(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】新規抗PAD2抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220607BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220607BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220607BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220607BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K7/08
C07K16/18
C12N15/63 Z
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020525771
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2019024310
(87)【国際公開番号】W WO2019244934
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2018117142
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 憲二
(72)【発明者】
【氏名】坂田 知子
(72)【発明者】
【氏名】川野邊 峻哲
(72)【発明者】
【氏名】古賀 啓太
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/086365(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/155745(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 7/08
C07K 16/18
C12N 15/63
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAD2(Peptidylarginine deiminase 2)の341~357位、又は配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、に特異的に結合する、
PAD2阻害活性を有する、抗PAD2抗体。
【請求項2】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合する抗体である、請求項1に記載の抗PAD2抗体。
【請求項3】
PAD2の344~357位に特異的に結合する抗体である、請求項1又は2に記載の抗PAD2抗体。
【請求項4】
PAD2のシトルリン化活性を阻害する、請求項1~3いずれかに記載の抗PAD2抗体。
【請求項5】
PAD2に対するKD(M)が9.0×10
-8以下である、請求項1~4いずれかに記載の抗PAD2抗体。
【請求項6】
前記結合部位は、3アミノ酸置換のアラニンスキャンによって同定される結合部位である、請求項1~5いずれかに記載の抗PAD2抗体。
【請求項7】
モノクローナル抗体である、請求項1~6いずれかに記載の抗PAD2抗体。
【請求項8】
抗原結合性断片である、請求項1~7いずれかに記載の抗PAD2抗体。
【請求項9】
請求項1~8いずれかに記載の抗PAD2抗体をコードする、ポリヌクレオチド又はベクター。
【請求項10】
請求項1~8いずれかに記載の抗PAD2抗体を含む、組成物。
【請求項11】
請求項1~8いずれかに記載の抗PAD2抗体を含む、PAD2のシトルリン化活性阻害剤。
【請求項12】
請求項9に記載のポリヌクレオチド又はベクターを含有する細胞を増殖させる工程を含む、抗PAD2抗体の生産方法。
【請求項13】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項14】
化学修飾ペプチドである、請求項13に記載のペプチド。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のペプチドを含む抗原組成物。
【請求項16】
請求項13又は14に記載のペプチドで哺乳類
(ヒトを除く)又は鳥類を免疫する工程を含む、抗PAD2抗体の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規抗PAD2抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
PAD2(Peptidylarginine deiminase 2)は、蛋白質中のアルギニンのシトルリン化に関与する酵素として知られている。このシトルリン化は、蛋白質を構成するアミノ酸の中で最も塩基性の強いアルギニンが中性のシトルリンに変換される反応であるため、蛋白質の構造と反応にとって重要である。
【0003】
PAD2によるシトルリン化と疾患との関連性が種々報告されている。例えば、非特許文献1には、PAD2がTNFα誘導性シトルリン化及び関節炎に関与すると記載されている(Abstract)。非特許文献2には、シトルリン化ミエリン塩基性蛋白質が多発性硬化症の発症の生化学的経路を表すと記載されている(Abstract)。非特許文献3には、シトルリン化ヒストンと関節炎発症の関連性が記載されている(Abstract)。
【0004】
特許文献1には、ウサギPAD2をマウスに免疫して抗PAD2抗体を作製したこと(Example 1)、その抗体がヒトPAD2の1~165位に結合したこと(Example 3)、その抗体のPAD2阻害活性を検査したこと(Example 4)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】"Peptidylarginine deiminase 2 is required for tumor necrosis factor alpha-induced citrullination and arthritis, but not neutrophil extracellular trap formation.", Bawadekar et al., J Autoimmun. 2017 Jun;80:39-47.
【文献】"The role of citrullinated proteins suggests a novel mechanism in the pathogenesis of multiple sclerosis.", Moscarello et al., Neurochem Res. 2007 Feb;32(2):251-6. Epub 2006 Sep 22.
【文献】"Local Joint inflammation and histone citrullination in a murine model of the transition from preclinical autoimmunity to inflammatory arthritis." Sohn et al., Arthritis Rheumatol. 2015 Nov;67(11):2877-87.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の抗PAD2抗体は、十分に強いPAD2阻害活性を有しておらず、改善の余地を有していた。その他に、優れたPAD2阻害活性を有する抗体は報告されていなかった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れたPAD2阻害活性を有する抗PAD2抗体を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、後述する実施例に記載の通り、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチド(PAD2の341~357位)を抗原として抗PAD2抗体を作製した。そして、得られた抗体のPAD2への反応性を調べたところ、驚くべきことに、PAD2に対する優れた阻害活性を示した。特にこの抗体は、上記特許文献1に基づいて作製した抗PAD2抗体(#2及び#34)に比べて、予想外に顕著に優れたPAD2阻害活性を示した。
【0010】
即ち本発明の一態様によれば、PAD2(Peptidylarginine deiminase 2)の341~357位に特異的に結合する、抗PAD2抗体が提供される。この抗体を用いれば、PAD2を検出することができる。この抗体を用いれば、PAD2の機能阻害をすることができる。
【0011】
また本発明の一態様によれば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合する、抗PAD2抗体が提供される。この抗体を用いれば、PAD2を検出することができる。この抗体を用いれば、PAD2の機能阻害をすることができる。
【0012】
