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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】気体透過膜を使用した廃水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/06 20060101AFI20220607BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20220607BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C02F3/06
C02F3/12 A
C02F1/44 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018102571
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019205971
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 善治
(72)【発明者】
【氏名】石井 良和
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0000850(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0158012(US,A1)
【文献】実開昭56-172397(JP,U)
【文献】特開昭53-128142(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129678(WO,A1)
【文献】特開2008-221070(JP,A)
【文献】特開2015-033681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/02- 3/10
C02F 3/12
C02F 3/14- 3/26
C02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水処理槽の内部に貯留する廃水に、気体透過膜を透過した酸素を供給することで、廃水中の微生物を活性化させて、当該微生物の活動により廃水を浄化する廃水処理装置であって、
廃水を流入させる流入口と、廃水を流出させる流出口とを有し、前記流入口と前記流出口とが対向して配置される廃水処理槽と、
上端部に開口を有する中空の平板状部材であり、前記気体透過膜を備える気体供給体とを備え、
前記気体供給体は、前記開口付近の空気を前記開口から取り入れて前記気体透過膜を介して前記廃水処理槽の廃水中に供給するものであって、
前記気体透過膜の単位面積における1日当たりの酸素透過量が、大気圧力下で25gO 2 /m 2 /day以上であり、前記廃水処理槽の有効単位容積当たりの前記気体透過膜の設置面積B m 2 /m 3 が、25 m 2 /m 3 以上であること、或いは、前記気体透過膜の単位面積における1日当たりの酸素透過量が、大気圧力下で6gO 2 /m 2 /day以上25gO 2 /m 2 /day未満であり、前記廃水処理槽の有効単位容積当たりの前記気体透過膜の設置面積B m 2 /m 3 が、94.3 m 2 /m 3 以上であることにより、単位面積当たりの前記気体透過膜によるBOD除去性能AgBOD/m2/dayと、前記廃水処理槽の有効単位容積当たりの前記気体透過膜の設置面積B m2/m3とを乗じた値であるBOD除去速度A×B kgBOD/m2/dayが、0.5 kgBOD/m2/day以上であり、
前記気体供給体は、前記気体透過膜が前記流入口と前記流出口とが対向する方向に延びるように前記廃水処理槽の内部に配置される、ことを特徴とする廃水処理装置。
【請求項2】
前記気体供給体は、前記気体透過膜と、気体流路を有する中空板状部材である気体送出層とを備え、
前記開口付近にある空気が、前記開口を介して前記気体送出層の上端部に供給されて、前記気体送出層の上端部に供給された空気が、前記気体流路を流れて、前記気体透過膜を介して廃水中に供給される請求項1に記載の廃水処理装置。
【請求項3】
前記廃水処理槽の内部には複数の前記気体供給体が並設されており、
隣り合う2つの前記気体供給体の間隔は、15mm以上50mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の廃水処理装置。
【請求項4】
複数の前記気体供給体を並列保持する供給体ユニットを有し、
前記供給体ユニットの単数または複数が、前記廃水処理槽の内部に設置されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の廃水処理装置。
【請求項5】
前記気体透過膜の単位面積における1日当たりの酸素透過量が、大気圧力下で25gO 2 /m 2 /day以上であり、前記廃水処理槽の単位容積あたりの前記気体透過膜の設置面積B m2/m3は、28m2/m3以上であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の廃水処理装置。
【請求項6】
前記廃水処理槽の内部における流入口の近傍には、潜り堰が設置され、前記廃水処理槽の内部における流出口の近傍には、越流堰が設置されていることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の廃水処理装置。
【請求項7】
前記廃水処理槽の廃水流下中間部に越流堰と潜り堰とが設置されていることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の廃水処理装置。
【請求項8】
前記気体透過膜の短期耐圧力は0.2Mpa以上である、請求項1乃至のいずれかに記載の廃水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用した廃水処理装置に関する。より具体的には、本発明は、気体透過膜を使用し、廃水処理効率と省エネルギーとを両立した廃水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、廃水処理方法として、好気性微生物の働きを利用して、汚泥物質(有機物や窒素化合物等)を分解する活性汚泥法が多く利用されている。非特許文献1には、標準活性汚泥法による下水処理において、BOD-SS負荷(単位MLSS量[kg]当たりに加えられる1日の汚水中のBOD(biochemical oxygen demand)の量[kg/日])が0.2~0.4kgBOD/ kgSS・dayであり、MLSS(Mixed liquor Suspended Solid)濃度が1,500~2,000mg/Lであることが開示されている。これは、BOD容積負荷で0.3~0.8kgBOD/m 3 /dayに相当する。そして一般的な活性除去率が90%であることによれば、標準活性汚泥法では、BOD除去速度が0.27~0.72kgBOD/m3/dayであるといえる。上記BOD除去速度は、「廃水処理槽の有効単位容積で分解される汚泥物質の1日当たりの量」に対応する数値である。
【0003】
また活性汚泥法による廃水処理方法の例として、ばっ気装置を使用することで、汚泥物質の分解に必要な酸素を廃水中に直接供給する方法がある。一般的なばっ気装置として、送風機と散気装置とを組み合わせた複合装置や、機械式ばっ気装置が挙げられる。ばっ気装置に用いられ得る散気装置として、多孔質樹脂製散気管を有するもの、およびゴム製メンブレンディフューザーが挙げられる。
【0004】
また特許文献1~3には、ばっ気装置を必要としない装置として、気体透過膜を使用した廃水処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4680504号公報
【文献】特許第3743771号公報
【文献】特開2015-33681号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】下水道施設計画・設計指針と解説 後編 -2009年版- P80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ばっ気装置を用いる活性汚泥法では、水圧に抗って廃水中に直接空気を送り込む必要があるため、エネルギー消費量が大きくなる。
【0008】
