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  • 特許-文具用粘着剤組成物及び積層体 図1
  • 特許-文具用粘着剤組成物及び積層体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】文具用粘着剤組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20220607BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220607BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20220607BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220607BHJP
   G09F 3/00 20060101ALI20220607BHJP
   G09F 3/10 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/04
C09J133/00
C09J7/38
G09F3/00 D
G09F3/10 B
G09F3/10 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018055882
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167437
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301032735
【氏名又は名称】プラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】福永 宏雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼川 卓磨
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-204328(JP,A)
【文献】特開2003-113353(JP,A)
【文献】特開2002-167562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤成分100質量部に対して、アスペクト比が6~30である炭素繊維を0.1~3質量部含有する文具用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着剤成分は、アクリル系粘着剤である請求項1に記載の文具用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記炭素繊維は、PAN系炭素繊維である請求項1又は2に記載の文具用粘着剤組成物。
【請求項4】
基材と、
前記基材の一の面上に形成され、請求項1~のいずれか1項に記載の粘着剤組成物からなる粘着層と
を有する積層体。
【請求項5】
前記粘着層は、前記基材から剥離可能となっている請求項に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材の粘着層が形成されている面には離型層が設けられている請求項に記載の積層体。
【請求項7】
感圧転写粘着テープである請求項のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ糊、シール及びラベルなどの文具に用いられる粘着剤組成物及びこの粘着剤組成物を用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
感圧転写粘着テープを用いた所謂「テープ糊」は、一般に、プラスチックフィルムなどからなる基材上に、粘着層が剥離可能に設けられた構成となっており、使用する際は、転写具を用いて被着体上に粘着層を転写する。このため、転写式粘着テープの粘着層には、粘着力に加えて、糸引きなどが生じず、任意の位置で容易に切断できる「糊切れ性」が要求される。同様に、シール及びラベルなどの粘着層にも、打ち抜き加工時や使用時に、糸引きなどが生じることなく、容易に打ち抜き加工や基材から剥離が可能な「糊切れ性」が要求される。
【0003】
従来、糊切れ性を良好にするために、粘着層を構成する粘着剤組成物の成分を特定した転写式粘着テープが提案されている(特許文献1,2参照)。例えば、特許文献1には粘着層にアルギン酸を含有させた粘着テープが開示されており、特許文献2にはアクリル系共重合体に粘着付与樹脂と架橋剤を特定の比率で配合した粘着剤組成物で粘着層を形成した粘着テープが開示されている。
【0004】
