(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20220607BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220607BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220607BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20220607BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220607BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20220607BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220607BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B1/00 C
H01B5/14 A
H01B5/14 B
H05K3/12 610B
C08K3/08
C08L1/00
C08L101/00
C08K9/02
(21)【出願番号】P 2018062191
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 汰玖哉
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-260442(JP,A)
【文献】特開2015-018696(JP,A)
【文献】特開2013-249448(JP,A)
【文献】特開2012-084440(JP,A)
【文献】特開2002-161123(JP,A)
【文献】特開2018-195540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01B 1/00
H01B 5/14
H05K 3/12
C08K 3/08
C08L 1/00
C08L 101/00
C08K 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均粒径が2~20μmである導電性粉末と、(B)ブロック化ポリイソシアネート化合物と、(C)
アニオン変性セルロースナノファイバーと、(D)有機溶媒と、を含有する導電性ペースト。
【請求項2】
前記(A)導電性粉末が、銀粉、銅粉、銀コート粉及び銅コート粉からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
分散媒としての水を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性ペーストを硬化して形成される配線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、及び、それを用いて形成される配線に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、配線の微細化が求められている。微細配線を形成する方法として、例えば、特許文献1では、フォトリソグラフィーを用いる方法が開示されている。この方法では、各種金属膜を蒸着した基板上にフォトリソグラフィーによってパターン化されたレジスト膜を形成した後に、不要な蒸着金属膜を化学的あるいは電気化学的に溶解除去し、最後にレジスト膜を除去する必要があり、工程が煩雑になるという問題がある。
【0003】
一方、導電性ペーストを用いた印刷方式で微細配線を形成する方法が知られており、特許文献2には、印刷性が良好な導電性ペーストとして、タップ密度と比表面積と平均粒径を規定した銀粉末と、バインダ樹脂と、有機溶媒とを配合したものが開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の導電性ペーストでは、良好な印刷性や導電性ペースト中の良好な分散性を得るために銀粉末の形状が球状に限定されてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-343535号公報
【文献】特開2012-216533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、微細配線の形成に好適な導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る導電性ペーストは、(A)導電性粉末と、(B)バインダ樹脂と、(C)セルロースナノファイバーと、(D)有機溶媒と、を含有するものである。
【0007】
本発明の実施形態に係る配線は、該導電性ペーストを硬化して形成されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態に係る導電性ペーストであると、分散性及び保存安定性が良好であり、また配線形成時の導電性ペーストの流動による配線の広幅化を低減して微細な配線を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例において導電性ペーストの特性(比抵抗)を評価するための配線パターンの平面図
【