また気体透過膜を使用する特許文献1~3では、廃水処理にあたって重要な気体透過膜の酸素供給性能や必要膜面積や耐水性能について検討されていない。したがって特許文献1~3を実際の廃水処理装置に適用した場合、廃水処理槽がどれ位の容積になるか、どれ位の水深まで適用できるか、或いは廃水処理層をどう設計するのか等が不明である。また特許文献3には気体透過膜に空気を送り込む例が記載されているが、この例では大きなエネルギーが必要とされる。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ばっ気装置の使用や、廃水処理槽の容積を大きくすることを要せず、処理性能を標準活性汚泥法と同等にできる廃水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、次の項に記載の主題を包含する。
【0011】
項1.廃水処理槽の内部に貯留する廃水に、気体透過膜を透過した酸素を供給することで、廃水中の微生物を活性化させて、当該微生物の活動により廃水を浄化する廃水処理装置であって、
単位面積当たりの前記気体透過膜によるBOD除去性能AgBOD/m2/dayと、前記廃水処理槽の有効単位容積当たりの前記気体透過膜の設置面積B m2/m3とを乗じた値A×B gBOD/m 3 /dayが、0.5 kgBOD/m 3 /day以上であることを特徴とする廃水処理装置。
【0012】
項2.前記気体透過膜の単位面積における1日当たりの酸素透過量は、大気圧力下で25g/m2以上であり、
前記廃水処理槽の有効単位容積当たりの前記気体透過膜の設置面積B m2/m3は、25 m2/m3以上であることを特徴とする項1に記載の廃水処理装置。
【0013】
項3.前記気体透過膜と気体送出層とを備える気体供給体が、前記廃水処理槽の内部に配置されており、
前記気体送出層から前記気体透過膜に送出された酸素が、前記気体透過膜を透過して、前記廃水中に供給される項1又は2に記載の廃水処理装置。
【0014】
項4.前記廃水処理槽の内部には複数の前記気体供給体が並設されており、隣り合う2つの前記気体供給体の間隔は、15mm以上50mm以下であることを特徴とする、項3に記載の廃水処理装置。
【0015】
項5.複数の前記気体供給体を並列保持する供給体ユニットを有し、
前記供給体ユニットの単数または複数が、前記廃水処理槽の内部に設置されていることを特徴とする、項3又は4に記載の廃水処理装置。
【0016】
項6.前記廃水処理槽の単位容積あたりの前記気体透過膜の設置面積B m2/m3は、28m2/m3以上であることを特徴とする、項5に記載の廃水処理装置。
【0017】
項7.前記供給体ユニットに含まれる前記気体透過膜は、廃水の流れ方向と略並行になるように、前記廃水処理槽に設置されていることを特徴とする、項5又は6に記載の廃水処理装置。
【0018】
項8.前記廃水処理槽の内部における流入口の近傍には、潜り堰が設置され、前記廃水処理槽の内部における流出口の近傍には、越流堰が設置されていることを特徴とする、項1乃至7のいずれかに記載の廃水処理装置。
【0019】
項9.前記廃水処理槽の廃水流下中間部に越流堰と潜り堰とが設置されていることを特徴とする、項1乃至8のいずれかに記載の廃水処理装置。
【0020】
項10.前記気体透過膜の短期耐圧力は0.2Mpa以上である、項1乃至9のいずれかに記載の廃水処理装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明の廃水処理装置では、BOD除去速度が0.5 kgBOD/m3/day以上となるように、気体透過膜21のBOD除去性能AgBOD/m2/dayや、気体透過膜21の設置面積B m2/m3が調整され、上記0.5 kgBOD/m3/dayは、標準活性汚泥法のBOD除去速度の中間値に相当する。したがって本発明の廃水処理装置によれば、ばっ気装置の使用や、廃水処理槽の容積を大きくすることを要せず、処理性能を標準活性汚泥法と同等にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る廃水処理装置の鉛直断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る廃水処理装置の水平断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る廃水処理装置の鉛直断面図であり、図1と直交する断面を示す。
図4】廃水処理装置に配置される気体供給体の鉛直断面図である。
図5図4の気体供給体を構成する気体送出層を示す斜視図である。
図6図4の気体供給体の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図7】気体透過膜から袋を形成する方法を示しており、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
図8】気体透過膜から形成された袋の内部に気体送出層を挿入する工程を示す模式図である。
図9図1の廃水処理装置の廃水処理槽内の廃水中に浸漬された気体供給体の気体透過膜の表面に形成される微生物集合体、および微生物による少なくとも1つの有機物質または窒素源の分解について説明する模式図である。
図10】複数の気体供給体を並列保持する供給体ユニットを示す斜視図である。
図11】複数の気体供給体を並列保持する供給体ユニットを示す側面図である。
図12】供給体ユニットを備える廃水処理装置の鉛直断面図である。
図13】供給体ユニットを備える廃水処理装置の平面図である。
図14】供給体ユニットを備える廃水処理装置の鉛直断面図であり、図12と直交する断面を示す。
図15】供給体ユニットを備える廃水処理装置の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る廃水処理装置について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る廃水処理装置50の鉛直断面図である。図2は、廃水処理装置50の水平断面図である。図3は、廃水処理装置50の鉛直断面図であり、図1と直交する断面を示す。
【0024】
(廃水処理装置50)
図1図3に示すように、本実施形態の廃水処理装置50は、廃水処理槽51と、気体供給体10とを備えている。気体供給体10には気体透過膜21が設けられており、気体透過膜21を透過した酸素が廃水処理槽51の内部に貯留する廃水Wに供給される。これにより、廃水W中の好気性微生物が活性化して、当該微生物の活動により汚泥物質(有機物や窒素化合物等)が分解されることで廃水が浄化される。以下、廃水処理装置50が備える構成について具体的に説明する。
【0025】
(廃水処理槽51)
図1図3に示すように、廃水処理槽51は、廃水Wを貯留可能な有底の容器であって、廃水Wを流入させる流入口51aと、廃水Wを流出させる流出口51bとを有している。
【0026】
本実施形態では、流入口51aと流出口51bとが常時開放されている。廃水Wは、流入口51aから、当該流入口51aに対向する位置に配置された流出口51bに向かって、連続的、もしくは、断続的に供給される(図3の矢印は、廃水Wの流れを示している)。
【0027】
廃水処理槽51の容積については、特に限定されないが、例えば、1m以上10,000m以下の容積であればよい。
【0028】
(気体供給体10)
図1に示すように、廃水処理装置50の使用時には、廃水処理槽51の内部に複数の気体供給体10が並設される。各気体供給体10は、上端部分を除いた部分が廃水処理槽51の廃水W中に浸漬された状態で、開口21bから供給された気体を、廃水W中に供給する構造体である。気体供給体10を介して廃水W中に供給される気体は、酸素を含む気体(例えば空気)である。本実施形態では、開口21b付近の空気を開口21bに取り入れることで、ばっ装置を使用せずに廃水W中に空気が供給される。その結果、廃水W中の好気性微生物が活性化して、水中に溶解、もしくは分散している汚泥物質が、上記微生物の活動で分解されて、廃水が浄化される。
【0029】
各気体供給体10は、中空の平板状部材である。各気体供給体10は、廃水Wとの接触面積を効率的に確保するために、上下方向(深さ方向)と横方向(水平方向)とに沿って面が展開されるように配置される。
【0030】