また、打ち抜き加工性を向上させるために、アクリル系共重合体の平均分子量、粘着付与樹脂の酸価指数及び軟化点指数を特定の範囲にしたアクリル系粘着剤組成物も提案されている(特許文献3参照)。一方、粘着層に配合するフィラーを特定することで、糊切れ性向上を図った粘着テープもある(特許文献4,5参照)。具体的には、特許文献4に記載の粘着テープでは粘着層に針状粒子を配合しており、特許文献5に記載の粘着テープでは粘着層に鱗片状粒子を配合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-239413号公報
【文献】特開2002-188062号公報
【文献】特開平7-278513号公報
【文献】特開2003-113353号公報
【文献】特開2006-219605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載された粘着剤組成物のように粘着剤成分の組成や特性を工夫しただけでは、十分な糊切れ性を確保することはできない。また、特許文献4,5に記載されているような鉱物系フィラーやガラス繊維は、糊切れ性向上に効果はあるが、添加量が少ないと糊切れ性にばらつきが生じやすく、良好な糊切れ性を安定して得るためには、フィラーの添加量を多くする必要がある。このため、鉱物系フィラーやガラス繊維の添加は、製造コストの増加を招くという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、製造コストの増加を抑えつつ、糊切れ性が良好な粘着層を形成することが可能な文具用粘着剤組成物及びこの粘着剤組成物を用いた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る文具用粘着剤組成物は、粘着剤成分と、アスペクト比が6~30である炭素繊維と、を含有する。
前記粘着剤成分は、例えばアクリル系粘着剤である。
本発明の文具用粘着剤組成物は、例えば前記粘着剤成分100質量部に対して、前記炭素繊維を0.1~3質量部配合することができる。
前記炭素繊維としては、例えばPAN系炭素繊維を用いることができる。
【0009】
本発明に係る積層体は、基材と、前記基材の一の面上に形成され前述した粘着剤組成物からなる粘着層と、を有する。
この積層体は、前記粘着層を前記基材から剥離可能とすることができる。
その場合、前記基材の粘着層が形成されている面に離型層が設けられていてもよい。
本発明の積層体は、例えば感圧転写粘着テープである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の粘着剤組成物よりも少ないフィラー添加量で、従来品と同等以上の糊切れ性を安定して得ることができるため、製造コストの増加を抑えつつ、糊切れ性が良好な粘着層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第2の実施形態の積層体の構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態の積層体の他の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(第1の実施形態)
先ず本発明の第1の実施形態に係る文具用粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」ともいう。)について説明する。本実施形態の粘着剤組成物は、テープ糊、シール及びラベルなどの文具に用いられるものであり、粘着剤成分とアスペクト比が6~30である炭素繊維を含有する。
【0014】
[粘着剤成分]
粘着剤成分の種類は、特に限定されるものではなく、用途や要求特性に応じて適宜選択して使用することができ、例えばアクリル系粘着剤を用いることができる。本実施形態の粘着剤組成物に配合されるアクリル系粘着剤は、アクリル系共重合体を用いたものであれば、溶剤系及びエマルジョン系のいずれでもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。また、粘着剤成分には、老化防止剤、軟化剤、粘着付与剤、架橋剤及び充填剤などが配合されていてもよい。
【0015】
[炭素繊維]
炭素繊維は、形成される粘着層の糊切れ性を向上させる効果があり、従来から用いられている鉱物系フィラーやガラス繊維に比べて、同一ロット内やロット間での糊切れ性のばらつきが少なく、少ない添加量で同等以上の効果が得られる。ただし、炭素繊維のアスペクト比が6未満の場合、糊切れ性向上効果が得られず、また、アスペクト比が30を超える炭素繊維を用いると、塗工性が低下し、粘着層形成時に不良が発生する。よって、本実施形態の粘着剤組成物では、アスペクト比が6~30の炭素繊維を用いる。
【0016】
