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特許7084139ブドウとブルーベリーの混合体を包含する特定の栄養組成物又は治療組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】ブドウとブルーベリーの混合体を包含する特定の栄養組成物又は治療組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220607BHJP
   A61K 36/87 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 36/45 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220607BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/87
A61K31/353
A61K31/192
A61K31/7048
A61K36/45
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/24
A61P3/10
A61P25/18
A61P3/02
A61P25/22
A61P25/20
A61P27/02
A23L2/00 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017515987
(86)(22)【出願日】2016-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2016075905
(87)【国際公開番号】W WO2017072219
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-10-28
(31)【優先権主張番号】1560263
(32)【優先日】2015-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517094312
【氏名又は名称】アクティバンシド
(73)【特許権者】
【識別番号】516181527
【氏名又は名称】スペシャリテ・ペット・フード
(73)【特許権者】
【識別番号】517094323
【氏名又は名称】ラヴァル大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517094334
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シァンティフィック(アイエヌアールエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッド・ゴドゥー
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・レイ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ルメール
(72)【発明者】
【氏名】ジュリー・ベヌサレム
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ・ルプデール
(72)【発明者】
【氏名】デルフィヌ・レチュイエ
(72)【発明者】
【氏名】マリー-エヴ・パラディ
(72)【発明者】
【氏名】ステファニィー・デュドネ
(72)【発明者】
【氏名】イヴ・デジャルダン
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・カロン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ダル-パン
(72)【発明者】
【氏名】シャルル・ラマッサミー
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0213401(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0172012(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101731597(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101632655(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウとブルーベリー由来の以下の成分:
5%から50%の間のカテキン及び/又はエピカテキン、
5ppmと300ppmの間のフェルラ酸、
300ppmと6000ppmの間のレスベラトロール、
50ppmと10000ppmの間のケルセチン及び/又はケルセチン・グリコシド、
600ppmと5000ppmの間のアントシアニジン、及び
少なくとも300ppmの濃度のマルビジン-3-グルコシド
認知機能及び/又は実行機能を改善するための有効成分として含有する栄養組成物又は治療組成物であって、
ブドウ抽出物及びブルーベリー抽出物、または、
ブドウとブルーベリーから得られた抽出物で構成されていることを特徴とする組成物
【請求項2】
ブドウ抽出物のフラバノール・ポリマーの含有量が、抽出物のポリフェノール総量の0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
人間又は動物向けの医薬品として使用するためのものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
人間又は動物用のアルツハイマー病、及び/又はパーキンソン病、及び/又はハンチントン病、及び/又は病理的認知力低下、及び/又は痴呆、及び/又は鬱病、及び/又は糖尿病、及び/又は統合失調症、及び/又は精神遅滞、及び/又は女性の更年期障害、及び/又は認知機能不全症候群(CDS)の治療又は予防のために使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも100μg/kg体重のカテキン及び/又はエピカテキン、
少なくとも0.05μg/kg体重のフェルラ酸、である用量を人間又は動物に供給することが可能なことを特徴とする請求項又はに記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも10μg/kg体重のレスベラトロール
少なくとも0.2μg/kg体重のケルセチン、及び/又はケルセチン・グリコシド、
並びに、
少なくとも1μg/kg体重のアントシアニジン、である用量を人間又は動物に供給することが可能なことを特徴とする請求項又はに記載の組成物。
【請求項7】
健康な人間又は動物用の、認知機能、及び/又は実行機能を改善し、及び/又は加齢に伴う非病理的認知機能低下を抑制する、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
記憶力、及び/又は注意力、及び/又は集中力、及び/又は活力、及び/又は学習力、及び/又は知力、及び/又は言語力、及び/又は気分、及び/又はストレス、及び/又は不安、及び/又は視力、及び/又は睡眠を改善することを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の栄養組成物又は治療組成物を包含する組成物で、あって、人間又は動物向けに、錠剤や、ソフトカプセル、ハードカプセル、粉末、溶液、マイクロカプセル、懸濁液、エマルジョン、栄養補助食品、飲料、及び食品の中から選ばれた形態で提供できることを特徴とする組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に人間及び動物の認知機能と実行機能に対して相乗作用を持つ特定のポリフェノールの混合体に関する。本発明はまた、人間と動物の認知機能と実行機能を改善し、認知力の低下を遅延させ、認知力低下に伴う症状を予防・対処するために使用されることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
老化が、認知障害や、アルツハイマー病、パーキンソン病のような神経変性疾患を伴うことは知られている。高齢者人口が増加していることから、老化に関連する障害の有病率も増えている。従って、老化に関連する認知力の低下を予防して抑え、それに関連する病態の発症を遅延させるための解決策の開発が重要になる。
【0003】
そのためここ数年、高齢者の痴呆への進行を回避又は遅延させ、安定した認知状態と充足感を維持するために、栄養素を元にした予防が示唆されている。栄養と「健康に老いる」ことの関連性を理解するために多くの研究がなされるようになり、検証された食品の中で、ポリフェノールを高含有している果物と野菜が、加齢に伴う生理的・機能的障害を遅延させることが可能であり、人間又は動物を関連する変性疾患から保護できることが確認されている(一例として、非特許文献1に記載されているように)。実際にポリフェノール、特にフラボノイドには学習と記憶のプロセスを改善する作用があることが認められ、動物においても人間においても、加齢に伴う認知力の低下の予防におけるその効力が現在広く研究されている。フラボノイドの作用機序は明確には解明されていないが、フラボノイドに学習と記憶に関連する細胞と分子のプロセスを調整する働きがあることは判明している。
