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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】セラミック製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20220607BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220607BHJP
   C04B 41/86 20060101ALI20220607BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20220607BHJP
   B29C 64/336 20170101ALI20220607BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y10/00
C04B41/86 Z
B29C64/112
B29C64/336
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018027370
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019142069
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100134599
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(72)【発明者】
【氏名】田林 勲
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-250022(JP,A)
【文献】特開2010-168250(JP,A)
【文献】特開2009-195794(JP,A)
【文献】竹岡 敬和,白と黒の材料から作られるカラフルな色材,化学と教育,日本,公益社団法人 日本化学会,2017年12月20日,65巻, 12号,640-643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
B29C 64/00
B33Y 10/00-99/00
A61C 13/083
C04B 41/00
B28B 11/04
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック材料を含有する第1インクと、釉薬を含有する第2インクとを、インクジェット方式で噴射して堆積させる3Dプリンティングにより、前記第1インクにより形成されたセラミック体と、前記第2インクにより形成され、前記セラミック体の少なくとも一部を覆う釉薬膜と、を有する3次元造形物を形成する造形物形成工程と、
前記造形物形成工程により形成された前記3次元造形物を焼成する焼成工程と、を備え
前記第2インクは、塩基性成分と酸性成分とを含み、前記焼成工程の焼成温度に応じて前記塩基性成分及び前記酸性成分の含有量を調整する、
セラミック製品の製造方法。
【請求項2】
前記第1インク及び前記第2インクは、放射線重合性化合物を含有している放射線硬化性インクであり、
前記造形物形成工程では、前記第1インク及び前記第2インクを放射線により硬化させる、
請求項1に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項3】
前記第1インク及び前記第2インクは、溶媒を含有している、
請求項1又は2に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項4】
前記第2インクは、着色剤を含有している、
請求項1から3のいずれか1項に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項5】
前記着色剤は、構造発色性材料である、
請求項4に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項6】
前記構造発色性材料は、黒色無機粒子を含有している、
請求項5に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項7】
前記造形物形成工程では、着色剤を含有している第3インクをインクジェット方式で噴射して堆積させ、前記セラミック体と前記釉薬膜との間、又は、前記釉薬膜のセラミック体が接する面と反対の面に、前記第3インクより形成される着色剤膜を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項8】
前記第3インクは、溶媒を含有している、
請求項7に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項9】
前記着色剤は、構造発色性材料である、
請求項7又は8に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項10】
前記構造発色性材料は、黒色無機粒子を含有している、
請求項9に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項11】
