(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】開放支援装置及び開口部装置
(51)【国際特許分類】
E05F 13/02 20060101AFI20220607BHJP
E05F 7/00 20060101ALI20220607BHJP
E06B 3/46 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
E05F13/02
E05F7/00 Z
E06B3/46
(21)【出願番号】P 2018037872
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大宮 宏之
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328917(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026592(WO,A1)
【文献】米国特許第3024054(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0027987(KR,A)
【文献】特開2016-89523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 13/02
E05F 7/00
E06B 3/46
E05B 1/00
E05B 63/14
E05B 65/08
E05C 9/00-9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
戸体の外面から出没可能に設けられる蹴り出し部材を有し、前記戸体を開閉可能に支持する枠部材を前記蹴り出し部材で押圧することにより前記戸体を開く際に該戸体を前記枠部材に対して蹴り出す開放支援機構を備え、
前記戸体に設けられる操作機構と前記開放支援機構との間が連動部材によって連結されることにより、前記操作機構が操作された場合に前記開放支援機構が動作する開放支援装置であって、
前記連動部材と前記開放支援機構との間を接続可能なクラッチ機構を備え、
前記クラッチ機構は、前記操作機構が所定操作位置まで開方向に操作される場合に一方向に移動する前記連動部材と前記開放支援機構との間を接続し、前記連動部材の移動を前記開放支援機構に伝達して前記蹴り出し部材を前記戸体内に没した収納位置から前記戸体外に突出した蹴出位置まで移動させる一方、前記操作機構が前記所定操作位置からさらに開方向に操作された場合にさらに前記一方向に移動する前記連動部材と前記開放支援機構との間を切り離し、前記連動部材の移動を前記蹴り出し部材に伝達しない
ものであり、
前記クラッチ機構は、前記蹴り出し部材に設けられたピン状部材と、
前記連動部材に回動可能に支持され、前記連動部材が前記一方向に移動している場合に前記ピン状部材を押圧可能な駆動面、及び、前記連動部材が前記一方向とは逆方向の他方向に移動している場合に前記ピン状部材に摺接する逃げ面を有する駆動部材と、
前記駆動部材を前記駆動面で前記ピン状部材を押圧可能な回動位置へと付勢する第2弾性部材と、
前記ピン状部材を前記連動部材の移動方向に沿って移動させる第1ガイド部、及び、該第1ガイド部から連続し、前記ピン状部材を前記第1ガイド部によるガイド方向から交差した方向に移動させる第2ガイド部を有し、前記ピン状部材が移動可能に挿入されるガイド孔と、を備え、
前記開放支援機構は、前記操作機構が前記所定操作位置まで開方向に操作される場合に前記駆動部材の前記駆動面が前記ピン状部材を押圧することにより、前記ピン状部材が前記第1ガイド部にガイドされている間は前記蹴り出し部材を前記蹴出位置に向かって移動させ、
前記ピン状部材が前記第1ガイド部から前記第2ガイド部に移動し、該第2ガイド部の所定位置まで進んだ場合に、前記ピン状部材が前記駆動面から離脱し、これにより前記連動部材と前記開放支援機構との間が切り離されて前記蹴り出し部材の前記蹴出位置から前記収納位置への移動が許容された状態となることを特徴とする開放支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の開放支援装置において、
前記クラッチ機構は、前記操作機構が閉方向に操作された場合に前記一方向とは逆方向の他方向に移動する前記連動部材と前記開放支援機構との間を切り離す一方向伝達構造を備えることを特徴とする開放支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の開放支援装置において、
前記開放支援機構は、前記蹴り出し部材を前記蹴出位置から前記収納位置へと移動させる方向に付勢する第1弾性部材を有し、
前記開放支援機構は、前記クラッチ機構によって前記一方向に移動する前記連動部材と接続された状態では前記蹴り出し部材が前記第1弾性部材の付勢力に抗して前記蹴出位置へと移動し、
前記クラッチ機構によって前記一方向とは逆方向の他方向に移動する前記連動部材と切り離された状態では前記蹴り出し部材が前記第1弾性部材の付勢力によって前記収納位置へと移動することを特徴とする開放支援装置。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載の開放支援装置において、
前記蹴り出し部材は、一端部が前記戸体に対して回転可能に位置決め支持された第1アームと、一端部が前記第1アームの他端部と回転可能に連結され、他端部に前記ピン状部材が設けられた第2アームと、前記第1アームと前記第2アームとの連結部に設けられたローラと、を有し、