【0004】
加齢に伴う認知力の低下に効果があるとして研究されたポリフェノールを含有した果物の中でも、特に漿果、とりわけブルーベリーと、イチゴ、ブドウを挙げることができる。漿果の持つ様々なポリフェノールの中で、脳の機能に対する効果から特に研究されているものはレスベラトロールとフラボノイドであり、とりわけフラバノールとアントシアニンが研究されている。
【0005】
ブルーベリーは多量のポリフェノールを含有していることが知られており、他の果物や野菜よりも高い抗酸化能を有している。多くの研究が、ブルーベリーを摂取すると加齢に関係する機能的・生理的障害が遅延することを示唆している。例えば、ブルーベリー果汁を12週間毎日摂取すると、高齢者のエピソード記憶力が高まる(非特許文献2)。
【0006】
イチゴには強力な抗酸化力と抗炎症力があり、加齢に関係する神経化学的変化や行動的変化を予防する働きがある。
【0007】
ブドウに関しては、その強力な抗酸化力で知られているフラボノイド(カテキン、エピカテキン、プロアントシアニジン・オリゴマー、プロシアニジン・ポリマー、アントシアニン)が特に豊富に含有されている。ワインのポリフェノール源としても、ブドウの栄養素特性は多くの研究対象になっている。ブルーベリー果汁で得られた結果と同様に、12週間ブドウ果汁を摂取すると、高齢者の記憶力の改善が誘導される(非特許文献3)。
【0008】
更に、特定のブドウの抽出物(一例としてブドウ種子抽出物)は現在、ポリフェノール、特にフラバノール、アントシアニン、レスベラトロールが高濃度であることから、栄養補助として用いられている。これらの抽出物は果物や果汁よりもポリフェノール濃度が高いことから、栄養補助食品用途に適しており、これがその効果の確認と、その根底にある神経生物学的メカニズムの研究を容易にしている。
【0009】
このように、加齢に伴う認知力の低下を遅延させ、脳の機能を改善するために、漿果やその果汁、又は抽出物を使用することはよく知られている。しかしながら、人間又は動物が漿果やその果汁、又は抽出物を摂取する際、それらに含まれるポリフェノールのバイオアベイラビリティーは低く、認知機能や生理機能に対する効果は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】JA Joseph, Shukitt-Hale B, G. Casadesus ”Reversing the deleterious effects of aging on neuronal communication and behavior: beneficial properties of fruit polyphenolic compounds”American Journal of Clinical Nutrition 2005; 81 (Suppl 1): 313S-6S
【文献】Krikorian R, Shidler MD, Nash TA, Kalt W, Vinqvist-Tymchuk MR, Shukitt-Hale B, et al. “Blueberry supplementation improves memory in older adults”. Journal of agricultural and food chemistry. 2010;58(7):3996-4000
【文献】Krikorian R, Nash TAShidler MD, Shukitt-Hale B, Joseph JA. “Concord grape juice supplementation improves memory function in older adults with mild cognitive impairment”, The British journal of nutrition. 2010;103(5):730-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、バイオアベイラビリティーを改善したポリフェノールを含有し、認知力の低下に対処するためにより大きな効果性を持った製品を提案することで、このような難点を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そのために本発明はブドウ(Vitis vinifera)とブルーベリー(Vaccinium angustifolium)から得られた成分の混合体を包含する栄養改善組成物(以下「栄養組成物」と称す)又は治療改善組成物(以下「治療組成物」と称す)で以下の成分を含むものを目指した。
・少なくとも1%のカテキン及び/又はエピカテキン、パーセンテージは混合体の総重量に対する量で示し、好ましくは5%以上
・少なくとも5ppm(混合体における百万分の1単位)のフェルラ酸、好ましくは10ppm以上
【0013】
本発明に基づく組成物は、特にEndeiro C, Vauzour D, Rattray M, Waffo-Teguo P, Merillon JM, Butler LT, et alの “Dietary levels of pure flavonoids improve spatial memory performance and increase hippocampal brain-derived nurotrophic factor” PloS one. 2013;8(5):e63635や、Van Praag H, Lucero MJ, Yeo GW, Stecker K, Heivand N, Zhao C, et al.の “Plant-derived flavanol (-)epicatechin enhances angiogenesis and retention of spatial memory in mice” The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience. 2007;27(22):5869-78に記載されているように、認知力に対する作用が知られているフラバノール、特にカテキン及び/又はエピカテキンを含有している。
【0014】
フェルラ酸も同様に神経系に対する作用が知られており、特にCheng CYS, S.Y.; Tang, N.Y.; Ho, T.Y.; Chiang, S.Y.; Hsieh, C.L.の “Ferulic acid provides neuroprotection against oxidative stress-related apoptosis after cerebral ischemia/reperfusion injury by inhibiting ICAM-1 mRNA expression in rats. Brain Res.” 2008;1209;136-50に記載されているように、脳の虚血で誘導される細胞死から神経細胞を保護する作用がある。またその抗酸化活性はアルツハイマー病で試験されており(Sgarbossa A, Giacomazza D, Di Carlo M. “Ferulic Acid: A hope for Alzheimer’s Disease Therapy from Plants. Nutrients”. 2015;7(7):5764-82)、長期間投与すると記憶と学習の障害から保護すると考えられている(Yan JJC, J.Y.; Kim, H.S.; Kim, K.L.; Jung, J.S.; Huh, S.O.; Suh, H.W.; Kim, Y.H.; Song, D.K. “Protection against β-amyloid peptide toxicity in vivo with long-term administration of ferulic acid”. Br J Pharmacol. 2001;133:89-96)。
【0015】
この効果は、これらに以下を含有させると更に向上する。
・少なくとも200ppmのレスベラトロール、及び/又は
・少なくとも50ppmのケルセチン、及び/又はケルセチン・グリコシド、及び/又は、
・少なくとも500ppmのアントシアニジン
これらの成分もまた認知機能に効果があることが知られている。
【0016】
レスベラトロールもまた人間や動物にとって多くの有効作用を持ち、特に作業記憶、学習力、空間記憶の改善や、自発運動活性が挙げられる(Abraham J, Johnson RW, “Consuming a diet supplemented with resveratrol reduced infection-related neuroinflammation and deficits in working memory in aged mice”. Rejuvenation research. 2009;12(6):445-53 ; Dal-Pan A, Pifferi F, Marchal J, Picq JL, Aujard F. “Cognitive performances are selectively enhanced during chronic caloric restriction or resveratrol supplementation in a primate”. PloS one. 2011;6(1):e16581.)。レスベラトロールは特にブドウに含有されている場合があることが知られているが、全てのブドウ抽出物にあるわけではない。レスベラトロールはフィトアレキシンの一つで、主にブドウの皮で様々な形で生み出されるが、他の成分と同様に、その抽出物の中に存在するかどうかは、用いる抽出法により異なる。
