(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】ペダルアーム
(51)【国際特許分類】
G05G 1/30 20080401AFI20220607BHJP
G05G 1/50 20080401ALI20220607BHJP
【FI】
G05G1/30 E
G05G1/50
(21)【出願番号】P 2021189962
(22)【出願日】2021-11-24
【審査請求日】2021-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000112082
【氏名又は名称】ヒルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】特許業務法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】荒木 功二
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】有松 聡
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-122610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054752(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造のペダルア-ムであって、
上面に設けられた第1の開口部と、下面に設けられた第2の開口部とを備え、
前記第1の開口部により開口した部分の横方向の長さは、前記第2の開口部により開口した部分の横方向の長さより短
く、
前記第1の開口部は、スリット部と、孔部とにより構成され、
前記スリット部により開口した部分の横方向の長さは、前記孔部により開口した部分の横方向の長さより短く、
前記スリット部は、ペダルア-ムの先端側からペダルア-ムの基端が位置する方向へ延びており、
前記孔部は、前記スリット部の先端側に設けられることを特徴とするペダルア-ム。
【請求項2】
前記ペダルア-ムは、基端側から先端側へ向かうにつれて、ペダルア-ムの基端を基準として左右いずれかの方向へ屈曲した形状であり、前記屈曲した方向と反対側に位置するペダルア-ムの側面は、上面側が前記屈曲した方向へ傾斜していることを特徴とする請求項
1記載のペダルア-ム。
【請求項3】
前記ペダルア-ムは、複数の部材が接合することにより形成され、
前記第1の開口部及び前記第2の開口部は、前記複数の部材の縁部により形成され、
前記複数の部材の前記縁部は、前記第1の開口部及び前記第2の開口部の少なくとも一方の延在方向に沿った部分において接合されることを特徴とする請求項
1又は2記載のペダルア-ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダルアームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のブレーキペダルやクラッチペダル等のペダル装置において、中空構造のペダルアームが広く用いられている。また、中空構造のペダルアームとして、塗装時に塗料や空気等がペダルアームの内部に残留することを防止するために、本体の一部が開口したものが採用される場合がある。
【0003】
このような中空構造のペダルアームとして、特許文献1には、外周フランジの溶接部が途切れて開口したペダルアームが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のペダルアームは、開口した部分からペダルアームの内部に小石や泥等の異物が入り込み易いものであり、これらの異物がペダルアームの内面に衝突することにより、ペダルアームから異音が発生するといった問題があった。
【0006】
本発明に係るペダルアームは、上記課題を解決するためになされたものであり、ペダルアームの塗装時においては、塗料や空気等がペダルアームの内部に残留することを防止し、ペダル装置の使用時においては、ペダルアームの内部に異物が入り込むことを防止し、ペダルアームの内部に異物が入り込んだ場合においても、当該異物を容易に排出できるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るペダルアームは、中空構造のペダルアームであって、上面に設けられた第1の開口部と、下面に設けられた第2の開口部とを備え、第1の開口部により開口した部分の横方向の長さは、第2の開口部により開口した部分の横方向の長さより短いことを特徴とする。
【0008】
本発明に係るペダルアームにおいて、第1の開口部は、スリット部と、孔部とにより構成され、スリット部により開口した部分の横方向の長さは、孔部により開口した部分の横方向の長さより短いことが好ましい。
【0009】
本発明に係るペダルアームにおいて、スリット部は、ペダルアームの先端側からペダルアームの基端が位置する方向へ延びており、孔部は、スリット部の先端側に設けられることが好ましい。
