(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】耐熱性スチレン系樹脂組成物、成形品、発泡シート、及び食品包装用容器
(51)【国際特許分類】
C08L 25/08 20060101AFI20220607BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20220607BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220607BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20220607BHJP
C08J 9/04 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C08L25/08
C08L51/04
C08K3/08
B65D1/00 110
C08J9/04 CER
(21)【出願番号】P 2018041169
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】399051593
【氏名又は名称】東洋スチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】山口 泰生
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雅史
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-041586(JP,A)
【文献】特開2017-036414(JP,A)
【文献】特開2017-025185(JP,A)
【文献】特開2014-169391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B65D,C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)、コア相がブタジエン系ゴムでシェル相がメタクリル酸メチル単量体とスチレン系単量体を主成分とする共重合体である、MBS樹脂(B)、及び金属元素(C)を含む、耐熱性スチレン系樹脂組成物
【請求項2】
前記共重合体(A)70~99.9質量部、前記MBS樹脂(B)0.1~30質量部の合計100質量部に対して、前記金属元素(C)を0.01~5質量部含む、請求項1に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記共重合体(A)に含まれる、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位の合計量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量が80~99質量%であり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~20質量%である、請求項1又は2に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が10万~40万である、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記共重合体(A)からなる海相に、前記MBS樹脂(B)が島相として分散し、電子顕微鏡写真の画像観察から得られる、前記MBS樹脂(B)のゴム島相の重量平均円相当粒子径が120nm以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記共重合体(A)に含まれる、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位の合計量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量が91.7~99質量%であり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~8.3質量%であり、
前記共重合体(A)からなる海相に、前記MBS樹脂(B)が島相として分散し、電子顕微鏡写真の画像観察から得られる、前記MBS樹脂(B)のゴム島相の平均円相当粒子径が100nm以上の円相当粒子径の個数割合が40%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記金属元素(C)がアルカリ金属、及び/又は亜鉛である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
ビカット軟化温度が110℃以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物を成形してなる、成形品。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物を成形してなる、発泡シート。
【請求項11】
請求項
10に記載の発泡シートを成形してなる食品包装用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と靱性、成形性のバランスに優れた耐熱性スチレン系樹脂組成物、並びに該耐熱性スチレン系樹脂組成物を用いて形成される成形品、及び発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体は、一般のポリスチレンと比較して耐熱性に優れることから、食品容器等の包装材料、住宅の断熱材用途の発泡ボード、液晶テレビの光拡散板等の原料として広く用いられている。包装材料の分野では、スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体は、電子レンジ等での加熱に供する食品包装容器として使用されることが多いが、近年、コンビニエンスストア等では、加熱時間の短縮による業務の効率化のため、高出力の電子レンジが普及しており、従来に比べて高い耐熱性が要求される。また、省資源化のため、成形品の軽量化が求められており、更には、内容物の増量に伴う容器の大型化や意匠性の観点から、脆性等の機械的強度や成形性を改良した樹脂が望まれている。
【0003】
スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体は、一般のポリスチレンに比べて、脆いという欠点を有しているため、スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体に補強材としてゴム質成分を添加する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ゴム質成分として、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)やメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(MBS)を添加してなる発泡シートが開示されており、特許文献2には、スチレン-メタクリル酸共重合樹脂とスチレン-ブタジエン共重合樹脂からなるスチレン系樹脂発泡シートが開示されている。
【0004】
また、ゴム質成分を添加せずに脆性と成形性を改良する方法として、特許文献3には、スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体に、特定の重量平均分子量以上のメチルメタクリレートを主成分とする樹脂を添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-58548号公報
【文献】特開2000-136257号公報
【文献】特開平10-87929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
第一に、特許文献1~2の技術では、脆性等の機械的強度の改良が不十分であり、脆性を改良するためにゴム質成分を多く添加すると、耐熱性や剛性が低下する問題があった。また、発泡シートの2次成形において、成形品に割れやナキ等の成形不良が発生することがあった。
第二に、特許文献3の技術では、従来の技術に比べて、耐熱性と成形性は改善されるものの、脆性の改良効果については不十分であった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、上記に記載した耐熱性と、靱性、成形性のバランスに優れるという課題を達成することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意研究を進めたところ、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)と、MBS樹脂(B)、及び金属元素(C)の組み合わせにより、従来の技術では達成できなかった耐熱性、靱性、成形性のバランスを有する耐熱性スチレン系樹脂組成物が得られ、更に、該耐熱性スチレン系樹脂組成物を用いることで、耐熱性、靱性、成形性のバランスに優れる発泡シートが得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、下記(1)~(10)に示すところである。
(1)スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)、コア相がブタジエン系ゴムでシェル相がメタクリル酸メチル単量体とスチレン系単量体を主成分とする共重合体である、MBS樹脂(B)、及び金属元素(C)を含む、耐熱性スチレン系樹脂組成物
(2)前記共重合体(A)70~99.9質量部、前記MBS樹脂(B)0.1~30質量部の合計100質量部に対して、前記金属元素(C)を0.01~5質量部含む、前記(1)に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
(3)前記共重合体(A)に含まれる、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位の合計量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量が80~99質量%であり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~20質量%である、前記(1)又は(2)に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
(4)前記共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が10万~40万である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
(5)前記共重合体(A)からなる海相に、前記MBS樹脂(B)が島相として分散し、電子顕微鏡写真の画像観察から得られる、前記MBS樹脂(B)のゴム島相の重量平均円相当粒子径が120nm以上であることを特徴とする、前記(1)~(4)のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
(6)前記金属元素(C)がアルカリ金属、及び/又は亜鉛である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
(7)ビカット軟化温度が110℃以上である、前記(1)~(6)のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物。
(8)前記(1)~(7)のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物を成形してなる、成形品。
(9)前記(1)~(7)のいずれかに記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物を成形してなる、発泡シート。
(10)前記(9)に記載の発泡シートを成形してなる食品包装用容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物は耐熱性と靱性、成形性のバランスに優れるため、特に電子レンジ用食品容器として好適に使用することができ、割れの発生が少ない食品容器を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<耐熱性スチレン系樹脂組成物>
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物は、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)、及び、コア相がブタジエン系ゴムでシェル相がメタクリル酸メチル単量体とスチレン系単量体を主成分とする共重合体である、MBS樹脂(B)、及び金属元素(C)を含む。
