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特許7084203絶縁フィルム用樹脂組成物、絶縁フィルム及び多層プリント配線板
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  • 特許-絶縁フィルム用樹脂組成物、絶縁フィルム及び多層プリント配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】絶縁フィルム用樹脂組成物、絶縁フィルム及び多層プリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20220607BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220607BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20220607BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20220607BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20220607BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220607BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/36
C08K5/1515
C08G59/40
H01B3/40 F
H05K1/03 610L
H05K3/46 T
H05K1/03 610R
H05K3/46 G
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018091977
(22)【出願日】2018-05-11
(65)【公開番号】P2019006980
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2017121164
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 照久
(72)【発明者】
【氏名】馬場 奨
(72)【発明者】
【氏名】林 達史
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-102230(JP,A)
【文献】特開2008-198774(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
H01B 3/16-3/56
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、前記第1のエポキシ化合物の含有量が15重量%以下であり、
絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%中、前記充填材の含有量が50重量%以上である、絶縁フィルム用樹脂組成物(但し、エポキシ基を1個有するエポキシ化合物として、シラン化合物を含む絶縁フィルム用樹脂組成物を除く)
【請求項2】
前記第1のエポキシ化合物又は前記第2のエポキシ化合物の内の少なくとも一方として、多環芳香族骨格を有するエポキシ化合物を含む、請求項1に記載の絶縁フィルム用樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1のエポキシ化合物が、芳香族骨格を有するエポキシ化合物である、請求項1又は2に記載の絶縁フィルム用樹脂組成物。
【請求項4】
前記充填材が、無機充填材である、請求項1~のいずれか1項に記載の絶縁フィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
前記充填材が、シリカである、請求項1~のいずれか1項に記載の絶縁フィルム用樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化剤が、シアネートエステル化合物、フェノール化合物又は活性エステル化合物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の絶縁フィルム用樹脂組成物。
【請求項7】
多層プリント配線板において、絶縁層を形成するために用いられる、請求項1~のいずれか1項に記載の絶縁フィルム用樹脂組成物。
【請求項8】
回路基板と、
前記回路基板の表面上に配置された複数の絶縁層と、
複数の前記絶縁層間に配置された金属層とを備え、
複数の前記絶縁層の内の少なくとも1層が、請求項1~のいずれか1項に記載の絶縁フィルム用樹脂組成物の硬化物である、多層プリント配線板。
【請求項9】
エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材と、熱可塑性樹脂とを含み、
前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、前記第1のエポキシ化合物の含有量が15重量%以下であり、
絶縁フィルム100重量%中、前記充填材の含有量が50重量%以上である、絶縁フィルム(但し、エポキシ基を1個有するエポキシ化合物として、シラン化合物を含む絶縁フィルムを除く)
【請求項10】
前記第1のエポキシ化合物又は前記第2のエポキシ化合物の内の少なくとも一方として、多環芳香族骨格を有するエポキシ化合物を含む、請求項に記載の絶縁フィルム。
【請求項11】
前記第1のエポキシ化合物が、芳香族骨格を有するエポキシ化合物である、請求項9又は10に記載の絶縁フィルム。
【請求項12】
前記充填材が、無機充填材である、請求項11のいずれか1項に記載の絶縁フィルム。
【請求項13】
前記充填材が、シリカである、請求項12のいずれか1項に記載の絶縁フィルム。
【請求項14】
前記硬化剤が、シアネートエステル化合物、フェノール化合物又は活性エステル化合物を含む、請求項13のいずれか1項に記載の絶縁フィルム。
【請求項15】
多層プリント配線板において、絶縁層を形成するために用いられる、請求項14のいずれか1項に記載の絶縁フィルム。
【請求項16】
回路基板と、
前記回路基板の表面上に配置された複数の絶縁層と、
複数の前記絶縁層間に配置された金属層とを備え、
複数の前記絶縁層の内の少なくとも1層が、請求項15のいずれか1項に記載の絶縁フィルムの硬化物である、多層プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含む絶縁フィルム用樹脂組成物に関する。また、本発明は、エポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含む絶縁フィルムに関する。また、本発明は、上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムを用いた多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置、積層板及びプリント配線板等の電子部品を得るために、様々な樹脂組成物が用いられている。例えば、多層プリント配線板では、内部の層間を絶縁するための絶縁層を形成したり、表層部分に位置する絶縁層を形成したりするために、樹脂組成物が用いられている。上記絶縁層の表面には、一般に金属である配線が積層される。また、上記絶縁層を形成するために、上記樹脂組成物がフィルム化された絶縁フィルムが用いられることがある。上記樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、ビルドアップフィルムを含む多層プリント配線板用の絶縁材料等として用いられている。
【0003】
上記樹脂組成物の一例として、下記の特許文献1には、エポキシ化合物と、活性エステル化合物と、充填材とを含む硬化性エポキシ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-143302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多層プリント配線板等に用いられる絶縁フィルムでは、絶縁層の誘電正接を低くすることが要求されている。誘電正接を低くする目的で、無機充填材が、多く配合される場合がある。しかしながら、無機充填材の配合量が多い場合には、絶縁フィルムのハンドリング性が低下し、絶縁フィルムにひびが生じたり、絶縁フィルムが割れたりすることがある。
【0006】
また、従来の絶縁フィルムでは、熱硬化性化合物として、エポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物が用いられている。このようなエポキシ化合物を含む従来の絶縁フィルムを曲げると、ひび又は割れが生じることがある。
