な経路を構築することにより、チロソールの収率を高めることを特徴とする。
【0011】
本発明の第2態様は、ヒドロキシチロソールの生産方法を提供する。
【0012】
本発明の第3態様は、チロソール生産酵母の構築方法を提供する。
【0013】
本発明の第4態様は、チロソールの生産におけるチロソール生産酵母又は構築方法の用途を提供する。
【0014】
本発明の第5態様は、ヒドロキシチロソールの生産におけるチロソール生産酵母又は構築方法の用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明が上記の課題を解決するために採用する技術的解決手段は以下のとおりである。
エリトロース-4-リン酸とホスホエノールピルビン酸からチロソールを合成する代謝経路を備えるように改変させた酵母細胞に、外因性のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子を導入して構築されたチロソール及び誘導体の生産に利用できる組み換え酵母である。
【0016】
本発明において、好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、芳香族アルデヒド合成酵素及びコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼを組み込むことによって、又は芳香族アルデヒド合成酵素を組み込むことによって得られる。
本発明において、より好ましくは、前記芳香族アルデヒド合成酵素はパセリに由来し、酵素番号はEC4.1.1.25であり、前記コリスミ酸ムターゼは大腸菌(E.coli)に由来し、酵素番号はEC1.3.1.12であり、前記プレフェン酸デヒドラターゼは大腸菌(E.coli)に由来し、酵素番号はEC1.3.1.12、EC5.4.99.5である。
【0017】
本発明において、好ましくは、前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子はビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、リゥコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ビフィドバクテリウム・モンゴリエンセ(Bifidobacterium mongoliense)、ラクトバチルス・パラプランタラム(Lactobacillus paraplantarum)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ビフィドバクテリウム・シュードロングム(Bifidobacterium pseudolongum)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、クリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)、ガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、ロドトルラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、サッカロミケス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)等に由来する。
【0018】
好ましくは、前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号1又は配列番号2に記載のとおりであり、発現遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号3又は配列番号4に記載のとおりである。
好ましくは、前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号30に記載のとおりであり、発現遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号31に記載のとおりである。
【0019】
本発明において、好ましくは、前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾサッカロミケス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、トルロプシス・グラブラタ(Torulopsis glabrata)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、ロドトルラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、サッカロミケス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、チゴサッカロミケス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、カンジダ・グラブラータ (Candida glabrata)、トルラスポラ・デルブルツキ(Torulaspora delbrueckii)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、シェフェルソマイセス・スティピィティス(Scheffersomyces stipites)、メイエロザイマ・ギリエルモンディイ(Meyerozyma guilliermondii)、ロデロマイセス・エロンギスポラス(Lodderomyces elongisporus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・オルソプシローシス(Candida orthopsilosis)、カンジダ・メタプシロシス(Candida metapsilosis)、カンジダ・デュブリニエンシス(Candida dubliniensis)、クラビスポラ・ルシタニアエ(Clavispora lusitaniae)、カンジダ・アウリス(Candida auris)である。
【0020】
より好ましくは、前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、菌種番号はCICC1964であり、前記クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)であり、菌種番号はNBRC1777である。
【0021】
本発明において、好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでサッカロミケス・セレビシエCICC1964のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られる。