前記ピン状部材が前記駆動部材の駆動面で押圧された場合に、前記第1アームと前記第2アームとの間が前記連結部を支点として折り畳まれることにより、前記ローラが前記戸体から突出して前記枠部材を押圧することを特徴とする開放支援装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の開放支援装置と、前記枠部材に開閉可能に支持され、前記開放支援装置が設けられた前記戸体と、前記戸体の外面に露出した操作部を有する前記操作機構と、前記戸体内で移動可能に支持された前記連動部材と、を備えることを特徴とする開口部装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸体の開放を支援する開放支援装置及び該装置を備える開口部装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型や重量が大きな戸体は、閉じた状態から開く際に大きな力が必要となる場合がある。特許文献1には、引戸の縦框に設けられた操作ハンドルを回動させた際、これと連動して引戸を枠部材に対して蹴り出すことにより引戸を開く力を軽減する開放支援機構を設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の構成では、引戸の縦框から出没することにより、枠部材を押圧する蹴り出し部材の動作と、操作ハンドルの動作とが完全に連動している。このため、引戸を開く際、操作ハンドルを開方向に回動させて蹴り出し部材を突出させた後、今度は操作ハンドルを逆方向に回動させて蹴り出し部材を収納する機構を設け、これにより蹴り出し部材が蹴出位置に保持されることを回避している。従って、この構成では、使用者は操作ハンドルを回動させて蹴り出し部材で引戸を蹴り出した後、操作ハンドルから手を離して操作ハンドルの逆方向への回動を待ってから引戸を開き操作する必要があり、開き操作が煩雑である。しかも操作ハンドルは、開放支援機構の設置を前提に設計しておく必要があり、操作ハンドルや開放支援機構が互いに専用品となって汎用性が低下する。
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題を考慮してなされたものであり、操作性が向上し、しかも操作機構や開放支援機構の汎用性を高めることができる開放支援装置及び該装置を備える開口部装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る開放支援装置は、戸体の外面から出没可能に設けられる蹴り出し部材を有し、前記戸体を開閉可能に支持する枠部材を前記蹴り出し部材で押圧することにより前記戸体を開く際に該戸体を前記枠部材に対して蹴り出す開放支援機構を備え、前記戸体に設けられる操作機構と前記開放支援機構との間が連動部材によって連結されることにより、前記操作機構が操作された場合に前記開放支援機構が動作する開放支援装置であって、前記連動部材と前記開放支援機構との間を接続可能なクラッチ機構を備え、前記クラッチ機構は、前記操作機構が所定操作位置まで開方向に操作される場合に一方向に移動する前記連動部材と前記開放支援機構との間を接続し、前記連動部材の移動を前記開放支援機構に伝達して前記蹴り出し部材を前記戸体内に没した収納位置から前記戸体外に突出した蹴出位置まで移動させる一方、前記操作機構が前記所定操作位置からさらに開方向に操作された場合にさらに前記一方向に移動する前記連動部材と前記開放支援機構との間を切り離し、前記連動部材の移動を前記蹴り出し部材に伝達しないことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る開口部装置は、上記構成の開放支援装置と、前記枠部材に開閉可能に支持され、前記開放支援装置が設けられた前記戸体と、前記戸体の外面に露出した操作部を有する前記操作機構と、前記戸体内で移動可能に支持された前記連動部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、使用者は、戸体を開き操作する際、操作機構を所定操作位置を越えて最大操作位置まで操作するだけで、その操作中にクラッチ機構が接続状態から切り離し状態に切り換わり、蹴り出し部材を戸体を蹴り出した後に収納することが可能となる。このため、使用者は、蹴り出し部材による戸体の蹴り出し後、そのまま最大操作位置まで操作させた操作機構を利用して戸体を開き操作することができ、高い操作性が得られる。しかも当該開放支援装置は、クラッチ機構を備えることにより、別個に設計した開放支援機構と、操作機構や連動部材とを容易に組み合わせることができる。このため、操作機構は開放支援機構の設置を前提にした構成とする必要がない。その結果、開口部装置の仕様に応じて、開放支援機構の複数の設置が可能となり、或いは同一の操作機構や連動部材を用いて開放支援機構の有無を選択することができ、高い汎用性が得られる。
【0009】
本発明に係る開放支援装置において、前記クラッチ機構は、前記操作機構が閉方向に操作された場合に前記一方向とは逆方向の他方向に移動する前記連動部材と前記開放支援機構との間を切り離す一方向伝達構造を備える構成としてもよい。そうすると、戸体を閉じる際に、操作機構の閉方向への操作に開放支援機構が連動して動作することが防止され、蹴り出し部材の収納位置が確実に維持され、蹴り出し部材が戸体の閉じ動作を邪魔することが回避される。
【0010】
本発明に係る開放支援装置において、前記開放支援機構は、前記蹴り出し部材を前記蹴出位置から前記収納位置へと移動させる方向に付勢する第1弾性部材を有し、前記開放支援機構は、前記クラッチ機構によって前記一方向に移動する前記連動部材と接続された状態では前記蹴り出し部材が前記第1弾性部材の付勢力に抗して前記蹴出位置へと移動し、前記クラッチ機構によって前記一方向とは逆方向の他方向に移動する前記連動部材と切り離された状態では前記蹴り出し部材が前記第1弾性部材の付勢力によって前記収納位置へと移動する構成としてもよい。そうすると、戸体を蹴り出した後の蹴り出し部材を第1弾性部材の付勢力を利用して確実に収納位置まで移動させることができる。
【0011】
本発明に係る開放支援装置において、前記クラッチ機構は、前記蹴り出し部材に設けられたピン状部材と、前記連動部材に回動可能に支持され、前記連動部材が前記一方向に移動している場合に前記ピン状部材を押圧可能な駆動面、及び、前記連動部材が前記一方向とは逆方向の他方向に移動している場合に前記ピン状部材に摺接する逃げ面を有する駆動部材と、前記駆動部材を前記駆動面で前記ピン状部材を押圧可能な回動位置へと付勢する第2弾性部材と、前記ピン状部材を前記連動部材の移動方向に沿って移動させる第1ガイド部、及び、該第1ガイド部から連続し、前記ピン状部材を前記第1ガイド部によるガイド方向から交差した方向に移動させる第2ガイド部を有し、前記ピン状部材が移動可能に挿入されるガイド孔と、を備え、前記開放支援機構は、前記操作機構が前記所定操作位置まで開方向に操作される場合に前記駆動部材の前記駆動面が前記ピン状部材を押圧することにより、前記ピン状部材が前記第1ガイド部にガイドされている間は前記蹴り出し部材を前記蹴出位置に向かって移動させ、前記ピン状部材が前記第1ガイド部から前記第2ガイド部に移動し、該第2ガイド部の所定位置まで進んだ場合に、前記ピン状部材が前記駆動面から離脱し、これにより前記連動部材と前記開放支援機構との間が切り離されて前記蹴り出し部材の前記蹴出位置から前記収納位置への移動が許容された状態となる構成としてもよい。そうすると、ピン状部材とガイド孔とを用いた簡素な構成でクラッチ機構を構築することができ、当該開放支援装置の構造を簡素化できる。また、第1ガイド部や傾斜した第2ガイド部の角度や長さ、配置を変えることで、これを設けた部材一つの部材交換で任意の操作位置での蹴り出しが可能となり、安価で汎用性が高くなる。