前記セラミック材料の焼成温度と前記釉薬の焼成温度との差が300℃以下である、
請求項1から10のいずれか1項に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項12】
前記セラミック材料の焼成温度と前記釉薬の焼成温度との差が100℃以下である、
請求項11に記載のセラミック製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3D(3次元)プリンティング市場は急速に成熟してきており、セラミック製品の製造においても、3Dプリンティングを利用したセラミック製品の製造方法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】精密工学会誌、Vol. 80, No.12, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の3Dプリンティングでは、ニアネットシェイプのセラミック製品を簡易に製造することができるものの、釉薬の付与については別工程で行う必要があり、セラミック製品の製造工程の工程数が多い。
【0005】
本発明は、3Dプリンティングを用いつつも、工程数の少ないセラミック製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明に係るセラミック製品の製造方法は、
セラミック材料を含有する第1インクと、釉薬を含有する第2インクとを、インクジェット方式で噴射して堆積させる3Dプリンティングにより、前記第1インクにより形成されたセラミック体と、前記第2インクにより形成され、前記セラミック体の少なくとも一部を覆う釉薬層と、を有する3次元造形物を形成する造形物形成工程と、
前記造形物形成工程により形成された前記3次元造形物を焼成する焼成工程と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、釉薬の付与についても3Dプリンティングにより行うことができるので、3Dプリンティングを用いつつも、少ない工程によりセラミック製品を製造できる。
【0008】
前記第1インク及び前記第2インクは、放射線重合性化合物を含有している放射線硬化性インクであり、
前記造形物形成工程では、前記第1インク及び前記第2インクを放射線により硬化させる、
ようにしてもよい。
【0009】
上記構成によれば、造形物形成工程において容易に3次元造形物を形成できる。
【0010】
前記第1インク及び前記第2インクは、溶媒を含有している、
ようにしてもよい。
【0011】
上記構成によれば、放射線硬化性インクが放射線により硬化される際に細孔ができにくく、3次元造形物の収縮を抑えることができる。
【0012】
前記第2インクは、着色剤を含有している、
ようにしてもよい。
【0013】
上記構成によれば、着色を容易に行える。
【0014】
前記着色剤は、構造発色性材料である、
ようにしてもよい。
【0015】
上記構成によれば、着色を容易に行え、重金属を使わないでフルカラー加飾が可能になり、人体に無害なセラミック製品が得られる。
【0016】
前記構造発色性材料は、黒色無機粒子を含有している、
ようにしてもよい。
【0017】
上記構成によれば、濃く鮮やかで角度依存性のない発色(色相)が得られる。
【0018】
前記造形物形成工程では、着色剤を含有している第3インクをインクジェット方式で噴射して堆積させ、前記セラミック体と前記釉薬膜との間、又は、前記釉薬膜のセラミック体が接する面と反対の面に、前記第3インクより形成される着色剤膜を有する、
ようにしてもよい。
【0019】
上記構成によれば、着色を容易に行え、三層構造になり、高い発色が得られる。
【0020】
前記第3インクは、溶媒を含有している、
ようにしてもよい。
【0021】
上記構成によれば、放射線硬化性インクが放射線により硬化される際に細孔ができにくく、3次元造形物の収縮を抑えることができる。
【0022】
前記着色剤は、構造発色性材料である、
ようにしてもよい。
【0023】
上記構成によれば、着色を容易に行え、重金属を使わないでフルカラー加飾が可能になり、人体に無害なセラミック製品が得られる。
【0024】
前記構造発色性材料は、黒色無機粒子を含有している、
ようにしてもよい。
【0025】
上記構成によれば、濃く鮮やかで角度依存性のない発色(色相)が得られる。
【0026】
前記セラミック材料の焼成温度と前記釉薬の焼成温度との差が300℃以下である、
ようにしてもよい。
【0027】
上記構成によれば、たとえば、セラミック材料と釉薬とのうちのいずれかが昇華してしまうことを防止でき、好適に焼成を行うことができる。
【0028】
前記セラミック材料の焼成温度と前記釉薬の焼成温度との差が100℃以下である、
ようにしてもよい。
【0029】
上記構成によれば、たとえば、セラミック材料と釉薬とのうちのいずれかが昇華してしまうことを防止でき、好適に焼成を行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、3Dプリンティングを用いつつも、工程数の少ないセラミック製品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】セラミック製品の製造方法の工程において形成される、一層分のサポート材層、セラミック層、及び釉薬層の断面図。
