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  • 特許-活性酸素消去酵素産生促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】活性酸素消去酵素産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20220607BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20220607BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20220607BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/67
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K36/48
A61K31/455
A61P17/18
A61P43/00 121
A61P43/00 105
A61P39/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018103947
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019206503
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】平 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山越 大槻
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-321381(JP,A)
【文献】特開2008-115087(JP,A)
【文献】国際公開第2018/004212(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0135948(US,A1)
【文献】特開2016-011296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/33-33/44
A61K 36/00-36/05
A61K 36/07-36/9068
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイズ抽出物及びビタミンB3を含有し、
前記ダイズ抽出物及び前記ビタミンB3の質量含有割合(固形分換算)が1:1~1:50000である、
スーパーオキシドディスムターゼ2産生促進のための化粧料又は皮膚外用剤
【請求項2】
前記スーパーオキシドディスムターゼ2産生促進が、ヒト皮膚線維芽細胞に適用されるものである、請求項1記載の化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項3】
前記スーパーオキシドディスムターゼ2産生促進が、加齢による、肌のたるみ或いはシミの予防又は改善である、請求項1又は2記載の化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項4】
前記ダイズ抽出物が、加水分解ダイズ抽出物である、請求項1~3のいずれか一項記載の化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項5】
前記ダイズ抽出物が、ダイズ種子を水又は水を含む水溶性溶媒にて、60~90℃の加温抽出された抽出物である、請求項1~4のいずれか一項記載の化粧料又は皮膚外用剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素産生促進剤、具体的には活性酸素消去酵素産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素の機能性を期待して、酵素入りサプリや酵素入り化粧品の需要が高くなっている。当該酵素として例えばリゾチームがよく知られているが、当該リゾチームは食品、医薬品、化粧品等の幅広い分野で使用され、炎症抑制のために皮膚外用剤や化粧料に配合されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-72572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、酵素入り製品は、皮膚バリアや消化分解等によって、酵素自体は体内に浸透しない、あるいは酵素自体が失活する等といった問題点がある。
ここで、体内の活性酸素を消去するため、活性酸素消去酵素を皮膚に塗布したり経口摂取しても、活性酸素消去効果を十分に発揮させることは難しいと本発明者は考えた。このため、本発明者は、体内でできた活性酸素を消去させる際に生体機能を上手に利用した方が効率性がよいと考えて、生体機能を利用して体内の活性酸素を消去する技術(例えば、体内の活性酸素消去酵素の産生を促進する物質等)を検討することにした。
【0005】
そこで、本技術は、活性酸素消去酵素を産生促進し、活性酸素消去酵素の量を増やす技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、後記実施例に示すように生体組織モデルを用いて活性酸素消去酵素の産生を促進する物質について鋭意検討した。その結果、本発明者はヒト由来細胞において、全く意外にもダイズ抽出物及びビタミンB3を併用させることで、活性酸素消去酵素の発現量を相乗効果的に増量できることを見出し、本技術を完成させた。
【0007】
斯様にして、本発明者は、本発明を完成させ、本発明は以下の通りである。
本技術は、ダイズ抽出物及びビタミンB3を有効成分とする、活性酸素消去酵素産生促進剤を提供するものである。
前記活性酸素消去酵素が、スーパーオキシドディスムターゼ2(SOD2)であってもよい。
