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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】ラッチ錠装置及び扉装置
(51)【国際特許分類】
   E05B 55/02 20060101AFI20220607BHJP
   E05B 63/08 20060101ALI20220607BHJP
   E05B 65/06 20060101ALI20220607BHJP
   E05C 1/14 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
E05B55/02
E05B63/08 C
E05B65/06 C
E05C1/14 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018074716
(22)【出願日】2018-04-09
(65)【公開番号】P2019183486
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相田 将人
(72)【発明者】
【氏名】清野 真二
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】実開平6-71811(JP,U)
【文献】実開昭48-30297(JP,U)
【文献】米国特許第2837906(US,A)
【文献】特開昭49-31499(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第2820052(DE,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 55/00-55/16
E05B 63/08
E05B 65/06
E05C 1/00- 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠ケースの内部で進退可能に設けられ、先端側に設けられたラッチが前記錠ケースの外面から出没可能なラッチ部材と、
ハンドルの回転操作と連動して回転し、前記ラッチ部材を進退させるカム部材と、
前記ラッチが前記錠ケース内に没入する方向への前記ラッチ部材の移動を規制するロック機構と、
を備えるラッチ錠装置であって、
前記カム部材は、前記ハンドルと連動して回転するカム本体と、前記ラッチ部材に当接し、前記ラッチが前記錠ケース内に没入する方向へと前記ラッチ部材を移動させるアームと、を有し、
前記ロック機構は、前記ラッチが前記錠ケース外へと突出した位置にある状態で、前記カム本体と当接することにより、前記カム本体の回転を規制するロック部材を有し、
前記ロック部材は、前記カム本体に当接した状態で、前記ラッチ部材の基端面と対向する位置に配置されるものであり、
前記ラッチ部材は、前記ロック部材を挿入可能な溝部を有することを特徴とするラッチ錠装置。
【請求項2】
請求項1に記載のラッチ錠装置において、
前記カム本体には、凹部又は凸部が設けられ、
前記ロック部材は、前記カム本体の前記凹部又は前記凸部と当接することにより、前記カム本体の回転を規制することを特徴とするラッチ錠装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のラッチ錠装置において、
前記ラッチ部材は、先端側に設けられた前記ラッチと、基端側に設けられた頭部と、前記ラッチと前記頭部との間を繋ぎ、前記頭部よりも小径な軸部と、を有し、
前記頭部は、前記軸部の外周面から膨らむように設けられ、前記アームが前記ラッチ側から当接する当接面と、前記ラッチ側と反対側を向いた前記基端面と、を有し、
前記溝部は、前記基端面から前記ラッチ部材の軸方向へと切り込んだスリット形状を有し、