また本発明の一態様によれば、PAD2の344~357位に特異的に結合する、抗PAD2抗体が提供される。この抗体を用いれば、PAD2を検出することができる。この抗体を用いれば、PAD2の機能阻害をすることができる。
【0013】
また本発明の一態様によれば、上記抗PAD2抗体をコードする、ポリヌクレオチド又はベクターが提供される。本発明の一態様によれば、上記抗PAD2抗体を含む、組成物が提供される。本発明の一態様によれば、上記抗PAD2抗体を含む、PAD2のシトルリン化活性阻害剤が提供される。本発明の一態様によれば、上記ポリヌクレオチド又はベクターを含有する細胞を増殖させる工程を含む、抗PAD2抗体の生産方法が提供される。
【0014】
また本発明の一態様によれば、上記PAD2に対するKD(M)が9.0×10-8以下であってもよく、上記結合部位が3アミノ酸置換のアラニンスキャンによって同定される結合部位であってもよく、上記抗PAD2抗体がモノクローナル抗体であってもよく、上記抗PAD2抗体が抗原結合性断片であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例で用いた抗PAD2抗体の親和性測定の結果を示した図である。
【
図2】
図2は、実施例で用いた抗PAD2抗体を添加時の、ヒトPAD2のシトルリン化活性能の測定結果を示した図である。t検定(両側)により抗DNP抗体(ネガティブコントロール)に対して有意差がみられた抗体の結果には、*(p<0.01)と示している。
【
図3】
図3は、実施例で用いた抗PAD2抗体のエピトープの評価結果を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0017】
本発明の一実施形態は、新規の抗PAD2抗体である。この抗体は、例えば、PAD2の341~357位に特異的に結合する、抗PAD2抗体である。又は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合する、抗PAD2抗体であってもよい。又は、PAD2の344~357位に特異的に結合する、抗PAD2抗体であってもよい。この抗体を用いれば、例えば、PAD2の機能を阻害することができる。
【0018】
PAD2は、一般的に、蛋白質中のアルギニンのシトルリン化に関与する酵素として知られている。PAD2のアミノ酸配列等の詳細は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)、又はHGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee)等のWEBサイトから見ることができる。NCBIに記載されているPAD2のアクセッションナンバーは、例えば、NP_031391.2である。PAD2のアミノ酸配列は、例えば、配列番号2である。PAD2は、PAD2活性を有していれば、その生物由来は限定されない。PAD2は、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、又はネコ由来のPAD2を含む。PAD2の341~357位には、典型的にはそれぞれY、L、N、R、G、D、R、W、I、Q、D、E、I、E、F、G、Y(アミノ酸一文字表記)が位置する。
【0019】
本発明の一実施形態において「抗PAD2抗体」は、PAD2に結合性を有する抗体を含む。この抗PAD2抗体の生産方法は特に限定されないが、例えば、PAD2を哺乳類又は鳥類に免疫することによって生産してもよい。PAD2の341~357位に特異的に結合する、抗PAD2抗体は、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを哺乳類又は鳥類に免疫することによって生産してもよい。PAD2の344~357位又は344~355位に特異的に結合する、抗PAD2抗体は、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1の4~17位又は4~15位のアミノ酸配列からなるペプチドを哺乳類又は鳥類に免疫することによって生産してもよい。PAD2の344~357位又は344~355位に特異的に結合する、抗PAD2抗体は、例えば、野生型のPAD2に結合性を示し、且つ344~357又は344~355位のAla変異型PAD2に対して結合性を示さない抗PAD2抗体を選抜する工程を経て得てもよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の機能を阻害する抗体であってもよい。機能阻害は、例えば、シトルリン化の活性阻害を含む。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、カルシウム結合体PAD2に結合する抗体、又はカルシウム結合体PAD2の機能を阻害する抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2活性を阻害する機能を有していてもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、カルシウム結合体PAD2に結合する抗体、又はカルシウム結合体PAD2活性を阻害する機能を有していてもよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体であれば、ポリクローナル抗体に比べて、効率的にPAD2に対して作用させることができる。所望の効果を有する抗PAD2モノクローナル抗体を効率的に生産する観点からは、PAD2をニワトリに免疫することが好ましい。抗原として使用するPAD2は、特に指定しない限り、PAD2全長又はPAD2ペプチド断片を含む。
【0022】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体の抗体クラスは特に限定されないが、例えばIgM、IgD、IgG、IgA、IgE、又はIgYであってもよい。また、抗体サブクラスは特に限定されないが、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、又はIgA2であってもよい。
【0023】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2結合活性を有する抗体断片(以下、「抗原結合性断片」と称することもある)であっても良い。この場合、安定性又は抗体の生産効率が上昇する等の効果がある。
【0024】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、融合蛋白質であってもよい。この融合蛋白質は、PAD2のN又はC末端に、ポリペプチド又はオリゴペプチドが結合したものであってもよい。ここで、オリゴペプチドは、Hisタグであってもよい。また融合蛋白質は、マウス、ヒト、又はニワトリの抗体部分配列を融合したものであってもよい。それらのような融合蛋白質も、本実施形態に係る抗PAD2抗体の一形態に含まれる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2をニワトリに免疫する工程を経て得られる抗体であってもよい。
【0026】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、KD(M)が、例えば、9.0×10-8、7.0×10-8、5.0×10-8、3.0×10-8、1.0×10-8、9.0×10-9、7.0×10-9、5.0×10-9、3.0×10-9以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0027】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の野生型又は変異型に結合する抗体であってもよい。変異型は、SNPsのように、個体間のDNA配列の差異に起因するものを含む。野生型又は変異型のPAD2のアミノ酸配列は、配列番号2に示すアミノ酸配列に対し、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有する。
【0028】