【0022】
(1)発現カセットを構築するステップであって、発現カセットはプロモータ、ターミネータ、ホモロジーアーム及びフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子を融合させて得られるステップと、
(2)改変させた酵母細胞に、ステップ(1)によって構築された発現カセットを形質転換して、チロソール高生産性組み換え酵母を得るステップとを含み、
前記改変させた酵母細胞はエリトロース-4-リン酸とホスホエノールピルビン酸からチロソールを合成する代謝経路を備える酵母細胞である、チロソール高生産性組み換え酵母の構築方法である。
【0023】
本発明において、より好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでサッカロミケス・セレビシエCICC1964のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られる。
本発明において、より好ましくは、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られる。
【0024】
本発明において、好ましくは、前記ステップ(1)で、フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子はビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、リゥコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ビフィドバクテリウム・モンゴリエンセ(Bifidobacterium mongoliense)、ラクトバチルス・パラプランタラム(Lactobacillus paraplantarum)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ビフィドバクテリウム・シュードロングム(Bifidobacterium pseudolongum)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、クリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)、ガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、ロドトルラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、サッカロミケス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)等に由来する。
【0025】
好ましくは、前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号1又は配列番号2に記載のとおりであり、発現遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号3又は配列番号4に記載のとおりである。
【0026】
好ましくは、前記フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼのアミノ酸配列は配列番号30に記載のとおりであり、発現遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号31に記載のとおりである。
【0027】
本発明において、好ましくは、前記ステップ(1)で、ホモロジーアームはサッカロミケス・セレビシエ菌株CICC1964又はクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のゲノムをテンプレートとし、プライマーを利用してプレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase)遺伝子pha2の上流及び下流を500bp増幅させた遺伝子断片であり、前記上流ホモロジーアームの増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号5、配列番号6に記載のとおりであり、下流ホモロジーアームの増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号7、配列番号8に記載のとおりである。
本発明において、好ましくは、前記ステップ(1)で、プロモータはサッカロミケス・セレビシエ菌株CICC1964又はクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のゲノムをテンプレートとし、プライマーを利用して増幅させたプロモータtpi1であり、前記プロモータtpi1の増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号5、配列番号6に記載のとおりである。
本発明において、好ましくは、前記ステップ(1)で、ターミネータはサッカロミケス・セレビシエ菌株CICC1964又はクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のゲノムをテンプレートとし、プライマーを利用して増幅させたターミネータgpm1であり、前記ターミネータgpm1の増幅プライマーのヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号9、配列番号10に記載のとおりである。
本発明において、好ましくは、前記ステップ(2)で、改変させた酵母細胞は芳香族アルデヒド合成酵素及びコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼを組み込むことによって、又は芳香族アルデヒド合成酵素を組み込むことによって得られる。
本発明において、より好ましくは、前記ステップ(2)で、芳香族アルデヒド合成酵素はパセリ(Petroselinum crispum)に由来し、酵素番号はEC4.1.1.25であり、前記コリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼは大腸菌(E.coli)に由来し、酵素番号はEC1.3.1.12、EC5.4.99.5である。
【0028】