【0007】
従来の絶縁フィルムでは、誘電正接を低くし、かつ曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことが困難である。特に、無機充填材の配合量が少ない場合には、曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことができたとしても、無機充填材の配合量が多い場合には、曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことが困難である。
【0008】
本発明の目的は、誘電正接を低くし、かつ絶縁フィルムが曲げられたときのひび又は割れの発生を防ぐことができる絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムを提供することである。また、本発明は、上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムを用いた多層プリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の広い局面によれば、エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含み、前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、前記第1のエポキシ化合物の含有量が33重量%以下であり、絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%中、前記充填材の含有量が50重量%以上である、絶縁フィルム用樹脂組成物が提供される。
【0010】
本発明の広い局面によれば、エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含み、前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、前記第1のエポキシ化合物の含有量が33重量%以下であり、絶縁フィルム100重量%中、前記充填材の含有量が50重量%以上である、絶縁フィルムが提供される。
【0011】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムのある特定の局面では、前記第1のエポキシ化合物と前記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、前記第1のエポキシ化合物の含有量が15重量%以下である。
【0012】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムのある特定の局面では、前記第1のエポキシ化合物又は前記第2のエポキシ化合物の内の少なくとも一方として、多環芳香族骨格を有するエポキシ化合物を含む。
【0013】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムのある特定の局面では、前記第1のエポキシ化合物が、芳香族骨格を有するエポキシ化合物である。
【0014】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムのある特定の局面では、前記充填材が、無機充填材である。
【0015】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムのある特定の局面では、前記充填材が、シリカである。
【0016】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムのある特定の局面では、熱可塑性樹脂を含む。
【0017】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムのある特定の局面では、前記硬化剤が、シアネートエステル化合物、フェノール化合物又は活性エステル化合物を含む。
【0018】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムは、多層プリント配線板において、絶縁層を形成するために好適に用いられる。
【0019】
本発明の広い局面によれば、回路基板と、前記回路基板の表面上に配置された複数の絶縁層と、複数の前記絶縁層間に配置された金属層とを備え、複数の前記絶縁層の内の少なくとも1層が、上述した絶縁フィルム用樹脂組成物の硬化物である、多層プリント配線板が提供される。
【0020】
本発明の広い局面によれば、回路基板と、前記回路基板の表面上に配置された複数の絶縁層と、複数の前記絶縁層間に配置された金属層とを備え、複数の前記絶縁層の内の少なくとも1層が、上述した絶縁フィルムの硬化物である、多層プリント配線板が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物は、エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含む。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物では、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、上記第1のエポキシ化合物の含有量が33重量%以下であり、絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%中、上記充填材の含有量が50重量%以上である。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物では、上記の構成が備えられているので、誘電正接を低くし、かつ絶縁フィルムが曲げられたときのひび又は割れの発生を防ぐことができる。
【0022】
本発明に係る絶縁フィルムは、エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含む。本発明に係る絶縁フィルムでは、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、上記第1のエポキシ化合物の含有量が33重量%以下であり、絶縁フィルム100重量%中、上記充填材の含有量が50重量%以上である。本発明に係る絶縁フィルムでは、上記の構成が備えられているので、誘電正接を低くし、かつ絶縁フィルムが曲げられたときのひび又は割れの発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムを用いた多層プリント配線板を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物は、エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含む。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物では、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、上記第1のエポキシ化合物の含有量が33重量%以下である。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物では、絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%中、上記充填材の含有量が50重量%以上である。
【0026】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物をフィルム状に成形して、絶縁フィルムを得ることができる。上記絶縁フィルムは、上記絶縁フィルム用樹脂組成物がフィルム化された絶縁フィルムである。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物は、絶縁フィルムとして用いられる。また、本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物を硬化させて、絶縁層を形成することができる。上記絶縁フィルムを硬化させて、絶縁層を形成することができる。
【0027】
本発明に係る絶縁フィルムは、エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物と、硬化剤と、充填材とを含む。本発明に係る絶縁フィルムでは、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、上記第1のエポキシ化合物の含有量が33重量%以下である。本発明に係る絶縁フィルムでは、絶縁フィルム100重量%中、上記充填材の含有量が50重量%以上である。
【0028】
