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特許7084375電気化学的エネルギー変換及び貯蔵のためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】電気化学的エネルギー変換及び貯蔵のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1009 20160101AFI20220607BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20220607BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220607BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20220607BHJP
   H01M 8/1011 20160101ALI20220607BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20220607BHJP
   H01M 8/103 20160101ALI20220607BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20220607BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220607BHJP
【FI】
H01M8/1009
B01J23/42 M
H01M4/90 Y
H01M4/92
H01M8/1011
H01M8/1016
H01M8/103
H01M8/1039
H01M8/10
H01M8/10 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019500769
(86)(22)【出願日】2017-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 US2017046810
(87)【国際公開番号】W WO2018035056
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】62/376,233
(32)【優先日】2016-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/676,755
(32)【優先日】2017-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519006067
【氏名又は名称】ペズ,ギド,ピー
(73)【特許権者】
【識別番号】519006078
【氏名又は名称】へリング,アンドリュー,マイケル
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ペズ,ギド,ピー
(72)【発明者】
【氏名】へリング,アンドリュー,マイケル
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-129291(JP,A)
【文献】特開平04-099188(JP,A)
【文献】特表2016-505484(JP,A)
【文献】特開2005-093124(JP,A)
【文献】特開2003-260360(JP,A)
【文献】特開2004-127946(JP,A)
【文献】国際公開第2007/076489(WO,A2)
【文献】特開2005-166486(JP,A)
【文献】特開2015-149244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1009
B01J 23/42
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 8/1011
H01M 8/1016
H01M 8/103
H01M 8/1039
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学エネルギーを電気エネルギーに変換するための直接燃料電池装置であって、前記装置は、
a.水素再生可能又は電気化学的に再生可能な液体燃料であって、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン又はアルキル化された水素化された芳香環のランダム異性体混合物を含み、前記メチルシクロヘキサン、前記エチルシクロヘキサン及び前記アルキル化された水素化された芳香環のランダム異性体混合物は、シクロアルカン環上又は芳香族分子上のアルキル置換基の、アルコール、アルデヒド、ケトン又はカルボン酸生成物への変換を含む水素化液体燃料と、
b.膜及び前記膜に隣接して配置され、カソード及びアノードを含む電極を備える膜/電極接合体(MEA)であって、前記カソード及び前記アノードは、それぞれ触媒を含む、MEAと、
c.前記アノードと流体連通する水の供給源を含み、
前記水素化液体燃料は前記MEAの前記アノードと流体連通し、前記カソードは酸素又は空気と連通し、かつ前記直接燃料電池装置は80℃~400℃の温度で作動する、直接燃料電池装置。
【請求項2】
前記アルキル化された水素化された芳香環のランダム異性体混合物は、ペルヒドロベンジルトルエンの異性体の混合物、ペルヒドロジベンジルトルエンの異性体の混合物、並びにペルヒドロ化キシレン異性体の混合物からなる群から選択される、1種以上の化合物を含む、請求項に記載の直接燃料電池装置。