【0010】
本発明に係るペダルアームは、基端側から先端側へ向かうにつれて、ペダルアームの基端を基準として左右いずれかの方向へ屈曲した形状であり、屈曲した方向と反対側に位置するペダルアームの側面は、上面側が屈曲した方向へ傾斜していることが好ましい。
【0011】
本発明に係るペダルアームは、複数の部材が接合することにより形成され、第1の開口部及び第2の開口部は、複数の部材の縁部により形成され、複数の部材の縁部は、第1の開口部及び第2の開口部の少なくとも一方の延在方向に沿った部分において接合されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るペダルアームは、上面に設けられた第1の開口部と、下面に設けられた第2の開口部とを備え、第1の開口部により開口した部分の横方向の長さは、第2の開口部により開口した部分の横方向の長さより短いため、ペダルアームの塗装時においては、塗料や空気等がペダルアームの内部に残留することを防止し、ペダル装置の使用時においては、ペダルアームの内部に異物が入り込むことを防止し、ペダルアームの内部に異物が入り込んだ場合においても、当該異物を容易に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るペダルアームの一例を示す正面図である。
【
図5】本例のペダルアームにおける開口部を示す図である。
【
図6】本例のペダルアームにおける開口部を示す図である。
【
図7】本例のペダルアームにおける開口部を示す図である。
【
図8】
図1のA-A線による本例のペダルアームの概略断面図である。
【
図9】
図8と従来のペダルアームの概略断面図との比較を示す図である。
【
図10】本例のペダルアームにおける開口部の変形例を示す図である。
【
図11】本例のペダルアームにおける開口部の変形例を示す図である。
【
図12】本例のペダルアームにおける開口部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。以下、
図1における図面左方向を左とし、
図1における図面右方向を右として説明する。また、ペダルアームにおける正面側の面を上面とし、ペダルアームにおける背面側の面を下面として説明する。
【0015】
以下、自動車のブレーキペダルやクラッチペダル等のペダル装置に用いられるペダルアームを例に挙げて説明する。ただし、本発明のペダルアームは、その他のペダル装置に用いられるものであってもよく、本例の構成に限定されない。
【0016】
図1~8に示すように、本例のペダルアーム100は、正面視で左側に位置する左側部材110と、正面視で右側に位置する右側部材120により形成される。
【0017】
図1~8に示すように、左側部材110は、薄板から成形された部材であり、ペダルアーム100の左側面、上面の一部、及び下面の一部を構成する形状となっている。左側部材110は、ペダルアーム100の上面の一部を構成する部分、及びペダルアーム100の下面の一部を構成する部分において、フランジ111を有する。
【0018】
図1~8に示すように、右側部材120は、薄板から成形された部材であり、ペダルアーム100の右側面、上面の一部、及び下面の一部を構成する形状となっている。右側部材120は、ペダルアーム100の上面の一部を構成する部分、及びペダルアーム100の下面の一部を構成する部分において、フランジ121を有する。
【0019】
図1~8に示すように、左側部材110の有するフランジ111と、右側部材120の有するフランジ121とを溶接により接合することで、中空構造のペダルアーム100が形成される。
【0020】
本例のペダルアーム100は、左側部材110及び右側部材120からなる2つの部材が接合することにより形成される構成となっている。ただし、本発明のペダルアームは、1つの部材により形成される構成としてもよく、3つ以上の部材が接合することにより形成される構成としてもよく、本例の構成に限定されない。
【0021】
図1及び2に示すように、ペダルアーム100は、取付部130を有する。取付部130は、左側部材110及び右側部材120に設けられた孔(図示しない)からなる。取付部130は、円筒形の軸140と嵌合する。
【0022】
図1~4に示すように、車体に対して固定されるブラケット200は、軸210を有する。ブラケット200の有する軸210を、取付部130と嵌合した円筒形の軸140の内側に通すことにより、ペダルアーム100は、ブラケット200の有する軸210に対して揺動可能に取り付けられる。
【0023】
本例のペダルアーム100において、取付部130を有する一方の端部をペダルアームの基端とし、他方の端部をペダルアームの先端として説明する。なお、本発明のペダルアームにおいて、取付部は、ペダルアームを車体に対して揺動可能に取り付けるためのものであれば、本例の構成に限定されない。例えば、本発明のペダルアームは、本例のペダルアーム100における円筒形の軸140に相当するものを取付部であるとして、当該取付部を有する一方の端部をペダルアームの基端とし、他方の端部をペダルアームの先端としてもよい。