【0017】
ケルセチンもまた高い神経保護活性を有しており(Dajas F, Andres AC, Florencia A, Carolina E, Felicia RM. “Neuroprotective actions of flavones and flavonols: mechanisms and relationship to flavonoid structural features. Central nervous system agents in medicinal chemistry.” 2013;13(1):30-5.)、アントシアニジンを高含有した食品の摂取が、記憶障害を予防し、認知力を改善することが知られている(Barros D, Amaral OB, Izquierdo I, Geracitano L, do Carmo Bassols Raseira M, Henriques AT, et al. “Behavioral and genoprotective effects of Vaccinium berries intake in mice”. Pharmacology, biochemistry and behavior. 2006;84(2):229-34Cho J, Kang JS, Long PH, Jing J, Back Y, Chung KS. “Antioxidant and memory enhancing effects of purple sweet potato anthocyanin and cordyceps mushroom extract. Archives of pharmacal research”. 2003;26(10):821-5 ; Ramirez MR, Izquierdo I, do Carmo Bassols Raseira M, Zuanazzi JA, Barros D, Henriques AT. “Effect of lyophilised Vaccinium berries on memory, anxiety and locomotion in adult rats. Pharmacological research : the official journal of Italian Pharmacological Society”. 2005;52(6):457-62.)。
【発明の効果】
【0018】
驚くべきことに、本組成物が持つポリフェノールの組合せと特定の量は相乗効果を生み出し、これらと同じポリフェノールを個別に摂取した場合や、既存の漿果抽出物を介して摂取した場合、又はブドウやブルーベリーを摂取した場合や異なる濃度の既存製品を摂取した場合と比較すると、ポリフェノールのバイオアベイラビリティーが向上している。混合体の成分、つまり本発明に基づく組成物は特に、抗酸化相乗作用があり、及び/又は人間又は動物の認知機能及び/又は実行機能を改善する働きがある。
【0019】
従って本発明に基づく組成物は、特に人間や動物のための医薬品として、認知力低下に伴う病状を特異的に予防し、及び/又は対処するために有効である。
【0020】
また同様に本発明は、健康な人間や動物において、特に認知機能及び/又は実行機能を改善するための栄養補助用途の組成物としての使用にも関係する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、ブドウ抽出物と、ブルーベリー抽出物、又は本発明に基づく組成物の、短期投与と長期投与との間で見られる、マウスの血漿中のポリフェノールのバイオアベイラビリティーの違いを示す。
図2図2は、ブドウ抽出物と、ブルーベリー抽出物、又は本発明に基づく組成物の長期投与の前と後のマウスの血漿中に見られるフェノール性代謝物の凝集型階層的分類(AHC)を示す。
図3図3は、ブドウ抽出物と、ブルーベリー抽出物、又は本発明に基づく組成物の長期投与の前と後のマウスの糞便の中に見られるフェノール性代謝物の凝集型階層的分類(AHC)を示す。
図4A図4Aは、短期投与後の神経細胞の保護に対するフェルラ酸単独の効果を示す。
図4B図4Bは、短期投与後の神経細胞の保護に対するカテキン単独の効果を示す。
図4C図4Cは、短期投与後の神経細胞の保護に対するエピカテキン単独の効果を示す。
図4D図4Dは、短期投与後の神経細胞の保護に対する本発明に基づく組成物の効果を示す。
図5A図5Aは、3回のくり返し処理後の神経細胞の保護(細胞生存)に対するフェルラ酸単独の場合と、カテキン単独、エピカテキン単独の場合の効果を示す。
図5B図5Bは、異なる濃度での3回のくり返し処理後の神経細胞の保護(細胞生存)に対する本発明に基づく組成物の効果を示す。
図5C図5Cは、異なる濃度での3回のくり返し処理後の神経細胞の保護(細胞生存)に対する本発明に基づく組成物の効果を示す。
図5D図5Dは、異なる濃度での3回のくり返し処理後の神経細胞の保護(細胞生存)に対する本発明に基づく組成物の効果を示す。
図5E図5Eは、異なる濃度での3回のくり返し処理後の神経細胞の保護(細胞生存)に対する本発明に基づく組成物の効果を示す。
図5F図5Fは、3回のくり返し処理後の活性酸素種生成に対する本発明に基づく組成物の神経細胞の保護効果を示す。
図6図6は、本発明に基づく組成物か、ブドウ抽出物、ブルーベリー抽出物、並びに対照を投与された成犬の抗酸化能(TAS)を示す。
図7図7は、プラセボと比較した、異なる用量の本発明に基づく組成物の犬の認知機能に対する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここに本発明について補遺に記した以下の図を参照しながら、その詳細を述べる。
【0023】
つまり本発明は、少なくともブドウとブルーベリーから得られた成分の混合体を包含した栄養組成物又は治療組成物を対象とし、この混合体は以下を含有する。
・少なくとも1%のカテキン及び/又はエピカテキン、好ましくは5%以上、更に好ましくは5%から50%の間で、特に7%から35%の間
・少なくとも5ppmのフェルラ酸、好ましくは10ppm以上、更に好ましくは5ppmと300ppmの間、特に10ppmと100ppmの間
好ましくは、本発明に基づく分子の混合体は、少なくとも1%のカテキン及び/又はエピカテキンと、少なくとも5ppmのフェルラ酸に加え、以下の成分も包含するものとする。
・少なくとも200ppmのレスベラトロール、好ましくは300ppm以上、更に好ましくは400ppm以上で、また更に好ましくは300ppmと6000ppmの間、特に400ppmと6000ppmの間、及び/又は
・少なくとも50ppmのケルセチン、及び/又はケルセチン・グリコシド、好ましくは70ppm以上のケルセチン、及び/又はケルセチン・グリコシド、特に50ppmと10000ppmの間、及び/又は
・少なくとも500ppmのアントシアニジン、好ましくは600ppm以上、更に好ましくは700ppm以上で、また更に好ましくは600ppmと5000ppmの間
好ましくは、マルビジン3-グルコシドは優位的なアントシアニジンであり、混合体の中に少なくとも300ppmの濃度で存在することが望ましい。
【0024】
本発明における「栄養組成物」とは、人間又は動物用の健康食品を含む食品調合において、単独、又は他の成分と組み合わせて使用する栄養補助を目的とした食品成分、又は食品添加物を指す。
【0025】
本発明における「治療組成物」とは、人間又は動物用の植物療法を含む医薬品調合において、単独、又は他の有効成分又は非有効成分と組み合わせて使用する治療を目的として用いる成分を指す。
【0026】
本発明における「アントシアニジン」とは、アグリコン型又はグリコシル化した全てのアントシアン、又はアントシアニン、又はアントシアノシドを指す。本申請と本発明において、「アントシアニジン」、「アントシアン」「アントシアニン」「アントシアノシド」は同義である。
【0027】
「少なくともX%のカテキン及び/又はエピカテキン」は、混合体の中にエピカテキンがなければカテキンがX%以上を、混合体の中にカテキンがなければエピカテキンがX%以上を、混合体の中にカテキンとエピカテキンが同時に存在すれば、カテキンとエピカテキンの混合がX%以上であることを意味する。好ましくはカテキンとエピカテキンの混合が少なくともX%となるようにする。
【0028】
第一の製造実施法に基づき、成分の混合はブドウ抽出物とブルーベリー抽出物で構成した混合体とする。
【0029】
第二の実施法に基づき、成分の混合はブドウとブルーベリーの混合から得られた抽出物で構成される混合体とする。
