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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】射出成形装置および射出成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/08 20060101AFI20220607BHJP
   B29C 45/73 20060101ALI20220607BHJP
   B29C 45/72 20060101ALI20220607BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
B29C33/08
B29C45/73
B29C45/72
B29C45/76
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018068886
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177625
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237754
【氏名又は名称】富士電波工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀和
(72)【発明者】
【氏名】岩本 道尚
(72)【発明者】
【氏名】冨永 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 高廣
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 睦
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-311799(JP,A)
【文献】特公昭46-037427(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電発熱材が混入されてなる樹脂材料を、温調により流動性をもたせて射出する射出機と、
前記樹脂材料の流動の経路であるキャビティを有するとともに、それぞれが前記キャビティに面し、前記流動の方向と交差する方向に前記樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有する成形型と、
前記一対の電極に対して高周波交流電圧を印加する高周波発振装置と、
を備え、
前記一対の電極のそれぞれは、前記キャビティに対して前記流動の方向における上流端から下流端まで設けられており、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極は、前記キャビティに対して凸状に突出した部分を有し、
前記凸状に突出した部分は、少なくとも角部が曲面で構成されており、
前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された場合に前記高周波発振装置が印加する前記高周波交流電圧のインピーダンス値を所定インピーダンス値とするとき、前記高周波発振装置は、前記キャビティに対して前記樹脂材料を射出する初期から充填完了までインピーダンス値を前記所定インピーダンス値で固定した前記高周波交流電圧を印加する、
射出成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形装置であって、
前記成形型は、それぞれが型本体を有し、且つ、互いに嵌合する固定型および可動型を有し、
前記一対の電極のうちの一方の電極は、前記固定型の前記型本体に対して絶縁体を挟んで取り付けられ、前記一対の電極のうちの他方の電極は、前記可動型の前記型本体に対して絶縁体を挟んで取り付けられている、
射出成形装置。
【請求項3】
請求項2に記載の射出成形装置であって、
前記固定型および前記可動型のそれぞれを、当該両型の型締め方向から平面視するとき、前記絶縁体は、前記電極よりも大きなサイズを有している、
射出成形装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の射出成形装置であって、
前記一対の電極の少なくとも一方には、冷却媒体が流通する冷却通路を有し、
前記冷却通路に対して冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置を更に備える、
射出成形装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載の射出成形装置であって、
前記射出機からの前記樹脂材料の射出と、前記高周波発振装置による前記高周波交流電圧の印加と、を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された後、所定時間だけ前記キャビティ内に射出圧力を加え続けるように前記射出機を制御する、
射出成形装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の射出成形装置であって、
前記高周波発振装置は、発振器および整合器と、当該整合器と前記一対の電極との接続
に供される一対の給電線と、を有し、
前記一対に給電線の少なくとも一方は、帯状の導電部材を用いて構成されている、
射出成形装置。
【請求項7】
誘電発熱材が混入されてなる樹脂材料を、温調により流動性を持たせて射出する射出ステップと、
前記射出ステップで射出された前記樹脂材料を、成形型内に形成されたキャビティ内を流動させる流動ステップと、
前記キャビティ内を流動する前記樹脂材料に対して、高周波交流電圧を印加する高周波交流電圧印加ステップと、
を備え、
前記成形型は、それぞれが前記キャビティに面し、且つ、それぞれが前記キャビティに対して前記流動の方向における上流端から下流端まで設けられているとともに、前記流動の方向と交差する方向に前記樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有し、
前記一対の電極の少なくとも一方の電極は、前記キャビティに対して凸状に突出した部分を有し、
前記凸状に突出した部分は、少なくとも角部が曲面で構成されており、
