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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20220607BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20220607BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20220607BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
B60C11/12 D
B60C11/12 A
B60C11/03 100A
B60C5/00 H
B60C11/13 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018108535
(22)【出願日】2018-06-06
(65)【公開番号】P2019209872
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 哲二
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-078984(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0120688(US,A1)
【文献】特開昭60-255506(JP,A)
【文献】特開昭60-240507(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104417282(CN,A)
【文献】特開2018-008558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/03
B60C 5/00
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を備える空気入りタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる複数の主溝と、前記主溝で区画される複数の陸部とを備え、
前記複数の陸部のうち少なくとも一つが、タイヤ周方向に間隔を空けて複数のサイプが設けられたリブにより形成されていて、
前記複数のサイプは、タイヤ幅方向の長さが異なる複数種類のサイプを含み、かつ、それぞれショルダー側端部とセンター側端部とを有し、
前記複数のサイプのうち、前記ショルダー側端部が最もセンター側に位置するサイプの前記ショルダー側端部におけるタイヤ幅方向位置を第1基準位置とし、前記センター側端部が最もショルダー側に位置するサイプの前記センター側端部におけるタイヤ幅方向位置を第2基準位置とするとき、
前記第1基準位置及び前記第2基準位置のうち、一方では前記複数のサイプがタイヤ周方向に等間隔で配置され、他方では前記複数のサイプがタイヤ周方向に不等間隔で配置されていることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記複数のサイプのうち、タイヤ幅方向の長さの最も大きい最長サイプにおいて、前記ショルダー側端部と前記センター側端部のうちの一方又は両方が、前記主溝に接続されている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複数のサイプのうち、タイヤ幅方向の長さの最も小さい最短サイプにおいて、前記ショルダー側端部又は前記センター側端部が、前記主溝に接続され、
前記最長サイプは、前記最短サイプが接続される前記主溝に接続されている、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記最短サイプ及び前記最長サイプの両方が前記主溝に接続される側のサイプ端部における、前記最短サイプのタイヤ幅方向に対する角度を第1角度とし、
前記最短サイプ及び前記最長サイプの両方が前記主溝に接続される側のサイプ端部における、前記最長サイプのタイヤ幅方向に対する角度を第2角度とし、
前記最長サイプの前記サイプ端部と反対側のサイプ端部における、前記最長サイプのタイヤ幅方向に対する角度を第3角度とするとき、
前記第3角度は前記第1角度及び前記第2角度よりも大きい、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