【請求項3】
前記アノード用の前記触媒及び前記カソード用の前記触媒は、パラジウム、白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル及びこれらの組み合わせからなる群から独立に選択される、請求項に記載の直接燃料電池装置。
【請求項4】
前記アノード用の前記触媒及び前記カソード用の前記触媒は、炭素支持体にテザーされた金属配位化合物を含み、前記金属配位化合物は、パラジウム、白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、及びニッケルからなる群から独立に選択される、請求項に記載の直接燃料電池装置。
【請求項5】
前記膜はヘテロポリ酸で官能化されたポリマー、スルホン化ポリマー、ホスホン化ポリマー、プロトン伝導性セラミック、ポリベンジルイミダゾール(PBI)、ポリベンジルイミダゾールとリン酸の組み合わせ、ポリベンジルイミダゾールと長鎖ペルフルオロスルホン酸、及びヘテロポリ酸の組み合わせからなる群から選択される材料を含み、ヘテロポリ酸を含んでもよい、請求項に記載の直接燃料電池装置。
【請求項6】
80~250℃の温度で作動する、請求項に記載の直接燃料電池装置。
【請求項7】
化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法であって、前記方法は、
水素化液体燃料と水の供給源を提供する工程であって、前記水素化液体燃料は、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、又はアルキル化された水素化された芳香環のランダム異性体混合物を含み、前記メチルシクロヘキサン、前記エチルシクロヘキサン、及び前記アルキル化された水素化された芳香環のランダム異性体混合物は、シクロアルカン環上又は芳香族分子上のアルキル置換基の、アルコール、アルデヒド、ケトン又はカルボン酸生成物への変換を含む工程と、
膜/電極接合体(MEA)を提供する工程であって、前記膜/電極接合体は、カソード及びアノードを含み、前記カソード及び前記アノードはそれぞれ触媒を含む、工程と、
水の供給源を提供する工程であって、前記水の供給源は前記アノードと流体連通する工程と、
前記水素化液体燃料を前記膜/電極接合体と接触させ、それによって、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する工程、
を含み、
前記水素化液体燃料は、前記膜/電極接合体の前記アノードと流体連通し、前記カソードは酸素又は空気と連通し、かつ前記方法は80℃~400℃の温度で行われる、方法。
【請求項8】
前記アルキル化され水素化された芳香環のランダム異性体混合物は、ペルヒドロベンジルトルエンの異性体の混合物、ペルヒドロジベンジルトルエンの異性体の混合物、並びにペルヒドロ化キシレン及びキシレンの異性体の混合物からなる群から選択される、1種以上の化合物を含む、請求項に記載の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法。
【請求項9】
化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法であって、
前記アルキル化され水素化された芳香環のランダム異性体混合物の前記水素再生可能又は電気化学的に再生可能な液体燃料は、


2つまたは3つの6員環が結合した化1、化2、化3の構造を持つ分子からなり、
~R は、C ~C アルキル基であり、
Xは、メチレン、エタン-1,2-ジイル、プロパン-1,3-ジイル、プロパン-1,2-ジイル、オキシド又は直接的な炭素-炭素結合からなる群から選択され、
化1、化2、化3のそれぞれについて少なくともR が存在するように置換基が存在してよく、
前記燃料の電気化学的部分酸化は、シクロアルカン上又は芳香族分子上のアルキル環置換基の、アルコール、アルデヒド、ケトン又はカルボン酸基生成物への変換を含む、
請求項7に記載の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法。
【請求項10】
化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法であって、
前記水素再生可能又は電気化学的に再生可能な液体燃料は、芳香環水素化されたベンジルトルエンの異なる異性体の混合体及び環水素化されたジベンジルトルエンの異なる異性体の混合体から選択される2種以上の化合物を含む液体混合物である、
請求項9に記載の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法。
【請求項11】
化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法であって、
芳香環水素化されたベンジルトルエンの異性体、環水素化されたジベンジルトルエンの異なる異性体の混合体、及びペルヒドロ化キシレンの異性体の混合物を、ベンジルトルエンの異性体の混合物、ジベンジルトルエンの異性体の混合物、及びキシレンの異性体から選択される化合物を含む生成物へと電気化学的部分酸化することで化学エネルギーを電気エネルギーに変換する、
請求項8に記載の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法。
【請求項12】
化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法であって、