前記高周波交流電圧印加ステップでは、前記キャビティにおける前記流動の方向における上流端から下流端まで流動する前記樹脂材料に対して、前記一対の電極同士の間で前記高周波交流電圧を印加し、
前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された場合に前記高周波交流電圧印加ステップで印加する前記高周波交流電圧のインピーダンス値を所定インピーダンス値とするとき、前記高周波交流電圧印加ステップでは、前記キャビティに対して前記樹脂材料を射出する初期から充填完了までインピーダンス値を前記所定インピーダンス値で固定した前記高周波交流電圧を印加する、
射出成形方法。
【請求項8】
請求項7に記載の射出成形方法であって、
前記射出ステップで前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された後、所定時間だけ前記キャビティ内に射出圧力を加え続ける保圧ステップを、更に備える、
射出成形方法。
【請求項9】
請求項8に記載の射出成形方法であって、
前記保圧ステップの実行後に、前記キャビティに充填された前記樹脂材料を、前記成形型内に設けられた冷却通路への冷却媒体の供給により冷却する冷却ステップを、更に備える、
射出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置および射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形装置は、流動性をもたせた樹脂材料を成形型内に射出し、充填した樹脂材料を固化させることにより樹脂製品を製造する装置である。このような射出成形装置は、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高周波発振器を有する樹脂溶融装置を備え、当該樹脂溶融装置にて流動性をもたせた樹脂材料を成形型内に射出し、成形型内で樹脂の温度を低下させることで樹脂製品を製造する射出成形装置が開示されている。
【0004】
なお、特許文献1に開示の樹脂溶融装置では、成形型に繋がるノズルに対して、樹脂の流れ方向の直前の部分となる絞り部の樹脂材料だけを加熱溶融することとしている。
【0005】
また、特許文献2には、成形型に対してヒータを取り付け、成形型内に射出された樹脂材料の流動性を確保する構成が開示されている。これにより、成形型内における樹脂材料の流動性を確保することができ、樹脂製品の製品品質を優れたものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-113699号公報
【文献】特開2000-127175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に開示の技術では、成形型内に充填された樹脂材料を固化させるために成形型全体を加熱・冷却する必要があり、タクトタイムが長くなり、またエネルギ効率が低い。よって、上記特許文献2に開示の技術では、生産効率の観点から改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、成形型内における樹脂材料の高い流動性を確保することで高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる射出成形装置および射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る射出成形装置は、誘電発熱材が混入されてなる樹脂材料を、温調により流動性をもたせて射出する射出機と、前記樹脂材料の流動の経路であるキャビティを有するとともに、それぞれが前記キャビティに面し、前記流動の方向と交差する方向に前記樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有する成形型と、前記一対の電極に対して高周波交流電圧を印加する高周波発振装置と、を備え、前記一対の電極のそれぞれは、前記キャビティに対して前記流動の方向における上流端から下流端まで設けられており、前記一対の電極の少なくとも一方の電極は、前記キャビティに対して凸状に突出した部分を有し、前記凸状に突出した部分は、少なくとも角部が曲面で構成されており、前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された場合に前記高周波発振装置が印加する前記高周波交流電圧のインピーダンス値を所定インピーダンス値とするとき、前記高周波発振装置は、前記キャビティに対して前記樹脂材料を射出する初期から充填完了までインピーダンス値を前記所定インピーダンス値で固定した前記高周波交流電圧を印加する。
【0010】
上記態様に係る射出成形装置では、射出する樹脂材料として誘電発熱材が混入された樹脂材料を用いるとともに、キャビティに面する一対の電極を設けて、当該一対の電極の間に高周波交流電圧を印加する構成となっている。よって、上記態様に係る射出成形装置では、射出機から射出されてキャビティ内を流動する樹脂材料に対して印加する高周波交流電圧の制御を行うことができ、該樹脂材料は、印加する高周波交流電圧の制御によって高い流動性が確保される。
【0011】
ここで、射出する樹脂材料として、基材が熱可塑性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティを流動する樹脂材料に対して印加する高周波交流電圧により誘電発熱材が発熱し、これにより樹脂材料の流動性を確保することができる。
【0012】
一方、射出する樹脂材料として、基材が熱硬化性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティに対して樹脂材料が充填された状態で印加する高周波交流電圧により、誘電発熱材の発熱を以って樹脂材料を硬化させることができる。
【0013】
また、上記態様に係る射出成形装置では、成形型全体を加熱するのではなく、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度制御を行って流動性を確保するので、エネルギロスの低減を図ることができるとともに、樹脂材料がキャビティ内に充填された後に印加する高周波交流電圧の制御だけで樹脂材料を固化させることができるので、成形型全体の温度制御をする場合に比べてタクトタイムの短縮を図ることもできる。
