(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】腫瘍微小環境の制御および免疫治療のための薬学的組み合わせおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4406 20060101AFI20220607BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220607BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220607BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220607BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/18 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/27 20060101ALI20220607BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/616 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/415 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20220607BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20220607BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
A61K31/4406
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
A61K31/337
A61K38/12
A61K31/18
A61K31/4045
A61K31/343
A61K31/27
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K31/616
A61K31/192
A61K31/405
A61K31/415
A61K31/365
A61K31/444
A61K45/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019000290
(22)【出願日】2019-01-04
【審査請求日】2019-04-22
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515195565
【氏名又は名称】ジーエヌティー バイオテック アンド メディカルズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チア-ション
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、イェー-スー
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チア-ナン
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/132536(WO,A1)
【文献】特表2009-501168(JP,A)
【文献】Cancer Immunol Immunother,2017年11月09日,Vol.67,pp.381-392
【文献】Biochemical Biophysical Research Communications,2013年,Vol.436,pp.259-264
【文献】Cancer Immunology Research,2016年,Vol.5, No.1,pp.9-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において腫瘍微小環境における免疫抑制を取り除きまたは癌細胞に対する免疫系を刺激する方法において使用するための
薬学的組成物であって、前記
薬学的組成物は、免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせでHDAC阻害剤とNSAIDとを含み、
前記HDAC阻害剤は、チダミド、エンチノスタット、ボリノスタット、ロミデプシン
、ベリノスタット、パノビノスタット
、モセチノスタット、アベキシノスタット、プラシノスタット、レスミノスタット、ギビノスタット、または、キシノスタットであり、;
前記NSAIDは、アスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、または、エトリコキシブであり、;および、
前記免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、
または抗PD-L1抗
体である、
薬学的組成物。
【請求項2】
免疫治療によって癌を阻害または処置することができる、請求項1に記載の
薬学的組成物。
【請求項3】
前記癌が、膠芽腫、肝癌、結腸直腸癌、胃癌、食道癌、肺癌、膵癌、腎細胞癌、良性前立腺過形成、前立腺癌、卵巣癌、黒色腫、乳癌、慢性リンパ球性白血病(CLL)、メルケル細胞癌、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、胆嚢癌、胆管癌、膀胱癌および子宮癌である、請求項1に記載の
薬学的組成物。
【請求項4】
ビグアニド化合物をさらに含む、請求項1に記載の
薬学的組成物。
【請求項5】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、ランブロリズマブ、ピディリズマブ、ニボルマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブまたはMIHIである、請求項1に記載の
薬学的組成物。
【請求項6】
前記ビグアニド化合物が、メトホルミン、フェンホルミン、プログアニルおよびクロルプログアニルである、請求項4に記載の
薬学的組成物。
【請求項7】
前記
薬学的組成物中の前記HDAC阻害剤、前記NSAIDおよび前記免疫チェックポイント阻害剤の量が、それぞれ10%(w/w)~70%(w/w)、10%(w/w)~70%(w/w)および0.5%(w/w)~20%の範囲にある、請求項1に記載の
薬学的組成物。
【請求項8】
ビグアニド化合物の量が30%~70%(w/w)の範囲にある、請求項4に記載の
薬学的組成物。
【請求項9】
1つまたは複数の追加抗癌剤をさらに含む、請求項1に記載の
薬学的組成物。
【請求項10】
HDAC阻害剤、NSAIDおよび免疫チェックポイント阻害剤を含む薬学的
組成物であって、
前記HDAC阻害剤は、チダミド、エンチノスタット、ボリノスタット、ロミデプシン
、ベリノスタット、パノビノスタット
、モセチノスタット、アベキシノスタット、プラシノスタット、レスミノスタット、ギビノスタット、または、キシノスタットであり、;
前記NSAIDは、アスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、セレコキシブ、ロフェコキシブ、または、エトリコキシブであり、;および、
前記免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、または抗PD-L1抗
体である、薬学的
組成物。
【請求項11】
前記薬学的
組成物中の前記HDAC阻害剤、前記NSAIDおよび前記免疫チェックポイント阻害剤の量が、それぞれ10%(w/w)~70%(w/w)、10%~70%(w/w)および0.5%~20%である、請求項10に記載の薬学的
組成物。
【請求項12】
ビグアニド化合物をさらに含む、請求項10に記載の薬学的
組成物。
【請求項13】
前記ビグアニド化合物の量が30%~70%(w/w)の範囲にある、請求項12に記載の薬学的
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫治療に関する。特に本発明は、薬学的組み合わせならびに腫瘍微小環境の制御および癌免疫治療におけるその応用を提供する。
【背景技術】
【0002】
癌免疫治療は、急速に発展している分野であり、前途有望なめざましいブレークスルーをもたらしてきた。腫瘍関連抗原の存在が発見されたことにより、今や、宿主の免疫系を使った腫瘍成長への介入の可能性が高まっている。免疫系の液性アームと細胞性アームの両方を利用するさまざまな機序が、現在、癌免疫治療のために探索されている。
【0003】
免疫寛容を破るために、免疫エフェクターの養子移入、免疫調節治療およびワクチン接種を含むいくつかの戦略が提案されている。しかしこれらの戦略では免疫回避は依然として防止されない。癌細胞では、抗アポトーシスシグナリング、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)および環状アデノシン一リン酸(cAMP)が関係する機序を含む主要回避経路が生じる。腫瘍微小環境は、腫瘍進行に応じて動的に変化するので、重要な研究分野である。腫瘍は免疫編集と呼ばれる過程によって免疫コントロールを回避するための機序を発達させ、それが、悪性進行につながりうる腫瘍微小環境中の選択圧を与える。「免疫回避」と呼ばれる腫瘍促進相において、免疫系は、宿主の免疫能に耐えて生き残る能力が高い癌細胞を選択するか、あるいは腫瘍のアウトグロースが容易になるように腫瘍微小環境を変更することによって、腫瘍進行を助長することができる。
【0004】
免疫系ホメオスタシスには、免疫系応答のバランスをコントロールするために、刺激機序と阻害機序の両方が存在する。阻害機序には、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4、CD28ホモログ)、およびプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)またはそのリガンド(PD-L1)、TIM-3(T細胞免疫グロブリン3)、BTLA(BおよびTリンパ球アテニュエーター(B and T lymphocyte attenuator))、VISTA(T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(V-domain Ig suppressor of T cell activation))およびLAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)が含まれる。現在、抗CTLA-4、抗PD-1および抗PD-L1抗体を含む多くの免疫チェックポイント阻害剤モノクローナル抗体が、いくつかの腫瘍学的適応における治療的使用について、米国FDAおよびEMAによって承認されている。しかし、これらの免疫チェックポイント阻害剤の場合、単独治療に対して腫瘍応答があったのは、癌患者の約20%~30%である。有効性はまだ十分ではない。
【0005】
米国特許出願公開第20180244783号明細書は、癌および他の疾患を処置するために、免疫療法剤と組み合わされたWnt経路阻害剤を提供している。米国特許出願公開第20180355042号明細書は、癌転移の低減および/または防止を含む癌の処置に有用なHDACiおよびPD-1阻害剤を含む組み合わせを提供している。しかし、さらに顕著な抗腫瘍活性を達成するために、治療的解決策を開発することが今なお必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、驚いたことに、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤と非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)との組み合わせが腫瘍微小環境に影響を及ぼしうることを見いだした。これは、そのような組み合わせを免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせれば、抗癌活性が著しく改良されることを示唆している。本発明は、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされた本薬学的組み合わせによる処置が、免疫チェックポイント阻害剤単独と比較して、抗癌活性を有意に増強することを見いだした。本薬学的組み合わせと免疫チェックポイント阻害剤とによる同時処置は、腫瘍成長の阻害において、HDAC阻害剤+免疫チェックポイント阻害剤の場合よりも高い効力を与える。さらにまた、本薬学的組み合わせと免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせは、腫瘍を有意に根絶し、生存率を約70~80%まで増強する。
【0007】
一実施形態において、本発明は、HDAC阻害剤とNSAIDとの組み合わせを免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて対象に投与する工程を含む、腫瘍微小環境における免疫抑制を取り除きまたは癌細胞に対する免疫系を刺激する方法を提供する。本方法は免疫治療によって癌を阻害または処置することができる。ある実施形態において、本組み合わせ中のHDAC阻害剤とNSAIDの量は、それぞれ、約5%~約40%(w/w)および約5%~約40%(w/w)の範囲にある。
【0008】
さらなる一実施形態において、本組み合わせは、ビグアニド化合物をさらに含む。ビグアニド化合物の量は約40%~80%(w/w)の範囲にある。
【0009】
いくつかの実施形態において、HDAC阻害剤はクラスI HDACの選択的阻害剤である。特に、HDAC阻害剤はベンズアミドクラスのHDAC阻害剤である。HDAC阻害剤の実施形態をいくつかあげると、チダミド、エンチノスタット、ボリノスタット、ロミデプシン、パノビノスタット、ベリノスタット、パノビノスタット、バルプロ酸、モセチノスタット、アベキシノスタット、エンチノスタット、プラシノスタット(pracinostat)、レスミノスタット、ギビノスタット(givinostat)およびキシノスタットなどがある。
【0010】
いくつかの実施形態において、NSAIDはアスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセンまたはCOX-2阻害剤である。COX-2阻害剤の実施形態をいくつかあげると、セレコキシブ、ロフェコキシブおよびエトリコキシブなどがある。
【0011】
いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である。免疫チェックポイント阻害剤の実施形態をいくつかあげると、ランブロリズマブ、ピディリズマブ、ニボルマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブおよびMIHIなどがある。
【0012】
癌の実施形態をいくつかあげると、膠芽腫、肝癌、結腸直腸癌、膠芽腫、胃癌、結腸直腸癌、食道癌、肺癌、膵癌、腎細胞癌、良性前立腺過形成、前立腺癌、卵巣癌、黒色腫、乳癌、慢性リンパ球性白血病(CLL)、メルケル細胞癌、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、胆嚢癌、胆管癌、膀胱癌、および子宮癌などがある。
