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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】耐火性シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/02 20190101AFI20220607BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
B32B7/02
B32B5/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017143868
(22)【出願日】2017-07-25
(65)【公開番号】P2018020564
(43)【公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2016145659
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(72)【発明者】
【氏名】宮田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】上田 明良
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-270019(JP,A)
【文献】特開2004-092256(JP,A)
【文献】特開2005-219456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/027
B32B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張性耐火材料層と、熱膨張性耐火材料層の少なくとも片面側に直接接して積層された有機基材層とを備えた耐火性シートであって、
前記熱膨張性耐火材料層は、マトリックス樹脂、熱膨張性黒鉛及び無機充填剤を含有し、前記マトリックス樹脂100重量部に対して、前記熱膨張性黒鉛を10~350重量部、前記無機充填剤を30~400重量部の割合で含有し、
有機基材層は合成樹脂繊維から形成されており、
有機基材層の側から加熱したときに、熱膨張性耐火材料層の膨張前に有機基材層が燃焼することを特徴とする耐火性シート。
【請求項2】
耐火性シートに対する有機基材層の占める厚みの割合が25%以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐火シート。
【請求項3】
前記マトリックス樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、及びブチルゴムからなる群から選択される一種以上である請求項1又は2に記載の耐火性シート。
【請求項4】
前記熱膨張性耐火材料層の両面側に、前記有機基材層が積層されている請求項1~のいずれかに記載の耐火性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐火性シートに関し、特には熱膨張性耐火材料層を備えた耐火性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する熱膨張性材料はヒビ割れが発生しやすいという性質があり、ヒビ割れを防止するために熱膨張性材料の表面に無機系の基材を取り付けることが行われていた。
【0003】
特許文献1には、金属薄板又は無機繊維不織布からなる基材層と、基材層に積層した熱膨張性耐火材層及び緩衝性材料層とを備え、熱膨張性耐火材層は加熱によって膨張して耐火断熱層を形成しうる材料で形成されることを特徴とする耐火性部材が開示されている。
【0004】
特許文献2には、エポキシ樹脂100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛15~150重量部及び無機充填剤30~500重量部からなる厚み0.3~6mmのシート中に、1m2当たりの重量が25~2000gの不燃性繊維状材料からなるネット又はマットが含浸されてなることを特徴とする耐火性シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-324370
【文献】特開2002-012678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されているような無機系基材を熱膨張性耐火材層と積層させて使用すると、無機系基材の影響で熱膨張性耐火材層まで熱が到達し難いという問題があった。特に、火災発生時の初期段階では室内温度が低いため、熱膨張性層が充分膨張しない場合がある。また、熱膨張性耐火材層の熱膨張性黒鉛の膨張が無機系基材の存在により阻害されるという問題もあった。
【0007】
本発明の目的は、火災初期時の充分に温度の上がりきっていない状況下でも迅速に熱膨張性材料層が膨張を開始し、かつ、熱膨張性耐火材料層の膨張が基材層によって妨げられない耐火性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、加熱表面となる基材として、特定の有機系基材を用いることにより、耐火性シートの加熱時に、基材の燃焼効果による熱膨張性耐火材料層の膨張が促され、熱膨張性耐火材料層の膨張も妨げられないことを見出した。そして、有機基材層の側から加熱したときに熱膨張性耐火材料層の膨張前に有機基材層が燃焼する構成にすることで本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
[1]熱膨張性耐火材料層と、熱膨張性耐火材料層の少なくとも片面側に積層された有機基材層とを備えた耐火性シートであって、有機基材層の側から加熱したときに、熱膨張性耐火材料層の膨張前に有機基材層が燃焼することを特徴とする耐火性シート。
