(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】給気チャンバおよび吹出口構造
(51)【国際特許分類】
F24F 13/072 20060101AFI20220607BHJP
F24F 13/06 20060101ALI20220607BHJP
F24F 13/068 20060101ALI20220607BHJP
F24F 13/10 20060101ALI20220607BHJP
F24F 13/20 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
F24F13/072 A
F24F13/06 A
F24F13/068 B
F24F13/10 A
F24F13/20
(21)【出願番号】P 2018050401
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 大和
【審査官】▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-138141(JP,U)
【文献】特開平11-159850(JP,A)
【文献】特開2011-174680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 13/072
F24F 13/06
F24F 13/068
F24F 13/10
F24F 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向を有し、空調空気が導入される内部空間を形成する筐体と、
前記筐体の長手方向に沿って設置される側壁に設けられ、給気ダクトが接続される接続口と、
前記筐体の下方に設けられ、内部空間から空調空気を送り出す線状吹出口が取り付けられる下方開口と、
前記筐体の長手方向に交差する面をなして内部空間を仕切り、且つ内部空間を長手方向に沿って移動可能な仕切板と
を備え
、
前記給気チャンバの長手方向に沿った側壁の内面には、長手方向に沿って溝が設けられ、
前記仕切板には、前記溝と係合する突出部が設けられている
ことを特徴とする給気チャンバ。
【請求項2】
グラスウールまたはロックウールにより形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の給気チャンバ。
【請求項3】
前記筐体の外面に金属板による補強構造を備えていることを特徴とする請求項
2に記載の給気チャンバ。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の給気チャンバを適用したことを特徴とする吹出口構造。
【請求項5】
前記線状吹出口に備えた羽板の角度を温度に応じて変更する吹出角調整部を備えたことを特徴とする請求項
4に記載の吹出口構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調空気を室内に供給するための線状吹出口に設置される給気チャンバ、およびこれを用いた線状吹出口の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
事務所ビルや商業施設、医療施設といった各種の建物において、居室や廊下等の室内に空調空気の吹出口を設置する際、天井に線状吹出口等と称される細長い吹出口が設置される場合がある。居室であれば、外壁に近いぺリメータやその周辺の壁際や窓際の位置に、細長い室である廊下には通路に沿って、こうした線状吹出口が配置される(尚、居室のインテリア部分においては、主にアネモスタット等と称される円形や方形の吹出口が室内負荷を満足するように設置されるが、このインテリア部分に関しても、アネモスタットの代わりに線状吹出口が設置される場合もある)。
【0003】
図6、
図7は線状吹出口の配置された天井および室内の一例を示しており、空調の対象空間である室内Aの上方の天井1に、空調空気2の吹出口として線状吹出口3が設置されている。線状吹出口3は、窓4の設置位置の近傍(窓際)および窓4の向かい側の壁5の近傍(壁際)に、長手方向が窓4および壁5に沿うように配置される。
【0004】
特に、応接室や役員室といった落ち着きのある意匠が要求される部屋においては、天井の見た目にすっきりとした印象を与えるよう、ここに示した例の如く、ペリメータ部分である窓4の上方に線状吹出口3を設置する一方、該線状吹出口3と対称になるよう、非ペリメータ部分にあたる壁5の上方に、線状吹出口3を設ける場合がある。
【0005】
線状吹出口3は、