【0013】
一実施形態において、本方法は、1つまたは複数の追加抗癌剤を投与する工程をさらに含む。
【0014】
一実施形態において、本発明は、HDAC阻害剤、NSAIDおよび免疫チェックポイント阻害剤を含む薬学的組み合わせを提供する。HDAC阻害剤、NSAIDおよび免疫チェックポイント阻害剤の実施形態は、本明細書に記載するものである。一実施形態において、本薬学的組み合わせは、ビグアニド化合物をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A-D】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドまたはエンチノスタットの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、10mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(10mg/kg);CD、チダミド(25mg/kg);E、MS-275(エンチノスタット、20mg/kg)。総腫瘍体積(A)、個別腫瘍体積(B)、CT26腫瘍担持マウス体重(C)および動物生存率(D)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後に腫瘍体積が3000mm
3に達したら安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0016】
【
図2A-D】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、10mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(10mg/kg);CD、チダミド(12.5、25または50mg/kg);E、MS-275(エンチノスタット、20mg/kg);M、メトホルミン(100mg/kg)。総腫瘍体積(A)、個別腫瘍体積(B)、CT26腫瘍担持マウス体重(C)および動物生存率(D)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0017】
【
図3A-D】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドまたはエンチノスタット+メトホルミンおよびセレコキシブの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、10mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(10mg/kg);CD、チダミド(12.5mg/kg);E、MS-275(エンチノスタット、20mg/kg);C、セレコキシブ(25mg/kg);M、メトホルミン(100mg/kg)。総腫瘍体積(A)、個別腫瘍体積(B)、担持マウス体重(C)および動物生存率(D)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0018】
【
図4A-D】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされたさまざまな用量のチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、10mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(10mg/kg);CD、チダミド(12.5、25または50mg/kg);C,セレコキシブ(25または50mg/kg);M、メトホルミン(100または200mg/kg)。総腫瘍体積(A)、個別腫瘍体積(B)、CT26腫瘍担持マウス体重(C)および動物生存率(D)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0019】
【
図5A-D】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、10mg/kg);PD-L1、抗PD-L1モノクローナル抗体(10mg/kg);CD、チダミド(50mg/kg);C、セレコキシブ(50mg/kg);M、メトホルミン(100mg/kg)。総腫瘍体積(A)、個別腫瘍体積(B)、CT26腫瘍担持マウス体重(C)および動物生存率(D)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0020】
【
図6A-D】JC腫瘍担持マウスにおける抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの治療応答を示す図である。JC乳腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、10mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(10mg/kg);CD、チダミド(50mg/kg);C,セレコキシブ(50mg/kg);M、メトホルミン(100mg/kg)。総腫瘍体積(A)、個別腫瘍体積(B)、JC腫瘍担持マウス体重(C)および動物生存率(D)を記録した。JC腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0021】
【
図7A-E】CT26腫瘍担持マウスにおける、(異なる用量の)抗PD-L1抗体と組み合わされたまたは抗体PD-L1抗体なしでの(異なる用量の)チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、10mg/kg);PD-L1、抗PD-L1モノクローナル抗体(2.5および10mg/kg);CD、チダミド(6.25、12.5または50mg/kg);C、セレコキシブ(50mg/kg);M、メトホルミン(100mg/kg)。抗PD-L1抗体(2.5または10mg/kg)およびチダミド(6.25または50mg/kg)+セレコキシブ(50mg/kg)およびメトホルミン(100mg/kg)による処置後の総腫瘍体積(A)、抗PD-L1抗体非存在下でのチダミド(6.25、12.5または50mg/kg)+セレコキシブ(50mg/kg)およびメトホルミン(100mg/kg)による処置後の総腫瘍体積(B)、抗PD-L1抗体の存在下(2.5または10mg/kg)または非存在下でのチダミド(6.25、12.5または50mg/kg)+セレコキシブ(50mg/kg)およびメトホルミン(100mg/kg)による処置後の個別総腫瘍体積(C)、CT26腫瘍担持マウス体重(D)および動物生存率(E)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0022】
【
図8A-E】CT26腫瘍担持マウスにおける、メトホルミンありまたはメトホルミンなしでのチダミド+セレコキシブと組み合わされた抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、2.5mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(2.5mg/kg);PD-L1、抗PD-L1モノクローナル抗体(2.5mg/kg);CD、チダミド(50mg/kg);C、セレコキシブ(50mg/kg);M、メトホルミン(100mg/kg)。抗PD-1/抗PD-L1抗体の存在下または非存在下、メトホルミン(100mg/kg)ありまたはメトホルミンなしでの、チダミド(50mg/kg)+セレコキシブ(50mg/kg)による処置後の総腫瘍体積(A)、抗PD-1対照群または抗PD-L1対照群と比較した、チダミド(50mg/kg)+セレコキシブ(50mg/kg)およびメトホルミン(100mg/kg)と組み合わされた抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体による処置後の総腫瘍体積(B)、表示のとおりさまざまな治療モダリティで処置した後の個別腫瘍体積(C)、CT26腫瘍担持マウス体重(D)および動物生存率(E)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0023】
【
図9A-H】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされたさまざまな投与レジメンでのチダミド+セレコキシブの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、2.5mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(2.5mg/kg);CD、チダミド(12.5、25または50mg/kg);C,セレコキシブ(12.5、25または50mg/kg)。チダミド12.5mg/kg+さまざまな用量のセレコキシブ(12.5、25.0または50mg/kg)と組み合わされた抗PD-1抗体による処置後の総腫瘍体積(A)、チダミド25mg/kg+さまざまな用量のセレコキシブ(12.5、25.0または50mg/kg)と組み合わされた抗PD-1抗体による処置後の総腫瘍体積(B)、チダミド50mg/kg+さまざまな用量のセレコキシブ(12.5、25.0または50mg/kg)と組み合わされた抗PD-1抗体による処置後の総腫瘍体積(C)、表示のとおりさまざまな治療モダリティで処置した後の個別腫瘍体積(D)、CT26腫瘍担持マウス体重(E)および動物生存率(F~H)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0024】
【
図10A-H】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-1または抗CTLA-4抗体と組み合わされたHDAC阻害剤(チダミドおよびモセチノスタット)+COX-2阻害剤(セレコキシブ、アスピリンおよびイブプロフェン)の治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、2.5mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(2.5mg/kg);CTLA4:抗CTLA4モノクローナル抗体(2.5mg/kg);CD、チダミド(50mg/kg);Moc、モセチノスタット(30mg/kg);C、セレコキシブ(50mg/kg);Asp、アスピリン(50mg/kg);Ibu、イブプロフェン(50mg/kg)。対照群(抗PD-1抗体単独および抗PD-1抗体なしの組み合わせ)と比較した、チダミド(50mg/kg)+COX-2阻害剤(セレコキシブ50mg/kg、アスピリン50mg/kgまたはイブプロフェン50mg/kg)と組み合わされた抗PD-1抗体による処置後の総腫瘍体積(A)、セレコキシブ50mg/kg+HDAC阻害剤(チダミド50mg/kgまたはモセチノスタット30mg/kg)と組み合わされた抗PD-1抗体による処置後の総腫瘍体積(B)、チダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgと組み合わされた抗CTLA4抗体または抗PD-1抗体による処置後の総腫瘍体積(C)、表示のとおりさまざまな治療モダリティで処置した後の個別腫瘍体積(D)、CT26腫瘍担持マウス体重(E)および動物生存率(F~H)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームに使用した動物の数およびP値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0025】
【
図11A-D】CT26腫瘍担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされた固定用量のチダミド+セレコキシブの治療応答を確認する図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、2.5mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(2.5mg/kg);CD、チダミド(50mg/kg);C,セレコキシブ(50mg/kg)。抗PD-1抗体と組み合わされたまたは抗PD-1抗体なしでのチダミド+セレコキシブによる処置後の総腫瘍体積(A)、表示のとおりさまざまな治療モダリティで処置した後の個別腫瘍体積(B)、CT26腫瘍担持マウス体重(C)および動物生存率(D)を記録した。CT26腫瘍担持マウスを表示のとおり処置し、腫瘍移植後、3,000mm
3の腫瘍体積において安楽死させた。平均およびSDを示す。各実験アームにおける動物の数を増やした。P値も示されている。
*P<0.05。P値は、適応群での腫瘍サイズをIgG群と比較するスチューデントのt検定を使って計算した。
【0026】
【
図12A-E】CT26腫瘍担持ヌードマウスにおける、抗PD-L1抗体と組み合わされた固定用量のチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの治療応答を示す図である。CT26結腸腫瘍を担持するBALB/cヌードマウスを、表示のとおり、さまざまな治療モダリティで処置した。IgG、抗IgG対照(媒体、2.5mg/kg);PD-L1、抗PD-L1モノクローナル抗体(2.5mg/kg);CD、チダミド(50mg/kg);C、セレコキシブ(50mg/kg);M、メトホルミン(100mg/kg)。対照群と比較した、チダミド+セレコキシブおよびメトホルミンと組み合わされた抗PD-L1抗体による処置後の総腫瘍体積(A)、表示のとおりさまざまな治療モダリティで処置した後の個別腫瘍体積(B)、CT26腫瘍担持マウス体重(C)、腫瘍重量(D)、および正常マウスとヌードマウスとの間での抗腫瘍活性の比較(E)を記録した。
【0027】
【
図13A-H】セレコキシブと組み合わされた抗PD-1抗体およびチダミドによる処置に続く免疫細胞の応答を示す図である。転移性CT26腫瘍を担持するBALB/cマウスを表示の治療モダリティで処置し、FACS分析を利用して、循環免疫細胞および腫瘍浸潤性免疫細胞を評価した。平均およびSDを示すと共に、P値を表示する。IgG、抗IgG対照(媒体、2.5mg/kg);PD-1、抗PD-1モノクローナル抗体(2.5mg/kg);CD、チダミド(50mg/kg);C,セレコキシブ(50mg/kg)。
図13Aは、CD4、CD8、PMN-MDSC、M-MDSCおよびTreg細胞に関するFACS結果を示す。CD45
+CD11b
+でゲートをかけた循環細胞におけるLy6G
+Ly6C
low細胞(PMN-MDSC)およびLy6C
+Ly6G
-細胞(M-MDSC)のパーセンテージを示す代表的FACSデータ。非腫瘍担持マウスn=6;腫瘍担持マウスn=11。
図13Bは、非腫瘍担持マウスとの比較で腫瘍担持マウスにおける、表示した異なる治療的処置による循環M-MDSC細胞に関するFACS結果を示す。
図13Cは、
図13Bに示すマウスにおける表示の処置後の、12日目における循環Ly6C
+Ly6G
-細胞(M-MDSC)に関するFACS結果が、23日目における対応する腫瘍サイズと相関したことを示している。
図13Dは、8日目および12日目における表示の処置による循環FoxP3