[2] 耐火性シートに対する有機基材層の占める厚みの割合が25%以下であることを特徴とする[1]に記載の耐火シート。
[3]膨張性耐火材料層は、マトリックス樹脂、熱膨張性層状無機物、及び無機充填剤を含有する[1]に記載の耐火性シート。
[4]前記マトリックス樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、及びブチルゴムからなる群から選択される一種以上である[3]に記載の耐火性シート。
[5]前記有機基材層は合成樹脂繊維から形成されている[1]~[5]のいずれかに記載の耐火性シート。
[6]前記有機基材層と前記熱膨張性耐火材料層との間に、前記有機基材層及び前記熱膨張性耐火材料層の接着を支援するラミネート層が積層されている[1]~[5]のいずれかに記載の耐火性シート。
[7]耐火性シートに対する有機基材層およびラミネート層の合計の占める厚みの割合が25%以下であることを特徴とする[6]に記載の耐火シート。
[8]前記熱膨張性耐火材料層の両面側に、前記有機基材層が積層されている[1]~[7]のいずれかに記載の耐火性シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱膨張性材料層の膨張は基材層によって阻害されず、加熱時に低温であっても熱膨張可能となり、耐火性シートは従来より火災初期に低温でも十分な耐火性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態の耐火性シート。
図2】本発明の第2実施形態の耐火性シート。
図3】本発明の第3実施形態の耐火性シート。
図4】本発明の第4実施形態の耐火性シート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1に示されるように、本発明の第1実施形態の耐火性シート1は、熱膨張性耐火材料層2と、熱膨張性耐火材料層2の少なくとも片面側に積層された有機基材層3とを備えている。有機基材層3は、有機基材層3の側から加熱したときに、熱膨張性耐火材料層2の膨張前に燃焼する。熱膨張性耐火材料層2と有機基材層3の厚みは特に限定されないが、熱膨張性耐火材料層2は例えば0.1~6mm、有機基材層3は例えば5μm~500mmであり、好ましくは10μm~1mmである。なお、「熱膨張性耐火材料層2の少なくとも片面側に積層された有機基材層3」という場合、有機基材層3は、熱膨張性耐火材料層2の少なくとも片面側に直接積層されることもできるし、熱膨張性耐火材料層2と有機基材層3の間に別の層を介して熱膨張性耐火材料層2に間接的に積層されることもできる。
【0014】
なお、膨張開始温度とは、200℃から10℃ずつ温度を挙げて基材層の側から加熱し、基材層の表面から10mm離れた温度を測定し、熱膨張性耐火材料層が膨張を開始した温度を指す。
【0015】
火災等により耐火性シート1が加熱されると、最初に可燃性の有機基材層3が燃焼を開始する。有機基材層3が火災発生時の初期段階において燃焼し発熱することにより、熱膨張性材料層2の膨張を促進し、熱膨張性材料層2は有機基材層3が存在しない場合よりも低い温度で膨張を開始する。また、有機基材層3は加熱により焼失していくため、熱膨張性耐火材料層2の膨張は阻害されない。つまり、従来技術と異なり、有機基材層3は熱膨張性材料層2の膨張を支援するための誘導層として機能する。
【0016】
熱膨張性材料層2の膨張を効率よく促す為には、短時間で熱を熱膨張性材料層2に伝える必要がある。従って、燃焼速度が速いものが好ましい。従って、膨張を支援する誘導層としての有機基材層3は、引火点、発火点が低い方が、燃焼速度の観点より、熱膨張性材料層2の膨張が促され効果が大きい。
【0017】
しかしながら、燃焼成分が多すぎると火災時、有機基材層3の燃焼による炎が他の部分の引火を引きおこす可能性があるため、耐火性シート1全体に対する有機基材層3の厚みの割合は25%以下が好ましい。
【0018】
熱膨張性材料層2は、マトリックス樹脂、熱膨張性層状無機物、及び無機充填剤を含有する耐火性樹脂組成物から形成されている。
【0019】
マトリックス樹脂としては、公知の樹脂を広く使用でき、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
【0022】
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0023】
これらの合成樹脂及び/又はゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0024】
これらの合成樹脂及び/又はゴム物質の中でも、取り扱い易さ及び耐火性能の点では塩化ビニル系樹脂が好ましく、より柔軟で扱い易い樹脂組成物を得るためには、ブチル等の非加硫ゴムおよびポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。代わりに、樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
【0025】
ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、及びブチルゴムからなる群から選択される一種以上のマトリックス樹脂が、取り扱い易さ及び/又は防火性能の点で好ましく、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0026】
熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものである。かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。熱膨張性黒鉛とは、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
