(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】インクジェット用水性インク組成物及び固体製剤
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20220607BHJP
C09D 11/328 20140101ALI20220607BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20220607BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220607BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/328
C09D11/38
A61K9/20
A61K9/48
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/20
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/36
(21)【出願番号】P 2018007319
(22)【出願日】2018-01-19
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100130580
【氏名又は名称】小山 靖
(72)【発明者】
【氏名】榎本 悠人
(72)【発明者】
【氏名】相良 園子
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008275(JP,A)
【文献】特公昭60-045667(JP,B2)
【文献】特開2016-176005(JP,A)
【文献】特開2016-198148(JP,A)
【文献】特開2016-199613(JP,A)
【文献】特表2006-523751(JP,A)
【文献】特開2018-100336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30-13/00
A61K 9/44
B41J 2/01
B41M 5/00、5/50-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体製剤への印刷に用いられるインクジェット用水性インク組成物であって、
可食性の顔料と、可食性の染料とを少なくとも一種ずつ含み、
前記顔料は、前記インクジェット用水性インク組成物中に分散状態で含まれ、
前記染料は、当該染料が析出しない範囲内で前記インクジェット用水性インク組成物中に溶解して含まれており、
前記顔料と前記染料の含有量のそれぞれが、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し10質量%以下であ
り、
前記染料が色調調整剤及び/又は色相調整剤であり、
前記顔料が、赤色三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、四三酸化鉄及びレーキ顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種であるインクジェット用水性インク組成物。
【請求項2】
固体製剤への印刷に用いられるインクジェット用水性インク組成物であって、
可食性の顔料と、可食性の染料とを少なくとも一種ずつ含み、
前記顔料は、前記インクジェット用水性インク組成物中に分散状態で含まれ、
前記染料は、当該染料が析出しない範囲内で前記インクジェット用水性インク組成物中に溶解して含まれており、
前記顔料と前記染料の含有量のそれぞれが、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し10質量%以下であり、
前記染料が色調調整剤及び/又は色相調整剤であり、
前記染料が、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、青色2号及び天然色素からなる群より選ばれる少なくとも1種であるインクジェット用水性インク組成物。
【請求項3】
固体製剤への印刷に用いられるインクジェット用水性インク組成物であって、
可食性の顔料と、可食性の染料とを少なくとも一種ずつ含み、
前記顔料は、前記インクジェット用水性インク組成物中に分散状態で含まれ、
前記染料は、当該染料が析出しない範囲内で前記インクジェット用水性インク組成物中に溶解して含まれており、
前記顔料と前記染料の含有量のそれぞれが、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し10質量%以下であり、
さらに、単糖類、二糖類及び糖アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の褪色抑制剤を含み、
前記褪色抑制剤の含有量が前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であるインクジェット用水性インク組成物。
【請求項4】
前記染料が色調調整剤及び/又は色相調整剤である請求項
3に記載のインクジェット用水性インク組成物。
【請求項5】
前記レーキ顔料が、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号及び青色2号からなる群より選ばれる少なくとも1種の染料をレーキ化したものである請求項1に記載のインクジェット用水性インク組成物。
【請求項6】
前記顔料が、赤色三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、四三酸化鉄、カーボンブラック、及びレーキ顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
さらに、前記レーキ顔料が、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号及び青色2号からなる群より選ばれる少なくとも1種の染料をレーキ化したものである請求項
2~4の何れか1項に記載のインクジェット用水性インク組成物。
【請求項7】
前記染料が、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、青色2号、クロロフィリン類色素及び天然色素からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1
、3、4又は5の何れか1項に記載のインクジェット用水性インク組成物。
【請求項8】
前記顔料の含有量が、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し、0.1質量%以上である請求項1~
7の何れか1項に記載のインクジェット用水性インク組成物。
【請求項9】
前記染料の含有量が、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し、0.01質量%以上である請求項1~
8の何れか1項に記載のインクジェット用水性インク組成物。
【請求項10】
さらに、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の褪色抑制剤を含み、
前記褪色抑制剤の含有量が前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下である請求項1
、2又は5の何れか1項に記載のインクジェット用水性インク組成物。
【請求項11】
インクジェット用水性インクの乾燥皮膜を表面に有する固体製剤であって、
前記インクジェット用水性インクは、請求項1~
10の何れか1項に記載のインクジェット用水性インク組成物を含むものである固体製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット用水性インク組成物及び固体製剤に関し、より詳細には、医薬品や食品等の固体製剤表面に、吐出性を損なうことなく色調及び色相を容易に調整して画像印刷することが可能なインクジェット用水性インク組成物及び固体製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品等の固体製剤(例えば、錠剤やカプセル剤等)への印刷に用いるインクジェット用インクは、染料を用いた染料インクと、顔料を分散させた顔料インク(例えば、特許文献1)とに大別される。一般に、染料インクは色彩が多様で、鮮やかな発色性に優れるという長所を持つ一方、褪色し易く耐光性に劣るという短所を持つ。これに対して、顔料インクは、染料インクと比べ褪色し難く、耐光性に優れるという長所を持つ一方、染料インクと比べ発色性に劣るという短所を持つ。従って、耐光性に優れた画像を固体製剤に印刷するとの観点からは、顔料インクを採用するのが好適である。