本発明では、上記の構成が備えられているので、誘電正接を低くし、かつ絶縁フィルムが曲げられたときのひび又は割れの発生を防ぐことができる。
【0029】
従来の絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムでは、誘電正接を低くし、かつ曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことが困難である。特に、無機充填材の配合量が少ない場合には、曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことができたとしても、無機充填材の配合量が多い場合には、曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことが困難である。これに対して、本発明では、無機充填材の配合量が多くても、誘電正接を低くし、かつ曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことができる。
【0030】
さらに、本発明では、上記の構成が備えられているので、上記絶縁フィルム用樹脂組成物の硬化物又は絶縁フィルムの硬化物により形成された絶縁層の表面上に金属層を配置した際に、絶縁層(絶縁フィルム用樹脂組成物の硬化物又は絶縁フィルムの硬化物)と金属層との接着強度を高めることができる。
【0031】
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物は、フィルム状であってもよい。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物は、流動性を有していてもよい。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物は、ペースト状であってもよい。上記ペースト状には液状が含まれる。
【0032】
以下、本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムに用いられる各成分の詳細、並びに本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムの用途などを説明する。
【0033】
[エポキシ化合物]
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、エポキシ基を1個有する第1のエポキシ化合物と、エポキシ基を2個以上有する第2のエポキシ化合物を含む。第1のエポキシ化合物及び第2のエポキシ化合物は、上記の個数のエポキシ基を有していれば、特に限定されない。第1のエポキシ化合物及び第2のエポキシ化合物として、従来公知のエポキシ化合物を使用可能である。第1のエポキシ化合物及び第2のエポキシ化合物はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記第1のエポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル及びナフタレングリシジルエーテル等の芳香族骨格を有するエポキシ化合物、並びにアリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル及びブチルグリシジルエーテル等のアルキル鎖を有するエポキシ化合物等が挙げられる。
【0035】
上記第2のエポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物、ビフェノール型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、フルオレン型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、アントラセン型エポキシ化合物、アダマンタン骨格を有するエポキシ化合物、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ化合物、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ化合物等が挙げられる。
【0036】
誘電正接をより一層低くし、耐熱性をより一層高める観点からは、上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、上記第1のエポキシ化合物又は上記第2のエポキシ化合物の内の少なくとも一方として、芳香族骨格を有するエポキシ化合物を含むことが好ましく、芳香族骨格を複数有するエポキシ化合物を含むことがより好ましい。誘電正接をより一層低くし、耐熱性をより一層高める観点からは、上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、上記第1のエポキシ化合物として、芳香族骨格を有するエポキシ化合物を含むことが好ましく、芳香族骨格を複数有するエポキシ化合物を含むことがより好ましい。誘電正接をより一層低くし、耐熱性をより一層高める観点からは、上記芳香族骨格を複数有するエポキシ化合物は、多環芳香族骨格を有するエポキシ化合物であることが好ましく、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物であることがより好ましい。なお、本明細書において、多環芳香族骨格には、芳香環が縮合していない骨格は含まれない。
【0037】
誘電正接をより一層低くする観点からは、上記第1のエポキシ化合物は、芳香族骨格を有するエポキシ化合物であることが好ましく、ナフタレン骨格又はフェニル骨格を有するエポキシ化合物であることが好ましい。
【0038】
上記第1のエポキシ化合物と、上記第2のエポキシ化合物の分子量は1000以下であることがより好ましい。この場合には、絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%中の充填材の含有量が50重量%以上であっても、凹凸表面に対する埋め込み性に優れた絶縁フィルム用樹脂組成物が得られる。また、この場合には、絶縁フィルム100重量%中の充填材の含有量が50重量%以上であっても、凹凸表面に対する埋め込み性に優れた絶縁フィルムが得られる。このため、上記絶縁フィルム用樹脂組成物により形成された絶縁フィルム又は上記絶縁フィルムを基板上にラミネートした場合に、充填材を均一に存在させることができる。
【0039】
上記第1のエポキシ化合物と、上記第2のエポキシ化合物の分子量及び後述する硬化剤の分子量は、上記エポキシ化合物又は硬化剤が重合体ではない場合、及び上記エポキシ化合物又は硬化剤の構造式が特定できる場合は、当該構造式から算出できる分子量を意味する。また、上記エポキシ化合物又は硬化剤が重合体である場合は、重量平均分子量を意味する。
【0040】
誘電正接を低くし、かつ曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐ観点から、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、上記第1のエポキシ化合物の含有量は33重量%以下である。誘電正接を効果的に低くし、かつ曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生をより一層防ぐ観点からは、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、上記第1のエポキシ化合物の含有量は、好ましくは15重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。
【0041】
上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物との合計100重量%中、上記第1のエポキシ化合物の含有量は、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.05重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上、最も好ましくは1重量%以上である。この場合には、曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生をより一層防ぐことができる。
【0042】
[硬化剤]
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムに含まれている硬化剤は特に限定されない。該硬化剤として、従来公知の硬化剤を使用可能である。上記硬化剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記硬化剤としては、シアネートエステル化合物(シアネートエステル硬化剤)、フェノール化合物(フェノール硬化剤)、アミン化合物(アミン硬化剤)、チオール化合物(チオール硬化剤)、イミダゾール化合物、ホスフィン化合物、酸無水物、活性エステル化合物及びジシアンジアミド等が挙げられる。上記硬化剤は、上記第1のエポキシ化合物のエポキシ基と反応可能な官能基を有することが好ましく、上記第2のエポキシ化合物のエポキシ基と反応可能な官能基を有することが好ましい。