本発明において、好ましくは、前記ステップ(2)で、前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、シゾサッカロミケス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロマイセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、トルロプシス・グラブラタ(Torulopsis glabrata)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、ロドトルラ・グラミニス(Rhodotorula graminis)、サッカロミケス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、チゴサッカロミケス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、カンジダ・グラブラータ (Candida glabrata)、トルラスポラ・デルブルツキ(Torulaspora delbrueckii)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、シェフェルソマイセス・スティピィティス(Scheffersomyces stipites)、メイエロザイマ・ギリエルモンディイ(Meyerozyma guilliermondii)、ロデロマイセス・エロンギスポラス(Lodderomyces elongisporus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・オルソプシローシス(Candida orthopsilosis)、カンジダ・メタプシロシス(Candida metapsilosis)、カンジダ・デュブリニエンシス(Candida dubliniensis)、クラビスポラ・ルシタニアエ(Clavispora lusitaniae)、カンジダ・アウリス(Candida auris)等である。
【0029】
より好ましくは、前記酵母細胞は、サッカロミケス・セレビシエであり、菌種番号はCICC1964であり、前記クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)であり、菌種番号はNBRC1777である。
【0030】
より好ましくは、前記ステップ(2)で、改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込むことによって得られる。
【0031】
本発明において、さらに好ましくは、前記ステップ(2)で、改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでサッカロミケス・セレビシエCICC1964のpdc1遺伝子置き換えることによって得られる。
【0032】
より好ましくは、前記ステップ(2)で、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のデルタ(delta)12サイトに組み込むことによって得られる。
【0033】
本発明において、より好ましくは、前記ステップ(2)で、前記改変させた酵母細胞は、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドラターゼでクルイベロマイセス・マルシアヌスNBRC1777のpdc1遺伝子を置き換えることによって得られる。
【0034】
前記方法で構築されたチロソール高生産性組み換え酵母を用いるチロソール及びその誘導体の生産方法である。
チロソール及びその誘導体の発酵生産方法である。
【0035】
本発明において、好ましくは、前記発酵の発酵培地に少なくともグルコース、フルクトース、スクロースの1種又は2種以上の組み合わせ及びチロシンが含まれる。
【0036】
前記チロソール高生産性組み換え酵母を用いるヒドロキシチロソールの生産方法である。
【0037】
本発明において、好ましくは、前記チロソール高生産性組み換え酵母を発酵させることによってチロソールを製造した後、ヒドロキシラーゼによって反応させてヒドロキシチロソールを得る。
【0038】
本発明において、好ましくは、4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼを過剰発現する大腸菌で、前記チロソール高生産性組み換え酵母の発酵により得たチロソールを触媒することによって、ヒドロキシチロソールを得る。
【0039】
本発明において、より好ましくは、前記発酵の発酵培地に少なくともグルコース、フルクトース、スクロースの1種又は2種以上の組み合わせ及びチロシンが含まれる。
【発明の効果】
【0040】
本発明は次の有益な効果を有する。
1.本発明は、酵母で発現する時、フルクトース-6-リン酸(Fructose-6-phosphate)がフルクトース-1,6-ビスリン酸(beta-D-Fructose 1,6-bisphosphate)を合成すると同時に、触媒されてエリスロース-4-リン酸(Erythrose-4-phosphate)及びリン酸アセチル(Acetyl-phosphate)になり、キシルロース-5-リン酸(Xylulose-5-phosphate)が触媒されてグリセルアルデヒド-3-リン酸(Glyceraldehydes-3-phosphate)及びリン酸アセチルになることを初めて開示する。酵母における炭素代謝フラックス分布が変わって、チロソール生合成の重要な中間体、エリスロース-4-リン酸の合成が増強され、チロソール合成の代謝経路が最適化され、チロソール及びヒドロキシチロソール等誘導体の収率が向上する。
【0041】
2.本発明では、改変させた酵母細胞に外因性のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子を導入して、組み換え酵母を得る。当該組み換え酵母はチロソールの収率を高めることができ、4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼを過剰発現する大腸菌でチロソールを触媒することにより、ヒドロキシチロソールを得る。
【0042】
3.本発明は、環境配慮がなされた新規なチロソール及びヒドロキシチロソール生物学的合成技術を提供し、チロソール及びヒドロキシチロソールの大規模な生産のための基礎を作り、経済的価値も社会的利益も大きい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、実施例1の組み換えプラスミドpUG6の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
下記の詳細な説明は全てが例示的なもので、本願の一層の説明に供する。特段の説明がない限り、本明細書で使用される科学技術用語は本願の技術分野の当業者が理解している通常の意味のものである。
【0045】
なお、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するために使われるが、本願の例示的な実施形態に限定を加えるためのものではない。また、文脈の中で明確な説明を添えない限り、本明細書で単数の形で使われるものには、複数の形も含まれる。また、本明細書で使用される用語「含む」及び/又は「備える」は、特徴、ステップ、操作、装置、部品及び/又はこれらの組み合わせが存在することを意味する。