【0027】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP-EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
【0028】
無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;難燃剤としての無機リン酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0029】
無機充填剤の粒径としては、0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1~50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm以上であると、分散性が良好である。添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、粒径の大きいものが好ましいが、100μm以下の粒径が成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性の点で望ましい。
【0030】
さらに、熱膨張性耐火材料層2を構成する耐火性樹脂組成物は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含むことができる。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、及び、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
【0031】
【化1】
【0032】
化学式(1)中、R1およびR3は、同一又は異なって、水素、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、炭素数6~16のアリール基を示す。R2は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状あるいは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、または、炭素数6~16のアリールオキシ基を示す。
【0033】
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
【0034】
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t-ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0035】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、マトリックス樹脂100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を10~350重量部及び前記無機充填剤を30~400重量部の範囲で含むものが好ましい。
【0036】
また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填剤の合計は、マトリックス樹脂100重量部に対し、50~600重量部の範囲が好ましい。
【0037】
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
【0038】
前記樹脂組成物における熱膨張性層状無機物及び無機充填剤の合計量は、50重量部以上では燃焼後の残渣量を満足して十分な耐火性能が得られ、600重量部以下であると機械的物性が維持される。
【0039】
さらに本発明に使用する前記樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、可塑剤、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0040】
熱膨張性耐火材料層2は市販品の熱膨張性耐火材を入手可能である。例えば、住友スリーエム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトとを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック等の熱膨張性耐火材等が挙げられる。
【0041】
有機基材層3を構成する有機材料は特に限定されず、紙、布、合成樹脂等が挙げられる。合成樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
【0042】
また、有機基材層3はフィルム、シート、又は繊維の形で構成することができる。繊維は天然繊維であっても合成繊維であってもよく、織布又は不織布であってもよい。天然繊維としてはパルプ、コットン等の天然繊維が挙げられる。合成繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等の合成繊維等が挙げられる。有機基材層3を特に合成樹脂から形成された不織布から形成すると、熱膨張性材料層2との接着性が良く、有機基材層の寸法の設定が容易であるため好ましい。
【0043】
有機基材層3の燃焼速度は、有機基材層3を構成する合成樹脂を選択することで当業者には設定可能である。有機基材層3は有機基材層3に点火して加熱を開始してから5分以内に焼失する組成及び厚みで構成することが好ましい。このような構成にすれば、火災発生時には5分以内に有機基材層3が焼失するため、熱膨張性材料層2の膨張をより阻害しない。
【0044】
熱膨張性耐火材料層2の膨張開始温度は、特に熱膨張性層状無機物の膨張開始温度の影響を受ける。熱膨張性層状無機物である膨張性黒鉛の膨張開始温度は、通常150~250℃程度であるが、熱膨張性耐火材料層2の構成成分の配合量を適宜選択することで当業者には設定可能である。