【0014】
また、上記態様に係る射出成形装置では、一対の電極がキャビティにおける樹脂材料の流動方向における上流端から下流端まで設けられた構成としているので、キャビティ内の全域に亘って樹脂材料の温度を制御することができる。
【0015】
また、上記態様に係る射出成形装置では、キャビティへの樹脂材料の射出初期から充填完了までに至る間、高周波交流電圧のインピーダンス値を上記所定インピーダンス値に固定することとしているので、制御の簡略化を図ることができるとともに、高速での樹脂材料の射出においても正確な制御が可能である。
さらに、上記態様に係る射出成形装置では、電極における凸状に突出した部分の角部を曲面で構成することとしているので、電極間に高周波交流電圧を印加した際のキャビティ内での空気放電の発生を抑制することができる。よって、上記態様に係る射出成形装置では、電極および高周波発振装置を長寿命化することができる。
【0016】
従って、上記態様に係る射出成形装置では、成形型内における樹脂材料の高い流動性を確保することで高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる。
【0017】
本発明の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記成形型は、それぞれが型本体を有し、且つ、互いに嵌合する固定型および可動型を有し、前記一対の電極のうちの一方の電極は、前記固定型の前記型本体に対して絶縁体を挟んで取り付けられ、前記一対の電極のうちの他方の電極は、前記可動型の前記型本体に対して絶縁体を挟んで取り付けられている。
【0018】
上記態様に係る射出成形装置では、固定型および可動型の両型において、電極が型本体に対して絶縁体を挟んだ状態で取り付けられているので、高周波交流電圧の印加時において型外部への電磁波の漏洩を抑制することができる。
【0019】
本発明の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記固定型および前記可動型のそれぞれを、当該両型の型締め方向から平面視するとき、前記絶縁体は、前記電極よりも大きなサイズを有している。
【0020】
上記態様に係る射出成形装置では、平面視において、絶縁体のサイズを電極よりも大きくしているので、電極に対して高周波発振装置から高周波交流電圧が印加された際に、電極と型本体との間での沿面放電を抑制することができる。
【0021】
本発明の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記一対の電極の少なくとも一方には、冷却媒体が流通する冷却通路を有し、前記冷却通路に対して冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置を更に備える。
【0022】
上記態様に係る射出成形装置では、電極に冷却通路を設けているので、誘電発熱による樹脂材料の熱が電極に伝達されたとしても、冷却媒体の供給により電極の冷却が可能である。このため、上記態様に係る射出成形装置では、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度調整をより正確に行うことができるとともに、樹脂材料を固化させ成形型から取り出す際に冷却媒体の供給により樹脂材料および成形型の冷却が可能であり、タクトタイムの短縮が可能である。よって、上記態様に係る射出成形装置では、より高い生産性を実現するのに優位である。
【0023】
本発明の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記射出機からの前記樹脂材料の射出と、前記高周波発振装置による前記高周波交流電圧の印加と、を制御する制御部を更に備え、前記制御部は、前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された後、所定時間だけ前記キャビティ内に射出圧力を加え続けるように前記射出機を制御する。
【0024】
上記態様に係る射出成形装置では、キャビティ内に樹脂材料が充填された後に、保圧期間(上記所定時間)を設けているので、樹脂材料が固化するまでの間、キャビティの全域における樹脂材料の圧力を均一化することができる。よって、上記態様に係る射出成形装置では、固化時における樹脂材料の収縮をキャビティ全域で均一化することができ、高品質な樹脂製品を製造するのに優位である。
【0027】
本発明の別態様に係る射出成形装置は、上記態様であって、前記高周波発振装置は、発振器および整合器と、当該整合器と前記一対の電極との接続に供される一対の給電線と、を有し、前記一対に給電線の少なくとも一方は、帯状の導電部材を用いて構成されている。
【0028】
上記態様に係る射出成形装置では、給電線に帯状の導電部材を採用しているので、整合器から電極間に対する高周波交流電圧の印加時のロスの低減を図ることができる。これより、上記態様に係る射出成形装置では、高いエネルギ効率での駆動が可能であるとともに、樹脂材料の発熱ムラの発生を抑制することができる。
【0029】
本発明の一態様に係る射出成形方法は、誘電発熱材が混入されてなる樹脂材料を、温調により流動性を持たせて射出する射出ステップと、前記射出ステップで射出された前記樹脂材料を、成形型内に形成されたキャビティ内を流動させる流動ステップと、前記キャビティ内を流動する前記樹脂材料に対して、高周波交流電圧を印加する高周波交流電圧印加ステップと、を備え、前記成形型は、それぞれが前記キャビティに面し、且つ、それぞれが前記キャビティに対して前記流動の方向における上流端から下流端まで設けられているとともに、前記流動の方向と交差する方向に前記樹脂材料を挟む状態で設けられた一対の電極を有し、前記一対の電極の少なくとも一方の電極は、前記キャビティに対して凸状に突出した部分を有し、前記凸状に突出した部分は、少なくとも角部が曲面で構成されており、前記高周波交流電圧印加ステップでは、前記キャビティにおける前記流動の方向における上流端から下流端まで流動する前記樹脂材料に対して、前記高周波交流電圧を印加し、前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された場合に前記高周波交流電圧印加ステップで印加する前記高周波交流電圧のインピーダンス値を所定インピーダンス値とするとき、前記高周波交流電圧印加ステップでは、前記キャビティに対して前記樹脂材料を射出する初期から充填完了までインピーダンス値を前記所定インピーダンス値で固定した前記高周波交流電圧を印加する。