図2】セラミック製品の製造方法の工程において形成される積層体の断面図。
図3】セラミック製品の製造方法の工程において形成される3次元造形物の断面図。
図4】変形例において形成される3次元造形物の断面図。
図5】変形例において形成される3次元造形物の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の特徴及びその他の利点について、発明を実施するための形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、本発明の製造方法の特徴を明確にすべく、目的とするセラミック製品の形態は、内部に円筒空洞が形成された円柱状のセラミック製品を製造する場合について説明する。但し、本発明の製造方法は、円柱状のセラミック製品のみならず、任意の形態のセラミック製品の製造に対して用いることができる。
【0033】
図1図3は、本実施形態におけるセラミック製品の製造方法の工程を説明するための図である。セラミック製品は、材料を噴射して堆積させる材料噴射堆積方法の3Dプリンティングにより、形成される。
【0034】
セラミック製品の製造方法では、まず、例えば図示しないインクジェットヘッドモジュールから、サポート材料を含有する紫外線硬化性のインクA、セラミック材料を含有する紫外線硬化性のインクB、及び、釉薬及び着色剤を含有する紫外線硬化性のインクCを、ステージSに吐出するとともに、吐出した各インクに紫外線を照射して各インクを硬化させる。これにより、図1に示すような、インクAが硬化したサポート材層11、インクBが硬化したセラミック層12、インクCが硬化した釉薬層13が一層形成される。なお、紫外線の照射タイミングは、任意であり、前記一層分のインクA~Cを吐出した後であってもよいし、前記一層分のインクA~Cを吐出している最中であってもよい。この実施の形態では、サポート材層11が中央に位置し、その外側にセラミック層12が位置し、さらに外側に釉薬層13が形成されている。
【0035】
その後、インクA~Cの吐出、及び、紫外線の照射を繰り返し、サポート材層11、セラミック層12、釉薬層13からなる層(以下、全体層ともいう。)を積層させていく。なお、全体層を一層形成するごとに、ローラー等により、全体層を平坦化してもよい。各全体層は、インクの硬化により、その下の全体層と融着する。このようにして全体層を積層させて得られる積層体20を図2に示す。積層体20は、サポート材層11(硬化したインクAの層)が積層されて形成されたサポート体21と、セラミック層12(硬化したインクBの層)が積層されて形成された円筒状のセラミック体22と、釉薬層13(硬化したインクCの層)が積層されて形成された膜状かつ円筒状の釉薬膜23と、を備える。釉薬膜23は、セラミック体22の外周面を覆っている。なお、図2では、積層体20中の点線により、一層分の全体層が示されている。
【0036】
その後、積層体20を、ステージSから切り離し、溶剤に浸漬させることにより、サポート体21を溶解除去する。これにより、円筒状のセラミック体22と、セラミック体22の外周面を覆う釉薬膜と、を有する3次元造形物30(図3)が得られる。
【0037】
次いで、上記積層体を所定温度、例えば1200~1250℃で焼成して、外表面が釉薬により施釉されたセラミック製品を得る。
【0038】
なお、上記各インクに含有する樹脂成分(紫外線により重合する重合性化合物、重合開始剤等)は、上記焼成の過程で昇華して除去されるが、焼成工程の前に数百度の熱処理を行って、脱脂することもできる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態では、3Dプリンティングにより、釉薬膜23を備える3次元造形物30を形成し、焼成によりセラミック製品を得ることができる。従って、施釉を別工程で行うことや、セラミック体の素焼き等が不要になり、少ない工程数で、釉薬の付与ないしセラミック製品の製造を行える。
【0040】
インクA~Cは、放射線で硬化する放射線硬化性のインクであればよく、一般的には、放射線重合性化合物を含有し、必要により更に開始剤、溶媒などを含有する。
【0041】
前記「放射線」(エネルギー線)は、電離性を有する放射線と、非電離性の放射線とを含む広義の意味でのものである。すなわち、前記「放射線」とは、その照射によりインク中において開始種を発生させ得るエネルギーを付与することができる放射線であれば、特に制限はなく、広く、α線、β線、γ線、X線、電子線、紫外線(UV)、可視光線、赤外線などを包含するものであるが、中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。したがって、インクは、放射線として、紫外線を照射することにより硬化可能なインクであることが好ましい。
【0042】