前記ダイズ抽出物が、加水分解ダイズ抽出物であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本技術によれば、活性酸素消去酵素を産生促進し、体内の活性酸素消去酵素の量を増やす技術を提供することができる。ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】活性酸素消去酵素(SOD2)の産生促進を示す図である。縦軸は、各試料におけるβ-アクチンの発現量に対するSOD2の発現量比/対照におけるβ-アクチンの発現量に対するSOD2の発現量比である。図中のN.S.:有意差なし、*:P<0.05である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本技術の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態に限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。また、本明細書においては、~を用いて数値範囲を表す際は、その範囲は両端の数値を含むものとする。
【0011】
本技術は、ダイズ抽出物及びビタミンB3を有効成分とする活性酸素消去酵素産生促進剤である。これにより、活性酸素消去酵素の産生を促進させることができ、体内の活性酸素消去酵素の量を増やすことができる。
【0012】
<ダイズ抽出物>
本技術に用いられるダイズ抽出物(好適には加水分解ダイズ抽出物)について以下に説明する。
【0013】
本技術のダイズ抽出物は、ダイズ由来であれば特に限定されない。
本技術の抽出物の原料であるダイズは、マメ科ダイズ属ダイズ(Glycine max)植物(以下、「ダイズ植物」ともいう)のことであり、マメ科の一年草である。当該ダイズ植物の種類として、例えば、黄ダイズ、黒ダイズ、青ダイズ、赤ダイズ、茶ダイズ、白ダイズ、鞍掛豆等が挙げられ、このようにダイズ植物の種子の色で分類されることもある。また、ダイズ植物の種子の大きさで大粒種、中粒種、小粒種で分類できるが、本技術において特に限定されない。このうち、流通量及び本技術の酵素産生促進の観点から、黄ダイズ植物及び/又は黒ダイズ植物が好適であり、より好適には黒ダイズ植物である。
【0014】
黄ダイズ植物の種子は、一般的に穀物大豆の種子として多く栽培され加工食品等に広く使用されている通常の大豆である。また、黒ダイズ植物は、ダイズの品種のひとつであり、当該黒ダイズの種子は黒大豆の他、黒豆又はぶどう豆とも呼ばれている。黒ダイズの種子は、通常のダイズの種子よりも種皮にアントシアニン系色素を多く含むが、栄養成分(蛋白質、脂質、糖質等)的には黄ダイズの種子と同等の栄養成分である。
本技術の原料として、これらダイズ植物から1種又は2種以上を選択して用いることができる。
【0015】
前記ダイズ植物の抽出に使用する部位として、何れの部位を用いてもよいが、例えば、種子、葉、茎、根及び全草等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択したものを用いることができる。このうち、本技術の酵素産生促進の観点から、種子及び/葉が好ましく、より好ましくは種子である。
【0016】
前記ダイズ植物抽出の部位は、乾燥、粉砕、切断又は細断等の適宜処理を施したものを使用することができ、当該処理後に抽出を行うことが望ましい。
【0017】
前記ダイズ植物の抽出方法は、特に限定されない。例えば、当該抽出は、前記ダイズ処理物の抽出部位を一定温度(低温、室温又は加温)下にて、所定期間、浸漬法、向流抽出法等の常法の抽出法にて抽出溶媒を用いて行えばよい。前処理として、抽出部位を、必要に応じて予め水洗浄して異物を除去した後、これをそのまま又は乾燥し、さらに必要に応じて切断又は粉砕してもよい。また、必要に応じて、超臨界抽出法を採用してもよい。
【0018】
前記抽出に用いられる溶媒として、特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒等が挙げられ、また、超臨界状態の二酸化炭素や水等を用いることもできる。
前記有機溶媒として、例えば、アルコール類;アセトン等のケトン類;エチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;ヘキサン、ベンゼン等の炭化水素等が挙げられる。この有機溶媒のうち、アルコール類等の水溶性有機溶媒が好ましい。
本技術に用いられる溶媒として、これらから選ばれる1種又は2種以上のものを用いることができる。
【0019】
前記アルコール類として、例えば、低級1価アルコール(例えば、メタノール、エタノール等);液状多価アルコール(例えば、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)等が挙げられる。
前記アルコール類は、1価アルコール類及び2価アルコール類が好ましく、アルコール類の炭素数は1~5程度であるのが好ましい。
【0020】
前記抽出溶媒のうち、水及び/又はアルコール類(好適には炭素数1~4)が好ましい。前記アルコール類として、メタノール、エタノール、プロピレングリコール及び1,3-ブチレングリコール(1,3-BG)から選ばれる1種又は2種以上のものが好ましい。
【0021】
この抽出溶媒のうち、さらに好ましくは、水、エタノール及び1,3-ブチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上の混合のものであり、より好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、エタノール水混合溶液、1,3-ブチレングリコール水混合溶液であり、よりさらに好ましくは水である。
また、アルコール水溶液の場合、水濃度(V/V)は、好ましくは0~100体積%であり、より好ましくは15~96体積%であることが好適である。
【0022】
抽出する際のpHは、特に限定されないが、一般的にpH4~9の範囲とすることが好ましい。
pH調整は、前記した抽出溶媒中に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性調整剤;クエン酸、塩酸、リン酸、硫酸等の酸性調整剤等を適宜使用することができる。
【0023】
