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特許7084237ロータ及びモータ、並びに、ロータの結線方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】ロータ及びモータ、並びに、ロータの結線方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/18 20060101AFI20220607BHJP
【FI】
H02K3/18 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018131338
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2020010548
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】山岡 靖典
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-157242(JP,A)
【文献】特開平2-114841(JP,A)
【文献】特開平11-341721(JP,A)
【文献】特開平4-197054(JP,A)
【文献】特開平2-097260(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121991(WO,A1)
【文献】特開2005-094972(JP,A)
【文献】特開2016-116377(JP,A)
【文献】特開2018-108018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0126085(US,A1)
【文献】国際公開第2013/136646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと一体回転するとともに、複数のティース部がスロットを挟んで周方向に並設されたコアと、
前記シャフトと一体回転するとともに、前記コアとの間に軸方向に隙間をあけて位置し前記ティース部と同数の金属製の整流子片を有する整流子と、
一つの前記整流子片の端子に係止されるとともに、当該係止された端子と対応する前記ティース部である対応ティース部を含む巻芯部に巻回されたのち前記係止された端子の一方向側に隣接する次の極の前記端子に係止された巻線部を複数有する巻線と、を備え、
前記巻線部には、前記係止された端子から前記巻芯部に巻回される直前までの巻き始め線と、前記巻芯部に巻回されたコイル部から前記次の極の前記端子に向かう巻き終わり線とが含まれ、
前記巻き始め線は、前記隙間内であって少なくとも前記巻芯部の前記一方向側に隣接する前記ティース部の軸方向一端側を通過する応力緩和部と、前記コイル部に対し前記応力緩和部の逆側において前記ティース部の軸方向他端側を通過する捨て巻部とを有する
ことを特徴とする、ロータ。
【請求項2】
前記巻き始め線は、前記対応ティース部の前記一方向側に隣接する前記ティース部の前記軸方向一端側を通過した前記応力緩和部と連続して設けられるとともに当該隣接するティース部の前記一方向側の前記スロットに挿入されるスロット通過部を有する
ことを特徴とする、請求項1記載のロータ。
【請求項3】
前記ティース部及び前記整流子片はいずれもN個(但しN≧3)設けられ、
前記巻線は、1極目の前記端子を始点とし、N個の前記巻線部を有するとともに前記1極目の前記端子を終点としており、
前記巻き始め線は、前記対応ティース部の前記一方向側に位置するM個目(但しM<N)の前記ティース部の前記軸方向一端側を通過した前記応力緩和部と連続して設けられるとともに当該M個目のティース部の前記一方向側の前記スロットに挿入されるスロット通過部を有し、
N極目の前記巻き終わり線は、前記一方向に延びて前記1極目の前記端子に係止され、
M以下の極の前記巻き終わり線は、前記一方向とは逆方向に延びて前記次の極の前記端子に係止される
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のロータ。
【請求項4】
前記巻き終わり線は、前記次の極の前記端子に対して、前記コイル部から前記次の極の前記端子に向かう方向とは逆方向から引っ掛けられる
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のロータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のロータと、
筒状のハウジングの内周面に固定された永久磁石を有し、前記ロータの前記シャフトの一端を回転自在に支持するステータと、
ブラシを備えるとともに前記ハウジングの開口部に固定されるエンドベルと、を備えた
ことを特徴とする、モータ。
【請求項6】
シャフトと一体回転するとともに、複数のティース部がスロットを挟んで周方向に並設されたコアと、前記シャフトと一体回転するとともに、前記コアとの間に軸方向に隙間をあけて位置し前記ティース部と同数の金属製の整流子片を有する整流子と、少なくとも一つの前記ティース部からなる巻芯部に巻回される巻線と、を備えたロータの巻線方法であって、
前記巻線を、一つの前記整流子片の端子に係止させるとともに、当該係止された端子と対応する前記ティース部である対応ティース部を含む前記巻芯部に巻回させてコイル部としたのち、前記係止させた端子の一方向側に隣接する次の極の前記端子に係止させることで巻線部を形成する主工程を複数回実施し、
前記主工程には、
前記コイル部を形成する前に係止させた前記端子から前記巻芯部に巻回する直前までの巻き始め線を、前記隙間内であって少なくとも前記巻芯部の前記一方向側に隣接する前記ティース部の軸方向一端側を通過させることで応力緩和部を形成する第一工程と、
前記巻き始め線を、前記応力緩和部よりも前記コイル部側において前記ティース部の軸方向他端側を通過させることで捨て巻部を形成する第二工程と、が含まれる
ことを特徴とする、ロータの結線方法。
【請求項7】
前記ロータには、N個(但しN≧3)の前記ティース部及び前記N個の前記整流子片が設けられており、
1回目の前記主工程では、前記巻線の一端を1極目の前記端子に係止することで始点とし、
各回の前記第一工程では、前記巻き始め線を、前記対応ティース部の前記一方向側に位置するM個目(但しM<N)の前記ティース部の前記軸方向一端側を通過させることで前記応力緩和部を形成するとともに当該M個目のティース部の前記一方向側の前記スロットに挿入し、