図2】実施例において導電性ペーストの特性(配線広幅化)を評価するための配線パターンの断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係る導電性ペーストは、(A)導電性粉末と、(B)バインダ樹脂と、(C)セルロースナノファイバーと、(D)有機溶媒と、を含有するものである。導電性粉末やバインダ樹脂の種類を限定せずに微細配線を得るための方策としては、導電性ペーストにチクソ性(チクソトロピー)を付与し、印刷時には低粘度化するが、印刷後は流動せず配線の広幅化を低減することが有効であると考えられる。本実施形態によれば、チクソ性付与剤としてセルロースナノファイバーを添加したことにより、導電性ペーストに良好なチクソ性が付与され、これにより配線印刷時の導電性ペーストの流動による配線の広幅化が低減される。そのため、導電性粉末の形状等に制限されずに、微細配線の形成が可能となる。また、導電性粉末の分散性及び保存安定性が良好であり、しかも、セルロースナノファイバーを添加しているにもかかわらず、比抵抗の上昇を抑えることができる。
【0012】
[(A)導電性粉末]
(A)導電性粉末としては、一般に導電性ペーストに使用されている各種導電性粉末を用いることができる。好ましくは、比抵抗が低くなることから、銀粉、銅粉、銀コート粉及び銅コート粉からなる群より選択される少なくとも1種を用いることであり、より好ましくは、銀粉及び/又は銀コート粉である。
【0013】
銀コート粉とは、表面が銀で被覆された粉末であり、例えば、銀コート銅粉、銀コートニッケル粉、銀コートアルミ粉などの銀コート金属粉、銀コートガラス粉、銀コート樹脂粉などが挙げられる。銅コート粉とは、表面が銅で被覆された粉末であり、例えば、銅コートニッケル粉、銅コートアルミ粉などの銅コート金属粉、銅コートガラス粉、銅コート樹脂粉などが挙げられる。
【0014】
(A)導電性粉末の形状は、特に限定されず、例えば、球状、フレーク状など種々の形状のものを用いることができる。(A)導電性粉末の平均粒径は、特に限定されず、例えば、50%平均粒子径(D50)が0.1~20μmでもよく、1~10μmでもよく、2~5μmでもよい。
【0015】
ここで、D50は、レーザー回折法により測定することができる。例えば、導電性粉末0.3gを50mlビーカーに秤量し、イソプロピルアルコール30mlを加えた後、超音波洗浄器(アズワン株式会社製USM-1)により5分間処理して分散させ、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製9320-HRA X-100)を用いてD50を測定することができる。
【0016】
(A)導電性粉末の配合量は、特に限定されないが、例えば、導電性ペースト中の(A)導電性粉末と(B)バインダ樹脂の固形分の合計量を100質量%としたときに、70~98質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは80~98質量%である。70質量%以上であることにより比抵抗をより小さくすることができ、また98質量%以下とすることにより導電性ペーストの粘度上昇を抑えて印刷時の作業性を向上することができる。
【0017】
[(B)バインダ樹脂]
(B)バインダ樹脂としては、一般に導電性ペーストに使用されている各種バインダ樹脂を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート化合物、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられ、これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくは、エポキシ樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくとも1種を用いることである。
【0018】
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、多価アルコール型などの各種エポキシ樹脂が挙げられ、これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
ブロック化ポリイソシアネート化合物は、ポリイソシアネート化合物をブロック化したものであり、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネートを挙げることができる。これらのポリイソシアネート化合物のうち、その成分中に3核体以上のポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含むと、より低抵抗となるので好ましい。また、ポリイソシアネートとポリオールを公知の方法により反応させて合成した末端イソシアネート基含有化合物も、ポリイソシアネート化合物として用いることができる。この場合のポリオールについては特に限定はなく、一般的なポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物のブロック化剤についても特に限定はなく、イミダゾール類、フェノール類、オキシム類等を使用することができる。
【0020】
(B)バインダ樹脂の配合量は、特に限定されないが、例えば、導電性ペースト中の(A)導電性粉末と(B)バインダ樹脂の固形分の合計量を100質量%としたときに、2~30質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは2~20質量%である。(B)バインダ樹脂の配合量をこの範囲内に設定することにより、(A)導電性粉末の分散性をより向上させることができ、比抵抗も小さくすることができる。
【0021】
[(C)セルロースナノファイバー]
(C)セルロースナノファイバーは、ナノメートルレベルの繊維径を持つセルロース繊維である。セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、特に限定されず、例えば、3~800nmでもよく、3~400nmでもよく、3~100nmでもよく、3~30nmでもよい。
【0022】
セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、次のようにして測定することができる。即ち、固形分率で0.05~0.1質量%のセルロースナノファイバー分散体(例えば、後述する製造例1ではメタノール分散体、製造例2ではN-メチルピロリドン分散体)を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。観察用試料は、例えば2質量%ウラニルアセテート水溶液でネガティブ染色してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径の相加平均を数平均繊維径とする。
【0023】
(C)セルロースナノファイバーとしては、セルロースI型結晶構造を有するものが用いられる。セルロースナノファイバーを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0024】
(C)セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットにアニオン基が導入されたアニオン変性セルロースナノファイバーが好ましく用いられる。アニオン基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、カルボキシル基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念である。リン酸基、スルホン酸基及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念である。
【0025】
一実施形態において、アニオン基としてはカルボキシル基が好ましい。カルボキシル基を含有するセルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0026】
好ましい実施形態に係る酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性されたものが挙げられる。酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化されたセルロースナノファイバーは、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバーと称されており、本実施形態でも使用することができる。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシル基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0027】
(C)セルロースナノファイバーにおけるアニオン基の量は、特に限定されず、例えば、0.05~3.0mmol/gでもよく、0.5~2.5mmol/gでもよい。アニオン基の量は、例えば、カルボキシル基の場合、乾燥質量を精秤したセルロース試料から0.5~1質量%スラリーを60mL調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン基についても公知の方法で測定すればよい。
アニオン基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース試料質量(g)〕
【0028】
(C)セルロースナノファイバーは、解繊処理を行うことにより得てもよい。解繊処理は、アニオン基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理としては、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて行うことができる。
【0029】
導電性ペーストに(C)セルロースナノファイバーを配合するに際しては、水以外の分散媒に分散されたセルロースナノファイバー分散体を用いることが好ましい。水以外の分散媒としては各種有機溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒が、セルロースナノファイバーの分散性の観点から好ましい。これらの分散媒は、セルロースナノファイバー分散体を導電性ペーストに添加することにより、セルロースナノファイバーとともに導電性ペーストに配合されるため、(D)成分である有機溶媒の一部又は全部となる。
【0030】
有機溶媒を分散媒とするセルロースナノファイバー分散体を得るためには、酸化セルロースナノファイバーなどのアニオン変性セルロースナノファイバーにおいて、カルボキシル基などの酸型のアニオン基がポリエーテルアミンで中和されていることが好ましく、有機溶媒に対する分散性を向上することができる。
【0031】
(C)セルロースナノファイバーの配合量は、特に限定されず、例えば、導電性ペースト中のバインダ樹脂(固形分)の量を100質量部としたときに、3~50質量部でもよく、5~20質量部でもよい。このような範囲内に配合量を設定することにより、比抵抗の上昇を抑えながら、配線の広幅化低減効果を高めることができる。
【0032】
[(D)有機溶媒]
(D)有機溶媒は、導電性ペーストにおいて(A)導電性粉末及び(B)セルロースナノファイバーに対する分散媒として機能するものであり、(B)バインダ樹脂と化学反応することなく溶解できるものを用いることが好ましい。
【0033】