【0012】
本発明に係る開放支援装置において、前記蹴り出し部材は、一端部が前記戸体に対して回転可能に位置決め支持された第1アームと、一端部が前記第1アームの他端部と回転可能に連結され、他端部に前記ピン状部材が設けられた第2アームと、前記第1アームと前記第2アームとの連結部に設けられたローラと、を有し、前記ピン状部材が前記駆動部材の駆動面で押圧された場合に、前記第1アームと前記第2アームとの間が前記連結部を支点として折り畳まれることにより、前記ローラが前記戸体から突出して前記枠部材を押圧する構成としてもよい。そうすると、蹴り出し部材の構成を簡素化しつつも、操作機構の操作に基づく連動部材の移動により蹴り出し部材を円滑に出没動作させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、戸体の開閉時の操作性が向上し、しかも操作機構や開放支援機構の汎用性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る開放支援装置を備えた開口部装置を室内側から見た姿図である。
【
図2】開口部装置の引戸を開いた状態で室内側から見た斜視図である。
【
図3】
図3(A)は、操作ハンドルが0度位置にあり、引戸が施錠された状態での各機構の状態を示す要部拡大断面図であり、
図3(B)は、
図3(A)に示す状態から操作ハンドルが開方向に145度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図である。
【
図4】
図4(A)は、
図3(B)に示す状態から操作ハンドルが開方向に180度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図であり、
図4(B)は、
図4(A)に示す状態から操作ハンドルが閉方向に89度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図である。
【
図5】
図5(A)は、操作ハンドルが0度位置にあり、引戸が施錠された状態での各機構の状態を示す要部拡大断面図であり、
図5(B)は、
図5(A)に示す状態から操作ハンドルが開方向に89度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図である。
【
図6】
図6(A)は、
図5(B)に示す状態から操作ハンドルが開方向に145度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図であり、
図6(B)は、
図6(A)に示す状態でクラッチ機構が切り離された状態を示す要部拡大断面図である。
【
図7】
図7(A)は、
図6(B)に示す状態から操作ハンドルが開方向に180度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図であり、
図7(B)は、
図7(A)に示す状態から引戸が閉じ操作された状態を示す要部拡大断面図である。
【
図8】
図8(A)は、
図7(B)に示す状態から操作ハンドルが閉方向に90度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図であり、
図8(B)は、
図8(A)に示す状態から操作ハンドルが閉方向に86度位置まで回動操作された状態を示す要部拡大断面図である。
【
図9】開放支援機構及びクラッチ機構の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る開放支援装置について、この装置を備えた開口部装置を例示して好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る開放支援装置10を備えた開口部装置11を室内側から見た姿図である。
図2は、開口部装置11の引戸12を開いた状態で室内側から見た斜視図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の開口部装置11は、枠部材14で引戸12及び嵌め殺し戸16を支持した片引き戸の建具である。
【0017】
枠部材14は、上枠14aと、下枠14bと、左右の縦枠14c,14dとを四周枠組みし、内側に矩形の開口部14eを形成した構成である。各枠14a~14dは、例えば建具に用いられる木の加工材、アルミニウム等の金属や樹脂の押出形材である。枠部材14は、建物躯体に形成された開口部に固定される。
【0018】
本出願において、見込み方向とは開口部装置11の室内外方向、つまり室内側から室外側に向かう方向又はその逆方向(図中に矢印Yで示す方向)をいい、見込み面とは見込み方向に沿って延在する面をいう。見付け方向とは見込み方向に直交する方向であり、上下方向に長尺な縦枠14c等の場合はその長手方向に直交する左右方向(図中に矢印Xで示す方向)をいい、左右方向に長尺な上枠14a等の場合はその長手方向に直交する上下方向(図中に矢印Zで示す方向)をいう。見付け面とは見付け方向に沿った面をいう。枠状部材の内側(内周)とは、例えば枠部材14の枠内側をいい、枠状部材の外側(外周)とは、例えば枠部材14の建物躯体に固定される枠外側をいう。
【0019】
嵌め殺し戸16は、上框16aと、下框16bと、左右の縦框16c,16dとを四周框組し、内側に面材18を保持した構成である。嵌め殺し戸16は、上框16a及び下框16bが枠部材14の上枠14a及び下枠14bの見込み面にそれぞれ固定され、一方の縦枠16cが枠部材14の一方の縦枠14cの見込み面に固定されている。これにより嵌め殺し戸16は、枠部材14の開口部14eの略左半分の領域を閉塞している。面材18は、例えばガラス板や樹脂板、木板等である。
【0020】
引戸(戸体)12は、上框12aと、下框12bと、左右の縦框12c,12dとを四周框組し、内側に面材20を保持した構成である。引戸12は、上枠14aと下枠14bとの間で下枠14bの長手方向に沿ってスライド可能に支持されている。これにより引戸12は、枠部材14の開口部14eの略右半分の領域を開閉可能である。面材20は、例えばガラス板や樹脂板、木板等である。
