(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】車両のドアビーム
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20220607BHJP
B60R 21/02 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
B60J5/00 Q
B60R21/02
(21)【出願番号】P 2018036725
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2020-10-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596002767
【氏名又は名称】トヨタ自動車九州株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 健二
(72)【発明者】
【氏名】姫木 携造
(72)【発明者】
【氏名】山中 善陽
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-118367(JP,A)
【文献】特開2007-186022(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第04306824(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
B60R 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の側方ドアのドア本体内に配置されるアルミニウム押出し材のドアビームであって、
車両外側に位置し、車両前後方向に延びる長板状の外側板部と、
車両内側に位置し、車両前後方向に延びる長板状の内側板部と、
前記外側板部と前記内側板部の間に位置し、車両前後方向に延び、前記外側板部と前記内側板部を連結する連結部と、
を有し、
前記外側板部と前記内側板部は、長板形状の幅方向が略車両上下方向となるように配置され、前記外側板部と前記内側板部の下縁の間隔が上縁の間隔よりも広く、
前記連結部には、当該連結部が車両左右方向に圧縮荷重を受けたときに座屈するように、脆弱部が設けられており、
当該ドアビームが前記ドア本体内に配置された状態で車両左右方向に圧縮荷重を受けたとき、前記連結部が座屈する、車両のドアビーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側方ドアを補強するドアビームに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の側方ドアには、側面衝突時にドアの変形を抑え、乗員を保護するドアビームが備えられる場合がある。下記特許文献1には、アルミニウム合金形材からなるドアビーム(1)が示されている。ドアビーム(1)は、互いに平行なインナーフランジ(2)およびアウターフランジ(3)と、これらのフランジ(2,3)を連結するウエブ(4,5)を有している。なお、上記の( )内の符号は、下記特許文献1にて用いられている符号であり、本実施形態の説明で用いられる符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衝突対象物が比較的広い面を有する場合、側面衝突において、ドアビームの断面形状の変形は小さい方が衝突対象物および変形した側方ドアの車室内への進入を抑制することができる。一方、衝突対象物が柱状物である場合、衝突荷重が局所に集中し、ドアビームは折れ曲がるように変形する。このために、変形した側方ドアの車室内への進入量が大きくなる場合がある。
【0005】
本発明は、柱状物など、衝突荷重が局所的に作用する衝突対象物が側方ドアに衝突した場合に、側方ドアの車室内への進入量を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るドアビームは、アルミニウム押出し材であり、車両外側に位置して車両前後方向に延びる長板状の外側板部と、車両内側に位置し、車両前後方向に延びる長板状の内側板部と、外側板部と内側板部の間に位置し、車両前後方向に延び、外側板部と内側板部を連結する連結部と、を有し、連結部には、当該連結部が車両左右方向に圧縮荷重を受けたときに座屈するように、脆弱部が設けられており、当該ドアビームが前記ドア本体内に配置された状態で車両左右方向に圧縮荷重を受けたとき、前記連結部が座屈する、
さらに、外側板部と内側板部は、長板形状の幅方向が略車両上下方向となるように配置され、外側板部と内側板部の下縁の間隔が上縁の間隔よりも広いものとすることができる。
【発明の効果】
【0007】
ドアビームの連結部に脆弱部を設けたことにより、衝突荷重が局所的に作用するような対象物と衝突した場合に連結部が座屈して、外側板部と内側板部の距離が縮まる。これによりドアビームおよびドアの車室内への進入量が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】車両の側方ドアおよび側方ドア内部に配置されたドアビームを模式的に示す図である。
【
図2】ドアビームであるベルトラインビームおよびその周囲の
図1に示すA-A線断面図である。
【
図3】柱状の衝突対象物が側方ドアに衝突した状態を示す模式図である。
【
図4】柱状の衝突対象物が衝突したときのドア本体の変形を示す図であり、(a)が本実施形態、(b)が比較例を示す。
【
図5】脆弱部として薄板部分を有する他の実施形態のベルトラインビームの断面図である。
【
図6】脆弱部として切欠き部分を有する他の実施形態のベルトラインビームの断面図である。
【