芳香環水素化されたベンジルトルエンの異性体、環水素化されたジベンジルトルエンの異なる異性体の混合体、及びペルヒドロ化キシレンの異性体の混合物を電気化学的部分酸化して、アルコール、アルデヒド、ケトンまたはカルボン酸を含む生成物を生成する、
請求項8に記載の化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年8月17日出願の米国特許仮出願第62/376,233号の一部継続出願であり、その開示全体を参照により本願に援用し、かかる開示が本明細書の開示と矛盾しない範囲で開示の継続性を提供する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、概してエネルギー貯蔵のためのシステムに関し、具体的には、水素又は電気的に再生可能な(regenerable)液体燃料を使用した電気化学的エネルギー変換及び貯蔵のための材料、方法及び装置に関する。
【0003】
二次電池、電気化学キャパシタ及び燃料電池などの多数の電気化学的エネルギー変換及び貯蔵デバイスが知られている。電池及びキャパシタデバイスは、電気エネルギーの入力を直接貯蔵する。燃料電池は、本質的に、電気化学的プロセスによって、潜在的に貯蔵可能な燃料の固有エネルギーを使用可能な電気へと変換できる、エネルギー変換デバイスであることが知られている。
【0004】
風及び太陽光などの再生可能(renewable)エネルギー源は、断続的な発電でしかなく、したがって、好ましくは効率的に消費者まで搬送できる形で、貯蔵する必要がある。最も宣伝されている方法では、電気を使用して、水の電気分解によって水素を発生し、そのガスを固定又は移動サイトで貯蔵するために搬送し、当該サイトで、そのエネルギー分が燃焼によって又は好ましくは燃料電池の使用によって回収されることで、エネルギー効率が向上する。水素輸送用インフラストラクチャ設立の資本コスト及び現在の車両用水素貯蔵技術における限界から、これまで、かかる「水素経済」の実施はごく限られてきた。
【0005】
代替エネルギー貯蔵のアプローチは、1960年代に初めて提案されたもので、H供給サイトで接触水素化された有機液体などの「液体有機水素キャリア」(LOHC)を使用して、容易に貯蔵及び輸送できる流体を理想的に提供する。固定又は移動用途では、LOHCを接触脱水素化することができ、それによって、理想的に、燃料電池への給電に水素を提供する。H枯渇(「使用済み」)燃料は、水素供給サイトに再循環され、そこで接触水素化プロセスによって、当初の組成に再構成される。典型的なキャリア液体は、それぞれ水素化及び脱水素化された形態の、「分子ペア」、シクロヘキサン/ベンゼン、及びデカリン/ナフタレンである。非特許文献1で最近述べられたように、広い社会的容認を得るために、LOHCシステムは、特定の技術性能基準に適合すること、低毒性であること、及び環境影響が許容可能であることが必要とされる。言及された技術的要件は、高い水素貯蔵密度、非常に広い温度範囲にわたる流動性、及び、燃料電池の廃熱を使用することによって燃料電池と熱統合し水素放出のための吸熱を供給する潜在能力、である。非特許文献2は、潜在的キャリアの環境安全衛生(EH&S)リスクアセスメントの一部として、生態毒性及び生分解性などの基準を考察している。
【0006】
最近、上記基準の考察に基づいて、非特許文献3及び非特許文献4は、工業的に十分に確立された合成熱伝達油であるMarlotherm LH(SASOL)及びMarlotherm SH(SASOL)、並びにこれらのペルヒドロ化類似体を、新たな分類のLOHCとして使用することを提案した。組成物は、特許文献1に、ベンジルトルエン及びジベンジルトルエンの異性体の混合物として、更に詳述されている。消費者による水素使用のために、これらの組成物を水素の結合及び放出に使用することが考察されている。ペルヒドロ化キャリアは、低い蒸気圧、広い温度範囲での流動性、及び、市販の(非ペルヒドロ化)油に関する既存のEH&Sデータなど、いくつかの側面で魅力的であるが、適切な触媒反応器で水素脱着するには、熱の大量入力(すなわち、71kJ/molH)及び比較的高温(すなわち、>270℃)を必要とする。この必要なエネルギー入力の総量は、熱統合がない場合の水素の低位発熱量(LHV)のほぼ3分の1の損失になる。270℃以上の温度では、それぞれ80℃~180℃で作動する既存の市販プロトン電解質膜(PEM)及びリン酸燃料電池との熱統合は不可能である。特に、サイズと重量が重要である車両用システムの場合、水素を必要に応じて任意のLOHCから送達する接触燃料脱水素反応器システムの設計は、それ自体がエンジニアリング上の大きな課題であり、非常に高コストである。
【0007】
このような反応器を必要としない別のアプローチは、ペルヒドロ化LOHC、例えば、シクロヘキサンを、燃料電池のような電気化学的デバイスに直接供給する方法であった。電気化学的デバイスでは、空気又は酸素も入力されて、キャリアが酸化的に脱水素化されてベンゼンになり、それによって電力を提供し、副生成物として水が生成する。これは、非特許文献5及び非特許文献6に例示されており、下記の半電池反応によるシクロヘキサンからベンゼン(C)への脱水素化にPEM燃料電池を使用することに関して報告している。
アノード側、C12→C+6H+6e
カソード側、2H+2e+1/2O→H
全体反応、C12+3/2O→C+3H
【0008】
