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特許7084245プリント回路基板、光モジュール、及び光伝送装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】プリント回路基板、光モジュール、及び光伝送装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20220607BHJP
   H01P 3/04 20060101ALI20220607BHJP
   H01P 1/203 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
H05K1/02 P
H05K1/02 T
H01P3/04
H01P1/203
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018146067
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2020021876
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 修
【審査官】柴垣 宙央
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-101656(JP,A)
【文献】特開2015-33119(JP,A)
【文献】特開2006-42098(JP,A)
【文献】特表2008-507858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H01P 3/04
H01P 1/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層に配置され、ともに第1の方向に沿って並んで延伸する、1対のストリップ導体と、
前記第1層の下方に位置する第2層に配置され、前記1対のストリップ導体のうち前記第1の方向に沿って第1の長さとなる第1部分と平面視して重畳するとともに、前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って前記1対のストリップ導体の前記第1部分の外縁それぞれからさらに外方へ広がる、第1共振導体板と、
前記第2層に配置され、前記第1共振導体板と接触しないよう前記第1共振導体板を囲う開口部を有する、接地導体層と、
前記第2層の下方に位置する第3層に配置され、平面視して前記第1共振導体板に含まれるよう重畳するとともに、前記1対のストリップ導体の中心線に沿って前記第1の方向に延伸する、第2共振導体板と、
前記第3層の下方に位置する第4層に配置され、平面視して前記第1共振導体板を含むよう重畳する、第3共振導体板と、
前記第1共振導体板と前記第2共振導体板とを接続する、複数の第1バイアホールと、
前記第2共振導体板と前記第3共振導体板とを接続する、第2バイアホールと、
前記第3共振導体板と前記接地導体層とを接続する、複数の第3バイアホールと、
を備え、
前記複数の第3バイアホールのうち隣接する2つの第3バイアホールの中心を順に接続してなる多角形は、平面視して前記第1共振導体板を含むよう重畳し、
前記複数の第3バイアホールのうち隣接する2つの第3バイアホールの中心間距離はそれぞれ、伝送されるデジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下である、
ことを特徴とする、プリント回路基板。
【請求項2】
請求項1に記載のプリント回路基板であって、
前記第1共振導体板は、前記1対のストリップ導体の中心線に対して実質的に線対称となる形状を有する、
ことを特徴とする、プリント回路基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプリント回路基板であって、
前記第2共振導体板は、前記1対のストリップ導体の中心線に対して実質的に線対称となる形状を有する、
ことを特徴とする、プリント回路基板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のプリント回路基板であって、
前記第1層に配置され、前記第2の方向に沿って順に並ぶ、複数対の前記ストリップ導体と、
前記第2層に配置され、前記第2の方向に沿って順に並ぶ、複数の前記第1共振導体板と、
前記第3層に配置され、前記第2の方向に沿って順に並ぶとともに、平面視して対応する前記第1共振導体板に含まれるよう重畳する、複数の前記第2共振導体板と、
前記複数の前記第1共振導体板と対応する前記複数の前記第2共振導体板とをそれぞれ接続する、複数の前記第1バイアホールと、
前記複数の前記第2共振導体板と前記第3共振導体板とをそれぞれ接続する複数の前記第2バイアホールと、
をさらに含み、
前記接地導体層は、前記複数の前記第1共振導体板と接触しないよう前記複数の第1共振導体板をそれぞれ囲う複数の前記開口部を有し、
前記第3共振導体板は、平面視して前記複数の前記第1共振導体板を含むよう重畳し、
前記複数の第3バイアホールの一部の第3バイアホールのうち、隣接する2つの第3バイアホールの中心を順に接続してなる多角形は、平面視して対応する前記第1共振導体板を含むよう重畳し、
前記複数の第3バイアホールのうち、隣接する2つの第3バイアホールの中心間距離はそれぞれ、伝送される前記デジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下である、
ことを特徴とする、プリント回路基板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のプリント回路基板であって、
前記第1の方向と前記第2の方向のなす角は、85°以上90°以下である、
ことを特徴とする、プリント回路基板。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のプリント回路基板であって、
前記第1の方向と前記第2の方向とは、実質的に直交する、
ことを特徴とする、プリント回路基板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のプリント回路基板を、備える光モジュールであって、
前記プリント回路基板は、前記デジタル変調信号を駆動する、ICを、さらに備える、
ことを特徴とする、光モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の光モジュールであって、
前記プリント回路基板を覆って電磁的シールドを構成するとともに、前記プリント回路基板の一部を外部に露出するための開口部とを有する、金属筺体を、
さらに備える、光モジュール。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光モジュールが搭載される、光伝送装置。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれかに記載のプリント回路基板を、備える光伝送装置であって、
前記プリント回路基板は、前記デジタル変調信号を駆動する、ICを、さらに備える、
ことを特徴とする、光伝送装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント回路基板、光モジュール、及び光伝送装置に関し、特に、マイクロストリップ線路形式の差動伝送線路に伝搬する不要電磁波が抑制される、プリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント回路基板において、シリアルデータ信号を伝送する差動伝送線路が形成されることがある。かかる差動伝送線路に高周波の不要な電磁ノイズが発生しうる。
【0003】
プリント回路基板を備える従来の光モジュール(光送受信機)では、その外殻にあたる金属ケースの間隙を少なくすることで電磁波の空間伝搬を可能な限り遮蔽し、さらにケース内部に電波吸収材料を配置することで電磁波の空間伝搬を減衰させて、光送受信機からの不要電磁波の漏れを抑制している。また、このような高周波のノイズに対して、差動伝送線路を差動信号成分が伝導伝搬することに悪い影響を及ぼさない(差動信号品位を劣化させない)まま、コモンモード信号成分の伝導伝搬を選択的に阻害する手法が提案されている。特許文献1及び2に、矩形の導体膜をその中央に配置したバイアホールにより接地導体層に接続する共振体を構成し、その共振体を差動伝送線路の下部に配置することにより結合する構成が開示されている。特許文献3に、接地導体層に渦巻状の開口部(スロット)を複数設け、差動伝送線路の両側に配置して両者を線上の開口部で接続することによる共振体を構成し、その共振体を差動伝送線路に結合させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/004453号
【文献】特開2012-227887号公報
【文献】米国特許出願公開第2011/0298563号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不要な電磁ノイズのうち、差動伝送線路のコモンモード成分となる周波数を含む周波数領域において、不要な電磁ノイズの伝導伝搬を選択的に阻害するのが望ましく、そのためには、差動伝送線路に共振体構造を結合させることが考えられる。