図4は、気体供給体10の鉛直断面図である。気体供給体10は、気体送出層12と、気体透過膜21とを備えており、気体透過膜21によって構成される袋の中に気体送出層12が配置される。前記袋は、2枚の気体透過膜21,21を重ね合わせて、これら気体透過膜21,21の3方の端部を接着したものであり、上端部(気体送出層12における気体供給側の端部)に開口21bを有している。当該開口21bから気体送出層12が袋の内部に挿入されることで、気体送出層12の外周は気体透過膜21で覆われる。なお開口21bの位置あるいは形状は限定されず、例えば袋の各端(袋の上辺、底辺、横辺(縦のライン)も含む)の一部が開口とされてもよい。
【0031】
各気体供給体10は、これらの側面が略平行になるように配置されることが好ましい。本実施形態の廃水処理装置50のように、廃水処理槽51に流入口51aや流出口51bが設けられることで、廃水Wの流れが生じる場合には、各気体供給体10は、廃水Wの流れを遮断しない方向に配列されることがさらに好ましい。特に図2図3に示すように流入口51aと流出口51bとが対向して配置される場合には、流入口51aと流出口51bとを結ぶ直線に対して各気体供給体10の側面が平行になるように、各気体供給体10が配置されることが好ましい。このようにすることで、流入口51aから廃水処理槽51内に供給される廃水Wは、流出口51bに向けて円滑に流れる。
【0032】
気体供給体10の間隔を、気体供給体10の厚みを含まない、隣り合う2つの気体供給体10の外面の間の間隔と定義すると、気体供給体10の間隔の下限は、5mm以上であることが好ましい。また気体供給体10の間隔の上限は、200mm以下であることが好ましい。気体供給体10の間隔が5mm未満である場合には、気体透過膜21上に増殖する微生物によって目詰まりを起こす恐れがある。気体供給体10の間隔が200mmを超える場合には、廃水との接触が悪くなる可能性がある。なお上記問題を確実に回避するために、気体供給体10の間隔の下限は15mm以上であることがより好ましく、気体供給体10の間隔の上限は50mm以下であることがより好ましい。
【0033】
(気体送出層12)
図5は、気体送出層12を示す斜視図である。気体送出層12は、中空板状部材であり、紙、樹脂、金属のいずれかから形成される。気体送出層12は、第1端部から供給された気体を第1方向(図5の2点差線で示す方向)に沿って送出する気体流路Sを有する構造体である。開口21b近傍にある空気は、開口21b(図4)を介して気体送出層12の上端部に供給される。気体送出層12は、上端部に供給された気体を第1方向に送出する気体流路Sを有しており、側面の気体通過孔13から気体を放出する。
【0034】
より具体的には図5に示すように、気体送出層12は、複数の芯材12aと、表ライナ12bと、裏ライナ12cと、を有している。気体送出層12の表裏面は、板状の部材である表ライナ12bや裏ライナ12cによって構成される。
【0035】
複数の芯材12aは、それぞれ第1方向に延びるものであって、第1方向と直交する方向に所定の間隔をあけて配列される。これら複数の芯材12aが表ライナ12bと裏ライナ12cとの間に挟み込まれることで、表ライナ12bと裏ライナ12cとの間の空間が、芯材12aによって区画されて、複数の気体流路Sが形成される。
【0036】
各芯材12aは、表ライナ12bおよび裏ライナ12c側から押圧された際に、表ライナ12bと裏ライナ12cとの間の空間が縮小しないように支持する支持部として機能する。図1図3に示すように気体供給体10が廃水W中に浸漬された状態では、芯材12aによって表ライナ12bと裏ライナ12cとの間の空間が保持されることで、気体流路Sの断面積が水圧によって縮小することが防止される。これにより、気体送出層12(気体流路S)における気体送出量が十分に確保される。
【0037】
表ライナ12bおよび裏ライナ12cには、それぞれ複数の気体通過孔13が形成されている。気体通過孔13は、表ライナ12bおよび裏ライナ12cに形成された貫通孔である。当該気体通過孔13が気体流路Sと気体透過膜21とを連通させることで、気体流路Sを流れる気体は、気体透過膜21を介して廃水W中に供給される。
【0038】
なお例えば、気体通過孔13は、気体送出層12の成形時に形成される。或いは気体送出層12の成形後に表ライナ12bや裏ライナ12cの加工が行われることで、気体通過孔13が形成されてもよい。また、表ライナ12bや裏ライナ12cとして多孔性シートが用いられてもよい。また十分な気体供給性能が得られれば、気体送出層12として多孔性シートが用いられてもよい。
【0039】
気体送出層12を構成する各部材の素材としては、紙、セラミック、アルミニウム、鉄、プラスチック(ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、メチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂及びポリビニルブチラール樹脂)等が挙げられる。
【0040】
なお強度面が優れることから、気体送出層12の素材は、紙、アルミニウム、鉄、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、塩ビ樹脂、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0041】
また材料コストを安価に抑える観点では、気体送出層12の素材として、例えば、紙、ポリオレフィン、ポリスチレン、塩ビ、ポリエステル等の樹脂、アルミニウム等の金属等を使用することが好ましい。また、気体流路Sが第1方向(図5中の2点差線参照)に延びるように形成された段ボールを気体送出層12として使用することでも、気体送出層12の材料コストを安価に抑えることができる。
【0042】
当該気体送出層12の気体通過孔13の形状は、円形状、多角形状(ハニカム構造を含む)など様々な形状にすることができる。なお、気体通過孔13の形状を、多角形状にすることが好ましく、長方形もしくは正方形にすることがより好ましい。
【0043】
気体送出層12内に形成される気体流路Sの上下方向(浸漬時の深さ方向)における長さは、0.2m以上6m以下であることが好ましい。気体流路Sの上下方向の長さが0.2m以上であることは、気体流路Sの維持を容易かつ気体流路Sの換気を容易にして廃水処理能を向上させる点で好ましい。なお当該観点において、より好ましくは、気体流路Sの上下方向の長さは、0.8m以上とされ、さらに好ましくは3.7m以上とされる。また気体流路Sの上下方向の長さが6m以下であることは、気体流路Sの換気による廃水処理能向上効果をより良好に得る点、および設置容易性の点などで好ましい。また当該観点において、より好ましくは、気体流路Sの上下方向の長さは4m以下とされる。
【0044】
気体流路Sの上下方向に直交する横方向の長さは、0.2m以上3.6m以下であることが好ましい。上記気体流路Sの横方向の長さが0.2m以上であることは、廃水Wとの接触面積を効率的に確保して廃水処理効率を向上させる点で好ましい。上記気体流路Sの横方向の長さが3.6m以下であることは、気体供給体10全体の強度維持容易性および気体供給体10の設置容易性の点などで好ましい。なお上記の観点において、上記気体流路Sの横方向の長さは、より好ましくは0.4m以上1.8m以下とされる。
【0045】
気体流路Sの長さLsに対する廃水Wへの接水長さLwの割合は、例えば、80%以上、95%以下であればよい(長さLs,Lwについては図1参照)。上記長さLsに対する接水長さLwの割合が上記下限値以上であることは、気体流路Sから供給される酸素量を良好に確保し廃水処理効率を向上させる点で好ましい。上記長さLsに対する接水長さLwの割合が上記上限値以下であることは、気体流路Sへの廃水Wの侵入を防ぐ点で好ましい。
【0046】
あるいは、気体流路Sへの廃水Wの侵入を防ぐ点では、廃水Wの水面が気体供給体10(気体透過膜21)の開口21bから2cm以上離間するように接水長さLwが設定されてもよい。
【0047】
(気体透過膜21)
気体透過膜21は、最外側層が液体(廃水W)に接触するように液体中(廃水W中)に浸漬された状態で、内側(気体送出層12)から外側(廃水W)へ酸素を透過させ、かつ外側(廃水W)から内側(気体送出層12)へ廃水を透過させない特性を有する。
【0048】
図4に示すように、気体透過膜21は、基材211と、気体透過性無孔層212と、微生物支持層213とを含む。図示の例では、気体透過膜21は、微生物支持層213、基材211、気体透過性無孔層212の順に積層されており、基材211が気体透過性無孔層212で覆われるとともに、廃水Wに接触する最外側層が微生物支持層213によって構成されている。なお気体透過膜21は、基材211、気体透過性無孔層212、微生物支持層213の順に積層されたものであってもよい(図示の例とは逆に、基材211が、気体透過性無孔層212の内側に位置してもよい)。このようにしても、基材211を気体透過性無孔層212で覆い、廃水Wに接触する最外側層を微生物支持層213によって構成できる。