【0003】
しかし、顔料インクを用いた固体製剤への印刷を可能にするためには、顔料インクが、例えば、国内においては薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合していることが必要となる。また、国内においては薬事法で定める医薬品添加物等の基準に適合している顔料でも、国によっては医薬品等への使用が認められていないものも存在する。そのため、それぞれの国において、固体製剤への印刷が可能な顔料インクは限られており、固体製剤の色に応じて印刷画像の色調や色相を自由に変更することは困難であるという問題がある。また、顔料インクは染料インクと比較して発色性に劣ることから、視認性に優れた画像を印刷することも困難である。発色性の向上のために、顔料の含有量を多くすることも考えられるが、その場合、インクジェットヘッドにおける吐出性が低下し、良好な画像の印刷が困難になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、医薬品や食品等の固体製剤に対し、吐出性を損なうことなく色調や色相を容易に調整して画像印刷することが可能なインクジェット用水性インク組成物及び固体製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット用水性インク組成物は、前記の課題を解決する為に、固体製剤への印刷に用いられるインクジェット用水性インク組成物であって、可食性の顔料と、可食性の染料とを少なくとも一種ずつ含み、前記顔料は、前記インクジェット用水性インク組成物中に分散状態で含まれ、前記染料は、当該染料が析出しない範囲内で前記インクジェット用水性インク組成物中に溶解して含まれており、前記顔料と前記染料の含有量のそれぞれが、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し10質量%以下である。
【0007】
一般に、顔料を含むインク(以下「顔料インク」という。)は耐光性に優れているため、染料を含むインク(以下「染料インク」という。)と比較して、経時変化に伴う印刷画像の褪色及び変色の進行を抑制することができる。しかし、顔料は染料と比較して発色性に劣っていることから、顔料インクで医薬品等の錠剤やカプセル剤に画像を印刷した場合には、画像の視認性が低下する場合がある。
【0008】
これに対し、前記構成のインクジェット用水性インク組成物(以下、「水性インク組成物」という場合がある。)は、顔料及び染料を少なくとも一種ずつ含むため、良好な耐光性を維持しつつ発色性に優れた画像の印刷を可能にする。また、前記構成においては、顔料が分散状態で存在し、かつ、染料が水性インク組成物中に析出しない範囲で溶解して存在する。さらに、顔料と染料の含有量のそれぞれを水性インク組成物の全質量に対し10質量%以下としている。そのため、前記構成の水性インク組成物においては、インクジェットノズルからの吐出性も良好に維持される。
【0009】
前記の構成においては、前記染料が色調調整剤及び/又は色相調整剤として含まれることが好ましい。
【0010】
例えば、着色剤として顔料のみを用いた水性インク組成物においては、当該水性インク組成物の発色性を向上させるために顔料を過度に添加した場合、インクジェットノズルからの吐出性が低下し、水性インク組成物の飛翔性が低下することがある。しかし、前記構成の様に、染料を色調調整剤として用いることにより、例えば、当該染料を少量添加するだけで、水性インク組成物の色調の調整が可能になる。その結果、水性インク組成物の吐出性の低下を抑制しながら色調を調整し、印刷画像の発色性を向上させることができる。
【0011】
また、前記構成の様に、染料を色相調整剤として用いることにより、水性インク組成物の色相の調整も可能となる。すなわち、本発明の水性インク組成物は、医薬品等の固体製剤を印刷対象とするので、当該水性インク組成物に含まれる成分は、顔料を含め、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合することを要する。そのため、固体製剤の印刷に適用可能な顔料は限られ、水性インク組成物の色相の調整も容易でない場合がある。この場合、例えば、水性インク組成物の色相を調整するために、色相の異なる複数の顔料を混合することも考えられるが、発色性の向上は困難である。しかし、前記構成の様に染料を含有させることにより、水性インク組成物の色相も容易に調整することが可能になり、画像形成の対象となる固体製剤の表面の色に対応させて、水性インク組成物の色相を容易に調整することができる。
【0012】
さらに、前記構成の様に、染料を色調調整剤及び色相調整剤の両方として用いることもできる。この場合、水性インク組成物の色調及び色相を同時に調整することが可能になる。これにより、例えば、水性インク組成物の色相を顔料とは異なる色相に変更することで、印刷画像の視認性を向上させると共に、色調を調整することにより、水性インク組成物の発色性を向上させることができる。
【0013】
また前記の構成においては、前記顔料が、赤色三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、四三酸化鉄、カーボンブラック、及びレーキ顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、さらに、前記レーキ顔料が、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号及び青色2号からなる群より選ばれる少なくとも1種の染料をレーキ化したものであることが好ましい。
【0014】
さらに前記の構成においては、前記染料が、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、青色2号、クロロフィリン類色素及び天然色素からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記の構成においては、前記顔料の含有量が、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し、0.1質量%以上であることが好ましい。顔料の含有量を0.1質量%以上にすることより、染料と組み合わせる際に色調の変更を可能にする。
【0016】
さらに前記の構成においては、前記染料の含有量が、前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し、0.01質量%以上であることが好ましい。染料の含有量を0.01質量%以上にすることにより、少なくとも水性インク組成物の色調及び/又は色相を調整することができる。
【0017】
前記の構成においては、さらに、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種の褪色抑制剤を含み、前記褪色抑制剤の含有量が前記インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であってもよい。
【0018】
例えば、赤色2号等の染料は、湿度に起因して、時間の経過と共に固体製剤に浸透していく性質を有する。一方、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類は、そのような染料に対し、印刷画像中において、湿度に起因した固体製剤への浸透を抑制する機能を発揮する。そのため、染料の固体製剤への浸透に起因する印刷画像の彩度の低下を抑制し、褪色の発生を低減することができる。また、これらの染料の他に、さらに天然色素等からなる他の染料も用いて印刷された画像においては、これらの染料が他の染料と分離して固体製剤に浸透するのを防止することもできる。その結果、印刷画像の変色も低減することができる。
【0019】
また、赤色2号等の様なアゾ系染料や青色2号等の様なインジゴイド系染料は、光照射により分解(光分解)する性質を有しており、これにより印刷画像が光褪色する場合がある。しかし、褪色抑制剤は、そのような染料に対して光分解を抑制する機能も発揮する。そのため、前記構成の水性インク組成物においては、印刷画像が光褪色の発生により劣化することも低減することができる。
【0020】