前記ロック部材は、前記溝部に挿入可能な平板形状を有することを特徴とするラッチ錠装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のラッチ錠装置と、該ラッチ錠装置を組み付けた戸体と、を備えることを特徴とする扉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラッチ錠装置及び該ラッチ錠装置を戸体に組み付けた扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば住宅等の建物内で室内外を仕切る扉装置は、戸体の見込み面から出没することにより、枠側の凹部に係合するラッチを備え、戸体の施錠及び解錠を行うラッチ錠装置が設けられることがある。例えば特許文献1には、錠ケースの外面から出没するラッチを先端側に設けたラッチ部材と、ハンドルの回転操作に連動して回転し、ラッチを錠ケース内に没入させる方向にラッチ部材を移動させるカム部材と、ラッチ部材の移動を規制するロック機構と、を備えたラッチ錠装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3585865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のカム部材は、ハンドルの回転軸が嵌合したカム本体の外周面からラッチ部材を移動させるためのアームが突出している。そして、ロック機構は、サムターンと連動して移動するロック部材が、カム部材のアームの先端を係止し、これによりラッチ部材の移動を規制する構造となっている。このため、ロック部材によってラッチ部材の移動が規制された施錠状態において、例えばハンドルが開方向へと衝撃的に回転操作された場合、アームがロック部材に対して強い力で押し付けられる。その結果、アームが破損した場合には、ハンドル操作によってラッチの施錠状態を解除することができなくなり、戸体を開くことができなくなる恐れがある。そうすると、利用者は例えば戸体やラッチ錠装置を破壊しないと戸体を開動作させることができない事態となる。特に、この構成では、ロック部材がアームの突出端を係止するため、ハンドルによってカム部材が強制回転された際、アームには相当な大きさのモーメント力が付与されることになり、アームが一層破損し易い構造となっている。
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題を考慮してなされたものであり、戸体の開動作が不能となることを抑制できるラッチ錠装置及び該ラッチ錠装置を備える扉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るラッチ錠装置は、錠ケースの内部で進退可能に設けられ、先端側に設けられたラッチが前記錠ケースの外面から出没可能なラッチ部材と、ハンドルの回転操作と連動して回転し、前記ラッチ部材を進退させるカム部材と、前記ラッチが前記錠ケース内に没入する方向への前記ラッチ部材の移動を規制するロック機構と、を備えるラッチ錠装置であって、前記カム部材は、前記ハンドルと連動して回転するカム本体と、前記ラッチ部材に当接し、前記ラッチが前記錠ケース内に没入する方向へと前記ラッチ部材を移動させるアームと、を有し、前記ロック機構は、前記ラッチが前記錠ケース外へと突出した位置にある状態で、前記カム本体と当接することにより、前記カム本体の回転を規制するロック部材を有することを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、ロック部材がカム本体に当接してカム本体の回転を規制し、これにより当該ラッチ錠装置が施錠状態となる。このため、例えばこの施錠状態において、ハンドルが極めて大きな力で開方向に強制的に回転させられた場合であっても、ロック部材又はカム本体の一部が破損する可能性があるが、アームが破損することはない。従って、このようなハンドルの強制回転によって、例えばカム本体の一部が破損した場合であっても、その後のハンドルの開方向への回転操作により、アームを介してラッチ部材を移動させることができる。その結果、ラッチを錠ケース内へと没入させることができるため、戸体の開動作が不能となることがなく、利用者はハンドル操作によって容易に戸体を開くことができる。
【0008】
本発明に係るラッチ錠装置において、前記カム本体には、凹部又は凸部が設けられ、前記ロック部材は、前記カム本体の前記凹部又は前記凸部と当接することにより、前記カム本体の回転を規制する構成としてもよい。そうすると、カム本体の回転をロック部材によって一層確実に規制することができる。
【0009】