【0030】
第三の実施法に基づき、成分の混合は以下で構成される混合体とする。
・ブドウ抽出物及び/又はブルーベリー抽出物と
・ブドウとブルーベリーの混合から得られた抽出物
【0031】
本発明における「ブドウ抽出物」とは、ブドウから得られた少なくとも一つの成分、好ましくは成分全体を指す。原料はその葉、及び/又は果実、及び/又は種子、及び/又は木となり、原料は好ましくはこの植物の地上部、つまり葉、果実、薄皮(つまり実の果皮)、種子、木となり、更に好ましくは果皮(薄皮)と種子になる。レスベラトロールを豊富に含有する果皮と、フラバノール・モノマーと、プロシアニジン・オリゴマー、そしてプロアントシアニジンを豊富に含有する種子との組合せは、本発明において特に興味深い点である。
【0032】
好ましくはブドウ抽出物とは、抽出物のポリフェノールの総量の内、フラバノール・ポリマー量が0.5%以下の含有量であり、更に好ましくは0.1%以下の含有量を持つ抽出物である。「フラバノール・ポリマー」は重合度が10以上のフラバノールを指す。本発明において、小腸で非常に素早く吸収され、メチル化誘導体や、硫酸化誘導体、グルクロニド誘導体に代謝されるフラバノール・モノマーに対し、フラバノール・ポリマーのバイオアベイラビリティーは非常に低い。ポリマーの含有量を低く抑えることが、ブドウ抽出物の品質の基準、特にその効果性とバイオアベイラビリティーの基準となる。本発明におけるブルーベリー抽出物とは、ブルーベリーから得られた少なくとも一つの成分、好ましくは成分全体を指す。原料はその葉及び/又は果実となり、原料は好ましくはこの植物の葉と果実の全体となる。
【0033】
ブドウとブルーベリーの混合体から得られた抽出物とは、ブドウとブルーベリーの混合体から得られた成分全体を指す。ブドウの原料は、葉及び/又は果実及び/又は種子及び/又は木であり、好ましくはブドウの原料はこの植物の地上部、つまり葉、果実、果皮(薄皮)、種子、木の全体となり、更に好ましくは果皮(薄皮)と種子になる。ブルーベリーの原料はその葉及び/又は果実となり、好ましくはブルーベリーの原料はこの植物の葉と果実の全体となる。
【0034】
本発明に基づく抽出物は、以下を包含した混合体を得ることができる方法により得られることができる。
・少なくとも1%のカテキン及び/又はエピカテキン、好ましくは5%以上、更に好ましくは5%から50%の間で、特に7%から35%の間
・少なくとも5ppmのフェルラ酸、好ましくは10ppm以上、更に好ましくは5ppmと300ppmの間、特に10ppmと100ppmの間
・選択的に、少なくとも200ppmのレスベラトロール、好ましくは300ppm以上、更に好ましくは400ppm以上で、また更に好ましくは300ppmと6000ppmの間、特に400ppmと6000ppmの間
・選択的に、少なくとも50ppmのケルセチン、及び/又はケルセチン・グリコシド、好ましくは70ppm以上のケルセチン、及び/又はケルセチン・グリコシド、特に50ppmと10000ppmの間、及び/又は
・選択的に、少なくとも500ppmのアントシアニジン、好ましくは600ppm以上、更に好ましくは700ppm以上で、また更に好ましくは600ppmと5000ppmの間
好ましくは、マルビジン3-グルコシドは少なくとも300ppmの濃度の優位的なアントシアニジンとしたい。好ましくは、アントシアニンが少なくとも20%、更に好ましくは少なくとも25%のマルビジン3-グルコシドを包含する。
【0035】
特にこれに適した方法は、以下の工程を含んだ方法である。
・ブドウ抽出物製造法
・ブドウ、好ましくはその葉、果実、薄皮、種子、木の全体を水及び/又はエタノールで抽出。使用する溶剤量(30%v/vから96%v/v)は、使用する原料量の2倍から10倍とする。抽出時間は30分から24時間の間で、抽出温度は20℃から80℃の間とする。使用する原料は、そのままの状態か粉砕したものを、乾燥させ、又は生のまま、或いは凍結させて用いることができる。
・固体原料から水及び/又はエタノールを溶液分離、一例としてデカンテーション遠心法、又は圧縮と濾過。
・一定の温度、好ましくは60℃以下の温度と100mbars以下の圧で、真空蒸発によりエタノールを蒸発。
・フラバノール・ポリマーの含有量が、抽出物のポリフェノールの総量に対して0.5%以下の量、好ましくは0.1%以下の重量になるような抽出物を得るために、特異的にプロアントシアニジン・モノマーとオリゴマー(重合度が2から10までを含み)を選択し、フラバノール・ポリマー(>10重合度)を排除できるよう、事前に脱溶剤化した抽出物を膜分離。この工程は15,000ダルトン以下の、より好ましくは3,000ダルトン以下の選択特性を持つ濾過膜を用いて行うことができる。
・ブルーベリー抽出物製造法
・ブルーベリー、好ましくはブルーベリーの葉と果実の全体を水及び/又はエタノールで抽出。使用する溶剤の量(30%v/vから96% v/v)は、使用する原料量の2倍から10倍とする。抽出時間は30分から24時間の間で、抽出温度は20℃から80℃の間とする。使用する原料は、乾燥させ、又は生のまま、或いは凍結させて用いることができる。
・デカンテーション遠心法、又は圧縮と濾過により、固体原料から水及び/又はエタノールを溶液分離。
・一定の温度、好ましくは60℃以下の温度と100mbars以下の圧で真空蒸発によりエタノールを蒸発。
・噴霧乾燥、又は真空乾燥、或いは凍結乾燥により抽出物を乾燥、マルトデキストリンのような担体を用いる場合も用いない場合もある。
・乾燥工程の前又は後にブドウとブルーベリーの抽出物を混合
【0036】
1つのバリエーションに基づき、以下のように製造方法を構成できる。
・ブドウとブルーベリーの混合。ブルーベリー、好ましくはブルーベリーの葉と果実の全体を水及び/又はエタノールで抽出。使用する溶剤の量(30%v/vから96%v/v)は、使用する原料量の2倍から10倍とする。抽出時間は30分から24時間の間で、抽出温度は20℃から80℃の間とする。使用する原料は、乾燥させ、又は生のまま、或いは凍結させて用いることができる。
・デカンテーション遠心法、又は圧縮と濾過により、固体原料から水及び/又はエタノールを溶液分離。
・一定の温度、好ましくは60℃以下の温度と100mbars以下の圧で真空蒸発によりエタノールを蒸発
・噴霧、又は昇華により抽出物を乾燥、マルトデキストリンのような担体を用いる場合も用いない場合もある
【0037】
工程のバリエーションが何であれ、乾燥工程の前に以下の工程を入れることができる。
・混合された、又はされていない抽出物溶液の固定相への充填
・固定相を水で洗浄
・固定相に水/エタノール溶離液を適用
・純化した溶出液を回収
・上述の溶出液からエタノールを蒸発
・この溶離物の濃縮
・上述の純化した水性抽出物の乾燥
【0038】
本発明に基づく栄養組成物又は治療組成物は、排他的に成分、つまり抽出物の混合で構成することも、或いは他の構成要素と構成することもできる。好ましくは、成分の混合体に加えて、本発明に基づく栄養組成物又は治療組成物は、他の構成要素、特にマルトデキストリンや、微結晶セルロース、シクロデキストリン、澱粉、可溶性又は非可溶性繊維などの賦形剤やコーティング剤などで構成できる。
【0039】
本組成物は栄養用途又は治療用途に適した形態にすることができ、好ましくは粉末形態とする。
【0040】
本発明に基づく組成物は別の一つの組成の中に取り込むことができ、特に人間や動物向けの錠剤や、ソフトカプセル、ハードカプセル、粉末、溶液、マイクロカプセル、懸濁液、エマルジョン、栄養補助食品、飲料、及び食品の中から選ばれた形態で、栄養組成又は治療組成(医薬品)の中に取り込める。
【0041】
例えば、健康食品や、スナックバー、乳製品、飲み込むか又は溶解用粉末、ジェル、ジャム、キャンディー、炭酸飲料又は非炭酸飲料、溶解用乾燥飲料、コンポートのような人間向けの非治療用の栄養組成に係るものである。
【0042】
同様に、例えば錠剤やカプセルのような人間向けの医薬品にも係る。
【0043】
これはまた動物向けの栄養組成又は治療組成にも係る。「動物」とは、本発明に基づく栄養組成物又は治療組成物を受けることができる全ての動物を指し、限定はしないが一例として家庭用ペット、家禽類、豚、反芻動物、ヤギ、又は更にネズミが挙げられる。好ましくは、動物とは猫や犬のような家庭用ペットであり、更に好ましくは犬である。
【0044】
例えば、粒状のペットフード(押し出し成型されたもの、複合押し出し成型されたもの、又は乾燥凍結されたもの)のようなドライフードや、キャンディー(又はトリート)、スナック、ソース食やセリ-食のような水分の多い食品かやや水分のある食品、飲料、又更には栄養補助食品のような非治療用の栄養組成に係る。好ましくは、本組成物を粒状ペットフードのようなドライフードに取り込む。
【0045】
そして最後に、錠剤や、カプセル、スプレー、並びに滴剤で投与される液体のような動物向け医薬品、又は獣医向け製品に係る。
【0046】
更に言うならば、動物向けの本組成物を、別の一つの組成の中に、特に栄養組成又は治療組成に組み入れることができ、つまり浸透又は混合により組成質量内に添加するか、又はコーティング、つまり例えば少なくとも食欲増進成分のような単数又は複数の成分を事前に混合し、組成の表面に噴霧又は振りかけて塗布することもできる。
