(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】高架道路用伸縮装置の止水材設置方法
(51)【国際特許分類】
E01C 11/02 20060101AFI20220607BHJP
E01D 19/06 20060101ALI20220607BHJP
B23K 9/20 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
E01C11/02 A
E01D19/06
B23K9/20 G
(21)【出願番号】P 2019177245
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2020-05-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210838
【氏名又は名称】中井商工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519350672
【氏名又は名称】アジア技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和也
(72)【発明者】
【氏名】溝口 純一
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-115496(JP,A)
【文献】特開2012-162955(JP,A)
【文献】実公昭51-051731(JP,Y2)
【文献】特開2002-172467(JP,A)
【文献】特表2009-513355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 11/02
E01D 19/06
B23K 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の道路基盤で構成される高架道路の隣り合う前記道路基盤間の継目部の遊間上部に配置された互いに噛み合う櫛歯状のジョイント部を有する伸縮装置の止水材設置方法
であって、
前記ジョイント部の下方であって対向する前記道路基盤の対向面に100~
150mmの間隔で設けられた腹板の表面に、
ステンレス製で先部が先細りで尖った、呼び径がM10、M12、M14、又は、M16の雄ねじ部材を
、コンデンサ放電で行うスタッド溶接により、前記腹材に裏焼きを発生させないで、取り付け固定
する工程と、
対向する前記腹板の間に配置される止水材の断面逆L字状となった支持部材を前記雄ねじ部材に取り付け固定
する工程とを有し、
対向する前記腹板の間に入る長さ100mm以下の溶接ガンを用いて前記スタッド溶接
を行うスタッド溶接装置は
重量が25kg未満で、交流の小型発電機を用いて
給電を行うことを特徴とする高架道路用伸縮装置の止水材設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚に支持されている高架道路の継目部に設けられた高架道路用伸縮装置の止水材設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高速道路等の高架道路は、複数の道路基盤で構成され、気温変化による道路基盤の熱膨張や収縮等の変形を吸収するため、隣り合う道路基盤間に遊間を有する継目部を設けている。この遊間の上部には、気温変化による熱膨張や収縮、車両の走行に伴う圧力に応じて、遊間が伸縮するように、互いに噛み合う櫛歯状のジョイント部を有する伸縮装置が設けられている。
しかし、道路基盤上に雨水等が降った場合、互いに噛み合うジョイント部の間から漏水し、例えば、橋桁の支承部付近が腐食し損傷するため、ジョイント部の下方に乾式止水材と止水ゴムを取り付けている。この乾式止水材(シール材)は、例えば、特許文献1に記載のように、ジョイント部の下方であって対向する道路基盤の対向面にそれぞれ設けられた腹板の間に配置され、この各腹板に取り付け固定された棚板(支持部材)によって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各腹板への棚板の取り付けは、各腹板に取り付けられた雄ねじ部材(ボルトやねじ山を設けた溶接用金具)とナットにより行われ、また、各腹板への雄ねじ部材の取り付けは、腹板にねじ切り加工を行って雄ねじ部材を取り付け、更にアーク溶接することにより行われている。