【0021】
引戸12の戸先框となる縦框12dには、ロック機構22と、操作機構24と、開放支援装置10とが設けられている。開放支援装置10は、ケース25に内包された開放支援機構26と、クラッチ機構28(
図3参照)とを備える。ケース25は、ねじ27で縦框12dに固定されている。
【0022】
ロック機構22は、引戸12を枠部材14に対して施錠及び解錠する機構である。開放支援機構26は、閉じ位置にある引戸12を開く際、引戸12を枠部材14から蹴り出し、これにより引戸12の開き操作に要する力を軽減する機構である。操作機構24は、引戸12の外面に露出した操作部である操作ハンドル29を有し、操作ハンドル29の回動操作によってロック機構22の施錠及び解錠を操作し、さらに開放支援機構26を動作させる機構である。クラッチ機構28は、操作機構24と開放支援機構26との間の連動状態を接続する機構である。
【0023】
図3(A)は、操作ハンドル29が0度位置にあり、引戸12が施錠された状態での各機構22,24,26,28の状態を示す要部拡大断面図である。
図3(B)及び
図4(A)は、
図3(A)に示す状態から操作ハンドル29が開方向に各回動角度(145度位置、180度位置)まで回動操作された状態を示す。
図4(B)は、
図4(A)に示す状態から操作ハンドル29が閉方向に89度位置まで回動操作された状態を示す。本実施形態では、
図3及び
図4に示すように各機構22,24,26,28を室内側から見た状態で、操作ハンドル29が鉛直上方を向いた位置を0度位置とし、操作ハンドル29が鉛直下方を向いた位置を180度位置として説明し、さらに操作ハンドル29が反時計方向に回動される方向を閉じた引戸12を開く際の操作方向(開方向)とし、操作ハンドル29が時計方向に回動される方向を開いた引戸12を閉じる際の操作方向(閉方向)として説明する。但し、ここで説明する操作ハンドル29の角度位置や引戸12の開閉操作時の操作ハンドル29の回動方向及び回動範囲は一例であり、適宜変更可能である。
【0024】
図3及び
図4に示すように、操作機構24は、操作ハンドル29と、中間作動装置30とを有する。操作機構24の動作は、中間作動装置30によって回転運動を直線運動に変換され、ケース25に内包された、後述する摺動可能な連動部材32を介してロック機構22及び開放支援機構26に伝達される。
【0025】
操作ハンドル29は、縦框12dの室内側見付け面34に固定される取付台35に対して回動可能に設けられた略L字形状のハンドルである(
図2参照)。操作ハンドル29は、取付台35に対する装着面から見込み方向にハンドル軸29aが突出している。ハンドル軸29aは、角柱部材であり、取付台35を回転可能に挿通した状態で、カム部材36に対して回転不能に嵌合している。本実施形態の場合、操作ハンドル29は、
図3(A)に示す0度位置から
図4(A)に示す180度位置まで図中で反時計方向に回動する開方向への回動操作と、
図4(A)に示す180度位置から
図3(A)に示す0位置まで図中で時計方向に回動する閉方向への回動操作とが可能である。
【0026】
中間作動装置30は、ケース25に固定され、その取付台35側を向いた室内側表面にカム部材36が回転可能に支持されている。カム部材36は、ハンドル軸29aと同軸で回転可能な略楕円形状の円板であり、ハンドル軸29aの軸心から偏心した位置にリンク軸36aが突設されている。リンク軸36aは、リンクアーム31の下端部を回転可能に支持している。操作ハンドル29が回動操作されると、ハンドル軸29aと共にカム部材36が回転する。これによりリンク軸36aがハンドル軸29aの軸回りに旋回動作し、リンクアーム31を上下方向に移動させる。
【0027】
リンクアーム31は、略ブーメラン形状の板材であり、上下方向に沿って配設されている。リンクアーム31は、下端部がリンク軸36aに回転可能に連結され、上端部が連結軸38aに回転可能に連結されている。連結軸38aは、連動部材32を構成するリンク部材38に設けられた回転軸である。
【0028】
図3及び
図4に示すように、連動部材32は、リンク部材38と、連動杆40と、連結材41とを有し、縦框12d内で上下方向にスライド可能に設けられている。
【0029】
リンク部材38は、上下方向に延びた板状部材であり、縦框12d内で縦框12dに対して上下方向にスライド可能に設けられている。リンク部材38は、操作機構24(操作ハンドル29)の動作がカム部材36、リンクアーム31を介して伝達される部材である。リンク部材38は、上端部の上連結部38bと、下端部の下連結部38cと、上連結部38bと下連結部38cとの間を繋ぐベース部38dとを有する。上連結部38b及び下連結部38cは、それぞれ連結板39を用いて連動杆40と連結されている。ベース部38dには、連結軸38aと、複数の長孔38eとが設けられている。連結軸38aは、取付台35側の表面から突出し、リンクアーム31の上端部に軸支されている。長孔38eは、例えば上下方向に3個並んで設けられ、各長孔38eには中間作動装置30のガイド面材30aから突出したガイドピン30bが摺動可能に挿入されている。各長孔38eがガイドピン30bによってガイドされることにより、リンク部材38の縦框12d(及び中間作動装置30)に対する上下方向のスライドがガイドされる。
【0030】
連動杆40は、縦框12d内で縦框12dに対して上下方向にスライド可能に支持されており、縦框12dの略全長に亘って延在する断面略H形状の形材である(
図9参照)。連動部材32は、連動杆40の各所に形成された孔部や切欠き等に対してリンク部材38や連結材41を連結した構成である。
【0031】
連結材41は、上下方向に延びた棒状部材であり、連動杆40に固定されている(
図9参照)。詳細は後述するが、連結材41は、開放支援機構26及びクラッチ機構28の構成要素である。
【0032】
このような連動部材32は、操作ハンドル29が開方向に回動された場合に上昇するリンクアーム31と共に上方にスライドし、操作ハンドル29が閉方向に回動された場合に下降するリンクアーム31と共に下方にスライドする(
図3及び
図4参照)。
【0033】
図3及び
図4に示すように、ロック機構22は、引寄部材42と、ロックピン44とを有する。
図3及び
図4では、操作機構24の下方にのみロック機構22を設けた構成が図示されているが、ロック機構22は開放支援機構26の上方も含め、縦框12dの長手方向に沿って複数位置に設けられる(