【0044】
上記シアネートエステル化合物としては、ノボラック型シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂、並びにこれらが一部三量化されたプレポリマー等が挙げられる。上記ノボラック型シアネートエステル樹脂としては、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂及びアルキルフェノール型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。上記ビスフェノール型シアネートエステル樹脂としては、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂及びテトラメチルビスフェノールF型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0045】
上記シアネートエステル化合物の市販品としては、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製「PT-30」及び「PT-60」)、及びビスフェノール型シアネートエステル樹脂が三量化されたプレポリマー(ロンザジャパン社製「BA-230S」、「BA-3000S」、「BTP-1000S」及び「BTP-6020S」)等が挙げられる。
【0046】
上記フェノール化合物としては、ノボラック型フェノール、ビフェノール型フェノール、ナフタレン型フェノール、ジシクロペンタジエン型フェノール、アラルキル型フェノール及びジシクロペンタジエン型フェノール等が挙げられる。
【0047】
上記フェノール化合物の市販品としては、ノボラック型フェノール(DIC社製「TD-2091」)、ビフェニルノボラック型フェノール(明和化成社製「MEH-7851」)、アラルキル型フェノール化合物(明和化成社製「MEH-7800」)、並びにアミノトリアジン骨格を有するフェノール(DIC社製「LA1356」及び「LA3018-50P」)等が挙げられる。
【0048】
誘電正接をより一層低くする観点から、上記硬化剤は、シアネートエステル化合物、フェノール化合物又は活性エステル化合物を含むことが好ましく、活性エステル化合物を含むことがより好ましい。上記活性エステル化合物とは、構造体中にエステル結合を少なくとも1つ含み、かつ、エステル結合の両側に芳香族環が結合している化合物をいう。活性エステル化合物の好ましい例としては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【化1】
【0050】
上記式(1)中、X1及びX2はそれぞれ、芳香族環を含む基を表す。上記芳香族環を含む基の好ましい例としては、置換基を有していてもよいベンゼン環、及び置換基を有していてもよいナフタレン環等が挙げられる。上記置換基としては、炭化水素基が挙げられる。該炭化水素基の炭素数は、好ましくは12以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。
【0051】
X1及びX2の組み合わせとしては、置換基を有していてもよいベンゼン環と、置換基を有していてもよいベンゼン環との組み合わせ、置換基を有していてもよいベンゼン環と、置換基を有していてもよいナフタレン環との組み合わせが挙げられる。さらに、X1及びX2の組み合わせとしては、置換基を有していてもよいナフタレン環と、置換基を有していてもよいナフタレン環との組み合わせが挙げられる。
【0052】
上記活性エステル化合物は特に限定されない。上記活性エステル化合物の市販品としては、DIC社製「HPC-8000-65T」、「EXB9416-70BK」及び「EXB8100-65T」等が挙げられる。
【0053】
上記硬化剤の分子量は1000以下であることが好ましい。この場合には、絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%中の充填材の含有量が50重量%以上であっても、凹凸表面に対する埋め込み性に優れた絶縁フィルム用樹脂組成物が得られる。また、この場合には、絶縁フィルム100重量%中の充填材の含有量が50重量%以上であっても、凹凸表面に対する埋め込み性に優れた絶縁フィルムが得られる。このため、絶縁フィルム用樹脂組成物により形成された絶縁フィルム又は絶縁フィルムを基板上にラミネートした場合に、充填材を均一に存在させることができる。
【0054】
絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材及び溶剤を除く成分100重量%中、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物と上記硬化剤との合計の含有量は、好ましくは75重量%以上、より好ましくは80重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下である。絶縁フィルム中の上記充填材を除く成分100重量%中、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物と上記硬化剤との合計の含有量は、好ましくは75重量%以上、より好ましくは80重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下である。上記エポキシ化合物と上記硬化剤との合計の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、より一層良好な硬化物が得られ、溶融粘度を調整することができるために充填材の分散性が良好になる。さらに、硬化過程で、意図しない領域に絶縁フィルムが濡れ拡がることを防止できる。さらに、硬化物の熱による寸法変化をより一層抑制できる。また、上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物と上記硬化剤との合計の含有量が上記下限以上であると、溶融粘度が低くなりすぎず、硬化過程で、意図しない領域に絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムが過度に濡れ拡がりにくくなる傾向がある。また、上記第1のエポキシ化合物と、上記第2のエポキシ化合物と上記硬化剤との合計の含有量が上記上限以下であると、回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込みが容易になり、さらに充填材が不均一に存在しにくくなる傾向がある。
【0055】
上記第1のエポキシ化合物と上記第2のエポキシ化合物が良好に硬化するように、上記硬化剤の含有量は適宜選択される。上記絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材及び溶剤を除く成分100重量%中、又は、絶縁フィルム中の上記充填材を除く成分100重量%中、上記硬化剤の含有量は、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。上記硬化剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、より一層良好な硬化物が得られ、誘電正接が効果的に低くなる。
【0056】
絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材及び溶剤を除く成分100重量%とは、絶縁フィルム用樹脂組成物が溶剤を含む場合には、絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材及び溶剤を除く成分100重量%を意味する。絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材及び溶剤を除く成分100重量%とは、絶縁フィルム用樹脂組成物が溶剤を含まない場合には、絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材を除く成分100重量%を意味する。
【0057】
[充填材]
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、充填材を含む。充填材の使用により、硬化物の熱による寸法変化がより一層小さくなる。さらに、硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
【0058】