本発明に係るラッチ錠装置において、前記ロック部材は、前記カム本体に当接した状態で、前記ラッチ部材の基端面と対向する位置に配置されるものであり、前記ラッチ部材は、前記ロック部材を挿入可能な溝部を有する構成としてもよい。そうすると、仮に施錠状態でロック機構が不具合を生じ、ロック部材がラッチ部材の位置が進退動作範囲内で固定されてしまった場合であっても、ラッチ部材は溝部でロック部材を避けて移動することができる。
【0010】
本発明に係るラッチ錠装置において、前記ラッチ部材は、先端側に設けられた前記ラッチと、基端側に設けられた頭部と、前記ラッチと前記頭部との間を繋ぎ、前記頭部よりも小径な軸部と、を有し、前記頭部は、前記軸部の外周面から膨らむように設けられ、前記アームが前記ラッチ側から当接する当接面と、前記ラッチ側と反対側を向いた前記基端面と、を有し、前記溝部は、前記基端面から前記ラッチ部材の軸方向へと切り込んだスリット形状を有し、前記ロック部材は、前記溝部に挿入可能な平板形状を有する構成としてもよい。そうすると、ラッチ部材の溝部に対し、より確実にロック部材を挿入することができる。また、例えばハンドルが極めて大きな力で開方向に強制的に回転させられた場合には、カム部材のアームがラッチ部材の頭部の当接面を乗り越えてしまった脱落状態となる可能性がある。ところが、この脱落状態となった場合であっても、スリット形状の溝部による弾性によってラッチ部材が径方向に拡縮するため、ハンドルを開方向とは逆の閉方向に回転操作するだけで、容易にラッチ部材とアームとの当接状態を復元することができる。
【0011】
本発明に係る扉装置は、上記構成のラッチ錠装置と、該ラッチ錠装置を組み付けた戸体と、を備えることを特徴とする。このような構成によれば、例えばハンドルが極めて大きな力で開方向に強制的に回転させられ、ラッチ錠装置が不具合を生じた場合であっても、戸体を破壊することなく戸体を開くことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、戸体の開動作が不能となることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るラッチ錠装置の解錠状態での内部構造を示す正面図である。
図2図1に示すラッチ錠装置を戸体に組み付けた状態での側面図である。
図3図1に示すラッチ錠装置のハンドルを開方向に回転操作した状態での正面図である。
図4図1に示すラッチ錠装置の施錠状態での内部構造を示す正面図である。
図5図5(A)は、ラッチ部材の平面図であり、図5(B)は、ラッチ部材の正面図である。
図6】カム部材の構成を示す斜視図である。
図7図7(A)は、ラッチ部材がカム部材のアームから脱落した状態を示す要部拡大平面図であり、図7(B)は、図7(A)に示す状態からハンドルが回転操作された状態を示す要部拡大平面図であり、図7(C)は、図7(B)に示す状態からラッチ部材とカム部材のアームとの間の係合状態が復元された状態を示す要部拡大平面図である。
図8図8(A)は、施錠状態でのラッチ部材とアームとロック部材との位置関係を示す要部拡大平面図であり、図8(B)は、図8(A)に示す状態からハンドルが回転操作された状態を示す要部拡大平面図であり、図8(C)は、図8(A)に示す状態からラッチ部材が強制的に移動させられた状態を示す要部拡大平面図である。
図9図9(A)は、変形例に係るカム本体を備えたラッチ錠装置の解錠状態での内部構造を示す要部拡大正面図であり、図9(B)は、図9(A)に示すラッチ錠装置の施錠状態での内部構造を示す要部拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るラッチ錠装置について、この装置を備える扉装置を例示して好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るラッチ錠装置10の解錠状態での内部構造を示す正面図である。図2は、図1に示すラッチ錠装置10を戸体12に組み付けた状態での側面図である。図3は、図1に示すラッチ錠装置10のハンドル14を開方向に回転操作した状態での正面図である。図4は、図1に示すラッチ錠装置10の施錠状態での内部構造を示す正面図である。本実施形態のラッチ錠装置10は、例えば住宅等の建物内で室内外を仕切る扉装置16の戸体12の戸先側に組み付けられ、戸体12を閉じ位置で保持すると共に、戸体12の施錠及び解錠を行う装置である。
【0016】
図1及び図2に示すように、ラッチ錠装置10は、錠ケース18と、ラッチ部材20と、カム部材22と、ロック機構24とを備える。