【0049】
(基材211)
基材211は、熱可塑性樹脂から形成される微多孔膜である(前記微多孔膜とは、微細な貫通孔を多数設けた膜である)。基材211の素材として、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリメチルペンテン、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリフッ化ビニリデンを含めたフッ素樹脂、ポリブタジエン、ポリ(ジメチルシロキサン)を含めたシリコーンベースのポリマー、およびこれらの材料のコポリマーから選ばれるポリマー材料を含む等を含んでもよい。
【0050】
微多孔膜である基材211の製造方法は、特に限定されないが、例えば、相分離法、延伸開孔法、溶解再結晶法、粉末焼結法、発泡法、溶剤抽出のいずれかによって、基材211を製造できる。また基材211は、自己組織化ハニカム微多孔膜であってもよい。
【0051】
基材211の厚みは、10um以上500um以下であることが好ましく、50um以上200um以下であることがより好ましい。基材211の厚さは、JIS1913:2010一般不織布試験方法6.1厚さの測定方法で測定される値である。
【0052】
基材211の細孔径は、気体透過膜の欠陥を防止する観点から、0.01um以上50um以下であることが好ましく、高い強度と気体透過性を保持する観点から、0.1um以上30um以下であることがより好ましい。前記細孔径は、表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、その観察像から以下に示す方法により求めた細孔径である。観察倍率は、観察する対象物の細孔径が適切に算出できる倍率であれば、任意の倍率で観察することができる。
【0053】
<細孔径を求める方法>
SEM観察で得られた像について、2値化処理を行い、画像解析的に、細孔径を算出する。算出の際には、細孔径は楕円近似を行い、楕円の長軸の長さを細孔径として、その平均値を評価する。
【0054】
(気体透過性無孔層212)
気体透過性無孔層212とは、前記基材の孔より径の小さい細孔径の孔を有するか、もしくは、孔の径を検出できず、かつ、気体を透過可能な層である。気体透過性無孔層212の細孔径は、基材211の細孔径と同様の方法で測定できる。
【0055】
気体透過性無孔層212は、酸素、二酸化炭素、窒素、水素、メタノール、エタノール等のアルコール類や有機溶剤、もしくはそれらの混合ガスを、透過可能な層である。当該層212の気体透過性はJIS K 7126に定めた方法で測定できる。
【0056】
気体透過性無孔層212は、熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂でもよい。当該熱硬化性樹脂は、熱硬化する樹脂であってもよく、紫外線の照射で硬化する樹脂であってもよい。また、有機過酸化物架橋、付加反応架橋、縮合架橋により硬化する樹脂であってもよい。
【0057】
気体透過性無孔層212の素材としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂および、これらの材料のコポリマーから選ばれる熱硬化性ポリマーを含んでもよい。また、(Si-O-Si)n(n=整数)のシロキサン骨格を有するポリマー(ジメチルシロキサン)などのシリコーンベースのシリコン樹脂を用いることができる。これらの中でも、特に、ウレタン樹脂、シリコン樹脂を用いることが好ましい。
【0058】
上記のポリウレタン樹脂としては、「アサフレックス 825」(旭化成社製)、「ペレセン 2363-80A」、「ペレセン 2363-80AE」、「ペレセン 2363-90A」、「ペレセン 2363-90AE」、(以上、ダウ・ケミカル社製)、「ハイムレンY-237NS」(大日精化工業社製)を用いることができる。
【0059】
上記のシリコン樹脂としては、「シラシール3FW」、「シラシールDC738RTV」、「DC3145」、及び「DC3140」(以上、ダウコーニング社製)、「ELASTOSIL RT707W」、「ELASTOSIL EL4300」、「NC1910」(旭化成ワッカーシリコーン社製)、「SD4584PSA」、「KS-847T」、「KF-2005」、「X-40-3237」、「KNS-3002」(信越化学社製)を用いることができる。シリコン樹脂にはさらに、触媒を添加してもよい。触媒としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸鉄、コバルト、錫などの有機酸塩、アミン系の触媒を用いることができる。また、有機錫化合物、有機チタン化合物、白金化合物も用いることができる。触媒としては、例えば、「CAT-PL-50T」(信越化学社製)を用いることができる。また、塗布の際には、トルエンやキシレン等の溶剤を添加してもよい。
【0060】
気体透過性無孔層212の製造方法は、特に限定されず、リバースロールコーター、正回転ロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、ロッドコーター、スロットオリフィスコーター、エアドクタコーター、キスコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スプレーコーター、スピンコーター、押出コーター、ホットメルトコーター等を用いる方法で気体透過性無孔層212を製造できる。また、粉体コーティング、電着コーティング等の方法でも気体透過性無孔層212を製造できる。基材を気体透過膜の原料液に浸漬することでコーティングしてもよい。基材はシート状でも中空糸状でもよい。塗布の前工程において、プライマー塗布、コロナ処理等の前処理を行ってもよい。
【0061】
気体透過性無孔層212の目付量は、10g/m2以上、500g/m2以下であることが好ましく、20g/m2以上200g/m2以下であることがより好ましい。気体透過性無孔層212の目付量は、気体透過性無孔層212が積層される前の基材の目付量E(g/m2)と、気体透過膜が積層された後の気体透過性無孔層212と基材の目付量F(g/m2)の差であるD(g/m2)として、以下の関係式(1)により求められる。
【0062】
[式1]
D=F-E (1)
【0063】
気体透過性無孔層212や基材の目付量はJIS1913:2010一般不織布試験方法6.2単位面積当たりの質量で測定される値である。
【0064】
気体透過性無孔層212の厚みは、10um以上、500um以下であることが好ましく、20um以上200um以下であることがより好ましい。上記の気体透過性無孔層212の厚さはJIS1913:2010一般不織布試験方法6.1厚さの測定方法で測定される値である。
【0065】
(微生物支持層213)
微生物支持層213は、その表面もしくは内部に微生物を保持する層であり、内部に微生物が生育可能な空間を有し、水中の有機物が通過可能である。微生物支持層213の素材としては、例えば、メッシュ、織布、不織布、発泡体、又は微多孔膜等の多孔性シートが挙げられる。多孔性シートの素材は、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、メチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂及びポリビニルブチラール樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、パラ系およびメタ系アラミド、ポリアリレート、炭素繊維、ガラス繊維、アルミニウム繊維、スチール繊維、セラミック等が挙げられる。微生物付着性と加工性を考慮すると、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、炭素繊維が好ましい。
【0066】
微生物支持層213の目付量は2g/m2以上、500g/ m2以下であることが好ましく、10g/m2以上200g/m2以下であることがより好ましい。微生物支持層213の目付量はJIS1913:2010一般不織布試験方法6.2単位面積当たりの質量で測定される値である。
【0067】