前記ダイズ抽出物の好ましい抽出方法の例として、前記ダイズ植物を、前記抽出溶媒にて、室温(例えば1~30℃程度)又は加温(例えば30~100℃程度)で、5分間~50日間抽出を行う方法が挙げられる。このときの抽出溶媒として、水、アルコール類、又は水-アルコール類混合液の何れかが好ましく、さらに好ましくは、水又は水を含む溶媒である。
【0024】
前記抽出は、室温抽出又は加温抽出のいずれでもよい。抽出温度は、一般的な4~100℃が好ましく、より好ましくは40~90℃の範囲である。抽出時間は、4~40℃の冷温抽出の場合で1時間~50日間(好適には24時間~20日間);40~60℃の中温抽出の場合で1時間~20日間(好適には3~5日間);60~90℃の高温抽出の場合で1~8時間(好適には1~5時間)ですることができる。また、溶媒中に一定時間(例えば1~48時間)浸漬した後に、加温して抽出を行うこともできる。浸漬法の場合、浴比は質量比で、ダイズ植物1に対して溶媒が1~200倍量が好ましく、1~100倍量がより好ましい。
【0025】
上述のようにして、得られたダイズ抽出物は、一般的にpH4~8に調整し、又は適宜希釈若しくは濃縮により所望の濃度とした上で、ろ過等により不純物を除去し、任意の成分を配合してもよい。また、適宜、スプレードライ法、凍結乾燥法等の常法に従って粉末化してもよい。得られたダイズ抽出物の形態は特に限定されず、例えば、液状、固形状、半固形状、粉末状等を挙げることができる。
【0026】
なお、ダイズ抽出物として、市販品を使用することもでき、例えば、豆乳、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白等のダイズ種子抽出物が挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて使用してもよい。
【0027】
なお、大豆蛋白の原料となる脱脂大豆は、糖類、灰分、細胞壁等の繊維(オカラ)と蛋白質で構成されている。このうち主に糖類と灰分等を除去したものを「濃縮大豆蛋白」、蛋白質だけを分離したものを「分離大豆蛋白」と称している。濃縮大豆蛋白は70%程度(60~80%程度)の蛋白質分を含む製品であり、分離大豆蛋白は、90%程度(80~95%程度)の蛋白質分を含む高純度の製品である。
【0028】
本技術のダイズ抽出物は、好ましくは加水分解ダイズ抽出物であり、当該加水分解ダイズ抽出物は、ダイズ抽出物を加水分解処理したものである。当該加水分解ダイズ抽出物は、ダイズ抽出時及び/又は抽出後にさらに加水分解処理を施して得られるものが好適である。当該加水分解ダイズ抽出物として、加水分解酵素処理ダイズ抽出物が好ましく、当該酵素処理として好ましくはプロテアーゼ処理である。
【0029】
本技術の加水分解ダイズ抽出物の加水分解処理は、上述のような抽出と同時に又は抽出終了後に、酵素又は酸或いはアルカリを用いて行うことができる。本技術の加水分解ダイズ抽出物は、上述したダイズ植物の抽出後に、さらに加水分解処理を行うことがより好適である。
当該加水分解処理は、酸又はアルカリよりも、酵素を用いて行うことが望ましい。技術において、得られる加水分解物の均質性や分解の調節の容易さ、さらに作業性等の観点から、酵素による加水分解処理物を用いることが好適である。
当該加水分解酵素処理に際しては、あらかじめダイズ抽出物を含む水溶液のpHを酵素の至適pH付近に調整することが望ましい。又、当該酵素による加水分解処理を抽出と同時に行う場合には、抽出する際のpHを酵素の至適pH付近に保持することが望ましい。
【0030】
本技術の加水分解ダイズ抽出物は、ダイズから抽出後に、さらに酸又はアルカリによる加水分解処理を行うことが好ましい。
酸による加水分解処理の場合はpH3以下に調整した水性溶媒を用いて加温(60~90℃、1~6時間)処理、又はアルカリによる加水分解の場合はpH8.5以上に調整した水性溶媒を用いて加温(60~90℃、1~6時間)を行うことである。なお、酸性調整剤及びアルカリ性調整剤は、上述のものを用いることができる。
【0031】
本技術の加水分解ダイズ抽出物は、ダイズ植物抽出後に、さらに酵素による加水分解処理を行うことが好ましい。
加水分解処理に用いる酵素として、プロテアーゼを用いることが好適である。当該プロテアーゼにより、ダイズ抽出物に含まれるタンパク質又はペプチド中のペプチド結合を加水分解することができる。酵素を用いることにより、安定的に分解されたペプチド等を得ることができる。
前記プロテアーゼは特に限定されず、適宜市販品を用いてもよい。当該プロテアーゼとして、例えば、パパイン類酵素(例えば、パパイン、キモパパイン等)、アクチナーゼ類(例えば、アクチナーゼ等)、ペプシン類(例えば、ペプシン等)、プロメライン、微生物由来のプロテアーゼ(例えば、細菌プロテアーゼ、糸状菌プロテアーゼ、複合酵素等)等が挙げられる。これらから選ばれる1種又は2種以上を選択してもよい。
このうち、微生物由来のプロテアーゼの使用が好適である。なお、糸状菌プロテアーゼとして、例えば、デナチームAP(ナガセケムテックス社)、デナプシン2P(ナガセケムテックス社);細菌プロテアーゼとして、例えば、デナチームPMC SOFTER(ナガセケムテックス社);複合酵素として、例えば、ニューラーゼ F3G(プロテアーゼ・リパーゼ等の含有酵素)(天野エンザイム株式会社製)等が挙げられる。
【0032】
前記酵素による加水分解処理は、上述で得たダイズ抽出物の固形分に対して、一般に0.001~3質量%が好ましく、より好ましくは0.01~1質量%の酵素を用いることが好適である。使用する酵素に応じて、使用酵素の至適pH及び至適温度に調整して行うことが好適である。処理時間は、酵素加水分解処理を抽出と同時に行う場合は抽出時間と同一であってもよいが、酵素処理を抽出後に行う場合には、下限値として好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上であり、上限値として好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、さらに好ましくは5時間以下であり、当該酵素処理時間として、生産効率の観点から、より好ましくは1~5時間、よりさらに好ましくは2~4時間である。また、酵素処理温度は使用するプロテアーゼの至適温度で行うことが可能であるが、例えば30~50℃(より好適には35~45℃)で行うことが好ましい。また、酵素による加水分解後に、加温等(例えば60℃~95℃で10分~120分)の方法により当該酵素の失活処理を施しても良い。