(D)有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソブチルアルコール、1-ブタノール、テルピネオール、ジアセトンアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール、グリセリン等などのアルコール系溶媒; トルエン、キシレン、石油系炭化水素などの炭化水素系溶媒; 酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテートなどのエステル系溶媒; アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒; エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒; N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒などが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アルコール系溶媒及び/又はアミド系溶媒が好ましい。
【0034】
また、メタノールなどの炭素数3以下の低級アルコール系溶媒を用いる場合、印刷過程での導電性ペーストの乾燥を防ぐために、1気圧での沸点が180~330℃である高沸点溶媒(例えば、高沸点のアルコール系溶媒、エステル系溶媒、及び/又はアミド系溶媒)を併用することが好ましい。
【0035】
(D)有機溶媒の含有量は、特に限定されず、例えば、導電性ペースト中の(A)導電性粉末と(B)バインダ樹脂の固形分の合計量を100質量部としたときに、1~45質量部でもよく、2~30質量部でもよい。
【0036】
本実施形態に係る導電性ペーストは、分散媒としての水を実質的に含まないことが好ましい。すなわち、本実施形態に係る導電性ペーストにおいて、分散媒は実質的に有機溶媒のみからなり、これにより(A)導電性粉末の分散性を向上することができる。本明細書において、導電性ペーストが水を実質的に含まないとは、導電性ペーストが水を含まないか、または、水を含んでいたとしても、分散媒の総量100質量%中、水の量が10質量%未満であることを意味し、より好ましくは5質量%未満、更に好ましくは1質量%未満であることを意味する。
【0037】
[導電性ペースト]
本実施形態に係る導電性ペーストには、上記成分(A)~(D)の他、本実施形態の効果を損なわない範囲で、例えば、着色剤、金属分散剤、消泡剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、カップリング剤、充填剤、粘度調整剤などの各種添加剤を配合してもよい。
【0038】
また、(B)バインダ樹脂を硬化させるための硬化剤を配合してもよい。硬化剤としては、例えば(B)バインダ樹脂がエポキシ樹脂の場合、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸などの酸無水物類; イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4メチルイミダゾールなどのイミダゾール類; ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミンなどの第三級アミン類; 三フッ化ホウ素エチルエーテル、三フッ化ホウ素フェノールなどのフッ化ホウ素を含むルイス酸あるいはその化合物などが挙げられる。硬化剤の配合量は特に限定されず、例えばバインダ樹脂100質量部に対して1~20質量部でもよい。
【0039】
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法は特に限定されず、導電性ペーストの分野で公知の方法を好適に用いることができる。上述した各成分を所定の配合割合で配合し、公知の混合機を用いてペースト化する方法が挙げられる。その際、(C)セルロースナノファイバーは、上記のように、有機溶媒を分散媒とするセルロースナノファイバー分散体として添加されることが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る導電性ペーストの粘度は、特に限定されず、例えば25℃における粘度が1~500Pa・sでもよく、5~400Pa・sでもよい。ここで、導電性ペーストの粘度は、E型粘度計を用いて、25℃において1rpm回転時(ずり速度2s-1)の粘度(η1rpm)を測定することにより得られる。
【0041】
本実施形態に係る導電性ペーストについて、その硬化体の比抵抗(体積抵抗率)は、特に限定されないが、1×10-3Ω・cm以下であることが好ましく、1×10-6~1×10-4Ω・cmでもよい。
【0042】
[導電性ペーストの使用]
本実施形態に係る導電性ペーストは、配線(導電パターンとも称される)を形成するために好適に用いられる。詳細には、タッチパネル用透明電極、電磁波シールド、および電子基板などにおける配線に用いることができる。
【0043】
一実施形態において、印刷により基材上に導電性ペーストの塗膜パターンを形成し、これを硬化させることにより配線を形成することができる。
【0044】
印刷方法としては、特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンサー法などが挙げられ、特にスクリーン印刷法が好適である。基材としては、例えば、プリント配線板、ガラス基板、セラミック基板(アルミナ基板など)、フレキシブル基板(PETフィルムなど)が挙げられる。
【0045】
基材上に形成された塗膜パターンは、例えば60~150℃で1~60分間乾燥した後、100~250℃で1~60分間低温焼成することにより硬化させることができ、配線を形成することができる。
【0046】
[効果]
本実施形態に係る導電性ペーストであると、導電性ペーストとしての良好な分散性や保存安定性を有し、また配線印刷時の導電性ペーストの流動による配線の広幅化を低減する効果を発揮することができる。また、セルロースナノファイバーの含有によって抵抗率が上昇するということはなく、さらに銀粉などの導電性粉末の形状が球状に限定されない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