前記M回目以前の前記主工程では、前記コイル部から前記次の極の前記端子に向かう巻き終わり線を前記一方向とは逆方向に延ばして前記次の極の端子に係止させ、
N回目の前記主工程では、N極目の前記コイル部から前記1極目の前記端子に向かう前記巻き終わり線を、前記一方向に延ばして前記1極目の前記端子に係止することで前記巻線の他端を終点とする
ことを特徴とする、請求項6記載のロータの結線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流子が設けられたロータ及びロータの結線方法と、このロータを備えたモータとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシ付きのモータとして、有底筒状のハウジングの内周面に永久磁石が固定されたステータと、シャフトに固定されて巻線が巻回されたコアを持つロータとを備え、ステータの内側にロータが回転自在に収容された、所謂インナロータ型モータが一般的に知られている。ロータにはシャフトに固定される整流子(コミュテータ)が設けられる。整流子は、絶縁性の支持体に、ブラシが摺動接触する接触部と巻線が係止される端子とを持つ金属製の整流子片が取り付けられて構成される。巻線は、整流子片の端子に係止されるとともに、コアのティース部に巻回されることでコイル部を形成する(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-97260号公報
【文献】特公平7-46890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、巻線は所定の張力(テンション)で整流子片に係止されるとともにロータコアに巻回されるため、過度なテンションがかかるような取り回し、すなわち巻線の一部に応力が集中するような結線方法にならないことが望ましい。このような課題に対し、従来、図10に示すように、巻線130を端子112bに係止したのち、コアと整流子片の端子112bとの間の隙間114(いわゆる首下と呼ばれる空間)内で巻線130を一周させてからコアのティース部122に巻回する結線方法が採用されることがあった。この結線方法によれば、首下114に一周させた巻線部分によって巻線130に作用する応力やテンションの緩和が期待でき、応力集中を回避しうる。
【0005】
しかしながら、図10の結線方法の場合、首下114に巻き付けられる巻線130の本数が3本又は4本であり、巻線130同士が接触する可能性がある。また、首下114の巻線130の本数が多いことから、各巻線130は軸方向に直交する方向に沿って整流子の周囲に取り回される。このため、1極目の端子112bに係止された巻線130が1極目のティース部122に向かうまでの部分(図中ドット模様を付した範囲に位置する巻き始め線131)が巻回作業時に軸方向へずれやすく、他極の巻き始め線131と接触しやすいという課題がある。巻線130同士の接触は、絶縁被膜の剥がれや巻線の断線を招く要因となるため、回避することが望ましい。
【0006】
本件のロータ及びロータの結線方法は、このような課題に鑑み案出されたもので、巻線に作用する応力やテンションを緩和するとともに巻線の被膜剥がれ及び断線を防止することを目的の一つとする。また、本件のモータは、ロータ巻線の被膜剥がれ及び断線を防止して品質を高めることを目的の一つとする。なお、これらの目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示するロータは、シャフトと一体回転するとともに、複数のティース部がスロットを挟んで周方向に並設されたコアと、前記シャフトと一体回転するとともに、前記コアとの間に軸方向に隙間をあけて位置し前記ティース部と同数の金属製の整流子片を有する整流子と、一つの前記整流子片の端子に係止されるとともに、当該係止された端子と対応する前記ティース部である対応ティース部を含む巻芯部に巻回されたのち前記係止された端子の一方向側に隣接する次の極の前記端子に係止された巻線部を複数有する巻線と、を備える。
【0008】
前記巻線部には、前記係止された端子から前記巻芯部に巻回される直前までの巻き始め線と、前記巻芯部に巻回されたコイル部から前記次の極の前記端子に向かう巻き終わり線とが含まれ、前記巻き始め線は、前記隙間内であって少なくとも前記巻芯部の前記一方向側に隣接する前記ティース部の軸方向一端側を通過する応力緩和部と、前記コイル部に対し前記応力緩和部の逆側において前記ティース部の軸方向他端側を通過する捨て巻部とを有する。
【0009】
(2)前記巻き始め線は、前記対応ティース部の前記一方向側に隣接する前記ティース部の前記軸方向一端側を通過した前記応力緩和部と連続して設けられるとともに当該隣接するティース部の前記一方向側の前記スロットに挿入されるスロット通過部を有することが好ましい。
【0010】
(3)前記ロータには、前記ティース部及び前記整流子片はいずれもN個(但しN≧3)設けられることが好ましい。この場合、前記巻線は、1極目の前記端子を始点とし、N個の前記巻線部を有するとともに前記1極目の前記端子を終点としており、前記巻き始め線は、前記対応ティース部の前記一方向側に位置するM個目(但しM<N)の前記ティース部の前記軸方向一端側を通過した前記応力緩和部と連続して設けられるとともに当該M個目のティース部の前記一方向側の前記スロットに挿入されるスロット通過部を有し、N極目の前記巻き終わり線は、前記一方向に延びて前記1極目の前記端子に係止され、M以下の極の前記巻き終わり線は、前記一方向とは逆方向に延びて前記次の極の前記端子に係止されることが好ましい。
【0011】
(4)前記巻き終わり線は、前記次の極の前記端子に対して、前記コイル部から前記次の極の前記端子に向かう方向とは逆方向から引っ掛けられることが好ましい。
(5)ここで開示するモータは、上記の(1)~(4)のいずれか一つに記載のロータと、筒状のハウジングの内周面に固定された永久磁石を有し、前記ロータの前記シャフトの一端を回転自在に支持するステータと、ブラシを備えるとともに前記ハウジングの開口部に固定されるエンドベルと、を備えている。
【0012】