水素ガスはキャリアから放出されず、結果として、そのエネルギー分は直接電気に変換される。燃料電池(FC)の電気的性能は、開放電圧(open cell voltage:OCV)及びパワー密度の項目で報告される。このシステムの場合、OCV(0.91V)は理論値に近かった。しかし、観察された最も高いパワー密度(15mW/cm電極面積)(これは、デバイスのサイズを決定し、それ故コストを決定する)は、水素を燃料として使用する現在市販されているPEM電池と比べて、1~2桁小さい。メチルシクロヘキサン/トルエンLOHCペアを、更に調査した。この場合、FCの性能はより低く(パワー密度、約3mW/cm)、燃料の分子構造に対するデバイスの性能の感度が証明される。更に、Kariyaらは(特許文献2にも開示されるように)、2-プロパノールからアセトン及び水への電気化学的酸化脱水素を実証している。このシステムの場合、最大パワー密度がより高く(78mW/cm)、重要なことには、電気分解条件下で、非常に低効率ではあるが、反応を逆にすることもできる。Hを負荷したLOHCキャリアを燃料電池で直接使用する経路は、明らかな利点があるが、脱水素反応器の必要性をなくすなど、燃料電池の設計においてきわめて重大な問題を呈する。
【0009】
同程度の性能(非特許文献7)又はより低い性能(非特許文献8)の、いわゆる「直接的な」(燃料からHへの事前変換を必要としない)シクロヘキサン-ベンゼンPEM燃料電池に関するその他の研究は数件ある。非特許文献8では、PEM燃料電池は、十分に研究されたLOHCであるペルヒドロN-エチルカルバゾール-(Pezら、特許文献3及び特許文献4)を入力燃料として用いて機能し、比較的低い水素脱着温度と一致する高いOCVを示したが、きわめて低い、最低限のパワー出力しか提供しなかった。Chengらは、特許文献5及び特許文献6において、ペルヒドロN-エチルカルバゾール及び一般的に不飽和ヘテロ環式芳香族分子を直接燃料電池エネルギー貯蔵及び供給システムへの供給材料として使用することを特許請求し、特許文献6では、かかる電池のための電極材料も特許請求しているが、その概念を実証する実際の燃料電池性能データを提供していない。
【0010】
特許文献7において、Soloveichikは、PEM又は液体燃料電池を含む電気化学的エネルギー変換及び貯蔵システムであって、水素(又はLOHC)の有機液体キャリア及び空気又は酸素などの酸化剤を、電池並びに水素枯渇液体を受けるための容器に供給する手段を開示している。電池内で電気化学的に酸化されて通常はケトン部分を生じる第二級ヒドロキシ基を、少なくとも2個有する有機化合物であるキャリア組成物も開示されている。かかる潜在的LOHCの多数の実施例が、予想水素貯蔵能力及びコンピュータ計算された脱水素のギブス自由エネルギーデータ(kcal/H molとして)として提供されている。ギブス自由エネルギーは、燃料電池開路電圧(open circuit voltage:OCV)と関係する。特に、キャリア分子に少なくとも2個の酸素ヘテロ原子が存在することで、重量水素容量が制限される。更に、列挙されたキャリアの水素化形態について、いくつかの体積密度が提供されているが、水素リッチ状態及び脱水素化状態のいずれでも、作動条件における流動性は示されていない。しかし、最も重要なことには、特許請求された液体有機水素キャリアで機能する燃焼電池試験デバイスに関する実験性能データ(例えば、測定されたOCV、並びに負荷下の電圧及びパワー密度)が開示されていない。
【0011】
Liuらは、特許文献8及び特許文献9において、アノードで部分的に酸化され、二酸化炭素(CO)及び一酸化炭素(CO)の発生がきわめて少ない有機N-及び/又はO-複素環式化合物燃料を含む再生型燃料電池を開示している。部分酸化は、「少なくとも1個のプロトン及び1個の電子の移動」として定義される。使用済み燃料は、電気的に再生されるか「in situ」(その場)で再生されるかのいずれかであり、in situは、例えば水素化リチウムアルミニウム又はその他の高反応性有機金属還元剤のような、比較的高コストで容易に再生できない化学還元剤を使用する。具体的には、かかる燃料再生の実施への水素(H)使用の可能性の教示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第2015/0266731号明細書
【文献】特開2004-247080号公報
【文献】米国特許第7,101,530号明細書
【文献】米国特許第7,351,395号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0080026号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0105244号明細書
【文献】米国特許第8,338,055号明細書
【文献】米国特許第8,871,393号明細書
【文献】米国特許第9,012,097号明細書
【文献】米国特許第8,871,693号明細書
【文献】特開平04-099188号公報
【文献】米国特許出願公開第2015/0266731号明細書
【文献】米国特許出願公開第2004/0116742号明細書
【文献】米国特許第6,624,328号明細書
【文献】米国特許第7,348,088号明細書
【文献】米国特許第5,344,722号明細書
【文献】米国特許第8,906,270号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0013767号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Teichmann et al., Energy Environ. Sci., (米), 2011, Vol. 4, p. 2767