【0006】
また、近年では、プリント回路基板に複数の部品の高密度配置が望まれている。そのため、共振体構造(共振回路)の領域(面積)の縮小が、コスト増大を抑えつつ望まれている。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、不要な電磁ノイズのうち、差動伝送線路へのコモンモード信号成分の伝送伝搬を選択的に阻害することが実現されるとともに、コスト増大を抑制しつつ差動伝送線路の高密度配置が可能となる、プリント回路基板、光モジュール、及び光伝送装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係るプリント回路基板は、第1層に配置され、ともに第1の方向に沿って並んで延伸する、1対のストリップ導体と、前記第1層の下方に位置する第2層に配置され、前記1対のストリップ導体のうち前記第1の方向に沿って第1の長さとなる第1部分と平面視して重畳するとともに、前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って前記1対のストリップ導体の前記第1部分の外縁それぞれからさらに外方へ広がる、第1共振導体板と、前記第2層に配置され、前記第1共振導体板と接触しないよう前記第1共振導体板を囲う開口部を有する、接地導体層と、前記第2層の下方に位置する第3層に配置され、平面視して前記第1共振導体板に含まれるよう重畳するとともに、前記1対のストリップ導体の中心線に沿って前記第1の方向に延伸する、第2共振導体板と、前記第3層の下方に位置する第4層に配置され、平面視して前記第1共振導体板を含むよう重畳する、第3共振導体板と、前記第1共振導体板と前記第2共振導体板とを接続する、複数の第1バイアホールと、前記第2共振導体板と前記第3共振導体板とを接続する、第2バイアホールと、前記第3共振導体板と前記接地導体層とを接続する、複数の第3バイアホールと、を備え、前記複数の第3バイアホールのうち隣接する2つの第3バイアホールの中心を順に接続してなる多角形は、平面視して前記第1共振導体板を含むよう重畳し、前記複数の第3バイアホールのうち隣接する2つの第3バイアホールの中心間距離はそれぞれ、伝送されるデジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下である、ことを特徴とする。
【0009】
(2)上記(1)に記載のプリント回路基板であって、前記第1共振導体板は、前記1対のストリップ導体の中心線に対して実質的に線対称となる形状を有していてもよい。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)に記載のプリント回路基板であって、前記第2共振導体板は、前記1対のストリップ導体の中心線に対して実質的に線対称となる形状を有していてもよい。
【0011】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のプリント回路基板であって、前記第1層に配置され、前記第2の方向に沿って順に並ぶ、複数対の前記ストリップ導体と、前記第2層に配置され、前記第2の方向に沿って順に並ぶ、複数の前記第1共振導体板と、前記第3層に配置され、前記第2の方向に沿って順に並ぶとともに、平面視して対応する前記第1共振導体板に含まれるよう重畳する、複数の前記第2共振導体板と、前記複数の前記第1共振導体板と対応する前記複数の前記第2共振導体板とをそれぞれ接続する、複数の前記第1バイアホールと、前記複数の前記第2共振導体板と前記第3共振導体板とをそれぞれ接続する複数の前記第2バイアホールと、をさらに含み、前記接地導体層は、前記複数の前記第1共振導体板と接触しないよう前記複数の第1共振導体板をそれぞれ囲う複数の前記開口部を有し、前記第3共振導体板は、平面視して前記複数の前記第1共振導体板を含むよう重畳し、前記複数の第3バイアホールの一部の第3バイアホールのうち、隣接する2つの第3バイアホールの中心を順に接続してなる多角形は、平面視して対応する前記第1共振導体板を含むよう重畳し、前記複数の第3バイアホールのうち、隣接する2つの第3バイアホールの中心間距離はそれぞれ、伝送される前記デジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下であってもよい。
【0012】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のプリント回路基板であって、前記第1の方向と前記第2の方向のなす角は、85°以上90°以下であってもよい。
【0013】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のプリント回路基板であって、前記第1の方向と前記第2の方向とは、実質的に直交していてもよい。
【0014】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のプリント回路基板を、備える光モジュールであって、前記プリント回路基板は、前記デジタル変調信号を駆動する、ICを、さらに備えていてもよい。
【0015】
(8)上記(7)に記載の光モジュールであって、前記プリント回路基板を覆って電磁的シールドを構成するとともに、前記プリント回路基板の一部を外部に露出するための開口部とを有する、金属筺体を、さらに備えていてもよい。
【0016】
(9)本発明に係る光伝送装置は、上記(7)又は(8)に記載の光モジュールが搭載されてもよい。
【0017】
(10)本発明に係る光伝送装置は、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のプリント回路基板を、備える光伝送装置であって、前記プリント回路基板は、前記デジタル変調信号を駆動する、ICを、さらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、不要な電磁ノイズのうち、差動伝送線路へのコモンモード信号成分の伝送伝搬を選択的に阻害することが実現されるとともに、コスト増大を抑制しつつ差動伝送線路の高密度配置が可能となる、プリント回路基板、光モジュール、及び光伝送装置の提供を目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る光伝送装置及び光モジュールの構成を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るプリント回路基板の一部の平面を示す模式図である。
図3A】本発明の第1の実施形態の係るプリント回路基板の一部の断面を示す模式図である。
図3B】本発明の第1の実施形態の係るプリント回路基板の一部の断面を示す模式図である。
図4A】本発明の第1の実施形態に係るプリント回路基板の多層構造のうち、第2層の導体層の構成を示す模式図である。
図4B】本発明の第1の実施形態に係るプリント回路基板の多層構造のうち、第3層の導体層の構成を示す模式図である。
図4C】本発明の第1の実施形態に係るプリント回路基板の多層構造のうち、第4層の導体層の構成を示す模式図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る差動伝送線路の特性を示す図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係るプリント回路基板の他の例の一部の平面を示す模式図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係る差動伝送線路の他の例の特性を示す図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係る光モジュールの外部形状を示す概略斜視図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係る光モジュールの構造を示す概略斜視図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係るプリント回路基板の一部の平面を示す模式図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る差動伝送線路の特性を示す図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係る差動伝送線路の特性を示す図である。
図13】本発明の第3の実施形態に係るプリント回路基板の一部の平面を示す模式図である。
図14】本発明の第4の実施形態に係るプリント回路基板の一部の平面を示す模式図である。
図15】本発明の第4の実施形態に係る差動伝送線路の特性を示す図である。
図16】本発明の第5の実施形態に係るプリント回路基板の一部の平面を示す模式図である。
図17】本発明の第5の実施形態に係る差動伝送線路の特性を示す図である。
図18】本発明の第5の実施形態に係るプリント回路基板の一部の平面を示す模式図である。