車両に対する装着の向きが指定されている空気入りタイヤであり、
前記リブの車両内側に面する主溝に接続される前記サイプの数が、前記リブの車両外側に面する主溝に接続される前記サイプの数よりも多い、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1基準位置では前記複数のサイプがタイヤ周方向に等間隔で配置され、前記第2基準位置では前記複数のサイプがタイヤ周方向に不等間隔で配置されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記複数のサイプのうち、タイヤ幅方向の長さの最も大きい最長サイプとタイヤ幅方向の長さの最も小さい最短サイプとでは、サイプ幅が異なる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記複数の陸部が、タイヤ幅方向最外側に位置するショルダー陸部と、そのショルダー陸部のセンター側に前記主溝を挟んで隣接し且つ前記リブにより形成されたクォーター陸部とを有し、
前記ショルダー陸部は、前記主溝に接続されたサイプと、前記主溝に接続されていない横溝とを有し、前記ショルダー陸部の前記サイプ及び前記横溝は、それぞれ前記クォーター陸部のサイプの仮想延長線上に位置する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部を備える空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤには、タイヤ周方向に延びる主溝で区画されるリブに、サイプと呼ばれる切り込みを多数形成されているものがある。リブにサイプを多数形成することでエッジ効果や除水効果を高め、氷雪路面や濡れた路面などでの走行性能を向上させることができる。例えば、下記特許文献1乃至3には、複数のサイプがタイヤ周方向に一定間隔で配置されたリブを有する空気入りタイヤが記載されている。
【0003】
しかしながら、主溝で区画されるリブにサイプがタイヤ周方向に一定間隔で配置される場合、主溝とサイプとで挟まれた領域が疑似的なブロック(以下、「疑似ブロック」と呼ぶ)を形成し、該疑似ブロックの各々の大きさと形状が互いに等しくなるため、ピッチノイズと呼ばれる、疑似ブロックが接地する際の高周波の打撃音が大きくなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/177975号
【文献】欧州特許第1937496号明細書
【文献】特開平11-334321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述のような問題点に鑑みて案出されたもので、ピッチノイズを分散させてノイズ性能を向上させた、空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の空気入りタイヤを案出した。
すなわち、トレッド部を備える空気入りタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる複数の主溝と、前記主溝で区画される複数の陸部とを備え、
前記複数の陸部のうち少なくとも一つが、タイヤ周方向に間隔を空けて複数のサイプが設けられたリブにより形成されていて、
前記複数のサイプは、タイヤ幅方向の長さが異なる複数種類のサイプを含み、かつ、それぞれショルダー側端部とセンター側端部とを有し、
前記複数のサイプのうち、前記ショルダー側端部が最もセンター側に位置するサイプの前記ショルダー側端部におけるタイヤ幅方向位置を第1基準位置とし、前記センター側端部が最もショルダー側に位置するサイプの前記センター側端部におけるタイヤ幅方向位置を第2基準位置とするとき、
前記第1基準位置及び前記第2基準位置のうち、一方では前記複数のサイプがタイヤ周方向に等間隔で配置され、他方では前記複数のサイプがタイヤ周方向に不等間隔で配置されていることを特徴とする。
【0007】
かかる構成により、タイヤ周方向に等間隔で配置された側の端部と不等間隔で配置された側の端部とで、タイヤ周方向におけるサイプ間隔が異なることになる。その結果、疑似ブロックの接地タイミングが、タイヤ幅方向によって異なることになり、ピッチノイズを分散させてノイズ性能を向上できる。さらに、タイヤ幅方向の長さが異なる複数種類のサイプを含むことで、ピッチノイズを分散する効果を適切に奏することができる。