【0030】
上記態様に係る射出成形方法では、射出する樹脂材料として誘電発熱材が混入された樹脂材料を用いるとともに、高周波交流電圧印加ステップにおいて、キャビティ内を流動する樹脂材料に対して高周波交流電圧を印加可能な構成となっている。よって、上記態様に係る射出成形方法では、射出機から射出されてキャビティ内を流動する樹脂材料に対して印加する高周波交流電圧を制御することにより、キャビティ内を流動する樹脂材料は、印加する高周波交流電圧の制御によって高い流動性が確保される。
【0031】
ここで、上記同様に、射出する樹脂材料として、基材が熱可塑性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティを流動する樹脂材料に対して印加する高周波交流電圧により誘電発熱材が発熱し、これにより樹脂材料の流動性を確保することができる。
【0032】
一方、射出する樹脂材料として、基材が熱硬化性の樹脂材料を採用する場合には、キャビティに対して樹脂材料が充填された状態で印加する高周波交流電圧により、誘電発熱材の発熱を以って樹脂材料を硬化させることができる。
【0033】
また、上記態様に係る射出成形方法では、成形型全体を加熱するのではなく、高周波交流電圧印加ステップにおいて、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度制御を行って当該樹脂材料の流動性を確保することができるので、エネルギロスの低減を図ることができるとともに、樹脂材料がキャビティ内に充填された後に印加する高周波交流電圧の制御だけで樹脂材料を固化させることができるので、成形型全体の温度制御をする場合に比べてタクトタイムの短縮を図ることもできる。
【0034】
また、上記態様に係る射出成形方法では、一対の電極がキャビティにおける樹脂材料の流動方向における上流端から下流端まで設けられた構成としているので、高周波交流電圧印加ステップにおいて、キャビティ内の全域に亘って樹脂材料の温度を制御することができる。
【0035】
また、上記態様に係る射出成形方法では、高周波交流電圧印加ステップでの高周波交流電圧の印加において、キャビティへの樹脂材料の射出初期から充填完了までに至る間、印加する高周波交流電圧のインピーダンス値を上記所定インピーダンス値に固定することとしているので、制御の簡略化を図ることができるとともに、高速での樹脂材料の射出においても正確な制御が可能である。
さらに、上記態様に係る射出成形方法では、用いる成形型において、電極における凸状に突出した部分の角部を曲面で構成することとしているので、電極間に高周波交流電圧を印加した際のキャビティ内での空気放電の発生を抑制することができる。よって、上記態様に係る射出成形装置では、電極および高周波発振装置を長寿命化することができる。
【0036】
従って、上記態様に係る射出成形方法では、成形型内における樹脂材料の高い流動性を確保することで高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる。
【0037】
本発明の別態様に係る射出成形方法は、上記態様であって、前記射出ステップで前記キャビティの全体に前記樹脂材料が充填された後、所定時間だけ前記キャビティ内に射出圧力を加え続ける保圧ステップを、更に備える。
【0038】
上記態様に係る射出成形方法では、保圧ステップを設けているので、キャビティ内に樹脂材料が充填されて後、樹脂材料が固化するまでの間、キャビティの全域における樹脂材料の圧力を均一化することができる。よって、上記態様に係る射出成形方法では、固化時における樹脂材料の収縮をキャビティ全域で均一化することができ、高品質な樹脂製品を製造するのに優位である。
【0039】
本発明の別態様に係る射出成形方法は、上記態様であって、前記保圧ステップの実行後に、前記キャビティに充填された前記樹脂材料を、前記成形型内に設けられた冷却通路への冷却媒体の供給により冷却する冷却ステップを、更に備える。
【0040】
上記態様に係る射出成形方法では、冷却ステップを設けているので、誘電発熱による樹脂材料の熱が電極に伝達されたとしても、冷却ステップの実行により電極の冷却が可能である。このため、上記態様に係る射出成形方法では、キャビティ内を流動する樹脂材料の温度調整をより正確に行うことができるとともに、樹脂材料を固化させ成形型から取り出す際に冷却媒体の供給により樹脂材料および成形型の冷却が可能であり、タクトタイムの短縮が可能である。よって、上記態様に係る射出成形方法では、より高い生産性を実現するのに優位である。
【発明の効果】
【0046】
上記の各態様に係る技術では、成形型内における樹脂材料の高い流動性を確保することで高品質な樹脂製品を製造することができるとともに、生産コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】実施形態に係る射出成形装置の構成を示す模式図である。
図2】成形型の構成の一部を示す模式断面図である。
図3】成形型に形成されたキャビティの構成を示す模式図である。
図4図3のIV-IV断面を示す模式断面図である。
図5】樹脂材料の発熱原理を示す模式図である。
図6】射出成形装置の制御部が実行する高周波電圧および射出圧力の制御形態を示すタイムチャートである。
図7】射出時における成形型内の樹脂材料の温度と圧力とを示す模式図である。
図8】保圧時における成形型内の樹脂材料の温度と圧力とを示す模式図である。
図9】(a)は、射出成形装置における高周波交流電圧の印加に係る回路構成をモデル化した模式図であり、(b)は、電極間電圧を一定と仮定した場合の樹脂材量の流動時におけるワーク断面積と発熱量との関係を示す特性図である。