尚、前記構成においては、褪色抑制剤の含有量を水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下にすることにより、当該褪色抑制剤が水性インク組成物中に十分に溶解することができずに析出するのを防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る固体製剤は、前記の課題を解決する為に、インクジェット用水性インクの乾燥皮膜を表面に有する固体製剤であって、前記インクジェット用水性インクは、前記インクジェット用水性インク組成物を含むものである。
【0022】
前記の構成によれば、インクジェット用インクの乾燥皮膜中には、顔料及び染料が少なくとも一種ずつ含まれるため、乾燥皮膜が形成する印刷画像は、良好な耐光性を維持しつつ発色性にも優れている。そのため、前記構成の固体製剤であると、乾燥皮膜が形成する印刷画像の褪色を低減することができ、経時変化と共に印刷画像の視認性が低下するのを抑制することができる。また、発色性にも優れているため、例えば、製品情報を印刷した場合には、調剤ミスや誤飲等を防止することが可能な固体製剤を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のインクジェット用水性インク組成物によれば、顔料と染料を少なくとも一種ずつ含むため、当該インクジェット用水性インク組成物を用いて固体製剤表面に印刷された画像においては耐光性及び発色性の双方を向上させることができる。また、顔料及び染料の種類や配合割合を適宜変更することにより、吐出性を損なうことなく、色調や色相を容易に調整しながら固体製剤への画像印刷を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(インクジェット用水性インク組成物)
本実施の形態に係るインクジェット用水性インク組成物(以下、「水性インク組成物」という。)について、以下に説明する。
本実施の形態の水性インク組成物は、顔料と染料を着色剤として少なくとも一種ずつ含み、主溶媒を水とする組成物である。また、本実施の形態の水性インク組成物は、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いることにより、可食性を有するものにすることができ、かつ、インクジェット方式での画像等の記録に好適に用いることができる。
【0025】
ここで、本明細書において「可食性」とは、医薬品若しくは医薬品添加物として経口投与が認められている物質、及び/又は食品若しくは食品添加物として認められているものを意味する。また、本明細書において「インクジェット方式」とは、水性インク組成物を微細なインクジェットヘッドより液滴として吐出して、その液滴を固体製剤に定着させ、画像形成させる方式を意味する。尚、固体製剤の詳細については、後述する。
【0026】
顔料としては可食性を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは赤色三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、四三酸化鉄(黒酸化鉄)、カーボンブラック、及びレーキ顔料からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
レーキ顔料とは、主溶媒に可溶性の染料をレーキ化して得られる顔料を意味し、より詳細には、金属塩等の沈殿剤を加えることにより染料を沈殿剤に吸着させ、不溶性塩(不溶性の微粒子)として沈殿させた沈殿物である。主溶媒に可溶性を示す染料については特に限定されないが、好ましくは、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号及び青色2号からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
レーキ顔料のより具体的な例としては、赤色2号アルミニウムレーキ、赤色3号アルミニウムレーキ、赤色4号アルミニウムレーキ、赤色40号アルミニウムレーキ、赤色102号アルミニウムレーキ、黄色4号アルミニウムレーキ、黄色4号バリウムレーキ、黄色4号ジルコニウムレーキ、黄色5号アルミニウムレーキ、黄色5号バリウムレーキ、黄色5号ジルコニウムレーキ、緑色3号アルミニウムレーキ、青色1号アルミニウムレーキ、青色1号バリウムレーキ、青色1号ジルコニウムレーキ、青色2号アルミニウムレーキ等が挙げられる。
【0029】
例示した顔料は一種単独で、又は二種以上が混合して水性インク組成物中に含まれる。顔料を二種以上混合して含有させることにより、水性インク組成物の色相を調整させることができる。尚、「色相」の詳細については後述する。
【0030】
顔料は、水性インク組成物中に分散状態で存在する。分散状態にある顔料の体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒子径(D50)は、50nm~200nmの範囲内が好ましく、100nm~150nmの範囲内がより好ましい。また、顔料の体積基準積算粒度分布における積算粒度で99%の粒子径(D99)は、100nm~500nmの範囲内が好ましい。D50を50nm以上にすることにより、分散安定性、耐光性及び吐出安定性の悪化を防止し、印刷濃度の低下も防止することができる。その一方、D50を200nm以下にすることにより、顔料の分離や沈降を防止し、分散安定性の維持が図れる。尚、顔料が水性インク組成物中に複数種含まれる場合は、各々の顔料のD50及びD99が数値範囲に含まれていればよい。また、顔料の平均分散粒子径D50又はD99は、マイクロトラックUPA-EX150(商品名、日機装(株)製)を用いて動的光散乱法により測定した値である。
【0031】
顔料の含有量は、インクジェット用水性インク組成物の全質量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることが特に好ましい。顔料の含有量を0.1質量%以上にすることより、印刷画像の耐光性が低下するのを抑制することができる。また、染料との組み合わせによる色調及び/又は色相の変更を可能にする。尚、顔料の含有量を10質量%以下にすることにより、インクジェットヘッドでの水性インク組成物の吐出(安定)性の低下を抑制することができる。また、顔料が水性インク組成物中に複数種含まれる場合は、全ての顔料の含有量の合計が数値範囲に含まれていればよい。
【0032】
染料としては可食性を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは赤色2号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、クロロフィリン類色素及び天然色素からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
クロロフィリン類色素としては特に限定されず、例えば、鉄クロロフィリンナトリウム、銅クロロフィリンナトリウム、クロロフィリンナトリウム等が挙げられる。また、天然色素としては特に限定されず、例えば、コチニール色素、カカオ色素、カラメル色素等が挙げられる。
【0034】
染料は、水性インク組成物中に溶解した状態で存在する。また、染料は、その固体が水性インク組成物中に析出しない範囲で存在する。染料の含有量はその種類にもよるが、水性インク組成物の全質量に対し、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。染料の含有量が0.01質量%以上であると、少なくとも水性インク組成物の色調及び/又は色相の調整が可能になる。尚、染料が水性インク組成物中に複数種含まれる場合は、全ての染料の含有量の合計が数値範囲に含まれていればよい。
【0035】
染料は色調調整剤及び/又は色相調整剤として含有させることができる。例えば、着色剤として顔料のみを用いた水性インク組成物においては、その色調及び/又は色相の調整方法として、顔料の側鎖を変更するなど、その化学構造を設計変更することが考えられる。しかし、医薬品や食品等の固体製剤への印刷を可能にするためには、薬事法で定める医薬品添加物等の基準に適合する必要があり、当該基準に適合させた形での顔料の化学構造の設計変更は容易でない。一方、本願発明においては、すでに薬事法で定める医薬品添加物等の基準に適合した染料の中から、任意の染料を色調調整剤及び/又は色相調整剤として添加するだけで、顔料の化学構造の設計変更を行うことなく水性インク組成物の色調及び/又は色相を容易に調整することができる。また、国内では薬事法で定める医薬品添加物等の基準に適合する顔料であっても、国によっては医薬品等への使用が認められないものも存在し、そのような場合には、所望の色調及び色相の画像を印刷することが困難となる。しかし、本願発明においては、当該国において使用が認められている顔料に対し、染料を色調調整剤及び/又は色相調整剤として添加するだけで、所望の色調及び色相に調整することが可能になる。従って、本願発明においては、固体製剤の色に応じて、印刷画像の視認性が最も高くなるような色調及び色相を備えた水性インク組成物を容易に作製することができ自由度が高い。