上記充填材としては、無機充填材及び有機充填材等が挙げられる。硬化物の熱による寸法変化をより一層小さくする観点から、上記充填材は、無機充填材であることが好ましい。
【0059】
上記無機充填材としては、例えばシリカ、タルク、クレイ、マイカ、ハイドロタルサイト、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素等が挙げられる。
【0060】
硬化物の表面の表面粗さを小さくし、硬化物と金属層との接着強度をより一層高くし、かつ硬化物の表面により一層微細な配線を形成し、かつ硬化物により良好な絶縁信頼性を付与する観点からは、上記無機充填材は、シリカ又はアルミナであることが好ましく、シリカであることがより好ましく、溶融シリカであることが更に好ましい。シリカの使用により、硬化物の熱膨張率がより一層低くなり、かつ硬化物の表面の表面粗さが効果的に小さくなり、硬化物と金属層との接着強度が効果的に高くなる。シリカの形状は球状であることが好ましい。
【0061】
硬化環境によらず、樹脂の硬化を進め、硬化物のガラス転移温度を効果的に高くし、硬化物の熱線膨張係数を効果的に小さくする観点からは、上記無機充填材は球状シリカであることが好ましい。
【0062】
上記充填材の平均粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは150nm以上、特に好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは0.6μm以上、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。上記充填材の平均粒径が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
【0063】
上記充填材の平均粒径として、50%となるメディアン径(d50)の値が採用される。上記平均粒径は、レーザー回折散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定可能である。
【0064】
上記充填材はそれぞれ、球状であることが好ましく、球状シリカであることがより好ましい。この場合には、硬化物の表面の表面粗さが効果的に小さくなり、更に硬化物と金属層との接着強度が効果的に高くなる。上記充填材がそれぞれ球状である場合には、上記充填材それぞれのアスペクト比は好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下である。
【0065】
上記充填材は、表面処理されていることが好ましく、カップリング剤による表面処理物であることがより好ましく、シランカップリング剤による表面処理物であることが更に好ましい。これにより、粗化硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなり、かつ硬化物の表面により一層微細な配線が形成され、かつより一層良好な配線間絶縁信頼性及び層間絶縁信頼性を硬化物に付与することができる。
【0066】
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、メタクリルシラン、アクリルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン、ビニルシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。
【0067】
絶縁フィルム用樹脂組成物の溶剤を除く成分100重量%中、又は、絶縁フィルム100重量%中、上記充填材の含有量(上記充填材が無機充填材である場合には無機充填材の含有量)は50重量%以上である。絶縁フィルム用樹脂組成物の溶剤を除く成分100重量%中、又は、絶縁フィルム100重量%中、上記充填材の含有量(上記充填材が無機充填材である場合には無機充填材の含有量)は好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。絶縁フィルム用樹脂組成物の溶剤を除く成分100重量%中、又は、絶縁フィルム100重量%中、上記充填材の含有量(上記充填材が無機充填材である場合には無機充填材の含有量)は好ましくは99重量%以下、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは80重量%以下、特に好ましくは75重量%以下である。上記充填材の合計の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなり、かつ硬化物の表面により一層微細な配線が形成される。さらに、この充填材量であれば、硬化物の熱膨張率を低くすることと同時に、スミア除去性を良好にすることも可能である。上記充填材の含有量が上記下限以上であると、誘電正接が効果的に低くなる。
【0068】
絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%とは、絶縁フィルム用樹脂組成物が溶剤を含む場合には、絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%を意味する。絶縁フィルム用樹脂組成物中の溶剤を除く成分100重量%とは、絶縁フィルム用樹脂組成物が溶剤を含まない場合には、絶縁フィルム用樹脂組成物100重量%を意味する。
【0069】
[熱可塑性樹脂]
絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムの取扱性を効果的に高める観点からは、上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂及びフェノキシ樹脂等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
硬化環境によらず、誘電正接を効果的に低くし、かつ、金属配線の密着性を効果的に高める観点からは、上記熱可塑性樹脂は、フェノキシ樹脂であることが好ましい。フェノキシ樹脂の使用により、絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムの回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込み性の悪化及び充填材の不均一化が抑えられる。また、フェノキシ樹脂の使用により、溶融粘度を調整可能であるために充填材の分散性が良好になり、かつ硬化過程で、意図しない領域に絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムが濡れ拡がり難くなる。上記フェノキシ樹脂は特に限定されない。上記フェノキシ樹脂として、従来公知のフェノキシ樹脂を使用可能である。上記フェノキシ樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0071】
上記フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型の骨格、ビスフェノールF型の骨格、ビスフェノールS型の骨格、ビフェニル骨格、ノボラック骨格、ナフタレン骨格及びイミド骨格などの骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0072】
上記フェノキシ樹脂の市販品としては、例えば、新日鐵住金化学社製の「YP50」、「YP55」及び「YP70」、並びに三菱化学社製の「1256B40」、「4250」、「4256H40」、「4275」、「YX6954BH30」及び「YX8100BH30」等が挙げられる。
【0073】
保存安定性により一層優れた絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムを得る観点からは、上記熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上、好ましくは100000以下、より好ましくは50000以下である。
【0074】
上記熱可塑性樹脂の上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算での重量平均分子量を示す。
【0075】