図10】誘電発熱材の化学式である。
図11】(a)は、誘電発熱材における陽イオンの移動前の状態を示す模式図であり、(b)は、誘電発熱材において陽イオンが移動した後の状態を示す模式図である。
図12】射出成形装置が備える成形型の外観構成を示す模式斜視図である。
図13図12のXIII-XIII断面を示す模式断面図である。
図14】型本体に対する電極および絶縁体の配設形態を示す模式断面図である。
図15】電極に対して接続された給電線の形態を示す模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一態様であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0049】
以下では、実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一態様であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0050】
[実施形態]
1.射出成形装置1の構成
本実施形態に係る射出成形装置1の構成について、図1を用い説明する。
【0051】
図1に示すように、本実施形態に係る射出成形装置1は、成形型10と、射出ユニット(射出機)20と、高周波発振ユニット(高周波発振装置)30と、制御部60と、を備える。
【0052】
成形型10は、可動型11と固定型12とを有し、可動型11と固定型12との間にキャビティ10aが構成されている。可動型11は、図示を省略する駆動機構により、固定型12に対して型締めおよび離間が可能となっている。
【0053】
可動型11は、金属材料からなる型本体111と、型本体111に対してキャビティ10aに面する状態で設けられた電極112と、型本体111と電極112との間に介挿された絶縁体113と、を有する。電極112の内部には、冷却液(冷却媒体)が流通する冷却管114が埋設されている。
【0054】
固定型12は、金属材料からなる型本体121と、型本体121に対してキャビティ10aに面する状態で設けられた電極122と、型本体121と電極122との間に介挿された絶縁体123と、を有する。電極122の内部には、冷却液(冷却媒体)流通する冷却管124が埋設されている。
【0055】
電極112と電極122とは、キャビティ10aを挟んで対向するように配置されている。そして、可動型11が固定型12に対して型締めされた状態においては、電極112と電極122との間には絶縁体113または絶縁体123が挟まれるようになっている。
【0056】
なお、絶縁体113および絶縁体123のそれぞれは、例えば、ケイ酸系バインダまたはセラミックスからなる。
【0057】
射出ユニット20は、シリンダ21と、スクリュ22と、射出シリンダ23と、ノズル24と、シリンダヒータ25と、を有する。ノズル24は、成形型10のキャビティ10aに連通している。シリンダ21内にホッパー(図示を省略。)から供給された樹脂材料が、シリンダヒータ25からの熱で流動性が付与され、射出シリンダ23の駆動によるスクリュ22の前進によりノズル24からキャビティ10aに射出されるようになっている。
【0058】
なお、シリンダ21は、接地されている。
【0059】
高周波発振ユニット30は、高周波交流電圧を電極112と電極122との間に印加するユニットであり、電源31と、発振器32と、整合器33と、給電線34,35と、を有する。なお、本実施形態では、高周波発振ユニット30により電極112,122に発生する高周波交流電圧の周波数が、一例として、27MHzに設定されている。
【0060】
ここで、給電線34には、給電経路の途中に漏電遮断弁41が介挿されており、給電線35には、給電経路の途中に漏電遮断弁42が介挿されている。また、給電線35における漏電遮断弁42が介挿された箇所よりも電極112に近い側の箇所は、接地されている。
【0061】
制御部60は、射出シリンダ23およびシリンダヒータ25の駆動制御や、高周波発振ユニット30の制御などを実行する。制御ユニット60の詳細については図示を省略しているが、例えば、CPUと、当該CPU上で実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実行する各種のアプリケーションプログラムなどを含む。)と、プログラムや各種のデータを保存するROMやRAMなどのメモリなどを備えるコンピュータを含み構成されている。
【0062】
また、射出成形装置1には、冷却管114,124に対して冷却液(冷却媒体)を循環させるための冷却液循環ユニット(冷却媒体供給装置)51,52が接続されている。冷却液循環ユニット51,52と可動型11および固定型12との間の冷却液循環経路中には、漏電遮断弁43~46が介挿されている。
【0063】
さらに、射出成形装置1には、電極112の温度を検出するための温度センサ71と、電極122の温度を検出するための温度センサ72と、シリンダ21内の樹脂材料の温度を検出するための温度センサ73と、が備えられている。温度センサ71~73は、射出成形装置1の駆動中においては、検出した温度データを制御部60に逐次送出する。そして、温度データを受信した制御部60は、当該データを用い、シリンダヒータ25および高周波発振ユニット30をフィードバック制御する。
【0064】
2.キャビティ10a内に導入された樹脂材料70に対する高周波交流電圧Eの印加
キャビティ10a内に導入された樹脂材料70に対する高周波交流電圧Eの印加について、図2を用い説明する。図2は、成形型10の構成の一部を拡大して示す模式断面図である。
【0065】
先ず、本実施形態に係る射出成形装置1で用いる樹脂材料70は、誘電発熱材が混入された樹脂材料である。これについての詳細は、後述する。
【0066】
電極112と電極122とは、上述のように、キャビティ10aに面するように設けられている。このため、キャビティ10aに導入され、キャビティ10a内を流動する樹脂材料70に対しては、矢印で示すように高周波交流電圧Eが印加されることとなる。
【0067】
樹脂材料70には、誘電発熱材が混入されているので、高周波交流電圧Eを受けて発熱する。このため、樹脂材料70は、高周波交流電圧Eが印加されている状態において、キャビティ10a内での流動性が保持されている。