【0012】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物は、前記共重合体(A)70~99.9質量部、前記MBS樹脂(B)0.1~30質量部の合計100質量部に対して、前記金属元素(C)を0.01~5質量部含むことが好ましく、0.02~1質量部含むことがより好ましく、0.03~0.5質量部含むことが特に好ましい。前記MBS樹脂(B)の含有量が0.1質量部未満の場合、脆性の改良が不十分となる場合があり、前記MBS樹脂(B)の含有量が30質量部を超える場合、耐熱性が低下するため好ましくない。また、前記金属元素(C)の含有量が0.01質量部未満の場合、脆性の改良と溶融張力の向上が小さく、前記金属元素(C)の含有量が5質量部を超える場合、流動性が下がり過ぎるため、成形性の改良が果たせず好ましくない。
【0013】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物の200℃、49N荷重の条件にて測定したメルトマスフローレート(MFR)は、0.01~10g/10分であることが好ましく、0.05~5.0g/10分であることがより好ましく、0.1~3.0g/10分であることが特に好ましい。メルトマスフローレート(MFR)が0.01g/10分未満では、押出成形時の生産性が悪化し、10g/10分を超えると、機械的強度が低下する場合がある。
【0014】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、110℃以上であることが好ましく、112℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることが特に好ましい。ビカット軟化温度が110℃未満の場合、耐熱性スチレン系樹脂組成物から得られる成形品の耐熱性が不十分となる場合がある。
【0015】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物の200℃で測定した溶融張力(MT)は15gf以上であることが好ましく、より好ましくは20gf以上であり、特に好ましくは25gf以上である。溶融張力が15gf未満では、成形性、及び脆性改良効果が小さい。
【0016】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物は、前記共重合体(A)からなる海相に、前記MBS樹脂(B)が島相として分散した海島構造のモルフォロジーを有するが、、電子顕微鏡写真の画像観察から得られる、前記MBS樹脂(B)のゴム島相の重量平均円相当粒子径が120nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましい。また、100nm以上の円相当粒子径の個数割合が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが特に好ましい。重量平均円相当粒子径、及び100nm以上の円相当粒子径の個数割合が上記範囲にある場合、脆性改良効果が特に大きい。
【0017】
<スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)>
本発明のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)はスチレン系単量体と(メタ)アクリル酸単量体を必須成分とするが、必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系モノマーを共重合することができる。
【0018】
スチレン系単量体としては、スチレン、αメチルスチレン、o-、m-、p-メチルスチレン等の置換スチレンが挙げられ、これら1種、若しくは2種以上の混合物でもよいが、好ましいのはスチレンである。
【0019】
(メタ)アクリル酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、これらの混合物でもよいが、中でも製造の容易さから、メタクリル酸が好ましい。
【0020】
上記、スチレン系単量体および(メタ)アクリル酸単量体と共重合可能なビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のアクリル系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマー、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和カルボン酸無水物が挙げられ、これら1種、若しくは2種以上を併用して使用することもできる。
【0021】
本発明のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)の重合方法としては塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等の公知のスチレン重合法が挙げられる。また、溶媒として例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン等のアルキルベンゼン類やアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が使用できる。反応器の様式としては、完全混合型反応器、プラグフロー反応器、ループ型反応器等を組み合わせた連続重合方式が好適に用いられる。
【0022】