【0046】
次に、実施例と結び付けて本発明の更なる説明を行う。
【表1】
【0047】
下記の実施例では、大腸菌BL21及び発現ベクターpET-28aは市販品である。下記の実施例で具体的な条件説明を添えない実験方法は、通常の条件で行われる。例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」に記載の条件、又は生物学用試薬のメーカーが推奨する条件に従って行われる。PCR増幅反応の手順は、例えば通常のPCR増幅反応手順である。
【0048】
サッカロミケス・セレビシエCICC1964は、中国産業微生物菌種寄託管理センターから購入され、菌種番号はCICC1964であり、非寄託菌株である。
発明特許出願(出願番号201810601213.8)の方法に従って、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素(AAS、aromatic aldehyde synthase、EC4.1.1.25)をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(TyrA、fused chorismate mutase T/prephenate dehydrogenase、EC1.3.1.12、EC5.4.99.5)でサッカロミケス・セレビシエCICC1964のpdc1遺伝子を置き換えることによって、SC-1菌株を得る。
【0049】
(実施例1)
Bafxpk及びBbfxpk発現カセットの構築
宿主サッカロミケス・セレビシエのコドン優先度に基づき、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列に対しコドン最適化を行って、配列番号1及び配列番号2に対応する最適化後のヌクレオチド配列である配列番号3及び配列番号4を得た後、遺伝子合成を行う。プライマー対Bafxpk-F/Bafxpk-R及びBbfxpk-F/Bbfxpk-Rを使用し、Vazyme社のPhanta Max High-Fidelity DNAポリメラーゼで増幅させて目的遺伝子フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現遺伝子(Bafxpk断片のヌクレオチド配列は配列番号3に記載、Bbfxpk断片のヌクレオチド配列は配列番号4に記載)を得る。サッカロミケス・セレビシエCICC1964のゲノムをテンプレートとして、プライマー対U-F/U-R及びD-F/D-Rを使用し、PCRにより上流及び下流ホモロジーアームのDNA断片を増幅させ、プライマー対Ptpi1-F/Ptpi1-R及びTgpm1-F/Tgpm1-Rでプロモータtpi1及びターミネータgpm1断片を増幅させる。ジェネティシン(Geneticin)耐性遺伝子KanMX4(ヌクレオチド配列は配列番号24に記載)を持つ組み換えプラスミドpUG6(
図1参照)のDNAをテンプレートとして、プライマー対G418-F/G418-Rを使用し、PCRにより耐性遺伝子KanMX4のDNA断片を増幅させる。アガロースゲル電気泳動によりバンドサイズの正確性を検証した後、バンドを切り取り、OMEGAゲル抽出キットで遺伝子断片を回収する。PCR増幅プライマーは以下のとおりである。
プライマー対Bafxpk-F/Bafxpk-Rの配列は配列番号13及び配列番号14である。プライマー対Bbfxpk-F/Bbfxpk-Rの配列は配列番号15及び配列番号16である。プライマー対U-F/U-Rの配列は配列番号5及び配列番号6である。プライマー対D-F/D-Rの配列は配列番号7及び配列番号8である。プライマー対Ptpi1-F/Ptpi1-Rの配列は配列番号9及び配列番号10である。プライマー対Tgpm1-F/Tgpm1-Rの配列は配列番号11及び配列番号12である。プライマー対G418-F/G418-Rの配列は配列番号17及び配列番号18である。
ハイフィデリティーPhanta Max High-Fidelity DNAポリメラーゼを用いて、各断片が隣り合う断片と50bpの相同配列を有するように目的遺伝子断片を増幅させ、PCR産物にゲル電気泳動を行った後、DNA断片ゲル回収キットを用いて回収し、DNA濃度を測定する。その後、融合PCR法により、相同配列を持つ精製後のDNA断片に対し融合させる。
(1)Phanta Max High-Fidelity DNAポリメラーゼを用いて、断片をライゲーションさせる。反応系は表2に記載のとおりである。
【表2】
【0050】
上記試薬をPCR用試験管に加え、反応条件は表3に示すとおりである。
【表3】
【0051】
(2)ステップ1のPCR反応産物をPCR増幅テンプレートとし、プライマー対Yzaw-F/Yzaw-Rを使用して、Vazyme社のPhanta Max High-Fidelity DNAポリメラーゼで増幅させて目的断片を得る。アガロースゲル電気泳動によりバンドサイズの正確性を検証した後、バンドを切り取り、OMEGAゲル抽出キットでDNA断片を回収して、Bafxpk及びBbfxpk発現カセットのDNA断片を得る。PCR増幅プライマーは以下のとおりである。
Yzaw-Fの配列は配列番号19であり、Yzaw-Rの配列は配列番号20である。
(3)ステップ2で得たBafxpk及びBbfxpk発現カセットのDNA断片に対し、配列決定を行って検証する。
【0052】
(実施例2)
Bafxpk及びBbfxpk異種発現菌株の構築(サッカロミケス・セレビシエを使う)
PEG/LiAc法によりチロソール合成菌株サッカロミケス・セレビシエCICC1964の形質転換を行い、培地にG418耐性を付与しスクリーニングしてモノクローナルをピッキングし、ゲノムを抽出し、プライマー対Yzaw-F/Yzaw-Rを使用してPCR検証を行って、SC-bafxpk及びSC-bbfxpk菌株を得る。
【0053】
(実施例3)
チロソール合成微生物の発酵(サッカロミケス・セレビシエを使う)
チロソールを生産する菌株CICC1964、SC-bafxpk及びSC-bbfxpkのプレートからモノクローナルをピッキングして、5mLのYPD液体培地に接種し、30~32℃及び200rpmで24時間培養した後、50mLのYPD液体培地に移し、接種初期OD
600は0.2であり、30℃及び200rpmで12時間培養した後、100mLのYPD液体培地に移し、接種初期OD