図5参照)。各ロック機構22は、操作ハンドル29の回動操作に応じて昇降する連動杆40を介して同時に動作する。
【0034】
引寄部材42は、上下方向に延びた板状部材であり、連動杆40に固定されている。引寄部材42は、見込み方向に沿って起立した引寄片42aと、引寄片42aの下側で引寄片42aと間隔を挟んで対向配置された支持片42bと、引寄片42aと支持片42bとの間に形成されたロック開口42cとを有する。引寄片42aは、ロック開口42cを形成する下端から上端に向かって次第に縦枠12dの外側見込み面46から離間する方向に傾斜した後、鉛直上方に延びた板片である。支持片42bは、引寄片42aと上下対称形状に形成された板片である。ロック開口42cは、縦框12dの外側見込み面46から離間する方向、つまりロックピン44から離間する方向に沿って上下方向の開口幅が次第に拡幅した断面略テーパ形状の開口である。
【0035】
ロックピン44は、縦框12dと対向する縦枠14dの内側見込み面47(
図1及び
図5参照)から枠内方向に突出したピンであり、先端に拡径した頭部44aを有する。図中の参照符号44bは、ロックピン44を内側見込み面47に固定する取付板である。ロックピン44は、頭部44aがロック開口42cに進入し、引寄片42aに係合することにより、縦框12dと縦枠14dとの間、つまり引戸12と枠部材14との間を施錠する。
【0036】
図3及び
図4に示すように、開放支援機構26は、蹴り出し部材48を有する。詳細は後述するが、蹴り出し部材48は、連動部材32の移動に伴って縦框12dの外側見込み面46から出没する。引戸12の開き動作時、蹴り出し部材48が縦枠14dの内側見込み面47を押圧することにより、引戸12の開放が支援される。これら開放支援機構26と連動部材32との間にはクラッチ機構28が介在している。クラッチ機構28は、操作ハンドル29の角度位置及び回動方向、つまり連動部材32のスライド位置及びスライド方向に応じて連動部材32と蹴り出し部材48との間の連動状態を接続し又は切り離す。
【0037】
次に、開放支援装置10の具体的な構成を説明する。
【0038】
図5(A)は、操作ハンドル29が0度位置にあり、引戸12が施錠された状態での各機構22,26,28の状態を示す要部拡大断面図である。
図5(B)及び
図6(A)は、
図5(A)に示す状態から操作ハンドル29が開方向に各回動角度(89度位置、145度位置)まで回動操作された状態を示す。
図6(B)は、
図6(A)に示す状態でクラッチ機構28が切り離された状態を示す。
図7(A)は、
図6(B)に示す状態から操作ハンドル29が開方向に180度位置まで回動操作された状態を示し、
図7(B)は、
図7(A)に示す状態から引戸12が閉じ操作された状態を示す。
図8(A)及び
図8(B)は、
図7(B)に示す状態から操作ハンドル29が閉方向に各回動角度(90度位置、86度位置)まで回動操作された状態を示す。
図9は、開放支援機構26及びクラッチ機構28の分解斜視図である。
【0039】
図5及び
図9に示すように、開放支援機構26は、ベース部50と、蹴り出し部材48と、収納機構部52とを有し、ケース25に内包されている。クラッチ機構28は、連結材41と、駆動部材58と、蹴り出し部材48に設けられた駆動ピン(ピン状部材)60と、収納機構部52に設けられたガイド孔62とを有する。
図9に示すように、本実施形態では、開放支援機構26とクラッチ機構28とが一体的に組み付けられているが、クラッチ機構28は開放支援機構26と別体に構成され、例えばリンク部材38と開放支援機構26との間に配置されてもよい。
【0040】
先ず、開放支援機構26の構成を説明する。ベース部50は、上下方向に延びた板材の見込み方向両端部を適宜屈曲させて断面略コ字形状に形成した板金部材である。ベース部50は、複数のねじ78を用いてケース25の側面にねじ止め固定される(
図9参照)。ベース部50には、見込み方向で一対の折曲片50a,50b,50c,50dが上下方向に沿って並設されている。最上段の各折曲片50aは軸孔64が対向形成され、最下段の各折曲片50dはガイド孔62が対向形成されている。ベース部50の見込み面には、補助板65がねじ63を用いて共締め固定されている。
【0041】
蹴り出し部材48は、上側の第1アーム66と、下側の第2アーム67と、連結軸68と、ローラ69とを有する。
【0042】
第1アーム66及び第2アーム67は、それぞれ上下方向に延びた帯板状部材であり、それぞれ見込み方向で一対が対向配置されている。各第1アーム66は、上端部に固定孔66aが設けられ、下端部に連結孔66bが設けられている。各第2アーム67は、上端部に連結孔67aが設けられ、下端部に可動孔67bが設けられている。第1アーム66と第2アーム67は、互いの連結孔66b,67aに連結軸68の端部が回転可能に嵌挿され、これにより連結軸68を支点としてV字形状に折り畳み可能に連結される。連結軸68にはローラ69が回転可能に外挿される。各第1アーム66は、互いの固定孔66a,66a間に固定軸70の端部が回転可能に嵌合される。固定軸70は、ベース部50の軸孔64に回転可能に嵌挿される。各第2アーム67は、互いの可動孔67b,67b間に駆動ピン60の端部が回転可能に嵌合される。駆動ピン60は、ベース部50のガイド孔62に回転可能且つ摺動可能に係合されると共に、軸中央にはカラー60aが外挿される。
【0043】
このような蹴り出し部材48は、第1アーム66の上端部が固定軸70によってベース部50に位置決めされているため、駆動ピン60がガイド孔62に沿って昇降移動すると、第2アーム67が昇降移動し、その際連結軸68を介して第1アーム66と第2アーム67との間が折り畳まれる。その結果、連結軸68及びこれに外挿されたローラ69がベース部50から離間する方向に移動して縦框12dの外側見込み面46から出没する(
図5~
図8参照)。
【0044】
収納機構部52は、引張アーム72と、引張コイルばね(第1弾性部材)74とを有する。収納機構部52は、クラッチ機構28によって連動部材32と開放支援機構26とが切り離された際、蹴り出し部材48を縦框12d内に埋没した初期位置(
図5(A)参照)に強制移動させる機構である。
【0045】