本発明のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)は、スチレン系単量体単位、(メタ)アクリル酸単量体単位の合計量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量が80~99質量%であり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1~20質量%であることが好ましく、スチレン系単量体単位の含有量が85~98質量%であり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が2~15質量%であることがより好ましく、スチレン系単量体単位の含有量が87~96質量%であり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が4~13質量%であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が1質量%未満では、耐熱スチレン系樹脂組成物から得られる成形品の耐熱性が不十分となり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が20質量%を超える場合、耐熱スチレン系樹脂組成物やこれから得られる発泡シートの成形性が低下する。(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量は、重合工程における原料液の(メタ)アクリル酸単量体濃度によって調整出来る。
【0023】
本発明のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は10万~40万であることが好ましく、12~35万であることがより好ましく、15万~30万であることが特に好ましい。Mwが10万未満では強度が不十分であり、Mwが40万を超える場合、流動性が低下する。スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のMwは重合工程での反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量、重合時に使用する溶媒の種類及び量等によって調整する事が出来る。
【0024】
<MBS樹脂(B)>
本発明のMBS樹脂(B)は、コア相がブタジエン系ゴムでシェル相がメタクリル酸メチル単量体とスチレン系単量体を主成分とする共重合体である、いわゆるコアシェル構造を有するメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体である。
【0025】
上記コア相を構成するブタジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、ブタジエン-アクリル共重合体ゴムが挙げられ、好ましくは、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体である。
【0026】
また、上記シェル相は、上記ブタジエン系ゴムにメタクリル酸メチル単量体とスチレン単量体を主成分とする共重合体がグラフトすることによって形成され、グラフトする共重合体の全単量体単位に対するメタクリル酸メチル単量体とスチレン単量体の合計の割合が、90質量%以上であることが好ましく、92質量%以上であることがより好ましく、94質量%以上であることが特に好ましい。メタクリル酸メチル単量体とスチレン単量体以外の単量体単位としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、流動性改良の観点から、アクリル酸ブチルが好ましい。
【0027】
本発明のMBS樹脂(B)に含まれるゴム含有量は、60~98質量%であることが好ましく、70~95質量%であることがより好ましく、80~90質量%であることが特に好ましい。ゴム含有量が60質量%未満の場合、補強効果が小さく、ゴム含有量が98%を超える場合、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)からなる海相と、MBS樹脂(B)のゴム島相との相溶性が低下するため好ましくない。
【0028】
<金属元素(C)>
本発明の金属元素(C)は、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属、アルミニウム、亜鉛等から選ばれ、これらの1種あるいは2種以上を組み合わせてもよいが、中でも、アルカリ金属及び/又は亜鉛が特に好ましい。
【0029】
本発明の金属元素(C)の種類及び量については、上記金属元素を含有するアルカリ性物質を、前記共重合体(A)の中和剤として用いることで容易に調整することができる。該中和剤の例としては、金属のギ酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物、メトキシド、エトキシド、炭酸塩、重炭酸塩や、脂肪酸金属塩等の有機酸金属塩、カルボン酸金属塩含有ポリマー、スルホン酸金属塩含有ポリマー等の有機酸金属塩含有ポリマー等が挙げられる。金属元素(C)は、前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)の(メタ)アクリル酸単量体単位のカルボン酸と金属塩を形成し、これにより靱性や溶融張力が大幅に向上する。
【0030】
<耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法>
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物の製造方法としては、前記共重合体(A)、前記MBS樹脂(B)、及び前記金属元素(C)を含む中和剤を一括でブレンドし、溶融押出する方法や、予め前記共重合体(A)と前記金属元素(C)を含む中和剤を溶融押出したものに、後から前記MBS樹脂(B)をブレンドし、再度溶融押出する方法が挙げられる。また、前記共重合体(A)の重合工程、脱揮工程、若しくは押出工程のいずれかにおいて、前記金属元素(C)を含む中和剤を連続的に添加する方法によって得られた樹脂組成物に対して、後から前記MBS樹脂(B)をブレンドし、溶融押出してもよい。中和剤は固体として添加しても良いし、水溶液として添加してもよいが、分散性、反応性の面から水溶液として添加する方法が好ましい。また、予め前記MBS樹脂(B)及び/または前記金属元素(C)を含むマスターバッチを作成しておいて、後から前記共重合体(A)とブレンドしてもよい。
【0031】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物には、必要に応じて、別の熱可塑性樹脂やゴム補強材を本発明の効果を損なわない範囲で配合する事ができる。
【0032】
