(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】スリッター装置
(51)【国際特許分類】
B26D 1/24 20060101AFI20220607BHJP
B26D 7/26 20060101ALI20220607BHJP
B26D 7/18 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
B26D1/24 B
B26D1/24 E
B26D7/26
B26D7/18 A
(21)【出願番号】P 2020124855
(22)【出願日】2020-07-22
(62)【分割の表示】P 2019159207の分割
【原出願日】2019-09-02
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591123355
【氏名又は名称】山王鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】今田 博之
(72)【発明者】
【氏名】勘座 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】清藤 雅彦
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-229911(JP,A)
【文献】特開2001-179687(JP,A)
【文献】特開2014-108502(JP,A)
【文献】特開平8-197487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26D 1/24
B26D 7/26
B26D 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔で配置された複数の回転部品を用いてシート状の被切断材料を切断し、又は、前記被切断材料の切断により形成された帯状材料を分離するためのスリッター装置であって、
前記複数の回転部品は、一の回転部品と、この一の回転部品に隣接する他の回転部品とを備えており、
前記一の回転部品は、前記他の回転部品に形成された第2当接面に密着させられる第1当接面を備えており、
前記第1当接面の少なくとも一部には、前記第1当接面と同一面内に配置され、かつ、油分をはじく撥油面が備えられて
おり
前記第1当接面には凹部が形成されており、
前記凹部には、前記第1当接面とは異なる材質により構成された異種材料が密にはめ込まれており、
前記異種材料の表面が、前記撥油面となっている
ことを特徴とするスリッター装置。
【請求項2】
前記一又は他の回転部品は、前記被切断材料を切断するためのカッタ、前記カッタどうしの間隔を調整するためのスペーサ、及び、前記帯状材料を分離するためのセパレータのいずれかである
請求項1に記載のスリッター装置。
【請求項3】
前記凹部は穴又は溝である
請求項
1又は2に記載のスリッター装置。
【請求項4】
前記凹部は、前記一の回転部品を貫通しているか、又は、有底状とされている
請求項
1~3のいずれか1項に記載のスリッター装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のスリッター装置において用いられる前記一の回転部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の被切断材料を切断し、又は、被切断材料の切断により形成された帯状材料を分離するためのスリッター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、カッタやスペーサの表面に溝を形成することにより、密着して配置されたカッタやスペーサの取り外しを容易にするスリッター装置が示されている。この技術では、形成された溝により、表面どうしの接触面積を減らし、これによって、密着した表面の分離を容易にしている。
【0003】
ところで、この技術では、溝に油やごみが入り込むことがあり、このために、隣接して配置されるカッタやスペーサの位置精度が低下する可能性がある。また、溝に切削屑が入り込んだ場合には、部品のかじりを生じる恐れがあるという問題もある。
【0004】
この問題を軽減するためには、溝の本数や面積を減らすことも考えられるが、そのようにすると、表面どうしの接触面積が増えるので、密着した表面の分離が難しくなるという問題を生じる。
【0005】
また、近年では、カッタやスペーサをスリッター装置の主軸に自動的に取り付ける自動刃組みシステムが提案されている。自動刃組みシステムの一例においては、ロボットアームによりカッタやスペーサを把持して径方向に持ち上げ、その後、これらを主軸に取り付けている。ここで、前記した従来の技術では、カッタやスペーサを径方向に移動させた時に、表面に形成された溝が、隣接する部品の表面に干渉し、これが自動刃組みの支障になる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記した状況に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、前記した問題点を解消しつつ、回転部品の分離を容易にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0009】