図7】脆弱部として異種材料部分を有する他の実施形態のベルトラインビームの断面図である。
【
図8】外側板部と内側板部が平行に配置された他の実施形態のベルトラインビームの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は、乗用車などの車両の側面に設けられた側方ドア10を模式的に示す図である。図示する側方ドア10は、例示的に4ドア乗用車のフロントドアを示している。
図1に示す矢印FRの向きが車体に取り付けられたときの前方であり、矢印UPの向きが上方、紙面の手前が左方(LH)である。以降の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下などの方向および向きを表す語句は、車両に関する方向および向きを表す。また、車両の左右方向(幅方向)において、車両の前後方向に延びる中心線に近い側を車両内側、遠い側を車両外側と記す。
【0010】
側方ドア10は、ドア本体12と窓枠となるドアフレーム14を有する。ドア本体内には、側面衝突時において、側方ドア10の変形を抑え、乗員を保護するためのドアビームが設けられている。この側方ドア10には、ドアビームとして、ドア本体12の中央より下方に前後方向に延びて配置されるインパクトビーム16と、ドア本体12の上縁、いわゆるベルトラインに沿ってドア本体12の上縁部に前後方向に延びて配置されたベルトラインビーム18が設けられている。インパクトビーム16は鋼管製、ベルトラインビーム18はアルミニウム押出し材である。
【0011】
図2は、
図1のA-A線によるベルトラインビーム18およびその周囲の断面図である。図中の矢印OUTの向きが車両外側である。ドア本体12は、車両外側に位置するアウタパネル20と車両内側に位置するインナパネル22を接合して形成される。アウタパネル20およびインナパネル22は、鋼板、アルミニウム板などの金属板製とすることができる。ドア本体12を補強するために、内部にリインホースメントが配置される。例えば、アウタパネル20の内側にはアウタリインホースメント24が設けられ、また、インナパネル22の内側にはインナリインホースメント26が設けられている。アウタおよびインナリインホースメント24,26の間には、格納された窓ガラスが収容される。アウタおよびインナリインホースメント24,26は、鋼板、アルミニウム板などの金属板製とすることができる。
【0012】
アウタパネル20とアウタリインホースメント24は上縁で接合されており、そこから下方に向けて徐々に間隔が広がっている。このアウタパネル20とアウタリインホースメント24の間の空間にベルトラインビーム18が配置されている。ベルトラインビーム18は、車両外側に位置する外側板部28と、車両内側に位置する内側板部30とを含む。さらに、ベルトラインビーム18は、外側板部28と内側板部30の間に位置し、外側板部28と内側板部30を連結する第1連結部32および第2連結部34を含む。
【0013】
外側板部28、内側板部30ならびに第1および第2連結部32,34は、それぞれ長板状であり、車両の前後方向に延びている。横断面において、外側板部28はアウタパネル20とほぼ平行に位置し、内側板部30はアウタリインホースメント24とほぼ平行に位置している。この結果、外側板部28と内側板部30は、下縁の間隔が上縁の間隔よりも広くなっている。特に、このベルトラインビーム18においては、外側板部28と内側板部30は互いの上縁で接続し、下縁では第1連結部32により、中間では第2連結部34により連結されている。第1連結部32は、横断面において屈曲形状、特に上方に凸の屈曲形状を有し、長手方向に延びる稜線部分36が形成されている。
【0014】
図3は、柱状の衝突対象物38が側方ドア10に衝突した状態を模式的に示す図である。柱状の衝突対象物38が衝突すると、局所的に衝突荷重が作用し、側方ドア10およびベルトラインビーム18に局所的な応力が発生する。ベルトラインビーム18は、車室側に向けて折れ曲がり、側方ドア10が車室内に進入する。この側方ドア10においては、ベルトラインビーム18の第1連結部32の横断面形状を屈曲形状とすることで第1連結部32を座屈させ、側方ドア10の室外側の面の進出量を小さくしている。
【0015】
図4は、側方ドア10に柱状の衝突対象物38が衝突したときの、ドア本体12の、
図1中のA-A線における変形状態を示す図である。(a)は本実施形態の側方ドア10のドア本体12の変形状態を示し、(b)は比較例のドア本体12Bの変形状態を示している。比較例のドア本体12Bの各部材については、本実施形態のドア本体12に対応する部材の符号に「B」を付す。また、
図4においては、各部材は、厚みが省略され、線により表されている。
【0016】
比較例のドア本体12Bは、ベルトラインビーム18B、特にその第1連結部32Bの形状が異なる。本実施形態の第1連結部32は、前述のように屈曲した形状を有するが、比較例の第1連結部32Bは、屈曲がなく平板形状である。他の部材は、本実施形態と比較例で相違がない。柱状の衝突対象物38が衝突したとき、比較例では、第1連結部32Bが、これを圧縮するように作用する衝突荷重に対して突っ張り、ベルトラインビーム18Bの形状は大きく変化していない。これに対し、本実施形態の第1連結部32は、屈曲した角部分、つまり稜線部分36で大きく変形して座屈する。これにより、外側板部28と内側板部30が接近し、左右方向の厚さが薄くなるようにベルトラインビーム18が変形する。本実施形態のベルトラインビーム18の変形後の厚さa1は、比較例のベルトラインビーム18Bの厚さa2より薄いことが分かる。ベルトラインビーム18の変形後の厚さが薄くなったために、本実施形態のドア本体12の厚さb1も、比較例のドア本体12Bの厚さb2よりも薄くなる。