図19】本発明の第5の実施形態に係るプリント回路基板の一部の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光伝送装置1及び光モジュール2の構成を示す模式図である。光伝送装置1は、プリント回路基板11を備えている。また、光モジュール2は、プリント回路基板21を備えている。当該実施形態に係るプリント回路基板は、これらプリント回路基板11,21のいずれか又は両方である。
【0022】
光伝送装置1は、IC12をさらに備える。光伝送装置1は、例えば、大容量のルータやスイッチである。光伝送装置1は、例えば交換機の機能を有しており、基地局などに配置される。光伝送装置1は、光モジュール2より受信用のデータ(受信用の電気信号)を取得し、IC12などを用いて、どこへ何のデータを送信するかを判断し、送信用のデータ(送信用の電気信号)を生成し、プリント回路基板11を介して、該当する光モジュール2へそのデータを伝達する。
【0023】
光モジュール2は、送信機能及び受信機能を有するトランシーバであり、光ファイバ3Aを介して受信する光信号を電気信号に変換するROSA23Aと、電気信号を光信号に変換して光ファイバ3Bへ送信するTOSA23Bと、を含んでいる。プリント回路基板21と、ROSA23A及びTOSA23Bとは、それぞれフレキシブル基板22A,22B(フレキシブルプリント基板 FPC:Flexible Printed Circuit)を介して接続されている。ROSA23Aより電気信号がフレキシブル基板22Aを介してプリント回路基板21へ伝送され、プリント回路基板21より電気信号がフレキシブル基板22Bを介してTOSA23Bへ伝送される。光モジュール2と光伝送装置1とは電気コネクタ5を介して接続される。ROSA23AやTOSA23Bは、プリント回路基板21に電気的に接続され、光信号又は電気信号のうち一方から他方へ変換する光素子である。
【0024】
当該実施形態に係る伝送システムは、2個以上の光伝送装置1と2個以上の光モジュール2と、1個以上の光ファイバ3(例えば、3A,3B)を含む。各光伝送装置1に、1個以上の光モジュール2が搭載される。2個の光伝送装置1にそれぞれ搭載される光モジュール2の間を、光ファイバ3が接続している。一方の光伝送装置1が生成した送信用のデータが、搭載される光モジュール2によって光信号に変換され、かかる光信号を光ファイバ3へ送信される。光ファイバ3上を伝送する光信号は、他方の光伝送装置1に搭載される光モジュール2によって受信され、光モジュール2が光信号を電気信号へ変換し、受信用のデータとして当該他方の光伝送装置1へ伝送する。
【0025】
ここで、各光モジュール2が送受信する電気信号のビットレートは100Gbit/s級のものであり、光モジュール2は、送信用に4チャンネル、受信用に4チャンネルの多チャンネル方式である。各々のチャネルを伝送する電気信号のビットレートは25Gbit/s乃至28Gbit/sのいずれかであり、ここでは、各々のチャンネルを伝送する電気信号のビットレートは25.78Gbit/sである。差動伝送線路はビットレート25.78Gbit/sの電気的なシリアルデータ信号を伝搬させるためのものである。
【0026】
図2は、当該実施形態に係るプリント回路基板31の一部の平面を示す模式図である。図3A及び図3Bは、当該実施形態の係るプリント回路基板31の一部の断面を示す模式図である。図2図3A、及び図3Bは、プリント回路基板31の構造を理解するために、平面及び断面をそれぞれ模式的に示しており、実際の平面図及び断面図とは異なっている。プリント回路基板31は、それぞれ誘電体層を介して複数の導体層が形成される多層構造のプリント配線基板であり、図2図3A、及び図3Bに、多層構造のうち、プリント回路基板31のうち、差動伝送線路の一領域と共振体構造が形成される部分(4層の導体層)が図示されている。差動伝送線路32はデジタル変調信号の信号線路として供用される。図3A図2に示すIIA-IIA線による断面を、図3B図2に示すIIB-IIB線による断面を、それぞれ示している。
【0027】
当該実施形態に係るプリント回路基板31は、高速デジタル信号用の差動伝送線路を複数備えており、プリント回路基板31は複数のチャネルを有している。図2図3A、及び図3Bは、複数の差動伝送線路のうち、1つの差動伝送線路32(1チャンネル)が示されている。ここで、差動伝送線路32に伝送される電気信号のビットレートは25.78Gbit/sである。なお、ここで、プリント回路基板31は、光モジュール2のプリント回路基板21であるが、前述の通り、光伝送装置1のプリント回路基板11であってもよい。
【0028】
図2図3A、及び図3Bに示す通り、プリント回路基板31は、誘電体層100と、1対のストリップ導体101,102と、接地導体層103と、第1共振体導体板104と、第2共振導体板105と、第3共振導体板106と、複数(ここでは、1対)の第1バイアホール110と、第2バイアホール111と、複数(ここでは、6つ)の第3バイアホール112と、複数のランド113と、を備える。なお、図2に示す最上表面には、保護用誘電体膜107が全面に亘って配置されているが、プリント回路基板31の多層構造の理解を容易にするために、保護用誘電体膜107は省略されている。保護用誘電体膜107は、ソルダレジストと呼ばれるハンダ付着防止用の誘電体膜であり、厚さは40μm程度としている。同様に、誘電体層100は図2には表示されていない。また、図3A及び図3Bの断面には、誘電体層100が配置されているが、プリント回路基板31の多層構造の理解を容易にするために、保護用誘電体膜107及び誘電体層100が配置される断面部分にはハッチングを付しておらず、断面より奥(紙面を貫く先方)に配置される部材が表示されている。
【0029】
前述の通り、図2図3A、及び図3Bには、プリント回路基板31の多層構造のうち、4層の導体層が示されている。4層の導体層を、プリント回路基板31の上表面から下方へ順に、第1金属層ML1(第1層)、第2金属層ML2(第2層)、第3金属層ML3(第3層)、第4金属層ML4(第4層)とする。なお、便宜上ここでは「下方」としているが、積層方向に沿って4層の導体層が順に配置されていればよい。1対のストリップ導体101,102は、第1金属層ML1に配置され、厚さ37μmの銅箔である。接地導体層103及び第1共振導体板104はともに、第2金属層ML2に配置され、厚さ32μmの銅箔である。第2共振導体板105及びランド113はともに、第3金属層ML3に配置され、厚さ32μmの銅箔である。第3共振導体板106は、第4金属層ML4に配置され、厚さ32μmの銅箔である。第1金属層ML1と第2金属層ML2との層間距離(第1金属層ML1の下面と第2金属層ML2の上面との距離)、第2金属層ML2と第3金属層ML3との層間距離、及び第3金属層ML3と第4金属層ML4との層間距離はすべて75μmに設定されている。なお、各導体層の平面形状は、パターニングにより加工形成される。
【0030】
誘電体層100には、ガラス布基材とエポキシ樹脂からなる材料(ガラスエポキシ樹脂)が用いられる。例えば、誘電体層100の比誘電率3.5とする。プリント回路基板31の多層構造において、隣り合う導体層の間には誘電体層100がそれぞれ配置される。また、各導体層の平面形状において、離間して配置される2つの部材の間には誘電体層100がそれぞれ配置される。
【0031】
1対のストリップ導体101,102は、第1層(第1金属層ML1)に配置され、ともに第1の方向(図2に示す上下方向)に沿って並んで延伸している。1対のストリップ導体101,102それぞれの幅Wは0.09mmであり、間隙Gは0.23mmである。ここで、間隙Gは、ストリップ導体101の内縁からストリップ導体102の内縁までの距離である。1対のストリップ導体101,102は、互いに間隙Gで離間しつつ、ともに幅Wで、互いに平行に第1の方向に直線形状に延伸しているのが望ましい。しかしながら、1対のストリップ導体101,102の形状は、プリント回路基板31に実装される他の部品との関係により、屈曲する場合などが考えられる。その場合であっても、第1共振導体板104と対向する領域及びその近傍の領域において、平行な直線形状であればよい。
【0032】