【0017】
錠ケース18は、金属や樹脂で形成されたケースである。錠ケース18は、内部にラッチ部材20、カム部材22及びロック機構24を収納するハウジング部18aと、戸体12の見込み面12aに略面一に取り付けられる取付板18bとを有する。ハウジング部18aは、見込み方向で一対のカバー材18c,18cを貼り合わせることにより、その間にラッチ部材20等の収納空間を形成している。図1等では、一方のカバー材18cを他方のカバー材18cから取り外した状態を示している。取付板18bは、戸体12の見込み面12aに対して上下一対のねじ26,26を用いて締結され(図2参照)、これによりラッチ錠装置10が戸体12に固定される。
【0018】
なお、本出願において、見込み方向とは扉装置16の室内外方向、つまり室内側から室外側に向かう方向又はその逆方向(図中に矢印Yで示す方向)をいい、見込み面とは見込み方向に沿って延在する面をいう。また、この見込み方向に直交する方向のうち、扉装置16の高さ方向に当たる上下方向を図中に矢印Zで示し、扉装置16の幅方向に当たる左右方向を図中に矢印Xで示す。そこで、ラッチ錠装置10についても、図1及び図2に示す戸体12への取付状態を基準とし、各図中に矢印X,Y,Zを図示して各部材の配置や動作方向等を説明する。
【0019】
図5(A)は、ラッチ部材20の平面図であり、図5(B)は、ラッチ部材20の正面図である。図1及び図5に示すように、ラッチ部材20は、錠ケース18のハウジング部18a内で戸体12の幅方向(X方向)に沿って進退可能に設けられている。ラッチ部材20は、ラッチ28と、頭部30と、軸部32とを備える、いわゆるラッチボルトである。ラッチ部材20は、錠ケース18内で上下方向で略中央に設けられている。
【0020】
軸部32は、金属や樹脂で形成された丸棒部分である。軸部32の軸方向で略中央には、大径のフランジ部32aが設けられている。ハウジング部18aには、軸部32が進退可能に挿通するシリンダ部18dが形成されている。フランジ部32aは、シリンダ部18d内に収容されることにより、ラッチ部材20の進退範囲を規制すると共に、軸部32に外挿されたコイルばね34の着座板となる。コイルばね34は、ラッチ28が錠ケース18外に突き出す方向(図1中で左側)にフランジ部32a(ラッチ部材20)を常時付勢している。以下、ラッチ部材20について、ラッチ28が錠ケース18外に突き出す方向をラッチ突出方向と呼び、ラッチ突出方向の反対方向(図1中で右側)をラッチ没入方向と呼ぶこともある。
【0021】
ラッチ28は、金属や樹脂で形成された三角柱形状の部品であり、軸部32の先端に設けられている。ラッチ28は、取付板18bに形成された開口18eを通して錠ケース18の外面(取付板18b)から出没可能である。ラッチ28は、コイルばね34の付勢力により、外力を受けていない状態では錠ケース18外に突き出している。
【0022】
戸体12は、建物の躯体開口部に設置された枠体36の内側で開閉可能に支持されている。枠体36の見込み面には、ラッチ凹部36aが形成されている。ラッチ28は、枠体36に対して戸体12が閉じられた場合にラッチ凹部36aに進入可能である。ラッチ28は、戸体12の枠体36に対する閉方向を向いた摺動面28aと、戸体12の枠体36からの開方向を向いた係止面28bとを有する(図5(A)参照)。ラッチ28は、戸体12を閉じる際、摺動面28aが枠体36に摺動することにより、コイルばね34の付勢力に抗して錠ケース18内に没入する。ラッチ28は、戸体12を閉じた際、ラッチ凹部36aに進入することにより、係止面28bがラッチ凹部36aの内面で係止され、その結果、戸体12を閉じ位置で保持する。
【0023】
頭部30は、軸部32の基端に一体形成され、軸部32よりも大径に構成された円錐台形状の部分である。頭部30は、当接面30aと、基端面30bと、テーパ面30cとを有する。当接面30aは、軸部32から外径方向に膨らむように設けられ、ラッチ28側を向いたリング状の見込み面である。基端面30bは、ラッチ部材20の基端に位置し、ラッチ28側とは反対側を向いた円状の見込み面である。テーパ面30cは、当接面30aから基端面30bに向かって次第に外径が縮小する先細りリング状の傾斜面である。
【0024】