導電性ペーストの評価方法は以下の通りである。
【0049】
[分散性]
調製直後の導電性ペーストを静置して状態を目視で確認し、導電性粉末の沈降が見られないときを「○」として、導電性粉末の沈降が見られるときを「×」として評価した。
【0050】
[TI値]
分散性が「○」であった導電性ペーストのみを評価対象とした。得られた導電性ペーストの粘度を25℃でE型粘度計(東機産業社製TV-22型粘度計コーンプレートタイプ)を用いて測定した。1rpm回転時(ずり速度2s-1)の粘度(η1rpm)と、10rpm回転時(ずり速度20s-1)の粘度(η10rpm)を測定し、前者を後者で除してTI値(η1rpm/η10rpm)を算出した。
【0051】
[保存安定性]
得られた導電性ペーストを25℃で1晩静置した。導電性ペーストの状態変化を目視で確認し、導電性粉末の沈降が見られないときを「○」として、導電性粉末の沈降が見られるときを「×」として評価した。
【0052】
[比抵抗]
基材としてはアルミナ基板を用いた。このアルミナ基板の表面に、実施例または比較例の導電性ペーストを用いて、
図1に示すように、両端に端子1aおよび1bを有し、その間の配線部分1cがつづら折り状となっている、導体幅500μm、アスペクト比75の配線パターン1をスクリーン印刷した。その後、アルミナ基板を150℃の熱風乾燥機中で10分、200℃の熱風乾燥機中で60分加熱し、配線パターン1(導電性ペースト)を乾燥、硬化させた。これにより評価用サンプルを作製した。
【0053】
実施例または比較例の比抵抗評価用サンプルについて、配線パターン1の膜厚を表面粗さ計(株式会社東京精密製サーフコム480A)で、常温(25℃)での電気抵抗をデジタルマルチメータ(株式会社エーディーシー製7451A)で測定し、それら膜厚と電気抵抗と配線パターンのアスペクト比に基づいて比抵抗(体積抵抗率)を算出して評価した。
【0054】
[配線広幅化の評価]
基材としてはアルミナ基板を用いた。このアルミナ基板の表面に、実施例または比較例の導電性ペーストを用いて、幅250μm×長さ1cmの矩形状の配線パターン2をスクリーン印刷した。その後、アルミナ基板を150℃の熱風乾燥機中で10分、200℃の熱風乾燥機中で60分加熱し、配線パターン2(導電性ペースト)を乾燥、硬化させた。これにより評価用サンプルを作製した。
【0055】
実施例または比較例の評価用サンプルについて、配線パターン2をレーザー顕微鏡で観察し、
図2のようにパターンの断面形状を出力した。
図2における配線パターン上辺の端部を2a、配線パターンの下辺の端部(配線の広幅化の終点)を2bとし、2aと2bを結ぶ直線と基板表面がなす角θ(0°(広幅化)<θ≦90°(広幅化なし))をそれぞれ測定した。
【0056】
[製造例1:CNF分散体1の調製]
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12.0mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応した(反応時間:120分)。反応終了後、遠心分離機で固液分離し、純水を加えて固形分濃度4質量%に調整した。その後、24質量%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃として水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、変性セルロース繊維を得た。この変性セルロース繊維にメタノールを加えてろ過し、メタノール洗浄を繰り返して、変性セルロース繊維に含まれる水をメタノールに置換した。その後、メタノールと、変性セルロース繊維のカルボキシル基量と等量のポリエーテルアミン(PO/EOベースのモノアミン、JEFFAMINE M-2070、HUNTSMAN社製)とを加えて、セルロース繊維濃度を2.5質量%になるように希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、ゲル状組成物(CNF分散体1)を得た。
【0057】
得られたCNF分散体1は、メタノールを分散媒とするTEMPO酸化セルロースナノファイバーの2.5質量%分散体であり、セルロースナノファイバーのカルボキシル基の含有量は2.1mmol/g、数平均繊維径は4nmであり、I型結晶構造を有するものであった。
【0058】
[製造例2:CNF分散体2の調製]
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が12.0mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応した(反応時間:120分、反応温度:40℃)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、純水を加えて固形分濃度4質量%に調整した。その後、24質量%NaOH水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃として水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、変性セルロース繊維を得た。この変性セルロース繊維にN-メチルピロリドン(NMP)を加えてろ過し、NMP洗浄を繰り返して、変性セルロース繊維に含まれる水をNMPに置換した。その後、NMPと、変性セルロース繊維のカルボキシル基量の3/4等量のポリエーテルアミン(JEFFAMINE M-2005、HUNTSMAN社製)と1/4等量のポリエーテルアミン(JEFFAMINE M-2070、HUNTSMAN社製)を加えて、セルロース繊維濃度を9.0質量%になるように希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、ゲル状組成物(CNF分散体2)を得た。