(6)ここで開示するロータの結線方法は、シャフトと一体回転するとともに、複数のティース部がスロットを挟んで周方向に並設されたコアと、前記シャフトと一体回転するとともに、前記コアとの間に軸方向に隙間をあけて位置し前記ティース部と同数の金属製の整流子片を有する整流子と、少なくとも一つの前記ティース部からなる巻芯部に巻回される巻線と、を備えたロータの巻線方法であって、前記巻線を、一つの前記整流子片の端子に係止させるとともに、当該係止された端子と対応する前記ティース部である対応ティース部を含む前記巻芯部に巻回させてコイル部としたのち、前記係止させた端子の一方向側に隣接する次の極の前記端子に係止させることで巻線部を形成する主工程を複数回実施する。
【0013】
前記主工程には、前記コイル部を形成する前に係止させた前記端子から前記巻芯部に巻回する直前までの巻き始め線を、前記隙間内であって少なくとも前記巻芯部の前記一方向側に隣接する前記ティース部の軸方向一端側を通過させることで応力緩和部を形成する第一工程と、前記巻き始め線を、前記応力緩和部よりも前記コイル部側において前記ティース部の軸方向他端側を通過させることで捨て巻部を形成する第二工程と、が含まれる。
【0014】
(7)前記ロータには、N個(但しN≧3)の前記ティース部及び前記N個の前記整流子片が設けられていることが好ましい。この場合、1回目の前記主工程では、前記巻線の一端を1極目の前記端子に係止することで始点とし、各回の前記第一工程では、前記巻き始め線を、前記対応ティース部の前記一方向側に位置するM個目(但しM<N)の前記ティース部の前記軸方向一端側を通過させることで前記応力緩和部を形成するとともに当該M個目のティース部の前記一方向側の前記スロットに挿入し、前記M回目以前の前記主工程では、前記コイル部から前記次の極の前記端子に向かう巻き終わり線を前記一方向とは逆方向に延ばして前記次の極の端子に係止させ、N回目の前記主工程では、N極目の前記コイル部から前記1極目の前記端子に向かう前記巻き終わり線を、前記一方向に延ばして前記1極目の前記端子に係止することで前記巻線の他端を終点とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
開示のロータ及びロータの結線方法によれば、巻線に作用する応力やテンションを緩和するとともに巻線の被膜剥がれ及び断線を防止することができる。
また、開示のモータによれば、巻線の被膜剥がれ及び断線を防止できるため、その品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係るモータの軸方向半断面図である。
図2】実施形態に係るロータが有するロータコアを軸方向から見た平面図である。
図3】実施形態に係るロータが有する整流子を軸方向一端側から見た斜視図である。
図4】第一実施形態に係るロータの結線方法を説明するための結線図である。
図5】第一実施形態に係るロータの結線方法の手順を説明するフローチャートである。
図6】(a)は第二実施形態に係るロータの結線方法を説明するための結線図であり、(b)は図6(a)の結線図を説明するための表である。
図7】巻線のクロス箇所の電気回路的な影響を説明するための表である。
図8】(a)は第二実施形態の変形例に係るロータの結線方法を説明するための結線図であり、(b)は図8(a)の結線図を説明するための表である。
図9】(a)は第二実施形態の他の変形例に係るロータの結線方法を説明するための結線図であり、(b)は図9(a)の結線図を説明するための表である。
図10】従来のロータの結線方法を説明するための結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、実施形態としてのロータ及びモータ、並びにロータの結線方法について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0018】
[1.第一実施形態]
[1-1.全体構成]
図1は、第一実施形態のモータ1の軸方向半断面図である。本実施形態のモータ1は、永久磁石界磁式のブラシ付き直流モータであり、ステータ2,ロータ3,エンドベル4を有する。ステータ2は、有底筒状に形成されたハウジング2Aと、ハウジング2Aの内周面に沿って固定された永久磁石2Bとを有する。永久磁石2Bは、ロータ3が組み立てられた状態で、ロータ3のコア20(以下「ロータコア20」という)と対向し、ロータコア20を囲むように軸方向に延設される。
【0019】
ハウジング2Aの底部中央には円形状の孔部2hが貫設される。この孔部2hには、ロータ3のシャフト5の一端側を回転自在に支持する軸受2Cが内嵌される。エンドベル4は、ハウジング2Aの開口部に固定される蓋部材であり、図示しないブラシやターミナルを有する。また、エンドベル4は、シャフト5の他端側を回転自在に支持する軸受2Dが内嵌される凹部4aとシャフト5が挿通される孔部4hとを有する。
【0020】
ロータ3は、いずれもシャフト5と一体回転するロータコア20及び整流子10を有する。本実施形態では、3溝ロータを例示する。シャフト5はロータ3を支持する回転軸であり、モータ1の出力を外部に取り出す出力軸としても機能する。ロータコア20は、同一形状の複数の鋼板が積層された積層コアであり、その中心には、鋼板の積層方向に軸方向を一致させた状態でシャフト5が固定される。整流子10はシャフト5に圧入固定されるとともに、ロータコア20に対して取り付けられて周方向位置が規定される。
【0021】
図2に示すように、本実施形態のロータコア20は、軸方向視で三回回転対称性を持った外形を有する。具体的には、ロータコア20は、シャフト5が固定される貫通孔21hが形成された中央部21と、中央部21から径方向外側へ放射状に延設された三つのティース部22と、各ティース部22の外端部において周方向に互いに離隔して設けられた三つの円弧部23とから構成される。中央部21は、貫通孔21hを構成する内周面を径方向外側に向かって切り欠いて形成された三つのキー溝25を有する。各キー溝25には、整流子10の軸方向一端部に軸方向へ突設された足部11f(図3参照)が嵌合され、整流子10の位置決めがされる。
【0022】
周方向に隣接する二つのティース部22及び円弧部23と中央部21とで囲まれた空間(以下「スロット24」という)には、巻線30(図1参照)が配置される。スロット24は、図1に示すようにシャフト5の軸方向に延びた溝であり、図2に示すようにロータコア20の周方向において等間隔に三つ形成される。言い換えると、ロータコア20には、複数のティース部22がスロット24を挟んで周方向に並設されている。ロータコア20のティース部22には、そのティース部22の両側のスロット24を通して所定のターン数だけ巻線30が巻回される。