図8に示す如く、細長い矩形状の枠3a内に、長手方向に沿って複数の羽板3bが並べられた構成である。線状吹出口3の上側には、該線状吹出口3の形状に適合する給気チャンバ6が接続され、該給気チャンバ6に給気ダクト7の端部が接続されている。
【0006】
線状吹出口3は、
図7に示す如く、下面が室内Aに面するよう、天井1に沿って配置される。線状吹出口3は、例えば野縁や野縁受けに載置されると共に、フェースは天井1の下面からあてがわれ、天井1と面一、あるいは天井1からやや下方へ突出する形で設置される。給気チャンバ6は、下面が線状吹出口3に内嵌するように設置され、図示しない吊具等によって上方から吊下支持される。給気チャンバ6の下面は開口として形成されており、該開口が線状吹出口3を介して室内Aと通じている形である。
【0007】
給気チャンバ6は、例えば
図8に示す如く、線状吹出口3の長手方向と直交する水平方向から見て線状吹出口3を底辺とする台形状をなしており、その台形状の側面に設けられた接続口6aに、給気ダクト7の端部が接続される。そして、給気ダクト7を通して送られてきた空調空気2を給気チャンバ6の内部空間に送り込み、線状吹出口3を通して下方へ送り出すようになっている。
【0008】
尚、この種の給気チャンバや吹出口の構造に関連する先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の如き給気チャンバ6および線状吹出口3により室内Aへ空調空気2を供給する際、特に室内Aが居室である場合には、天井1に設置された線状吹出口3から、室内Aの床面付近まで空調空気2を到達させる必要がある。すなわち、廊下では保健空調対象である人が主に立位で活動しているのに対し、居室の場合は人が座位でじっとしていることが多い。このため、居室内の人への快適感を確保するには、室内負荷に対応する吹出し空気温度だけでなく、線状吹出口3から吹き出される空調空気2が、床上直近まで空気流として到達しなくてはならない。特に、応接室や役員室といった部屋では、快適性への要求が高く、空調空気2の到達距離は一層重要である。
【0011】
ここで、冷房時であれば、重い空調空気2は自重で下方に沈むが、暖房時には、軽い空調空気2は室内A上方の天井1付近に滞留しやすい。そこで、特に暖房時、線状吹出口3から吹き出される空調空気2には、ある程度以上の吹出し風速が要求される。
【0012】
市販されている線状吹出口3や給気チャンバ6は、室内Aとして想定される一般的な空間の寸法(特に、天井高)に合わせて設計されており、通常は、暖房時であっても空調空気2を床面付近まで到達させるのに十分な風速を満足し得るようになっている。ところが、例えば特定の室内Aに線状吹出口3や給気チャンバ6を設置する際、天井1の高さが、線状吹出口3や給気チャンバ6の設計時における想定より高いような場合には、空調空気2が床面付近まで到達するほどの風速が得られないことがある。応接室や役員室では、通常より天井高が高く設計されることがあるので、こうした問題が生じる場合が特に多いと言える。
【0013】
また、室内Aが窓4を介して屋外等、温度の低い空間に面しているような場合は、
図7に示す如く、窓4の内表面で冷やされた室内の空気が冷気8(コールドドラフト)となって下方に流れ、床面付近に滞留することがある。このような冷気8の流れは、天井1の線状吹出口3から床面に向かって流れる空調空気2の気流とは温度差のためにすぐに混ざリ合わず、空調空気2と共に2層流を形成しがちであり、空調空気2が床面に達することが一層困難になる。この場合、暖気の一部が室内上方に層をなして滞留し、床面付近の人の快適性には寄与しない。応接室や役員室では、眺望の要求から大きい窓4が設置されることも多く、上述の天井高の設定と相俟って、こうした事態が一層生じやすい。
【0014】
このような線状吹出口3や給気チャンバ6に関し、例えば羽板3bの開度を変更することで風向を調整するような機構は従来からよく用いられている。例えば、上記特許文献1に記載のライン型吹出口装置は、本体をなす縦壁内に設置したコマ軸上に、一対の風向調整羽根体を配置し、コマ軸を回転させることで風向を変更できるようになっている。そして、空調空気として暖気を吹出す場合には空調空気を鉛直方向へ、空調空気として冷気を吹出す場合には水平方向へ吹出すように、風向を調整することができる。
【0015】
しかしながら、上述の如き線状吹出口3や給気チャンバ6に関し、天井高が線状吹出口3や給気チャンバ6の設計時の見込みよりも高いような場合に、吹出し風速を高めて空調空気2の到達距離を伸ばし得る技術は知られていない。上記特許文献1には、縦壁の基部開口に固定羽根とスライド羽根により連通開口面積を変化させるスライド風量調整機構が開示されているが、この機構は、配管で言うところの弁、ダクトで言うところのダンパにあたる部品を吹出口本体に内蔵するものであって、線状吹出口からの吹出風量を少なくするように絞る機構であり、定格の吹出風速より風速を高めることはできないのである。