本発明の一実施形態において「PAD2の341~357位に特異的に結合する抗PAD2抗体」は、PAD2の341~357位のアミノ酸領域内に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドに結合性を有する限り、PAD2の341~357位内において抗体が認識する部位は限定されない。この抗体は、例えば、PAD2の341~357位の1つ以上のアミノ酸を含むエピトープに特異的に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、PAD2の344~357位に特異的に結合する抗体を含む。本発明の一実施形態において「PAD2の344~357位に特異的に結合する抗PAD2抗体」は、PAD2の344~357位のアミノ酸領域内に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、PAD2の344~357位の1つ以上のアミノ酸を含むエピトープに特異的に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、PAD2の344~346位、347~349位、350~352位、353~355位、又は356~357位に特異的に結合する抗体を含む。またこの抗体は、例えば、PAD2の344~355位に特異的に結合する抗体を含む。本発明の一実施形態において「PAD2の344~355位に特異的に結合する抗PAD2抗体」は、PAD2の344~355位のアミノ酸領域内に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、PAD2の344~355位の1つ以上のアミノ酸を含むエピトープに特異的に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、PAD2の344~346位、347~349位、350~352位、又は353~355位に特異的に結合する抗体を含む。またこの抗体は、例えば、PAD2の347~355位に特異的に結合する抗体を含む。本発明の一実施形態ににおいて「PAD2の347~355位に特異的に結合する抗PAD2抗体」は、PAD2の347~355位のアミノ酸領域内に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、PAD2の347~355位の1つ以上のアミノ酸を含むエピトープに特異的に結合する抗体を含む。この抗体は、例えば、PAD2の347~349位、350~352位、又は353~355位に特異的に結合する抗体を含む。
【0029】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、野生型PAD2に対して結合性を有し、且つ344~357位のAla変異型PAD2に対して結合性を有さない抗体であってもよい。本発明の一実施形態において「344~357位のAla変異型PAD2」は、PAD2の344~346位、347~349位、350~352位、353~355位、356~357位、又は344~355位のAla変異型抗体を含む。また344~357位のAla変異型PAD2は、344~346位、347~349位、350~352位、353~355位、又は356~357位以外は置換されていなくてもよい。本発明の一実施形態において「結合性を有さない」は、実質的に結合性を有さなければよい。又は、有意に結合性を有さない場合を含む。又は、野生型に対するEC50に比べて、評価対象に対するEC50が2倍以上の場合に結合性を有さないと評価してもよい。このとき、EC50がNot determinedの場合は結合性を有さないと評価してもよい。又は、野生型に対する結合性に比べて、評価対象に対する結合性が50%以下の場合に結合性を有さないと評価してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、344~357位のAla変異型PAD2に対するEC50が、野生型PAD2に対するEC50に比べて、2倍以上である抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、344~357位のAla変異型PAD2に対するEC50が、抗PAD2ポリクローナル抗体を用いた場合のEC50に比べて、2倍以上である抗体であってもよい。本発明の一実施形態において「2倍以上」は、例えば、2、3、4、5、10、100、105、1010、又は1015であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。EC50がNot determinedの場合は2倍以上に含まれると評価してもよい。反応性は、例えば、ELISA又は表面プラズモン共鳴分析法で評価してもよい。本発明の一実施形態において「抗PAD2ポリクローナル抗体」は、例えば、抗血清を含む。結合性又は反応性は、親和性を含む。
【0031】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、344~357位のAla変異型PAD2に対する結合性が、野生型PAD2に対する結合性に比べて、50%以下である抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、344~357位のAla変異型PAD2に対する結合性が、抗PAD2ポリクローナル抗体を用いた場合の結合性に比べて、50%以下である抗体であってもよい。本発明の一実施形態において「50%以下」は、例えば、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、又は0%であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、野生型のPAD2に有意な結合性を示す抗体を選抜する工程、又は344~357位のAla変異型PAD2に対して結合性を示さない抗体を選抜する工程、を含む生産方法によって得られる抗体であってもよい。
【0033】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の341~357位に対する特異的な結合性がある限り、エピトープ内の他のアミノ酸残基に結合性を有していてもよい。特定の部位に特異的に結合する抗体は、特定の部位を認識する抗体であってもよい。
【0034】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の341~357位内のエピトープに特異的に結合する抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の341~357位を含むエピトープに特異的に結合する抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、エピトープ内のPAD2の341~357位以外のアミノ酸残基に結合性を有していてもよい。
【0035】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のペプチドに対して結合性を有し、且つ配列番号3~8で示されるアミノ酸配列のペプチドの1種以上に対して結合性を有さない、抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の341~357位を含まない欠失型PAD2に対して結合性を有さない、抗体であってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、配列番号3~8で示されるアミノ酸配列のペプチドの1種以上に対するEC50が、野生型PAD2に対するEC50に比べて、2倍以上である抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、配列番号3~8で示されるアミノ酸配列のペプチドの1種以上に対するEC50が、抗PAD2ポリクローナル抗体を用いた場合のEC50に比べて、2倍以上である抗体であってもよい。
【0037】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、配列番号3~8で示されるアミノ酸配列のペプチドの1種以上に対する結合性が、野生型PAD2に対する結合性に比べて、50%以下である抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、配列番号3~8で示されるアミノ酸配列のペプチドの1種以上に対する結合性が、抗PAD2ポリクローナル抗体を用いた場合の結合性に比べて、50%以下である抗体であってもよい。
【0038】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のペプチドの4~17位又は4~15位に特異的に結合する抗体であってもよい。この抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のペプチドの4~17位又は4~15位に結合性を有している限り、エピトープ内の他のアミノ酸残基に結合性を有していてもよい。なお、本発明の一実施形態において「ペプチドに特異的に結合する抗体」は、ペプチドに特異的な結合性を有する抗体を含む。ペプチドに特異的に結合する抗体は、抗体の有する結合性の一つが特定されたものであり、ペプチドへの結合性を有する一方で、他の化合物への結合性を有していてもよい。「配列番号1で示されるアミノ酸配列のペプチドに特異的に結合する抗体」は、そのペプチドに特異的な結合性を有する一方で、全長PAD2に結合性を有する抗体を含む。配列番号1で示されるアミノ酸配列のペプチドの4~17位又は4~15位に特異的に結合する抗体についても同様である。