【0023】
巻線30は、電流が流れることで磁力を生じさせる絶縁電線であり、所定のテンションでΔ結線方式によりロータコア20に巻回される。なお、巻線30が巻回されるロータコア20の部分には絶縁層(図示略)がコーティングされており、絶縁性が保たれている。以下、図1に示すように、ティース部22に巻回された巻線30を「コイル部32」と呼ぶ。巻線30の詳しい結線方法については後述する。
【0024】
図1及び図3に示すように、整流子10は、ロータコア20との間に軸方向に隙間14をあけて位置する複数の金属製の整流子片12と、整流子片12が装着される樹脂製の支持体11とを有する。本実施形態の3溝ロータ3の整流子10は、三つの整流子片12を有する。支持体11は、軸方向に貫設された軸孔11hを有する筒状の絶縁部品であり、シャフト5に固定されるとともにロータコア20に取り付けられ、シャフト5と一体回転する。
【0025】
各整流子片12は、ブラシが摺動接触するブラシ接触部12aと、巻線30が接続される端子12bとを有する。ブラシ接触部12aは、円筒を三分割した形状をなし、支持体11の円筒部分の外周面に面接触された状態で環状の押さえ部材13により支持体11に固定される。端子12bは、ブラシ接触部12aの円弧状端部から径方向外側へ延設されて屈曲した部位であり、巻線30を係止可能な形状とされる。なお、端子12bに係止された巻線30は、溶接や半田付けといった熱接合(熱を利用した接合処理)により接合される。
【0026】
[1-2.巻線の構成]
本実施形態に係る巻線30の結線図を図4に示す。図4に示すように、巻線30は、その一端が整流子片12の三つの端子12bのうちの一つに係止(フッキング)されてからロータコア20の三つのティース部22のうちの一つに巻回されてコイル部32を形成する。次いで、別の端子12bに係止されるとともに別のティース部22に巻回されて二つ目のコイル部32を形成する。そして、残りの端子12bに係止されるとともに残りのティース部22に巻回されて三つ目のコイル部32を形成し、巻線30の他端が最初の端子12bに係止されることで結線が完成する。
【0027】
以下、巻線30の一端を「始点30s」といい、巻線30の他端を「終点30e」という。また、三つの端子12bのうち、巻線30の始点30s及び終点30eが係止される端子12bを「1極目」とし、次に巻線30が係止される端子12bを「2極目」とし、最後に巻線30が係止される端子12bを「3極目」とする。本実施形態では、ロータ3を整流子12側から軸方向に見たときに(以下「軸方向視で」という)、周方向において時計回りに1極目,2極目,3極目の端子12bが並ぶ場合を例示する。
【0028】
また、三つのティース部22のうち、一つ目のコイル部32が形成されるティース部22を「1極目」とし、次にコイル部32が形成されるティース部22を「2極目」とし、最後にコイル部32が形成されるティース部22を「3極目」とする。本実施形態のロータ3は、軸方向視で、周方向において時計回りに1極目,2極目,3極目のティース部22が並ぶ。また、本実施形態では、1極目のティース部22は1極目及び2極目の端子12bの間に位置し、2極目のティース部22は2極目及び3極目の端子12bの間に位置し、3極目のティース部22は3極目及び1極目の端子12bの間に位置する。なお、以下の説明では、端子12bとティース部22との極数が同一のもの(例えば1極目の端子12b及び1極目のティース部22)を「対応する」と表現する。例えば、1極目の端子12bに対応するティース部22は、1極目のティース部22となる。
【0029】
巻線30は、一つの端子12bに係止されるとともに、この端子12bと同じ極数の(すなわち対応する)ティース部22(以下「対応ティース部22」という)を含む巻芯部に巻回されたのち、上記の係止された端子12bの一方向側に隣接する次の極の端子12bに係止されることで構成される巻線部を複数有する。本実施形態の3溝ロータ3では、上記の一方向が「軸方向視で時計回りの方向」であり、三つの巻線部30A,30B,30Cが設けられる。なお、以下の説明では、軸方向視で一方向を「順方向」と呼び、軸方向視で一方向と逆向きを「逆方向」と呼ぶ。
【0030】
ここで、巻芯部とは、コイル部32の芯となる部分であってコイル部32の中心に位置し、少なくとも一つの対応ティース部22からなる。本実施形態の巻芯部は、一つの対応ティース部22からなるため、本実施形態では巻芯部にも符号22を付す。
【0031】
各巻線部30A~30Cには、係止された端子12bから巻芯部22に巻回される直前までの巻き始め線31と、巻芯部22に巻回されたコイル部32と、このコイル部32から次の極の端子12bに向かう巻き終わり線33とが含まれる。本実施形態のロータ3は、三つの巻線部30A~30Cが互いに同一の構成を有する。そのため、ここでは主に1極目の巻線部30Aを例に挙げて説明する。
【0032】
本実施形態の巻き始め線31は、整流子10とロータコア20との間の隙間14内を周方向に延びる部分31aと、スロット24内を通って軸方向に延びる部分31cと、ロータコア20における整流子10とは逆側の端面20bに沿って延びる部分31bとから構成される。以下の説明では、これら三つの部分をそれぞれ、応力緩和部31a,スロット通過部31c,捨て巻部31bと呼ぶ。
【0033】
応力緩和部31aは、隙間14内であって巻芯部22の順方向側に隣接するティース部22の軸方向一端側を通過する部分である。例えば、1極目の巻線部30Aの応力緩和部31aは、1極目の端子12bに係止された部分(すなわち始点30s)から1極目のティース部22(巻芯部)の時計回りの方向(図中左側)に隣接する2極目のティース部22の軸方向一端側(図中上側)を通過する。応力緩和部31aは、その名の通り、巻線30に作用する応力やテンションを緩和する機能を持つ。
【0034】
仮に、巻線30を1極目の端子12bに係止したのち、隙間14内で取り回すことなく図中左下に位置する1極目のティース部22に直接的に巻回したとすると、巻線30の余裕代が短くなり、巻線30にかかる負荷が大きくなる。このような負荷(応力,テンション)の低減を図るために、巻き始め線31を、隙間14内において整流子10の支持体11の周囲に所定長さ(本実施形態では約240度分)だけ巻き付けることで応力緩和部31aを形成する。
【0035】