【0017】
このように、ベルトラインビーム18の第1連結部32の屈曲した部分が、第1連結部32に圧縮荷重が作用したとき第1連結部32を座屈させる脆弱部となる。脆弱部を設けることにより、衝突荷重が集中した部分で第1連結部32が座屈し、ベルトラインビーム18の左右方向の寸法が薄くなる。これにより側方ドアの室内側への進入量が抑えられる。一方、壁状の衝突対象物が衝突した場合には、衝突荷重が分散するので、第1連結部32が座屈に至らず、ベルトラインビーム18の断面形状を維持し変形を抑えることで、室内側への進入を抑えている。
【0018】
図5は、ベルトラインビームの他の例を示す図である。ベルトラインビーム40は、前述のベルトラインビーム18と同様の外側板部42と内側板部44を有する。外側板部42と内側板部44を連結する連結部46は、全体として平板形状を有し、ベルトラインビーム40の長手方向に延びる板厚が薄い薄板部分48を有している。薄板部分48は、連結部46の他の部分よりも板厚が薄く、均一な厚さで形成されてもよく、また中央に向けて徐々に厚さが薄くなるように形成されてもよい。連結部46に衝突荷重が入力すると、薄板部分48を起点として連結部46が座屈し、薄板部分48は圧縮荷重に対して脆弱部として機能する。連結部46の座屈により、変形後のベルトラインビーム40の左右方向の厚さが小さくなる。
【0019】
図6は、ベルトラインビームのさらに他の例を示す図である。ベルトラインビーム50は、前述のベルトラインビーム18と同様の外側板部52と内側板部54を有する。外側板部52と内側板部54を連結する連結部56は、全体として平板形状を有し、ベルトラインビーム50の長手方向に延びる切欠きが形成された切欠き部分58を有している。連結部56に衝突荷重が入力すると、切欠き部分58を起点として連結部56が座屈し、切欠き部分58は圧縮荷重に対して脆弱部として機能する。連結部56の座屈により、変形後のベルトラインビーム50の左右方向の厚さが小さくなる。
【0020】
図7は、ベルトラインビームのさらに他の例を示す図である。ベルトラインビーム60は、前述のベルトラインビーム18と同様の外側板部62と内側板部64を有する。外側板部62と内側板部64を連結する連結部66は、全体として平板形状を有し、一部に、ベルトラインビーム60の長手方向に延びる異種材料で構成された異種材料部分68を有している。異種材料は、アルミニウムよりも強度が低い材料であり、例えば樹脂である。このベルトラインビーム60は、複合押出しにより形成することができる。連結部66に衝突荷重が入力すると、異種材料部分68を起点として連結部66が座屈し、異種材料部分68は圧縮荷重に対して脆弱部として機能する。連結部56の座屈により、変形後のベルトラインビーム60の左右方向の厚さが小さくなる。
【0021】
図8は、ベルトラインビームのさらに他の例を示すである。ベルトラインビーム70は、車両外側に位置する外側板部72と車両内側に位置する内側板部74を有する。外側板部72および内側板部74は車両前後方向に延びる長板状の部材である。外側板部72および内側板部74は横断面において略平行に配置され、上縁と下縁の間隔はほぼ等しい。外側板部72と内側板部74の間には、これらを連結する連結部76,78が設けられている。連結部76,78は、外側板部72と内側板部74と共に車両前後方向に延びている。連結部76,78は、横断面において屈曲形状を有し、脆弱部として長手方向に延びる稜線部分80,82が形成されている。連結部76,78に衝突荷重が入力すると、稜線部分80,82を起点として連結部76,78が座屈し、ベルトラインビーム70の左右方向の厚さが小さくなる。
【0022】
上記の説明において、連結部を1つまたは2つ備えたベルトラインビームを例示したが、連結部の数はこれに限られない。また、
図2等に示したベルトラインビーム18は、2つの連結部32,34のうち、第1連結部32のみ屈曲形状であるが、2つ共に屈曲形状としてもよい。
【0023】
また、上述の各ベルトラインビームは、ドア本体12の上縁部に限らず、ドア本体12内の他の部分のドアビームとすることができる。例えば、インパクトビーム16と置き換えることができる。ドア本体12の上縁部に配置されるドアビームにおいては、ドア本体12の外形に合わせてドアビームの上縁の左右方向の寸法を小さくする必要があるが、上縁部以外の部分に配置する場合にあってはこのような制約を受けない場合がある。このようなときには、
図8に示すベルトラインビーム70の断面形状を採用することが有利となり得る。
【0024】
以上、側方ドアのドアビームとして、4ドア車のフロントドアを例示して説明したが、リアドアなど他の側方ドアのドアビームに上述のドアビーム(ベルトラインビーム)を適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
10 側方ドア、12 ドア本体、14 ドアフレーム、16 インパクトビーム、18 ベルトラインビーム(ドアビーム)、20 アウタパネル、22 インナパネル、24 アウタリインホースメント、26 インナリインホースメント、28 外側板部、30 内側板部、32 第1連結部、34 第2連結部、36 稜線部分(脆弱部)、38 柱状の衝突対象物、40 ベルトラインビーム、42 外側板部、44 内側板部、46 連結部、48 薄板部分(脆弱部)、50 ベルトラインビーム、52 外側板部、54 内側板部、56 連結部、58 切欠き部分(脆弱部)、60 ベルトラインビーム、62 外側板部、64 内側板部、66 連結部、68 異種材料部分(脆弱部)、70 ベルトラインビーム、72 外側板部、74 内側板部、76,78 連結部、80,82 稜線部分(脆弱部)。