【0033】
なお、本技術のダイズ抽出物(より好適には加水分解ダイズ抽出物)は、そのまま有効成分として使用してもよいし、本技術の効果を損なわない範囲で夾雑物等不純物を除去するため又は効果を高めるために、適宜、公知の分離精製方法にて処理してもよい。例えば、必要に応じて、さらに抽出溶媒の除去、濾過、イオン交換樹脂等の脱臭、脱色等の精製処理を施した後に用いることもできる。また、液体クロマトグラフィー等の分離手段を用いて、活性の高い画分を用いることができる。
【0034】
また、本技術のダイズ抽出物(より好適には加水分解ダイズ抽出物)は、抽出物単独で又は異なる調製方法にて得られた抽出物を混合してそのまま用いるか、又は当該抽出物を希釈、濃縮又は乾燥させて、液状、粉末状、ペースト状に調製して用いることもできる。また、当該ダイズ抽出物は、一般的にpH4~8に調整し、又は適宜希釈若しくは濃縮により所望の濃度とした上で、ろ過等により不純物を除去し、任意の成分を配合してもよい。また、当該ダイズ抽出物は、適宜、スプレードライ法、凍結乾燥法等の常法に従って粉末化してもよい。
【0035】
<ビタミンB3>
本技術で用いられるビタミンB3は、ナイアシンとも呼ばれ、ビタミンB3は、ニコチン酸及びニコチン酸アミドの総称である。本技術において、ニコチン酸及び/又はニコチン酸アミドが好適であり、ニコチン酸アミドがより好適である。本技術の効果を損なわない範囲内で、これらを適宜塩又は誘導体にしてもよい。
本技術のビタミンB3は、公知のビタミンB3の製造方法を利用して製造してもよいし、市販品を使用することもできる。
また、本明細書において特に言及しない場合は、ビタミンB3量はニコチン酸アミド量(固形分)換算として表記する。
【0036】
一般的にビタミンB3は、水溶性ビタミンB複合体の1つであり、脂質・糖質・タンパク質の代謝に利用されるものである。ビタミンB3が欠乏すると皮膚炎、口内炎、神経炎、下痢等の症状が生じるとされている。また、ビタミンB3は、水溶性であること;熱、酸、アルカリ又は光に対して安定であること;過剰摂取しても安全性も高いこと;エネルギー代謝中の酸化還元酵素の補酵素として重要であることが知られている。
【0037】
<ダイズ抽出物及びビタミンB3の質量含有割合>
本技術のダイズ抽出物及びビタミンB3の質量含有割合(固形分換算)は、特に限定されないが、より良好な酵素産生促進の観点から、好ましくは1:0.01~1:100000、より好ましくは1:0.1~1:50000、さらに好ましくは1:1~1:10000であり、より好ましくは1:1~1:2000、さらに好ましくは1:1~10000、より好ましくは1:1~1:500である。
【0038】
本技術のダイズ抽出物の含有量は、特に限定されないが、最終製品中に、固形分換算で、好ましくは0.00001~1質量%、より好ましくは0.0001~0.5質量%、さらに好ましくは0.0005~0.1質量%である。
【0039】
本技術のビタミンB3の含有量は、特に限定されないが、最終製品中に、ニコチン酸アミド量(固形分)換算で、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.1~15質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%である。
なお、本明細書において「最終製品」とは、ユーザが使用するときの製品であり、例えば、化粧品、皮膚外用品、医薬品等が挙げられる。
【0040】
<活性酸素消去酵素の産生促進作用、及び当該酵素の産生促進方法・増量方法>
後記実施例に示すように、本技術のダイズ抽出物及びビタミンB3の併用は、活性酸素消去酵素の産生促進作用(好適にはSOD2の産生促進作用)等を有する。これにより活性酸素消去酵素を産生促進できるので、体内の活性酸素消去酵素(より好適にはSOD2)の量を増量させることができる。これにより、活性酸素消去酵素が有する各種機能性(例えば、活性酸素消去能)を改善又は向上させることができる。また、活性酸素に起因する各種症状又は疾患を予防、改善又は治療することもできる。
【0041】
前記活性酸素消去酵素には、例えば、スーパーオキシドジスムターゼ(以下、「SOD」ともいう)、ペルオキシダーゼ及びカタラーゼ等が挙げられ、本技術であればこれら活性酸素消去酵素の産生を促進させ、当該活性酸素消去酵素を体内で増やすことができる。
さらに本技術は、後記〔実施例〕に示すように、スーパーオキシドジスムターゼ(より好適にはSOD2)に対してより好適に産生促進作用を有し、体内でSOD(より好適にはSOD2)を増量させることができる。
【0042】
ここで、SODは多くの動物に共通して見られる活性酸素消去酵素のひとつで、スーパーオキシドアニオンを消去する働きがある。ヒトを含む大部分の脊椎動物では、SOD1、SOD2、SOD3の3種類のSODが存在し、それぞれSOD1は細胞質、SOD2はミトコンドリア、SOD3は細胞間に局在している。SOD1及びSOD3は活性中心に銅イオンまたは亜鉛イオンを補因子として持つCuZnSODであり、SOD2はマンガンイオンを活性中心に持つMnSODである。
【0043】
前記SOD2は、分子量約24.8KDaのホモ4量体からなる活性酸素消去酵素で、ヒトではクロモソーム6上に遺伝子が位置し、24個のアミノ酸からなるミトコンドリア移行配列を持つことによって、翻訳された後にミトコンドリアへと移行し局在することが可能になる。そして、SOD2はミトコンドリアで常時発生しているスーパーオキシドアニオンを速やかに消去し、ミトコンドリアの恒常性維持を担う重要な働きをしている。
【0044】