(項目1)
所定間隔で配置された複数の回転部品を用いてシート状の被切断材料を切断し、又は、前記被切断材料の切断により形成された帯状材料を分離するためのスリッター装置であって、
前記複数の回転部品は、一の回転部品と、この一の回転部品に隣接する他の回転部品とを備えており、
前記一の回転部品は、前記他の回転部品に形成された第2当接面に密着させられる第1当接面を備えており、
前記第1当接面の少なくとも一部には、前記第1当接面と同一面内に配置され、かつ、油分をはじく撥油面が備えられている
ことを特徴とするスリッター装置。
【0010】
(項目2)
前記一又は他の回転部品は、前記被切断材料を切断するためのカッタ、前記カッタどうしの間隔を調整するためのスペーサ、及び、前記帯状材料を分離するためのセパレータのいずれかである
項目1に記載のスリッター装置。
【0011】
(項目3)
前記第1当接面には凹部が形成されており、
前記凹部には、前記第1当接面とは異なる材質により構成された異種材料が密にはめ込まれており、
前記異種材料の表面が、前記撥油面となっている
項目1又は2に記載のスリッター装置。
【0012】
(項目4)
前記凹部は穴又は溝である
項目3に記載のスリッター装置。
【0013】
(項目5)
前記凹部は、前記一の回転部品を貫通しているか、又は、有底状とされている
項目3又は4に記載のスリッター装置。
【0014】
(項目6)
項目1~5のいずれか1項に記載のスリッター装置において用いられる前記一の回転部品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転部品の位置精度の劣化や、部品のかじりを防止しつつ、回転部品の分離を容易に行うことができる。また、本発明によれば、自動刃組みを行う場合であっても、回転部品の表面が他の部材に干渉する可能性を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るスリッター装置における要部の一部断面図である。
【
図2】
図1のA部分に対応する、一部を省略した拡大断面図である。
【
図3】
図1の装置に用いられるカッタを側面視した状態での説明図である。
【
図6】
図1の装置に用いられるスペーサを側面視した状態での説明図である。
【
図8】
図3のカッタにおける凹部と、
図6のスペーサにおける凹部との位置関係を説明するための説明図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係るスリッター装置に用いられる異種材を説明するための説明図であって、異種材の中心線の片側のみを表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るスリッター装置(以下単に「装置」と略称することがある)について説明する。この装置は、所定間隔で配置された複数の回転部品3を用いてシート状の被切断材料100を切断するためのものである。被切断材料100としては、本実施形態では、シート状の金属材料が用いられているが、特に制約されるものではない。
【0018】
(本実施形態の構成)
本実施形態の装置は、上軸1と、下軸2と、それぞれの軸1及び2に取り付けられた複数の回転部品3とを主要な構成要素として備えている(
図1参照)。
【0019】
(上軸)
上軸1は、図示しない駆動手段により軸回りで回転されるようになっている。上軸1に取り付けられた回転部品3は、上軸1の回転に伴って同じ方向に回転するようになっている。
【0020】
(下軸)
下軸2は、上軸1と同様に、図示しない駆動手段により軸回りで回転されるようになっている。ただし、下軸2の回転方向は、上軸1とは逆向きとされている。下軸2に取り付けられた回転部品3は、下軸2の回転に伴って同じ方向に回転するようになっている。
【0021】
(回転部品)
本実施形態の回転部品3は、互いに隣接して配置された複数のカッタ4とスペーサ5とから構成されている(
図2参照)。
【0022】
(カッタ)
カッタ4は、中空の円板状に形成されている(
図3及び
図4参照)。カッタ4の縁部(刃)は、他方の軸に取り付けられたカッタ4の縁部(刃)との間に被切断材料100(
図1及び
図2参照)を挟み込むことによって、被切断材料100を切断し、所定幅の帯状材料(図示せず)を形成できるようになっている。
【0023】
本実施形態におけるカッタ4は、その軸方向両端において、第1端面41と第2端面42とを備えている。
図2の例では、図中右端のカッタ4においては、第2端面42がスペーサ5に密着し、図中左端のカッタ4においては、第1端面41がスペーサ5に密着している。なお、図中右端のカッタ4の第2端面42は、隣接する別のスペーサ5(