図4Aは、当該実施形態に係るプリント回路基板31の多層構造のうち、第2層の導体層の構成を示す模式図である。第1共振導体板104は、第2層(第2金属層ML2)に配置され、1対のストリップ導体101,102のうち第1の方向に沿って第1の長さL1となる第1部分と平面視して重畳するとともに、第2の方向(図2及び図4Aに示す左右方向)に沿って当該第1部分の外縁それぞれからさらに外方へ広がっている。ここで、1対のストリップ導体101,102の第1部分とは、図2に示す通り、平面視して第1共振導体板104と重畳する部分であり、第1の方向に沿う長さは第1の長さL1である。また、ここで、第1共振導体板104は矩形状を有しており、第1の方向を長手方向として第1の長さL1は1.6mmである。第2の方向を短手方向として第1の幅W1は0.7mmである。第1共振導体板104は、1対のストリップ導体101,102の中心線に対して、実質的に線対称となっている形状を有しているのが望ましく、理想的には線対称となる形状を有していることがさらに望ましい。なお、ここで、第1共振導体板104は矩形状を有するとしたがこれに限定されることはない。第2の方向は第1の方向と交差する方向であるが、第1の方向と第2の方向のなす角は、85°以上90°以下が望ましく、第1の方向と第2の方向とは実質的に直交している(なす角が90°である)のがさらに望ましい。当該実施形態において、第1の方向(図2の上下方向)と第2の方向(図2の左右方向)とは、直交している。第1共振導体板104の矩形状の中心をOとする。中心Oは、第1の方向に沿う両端から第1の長さL1の半分の距離にあり、第2の方向に沿う両端から第1の幅W1の半分の距離にある。なお、第1共振導体板104と第2共振導体板105とは1対の第1バイアホール110により接続されているが、その位置関係を明らかにするために、図4Aには、1対の第1バイアホール110が破線で示されている。また、6つのランド113の上方には、それぞれ第3バイアホール112が配置されているが、その位置関係を明らかにするために、図4Aには、(ランド113の上方に配置される)6つの第3バイアホール112が破線で示されている。
【0033】
接地導体層103は、第2層(第2金属層ML2)に配置され、第1共振導体板104と接触しないよう第1共振導体板104を囲う開口部108を有している。開口部108とは、接地導体層103が形成されない領域をいう。ここでは、開口部108は矩形状を有しており、第1の方向に沿う第2の長さL2は1.8mmであり、第2の方向に沿う第2の幅W2は0.9mmである(図2参照)。接地導体層103は、第1共振導体板104とは0.1mmの間隙によって離間している。開口部108を除いて、接地導体層103が1対のストリップ導体101,102と対向する領域に加えて1対のストリップ導体101,102の両側の外方へ広がって形成されている。よって、1対のストリップ導体101,102と、接地導体層103と、誘電体層100とを含んで、マイクロストリップ線路形式の差動伝送線路32が構成されている。ここでは、差動モードにおける特性インピーダンスを100Ωとすることができている。
【0034】
図4Bは、当該実施形態に係るプリント回路基板31の多層構造のうち、第3層の導体層の構成を示す模式図である。第2共振導体板105は、第3層(第3金属層ML3)に配置され、平面視して第1導体板104に含まれるよう重畳するとともに、1対のストリップ導体101,102の中心線に沿って第1の方向(図4Bの上下方向)に延伸する。第2共振導体板105は、1対のストリップ導体101,102の中心線に沿って第1の方向に延伸する形状を有しており、平面視して第2共振導体板105は第1導体板104に含まれている。平面視して第1導体板104は第2共振導体板105の縁からさらに外方に広がっている。ここでは、第1の方向に沿う長さ0.8mm、第2の方向に沿う幅0.3mmの矩形状の両端(第1の方向に沿う両端)に、半径0.15mmの半円がそれぞれ付加される形状となっている。第2共振導体板105は、1対のストリップ導体101,102の中心線に対して、実質的に線対称となっている形状を有しているのが望ましく、理想的には線対称となる形状を有していることがさらに望ましい。また、第1の方向に沿う配置についても、第2共振導体板105の第1の方向に沿う両端の中点は、平面視して中心Oに近くにあるのが望ましく、実質的に中心Oと一致しているのがさらに望ましい。第2共振導体板105の上方には、1対の第1バイアホール110が配置されるが、位置関係を明確化するために、図4Bには、1対の第1バイアホール110を2点鎖線で示されている。第2共振導体板105と第3共振導体板106とは1対の第2バイアホール111により接続されいるが、その位置関係を明らかにするために、図4Bには、第2バイアホール111が破線で示されている。また、6つのランド113の上方及び下方には、それぞれ第3バイアホール112が配置されているが、その位置関係を明らかにするために、図4Bには、(ランド113の上方に配置される)6つの第3バイアホール112が2点鎖線で示されている。
【0035】
図4Cは、当該実施形態に係るプリント回路基板31の多層構造のうち、第4層の導体層の構成を示す模式図である。第3共振導体板106は、第4層(第3金属層ML4)に配置され、平面視して第1共振導体板104を含むよう重畳する。第3共振導体板106は矩形状を有しており、第1の方向に沿う長さが2.2mm、第2の方向に沿う幅が1.5mmとなっている。第3共振導体板106の配置については、第3共振導体板106の矩形状の中心は中心Oに近くにあるのが望ましく、実質的に中心Oと一致しているのがさらに望ましい。位置関係を明確化するために、図4Cには、第2バイアホール及び(ランド113の下方に配置される)6つの第3バイアホール112が2点鎖線で示されている。
【0036】
1対の第1バイアホール110は、第1共振導体板104と第2共振導体板105とを接続する。第2バイアホール111は、第2共振導体板105と第3共振導体板106とを接続する。複数の第3バイアホール112は、第3共振導体板106と接地導体層103とを接続する。プリント回路基板31の多層構造において、バイアホール(ビア)により、隣り合う導体層を電気的に接続する。当該実施形態にかかるすべてのバイアホールは、レーザビア(LVH)によって実現している。レーザビアでは、隣り合う導体層の間に配置される誘電体層100の所定の位置にレーザにより微細な穴を穿ち、その穴の内側に銅メッキを施すことにより、隣り合う導体層を電気的に接続する。当該実施形態において、バイアホールはすべて、直径0.1mmの円柱形状を有することとなる。当該実施形態に係るバイアホールは穴の側面に銅メッキを施しており、中空となっているが、これに限定されることはなく、穴を銅で埋めることもある。すなわち、バイアホールの円柱形状は、中空であっても中実であってもよい。また、バイアホールに配置される導体は銅に限定されることはなく、他の金属であっても、金属以外の導体であってもよい。
【0037】
1対の第1バイアホール110は、平面視して第2共振導体板105の両端にある半円の中心にそれぞれ配置される。よって、1対の第1バイアホール110の中心間距離は0.8mmとなる。1対の第1バイアホール110はそれぞれ、第1の方向に延伸する第2共振導体板105の両端近くが望ましい。また、中心Oを貫く第2の方向に対して、実質的に線対称となっているのがさらに望ましい。第2バイアホール111は、平面視して第2共振導体板105の中心(中心O)に1個配置される。第2バイアホール111は、平面視して中心Oの近くが望ましく、一致しているのがさらに望ましい。
【0038】
複数(ここでは6つ)の第3バイアホール112のうち隣接する2つの第3バイアホール112の中心を順に接続してなる多角形は、平面視して第1共振導体板104を含むよう重畳する。当該実施形態において、6つの第3バイアホール112が平面視して第1共振導体板104を囲うように配置されている。6つの第3バイアホール112のうち隣接する2つの第3バイアホール112の中心を順に接続してなる多角形は、実質的に長方形であり、平面視して第1共振導体板104を含むよう重畳する。かかる長方形の第1の方向に沿う長さは1.9mmであり、第2の方向に沿う幅は1.2mmである。隣り合う2つの第3バイアホール112の中心間距離は第1の方向に沿う場合は0.95mmであり、第2の方向に沿う場合は1.2mmである。複数の第3バイアホール112は、第3共振導体板106(第4層)と接地導体層103(第2層)とを接続しており、2段のレーザビアから構成される。第3層には、図4Bに示す通り、複数(ここでは6つ)のランド113が配置されており、各第3バイアホール112は2段構造を有しており、対応するランド113の上部(上方)と下部(下方)にそれぞれに配置される。各ランド113の直径は0.3mmである。ランド113は、第3層に配置される円形状の導体板であり、2段のレーザビアから構成される第3バイアホール112の接続を中継する役割を有する。
【0039】
複数の第3バイアホール112のうち隣接する2つの第3バイアホール112の中心間距離はそれぞれ、伝送されるデジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下である。当該実施形態では、複数の第3バイアホールは、比誘電率εrが3.5の誘電体層100に埋め込まれている。誘電体層100中の真空中に対する波長短縮率(1/√εr)は0.535である。伝送されるデジタル変調信号のビットレートに対応する周波数25.78GHzにおける誘電体層100内における一波長λgは6.22mmと算出される。よって、6つの第3バイアホール112のうち隣り合う2つの第3バイアホール112の中心間距離の最大値は1.2mmである。1.2mmという長さは波長λgを単位にすれば0.19λgであり、0.5λgより十分に小さい。第1乃至第3共振導体板と第1乃至第3バイアホールによって、共振体を構成している。当該共振体構造により、生じる電磁ノイズの外部への漏洩を十分に抑えることができ、共振特性を良好にすることができる。
【0040】