【0039】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体が結合する部位は、例えば、アラニンスキャンで評価してもよい。本発明の一実施形態において「アラニンスキャン」は、例えば、蛋白質のあるアミノ酸をアラニンに置換して、その蛋白質に結合する抗体の性質を調べる手法である。アラニンスキャンでの評価は、例えば、(i)抗原の3アミノ酸残基をAlaへ置換し、Ala変異体を作製する工程、(ii)Ala変異体と被検抗体の親和性を測定する工程、又は(iii)被検抗体が有意な反応性を示さなかったAla変異体の、Ala置換前のアミノ酸残基を結合部位として評価する工程、を経て評価可能な結合部位であってもよい。上記工程(i)は、複数の抗原の3アミノ酸残基をAlaに置換し、複数のAla変異体を作製する工程を含んでいてもよい。この評価方法は、(iv)野生型PAD2に対する被験抗体の親和性を測定する抗体、又はAla変異体と抗PAD2ポリクローナル抗体との親和性を測定する工程を含んでいてもよい。この評価方法は、(v)被検抗体とAla変異体との親和性を測定したときの被検抗体のEC50の値が、被験抗体と野生型との親和性を測定したときの被検抗体のEC50の値に比べて2倍以上のときに、被検抗体が有意な反応性を示さなかったと評価する工程、又は、被検抗体とAla変異体との親和性を測定したときの被検抗体のEC50の値が、抗PAD2ポリクローナル抗体とAla変異体との親和性を測定したときの被検抗体のEC50の値に比べて2倍以上のときに、被検抗体が有意な反応性を示さなかったと評価する工程を含んでいてもよい。アラニンスキャンは、3アミノ酸置換によって行なってもよい。このとき、抗原に含まれるアミノ酸数が3で割り切れない場合、抗原の片端は2アミノ酸置換であってもよい。アラニンスキャンに用いる抗原は、PAD2又はそのペプチド断片であってもよい。親和性は、例えば、ELISA又は表面プラズモン共鳴分析法で評価してもよい。
【0040】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の347~354位を含むエピトープに特異的に結合する抗体であってもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の351、352、353、又は354位を含むエピトープに特異的に結合する抗体であってもよい。この抗体は、PAD2の351、352、353、又は354位に結合性を有する限り、エピトープ内の他のアミノ酸残基に結合性を有していてもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のペプチドの8、9、10、又は11位に特異的に結合する抗体であってもよい。この抗体は、ペプチドの8、9、10、又は11位に結合性を有する限り、エピトープ内の他のアミノ酸残基に結合性を有していてもよい。本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、PAD2の351、352、353、又は354位にAla変異を有する変異型PAD2に対して特異的な結合性を有さない抗体であってもよい。これらの抗体は、シトルリン化阻害能の観点からは、特にPAD2の351、352、353、又は354位を認識する抗体が好ましい。このとき、結合性は1アミノ酸残基をAlaへ置換したアラニンスキャンで評価してもよい。
【0041】
本発明の一実施形態において「抗体」は、抗原上の特定のエピトープに特異的に結合することができる分子又はその集団を含む。また抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であってもよい。抗体は、様々な形態で存在することができ、例えば、全長抗体(Fab領域とFc領域を有する抗体)、Fv抗体、Fab抗体、F(ab')2抗体、Fab'抗体、diabody、一本鎖抗体(例えば、scFv)、dsFv、多価特異的抗体(例えば、二価特異的抗体)、抗原結合性を有するペプチド又はポリペプチド、キメラ抗体、マウス抗体、ニワトリ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、又はそれらの同等物(又は等価物)からなる群から選ばれる1種以上の形態であってもよい。また抗体は、抗体修飾物又は抗体非修飾物を含む。抗体修飾物は、抗体と、例えばポリエチレングリコール等の各種分子が結合していてもよい。抗体修飾物は、抗体に公知の手法を用いて化学的な修飾を施すことによって得ることができる。抗体のアミノ酸配列、クラス、又はサブクラスは、例えば、ヒト、ヒトを除く哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、サル等)、又は鳥類(例えば、ニワトリ)等由来であってもよい。また抗体は、例えば、単離抗体、精製抗体、又は組換抗体を含む。また抗体は、例えば、in vitro又はin vivoで使用できる。
【0042】
本発明の一実施形態において「ポリクローナル抗体」は、例えば、哺乳類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、サル等)又は鳥類(例えば、ニワトリ)等に、目的の抗原を含む免疫原を投与することによって生成することが可能である。免疫原の投与は、1つ以上の免疫剤、又はアジュバントを注入してもよい。アジュバントは、免疫応答を増加させるために使用されることもあり、フロイントアジュバント(完全又は不完全)、ミネラルゲル(水酸化アルミニウム等)、又は界面活性物質(リゾレシチン等)等を含んでいてもよい。免疫プロトコルは、当該技術分野で公知であり、選択する宿主生物に合わせて、免疫応答を誘発する任意の方法によって実施される場合がある(タンパク質実験ハンドブック, 羊土社(2003):86-91.)。
【0043】
本発明の一実施形態において「モノクローナル抗体」は、集団を構成する個々の抗体が、実質的に同じエピトープに反応する場合の抗体を含む。又は、集団を構成する個々の抗体が、実質的に同一(自然発生可能な突然変異は許容される)である場合の抗体であってもよい。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、異なるエピトープに対応する異なる抗体を典型的に含むような、通常のポリクローナル抗体とは異なる。モノクローナル抗体の作製方法は特に限定されないが、例えば、"Kohler G, Milstein C., Nature. 1975 Aug 7;256(5517):495-497."に掲載されているようなハイブリドーマ法と同様の方法によって作製してもよい。あるいは、モノクローナル抗体は、米国特許第4816567号に記載されているような組換え法と同様の方法によって作製してもよい。又は、モノクローナル抗体は、"Clackson et al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628."、又は"Marks et al., J Mol Biol. 1991 Dec 5;222(3):581-597."に記載されているような技術と同様の方法を用いてファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。又は、"タンパク質実験ハンドブック, 羊土社(2003):92-96."に掲載されている方法によって作製してもよい。
【0044】
本発明の一実施形態において「Fv抗体」は、抗原認識部位を含む抗体である。この領域は、非共有結合による1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体を含む。この構成において、各可変ドメインの3つのCDRは相互に作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を形成することができる。
【0045】
本発明の一実施形態において「Fab抗体」は、例えば、Fab領域及びFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体が一部のジスルフィド結合を介して結合した抗体である。Fabは、例えば、Fab領域及びFc領域を含む上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を、蛋白質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
【0046】
本発明の一実施形態において「F(ab')2抗体」は、例えば、Fab領域及びFc領域を含む抗体を蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabに相当する部位を2つ含む抗体である。F(ab')2は、例えば、Fab領域及びFc領域を含む上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を、蛋白質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。また、例えば、下記のFab'をチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させることで、作製することができる。
【0047】