【0047】
本栄養組成物又は治療組成物は、特に健康な人間個人や動物の認知・実行機能に作用させるために使用できるが、同様に病人に対しても使用できる。
【0048】
認知力の低下は、特に集中力や、仕事、長期記憶、論証能力、判断力、問題の解決、情報処理の速度などに係る認知機能と実行機能の加齢に伴う減衰が特徴的である。これらの障害は自信の喪失やクオリティ・オブ・ライフの低下を誘導する場合がある。認知力低下とは、ある人間の年齢から見て正常な範囲の老化プロセスから生じる記憶力と認知機能の低下の非病理的形態を表す用語である。これは複雑なプロセスであり、人間に最初の兆候が現れるのは35歳から65歳の間であるが、特異的な神経変性病変はない。進行性の認知力低下は、65歳から上の年齢人口の15%から20%に見られるような些細な認知問題の出現で知覚できるが、これは不安定な状態を示すものである。しかし、「正常な」認知力低下に加えて、ある種の病理的形態が突発することがある。これらの病理的形態の中で、アルツハイマー病は最も多い痴呆の病因であり、世界の2,400万以上の人々が罹患している。この病気は我々が現在知る限りにおいて不可逆的な病であり、唯一可能な治療はただ対症的なものである。動物においてもこれらの症状は非常に近似した形で現れることがある。例えば犬において、認知機能不全症候群(cognitive dysfunction syndrome=CDS)は広く知られた病変であり、時空間識別障害や、しばしば不潔な状態をもたらす初歩的な学習の喪失、起床・就寝サイクルの変化、社会的交流の変化が特徴的である。
【0049】
本発明に基づく組成物は、人間又は動物の認知・実行機能の改善を可能にする。二つの原料の組合せと、特別な品質で配合したポリフェノールを包含する本発明に基づく抽出物の特異性は、これらのポリフェノールを単独で摂取する場合や、これらのポリフェノールを異なる割合や量で含有している既存の抽出物を摂取する場合に比べ、相乗効果を生み出す。この相乗効果は、人間又は動物における抗酸化効果、及び/又は認知機能の改善、及び/又は実行機能の改善に及ぶ。
【0050】
本発明に基づく組成物が持つポリフェノールは、それを人間又は動物に投与すると、これらのポリフェノールを単独で摂取する場合や、これらのポリフェノールを異なる割合や量で含有している既存の抽出物を摂取する場合に比べ、それらのバイオアベイラビリティーが改善する。人間や動物に用いた本発明に基づく組成物は、この組成物に含有されているポリフェノールのバイオアベイラビリティーの改善を可能にする。
【0051】
本発明に基づく組成物は、人間又は動物に薬として使用することもできる。
【0052】
特に本発明は、アルツハイマー病、及び/又はパーキンソン病、及び/又はハンチントン病、及び/又は病理的認知力低下、及び/又は痴呆、及び/又は鬱病、及び/又は糖尿病、及び/又は統合失調症、及び/又は精神遅滞、及び/又は女性の更年期障害、及び/又は認知機能不全症候群(CDS)の治療又は予防のために、治療組成物又は栄養組成物としての使用を意図している。
【0053】
本発明に基づく組成物はまた、健康な人間又は動物において、認知機能及び/又は実行機能を改善し、及び/又は加齢に伴う非病理的な認知力の低下を抑制するために非治療用として使用することができ、好ましくは栄養組成又は栄養補助食品に使用できる。特に健康な人間又は動物においては、記憶力、及び/又は注意力、及び/又は集中力、及び/又は活力、及び/又は学習力、及び/又は知力、及び/又は言語力、及び/又は気分、及び/又はストレス、及び/又は不安、及び/又は視力、及び/又は睡眠を改善するために使用することができる。
【0054】
本発明の特別な試験実施法に基づき、参加する人間又は動物は高齢とした。好ましくは、人間又は動物は、その種における平均寿命の少なくとも50%に達している人間又は動物とした。
【0055】
好ましくは、治療組成物又は栄養組成物が、治療用途として病気の人間又は動物に、或いは非治療用途として健康な人間又は動物に、次の用量で使用されるものとする。
・少なくとも100μg/kg体重のカテキン、及び/又はエピカテキンと
・好ましくは、少なくとも0.05μg/kg体重のフェルラ酸
・少なくとも10μg/kg体重のレスベラトロール
・少なくとも0.2μg/kg体重のケルセチン、及び/又はケルセチン・グリコシド
・少なくとも1μg/kg体重のアントシアニジン
【0056】
本発明はここに、本申請の対象となっている治療組成物又は栄養組成物の、抗酸化の相乗効果と、認知・実行機能に対する相乗効果、並びにバイオアベイラビリティーの改善を示した実施例と試験結果を提示する。
【実施例1】
【0057】
実施例1:本発明に基づく治療組成物又は栄養組成物
本発明に基づく混合体の最初の例は、以下に記載する方法で得られた。
使用した原料は、
・ワイン醸造産業の副産物であるブドウの果皮と種子と
・ブルーベリーの凍結漿果
【0058】
400gのブルーベリーの凍結漿果を粉砕し、それを塩酸量が0.1%の80%エタノール(v/v)溶液2000mlと混合する。混合物を24時間、室温(20℃)で維持する。次に、濾過によりこのエタノール溶液から果肉を分離し、ロータリー・エバポレーターを用いて真空下で乾燥原料を20%に濃縮する。この抽出物の一部は試験用に保管し、他の部分はブドウの抽出物と混合するために保管する。
【0059】
500gのブドウの果皮と種子を、40℃で5時間、塩酸量が0.1%の80%エタノール(v/v)2500mlと混合する。次に、濾過によりこのエタノール溶液から果肉を分離する。そして温度50℃、60mbarsでロータリー・エバポレーターを用いて真空下でエタノールを除去する。5%の乾燥原料を得るために、次にこの水溶液を希釈し、5000ダルトンの膜で濾過する。そして得られた濾液を樹脂カラム(C18)に1BV(カラム容積)/時間で充填する。次に樹脂を最初は3BVの蒸留水で2BV/時間すすぎ、そして80%エタノール溶液(v/v)5BVで1BV/時間溶離する。抽出溶液の一部は試験用に保管し、特定化する(表1)。この表1に記されているポリフェノールは、蛍光検出器を装備した超高速液体クロマトグラフィーで計測したものである。
【0060】
【表1】
【0061】
次に本発明に基づく混合体を形成するために、他の部分をブルーベリー抽出物と混合し、乾燥原料が30%の率の溶液を得るまで、混合物にマルトデキストリンを添加する。
【0062】
次に入口温度を160℃として、溶液を噴霧乾燥する。得られたものは薄紫色の粉末で、表2に記すポリフェノールを含有している。この表に示すポリフェノールは超高速液体クロマトグラフィーUPLC-MS/MSで測定されたものである。
【0063】
【表2】
【実施例2】
【0064】
実施例2:本発明に基づく治療組成物又は栄養組成物
本発明に基づく混合体の二番目の例は、以下に記載する方法で得られた。
使用した原料は、
・ブドウの種子と果皮
・ブルーベリーの漿果
【0065】
1000gのブルーベリーの凍結搾り滓を粉砕し、塩酸量が0.1%の60%エタノール(v/v)5000mlと混合する。混合物を24時間、室温(20℃)で維持する。次に、濾過によりこのエタノール溶液から果肉を分離し、乾燥原料が20%になるようロータリー・エバポレーターを用いて真空下で濃縮する。
【0066】
選別した400gのブドウの皮と種子を、60℃で5時間、80%エタノール(v/v)1500mlと混合する。次に、濾過によりこのエタノール溶液から果肉を分離する。そして温度50℃、60mbarsでロータリー・エバポレーターを用いて真空下でエタノールを除去する。次に、5%の乾燥原料を得るためにこの水溶液を希釈し、5000ダルトンの膜で濾過する。そして得られた濾液を固定相カラム(C18)に1BV/時間で充填する。次に樹脂を最初は3BVの蒸留水で2BV/時間すすぎ、そして80%エタノール溶液(v/v)5BVで1BV/時間溶離する。抽出溶液の一部は試験用に保管し、特定化する(表3)。
【0067】
【表3】
【0068】
得られたものは薄紫色の粉末で、表4に記すポリフェノールを含有している。この表に示すポリフェノールは超高速液体クロマトグラフィーUPLC-MS/MSで測定されたものである。
【0069】
【表4】
【実施例3】
【0070】
実施例3:本発明に基づく治療又は栄養組成例
実施例1の組成物19,980kgを、0.020kgの微粒二酸化ケイ素と混合する。組成は、専門家が熟知している慣習的条件の下で、構成素の混合により得られる。組成物はPET袋で包装され、更にそれを厚紙で包装する。
【実施例4】
【0071】
実施例4:人間向けの栄養組成例
実施例4は、以下で構成される400mgのカプセルである。
・実施例1の治療組成物:300mg
・ビタミンC:80mg
・マルトデキストリン:20mg
【0072】
組成は、専門家が熟知している慣習的条件の下で、各素材の混合により得られ、同様に慣習的条件下でカプセルに充填する。推奨用量は一日1から2カプセルとした。
【実施例5】
【0073】
実施例5:人間向けの医薬品例