微生物支持層213の厚みは、5um以上、2000um以下であることが好ましく、20um以上500um以下であることがより好ましい。微生物支持層213の厚さはJIS1913:2010一般不織布試験方法6.1厚さの測定方法で測定される値である。
【0068】
なお、基材211の表面処理によって微生物支持層213が形成されてもよい。このようにすれば、上記の表面処理で基材211表面の粗さと膜電位を上げられるので、微生物付着性が向上する。例えば上記の表面処理として、グリシジルメタクリレートをグラフト重合し、さらに、ジエチルアミン、もしくは、亜硫酸ナトリウムを反応させることが行われ得る。或いは上記の表面処理として、グリシジルメタクリレートをグラフト重合した後に、アンモニア、もしくは、エチルアミンを反応させることが行われてもよい。
【0069】
<気体供給体10の製造方法>
本実施形態の気体供給体10の製造方法は、図6に示すフローチャートに従って行われる。以下、図6を参照して、気体供給体10の製造方法を説明する。
【0070】
まず図6のステップS11において、気体送出層12を構成する段ボール等の部材が所定の位置へ配置される。
【0071】
次に図6のステップS12では、気体送出層12の表ライナ12bや裏ライナ12cに、それぞれ針材を用いて気体通過孔13としての貫通孔を複数形成する。
【0072】
上記の針材としては、例えば、複数の針が表面に取り付けられたロール(針材)や、1本の針が取り付けられて手動で気体通過孔13を形成可能な針材等を用いることができる。これらの針材を用いることで、気体送出層が板材等によって覆われている場合でも、容易に必要な気体通過孔を形成できる。なお上記のロールが使用される場合には、ロールと平面との間に気体送出層12を通すことで、気体送出層12に気体通過孔13を形成できる。上記の平面は、例えば、平板の表面や、針が取り付けられていない他のロールの表面である。
【0073】
なお、表面に針が並べられた板を気体送出層12の表面に押し付けることで気体通過孔13が形成されてもよく、また、カッターナイフ等の刃物を用いて気体通過孔13が形成されてもよい。
【0074】
次に図6のステップS13では、2枚の略四角形の気体透過膜21,21を重ね合わせて、気体透過膜21,21の基材211,211の周縁同士を熱融着で接合することで、気体透過膜21,21からなる袋を形成する(基材211については図4参照)。
【0075】
具体的には図7に示すように、2つのロールR1,R2から繰り出される気体透過膜21,21を重ね合わせた状態で、気体透過膜21,21の基材211,211の周縁の3辺同士が熱溶着で接合されることで、熱溶着部21cが形成される。そして、熱溶着部21cによって3方が封止された状態で、開口21bとなる部分において気体透過膜21,21が切断される(図7は、気体透過膜21,21から袋を形成する方法を示しており、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である)。
【0076】
なお、気体透過膜21から袋を形成する方法は、図7に示す方法に限定されない。例えば、筒状に成形された気体透過膜21の一方の開口部のみを接着することで袋を形成してもよい。あるいは、1枚の気体透過膜21を半分に折りたたんで、左右の端部を熱溶着して袋状に形成してもよい。もしくは、インフレーション成型などで、気体透過膜21からなる袋を成形してもよい。あるいは、中空糸状の気体透過膜21を連続成型によって得ることもできる。例えば、基材を連続的に気体透過性無孔層212の原料液に浸漬し、必要に応じて熱処理や冷却等で固定し気体透過膜21を得てもよいし、中空形状の基材上に連続的に気体透過性無孔層212の原料液を金型を利用して配置し、必要に応じて熱処理や冷却等で固定し気体透過膜21を得てもよい。なお上記熱融着の温度としては、熱可塑性樹脂から形成される基材211の融点以上、熱分解温度以下が好ましい。
【0077】
また、気体透過膜21を接着する方法は、上記の熱融着に限定されるものではなく、例えば、両面テープ、接着剤等を用いて気体透過膜21が接着されてもよい。接着剤の材料としては、耐水性、防水性、耐薬品性、耐微生物分解性のうち少なくともひとつを有するものが好ましい。
【0078】
次に図6のステップS14では、図8に示すように、気体透過膜21からなる袋の開口21bから、気体通過孔13が形成された気体送出層12を袋内部21dに挿入する(被覆ステップ)。
【0079】
なお、気体送出層12を開口21bから挿入する方向としては、芯材12a等によって形成される気体流路Sの向きに沿って挿入される。
【0080】
本実施形態の廃水処理装置50では、気体送出層12の上端部21bに供給された空気(酸素を含む気体)は、気体流路Sを流れて、気体通過孔13を通過する。そして当該気体通過孔13を通過する空気が気体透過膜21を介して廃水W中に供給される(図4参照)。これにより図9に示すように、廃水W中の好気性微生物は、継続的に酸素が供給される気体透過膜21の表面21aに集まってくる。よって、気体透過膜21の表面21aに微生物が付着する。そして、廃水Wに含まれるか、もしくは表面21aに保持されている微生物の働きによって、水中に溶解、もしくは分散している汚泥物質が分解されて、廃水が浄化される。上記汚泥物質は、微小個体状の有機物や、酢酸等の液体状の有機物や、窒素化合物である。
【0081】
本実施形態の廃水処理装置50では、浄化処理性能(BOD除去速度)を標準活性汚泥法と同等とするために、気体透過膜21の単位面積当たりのBOD除去性能AgBOD/m2/dayと、廃水処理槽51の有効単位容積当たりの気体透過膜21の設置面積Bm2/m 3 とを乗じた値であるBOD除去速度A×BgBOD/m 3 /dayが、0.5 kgBOD/m 3 /day以上とされる。
【0082】
「気体透過膜21の単位面積当たりのBOD除去性能AgBOD/m2/day」とは、「気体透過膜21の単位面積を透過する酸素によって分解される汚泥物質の1日当たりの量」に対応する数値である。
【0083】
「BOD除去性能AgBOD/m2/day」と「気体透過膜21の設置面積Bm2/m3」とを乗じたBOD除去速度「A×B gBOD/m3/day」は、「気体透過膜21の設置面積を透過する酸素によって、廃水処理槽51の有効単位容積で分解される汚泥物質の1日当たりの量」に対応する数値である。
【0084】
標準活性汚泥法のBOD除去速度が0.27~0.72kgBOD/m3/dayであることによれば、上記のBOD除去速度0.5 kgBOD/m3/dayは、標準活性汚泥法のBOD除去速度の中間値に相当する。本実施形態の廃水処理装置50では、BOD除去速度が0.5 kgBOD/m3/day以上となるように、気体透過膜21のBOD除去性能AgBOD/m2/dayや、気体透過膜21の設置面積B m2/m3が調整される。したがって本実施形態の廃水処理装置50によれば、ばっ気装置の使用や、廃水処理槽51の容積を大きくすることを要せず、処理性能を標準活性汚泥法と同等にすることができる。
【0085】
なお本発明において、BOD除去性能AgBOD/m2/dayの値や、気体透過膜21の設置面積Bm2/m3の値は、以下の(1)~(3)に示す知見に基づき定められる。
【0086】
(1)気体透過膜21の単位面積における1日当たりの酸素透過量が、大気圧力下で25gO2/m2/day以上である場合には、CODcr除去性能が30gCODcr/m2/day以上となること。
(2)気体透過膜21の単位面積における1日当たりの酸素透過量が、大気圧力下で6gO2/m2/day以上25gO2/m2/day未満である場合には、CODcr除去性能が8gCODcr/m2/day以上となること。
(3)CODcr除去性能gCODcr/m2/dayとBOD除去性能gBOD/m2/dayとは、CODcr除去性能 gCODcr/m2/day=BOD除去性能gBOD/m2/day×1.5の関係にあること。
【0087】
(1)~(3)の知見によれば、例えば気体透過膜21の単位面積における1日当たりの酸素透過量が大気圧力下で25gO2/m2/day以上である場合、CODcr除去性能が30gCODcr/m2/day以上になり、BOD除去性能AgBOD/m2/dayが20gBOD/m2/day以上になる。したがって、気体透過膜21の設置面積B m2/m3を25m2/m3以上にすることで、A×B gBOD/m3/dayの値を、0.5kgBOD/m3/day以上にすることができる。
【0088】