本発明の一実施形態において「Fab'抗体」は、例えば、F(ab')2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断して得られる抗体である。例えば、F(ab')2を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0048】
本発明の一実施形態において「scFv抗体」は、VHとVLとが適当なペプチドリンカーを介して連結した抗体である。scFv抗体は、例えば、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、VH-ペプチドリンカー-VLをコードするポリヌクレオチドを構築し、そのポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0049】
本発明の一実施形態において「diabody」は、二価の抗原結合活性を有する抗体である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。diabodyは、例えば、scFvをコードするポリヌクレオチドをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、得られたポリヌクレオチドをベクターに組み込み、発現用の細胞を用いて生産できる。
【0050】
本発明の一実施形態において「dsFv」は、VH及びVL中にシステイン残基を導入したポリペプチドを、上記システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させた抗体である。システイン残基に導入する位置はReiterらにより示された方法(Reiter et al., Protein Eng. 1994 May;7(5):697-704.)に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0051】
本発明の一実施形態において「抗原結合性を有するペプチド又はポリペプチド」は、抗体のVH、VL、又はそれらのCDR1、2、もしくは3を含んで構成される抗体である。複数のCDRを含むペプチドは、直接又は適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0052】
上記のFv抗体、Fab抗体、F(ab')2抗体、Fab' 抗体、scFv抗体、diabody、dsFv抗体、抗原結合性を有するペプチド又はポリペプチド(以下、「Fv抗体等」と称することもある)の生産方法は特に限定しない。例えば、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体におけるFv抗体等の領域をコードするDNAを発現用ベクターに組み込み、発現用細胞を用いて生産できる。又は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBOC法(t-ブチルオキシカルボニル法)などの化学合成法によって生産してもよい。なお上記の本発明の実施形態に係る抗原結合性断片は、上記Fv抗体等の1種以上であってもよい。
【0053】
本発明の一実施形態において「キメラ抗体」は、例えば、異種生物間における抗体の可変領域と、抗体の定常領域とを連結したもので、遺伝子組換え技術によって構築できる。例えば、マウス-ヒトキメラ抗体、ニワトリ-ヒトキメラ抗体、ニワトリ-マウスキメラ抗体等が挙げられる。マウス-ヒトキメラ抗体は、例えば、"Roguska et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-973."に記載の方法で作製できる。マウス-ヒトキメラ抗体を作製するための基本的な方法は、例えば、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列及び可変領域配列を、哺乳類細胞の発現ベクター中にすでに存在するヒト抗体定常領域をコードする配列に連結する。又は、クローン化されたcDNAに存在するマウスリーダー配列及び可変領域配列をヒト抗体定常領域をコードする配列に連結した後、哺乳類細胞発現ベクターに連結してもよい。ヒト抗体定常領域の断片は、任意のヒト抗体のH鎖定常領域及びヒト抗体のL鎖定常領域のものとすることができ、例えばヒトH鎖のものについてはCγ1、Cγ2、Cγ3又はCγ4を、L鎖のものについてはCλ又はCκを各々挙げることができる。
【0054】
本発明の一実施形態において「ヒト化抗体」は、例えば、非ヒト種由来の1つ以上のCDR、及びヒト免疫グロブリン由来のフレームワーク領域、さらにヒト免疫グロブリン由来の定常領域を有し、所望の抗原に結合する抗体である。抗体のヒト化には、当該技術分野で既知の種々の手法を使用してもよい。本発明の一実施形態において「ヒト抗体」は、例えば、抗体を構成する重鎖の可変領域及び定常領域、軽鎖の可変領域及び定常領域を含む領域が、ヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来する抗体である。ヒト抗体の作製には、当該技術分野で既知の種々の手法を使用してもよい。
【0055】
本発明の一実施形態に係る抗PAD2抗体は、scFvの形態であってもよく、その場合、重鎖と軽鎖間にリンカーを有していてもよい。リンカーは、例えば、代表的には、GとPからなる0~5アミノ酸の配列が挙げられるがこれに限定されない。リンカーは必須ではなく、存在しなくてもよい。
【0056】
本発明の一実施形態において「アミノ酸」は、アミノ基とカルボキシル基を持つ有機化合物の総称である。本発明の実施形態に係る抗体が「特定のアミノ酸配列」を含むとき、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が化学修飾を受けていてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸が塩、又は溶媒和物を形成していてもよい。また、そのアミノ酸配列中のいずれかのアミノ酸がL型、又はD型であってもよい。それらのような場合でも、本発明の実施形態に係る抗体は、上記「特定のアミノ酸配列」を含むといえる。蛋白質に含まれるアミノ酸が生体内で受ける化学修飾としては、例えば、N末端修飾(例えば、アセチル化、ミリストイル化等)、C末端修飾(例えば、アミド化、グリコシルホスファチジルイノシトール付加等)、又は側鎖修飾(例えば、リン酸化、糖鎖付加等)等が知られている。
【0057】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体をコードするポリヌクレオチド又はベクターである。このポリヌクレオチド又はベクターを細胞に導入することによって、形質転換体を作製できる。形質転換体は、ヒト又はヒトを除く哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ウシ、サル等)の細胞であってもよい。哺乳動物細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、サル細胞COS-7、ヒト胎児由来腎臓細胞(例えば、HEK293細胞)などが挙げられる。又は、形質転換体はEscherichia属菌、酵母等であってもよい。上記ポリヌクレオチド又はベクターは、抗PAD2抗体を発現可能に構築されていてもよい。上記ポリヌクレオチド又はベクターは、例えば、プロモーター、エンハンサー、複製開始点、又は抗生物質耐性遺伝子など、蛋白質発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。上記ポリヌクレオチド又はベクターは、異種由来の塩基配列を有していてもよい。異種由来の塩基配列は、例えば、ヒト及びヒトを除く生物(例えば、細菌、古細菌、酵母、昆虫、鳥類、ウイルス、又はヒトを除く哺乳動物等)からなる群から選ばれる2種以上の生物由来の塩基配列を含んでいてもよい。
【0058】
上記のベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミド(例えばpET-Blue)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110)、酵母由来プラスミド(例えばpSH19)、動物細胞発現プラスミド(例えばpA1-11、pcDNA3.1-V5/His-TOPO)、λファージなどのバクテリオファージ、ウイルス由来のベクターなどを用いることができる。ベクターは発現ベクターであってもよく、環状であってもよい。
【0059】
上記のポリヌクレオチド又はベクターの細胞への導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、アデノウイルスによる方法、レトロウイルスによる方法、又はマイクロインジェクションなどを使用できる(改訂第4版 新 遺伝子工学ハンドブック, 羊土社(2003):152-179.)。細胞を用いた抗体の生産方法としては、例えば、"タンパク質実験ハンドブック,羊土社(2003):128-142."に記載の方法を使用できる。