このようなラッチ部材20には、頭部30側を上下方向に向かって二股形状に分割する溝部38が設けられている(図5(A)参照)。溝部38は、ラッチ部材20の軸方向で頭部30からラッチ28側に向かって切り込んだスリット形状であり、基端面30bから軸部32まで延びている。ラッチ部材20は、溝部38を有することにより、頭部30及びその周辺部を径方向に拡縮可能な弾性を有する。
【0025】
図6は、カム部材22の構成を示す斜視図である。図1及び図6に示すように、カム部材22は、金属や樹脂で形成された部品であり、カム本体40と、一対のアーム42a,42bと、受け片44とを有する。カム部材22は、錠ケース18内でラッチ部材20の頭部30の下方に配置されている。
【0026】
カム本体40は、略円柱形状のブロック体である。カム本体40には、スプライン孔40aと、凹部40bと、ガイド部40cとが設けられている。スプライン孔40aは、ハンドル14の回転軸に形成されたスプラインが回転不能に嵌合する。ハンドル14は、例えば人手によって回動可能なレバーハンドルであり、戸体12の室内外表面にそれぞれ設けられている(図2参照)。つまりスプライン孔40aには、見込み方向で両側の開口からそれぞれ室内外のハンドル14のスプラインが嵌合する。これによりカム本体40は、ハンドル14が図1に示す初期位置から図1中で時計方向(開方向)に回転操作された際、錠ケース18内でハンドル14と一体的に時計方向に回転する。凹部40bは、カム本体40の外周面40dの上面側となる位置に形成され、ロック機構24側を向いて開口している。ガイド部40cは、湾曲楕円形状の凸部であり、カム本体40の見込み方向両端面にそれぞれ設けられている。各ガイド部40cは、各ハウジング部18aの内面に形成された湾曲楕円形状のガイド穴18fに摺動可能に係合し(図1参照)、カム部材22の回転をガイドする。
【0027】
アーム42a,42bは、カム本体40の外周面40dの上面側となる位置から上方に向かって突出した角柱状部材である。アーム42a,42bは、所定間隔を設けて見込み方向に並んでいる。アーム42a,42b間には、ラッチ部材20の軸部32が挿通している。アーム42a,42bは、シリンダ部18dの外面と頭部30の当接面30aとの間となる位置に配置される(図1参照)。ハンドル14が回転操作されてカム本体40がスプライン孔40aの軸心を中心として回転した際、アーム42a,42bは、スプライン孔40aの軸心を中心として旋回動作する。
【0028】
受け片44は、カム本体40の外周面40dの下面側となる位置から下方に向かって突出した板状部材である。受け片44は、ラッチ28側を向いた一面に戻し部材45が当接している。戻し部材45は、コイルばね45aによって受け片44に当接する方向(図1中で右側)に常時付勢されている。戻し部材45は、ハンドル14を介してカム本体40が開方向に回転すると、スプライン孔40aの軸心を中心に旋回動作する受け片44によって押圧される。その結果、戻し部材45は、コイルばね45aの付勢力に抗して図1中で左側に退動する(図3参照)。図3に示す状態からハンドル14の操作力が開放されると、戻し部材45は、コイルばね45aの付勢力によって図1中で右側に進動し、今度は受け片44を押圧する。その結果、カム本体40は、図3中で反時計方向(閉方向)に回転し、カム部材22及びハンドル14が図1に示す初期位置に戻る。
【0029】
図1に示すように、ロック機構24は、サムターン軸46と、ロック部材48と、リンク部材50とを有する。ロック機構24は、錠ケース18内でカム部材22及びラッチ部材20の上方に配置されている。
【0030】
サムターン軸46は、金属や樹脂で形成され、リンク部材50の一面から突出したボス状の突起であり、中央に長穴46aが形成されている。長穴46aには、例えば戸体12の室内側表面に取り付けられたサムターンつまみ52(図2参照)の回転軸に設けられた平板が嵌合する。これによりサムターン軸46は、サムターンつまみ52の回転操作と連動して回転する。
【0031】
ロック部材48は、金属や樹脂で形成され、略上下方向に延びた平板状部材である。ロック部材48は、ラッチ部材20の溝部38に挿入可能な板厚を有する。ロック部材48は、上端部に板厚方向(見込み方向)に突出した回転軸48aが設けられ、下端部に板厚方向に突出したガイド軸48bが設けられている。回転軸48aは、リンク部材50と回転可能に連結される。ガイド軸48bは、ハウジング部18aの内面で上下方向に延びたガイド穴18gに摺動可能に係合する。ロック部材48の下端面には、下方に向かって突出したストッパ片48cが設けられている。