前記放射線重合性化合物は、放射線により重合しうる化合物である。ここで、重合性とは、低分子化合物が高分子化合物に変化する反応性全てを意味し、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、重縮合、架橋などの反応性を含む。これらのうち、ラジカル重合、カチオン重合、架橋の反応性が好ましい。また、重合性化合物は、単量体、重縮合の原料の他、硬化性樹脂や半硬化樹脂などを含む。具体的には、重合性化合物としては、イオンや有機ラジカルの存在下に、アニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合の付加重合を行い得る不飽和結合を有する化合物、縮合重合し得る官能基を有する化合物などが挙げられる。エネルギー線重合性化合物は、親水性であっても、疎水性であってもよい。
【0043】
前記重合性化合物としては、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルナフタレン等)、アクリル酸エステル誘導体(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等)、メタクリル酸エステル誘導体(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等)、アルキルビニルエーテル(例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、アルキルビニルエステル(例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和化合物が挙げられる。
【0044】
セラミック材料を含有するインクに含有させる放射線重合性化合物と、サポート材のインクに含有させる放射線重合性化合物とは、例えば、セラミック材料を含有するインクに含有させる放射線重合性化合物を疎水性の放射線重合性化合物とし、セラミック材料を含有するインクに含有させる放射線重合性化合物を親水性の放射線重合性化合物とする。これにより、硬化物を水に含浸させることで、サポート材を膨潤させたり、溶解させて容易に除去することができる。
【0045】
親水性の放射線重合性化合物としては、前記の重合性化合物のうち、例えば、極性基と重合性官能基を有する化合物などが挙げられる。重合性官能基としては、ビニル基、エポキシ基が挙げられる。極性基としては、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基などが挙げられる。より具体的には、アクリルアミド系化合物、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸メチルなどが挙げられる。アクリルアミド系化合物としては、メタアクリルアミド、アクリルアミド、これらのN-置換体(N,N-ジメチルアクリルアミドなど)が挙げられる。
疎水性の放射線重合性化合物としては、前記の重合性化合物のうち、例えば、極性基を有さず重合性官能基を有する化合物などが挙げられる。
【0046】
前記開始剤は、放射線が照射されることによって、放射線重合性化合物の重合を開始させることができる化合物である。開始剤としては、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパンを挙げることができる。
【0047】
前記溶媒としては、水、メタノール、エタノール等のアルコール類等の極性溶媒、無極性溶媒、及びこれらの混合物等が挙げられる。インクに溶媒を含有させることによって放射線硬化性インクが放射線により硬化される際に細孔ができにくく、3次元造形物の収縮を抑えることができる。
【0048】
前記セラミック材料としては、目的とするセラミック製品に応じて任意に選択することができ、例えばアルミナやジルコニア、ジルコン、フォルステライト、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、炭化ケイ素、窒化アルミニウム等の他、陶石、長石、粘土等天然の鉱物から適宜選択することができる。
【0049】
なお、セラミック材料を含有するインクに含まれる放射線重合性化合物は、硬化し、セラミック材料に対するバインダーの役割を果たす。上述したように、このような硬化物は、焼成の過程で昇華して除去される。
【0050】
釉薬としては、例えば、アルミナ、ジルコン、コーディエライト、ペタライト等を挙げることができ、必要に応じて、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マンガン等の電子供与性の塩基性成分、アルミナ、フェライト、酸化ホウ素等の中性成分、シリカ、酸化チタン、ジルコニア等の電子吸引性の酸性成分を含有させることができる。
【0051】
なお、上述した塩基性成分は、釉薬の溶融温度や焼成温度を下げる効果があり、上述した酸性成分は、釉薬の溶融温度や焼成温度を上昇させる効果がある。したがって、セラミック成形の焼成温度とのずれを所定の範囲内に収めるには、これらの塩基性成分、酸性成分を適宜調整する。
【0052】
また、上述した中性成分は、釉薬が結晶化するのを防ぎ釉薬の清澄性を促進し、施釉層等の厚みを均一にする働きがある。
【0053】
着色剤としては、蛍光染料、青色染料、紫色染料、赤色染料、白色染料、青色顔料、紫色顔料、赤色顔料、白色顔料、黒色顔料等を用いることが好ましい。これら顔料としては有機顔料、無機顔料のいずれも用いることができ、具体的には、カラーインデックスにおいてピグメントに分類されている化合物を挙げることができる。