実施例5は、以下で構成される3,000mgの錠剤である。
・実施例1の治療組成物:1500mg
・ソルビトール:1400mg
・香料:47 mg
・ステアリン酸マグネシウム:30mg
・色素:20mg
・アセスルファムK:1.5mg
・ナトリウム・サッカリネート:1.5mg
【0074】
組成は、専門家が熟知している慣習的条件の下で、各素材の混合により得られる。推奨用量は一日1から2錠とした。
【実施例6】
【0075】
実施例6:動物向けの栄養組成例
AFCO(米国飼料検査官協会)規格を順守し、動物性粉飼と、脂肪、繊維、シリアル、保存剤、抗酸化剤を含有した犬用の粒状の押し出し成型されたドライフードに、実施例2の本発明に基づく組成物を添加した。
【0076】
粒状ドライフードへの組成物の添加は、複数の製造法、特にコーティング法と含有法に基づいて行った。
【0077】
コーティング法を用いた試験は、本発明に基づく組成物に液状の食欲増進成分D’Tech volaille (SPF, Elven, France)を添加して行った。家禽類脂肪の第一層を粒状ドライフード上のコーティングに添加し(ドライフード重量に対して6%)、続いて食欲増進成分(ドライフード重量に対して1%、2%、又は3%)と本発明に基づく組成物(ドライフード重量に対して0.02%、0.04%、又は0.1%)の混合物の層を添加した。
【0078】
含有法を用いた試験は、押し出し成型の前に、原料(事前混合物)内に本発明に基づく組成物を添加(ドライフード重量に対して0.02%、0.04%、又は0.1%)して行った。
【実施例7】
【0079】
実施例7:獣医向け製品例
通常の方法でゼラチン・カプセルを準備し、例2の本発明に基づく組成物とマルトデキストリン(Control; Glucidex12 Lot#421A323532, Roquette, Lestrem Cedex, France)を添加した。
【0080】
本発明に基づく組成物の効果とバイオアベイラビリティーの評価
試験1:マウスにおけるバイオアベイラビリティーに対する効果
この試験の目的は、マウスに短期投与後(1日)と長期投与後(15日)に、本発明に基づく治療組成物又は栄養組成物(実施例1の混合体)が含有するポリフェノールのバイオアベイラビリティーと、ブドウ抽出物とブルーベリー抽出物(実施例1に記載のもの)が含有するポリフェノールのバイオアベイラビリティーを比較することである。短期試験と長期試験を別々に行うために、4ヶ月齢の雄と雌のマウス72匹を2群に分けた。各群において、10匹で構成する下位群を3群作り、各下位群に次の異なる処方を投与した:ブドウ抽出物と、ブルーベリー抽出物、並びに実施例1の混合体。6匹で構成した第4群のマウスには水を投与した(対照群)。処方は強制経口投与した。混合体は500mg/kg体重の用量で投与し、ブドウ抽出物とブルーベリー抽出物は、混合体の用量の等量を投与した。
【0081】
・短期試験:それぞれの処方において、強制投与前と30分後に、各群において血液サンプルを採集した。次に動物を解剖し、血液サンプルを同様に採集した
・長期試験:摂取前(0日目)に血液サンプルを採集した。そして15日間に渡って毎日、動物にそれぞれの処方を与えた。試験最終日(15日目)の強制投与30分後に動物を解剖し、血液サンプルを採集した。摂取前と摂取期間中(それぞれ0日目と1日目から15日目)に、各マウスの糞便を採集した
【0082】
フェノール性代謝物は、固相微量抽出(μSPE)により、血漿と糞便のサンプルから抽出し、UHPLC-MS/MS(超高速液体クロマトグラフィー)で特定した。それぞれの処方の短期投与後と長期投与後のフェノール性代謝物の血漿濃度は、データが正常に分散していると思われる場合はウェルチ統計検定(不等分散補正)を用い、そうでない場合はマン-ホイットニー検定を用いて、GraphPad Prism 6.05ソフトウェアで比較した。同様に、全身のフェノール性代謝物の濃度と糞便中に蓄積した濃度に対する処方の効果も、正常なデータの場合はウェルチ統計検定を、そうでない場合はマン・ホイットニー検定を用いて一対比較するために分析した。
【0083】
データ分散が正常であるかないかにより、分散分析(ANOVA)かクラスカル-ウォリスのノンパラメトリック検定を用いて多重比較を行った。p<0.05を有意差ありとした。
【0084】
マウスの血漿中と糞便中で検出されたフェノール性代謝物の凝集型階層的分類(AHC)は、MetaboAnalyst 3.0を用いて行った。その結果を図1から図3に示す。
【0085】
図1は、処方の短期摂取と長期摂取の間のフェノール化合物のバイオアベイラビリティーの違いを示している。結果は、短期摂取に対する平均値±標準誤差、***p<0.005で示す。図に記載した”ns”は有意差がないことを表す。
【0086】
この図1では、ブドウ抽出物を投与した処方とブルーベリー抽出物を投与した処方の場合、短期摂取と長期摂取との間で、全身のフェノール性代謝物の濃度にいかなる違いも観察されていないことが確認できる。
【0087】
これに対して、本発明に基づく組成物、つまりブドウ抽出物とブルーベリー抽出物を15日間に渡って繰り返し投与すると、単独用量を投与されたマウスに比較して、血漿中のフェノール化合物の濃度が上昇している(2.1倍、p<0.0033)。
【0088】
図2は、3つの処方を長期に投与する前(0日目)とその後(15日目)のマウスで分析されたフェノール性代謝物の凝集型階層的分類(AHC)を示している。
【0089】
それぞれ横列は検出された代謝物を示し、縦列は検証した動物を示す。グレーの色の格子模様は、全サンプルの平均値に対する血漿中の代謝物濃度の強度を示している。四角で囲ったグラフはブルーベリー抽出物由来のフェノール性代謝物を示し、その血漿中の濃度は本発明に基づく処方で有意的に増加している。データは平均値±標準誤差で示し、**p<0.01と*p<0.05はブルーベリー抽出物に対するものである。Bはブルーベリー抽出物を、Gはブドウ抽出物を、そしてNは本発明に基づく組成物を表す。
【0090】
マップ(ヒートマップ)に表示されているように、ブドウ抽出物を摂取させた場合と本発明に基づく組成物を摂取させた場合とでは、ブドウ由来の全身のフェノール性代謝物の濃度に全く差は見られないが、ブルーベリー由来の代謝物は、ブルーベリー抽出物を摂取させた場合に比べると、本発明に基づく組成物を摂取させた場合のマウスの血漿中の代謝物は非常に濃度が高くなっている。囲みグラフで見られるように、この二つのケースで同じ量のブルーベリー抽出物を投与すると、本発明に基づく組成物ではブルーベリーのフェノール化合物の吸収が3.0倍から5.5倍上昇することが確認されている。この上昇は、ブルーベリー抽出物に対して本発明に基づく組成物を短期摂取させた後にも、上昇率は低いとはいえ(2.3倍から2.8倍)確認されている。
【0091】
図3は、ブルーベリー抽出物と、ブドウ抽出物、並びに本発明に基づく組成物を長期に摂取する前(0日目)とその後(1日目から15日目)のマウスの糞便中で分析されたフェノール性代謝物のAHCマップ(ヒートマップ)を示している。
【0092】
それぞれの横列は検出された代謝物を示し、縦列は検証した動物を示す。グレーの色の格子模様は、サンプルの平均値に対する糞便中の代謝物濃度の強度を示している。上の囲みグラフはブルーベリー抽出物由来のフェノール性代謝物を示し、その糞便中の濃度は、ブルーベリー抽出物に比較すると、本発明に基づく組成物を摂取した場合には有意的に減少している。データは平均値±標準誤差で示し、***p<0.005と**p<0.01はブルーベリーに対するものである。Bはブルーベリー抽出物を、Gはブドウ抽出物を、そしてNは本発明に基づく組成物を表す。血液サンプルで観察されたように、本発明に基づく組成物を摂取させた場合とブドウ抽出物を摂取させた場合とでは、フェノール性代謝物に全く差は見られないが、ブルーベリー由来の代謝物は、ブルーベリー抽出物を摂取させた場合に比べると、本発明に基づく組成物を摂取させた場合のマウスの糞便中で濃度が有意に非常に低くなっている。囲みグラフで見られるように、また本発明に基づく組成物を摂取するとブルーベリー由来の代謝物の吸収が高まることを示した前述の観察に一致して、ここにおいても組成物の摂取がブルーベリーのフェノール化合物の排泄を2.9倍から6.3倍減少させることが確認できる。
【0093】
これら全ての結果は、ブドウとブルーベリーの抽出物の間に相乗的な相互作用が存在し、バイオアベイラビリティーの向上を誘導することを示すものとなっている。
【0094】
試験2:マウスの脳内でのバイオアベイラビリティー
この試験の目的は、ポリフェノールとその代謝誘導体が脳内で作用するかを知るために、それらが中枢神経系に到達できるかを同定ことである。脳内のポリフェノールの存在を評価するために、6匹の対照群マウス(成体3匹、高齢3匹)と20匹の摂取群マウス(成体10匹、高齢10匹)に、6週間に渡り、ポリフェノールを除外した対照用の食餌か、本発明に基づく組成物(実施例1)を含有した食餌を給餌した。
【0095】