ここで、ミトコンドリアはヒトを含む真核生物の細胞に存在する細胞内小器官で、主に電子伝達系における酸化的リン酸化によりATPを産生する重要な役割を担っている。細胞一つあたりには数百個~数千個のミトコンドリアが存在しており、細胞の恒常性維持や各種タンパク質の産生、分裂、分化等の様々な細胞活動に必要なエネルギーのほとんどが、ミトコンドリアで産生されるATPをエネルギー源としている。ミトコンドリアはそのほかのエネルギー獲得サイクルに比べて非常に効率良くATPを産生できる反面、消費する酸素のうち2~5%程度は生体障害性の高い活性酸素種であるスーパーオキシドアニオンに変換されてしまうことが知られている。このスーパーオキシドアニオンは、ミトコンドリア内に存在する、エネルギー産生やミトコンドリア自身の恒常性維持に関わる各種タンパク質や酵素を障害したり、ミトコンドリアDNAに損傷や変異を起こすことにより、ミトコンドリアの機能低下やミトコンドリア病と総称される各種疾患又は症状の原因になると考えられている。
【0045】
このため、SOD2が減少すると発生するスーパーオキシドアニオンを十分に消去できなくなるため、消去できなかったスーパーオキシドアニオンによって、ミトコンドリア膜脂質やミトコンドリア内タンパクが障害されたり、ミトコンドリアDNAが変異しこの変異が蓄積する。このようにSOD2が減少することでミトコンドリアの機能が低下する。そして、ミトコンドリアの機能の低下は、呼吸鎖複合体の活性低下、ATP産生低下等に繋がっていく。
【0046】
従って、なんらかの原因によりSOD2量が減少したり作用が減弱した場合は、ミトコンドリア機能(以下、「ミトコンドリアの質」ともいう)の低下につながる可能性が高い。SOD2が十分に存在していれば、常時発生しているスーパーオキシドアニオンは速やかに消去され、ミトコンドリアの機能が保たれる。このため、ミトコンドリアの質を、低下抑制、維持又は向上させるためには体内のSOD2の産生能を高めることが重要である。
【0047】
本技術であれば、後記〔実施例〕に示すようにSOD2発現量試験においてSOD2の増量が認められることから、上述のようなミトコンドリアの質の低下を抑制させること等が可能である。さらに、発明者らの検討において、ヒト皮膚線維芽細胞において加齢にともなってSOD2量が減少することが明らかになったことから、本技術であればヒト皮膚線維芽細胞のSOD2量を増量させることができるので、加齢に伴った肌等におけるミトコンドリアの質の低下を抑制することができる。
【0048】
さらに、本技術では、ミトコンドリアに局在するSOD2に対して産生促進作用が発揮可能であることから、ミトコンドリア内に発生する活性酸素を効率よく消去することが可能である。このようなことは、従来のDPPHラジカル消去活性のような直接的な抗酸化作用からは予測し得ないことである。また、抗酸化物質は、体内に投与されても希釈化や分解等があるため、目的とする体内の局所で十分な活性酸素の消去効果を発揮させることが難く、仮に十分な効果を発揮させるように大量投与させると、例えば静電気的な相互作用にてタンパク質を変性させる場合もあるため、体内の酵素及び正常細胞に対しても変性力が発揮されるおそれが高くなる。また、ミトコンドリアは2重の脂質膜に覆われて物質の出入りが選択制御されていることから、一般的な抗酸化物質を投与したとしてもそれがミトコンドリア内に到達して作用を発揮することは非常に困難であるので、SOD2の産生そのものを高めることが有用である。
【0049】
ミトコンドリア内に局在するSOD2が、疲労や加齢等により産生能が低下し量が減少した場合、ミトコンドリアはエネルギー代謝機構によって活性酸素が多く発生しているため、この活性酸素によって損傷等を受けやすくなり、この損傷等によってミトコンドリアの質が低下する。本技術であれば、ストレス、疲労や加齢等によるミトコンドリアの質の低下を抑制することができ、また、ミトコンドリアの機能を向上させることができる。
【0050】
従って、本技術のダイズ抽出物及びビタミンB3の併用は、活性酸素消去酵素産生促進作用、活性酸素消去酵素増量作用、ミトコンドリアの質向上作用・質低下抑制作用等を目的として使用することができ、そのまま使用することもでき、各種製剤又は各種組成物の有効成分として含有させて使用することができる。また、本技術はダイズ抽出物及びビタミンB3を別々の状態にしておいて使用する際にこれらを組み合わせて適用することができる。本技術のダイズ抽出物及びビタミンB3の併用は又はこれら含有の各種製剤若しくは各種組成物は、化粧料、皮膚外用剤、医薬品、飲食品、又は動物飼料等に配合することができ、また化粧料、皮膚外用剤等としても使用することができる。
【0051】
また、本技術のダイズ抽出物及びビタミンB3の併用は、活性酸素消去酵素の産生を促進する方法;生体内の活性酸素消去酵素の増量方法;活性酸素の存在、SOD量減少(好適にはSOD2量減少)、又はミトコンドリアの質(機能)の低下に起因する各種症状又は疾患の予防・改善・治療方法に使用することができる。当該肌での症状又は疾患として、例えば、たるみ、シミ等が挙げられる。
【0052】
一般的に、SOD2量が減少することにより、膜脂質過酸化やミトコンドリアDNAダメージが増加すること;コハク酸デヒドロゲナーゼ(呼吸鎖複合体II)活性低下;ATP産生低下等が生じることが知られていることから、本技術は、ミトコンドリア膜脂質の過酸化防止、ミトコンドリアDNAの損傷防止、及びコハク酸デヒドロゲナーゼ活性向上、ATP産生向上等に有効である。
【0053】
また、線維芽細胞で特異的にSOD2量を減少させると、全身の結合組織に皮膚組織の萎縮、骨密度低下、筋肉減少等の症状が生じることが知られていることから、本技術は、皮膚組織の萎縮抑制、骨密度の低下抑制、筋力低下抑制等に有効である。
特に皮膚組織ではSOD2量が減少することにより、真皮層、皮下脂肪層、皮筋層の萎縮;コラーゲン産生能力の低下;細胞分裂能力の低下;セネッセンスセルの増加;表皮幹細胞の複製能力低下;表皮幹細胞の減少;老化固体における創傷治癒遅延等が知られているため、本技術は、真皮層、皮下脂肪層、皮筋層の恒常性維持;コラーゲン産生能力の低下抑制及び向上;細胞分裂能力の低下抑制;セネッセンスセルの発現防止;表皮幹細胞における複製能力低下防止;表皮幹細胞数の減少防止;老化固体における創傷治癒促進;肌のハリ、キメ、なめらかさ、明るさの維持改善等に有効である。