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、シンジオタクチックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリル酸-メタクリル酸メチル-スチレン共重合体、メタクリル酸ブチル-スチレン共重合体、無水マレイン酸-スチレン共重合体、マレイミド-スチレン共重合体、αメチルスチレン-スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリL-乳酸、ポリD-乳酸、ポリD、L-乳酸等の脂肪族ポリエステル系樹脂等が挙げられ、これら1種若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
ゴム補強材の具体例としては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリクロロプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体などのスチレン系ゴム、さらにはエチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、直鎖状低密度ポリエチレン系エラストマー等のオレフィン系ゴムが挙げられ、これら1種若しくは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物には、添加剤として、リン系、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、ステアリン酸等の高級脂肪酸、及びその塩やエチレンビスステアリルアミド等の滑剤、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の可塑剤、タルク、無機フィラー、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、顔料、消臭剤、防曇剤等を必要に応じて添加することができる。
【0035】
<発泡シートの製造方法>
【0036】
本発明の発泡シートの製造方法としては、公知の押出発泡シート製造方法を用いることができる。具体的には、単軸押出機や二軸押出機を2基直列に配置し、1基目の押出機で発泡剤を発泡核剤とともに溶融混錬し、2基目の押出機で冷却により樹脂温度を120℃~180℃に調整した後、サーキュラーダイスにより大気に放出し減圧発泡する方法が挙げられる。
【0037】
発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、1,1-ジフルオロエタン、1,1-ジフルオロ-クロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等の物理発泡剤を用いることができる。また、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム、クエン酸等の分解型発泡剤、二酸化炭素、窒素等の無機ガスや水を使用することもできる。これら発泡剤を適宜混合して使用できるが、工業的にはブタンが使用されることが多く、発泡押出性や発泡シートの二次成形性、発泡剤の観点から、イソブタンとノルマルブタンからなる混合ブタンを使用することが好ましい。ブタンはポリスチレン系樹脂に対する透過速度が遅いため、発泡押出直後は発泡シート中に通常1~3質量%程度残存する。この残存量は二次成形における二次発泡厚や熱成形性に影響するため、一定の熟成期間を設けることで適宜調整する。
【0038】
発泡核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー等の無機物粉末が挙げられ、これらを単独あるいは混合物としても用いることができる。中でも、気泡径を小さくする効果が大きく、安価という点でタルクが最も好ましい。発泡核剤の添加方法は特に制限が無く、直接押出機の供給孔に添加しても良いし、樹脂と共に添加することもできる。また、スチレンの単独重合体やスチレン-メタクリル酸メチル共重合体等を基材としたマスターバッチを作成し、そのマスターバッチを用いて供給することもできる。発泡核剤の添加量は通常、0.1~5質量%である。また、該マスターバッチには高級脂肪酸や高級脂肪酸の金属塩をあらかじめ配合しておいても良い。また、エチレンビスステアリルアミド等の滑材、流動パラフィンやシリコーンオイル等の展着剤、その他の界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、可塑剤、耐候剤、顔料等が含まれていても良い。
【0039】
本発明の発泡シートの厚さは、一般的に0.1~100mmであり、0.5~4mmが
好ましく、1~3mmがより好ましい。発泡シートの厚さが0.1mm未満では、2次成形後の容器の強度や断熱性が低下する。発泡シートの厚さが100mmを超えると、2次成形時にシートの温度ムラが発生しやすく、成形性が悪化する場合がある。
【0040】
本発明の発泡シートの密度は、一般的に5~500kg/m3であり、50~400kg/m3が好ましく、60~300kg/m3がより好ましい。発泡シートの密度が5kg/m3未満であると、2次成形後の容器の強度が低下する。発泡シートの密度が500kg/m3を超える場合、軽量化、断熱性の観点から望ましくない。密度D(kg/m3)は、発泡シートの坪量S(g/m2)とシート厚さT(mm)より、D=S/Tで算出することができる。
【0041】
また、本発明の発泡シートには、厚み方向の中央部に比べて密度が低い、いわゆるスキン層と呼ばれる表面層をシートの表裏面に設けることができる。スキン層を設けることで、シートの強度を上げることができ、外観も美麗に仕上がる。スキン層はサーキュラーダイスを出た直後の発泡シート表面を風冷することによって調整できる。
【0042】
本発明の発泡シートは、その片面もしくは両面に熱可塑性樹脂シート又はフィルムを積層することにより、成形性、強度、剛性、耐油性等の特性を改良することができる。上記、シートやフィルムを構成する熱可塑性樹脂としてはポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。シート又はフィルムの厚みに特に制限はないが、0.01mm~0.3mmが好ましい。
【0043】
本発明の発泡シートは、真空成形や圧空成形、マッチドモールド成形、リバースドロー成形、エアスリップ成形、リッジ成形、プラグアンドリッジ成形、プラグアシスト成形、プラグアシストリバースドロー成形等、公知の熱成形方法を用いて、トレー、弁当容器、丼容器、カップ、蓋付箱型等の各種形状や大きさの容器に加工することができる。