しかし、道路基盤の対向面にそれぞれ設けられた腹板の間隔は狭く、この狭隘領域での溶接作業には熟練工が必要であるため、施工者を確保することが困難になっていた。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、狭隘な環境下でも、止水材の設置作業を作業性よく容易に実施可能な高架道路用伸縮装置の止水材設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る高架道路用伸縮装置の止水材設置方法は、複数の道路基盤で構成される高架道路の隣り合う前記道路基盤間の継目部の遊間上部に配置された互いに噛み合う櫛歯状のジョイント部を有する伸縮装置の止水材設置方法であって、
前記ジョイント部の下方であって対向する前記道路基盤の対向面に100~150mmの間隔で設けられた腹板の表面に、ステンレス製で先部が先細りで尖った、呼び径がM10、M12、M14、又は、M16の雄ねじ部材を、コンデンサ放電で行うスタッド溶接により、前記腹材に裏焼きを発生させないで、取り付け固定する工程と、
対向する前記腹板の間に配置される止水材の断面逆L字状となった支持部材を前記雄ねじ部材に取り付け固定する工程とを有し、
対向する前記腹板の間に入る長さ100mm以下の溶接ガンを用いて前記スタッド溶接を行うスタッド溶接装置は重量が25kg未満で、交流の小型発電機を用いて給電を行う。
【0007】
【0008】
【0009】
本発明に係る高架道路用伸縮装置の止水材設置方法に用いるスタッド溶接装置は、小型発電機と、該小型発電機を電源とする20万μF~80万μFのコンデンサと、該コンデンサにスイッチング素子を介して接続され、前記雄ねじ部材を把持する溶接ガンとを有している。
【0010】
前記スタッド溶接装置において、前記小型発電機は交流の発電機であって、AC/DCコンバータを介して前記コンデンサに電力を供給することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る高架道路用伸縮装置の止水材設置方法は、道路基盤の対向面にそれぞれ設けられた腹板の表面に、スタッド溶接を用いてステンレス製の雄ねじ部材を取り付け固定するので、従来のように、腹板にねじ切り加工を行って雄ねじ部材を取り付けてアーク溶接を行う作業が不要になる。
これにより、狭隘な環境下でも、止水材の設置作業を作業性よく容易に実施できる。
【0012】
特に、スタッド溶接をコンデンサ放電で行うに際し、スタッド溶接装置が、小型発電機と、20万μF~80万μF(大容量)のコンデンサと、雄ねじ部材を把持する溶接ガンとを有する場合、例えば、有資格者や溶接作業の熟練工を確保する必要がなくなるため、本発明の効果がより顕著になる。また、従来のアークスタッド溶接より熱量が低く、施工時に腹板の裏焼けが発生しないため、腹板に悪影響が出ない。更に、スタッド溶接装置の軽量化が図れるため、例えば、施工時の足場に持ち込むことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る高架道路用伸縮装置の止水材設置方法を適用する高架道路の継目部の斜視図である。
【
図2】(A)、(B)はそれぞれ同高架道路用伸縮装置の止水材設置方法に用いるスタッド溶接装置の正面図、側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る高架道路用伸縮装置の止水材設置方法は、複数の道路基盤で構成される高架道路の隣り合う道路基盤10、11間に設けられた継目部12の遊間13上部に配置された互いに噛み合う櫛歯状のジョイント部14、15を有する伸縮装置16の止水材17の設置方法であり、継目部12の遊間13が狭く、狭隘な環境下でも、遊間13での止水材17の設置作業を作業性よく容易に実施可能な方法である。以下、詳しく説明する。
【0015】
高架道路は、橋脚に支持されている道路であり、例えば、橋梁に敷設された道路や高速道路等がある。この高架道路は、車両の走行方向に渡って敷設される複数の道路基盤で構成され、車両の走行方向に隣り合う道路基盤10、11の間に、遊間13を有する継目部12が設けられている。