【0016】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡単な構成により線状吹出口からの空調空気の到達距離を確保し得る給気チャンバおよび吹出口構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、長手方向を有し、空調空気が導入される内部空間を形成する筐体と、
前記筐体の長手方向に沿って設置される側壁に設けられ、給気ダクトが接続される接続口と、
前記筐体の下方に設けられ、内部空間から空調空気を送り出す線状吹出口が取り付けられる下方開口と、
前記筐体の長手方向に交差する面をなして内部空間を仕切り、且つ内部空間を長手方向に沿って移動可能な仕切板と
を備え、
前記給気チャンバの長手方向に沿った側壁の内面には、長手方向に沿って溝が設けられ、
前記仕切板には、前記溝と係合する突出部が設けられている
ことを特徴とする給気チャンバにかかるものである。
【0020】
本発明の給気チャンバは、グラスウールまたはロックウールにより形成することができる。
【0021】
本発明の給気チャンバにおいて、前記筐体の外面には、金属板による補強構造を備えることができる。
【0022】
また、本発明は、上述の給気チャンバを適用したことを特徴とする吹出口構造にかかるものである。
【0023】
本発明の吹出口構造においては、前記線状吹出口に備えた羽板の角度を温度に応じて変更する吹出角調整部を備えることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の給気チャンバおよび吹出口構造によれば、簡単な構成により線状吹出口からの空調空気の到達距離を確保し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施例による給気チャンバおよび吹出口構造の形態を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施例による給気チャンバおよび吹出口構造の形態を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施例による給気チャンバおよび吹出口構造の形態を示す平面図である。
【
図4】本発明の実施例による給気チャンバおよび吹出口構造の形態を示す側断面図であり、
図2のIV-IV矢視相当図である。
【
図5】本発明の実施例による給気チャンバの形態を示す分解斜視図である。
【
図6】天井における線状吹出口の配置の一例を示す概要平面図である。
【
図7】線状吹出口が設置された室内における気流を説明する概要正面図であり、
図6のVII-VII矢視相当図である。
【
図8】従来の線状吹出口に設置される給気チャンバの形態の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1~
図5は本発明の実施による給気チャンバおよび吹出口構造の形態の一例を示しており、図中、
図6~
図8と同一の符号を付した部分は同一物を表している。
【0028】
本実施例においては、
図8に示す従来例の吹出口構造と同じ形状の線状吹出口3を採用しているが、給気チャンバ10の形状や構造が従来例の給気チャンバ6とは異なっており、該給気チャンバ10の内部に仕切板11を備えた点を特徴としている。
【0029】
給気チャンバ10は、空調空気2が導入される内部空間を形成する箱型の部品である。給気チャンバ10の本体をなす筐体10hは、長手方向を有すると共に下方が開口として形成されており、この下方開口10iは、寸法を線状吹出口3に合わせて設定されている。そして、この下方開口10iに線状吹出口3が取り付けられる。給気チャンバ10は、長手方向に沿った面をなす第一および第二の側壁10a,10b、長手方向に関して両端面をなす第三および第四の側壁10c,10dと、それら4つの側壁10a~10dに取り囲まれた空間の上部を覆う上面部材10eを備えている。下方開口10iは、鋼板等に結露防止処理を施した鍔出し開口になっており、線状吹出口3が内嵌されるようになっている。
【0030】
第一の側壁10aには内外を連通する接続口10fが設けられている。接続口10fは、鋼板等に結露防止処理を施した鍔出し開口になっており、ここに給気ダクト7の端部が接続される。こうして、