【0024】
図3及び4に示すように、ペダルアーム100は、側面にロッド接続部150を有する。ロッド接続部150は、左側部材110及び右側部材120に設けられた孔からなる。ロッド接続部150に接続されるロッド(図示しない)は、ペダルアーム100が揺動する力を車体に備えられたマスターシリンダ(図示しない)へ伝達する。
【0025】
図1~5に示すように、ペダルパッド300は、ペダルアーム100の先端に取り付けられる。
【0026】
操作者によりペダルパッド300が踏み込まれると、ペダルアーム100は、ブラケット200の有する軸210に対して揺動する。ペダルアーム100が揺動する力は、ロッド接続部150に接続されたロッドにより、車体に備えられたマスターシリンダへ伝達される。これにより、本例のペダルアーム100を用いたペダル装置は、ブレーキペダルやクラッチペダル等として機能する。
【0027】
図1~7に示すように、ペダルアーム100は、上面に設けられた第1の開口部400と、下面に設けられた第2の開口部500とを備える。第1の開口部400及び第2の開口部500は、左側部材110及び右側部材120の縁部により形成される。なお、第1の開口部400及び第2の開口部500において、開口部が延びた方向を縦方向(延在方向)とし、開口部が延びた方向に対して直交する方向を横方向(幅方向)として説明する。
【0028】
図5及び6に示すように、第1の開口部400は、スリット部410と、孔部420とにより構成される。
【0029】
図5及び6に示すように、スリット部410は、ペダルアーム100の先端からペダルアーム100の基端が位置する方向へ細長く延びたスリット状の開口部である。なお、スリット部410において、ペダルパッド300側に位置する一方の端部をスリット部410の基端とし、ペダルアーム100の取付部130側に位置する他方の端部をスリット部410の先端として説明する。
【0030】
スリット部410は、スリット部410の基端側からスリット部410の先端側へ向かうにつれて、ペダルアーム100の形状に沿って捩れるように延びた形状となっている。スリット部410により開口した部分の横方向の長さは、いずれの位置においても同一である。
【0031】
図5及び6に示すように、孔部420は、スリット部410の先端から横方向へ広がって開口した孔状の開口部である。孔部420により開口した部分の横方向の長さは、スリット部410により開口した部分の横方向の長さより長い。
【0032】
図5~7に示すように、第2の開口部500は、ペダルアーム100の先端からペダルアーム100の基端が位置する方向へ先細るように、第1の開口部400よりも短く延びた開口部である。
【0033】
ペダルアーム100の塗装時において、塗料や空気等は、第1の開口部400及び第2の開口部500により開口した部分を通ってペダルアーム100の内部から外部へ排出される。このように、本例のペダルアーム100は、第1の開口部400及び第2の開口部500を備えることで、塗装時に塗料や空気等がペダルアーム100の内部に残留することを防止することができる。
【0034】
図5~7に示すように、本例のペダルアーム100において、上面に設けられた第1の開口部400により開口した部分の横方向の長さは、下面に設けられた第2の開口部500により開口した部分の横方向の長さより短い。これにより、本例のペダルアーム100は、ペダルアーム100の上面からペダルアーム100の内部に異物が入り込むことを防止しつつ、ペダルアーム100の上面からペダルアーム100の内部に異物が入り込んだ場合においても、ペダルアーム100の下面から当該異物を容易に排出することができる。
【0035】
図5及び6に示すように、本例のペダルアーム100において、上面に設けられた第1の開口部400は、スリット部410と、孔部420とにより構成される。本例のペダルアーム100は、スリット部410を有することにより、塗料や空気等の流動性を高めるために必要な開口した部分の面積を確保しつつ、ペダルアーム100の内部に異物が入り込むことを防止することができる。また、本例のペダルアーム100は、スリット部410に加えて、孔部420を有することにより、開口した部分の面積を増やし、塗料や空気等の流動性をさらに高めることができる。
【0036】
図5及び6に示すように、スリット部410は、ペダルアーム100の先端側からペダルアーム100の基端が位置する方向へ延びており、孔部420は、スリット部410の先端側に設けられる。このように、本例のペダルアーム100は、第1の開口部400において、操作者の靴に付着した小石や泥等といった異物が比較的入り込み易いペダルパッド300側にスリット部410を設け、当該異物が比較的入り込み難いペダルアーム100の取付部130側に孔部420を設けることにより、ペダルパッド300側からペダルアーム100の内部に異物が入り込むことを防止しつつ、塗料や空気の流動性を高めることができる。