【0008】
上記において、「ショルダー側」はタイヤ幅方向外側を指し、「センター側」は、タイヤ幅方向内側を指す。また、サイプは切り込み幅が2mm以下、好ましくは1.6mm以下であるものを指す。本明細書において、複数のサイプがタイヤ周方向に等間隔で配置されることは、タイヤ周方向のサイプ間隔の差が0.9mm以内に収まることを表し、複数のサイプがタイヤ周方向に不等間隔で配置されることは、タイヤ周方向のサイプ間隔の差が0.9mmを超えることを表す。
【0009】
前記複数のサイプのうち、タイヤ幅方向の長さの最も大きい最長サイプにおいて、前記ショルダー側端部と前記センター側端部のうちの一方又は両方が、前記主溝に接続されていることが好ましい。これにより、最長サイプによる除水性能を高めるとともに、最長サイプ内のエアーを主溝に逃れやすくして、ポンピング音の発生を抑制することができる。
【0010】
前記複数のサイプのうち、タイヤ幅方向の長さの最も小さい最短サイプにおいて、前記ショルダー側端部又は前記センター側端部が、前記主溝に接続され、
前記最長サイプは、前記最短サイプが接続される前記主溝に接続されていることが好ましい。これにより、最短サイプによる除水性能をさらに高めるとともに、最短サイプ内のエアーを主溝に逃れやすくして、ポンピング音の発生をさらに抑制することができる。
【0011】
前記最短サイプ及び前記最長サイプの両方が前記主溝に接続される側のサイプ端部における、前記最短サイプのタイヤ幅方向に対する角度を第1角度とし、
前記最短サイプ及び前記最長サイプの両方が前記主溝に接続される側のサイプ端部における、前記最長サイプのタイヤ幅方向に対する角度を第2角度とし、
前記最長サイプの前記サイプ端部と反対側のサイプ端部における、前記最長サイプのタイヤ幅方向に対する角度を第3角度とするとき、
前記第3角度は前記第1角度及び前記第2角度よりも大きいことが好ましい。これにより、タイヤ周方向におけるサイプ間隔を効果的に異ならせることができ、ピッチノイズを分散する効果を適切に奏することができる。
【0012】
車両に対する装着の向きが指定されている空気入りタイヤであり、
前記リブの車両内側に面する主溝に接続される前記サイプの数が、前記リブの車両外側に面する主溝に接続される前記サイプの数よりも多いことが好ましい。これにより、リブにおける車両内側の剛性を下げ、車両内側での接地長を大きくすることができ、空気入りタイヤのハンドリング性能を高めることができる。
【0013】
前記第1基準位置では前記複数のサイプがタイヤ周方向に等間隔で配置され、前記第2基準位置では前記複数のサイプがタイヤ周方向に不等間隔で配置されていることが好ましい。これにより、空気入りタイヤのショルダー側よりも、センター側で生じるピッチノイズを重点的に分散させることができる。
【0014】
前記複数のサイプのうち、タイヤ幅方向の長さの最も大きい最長サイプとタイヤ幅方向の長さの最も小さい最短サイプとでは、サイプ幅が異なることが好ましい。最長サイプのサイプ幅を最短サイプのサイプ幅と異ならせることで、さらにピッチノイズを分散させことができる。
【0015】
前記複数の陸部が、タイヤ幅方向最外側に位置するショルダー陸部と、そのショルダー陸部のセンター側に前記主溝を挟んで隣接し且つ前記リブにより形成されたクォーター陸部とを有し、
前記ショルダー陸部は、前記主溝に接続されたサイプと、前記主溝に接続されていない横溝とを有し、前記ショルダー陸部の前記サイプ及び前記横溝は、それぞれ前記クォーター陸部のサイプの仮想延長線上に位置することが好ましい。これにより、ショルダー陸部に設けられるサイプ及び横溝に対して、クォーター陸部に設けられるサイプがタイヤ周方向にずれて配置されるため、ピッチノイズの分散効果が期待できる。また、サイプより幅の広い横溝を主溝に接続しないようにすることで、ショルダー陸部の過剰な剛性低下を防ぎ、偏摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す展開図
図2A】本実施形態のクォーター陸部及びその周辺領域を示す平面図
図2B】他の実施形態のクォーター陸部及びその周辺領域を示す平面図
図3】本実施形態のショルダー陸部、クォーター陸部及びその周辺領域を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る空気入りタイヤにおける一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0018】