+Treg細胞に関するFACS結果を示す。代表的FACSデータが、循環白血球中のFoxP3およびCD25二重陽性細胞のパーセンテージを示している。
図13Eは、8日目における表示の処置による腫瘍浸潤性骨髄系(CD11b
+)細胞、TAM細胞およびM-MDSC細胞に関するFACS結果を示す。
図13Fは、8日目における表示の処置による腫瘍浸潤性CD4
+CD25
+FoxP3
+Treg細胞、CD4
+T細胞およびCD8
+T細胞に関するFACS結果を示す。
図13Gは、フローサイトメトリー分析によって調べた、さまざまな処置後のCT26腫瘍担持マウスからの腫瘍組織におけるCD4
+T細胞とTreg細胞との相対比を示す。
図13Hは、フローサイトメトリー分析によって調べた、さまざまな処置後のCT26腫瘍担持マウスからの腫瘍組織におけるCD8
+T細胞とTreg細胞との相対比を示す。
*P<0.05。各群n=6での循環免疫細胞に関するデータアッセイ、各群n=2での腫瘍浸潤性免疫細胞に関するデータアッセイ。
【発明の詳細な説明】
【0028】
別段の定義がある場合を除き、本明細書において使用する技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の技能を有する者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと類似するまたは等価な方法および材料はいずれも本発明の実施または試験において使用できるが、好ましい方法および材料を以下に述べる。本明細書において言及する刊行物はすべて、参照により本明細書に組み入れられる。
【0029】
「a」および「an」という用語は、1つまたは1つより多い(すなわち少なくとも1つ)の当該冠詞の文法上の対象を指す。例えば「要素(an element)」は、1つの要素または1つより多い要素を意味する。「または」の使用は、別段の言明がある場合を除き、「および/または」を意味する。
【0030】
本明細書にいう「対象」、「個体」および「患者」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指すために、相互可換的に使用される。哺乳動物として、マウス、サル、ヒト、農用動物、スポーツ動物およびペットがあげられるが、これらに限定されない。インビトロで得られたまたはインビトロで培養された生物学的実体の組織、細胞およびそれらの子孫も包含される。
【0031】
本明細書にいう「治療有効量」は、疾患(例えば神経変性疾患)に苦しむ対象を処置するのに十分な量、または疾患に関連する症状または合併症を緩和するのに十分な量を意味する。
【0032】
本明細書において使用する「処置する」、「処置すること」、「処置」などの用語は、障害および/またはそれに関連する症状を低減しまたは改善することを指す。障害または容態の処置は、その障害、容態またはそれに関連する症状が完全に除去されることを排除するわけではないものの、それを必要とするわけでもないことは、理解されるであろう。
【0033】
本明細書において使用する「免疫治療」という用語は、ある疾患に苦しむ対象、またはある疾患にかかるリスクもしくはある疾患の再発を起こすリスクがある対象を、免疫応答を誘導し、亢進し、抑制し、または他の形で修飾することを含む方法によって処置することを指す。
【0034】
本明細書において使用する「プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)」という用語は、CD28ファミリーに属する免疫阻害受容体を指す。PD-1は、インビボでは主に、以前に活性化されたT細胞上で発現し、2つのリガンドPD-L1およびPD-L2に結合する。本明細書において使用する「PD-1」という用語には、ヒトPD-1(hPD-1)、hPD-1の変異体、アイソフォームおよび種ホモログ、ならびにhPD-1と共通するエピトープを少なくとも1つは有する類似体が含まれる。完全なhPD-1配列はGenBankアクセッション番号U64863に見いだすことができる。
【0035】
本明細書において使用する「プログラム死リガンド(programmed death-ligand)1(PD-L1)」という用語は、PD-1に結合したときにT細胞の活性化およびサイトカイン分泌をダウンレギュレートする、PD-1の2つの細胞表面糖タンパク質リガンドのうちの1つである(もう一つはPD-L2である)。本明細書において使用する「PD-L1」という用語には、ヒトPD-L1(hPD-L1)、hPD-L1の変異体、アイソフォームおよび種ホモログ、ならびにhPD-L1と共通するエピトープを少なくとも1つは有する類似体が含まれる。完全なhPD-L1配列はGenBankアクセッション番号Q9NZQ7に見いだすことができる。
【0036】
本明細書にいう「抗体」および「その抗原結合性フラグメント」は、天然免疫グロブリン(例えばIgM、IgG、IgD、IgA、IgEなど)および非天然免疫グロブリン、例えば単鎖抗体、キメラ抗体(例えばヒト化マウス抗体)、ヘテロコンジュゲート抗体(例えば二重特異性抗体)、Fab’、F(ab’)2、Fab、FvおよびrIgGなどを包含する。本明細書にいう「抗原結合性フラグメント」は、抗原を特異的に認識する能力を保っている完全長抗体の一部分、ならびにそのような部分のさまざまな組み合わせである。
【0037】
本明細書において使用する「癌」という用語は、身体における異常細胞のコントロールされない成長を特徴とする、多種多様な疾患群を指す。無制御な細胞の分裂と成長は、隣接組織に侵入してリンパ系または血流を介して身体の遠隔部分に転移することができる悪性腫瘍の形成をもたらす。本明細書にいう「癌」は、原発癌、転移癌および再発癌を指す。
【0038】
本開示は、腫瘍微小環境構成要素の制御に焦点を合わせ、よって腫瘍微小環境における免疫抑制を取り除きまたは癌細胞に対する免疫系を刺激する方法を開発する。腫瘍微小環境は、腫瘍イニシエーション、腫瘍進行および治療に対する応答に寄与する癌生物学の重要な一態様である。腫瘍微小環境は、悪性細胞ならびに大規模なクロストークによる腫瘍の増殖、侵入および転移能を支える細胞を含む不均質な細胞集団で構成される。腫瘍細胞は、しばしば、骨髄由来抑制細胞(MDSC)および制御性T細胞(Treg)などの免疫抑制的免疫細胞集団の発生に有利な免疫抑制微小環境を誘導する。それゆえに、さまざまな癌治療、特に宿主抗腫瘍免疫応答を増進することによって働く免疫治療の作用を指示し改良するのに役立ちうる腫瘍微小環境内のターゲットが発見されている。
【0039】
したがって、本開示の第1の態様は、HDAC阻害剤とNSAIDとの薬学的組み合わせを免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて対象に投与する工程を含む、腫瘍微小環境における免疫抑制を取り除きまたは癌細胞に対する免疫系を刺激する方法を提供することである。あるいは本開示は、腫瘍微小環境における免疫抑制を取り除きまたは癌細胞に対する免疫系を刺激するための医薬品の製造における、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて投与されるHDAC阻害剤とNSAIDとの薬学的組み合わせの使用を提供する。あるいは本開示は、腫瘍微小環境における免疫抑制を取り除きまたは癌細胞に対する免疫系を刺激するための薬学的組み合わせであって、HDAC阻害剤とNSAIDとを含み、かつ免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせて投与される薬学的組み合わせを提供する。
【0040】
本開示の第2の態様は、HDAC阻害剤、NSAIDおよび免疫チェックポイント阻害剤を含む薬学的組み合わせを提供することである。
【0041】
一実施形態において、HDAC阻害剤とCOX-2阻害剤などのNSAIDの量は、それぞれ約10%~約70%(w/w)および約10%~約70%(w/w)の範囲にある。一実施形態において、本薬学的組み合わせ中のHDAC阻害剤、COX-2阻害剤などのNSAID、および免疫チェックポイント阻害剤の量は、それぞれ約10%~約70%(w/w)、約10%~約70%(w/w)および約0.5%~約20%である。
【0042】
いくつかの実施形態において、本薬学的組み合わせ中のHDAC阻害剤の量は、約20%(w/w)~約70%(w/w)、約30%~約70%(w/w)、約40%~約70%(w/w)、約20%~約60%(w/w)、約30%~約60%(w/w)、約40%~約60%(w/w)または約35%~約60%(w/w)の範囲にある。
【0043】
いくつかの実施形態において、本薬学的組み合わせ中のNSAIDの量は、約20%~約70%(w/w)、約30%~約70%(w/w)、約40%~約70%(w/w)、約20%~約60%(w/w)、約30%~約60%(w/w)、約40%~約60%(w/w)または約35%~約60%(w/w)の範囲にある。
【0044】
HDACは、細胞周期進行、増殖およびアポトーシスに影響を及ぼす媒介遺伝子発現(mediated gene expression)によって、発癌性形質転換に関与することが示されている。HDACは、癌、寄生虫病および炎症性疾患の処置ターゲット候補として研究されている。現在知られている18のヒトヒストンデアセチラーゼは、酵母ヒストンデアセチラーゼとのアクセサリードメインのホモロジーに基づいて、4つのグループ(I~IV)に分類される。HDAC-1、-2、-3および-8を含むクラスIは酵母RPD3遺伝子と類縁であり、クラスIIAはHDAC-4、-5、-7および-9を、またクラスIIBはHDAC-6および-10を含み、酵母HDa1遺伝子と類縁であり、クラスIIIはサーチュインとしても知られ、Sir2遺伝子に類縁であって、SIRT1~7を含み、HDAC11だけを含むクラスIVは、クラスIとクラスIIの両方の特徴を有する。
【0045】
本発明の一実施形態において、HDAC阻害剤はクラスI HDAC阻害剤である。好ましくは、HDAC阻害剤はクラスI HDACの選択的阻害剤である。いくつかの実施形態において、HDAC阻害剤はベンズアミドクラスのヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤である。いくつかの実施形態において、HDAC阻害剤としては、チダミド、ボリノスタット、ロミデプシン、パノビノスタット、ベリノスタット、パノビノスタット、バルプロ酸、モセチノスタット、アベキシノスタット、エンチノスタット、プラシノスタット、レスミノスタット、ギビノスタットおよびキシノスタットがあげられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、HDAC阻害剤はチダミド、エンチノスタットまたはモセチノスタットである。
【0046】
NSAIDは、痛みを低減し、熱を下げ、高用量では炎症を減少させる薬物クラスである。大半のNSAIDは、シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)およびシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の活性を阻害し、それによってトロンボキサンおよびプロスタグランジンの合成を阻害する。COX-2の阻害は抗炎症効果、鎮痛効果および解熱効果につながると考えられているが、その一方で、COX-1も阻害するNSAID、特にアスピリンは、高用量では、消化管出血および潰瘍を引き起こしうる。COX-2阻害剤は、自己免疫疾患および炎症性疾患を処置するために広く使用されている。2つのアイソフォームCOX-1およびCOX-2があるシクロオキシゲナーゼ(COX)は、プロスタグランジンD2(PGD2)、PGE2、PGF2α、プロスタサイクリンPGI2およびトロンボキサンTXA2からなるプロスタノイドの生物活性脂質の合成における律速段階を担う酵素である。COX-1はホメオスタシスプロスタノイドを維持するために体組織において構成的に発現し、例えば血管新生、血管拡張および組織維持などのいくつかの生物学的機能に関与する。しかしCOX-2は正常条件では低レベルで発現する。COX-2は、感染、傷害および痛みなどの刺激によって迅速に誘導されて、炎症誘発性過程を開始する。選択的COX-2阻害剤は非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の一タイプである。
【0047】
いくつかの実施形態では、NSAIDとして、アスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセンおよびCOX-2阻害剤があげられるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態において、NSAIDはCOX2阻害剤である。いくつかの実施形態において、COX2阻害剤として、セレブレックス(Celebrex)(一般名はセレコキシブである)、ロフェコキシブおよびエトリコキシブがあげられるが、これらに限定されない。好ましくはCOX2阻害剤はセレコキシブである。
【0048】
一実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、癌細胞に対する免疫系を刺激し癌を処置するために、本明細書に記載する薬学的組み合わせと組み合わせて使用することができる。本開示における使用に適した免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1、CTLA-4、T細胞免疫グロブリン3、BおよびTリンパ球アテニュエーター、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサーまたはリンパ球活性化遺伝子3経路を阻害する阻害受容体のアンタゴニスト、例えば抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体、抗TIM-3(T細胞免疫グロブリン3)抗体、抗BTLA(BおよびTリンパ球アテニュエーター)抗体、抗VISTA(T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー)抗体および抗LAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)抗体を含む。PD-1またはPD-L1阻害剤の例には、ヒトPD-1を遮断するヒト化抗体、例えばランブロリズマブ(抗PD-1 Ab、商品名キイトルーダ)またはピディリズマブ(抗PD-1 Ab)、バベンチオ(抗PD-L1 Ab、アベルマブ)、イミフィンジ(抗PD-L1 Ab、デュルバルマブ)、およびテセントリク(抗PD-L1 Ab、アテゾリズマブ)、ならびに完全ヒト抗体、例えばニボルマブ(抗PD-1 Ab、商品名オプジーボ)およびセミプリマブ(cemiplimab-rwlc)(抗PD-1 Ab、商品名リブタヨ(Libtayo))が含まれるが、これらに限定されない。他のPD-1阻害剤としては、可溶性PD-1リガンド、例えば限定するわけではないが、B7-DC-IgまたはAMP-244としても知られるPD-L2 Fc融合タンパク質ならびに現在治療用に研究および/または開発されている他のPD-1阻害剤の提示をあげることができる。加えて、免疫チェックポイント阻害剤としては、PD-L1を遮断するヒト化または完全ヒト抗体、例えばデュルバルマブおよびMIH1ならびに現在研究されている他のPD-L1阻害剤もあげることができるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤の量は、約0.5%(w/w)~約15%(w/w)、0.5%(w/w)~約10%(w/w)、0.5%(w/w)~約5%(w/w)、1.0%(w/w)~約20%(w/w)、1.0%(w/w)~約15%(w/w)、1.0%(w/w)~約10%(w/w)または1.0%(w/w)~約5%(w/w)の範囲にある。