【0060】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係るポリヌクレオチド又はベクターを含有する細胞を増殖させる工程を含む、抗PAD2抗体の生産方法である。上記増殖させる工程は、培養する工程を含む。またこの生産方法は、抗PAD2抗体を回収する工程を含んでいてもよい。またこの生産方法は、細胞培養液を調製する工程を含んでいてもよい。またこの生産方法は、抗PAD2抗体を精製する工程を含んでいてもよい。
【0061】
本発明の一実施形態において、抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム、エタノール沈殿、プロテインA、プロテインG、ゲルろ過クロマトグラフィー、陰イオン、陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、又はレクチンクロマトグラフィーなどを用いることができる(タンパク質実験ハンドブック, 羊土社(2003):27-52.)。
【0062】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を含む、組成物である。この組成物を用いれば、PAD2を効率的に検出できる。また、PAD2のシトルリン化を効率的に阻害することができる。この組成物が含有する成分は特に限定されず、例えば、緩衝液を含んでいてもよい。この組成物に対して、後述の阻害剤及び医薬組成物に係る種々の実施形態(例えば、担体を含有可能なこと等)の1つ以上を適用してもよい。
【0063】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を含む、PAD2のシトルリン化活性阻害剤である。この阻害剤を用いれば、PAD2によるシトルリン化を効率的に阻害することができる。上記阻害剤によるシトルリン化活性の低下率は、20、30、40、60、80%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この低下率は、例えば、PBSを用いたときの低下率を0%としたときの相対割合で表してもよい。本発明の一実施形態において「剤」は、例えば、研究又は治療に用いられる組成物を含む。上記阻害剤は、例えば、治療剤を含む。上記阻害剤は、例えば、in vitro又はin vovoで用いることができる。上記阻害剤は、上記の本発明の実施形態に係る組成物を含んでいてもよい。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体と、PAD2とを接触させる工程を含む、PAD2のシトルリン化活性阻害方法である。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を患者に投与する工程を含む、PAD2のシトルリン化活性阻害方法である。上記阻害方法は、研究又は治療のために行われる阻害方法を含む。本発明の一実施形態は、PAD2のシトルリン化活性阻害剤を生産するための、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体の使用である。本発明の一実施形態においてシトルリン化する蛋白質は特に限定されないが、例えば、アルギニンを有する蛋白質を含む。この蛋白質は、例えば、ヒストン、ミエリン塩基性蛋白質を含む。
【0064】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を含む、医薬組成物である。この医薬組成物は、薬理学的に許容される1つ以上の担体を含んでいてもよい。医薬組成物は、例えば、関節炎、関節リウマチ、又は多発性硬化症の治療用医薬組成物を含む。上記医薬組成物は、上記の本発明の実施形態に係る組成物を含んでいてもよい。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体(又は抗PAD2抗体を含む医薬組成物)を患者に投与する工程を含む、疾患の治療方法である。治療は、例えば、関節炎、関節リウマチ、多発性硬化症、又はシェーグレン症候群の治療を含む。後述の実施例に記載のS4等の抗PAD2抗体は、ヒストンのシトルリン化を強く阻害することから、関節炎又は関節リウマチの治療に特に有効である。また、S4等の抗PAD2抗体は、ミエリン塩基性蛋白質のシトルリン化を強く阻害することから、多発性硬化症の治療に特に有効である。本発明の一実施形態は、医薬組成物を生産するための、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体の使用である。
【0065】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を含む、PAD2の検出試薬である。この試薬を用いれば、効率的にPADを検出できる。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体と、試験サンプルを接触させる工程を含む、PAD2の検出方法である。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD2抗体を含む、キットである。このキットを用いれば、例えば、疾患の治療、診断、又はPAD2の検出ができる。このキットは、例えば、上記の本発明の実施形態に係る組成物、阻害剤、医薬組成物、診断薬、又は検出試薬を含んでいてもよく、取扱説明書、緩衝液、容器、又は包装を含んでいてもよい。
【0066】
本発明の一実施形態において「治療」は、患者の疾患、もしくは疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果、抑制効果、又は予防効果を発揮しうることを含む。本発明の一実施形態において「治療薬」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つ以上の担体とを含む医薬組成物であってもよい。本発明の一実施形態において「医薬組成物」は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造してもよい。また医薬組成物は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体又は液体(例えば、緩衝液)であってもよい。上記担体の含有量は、例えば、製剤学上有効量であってもよい。有効量は、例えば、有効成分の製剤学的な安定性又は送達のために十分量であってもよい。例えば、緩衝液は、バイアル中における有効成分の安定化に有効である。投与量、投与間隔、投与方法は、特に限定されず、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。また医薬組成物は、治療有効量、又は所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。
【0067】
本発明の一実施形態は、組成物中の、PAD2の341~357位に特異的に結合する抗PAD2抗体の割合を増加させる工程を含む、組成物のシトルリン化活性阻害能を促進させる方法である。本発明の一実施形態は、抗PAD2抗体を含有する組成物であって、組成物中の抗PAD2抗体分子の90%以上が、PAD2の341~357位に特異的に結合する抗PAD2抗体である、組成物である。本発明の一実施形態は、抗PAD2抗体を含有する抗体集団であって、抗体集団中の抗PAD2抗体分子の90%以上が、PAD2の341~357位に特異的に結合する抗PAD2抗体である、抗体集団である。上記90%以上は、例えば、90、95、96、97、98、99%以上、又は100%であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0068】
本発明の一実施形態は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドである。このペプチドを用いれば、PAD2に結合する抗体を生産することができる。また、PAD2に結合する抗体を検出することができる。配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、化学修飾(例えば、KLH修飾)を受けていてもよく、そのような化学修飾ペプチドも配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドの一形態に含まれる。配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、単離、精製、又は濃縮されたペプチドであってもよい。
【0069】