図1参照)に密着している。本例では、第1端面41と第2端面42のうち、隣接した回転部品3(カッタ4又はスペーサ5)に接するほうが本発明における第1当接面に対応し、第1当接面に対面するほうが第2当接面に対応するものとする。両端面が隣接の回転部品に接するときはこの対応関係は任意でよい。
【0024】
カッタ4の第1端面41及び第2端面42には、穴状の凹部43が形成されている。この凹部43の個数は本実施形態では6個とされているが、この個数に制約はない。また、これらの凹部43は、カッタ4の軸心から等距離となる位置(同心円上)に形成されている。ただし、凹部43の位置を、カッタ4の軸心から等距離とする必要はなく、非等距離とすることは可能である。
【0025】
凹部43は、
図4及び
図5に示すように、貫通孔とされており、カッタ4の両端面が開口したものとなっている。また、凹部43の内面は円筒面とされており、この内面には、凹部43の軸線を中心とする周方向に延長された二つの拡径部44が形成されている。ただし、拡径部44の数に制約はなく、一つでも三つ以上であってもよい。
【0026】
凹部43には、撥油面を構成するための異種材8(後述)が取り付けられている。なお、
図4及び
図5においては異種材8の記載を省略した。
【0027】
(スペーサ)
スペーサ5は、カッタ4と同様に、中空の円板状に形成されている(
図6及び
図7参照)。本例のスペーサ5は、スペーサ本体6とその外周側に配置された保護材7(
図2参照)とから構成されている。
図6及び
図7では保護材7の記載を省略している。スペーサ本体6は、カッタ4の間に挟まれており、カッタ4の位置決めができるようになっている(
図1及び
図2参照)。保護材7は、例えば変形可能な合成樹脂から構成されている。保護材7を省略することは可能である。
【0028】
本実施形態におけるスペーサ本体6は、その軸方向両端において、第1端面61と第2端面62とを備えている。
図2の例では、いずれのスペーサ5においても、第1端面61及び第2端面62が、隣接する他の回転部品(スペーサ又はカッタ)に密着している。スペーサ5についても、第1端面61と第2端面62のうち、隣接した回転部品3(カッタ4又はスペーサ5)に接するほうが本発明における第1当接面に対応し、第1当接面に対面するほうを第2当接面に対応するものとする。
【0029】
スペーサ5の第1端面61及び第2端面62には、カッタ4と同様に、穴状の凹部63が形成されている(
図7参照)。この凹部63には、カッタ4の凹部43と同様に、異種材8(後述)が取り付けられている。
【0030】
凹部63は、カッタ4の凹部43と同様に、同心円状に所定の間隔で配列されている(
図6参照)。ただし、両者の径方向での距離は若干相違している。両者の位置関係を
図8に模式的に示す。この例では、スペーサ5の凹部63が、カッタ4の凹部43よりも若干内側に配置されている。
【0031】
(異種材)
本実施形態の異種材8は、カッタ4の凹部43及びスペーサ5の凹部63に収納されている。
図9には、凹部43に収納される異種材8の一例を示している。
【0032】
この異種材8は、略円柱状に形成されており、その側面には、周方向に延びる二本の鍔部81が形成されている。これらの鍔部81は、凹部43の拡径部44(
図5参照)に収納されて、凹部43に対する異種材8の位置決めを行うようになっている。鍔部81の位置及び形状は、対応する拡径部44の位置及び形状に整合するように設計される。
【0033】
異種材8の形状は、異種材8が凹部43に嵌合された状態において、異種材8の両端面が、凹部43の開口端に一致するものとされている。つまり、異種材8の端面は、カッタ4の両端面41及び42と面一となるようにされている。
【0034】
また、本実施形態の異種材8の材質としては、撥油性の材質が用いられている。撥油性の材質としては、「ニトリル系樹脂」「フッ素系樹脂混合樹脂」などの撥油性を有する合成樹脂が挙げられる。ただし、これらに制約されるものではなく、同様の性能を有する各種の材料を使用可能である。これにより、本実施形態の異種材8の両端面は、油分を弾く撥油面とされている。
【0035】
以上の構成により、本実施形態では、カッタ4の第1当接面の少なくとも一部に、第1当接面と同一面内に配置され、かつ、油分をはじく撥油面が備えられたものとなっている。
【0036】
凹部63に嵌合される異種材8の形状は、凹部63の形状に応じて調整されるが、
図9の例と基本的に同一の構造なので、詳しい説明は省略する。凹部63に嵌合された異種材8によって、本実施形態では、スペーサ5の第1当接面の少なくとも一部に、第1当接面と同一面内に配置され、かつ、油分をはじく撥油面が備えられたものとなっている。
【0037】
(本実施形態の動作)
次に、前記した本実施形態の装置の動作について説明する。
【0038】
(刃組み)