図5は、当該実施形態に係る差動伝送線路32の特性を示す図である。かかる特性は三次元電磁界解析ツールを用いて算出している。1対のストリップ導体101,102の第1の方向に沿う長さは、第1部分(共振体構造と交差する部分)を含んで、14mmとしている。図5に示す通り、差動伝送線路32に対して共振体構造(共振回路)を交差させているにもかかわらず、差動モード反射特性(Sdd11,Sdd22)の劣化はほとんどなく、周波数範囲0~26GHzにおいて-30dB以下の値と非常に良好な値を保っている。これは第1共振導体板104を接地導体層103と同じ層(第2層)に配置し、第1共振導体板104の形状、及び第2共振導体板105の形状を1対のストリップ導体101,102の中心線に対して実質的に線対称としたことによる効果である。また、差動モード通過特性(Sdd21)も良好な特性を示している。一方、コモンモード通過特性(Scc21)においては、周波数25.8GHzを中心とした減衰領域が生じており、周波数25.78GHzのコモンモード信号成分の伝導伝搬を30dB以上阻害することができる。この減衰特性は誘電体層100内部に配置した第1乃至第3共振導体板と第1乃至第3バイアホールとからなる共振体構造が構成されることにより得られる特性である。
【0041】
図6は、当該実施形態に係るプリント回路基板31の他の例の一部の平面を示す模式図である。プリント回路基板31を製造する工程において生じ得る製造ばらつきを考慮して、製造ばらつきによるコモンモード信号成分の減衰特性に及ぼす影響について考察する。プリント回路基板31の製造工程では、プリント回路基板31の多層構造を製造する工程において、複数の導体層(銅箔)それぞれのパターニング工程と、バイアホールそれぞれを形成するレーザビアの穿孔工程とは、それぞれ異なる製造装置を用いて施される。それゆえ、導体層(銅箔)のパターンの位置と、バイアホールの位置と、の間にはある程度のずれが発生するので、そのずれを許容する必要がある。レーザビアの穿孔工程における加工精度に鑑みて、許容されるずれの最大値は、プリント回路基板31の製造工程の諸条件にもよるが、製造歩留まりを高くして、製造コストを安価にするためには、例えば設計中心値からの位置ずれとして、x方向に最大±0.10mm、y方向に最大±0.10mmであることが望まれる。かかるずれの最大値により、ランド113の直径を0.3mmとしており、レーザービア(第1乃至第3バイアホール)の直径0.1mmと許容されるずれとの関係に基づいている。レーザビアの位置と導体層(銅箔)のパターンとが相対的に位置ずれをしても、レーザビアがランド113からはみ出ることがないようにしている。
【0042】
図6に示すプリント回路基板31は、許容される位置ずれの範囲において、コモンモード信号成分の減衰特性に及ぼす影響が最大となる場合のバイアホールのずれ位置を示している。図6において、第2の方向(左右方向)の右向きを+x方向として、第2層と第3層とを接続するレーザビアである第1バイアホール110の中心位置と、第2層と第3層とを接続するレーザビアである第3バイアホール112の上部の中心位置とが、図2に示す中心位置よりも、-x方向に0.10mm(x=-0.10mm)ずれている。さらに、第3層と第4層とを接続するレーザビアである第2レーザビア111の中心位置と、第3層と第4層とを接続するレーザビアである第3バイアホール112の下部の中心位置とが、図2に示す中心位置よりも、+x方向に0.10mm(x=+0.10mm)ずれている。第2層と第3層とを接続するレーザビアと、第3層と第4層とを接続するレーザビアとの相対的ずれ量Δxは0.20mmである。同様に、相対的ずれ量Δxが0.200mmとなる例として、第2層と第3層とを接続するレーザビアのずれを+x方向に0.10mm(x=+0.10mm)とし、第3層と第4層とを接続するレーザビアのずれを-x方向に0.10mm(x=-0.10mm)とする場合も、図6に示すレーザビアの位置を左右反転した配置となり、得られる特性も同一である。
【0043】
図7は、当該実施形態に係る差動伝送線路32の他の例の特性を示す図である。図7は、当該他の例(相対的ずれ量Δx=0.20mm)にかかるコモンモード通過特性(Scc21)を、図2に示す相対的ずれ量Δx=0にかかるコモンモード通過特性(Scc21)とともに、示している。当該他の例(相対的ずれ量Δx=0.20mm)において、減衰領域の中心周波数が24.8GHzとなり、図2に示す相対的ずれ量Δx=0と比べて1.0GHz程度低い周波数にずれているが、周波数25.78GHzのコモンモード信号成分の伝導伝搬を20dB以上阻害できている。発明者らの検討によれば、図2に示す相対的ずれ量Δx=0におけるバイアホールの位置を、第1の方向及び第2の方向による平面のいずれの方向にでも移動するに従い、減衰領域の中心周波数は低い方に変化している。この現象はバイアホールにおけるインダクタンス成分が位置のずれ量に従い実質的に増大して、それにより共振体の共振周波数が低下するものと考えられる。
【0044】
当該実施形態に係るプリント回路基板31は、デジタル電気信号の差動信号成分の伝導伝搬の劣化を抑制しつつ、電磁ノイズのうち、差動伝送線路へのコモンモード信号成分の伝導伝搬のみを選択的に阻害することを実現できている。プリント回路基板31の製造工程に新たな工程を追加することなく、当該実施形態に係るプリント回路基板31を製造できるので、コストの増大は抑制される。また、プリント回路基板31を製造する上で発生し得るバイアホールの導体層パターンに対する位置ずれについても、コモンモード成分に対し20dB以上と十分な減衰量が得ることができている。
【0045】
光ファイバ伝送用の光モジュール(光トランシーバモジュール、光送受信機)は、近年のブロードバンドネットワークの普及と共に高速化、小型・低コスト化が図られ、高速化に関しては現在ではビットレートが100Gbit/sのものが広く用いられるようになってきている。小型・低コスト化に関してはCFP MSA(Multi Source Agreement)規格からCFP2、CFP4、QSFP28(各MSA規格)へとケース体積の縮小化・部品数の削減化が進んでいる。
【0046】
また、光モジュールが搭載される光伝送装置(ネットワーク装置)には、その装置が発生する不要電磁波の強度を法規に定められた限度値以下に抑えることが求められている。例えば、米国では「FCC Part 15 Subpart B」規格に定められた限度値53.9dB(μV/m)(Class B規格で、距離3m、周波数範囲1GHz~40GHzの場合)以下を満足する必要がある。光モジュールでは、内蔵するICのスイッチングノイズ等に起因して、GHz以上の高い周波数において不要電磁波を発生する場合が多いため、これら不要電磁波の装置外部への放射を低減する設計技術が光伝送装置および光モジュールの双方において重要である。
【0047】
光モジュールにおいては、不要電磁波の主要な励振源は電気的なシリアルデータ信号(変調信号)を増幅し出力する(CDR、Driver、TIA等の)ICである。クロック信号とは異なり、理想的なシリアルデータ信号は繰り返しの信号パターンを含まないため、周波数スペクトル上では大きなピーク強度を持たない。しかしながら、実際のIC内部の差動増幅回路においては、トランジスタの非線形性に起因してスイッチングノイズが発生し、出力信号のコモンモード成分の周波数スペクトルを観測した場合にビットレートに対応する周波数に大きなピークが生じる。このコモンモード信号成分はプリント回路基板上の差動伝送線路やコネクタ部を伝導伝搬する間に一部が放射損失として空間に伝搬する。これに伴い100Gbit/sの光モジュールにおいては、ビットレートが25.78Gbit/sの電気的なシリアルデータ信号を用いるため、そのビットレートに対応する周波数25.78GHzの不要電磁波を発生してしまう。
【0048】
近年では、光伝送装置(ネットワーク装置)の大容量化が進み、それに伴い消費電力(発熱量)の大きなLSI(FPGA)が搭載されている。光伝送装置においては、送風冷却を強化するために多数の送風穴を配置し、装置のシールド効果が低くなる傾向にある。光伝送装置にはまた、100Gbit/s級の光モジュールが多数台搭載されている。主要なMSA規格、例えばQSFP28に準じた光モジュールではプリント回路基板の一端上に外部接続用が配置されており、金属ケースの外部において、光伝送装置に搭載されたコネクタと接続するという構成をとっている。この構成による弊害として、金属ケースの外部に引き出した差動伝送線路やコネクタ部で放射される不要電磁波が主原因となり、光伝送装置の不要電磁波が十分に抑圧できないという課題があった。
【0049】
QSFP28に準じる光モジュールにおいては、基板幅が16mm程度の小型のプリント回路基板上に、送信回路用に差動伝送線路を4チャネル、受信回路用に差動伝送線路を4チャネル、それぞれを配置する必要がある。従来技術において差動伝送線路に結合させる共振体のサイズ(長さ、幅)が所望の共振周波数を得るには比較的大きな面積が必要であり、発明者らの検討によればQSFP28に準じた光送受信機のプリント回路基板上に配置するのは困難であった。しかしながら、当該実施形態に係るプリント回路基板31は、かかる課題を解決するのに適した構造を有している。