【0049】
一実施形態において、本明細書に記載する組み合わせはビグアニド化合物をさらに含む。いくつかの実施形態において、ビグアニド化合物の量は、約30%~約70%(w/w)、約30%~約60%(w/w)、約30%~約50%(w/w)、約50%~約80%(w/w)、約60%~約80%(w/w)または約60%~約70%(w/w)、40%~約70%(w/w)、約40%~約60%(w/w)または約40%~約50%(w/w)の範囲にある。
【0050】
ビグアニドは式HN(C(NH)NH2)2の有機化合物である。さまざまなビグアニド誘導体が医薬として使用される。「ビグアニジン」という用語は、特に、真性糖尿病処置または前糖尿病処置に使用される経口血糖降下薬として機能する薬物クラスを指すことが多い。
【0051】
本開示のいくつかの実施形態において、ビグアニド化合物としては、メトホルミン、フェンホルミン、プログアニルおよびクロルプログアニルがあげられるが、これらに限定されない。好ましくはビグアニド化合物はメトホルミンである。
【0052】
一実施形態において、HDAC阻害剤とNSAIDとの本薬学的組み合わせは、免疫チェックポイント阻害剤と共に、同時に、または逐次的にいずれかの順序でもしくは交互に、投与される。本開示のいくつかの実施形態では、HDAC阻害剤、NSAID、免疫チェックポイント阻害剤およびビグアニド化合物が、同時に投与される。いくつかの実施形態において、HDAC阻害剤、NSAID、免疫チェックポイント阻害剤およびビグアニド化合物は、逐次的にいずれかの順序で、または交互に投与される。
【0053】
さらなる一実施形態において、本方法は、1つまたは複数の追加抗癌剤を投与する工程を、さらに含む。追加抗癌剤は、本明細書に記載するまたは当技術分野で知られる、任意の抗癌剤である。一実施形態において、追加抗癌剤は、化学治療剤またはプラチナダブレット化学治療剤である。一定の実施形態において、追加抗癌剤はチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。一実施形態において、追加抗癌剤は抗VEGF抗体である。他の実施形態において、抗癌剤は、プラチナ剤(例えばシスプラチン、カルボプラチン)、有糸分裂阻害剤(例えばパクリタキセル、アルブミン結合型パクリタキセル、ドセタキセル、タキソテール、ドセキャド(docecad))、フッ化ビンカアルカロイド(例えばビンフルニン、ジャブラ-(javlor))、ビノレルビン、ビンブラスチン、エトポシド、またはペメトレキセドゲムシタビンである。一実施形態において、追加抗癌剤は5-フルロウラシル(5-FU)である。一定の実施形態において、追加抗癌剤は当技術分野において知られる他の任意の抗癌剤である。
【0054】
本発明の薬学的組み合わせは「担体」を使って製剤化しうる。本明細書にいう「担体」には、任意の溶媒、分散媒、媒体、コーティング、希釈剤、抗細菌および/または抗真菌剤、等張化剤、吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒質および/または薬剤の使用は、当技術分野において周知である。例えば本薬学的組み合わせは、以下の投与に適合したものを含む固形または液状での投与のために、特別に製剤化することができる:(1)経口投与、例えばドレンチ剤(水性または非水性の溶液剤または懸濁剤)、口中錠、糖衣剤、カプセル剤、丸剤、錠剤(例えば口腔粘膜吸収、舌下吸収および全身性吸収を目的とするもの)、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、舌に塗布するためのペースト剤;(2)例えば滅菌溶液剤もしくは滅菌懸濁剤または持続放出製剤としての、例えば皮下、筋肉内、静脈内または硬膜外注射による、非経口投与;(3)例えば皮膚に塗布されるクリーム剤、ローション剤、ゲル剤、軟膏または制御放出貼付剤または噴霧剤としての、局所塗布;(4)例えばペッサリー、クリーム剤、坐剤またはフォーム剤としての、腟内または直腸内投与;(5)舌下投与;(6)眼投与;(7)経皮投与;(8)経粘膜投与;または(9)経鼻投与。
【0055】
さらなる一態様において、本発明は、本発明の薬学的組み合わせを対象に投与する工程を含む、対象における癌を処置する方法を提供する。
【0056】
いくつかの実施形態において、癌としては、膠芽腫、肝癌(肝細胞癌など)、結腸直腸癌、膠芽腫、胃癌、結腸直腸癌、食道癌、肺癌(非小細胞肺癌(NSCLC)および小細胞肺癌など)、膵癌、腎細胞癌、良性前立腺過形成、前立腺癌、卵巣癌、黒色腫、乳癌、慢性リンパ球性白血病(CLL)、メルケル細胞癌、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、胆嚢癌、胆管癌、膀胱癌、および子宮癌があげられるが、これらに限定されない。
【0057】
いくつかの実施形態において、本発明の薬学的組み合わせは、単一の製剤として提供されうる。別の実施形態において、本発明の薬学的組み合わせは別々の製剤として提供されうる。薬学的組み合わせは、1つまたは複数の好ましい投与経路に適合した多様なおよび/または複数の形態で製剤化されうる。したがって薬学的組み合わせは、例えば経口、非経口(例えば皮内、経皮、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内など)または局所(例えば鼻腔内、肺内、乳房内、腟内、子宮内、皮内、経皮、経直腸など)を含む、1つまたは複数の既知の経路によって投与することができる。薬学的組み合わせまたはその一部分は、粘膜表面に、例えば鼻粘膜または呼吸粘膜への(例えばスプレーまたはエアロゾルによる)投与によって、投与することができる。薬学的組み合わせまたはその一部分は、持続放出または遅延放出によって投与することもできる。
【0058】
製剤は、単位剤形として好都合に提示することができ、薬学分野において周知の方法によって調製することができる。薬学的に許容される担体との組み合わせを調製する方法は、本発明の薬学的組み合わせを、1つまたは複数の補助成分を構成する担体と混和する工程を含む。一般に、製剤は、活性化合物を液状担体、微細固形担体またはその両方と均一および/または十分に混和した後、必要であれば、その生成物を所望の製剤に成形することによって調製しうる。
【0059】
いくつかの実施形態において、本方法は、約10mg/kg~約1,000mg/kgの用量が対象に与えられるように、十分な量の本薬学的組み合わせを投与する工程を含むことができる。
【0060】
以下の実施例によって本発明を例証する。特定の例、材料、量および手順は、本明細書に記載する本発明の範囲および要旨に従って幅広く解釈されるべきであることを理解すべきである。
【実施例】
【0061】
材料および方法
試薬.Gibco RPMI1640およびDMEM(L-グルタミン含有)はInvitrogen Life Technologiesから購入した。HyClone FBSはThermo Scientificから購入した。チダミドはGNTbmから提供された。エンチノスタット、モセチノスタット、アスピリン、イブプロフェン、セレコキシブおよびメトホルミンはCayman Chemical(Ann Arbor,MI)から購入した。動物実験には以下の抗体および試薬を使用した:マウス抗PD-L1(B7-H1)モノクローナル抗体(10F.9G2;Bio X Cell)、マウス抗PD-1(CD279)モノクローナル抗体(RMP1-14;Bio X Cell)、マウス抗CTLA4(CD152)モノクローナル抗体(BE0164;Bio X Cell)およびラット抗IgG2aアイソタイプ対照モノクローナル抗体(2A3;Bio X Cell)。
【0062】
細胞株.JC(CRL-2116;マウス乳腺腫瘍細胞)およびCT26(CRL-2638;マウス結腸直腸腺癌)はATCCから購入した。どちらの腫瘍細胞株も、10%(vol/vol)FBSを補足したマッコイ5A中、37℃、5%CO2で成長させた。
【0063】
動物モデルにおける抗癌活性.動物研究は台北医学大学施設内動物実験委員会(TMU IACUC)による承認および監督を受けた。すべての動物実験に6~8週齢の雄BALB/cマウス(BioLASCOT Taiwan)を使用した。JC癌細胞(1×107個)またはCT26癌細胞(5×106~1×107個)を、各マウスの右脇腹にs.c.によって接種した。無作為化および処置に先だって、腫瘍を11日間成長させた(腫瘍サイズ約200~300mm3)。CT26担持マウスおよびJC担持マウスに、10または2.5mg/kgの抗IgG、抗PD-1および/または抗PD-L1ならびに抗CTLA-4(2.5mg/kg)抗体を、腫瘍移植後11、14、17、20、23および26日目に、i.p.投与した。すべての抗体を100μLの無菌PBS(pH7.4)(Invitrogen Life Technologies)に適当な濃度まで希釈した。セレコキシブ、チダミド、メトホルミン、モセチノスタット、エンチノスタット、アスピリンおよびイブプロフェン処置は、腫瘍移植後11日目に、経口的に施行した。セレコキシブ(12.5、25.0および50mg/kg)またはメトホルミン(100または200mg/kg)による連日処置は、11日目から26日目まで行った。チダミドは、腫瘍担持マウスを処置するために、6.25、12.5、25および50mg/kgの用量で、または単回投与として、投与された。チダミドは11日目から26日目まで毎日、経口投与した。エンチノスタットは、11日目から25日目まで、2日ごとに20mg/kgの用量で経口投与した。モセチノスタットは、11日目から26日目まで、用量30mg/kgの連日処置で、経口投与した。アスピリンおよびイブプロフェンは、11日目から26日目まで、用量50mg/kgの連日処置で、経口投与した。抗癌活性を、腫瘍成長の処置の開始時から、腫瘍体積が3,000mm3に達するまで測定した。腫瘍体積は長さ×幅2×0.5として算出した。
【0064】
動物モデルにおける生存率.抗体または薬物の投与は11日目から25日目または26日目まで行った。腫瘍は腫瘍担持マウス中で成長し続けた。マウスの腫瘍体積は3日ごとに1回測定した。腫瘍担持マウスは、腫瘍体積が3,000mm3に達したときに死亡とみなした。すべての処置群を記録し、分析した。
【0065】
インビボ異種移植片実験.動物研究は台北医学大学施設内動物実験委員会(TMU IACUC)による承認および監督を受けた。ヌードBALB/cマウス(6週齢、雌、体重20g)をBioLASCO,Taiwanから購入し、病原体フリー条件下で維持した。5×106細胞の150μL CT26細胞を注射することによって、マウスCT26異種移植片腫瘍モデルを開発した。CT26癌細胞を各マウスの右脇腹にs.c.接種した。ランダム化および処置に先だって、腫瘍サイズが350~400mm3に達したら、腫瘍細胞を2週間成長させた。19匹のヌードマウスを5つの群および処置に分類した。試験動物には、対照としての抗IgG Ab2.5mg/kg、チダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgおよびメトホルミン100mg/kgと組み合わされた抗PD-L1 Ab2.5mg/kg、セレコキシブ50mg/kgおよびメトホルミン100mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg、チダミド50mg/kg、およびセレコキシブ50mg/kgを投与した。処置プロセスはすべてのBALB/Cマウスで同様であった。抗癌活性は、腫瘍成長の処置の開始時から29日目まで測定して、屠殺し、腫瘍を重量測定した。腫瘍体積は長さ×幅2×0.5として算出した。
【0066】
フローサイトメトリー.フローサイトメトリーには以下の抗体および試薬を使用した:CD3 APC(17A2;Biolegend)、CD4 PE(GK1.5;Biolegend)、CD8a PerCP(53-6.7;;Biolegend)、CD25 PerCP(PC61;Biolegend)、Foxp3 PE(MF-14;Biolegend)、CD11b APC(M1/70;Biolegend)、Ly-6C PerCP(HK1.4;Biolegend)、Ly-6G PE(1A8;Biolegend)、CD45 FITC(30-F11;Biolegend)、MHCII(M5/114.15.2;eBioscience)。フローサイトメトリーはBD FACSCalibur(商標)(BD Biosciences)で行い、データはFACSDivaソフトウェア(BD Biosciences)で分析した。循環骨髄由来抑制細胞(MDSC)集団およびリンパ由来T細胞のレベルを評価するために、チダミド(50mg/kg)+セレコキシブ(50mg/kg)ありまたはなしの抗PD-1抗体(2.5mg/kg)処置の開始後8日目および12日目に、マウスから血液試料を収集した。左右顔面静脈のどちらかから、150マイクロリットルの血液を、エッペンドルフチューブに収集した。抗凝固処理した血液試料からのRBCを、直ちに、2mLの1×BD FACS Lyse(BD Biosciences)を使って3分間溶解し、試料を氷冷BD FACS緩衝液(BD Biosciences)中で2回洗浄した。試料を適当な抗体で染色した。分析のために、本発明者らは、以前に確立されたこれらの細胞の表現型基準を、PMN-MDSC:CD45+CD11b+Ly6G+Ly6Clow細胞、M-MDSC:CD45+CD11b+Ly6G-Ly6C+細胞、CD4+T細胞:CD45+CD3+CD4+細胞、CD8+T細胞:CD45+CD3+CD8+細胞、Treg細胞:CD45+CD3+CD25+FOXP3+細胞、TAM細胞:CD45+CD11b+MHCII+細胞として使用し、全CD45+細胞を共通項として使用した。他方、腫瘍内のCD8+集団および制御性T細胞(Treg)集団のレベルを評価するために、チダミド(50mg/kg)+セレコキシブ(50mg/kg)ありまたはなしの抗PD-1抗体(2.5mg/kg)処置の開始後、8日目に、まず、マウスから切り出した腫瘍試料からリンパ球を精製した。簡単に述べると、原発腫瘍組織を収穫し、重量測定し、細片に切り刻んだ。マウス腫瘍解離キット(Cat:130-096-730)を使用した。3つの酵素を腫瘍組織200mgあたり1mLの比で各試料に加えた。試料を、回転振とう機上、37℃で120分間インキュベートした。結果として得られた組織ホモジネートを0.4μmフィルターで濾過し、氷冷PBSで3回洗浄し、1試料あたり1×106細胞を抗体標識に使用した。CD8+T細胞レベルは、以前に確立されたCD45+CD3+CD8+という表現型基準を使って評価し、全CD45+CD3+細胞を共通項として使用した。Treg細胞レベルは、以前に確立されたCD45+CD3+CD25+FOXP3+という表現型基準を使って評価し、全CD45+CD3+細胞を共通項として使用した。