【文献】Markiewitz et al. , Energy Environ. Sci., (米), 2015, Vol. 8, p. 1035
【文献】Bruechner et al., ChemSusChem, (独), 2014, Vol. 7, p. 229
【文献】Mueller et al., Ind. Eng. Chem. Res., (米), 2015, Vol. 54, p. 7967
【文献】Kariya et al., Phys. Chem. Chem. Phys., (英), 2006, Vol. 8, p. 1724
【文献】Kariya et al., Chem. Commun., (英), 2003, p. 690
【文献】Kim et al., Catalysis Today, (蘭), 2009, Vol. 146, p. 9
【文献】Ferrel et al, J. Electrochem. Soc., (米), 2012, Vol. 159, No. 4, p. B371
【文献】Balaji, Phys. Chem. Chem. Phys., (英), 2015
【文献】Yoshida et al., J. Org. Chem., (米), 1984, Vol. 49, p. 3419)
【文献】Mitsushima et al, Electrocatalysis, (米), 2016, Vol. 7 No. 2, p. 127
【文献】Matsuoka et al, J. of Power Sources, (蘭), 2017, Vol. 343, p. 156
【文献】Saez et al Electrochimica Acta, (スイス), 2013, Vol. 91, p. 69
【文献】“Handbook of Heterogeneous Catalytic Hydrogenation for Organic Synthesis” Wiley (米), Wiley Pubi, 2001
【文献】Lang et al, Hydrocarbon Engineering, (英),Feb. 2008, p. 95
【文献】Dow Chemicals Inc., heat transfer fluids product brochure, [online] インターネット<URL:http://dow.com/heattrans/products/synmetic/dowtherm.htm>
【文献】McFarlane et al., Separation Science and Technology, (米), 2010, Vol. 45, p. 1908
【文献】Mueller et al., Ind. Eng. Chem. Res., (米),2015, Vol. 54, p. 79
【文献】DOE Technical Targets for onboard hydrogen storage for light duty vehicles, [online] インターネット<URL: energy.gov/eere/fuelcells>
【文献】[online] インターネット<URL: fueleconomy.gov/feg/fcv_sbs.shtml>
【文献】Asensio et al.,J. Electrochem. Soc., (米),2004, Vol. 151, No.2, p. A304
【文献】Gang, Bjerrum et al., J. Electrochem. Soc., (米), 1993, Vol. 140, p. 896
【文献】Zhang et al., J. of Power Sources, (蘭), 2006, Vol. 160, p. 872
【文献】Joglekar, et al., J. Am. Chem.Soc., (米), 2016, Vol. 138, p. 116.
【文献】Lee et al,, J. of Catalysis, (蘭), 2011, Vol. 279, p. 233
【文献】Nagasawa, Electrochimica Acta (in press), (スイス), [online] インターネット<URL:http://dx.doi.org/doi:10.1016/j.electacta.2017.06.081> Reference: EA 29719
【文献】Newson et al., Int. J. Hydrogen Energy, (英),1998, Vol. 23, No. 10, p. 905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、これらの制限を考慮すると、当該技術分野において、電気化学的デバイスのための水素再生可能な、又は電気的に再生可能な、有機液体燃料を使用する電気化学的エネルギー変換及び貯蔵のための材料、方法及び装置が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一態様において、本発明は、電気化学的エネルギー変換システムであって、水素再生可能な又は電気化学的に再生可能な液体燃料及び酸化剤の供給源と流体連通し、燃料の少なくとも一部を受け取り、触媒及び電気化学的に酸化して発電するための電気化学的エネルギー変換デバイスを含み、並びに、少なくとも部分的に酸化脱水素された燃料及び水を含む液体を含む、電気化学的エネルギー変換システムを提供し、ここで、液体燃料は、メチレン、エタン-1,2-ジイル、オキシド、プロパン-1,3-ジイル、プロパン-1,2-ジイル又は直接的な炭素-炭素結合を介して様々に連結されている2又は3種のアルキル置換シクロヘキサン分子を含む組成物、又はかかる組成物の混合物を含む。