600は0.2であり、培地にはそれぞれ2%グルコース、2%スクロース、又は2%グルコースと1%チロシン等の炭素源が含まれ、24時間培養後、再び2%グルコース、2%スクロース、又は2%グルコースと1%チロシン等の炭素源を加え、合計で72時間発酵させる。非特許文献1に記載のHPLC法で、発酵液中のチロソール濃度を検出する。培養条件の炭素源別チロソール生産量は表4に記載のとおりである。
【表4】
【0054】
(実施例4)
遺伝子HpaBC及び大腸菌発現ベクターの取得方法
大腸菌において、大腸菌に由来する4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼ(HpaBC、4-hydroxyphenylacetate 3-hydroxylase、酵素番号EC1.5.1.37)のDNA配列遺伝子クラスターを過剰発現し、大腸菌全細胞でチロソールを触媒して、ヒドロキシチロソールを得る。
【0055】
前記4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼのアミノ酸配列遺伝子クラスターに含まれる4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼ(HpaB)のアミノ酸配列は配列番号21であり、対応するヌクレオチド配列は配列番号23である。4-ヒドロキシフェニル酢酸ヒドロキシラーゼ(HpaC)のアミノ酸配列は配列番号22であり、対応するヌクレオチド配列は配列番号24である。
【0056】
細菌ゲノムキットを用いて大腸菌DE3ゲノムを抽出し、これをテンプレートとしてそれぞれプライマー対hpaB-F/hpaB-R及びhpaC-F/hpaC-Rを用いて配列番号23及び配列番号24に対し増幅させ、配列決定を行って検証する。hpaB-Fの配列は配列番号25である。hpaB-Rの配列は配列番号26である。hpaC-Fの配列は配列番号27である。hpaC-Rの配列は配列番号28である。
【0057】
pET-28aを発現ベクターとして使い、pET-28a空ベクターを含む大腸菌を培養し、細菌プラスミド抽出キットを用いてpET-28aプラスミドを抽出し、通常の分子生物学的手法で、発現ベクターpEThpaBC(配列番号29)を構築する。その後、pEThpaBCで大腸菌発現型ベクターBL21を形質転換し、カナマイシンをマーカーとしてスクリーニングし、モノクローナルBL21-pEThpaBCを得る。
【0058】
BL21-pEThpaBCを振盪培養し、1mMのIPTGを使ってHPAB/Cの発現を誘導する。
【0059】
BL21-pEThpaBC菌株を得て実施例3の培養液に加え、3時間反応させた後、ヒドロキシチロソール生産量を検出し、結果を表5に示す。
【表5】
【0060】
(実施例5)
クルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus、菌種番号NBRC1777)を使用し、発明特許出願(出願番号201810601213.8)の方法に従って、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素(AAS、aromatic aldehyde synthase、EC4.1.1.25)をクルイベロマイセス・マルシアヌスのデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(TyrA、fused chorismate mutase T/prephenate dehydrogenase、EC1.3.1.12、EC5.4.99.5)でクルイベロマイセス・マルシアヌスのpdc1遺伝子を置き換えることによって、エリトロース-4-リン酸とホスホエノールピルビン酸からチロソールを合成する代謝経路を備えるクルイベロマイセス・マルシアヌス菌株を得る。
【0061】
本発明の実施例1、実施例2に記載の方法に従い、ただし、クルイベロマイセス・マルシアヌス細胞の培養温度は42~49℃として、フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Fructose-6-phosphate phosphoketolase、EC4.1.2.22)を用いて、KM-bafxp及びKM-bbfxp菌株を製造する。
【0062】
(実施例6)
ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(bdfxp、GenBank:BAQ26957.1、アミノ酸配列は配列番号30に記載)を使用し、実施例3、実施例4に記載の方法に従う。使用するプライマー対Bdfxp-F/Bdfxp-Rの配列は配列番号32及び配列番号33である。実施例3、実施例4と同等の結果が得られ、チロソール及びヒドロキシチロソールの生産量が向上している。結果の詳細は以下のとおりである。
【表6】
【表7】
【0063】
(実施例7)
実施例1、実施例2に記載の方法に従って、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素(AAS、aromatic aldehyde synthase、EC4.1.1.25)をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込み、配列番号4に示すフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Fructose-6-phosphate phosphoketolase、EC4.1.2.22)を前記酵母に導入して、SC-bbfxpk-AAS菌株を得る。実施例3のSC-bbfxpk菌株と同等のチロソール生産量を得る。
【0064】
BL21-pEThpaBC菌培養液を得てチロソールを含む前記培養液に加え、3時間反応させた後、ヒドロキシチロソール生産量を検出し、実施例4のSC-bbfxpk菌株と同等の生産量である。このことが、酵母にコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(TyrA、fused chorismate mutase T/prephenate dehydrogenase、EC1.3.1.12、EC5.4.99.5)遺伝子が導入されなくても、チロソール及びヒドロキシチロソールの生産量は同等であるということを示す。結果の詳細は表8、表9に示すとおりである。
【表8】
【表9】
【0065】
(実施例8)