【0067】
統計.すべてのデータポイントについて少なくとも4つの独立した実験から平均および標準誤差を算出した。各実験条件とIgG対照群との間の腫瘍サイズのペアワイズ比較を、スチューデントの二標本検定を使って行った(Systat Software,San Jose,CA,USA)。
【0068】
実施例1 抗PD-1抗体の効果
CT-26結腸癌細胞担持BALB/cマウスに対する抗PD-1抗体の抗癌活性を理解するために、CT26担持マウスに、抗PD-1抗体を、10mg/kgの抗PD-1および/または抗IgG抗体で、腫瘍移植後11日目、14日目、17日目、20日目、23日目および26日目にi.p.投与した。腫瘍サイズが200~300mm
3に成長したら、実験を開始した。奏効率をいくつかのアッセイで評価した。この研究では、本発明者らは、部分奏効(PR、処置の終了時に腫瘍担持マウスにおいて≦2倍の腫瘍成長);安定(Stable Disease)(SD、処置の終了時に腫瘍担持マウスにおいて2~5倍の腫瘍成長);進行(Progressive Disease)(PD、処置の終了時に腫瘍担持マウスにおいて5倍以上の腫瘍成長)を画定した。通常は、10~15倍以上の腫瘍成長(約3,000mm
3)が対照群に見られた。抗PD-1抗体は、対照群(抗IgG群で処置した群)と比較して腫瘍成長を有意に阻害した(
図1A参照)。対照群の腫瘍サイズがおよそ3,000mm
3に達したときに、抗PD-1抗体群のそれはおよそ1,200mm
3まで成長していた(
図1A)。しかし、抗PD-1抗体単独では、腫瘍成長は短時間しか阻害されず、その後、腫瘍は成長を続けた。抗PD-1抗体群では、3匹のマウスにSDが観察され、3匹のマウスにPDが観察された(
図1B参照)。
【0069】
実施例2 抗PD-1抗体と組み合わされたエピジェネティック調節因子の効果
抗PD-1抗体と組み合わせたチダミドまたはエンチノスタットの抗癌活性を、CT26腫瘍細胞担持マウスにおいて評価した。チダミドまたはエンチノスタットを、それぞれ25mg/kgおよび20mg/kgの用量で、CT26担持マウスに経口投与した。チダミドは毎日投与し、エンチノスタットは2日ごとに投与した。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドまたはエンチノスタットは、抗PD-1抗体単独よりも強力な抗癌活性を呈した(
図1A)。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドは、チダミド単独よりも、腫瘍成長の阻害において有効であった。本発明者らの結果は、抗PD-1抗体と組み合わせたチダミドの群では、1匹のマウスがPRを達成し、3匹のマウスにSDが観察され、1匹のマウスにPDが観察されたことを示している(
図1B)。しかし、抗PD-1抗体と組み合わされたエンチノスタットの群は、腫瘍成長の阻害において、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドの群よりも高い効力を示す(
図1B)。どの群でもマウスに体重減少はなかった(
図1C)。腫瘍担持マウスモデルで生存率を評価した。生存率は、腫瘍サイズがおよそ3,000mm
3に達したときに評価した。すべての薬物を11日から26日まで投与した。結果は、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドの群が、42日目に40%の生存率を有し、一方、抗PD-1抗体群および抗PD-1抗体と組み合わされたエンチノスタットの群は、それぞれ約33%および71%の生存率を有することを示している(
図1D)。
【0070】
実施例3 メトホルミンおよび抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドの効果
100mg/kgのメトホルミンを腫瘍担持マウスに経口投与した。結果は、対照群と比較して腫瘍成長が著しく阻害されたことを示している(
図2A参照)。メトホルミン群では、1匹のマウスにSDが観察され、5匹のマウスにPDが観察された(
図2B)。抗PD-1抗体と組み合わされたエンチノスタットの群(陽性対照)では、3匹のマウスがPRを達成し、1匹のマウスにSDが観察され、3匹のマウスにPDが観察された(
図2B)。
図2Aに示すとおり、抗PD-1抗体と組み合わされた高用量(50mg/kg)のチダミドは、抗PD-1抗体と組み合わされた低用量(12.5mg/kg)のチダミドよりも低い抗癌活性を有する。抗PD-1抗体と組み合わされた12.5mg/kgのチダミドによる処置は、抗PD-1抗体と組み合わされた25または50mg/kgのチダミドよりも、腫瘍成長の阻害において強力であった(
図2B)。抗PD-1抗体と組み合わされた12.5mg/kgチダミドの群では、2匹のマウスにSDが観察され、4匹のマウスにPDが観察された。しかしチダミドの増加は抗癌活性を強化しなかった(
図2B)。2つの群、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(50mg/kg)および抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(50mg/kg)+メトホルミン(100mg/kg)を試験した。結果を
図2Bに示す。結果は、メトホルミンおよび抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドによる処置が、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドよりも、腫瘍成長の阻害において強力であることを示している。
図2Bに示すとおり、2匹のマウスがPRを達成し、1匹のマウスにSDが観察され、2匹のマウスにPDが観察された。処置群のマウスに体重減少はなかった(
図2C参照)。次に、処置群におけるマウスの生存率を58日目に決定した。
図2Dに示すとおり、薬物処置は30日目に停止した。メトホルミンおよび抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(50mg/kg)による処置は、他の併用処置と比較して、腫瘍成長のより強力な阻害を起こし、生存率を有意に増加させた。メトホルミンおよび抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(50mg/kg)の群では生存率が60%に増加し、一方、陽性対照群(抗PD-1 Abと組み合わされたエンチノスタット)は20%前後の生存率しかなかった。抗PD-1抗体(10mg/kg)と組み合わされたチダミド(50mg/kg)は腫瘍成長を停止することができないが、この組み合わせにメトホルミン(100mg/kg)を付加した後は、阻害活性および生存率が増加した。結果は、メトホルミンは腫瘍微小環境における腫瘍糖質代謝産物に影響を及ぼすことができ、よって免疫チェックポイント阻害剤の抗癌活性を改良することを示唆している(
図2D)。
【0071】
実施例4 抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドまたはエンチノスタット+メトホルミン+セレコキシブの効果
チダミド+メトホルミン+セレコキシブ+抗PD-1抗体またはエンチノスタット+メトホルミン+セレコキシブ+抗PD-1抗体による処置は、腫瘍成長の阻害において、セレコキシブがないものより強力であった(
図3A)。エンチノスタット群はチダミド群より強力である。しかし、エピジェネティック調節因子が存在しない場合、抗PD-1抗体と組み合わされたメトホルミン+セレコキシブの処置群は、減少した抗癌活性を示した。処置群のマウスに体重減少はなかった(
図3C)。さらにまた、
図3Bは、処置群の全マウスの腫瘍成長を示している。本発明者らの結果は、抗PD-1抗体と組み合わされたエンチノスタット+メトホルミンおよび抗PD-1抗体と組み合わされたエンチノスタット+セレコキシブが、高率のPRを達成するのに、非常に強力であることを示している。セレコキシブは、腫瘍微小環境における抗腫瘍に、メトホルミンよりも重要な役割を果たす(
図3B)。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンまたは抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブは、類似する結果を示し、高率のPRを達成する。しかし、チダミドまたはエンチノスタットが存在しない場合は、免疫チェックポイント阻害剤処置群における抗癌活性が減少する(
図3B)。結果は、抗癌活性を改良するには免疫チェックポイント阻害剤をエピジェネティクス調節因子と組み合わせる必要があることを示唆している。この改良は、メトホルミンおよびセレコキシブによる腫瘍微小環境における糖質代謝産物およびPGE2生産のコントロールに起因しうるので、CT26腫瘍担持マウスの奏効率の著しい増加をもたらすであろう。そのうえ、抗PD-1抗体と組み合わされたエンチノスタットまたはチダミド+メトホルミン+セレコキシブの群の生存率は、約60~80%まで増加する。しかし、チダミド/エンチノスタットが存在しない場合、生存率は減少する(
図3Dの、抗PD-1抗体と組み合わされたメトホルミン+セレコキシブの群を参照されたい)。生存率に関して、セレコキシブはメトホルミンと比較して増加した生存率を呈する(
図3D)。本発明者らは、抗癌活性の増強に関して、抗PD-1抗体と組み合わされたクラスI HDAC阻害剤の効果を補強する上で、セレコキシブ単独またはメトホルミンと組み合わされたセレコキシブが重要な因子であることを見いだした。免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたクラスI HDAC阻害剤+メトホルミン+セレコキシブの組み合わせは、腫瘍担持マウスモデルにおいて癌を治癒させるその能力において有望である。
【0072】
次に、チダミドの至適応答用量を決定した。
図4Aに示すとおり、固定用量の抗PD-1抗体(10mg/kg)、さまざまな用量のチダミド(12.5、25.0および50mg/kg)、さまざまな用量のセレコキシブ(25および50mg/kg)およびさまざまな用量のメトホルミン(100および200mg/kg)による異なる治療レジメンでの処置を、CT26腫瘍細胞担持マウスにおいて行った。これらの処置群のすべてのマウスにおいて、腫瘍成長は、抗PD-1群または媒体群(抗IgG群)との比較で、有意に阻害される。
図4Bに示すとおり、腫瘍成長はすべての処置群において阻害される。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドの群は、抗PD-1抗体単独による処置よりも強力な阻害を示す。さらにまた、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(12.5mg/kg)+セレコキシブ(25mg/kg)およびメトホルミン(100mg/kg)のレジメンは、約33%のPR比率を達成し(2匹のマウスがPRを達成した)、腫瘍成長の抑制において、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(12.5mg/kg)よりも活性である。しかし、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(12.5mg/kg)の群では、PRは見られなかった。これらの結果は、免疫チェックポイント阻害剤による処置における奏効率を強化するために、セレコキシブおよびメトホルミンが重要な役割を果たすことを示唆している。CT26腫瘍担持マウスの奏効率を分析するために、さまざまな用量のチダミドを、類似するレジメンで試験した。結果は、腫瘍成長の阻害において、チダミドにとっては50mg/kg用量という用量が最適であり、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド(50mg/kg)+セレコキシブ(25mg/kg)およびメトホルミン(100mg/kg)という処置レジメンの群では、PR(約50%)およびSD(約33%)の比率が高いことを示している。この結果は、チダミドが治療効果をあげるのに重要な因子であることを示唆している。次に、セレコキシブの至適用量を決定した。結果は、処置群の各マウスにおける腫瘍成長を抑制するには、用量50mg/kgのセレコキシブの方が25mg/kgより活性であることを示している(
図4B)。しかし免疫チェックポイント阻害剤は奏効率が非常に低い。本発明者らは、驚いたことに、50mg/kgのセレコキシブは免疫治療における奏効率を増加させうることを見いだした。さらにまた、メトホルミンの至適用量を決定した。メトホルミンは、用量100または200mg/kgのレジメンでは、抗癌活性に相違がないことがわかった(
図4B)。これらのデータは、チダミドおよびセレコキシブが、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせたメトホルミンより重要であることを示唆している。
図4Cに示すとおり、どの処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。
図4Dは、処置群におけるマウスの生存率を示している。これらのデータは、抗PD-1抗体(10mg/kg)と組み合わされたチダミド(50mg/kg)+セレコキシブ(25mg/kg)およびメトホルミン(100mg/kg)のレジメンが最善の組み合わせであって、これが、強力な腫瘍成長抑制能力を有し、生存率を約50%まで上昇させることを示唆している。他の群の生存率も、抗PD-1抗体群単独と比較すると増加した。抗PD-1抗体(10mg/kg)と組み合わされた50mg/kgのチダミド+セレコキシブ25mg/kgおよびメトホルミン100mg/kgがこのインビボ実験では最適なレジメンであるが、50mg/kgのセレコキシブも抗癌活性に、より多くの寄与をすることができ、CT26腫瘍細胞担持マウスにおける生存率も増加させうる。
【0073】
実施例5 抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミン+セレコキシブの効果
本発明者らは、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブが、CT26担持マウスにおける腫瘍成長に有意な阻害を持つことを実証した(
図4参照)。
図5Aに示すとおり、抗PD-L1抗体(10mg/kg)と組み合わされたチダミド(50mg/kg)+メトホルミン(100mg/kg)およびセレコキシブ(50mg/kg)をCT26担持マウスに投与した。チダミド、メトホルミンおよびセレコキシブは毎日投与した。しかし抗PD-L1抗体は3日ごとにi.p.投与した。本発明者らのデータは、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブが、CT26担持マウスにおいて、腫瘍成長の阻害に関して強力であることを示している(