図1は、本発明に係る空気入りタイヤのトレッド部100の一実施形態を示す平面図である。トレッド部100は、タイヤ周方向に延びる4本の主溝6~9と、主溝6~9で区画される5つの陸部1~5とを備えている。5つの陸部1~5は、ショルダー陸部1、クォーター陸部2、センター陸部3、クォーター陸部4及びショルダー陸部5からなる。ショルダー陸部1、5は、タイヤ幅方向最外側に位置し、接地端CE1、CE5と主溝6,9とで挟まれている。クォーター陸部2、4は、ショルダー陸部のセンター側に主溝6、9を挟んで隣接している。センター陸部3は、クォーター陸部2、4のセンター側に主溝7、8を挟んで隣接している。各陸部1~5はタイヤ周方向に連続して延びるリブで構成され、各リブはタイヤ周方向に間隔を空けて複数のサイプが形成されている。主溝の延びる方向は、タイヤ周方向と完全に一致する必要は無い。主溝の本数は3本以上で、陸部の数は4つ以上のものが好ましい。陸部の数が4つである場合、センター陸部は設けない。
【0019】
接地端CE1、CE5は、正規リムにリム組みして正規内圧と正規荷重を負荷したタイヤを平坦路面に接地させたときのタイヤ幅方向の最外位置である。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAに規定される標準リム、TRAに規定される“Design Rim”、あるいはETRTOに規定される“Measuring Rim”である。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、例えば、JATMAに規定される最高空気圧、TRAの表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、あるいはETRTOに規定される“INFLATIONPRES SURE”である。正規荷重とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、例えば、JATMAに規定される最大負荷能力、TRAの上記表に記載の最大値、あるいはETRTOに規定される“LOAD CAPACITY”である。
【0020】
クォーター陸部2は、タイヤ周方向に間隔を空けて複数のサイプ20が設けられたリブにより形成されている。複数のサイプ20は、タイヤ幅方向の長さが異なる複数種類のサイプを含んでおり、本実施形態では二種類のサイプ21、22を含んでいる。複数のサイプ20は、それぞれ、タイヤ幅方向に沿って延びており、ショルダー側端部とセンター側端部とを有している。
【0021】
図2Aは、本実施形態のクォーター陸部2の説明図である。第1基準位置S1について説明する。第1基準位置S1は、複数のサイプ20のうち、ショルダー側端部が最もセンター側に位置するサイプ20のショルダー側端部20Sにおけるタイヤ幅方向位置である。本実施形態の場合、全てのサイプのショルダー側端部が主溝6に接続されているため、第1基準位置S1は、全てのサイプのショルダー側端部20Sと主溝6との交点におけるタイヤ幅方向位置となる。第2基準位置C1について説明する。第2基準位置C1は、複数のサイプ20のうち、センター側端部が最もショルダー側に位置するサイプ21のセンター側端部21Cにおけるタイヤ幅方向位置である。
【0022】
第1基準位置S1及び第2基準位置C1のうち、一方(本実施形態では第1基準位置S1)では複数のサイプ20がタイヤ周方向に等間隔で配置されている。即ち、タイヤ周方向におけるサイプ間隔X1、X2、X3は実質的に互いに同じであり、これらの差は0.9mm以内に収まっている。また、第1基準位置S1及び第2基準位置C1のうち、他方(本実施形態では第2基準位置C1)では複数のサイプ20がタイヤ周方向に不等間隔で配置されている。即ち、タイヤ周方向におけるサイプ間隔Y1、Y2、Y3は実質的に互いに異なっており、これらの差は0.9mmを超えている。
【0023】
かかる構成によれば、第1基準位置S1と第2基準位置C1とで、タイヤ周方向におけるサイプ間隔が異なることになる。その結果、疑似ブロックの接地タイミングが、タイヤ幅方向によって異なることになり、ピッチノイズを分散させてノイズ性能を向上できる。また、タイヤ幅方向の長さが異なる複数種類のサイプ21、22を含むことで、ピッチノイズを分散する効果を適切に奏することができる。また、サイプ21とサイプ22との長さの違いは、さらなる疑似ブロックの形状・寸法の違いを生むため、さらなるピッチノイズの分散効果が得られる。本実施形態では、第1基準位置S1ではタイヤ周方向に等間隔でサイプ20を配置し、第2基準位置C1ではタイヤ周方向に不等間隔でサイプ20を配置していることにより、センター側で生じるピッチノイズを重点的に分散させることができる。