【0059】
得られたCNF分散体2は、NMPを分散媒とするTEMPO酸化セルロースナノファイバーの9.0質量%分散体であり、セルロースナノファイバーのカルボキシル基の含有量は1.8mmol/g、数平均繊維径は4nmであり、I型結晶構造を有するものであった。
【0060】
[実施例1:導電性ペーストの調製]
フレーク状銀粉末(商品名:シルコートAgC-A、福田金属箔粉工業(株)製、比表面積0.6~0.9m2/g、50%平均粒子径4.65μm)2.85質量部と、バインダ樹脂1(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、商品名:アデカレジンEP-4901E、株式会社ADEKA製)0.15質量部と、硬化剤(三フッ化ホウ素モノエチルアミン、東京化成工業製)0.01質量部と、製造例1で得られたCNF分散体1(メタノールを分散媒とするTEMPO酸化セルロースナノファイバーの2.5質量%分散体)0.60質量部と、有機溶媒BCA(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)0.14質量部を、ガラス製容器に測り取り、自転公転ミキサー(EME社製、V-mini300)を用いて1500rpmで5分間混合を行い、実施例1に係る導電性ペーストを得た。
【0061】
実施例1の導電性ペーストにおいて、銀粉末とバインダ樹脂の固形分の合計量100質量%における銀粉末の比率は95質量%である。また、バインダ樹脂100質量部に対するセルロースナノファイバーの固形分含有量は10質量部である。
【0062】
[比較例1]
下記表1に示す配合(質量部)に従い、CNF分散体1を配合する代わりにメタノール0.60質量部を添加し、その他は実施例1と同様にして導電性ペーストを調製した。
【0063】
実施例1と比較例1の導電性ペーストについて、分散性、TI値、保存安定性、比抵抗、および配線広幅化の評価を行った。結果は表1に示すとおりであり、セルロースナノファイバーを配合した実施例1の導電性ペーストは、分散性が良好であり、また、セルロースナノファイバーを含まない比較例1に対して、保存安定性が良好であり、TI値が高くチクソ性が付与されており、配線の広幅化が低減されていることが分かる。また、セルロースナノファイバーを含有することによる比抵抗の上昇も抑えられていた。
【0064】
【0065】
[実施例2および比較例2]
下記表2に示す配合(質量部)に従い、CNF分散体1の代わりに、製造例2で得られたCNF分散体2(N-メチルピロリドンを分散媒とするTEMPO酸化セルロースナノファイバーの9.0質量%分散体)0.17質量部を配合し、また、BCAの代わりにN-メチルピロリドン0.57質量部を加え、その他は実施例1と同様にして実施例2に係る導電性ペーストを調製した。実施例2の導電性ペーストにおいて、銀粉末とバインダ樹脂の固形分の合計量100質量%における銀粉末の比率は95質量%である。また、バインダ樹脂100質量部に対するセルロースナノファイバーの固形分含有量は10質量部である。
【0066】
下記表2に示す配合(質量部)に従い、CNF分散体2を配合する代わりにN-メチルピロリドンの配合量を0.57質量部から0.74質量部に変更し、その他は実施例2と同様にして比較例2に係る導電性ペーストを調製した。
【0067】
実施例2と比較例2の導電性ペーストについて、分散性、TI値、保存安定性、比抵抗、および配線広幅化の評価を行った。結果は表2に示すとおりであり、セルロースナノファイバーを配合した実施例2の導電性ペーストは、分散性、保存安定性が良好であり、また、セルロースナノファイバーを含まない比較例2に対して、TI値が高くチクソ性が付与されており、配線の広幅化が低減されていることが分かる。また、セルロースナノファイバーを含有することによる比抵抗の上昇も抑えられていた。
【0068】
【0069】
[実施例3および比較例3]
下記表3に示す配合(質量部)に従い、バインダ樹脂1の代わりにバインダ樹脂2(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートとポリカーボネートポリオールとの反応化合物(ブロック剤:メチルエチルケトンオキシム))0.15質量部を配合し、また、N-メチルピロリドンの配合量を0.43質量部とし、更にBCAを0.15質量部配合し、その他は実施例2と同様にして実施例3に係る導電性ペーストを調製した。実施例3の導電性ペーストにおいて、銀粉末とバインダ樹脂の固形分の合計量100質量%における銀粉末の比率は95質量%である。また、バインダ樹脂100質量部に対するセルロースナノファイバーの固形分含有量は10質量部である。
【0070】
下記表3に示す配合(質量部)に従い、CNF分散体2を配合する代わりにN-メチルピロリドンの配合量を0.43質量部から0.60質量部に変更し、その他は実施例3と同様にして比較例3に係る導電性ペーストを調製した。
【0071】
実施例3と比較例3の導電性ペーストについて、分散性、TI値、保存安定性、比抵抗、および配線広幅化の評価を行った。結果は表3に示すとおりであり、セルロースナノファイバーを配合した実施例3の導電性ペーストは、分散性、保存安定性が良好であり、また、セルロースナノファイバーを含まない比較例3に対して、TI値が高くチクソ性が付与されており、配線の広幅化が低減されていることが分かる。また、セルロースナノファイバーを含有することによる比抵抗の上昇もなかった。
【0072】
【0073】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。