【0050】
当該実施形態において、1対の第1バイアホール110を第2共振導体板105の第1の方向に沿う両端位置にそれぞれ配置し、第1共振導体板104と第2共振導体板105とを接続しているが、これに限定されることはない。例えば、第1バイアホールは、第2共振導体板105の両端位置に配置される1対の第1バイアホール110に加えて、平面視して中心Oとなる位置に第1バイアホール110を設けてもよい。かかる場合、バイアホールの位置ずれに伴う減衰領域の中心周波数の変化量を0.86GHz程度と小さくすることができ、製造ばらつきに対しさらに特性変動の少ないコモンモードフィルター構造を実現することができる。
【0051】
反対に、第1バイアホールの個数を2個から1個に減らした場合には、特性劣化を生じるとの知見を得ている。例えば、第2共振導体板105の中心位置(中心O)に1個の第1バイアホールを設ける場合、発明者らの検討によれば、バイアホールの位置ずれに伴う減衰領域の中心周波数の変化量は1.4GHzまで増大しており、周波数25.78GHzのコモンモード信号成分の減衰量は15dB程度まで低下している。第1バイアホールは2個以上配置するのが望ましい。
【0052】
当該実施形態において、1対の第1バイアホール110の中心間距離を0.8mmとしているが、この中心間距離に限定されることがないのは言うまでもない。例えば、1対の第1バイアホール110の中心間距離を1.13mmまで広げ、それに伴って、第2共振導体板105の形状を、長さ1.13mm、幅0.3mmの矩形の両端に、半径0.15mmの半円を付加する形状とする場合、発明者らの検討によれば、第1共振導体板104の形状を第1の長さL1を1.43mm、接地導体層103の開口部108の形状を第2の長さL2を1.63mmに縮小することにより、共振体の共振周波数を所望の値に調整することができ、コモンモード通過特性(Scc21)を図5とほぼ同等の特性にすることができている。
【0053】
また、当該実施形態において、第2共振導体板105の幅を0.3mmとしたが、第2共振導体板の幅はこれに限定されることがないのは言うまでもない。接地導体層103との間の不要な容量結合を避ける点で、第1共振導体板104の第1の幅W1以下(0.7mm以下)にすることが望ましい。第2共振導体板105の幅を変更することに伴って、第2共振導体板105の第1の方向に沿う長さ及び接地導体層103の開口部108の第2の長さL2を調整することにより、共振体の共振周波数を所望の値に調整することができる。
【0054】
当該実施形態において、誘電体層100をガラス布基材とエポキシ樹脂からなる材料(ガラスエポキシ樹脂)としたが、これに限定されることはなく、液晶ポリマ(LCP:Liquid Crystal Polymer)やフッ素系樹脂(PTFE:polytetrafluoroethylene)であってもよい。
【0055】
図8は、当該実施形態に係る光モジュール2の外部形状を示す概略斜視図である。図9は、当該実施形態に係る光モジュール2の構造を示す概略斜視図である。図9は、光モジュール2が光伝送装置1に搭載される状態を示している。当該実施形態に係るプリント回路基板31は、ここではプリント回路基板21である。
【0056】
当該実施形態に係る光モジュール2は、QSFP28(MSA規格)に準拠する光モジュールである。図8に示す通り、光モジュール2は、上部ケース200と、下部ケース201と、ラッチ202と、カードエッジコネクタ210と、を含んでいる。上部ケース200及び下部ケース201の材料に、亜鉛やアルミニウムなどの金属を用いており、上部ケース200と下部ケース201とを含んで、金属筺体が構成される。上部ケース200及び下部ケース201は、カードエッジコネクタ210を通すための開口部以外の部分において、間隙がないように互いに密着させて、プリント回路基板21を覆って、電磁的シールドを構成している。すなわち、金属筺体(上部ケース200及び下部ケース201)は金属筐体内部におけるプリント回路基板21からの輻射に対して電磁的シールドとして機能する。金属筺体は開口部を有しているが、電磁的シールドとしては十分機能する。一方、金属筐体には、光モジュールから光伝送装置への出力信号に含まれる不要ノイズ成分が伝導伝搬することを妨げる機能は無く、開口部を介して金属筐体外部に引き出された差動伝送線路およびコネクタ部位まで伝導伝搬された不要ノイズ成分に起因した、不要電磁波が輻射し得る。カードエッジコネクタ210はプリント回路基板21の端部であり、コネクタ接続用の複数の接点端子が1列に並んで配置されている。カードエッジコネクタ210は、上部ケース200及び下部ケース201の後方(図8の右側)の開口部(スロット開口部)より外部に露出しており、活線挿抜の機能を担っている。なお、開口部はプリント回路基板21の一部を外部へ露出するために設けられる。
【0057】
図9は、光モジュール2が光伝送装置1に搭載される状態を示しており、さらに、光モジュール2の内部の構造を示すために、上部ケース200及び下部ケース201の一部が表示されていない。図9に、光伝送装置1内部のプリント回路基板11の一部及びフロントパネル204と、が示されている。さらに、プリント回路基板11は、QSFP28(MSA規格)に準拠するコネクタ208をさらに含んでおり、コネクタ208はプリント回路基板11上に搭載されている。光モジュール2の上部ケース200及び下部ケース201の内部には、ROSA23A(光受信サブアセンブリ)、TOSA23B(光送信サブアセンブリ:図示せず)、及びフレキシブル基板22A、22B(22Bは図示せず)が搭載されている。プリント回路基板21は、複数のICを含んでいる。例えば、プリント回路基板21上には、受信側のCDR-IC207(Clock Data Recovery IC)が搭載されており、CDR-IC207は、4チャンネルの差動デジタル変調信号をビットレート25.78Gbit/sで出力する。この出力信号は、プリント回路基板21上に配置される4チャネルの差動伝送線路32(図示せず)、カードエッジコネクタ210、及びコネクタ208を介して、光伝送装置1内部のプリント回路基板11に伝導伝搬する。プリント回路基板21に配置される4対の差動伝送線路32それぞれに、図2に示す共振体構造が配置される。
【0058】
CDR-IC207の出力スペクトルを測定すると、ビットレートに対応する周波数25.78GHzに、本来は不要なクロックノイズ成分がピーク単一のピークとして観測される。しかしながら、4チャネルの差動伝送線路32のそれぞれに、図2に示す共振体構造が配置されることにより、周波数25.78GHzのコモンモード信号成分の伝導伝搬を、光モジュール2の上部ケース200及び下部ケース201の内部において阻害することができている。それゆえ、カードエッジコネクタ210、コネクタ208、及び光伝送装置1のプリント回路基板11において、コモンモード信号成分に起因する不要電磁波の輻射を低減することができている。このメカニズムと同様に、光伝送装置1のプリント回路基板11上に配置される差動伝送線路に、図2に示す共振体構造が配置されることにより、光伝送装置1内部への不要電磁波の輻射、及び光伝送装置1の冷却送風用の通気孔などを介して光伝送装置1の外部への不要電磁波の輻射を低減することができる。
【0059】
なお、図8及び図9に示すプリント回路基板21では、受信用のCDR-IC207はプリント回路基板21上に配置されているが、これに限定されることはなく、ROSA23Aの内部に実装されていてもよい。この場合、CDR-IC207をプリント回路基板21上に配置することが不要となるために、4チャネルの差動伝送線路それぞれに対して、図2に示す共振体導体104をプリント回路基板21上に配置するための面積をより広く配分することができ、プリント回路基板21の回路設計の自由度が向上する。
【0060】
[第2の実施形態]
図10は、本発明の第2の実施形態に係るプリント回路基板31の一部の平面を示す模式図である。図11及び図12は、当該実施形態に係る差動伝送線路32の特性を示す図である。図11に、当該実施形態に係る差動伝送線路32の差動モード通過特性(Sdd21)と、差動モード反射特性(Sdd11、Sdd22)と、コモンモード通過特性(Scc21)との周波数依存性が示されている。図12に、当該実施形態に係る差動伝送線路32の差動モードでのフォワードクロストーク特性(Sdd41)と、バックワードクロストーク特性(Sdd31)との周波数依存性が示されている。
【0061】
当該実施形態に係るプリント回路基板31は、2チャネルの差動伝送線路32を備え、各差動伝送線路32は共振体構造を有している。第1の実施形態にかかる差動伝送線路32を2つ順に並べる構造に対して、第3共振導体板106及び一部の第3バイアホール112が共通に用いられている点で異なっているが、それ以外については当該実施形態に係るプリント回路基板31は第1の実施形態と共通の構造を有している。
【0062】