引張アーム72は、見込み方向で一対のアーム板72a,72aの上端部を見込み方向に沿うブリッジ板72bで繋いだ略U字形状の板金部材である。各アーム板72aの下端部には、一対のガイド孔62,62の内面側で駆動ピン60に回転可能に係合されるフック部72cが設けられている。ブリッジ板72bには、コイルばね74の上端部が係止される支持部72dが設けられている。引張コイルばね74の上端部は、支持部72dに係止されている。補助板65には引張コイルばね74の上端部及び支持部72dを逃げるための逃げ長孔66aが上下方向に延在形成されている。引張コイルばね74の下端部は、ねじ63を用いてベース部50及び補助板65に共締めされた支持部材76に係止されている。
【0046】
このような収納機構部52は、駆動ピン60が蹴り出し部材48の第2アーム67と共に昇降移動した際、この昇降移動に伴って引張アーム72も昇降移動する。この際、引張コイルばね74は、下端部がベース部50と固定されているため、上端部が昇降する引張アーム72と共に昇降する。つまり引張コイルばね74の付勢力に抗して駆動ピン60が上昇した場合、駆動ピン60には引張コイルばね74から下方に向かう付勢力が付与される。
【0047】
ケース25は、縦框12dの略全長に亘って延在する断面略コ字形状の形材である。ケース25は、縦框12dの見込み方向略中央に形成された上下方向の開口部に嵌合固定され、その見込み面25aが縦框12dの外側見込み面46と略面一に配置される(
図2参照)。ケース25の見込み面25aには、蹴り出し部材48が出没可能に挿通する開口25bが形成されている。ケース25は、その内側に連動部材32をスライド可能に収納した状態で、ベース部50の折曲片50b,50cに対してねじ78を用いて固定される。
【0048】
次に、クラッチ機構28の構成を説明する。連結材41は、上下方向に延びた部材である。連結材41は、連動杆40の外側見込み面40aにねじ79を用いて固定され、ケース25の内側に収納される。連結材41は、連動杆40側に突出した膨出部41aと、膨出部41aの外面側で上下方向に延びた略C字形状に凹んだローラ収納溝41bと、ローラ収納溝41bの上部で見込み方向に貫通形成された長孔41cと、ローラ収納溝41bの下部に形成された凹状の駆動部材収納部41dとを有する。膨出部41aは、連動杆40に見付け方向に貫通形成された開口40bに挿入される。連結材41は、見込み方向で蹴り出し部材48の各アーム66,67に挟まれるように配置され、ローラ収納溝41bにローラ69が配置される。この際、固定軸70は長孔41cに挿通配置されるため、連結材41のスライドが固定軸70によって阻害されることがない。
【0049】
駆動部材58は、連結材41の駆動部材収納部41dの内面側に回動可能に支持され、連動杆40の開口40bを通過している。駆動部材58は、駆動ピン60を押上可能な駆動面58aと、駆動面58aから略直交して下方に延びた逃げ面58bと、回動軸82が回転可能に嵌挿される軸孔58cと、軸孔58cの下方から連結材41の内面に向かって突出したストッパ片58dとを有する。駆動部材58は、内側に空間が形成された有底容器形状であり、この内側の空間にねじりコイルばね(第2弾性部材)84が配設されている。ねじりコイルばね84は、回動軸82に外挿されている。駆動部材58は、外力を受けていない初期位置では、ねじりコイルばね84の付勢力によってストッパ片58dの先端が駆動部材収納部41dの内面に当接した回動位置に設定される(
図5(A)参照)。この初期位置において、駆動部材58は、駆動面58aが上方に向かって次第に縦枠14d側に傾斜し、逃げ面58bが下方に向かって次第に縦枠14d側に傾斜した傾斜姿勢に保持される。この際、駆動面58aは駆動ピン60の下方に重なる位置に配置される。
【0050】
ガイド孔62は、ベース部50の各折曲片50dに形成されて一対が対向配置されている。ガイド孔62は、上下方向に沿う第1ガイド部62aと、第1ガイド部62aの上端から連続し、上方に向かって駆動部材58側から次第に離間する方向に傾斜した第2ガイド部62bとを有する略ブーメラン形状の長孔である。ガイド孔62には、駆動ピン60が摺動可能に挿入されている。これによりガイド孔62は、駆動ピン60が昇降した際に縦框12dの見付け方向(X方向)に沿う位置を変化させることができる。
【0051】
次に、以上のように構成された開口部装置11の動作を説明する。
【0052】
先ず、引戸12を
図1に示す閉じ位置から開く動作を説明する。引戸12が閉じられ、ロック機構22が施錠された状態では、
図3(A)及び
図5(A)に示すように、操作ハンドル29が0度位置にあり、連動部材32が最も下方にスライドした位置にある。この状態では、ロック機構22は、引寄片42aの上下方向に沿う部分にロックピン44の頭部44aが係合し、施錠された状態にある。開放支援機構26は、駆動ピン60がガイド孔62の第1ガイド部62aの下端に位置しているため、第1アーム66と第2アーム67とが略上下方向に沿って並んでおり、蹴り出し部材48はローラ69が縦框12d内に没した収納位置にある。クラッチ機構28は、駆動部材58の駆動面58aが駆動ピン60から十分に離間した位置にある。従って、引戸12は枠部材14に対して閉じられ、縦框12dが縦枠14dに対して所定のタイト材等を介して密着しているため、引戸12の開き操作時の初動には相当な力が必要な状態となっている。
【0053】
この状態から引戸12を開く際は、先ず操作ハンドル29を開方向に回動操作する。操作ハンドル29が0度位置から開方向に回動操作されると、連動部材32が上昇し、89度位置で駆動部材58の駆動面58aによる駆動ピン60の押し上げ動作が開始される(
図5(B)参照)。つまり0度位置から89度位置までは、クラッチ機構28が切り離し状態にあり、駆動部材58が駆動ピン60から離間しているため、開放支援機構26(蹴り出し部材48)は動作しない。
【0054】
一方、ロック機構22では、0度位置から89度位置までの間も連動部材32と共に引寄部材42が上昇するため、引寄片42aがロックピン44の頭部44aに対して相対的に上方に移動する(
図5(A)及び
図5(B)参照)。本実施形態の場合、89度位置においてロックピン44の大部分がロック開口42cに配置された状態となり(
図5(B)参照)、図示はしないが96度位置でロックピン44が完全にロック開口42cに配置され、ロック機構22が解錠された状態となる。このように、当該開口部装置11では、ロック機構22の施錠から解錠への動作時に原則として開放支援機構26が動作しない。このため、ロック機構22の解錠前に引戸12が蹴り出される不具合の発生を防止できる。