図1に示す如く、給気ダクト7を通して送られてきた空調空気2を給気チャンバ10の内部空間に送り込み、下部の線状吹出口3から下方へ送り出すようになっている。尚、本実施例では接続口10fを第一の側壁10aの長手方向に関して中央部に設けているが、本発明を実施するにあたり、給気チャンバ10における接続口10fの位置はこれに限定されず、給気ダクト7との位置関係やその他の条件により変更することができる。例えば、接続口10fを第一の側壁10aの端部寄りの位置に設けても良い。
【0031】
そして、給気チャンバ10の内部には
図2~
図5に示す如く仕切板11が備えられており、給気チャンバ10の内部空間を仕切って給気ダクト7から空調空気2が送り込まれる空間の大きさを変更できるようになっている。
【0032】
仕切板11は、給気チャンバ10の長手方向に交差するように設置され、第一、第二の側壁10a,10bおよび上面部材10eに取り囲まれた内部空間にちょうど収まるよう、内部空間の断面形状に沿った形状を有している。本実施例の場合、給気チャンバ10の内部空間は概ね直方体状の形状であるが、第一、第二の側壁10a,10bの内面には長手方向に沿ってそれぞれ2つの溝10gが形成されており、内部空間の長手方向に直交する断面は、
図4に示す如く長方形の左右2辺がそれぞれ溝10gの分だけ突出した形状となっている。仕切板11は、この形状に沿うよう、長方形状の左右の辺に、溝10gに合わせて計4つの突出部11aを設けた形状となっている。
【0033】
こうして、仕切板11は、左右の突出部11aを第一、第二の側壁10a,10bの溝10gに係合した状態で、給気チャンバ10の内部空間を溝10gに沿って長手方向に移動できるようになっている。溝10gは、突出部11aと係合して仕切板11の移動を規定するレールの役割を果たすと同時に、仕切板11を保持して脱落を防ぐ役割をも兼ねる。
【0034】
筐体10hおよび仕切板11の材質としては、適当な空間を形成し得る強度と、建材として必要な不燃性・防火性を備えたものであれば種々の素材を使用することができる。例えば金属で形成しても良いし、グラスウールやロックウールで形成しても良い。給気チャンバ10は、空調空気2を供給する流路をなす部材であるから、空調空気2として冷気を吹き出す場合は外面結露が、暖気を吹き出す場合は内面結露が生じるおそれがあるため、給気チャンバ10の内外を断熱できるような素材とするのが好ましい。本実施例では、給気チャンバ10や仕切板11の材質としてはグラスウールを想定しており、側壁10a~10dおよび上面部材10eといった部材は、厚みのあるシート状のグラスウールを切断して形成される。また、各部材は、互いに接着剤や、図示しない締結具等により接続される。グラスウールやロックウールは、振動や音を吸収する防音性を備えていると同時に断熱性を備えており、空調空気2の流通に伴う結露の発生を防止でき、防火性にも優れている。また、安価且つ適度な強度と加工性を兼ね備えており、所要の形に成形しやすいという点で優れている。また、筐体10hの外面には、金属板により適宜図示しない補強構造を備えても良い。
【0035】
溝10gは、第一、第二の側壁10a,10bに、長手方向における全域にわたって設けることができるが、第一の側壁10aのうち、接続口10fの近傍には溝10gを設けなくても良い。溝10gは仕切板11を長手方向に沿って移動可能に支持する役割を果たすが、接続口10fの位置に仕切板11を配置する必要はないからである。接続口10fにおける給気ダクト7との接続構造の信頼性を保つという観点からは、接続口10fの近傍には溝10gを設けないことが好ましいとも言える。
【0036】
同様に、第二の側壁10bのうち、接続口10fに対向する部分にも溝10gを設ける必要はない。ただし、第二の側壁10bに関しては、長手方向の全域に溝10gが形成されていても特に不都合があるわけではない。給気チャンバ10をグラスウールやロックウールで形成する場合には、溝10gを第二の側壁10bの全域にわたって設けるようにした方が加工は容易である。
【0037】
尚、図示は省略するが、筐体10h内で仕切板11が倒れることを防止しつつ、仕切板11の容易な移動を可能とするため、例えば筐体10h内にピニオンギヤを設置し、該ピニオンギヤと噛み合うように溝10gおよび仕切板11にそれぞれラックを形成する。線状吹出口3の羽の隙間から手や器具を差し込み、前記ピニオンギヤを回転させることで、仕切板11を溝10gに沿って移動させる。
【0038】