【0024】
上記実施形態では、クォーター陸部2に設けられている全てのサイプ20のショルダー端部が主溝6に接続されているが、これは必須の構成ではない。他の実施形態として、図2Bに、クォーター陸部2に設けられた複数のサイプ20のうち、一部のサイプの端部が主溝に接続されていない場合を示す。この場合、第1基準位置S1及び第2基準位置C1は、共にクォーター陸部2上にある。
【0025】
サイプを主溝に接続すると、サイプ内に流れ込んだ水やエアーが主溝に逃れやすくなるから、サイプを主溝に接続しない場合に比べて、除水性能を向上させ、ポンピング音の発生を抑制できるという効果が得られる。また、疑似ブロックの剛性を低下させ接地性を高めるという効果も得られる。サイプを主溝に接続しない場合は、サイプを主溝に接続する場合に比べ、疑似ブロックの剛性を向上させ、いわゆるサイプ間ヒールアンドトウ摩耗を小さくするという効果が得られる。よって、発現させたい効果に応じて、サイプ端部を主溝に接続させるか否かを決定すればよい。
【0026】
複数のサイプ20のうち、タイヤ幅方向の長さの最も大きい最長サイプにおいて、ショルダー側端部とセンター側端部のうちの一方又は両方が、主溝に接続されていることが好ましい。本実施形態では、最長サイプとしてのサイプ22において、ショルダー側端部のみが主溝6に接続されている。これにより、最長サイプによる除水性能を高めるとともに、最長サイプ内のエアーを主溝に逃れやすくして、ポンピング音の発生を抑制することができる。
【0027】
複数のサイプ20のうち、タイヤ幅方向の長さの最も小さい最短サイプにおいて、ショルダー側端部とセンター側端部のうちの一方が、主溝に接続されていることが好ましい。本実施形態では、最短サイプとしてのサイプ21において、ショルダー側端部のみが主溝6に接続されている。これにより、最短サイプによる除水性能をさらに高めるとともに、最短サイプ内のエアーを主溝に逃れやすくして、ポンピング音の発生をさらに抑制することができる。
【0028】
本実施形態では、タイヤ幅方向の長さが異なるサイプとして、短いサイプ21と長いサイプ22の2種類のサイプが設けられているが、これに限られず、長さの異なる3種類以上のサイプが設けられていてもよい。また、本実施形態では、短いサイプ21、短いサイプ21及び長いサイプ22の組み合わせがタイヤ周方向に繰り返し配置されているが、ランダムに配置されていてもよい。
【0029】
図3は、図2Aで示したクォーター陸部2における、サイプ21とサイプ22の端部における傾きを表している。最短サイプであるサイプ21と最長サイプであるサイプ22の両方が主溝に接続される側(即ち、ショルダー側)のサイプ端部における、サイプ21のタイヤ幅方向に対する角度を第1角度θ1、サイプ22のタイヤ幅方向に対する角度を第2角度θ2とする。そして、サイプ22の前記サイプ端部(即ち、ショルダー側のサイプ端部)と反対側のサイプ端部(即ち、センター側のサイプ端部)における、サイプ22のタイヤ幅方向に対する角度を第3角度θ3とする。本実施形態では、第3角度θ3が、第1角度θ1及び第2角度θ2よりも大きく、そうなるようにサイプ22が湾曲している。このため、タイヤ周方向におけるサイプ間隔を効果的に異ならせ、ピッチノイズを分散する効果を適切に奏することができる。また、第1角度θ1と第2角度θ2とが等角度であってもよい。
【0030】
ここで、第1角度θ1と第2角度θ2はそれぞれ30度以下であることが好ましい。第1角度θ1又は第2角度θ2が大きいと、サイプと主溝とがなす鋭角部分においてリブの剛性が他の領域に比べて低下し、該鋭角部分が他の領域よりも優先的に摩耗することで、いわゆるサイプ間ヒールアンドトウ摩耗が生じやすくなる。しかしながら、第1角度θ1と第2角度θ2が30度以下であるときは、リブの剛性低下が抑えられ、サイプ間ヒールアンドトウ摩耗の発生を抑制することができる。また、第3角度θ3は45度以上であることが好ましい。これにより、第1角度θ1及び第2角度θ2と第3角度θ3との間に十分な角度差が設けられ、ピッチノイズを十分に分散できる。