【0068】
3.キャビティ10aの構成
成形型10に設けられたキャビティ10aの構成について、図3を用い説明する。図3は、成形型10に設けられたキャビティ10aの構成を示す模式図である。
【0069】
図3に示すように、本実施形態に係る射出成形装置1では、成形型10のキャビティ10aの形状を、一例として、流動基点部10bと流動終点部10cとの間に2箇所の曲折部10d,10eが設けられ、平面視で略U字形状としている。
【0070】
射出ユニット20のノズル24から射出された樹脂材料70は、流動基点部10bから曲折部10d,10eを経由して流動終点部10cまで流動する。
【0071】
ここで、詳細な図示を省略しているが、成形型10においては、流動基点部10bから流動終点部10cに至る樹脂材料70の流動経路の全域に亘って電極112,122が延設されている。即ち、成形型10のキャビティ10aを流動する樹脂材料70は、流動基点部10bから流動終点部10cに至るまで高周波交流電圧Eが印加されるようになっている。
【0072】
4.電極112,122の形状
電極112,122におけるキャビティ10aに面する部分の形状について、図4を用い説明する。図4は、図3のIV-IV断面を示す模式断面図である。
【0073】
図4に示すように、成形型10では、キャビティ10aの延設方向(樹脂材料70の流動方向)の一部において、電極112および電極122がキャビティ10a側に突出した部分と凹入した部分が設けられている。
【0074】
具体的には、図4に示すように、電極112は、キャビティ10a側に向けて凸状に突出した凸部112a,112bを有するとともに、凸部112a,112b同士の間に凹状に凹んだ凹部112cを有する。
【0075】
同様に、電極122は、キャビティ10a側に向けて凸状に突出した凸部122cを有するとともに、凹状に凹んだ凹部122a,122bを有する。なお、本実施形態では、一例として、凹部122aが凸部112aに対向した位置に設けられ、凹部122bが凸部112bに対向した位置に設けられ、凸部122cが凹部112cに対向した位置に設けられている。
【0076】
図4に示すように、成形型10においては、電極112の凸部112a,112bの各角部112d,112e,112f,112gが曲面で構成されている。同様に、電極122の凸部122cの角部(先端部)122e、および凹部122a,122bの両側の角部122d,122fが曲面で構成されている。
【0077】
本実施形態に係る射出成形装置1では、上記のように各角部112d,112e,112f,112g,122e,122d,122fを曲面で構成することにより、電極112,122に高周波交流電圧Eを印加した際にキャビティ10a内での先端放電(空気放電)の発生を抑制することができる。
【0078】
5.樹脂材料70への高周波交流電圧Eの印加と樹脂材料70の発熱原理
樹脂材料70への高周波交流電圧Eの印加と樹脂材料70の発熱原理について、図5を用い説明する。図5は、樹脂材料70の発熱原理を示す模式図である。
【0079】
図5に示すように、本実施形態に係る射出成形装置1で用いる樹脂材料70は、基材701に対して誘電発熱材702が混入された樹脂材料である。基材701の一例としては、ポリオレフィン系樹脂、または、ポリアミド系樹脂の熱可塑性樹脂を採用することができる。
【0080】
誘電発熱材702の一例としては、ポリオレフィン系モノマーまたはポリアミド系モノマーと、ポリエーテルモノマーとが重合した構造を有する樹脂材を採用することができる。樹脂材料70の詳細な構造については、後述する。
【0081】
図5に示すように、樹脂材料70に対して高周波発振ユニット30から高周波交流電圧Eが印加された場合には、樹脂材料70中を電磁波Wが伝播する。樹脂材料70中を電磁波Wが伝播した場合には、混入されている誘電発熱材702が、電磁波Wによる分子鎖の変形(運動)により発熱し、当該熱が基材701に伝達される。
【0082】
以上のような原理により、キャビティ10a中の樹脂材料70は高周波交流電圧Eの印加により発熱する。
【0083】
6.射出成形方法
射出成形装置1を用いた射出成形方法について、図6から図8を用い説明する。図6は、射出成形装置1を用いた射出成形において、制御部60が実行する高周波交流電圧の印加タイミングおよび射出圧力を時間経過毎に示すタイムチャートである。図7は、射出時におけるキャビティ10a内での樹脂材料70の温度と圧力とを示す特性図であり、図8は、キャビティ10aに樹脂材料70が充填された後の保圧時における樹脂材料70の温度と圧力を示す特性図である。
【0084】
図6に示すように、射出成形装置1の電源がONされたタイミングT1において、制御部60は、高周波発振ユニット30に対して電極112,122間に高周波交流電圧E1を印加するように指令する。
【0085】
また、制御部60は、タイミングT1において、射出ユニット20に対して射出圧力LをP1に向けて増圧するように指令する。これにより、射出圧力LがタイミングT2に圧力P1となるように増圧されてゆく。
【0086】
なお、図示を省略しているが、射出成形装置1を用いた射出成形時においては、制御部60はシリンダヒータ25をON状態として、シリンダ21内の樹脂材料70が流動状態となるように指令する。
【0087】
次に、キャビティ10a内が樹脂材料70で満たされたタイミングT2以降において、制御部60は、高周波交流電圧EをタイミングT1からタイミングT2までの間と同じ所定値Lで保持するように高周波発振ユニット30に指令するとともに、射出ユニット20に対しては、タイミングT3に至るまでの所定時間だけ一定の射出圧力P2を加えるように指令する。
【0088】
図6に示すタイミングT2からタイミングT3に至る期間が保圧期間ということになる。
【0089】
次に、図7に示すように、タイミングT1からタイミングT2に至る射出時では、キャビティ10a内における流動基点部Pos1(上記流動基点部10bに相当)から流動終点部Pos2(上記流動終点部10cに相当)までの全域において、樹脂材料70の温度LTpは所定値Lの高周波交流電圧Eの印加により流動性を有する一定温度Tp1に保持される。