スロット通過部31cは、対応ティース部22の順方向側に隣接するティース部22の軸方向一端側を通過した応力緩和部31aと連続して設けられ、上記隣接するティース部22の順方向側(図中左側)に位置するスロット24に挿入された部分である。すなわち、本実施形態のロータ3は、その巻き始め線31が、端子12bと同極の対応ティース部22に隣接するスロット24ではなく、対応ティース部22の一つ隣のティース部22に隣接するスロット24に挿入される。言い換えると、巻き始め線31を挿入するスロット24を一つずらしている(スロット24が一つずれている)ため、「1スロットずらしロータ」ともいえる。
【0036】
捨て巻部31bは、コイル部32に対し応力緩和部31aの逆側においてティース部22の軸方向他端側を通過する部分である。例えば、1極目の巻線部30Aの捨て巻部31bは、1極目のコイル部32を基準として1極目の応力緩和部31aの逆側のティース部22、すなわち3極目のティース部22の軸方向他端側(図中下側)を通過する。言い換えると、本実施形態の捨て巻部31bは、巻芯部22の両隣にある二つのティース部22のうち、順方向側とは逆側に隣接するティース部22の軸方向他端側を、応力緩和部31aと同じ順方向に通過している。
【0037】
本実施形態の巻き終わり線33は、巻芯部22に巻回されたコイル部32の終端から、次の極の端子12bに係止されるまでの部分である。例えば、1極目の巻線部30Aの巻き終わり線33は、1極目のティース部22と3極目のティース部22との間のスロット24から2極目の端子12bに係止されるまでの部分である。本実施形態の巻き終わり線33は、次の極の端子12bに対して、コイル部32から次の極の端子12bに向かう方向(ここでは順方向、すなわち時計回りの方向)とは逆方向から引っ掛けられる。
【0038】
つまり、巻き終わり線33は、端子12bに対して下方(隙間14側)から巻き付けられるように係止される。これにより、次の極の巻き始め線31(すなわち、巻き終わり線33が係止された端子12bからスタートする巻き始め線31)が、端子12bにおける順方向と逆側(図中右側)から迂回するように延びる。このため、巻線部30A~30Cにかかる応力がさらに低減される。
【0039】
[1-3.巻線の結線方法]
図5は、本実施形態の巻線30の結線方法の手順を説明するフローチャートである。図5に示すように、本結線方法は、同様の工程(以下「主工程S10,S20,S30」という)が3回繰り返されるものである。主工程S10,S20,S30はいずれも、巻線30を、一つの整流子片12の端子12bに係止させるとともに、この係止させた端子12bと同じ極の対応ティース部22を含む巻芯部に巻回させてコイル部32としたのち、この係止させた端子12bの順方向側に隣接する次の極の端子12bに係止させることで巻線部30A~30Cを形成する工程である。
【0040】
主工程S10,S20,S30にはそれぞれ、コイル部32を形成する前に係止させた端子12bから巻芯部22に巻回する直前までの巻き始め線31を、隙間14内であって少なくとも巻芯部22の順方向側に隣接するティース部22の軸方向一端側を通過させることで応力緩和部31aを形成する第一工程S13,S23,S33と、巻き始め線31を、応力緩和部31aよりもコイル部32側においてティース部22の軸方向他端側を通過させることで捨て巻部31bを形成する第二工程S15,S25,S35とが含まれる。
【0041】
以下詳述する。ステップS11では、巻線30の一端を1極目の端子12bに係止する。これにより、始点30sが形成される。次いで、ステップS13では、1極目の応力緩和部31aを形成する(第一工程)。すなわち、巻線30を、始点30sから時計回りに延ばし、2極目のティース部22の軸方向一端側を通過させてこのティース部22に隣接するスロット24に挿入する。続くステップS15では、1極目の捨て巻部31bを形成する(第二工程)。すなわち、スロット24を通過させた巻線30(スロット通過部31c)を同じく時計回りに引き延ばして、3極目のティース部22の軸方向他端側を通過させる。
【0042】
そして、巻線30を、1極目のティース部22(巻芯部)の直前のスロット24に挿入し、この巻芯部22に所定のターン数だけ巻回することで1極目のコイル部32を形成する(ステップS17)。最後に、ステップS19において、この巻線30を2極目の端子12bに係止することで、1極目の巻線部30Aが完成するとともに、一回目の主工程S10が完了する。
【0043】
なお、ステップS19の処理は、続く二回目の主工程S20の最初の工程(ステップS11に対応する工程)でもあるため、図5には「ステップS21」を併記している。すなわち、ステップS19において2極目の端子12bに巻線30を係止することは、2極目の巻線部30Bにおける巻き始め線31の端部を作り出す工程でもある。ステップS19(ステップS21)の工程が済んだら、ステップS23に進む。
【0044】
ステップS23,S25,S27,S29の各工程は、上記のステップS13,S15,S17,S19の各工程に対応する。すなわち、2極目の端子12bに係止させた巻線30を、この端子12bから時計回りに延ばし、3極目のティース部22の軸方向一端側を通過させてこのティース部22に隣接するスロット24に挿入することで、2極目の応力緩和部31aを形成する(ステップS23,第一工程)。
【0045】
次いで、スロット24を通過させた巻線30を同じく時計回りに引き延ばして、1極目のティース部22の軸方向他端側を通過させることで、2極目の捨て巻部31bを形成する(ステップS25,第二工程)。そして、巻線30を、2極目のティース部22(巻芯部)の直前のスロット24に挿入し、この巻芯部22に所定のターン数だけ巻回することで2極目のコイル部32を形成したのち(ステップS27)、3極目の端子12bに係止することで(ステップS29)、2極目の巻線部30Bが完成するとともに、二回目の主工程S20が完了する。
【0046】
同様に、ステップS33では、3極目の端子12bに係止させた巻線30を、この端子12bから時計回りに延ばし、1極目のティース部22の軸方向一端側を通過させてこのティース部22に隣接するスロット24に挿入することで、3極目の応力緩和部31aを形成する(第一工程)。次いで、スロット24を通過させた巻線30を同じく時計回りに引き延ばして、2極目のティース部22の軸方向他端側を通過させることで、3極目の捨て巻部31bを形成する(ステップS35,第二工程)。