本発明の一実施形態は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む抗原組成物である。この抗原組成物は、例えば、緩衝液、又はアジュバンドを含んでいてもよい。本発明の一実施形態は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを哺乳類又は鳥類に免疫する工程を含む、抗PAD2抗体の生産方法である。本発明の一実施形態は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、抗体又は抗体ライブラリーを接触させる工程を含む、抗PAD2抗体の生産方法である。本発明の一実施形態は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドと、抗PAD2抗体を含む試験サンプルと、を接触させる工程を含む、PAD2に結合する抗体の検出方法である。本発明の一実施形態は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む、活性型PAD2に結合する抗体の検出用組成物である。
【0070】
本発明の一実施形態において「結合」は、共有結合又は非共有結合のいずれであってもよく、例えば、イオン結合、水素結合、疎水性相互作用、又は親水性相互作用であってもよい。
【0071】
本発明の一実施形態において「有意に」は、例えば、統計学的有意差をスチューデントのt検定(片側又は両側)を使用して評価し、p<0.05又はp<0.01である状態であってもよい。又は、実質的に差異が生じている状態であってもよい。
【0072】
本明細書において引用しているあらゆる刊行物、公報類(特許、又は特許出願)は、その全体を参照により援用する。
【0073】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。本明細書において「A~B」は、A以上B以下を意味するものとする。
【0074】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>抗PAD2抗体の作製
3ヵ月齢のボリスブラウン3羽に対してKLH修飾されたペプチド抗原(配列番号1、PAD2の341~357位)を各333 μgずつ腹腔に免疫した。一次免疫には完全フロイントアジュバンド(014-09541、Wako)、二次および三次免疫には不完全フロイントアジュバンド(011-09551、Wako)を用いて抗原を免疫した。四次免疫はPBS(phosphate buffered saline)に希釈した抗原を静脈注射した。隔週で翼下静脈より採血を行い、ELISAによって抗体価の確認を行った。3次免疫まで実施し、4次免疫を最終免疫とした。最終免疫3日後、ニワトリの脾臓を回収し、 Ficoll paque PLUS(17-1440-03、GE Healthcare)を用いた密度勾配遠心によりリンパ球を単離し、TRIzole Reagent(15596026、Life Technologies)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAからPrimeScript II 1st Strand cDNA Synthesis Kit(6210A、TAKARA)を用いたRT-PCRによりcDNAの合成を行い、scFvファージライブラリーを作製した。発現ベクターはpPDSのマウスκ鎖の代わりにニワトリλ鎖を挿入したタイプの発現ベクターを使用した。scFvファージライブラリーの作製は、参考文献:"Nakamura et al., J Vet Med Sci. 2004 Ju;66 (7): 807-814"に記載の方法に従って行った。
【0077】
scFvファージ抗体ライブラリーを用いて、完全長PAD2を固相化したプレートによるパニングを行った。パニングは参考文献:"Nakamura et al., J Vet Med Sci. 2004 Ju;66 (7): 807-814"に記載の方法に従って行った。5回パニングを行った後、合成ペプチドを固相化したプレートを用いたELISAによってライブラリーの反応性を確認し、反応性が上昇し始めたライブラリーからファージのスクリーニングを行った。スクリーニングは、ファージを大腸菌に感染させ、アンピシリン(50 μg/ml、nacalai社)を含む2×YT Agar plateにプレーティングし、得られたコロニーをアンピシリン含有2×YT液体培地中で培養した。ヘルパーファージに感染させた後、アンピシリン(50 μg/ml)、カナマイシン(25 μg/ml、明治製菓株式会社)、IPTG(100 μg/ml、nacalai)含有2×YT液体培地中でファージの誘導を行った。得られた培養上清中のscFvファージ抗体の反応性を、抗原固相化プレートを用いたELISAによって確認した。得られた陽性クローンはDNAシークエンサー(ABI PRISM 3100-Genetic Analyzer、Applied Biosystems)を用いてシークエンスを行い配列を決定した。
【0078】
配列の異なるクローンは、scFv抗体をコードするDNA鎖を鋳型にして、ニワトリ由来抗体遺伝子H鎖可変領域およびL鎖可変領域の増幅をPCRで行った後、PCR産物をSacIIおよびNheI制限酵素処理(R0157S、R0131S、BioLabs)し、H鎖可変領域およびL鎖可変領域のそれぞれについて、同じように制限酵素処理したマウス/ニワトリキメラ抗体(IgG1)発現ベクター(H鎖用発現ベクター:pcDNA4/myc-His、L鎖用発現ベクター:pcDNA3/myc-His、Invitrogen)に組換えた。作製したH鎖およびL鎖のコンストラクトをCHO細胞にトランスフェクトした後、完全長PAD2を固相したELISAで反応性の確認を行った。使用したマウスキメラ発現ベクターはTateishi et al., J Vet Med Sci. 2008 Apr;70(4): 397-400に記載されているベクターを使用した。以上により得られた抗体クローンのうち、S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309を以下の実験で使用した。以下ではこれらの抗体を纏めて「S4等」と称することもある。
【0079】
<実施例2>抗PAD2抗体の反応性評価
(2-1)ELISA
以下の条件でELISAを行い、S4等のヒトPAD2に対する反応性を評価した。
(2-1-1)材料
・抗体:抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)、WO/2014/086365の抗PAD2抗体(#2、#34)、抗ジニトロフェニル(DNP)抗体(ネガティブコントロール抗体)。上記#2、#34は、WO/2014/086365の実施例に記載の可変領域のアミノ酸配列をもとに作製したものを使用した(以下の実施例も同じ)。
・抗原:完全長ヒトPAD2抗原
【0080】
【0081】
(2-1-3)結果
抗PAD2抗体のELISAの結果から、50%効果濃度(EC
50)の値を求めた。結果を表2に示す。値が小さいほど反応性が高いことを示す。いずれの抗体もPAD2に対する高い反応性を示した。
【表2】
【0082】
(2-2)Biacore
Biacore(GE Healthcare、Biacore T200)によって、S4等のヒトPAD2に対する親和性を評価した。
(2-2-1)材料
・抗体:抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)
・抗原:完全長ヒトPAD2抗原
【0083】
(2-2-2)方法
Biacore(GE Healthcare、Biacore T200)によって、S4等のヒトPAD2に対する親和性を評価した。親和性の測定には、Mouse Antibody Capture Kit(GE Healthcare、BR-1008-38)を用いた。具体的には、メーカー提供の標準プロトコルに従い、NHS/EDCを使用し、CM5チップ表面のフリーカルボキシル基を利用したアミンカップリング法によって、ウサギ抗マウスポリクローナル抗体をCM5チップ表面に固定化した。次に、S4等をウサギ抗マウスポリクローナル抗体にキャプチャーした。Biacore T200に種々の濃度のヒトPAD2を供し、カイネティクスセンサーグラムを作成した。
【0084】
(2-2-3)結果
親和性測定の結果を表3及び
図1に示す。いずれの抗体もPAD2に対する高い親和性を示した。
【表3】
【0085】
<実施例3>抗PAD2抗体のシトルリン化阻害活性能の評価
以下の条件で、抗PAD2抗体がPAD2のシトルリン化活性を阻害する能力を測定した。
【0086】
(3-1)材料
・組換蛋白質:完全長組換えヒトPAD2を含む粗画分
・基質:BAEE(Nα-ベンゾニル-L-アルギニンエチルエステルヒドロクロリド)
・抗体:抗DNP抗体(ネガティブコントロール)、抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)、WO/2014/086365の抗PAD2抗体(#34)
【0087】
(3-2)方法