当該実施形態に係るプリント回路基板31は、第1層に配置されるとともに、第2の方向に沿って順に並ぶ、複数対(ここでは、2対)のストリップ導体101,102と、第2層に配置され、第2の方向に沿って順に並ぶ、複数(ここでは、2つ)の第1共振導体板104と、複数の第1共振導体板104と接触しないよう複数の第1共振導体板104をそれぞれ囲う複数(ここでは、2つ)の開口部108を有する、接地導体層103と、第3層に配置され、第2の方向に沿って順に並ぶとともに、平面視して対応する第1共振導体板104に含まれるよう重畳する、複数(ここでは、2つ)の第2共振導体板105と、第4層に配置され、平面視して複数の第1共振導体板104を含むよう重畳する、第3共振導体板106と、複数の第1共振導体板104と対応する複数の第2共振導体板105とをそれぞれ接続する、複数(ここでは、2対)の第1バイアホール110と、複数の第2共振導体板105と第3共振導体板106とをそれぞれ接続する複数(ここでは、2つ)の第2バイアホール111と、第3共振導体板106と接地導体層103とを接続する、複数(ここでは9つ)の第3バイアホール112と、を備えている。
【0063】
複数の第3バイアホール112の一部(ここでは、6つ)のうち、隣接する2つの第3バイアホール112の中心を順に接続してなる多角形は、平面視して対応する第1共振導体板104を含むよう重畳する。複数の第3バイアホール112のうち隣接する2つの第3バイアホール112の中心間距離はそれぞれ、伝送されるデジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下である。
【0064】
図10に示す通り、隣接する2チャネルの差動伝送線路32は2対のストリップ導体101,102を含んでいる。隣り合う2対のストリップ導体101,102の中心間距離(Lane Pitch)は1.2mmである。その他の寸法は第1の実施形態に準じている。
【0065】
当該実施形態において、各差動伝送線路32に備えられる1対のストリップ導体101,102、第1共振導体板104、第2共振導体板105、1対の第1バイアホール110、第2バイアホール111の構成は、第1の実施形態と同様である。接地導体層103は、2つの第1共振導体板104と接触しないよう2つの第1共振導体板104をそれぞれ囲う2つの開口部108を有している。第3共振導体板106は、平面視して2つの第1共振導体板104を含むよう重畳している。当該実施形態に係るプリント回路基板31に、9つの第3バイアホール112が配置されている。9つの第3バイアホール112のうち、(左側の列と中央の列とに並ぶ)6つの第3バイアホール112が図10に示す左側の第1共振導体板104を囲うよう配置され、(中央の列と右側の列とに並ぶ)6つの第3バイアホール112が図10に示す右側の第1共振導体板104を囲うよう配置されている。3列に並ぶ9つの第3バイアホール112のうち、中央に並ぶ3つの第3バイアホール112は、左側の第1共振導体板104を囲うとともに、右側の第1共振導体板104をも囲っており、共通している。
【0066】
(左の列と中央の列との)6つの第3バイアホール112のうち、隣接する2つの第3バイアホール112の中心を順に接続してなる多角形は長方形であり、平面視して左側の第1共振導体板104を含むように重畳し、当該6つの第3バイアホール112のうち、隣接する2つの第3バイアホール112の中心間距離はそれぞれ、伝送されるデジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下である。同様に、(中央の列と右の列との)6つの第3バイアホール112のうち、隣接する2つの第3バイアホール112の中心を順に接続してなる多角形は長方形であり、平面視して右側の第1共振導体板104を含むように重畳し、当該6つの第3バイアホール112のうち、隣接する2つの第3バイアホール112の中心間距離はそれぞれ、伝送されるデジタル変調信号のビットレートに対応する周波数において0.5波長以下である。
【0067】
図11に示す通り、コモンモード通過特性(Scc21)において周波数25.3GHzを中心とした減衰領域が生じており、周波数25.78GHzのコモンモード信号成分の伝導伝搬を25dB以上阻害できている。また、図12に示す通り、2チャネルの差動伝送線路32及び2チャンネルの差動伝送線路32それぞれの共振体構造が近接して配置されているにもかかわらず、フォワードクロストーク特性(Sdd41)の劣化は発生せず、周波数範囲0~25.78GHzにおいて-40dB以下の値と非常に良好な値を保つことができている。
【0068】
当該実施形態に係るプリント回路基板31では、第2の方向に並ぶ複数の差動伝送線路32が近接配置されるとともに、共振体構造を隣接して配置することができている。当該実施形態に係るプリント回路基板31では、差動伝送線路32間のクロストーク特性の劣化を抑制しつつ、差動伝送線路へのコモンモード信号成分の伝導伝搬のみを選択的に阻害することができている。
【0069】
[第3の実施形態]
図13は、本発明の第3の実施形態に係るプリント回路基板31の一部の平面を示す模式図である。第2の実施形態に係るプリント回路基板31は隣接する2つの差動伝送線路32にそれぞれ共振体構造が隣接して配置されているのに対して、当該実施形態に係るプリント回路基板31は第2の方向に順に並ぶ4チャネルの差動伝送線路32にそれぞれ共振体構造が隣接して配置されている点で、第2の実施形態に係るプリント回路基板31と異なっているが、それ以外については共通の構造を有している。
【0070】
当該実施形態に係るプリント回路基板31は、第2の方向に順に並ぶ4チャネルの差動伝送線路32を含んでおり、各差動伝送線路32は共振体構造を有している。4対のストリップ導体101,102のうち、隣り合う2対のストリップ導体101,102の中心間距離(Lane Pitch)はそれぞれ1.2mmである。その他の寸法は第1及び第2の実施形態に準じている。4チャネルの差動伝送線路32に配置される4つの共振体構造の配置に必要な幅は5.1mmである。第3共振導体板106は、平面視して4つの第1共振導体板104を含むよう重畳する。
【0071】
当該実施形態に係るプリント回路基板31に、15個の第3バイアホール112が配置されている。15個の第3バイアホール112の一部である6つの第3バイアホール112がそれぞれ図13に示す対応する第1共振導体板104を囲うよう配置されている。図13に示す左から2列目に配置される3つの第3バイアホール112は、左から1列目に配置される3つの第3バイアホール112とともに、左から1つ目の第1共振導体板104を囲っており、また、左から3列目に配置される3つの第3バイアホール112とともに、左から2つ目の第1共振導体板104を囲っている。すなわち、左から2列目に配置される3つの第3バイアホール112は、左から1つ目の第1共振導体板104を囲うのと、左から2つ目の第1共振導体板104を囲うのとに、共通している。左から3列目に配置される3つの第3バイアホール112も、左から4列目に配置される3つの第3バイアホール112も、同様である。
【0072】
当該実施形態に係る光モジュール2は、QSFP28に準拠しており、基板幅が16mm程度の小型のプリント回路基板32上に、送信用に差動伝送線路を4つ、受信用に差動伝送線路を4つ、それぞれを配置する必要がある。当該実施形態に係るプリント回路基板では、4つの差動伝送線路32に配置される4つの共振体構造の配置に必要な幅は5.1mmと、基板幅である16mmの半分以下と十分に小さく、当該実施形態に係る光モジュール2は、QSFP28に適用するのに最適である。
【0073】
以上述べたように、第2及び第3の実施形態に係るプリント回路基板31は、複数(ここでは、4チャネル)の差動伝送線路に対して、隣接する2チャネルの差動伝送線路を近接配置するとともに、第2の方向に沿う幅を縮小して、複数の差動伝送線路それぞれに複数の共振体構造を配置することができている。さらに、差動伝送線路間のクロストーク特性の劣化を抑制しつつ、差動伝送線路へのコモンモード信号成分の伝導伝搬のみを選択的に阻害することができている。特に、QSFP28に準拠した光モジュール2に搭載する上で、複数の差動伝送線路の実装面積を少なくできる点で好適である。
【0074】
[第4の実施形態]
図14は、本発明の第4の実施形態に係るプリント回路基板31の一部の平面を示す模式図である。図15は、当該実施形態に係る差動伝送線路32の特性を示す図である。図15に、当該実施形態に係る差動伝送線路32の差動モード通過特性(Sdd21)と、差動モード反射特性(Sdd11、Sdd22)と、コモンモード通過特性(Scc21)との周波数依存性が示されている。
【0075】
当該実施形態に係るプリント回路基板31は、第2の実施形態に係るプリント回路基板31と同様に、2つの差動伝送線路32を備え、各差動伝送線路32は共振体構造を有している。しかしながら、各差動伝送線路32が有する共振体構造は互いに独立して配置されている点で第2の実施形態と異なっている。第1の実施形態に係る差動伝送線路32を2つ順に並べているが、共振体構造の第1の方向に沿う位置が異なっている。それ以外については、当該実施形態に係るプリント回路基板31は、第1及び第2の実施形態と共通の構造を有している。
【0076】