また、本実施形態の粘着剤組成物に配合される炭素繊維は、糊切れ性及び塗工性の観点から、長径が30~300μmであることが好ましく、より好ましくは50~200μmである。これにより、糊切れ性を向上させつつ、粘着層形成時の不良発生を抑制し、糊切れ性及び生産適性に優れた粘着組成物が得られる。
【0017】
ここで、「アスペクト比」とは、炭素繊維の最大長径と最大長径に直交する幅(短径)との比(長径/短径)である。また、炭素繊維の「長径」及び「短径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡などを用いた顕微鏡法により測定することができる。
【0018】
炭素繊維には、PAN(Polyacrylonitrile)系、ピッチ系、リグニン系及びレーヨン系などがあり、本実施形態の粘着剤組成物に配合される炭素繊維の種類は特に限定されるものではなく、いずれの炭素繊維も用いることができるが、糊切れ性向上の観点から硬度の高いPAN系炭素繊維が好ましい。PAN系炭素繊維を用いることにより、特に粘着剤成分がアクリル系粘着剤の場合に、形成される粘着層の糊切れ性をより高めることができる。
【0019】
炭素繊維の配合量は、炭素繊維の種類やサイズ、要求される糊切れ性などに応じて適宜設定することができるが、例えば粘着剤成分100質量部に対して0.1~3質量部である。粘着剤成分100質量部あたり、炭素繊維配合量が0.1質量部未満の場合、十分な糊切れ性が得られないことがあり、また炭素繊維配合量が3質量部を超えると、基材に粘着剤組成物を塗工する際にスジが発生するなど積層体の製造過程において不具合が発生しやすくなる。
【0020】
なお、本実施形態の粘着剤組成物は、文具用であり、導電性や熱伝導性は必要ないため、導電性や熱伝導性粘着剤のように多量の添加は不要である。また、本実施形態の粘着剤組成物は、0.5質量部未満と従来品よりも少ないフィラー添加量でも良好な糊切れ性を有する粘着層を形成することが可能である。
【0021】
[その他の成分]
本実施形態の粘着剤組成物には、前述した各成分に加えて、本発明の効果に影響しない範囲で、粘着付与剤、表面張力調整剤及び増粘剤などが配合されていてもよい。ただし、本実施形態の粘着剤組成物は、金属粉などの導電性や熱伝導性を付与するための添加剤は含有しない。
【0022】
以上詳述したように、本実施形態の粘着剤組成物は、糊切れ性を向上させる成分として炭素繊維を用いているため、鉱物系フィラーやガラス繊維に比べて少ない添加量で糊切れ性が良好な粘着層を形成することができる。その結果、本実施形態の粘着剤組成物を用いることにより、製造コストの増加を抑えつつ、粘着力、走行性及び糊切れ性が良好な粘着層を形成することが可能となる。
【0023】
本実施形態の粘着剤組成物で形成した粘着層は、フィラー添加量が同等の従来品に比べて、糊切れ性のばらつきが少なく、テープ糊、シール及びラベルなどの文具に適用することにより均一で安定した性能が得られる。更に、本実施形態の粘着剤組成物には、ガラス繊維や鉱物系フィラーを用いた従来品よりも糊付けされた領域(糊面)が視認しやすいという効果もある。
【0024】
(第2の実施形態)
次に、本実施形態の第2の実施形態に係る積層体について説明する。図1は本実施形態の積層体の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の積層体10は、テープ糊、シール及びラベルなどの文具であり、基材1の一の面上に、前述した第1の実施形態の粘着剤組成物からなる粘着層2が形成されている。
【0025】
[基材1]
基材1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフイルム、ポリカーボネートフイルム、ポリメチルメタクリレートフイルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフイルム、ポリイミドフイルム及びポリ塩化ビニルフィルムなどの各種プラスチックフィルム、紙、グラシン紙、不織布などを用いることができる。基材1の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば5~60μmとすることができる。
【0026】
また、積層体10が感圧転写粘着テープ(テープ糊)である場合は、粘着層2を基材1から容易に剥離可能とするため、基材1の粘着層2側の表面に、離型層を設けたり又は離型処理を施してもよい。離型層は、例えばシリコーン化合物、フッ素樹脂、フルオロシリコーン樹脂などの離型剤を塗布することにより形成することができる。
【0027】
[粘着層2]
粘着層2は、例えば公知の方法で、基材1上に第1の実施形態の粘着剤組成物を塗布することにより形成することができる。粘着層2の厚さは、特に限定されるものではないが、積層体10が感圧転写粘着テープ(テープ糊)である場合は、紙面などに対する接着力や糊切れ性を考慮すると例えば5~40μmであり、また積層体10がシール・ラベルである場合は、印刷機での加工性などの作業適性を考慮すると例えば3~60μmである。