作製した抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)、#34、抗DNP抗体(ネガティブコントロール)それぞれについて1-6000 nMの抗体溶液を5μL、3.75 ng/μL(50nM)ヒトPAD2を5μL調製し、Tris-HCl 緩衝液(pH 7.6)、NaCl、DTTを全量が44μLになるように混合した。この溶液を室温で30分静置させた後、5μLの100 mM BAEE(ベンゾイルアルギニンエチルエステル)、1μLの0.05 M CaCl2を同時に加えてよく攪拌した。このときの溶液は、全量50μL、終濃度20 mM Tris-HCl (pH 7.6)、150 mM NaCl、1 mM DTT、10 mM BAEE、1 mM CaCl2、5 nMヒトPAD2、及び0.1-600 nM各抗体である。この溶液を37℃で4時間静置させ、5Mの過塩素酸を12.5μLを加えて反応を停止させた。この溶液中に含まれるシトルリン化されたBAEEを比色定量した。
【0088】
(3-3)結果
ヒトPAD2に50%活性阻害を与える抗体濃度(EC
50)を表4に示す。600 nM以下で50%活性阻害を与える抗体濃度を算出できなかった場合はND(Not determined)と表記した。S4等の抗体が、#34に比べて高い阻害活性能を有していることが示された。
【表4】
【0089】
<実施例4>抗PAD2抗体のシトルリン化阻害活性能の評価
以下の条件で、抗PAD2抗体がカルシウム結合体PAD2のシトルリン化活性を阻害する能力を測定した。
【0090】
(4-1)材料
・組換蛋白質:完全長組換えヒトPAD2を含む粗画分
・基質:BAEE(Nα-ベンゾニル-L-アルギニンエチルエステルヒドロクロリド)
・抗体:抗DNP抗体(ネガティブコントロール)、抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)、WO/2014/086365の抗PAD2抗体(#2)
【0091】
(4-2)方法
3.75 ng/μL(50nM)ヒトPAD2を5μL調製し、Tris-HCl 緩衝液(pH 7.6)、NaCl、DTTを全量が29μLになるように混合した。この溶液に、CaCl2を5μL添加し室温で30分静置させた。この溶液に対して、作製した抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)、#2、抗DNP抗体(ネガティブコントロール)それぞれについて0.5-3000 nMの抗体溶液を10μL、100 mM BAEE (ベンゾイルアルギニンエチルエステル)を5μL、水を1μLそれぞれ同時に加えてよく攪拌した。このときの溶液は、全量50μL、終濃度20 mM Tris-HCl (pH 7.6)、150 mM NaCl、1 mM DTT、10 mM BAEE、1 mM CaCl2、5 nMヒトPAD2、及び0.1-600 nM各抗体である。この溶液を37℃で4時間静置させ、5Mの過塩素酸を12.5μLを加えて反応を停止させた。この溶液中に含まれるシトルリン化されたBAEEを比色定量した。
【0092】
(4-3)結果
ヒトPAD2に25%活性阻害を与える抗体濃度(EC
25)を表5に示す。600 nM以下で25%活性阻害を与える抗体濃度を算出できなかった場合はND(Not determined)と表記した。カルシウム結合体PAD2のシトルリン化活性に関して、S4等の抗体が、#2に比べて高い阻害活性能を有していることが示された。
【表5】
【0093】
<実施例5>抗PAD2抗体のシトルリン化阻害活性能の評価
以下の条件で、抗PAD2抗体がPAD2のシトルリン化活性を阻害する能力を測定した。このとき、基質に子牛胸腺由来ヒストンを使用した。
【0094】
(5-1)材料
・組換蛋白質:完全長組換えヒトPAD2を含む粗画分
・基質:子牛胸腺由来ヒストン
・抗体:抗DNP抗体(ネガティブコントロール)、抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170)、WO/2014/086365の抗PAD2抗体(#2、#34)
【0095】
(5-2)方法
作製した抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170)、#2、#34、抗DNP抗体(ネガティブコントロール)それぞれについて1-6000 nMの抗体溶液を5μL、3.75 ng/μL(50nM)ヒトPAD2を5μL調製し、Tris-HCl 緩衝液(pH 7.6)、NaCl、DTTを全量が44μLになるように混合した。この溶液を室温で30分静置させた後、5μLの子牛胸腺由来ヒストン、1μLの0.05 M CaCl2を同時に加えてよく攪拌した。このときの溶液は、全量50μL、終濃度20 mM Tris-HCl (pH 7.6)、150 mM NaCl、1 mM DTT、1.8 mg/mL ヒストン、1 mM CaCl2、5 nMヒトPAD2、及び0.1-600 nM各抗体である。この溶液を37℃で4時間静置させ、5Mの過塩素酸を12.5μLを加えて反応を停止させた。この溶液中に含まれるシトルリン化された子牛胸腺由来ヒストンを比色定量した。
【0096】
(5-3)結果
ヒトPAD2に50%活性阻害を与える抗体濃度(EC
50)を表6に示す。600 nM以下で50%活性阻害を与える抗体濃度を算出できなかった場合はND(Not determined)と表記した。S4等の抗体が、#2及び#34に比べて高い阻害活性能を有していることが示された。
【表6】
【0097】
<実施例6>抗PAD2抗体のシトルリン化活性阻害能の評価
以下の条件で、抗PAD2抗体がPAD2のシトルリン化活性を阻害する能力を測定した。このとき、基質に牛由来ミエリン塩基性蛋白質を使用した。
【0098】
(6-1)材料
・組換蛋白質:完全長組換えヒトPAD2を含む粗画分
・基質:牛由来ミエリン塩基性蛋白質
・抗体:抗DNP抗体(ネガティブコントロール)、抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)、WO/2014/086365の抗PAD2抗体(#2、#34)
【0099】
(6-2)方法
作製した抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S47、S108、S113、S170、S309)、#2、#34、抗DNP抗体(ネガティブコントロール)それぞれについて6000 nMの抗体溶液を5μL、3.75 ng/μL(50nM)ヒトPAD2を5μL調製し、Tris-HCl 緩衝液(pH 7.6)、NaCl、DTTを全量が44μLになるように混合した。この溶液を室温で30分静置させた後、5μLの牛由来ミエリン塩基性蛋白質、1μLの0.05 M CaCl2を同時に加えてよく攪拌した。このときの溶液は、全量50μL、終濃度20 mM Tris-HCl (pH 7.6)、150 mM NaCl、1 mM DTT、1.8 mg/mL 牛由来ミエリン塩基性蛋白質、1 mM CaCl2、5 nMヒトPAD2、及び600 nM各抗体である。この溶液を37℃で4時間静置させ、5Mの過塩素酸を12.5μLを加えて反応を停止させた。この溶液中に含まれるシトルリン化された牛由来ミエリン塩基性蛋白質を比色定量した。
【0100】
(6-3)結果
各抗体添加時のヒトPAD2のシトルリン化活性能の測定結果を
図2に示す。
図2の値は、TBSの値を100%としたときの平均値および標準偏差である。#2及び#34の抗体には阻害活性が見られなかった。一方で、S4等の抗体は高い阻害活性能を示した。抗DNP抗体(ネガティブコントロール)に対して有意差がみられた抗体には、*(p<0.01)と示した。
【0101】
<実施例7>エピトープの評価
(7-1)方法
抗原配列(YLNRGDRWIQDEIEFGY、配列番号1)のアミノ酸残基を3アミノ酸ずつアラニンへ置換することで、6個のAla変異体(配列番号3~8)を合成した。各Ala変異体と作製した抗PAD2抗体(S4、S10、S24、S108、S170、S309)の反応性を評価(ELISA)した。S4等の抗体が有意な反応性を示さなかったAla変異体の、Ala置換前のアミノ酸残基をエピトープと評価した。
【0102】
(7-2)Ala変異体
AAARGDRWIQDEIEFGY(配列番号3)
YLNAAARWIQDEIEFGY(配列番号4)
YLNRGDAAAQDEIEFGY(配列番号5)
YLNRGDRWIAAAIEFGY(配列番号6)
YLNRGDRWIQDEAAAGY(配列番号7)
YLNRGDRWIQDEIEFAA(配列番号8)
【0103】
【0104】
(7-4)結果
S4等の各Ala変異体およびオリジナル抗原配列に対する50%効果濃度(EC
50)の値を
図3に示す。この結果からわかるように、S4等はPAD2の344~357位に対応する位置に変異を有するAla変異体に有意な反応性を示さなかった。このことから、S4等は341~357位の中でも特にPAD2の344~357位内のアミノ酸を認識していることが明らかになった。
【0105】
以上の実施例により、PAD2の341~357位に結合する抗体が、PAD2によるシトルリン化に関して、優れた阻害活性を有することが明らかとなった。
【0106】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【配列表】