また、本技術は、活性酸素消去酵素の産生促進用;ミトコンドリアの質低下抑制作用;ミトコンドリア内における活性酸素に対する防御機能(例えばSOD2量)低下の抑制作用等のための、ダイズ抽出物及びビタミンB3の組み合わせ、並びにこれらの使用を提供することができる。
また、本技術は、上述した活性酸素消去酵素の産生促進用等の各種製剤又は各種組成物を製造するために、ダイズ抽出物及びビタミンB3の組み合わせ、並びにこれらの使用を提供することができる。当該各種製剤又は各種組成物は、公知の製造方法を利用して製造することができる。
【0054】
本技術の適用対象であるヒト若しくはヒト以外の動物(例えば、ペット、家畜等)に使用してもよく、また治療目的使用であっても、非治療目的であってもよい。「非治療目的」とは、医療行為、すなわち、治療による人体への処置行為を含まない概念である。「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転;悪化の防止又は遅延;進行の逆転、防止又は遅延をいう。「予防」とは、適用対象における疾患若しくは症状の発症の防止や遅延、又は適用対象の疾患若しくは症状の発症の危険性の低下をいう。
【0055】
本技術において、本技術のダイズ抽出物及びビタミンB3の併用の他に、必要に応じて、任意の成分を組み合わせて使用してもよい。任意成分として、化粧品、皮膚外用剤、医薬品、食品又は飼料等において許容される成分を適宜使用することができる。任意成分として、例えば、糖類、糖アルコール類、多糖類、pH調整剤、脂肪酸エステル類、矯味矯臭剤、香料、賦形剤等が挙げられる。
【0056】
<本技術の製剤又は組成物(活性酸素消去酵素産生促進剤等)の剤形>
本技術に係る製剤又は組成物(例えば活性酸素消去酵素産生促進剤等)(以下、「本技術の製剤等」といもいう)は、化粧料、医薬部外品、医薬品、飲食品等幅広い分野での利用が可能であり、その剤形は特に限定されない。具体的には、例えば、クリーム状、ゲル状、液状、懸濁状、粉末状、フォーム状、シート状、固形のもの等が挙げられる。
【0057】
<本技術の製剤等の化粧料(薬用化粧料)への適用>
本技術の製剤等を化粧料・薬用化粧料に適用する場合、特に限定されないが、例えば、皮膚化粧料、口唇化粧料に配合されることが好ましい。具体的には、ハンドクリーム、化粧水、乳液、美容液、フェイスクリーム、クレンジングクリーム、洗顔石鹸、パック、日焼けクリーム、日焼けローション、日焼け止めクリーム、化粧下地、ファンデーション、おしろい、パウダー、口紅、リップグロス、リップクリーム、アイクリーム、アイシャドウ、シャンプー、リンス、コンディショナー、ボディシャンプー、ボディローション、育毛剤等の製品にすることができる。
【0058】
本技術の製剤等には、上述した目的(例えば活性酸素消去酵素産生促進等)のための有効成分であるダイズ抽出物及びビタミンB3の他に、化粧料等に用いられる他の各種成分、例えば、基剤、保湿剤、美白剤、抗酸化剤、抗炎症剤、血行促進剤、細胞賦活剤、紫外線吸収剤等を適宜配合することができる。
【0059】
また、本技術の製剤等には、賦形剤、崩壊剤、結合剤、可塑剤、乳化剤、滑沢剤、増粘剤、糖類、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、色素、pH調整剤、香料、清涼剤、収斂剤、増泡剤等を含めてもよい。
【0060】
<本技術の製剤等の皮膚外用剤(医薬品・医薬部外品)への適用>
本技術の製剤等を皮膚外用剤(医薬品・医薬部外品)に適用する場合、例えば、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤等の剤形にすることができる。
【0061】
本技術の製剤等の適用方法は、肌や口唇に適量を塗布、噴霧、散布、浸潤、湿布等で適用することが好ましいが、特に限定されない。なお、本技術の化粧料、薬用化粧料又は医薬部外品の何れにおいても皮膚外用剤と同様に適用できる。
【0062】
本技術の製剤等には、上述した目的(例えば活性酸素消去酵素産生促進等)のための有効成分であるダイズ抽出物及びビタミンB3の他に、化粧料、医薬品等に通常用いられる各種成分を適宜配合することができる。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、可塑剤、乳化剤、滑沢剤、増粘剤、糖類、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、色素、pH調整剤、角質溶解剤、創傷治療剤、抗菌剤、抗アレルギー剤等を含めてもよい。薬理学的に許容される添加剤及び医薬製剤の分野で通常使用し得る添加剤を、1種以上又は2種以上組み合わせて適宜含有させることができる。
【0063】
皮膚外用剤、医薬品、医薬部外品等は、医薬品等の製造技術分野において慣用の方法(例えば、医薬品であれば日本薬局方に記載の方法或いはそれに準じる方法)に従って、目的に応じて、製造することができまた使用することができる。
【0064】
<本技術の製剤等の飲食品への適用>
本技術の製剤等を飲食品に適用する場合、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料(ペット用を含む)等の他、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料・食品類、冷凍食品、菓子類、飲料、これら以外の市販食品等にすることができる。
また、上述した効果(例えば活性酸素消去酵素産生促進等)から想定される用途が表示された飲食品とすることも可能であり、これを機能性食品(例えば、特定保健用食品、機能性表示食品、サプリメント等)として提供することもできる。
【0065】
本技術は以下の構成を採用することもできる。
〔1〕ダイズ抽出物及びビタミンB3を有効成分とする、活性酸素消去酵素産生促進剤、ミトコンドリアの質低下抑制剤、又はミトコンドリアの質改善のための化粧料若しくは皮膚外用剤。