【0055】
操作ハンドル29が89度位置からさらに開方向に回動操作されると、クラッチ機構28が接続状態となっているため、連動部材32の上昇と共に駆動部材58の駆動面58aがカラー60aを介して駆動ピン60を押し上げる。そうすると、駆動ピン60がガイド孔62内を上昇して第2アーム67を押し上げるため、連結軸68を介して第1アーム66と第2アーム67との間が次第に折り畳まれる。これにより蹴り出し部材48は、ローラ69がケース25の開口25bを通過して縦框12dの外側見込み面46(見込み面25a)から外側に突出する。その結果、ローラ69が縦枠14dの内側見込み面47を押圧するため(
図6(A)参照)、この押圧力によって引戸12が開き位置へとスライドする。本実施形態の場合、操作ハンドル29が145度位置となった場合にローラ69の突出量が最大となる(蹴出位置)。つまり145度位置において、蹴り出し部材48による引戸12の蹴り出し量が最大となり、蹴り出し部材48による引戸12の蹴り出し動作が完了する(
図6(A)参照)。
【0056】
このような89度位置から145度位置までの蹴り出し動作時、駆動ピン60はガイド孔62内を第1ガイド部62aから第2ガイド部62bへと移動する。そして、駆動ピン60は、第2ガイド部62bを上昇している間は、次第に駆動部材58の駆動面58aから離間する方向にも移動する。本実施形態の場合、蹴り出し部材48による引戸12の蹴り出し動作が完了する145度位置において、駆動ピン60が駆動面58aの端部、つまり駆動面58aと逃げ面58bとの間の境界となる角部に位置する。このように駆動ピン60がガイド孔62の最上部まで上昇した状態では、引張コイルばね74の引張量、つまり駆動ピン60を下方に押し下げる付勢力も最大となる。
【0057】
従って、駆動ピン60は、145度位置において蹴り出し部材48を最大蹴り出し量まで突出させた後、今度は引張コイルばね74の付勢力によって駆動面58aから逃げ面58bへと滑り落ち、逃げ面58bに摺動しながらガイド孔62内を下降する(
図6(B)参照)。最終的には駆動ピン60は、第1ガイド部62aの下端、つまり0度位置と同じ位置まで移動する。このため、駆動ピン60は駆動部材58の駆動面58aとの間の連動状態が切り離され、クラッチ機構28は切り離し状態になる。そして、駆動ピン60がガイド孔62内を下降する際、蹴り出し部材48は、第2アーム67が下降して第1アーム66と第2アーム67との間の折り畳み状態が次第に解除される(
図6(B)参照)。これにより、蹴り出し部材48が縦框12d内へと次第に収納され、駆動ピン60がガイド孔62内の下端まで移動することで蹴り出し部材48が0度位置と同じ収納位置に戻る。
【0058】
操作ハンドル29が145度位置からさらに開方向に回動操作されると、クラッチ機構28が切り離し状態となっているため、連動部材32は上昇するが、開放支援機構26は動作しない。そして、
図7(A)に示すように、180度位置では、ロック機構22はロックピン44がロック開口42cにあり、開放支援機構26は蹴り出し部材48が縦框12d内に収納されている。このため、使用者が180度位置で鉛直下方を向いた操作ハンドル29をそのまま引いて引戸12を開き操作することにより、引戸12を容易に開くことができる。
【0059】
このように、当該開口部装置11は、操作ハンドル29の開方向への回動操作と連動する開放支援機構26を備えるため、引戸12を全閉位置から開き操作する際、引戸12が例えば大型或いは重量の大きな構成であっても軽い力で容易に開き操作することができる。
【0060】
しかも、当該開口部装置11は、操作ハンドル29の開方向への回動操作の途中で連動部材32と開放支援機構26とを接続可能なクラッチ機構28を備える。このため、使用者は、引戸12を開き操作する際、操作ハンドル29を所定角度位置(所定操作位置。本実施形態では145度位置)まで開方向に回動させ、そのまま回動終点位置(本実施形態では180度位置)まで回動させるだけの操作を行えばよい。すなわち、当該開口部装置11は、このような操作ハンドル29の開方向への回動操作時の回動角度に応じて、クラッチ機構28が切り離し状態から接続状態となって開放支援機構26が動作し、その後クラッチ機構28が切り離し状態となって開放支援機構26が連動部材32から切り離される。そこで、本実施形態の場合には、引張コイルばね74を用いた収納機構部52により、蹴り出し完了後に連動部材32から切り離された蹴り出し部材48を0度位置と同じ収納位置へと自動的に収納することができる。但し、収納機構部52は省略してもよい。すなわち、本実施形態の構成では、145度位置でクラッチ機構28が切り離されると駆動ピン60が自重によって下降するため、収納機構部52を省略しても蹴り出し完了後の蹴り出し部材48を自動的に収納位置へと収納できる。
【0061】
このように、当該開口部装置11は、引戸12を開く際、操作ハンドル29を0度位置から所定角度位置を越えて最大回動位置(最大操作位置。本実施形態では180度位置)まで回動させるだけで、蹴り出し部材48が引戸12を蹴り出した後に再び収納される。このため、使用者は、180度位置まで回動させた操作ハンドル29でそのまま引戸12を開き操作するだけで、引戸12を容易に開くことができ、高い操作性が得られる。また、引戸12を開いた状態で蹴り出し部材48が通行の邪魔になることもない。しかも当該開口部装置11は、クラッチ機構28を備えることにより、別個に設計した開放支援機構26と、操作機構24や連動部材32とを容易に組み合わせることができる。このため、操作機構24は開放支援機構26の設置を前提にした構成とする必要がない。その結果、開口部装置11の仕様に応じて、開放支援機構26の複数の設置が可能となり、或いは同一の操作機構24や連動部材32を用いて開放支援機構26の有無を選択することができ、高い汎用性が得られる。
【0062】
次に、引戸12を
図7(A)に示す開き位置から閉じる動作を説明する。引戸12が開かれ、ロック機構22が解錠された状態では、
図4(A)及び
図7(A)に示すように、操作ハンドル29が180度位置にあり、連動部材32が最も上方にスライドした位置にある。この状態では、ロック機構22は、ロック開口42cがロックピン44の水平方向で対向した位置にあり、解錠された状態にある。開放支援機構26は、駆動ピン60がガイド孔62の第1ガイド部62aの下端に位置しているため、蹴り出し部材48はローラ69が縦框12d内に没した収納位置にある。クラッチ機構28は、駆動部材58の逃げ面58bが駆動ピン60の上方にある。