【0044】
本発明の発泡シートを成形して得られる容器は、食品を入れた状態で電子レンジ加熱調理を行っても、容器の変形や火脹れが発生しないので、電子レンジ用食品容器として好適に使用できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
<スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の製造>
(1)スチレン-メタクリル酸共重合体S-1の製造
下記第1~第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。
【0047】
第1反応器:容積39Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第2反応器:容積39Lの攪拌翼付完全混合型反応器
第3反応器:容積16Lのスタティックミキサー付プラグフロー反応器
【0048】
各反応器の条件は以下の通りとした。
【0049】
第1反応器:[反応温度] 120℃
第2反応器:[反応温度] 125℃
第3反応器:[反応温度] 流れ方向に125~130℃の温度勾配がつくように調整
【0050】
原料液としては、以下のものを用いた。
【0051】
スチレン94.8質量%、メタクリル酸5.2質量%のモノマー構成100質量部に対してエチルベンゼン10質量部、重合開始剤として2,2ビス(4,4-t-ブチルパーオキシシクロへキシル)プロパン0.025質量部を混合した原料液。
【0052】
原料液を12.0kg/hrの供給速度で120℃に設定した第1反応器に連続的に供給し重合した後、次いで125℃に設定した第2反応器に連続的に装入し重合した。第2反応器出口での重合転化率は65%であった。更に125~130℃の温度勾配がつくように調整した第3反応器にて重合転化率が70%になるまで重合を進行させた。
この重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出して冷却した後切断してペレット化した。なお、1段目の予熱器の温度は200℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は66.7kPaとし、2段目の予熱器の温度は240℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.9kPaとした。得られたスチレン-メタクリル酸共重合体S-1の特性を表1に示す。
【0053】
(2)スチレン-メタクリル酸共重合体S-2の製造
以下の原料液を用い、原料液の供給速度を12.0kg/hrとし、1~3反応器の温度条件を以下のように変更した以外はS-1の製造と同様にした。その特性を表1に示す。
【0054】
<原料液>
スチレン93.0質量%、メタクリル酸7.0質量%のモノマー構成100質量部に対してエチルベンゼン10質量部、重合開始剤として2,2ビス(4,4-t-ブチルパーオキシシクロへキシル)プロパン0.02質量部を混合した原料液
【0055】
<条件>
第1反応器:[反応温度] 128℃
第2反応器:[反応温度] 138℃
第3反応器:[反応温度] 流れ方向に120~125℃の温度勾配がつくように調整
【0056】
(3)スチレン-メタクリル酸共重合体S-3の製造
以下の原料液を用い、原料液の供給速度を12.0kg/hrとし、1~3反応器の温度条件を以下のように変更した以外はS-1の製造と同様にした。その特性を表1に示す。
【0057】
<原料液>
スチレン91.7質量%、メタクリル酸8.3質量%のモノマー構成100質量部に対してエチルベンゼン15質量部、重合開始剤として1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部、連鎖移動剤としてα-メチルスチレンダイマー0.1質量部をを混合した原料液
【0058】
<条件>
第1反応器:[反応温度] 124℃
第2反応器:[反応温度] 138℃
第3反応器:[反応温度] 流れ方向に125~138℃の温度勾配がつくように調整
【0059】
【0060】
<実施例1~10、比較例1~2>
上記の方法で製造したスチレン-メタクリル酸共重合体(A)(S-1~3)とMBS樹脂(B)、及び金属元素(C)を含む中和剤を表2に示す質量部比率にて混合し、シリンダー温度180~250℃に設定した二軸押出機(東芝機械社製、TEM26-SS)に20kg/hrの供給速度で供給し、回転数300rpm、樹脂温度270℃にて溶融混錬を行った。なお、比較例1は金属元素(C)を含む中和剤を添加せず、比較例2はMBS樹脂(B)を添加しなかった。その物性を表2に示す。また、金属元素(C)の含有量は、得られた樹脂組成物を酸化分解後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により、定量した。
【0061】
なお、MBS樹脂(B)としては以下のものを用いた。
<MBS樹脂(B)>
MBS-1 商品名:「カネエースB-564」 カネカ社製
ゴム含有量79%
MBS-2 商品名:「カネエースM-511」 カネカ社製
ゴム含有量85%
MBS-3 商品名:「メタブレンC-223A」 三菱ケミカル社製
ゴム含有量75%
【0062】
次に、前記の樹脂組成物をスクリュー径40mmφと50mmφのタンデム式押出機に供給し、発泡シートを製造した。まず、前記の溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合したものをスクリュー径40mmφの押出機に供給した。更に、発泡剤としてブタンを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.3質量部の割合で圧入し溶融混合した。このときのシリンダー温度230~270℃、樹脂温度235~250℃、圧力12~18MPaであった。
その後、230℃に設定した連結管を介してスクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度160~200℃、樹脂温度160~170℃、15~17MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却された円筒に添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して発泡シートを得た。得られた発泡シートの厚みは1.7mm、密度は120kg/m3であった。その特性を表2に示す。