【0036】
また、例えば、着色剤として顔料のみを用いた水性インク組成物に、当該水性インクの発色性を向上させるために顔料を過度に添加する場合、あるいは水性インク組成物の色相を調整するために、色相の異なる複数の顔料を混合する場合には、水性インク組成物の粘度が大きくなり過ぎてインクジェットノズルからの吐出性が低下することがある。しかし、染料を色調調整剤として用いると、例えば、当該染料を少量添加するだけで、水性インク組成物の色調の調整が可能になる。その結果、水性インク組成物の飛翔性の低下を抑制しながら、発色性の向上を図ることができる。
【0037】
尚、顔料との組み合わせによっては、染料を色調調整剤及び色相調整剤として同時に機能させることも可能である。この場合、水性インク組成物の色調及び色相を同時に調整することができる。
【0038】
尚、本明細書において「色調」とは、色相、明度、彩度の色の三属性のうち、明度と彩度の組み合わせで表した色の系統を意味する。従って、色調を調整するとは、色の彩度や明度の程度(又は、色の濃淡の程度)を調整することを意味する。また、本明細書において「色相」とは、赤、緑、青、イエロー、マゼンタ、シアン等の色の様相を意味し、便宜上、ブラックも含むものとする。従って、例えば、彩度や明度が異なるマゼンタは、同一の色相としてマゼンタに分類され得る。そして、色相を調整するとは、色の様相を変更すること、すなわち、色彩を変更することを意味する。さらに、本明細書において「発色性」とは、印刷画像において水性インク組成物が有する色が十分に呈色する性質を意味し、発色性の向上は色調の調整により実現し得る。
【0039】
顔料と染料の含有量の合計は、水性インク組成物の全質量に対し20質量%以下であり、好ましくは4質量%以上10質量%以下、より好ましくは5質量%以上8質量%以下である。顔料と染料の含有量の合計を20質量%以下にすることにより、水性インク組成物のインクジェットノズルからの吐出性が低下するのを抑制することができる。尚、顔料と染料の含有比は特に限定されず、色調及び/又は色相の調整の程度に応じて任意に設定することができる。
【0040】
本実施の形態の水性インク組成物中には、顔料を良好に分散させるための顔料分散剤が含有される。顔料分散剤としては、インクジェット用水性インク組成物に用いることができ、かつ、薬事法等の基準に適合するものを使用することができる。具体的には、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリソルベート、オレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、水性インク組成物に含有させる顔料の種類等に応じて、単独で又は二種以上を用いることができる。
【0041】
また、顔料として四三酸化鉄を用いる場合には、アルギン酸ナトリウムが顔料分散剤として好適である。アルギン酸ナトリウムが四三酸化鉄に吸着し顔料分散剤として機能することで、アルギン酸ナトリウムの電離(イオン化)による電気的斥力と立体障害による反発力を顔料に付与する。四三酸化鉄の顔料は磁性を有しているため、粒子間での凝集力が強いが、アルギン酸ナトリウムは反発力等により、四三酸化鉄の顔料同士の再凝集を防止することができる。その結果、分散性及び分散安定性に優れた顔料分散体を提供することができる。
【0042】
アルギン酸ナトリウムとしては、薬事法で定める医薬品添加物等の基準に適合するものであれば特に限定されず、市販品を用いることも可能である。そのような市販品としては、例えば、キミカアルギンULV-L3(10質量%水溶液20℃での粘度20mPa・s~50mPa・s)、キミカアルギンULV-1(10質量%水溶液20℃での粘度100mPa・s~200mPa・s)、キミカアルギンULV-3(10質量%水溶液20℃での粘度300mPa・s~400mPa・s)、キミカアルギン(10質量%水溶液20℃での粘度1800mPa・s~2300mPa・s)等が挙げられる(何れも株式会社キミカ製)。これらのアルギン酸ナトリウムは適宜必要に応じて、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0043】
アルギン酸ナトリウムの質量平均分子量は20万未満であることが好ましく、10万未満であることがより好ましく、5万未満であることが特に好ましい。質量平均分子量を20万未満にすることにより、例えば、分散媒が水である場合、アルギン酸ナトリウムの水に対する溶解度が過度に大きくなり過ぎるのを防止することができる。その結果、四三酸化鉄の分散性が低下し、又は分散できなくなるのを防止することができる。また、分散時間を短縮することができ、四三酸化鉄の平均分散粒子径が大きくなり過ぎるのを防止することができる。尚、アルギン酸ナトリウムの質量平均分子量を1万以上にすることにより、顔料表面に吸着したアルギン酸ナトリウムが立体障害等による反発力を十分に発揮させることができ、これにより顔料同士が再凝集するのを抑制することができる。
【0044】
ここで、アルギン酸ナトリウムの質量平均分子量の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリエチレンオキサイド(PEO)/ポリエチレングリコール(PEG)換算により求められる相対分子量を意味する。
【0045】
アルギン酸ナトリウムの四三酸化鉄に対する含有比は、質量基準で0.03以上0.25以下であることが好ましく、0.05以上0.2以下であることがより好ましく、0.08以上0.15以下であることが特に好ましい。アルギン酸ナトリウムの四三酸化鉄に対する含有比を0.03以上にすることにより、四三酸化鉄の分散性が低下しすぎるのを抑制することができる。その一方、アルギン酸ナトリウムの四三酸化鉄に対する含有比を0.25以下にすることにより、粘性が増大し過ぎるのを抑制しつつ、剪断力等を加えて、凝集した顔料粒子を微細化し分散させるまでの進行時間(分散時間)を短縮することができ、四三酸化鉄の平均分散粒子径が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。
【0046】
顔料と顔料分散剤の含有比は、質量基準で1:0.03~1:4であることが好ましく、1:0.5~1:1であることがより好ましい。含有比が1:0.03以上であると、顔料の分散性の低下を防止することができる。その一方、含有比が1:4以下であると、ノズルプレートの付着に起因する吐出性の低下を防止することができる。
【0047】
本実施の形態の水性インク組成物中には、褪色抑制剤が含有されていてもよい。褪色抑制剤は、湿度に起因して、時間の経過と共に固体製剤に浸透していく性質を有する染料(以下、「特定染料」という。)に対し、当該固体製剤への浸透を抑制する機能を有する。ここで、特定染料としては、例えば、赤色2号、赤色3号、赤色4号、赤色40号、赤色102号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、青色2号、銅クロロフィリンナトリウム等が挙げられる。また、特定染料と、当該特定染料以外の他の染料が含まれる場合には、これらが分離するのを抑制することもできる。これにより、印刷画像の褪色や変色の発生を低減し、印刷画像の視認性を良好なものに維持することができる。また褪色抑制剤は、自然光等の光照射により特定染料が光分解するのを抑制する機能も有する。特定染料のうち、例えば、赤色2号、赤色40号及び赤色102号の様なアゾ系染料や、青色2号の様なインジゴイド系染料は、光照射により光分解する結果、印刷画像が光褪色する場合がある。しかし、退色抑制剤は、そのような特定染料の光分解も抑制するので、印刷画像に光褪色が発生するのを低減することができる。
【0048】