また気体透過膜21の単位面積における1日当たりの酸素透過量が、大気圧力下で6gO2/m2/day以上25gO2/m2/day未満である場合には、CODcr除去性能が8gCOD/m2/day以上になり、BOD除去性能が5.3gBOD/m2/day以上になる。したがって気体透過膜21の設置面積B m2/m3を94.3m2/m3以上にすることで、A×B gBOD/m3/dayの値を、0.5kgBOD/m3/day以上にすることができる。
【0089】
なお上記(1),(2)に示す知見は、後述する酸素供給性能試験及び浄化処理性能試験によって確認されたことである。また上記(3)に示す知見は、あらかじめ試験で使用した廃水のCODcr濃度とBOD濃度との相関をとることで確認されたことである。本発明では、気体透過膜21の処理性能は分析が容易であるCODcr濃度で測定を実施している。
【0090】
気体透過膜21を備える気体供給体10を廃水処理槽51に設置する際には、廃水処理槽51の有効容積に応じて、気体透過膜21の寸法・BOD除去性能や、気体供給体の台数・設置間隔等が調整されることで、A×B gBOD/m3/dayが0.5 kgBOD/m3/day以上とされる。
【0091】
廃水処理槽51の有効容積が24m3(幅2m×長さ4m×水深3m)である場合には、例えば、有効寸法が幅1.7m×高さ2.7mであり、BOD除去性能が20g/m2/dである気体透過膜21が準備される。そして当該気体透過膜21を表・裏両面に設置した気体供給体の2台が、30mm間隔で廃水処理層に設置される。このようにすれば、気体透過膜21の設置面積は1102m2(1.7m×2.7m×3.6m/0.03m×2)となり、廃水処理槽51の有効単位容積あたりの気体透過膜21の設置面積B m2/m3は、46m2/m3(1102m2/24m3)となる。そしてBOD除去性能20 gBOD/m2/dayと気体透過膜21の設置面積46 m2/m3とを乗じた値A×B gBOD/m3/dayは、920 gBOD/m3/dayとなって、0.5 kgBOD/m 3 /day以上になる。
【0092】
或いは、上記気体供給体の2台が、50mm間隔で廃水処理層に設置されてもよい。この場合、気体透過膜21の設置面積は661m2(1.7m×2.7m×3.6m/0.05m×2)となり、廃水処理槽51の有効単位容積あたりの気体透過膜21の設置面積B m2/m3は、28m2/m3(661m2/24m3)となる。そしてBOD除去性能20 gBOD/m2/dayと気体透過膜21の設置面積28m2/m3とを乗じた値A×B gBOD/m3/dayは、560 gBOD/m3/dayとなって、0.5 kgBOD/m 3 /day以上になる。
【0093】
なお、気体透過膜21に基材211や気体透過性無孔層212が設けられない場合でも、A×B gBOD/m 3 /dayを0.5 kgBOD/m 3 /day以上にすることができる。したがって、基材211や気体透過性無孔層212は、必ずしも必要ではなく、気体透過膜21から省略されてもよい(つまり、気体透過膜21は、少なくとも微生物支持層213を備えるものであればよい)。なお上記実施形態に示したように、気体透過膜21を、微生物支持層213・基材211・気体透過性無孔層212を積層したものとすれば、以下に示す効果を得ることができる。
【0094】
基材211が平滑性の高い微多孔膜であることから、気体透過性無孔層212に欠陥を生じさせることなく、気体透過性無孔層212で基材211を覆うことができる。そしてこのことから、基材211を覆う気体透過性無孔層212が薄くとも防水性が得られる。したがって気体透過膜21の透気性を損なうことなく、気体透過膜21の防水性を高めることができる。さらに気体透過性無孔層212で基材211を覆うことで、基材211(微多孔膜)の孔が親水化することを防止できる。このため、気体透過膜21は、防水性を長期に亘って維持できる。以上のことから、本実施形態の気体透過膜21で気体送出層12を覆えば、気体送出層12側へ液体が透過してくることなく、気体送出層12側から気体透過膜21を介して、廃水W中に気体を透過させて供給できる。このため廃水処理装置50の浄化性能が維持される。また本実施形態によれば、気体透過膜21から形成される袋の中に気体送出層12を挿入することで、気体透過膜21で気体送出層12を覆った状態を容易に実現できる。
【0095】
また、気体透過膜21に微生物支持層213が含まれることで、微生物が微生物支持層213に付着する。このため、微生物に対して十分な量の気体を継続的に供給できるので、確実に微生物が継続的に活性化する。このため廃水処理装置50の浄化性能を高めることができる。
【0096】
また、気体透過膜21が、微生物支持層213、基材211、気体透過性無孔層212の順に積層されていることで、廃水Wに接触する気体透過膜21の最外側層を、微生物支持層213によって構成できる。このため、確実に微生物支持層213に微生物を付着させることができるので、確実に微生物を活性化できる。したがって確実に廃水処理装置50の浄化性能を高めることができる。特に廃水W中に含まれる微生物が好気性微生物である場合には、気体が気体透過膜21を介して廃水W中に供給されることで、好気性微生物が気体透過膜21に集まる。このため、多くの微生物が微生物支持層213に付着するので、廃水処理装置50の浄化性能が顕著に高まる。
【0097】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0098】
例えば上記実施形態では、平面状の気体供給体10を用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、気体供給体10は巻回されていてもよいし、筒状に成型された気体供給体を用いてもよい。
【0099】
上記実施形態では、気体透過膜21からなる袋の開口21bから、気体送出層12を挿入して、気体供給体10を構成した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、気体送出層の表面に気体透過膜21が積層接着された構成であってもよい。接着する部位としては、気体透過膜21の外周部のみを接着していてもよいし、気体透過膜21への気体の供給が可能であれば、気体透過膜21と気体送出層とが全面において接着されていてもよい。
【0100】
また、気体供給体10を1枚ずつ廃水処理槽51に設置することは、施工時間が掛かり設置費用も高くなる。したがって図10図11に示すように、複数の気体供給体10を並列保持する供給体ユニット60を製作して、供給体ユニット60の単数または複数を廃水処理槽51の内部に設置するようにしてもよい。このようにすれば、短時間で多くの気体供給体10を廃水処理槽51に設置できるので、施工時間、設置費用を大幅に短縮できる。以下、図10図11に示す供給体ユニット60について詳細に説明する(図10は供給体ユニット60を示す斜視図であり、図11は供給体ユニット60を示す側面図である)。
【0101】
供給体ユニット60は、上記複数の気体供給体10に加えて、一対のユニットフレーム61,61と、4本の通し部材62と、複数のスペーサ63(図11)とを備えている。
【0102】
ユニットフレーム61,61は、矩形の環状を呈しており、間隔をあけて対向配置される。通し部材62は、直線状の鋼材であり、一対のユニットフレーム61,61の四隅が4本の通し部材62によって連結される。気体供給体10の各々では、四隅にハトメ64が取り付けられており、各気体供給体10のハトメ64に、順次、通し部材62が通されることで、各気体供給体10は、通し部材62に保持されて、通し部材62の延伸方向に並んだ状態とされる。スペーサ63は、通し部材62を挿通させることの可能な筒体である。供給体ユニット60では、隣り合う2つの気体供給体10の間を延びる通し部材62の範囲にスペーサ63が環装されることで、上記2つの気体供給体10,10の間隔が、スペーサ63の幅に維持される。またスペーサ63の長さを変えることで、気体供給体10,10の間隔を変更できる。
【0103】
図12は、供給体ユニット60を備える廃水処理槽51の鉛直断面図である。図13は、供給体ユニット60を備える廃水処理槽51の平面図である。
【0104】
供給体ユニット60が中空状の気体供給体10を複数有することで、供給体ユニット60を廃水処理槽51に設置した際には、供給体ユニット60に大きな浮力が働く。そこで供給体ユニット60の浮上を防止するために、図10図13に示す固定金具70や浮上防止部材71が使用される。
【0105】