【0047】
そして、巻線30を、3極目のティース部22(巻芯部)の直前のスロット24に挿入し、この巻芯部22に所定のターン数だけ巻回することで3極目のコイル部32を形成したのち(ステップS37)、1極目の端子12bに係止することで(ステップS39)、3極目の巻線部30Cが完成するとともに、三回目の主工程S30が完了する。ステップS39において、端子12bに係止させた巻線30の他端は、終点30eを形成する。
【0048】
[1-4.効果]
(1)上述したロータ3によれば、巻き始め線31に応力緩和部31aが設けられるため、巻線30に作用する応力やテンションを緩和でき、巻線30の断線や被膜剥がれを防止できる。また、図10に示すように、ティース部122と整流子片112との間の隙間114に巻き始め線131を一周巻き付ける従来の構成と比較して、巻き始め線31の応力緩和部31aの角度を立たせることができるため、隙間14に巻き付けられる応力緩和部31aをずれ難くすることができる。
【0049】
なお、ここでいう角度とは、応力緩和部31aの周方向に対する傾き(図4の結線図における、横方向に対する傾き)である。図4及び図10から明らかなように、本実施形態のロータ3であれば、応力緩和部31aの角度が従来の構成よりも大きいため、隙間14内で巻き付けられた巻線30(応力緩和部31a)がずれ難くなる。また、仮に応力緩和部31aがずれたとしても、隙間14内で同一の周方向位置に存在する巻線30の本数が、従来の構成よりも少ないため、他の極の巻き始め線31との接触を抑制できる。これによっても、巻線30の断線防止効果及び被膜剥がれ防止効果を高めることができる。
【0050】
したがって、上述したロータ3及びその結線方法によれば、巻線30の応力やテンションを緩和するとともに、巻線30の被膜剥がれ及び断線を防止することができる。また、上述したロータ3及びその結線方法によれば、全自動の装置によって巻線30を巻き付けることも可能である。さらに、上述したロータ3を備えたモータ1によれば、巻線30の被膜剥がれ及び断線を防止できるため、その品質を高めることができる。
【0051】
(2)また、上述したロータ3では、応力緩和部31aが対応ティース部22の順方向側に隣接するティース部22の軸方向一端側を通過するとともに、スロット通過部31cがこのティース部22の順方向側のスロット24に挿入される。つまり、上述したロータ3は「1スロットずらしロータ」であることから、簡素な取り回しで応力緩和部31aを確保することができる。
【0052】
(3)また、上述したロータ3によれば、巻き終わり線33が、次の極の端子12bに対して、コイル部32から次の極の端子12bに向かう方向とは逆方向から引っ掛けられるため、次の極の巻き始め線31を端子12における順方向とは逆側から迂回して延ばすことができる。これにより、巻線部30A~30Cにかかる応力をより低減することができる。
【0053】
なお、本実施形態の3溝ロータ3において、捨て巻部31bが、巻芯部22の順方向側とは逆側に隣接するティース部22の軸方向他端側を、応力緩和部31aと同じ順方向に通過するように設けられた場合(捨て巻部31bの方向が応力緩和部31aの方向と同じ場合)に、捨て巻部31bのシャフト5へのかかり(巻き付け接触)を回避できる。このため、本実施形態の3溝ロータ3によれば、捨て巻部31bの方向を応力緩和部31aの方向と逆にする場合と比べて、巻線30の断線防止効果及び被膜剥がれ防止効果を高めることができる。なお、本実施形態のように、3溝の1スロットずらしロータ3の場合には、捨て巻部31bの方向を応力緩和部31aの方向と同じにすることで、ロータ3の構成を簡素化することもできる。
【0054】
[2.第二実施形態]
次に、図6(a)及び(b)と上述した図4の結線図とを用いて、第二実施形態にかかるロータ3の構成を説明する。なお、上述した第一実施形態と同様の構成については、第一実施形態と同一の符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態のロータ3の構成は、1極目の巻線部30Aの巻き終わり線33を除いて、第一実施形態の構成と同一である。
【0055】
図4に示すように、第一実施形態のロータ3では、隙間14内の複数の巻き始め線31及び巻き終わり線33が交差する箇所が存在する。例えば、1極目の巻き終わり線33に着目すると、この巻き終わり線33は、1極目の巻き始め線31及び3極目の巻き始め線31の二つと交差する。これら二つの交差箇所のうち、1極目の巻き終わり線33と3極目の巻き始め線31との交差箇所は、先に巻かれた1極目の巻き終わり線33の上(径方向外側)から3極目の巻き始め線31が巻かれているため、接触して交差しており、仮に絶縁被膜が剥がれてショートすると、モータ1としての機能が損なわれてしまう箇所である。
【0056】
一方、1極目の巻き終わり線33と1極目の巻き始め線31との交差箇所は、先に巻かれた1極目の巻き始め線31の上(径方向外側)から1極目の巻き終わり線33が後から巻かれるため、径方向に落差がある。すなわち、結線図上ではクロスして見えるが、実際には接触しない。なお、図4の結線図では、端子12bの直下において、1極目の巻き終わり線33と2極目の巻き始め線31とが交差しているように見えるが、ここは巻線30を端子12bに係止したのち熱接合される部分であり、交差箇所ではない。
【0057】
また、例えば、2極目の巻き終わり線33に着目すると、この巻き終わり線33は、1極目の巻き始め線31及び2極目の巻き始め線31の二つと交差する。これら二つの交差箇所のうち、2極目の巻き終わり線33と1極目の巻き始め線31との交差箇所は、先に巻かれた1極目の巻き始め線31の上(径方向外側)から2極目の巻き終わり線33が巻かれるため、径方向に落差がある。すなわち、この交差箇所も、結線図上ではクロスして見えるが、実際には接触しない。2極目の巻き終わり線33と2極目の巻き始め線31との交差箇所も同様に、径方向に落差があり、結線図上ではクロスして見えるが、実際には接触しない。
【0058】
本実施形態のロータ3は、1極目の巻き終わり線33と3極目の巻き始め線31との交差箇所、すなわち、接触交差によりショートしたときにモータ1としての機能を損なう箇所が形成されない結線方法により巻線30が巻かれている。具体的には、図6(a)中に太実線で示すように、本実施形態の巻線30は、1極目の巻き終わり線33が他極(2極目,3極目)の巻き終わり線33の延びる方向(コイル部32から端子12bに向かう方向、ここでは順方向である「時計回りの方向」)とは逆方向に延びて、次の極の端子12bに係止される。