〔2〕活性酸素消去酵素産生促進剤;ミトコンドリアの質低下抑制剤;ミトコンドリアの質改善のための化粧料又は皮膚外用剤等の各種の製剤又は組成物用のダイズ抽出物及びビタミンB3/又はその使用。
〔3〕活性酸素消去酵素産生促進剤;ミトコンドリアの質低下抑制剤;ミトコンドリアの質改善のための化粧料又は皮膚外用剤等の各種の製剤又は組成物を製造するためのダイズ抽出物及びビタミンB3の使用。
〔4〕ダイズ抽出物及びビタミンB3を有効成分として投与(好適には塗布)する、生体内の活性酸素消去酵素の増量方法。本技術において、ダイズ抽出物及びビタミンB3は、同時期に又は別々に使用することができる。
〔5〕ダイズ抽出物及びビタミンB3を有効成分として投与(好適には塗布)する、活性酸素消去酵素産生促進方法;ミトコンドリアの質低下抑制方法;ミトコンドリアの質改善方法。
〔6〕ダイズ抽出物及びビタミンB3を有効成分として投与(好適には塗布)する、ミトコンドリアの質低下又はSOD2機能低下に起因する疾患又は症状の予防、改善又は治療方法。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕において、好適には、前記活性酸素消去酵素が、スーパーオキシドディスムターゼ2である。また、好適には前記ダイズ抽出物が、加水分解ダイズ抽出物である。
【実施例
【0066】
以下に実施例、参考例、試験例、製造例、製剤例等を挙げて本技術を更に詳細に説明する。なお、これらは本技術を何ら限定するものではない。
【0067】
<SOD2産生促進試験>
ニコチン酸アミド(純正化学株式会社製)及び下記の製造例1で製造した加水分解ダイズ抽出物を使用して、SOD2産生促進作用を調べた。
〔製造例1〕
マメ科(Leguminous)ダイズ属(Glycine)黒ダイズ(Glycine Max:種子)を乾燥して粉砕し、水を溶媒として60℃~90℃で撹拌しながら1時間以上抽出を行った。黒ダイズ抽出液をプロテアーゼを用いて加水分解し、酵素失活処理後、ろ過して製造例1の加水分解ダイズ抽出物を得た。加水分解ダイズ抽出物中の固形分含量は約1%であった。
【0068】
〔実験方法〕
<細胞培養と試料添加>
ウシ胎児血清を10%含有したイーグルMEM培地3(日水製薬株式会社製)を用いて、37℃、5%CO存在下で皮膚線維芽細胞を6日間培養した。トリプシンを用いて細胞回収した後、60mmφディッシュに5×10個/ディッシュの濃度で播種し、37℃、5%CO存在下で3日間培養した。ここに、ビタミンB3としてニコチン酸アミドを最終濃度15mM(0.18%)になるように及び加水分解ダイズ抽出物を固形分換算で最終濃度0.02%になるようにそれぞれ添加し、37℃、5%CO存在下で48時間培養した(実施例1)。対照として精製水、参考例1としてニコチン酸アミド(最終濃度15mM)のみを添加して同様に培養した。48時間培養後にそれぞれのディッシュからトリプシンを用いて細胞を回収した。
なお、実施例1における加水分解ダイズ抽出物:ニコチン酸アミドの質量混合割合(固形分換算)は、1:9であった。
【0069】
<ウエスタンブロッティング用サンプル調整>
対照、参考例1及び実施例1において回収した細胞にRIPAバッファーを添加し撹拌後、ソニケーションを行い細胞を破砕し、遠心分離によって上清を回収した。上清中のタンパク濃度を測定しタンパク濃度が一定になるように希釈して、ウエスタンブロッティング用のサンプル溶液とした。
【0070】
<ウエスタンブロッティング>
1レーンあたり2μgに調整した各サンプルをSDS-PAGEにより分離した後、PVDF膜に転写した。5%ECLTM AECL Advance blocking agent (Amersham BioScience)を含むTBS-T溶液にて室温で1時間ブロッキングを行い、TBS-T溶液にて洗浄後、抗SOD2Rabbitポリクローナル抗体(abcam社製)にて4℃、一晩反応させた。続いてTBS-T溶液にて洗浄後、HRP標識抗Rabbit抗体(GE Healthcare社製)にて室温で1時間反応させた。洗浄後、SuperSignalTM West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate (Thermo Scientific社製)を用いて検出したバンドをLAS-4000(FUJIFILM社製)にて取り込み、Multi Gaugeソフトウェア(FUJIFILM社製)を用いて数値化し解析した。同じメンブレンをTBS-T洗浄液で洗浄後、5%ECLTM Advance blocking agent (Amersham BioScience)を含むTBS-T溶液にて室温で1時間ブロッキングを行い、Anti-β-actin抗体(sigma社製)及びHRP標識Anti-mouse 抗体(Amersham社)で処理して、同様にバンドを検出して解析した。
【0071】
解析について、対照、実施例1及び参考例1のβ-actinの発現量1に対するSOD2発現量の比を算出し、各算出結果について、対照を1としたときの実施例1及び参考例1のSOD2発現量を図1に示す。対照、参考例1及び実施例1について、対照を基準に比較し、Dunnet検定により有意差検定を行った。
【0072】
図1に示すように、加水分解ダイズ抽出物及びニコチン酸アミドの併用(実施例1)によって、実際にSOD2酵素自体の量が増えていることが確認できた。また、加水分解ダイズ抽出物及びニコチン酸アミドの併用(実施例1)は、対照(無添加)と比較し、約2倍にまでSOD2の発現量を高めることができることが確認できた。また、加水分解ダイズ抽出物及びニコチン酸アミドの併用(実施例1)は、ニコチン酸アミド単独(参考例1)と比較しても、約1.6倍のSOD発現量になっていた。ニコチン酸アミド単独(参考例1)の場合は対象(無添加)と比較して統計的有意差はなく、SOD2産生促進効果は検出されなかった。加水分解ダイズ抽出物及びニコチン酸アミドの併用(実施例1)は、非常に優れたSOD産生促進作用があることが認められた。
【0073】