【0063】
この状態から引戸12を閉じる際は、例えば180度位置にある操作ハンドル29を押して、引戸12を閉じ位置に向かってスライドさせる。そうすると、
図7(B)に示すように、ロックピン44がロック開口42cに進入する。なお、この状態では、縦框12dの外側見込み面46と縦枠14dの内側見込み面47との間にはある程度の隙間がある。
【0064】
続いて、操作ハンドル29を180度位置から閉方向に回動操作する。そうすると、連動部材32が下降し、連動部材32と共に駆動部材58も下降するため、逃げ面58bが駆動ピン60に摺接する。この際、駆動部材58は、駆動ピン60からの押圧力を逃げ面58bが受け、ねじりコイルばね84の付勢力に抗して駆動ピン60から離間する方向に回動する(
図8(A)参照)。つまり、駆動部材58は、操作ハンドル29の開方向の動作時に連動部材32と開放支援機構26との間を接続するクラッチ構造を備えるだけでなく、さらに操作ハンドル29の閉方向の動作時には駆動ピン60によって押圧されて退動することにより、連動部材32の下降を開放支援機構26に伝達せずに切り離し状態を維持する一方向伝達構造も備える。これにより操作ハンドル29の閉方向への回動操作を駆動部材58が邪魔することがなく、円滑なハンドル操作が可能となっている。また、引戸12を閉じる際に、操作ハンドル29の閉方向への回動操作に開放支援機構26が連動して動作することが防止され、蹴り出し部材48の収納位置が確実に維持される。
【0065】
操作ハンドル29が閉方向に86度位置まで回動操作されると、駆動部材58の逃げ面58bが駆動ピン60を完全に乗り越える。その結果、
図8(B)に示すように、駆動部材58はねじりコイルばね84の付勢力によって再び0度位置と同じく駆動ピン60の下方に重なる初期位置に復帰する。
【0066】
このような操作ハンドル29の回動操作時、ロック機構22では、180度位置から閉方向への動作時に引寄部材42が下降する。本実施形態の場合、
図8(A)に示す90度位置の少し前、例えば96度位置でロックピン44の頭部44aに引寄片42aが掛かり始める。つまりロック機構22の施錠動作が開始される。これにより、ロックピン44は頭部44aが引寄片42aの傾斜に沿って移動するため、引戸12がロックピン44によって次第に縦枠14dに近接する方向に引き寄せられる。そして、操作ハンドル29が再び0度位置まで回動されると、ロックピン44の頭部44aが再び引寄部材42に係合した状態となり(
図5(A)参照)、ロック機構22が施錠された状態となる。その結果、引戸12が枠部材14に対して施錠され、縦框12dが縦枠14dに対して所定のタイト材等を介して密着した状態となり、引戸12の閉じ動作が完了する。
【0067】
このように、当該開口部装置11では、ロック機構22の解錠から施錠への動作時に開放支援機構26が動作しない。このため、ロック機構22の施錠動作時に引戸12が蹴り出される不具合の発生を防止できる。さらに、当該開口部装置11では、操作ハンドル29は、開方向及び閉方向への回動操作時にいずれも0度位置から180度位置の回動範囲で動作するため、引戸12の外形範囲から張り出すことがない。このため、操作ハンドル29が枠部材14等に干渉することがない。
【0068】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0069】
上記実施形態では、連動部材32はリンク部材38と連動杆40と連結材41とを連結した構成を例示したが、例えば連動部材32は一部品又は二部品で構成されてもよい。但し、上記のように連動部材32が、操作機構24に係るリンク部材38と、ロック機構22に係る連動杆40と、開放支援機構26やクラッチ機構28に係る連結材41との組合せで構成されていると、例えば開放支援機構26が不要な開口部装置に適用する際、容易に開放支援機構26やクラッチ機構28を削除でき、高い汎用性が得られる。
【0070】
上記実施形態では、操作ハンドル29の開方向への回動操作時に連動部材32が上昇し、閉方向への回動操作時に連動部材32が下降する構成を例示したが、この昇降関係は逆でもよい。
【0071】
上記実施形態では、開放支援機構26と共にロック機構22を同時操作可能な構成を例示したが、開放支援機構26とロック機構22とは別個に操作可能な構成でもよく、ロック機構22は省略されてもよい。
【0072】
上記実施形態では、連動部材32の昇降が操作ハンドル29の回動と連動する構成を例示したが、操作機構24は、モータ等を用いた電装装置であってもよく、また操作ハンドル29に代えて昇降レバー等の別の手段で連動部材32を昇降させる手動装置であっても良い。
【0073】
上記実施形態では、嵌め殺し戸16の室内側で引戸12がスライドする内動障子構造の建具である開口部装置11を例示したが、開口部装置11は引戸12が嵌め殺し戸16の室外側をスライドする外動障子構造であってもよい。この外動障子構造を適用した場合であっても、操作ハンドル29は開放支援機構26の動作終了後に180度位置に維持される。このため、引戸12の全開時に操作ハンドル29が嵌め殺し戸16の召合せ框(縦框16d)に干渉することが抑制され、引戸12の開口面積を最大化できる。
【0074】
上記実施形態では、開放支援装置10で開放を支援する戸体として片引きの引戸12を設けた構成の建具を例示したが、開口部装置11は、例えば2枚の引戸12を引違い可能に設けた引違い戸、人が出入りしない位置に設けられる窓等、各種スライディング構造の戸や窓にも利用可能である。また、開放支援機構26で開放支援される戸体は、引戸以外、例えばドアや回転窓等でもよく、この場合は、開放支援機構26の設置方向を変更すればよく、操作機構24等は縦框ではなく横框に設けられてもよい。また、戸体が框構造ではない場合、開放支援装置10は戸体を構成する面材や骨材等に対して設置されればよい。
【符号の説明】
【0075】
10 開放支援装置、11 開口部装置、12 引戸、14 枠部材、22 ロック機構、24 操作機構、25 ケース、26 開放支援機構、28 クラッチ機構、29 操作ハンドル、32 連動部材、38 リンク部材、40 連動杆、41 連結材、48 蹴り出し部材、58 駆動部材、60 駆動ピン、62 ガイド孔、66 第1アーム、67 第2アーム、69 ローラ、74 引張コイルばね、84 ねじりコイルばね