【0032】
リンク部材50は、金属や樹脂で形成された板状部材である。リンク部材50は、サムターン軸46と一体的に回転する。リンク部材50が回転すると、回転軸48aがサムターン軸46の軸心を中心として旋回動作する。リンク部材50の一面には、第1ピン50aが突設されると共に、第1ピン50aにはねじりコイルばね54の一端が巻き掛けられている。ねじりコイルばね54は、ハウジング部18aの内面から突出した支持柱56に外挿支持され、他端はハウジング部18aの内面から突出した第2ピン58に巻き掛けられている。これによりねじりコイルばね54は、リンク部材50(サムターン軸46)を図1中で反時計方向(解錠方向)に回転させる方向に常時付勢している。つまりロック部材48は、ねじりコイルばね54によってカム部材22から退避する上方へと常時付勢されている。
【0033】
次に、本実施形態に係るラッチ錠装置10の動作を説明する。先ず、図1に示すように、戸体12が枠体36に対して閉じられ、ラッチ28がラッチ凹部36aに係合した状態において、ロック部材48がカム部材22から退避した位置(施錠位置)にある場合、ラッチ錠装置10は解錠状態となっている。
【0034】
この状態から戸体12を開く際は、図1に示す初期位置にあるハンドル14を開方向(図1中で時計方向)に回転操作する。そうすると、カム本体40がハンドル14と一体的に回転し、アーム42a,42bも図1中で時計方向に回動する。このため、図3に示すようにアーム42a、42bが頭部30の当接面30aを図1中で右側に押圧し、コイルばね34の付勢力に抗してラッチ部材20をラッチ没入方向に移動させる。その結果、ラッチ28が錠ケース18内に没入し、ラッチ凹部36aとの係合状態が解除されるため、利用者は戸体12を枠体36から開くことができる。
【0035】
次に、図1に示す状態からラッチ錠装置10を施錠状態とする場合は、サムターンつまみ52を施錠方向に回転させる。そうすると、サムターン軸46が図1中で時計方向に回転し、ねじりコイルばね54の付勢力に抗してリンク部材50がサムターン軸46と一体的に回転する。これにより、ロック部材48が下方(施錠方向)に移動し、ストッパ片48cがカム本体40の凹部40bに当接する(図4及び図6参照)。その結果、カム部材22の開方向への回転が規制され、ラッチ錠装置10が図4に示す施錠状態となる。この状態では、凹部40bとストッパ片48cとの当接により、ハンドル14の開方向への回転操作も規制されるため、ハンドル14を回転操作してラッチ部材20をラッチ没入方向に移動させ、ラッチ28をラッチ凹部36aから退動させることが規制される。
【0036】
以上のように、当該ラッチ錠装置10は、ロック部材48のストッパ片48cが、カム部材22のアーム42a,42bではなく、カム本体40に設けられた凹部40bに当接してカム本体40の回転を規制し、これにより施錠状態となる。このため、例えば図4に示す施錠状態において、ハンドル14が極めて大きな力で開方向に強制的に回転させられた場合であっても、ストッパ片48c又は凹部40bが破損する可能性があるが、アーム42a,42bが破損することはない。従って、このようなハンドル14の強制回転によって凹部40bが破損した場合であっても、その後のハンドル14の開方向への回転操作により、アーム42a,42bを介してラッチ部材20をラッチ没入方向に移動させることができる。その結果、ラッチ28をラッチ凹部36aから退動させることができるため、戸体12の開動作が不能となることがなく、利用者は戸体12を開くことができる。
【0037】
ところで、ハンドル14が極めて大きな力で開方向に強制的に回転させられた場合には、例えば図4に示す位置からさらにカム部材22が回転し、図7(A)に示すようにアーム42a,42bがラッチ部材20の頭部30の当接面30aを乗り越えてしまった脱落状態となる可能性もある(図7(A)参照)。この脱落状態では、カム部材22とラッチ部材20との当接状態が外れてしまっている。しかしながら、当該ラッチ錠装置10は、ラッチ部材20の基端側に溝部38を備え、ラッチ部材20が径方向に拡縮可能な弾性を有している。そこで、図7(A)の脱落状態となった場合には、ハンドル14を開方向とは逆の閉方向に回転操作する。そうすると、図7(B)に示すようにアーム42a,42bが頭部30の外周面を円滑に摺動し(図7(B)参照)、再び図7(C)に示す通常位置に復帰し、同時にラッチ部材20の基端側も弾性復帰して元の外径に戻る。しかもラッチ部材20は、頭部30にテーパ面30cを備えるため、頭部30が完全にアーム42a,42bを乗り越えてしまった場合でも元の状態に容易に復帰可能である。