図5A参照)。本発明者らは、驚いたことに、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブは、抗PD-L1抗体が存在しなくても、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害することを見いだした(
図5A)。抗PD-L1(10mg/kg)単独による処置は、腫瘍成長をわずかに阻害する(
図5A)。これらの結果から、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブは強力な腫瘍成長阻害能を持つことが示される。
図5Bは、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブ群ならびに抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの群が腫瘍成長を有意に阻害し、高率のPRを有することを示している。
図5Cに示すとおり、どの処置レジメンも体重減少を引き起こさなかった。
図5Dに示すとおり、メトホルミンおよびセレコキシブと組み合わされたチダミドは、生存率を約80%まで有意に増加させる。この結果は、メトホルミンおよびセレコキシブと組み合わされたチダミドが、腫瘍微小環境のコントロールおよび免疫治療のトリガリングにおいて、非常に有効であることを示している。そのうえ、抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブは、さらに強力に腫瘍成長を阻害して、53日目に100%の生存率を達成する。53日目に、これら2つのレジメンの間で、生存率は類似していた。結果は、メトホルミンおよびセレコキシブと組み合わされたチダミドが強力な腫瘍成長阻害活性を持つことを示している。抗PD-L1抗体との組み合わせは、腫瘍成長の阻害および生存率を増加させた(
図5D)。
【0074】
実施例6 JC担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミン+セレコキシブの効果
JC細胞株をマウス乳腺の悪性新生物から得た。本発明者らは、JC担持マウスにおいて何らかの腫瘍阻害を見いだしうるかどうかを評価することに関心を持った。
図6に示すとおり、JC細胞はマウスではCT26細胞より成長が遅かった。したがって、JC担持マウスにおける腫瘍サイズは、20日目に約300~400mm
3まで成長した。チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブは、JC担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害する(
図6A)。しかし、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブは、JC担持マウスにおける腫瘍成長の阻害において、より一層有効であった(
図6A)。このレジメンは、CT26担持マウスでもJC担持マウスでも、腫瘍成長を有意に阻害する。本発明者らは、メトホルミン+セレコキシブと組み合わされたチダミドが、正常免疫腫瘍担持マウス中の腫瘍の阻害において強力な免疫治療活性を持つことを初めて見いだした。そのうえ、
図6Bに示すとおり、抗PD-1抗体はわずかな抗癌活性を有するに過ぎず、SDは1匹のマウスにしか観察されなかった。チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブレジメンは腫瘍成長を強力に阻害するが、その阻害効果は抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブのレジメンより低かった。チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブ群では、3匹のマウスがPRを達成し、4匹のマウスにSDが観察された。しかし、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの群では、5匹のマウスがPRであり、1匹のマウスがSDであった。上記のことから、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブレジメンは強力な抗腫瘍成長を持つ。抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体と組み合わせると、CT26担持マウスモデルまたはJC担持マウスモデルにおける腫瘍成長の阻害は増加する(
図5Bおよび
図6B)。
図6Cに示すとおり、処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。
図6Dに示すとおり、JC担持腫瘍マウスモデルにおいて、メトホルミンおよびセレコキシブと組み合わされたチダミドは、抗PD-1抗体群と比較して、生存率を約28%まで有意に増加させる。結果は、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブレジメンが癌に対して良い組み合わせであることを証明している。このレジメンは腫瘍微小環境をコントロールし、免疫治療を強化することができる。さらにまた、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブは、より強力に腫瘍成長を阻害し、生存率を83%前後まで増加させる。35日目に処置を停止した後は、CT26担持腫瘍マウスおよびJC担持腫瘍マウスにおける腫瘍が、IgG対照群では、より早く成長した。しかし、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブのレジメンは、腫瘍成長の阻害において非常に強力であり、したがって生存率を有意に増加させた(
図6D)。
【0075】
実施例7 CT26担持マウスにおける、抗PD-L1抗体(低用量または高用量)と組み合わされた、または抗PD-L1抗体なしの、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの効果
本発明者らは、抗PD-L1抗体免疫チェックポイント阻害剤の投薬量を低減してもなお、CT26担持マウスにおける腫瘍阻害を行えるかどうかを評価することに関心を持った。
図7に示すとおり、CT26担持マウス中の腫瘍サイズは、15日目に約250~300mm
3まで成長した。PD-L1(2.5または10mg/kg)と組み合わされたチダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害する(
図7A)。2.5mg/kg抗PD-L1抗体群と10mg/kg抗PD-L1抗体群との間でCT26担持マウスにおける抗腫瘍成長の阻害に有意差はない。一方、抗PD-L1抗体(2.5または10mg/kg)と組み合わされた6.25mg/kgの低投薬量または50mg/kgの高投薬量のチダミド+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害する(
図7A)。チダミド群は、6.25および50mg/kgという2つの投薬量で、低投薬量または高投薬量の抗PD-L1抗体(2.5または10mg/kg)の存在とは無関係に、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の阻害に統計的有意差を示さなかった。しかし、
図7Bに示すとおり、6.25、12.5および50mg/kgというさまざまな用量のチダミド+メトホルミン100mg/kgならびにセレコキシブ50mg/kgは、抗PD-L1抗体の非存在下でも、顕著に、腫瘍成長の阻害活性を持っている。結果は、チダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kg群が、IgG媒体群と比較して、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害することを実証した(
図7B)。この結果は、セレコキシブ50mg/kg+メトホルミン100mg/kgと組み合わされたさまざまな用量のチダミドが、ユニークな免疫調節活性を持ち、それが腫瘍微小環境に顕著な影響を及ぼして、腫瘍細胞を攻撃し最終的には腫瘍成長の阻害を引き起こすように、細胞傷害性Tリンパ球を再活性化しうることも実証した(
図7B)。さらにまた、異なる治療モダリティで処置された全マウスの結果を
図7Cに示す。2.5mg/kgの抗PD-L1抗体による処置は、腫瘍細胞を殺すように細胞傷害性Tリンパ球を再活性化できるほどには強力でないことが実証された。チダミド+セレコキシブおよびメトホルミン群の場合、結果は、腫瘍細胞を殺すように細胞傷害性Tリンパ球を再活性化するには、高用量(50mg/kg)のチダミドが必要であることを実証した。チダミド+セレコキシブおよびメトホルミンと組み合わされた高用量(10mg/kg)または低用量(2.5mg/kg)の抗PD-L1抗体は、腫瘍成長を有意に阻害した。チダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgおよびメトホルミン100mg/kgと組み合わされた抗PD-L1抗体(2.5mg/kg)による処置は、
図7Cにおいて最も強力な抗癌活性を有することが示された。低用量(2.5mg/kg)と高用量(10mg/kg)の抗PD-L1抗体処置の間で、抗癌活性に有意差はない。これらの結果は、CT26担持マウスモデルにおける強力な抗腫瘍能力には、チダミド+セレコキシブおよびメトホルミンとの組み合わせで、抗PD-L1抗体が必要であることを示唆した。
図7Dに示すとおり、処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。生存率の結果を
図7Eに示す。第1に、メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kgによる処置は、抗PD-L1抗体単独による処置と比較して、生存率を約20%まで有意に増加させる。結果は、チダミド+メトホルミンおよびセレコキシブレジメンが良い組み合わせであって免疫調節活性を持つことを証明している。このレジメンは腫瘍微小環境をコントロールし、治療有効性を強化することができる。第2に、抗PD-L1抗体2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgによる処置は、より強力に腫瘍成長を阻害し、生存率を75%前後まで増加させる。類似する結果が、抗PD-L1抗体10mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgによる処置でも示された(生存率80%前後)。第3に、抗PD-L1 10mg/kg抗体と組み合わされたチダミド6.25mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgは、腫瘍成長を著しく阻害し、生存率を40%前後まで増加させる。しかし、抗PD-L1 2.5mg/kg抗体と組み合わされたチダミド6.25mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgは、より強力に腫瘍成長を阻害し、生存率をほぼ100%まで増加させる。30日目に処置を停止した後、IgG対照群では、CT26担持腫瘍マウスにおける腫瘍の成長が速くなった。しかし、抗PD-L1 Ab(2.5または10mg/kg)と組み合わされたチダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgのレジメンは、腫瘍成長の阻害において非常に強力であり、したがって、
図7Eに示すとおり、セレコキシブ50mg/kg+メトホルミン100mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kgのレジメンと比較して、生存率を有意に増加させた。
【0076】
実施例8 CT26担持マウスにおける、メトホルミンありまたはメトホルミンなしでチダミド+セレコキシブと組み合わせた抗PD-1 Abおよび抗PD-L1 Abの効果の直接比較
次に本発明者らは、CT26担持マウスにおける、メトホルミンと組み合わされた、またはメトホルミンなしの、チダミド+セレコキシブと組み合わせた抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の治療効果を評価することに関心を持った。
図8に示すとおり、CT26担持マウス中の腫瘍サイズは、10日目に約200~250mm
3まで成長した。第1に、メトホルミンなしのチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgの組み合わせは、IgG群と比較してCT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害した(
図8A)。第2に、抗PD-1抗体2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の阻害において、より一層有効である(
図8A)。第3に、抗PD-L1抗体2.5mg/kg処置と組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgでも、類似する結果が見いだされた。
図8Aおよび8Bは、セレコキシブ50mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kgが、腫瘍微小環境に影響を及ぼし、腫瘍を殺すように細胞傷害性Tリンパ球を再活性化するのに十分であったことを示している。一方、チダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgと組み合わせた低用量(2.5mg/kg)の抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体の抗癌効果の直接比較は、
図8Aおよび
図8Bに示すとおり、CT26担持マウスにおける腫瘍阻害の効力を示した。直接研究からのこれらの結果は、チダミド+セレコキシブとの併用処置において、CT26担持マウスモデルにおける強力な抗腫瘍能力には、免疫チェックポイント阻害剤抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体が必要であることを示唆した。この知見は、
図8Aおよび
図8Bに示すとおり、腫瘍微小環境における細胞傷害性Tリンパ球を強力に再活性化して腫瘍成長を阻害するためにチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgと組み合わせた場合、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の投薬量は、推奨量である10mg/kgの1/4(2.5mg/kg)低減できることも実証された。この研究はチダミド+セレコキシブと組み合わされた抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体のレジメンが、強力な抗腫瘍活性の遂行に十分であったことを証明した。これらの結果から、腫瘍微小環境における免疫の制御にメトホルミンが果たしうる役割は大きくはないと結論することができる。最適なレジメンは、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたチダミド+セレコキシブである。すべてのマウスにおけるさまざまな治療モダリティの抗癌効果を