本発明に基づく組成物の用量は500mg/kg体重/日とした。実験終了時にマウスの脳を回収して解剖し、-80℃で保存した。そして特定のポリフェノールとその代謝物を超高速液体クロマトグラフィーUPLC-MS/MSを用いて測定した。その結果を下記の表5と図4Aから4D に示す。
【0096】
【表5】
【0097】
本発明に基づく組成物を含有した食餌摂取の6週間後に、マウスの脳内で、カテキン、エピカテキン、並びのその代謝物(メチル-カテキン-グルクロニド、カテキン-グルクロニド)とフェルラ酸が検出された。プロアントシアニジン・ダイマーも検出されている。これらのポリフェノールは対照用マウスの脳内では検出されていない。年齢作用については、いかなる有意差もなかった。本発明に基づく組成物のポリフェノールは、その特別な組合わせと特異的な量から、神経保護作用をもたらすために、脳内に直接到達することができる。
【0098】
試験3:神経細胞培養モデルに対するポリフェノールの特性
エピカテキンや、カテキン、フェルラ酸が脳内で検出されていることから、本試験の目的は、異なる実験モデルを用いて、それらの神経細胞を保護する力と潜在的な相乗効果を試験することである。
【0099】
そのため、ヒト神経芽細胞の細胞株であるSK-N-SH細胞を、37℃、CO5%の加湿インキュベーターを用い、FBSを10%(v/v)、ペニシリンを100U/ml、ストレプトマイシンを100μg/ml、ピルビン酸ナトリウム(1mM)を1%加えたMEM培地内で維持した。細胞を80%コンフルエントになるまで培養し、次に異なる実験モデルを行うために、細胞培養マルチウェル・プレート内に播種した。それぞれの化合物の神経保護作用は、次の2つの異なる相補的試験により分析した:細胞死の定量試験と細胞生存試験。
【0100】
細胞死試験は、上澄み内で損傷を受けた細胞のサイトゾルから放出される乳酸脱水素酵素(LDH)の活性を計測する熱量測定試験である。
【0101】
細胞生存試験はレサズリン試験で行った。レサズリンは、テトラゾリウム化合物を用いて生存細胞数を監視するために用いられる透過性細胞の酸素還元指示薬の一つである。代謝活性を持つ生存細胞はレサズリンをピンクと蛍光色のレゾルフィンに還元する。
【0102】
SK-N-SH神経細胞を24時間に渡り毒性濃度の過酸化水素(250μM)で処理し、同時にエピカテキン、カテキン、又はフェルラ酸を1μM、1nM、1pMで24時間処理した。処理終了時に細胞を2回洗浄し、細胞死(LDH放出)と生存(レサズリン試験)を分析した。この単回処理後の個別に用いた3つのポリフェノールの作用を示す結果を図5Aに提示するが、個別に用いたポリフェノールは過酸化水素から細胞を保護してはいない。
【0103】
エピカテキン、カテキン、フェルラ酸の相乗効果を検証するために、SK-N-SH神経細胞を24時間に渡り毒性濃度の過酸化水素で処理し、同時にエピカテキン、カテキン、フェルラ酸を包含している混合体(Mix)を1μM、1nM、1pMの異なる濃度で処理して試験した。処理終了時に細胞を2回洗浄し、細胞死(LDH放出)と生存(レサズリン試験)を分析した。この単回処理後の3つのポリフェノール全体の作用を示す結果を図5Bに提示するが、3つのポリフェノールの組合せは過酸化水素から細胞を保護してはいない。
【0104】
次にくり返し処理による3つのポリフェノール、つまりエピカテキン、カテキン、フェルラ酸の神経保護作用を検証した。SK-N-SH細胞を、80%コンフルエントになるまで培養し、細胞培養マルチウェル・プレート内に播種した。次の日、3つのポリフェノールのそれぞれを別途に3日間連続的に培地に1μM、1nM、1pM添加した。3日目に細胞を毒性濃度の過酸化水素(250μM)で処理し、24時間後に保護度を分析した。処理終了時に細胞を2回洗浄し、細胞生存(レサズリン試験)を分析した。このくり返し処理後に個別に用いた3つのポリフェノール(Mix)の作用を示す結果を図5Cに提示するが、個別に用いたポリフェノールは3日間のくり返し処理後に過酸化水素から細胞を保護してはいない。
【0105】
エピカテキン、カテキン、フェルラ酸の相乗効果を検証するために、SK-N-SH細胞を80%コンフルエントになるまで培養し、細胞培養マルチウェル・プレート内に播種した。次の日、3つのポリフェノールの混合を、3日間連続的に培地に添加した。混合体内での各ポリフェノールの濃度は1μM、1nM、1pMである。3日目に細胞を毒性濃度の過酸化水素(150μMと250μM)で処理し、24時間後に保護度を分析した。処理終了時に細胞を2回洗浄し、細胞生存(レサズリン試験)を分析した。このくり返し処理後の3つのポリフェノール混合体(Mix)の作用を示す結果を図5Dに提示している。ここでは、1μM又は1nM又は1pMのエピカテキン、カテキン、フェルラ酸の混合体が、3日間のくり返し処理後において過酸化水素から細胞を保護している。
【0106】
同じ試験を、3つのポリフェノールの濃度を低くして行い、混合体(Mix)内での各ポリフェノールを10-15 M、10-18M、又は10-21 Mとした。図5Eで、これらの低い濃度では、混合体は過酸化水素の毒性濃度から細胞を保護しないことが確認されている。このことは、本発明に基づく組成物内の3つの特定なポリフェノールの量が、求める相乗効果を得る上で重要であることを示している。
【0107】
十分な量の3つのポリフェノールの混合体はくり返し処理後にSK-N-SH神経細胞を保護できることから、次に細胞内ROS(活性酸素種)生成に対する混合体の作用を検証した。このため細胞を80%コンフルエントになるまで培養し、細胞培養マルチウェル・プレート内に播種した。次の日、3つのポリフェノール、つまりエピカテキン、カテキン、フェルラ酸を包含する混合体を培地に添加し、その混合体の各ポリフェノール濃度は1μM、1nM、又は1pMとした。3日目にSK-N-SH細胞を毒性濃度の過酸化水素(250μM)で処理し、細胞内のROSレベルをDCFDA蛍光プローブを用いて測定した。得られた結果は図5Fに提示しているが、それぞれのポリフェノールを1μM、1nM、又は1pM包含する3つのポリフェノール混合体(Mix)は、250μMの過酸化水素におけるROSのレベルを減少している。
【0108】
試験4:本発明に基づく組成物の犬における相乗効果の評価
本試験の目的は、成犬の抗酸化状態に対する本発明に基づく組成物(実施例2)の効果を、ブドウ抽出物、ブルーベリー抽出物、並びに対照の効果と比較して検証することである。
【0109】
9頭のビーグル犬(雄6頭、牝3頭:BCS<ボディ・コンディション・スコア>5/9;平均年齢20±0.9月齢、平均体重9.1±0.4kg)に、その体重を維持するために維持食を給餌した。食事にはそれぞれ以下を含有したゼラチン・カプセルを補填した。
・マルトデキストリン(プラセボ対照)
・ブドウ抽出物
・ブルーベリー抽出物
・実施例2の混合体(4mg/kg体重/日)
【0110】
実験はクロステストに基づいて考案され、犬は実験用飼料と共に、28日間に渡りサプリメント・カプセルを給餌され、それぞれのサプリメント給餌期間の間に一週間の休止期間を置いた。このように各犬はそれぞれ4つのサプリメントを給餌された。
【0111】
血液サンプルは、各サプリメント給仕の前と後で、頸静脈から採取し、氷の中で保管した。血漿は総血液から2124Gの遠心分離を10分間、4℃で行い、回収した。そして血漿の一部を80℃で培養した。
【0112】
抗酸化状態は、抗酸化能(TAS<Total Antioxydant Status>)を測定して評価した。そしてTASを評価するために、RANDOXラボラトリーズ (Ref:NX2332,Crum lin,County Antrim,UK) の熱量測定試験を用いた。その方法では、ラジカル・カチオンABSTを生成するために、ペルオキシダーゼ(メトミオグロビン)を加えた2,2’-アジノ-ジ [3-エチルベンズチアゾリンスルホン酸](ABTS)と過酸化水素を培養する。これにより、600nmで測定できる比較的安定した青緑色が生じる。サンプル内に抗酸化物が存在すると、その濃度に比例してこの色の生成が抑制される。TASはmmol/Lで表記する。
【0113】
それぞれの4つの食餌を比較するために、サプリメント摂取の前と後のTASを比較してΔTASを求めた:ΔTAS=28日目のTAS-ベースライン時のTAS。
【0114】
ΔTASは混合モデルを用いて分析した。このモデルにはベースライン時の固定効果と、処方、ランダム化順位が含まれる。それを、動物におけるエラーをモデル化するための非構造化マトリクス相関を持つ混合方式であるSAS(v9.4)で解析した。パラメータは、ニュートン・ラフマン法のアルゴリズムによる最充法で推定した。自由度の分母は、サタスウェイト (Satterthwaite) の近似を用いて推定した。全ての効果はα=0.10で評価した。
【0115】
またサプリメント摂取前と後のTAS値の変化を比較するため、Wilcoxon検定を用いた。
【0116】
得られた結果は表6(平均、標準誤差、Wilcoxon検定)と図6に示す。
【0117】
【表6】
【0118】
この表6と図6で確認できるように、本発明に基づく混合組成物は、ブドウ抽出物又はブルーベリー抽出物単独の場合に比べ、TAS濃度を有意的且つ相乗的に増加させている。
【0119】