尚、「褪色」とは、湿度に起因して特定染料が固体製剤に浸透する結果、印刷画像の彩度が不可逆的に低下することを意味する。また、「変色」とは、特定染料と他の染料が含まれる場合に、湿度に起因して特定染料が固体製剤に浸透する結果、特定染料と他の染料が分離することにより、他の染料の色相が特定染料と比べて優位となり、印刷画像全体としての色相及び色調が不可逆的に変化することを意味する。「光褪色」とは、自然光等の影響により印刷画像中に含まれる特定染料が光分解し、これにより印刷画像の色相及び色調が不可逆的に変化し、あるいは印刷画像が劣化することを意味する。
【0049】
褪色抑制剤は、単糖類、二糖類、デキストリン類及び糖アルコール類からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0050】
単糖類としては特に限定されず、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等が挙げられる。これらのうち、本発明においてはガラクトース及びフルクトースが好ましい。
【0051】
二糖類としては特に限定されず、例えば、ショ糖(スクロース、砂糖)、ラクトース(乳糖)、マルトース、トレハロース、パラチノース(イソマルツロース)等が挙げられる。これらのうち、本発明においてはマルトース及びトレハロースが好ましい。
【0052】
デキストリン類としては特に限定されず、例えば、シクロデキストリン等が挙げられる。シクロデキストリンとしては特に限定されず、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、δ-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0053】
糖アルコール類としては特に限定されず、例えば、マンニトール、エリスリトール、還元イソマルツロース、キシリトール、ソルビトール等が挙げられる。さらに、還元イソマルツロースは、イソマルツロースを水素化等することにより還元して得られる化合物である。還元イソマルツロースは、α-D-グルコピラノシル-1,1-マンニトール(以下、「GPM」という。)と、α-D-グルコピラノシル-1,6-ソルビトール(以下、「GPS-6」という。)との混合物である。GPMとGPS-6の混合比は特に限定されないが、通常は略等モル量で両者は混合される。糖アルコール類のうち、本発明においては還元イソマルツロース、キシリトール及びソルビトールが好ましい。
【0054】
例示した各褪色抑制剤は1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
褪色抑制剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し50質量%以下であり、好ましくは1質量%~15質量%、より好ましくは5質量%~10質量%である。特に、褪色抑制剤としてデキストリン類又は糖アルコール類を用いる場合、これらの含有量は、水性インク組成物の全質量に対し20質量%以下であることが好ましく、好ましくは1質量%~15質量%、より好ましくは3質量%~8質量%である。褪色抑制剤の含有量を50質量%以下にすることにより、当該褪色抑制剤が水性インク組成物中に析出するのを防止することができる。
【0056】
本実施の形態の水性インク組成物に於いては、水(主溶媒としての水)を含有する。水としては、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水等のイオン性不純物を除去したものを用いるのが好ましい。特に、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間にわたってカビやバクテリアの発生を防止することができるので好適である。また、水の含有量としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0057】
また、本実施の形態の水性インク組成物においては、薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものであれば、その他の添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、表面張力調整剤、湿潤剤、水溶性樹脂、有機アミン、界面活性剤、pH調整剤、キレート化剤、防腐剤、粘度調整剤、消泡剤、分散安定剤、還元防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。表面張力調整剤及び湿潤剤を除き、これらの添加剤の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる(表面張力調整剤及び湿潤剤の含有量については、それぞれ後述する。)。
【0058】
表面張力調整剤としては、薬事法等の基準に適合するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、カプリル酸デカグリセリル、ラウリン酸ヘキサグリセリンエステル、オレイン酸ヘキサグリセリンエステル、縮合リノレン酸テトラグリセリンエステル、脂肪酸エステルヤシパーム、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリル、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリル等が挙げられる。これらは一種単独で、又は二種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
カプリル酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、リョートー(登録商標)ポリグリエステル CE19D(商品名、三菱化学フーズ(株)製、HLB値15)、SYグリスターMCA750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値16)等が挙げられる。
【0060】
尚、HLBの値は、グリフィン法によるHLB値であり、以下の式によって得られる値を意味する。
HLB値=20×(親水基の式量の和/分子量)
HLB値は0~20の範囲内の値となり、HLB値が大きいほど親水性が強くなり、HLB値が小さいほど疎水性が強くなる。
【0061】
ラウリン酸デカグリセリルとしては、HLBが15以下のものを用いることができる。HLBが15を超えるラウリン酸デカグリセリルであると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが15以下のラウリン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1-L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML-750(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値14.8)等が挙げられる。
【0062】
オレイン酸デカグリセリルとしては、HLBが13未満のものを用いることができる。HLBが13以上であると、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりに起因してかすれ等が発生するなど、吐出安定性が低下する。尚、HLBの下限は、水溶媒に対する溶解度の観点からは、10以上であることが好ましい。また、HLBが13未満のオレイン酸デカグリセリルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) DECAGLYN 1-OV(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値12)、SYグリスターMO-7S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値12.9)等が挙げられる。
【0063】
ラウリン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、NIKKOL(登録商標) HEXAGLYN 1-L(商品名、日光ケミカルズ(株)製、HLB値14.5)、SYグリスターML-500(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値13.5)等が挙げられる。
【0064】
オレイン酸ヘキサグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターMO-5S(商品名、阪本薬品工業(株)製、HLB値11.6)等が挙げられる。
【0065】