図8Cに示す。抗PD-1抗体単独による処置には、わずか抗癌活性しかなく、PRを達成したマウスは3匹だけだった(奏効率37.5%)。チダミド+セレコキシブレジメンは、より良い抗腫瘍活性を示し、5匹のマウスがPRを達成したが(奏効率55.5%)、これは、抗PD-1抗体と組み合わされたメトホルミン100mg/kgありまたはなしのチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgのレジメンよりも、低い阻害効果を示した。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブの群では、8匹のマウスがPRを達成した(奏効率88%)。抗PD-L1抗体群において、これはわずかな抗癌活性を示し、PRを達成したマウスは4匹だけだった(奏効率50%)。抗PD-L1抗体2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgの群では、9匹のマウスがPRを達成した(奏効率100%)。抗PD-L1抗体2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgの群では、8匹のマウスがPRを達成した(奏効率88%)。上記のことから、チダミド+セレコキシブレジメンも強力な抗腫瘍効果を持つ。チダミド+セレコキシブを抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体と組み合わせたところ、CT26担持マウスモデルにおける腫瘍成長の阻害が有意に増加した(
図8C)。
図8Dに示すとおり、処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。
図8Eに示すとおり、セレコキシブと組み合わされたチダミドの群は、CT26担持腫瘍マウスモデルにおいて、抗IgG群と比較して、生存率を約55.5%まで有意に増加させた。また、この生存率は、抗PD-1群の生存率(37.5%)または抗PD-L1群の生存率(50%)よりも良かった。結果は、チダミド+セレコキシブレジメンが、癌に対して中等度の組み合わせであることを証明した。このレジメンは、ある程度は、腫瘍微小環境をコントロールし制御することができ、免疫治療を強化することができる。さらにまた、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブは、腫瘍成長を強力に阻害し、生存率を80%前後まで増加させた。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブの群は強力に腫瘍成長を阻害し、生存率を88%前後まで増加させるという、類似する結果が示された。抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの群は、腫瘍成長を強力に阻害し、生存率をほぼ100%まで増加させた。抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブの群は強力に腫瘍成長を阻害し、生存率を88%前後まで増加させるという、類似する結果が示された。26日目に処置を停止した後、IgG対照群では、CT26担持腫瘍マウスにおける腫瘍の成長が速くなった。しかし、免疫チェックポイント阻害剤レジメンの存在下でメトホルミンと組み合わされたまたはメトホルミンなしのチダミド+セレコキシブは、腫瘍成長の阻害において非常に強力であり、したがって生存率を有意に増加させた(
図8E)。この研究から、腫瘍微小環境に影響を及ぼし免疫治療を強化するためにメトホルミンが果たしうる役割は大きくはないことが実証された。この研究は、抗癌免疫応答を強化するには、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたチダミド+セレコキシブで十分であることも証明した。一方、チダミド+セレコキシブと組み合わされた場合の抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体との直接比較は、抗PD-L1抗体との併用レジメンの抗癌活性が、抗PD-1抗体との併用レジメンの抗癌活性より良いことを実証した。
【0077】
実施例9 CT26担持マウスにおける、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブの至適処置用量の確認
本発明者らは、CT26担持マウスにおける腫瘍阻害にとって、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドおよびセレコキシブのどの投薬量比が最適であるかを評価することに関心を持った。
図9に示すとおり、CT26担持マウス中の腫瘍サイズは、15日目に約400~500mm
3まで成長した。チダミド(12.5mg/kg)+セレコキシブ(12.5、25または50mg/kg)と抗PD-1抗体(2.5mg/kg)との組み合わせは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害した(
図9A)。セレコキシブが25mg/kgである処置群だけは抗癌活性が弱かった。次に、チダミド(25mg/kg)+セレコキシブ(12.5、25または50mg/kg)および抗PD-1抗体(2.5mg/kg)の処置群は、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の有意な阻害を示した(
図9B)。チダミド(50mg/kg)+セレコキシブ(12.5、25または50mg/kg)と抗PD-1抗体(2.5mg/kg)との組み合わせは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の有意な阻害を示した(
図9C)。このデータも、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgが、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の阻害において、より一層有効であることを証明した(
図9C)。これらの結果は、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgが、CT26担持マウスモデルにおいて、強い抗腫瘍能力を発揮することを示唆した。一方、これらの結果は、チダミド/セレコキシブ投薬量比が重要であることも実証した。すべてのマウスにおけるさまざまな治療モダリティの抗癌効果を
図9Dに示す。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド12.5mg/kg+さまざまな用量のセレコキシブ(12.5、25または50mg/kg)による処置は、わずかな抗癌活性しか示さず、PRを達成したマウスは1匹または2匹に過ぎなかった(奏効率25~40%)。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド25mg/kg+さまざまな用量のセレコキシブ(12.5、25または50mg/kg)による処置は、わずかな抗癌活性しか示さず、PRを達成したマウスは1匹または2匹に過ぎなかった(奏効率20~40%)。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgによる処置は、強力な抗腫瘍活性を示し、3匹のマウスがPRを達成した(奏効率75%)。
図9Eに示すとおり、処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。
図9Fに示すとおり、CT26担持腫瘍マウスモデルにおいて、抗PD-1抗体と組み合わされた低投薬量のチダミド(12.5mg/kg)+投薬量50mg/kgのセレコキシブは、抗IgG抗体対照群と比較して、生存率を約40%まで増加させた。結果は、チダミド12.5mg/kg+高投薬量のセレコキシブ(50mg/kg)レジメンが、より良い抗癌効果を有することを実証した。さらにまた、
図9Gに示すとおり、抗PD-1抗体と組み合わされた中間投薬量のチダミド(25mg/kg)+12.5~50mg/kgの投薬量のセレコキシブでは、生存率に改善がなかった。最後に、
図9Hに示すとおり、抗PD-1抗体と組み合わされた高投薬量のチダミド(50mg/kg)+高投薬量のセレコキシブ(50mg/kg)は、腫瘍成長の強力な阻害を示し、生存率を58日目で50%前後まで増加させた。30日目に処置を停止した後、IgG対照群では、CT26担持腫瘍マウスにおける腫瘍の成長が速くなった。この研究では、腫瘍サイズが約400~500mm
3に達したときに処置を開始した。これは、すべての処置群において、奏効率および生存率の低下をもたらすだろう。しかし、抗PD-1Abと組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgのレジメンは、腫瘍成長の阻害において依然として極めて強力であり、よって生存率を有意に増加させた(
図9F~H)。
【0078】
実施例10 CT26担持マウスにおける抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体と組み合わされたHDAC阻害剤+COX-2阻害剤の抗癌機序の解明
次に、本発明者らは、免疫チェックポイント阻害抗体の存在下で、他のHDAC阻害剤およびCOX-2阻害剤でも、CT26担持マウスにおける腫瘍阻害を行えるかどうかを評価することに関心を持った。
図10に示すとおり、CT26担持マウス中の腫瘍サイズは10日目に約250~300mm
3まで成長した。まず、CT26担持マウスにおいて、抗PD-1 Abと組み合わされた異なるCOX-2阻害剤+チダミドを行った。チダミド+セレコキシブ(選択的COX-2阻害剤、50mg/kg)、アスピリン(非選択的COX-2阻害剤、50mg/kg)またはイブプロフェン(非選択的COX-2阻害剤、50mg/kg)の組み合わせは、抗PD-1抗体の存在下で、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の有意な阻害を示した(
図10A)。しかし、抗PD-1 Ab2.5mg/kgと組み合わされた、または抗PD-1 Abなしの、チダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の阻害において、他の群と比較して、より一層有効であった(
図10A)。驚いたことに、セレコキシブ50mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kgの群は、
図10Aに示すとおり、腫瘍成長を著しく有意に阻害した。同じ投薬量のCOX-2阻害剤では、抗癌活性は(強いものから弱いものへ順に)次のとおりである:セレコキシブ>アスピリン>イブプロフェン。次に本発明者らは、チダミド、エンチノスタットおよびモセチノスタットなどの異なるHDAC阻害剤を、セレコキシブおよび抗PD-1抗体と組み合わせて評価した。抗PD-1抗体と組み合わされたエンチノスタット+セレコキシブのレジメンは、
図3Bに示すとおり、強力な抗癌活性を有することが示されている。この研究において、本発明者らは、抗PD-1抗体2.5mg/kgと組み合わされたモセチノスタット(クラスI HDAC阻害剤、30mg/kg)+セレコキシブ50mg/kgを、その抗癌活性の効力について評価した。抗PD-1抗体と組み合わせたチダミド+セレコキシブとモセチノスタット+セレコキシブとの間に有意差はなかった(
図10B)。さらにまた本発明者らは、免疫チェックポイント阻害剤である抗CTLA-4抗体との組み合わせが、CT26担持マウスにおいて腫瘍阻害を行うことも明らかにした。結果は、抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブが、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害することを示した(
図10C)。チダミドおよびセレコキシブとの組み合わせで、抗PD-1抗体による処置と抗CTLA-4抗体による処置との間に有意差はなかった。これらの結果は、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたHDAC阻害剤+COX-2阻害剤が、CT26担持マウスモデルにおいて強い抗腫瘍能力を発揮することを示唆した。さまざまな治療モダリティで処置された全マウスの治療応答を
図10Dに示した。抗PD-1抗体(2.5mg/kg)単独で処置された群はわずかな抗癌活性しか有さず、PRを達成したマウスは2匹だけだった(奏効率25%)。チダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgレジメンによる処置は、強力な腫瘍成長阻害を示し、6匹のマウスがPRを達成した(奏効率75%)。しかしこれは、7匹のマウスがPR(奏効率88%)を達成した抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブのレジメンほど、強力ではなかった。一方、本発明者らは、アスピリン50mg/kgおよびイブプロフェン50mg/kgとの組み合わせを、それらの抗癌活性の効力について評価した。抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+アスピリンまたはイブプロフェンによる処置は、セレコキシブ含有処置の抗癌活性と比較して低い抗癌活性を示し、PRを達成したマウスは4匹および3匹だけだった(奏効率はそれぞれ50%、38%)。セレコキシブがアスピリンおよびイブプロフェンよりも強力に腫瘍成長を阻害することは明らかなようである。次に、チダミドとモセチノスタットの抗癌活性の比較を決定した。PD-1抗体2.5mg/kgと組み合わされたモセチノスタット30mg/kgまたはチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgで処置された群では、7匹のマウスがPRを達成した(奏効率88%)。この結果は、チダミド、エンチノスタットおよびモセチノスタットが、類似する抗癌活性を持つことを実証した。これらの化合物はクラスI HDAC阻害剤と分類された。次に、本発明者らは、抗CTLA-4抗体が、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体などの他の免疫チェックポイント阻害剤のように類似する活性を持つかどうかに関心を持った。抗CTLA4抗体2.5mg/kgまたは抗PD-1抗体2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgで処置した群では、7匹のマウスがPRを達成した(奏効率88%)。上記のことから、HDAC阻害剤(チダミド、エンチノスタット、モセチノスタット)+セレコキシブレジメンは、強力な抗腫瘍成長活性を持つ。また、抗PD-1抗体または抗CTLA-4抗体とさらに組み合わせると、CT26担持マウスモデルにおける腫瘍成長の阻害は増加した(
図10D)。
図10Eに示すとおり、処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。