【0028】
[剥離紙]
本実施形態の積層体10は、粘着層2上に更に離型紙が積層されていてもよい。図2は本実施形態の積層体の他の構成を模式的に示す断面図である。例えば、シールやラベルとして用いる場合は、図2に示す積層体11のように、基材1上に粘着層2を剥離できないように形成し、粘着層2上に剥離紙3を積層してもよい。そして、積層体11を使用する際は、剥離紙3を剥離し、粘着層2を露出させる。
【0029】
本実施形態の積層体は、前述した第1の実施形態の粘着剤組成物で粘着層を形成しているため、粘着力及び走行性を維持しつつ、糊切れ性を向上させることができる。また、第1の実施形態の粘着剤組成物に配合されている炭素繊維は、鉱物系フィラーやガラス繊維よりも少ない配合量で、同等以上の糊切れ性を安定して得られるため、製造コストも抑えることができる。
【実施例
【0030】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例では、下記表1に示す粘着剤と、下記表2に示すフィラーを用いて、実施例及び比較例の粘着剤組成物を作製し、糊切れ性及び粘着力について評価した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
<ガラス転移温度(Tg)>
上記表1に示す粘着剤のガラス転移温度(Tg)は、動的粘弾性測定装置を用いて、測定周波数1Hzの条件で測定した。
【0034】
<平均長径・平均短径・アスペクト比>
上記表2に示すNo.I~Vの炭素繊維及びNo.VIの黒鉛及びNo.VIIのガラス繊維の短径と長径を、光学顕微鏡を用いた顕微鏡法により測定した。具体的には、ライカマイクロシステムズ株式会社製 光学顕微鏡(ライカDM2700M)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、独立して形状を認識できるフィラー50個について、長径及び短径を測定し、その平均をとった。そして、これらの値を用いて各フィラーのアスペクト比を算出した。
【0035】
実施例及び比較例の粘着剤組成物の評価は、以下に示す方法で行った。
【0036】
<糊切れ性>
糊切れ性は、幅8.4mm、厚さ20±2μmの評価用試料を作製し、標線間距離Lを10mmとして、切断時伸びにより評価した。具体的には、株式会社島津製作所製 卓上試験機(EZ-SX)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%RHの環境下で、引張速度を600mm/分として引張試験を行い、各評価用試料の切断時伸びを測定した。
【0037】
1試料について10回測定を行い、試料が切断されたときの標線間距離(切断時の標線間距離)Lから初期の標線間距離Lを引いた値(L-L)の平均値が、1.0mm以上30.0mm以下だったものを極めて良好(◎)、30.0mmを超えかつ60.0mm以下だったものを良好(○)、60.0mmを超えたもの又は1.0mm未満だったものを不良(×)とした。
【0038】
<粘着力低下率>
JIS Z 0237に準拠した測定方法で各粘着剤組成物のSUS粘着力を測定し、粘着剤が同じでフィラーを添加していないものの粘着力との比(粘着力低下率)を求めた。評価は、粘着力低下率が80.0%以上だったものを極めて良好(◎)。60%以上かつ80%未満のものを良好(○)、60%未満のものを不良(×)とした。
【0039】
<総合評価>
総合評価は、糊切れ性及び粘着力の評価がいずれも極めて良好(◎)だったものを極めて良好(◎)、糊切れ性及び粘着力の評価のうち一方又は両方が良好(○)だったものを良好(○)、糊切れ性及び粘着力の評価のうち一方又は両方が不良(×)だったものを不良(×)とした。
【0040】
以上の結果を、下記表3にまとめて示す。
【0041】
【表3】
【0042】
上記表3に示すように、アスペクト比が6~30の炭素繊維を添加したNo.2~8,10,14の粘着剤組成物は、粘着層の糊切れ性が良好で、ばらつきも少なかった。特に、PAN系炭素繊維を0.1~3質量添加したNo.3~5,7,8,14の粘着剤組成物は、粘着層の糊切れ性及び粘着力共に優れていた。これに対して、フィラーを添加しなかったNo.1,13の粘着剤組成物は糊切れ性が劣り、黒鉛を添加したNo.11の粘着剤組成物及びガラス繊維を添加したNo.12の粘着剤組成物は、粘着力は良好であったが、糊切れ性が劣っていた。
【0043】
以上の結果から、本発明によれば、製造コストを増加させずに、糊切れ性が良好な粘着層を形成できることが確認された。
【符号の説明】
【0044】
1 基材
2 粘着層
3 剥離紙
10、11 積層体
図1
図2