上記熱可塑性樹脂及び上記フェノキシ樹脂の含有量は特に限定されない。絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材及び溶剤を除く成分100重量%中、上記熱可塑性樹脂の含有量(上記熱可塑性樹脂がフェノキシ樹脂である場合にはフェノキシ樹脂の含有量)は好ましくは2重量%以上、より好ましくは4重量%以上、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。絶縁フィルム中の上記充填材を除く成分100重量%中、上記熱可塑性樹脂の含有量(上記熱可塑性樹脂がフェノキシ樹脂である場合にはフェノキシ樹脂の含有量)は好ましくは2重量%以上、より好ましくは4重量%以上、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。上記熱可塑性樹脂の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムの回路基板の穴又は凹凸に対する埋め込み性が良好になる。上記熱可塑性樹脂の含有量が上記下限以上であると、絶縁フィルムの形成がより一層容易になり、より一層良好な絶縁層が得られる。上記熱可塑性樹脂の含有量が上記上限以下であると、硬化物の熱膨張率がより一層低くなる。硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
【0076】
[硬化促進剤]
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、硬化促進剤を含むことが好ましい。上記硬化促進剤の使用により、硬化速度がより一層速くなる。絶縁フィルム用樹脂組成物又は上記絶縁フィルムを速やかに硬化させることで、硬化物における架橋構造が均一になると共に、未反応の官能基数が減り、結果的に架橋密度が高くなる。上記硬化促進剤は特に限定されず、従来公知の硬化促進剤を使用可能である。上記硬化促進剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0077】
上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物、リン化合物、アミン化合物及び有機金属化合物等が挙げられる。
【0078】
上記イミダゾール化合物としては、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール及び2-フェニル-4-メチル-5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0079】
上記リン化合物としては、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0080】
上記アミン化合物としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエチレンテトラミン、トリエチレンテトラミン及び4,4-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0081】
上記有機金属化合物としては、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)及びトリスアセチルアセトナートコバルト(III)等が挙げられる。
【0082】
上記硬化促進剤の含有量は特に限定されない。絶縁フィルム用樹脂組成物中の上記充填材及び溶剤を除く成分100重量%中、上記硬化促進剤の含有量は好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.9重量%以上、好ましくは3.0重量%以下、より好ましくは1.8重量%以下である。絶縁フィルム中の上記充填材を除く成分100重量%中、上記硬化促進剤の含有量は好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.9重量%以上、好ましくは3.0重量%以下、より好ましくは1.8重量%以下である。上記硬化促進剤の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムが効率的に硬化する。上記硬化促進剤の含有量がより好ましい範囲であれば、絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムの保存安定性がより一層高くなり、かつより一層良好な硬化物が得られる。
【0083】
[溶剤]
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、溶剤を含まないか又は含む。上記溶剤の使用により、絶縁フィルム用樹脂組成物の粘度を好適な範囲に制御でき、絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムの塗工性を高めることができる。また、上記溶剤は、上記充填材を含むスラリーを得るために用いられてもよい。上記溶剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0084】
上記溶剤としては、アセトン、メタノール、エタノール、ブタノール、2-プロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-アセトキシ-1-メトキシプロパン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、N-メチル-ピロリドン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン及び混合物であるナフサ等が挙げられる。
【0085】
上記溶剤の多くは、上記絶縁フィルム用樹脂組成物をフィルム状に成形するときに、除去されることが好ましい。従って、上記溶剤の沸点は好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。上記絶縁フィルム用樹脂組成物における上記溶剤の含有量は特に限定されない。上記絶縁フィルム用樹脂組成物の塗工性などを考慮して、上記溶剤の含有量は適宜変更可能である。
【0086】
[他の成分]
耐衝撃性、耐熱性、樹脂の相溶性及び作業性等の改善を目的として、上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムには、レベリング剤、難燃剤、カップリング剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、消泡剤、増粘剤、揺変性付与剤及びエポキシ化合物以外の他の熱硬化性樹脂等を添加してもよい。
【0087】
上記カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤及びアルミニウムカップリング剤等が挙げられる。上記シランカップリング剤としては、ビニルシラン、アミノシラン、イミダゾールシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。
【0088】
上記他の熱硬化性樹脂としては、ポリフェニレンエーテル樹脂、ジビニルベンジルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾオキサゾール樹脂、ビスマレイミド樹脂及びアクリレート樹脂等が挙げられる。
【0089】
(絶縁フィルム及び積層フィルム)
本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物をフィルム状に成形して、絶縁フィルムを得ることができる。上記絶縁フィルムは、Bステージフィルムであることが好ましい。
【0090】
絶縁フィルムの硬化度をより一層均一に制御する観点からは、上記絶縁フィルムの厚みは好ましくは5μm以上であり、好ましくは200μm以下である。
【0091】
絶縁フィルム用樹脂組成物をフィルム状に成形して、絶縁フィルムを得る方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。(1)押出機を用いて、絶縁フィルム用樹脂組成物を溶融混練し、押出した後、Tダイ又はサーキュラーダイ等により、フィルム状に成形する押出成形法。(2)溶剤を含む絶縁フィルム用樹脂組成物をキャスティングしてフィルム状に成形するキャスティング成形法。(3)従来公知のその他のフィルム成形法。薄型化に対応可能であることから、押出成形法又はキャスティング成形法が好ましい。フィルムにはシートが含まれる。
【0092】
絶縁フィルム用樹脂組成物をフィルム状に成形し、熱による硬化が進行し過ぎない程度に、例えば50~150℃で1~10分間加熱乾燥させることにより、Bステージフィルムである絶縁フィルムを得ることができる。
【0093】
上述のような乾燥工程により得ることができるフィルム状の絶縁フィルム用樹脂組成物をBステージフィルムと称する。上記Bステージフィルムは、半硬化状態にある。半硬化物は、完全に硬化しておらず、硬化がさらに進行され得る。
【0094】
上記絶縁フィルムは、プリプレグでなくてもよい。上記絶縁フィルムがプリプレグではない場合には、ガラスクロス等に沿ってマイグレーションが生じなくなる。また、絶縁フィルムをラミネート又はプレキュアする際に、表面にガラスクロスに起因する凹凸が生じなくなる。上記絶縁フィルムは、金属箔又は基材と、該金属箔又は基材の表面に積層された絶縁フィルムとを備える積層フィルムの形態で用いることができる。上記金属箔は銅箔であることが好ましい。