【0090】
一方、タイミングT1からタイミングT2に至る射出時では、キャビティ10a内における樹脂材料70の圧力LPrは、流動基点部Pos1で圧力P3であり、流動終点部Pos2に向けて漸減してゆく。
【0091】
次に、図8に示すように、タイミングT2からタイミングT3に至る保圧期間においては、キャビティ10a内における樹脂材料70の温度LTpは所定値Lでの高周波交流電圧Eの印加が継続されていることから温度Tp1で保持される。また、タイミングT2からタイミングT3に至る保圧期間においては、キャビティ10a内における樹脂材料70の圧力LPrは、射出ユニット20の駆動が継続されていることにより、流動基点部Pos1から流動終点部Pos2に至るキャビティ10a内の全域で略一定の圧力P2となる。
【0092】
7.誘電による発熱量とエネルギの伝達
誘電による発熱量とエネルギの伝達について、図9(a)、(b)を用い説明する。図9は、(a)が、射出成形装置1における高周波交流電圧Eの印加に係る回路構成をモデル化した模式図であり、(b)が、電極112,122間の電圧を一定とし、インピーダンスを所定インピーダンスで固定した場合の樹脂材量70の流動時のワーク断面積と発熱量との関係を示す特性図である。
【0093】
先ず、本実施形態に係る射出成形装置1および射出された樹脂材量70を、図9(a)に示すようにモデル化する。
【0094】
図9(a)に示すモデルでは、誘電による発熱量Pは、次式で示すようになる。
【0095】
P=55.6×(E/d)×f×ε×tanδ [W/m] ・・・(数1)
E;電極間電圧 [V]
d;電極間距離(製品肉厚) [mm]
f;周波数 [MHz]
ε;比誘電率
tanδ;誘電正接
上記(数1)より、発熱量Pを大きくする方策としては、次の3つが考えられる。
【0096】
(1)電極間電圧Eを大きくする。
【0097】
(2)周波数fをアップする。
【0098】
(3)樹脂材量70の発熱性(ε×tanδ)をアップする。
【0099】
上記(1)については、キャビティ10a内における空気放電が発生しやすくなり問題となる。特に、図4を用い説明したように、先端放電の発生が懸念される。
【0100】
上記(2)については、装置コストのアップを招くこととなる。
【0101】
次に、図9(a)に示すモデルにおいて、キャビティ10a中を樹脂材量70が流動している場合のワーク断面積と発熱量との関係は、次のようになる。
【0102】
P=E^2・R/(R+r)^2 ・・・(数2)
この関係を表したのが、図9(b)である。上記(数2)および図9(b)の特性図より、R=rのときに「整合(伝達効率100%)」となる。
【0103】
次に、図9(a)に示すモデルにおいて、ワーク断面積Sと発熱量Pとは、次の関係となる。
【0104】
P=(E^2・ωε/d)・S ・・・(数3)
上記(数3)および図9(b)の特性図より、発熱量Pは流動面積(ワーク断面積)Sに比例する。
【0105】
以上を考慮し、本実施形態に係る射出成形装置1を用いた射出成形では、キャビティ10aに対して樹脂材量70が満たされたときのインピーダンス値を所定インピーダンス値とするとき、射出の初期から完了までのインピーダンス値を所定インピーダンス値とする。
【0106】
8.樹脂材料70の構成
上述のように、本実施形態に係る射出成形装置1においては、基材701と誘電発熱材702とからなる樹脂材料70を用いることとしている。樹脂材料70の組成について、図10を用い説明する。図10は、誘電発熱材702の化学式である。
【0107】
先ず、樹脂材料70としては、次の2種類を想定している。
【0108】
(1)第1の種類
〈基材701〉 HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PMMA(アクリル)の中から選択されるポリオレフィン系樹脂
〈誘電発熱材702〉 図10に示す化学式において、Aがポリオレフィン系モノマーであり、Bがポリエーテルモノマーである。第1の種類では、ポリオレフィン系モノマーとポリエーテルモノマーとが重合してなる樹脂材料であり、ポリエーテル部分の内部に陽イオンを保持してなる、誘電発熱材702を採用する。
【0109】
(2)第2の種類
〈基材701〉 ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、PC/ABS(ポリカーボネート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン混合樹脂)、PC(ポリカーボネート)、POM(ポリアセタール)、PA6(ポリアミド6)、PA12(ポリアミド12)、PA66(ポリアミド66)の中から選択されるポリアミド系樹脂
〈誘電発熱材702〉 図10に示す化学式において、Aがポリアミド系モノマーであり、Bがポリエーテルモノマーである。第2の種類では、ポリアミド系モノマーとポリエーテルモノマーとが重合してなる樹脂材料であり、ポリエーテル部分の内部に陽イオンを保持してなる、誘電発熱材702を採用する。
【0110】
9.高周波交流電圧Eの印加による誘電発熱材702の発熱
高周波交流電圧Eの印加による樹脂材料70の発熱メカニズムについて、図11(a)、(b)を用い説明する。図11は、(a)が、高周波交流電圧Eの印加を供給開始直後における誘電発熱材702の状態を示す模式図であり、(b)が、高周波交流電圧Eの印加により誘電発熱材702の陽イオンMが移動した後の状態を示す模式図である。
【0111】
誘電発熱材702を含む樹脂材料70に対して高周波交流電圧Eが印加されると、誘電発熱材702にも電磁波Wが伝搬され(図5を参照)、図11(a)に示す位置に存在した陽イオンMが、図11(b)に示すように移動する。
【0112】
図11(a)に示す位置から図11(b)に示す位置に陽イオンMが移動する際には、誘電発熱材702の分子鎖が変形(運動)する。このため、誘電発熱材702が発熱し、その熱が基材701に伝達される。
【0113】
本実施形態に係る射出成形装置1の射出成形に用いる樹脂材料70は、高周波交流電圧Eの印加により温度上昇し、流動性が保持される。
【0114】