図14に示す通り、隣接する2チャネルの差動伝送線路32は2対のストリップ導体101,102を含んでいる。隣り合う2対のストリップ導体101,102の中心間距離(Lane Pitch)は第2の実施形態と同様に1.2mmである。2チャネルの差動伝送線路32に配置される2つの第1共振導体板104の第1の方向に沿う位置が2.85mmずれている。すなわち、左側の1対のストリップ導体101,102と平面視して重畳する第1共振導体板104は、右側の1対のストリップ導体101,102と平面視して重畳する第1共振導体板104より、図14の上側に2.85mmずれている。その他の寸法は第1の実施形態に準じている。
【0077】
図15に示す通り、コモンモード通過特性(Scc21)において、共振体間の相互作用により減衰領域に複数の谷が生じてしまうが、周波数25.78GHzのコモンモード信号成分の伝導伝搬を30dB以上阻害できている。
【0078】
当該実施形態に係るプリント回路基板31では、2つの共振体構造の寸法が、第2の実施形態と比べて、第1の方向に対しては大きくなっている。しかしながら、2つの差動伝送線路32それぞれに対して、共振体構造を配置する自由度が向上しており、差動伝送線路32へのコモンモード信号成分の伝導伝搬のみを選択的に阻害することができている。
【0079】
なお、当該実施形態では、隣接する2チャネルの差動伝送線路32にそれぞれ配置される2つの共振体構造を第1の方向にそって2.85mmずらして配置しているが、その距離に限定されることはない。また、差動伝送線路のチャネル数も2に限定されるものではなく、他のチャネル数であってもよい。
【0080】
[第5の実施形態]
図16は、本発明の第5の実施形態に係るプリント回路基板31の一部の平面を示す模式図である。図17は、当該実施形態に係る差動伝送線路32の特性を示す図である。図17に、当該実施形態に係る差動伝送線路32の差動モード通過特性(Sdd21)と、差動モード反射特性(Sdd11、Sdd22)と、コモンモード通過特性(Scc21)との周波数依存性が示されている。
【0081】
当該実施形態に係る差動伝送線路32が有する共振体構造の形状が第1の実施形態と異なっているが、それ以外については共通する構造を有している。第1共振導体板104の第1の方向に沿う第1の長さL1を1.3mmとし、第2の方向に沿う第1の幅W1は第1の実施形態と同様に0.7mmである。これに伴って、接地導体層103の開口部108の第2の長さL2は1.5mmとなっている。第1の幅W2は第1の実施形態と同様に0.9mmである。第2共振導体板105の形状は、0.4mm間隔で並ぶ3つの直径0.3mmの円形状(ランド形状)に、互いに接続するよう幅0.1mmの矩形を重畳させる形状である。これは共振体構造の共振周波数を所望の値に保つために、第2共振導体板105の矩形状部分の幅を0.1mmと狭くした影響を調整するために、第1共振導体板104の形状を変えている。他の寸法は第1の実施形態に準じている。なお、第1乃至第4の実施形態では、第2共振導体版105の形状は、両端以外については第1の方向に延伸する矩形状であるが、これに限定されることはなく、当該実施形態のように、第1の方向に延伸する形状であればよい。
【0082】
図17に示す通り、コモンモード通過特性(Scc21)においては、周波数25.9GHzを中心とした減衰領域が生じており、周波数25.78GHzのコモンモード信号成分の伝導伝搬を28dB以上阻害できている。また、差動伝送線路32に対し共振回路を交差させているにもかかわらず、差動モード反射特性(Sdd11、Sdd22)の劣化はほとんどなく、周波数範囲0~32GHzというより広い範囲において-30dB以下の値と非常に良好な値を保っている。当該実施形態に係るプリント回路基板31は、第1の実施形態よりもより良好な特性を示しており、第1共振導体板104の第1の長さL1を短くしていることがこれに寄与しているものと考えられる。
【0083】
[第6の実施形態]
【0084】
図18は、本発明の第6の実施形態に係るプリント回路基板31の一部の平面を示す模式図である。図19は、当該実施形態の係るプリント回路基板31の一部の断面を示す模式図である。図19図18に示すXIX-XIX線による断面を示している。
【0085】
当該実施形態に係るプリント回路基板31では、第3層と第4層とを接続するバイアホールを、レーザビアではなくドリルで形成されるバイアホールとしている点で第1の実施形態と異なっている。これに伴って、接地導体層103、第1共振導体板104、第2共振導体板105、第3共振導体板105、第2バイアホール111、第3バイアホール112、及びランド113の形状や配置が、第1の実施形態と異なっているが、それ以外については、第1の実施形態と共通の構造を有する。ここで、第1共振導体104は、第1の長さL1が1.7mm、第1の幅W1が0.7mmの矩形状を有している。接地導体103の開口部108は、第2の長さL2が1.9mm、第2の幅W2が0.9mmの矩形状を有する。第2共振導体板105は、平面視して中心Oと中心を重ねて直径0.45mmの円形状と、第1の方向に沿ってそれぞれ0.4mm離れた位置に、直径0.3mmの円形状と、それらを互いに接続する幅0.3mmの矩形状と、を重畳する形状を有する。
【0086】
図18及び図19に示す通り、当該実施形態に係るプリント回路基板31に、8つの第3バイアホール112が配置されている。第2層(第2金属層ML2)と第3層(第3金属層ML3)とを接続する、1対の第1バイアホール110、及び8つの第3バイアホール112の上部とは、第1の実施形態と同様にレーザビアにより形成される。これに対して、第2バイアホール111、及び8つの第3バイアホール112の下部とは、第1の実施形態と異なり、ドリルにより形成される。ドリルによってバイアホールを安定的に形成するために、バイアホールの上層と下層にそれぞれランド113を配置する。第3層(第3金属層ML3)と、第5層(第5金属層ML5)とに、ランド113が配置される。なお、第5層は第4層よりもさらに下方に配置される。第2バイアホール111は、ランドの機能(直径0.45mmの円形状)を有する第2共振導体板105と、第5層に配置される直径0.45mmのランド113の間に形成される。誘電体層100にドリルによって積層方向に沿って延伸する円柱形状の穴を穿ち、その穴の側面に銅メッキを施すことによりバイアホールが形成される。ここで、ドリルによって形成されるバイアホールの直径は0.2mmである。
【0087】
当該実施形態において、8つの第3バイアホール112が平面視して第1共振導体板104を囲うように配置されている。8つの第3バイアホール112のうち隣接する2つの第3バイアホール112の中心を順に接続してなる多角形は、実質的に長方形であり、平面視して第1共振導体板104を含むよう重畳する。かかる長方形の第1の方向に沿う長さは2.4mmであり、第2の方向に沿う幅は1.35mmである。隣り合う2つの第3バイアホール112の中心間距離は第1の方向に沿う場合は0.80mmであり、第2の方向に沿う場合は1.35mmである。その他の寸法については、コモンモード通過特性(Scc21)における減衰領域が所望の周波数となるように、適用する各層の厚さなどに応じて選択すればよい。寸法の算出には、三次元電磁界解析ツールを用いるのが好適である。
【0088】
当該実施形態によれば、レーザビアの形成に必要な比較的高価なビルドアップ工程を、少なくとも1層分少なくすることができ、低コストでプリント回路基板を製造することができる。
【0089】
以上、本発明の実施形態に係るプリント回路基板、光モジュール、及び光伝送装置について説明した。本発明は上記実施形態に限定されることはなく、共振体構造を有するマイクロストリップ線路形式の差動伝送線路を有するプリント回路基板に広く適用することが出来る。本発明に係るプリント回路基板は、光伝送装置や光モジュールに備えられるプリント回路基板としたが、他の装置に備えられるプリント回路基板であってもよい。また、本発明の実施形態に係るプリント回路基板は、各チャネルを通じて伝送されるデジタル電気信号のビットレートが25.78Gbit/sとなる場合について説明したが、かかるビットレートに限定されることはなく、さらに高いビットレートに対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 光伝送装置、2 光モジュール、3,3A,3B 光ファイバ、11,21,31、 プリント回路基板、12 IC、22A,22B フレキシブル基板、23A ROSA、23B TOSA、32 差動伝送線路、100 誘電体層、101,102 ストリップ導体、103 接地導体層、104 第1共振導体板、105 第2共振導体板、106 第3共振導体板、107 保護用誘電体膜、108 開口部、110 第1バイアホール、111 第2バイアホール、112 第3バイアホール、113 ランド、200 上部ケース、201 下部ケース、202 ラッチ、204 フロントパネル、207 CDR-IC、208 コネクタ、210 カードエッジコネクタ。

図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19