【0054】
また、ペリレン染料、アントラキノン染料、トリアリールメタン染料、フタロシアニン染料、キサンテン染料、ジピロメテン染料、フタロシアニン顔料、ジオキサジン顔料、キナクリドン顔料、アゾ顔料、アントラキノン顔料、ペリレン顔料等を用いることができる。
【0055】
さらには、銀、金、白金、銅、アルミニウム、六四黄銅などの金属(粒子)を用いることもできる。この場合は、セラミック着色用インクに金属光沢を付与することができる。なお、金属光沢を付与するに際しては、上述したような金属を含む有機金属塩、有機錯体、メタライズド粒子をインク中に含有させておき、以下の焼成工程において還元性雰囲気で焼成を行うことにより、上記金属が分離して析出し、硬化したインク中に存在して金属光沢を呈するようになる。
【0056】
また、着色剤を構造発色性材料から構成することができる。構造発色性材料は、特定の微細構造を形成することにより発色させる材料、好ましくは無機材料である。例えば、粒径が180nm~400nmの範囲で、粒径分布のシャープな単分散シリカを構造発色性材料として用いると、特定の構造発色が得られる。
【0057】
構造発色性材料からなる着色剤によれば、例えば、シリカの粒子径を280nmに揃えた、単分散シリカを用いることで、インクの発色(色相)を緑色にすることができる。また、例えばシリカの粒子径を360nmに揃えることで、インクの発色(色相)を赤色にすることができ、シリカの粒子径を260nmに揃えることで、インクの発色(色相)を青色にすることができる。
【0058】
構造発色性材料は、前記の単分散シリカに更に黒色粒子を含有することができる。単分散シリカに黒色粒子を混ぜることにより、濃く鮮やかで角度依存性のない発色(色相)が得られる。黒色粒子としては、チタンブラック、四三酸化鉄、黒色の無機物質で被覆された単分散シリカ等の黒色無機粒子、カーボンブラック等が挙げられる。
【0059】
このように、構造発色性材料からなる着色剤によれば、発色の色相等を着色剤の構造で制御することができるので、焼成工程において、当該着色剤が熱の影響を受けにくい。したがって、当初の設計通りの色相等を有する着色剤で着色されたセラミック製品を3Dプリンティングで得ることができる。また、重金属を使わないでフルカラー加飾が可能になり、人体に無害なセラミック製品が得られる。
【0060】
なお、本実施形態においては、セラミック材料の焼成温度と釉薬の焼成温度との差が300℃以下であることが好ましく、さらには100℃以下であることが好ましい。ここで、焼成温度とは、セラミック材料が、焼結可能な温度のうち最低の温度である。セラミック材料と釉薬との焼成温度をこのような範囲に設定することにより、セラミック材料と釉薬の成形を同時に行う事ができ、更に、セラミック材料と釉薬の焼成を同時に行う事ができる。
【0061】
セラミック材料の焼成温度は、使用するセラミック材料の種類が、目的とするセラミック製品に応じて一義的に決まってしまうので、一般には、上述したように、釉薬中に、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マンガン等の塩基性成分、アルミナ、フェライト、酸化ホウ素等の中性成分、シリカ、酸化チタンジルコニア等の酸性成分を含有させ、その割合を変化させることによって、釉薬の溶解温度を変化させる。
【0062】
上述のように、塩基性成分は、釉薬の焼成温度を下げる効果があり、上述した酸性成分は、釉薬の焼成温度を上昇させる効果がある。したがって、釉薬の焼成温度を上昇させたいときは、酸性成分の割合を多くし、釉薬の焼成温度を下げたいときは、塩基性成分の割合を多くする。
【0063】
(変形例)
釉薬を含有するインクPと、着色剤を含有するインクQとを別々に用意してもよい。この場合、3次元造形物30は、インクPを硬化させた層を積層した釉薬膜25Aと、インクQを硬化させた層を積層した着色膜25Bと、を備える(図4及び図5)。図4のように、セラミック体22の外周面を釉薬膜25Aにより覆い、釉薬膜25Aを着色膜25Bにより覆ってもよい。また、図5のように、セラミック体22の外周面を着色膜25Bにより覆い、着色膜25Bを釉薬膜25Aにより覆ってもよい。着色剤は、焼成工程において、具体的には釉薬中に拡散していく。これにより、独特の色合いが表現できる場合がある。
【0064】
インクA~C、P、Qは、揮発により硬化するものであってもよい。但し、放射線での硬化を採用する方が、当該硬化のスピードを制御しやすく、セラミック製品の製造に好適である。
【0065】
インクCは、釉薬を含有するが着色剤を含有しなくてもよい。これにより、透明な釉薬膜23を得ることができ、セラミック製品に瀬戸物のような独特のつやが表現できる場合がある。
【0066】
釉薬膜23又は25A、着色膜25Bは、セラミック体22の一部又は全部を覆うように形成されればよい。
【0067】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
S ステージ
11 サポート材層
12 セラミック層
13 釉薬層
20 積層体
21 サポート体
22 セラミック体
23、25A 釉薬膜
25B 着色膜
30、30A 3次元造形物
図1
図2
図3
図4
図5