【0095】
上記積層フィルムの上記基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル樹脂フィルム、ポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルム等のオレフィン樹脂フィルム、及びポリイミド樹脂フィルム等が挙げられる。上記基材の表面は、必要に応じて、離型処理されていてもよい。
【0096】
上記絶縁フィルムの厚さは、好ましくは5μm以上であり、好ましくは200μm以下である。上記絶縁フィルムを回路の絶縁層として用いる場合、上記絶縁フィルムにより形成された絶縁層の厚さは、回路を形成する導体層(金属層)の厚さ以上であることが好ましい。上記絶縁層の厚さは、好ましくは5μm以上であり、好ましくは200μm以下である。
【0097】
(半導体装置、プリント配線板、銅張り積層板及び多層プリント配線板)
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、半導体装置において半導体チップを埋め込むモールド樹脂を形成するために好適に用いられる。
【0098】
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、多層プリント配線板において絶縁層を形成するために好適に用いられる。
【0099】
上記プリント配線板は、例えば、上記絶縁フィルム用樹脂組成物又は上記絶縁フィルムを加熱加圧成形することにより得られる。
【0100】
上記絶縁フィルムに対して、片面又は両面に金属箔を積層できる。上記絶縁フィルムと金属箔とを積層する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、平行平板プレス機又はロールラミネーター等の装置を用いて、加熱しながら又は加熱せずに加圧しながら、上記絶縁フィルムを金属箔に積層可能である。
【0101】
上記絶縁フィルムは、銅張り積層板を得るために好適に用いられる。上記銅張り積層板の一例として、銅箔と、該銅箔の一方の表面に積層された絶縁フィルムとを備える銅張り積層板が挙げられる。
【0102】
上記銅張り積層板の上記銅箔の厚さは特に限定されない。上記銅箔の厚さは、1~50μmの範囲内であることが好ましい。また、上記絶縁フィルムの硬化物と銅箔との接着強度を高めるために、上記銅箔は微細な凹凸を表面に有することが好ましい。凹凸の形成方法は特に限定されない。上記凹凸の形成方法としては、公知の薬液を用いた処理による形成方法等が挙げられる。
【0103】
上記絶縁フィルム用樹脂組成物及び上記絶縁フィルムは、多層基板を得るために好適に用いられる。
【0104】
上記多層基板の一例として、回路基板と、該回路基板上に積層された絶縁層とを備える多層基板が挙げられる。この多層基板の絶縁層が、上記絶縁フィルム用樹脂組成物又は上記絶縁フィルムにより形成されている。また、多層基板の絶縁層が、積層フィルムを用いて、上記積層フィルムの上記絶縁フィルムにより形成されていてもよい。上記絶縁層は、回路基板の回路が設けられた表面上に積層されていることが好ましい。上記絶縁層の一部は、上記回路間に埋め込まれていることが好ましい。
【0105】
上記多層基板では、上記絶縁層の上記回路基板が積層された表面とは反対側の表面が粗化処理されていることが好ましい。
【0106】
粗化処理方法は、従来公知の粗化処理方法を用いることができ、特に限定されない。上記絶縁層の表面は、粗化処理の前に膨潤処理されていてもよい。
【0107】
また、上記多層基板は、上記絶縁層の粗化処理された表面に積層された銅めっき層をさらに備えることが好ましい。
【0108】
また、上記多層基板の他の例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された絶縁層と、該絶縁層の上記回路基板が積層された表面とは反対側の表面に積層された銅箔とを備える多層基板が挙げられる。上記絶縁層及び上記銅箔が、銅箔と該銅箔の一方の表面に積層された樹脂フィルムとを備える銅張り積層板を用いて、上記絶縁フィルム用樹脂組成物又は上記絶縁フィルムを硬化させることにより形成されていることが好ましい。さらに、上記銅箔はエッチング処理されており、銅回路であることが好ましい。
【0109】
上記多層基板の他の例として、回路基板と、該回路基板の表面上に積層された複数の絶縁層とを備える多層基板が挙げられる。上記回路基板上に配置された上記複数層の絶縁層の内の少なくとも1層が、上記絶縁フィルム用樹脂組成物又は上記絶縁フィルムを用いて形成される。上記多層基板は、上記樹脂フィルムを用いて形成されている上記絶縁層の少なくとも一方の表面に積層されている回路をさらに備えることが好ましい。
【0110】
多層基板のうち多層プリント配線板においては、低い誘電正接が求められ、絶縁層による高い絶縁信頼性が求められる。本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムでは、誘電正接を低くし、かつ曲げられた絶縁フィルムのひび又は割れの発生を防ぐことによって絶縁信頼性を効果的に高めることができる。従って、本発明に係る絶縁フィルム用樹脂組成物及び絶縁フィルムは、多層プリント配線板において、絶縁層を形成するために好適に用いられる。
【0111】
上記多層プリント配線板は、例えば、回路基板と、上記回路基板の表面上に配置された複数の絶縁層と、複数の上記絶縁層間に配置された金属層とを備える。上記絶縁層の内の少なくとも1層が、上記絶縁フィルム用樹脂組成物の硬化物又は上記絶縁フィルムの硬化物である。
【0112】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁フィルム用樹脂組成物又は絶縁フィルムを用いた多層プリント配線板を模式的に示す断面図である。
【0113】
図1に示す多層プリント配線板11では、回路基板12の上面12aに、複数層の絶縁層13~16が積層されている。絶縁層13~16は、硬化物層である。回路基板12の上面12aの一部の領域には、金属層17が形成されている。複数層の絶縁層13~16のうち、回路基板12側とは反対の外側の表面に位置する絶縁層16以外の絶縁層13~15には、上面の一部の領域に金属層17が形成されている。金属層17は回路である。回路基板12と絶縁層13の間、及び積層された絶縁層13~16の各層間に、金属層17がそれぞれ配置されている。下方の金属層17と上方の金属層17とは、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続の内の少なくとも一方により互いに接続されている。
【0114】
多層プリント配線板11では、絶縁層13~16が、上記絶縁フィルム用樹脂組成物又は上記絶縁フィルムにより形成されている。本実施形態では、絶縁層13~16の表面が粗化処理されているので、絶縁層13~16の表面に図示しない微細な孔が形成されている。また、微細な孔の内部に金属層17が至っている。また、多層プリント配線板11では、金属層17の幅方向寸法(L)と、金属層17が形成されていない部分の幅方向寸法(S)とを小さくすることができる。また、多層プリント配線板11では、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続で接続されていない上方の金属層と下方の金属層との間に、良好な絶縁信頼性が付与されている。
【0115】
(粗化処理及び膨潤処理)
上記絶縁フィルムは、粗化処理又はデスミア処理される硬化物を得るために用いられることが好ましい。上記硬化物には、更に硬化が可能な予備硬化物も含まれる。
【0116】
上記絶縁フィルムを予備硬化させることにより得られた硬化物の表面に微細な凹凸を形成するために、硬化物は粗化処理されることが好ましい。粗化処理の前に、硬化物は膨潤処理されることが好ましい。硬化物は、予備硬化の後、かつ粗化処理される前に、膨潤処理されており、さらに粗化処理の後に硬化されていることが好ましい。ただし、硬化物は、必ずしも膨潤処理されなくてもよい。
【0117】
上記膨潤処理の方法としては、例えば、エチレングリコール等を主成分とする化合物の水溶液又は有機溶媒分散溶液等により、硬化物を処理する方法が用いられる。膨潤処理に用いる膨潤液は、一般にpH調整剤等として、アルカリを含む。膨潤液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。具体的には、例えば、上記膨潤処理は、40重量%エチレングリコール水溶液等を用いて、処理温度30~85℃で1~30分間、硬化物を処理することにより行なわれる。上記膨潤処理の温度は50~85℃の範囲内であることが好ましい。上記膨潤処理の温度が低すぎると、膨潤処理に長時間を要し、更に硬化物と金属層との接着強度が低くなる傾向がある。