【0016】
別の態様において、本発明は、電気化学的エネルギー変換システムであって、水素再生可能な又は電気化学的に再生可能な液体燃料、水及び酸化剤の供給源と流体連通し、燃料の少なくとも一部を受け取り、触媒及び電気化学的に酸化して発電するための電気化学的エネルギー変換デバイスを含み、並びに、少なくとも部分的に酸化脱水素化され、かつ選択的に酸化された燃料及び水を含む液体を含む、電気化学的エネルギー変換システムを提供する。
【0017】
一実施形態において、水素再生可能な炭化水素液体燃料は、実質的に芳香環水素化されたベンジルトルエンの異なる異性体の混合体、及び実質的に環水素化されたジベンジルトルエンの異なる異性体の混合体から選択される2種以上の化合物を含む液体混合物である。
【0018】
別の実施形態において、電気化学的に少なくとも部分的に酸化脱水素化された液体燃料又は使用済み液体燃料は、ベンジルトルエンの異なる異性体の混合体及びジベンジルトルエンの異なる異性体の混合体から選択される2種以上の化合物の混合物を含む。
【0019】
別の実施形態において、燃料の電気化学的部分酸化は、シクロアルカン上又は芳香族分子上のアルキル環置換基からアルコール、アルデヒド、ケトン又はカルボン酸基への変換を含む。
【0020】
別の態様において、本発明は、電気化学的エネルギー変換システムを提供し、当該電気化学的エネルギー変換デバイスは、アノード、カソード及びプロトン伝導膜を含むプロトン交換膜(PEM)燃料電池である。
【0021】
一実施形態において、本発明は、液体燃料の電気化学的酸化を促進するために電気化学的エネルギー変換デバイス内に配置される触媒を更に含む。
【0022】
別の実施形態において、触媒は、パラジウム、白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0023】
別の実施形態において、触媒は、炭素支持体にテザーされた金属配位化合物を含み、金属は、パラジウム、白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、及びニッケルからなる群から選択されてもよい。
【0024】
一態様において、本発明は、使用済み液体燃料を接触水素化プロセスによって再生するためのプロセスを提供する。
【0025】
一態様において、本発明は、使用済み液体燃料を電気分解によって再生するためのプロセスを提供する。
【0026】
一実施形態において、プロトン伝導膜は、スルホン化ポリマー、ホスホン化ポリマー、及び無機-有機複合材料からなる群から選択される。
【0027】
一実施形態において、プロトン伝導膜は、ポリ(2,5-ベンゾイミダゾール)(benzyimidazole)(PBI)及びポリ(2,5-ベンゾイミダゾール)とリン酸又はペルフルオロアルキルスルホン酸の組み合わせからなる群から選択される。
【0028】
一実施形態において、メソ細孔性炭素にテザーされた白金金属錯体触媒を、デバイスのアノードに用いた。
【0029】
一態様において、本発明は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するための直接燃料電池装置を提供し、当該装置は、(a)水素化液体燃料であって、アルキル化された実質的に水素化された芳香環のランダム異性体混合物を含む燃料、及び(b)膜及び電極を備え、それぞれ触媒を含むカソード及びアノードを含む、膜/電極接合体(MEA)、を含み、上記燃料はMEAのアノードと流体連通し、カソードは空気又は酸素と連通し、かつ上記装置は約80℃~約400℃の温度で作動する。燃料は、任意に水を含んでもよい。
【0030】
一実施形態において、アルキル化された実質的に水素化された芳香環化合物の混合物としては、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ペルヒドロ(すなわち、完全に環水素化された)異性体の混合物、ベンジルトルエン、及びペルヒドロジベンジルトルエンの異性体の混合物、及びペルヒドロキシレンの異性体の混合物からなる群から選択される1つ以上の化合物が挙げられる。
【0031】
別の実施形態において、アノード及びカソード用触媒は、パラジウム、白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケル及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0032】
別の実施形態において、アノード及びカソード用の触媒は、炭素支持体にテザーされた金属配位化合物を含み、その金属は、パラジウム、白金、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、及びニッケルからなる群から選択される。
【0033】
別の実施形態において、膜は、ヘテロポリ酸で官能化されたポリマー、スルホン化ポリマー、ホスホン化ポリマー、プロトン伝導性セラミック、ポリベンジルイミダゾール(PBI)及びポリベンジルイミダゾールとリン酸の組み合わせ、並びにポリベンジルイミダゾールと長鎖ペルフルオロスルホン酸の組み合わせからなる群から選択される材料を含む。