【0031】
本実施形態では、空気入りタイヤの車両に対する装着の向きが指定されており、そのうえで、クォーター陸部2であるリブの車両内側に面する主溝6に接続されるサイプ20の数が、前記リブの車両外側に面する主溝7に接続されるサイプ20の数よりも多い構成を備えている。これにより、リブにおける車両内側の剛性を下げ、車両外側に比べ接地性が低下しやすい車両内側での接地長を大きくすることができ、空気入りタイヤのハンドリング性能を高めるという有利な効果が得られる。但し、本発明の空気入りタイヤは、車両に対する装着の向きが指定されているものに限られない。
【0032】
車両に対する装着の向きを指定する表示は、例えばサイドウォール部に設けられる。具体的には、車両装着時に車両外側に配置されるサイドウォール部の外表面に、車両外側となる旨の表示(例えば、OUTSIDE)を設けることが考えられる。これに代えてまたは加えて、車両装着時に車両内側に配置されるサイドウォール部の外表面に、車両内側となる旨の表示(例えば、INSIDE)を設けることが考えられる。
【0033】
また、最短サイプであるサイプ21と最長サイプであるサイプ22とでは、サイプ幅が異なっている。最長サイプのサイプ幅を最短サイプのサイプ幅と異ならせることで、さらにピッチノイズを分散させことができる。本実施形態では、最長サイプであるサイプ22が最短サイプであるサイプ21よりも幅広に形成されており、ピッチノイズをより効果的に分散させることができる。サイプ22の幅W22は、例えば、サイプ21の幅W21の1.3倍以上である。
【0034】
本実施形態では、ショルダー陸部1はサイプ11と横溝12とを有しており、サイプ11と横溝12とは、主溝6を挟んで隣り合うクォーター陸部2のサイプ21、22の仮想延長線61上に位置している。このような位置関係にあるサイプは、主溝6のセンター側とショルダー側との間でタイヤ周方向にずれて配置されるため、ピッチノイズが分散される。また、主溝6を挟んでサイプが連続性を有する外観となるため、デザイン性にも優れている。ここで、サイプの仮想延長線は、そのサイプの幅中央を基準にして定めることができる。そして、ショルダー陸部1のサイプ11及び横溝12は、それぞれクォーター陸部2のサイプ21、22の仮想延長線61上に完全に一致するように位置していなくても、それらが近接している場合、例えばタイヤ周方向における距離が3mm以内であれば、ショルダー陸部1のサイプ11及び横溝12は、それぞれクォーター陸部2のサイプの仮想延長線上に位置するものとする。また、横溝12は、溝幅が2mmを超えるものを指す。
【0035】
本実施形態では、ショルダー陸部1の横溝12は主溝6に接続していない。これは、横溝12が、サイプより幅が広く、サイプよりもリブの剛性低下を生じさせ易いことに因る。横溝12を主溝6に接続させないことで、ショルダー陸部1の過剰な剛性低下を防ぎ、ショルダー摩耗を抑制することができる。
【0036】
上記実施形態では、主にクォーター陸部2におけるサイプの配置を例に説明したが、ショルダー陸部1、センター陸部3、クォーター陸部4またはショルダー陸部5においてもクォーター陸部2と同様のサイプの配置をしてもよい。ただし、上記実施形態のクォーター陸部2、4への適用は、ショルダー陸部1、5及びセンター陸部3への適用に比べ、ピッチノイズ分散効果をはじめとする上述の効果が、バランスよく好適に得られる。
【0037】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッド部を上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、構造、製法などは何れも採用できる。図示は省略するが、本実施形態の空気入りタイヤは、一対のビード部と、そのビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、そのサイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部とを備えている。
【0038】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…ショルダー陸部
2…クォーター陸部
3…センター陸部
4…クォーター陸部
5…ショルダー陸部
6~9…主溝
11、20、21、22、25、31、41、42…サイプ
12…横溝
図1
図2A
図2B
図3