【0059】
すなわち、1極目の巻き終わり線33は、隙間14内において、1極目のコイル部32から反時計回りに延ばされ(Uターンされて)、2極目の端子12bに係止される。これにより、図6(a)中に二点鎖線で示すように、図4の結線図で存在していた1極目の巻き終わり線33と3極目の巻き始め線31との交差箇所(図6中バツ印)がなくなり、断線の防止効果及び被膜剥がれの防止効果を高めることができる。
【0060】
ここで、図6(b)は、第一実施形態及び第二実施形態の3溝ロータ3における、巻き始め線31及び巻き終わり線33の交差箇所の電気回路的な影響を示した表である。表中のバツ印は、接触交差する箇所であってショートした場合にモータとしての機能を損なう箇所であることを示す。以下、この交差箇所を「第一クロス部」と呼ぶ。第一クロス部は、モータの性能確保の観点から回避することが好ましい箇所である。また、表中の横棒印は、上記したように、結線図上ではクロスして見えるが、実際には接触しない箇所(落差のある交差箇所)であることを示す。以下、この交差箇所を「第三クロス部」という。第三クロス部は回避不要である。
【0061】
一方、表中の丸印は、接触交差する箇所ではあるが、仮にショートしたとしても電流の流れ方が大きく変化しないため問題のない箇所であることを示す。以下、この交差箇所を「第二クロス部」と呼ぶ。図4及び図6(a)の結線図に示す巻き方では第二クロス部が存在しないが、巻き始め線31の巻き方によっては第二クロス部が存在することもある。第二クロス部は、モータの性能確保の観点からは回避する必要はないが、巻線の断線防止の観点から回避することが好ましい箇所である。
【0062】
図6(b)の表には、三種類のクロス部が表現されているが、図4及び図6(a)に示す「1スロットずらしロータ」の場合には、図6(b)中にドット模様を付した右上欄のみを参照すればよい。すなわち、3溝の1スロットずらしロータ3の場合は、1極目の巻き終わり線33と3極目の巻き始め線31との交差箇所が第一クロス部となることが、図6(b)の表から把握できる。したがって、上記のロータ3において第一クロス部を回避するためには、図6(a)中に太実線で示すように、1極目の巻き終わり線33をUターンさせればよい。
【0063】
なお、3溝ロータ3の場合、最もシンプルな結線方法で巻き始め線31に応力緩和部31aと捨て巻部31bとを形成するには、図4及び図6(a)に示すように、1極目のスロット通過部31cを2極目及び3極目のティース部22間のスロット24に配置し、2極目,3極目のスロット通過部31cをこれと同様に一つずつずらせばよい。すなわち、3溝ロータ3の場合、巻き始め線31を、対応ティース部22の順方向側に位置する一つ目のティース部22(つまり2極目のティース部22)の順方向側のスロット24に通して「1スロットずらしロータ」とすれば、最もシンプルな構成にできる。
【0064】
ただし、1極目のスロット通過部31cを、3極目及び1極目のティース部22間のスロット24に配置し、2極目,3極目のスロット通過部31cをこれと同様に一つずつずらして配置することも可能である。すなわち、1極目の巻き始め線31を、対応ティース部22の順方向側に位置する二つ目のティース部22の順方向側のスロット24に通して、「3溝の2スロットずらしロータ」としてもよい。この場合、図6(b)の表のうち破線で囲んだ三つの欄を参照すればよい。すなわち、3溝の2スロットずらしロータにおいて、第一実施形態と同様に巻線30を巻回すると、一つの第一クロス部と二つの第二クロス部とが生じることがわかる。
【0065】
そのため、第一クロス部のみを回避するためには、1極目の巻き終わり線33を図6(a)と同様にUターンさせればよい。これにより、1極目の巻き終わり線33と2極目の巻き始め線31との交差箇所である第二クロス部も回避される。なお、2極目の巻き終わり線33と3極目の巻き始め線31との交差箇所である第二クロス部をも回避する場合には、2極目の巻き終わり線33も逆方向に延ばして3極目の端子12bに係止すればよい。1極目の巻き終わり線33と同様に、2極目の巻き終わり線33も逆方向に延ばすことで、巻線30の断線や被膜剥がれをより防ぐことができる。
【0066】
[2-1.第二実施形態の拡張]
図6(b)は上述した3溝ロータ3に関する表であるが、ロータのティース部22及び整流子片12の各個数は三つに限らず、五つ(5溝ロータ)や六つ(6溝ロータ)等であってもよい。ここで、ティース部22及び整流子片12をいずれもN個(但しN≧3)設けたロータであって、巻き始め線31を、対応ティース部22の順方向側に位置するM個目(但しM<N)のティース部22の順方向側のスロット24に挿入する場合(すなわち「N溝のMスロットずらしロータ」)を想定する。
【0067】
このロータの巻線30は、1極目の端子12bに係止された部分が始点30sとされ、N個の巻線部30A,30B,…を有するとともに1極目の端子12bに係止された部分が終点30eとされる。このN溝ロータにおける、巻き始め線31及び巻き終わり線33の交差箇所の電気回路的な影響を示した表を図7に示す。なお、表の右端にある白抜き矢印Mは、スロット通過部31cを配置するスロット24を、対応ティース部22のスロット24からずらした数に相当し、N未満の値とされる(M<N)。これは、「N=M」のロータでは、図10の従来構成となってしまうからである。
【0068】
図7から明らかな通り、先に巻いた巻き終わり線33に、後から巻いた巻き始め線31が交差すると(すなわち、巻き終わり線33の極が巻き始め線31の極よりも小さい場合)、その交差箇所は第一クロス部又は第二クロス部となる。具体的には、巻き始め線31の極から巻き終わり線33の極を引いた差が2以上である交差箇所は第一クロス部(バツ印)となり、巻き始め線31の極から巻き終わり線33の極を引いた差が1である交差箇所は第二クロス部(丸印)となる。なお、巻き始め線31の極から巻き終わり線33の極を引いた差が0以下である交差箇所は第三クロス部(横棒印)となる。
【0069】