隣り合う道路基盤10、11の対向面にはそれぞれ腹板18、19が設けられ、対向する腹板18、19の頂面(上面)には、噛み合った状態のジョイント部14、15が、腹板18、19とは直交して(断面T字状に)、かつ、腹板18、19で挟まれた遊間13上を跨ぐように、取り付け固定されている。
【0016】
対向する腹板18、19は、道路基盤10、11の幅方向(車両の走行方向とは直交する方向)に渡って設けられ、腹板18と腹板19の間隔(遊間13幅)Sは、例えば、100~600mm(更には300mm以下)の範囲にあるが、特に限定されるものではない。
対向する腹板18、19の間(即ち、遊間13)には、上から防塵材20と止水材17が順次配置されている(更に他の部材が配置されてもよい)。この防塵材20は、遊間13の伸縮時に、ジョイント部14、15による止水材17の損傷防止や、土砂等の浸入防止、また、紫外線からの保護を目的とするものである。また、止水材17は、例えば、上面及び両側面に止水を目的とするウレタンシート等を巻きつけた発泡ウレタン等を有するものであり、あらゆる角度の伸縮挙動に追従可能なものである。
【0017】
止水材17は、その両側面が接触する腹板18、19の表面に接着剤が塗布され、その下面両側にはシーリング材21が塗布されている。また、止水材17の下方には、対向する腹板18、19の対向面側に取り付け固定された断面逆L字状の支持金具(支持部材の一例)22、23が配置されている。この支持金具22、23は、自重等による止水材17の撓みを防止するものであり、ここでは、道路基盤10、11の幅方向に間隔を有して複数設けられている。
なお、対となる支持金具22、23間には、断面U字状の二次止水材24が、道路基盤10、11の幅方向に渡って架設されている。この二次止水材24は、例えば、ゴム製のもので、止水材17からの漏水を防止するものであり、これにより、止水構造の信頼性を向上させている。
【0018】
上記した支持金具22、23の腹板18、19への取り付けは、以下の方法で行う。
まず、対向する腹板18、19間に止水材17を配置していない状態で、腹板18、19の表面に、スタッド溶接を用いてステンレス製の雄ねじ部材25を取り付け固定する。
この雄ねじ部材25は、ねじ山を設けたステンレス製(例えば、SUS304や316L等)の金具であり、例えば、長さが30~60mm(更には、下限が40mm、上限が50mm)程度、呼び径がM10以上(例えば、M12、M14、M16等)で、スタッド溶接を行う前は、その先部が先細りとなって尖っている。なお、雄ねじ部材の材質や形状は、上記の構成に限定されるものではなく、用途に応じて種々変更できる。
【0019】
この雄ねじ部材25の取り付けを行うスタッド溶接には、
図2(A)、(B)に示すコンデンサ放電型のスタッド溶接装置30を用いる。
スタッド溶接装置30は、小型発電機と、この小型発電機を電源とするコンデンサと、このコンデンサにサイリスタ(スイッチング素子の一例)を介して接続された溶接ガン(溶接用ガン)31とを有している。なお、このスタッド溶接装置30の基本構成は、例えば、特開2002-172465号公報や特開2002-172467号公報に記載のスタッド溶接装置と略同様であるため、異なる部分について詳しく説明する。
【0020】
小型発電機は、例えば、1.6~2.4kVA(90~240V)の交流の発電機であり、この場合、AC/DCコンバータを介してコンデンサに電力を供給する。なお、小型発電機が直流の発電機であれば、AC/DCコンバータは不要である。
コンデンサは、容量が20万μF~80万μF(更には40μF以上)のものであるが、軽量化を図ることができれば、100万μF程度のものでもよい。このコンデンサの容量は、例えば、雄ねじ部材25の断面積に比例して設定するのが好ましい。
このように、コンデンサの容量を大容量にすることで、溶接時の通電時間を長くでき、腹板18、19への雄ねじ部材25の先部の溶着を確実に行うことができる。
【0021】
溶接ガン31は、雄ねじ部材25を把持するものであり、取っ手32と、この取っ手32の上側側方に突出状態で設けられた絶縁性材質からなる筒状のケーシング33と、ケーンシグ33内に上下動可能に設けられている導体ロッドとを有している。
導体ロッドの先部には導体材料からなるアタッチメント(チップ)を介して雄ねじ部材25(スタッド材)が取り付けられ、導体ロッドには、溶接電流を供給するリード線が接続され、リード線は取っ手33の中を通って端部から引き出され、サイリスタを介してコンデンサに接続されている。また、取っ手32内には溶接開始スイッチ34が設けられ、溶接開始スイッチには信号ケーブル35が接続されている。