【0034】
別の実施形態において、装置は約100℃~約250℃の温度で作動する。
【0035】
別の実施形態において、本発明は、上記の装置を含む車両を提供する。
【0036】
別の実施形態において、車両は、フォークリフト、自動車及びトラックからなる群から選択できる。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、上記の装置を含むエネルギー変換及び貯蔵サイトを提供する。
【0038】
一実施形態において、エネルギー変換及び貯蔵サイトは、ウインドファーム、ソーラーファーム、電力系統レベリングシステム、及び季節的エネルギー貯蔵システムからなる群から選択される。
【0039】
一態様において、本発明は、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する方法を提供し、当該方法は、(a)水素化液体燃料を提供する工程であって、当該燃料は、アルキル化された実質的に水素化された芳香環化合物の異性体混合物を含む、工程、(b)膜/電極接合体(MEA)を提供する工程であって、当該電極接合体は、それぞれ触媒を含むカソード及びアノードを含む、工程、及び(c)燃料とMEAとを接触させ、それによって、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する工程、を含み、上記燃料は、MEAのアノードと流体連通し、カソードは空気又は酸素と連通し、かつ上記装置は約80℃~約400℃の温度で作動する。
【0040】
一態様において、本発明は、上記のような少なくとも部分的に酸化された液体燃料を、電気分解によって再生するためのプロセスを提供する。
【0041】
一実施形態様において、本発明は、上記のような液体燃料を、接触水素化によって水素で再生するためのプロセスを提供する。
【0042】
以下の本発明の実施形態の説明を添付図面と共に参照することによって、本発明の上記の特徴及び工程、並びにそれを達成する方法が明らかとなり、本発明自体が最も良く理解されると考えられ、その際、複数の図を通して、類似の文字は類似の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明による液体燃料の一般構造の図である。
図2】本発明による電気化学的エネルギー変換システムの図である。
図3】メチルシクロヘキサンの場合の分極曲線の図である。
図4】ペルヒドロジベンジルトルエンの場合の分極曲線の図である。
図5】性能が改善された燃料電池からのペルヒドロジベンジルトルエンの場合の分極曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
一態様において、本発明は、燃料電池のような電気化学的エネルギー変換デバイスに用いたときに、現在の技術の液体有機水素キャリア(LOHC)と比べて、大幅に増大したエネルギー貯蔵容量を提供できる、再生可能な液相有機燃料の組成及びユーティリティーに関する。燃料は、電気エネルギーの入力と共に、電気化学的変換プロセスを逆方向に実施することによって、in situで再生されてもよい。あるいは、「使用済み」燃料は、接触水素化プロセスによって、又は水を水素源として電気化学的水素化デバイス内で、再構成されてもよい。
【0045】
モデル燃料分子ペアの熱化学
液体有機水素キャリア(LOHC)は、従来技術に記載したように、触媒の存在下で水素を可逆的に化学結合できるベンゼン/シクロヘキサンなどの「分子ペア」からなる。水素捕捉の可逆性は、ベンゼンからシクロヘキサンへの可逆的水素化反応で例示されるように、所与の温度において平衡定数(K)によって完全に定量化される。

式中、角括弧の中の項は構成成分の濃度であり、最後の項は水素の分圧である。平衡定数(K)は、ギブス自由エネルギーの変化(ΔG)、エンタルピーの変化(ΔΗ)及びエントロピーの変化(ΔS)と関係し、したがって類似の熱力学関係による温度(T)に関係する。
-RTlnK=ΔG=ΔH-TΔS
本明細書で論じる熱力学特性は、可能な場合には公開されている実験データ(例えば、米国標準技術局(NIST)データベース)から導出される。データが入手できなかった場合、SPARTAN(登録商標)’16(Wave Function Inc.)のTiデータファイルにあるものなどのコンピュータ計算された熱力学を使用した。特記のない限り、報告された平衡の全ての構成成分は、気相にあると仮定する。
【0046】
接触水素化K=1.97×10atm-3(全ての構成成分は気相にある)に合理的な温度である150℃において、H付加は非常に有利である(ΔG=-51kJ/mol)。ただし、シクロヘキサンの実用的な脱水素のために、システムを280℃以上に加熱する必要がある(ΔG→0のとき、K→1atm-3)。
【0047】
しかし、Kariyaらが記載したPEM燃料電池のような、電気化学的変換デバイスにおいて、シクロヘキサンは、全体として、酸素又は空気を共反応物とする酸化脱水素反応を起こし、それによって電力を提供し、副生成物としてベンゼン及び水を生成する。
12+3/2O→C+3H