実施例6に記載の方法に従い、それぞれビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(baifxp、GenBank:WP_052826255.1、アミノ酸配列は配列番号100に記載)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(bbifxp、GenBank:WP_047289945.1、アミノ酸配列は配列番号101に記載)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(blafxp、GenBank:CAC29121.1、アミノ酸配列は配列番号102に記載)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(blofxp、GenBank:PWH09343.1、アミノ酸配列は配列番号103)、ビフィドバクテリウム・モンゴリエンセ(Bifidobacterium mongoliense)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(bmfxp、GenBank:CAC29121.1、アミノ酸配列は配列番号104に記載)、ビフィドバクテリウム・シュードロングム(Bifidobacterium pseudolongum)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(bpfxp、GenBank:WP_034883174.1、アミノ酸配列は配列番号105に記載)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Anfxp、GenBank:CBF76492.1、アミノ酸配列は配列番号106に記載)、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Cafxp、GenBank:KHD36088.1、アミノ酸配列は配列番号107に記載)、リゥコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Lmfxp、GenBank:AAV66077.1、アミノ酸配列は配列番号108に記載)、ラクトバチルス・パラプランタラム(Lactobacillus paraplantarum)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Lprfxp、GenBank:ALO04878.1、アミノ酸配列は配列番号109に記載)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)に由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ(Lplfxp、GenBank:KRU19755.1、アミノ酸配列は配列番号110に記載)に対応する遺伝子断片で改変させたサッカロミケス・セレビシエを形質転換し、それぞれ改変菌株SC-baifxp、SC-bbifxp、SC-blafxp、SC-blofxp、SC-bmfxp、SC-bpfxp、SC-Anfxp、SC-Cafxp、SC-Lmfxp、SC-Lprfxp、SC-Lplfxpを得る。前記改変させたサッカロミケス・セレビシエはパセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込んだものである。実施例3、実施例4と同等の結果が得られ、チロソール及びヒドロキシチロソールの生産量が向上している。結果の詳細は表10、表11に示すとおりである。
【表10】
【表11】
【0066】
上記の結果から分かるように、酵母細胞において上記の外因性のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼを発現した場合、生産量に差はあるが、実施例3、実施例4、実施例5のビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・デンティウムに由来するフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼと比べ、生産量が低いものの、出発菌株と比べ、チロソールの生産量もヒドロキシチロソールの生産量も明らかに向上している。
【0067】
発明者が実施例7の結果に基づいて、フルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼに対応する前記遺伝子断片で、特許文献1に記載の方法で得たSC-1菌株を形質転換し、つまり、パセリ(Petroselinum crispum)に由来する芳香族アルデヒド合成酵素(AAS、aromatic aldehyde synthase、EC4.1.1.25)をサッカロミケス・セレビシエCICC1964のデルタ(delta)12サイトに組み込み、大腸菌(E.coli)に由来するコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(TyrA、fused chorismate mutase T/prephenate dehydrogenase、EC1.3.1.12、EC5.4.99.5)でサッカロミケス・セレビシエCICC1964のpdc1遺伝子を置き換える。baifxp、bbifxp、blafxp、blofxp、bmfxp、bpfxp、Anfxp、Cafxp、Lmfxp、Lprfxp、Lplfxpでは実施例7のbbfxpkと同等の結果を得た結果から、酵母にコリスミ酸ムターゼ/プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(TyrA、fused chorismate mutase T/prephenate dehydrogenase、EC1.3.1.12、EC5.4.99.5)遺伝子が導入されてもされなくても、チロソール及びヒドロキシチロソールの生産量に顕著な影響はないことが示される。
【0068】
結果分析
前記結果から、酵母細胞において外因性のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼを発現する場合、チロソールの生産量が明らかに向上し、しかも当該現象は特定由来のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼ又は特定の酵母細胞に限られないことが分かる。本発明の技術を踏まえれば、エリトロース-4-リン酸とホスホエノールピルビン酸からチロソールを合成する代謝経路を備える酵母細胞においてフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼを過剰発現すると、外因性のフルクトース-6-リン酸ホスホケトラーゼの発現が酵母細胞の糖代謝経路に影響を与えることで、チロソール産物の生成が促されるため、本願に記載の技術効果を得るということが予想される。
【0069】
上述したのが本願の好ましい実施例に過ぎず、本願を限定するものではなく、当業者が理解したように、本願には様々な変更や変更を行うことができる。本願の趣旨を逸脱することなく行われた補正、同等な置換、改善等は、いずれも本願の保護範囲に含まれる。
【配列表】