【0045】
ここまで、本発明を第1実施形態を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、以下のような種々の変形が可能である。
【0046】
図2に示すように、有機基材層3と熱膨張性耐火材料層2との間には、有機基材層3及び熱膨張性耐火材料層2の接着を支援するラミネート層4が積層されていてもよい。ラミネート層4としては、接着剤、接着シート、充填パテ等が挙げられる。好ましくは、ラミネート層4は、有機基材層3と熱膨張性耐火材料層2を加熱により接着したときに溶融する材料から構成されている。このような構成によれば、有機基材層3と熱膨張性耐火材料層2との間の接着性が弱くても、より強く一体化された耐火性シート1を得ることができる。
【0047】
図3に示すように、熱膨張性耐火材料層2の両面に、有機基材層3が積層されてもよい。
【0048】
図4に示すように、耐火性シート1は、ラミネート層4と、ラミネート層4の両面側の有機基材層3と、有機基材層3の各々にさらに積層された熱膨張性耐火材料層2とを備えていてもよい。ラミネート層4はこのように有機基材層3と有機基材層3の間に配置され、2つの有機基材層3間の接着を支援してもよい。
耐火性シート1がラミネート層4を備えている場合、有機基材層3の燃焼による炎による他の部分の引火を防止するため、耐火性シート1に対する有機基材層3およびラミネート層の4の合計の占める厚みの割合が25%以下であることが好ましい。
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例
【0050】
試験例1
1.耐火性シートの製造
エポキシ樹脂をマトリックス樹脂として含む厚さ1mmの熱膨張性耐火層(積水化学工業社製フィブロック)の上に、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート製の不織布を積層し、図1と同じ構成の実施例1の耐火性シートとした。
【0051】
ポリエチレンテレフタレート製の不織布を積層しない、エポキシ樹脂の熱膨張性耐火材料層を、比較例1の耐火シートとした。
【0052】
エポキシ樹脂の熱膨張性耐火層の上に、厚さ50μmの接着層付きアルミニウム箔を積層し、比較例2の耐火シートとした。
2.加熱試験
実施例1、比較例1及び比較例2の耐火シートを、長さ99mm×幅99mmの寸法に切断した試験片を作製し、各試験片を、200℃から10℃ずつ温度を挙げて基材層の側から加熱し、基材層の表面から10mm離れた温度を測定し、熱膨張性耐火材料層が膨張を開始した温度を膨張開始温度とした。
3.膨張倍率の測定
実施例1、比較例1及び比較例2の耐火シートを長さ100mm、幅100mmの寸法に切断した試験片を作製し、これらの試験片を電気炉に供給し、600℃で10分間加熱した後で、試験片の厚さを測定し、膨張倍率を(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)として算出した。
4.試験結果
表1に示すように、実施例1の耐火シートは、最も低い温度で膨張を開始し、かつ膨張倍率が高かった。基材層がない比較例1と比較しても、膨張倍率の高さは維持したまま、より低温で膨張が開始することが分かった。
【0053】
【表1】
【0054】
試験例2
1.耐火性シートの製造
表2に記載の組成の熱膨張性耐火層の両面側に、表2に記載の基材層を積層し、図3と同じ構成の実施例2~11の耐火性シートを調製した。
【0055】
【表2】
【0056】
2.加熱試験及び膨張倍率の測定
試験例1と同様の方法により測定した。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0059】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
また、本発明は以下の構成を採用することもできる。
[1]熱膨張性耐火材料層と、熱膨張性耐火材料層の少なくとも片面側に積層された有機基材層とを備えた耐火性シートであって、有機基材層の側から加熱したときに、熱膨張性耐火材料層の膨張前に有機基材層が燃焼することを特徴とする耐火性シート。
[2] 耐火性シートに対する有機基材層の占める厚みの割合が25%以下であることを特徴とする[1]に記載の耐火シート。
[3]膨張性耐火材料層は、マトリックス樹脂、熱膨張性層状無機物、及び無機充填剤を含有する[1]に記載の耐火性シート。
[4]前記マトリックス樹脂が、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩素化塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、及びブチルゴムからなる群から選択される一種以上である[3]に記載の耐火性シート。
[5]前記有機基材層は合成樹脂繊維から形成されている[1]~[5]のいずれかに記載の耐火性シート。
[6]前記有機基材層と前記熱膨張性耐火材料層との間に、前記有機基材層及び前記熱膨張性耐火材料層の接着を支援するラミネート層が積層されている[1]~[5]のいずれかに記載の耐火性シート。
[7]耐火性シートにおける有機基材層およびラミネート層の合計の占める厚みの割合が25%以下であることを特徴とする[6]に記載の耐火シート。
[8]前記熱膨張性耐火材料層の両面側に、前記有機基材層が積層されている[1]~[7]のいずれかに記載の耐火性シート。
[9]有機基材層を、有機基材層に点火して加熱を開始してから5分以内に焼失する組成及び厚みで構成する[1]~[8]のいずれかに記載の耐火性シート。
【符号の説明】
【0061】
1・・・耐火性シート、2・・・熱膨張性耐火材料層、3・・・有機基材層、4・・・ラミネート層。
図1
図2
図3
図4