固定金具70は、L型の鋼材であり、基板70aと、基板70aから垂直に延びる垂直板70bとを有する。基板70aは、廃水処理槽51の底部に固定される(図11図12参照)。浮上防止部材71は、先端部71aが円弧状に湾曲する鋼材であり、基端部71bが固定金具70の垂直面に固定される。そして浮上防止部材71の先端部71aに通し部材62が引っ掛けられることで、供給体ユニット60が浮上することが防止される。
【0106】
上記の供給体ユニット60が使用される際には、廃水処理槽51の有効容積に応じて、気体供給体10のBOD除去性能・有効寸法・間隔や、供給体ユニット60の有効寸法・設置台数が適宜設定されることで、気体透過膜21のBOD除去性能AgBOD/m2/dayと、気体透過膜21の設置面積Bm2/m3とを乗じた値が、0.5 kgBOD/m/day以上とされる。
【0107】
例えば、廃水処理槽51の有効容積が24m3(幅2m×長さ4m×水深3m)である場合には、有効寸法が幅1.6m×高さ2.6m×長さ1.8mであり、BOD除去性能が20gBOD/m2/dである気体透過膜21を表・裏両面に設置した気体供給体10を準備する。そして、有効寸法が幅1.7m×高さ2.7m×長さ1.8mであり、気体供給体10を30mm間隔で保持する供給体ユニット60を製作し、当該供給体ユニット60の2台を、廃水処理槽51に設置する。以上のようにすれば、気体透過膜21の表面積は998m2(1.6m×2.6m×1.8m/0.03m×2×2)となり、廃水処理槽51有効容積あたりの気体透過膜21の設置面積B m2/m3は、41m2/m3(998m2/24m3)になる。したがって、BOD除去性能20gBOD/m2/dayと気体透過膜21の設置面積41 m2/m3とを乗じた値A×B gBOD/m3/dayは、820gBOD/m3/dayとなって、0.5 kgBOD/m 3 /day以上になる。なお、「供給体ユニット60の幅1.7m」は、ユニットフレーム61,61の幅に相当し、「供給体ユニット60の高さ2.7m」は、ユニットフレーム61,61の高さに相当し、「供給体ユニット60の長さ1.8m」は、ユニットフレーム61,61の対向する角同士を結ぶ直線の長さに相当する。
【0108】
なお、N個の気体供給体10を有する供給体ユニット60を廃水処理槽51に設置する場合は、N個の気体供給体10をそのまま廃水処理槽51に設置する場合に比較して、90%程度に気体透過膜21の設置面積が減少する。したがって、供給体ユニット60を使用する場合には、活性汚泥法と同等の処理性能を得るために、廃水処理槽51有効容積あたりの単位容積当りの気体透過膜21の設置面積を28m2/m3以上とすることが好ましい。28m2/m3は、25m2/m3/0.9の計算で得られる数値である。
【0109】
また上記の供給体ユニット60が使用される際には、供給体ユニット60に含まれる気体供給体10が廃水の流れと略並行になるように、供給体ユニット60を廃水処理槽51に設置することが望ましい。このようにすることで、気体供給体10によって廃水の流れが妨げられず、かつ廃水と気体透過膜21に増殖した微生物との接触を良くすることができる。
【0110】
また図12図13に示すように、廃水処理槽51の内部における流入口51aの近傍に、廃水を下側に向かわせるための潜り堰80を設置し、廃水処理槽51の内部における流出口51bの近傍に、廃水を均等に越流させるための越流堰81を設置することが望ましい。このようにすることで、廃水は、各気体透過膜21の間に均一に分散して流れるものとなる(図12図13では廃水の流れを矢印で記している)。
【0111】
そして上記の潜り堰80や越流堰81を設ける場合には、図13に示すように、潜り堰80や越流堰81が、廃水処理槽51の全幅に亘って延びるものとすることが好ましい。このようにすることで、廃水処理槽51の全体で、廃水が各気体透過膜21の間に均一に分散して流れるようになる。なお図13に示すように、廃水処理槽51の対向する2つの側壁510,510のうち、一方に流入口51aに形成され、他方に流出口51bが形成される場合には、前記2つの側壁510,510の対向方向(廃水の流れる方向)と直交する方向が、上記「廃水処理槽51の幅方向」に相当する。
【0112】
さらに図14図15に示すように、廃水の流れ方向(側壁510,510の対向方向)に供給体ユニット60を多段設置してもよい。そしてこの場合には、流入口51aや流出口51bの近傍のみならず、廃水処理槽51の廃水流下中間部にも越流堰81と潜り堰80とを設置することが好ましい(図15参照)。このようにすることで廃水の流れを再度均一化することができる。なお図15では、廃水処理槽51の中間部にある2つの供給体ユニット60,60の間にのみ、越流堰81と潜り堰80とを設置する例を示しているが、その他の廃水の流れ方向に隣り合う2つの供給体ユニット60,60の間にも、越流堰81と潜り堰80とを設置してもよい。また供給体ユニット60を多段設置する場合のみならず、複数の気体供給体10が廃水の流れ方向に並設される場合においても、廃水処理槽51の廃水流下中間部に越流堰81と潜り堰80とが設置されてもよい。
【0113】
次に、本願の発明者らが行った酸素供給性能試験や浄化処理性能試験について説明する。以下の表1は、上記試験で使用した気体透過膜21のスペックや、試験結果を示している。
【表1】
【0114】
実施例1~7の気体透過膜は、微生物支持層213、基材211、気体透過性無孔層212の順に積層したものである。実施例8,9の気体透過膜は、微生物支持層213と基材211とを積層したものである。実施例10~13のの気体透過膜は、微生物支持層213と気体透過性無孔層212とを積層したものである。
【0115】
実施例1~13では、微生物支持層213として、積水化学工業社製セルポアNW07Hに含まれるポリオレフィン不織布を使用した。
【0116】
実施例1~8では、基材211として、同じくセルポアNW07Hに含まれる微細孔膜を使用した。
【0117】
実施例9では、基材211として、積水化学工業社製セルポアNW08に含まれる微細孔膜を使用した。
【0118】
実施例1~5では、基材211上にメチルビニル系シリコン樹脂、架橋剤、白金系の触媒等を混合した混合液をバーコーターを用いて塗布したのち、70℃の雰囲気下に1時間静置することで、基材211上に気体透過性無孔層212を積層している。上記シリコン樹脂として、旭化成ワッカーシリコーン社製の型番「NC1910」を使用した。
【0119】
実施例6,7では、気体透過性無孔層212を形成するためにシリコン樹脂の代りに大日精化工業社製の型番「ハイムレンY-237NS」のウレタン樹脂を使用した。
【0120】
実施例10では、PVBを用いて気体透過性無孔層212を形成した。実施例11,12では、LDPEを用いて気体透過性無孔層212を形成した。実施例13では、PPを用いて気体透過性無孔層212を形成した。
【0121】
<酸素供給性能試験>
酸素供給性能試験では、内寸7cmの立方体における1つの側面に気体透過膜が配置され、密閉された評価槽を使用した。そして評価槽内に、スターラー用の回転子、及び、イオン交換水を入れた。イオン交換水には亜硫酸ナトリウムを100mg/Lで添加し、塩化コバルトを1.5mg/L以上で添加した。そして評価槽内の酸素濃度を連続的に測定しながら、小池精密機器製作所社製スターラー「HE-20GB」、回転数はHIGHレンジにて目盛7に設定して撹拌した。
【0122】
酸素供給性能の評価は、23℃から27℃の環境下で行った。測定した酸素濃度の時系列データから、時間t(h)に対する酸素不足量の常用対数Y=log10(Cs-C)との相関から近似直線を求め、当該近似直線の時間tに対するYの傾きZを求めた。Csは測定温度Tにおける液相の飽和酸素濃度、Cは測定時間tにおける液相の酸素濃度測定値である。傾きZから、酸素供給速度Q(gO2/m2/day)を式(2)に従い算出した。
【0123】
[式2]
Q=-2.303×24×0.00884×V×Z×(1.028)^(20-T)/S (2)
V:測定に用いた液量(L)、S:測定に用いた気体透過膜21の有効面積(m2)、T:測定時の液温の平均値(℃)
【0124】
<浄化処理性能試験>
処理性能を確認する試験では、内寸7cmの立方体の1つの側面に気体透過膜21が配置され、密閉された評価槽を使用した。そして評価槽内に、CODcr濃度が1.3g/Lのタンパク質、炭水化物等、及び、適切な栄養塩を含む有機物含有水、さらに、有機物の分解を担う微生物として土壌微生物を入れた。
【0125】