【0022】
スタッド溶接装置30の使用にあっては、アッタチメントに雄ねじ部材25を取り付け、その先端を腹板18(又は腹板19)に当接させた状態で、溶接開始スイッチ34をオンにする。この状態で、コンデンサには所定電圧まで電荷が蓄積されているものとする。
溶接開始スイッチ34のオンにより、サイリスタのゲートに信号が加わってサイリスタが通電し、コンデンサの電荷が雄ねじ部材25を通じて腹板18に放電される。そして、発生させたアークの熱によって腹板18の一部及び雄ねじ部材25の先端部が溶融するため、雄ねじ部材25を溶融部分に押圧することで、腹板18に雄ねじ部材25を一体的に溶接できる。
【0023】
上記した方法で、腹板18、19の表面に雄ねじ部材25を取り付け固定した後は、止水材17の両側面が接触する腹板18、19の表面に接着剤を塗布し、腹板18と腹板19の間に防塵材20と止水材17を順次配置し、止水材17の下面両側にシーリング材21を塗布する。
次に、腹板18、19に取り付け固定された雄ねじ部材25に支持金具22、23を取り付け、ナット26により支持金具22、23を固定する。そして、対となる支持金具22、23間に二次止水材24を架設する。
【0024】
なお、スタッド溶接装置30は、従来のアークスタッド溶接より熱量が低いため、止水材17の施工工程の自由度を増やすことができる。
例えば、止水材はその材質により、従来の溶接時における熱に耐えることができないため、上記したように、溶接作業後に止水材を設置する必要があったが、熱による止水材17の品質低下を招くおそれがないため、腹板18と腹板19の間に止水材17を配置した後、腹板18、19の表面に雄ねじ部材25を取り付け固定することができる。このため、例えば、腹板18と腹板19の間隔Sが狭い場合、例えば、300mm以下(更には150mm以下)の場合のように、雄ねじ部材25の取り付け後では止水材17の配置がしずらかった施工現場でも、止水材17の配置を作業性よく実施できる。
【0025】
なお、溶接ガン31の長さL(ケーシング33の軸心方向の長さ)は、例えば、200mm以下、好ましくは150mm以下、更に好ましくは100mm以下であるので、腹板18と腹板19の間隔Sが特に狭い場合(例えば、300mm以下、特に150mm以下)でも、スタッド溶接装置30を用いて、雄ねじ部材25を腹板18又は腹板19にスタッド溶接により取り付け固定できる。
また、スタッド溶接装置30は、その重量が、例えば、100kg以下、好ましくは70kg以下、更に好ましくは50kg以下程度(具体的には25kg未満)のものであるため、軽量化が図れ、施工時の足場に持ち込むことが可能である。このため、アーク溶接用機器(ガソリンエンジン)のように、重量が100kgを超えるために施工時の足場に持ち込むことができず、また、電圧が不足するという問題を解消できる。
更に、スタッド溶接装置30は、従来のアークスタッド溶接より熱量が低いため、腹板18、19の裏側の裏焼けが発生しない(例えば、板厚6mmで確認済み)。腹板18、19の裏側はコンクリートであるため、打設後に防錆処理が不可能であるが、スタッド溶接装置30による雄ねじ部材25の施工後でも腹板18、19に悪影響が出ないため、問題ない。
【0026】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の高架道路用伸縮装置の止水材設置方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、コンデンサ放電型のスタッド溶接装置を用いた場合について説明したが、アーク方式のスタッド溶接装置を使用することもできる。
そして、本発明の高架道路用伸縮装置の止水材設置方法は、新設又は改修のいずれも適用できる。
【符号の説明】
【0027】
10、11:道路基盤、12:継目部、13:遊間、14、15:ジョイント部、16:伸縮装置、17:止水材、18、19:腹板、20:防塵材、21:シーリング材、22、23:支持金具(支持部材)、24:二次止水材、25:雄ねじ部材、26:ナット、30:スタッド溶接装置、31:溶接ガン、32:取っ手、33:ケーシング、34:溶接開始スイッチ、35:信号ケーブル