10.電磁波の遮蔽
成形型10における電磁波遮蔽に係る構造について、図12および図13を用い説明する。図12は、射出成形装置1における成形型10の外観構成を示す模式斜視図であり、図13は、図12のXIII-XIII断面を示す模式断面図である。
【0115】
図12に示すように、可動型11と固定型12とからなる成形型10には、電磁波シールド81,82が取り付けられている。電磁波シールド81,82は、成形型10からY方向の左下側に伸びるように構成されている。
【0116】
図13に示すように、電磁波シールド81,82は、電極122に接続された給電線34の周囲を覆うように設けられており、互いに隙間ができないように接合されている。
【0117】
なお、電極112については、図1を用い説明したように、接地されているので、給電線35を特に電磁波シールドで覆う必要はないが、給電線34と同様に電磁波シールドで覆うようにしてもよい。
【0118】
なお、電磁波シールド81,82は、例えば、銅板やアルミニウム板(アルミニウム合金板を含む)で構成することができる。
【0119】
11.型本体111,121に対する電極112,122および絶縁体113,123の配設形態
型本体111,121に対する電極112,122の接合形態について、図14を用い説明する。図14は、固定型12における型本体121に対する電極122および絶縁体123の配設形態を示す模式断面図である。なお、図14では、固定型12だけを図示しているが、可動型11についても同様の構成を有する。
【0120】
図14に示すように、型本体121と電極122との間に介挿された絶縁体122は、Z方向からの平面視において電極122よりも大きなサイズを有している。このため、電極122の端面122aと型本体121の露出した上面121aとの間の沿面距離(図14の矢印)が、絶縁体123の端面123bに加えて、露出した上面123aの分だけ長くとることができる。
【0121】
また、図14に示すように、本実施形態では、型本体121に対して電極123を位置決めするためのノックピン91がPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂により構成されている。これによっても、型本体121と電極123との間の沿面放電の抑制が図られている。
【0122】
さらに、図14に示すように、固定型12においては、型本体121に対して電極123を固定するためのボルト93が、電極123との間に大型のカラー92を介して締結されている。カラー92も、PEEK樹脂を用い構成されている。このように大型のカラー92を採用することにより、型本体121に対して同電位のボルト93が電極123に対して長い沿面距離をもって配設されることになる。
【0123】
12.給電線34,35の構成
電極112,122に対して接続される給電線34,35の構成について、図15を用い説明する。図15は、電極122に対して接続された給電線34の形態を示す模式斜視図である。なお、図15では、給電線34だけを図示しているが、給電線35についても同様の構成を有する。
【0124】
図15に示すように、給電線34は、X方向およびY方向の沿う方向に広がる電極122に対して面で接続されている。そして、給電線34は、幅W34を有した帯状の導電部材(例えば、銅板)を用い構成されている。本実施形態においては、一例として給電線34の幅W34は、60~80mm(例えば、70mm)である。
【0125】
このように、給電線34を帯状の導電部材を用い構成し、電極122に対して面で接続することとしているので、高周波交流電圧Eの印加時におけるエネルギロスの低減を図ることができ、樹脂材料70の発熱ムラを少なくすることができる。
【0126】
[変形例]
上記実施形態では、樹脂材料70の一例として熱可塑性の樹脂材料を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。熱硬化性の樹脂材料を対象としてもよい。熱硬化性の樹脂材料を射出する場合には、当該樹脂材料を硬化させる際に高周波交流電圧を印加すればよい。
【0127】
また、上記実施形態では、誘電加熱によりキャビティ10a内を流動する樹脂材料70の流動性を保持することとしたため、成形型10に対して1つの射出ユニット20を接続することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。キャビティ内を流動する樹脂材料の温度をキャビティ内全域で略同一とすることができるので、2つ以上の射出ユニットを接続することとしても、ヘアライン状の不良が生じ難く、優れた外観品質とすることができる。
【0128】
また、上記実施形態では、1つの固定型12と1つの可動型11との組み合わせを以って成形型10を構成することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、3つ以上の型の組み合わせを以って構成された成形型を採用することもできる。
【0129】
また、上記実施形態では、成形型10におけるキャビティ10aの流動起点部10bから流動終点部10cまでの間で一対の電極112,122を設けることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、キャビティにおける樹脂材料の流動方向において、互いに間隔を空けた状態で複数の電極対を設けることとしてもよい。
【0130】
また、キャビティの形状などから空気放電が発生しやすいと考えられる箇所には、電極対を設けないこととしてもよい。
【符号の説明】
【0131】
1 射出成形装置
10 成形型
10a キャビティ
10b 流動起点部
10c 流動終点部
10d,10e 曲折部
11 可動型
12 固定型
20 射出ユニット(射出機)
30 高周波発振ユニット(高周波発振装置)
34,35 給電線
51,52 冷却液循環ユニット(冷却媒体供給装置)
111,121 型本体
112,122 電極
113,123 絶縁体
112d,112e,112f,112g,122e,122d,122f 角部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15