よって、本技術のダイズ抽出物及びビタミンB3の併用物は、非常に優れた活性酸素消去酵素産生促進作用を有し、生体内の活性酸素消去酵素の量を増加させることができる。また、本技術は、ダイズ抽出物を有効成分として用いることにより、ビタミンB3による活性酸素消去酵素の産生促進を増強又は強化させることができる。また、本技術は、ビタミンB3を有効成分として用いることにより、ダイズ抽出物による活性酸素消去酵素の産生促進を増強又は強化させることができる。また、本技術は、ダイズ抽出物及びビタミンB3の併用によって、相乗効果的に活性酸素消去酵素の産生促進を発揮させることができる。
【0074】
ミトコンドリア内で増加する活性酸素によりミトコンドリアの機能(質)が低下することが知られており、一方でミトコンドリア内に多く存在するSOD2が活性酸素消去の役割を果たしている。本技術でSOD2の量を増加させることで、活性酸素によるミトコンドリアの機能(質)の低下を抑制することが可能である。特に、ヒト皮膚線維芽細胞において加齢によりSOD2量が減少することも知られていることから、本技術であれば加齢によるミトコンドリアの質低下を抑制することが可能である。また、本技術であればミトコンドリア内における活性酸素に対する防御機能(例えば、SOD2量)が低下することを抑制することも可能である。
【0075】
〔製剤例1〕
〔製造例1〕の加水分解ダイズ抽出物及びビタミンB3(ニコチン酸アミド(純正化学株式会社製))を用いて活性酸素消去酵素産生促進剤(製剤1)を製造する。当該製剤における、加水分解ダイズ抽出物及びビタミンB3の質量含有割合(固形分換算)は1:10000である。当該製剤1は、優れた活性酸素消去酵素産生促進作用及びスーパーオキシドディスムターゼ2産生促進作用を有する。
製剤1は、水中油型又は油中水型にし皮膚に塗布することができる。このとき、当該製剤1は、任意成分(シワ改善剤、乳化剤等)を含有させることもでき、加水分解ダイズ抽出物を0.0005~0.1質量%及びビタミンB3を0.1~10質量%に調整することもできる。
【0076】
〔製剤例2及び3〕
〔製造例2〕のダイズ抽出物及びビタミンB3(ニコチン酸アミド(純正化学株式会社製))を用いて活性酸素消去酵素産生促進剤(製剤2)を製造する。当該製剤における、ダイズ抽出物及びビタミンB3の質量含有割合(固形分換算)は1:5000である。
また、〔製造例2〕のダイズ抽出物を〔製造例3〕のダイズ抽出物に代えた以外は、上記の〔製剤2〕の製法と同様にして行い、活性酸素消去酵素産生促進剤(製剤3)を製造する。
当該製剤2及び3は、優れた活性酸素消去酵素産生促進作用及びスーパーオキシドディスムターゼ2産生促進作用を有する。
製剤2及び3は、クリーム状にし皮膚に塗布することができる。このとき、当該製剤2及び3は、任意成分(ゲル化剤等)を含有させることもでき、加水分解ダイズ抽出物を0.0005~0.1質量%及びビタミンB3を0.1~10質量%に調整することができる。
【0077】
〔製造例2〕
マメ科(Leguminous)ダイズ属(Glycine)黄ダイズ(Glycine Max)の種子を乾燥して粉砕し、80℃で3時間抽出する。ろ過して製造例2のダイズ抽出物を得る。ダイズ抽出物中の固形分含量は約1%に調製する。
〔製造例3〕
マメ科(Leguminous)ダイズ属(Glycine)黒ダイズ(Glycine Max)の種子を乾燥して粉砕し、ダイズ植物1に対して50%エタノール含水溶液(V/V)1~100倍量で、2週間、冷温(4~40℃)で抽出する。ろ過して製造例3のダイズ抽出物を得る。
【0078】
〔製剤例4及び5〕
〔製造例4〕の加水分解ダイズ抽出物及びビタミンB3(ニコチン酸アミド(純正化学株式会社製))を用いて活性酸素消去酵素産生促進剤(製剤4)を製造する。当該製剤における、ダイズ抽出物及びビタミンB3の質量含有割合(固形分換算)は1:1000である。
また、〔製造例4〕のダイズ抽出物を〔製造例5〕のダイズ抽出物に代えた以外は、上記の〔製剤4〕の製法と同様にして行い、活性酸素消去酵素産生促進剤(製剤5)を製造する。
当該製剤4及び5は、優れた活性酸素消去酵素産生促進作用及びスーパーオキシドディスムターゼ2産生促進作用を有する。
製剤4及び5は、クリーム状にし、皮膚に塗布することができる。このとき、当該製剤4及び5は、任意成分(ゲル化剤等)を含有させることもでき、加水分解ダイズ抽出物を0.0005~0.1質量%及びビタミンB3を0.1~10質量%に調整することができる。
【0079】
〔製造例4〕
マメ科(Leguminous)ダイズ属(Glycine)黄ダイズ(Glycine Max)の種子に由来する食品用脱脂大豆(商品名:ニッカミルキーS(J-オイルミルズ社))を水に分散させ、水酸化ナトリウムを用いてpH8.5以上に調整した後、トリプシンを加えて加水分解を行う。酵素失活処理後、濾過したろ液を減圧下で濃縮して、製造例4の加水分解ダイズ抽出物を得る。製造例4の大豆抽出物は、タンパクやペプチド類に一般的な窒素定量法により、2~4%の窒素を含有する。
〔製造例5〕
〔製造例2〕のダイズ抽出物を用いる。ダイズ抽出物中の固形分含量は約1%に調製する。〔製造例2〕の抽出液を微生物由来のプロテアーゼ(複合酵素)を用いて加水分解し、酵素失活処理後、ろ過して製造例5の加水分解ダイズ抽出物を得る。
〔製造例6〕
また、〔製造例2〕のダイズ抽出物を〔製造例3〕のダイズ抽出物に代えた以外は、上記〔製造例5〕と同様にして行い、製造例6の加水分解ダイズ抽出物を得る。
【0080】
〔製剤例6〕
ダイズ抽出物(分離大豆蛋白(不二製油株式会社製))及びビタミンB3(ニコチン酸アミド又はニコチン酸(純正化学株式会社製))を用いて活性酸素消去酵素産生促進剤(製剤6)を製造する。当該製剤における、ダイズ抽出物及びビタミンB3の質量含有割合(固形分換算)は1:500である。当該製剤6は、優れた活性酸素消去酵素産生促進作用及びスーパーオキシドディスムターゼ2産生促進作用を有する。
製剤6は、頭皮又は皮膚に塗布又は噴霧することができる。このとき、当該製剤6は、任意成分(保湿剤等)を含有させることもでき、加水分解ダイズ抽出物を0.0005~0.1質量%及びビタミンB3を0.1~10質量%に調整することもできる。
図1