図10Fに示すとおり、CT26担持腫瘍マウスモデルにおいて、抗PD-1抗体と組み合わされたまたは抗PD-1抗体なしのチダミド+セレコキシブは、強力な抗癌活性を持ち、抗PD-1抗体対照群(約20%)と比較して生存率を約75%まで有意に増加させた。結果は、HDAC阻害剤+COX-2阻害剤レジメンが、特に免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせにおいて、癌に対して良い組み合わせであることを証明した。このレジメンは、腫瘍微小環境をコントロールし、免疫治療を強化することができる。この結果は、
図10Fに示すとおり、アスピリンまたはイブプロフェンを含むレジメンは抗癌活性を持ち、生存率を増加させるが、セレコキシブを含むレジメンより弱い活性を示すことも実証した。さらにまた、
図10Gに示すとおり、抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブは、腫瘍成長阻害に関して、モセチノスタットを含むレジメンより強力であり、生存率を増加させた(75%対62.5%)。最後に、
図10Hに示すとおり、抗CTLA-4抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブは、腫瘍成長を強力に阻害し、生存率をほぼ100%まで増加させた。この結果は、抗CTLA-4抗体との併用レジメンが、抗PD-1抗体(生存率75%)との併用レジメンよりも強力であって、CT26担持腫瘍マウスモデルにおける生存率を増加させることを実証した。26日目に処置を停止した後、IgG対照群では、CT26担持腫瘍マウスにおける腫瘍の成長が速くなった。しかし、腫瘍成長の強力な阻害および生存率の増加を、以下の併用レジメンによって達成することができる:チダミド+アスピリン、イブプロフェンもしくはセレコキシブ、またはさらに免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたもの;免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたモセチノスタット+セレコキシブのレジメン;チダミド+セレコキシブと組み合わされた抗CTLA-4抗体(
図10F~H)。総合すると、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体および抗CTLA-4抗体を含む免疫チェックポイント阻害剤は、チダミド+セレコキシブレジメンとの組み合わせにおいて、腫瘍微小環境における主要構成要素、例えばTreg(制御性T細胞)、MDSC(骨髄由来抑制細胞)、TAM(腫瘍関連マクロファージ)、NK(ナチュラルキラーT細胞)およびCTL(細胞傷害性Tリンパ球)の数または活性に効率よく影響を及ぼすことができる。最後に、これらのレジメンは効率よく免疫治療を強化した。これらの結果は、HDAC阻害剤(とりわけクラスI HDAC阻害剤)+COX-2阻害剤(とりわけ選択的COX-2阻害剤)が、奏効率および生存率において、免疫チェックポイント阻害剤の抗癌活性を効率よく強化するという本発明者らの提案を、さらに証明した。
【0079】
実施例11 CT26担持マウスにおける、最も良い併用レジメン-抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドとセレコキシブの確認
本発明者らは、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体と組み合わされたチダミドおよびセレコキシブのレジメンが、CT26担持マウスにおいて強力な腫瘍阻害を行うことを確認するために、各処置群のマウスの数を増やして抗癌効果を評価した。
図11に示すとおり、CT26担持マウス中の腫瘍サイズは、9日目に約250~300mm
3まで成長した。チダミド+セレコキシブおよび抗PD-1抗体の組み合わせは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害した(
図11A)。チダミド50mg/kg+抗PD-1抗体2.5mg/kgの組み合わせも、CT26担持マウスにおける腫瘍成長を有意に阻害した(
図11A)。チダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgの組み合わせでも、類似する結果が示された(
図11A)。しかし、抗PD-1抗体2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgは、CT26担持マウスにおける腫瘍成長の阻害において、他の群と比較して、より一層有効であった(
図11A)。これらの結果は、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたチダミド+セレコキシブが、CT26担持マウスモデルにおいて強い抗腫瘍能力を発揮することを示唆した。すべてのマウスにおけるさまざまな治療モダリティの抗癌効果を
図11Bに示した。抗PD-1抗体群にはわずか抗癌活性しかなく、PRを達成したマウスは3匹だけだった(奏効率25%)。チダミド+セレコキシブの組み合わせはわずかな抗癌活性を示し、PRを達成したマウスは4匹だけだった(奏効率33%)。チダミド+抗PD-1抗体の組み合わせも抗癌活性の改善を示し、5匹のマウスがPRを達成した(奏効率41%)。チダミド+セレコキシブおよび抗PD-1抗体の組み合わせは、最も良い抗癌活性を示し、8匹のマウスがPRを達成した(奏効率72%)。
図11Cに示すとおり、処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。
図11Dに示すとおり、抗PD-1抗体2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kgまたは抗PD-1 Ab2.5mg/kg単独は、生存率をそれぞれ約33%および16%まで増加させた。しかし、抗PD-1 Ab2.5mg/kgと組み合わされたチダミド50mg/kg+セレコキシブ50mg/kgのレジメンは、ここでも、CT26担持腫瘍マウスモデルにおいて腫瘍成長を効率よく阻害し生存率を約72%まで増加させる、強力な組み合わせであると証明された。抗PD-1抗体の非存在下でセレコキシブと組み合わされたチダミドのレジメンは、抗IgG対照レジメンと比較して生存率を改善しなかった。セレコキシブが存在しないレジメンは、わずかな生存率の増加しか示さなかった。総合すると、これらのデータは、免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたチダミド+セレコキシブが、腫瘍成長の阻害において極めて強力で有効な組み合わせであり、よって免疫治療における生存率を有意に増加させることを実証した(
図11D)。この併用レジメンは腫瘍微小環境における相乗作用機序によるT細胞メモリーの改善に重要な役割を果たしうる。
【0080】
実施例12 CT26担持ヌードマウスを使用することによる、抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの抗癌機序の解明
本発明者らは、抗PD-L1抗体と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブが、CT26担持マウス(免疫正常状態)において、細胞傷害性Tリンパ球を活性化することによって腫瘍阻害を行うのかどうかを評価することに関心を持った。そこで本発明者らは、免疫不全無胸腺ヌードマウス(細胞傷害性Tリンパ球欠損性)動物モデルを使って、この理論を検証した。ヌードマウスは、胸腺の発育不良を引き起こす遺伝的変異を持つ系統からの実験用マウスであった。これは、T細胞の著しい減少と細胞性免疫の欠如を引き起こすことになる。
図12に示すとおり、CT26担持ヌードマウス中の腫瘍サイズは15日目に約350~400mm
3まで成長した。いくつかの処置群を抗癌効果について評価した。
図12Aに示すとおり、どの群も、CT26担持ヌードマウスモデルにおける腫瘍成長を効率よくは阻害しなかった。抗PD-L1抗体2.5mg/kgと組み合わされた、または抗PD-L1抗体なしの、チダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgのレジメンは、他のレジメンと比較して、抗癌活性をわずかに持っていた。しかし、先のデータに示したとおり、免疫が正常なCT26担持マウス(野生型マウス)では、同じ処置レジメンが抗癌活性を示した。これらの結果は、CT26担持マウスモデルにおける、メトホルミンの存在下または非存在下での、免疫チェックポイント阻害剤+チダミドおよびセレコキシブによる併用処置の強い抗腫瘍能力には、正常な免疫が必要であることを示唆した。すべてのマウスにおけるさまざまな治療モダリティの抗癌効果を
図12Bに示した。どの処置群もPR応答を示さなかった。これらの結果は、どのレジメンも、免疫欠損性ヌードマウスでは有意な抗癌活性を発揮できないことを実証した。抗PD-L1抗体と組み合わされた、または抗PD-L1抗体なしの、チダミド+セレコキシブおよびメトホルミンは、他の群と比較して、わずかな抗癌活性を示した。
図12Cに示すとおり、処置群のどのマウスにも体重減少はなかった。CT26担持ヌードマウス中の腫瘍サイズは、
図12Dに示すとおり、29日目に約2.7~3.3gまで成長した。
図12Dに示すとおり、チダミド50mg/kg+メトホルミン100mg/kgおよびセレコキシブ50mg/kgの組み合わせだけが、腫瘍重量に基づけば腫瘍成長のわずかな阻害を示したが、腫瘍サイズに基づくと有意な阻害は示さなかった。野生型BALB/cマウスデータ(
図1~11)と比較したこの研究の結果によれば、抗PD-L1抗体または抗PD-1抗体と組み合わせたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブの組み合わせの抗腫瘍活性は、正常な免疫を必要とすることが示唆された(
図12E)。したがってこれらの結果は、抗PD-1/抗PD-L1と組み合わされたチダミド+メトホルミンおよびセレコキシブを含む併用治療が、癌細胞を殺すように細胞傷害性Tリンパ球を再活性化する相乗的抗腫瘍効果を有するという、本発明者らの提案を裏付けている。
【0081】
総合すると、これらのデータは、チダミド+セレコキシブが極めて重要な組み合わせであり、腫瘍微小環境を効率よくコントロールし、免疫調節活性を持つことを実証した。これは、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体または抗CTLA-4抗体などの免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせると、免疫的に十分な正常動物モデルでの抗癌活性の強化および余命延長において、より効率的であった。免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされたチダミド+セレコキシブは、癌患者のための免疫治療における効力を強化するのに有意義であるだろうと、本発明者らは予測することができる。
実施例13 CT26担持BALB/cマウスにおける抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブによる処置後の循環免疫細胞および腫瘍浸潤性免疫細胞の分析
本発明者らは、COX-2阻害剤と組み合わされたエピジェネティック調節因子チダミドが免疫細胞集団に影響を及ぼすかどうかを、血液循環および腫瘍微小環境の両方で調べた。フローサイトメトリーを使用することにより、本発明者らはまず、正常マウス(腫瘍なし)および腫瘍担持マウスにおける循環免疫細胞集団(CD
4
+T細胞、CD
8
+T細胞、PMN-MDSCおよびM-MDSC、ならびにTreg細胞)を分析した。本発明者らは、CT26腫瘍担持マウスでは、正常マウスと比較して、循環顆粒球性MDSC(PMN-MDSC;CD11b
+Ly6G
+Ly6C
lowと定義される)には4.7倍の増加が、また循環単球MDSC(M-MDSC;CD11b
+Ly6G
-Ly6C
+と定義される)には25%の増加があることを見いだした(
図13A)。一方、
図13Aに示すとおり、腫瘍担持マウスでは正常マウスと比較して、CD
4
+T細胞、CD
8
+T細胞およびTreg細胞が著しく減少していることもわかった。MDSC(骨髄由来抑制細胞)は、癌、炎症および感染中に拡大する不均質な細胞集団であり、T細胞機能の抑制を持つ。本発明者らは、
図13Bに示すとおり、処置レジメンの効果に関する研究をM-MDSCに集中させた。無処置の腫瘍担持マウスでは、循環M-MDSC細胞が有意に増加した。しかしこれは、抗PD-1抗体単独での処置、またはチダミド+セレコキシブもしくは抗PD-1抗体と組み合わされたチダミド+セレコキシブでの処置により、有意に減少した。この処置は、無処置の正常マウスに観察されるものと類似するレベルへの循環M-MDSC数のめざましい低減をもたらした(
図13B)。結果は、PMN-MDSCの細胞数はどの処置でも有意に変化しないことも実証した(データ省略)。加えて本発明者らは、
図13Cに示すとおり、処置後12日目に腫瘍担持マウスの循環M-MDSC細胞を、また処置後23日目に腫瘍サイズを分析した。結果は、処置後12日目における循環M-MDSCの細胞数が、処置後23日目における腫瘍サイズと有意に相関することを示した。他の免疫細胞は腫瘍サイズと相関しなかった(データ省略)。これらの結果は、循環M-MDSC細胞がCT26担持マウスにおける腫瘍発達の予測因子におそらくなりうることを示唆した。一方、本発明者らは、8日目におけるチダミド+セレコキシブと抗PD-1抗体での処置および12日目における抗PD-1抗体なしのチダミド+セレコキシブでの処置によって、循環Treg細胞が有意に低減することを見いだした(
図13D)。本発明者らは、次に、腫瘍浸潤性免疫細胞を分析した。抗PD-1抗体単独での処置は骨髄系細胞およびM-MDSC細胞の数を著しく低減した。類似する結果が、
図13Eに示すとおり、チダミド+セレコキシブと組み合わされた抗PD-1抗体の群またはチダミド+セレコキシブの群でも示された。チダミド+セレコキシブによる処置を除けば、どの処置によっても、TAMの細胞数が著しく変化することはなかった。Tregの細胞数は、
図13Fに示すとおり、チダミド+セレコキシブと組み合わされた抗PD-1抗体での処置によって著しく低減し、抗PD-1抗体単独またはチダミド+セレコキシブでの処理によって中等度に低減した。本発明者らは、抗PD-1抗体とチダミド+セレコキシブとの組み合わせで処置された処置群の腫瘍組織では、他の群と比較して、Tregに対するCD4
+T細胞の比がわずかに増加することを見いだした(
図13G)。この処置群では、Tregに対するCD8
+T細胞の比も、他の群より高かった(
図13H)。総合すると、チダミド+セレコキシブによる処置は、腫瘍浸潤性骨髄系細胞(CD45
+CD11b
+)、M-MDSC(
図13E)およびTreg(
図13F)を減少させた。これらの結果は、チダミド+セレコキシブが循環抑制細胞および腫瘍浸潤性抑制細胞の抑制に重要な役割を果たし、それが次に、抗PD-1抗体との組み合わせで、CT26腫瘍担持マウスに観察された抗腫瘍活性に寄与することを示唆した。