また、本実施例の場合、線状吹出口3の上側に吹出角調整部12を設置している。吹出角調整部12はバイメタルを備えており、温度に応じて前記バイメタルが変形することにより、羽板3bの角度を変更するようになっている。より具体的には、線状吹出口3に軸支された羽板3bに対し、該羽板3bを所定の向きに付勢するようにバイメタルを備えると共に、該バイメタルとは反対方向に羽板3bを付勢する引きスプリングを備え、所定の温度未満では羽板3bを垂直に近い角度(暖房時吹出角)にして空調空気2を下に向けて送り出し、所定の温度以上では羽板3bを斜めの角度(冷房時吹出角)にして空調空気2を斜め下に送り出すようになっている。
【0039】
次に、上記した本実施例の作動を説明する。尚、本発明を実施するにあたり、対象空間としては
図6、
図7に示した例と同様の構造を想定できるため、以下では必要に応じて
図6、
図7をも参照しながら説明する。
【0040】
対象空間(室内)Aの天井1を施工し、窓4や壁5の上方にそれぞれ線状吹出口3を設置した後、本実施例の給気チャンバ10による吹出口構造を設置する。すなわち、天井1の窓際や壁際に配置された線状吹出口3の上部に
図1~
図5に示す如き給気チャンバ10を接続し、該給気チャンバ10の接続口10fに給気ダクト7を接続する。
【0041】
続いて、空調設備の試運転を行う。まず仕切板11を給気チャンバ10の内部空間における長手方向の端部に寄せた状態で、給気チャンバ10に対し給気ダクト7から空調空気2を供給する。このとき、空調空気2は、吹出角調整部12の動作により線状吹出口3からの空調空気2の吹出角度が冷房時吹出角にならないような温度(冷気ではない温度)とする。そして、空調空気2の高さ方向における到達距離を風量計等により測定する。
【0042】
天井1の高さが、線状吹出口3の設計時における想定よりも高い場合や、窓4から強い冷気8が生じるような場合には、線状吹出口3における空調空気2の風速が足りず、床面付近まで十分な空調空気2が到達しないことがある。その場合、給気チャンバ10内の仕切板11を接続口10fに近づけ(
図2、
図3参照)、再度給気ダクト7から空調空気2を供給して、到達距離を測定する。
【0043】
仕切板11の位置を接続口10fに近づけると、給気ダクト7から空調空気2が送り込まれる空間は小さくなり、また、該空間から下方開口10iに設けられた線状吹出口3を通って下方へ吹き出される空調空気2の流路は狭くなる。給気ダクト7から供給される空調空気2が速い流速のまま吹き出すことになり、線状吹出口3からの吹出風速が増大する。
【0044】
仕切板11の位置は、溝10gに沿って変更することができ、仕切板11の位置に応じて風速は変わる。風速が小さすぎると十分な量の空調空気2が床面付近まで到達しないし、風速が大きすぎればドラフトとなって室内Aの床面付近にいる居住者等に不快感を生じる可能性があるので、冷気ではない空調空気2の床面付近における風速が適当になるよう、仕切板11の位置を調整する。仕切板11は、線状吹出口3の下方から手や棒状の物を差し込んで動かすことができる。ここで、上述の如きラックとピニオンによる仕切板11の移動機構が給気チャンバ10に内蔵されている場合、前記ピニオンギヤを線状吹出口3の羽板3b間の隙間から回動することで仕切板11の位置を調整することができる。
【0045】
このように、本実施例の給気チャンバ10および吹出口構造においては、線状吹出口3における空調空気2の風速が不足する場合に、仕切板11の位置を調整するだけで必要な風速を簡単に得、
図7中に破線で示す如く、空調空気2を対象空間Aの床面付近まで到達させることができる。給気チャンバ10の本体をなす筐体10hは、長方形状の側面10a,10bに溝10gを形成し、長方形状に形成した側面10c,10dおよび上面10eと組み合わせるだけで簡単に形成できる。これらの部材は、施工時に線状吹出口3の寸法に合わせて製作すれば良く、線状吹出口3としては既製の市販品を採用しながら、それに合った寸法の給気チャンバ10をその都度製造することができる。よって、実際の施設等に空調設備を設置するにあたり、例えば天井高に応じた要求吹出風速に関して別途複雑な検討を行い、それに応じて線状吹出口3の形状や寸法を変更するような手間が必要なく、現場ごとに適切な風速を安価で簡便に設定することが可能である。特に、給気チャンバ10や仕切板11をグラスウールやロックウールで製造すれば、材料費が安価で済むうえ、加工も容易で製造費を最低限に抑えることができる。
【0046】
尚、ここでは給気チャンバ10に対し、給気ダクト7の接続される接続口10fを挟むように2枚の仕切板11を設置する場合を説明したが、仕切板11の枚数はこれに限定されない。仕切板11が例えば1枚であっても、接続口10fと、端部の第三または第四の側壁10c,10dとの間に配置すれば、給気ダクト7と連通して空調空気2の導入される空間の大きさを仕切板11で変更することができ、線状吹出口3から吹き出される空調空気2の風速を調整することが可能である。