したがって、この表によれば、N-2極目以前の(N-2以下の極の)巻き終わり線33を逆方向に延ばして次の極の端子12bに係止することで、第一クロス部が回避され、N-1極目の巻き終わり線33も逆方向に延ばして次の極の端子12bに係止すれば、第二クロス部も回避されることがわかる。ただし、実際に回避すべき交差箇所は、スロット24をずらした数、すなわちMによって決まる。例えば、M=1のロータであれば、Nにかかわらず1極目の巻き終わり線33をUターンさせればよく、M=2のロータであれば、Nにかかわらず1極目及び2極目の巻き終わり線33をUターンさせれば、少なくとも第一クロス部は回避される。なお、N極目の巻き終わり線33は、順方向に延ばして1極目の端子12bに係止すればよい。
【0070】
例えば、図6(a)に示す「N=3,M=1」のロータ3では、M以下の極(すなわち1極目)の巻き終わり線33を逆方向に延ばして次の極(2極目)の端子12bに係止させ、N極目(3極目)の巻き終わり線33を順方向に延ばして1極目の端子12bに係止させる。これにより、上述したように、第一クロス部を回避できる。また、「N=3,M=2」のロータでは、M以下の極(すなわち1極目及び2極目)の巻き終わり線33を逆方向に延ばして次の極の端子12bに係止されれば、上述したように、第一クロス部に加えて第二クロス部も回避できる。
【0071】
なお、第二実施形態の巻線30の結線方法の手順を簡単に説明する。一回目の主工程(図5のステップS10)では、巻線30の一端を1極目の端子12bに係止することで始点とする。これは、第一実施形態と同様である。また、図5に示す各第一工程(ステップS13,S23,S33)において、巻き始め線31を、対応ティース部22の順方向側に位置するM個目(但しM<N)のティース部22の軸方向一端側を通過させることで応力緩和部31aを形成するとともにこのM個目のティース部22の順方向側のスロット24に挿入する。また、M回目以前の主工程では、コイル部32から次の極の端子12bに向かう巻き終わり線33を逆方向に延ばして次の極の端子12bに係止させる。そして、N回目の主工程では、N極目のコイル部32から1極目の端子12bに向かう巻き終わり線33を、順方向に延ばして1極目の端子12bに係止することで巻線30の他端を終点とすればよい。
【0072】
[2-2.第二実施形態の変形例]
3溝ロータ以外にも、上述した法則に則って巻線30を巻回することで、同様に、第一クロス部及び第二クロス部を回避できる。これについて、図8(a)及び図9(a)に示す5溝ロータ(すなわちN=5)について説明する。
【0073】
図8(a)の5溝ロータは、一つのティース部22に一つのコイル部32を形成するものであって、対応ティース部22の順方向側に位置する一つ目のティース部22の順方向側のスロット24に巻き始め線31が挿入される。すなわち、この5溝ロータは、巻芯部が一つのティース部22から構成された1スロットずらしロータ(N=5,M=1)である。
【0074】
図8(b)に示すように、「N=5,M=1」のロータでは、1極目の巻き終わり線33と5極目の巻き始め線31との交差箇所が第一クロス部となってしまうため、図8(a)に示すように、M以下の極(すなわち1極目)の巻き終わり線33を、図中太実線で示すように逆方向に延ばして次の極(2極目)の端子12bに係止する。なお、他の極(2~5極目)の巻き終わり線33は全て順方向に延びて、次の極の端子12bに係止される。つまり、本変形例によっても、上述した第二実施形態と同様の効果が得られる。
【0075】
一方、図9(a)の5溝ロータは、隣り合う二つのティース部22に一つのコイル部32を形成するもの(2極巻き)であって、対応ティース部22の順方向側に位置する二つ目のティース部22の順方向側のスロット24に巻き始め線31が挿入される。すなわち、この5溝ロータは、巻芯部が二つのティース部22から構成された2スロットずらしロータ(N=5,M=2)である。なお、巻芯部(例えば1極目及び2極目のティース部22)を基準とすると、1極目の巻き始め線31が3極目のティース部22の順方向側のスロット24を通るため、「1スロットずらし」のようにも見える。しかしここでは、対応ティース部22(この場合、1極目のティース部22)を基準にスロット24のズレを数えるため、本ロータは、上記の通り「2スロットずらしロータ」となる。
【0076】
したがって、このロータにおいて第一実施形態と同様に巻線30を巻き付けると、図9(b)に示すように、1極目の巻き終わり線33と4極目及び5極目の各巻き始め線31との交差箇所、及び、2極目の巻き終わり線33と5極目の巻き始め線31との交差箇所がいずれも第一クロス部となる。図9(a)のロータは、これら三つの第一クロス部を回避する結線方法で巻かれている。すなわち、図9(a)中に太実線で示すように、1極目及び2極目の巻き終わり線33が逆方向に延びて次の極の端子12bに係止され、他の極の巻き終わり線33は順方向に延びて次の極の端子12bに係止されている。本変形例によっても、上述した第二実施形態と同様の効果が得られる。
【0077】
[3.その他]
上述した各実施形態及び変形例にかかるロータ及びその結線方法は一例であって、上述した構成に限られない。例えば、巻き終わり線33を、次の極の端子12bに対して、コイル部32から次の極の端子12に向かう方向と同じ方向から引っ掛けてもよい。また、捨て巻部31bと応力緩和部31aとの方向を互いに逆向きにしてもよい。
【0078】
また、上述した各ロータはいずれも、順方向(一方向)が軸方向視で時計回りであるものを例示したが、一方向が軸方向視で反時計回りのロータであってもよい。また、端子12bと同じ極の対応ティース部22が、端子12bに最も近いティース部22でなくてもよい。また、上述した各ロータでは、ティース部22に対する巻線30の巻回方向が径方向外側から見て反時計回りになっているが、ティース部22に対する巻回方向は時計回りであってもよい。なお、モータ1の構成,形状も一例であって、上述したものに限られない。
【符号の説明】
【0079】
1 モータ
2 ステータ
2A ハウジング
2B 永久磁石
3 ロータ,3溝ロータ
4 エンドベル
5 シャフト
10 整流子
12 整流子片
12b 端子
14 隙間
20 ロータコア
22 ティース部
24 スロット
30 巻線
30A,30B,30C 巻線部
30s 始点
30e 終点
31 巻き始め線
31a 応力緩和部
31b 捨て巻部
31c スロット通過部
32 コイル部
33 巻き終わり線
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10