3日毎に槽内の液をすべて排出し、有機物含有水を入れ替えた。気体透過膜21の有効面積は7x7cmであった。有機物含有水はスターラーで撹拌した。
【0126】
評価槽は30℃の恒温槽内に設置した。CODcr濃度測定に先立ち、4週間の馴養期間を設けた。有機物含有水入れ替えから3日経過後の有機物含有水のCODcr濃度を測定し、このときの処理前のCODcr濃度A(mg/L)、処理後のCODcr濃度B(mg/L)から、有機物除去率R(%)を式(3)に従い算出した。
【0127】
[式3]
R=(1-B/A)×100 (3)
【0128】
表1に示す試験結果から、以下の(1),(2)が確認された。
(1)気体透過膜21の酸素供給速度が25gO2/m2/day以上である場合には、CODcr除去性能が30gCODcr/m2/day以上となること。
(2)気体透過膜21の酸素供給速度が6gO2/m2/day以上25gO2/m2/day未満である場合には、CODcr除去性能が8gCODcr/m2/day以上となること
【0129】
また本願の発明者らは、本発明の実施例の気体透過膜の短期耐圧力・長期リーク性能を確認する試験を行った。以下の表2に、本試験で使用した気体透過膜21のスペックや、試験結果を示す。
【0130】
【表2】
【0131】
<実施例1>
実施例1は、微生物支持層213、基材211、気体透過性無孔層212の順に積層したものであり、基材211として、積水化学工業社製セルポアNW07Hに含まれる微多孔膜を使用し、微生物支持層213として、上記セルポアNW07Hに含まれるポリオレフィン不織布を使用した(セルポアNW07Hは、不織布、微多孔膜、不織布の3層構成であるが、このうち、片方の不織布を微生物支持層213として使用し、ポリオレフィン微多孔膜を基材211として使用した)。基材211の厚みは90umであった。微生物支持層213の目付量は10g/m2、厚みは25umであった。
【0132】
また実施例1では、基材211上にメチルビニル系シリコン樹脂、架橋剤、白金系の触媒等を混合した混合液をバーコーターを用いて塗布したのち、70℃の雰囲気下に1時間静置することで、基材211上に気体透過性無孔層212を積層している。上記シリコン樹脂として、旭化成ワッカーシリコーン社製の型番「NC1910」を使用しており、当該シリコン樹脂の硬化後における目付量は20g/mである。
【0133】
<実施例2>
実施例2は、気体透過性無孔層212を形成するためにシリコン樹脂の代りに大日精化工業社製の型番「ハイムレンY-237NS」のウレタン樹脂を用いたことや、当該樹脂の目付量を10g/mにした以外は実施例1と同様である。
【0134】
<実施例3>
実施例3は、気体透過性無孔層212を構成する樹脂の目付量を40g/mとした以外は実施例1と同様である。
【0135】
<実施例4>
実施例4は、気体透過性無孔層212を構成する樹脂の目付量80g/mとした以外は、実施例1と同様である。
【0136】
<実施例5>
実施例5は、基材211として、スリーエム社製マイクロポーラスフィルム(厚み40um)を用いた以外は実施例3と同様である。
【0137】
<実施例6>
実施例6は、基材211として、三菱樹脂社製エクセポールE BSPBX-4(膜厚23μm)を用いた以外は実施例4と同様である。
【0138】
<実施例7>
実施例7は、微生物支持層213として、ユニチカ社製エルベスSO203WDO(目付量20g/m2)を用いた以外は実施例3と同様である。
【0139】
<実施例8>
実施例8は、微生物支持層213として、ユニチカ社製エルベスT0503WDO(目付量50g/m2)を用いた以外は実施例3と同様である。
【0140】
<実施例9>
実施例9は、気体透過性無孔層212を構成する樹脂の目付量を100g/mとした以外は、実施例1と同様である。
【0141】
<実施例10>
実施例10は、微生物支持層213として、ユニチカ社製エルベスT0703WDO(目付量70g/m2)を用いた以外は実施例5と同様である。
【0142】
<実施例11>
実施例11は、気体透過性無孔層212を構成する樹脂の目付量を8g/mとした以外は、実施例1と同様である。
【0143】
<実施例12>
実施例12は、気体透過性無孔層212をリバースロールコーターとそれに付随する加熱装置にて連続的に作製したこと以外は、実施例1と同様である。
【0144】
<実施例13>
実施例13は、気体透過性無孔層212をスリットコーターとそれに付随する加熱装置にて連続的に作製すること以外は、実施例5と同様である。
【0145】
<実施例14>
実施例14は、基材211上に紫外線硬化性のシリコン樹脂混合液を、リバースロールコーターを用いて塗布したのち、紫外線照射にて硬化させたこと以外は、実施例1と同様である。
【0146】
<実施例15>
実施例15は、基材211として、積水フィルム製透湿フィルム、セルポアNW07Hの微多孔膜のみを用い、前記微多孔膜上に実施例2と同様の方法で樹脂層を積層した。前記樹脂層の上に上記セルポアNW07Hに含まれるポリオレフィン不織布を積層し、70℃の雰囲気下に1時間静置し、基材211、気体透過性樹脂層、微生物支持層213の順の実施例10の気体透過膜を得た。
【0147】
<比較例1>
比較例1は、基材211にポリエステル系の不織布であるユニチカ社製の型番「マリックス 82607WSO」を用い、前記不織布上に樹脂層を実施例1と同様の方法で積層した。気体透過性無孔層の樹脂の目付量は20g/mであった。
【0148】
<短期耐圧力>
短期試験は、短期耐圧力(リーク圧力)を測定することにより実施した。
具体的には、主にJIS K 6404-7:1999、A21:高水圧-小形試料法(動圧法)の一部を改変した方法で、短期耐圧力を計測した。短期耐圧力は、試験片を通して水が最初に現れた際の圧力計の値である。以下、高水圧-小形試料法(動圧法)との相違点を挙げる。試験片である気体透過膜の水圧を負荷する面と反対側の面に、サポート不織布(ユニチカ製マリックス 82607WSO)を重ねた。試験片を通して現れた水が確認しやすいように、試験に用いる水は、食紅を添加したイオン交換水とした。水圧を上げる速度は、1分間あたり0.1MPaとした。
【0149】
<酸素供給性能、浄化処理性能>
本試験においても、上述した酸素供給性能試験や浄化処理性能試験と同様の方法で、酸素供給速度Q(gO2/m2/day)や、有機物除去率R(%)を算出した。
【0150】
<長期リーク性能>
長期リーク性能は廃水処理装置に配置された気体透過膜の空気側表面を目視観察にて、もしくは、塩化コバルト紙を用いて漏水の有無を確認し評価した。
【0151】
また、微生物支持層を有する実施例1~15と、微生物支持層を有しない比較例16とを比較すると、実施例1~15の有機物除去率は、いずれも、比較例1の有機物除去率よりも高かった。これにより、微生物支持層が気体透過膜に設けられることで、廃水処理装置の浄化性能を高めることができることが確認された。
【0152】
基材をPET/PE系の不織布から構成した比較例1では、短期耐圧力が0.05MPaであった。また比較例1を用いた廃水処理装置では、2か月後にシートの空気側への漏水が見られ、長期リーク性能は不良であった。また漏水のため、比較例1の浄化処理性能は測定できなかった。
【0153】
これに対して、基材を微多孔膜から構成した実施例1~15は、いずれも、短期耐圧力が0.2MPa以上であり比較例1よりも高かった。また実施例1~15を用いた廃水処理装置では、長期に亘って、シートの空気側への漏水が確認されず、長期リーク性能が良好であった。以上により、微多孔膜から構成される基材が、気体透過膜に設けられることで、防水性を高めることができることが確認された。これより、短期耐圧力が0.2MPa以上であれば、長期耐圧力性能も確保できることが示される。
【0154】
また、気体透過性無孔層の樹脂がシリコンである実施例1、3~14と、気体透過性無孔層の樹脂がウレタンである実施例2,15とを比較すると、実施例1、3~14の酸素供給性能は、いずれも、実施例2,15の酸素供給性能よりも高かった。これにより、気体透過性無孔層の樹脂をシリコンとすることで、気体透過膜の酸素供給性能を高めることができることが確認された。
【符号の説明】
【0155】
10 気体供給体
12 気体送出層
21 気体透過膜
50 廃水処理装置
51 廃水処理槽
51a 流入口
51b 流出口
60 供給体ユニット
80 潜り堰
81 越流堰
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15