縮合リノレン酸テトラグリセリンエステルとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、SYグリスターCR-310(商品名、阪本薬品工業(株)製)等が挙げられる。
【0066】
脂肪酸エステルヤシパームとしては、市販品を用いることが可能であり、そのような市販品としては、例えば、チラバゾールW-01(商品名、太陽化学(株)製)等が挙げられる。
【0067】
表面張力調整剤の含有量は、水性インク組成物の全質量に対し、0.1質量%~5質量%の範囲内であることが好ましく、1質量%~2質量%の範囲内であることがより好ましい。表面張力調整剤の含有量が0.1質量%以上であると、インクジェット方式で印刷を行った場合に、インクジェットヘッドにおけるノズルでのメニスカス形成不良等による吐出不良を防止し、当該ノズルの目詰まりが発生するのを防止することができる。その結果、吐出安定性の向上が図れる。その一方、表面張力調整剤の含有量が5質量%以下であると、表面張力調整剤の不溶分や乳化不良による吐出への悪影響を防止することができる。
【0068】
湿潤剤としては、薬事法等の基準に適合するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0069】
湿潤剤の添加量は、水性インク組成物の全質量に対し、1質量%~50質量%が好ましく、10質量%~40質量%がより好ましい。湿潤剤の含有量を1質量%以上にすることにより、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりを防止し、吐出性能の一層の向上が図れる。その一方、湿潤剤の含有量を50質量%以下にすることにより、水性インク組成物の粘度を適性に制御することができる。
【0070】
分散安定剤としては、薬事法等の基準に適合するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、リンゴ酸二ナトリウム等が挙げられる。分散安定剤の添加量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0071】
本実施の形態の水性インク組成物は、インクジェット用インクに好適に使用することができる。さらに、本実施の形態の水性インク組成物は、薬事法で定められる医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いるので、可食性を有しており、サプリメント等の錠剤の表面に直接印刷することが可能である。また、素錠及びOD錠など表面の平滑性が悪い錠剤に対しても、インクジェット方式による非接触印刷を可能にする。さらに、本実施の形態の水性インク組成物は、顔料と染料を併用するので、耐光性及び発色性に優れた画像を、医薬品又はサプリメント等の固体製剤表面に直接印刷することができる。
【0072】
尚、本実施の形態の水性インク組成物は、最終製品たるインクジェット用水性インクに少なくとも含まれるものであるほか、当該インクジェット用水性インクそのものとしても用いることができる。
【0073】
(固体製剤の印刷画像の印刷方法)
本実施の形態の固体製剤における印刷画像の印刷方法は、前述の水性インク組成物を含むインクジェット用水性インク(以下、「水性インク」という場合がある。)を準備する準備工程と、水性インクを用いて固体製剤に対しインクジェット方式印刷する印刷工程とを少なくとも含む。また、水性インク組成物中に退色抑制剤を添加する場合には、印刷工程後に、印刷画像の褪色を抑制する褪色抑制工程を含めることができる。
【0074】
水性インクの準備工程は、水性インク組成物の作製工程を含み得る。水性インク組成物の作製方法としては特に限定されず、例えば、先ず顔料組成物を作製した後、当該顔料組成物に染料等を添加して作製する方法が挙げられる。
【0075】
顔料組成物の作製において、顔料、顔料分散剤、溶媒(分散媒)及び必要に応じて配合するその他の添加剤の混合方法や添加順序は、特に限定されない。例えば、少なくとも1種の顔料、顔料分散剤及び溶媒としての水等を一度に混合し、この混合液に対し通常の分散機を用いて分散処理を施してもよい。
【0076】
分散処理における分散時間は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。顔料の分散処理の際に使用される分散機としては、一般に使用される分散機であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、ナノマイザー等が挙げられる。
【0077】
次に、作製した顔料組成物に、染料、水及び必要に応じて退色抑制剤等の添加剤を混合し、十分に撹拌する。さらに、必要に応じて目詰まりの原因となる粗大粒子及び異物を除去するための濾過を行う。これにより、本実施の形態に係る水性インク組成物を得ることができる。
【0078】
各材料の混合方法としては特に限定されず、例えば、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合を行うことができる。また、濾過方法としては特に限定されず、例えば、遠心濾過、フィルター濾過等を採用することができる。
【0079】
また、水性インク組成物の他の作製方法としては、顔料、染料、顔料分散剤、溶媒(分散媒)及び必要に応じて配合するその他の添加剤を一度に混合した後、十分に撹拌して作製する方法も挙げられる。
【0080】
印刷工程は、インクジェット方式により固体製剤表面に画像印刷を行う工程である。より具体的には、微細なノズルより固体製剤に、水性インク組成物を少なくとも含む水性インクをインク滴として吐出し、インク滴を固体製剤表面に付着させて行う。吐出方法として特に限定されず、例えば、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等の公知の方法を採用することができる。インク滴の吐出量、印刷速度等の印刷条件は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。
【0081】
また、印刷工程には、固体製剤の表面に付着したインク滴を乾燥させる乾燥工程を含む。乾燥方法としては特に限定されず、熱風乾燥の他、自然乾燥等を行うことができる。また、乾燥時間や乾燥温度等の乾燥条件についても特に限定されず、インク滴の吐出量や水性インク組成物の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0082】
さらに、水性インク組成物に褪色抑制剤が含まれる場合、前述の褪色抑制工程が印刷工程後に行われる。褪色抑制工程は、湿度に起因して特定染料が固体製剤に浸透するのを、印刷画像中に含まれる褪色抑制剤が抑制する工程である。
【0083】
褪色の抑制効果の評価は、例えば、画像印刷された固体製剤を温度25℃、相対湿度60%の雰囲気下で、24時間保管した場合、印刷直後の印刷画像を基準にして、L*a*b*表色系におけるΔa*
1を-18以上、好ましくは-10~+10、より好ましくは-5~+5の範囲を評価基準の一つとすることができる。Δa*
1を-18以上にすることにより、印刷画像の変色を低減し、良好な視認性を維持することができる。その結果、固体製剤表面に製品情報等を印刷する場合にも、当該製品情報の誤認を防止し、調剤ミスや誤飲の発生を低減することができる。尚、印刷直後の印刷画像とは、乾燥後の印刷画像を意味する。
【0084】
Δa*
1はJIS Z 8730に準拠するものであり、以下の一般式(1)で表される。
Δa*
1=a*
1-a*
0 (1)
(但し、a*
0は印刷工程直後の固体製剤における印刷画像のL*a*b*表色系における値を表し、a*
1は温度25℃、相対湿度60%の雰囲気下で、24時間保管した後の固体製剤における印刷画像のL*a*b*表色系の値を表す。)
L*a*b*表色系は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した色空間であり、CIE1976(L*a*b*)表色系と称される色空間のことを意味し、日本工業規格ではJIS Z 8730に規定されている。
【0085】
また本実施の形態においては、特定染料の光分解を抑制する光褪色抑制工程を含んでもよい。前述の通り、褪色抑制剤はアゾ系染料やインジゴイド系染料等の特定染料が光分解するのを抑制する機能も有するため、これにより印刷画像の光褪色を低減することができる。
【0086】