まず、刃組みについて説明する。前提として、刃組みに用いられる回転部品3(つまりカッタ4及びスペーサ5)は、収納用の棚に配置されて、隣接する端面が密着した状態で保管されている。自動刃組みの場合は、ロボットアームにより回転部品3を把持し、径方向にスライドさせて引き抜くことで、棚から回転部品3を取り出す。ここで、前記した従来の技術では、回転部品3の端面に形成した凹部により端面どうしの接触面積を軽減しているものの、隣接する部材に凹部が干渉することで、回転部品3の取り出し作業に支障を来すおそれがあった。これに対して、本実施形態では、異種材8の端面とカッタ4及びスペーサ5の端面とを面一にしているので、このような可能性を低減させることができる。
【0039】
また、本実施形態の装置では、異種材8の端面を撥油面としたので、隣接する回転部品の端面の間に油が入り込んでこれらを密着させる可能性も低減させることができる。
【0040】
(切断)
上軸1と下軸2とに回転部品3を所定の順序で組みつけた後は、
図1及び
図2に示されるように、従来と同様の方法で被切断材料100を切断して、帯状材料を得ることができる。
【0041】
本実施形態の装置では、凹部43及び凹部63に異種材8を埋め込み、異種材8の撥油面を回転部品の端面(当接面)と面一にしたので、凹部に油やごみが入り込むことがない。このため、隣接して配置されるカッタやスペーサの位置精度が低下するおそれを低減させることができる。また、凹部に切削屑が入り込んだ場合には、部品のかじりを生じる恐れがあるが、本実施形態の装置ではこの恐れも低減させることができる。
【0042】
この切削工程は、基本的に従来と同様に実施できるので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0043】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るスリッター装置を、
図10を参照しながら説明する。この第2実施形態の説明においては、前記した第1実施形態と基本的に共通する要素については、同一符号を用いることで記載を簡潔にする。
【0044】
前記した第1実施形態の説明においては、一つの円柱状部材により構成された異種材8を用いた。これに対して、第2実施形態の装置では、それぞれ円柱状部材により構成された二つの異種材82と83を用いた。一方の異種材82の端面は、カッタ4(又はスペーサ5)の一方の端面と面一となっており、他方の異種材83の端面は、カッタ4(又はスペーサ5)の他方の端面と面一となっている。
【0045】
異種材82と異種材83との間には、間隙84が形成されている。なお、
図10では、回転対称である異種材82及び83の中心線の片側のみを記載している。
【0046】
第2実施形態における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と基本的に共通なので、第2実施形態についてのこれ以上詳しい説明は省略する。
【0047】
なお、本発明の内容は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、具体的な構成に対して種々の変更を加えうるものである。
【0048】
例えば、前記した各実施形態では、カッタ4の凹部43とスペーサ5の凹部63とをいずれも穴状としたが、一方向に長い溝状とすることもできる。溝の形状としては、直線状に限らず、曲線状のものであってもよい。
【0049】
また、前記した各実施形態では、カッタ4の凹部43とスペーサ5の凹部63とをいずれも貫通孔により構成したが、有底の形状としてもよい。この場合においては、各凹部の開口面側に異種材8の撥油面が位置することになる。
【0050】
さらに、前記した各実施形態では、回転部品3として、被切断材料を切断するためのカッタと、カッタどうしの間隔を調整するためのスペーサとを例示した。しかしながら、回転部品3としては、切断により生成された帯状材料を分離するためのセパレータであってもよい。
【0051】
また、前記した各実施形態では、回転部品3の端面(第1当接面)に凹部を形成し、この凹部に異種材をはめ込むことで撥油面を形成した。しかしながら、蒸着その他の手段により撥油面を形成してもよい。回転部品3の端面全てを撥油面に形成することも考えられる。
【0052】
さらに、前記した各実施形態では、凹部43に形成した拡径部44と異種材8に形成した鍔部81とを嵌め合わせることで両者を固定しているが、この固定構造に特に制約はない。要するに、異種材8を凹部43に確実に固定できる構造であればよい。
【符号の説明】
【0053】
1 上軸
2 下軸
3 回転部品
4 カッタ
41 第1端面(第1当接面)
42 第2端面(第2当接面)
43 カッタの凹部
44 拡径部
5 スペーサ
6 スペーサ本体
61 第1端面(第1当接面)
62 第2端面(第2当接面)
63 スペーサの凹部
7 保護材
8・81・82 異種材
81 鍔部
84 間隙
100 被切断材料