更にWilcoxon検定の結果は、本発明に基づく組成物だけが、摂取後にTAS濃度を有意に上昇させているものであることを示している。ブドウ抽出物又はブルーベリー抽出物の単独摂取ではTAS濃度は有意的に変化していない。
【0120】
また、本発明に基づくブドウとブルーベリー由来の成分混合組成物を摂取すると、ブドウ抽出物やブルーベリー抽出物を単独で摂取した場合と比較して、動物の抗酸化能に対して相乗効果が生じている。
【0121】
試験5:記憶に対する作用の評価
本試験の目的は、犬の記憶レベルに対する2つの用量の本発明に基づく混合組成物(実施例2)の効果を検証することである。
【0122】
これは縦断的並行群間モデルを用いた無作為盲検前臨床試験である。35頭のビーグル犬(Vivocore Inc.colony,Toronto,Canada;雄14頭、牝21頭;年齢は試験開始時で8.0歳から14.5歳)を、サプリメント摂取開始の3週間前に、実験のため3群に分けた。犬の振り分けは、DNMP(delayed non-matching position)試験における総スコアが各群でほぼ同じになるように、DNMPにおけるスコアをベースに能力(累計スコア)に応じて行った。
【0123】
次に3群のそれぞれの犬には、実施例2の混合組成物を0 ppm(プラセボ)か、240ppm、又は480 ppmを含有させた粒状ドライフードを給餌した。
【0124】
DNMP試験は-27日目から-16日目に行い、分析は58日目から68日目に行った。DNMP試験は次の二段階から成る。
・第一段階:犬は、餌の縦穴の3つの位置の1つに置かれたブロックを動かさなければならない。ブロックを動かすと褒美を与える
・第二段階:それが20秒から90秒でできるようになった後、第一段階と同じ物を2つ犬に示す。1つは第一段階の時と同じ位置に置く。しかしもう1つのものは、残りの2つの位置のどれか1つに置き(目印はない)、もし犬がこのブロックを動かすと、褒美を与える
【0125】
本試験ではDNMP試験を12セッション行い、全ての犬に一日1セッションの試験を行った。ここでは可変遅延時間サブタスク(valiable deley subTASk)を用いた。各回の試験セッションで、20秒から90秒の時間を12回の試験で公平に配分し、作業記憶を評価できるようにした。試験の間の間隔は30秒とした。摂取前の段階で6セッションの試験を行い、摂取中に試験を6セッション行った。犬はそれぞれ、スコアに関係なく、指定された日に試験を受けた。この試験中、犬には缶詰に入った犬用のウエット・フードPurina Essential Care Adulte Formuleを与えた。
【0126】
DNMP試験結果に対する3つの処方を比較するために、ベースラインと比較した記憶力向上をカイ二乗(X2)検定法を用いて分析した。分析はSAS (v9.4)を用いて行い、α=0.05とした。
【0127】
その結果を図7に示す。処方を受けていない犬に比較すると、本発明に基づく処方(Mix2)を受けた犬に有意な認知力の向上が観察されている。更に、処方量が有意な向上を見せた犬の数に影響を与えておらず、これは、犬においては効果が処方用量に関係していないことを示している。
【0128】
試験6:犬の許容性に対する評価
本試験の目的は、犬に対して、本発明に基づく栄養組成物又は治療組成物の食品安全性を検証することである。実際に多くの論文が、犬に対するブドウの毒性を報告しており、犬に腎不全を誘発し、嘔吐や下痢などの症状が出るとしている(Eubig P, Brady MGwaltney-Brant S, Khan S, Mazzaferro E, Morrow C (2005) “Acute renal failure in dogs after the ingestion of grapes or raisins: a retrospective evaluation of 43 dogs” (1992-2002)。
【0129】
24頭のビーグル犬(雄20頭、牝4頭;BCS5/9、平均年齢31±3月齢、平均体重11.4±0.2kg)に、試験期間中に至適な体重を維持させるために維持食(Royal Canin medium adult,France)を給餌した。そして6頭で構成する4群にサプリメント、つまりマルトデキストリンを含有するカプセル(プラセボ)か、本発明に基づく組成物、つまり実施例2の混合組成物を4 mg/kg体重(Mix1)か、20mg/kg体重(Mix5)、40mg/kg体重(Mix10)の用量で投与した。
【0130】
尿と血液のサンプルは試験開始時(0週目)と12週間後、24週間後に採取した。
【0131】
そして血漿と尿のシスタチンC(CysC)と、クラステリン、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)を、血液サンプル内で分析した(Tvarijonaviciute A, Ceron JJ, Holden SL, Biourge V, Morris PJ, German AJ. “Effect of Weight Loss in Obese Dogs on indicators of Renal Function or Disease.” J. Vet. Intern. Med. 2013;27:31-38.;Garcia-Martinez JD, Tvarijonaviciute A, Ceron JJ, Calden M, Martinez-Subierla S. “Urinary Clusterin as a Renal Marker in Dogs.” J. Vet. Diagn. Invest. 2012;24:301-306)。各パラメータは混合効果モデルを用いて分析し、ベースライン時と、日、処方、並びに処方のx日の効果を評価した(SAS v9.4;α=0.05)。
【0132】
表7に示すように、0週目の検査と実験処方で得られた上限値よりも低い量のバイオマーカーが検出されている(血漿CysC、尿中CysC/クレアチン率、尿中クラステリン/クレアチン率、血漿NGAL、尿中NGAL/クレアチン率:それぞれ2.23μg/ml、156ng/g、443ng/g、47ng/ml、28.5ng/g )。
【0133】
【表7】
【0134】
このように、本発明に基づく組成物を摂取した成犬に不耐性な臨床的兆候は全く見られず、試験に用いた最大用量(通常の用量の10倍)においても同様であった。
【0135】
試験7:アルツハイマー病に対する効果
本試験は、例えばArsenault D, Dal-Pan A, Tremblay C, Benett DA, Guitton MJ, et al. (2013)“PAK Inactivation Impairs Social Recognition in 3xTg-AD Mice without increasing Brain Deposition of Tau and Aβ”. The journal of Neuroscience 33: 10729-10740 に記載されているように、ヘテロ接合3xTg-ADマウス・モデルに対して行った。
【0136】
この試験には、12月齢の非トランスジェニック・モデル(non Tg)とトリプル・トランスジェニック・アルツハイマー病モデル(3xTg-AD)を120匹用いた。7匹のマウスは試験開始前に死亡したので除外した。
【0137】
更に4月齢のC57BL/6マウスの追加群を対照として用いた。
【0138】
実施例1の本発明に基づく組成物をマウス用の飼料ペレットに導入した。そして4カ月間に渡り、管理食か、それに組成物500mg/kg体重/日(ref.”Polyph1”)か2500mg/kg体重/日(ref.”Polyph2”)を加えたものを給餌した。
【0139】
試験開始後の3ヶ月目に行動分析を行った。残りの1ヶ月後にマウスに深麻酔をかけ、心腔内血液を採取した。次にプロテアーゼ阻害剤とホスファターゼ阻害剤を含有したリン酸緩衝生理食塩水を用いて心腔内灌流で還流した。そして頭頂後頭葉皮質を解析して凍結し、-80℃で維持した。更に次のマーカーを測定するために、それをElisa法やウエスタンブロット法、免疫蛍光法で分析できるよう処理した:βアミロイド(βA:タウタンパク質と脳由来神経栄養因子[BDNF]由来の神経栄養因子)。
【0140】
まず最初に4月齢のnon Tgマウス(対照)と比較すると、15月齢の3xTg-ADマウスとnon Tgマウスに認知機能の低下が確認された。実際に高齢のマウスでは、新しいものを認知するテストにおいて、認知率又は認知指数が低下していることが観察されている。しかし本発明に基づく組成物を500mg/kg体重/日か2500mg/kg体重/日の用量で投与すると、3xTg-ADマウスの記憶の損傷が予防された。
【0141】
更に本発明に基づく組成物は、16月齢の3xTg-ADマウスのBDNF(脳由来の神経栄養因子)の減少も予防している。
【0142】
得られた結果は、フェノール性代謝物の濃度が、本発明に基づく組成物を投与したマウスの認知力(記憶力)に相関していることを示している。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7