【0063】
なお、各種物性、性能評価は以下の方法で行った。
【0064】
(1)スチレン-メタクリル酸共重合体中のメタクリル酸含有量
室温にて、共重合体0.5gを秤量し、トルエン/エタノール=8/2(体積比)の混合溶液に溶解後、水酸化カリウム1mol/エタノール溶液にて中和滴定を行い終点を検出し、水酸化カリウムエタノール溶液の使用量より、メタクリル酸の質量基準の含有量を算出する。なお、電位差自動検出装置(京都電子工業社製、AT-510)により測定した。
(2)分子量
重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ―(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
GPC機種:Waters社製 アライアンスシステム2695
カラム:東ソー社製 TSKgel-GMHXL(ID)×300mm(L)
移動相:テトラヒドロフラン 0.35ml/min
試料濃度:0.2質量%
注入量:50μL
温度:40℃
検出器:示差屈折計 Waters社製 アライアンスシステム2414
単分散ポリスチレンの溶出曲線により各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出した。
【0065】
(3)金属元素の含有量
樹脂組成物2.0gを秤量し、硫酸/硝酸の混合溶液を加えた後、150℃のホットプレート上で加熱し、酸化分解を行った。酸化分解後の溶液50mLを定容し、20倍希釈後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により、金属元素の含有量を定量した。なお、分析機器には、Optima4300DV(パーキンエルマー社製)を使用した。
(4)重量円相当粒子径、円相当粒子径の個数割合
樹脂組成物を80nmの超薄切片に切り出した後、四酸化オスミウムで染色し、透過型顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製H-7500)を用いて、倍率15,000倍の写真を撮影し、100μm2の面積内に存在するゴム分散粒子について、旭化成エンジニアリング社製画像解析ソフト「A像くん」を用いて、2値化処理を行い、得られた分散粒子の面積と同じ面積となる円の直径(円相当粒子径:Di)を求め、下記式から重量平均円相当粒子径(Dv)を求めた。さらに、得られた各円相当粒子径の個数より、100nm以上の円相当粒子径の個数割合を求めた。なお、ゴム分散粒子が凝集したものについては、凝集した形態を1個として数えることしたが、円相当粒子径が500nmを超える凝集体については、除外した。
【0066】
【0067】
物性は以下の方法により評価した。
(5)メルトマスフローレイト
JIS K7210に基づき200℃、49N荷重の条件により求めた。
(6)ビカット軟化温度
射出成型機を用いて試験片を作成し、JIS K7206に基づき50N荷重の条件により求めた。
(7)荷重たわみ温度
射出成型機を用いて試験片を作成し、JIS K7191に基づき1.8MPa応力の条件により求めた。
(8)溶融張力(MT)
キャピログラフ1B型(東洋精機社製)を使用し、バレル温度200℃、バレル径9.55mm、キャピラリー長さ:L=10mm、キャピラリー径:D=1mm(L/D=10)、バレル内の押出し速度10mm/分にて樹脂を押出し、荷重測定部をダイから60cm下方にセットし、キャピラリーより流出してきたストランド状の樹脂を巻き取り器にセットし、巻き取り線速度を4m/分から徐々に速度を上昇していき、ストランドが破断するまでの荷重を測定する。荷重は巻き取り線速度を上げていくと、一定値に安定するので、荷重が安定した範囲を平均化して溶融張力値(MT)とした。
【0068】
発泡シートの特性は以下の方法により評価した。
(9)シートインパクト強度
フィルムインパクトテスターBU-302(テスター産業社製)を用いて衝撃球面R12.7mmにて測定を行った。測定は発泡シートの表面、裏面、各々20回ずつ行い、全ての平均値をシートインパクト強度とした。
(10)成形性
発泡シートを単発成形機を用いて口径φ100mm、深さ60mmのカップ形状容器を熱成形した。ヒーター温度280℃一定にし、加熱時間を0.5秒刻みに変化させ、容器の穴あきやナキの発生しない加熱時間幅を確認し、成形可能な時間幅が10秒以上の場合を◎、8~10秒の場合を○、5~8秒の場合を△、5秒以下の場合を×として深絞り成形性を評価した。
(11)容器強度(割れ)
上記の成形可能な条件にて得られた容器について、小型卓上試験機Ez-test(島津製作所社製、型式:Ez-SX)を用い、容器の口元TD方向の両端部を2枚の板で挟んだ状態で、一方の端を500m/mmの速度で圧縮し、30mm変位時の割れが全く無いものを◎、発泡断面の内部のみに割れが発生するものを○、発泡断面の表層に割れが発生するものを△、発泡断面の表層から内部にかけて全体に割れが発生するものを×として容器強度を評価した。
(12)耐レンジアップ変形
上記の成形可能な条件にて得られた容器について、出力1500Wの電子レンジで70秒加熱し、表面状態を観察し、容器の変形や隆起が全く無いものを◎、容器の一部にわずかに変形や隆起が見られるものを○、容器に大きな変形や隆起が見られるものを△、容器の形状が崩れるか穴あきが発生するものを×とし耐熱性を評価した。
【0069】
【0070】
実施例の耐熱性スチレン系樹脂組成物は、比較例1の金属元素(C)を含まない樹脂組成物や比較例2のMBS樹脂(B)を含まない樹脂組成物に比べて、発泡シートの強度や成形性が大幅に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物は耐熱性と強度、成形性のバランスに優れるため、該耐熱性スチレン系樹脂組成物を用いて作成した押出シートは、深絞り容器等の多様な形状に加工することができ、幅広い用途で使用する事ができる。特に、電子レンジ用食品容器として用いた際、割れの発生が少ない食品容器を得ることができるため、製品輸送時や、食品容器蓋材との嵌合時の割れが減少し、食品廃棄ロスの低減につながる。