【0118】
上記粗化処理には、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物等の化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。粗化処理に用いられる粗化液は、一般にpH調整剤等としてアルカリを含む。粗化液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0119】
上記マンガン化合物としては、過マンガン酸カリウム及び過マンガン酸ナトリウム等が挙げられる。上記クロム化合物としては、重クロム酸カリウム及び無水クロム酸カリウム等が挙げられる。上記過硫酸化合物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0120】
硬化物の表面の算術平均粗さRaは好ましくは10nm以上であり、好ましくは300nm未満、より好ましくは200nm未満、更に好ましくは100nm未満である。この場合には、硬化物と金属層との接着強度が高くなり、更に絶縁層の表面により一層微細な配線が形成される。さらに、導体損失を抑えることができ、信号損失を低く抑えることができる。
【0121】
(デスミア処理)
上記絶縁フィルムを予備硬化させることにより得られた硬化物に、貫通孔が形成されることがある。上記多層基板等では、貫通孔として、ビア又はスルーホール等が形成される。例えば、ビアは、COレーザー等のレーザーの照射により形成できる。ビアの直径は特に限定されないが、60~80μm程度である。上記貫通孔の形成により、ビア内の底部には、硬化物に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアが形成されることが多い。
【0122】
上記スミアを除去するために、硬化物の表面は、デスミア処理されることが好ましい。デスミア処理が粗化処理を兼ねることもある。
【0123】
上記デスミア処理には、上記粗化処理と同様に、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物等の化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。デスミア処理に用いられるデスミア処理液は、一般にアルカリを含む。デスミア処理液は、水酸化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0124】
上記絶縁フィルムの使用により、デスミア処理された硬化物の表面の表面粗さが十分に小さくなる。
【0125】
以下、実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0126】
(第1のエポキシ化合物)
ナフタレン型エポキシ化合物1(J&K SCIENTIFIC社製「1-(グリシジルオキシ)ナフタレン」、エポキシ当量210)
フェニル型エポキシ化合物(ADEKA社製「ED-529」、エポキシ当量180)
アルキル鎖型エポキシ化合物(ADEKA社製「ED-502」、エポキシ当量320)
【0127】
(第2のエポキシ化合物)
ビフェニル型エポキシ化合物(日本化薬社製「NC3000」、エポキシ当量271)
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物(日本化薬社製「XD1000」、エポキシ当量254)
ナフタレン型エポキシ化合物2(DIC社製「HP-6000」、エポキシ当量250)
【0128】
(硬化剤)
活性エステル硬化剤含有液(DIC社製「EXB9416-70BK」、当量330、固形分の含有量70重量%、メチルイソブチルケトンの含有量30重量%)
アミノトリアジン骨格フェノールノボラック硬化剤含有液(DIC社製「LA1356」、当量151、固形分の含有量60重量%、メチルエチルケトンの含有量40重量%)
シアネートエステル型硬化剤含有液(ロンザジャパン社製「BA-3000S」、当量234、固形分の含有量75重量%、トルエンの含有量25重量%)
【0129】
(充填材)
シリカ含有スラリー(アドマテックス社製「C4 シリカ」、シリカの平均粒径1.0μmシリカの含有量75重量%、シクロヘキサノンの含有量25重量%)
【0130】
(硬化促進剤)
イミダゾール化合物(四国化成工業社製「2P4MZ」)
【0131】
(熱可塑性樹脂)
フェノキシ樹脂含有液(三菱化学社製「YX6954BH30」、ビフェニル骨格含有、固形分の含有量30重量%、シクロヘキサノンの含有量35重量%、メチルエチルケトンの含有量35重量%)
【0132】
(実施例1~4、参考例5、実施例6,7及び比較例1~4)
下記の表1に示す成分を下記の表1に示す配合量(単位は固形分重量部)で配合し、均一な溶液となるまで常温で攪拌し、絶縁フィルム用樹脂組成物(樹脂組成物ワニス)を得た。
【0133】
アプリケーターを用いて、離型処理されたPETフィルム(東レ社製「XG284」、厚み25μm)の離型処理面上に得られた絶縁フィルム用樹脂組成物(樹脂組成物ワニス)を塗工した後、100℃のギアオーブン内で3分間乾燥し、溶剤を揮発させた。このようにして、PETフィルム上に、厚さが40μmである絶縁フィルム(PETフィルムと絶縁フィルムとの積層フィルム)を得た。
【0134】
(評価)
(1)誘電正接
得られた絶縁フィルムをPETフィルム上で、180℃で30分間硬化させ、更に190℃で120分硬化させ、硬化体を得た。得られた上記硬化体を幅2mm、長さ80mmの大きさに裁断して10枚を重ね合わせて、厚み400μmの積層体とした。得られた積層体について、関東電子応用開発社製「空洞共振摂動法誘電率測定装置CP521」及びアジレントテクノロジー社製「ネットワークアナライザーE8362B」を用いて、空洞共振法で常温(23℃)で測定周波数5.8GHzにて誘電正接を測定した。
【0135】
[誘電正接の判定基準]
○○:誘電正接が0.0045以下
○:誘電正接が0.0045を超え、0.005以下
×:誘電正接が0.005を超える
【0136】
(2)折り曲げ試験
得られた積層フィルムを縦10cm×横5cmの長方形に切り抜いた。積層フィルムの長さ方向の中央を絶縁フィルム側が内側になるように90度折り曲げた後に平面状に戻した。その後、絶縁フィルムのひび及び割れの有無を確認した。
【0137】
[折り曲げ試験の判定基準]
○○:割れ及びひびなし
○:わずかにひびあり
×:割れあり又は大きなひびあり
【0138】
(3)カッター試験
得られた積層フィルムを縦10cm×横5cmの長方形に切り抜いた。絶縁フィルムに、カッターで縦方向に8cmの切り込みを4本入れた。切り込み部分を目視で観察し、チッピングの有無を確認した。
【0139】
[カッター試験の判定基準]
○○:チッピングなし
○:ごくわずかにチッピングあり
×:かなりチッピングあり
【0140】
(4)ガラス転移温度Tg
得られた絶縁フィルムを温度23℃、湿度30%で1ヶ月以上保管した後に、プレス成型機でプレス成型して、測定対象物を得た。この測定対象物について、TAINSTRUMENTS社製「ARES-G2」を用いて測定を行った。治具として、直径8mmのパラレルプレートを用い、3℃/分の降温速度で100℃から-10℃まで温度を低下させる条件、及び周波数1Hz及び歪1%の条件で測定を行った。得られた測定結果において、損失正接のピーク温度をガラス転移温度Tg(℃)とした。
【0141】
[ガラス転移温度Tgの判定基準]
○○:Tgが180℃以上
○:Tgが160℃以上、180℃未満
×:Tgが160℃未満
【0142】
(5)平均線膨張係数(CTE)
得られた絶縁フィルムをPETフィルム上で、180℃で30分間硬化させ、更に190℃で120分硬化させ、硬化体を得た。上記硬化体を3mm×25mmの大きさに裁断した。熱機械的分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「EXSTAR TMA/SS6100」)を用いて、引っ張り荷重33mN及び昇温速度5℃/分の条件で、裁断された硬化体の25℃~150℃までの平均線膨張係数(ppm/℃)を算出した。
【0143】
[平均線膨張係数の判定基準]
○○:平均線膨張係数が25ppm/℃以下
○:平均線膨張係数が25ppm/℃を超え、30ppm/℃以下
×:平均線膨張係数が30ppm/℃を超える
【0144】
組成及び結果を下記の表1に示す。なお、表1中の各成分の配合量は固形分の配合量で示した。
【0145】
【表1】
【符号の説明】
【0146】
11…多層プリント配線板
12…回路基板
12a…上面
13~16…絶縁層
17…金属層
図1