光褪色の抑制効果の評価は、例えば、固体製剤表面の印刷画像に積算光量が120万lx・hrの可視光(波長域380nm~750nm)を照射した場合、印刷直後の印刷画像を基準にして、L*a*b*表色系におけるΔE*(ab)を17以下、好ましくは0~10、より好ましくは0~5の範囲を評価基準の一つとすることができる。ΔE*(ab)を17以下にすることにより、印刷画像の光褪色を低減し、良好な視認性を維持することができる。その結果、固体製剤表面に製品情報等を印刷する場合にも、当該製品情報の誤認を防止し、調剤ミスや誤飲の発生を低減することができる。尚、印刷直後の印刷画像とは、前述と同様、乾燥後の印刷画像を意味する。
【0087】
ΔE*(ab)はJIS Z8781に準拠するものであり、以下の一般式(2)で表される。
ΔE*(ab)=((ΔL*
2)2+(Δa*
2)2+(Δb*
2)2)1/2 (2)
但し、ΔL*
2、Δa*
2及びΔb*
2は、それぞれ以下の通り表される。
ΔL*
2=L*
2-L*
0
(L*
0は固体製剤の印刷画像における印刷工程直後のL*a*b*表色系の明度を表し、L*
2は固体製剤の印刷画像における積算光量120万lx・hrの可視光を照射した後のL*a*b*表色系の明度を表す。)
Δa*
2=a*
2-a*
0
(a*
0は、固体製剤の印刷画像における印刷工程直後のL*a*b*表色系の値を表し、a*
2は、固体製剤の印刷画像における積算光量120万lx・hrの可視光を照射した後のL*a*b*表色系の値を表す。)
Δb*
2=b*
2-b*
0
(b*
0は、固体製剤の印刷画像における印刷工程直後のL*a*b*表色系の値を表し、b*
2は、固体製剤の印刷画像における積算光量120万lx・hrの可視光を照射した後のL*a*b*表色系の値を表す。)
【0088】
(固体製剤)
本明細書において、「固体製剤」とは食品製剤及び医薬製剤を含む意味であり、固体製剤の形態としては、例えばOD錠(口腔内崩壊錠)、素錠、FC(フィルムコート)錠、糖衣錠等の錠剤又はカプセル剤が挙げられる。また、固体製剤は、医薬品用途であってもよく、食品用途であってもよい。食品用途の錠剤の例としては、錠菓やサプリメント等の健康食品が挙げられる。
【0089】
固体製剤の表面には、水性インク組成物を含む水性インクを用いて、インクジェット記録方法により直接印刷された乾燥皮膜からなる印刷画像が形成される。そして乾燥皮膜は、水性インク組成物中に含まれていた顔料と染料とにより少なくとも構成される。
【0090】
本実施の形態の固体製剤において、乾燥皮膜からなる印刷画像は耐光性に優れているため、例えば、製品情報などの各種情報の画像の劣化を防止することが可能である。また、印刷画像は発色性にも優れているため、使用者に対する識別性も向上させることができる。その結果、本実施の形態の固体製剤は、長期にわたって良好な視認性を維持し、調剤ミスや誤飲の防止を可能にする。
【0091】
尚、褪色抑制剤は、前述の通り、特定染料が周囲の湿度に起因して固体製剤に浸透するのを抑制するものであるが、この効果は固体製剤が糖衣錠やFC錠の場合に特に有効である。本発明の褪色抑制剤がその効果を特に奏しやすい糖衣錠としては、糖衣層が白糖(ショ糖)やマルチトール等からなるものが挙げられる。糖衣層における白糖又はマルチトール等の含有量は特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。また、本発明の褪色抑制剤がその効果を特に奏しやすいFC錠としては、フィルムコートがヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系高分子化合物からなるものが挙げられる。
【実施例】
【0092】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、下記の実施例に記載されている材料や含有量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定するものではない。また、インクジェット用水性インク組成物の各材料は何れも薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合するものである。
【0093】
(実施例1)
本実施例においては、まず、顔料としての四三酸化鉄(癸巳化成株式会社製)6gに、顔料分散剤としてのアルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製)0.6g、イオン交換水23.4gを容器中で混合し、容器中の混合液を分散機(ペイントシェーカー、浅田鉄工株式会社製)にて分散させ、顔料分散液を作製した(顔料、顔料分散剤及びイオン交換水の配合比は1:0.1:3.9)。続いて、作製した顔料分散液に、表面張力調整剤としてのモノカプリル酸デカグリセリル(商品名:SYグリスターMCA750、阪本薬品工業株式会社製、HLB値16)2g、湿潤剤としてのプロピレングリコール30gを添加し、さらにイオン交換水の合計含有量が61.1gとなるようにイオン交換水37.7gを加え、本実施例に係る顔料組成物を作製した。顔料組成物は赤みを帯びた黒色を呈色していた。
【0094】
この顔料組成物に、さらに青色2号(ダイワ化成(株)製)0.3gを添加し、当該青色2号の固体を析出させることなく溶解させた。これにより、黒酸化鉄が分散し、かつ青色2号が溶解して存在する水性インク組成物を作製した(表1参照)。
(実施例2)
本実施例においては、染料として、青色2号に代えて青色1号9.2gを添加した。それら以外の各組成の配合割合は表1に示す通りに変更し、実施例1と同様の方法にて本実施例に係る水性インク組成物を作製した(表1参照)。
【0095】
(実施例3)
本実施例においては、四三酸化鉄の含有量を1.2gに変更した。さらに、染料として、青色2号に代えて青色1号0.01gを添加した。それら以外の各組成の配合割合は表1に示す通りに変更し、実施例1と同様の方法にて本実施例に係る水性インク組成物を作製した(表1参照)。
【0096】
(実施例4)
本実施例においては、四三酸化鉄の含有量を0.6gに変更した。さらに、染料として、青色2号に代えて青色1号0.005gを添加した。それら以外の各組成の配合割合は表1に示す通りに変更し、実施例1と同様の方法にて本実施例に係る水性インク組成物を作製した(表1参照)。
【0097】
(比較例1~4)
比較例1~4においては、各組成の配合割合を表1に示す通りに変更し、また染料を添加しなかった。それら以外は実施例1と同様の方法にて比較例1~4に係る水性インク組成物をそれぞれ作製した。
【0098】
(比較例5)
本比較例においては、各組成の配合割合を表1に示す通りに変更した。また、染料である青色2号の添加量を0.6gに変更した。それら以外は実施例1と同様の方法にて本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0099】
【0100】
(実施例5)
本実施例においては、まず、顔料としての赤色40号アルミニウムレーキ(三栄源株式会社製)8g、顔料分散剤としてのポリアクリル酸ナトリウム(商品名:TEGO(登録商標) Dispers 715W、Evonik社製、質量平均分子量3000)6g、分散安定剤としてのリンゴ酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)2g、イオン交換水44gを容器中で混合し、混合液を分散機(ペイントシェーカー、浅田鉄工株式会社製)にて分散させ、顔料分散液を作製した(顔料、顔料分散剤、分散安定剤及びイオン交換水の配合比は1:0.75:0.25:5.5)。続いて、作製した顔料分散液に、湿潤剤としてのプロピレングリコール30g、表面張力調整剤としてのモノカプリル酸デカグリセリル(商品名:SYグリスターMCA750、阪本薬品工業株式会社製、HLB値16)2gを添加し、さらにイオン交換水の合計含有量が50.9gとなるようにイオン交換水6.9gを加え、本実施例に係る顔料組成物を作製した。
【0101】
この顔料組成物に、さらに青色1号0.1g及び黄色4号1gを添加し、当該青色1号及び黄色4号の固体を析出させることなく溶解させた。これにより、赤色40号アルミニウムレーキが分散し、かつ青色1号及び黄色4号が溶解した水性インク組成物を作製した(表2参照)。
【0102】
(比較例6)
本比較例においては、各組成の配合割合を表2に示す通りに変更し、また染料を添加しなかった。それら以外は実施例4と同様の方法にて本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0103】
(比較例7)