【0047】
このように、暖房時における空調空気2の風速は、仕切板11の位置を変更することで確保することができる。一方で、暖房時における空調空気2の到達距離に基づいて仕切板11の位置を決定した場合、冷房時においては風速が過剰となってしまい、床面付近の居住者等に強い気流が当たって不快感を生じてしまう可能性がある。
【0048】
ここで、冷房時と暖房時とで仕切板11の位置を手動で変更することも不可能ではないものの、仕切板11は簡単に動かすことができるとはいえ、設備業者等ではない居住者等が線状吹出口3から手や物を差し込んで仕切板11を動かすような使用は、現実的には想定し難い。そこで、本実施例では線状吹出口3に吹出角調整部12を備えることにより、温度に応じて羽板3bの角度が自動で変更されるようにしている。
【0049】
すなわち、暖房時には羽板3bを床面に対し垂直に近い角度(暖房時吹出角)にして空調空気2を下に向けて送り出し、床面付近まで空調空気2を到達させる一方(
図7の破線参照)、冷房時には同程度の空調空気2の風速を保ちつつ羽板3bの角度を斜めにし、空調空気2を床面に対して斜めに(暖房時吹出角よりは天井1に近い冷房時吹出角で)送り出すことで(
図7の一点鎖線参照)、床面付近に強い気流がコールドドラフトとしてそのまま到達したり、その結果として室内上方に暖気が層をなして滞留するような事態を防止するようにしている。こうすることで、暖房時と冷房時のいずれにおいても、室内Aにおける快適性を実現することができる。
【0050】
尚、ここではバイメタルを備えた吹出角調整部12により、外部から操作を加えなくとも自動的に羽板3bの角度が変更されるようにした場合を例示したが、暖房または冷房に応じて羽板3bの角度を調整する機構はこれに限定されず、例えばモータ等の動作により羽板3bの角度を調整する機構を別途設けても良い。ただし、本実施例の如く温度に応じて自動で羽板3bの角度を変更するバイメタル式の吹出角調整部12を採用すれば、特に安価且つ簡便に空調空気2の吹出角度を調整することが可能である。
【0051】
以上のように、上記本実施例の給気チャンバ10およびこれを適用した吹出口構造は、長手方向を有し、空調空気2が導入される内部空間を形成する筐体10hと、筐体10hの長手方向に沿って設置される側壁10aに設けられ、給気ダクト7が接続される接続口10fと、筐体10hの下方に設けられ、内部空間から空調空気2を送り出す線状吹出口3が取り付けられる下方開口10iと、筐体10hの長手方向に交差する面をなして内部空間を仕切り、且つ内部空間を長手方向に沿って移動可能な仕切板11を備えている。こうすることにより、仕切板11の位置を調整するだけで線状吹出口3において必要な風速を簡単に得ることができる。
【0052】
本実施例の給気チャンバ10において、給気チャンバ10の長手方向に沿った側壁10a,10bの内面には、長手方向に沿って溝10gが設けられ、仕切板11には、溝10gと係合する突出部11aが設けられているので、仕切板11の移動を溝10gに沿った方向に規定すると共に、溝10gにより仕切板11を保持して脱落を防ぐことができる。
【0053】
本実施例の給気チャンバ10は、グラスウールまたはロックウールにより形成することができ、このようにすれば、線状吹出口3の寸法に合わせ、給気チャンバ10を安価で容易に製造することができる。また、給気チャンバ10において、空調空気2の流通に伴う結露の発生を防止することができる。
【0054】
本実施例の給気チャンバ10には、筐体10hの外面に金属板による補強構造を備えても良い。
【0055】
本実施例の吹出口構造においては、線状吹出口3に備えた羽板3bの角度を温度に応じて変更する吹出角調整部12を備えることができ、このようにすれば、空調空気2の風速を保ちつつ、暖房時と冷房時とで羽板3bの角度を変更することで、暖房時と冷房時のいずれにおいても、室内Aにおける快適性を実現することができる。
【0056】
したがって、上記本実施例によれば、簡単な構成により線状吹出口からの空調空気の到達距離を確保し得る。
【0057】
尚、本発明の給気チャンバおよび吹出口構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
2 空調空気
3 線状吹出口
3b 羽板
7 給気ダクト
10 給気チャンバ
10a 側壁(第一の側壁)
10b 側壁(第二の側壁)
10g 溝
10h 筐体
10i 下面開口
11 仕切板
11a 突出部
12 吹出角調整部