【0038】
他方、図4に示す施錠状態において、仮にロック機構24が不具合を生じてロック部材48の位置が固定されてしまうと、ストッパ片48cと凹部40bとの当接状態を解除不能となる。そうすると、利用者は戸体12を開くことができなくなる恐れがある。そこで、この施錠状態の固定化を解消するため、当該ラッチ錠装置10は、例えば次の2つの緊急解錠方法によって戸体12を開くことができる。
【0039】
第1の緊急解錠方法は、図4に示す初期位置で固定されたハンドル14を極めて大きな力で開方向に強制的に回転させ、ストッパ片48c又は凹部40bを破損させてその当接状態を解除する方法である。すなわち、当該ラッチ錠装置10は、この動作によって仮にカム部材22の凹部40bが破損したとしても、アーム42a,42bに破損が生じることがない。このため、凹部40bが破損した場合であっても、通常通りにハンドル14を開方向に回転操作することにより、ハンドル14と共にカム本体40を回転させ、アーム42a,42bも回動させることができる。その結果、ラッチ部材20をラッチ没入方向に移動させ、ラッチ28をラッチ凹部36aから退動させることができるため、利用者は戸体12を開くことができる。
【0040】
なお、この場合のラッチ部材20の移動方向には、ロック部材48が配置されている(図8(A)参照)。ところが、当該ラッチ錠装置10は、ラッチ部材20の基端側に溝部38を設けているため、溝部38にロック部材48が進入した状態となり(図8(B)参照)、ラッチ部材20をロック部材48に干渉することなく移動させることができる。
【0041】
第2の緊急解錠方法は、戸体12の見込み面12aと枠体36の見込み面との間の隙間に、例えば定規のような薄板を差し入れ、ラッチ28の摺動面28aを押圧してラッチ28を強制的に錠ケース18内へと没入させる方法である。この際にも、図8(C)に示すように、ラッチ部材20の溝部38にロック部材48が進入した状態となるため、ラッチ部材20をロック部材48に干渉することなく移動させることができ、利用者は戸体12を開くことができる。但し、この第2の緊急解錠方法は、利用者が戸体12が閉じられた状態でラッチ28を押圧する定規等を準備できる必要がある。この点、当該ラッチ錠装置10は、この第2の緊急解錠方法だけでなく、上記した第1の緊急解錠方法も実行できるため、戸体12の開動作の不能状態をより確実に解消することができる。
【0042】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【0043】
上記実施形態では、ロック部材48のストッパ片48cをカム本体40の凹部40bに当接させる構成を例示したが、ロック部材48に凹部を設け、カム本体40にこれに当接する凸部を設けた構成としてもよい。また、図9(A)及び図9(B)に示すように、カム本体40に凹部40bや凸部を設けず、例えば、外周面40dにロック部材48のストッパ片48cが当接可能な切欠状の当接面40eを設けた構成としてもよい。つまり、ロック部材48は、カム本体40の回転を規制可能であれば、その当接構造(係止構造)は凹部40b、凸部、当接面40eを用いた構成のいずれであってもよく、他の構成であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 ラッチ錠装置、12 戸体、14 ハンドル、16 扉装置、18 錠ケース、20 ラッチ部材、22 カム部材、24 ロック機構、28 ラッチ、30 頭部、30a 当接面、30b 基端面、30c テーパ面、32 軸部、38 溝部、40 カム本体、40b 凹部、40d 外周面、40e 当接面、42a,42b アーム、48 ロック部材、48c ストッパ片
図1
図2
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図9