本比較例においては、各組成の配合割合を表2に示す通りに変更した。また、染料である青色1号の添加量を1.2g、黄色4号の添加量を12gに変更した。それら以外は実施例4と同様の方法にて本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0104】
【0105】
(実施例6)
本実施例においては、まず、顔料としての黄色4号アルミニウムレーキ(三栄源株式会社製)8g、顔料分散剤としてのポリアクリル酸ナトリウム(商品名:TEGO(登録商標) Dispers 715W、Evonik社製、質量平均分子量3000)6g、分散安定剤としてのリンゴ酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)2g、イオン交換水44gを容器中で混合し、混合液を分散機(ペイントシェーカー、浅田鉄工株式会社製)にて分散させ、顔料分散液を作製した(顔料、顔料分散剤、分散安定剤及びイオン交換水の配合比は1:0.75:0.25:5.5)。続いて、作製した顔料分散液に、湿潤剤としてのプロピレングリコール30g、表面張力調整剤としてのモノカプリル酸デカグリセリル(商品名:SYグリスターMCA750、阪本薬品工業株式会社製、HLB値16)2gを添加し、さらにイオン交換水の合計含有量が51.2gとなるようにイオン交換水7.2gを加え、本実施例に係る顔料組成物を作製した。
【0106】
この顔料組成物に、さらに赤色102号0.5g及び青色1号0.3gを添加し、当該赤色102号及び青色1号の固体を析出させることなく溶解させた。これにより、黄色4号アルミニウムレーキが分散し、かつ赤色102号及び青色1号が溶解して存在する水性インク組成物を作製した(表3参照)。
【0107】
(比較例8)
本比較例においては、各組成の配合割合を表3に示す通りに変更し、また染料を添加しなかった。それら以外は実施例5と同様の方法にて本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0108】
(比較例9)
本比較例においては、各組成の配合割合を表3に示す通りに変更した。また、染料である赤色102号の添加量を7g、青色1号の添加量を4.2gに変更した。それら以外は実施例5と同様の方法にて本比較例に係る水性インク組成物を作製した。
【0109】
【0110】
(実施例7)
実施例7においては、各組成の配合割合を表4に示す通りに変更した。また、褪色抑制剤として還元イソマルツロース1gを添加した。それら以外は、実施例1と同様の方法にて本実施例に係る水性インク組成物を作製した。
【0111】
【0112】
(吐出安定性)
実施例1~6及び比較例1~9の水性インク組成物からなる水性インクを用いて、インクジェット方式により、素錠の一方の面に印刷を行い、素錠表面に画像を形成した。
【0113】
印刷は、インクジェットプリンタ(KC 600dpiヘッド、中速印字治具)を用いてシングルパス(ワンパス)方式にて行った。また、印刷は気温25℃、相対湿度40%の環境下で行った。さらに、印刷後には、ドライヤーにて熱風を直接当て、印刷面を十分に乾燥させた。
【0114】
吐出安定性の評価は、ヘッドから水性インク組成物を吐出させた後、インクジェットプリンタを停止させ、その後、再度印刷したときの印刷画像にノズル抜けやかすれが観察されるか否かにより行った。結果を表1~3に示す。表中の○は、ノズル抜け及びかすれが何れも観察されなかった場合を意味する。×は、印刷途中でノズル抜け又はかすれの少なくとも何れかが発生した場合を意味する。尚、ノズル抜けとは、目詰まりが発生したノズルから水性インク組成物からなるインク滴(液滴)が吐出されないことを意味する。かすれとは、印刷の初期における画像のかすれを意味する。
【0115】
表1~3から分かる通り、実施例1~6、比較例1~3、比較例6及び比較例8の水性インク組成物については何れも良好な吐出安定性を示すことが確認された。一方、比較例4及び5については、顔料の含有量が10質量%より多いことにより水性インク組成物の粘度が増大し、インクジェットヘッドから水性インク組成物を吐出させることができなかった。また、比較例7及び9の水性インク組成物については染料の含有量が10質量%より多いことにより、当該染料の固体が析出し、その結果、インクジェットノズルからの吐出不良が発生した。以上より、インクジェット用の水性インク組成物としては、顔料と染料の含有量のそれぞれが10質量%以下であり、かつ、染料が析出しない程度に溶解しているものが吐出安定性の観点から、インクジェット用水性インクとして適していることが確認された。
【0116】
(色調及び色相)
実施例1~6、比較例1~3、比較例6及び比較例8の水性インク組成物からなる水性インクを用いて素錠表面に印刷した画像について、それぞれ色調及び色相の評価を行った。評価基準は下記の通りとした。尚、比較例4、5、7及び9については吐出不良により印刷できなかったため、印刷画像の色調等の評価は行わなかった。結果を表1~3に示す。
○:色調及び/又は色相が変わっていることが目視で判断できる
△:色調及び/又は色相が変わっていることが目視で判断できるが、○と比較して効果が小さい
×:色調及び色相が変わっていることが目視で判断できない
【0117】
表1から分かる通り、実施例1~3の水性インク組成物においては、青色1号又は青色2の染料を添加して色調及び色相を調整することにより、黒酸化鉄の顔料のみを用いた比較例1と比較して、赤味のないブラックに改善することができた。特に、実施例1及び2の水性インク組成物については、色調が良好なブラック色で画像を印刷することができ、印刷画像の視認性を向上させることができた。
【0118】
また、表2から分かる通り、実施例5の水性インク組成物においては、青色1号及び黄色4号を添加して色相を調整することにより、赤色40号アルミニウムレーキのレーキ顔料のみを用いた比較例6と比較して、良好なブラックに調色することができ、印刷画像の視認性を向上させることができた。
【0119】
さらに、表3から分かる通り、実施例6の水性インク組成物においては、赤色102号及び青色1号を添加して色相を調整することにより、着色剤として黄色4号アルミニウムレーキのレーキ顔料のみを用いた比較例8と比較して、緑がかったブラックに調色することができ、印刷画像の視認性を向上させることができた。
【0120】
(光褪色抑制性に関する評価)
実施例1及び7の水性インク組成物の褪色抑制性については、相対湿度60%の環境下で以下の試験を行うことにより評価した。すなわち、実施例1及び7に係る水性インク組成物によるインクジェット印刷後の素錠(サンプル)について、それぞれ色彩色差計(型番:VSS7700、日本電色工業(株)製)を用いて、L*a*b*表色系におけるL*
0、a*
0、b*
0をそれぞれ測定した(表5では、積算光量0lx・hrでのL*、a*、b*の値)。測定は、実施例1及び7の各印刷画像において、それぞれ2箇所ずつ行った。
【0121】
続いて、ICHガイドラインに準拠した光安定性試験装置(ナガノサイエンス(株)製)を用いて、密閉したガラス製瓶内に保存した印刷後のサンプルに対し光照射を行った。このときの積算光量は120万lx・hr(室内蛍光灯下換算で50日分)とした。その後、再び色彩色差計を用いて、各サンプルのL*a*b*表色系におけるL*
2、a*
2、b*
2をそれぞれ測定した(表5では、積算光量120万lx・hrでのL*、a*、b*の値)。測定は、実施例1及び7の各印刷画像において、それぞれ積算光量が0lx・hrの場合と同様の箇所を行った。結果を表5に示す。
【0122】
尚、各表中に示すΔE*(ab)2、ΔL*
2、Δa*
2、Δb*
2は、それぞれ以下の一般式により算出した。
ΔE*(ab)2=((ΔL*
2)2+(Δa*
2)2+(Δb*
2)2)1/2
ΔL*
2=L*
2-L*
0
Δa*
2=a*
2-a*
0
Δb*
2=b*
2-b*
0
【0123】
【0124】
表5に示す通り、実施例1のサンプルにおいては、素錠に印刷された印刷画像の色差ΔE*(ab)2が、印刷直後と比較していずれも大きくなり、印刷画像が光褪色していることが確認された。
【0125】
その一方、実施例7のサンプルにおいては、素錠に印刷された印刷画像の色差ΔE*(ab)2の増加を大幅に抑制することができた。これにより、実施例7においては、印刷画像中の青色2号のインジゴイド系染料の光分解を低減することができ、光褪色の低減が可能であることが確認された。尚、表5中に示す「擬似色」とは、素錠に印刷された画像の色を他の色で代替して示すことを意味する。