【0037】
図1に示すように、本例のペダルアーム100は、基端側から先端側へ向かうにつれて、ペダルアーム100の基端を基準として左方向へ屈曲した形状となっている。なお、本例のペダルアーム100において、当該ペダルアーム100が屈曲した方向を、「ペダルアームの屈曲方向」として説明する。
【0038】
本例のペダルアーム100において、ペダルアームの屈曲方向は、左方向となっている。ただし、本発明のペダルアームにおいて、ペダルアームの屈曲方向は、右方向であってもよく、本例の構成に限定されない。
【0039】
図8及び9に示すように、本例のペダルアーム100において、ペダルアームの屈曲方向と反対側に位置するペダルアーム100の側面は、上面側がペダルアームの屈曲方向へ傾斜している。なお、
図9における実線は、本例のペダルアーム100の断面を示しており、
図9における破線は、従来のペダルアームの断面を示している。また、
図9における図心G1は、本例のペダルアーム100の断面の図心を示しており、
図9における図心G2は、従来のペダルアームの断面の図心を示している。
【0040】
図9に示すように、本例のペダルアーム100において、ペダルアームの屈曲方向と反対側に位置するペダルアーム100の側面は、上面側がペダルアームの屈曲方向へ傾斜しているため、本例のペダルアーム100の断面の図心G1は、従来のペダルアームの断面の図心G2と比較して、ペダルアームの屈曲方向に位置する。
【0041】
このように、本例のペダルアーム100は、従来のペダルアームと比較して、ペダルアームの図心をペダルアームの屈曲方向へ近づけることができるため、基端から先端へ向かうにつれて、ペダルアームの基端を基準として左右いずれかの方向へ屈曲した形状を採用しながらも、ペダルアーム100の強度を高めることができる。
【0042】
図10~12に示すように、本例のペダルアーム100として、第1の開口部400の形状を変更したものを用いてもよい。
【0043】
図6に示すペダルアーム100の一例において、孔部420は、スリット部410の先端から左方向へ広がって開口した構成となっている。
図10に示すペダルアーム100の変形例において、孔部420は、スリット部410の先端から左方向及び右方向へ広がって開口した構成となっている。
図11に示すペダルアーム100の変形例において、孔部420は、スリット部410の先端から右方向へ広がって開口した構成となっている。
図12に示すペダルアーム100の変形例において、第1の開口部400は、孔部420を有しない構成となっている。
【0044】
図10に示すペダルアーム100の変形例において、左側部材110及び右側部材120の縁部同士は、第1の開口部400の延在方向に沿った部分、すなわち直線部分X1において接合される。また、
図7に示すように、本例のペダルアーム100において、左側部材110及び右側部材120の縁部同士は、第2の開口部500の延在方向に沿った部分、すなわち直線部分X2において接合される。
【0045】
開口部を備える中空構造のペダルアームにおいて、当該ペダルアームを形成する複数の部材が、開口部により開口した部分において角を形成するように接合すると、当該ペダルアームの強度は低いものとなる場合がある。一方、本例のペダルアーム100において、左側部材110及び右側部材120は、第1の開口部及び第2の開口部の少なくとも一方により開口した部分のうち、直線部分において接合されるため、本例のペダルアーム100は、第1の開口部400及び第2の開口部500を備える構成としながらも、ペダルアーム100の強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0046】
100 ペダルアーム
110 左側部材
111 フランジ
120 右側部材
121 フランジ
130 取付部
140 軸
150 ロッド接続部
200 ブラケット
210 軸
300 ペダルパッド
400 第1の開口部
410 スリット部
420 孔部
500 第2の開口部
【要約】 (修正有)
【課題】ペダルアームの塗装時においては、塗料や空気等がペダルアームの内部に残留することを防止し、ペダル装置の使用時においては、ペダルアームの内部に異物が入り込むことを防止し、ペダルアームの内部に異物が入り込んだ場合においても、当該異物を容易に排出できる中空構造のペダルアームを提供する。
【解決手段】ペダルアームは、中空構造のペダルアームであって、上面に設けられた第1の開口部400と、下面に設けられた第2の開口部500とを備え、第1の開口部により開口した部分の横方向の長さは、第2の開口部により開口した部分の横方向の長さより短いため、ペダルアームの塗装時においては、塗料や空気等がペダルアームの内部に残留することを防止し、ペダル装置の使用時においては、ペダルアームの内部に異物が入り込むことを防止し、ペダルアームの内部に異物が入り込んだ場合においても、当該異物を容易に排出することができる。
【選択図】
図3