これは、本質的に燃焼反応として、熱力学的に常にきわめて有利であり、事実上温度制限がない。例えば、この反応では、150℃でΔG=-617kJ/mol、K=5.8×1076であり、300℃で-653kJ/mol、K=3.9×1059(すべての構成成分は、気相にあると仮定する)である。このΔGは、理想的には、特定の温度で、電気化学的変換デバイスによって電力として回収できる、利用可能なエネルギーである。燃料/使用済み燃料ペアの利用可能なエネルギー密度は、ΔG(25℃、1atmの標準条件におけるΔG)で定義され、特定の燃料ペアについて、キャリア燃料の単位質量又は単位体積当たりのキロジュール(kJ)として表される。上記のシクロヘキサンの酸化脱水素反応の場合、ΔG=-588kJ/molであり、エネルギー密度は、シクロヘキサン/ベンゼン分子ペアについて、6.99kJ/g(シクロヘキサン)と推定される。
【0048】
電気化学的酸化脱水素
本発明の第1の実施形態として、かかる電気化学的酸化脱水素モードでの作動は、熱力学的制約がきわめて少なく、可能なLOHC分子ペアの範囲を広げ、より広い選択肢を提供することができる。これは、エチルシクロヘキサン(C11)をLOHC燃料として参照することによって例証される。分子の接触脱水素は、最初にエチルベンゼン(C(6H/8C原子))、次にスチレン(C(8H/8C原子))、その次にフェニルアセチレン(CCCH(10H/8C原子))が生成すると予想でき、フェニルアセチレンは、シクロヘキサン/ベンゼンペアの7.17重量%に対して、かつてない9.5重量%当量という水素貯蔵容量を提供する可能性がある。ただし、最初のエチルシクロヘキサンからエチルベンゼンへの変換は、約280℃でK→1及びΔG→0であり、これだけで水素貯蔵の価値があると考えられる。更にHを失ってスチレン及びフェニルベンゼン及びフェニルアセチレンを生成するために必要な対応する脱水素温度の690℃及び1250℃は、あまりにも高く、分子の骨格分解を招くと思われる。
【0049】
他方で、電気化学的酸化脱水素プロセスにおいて、水が副生成物として存在し、エチルシクロヘキサン→エチルベンゼン→スチレン→フェニルアセチレンの3種類の変換は全て、150℃で熱力学的に実施可能であり、これは動作可能な燃料電池に合理的な温度である。この実施例では、ギブスの自由エネルギーの変化は、それぞれ、-624、-154及び-89kJ/molである(このΔGへの寄与は、キャリア分子の脱水素がエネルギー的により必要となるにつれて減少することは注目すべきである)。全反応では、エチルシクロヘキサンからフェニルアセチレン、及び副生成物としての水が生成し、まとめると、
11+2.5O→CCCH+5HO;ΔG=-820kJ/mol
となり、このエチルシクロヘキサン/フェニルアセチレン分子ペアでは、エネルギー密度は7.35kJ/g(エチルシクロヘキサン)に相当する。エチルシクロヘキサン/エチルベンゼン系の5.39kJ/g(エチルシクロヘキサン)及びシクロヘキサン/ベンゼン燃料ペアの6.99kJ/g(シクロヘキサン)と比較して、エチルシクロヘキサン/フェニルアセチレン分子ペアは、潜在的に実用的な有機液体水素キャリア(すなわち、約280℃未満でHを送達できるもの)で最も高い重量エネルギー密度(C:H=1)を示す。
【0050】
一般論として、かかる酸化電気化学的脱水素プロセスは、次式で記述できる。
[S]H+x/2O→[S]Ha-2x+xHO――(1)(反応1)
式中、[S]Hは、その構造内に、この変換を潜在的に起こし得る水素原子を「a」個含む炭化水素分子を表し、ここで2x≦aである。純粋に熱力学的な観点から、反応1は、通常は吸熱的で平衡制約のある[S]Hから[S]Ha-2x及びxHへの脱水素と、水素から水への発熱的燃焼との組み合わせとして考えてもよい。これは、従来技術(例えば、Soloveichikの特許文献7)に示されるように、現実的にH可逆システムに限定されるのではなく、全体的に有利なギブスの自由エネルギーの変化、すなわち、-ΔG>0のみに限定される。この意味で、重量又は体積による「水素貯蔵容量」又は「等価水素貯蔵容量」(例えば、Liuらの特許文献10に用いられている)は、その使用条件において水素放出に必要なエネルギーも明記しなければ、意味のある貯蔵エネルギーの尺度にならない。換言すると、LOHCにおいて水素容量の公称値が高いことは、その流体が高いエネルギー密度を有することを必ずしも意味するとは限らない。上に例示したように、本発明の有機液体燃料のエネルギー貯蔵密度は、ΔG/(分子ペア又は燃料ペアの単位質量又は単位体積)によって十分に定義される。
【0051】
燃料に含有されるエネルギーは、原則として、十分な高温で必要な反応感度を提供する触媒の存在下で反応1を実施することによって、熱として大部分を回収できる。しかし、本発明の実施形態として、同じ全体的変換が、プロトン電解質膜(PEM)燃料電池などの電気化学的エネルギー変換デバイス内で実施され、出力としての電気が、いくらかの廃熱と共に生成する。デバイスは、プロトン伝導性電解質によって分離されたアノード区画とカソード区画とを備える。アノード区画に入る[S]H燃料は、酸化されて(「2x」個の電子を失って)、電解質及び使用済み燃料副生成物にプロトンを与える。
カソードでは、酸素及びプロトンが還元されて水が生成する。
【0052】
外部負荷における電流の流れは、回路を完成し、全体的な化学的変換は上記式のとおりである(反応1)。反応1のギブス自由エネルギーの変化(ΔG)は、電池から誘導できる電気的出力としての最大有用エネルギーであり、したがって、[S]H/[S]Ha-2x分子ペアの潜在的に使用可能なエネルギー貯蔵容量の尺度である。電池の開路電圧(OCV)(E)は、外部開路に負荷がない状態で実験的に測定したときに、次式により、自由エネルギーの変化(ΔG)と関係する。
ΔG=-nFE、式中、nはアノードからカソードに移動した電子の数であり、Fはファラデー定数である。
【0053】
電気化学的酸化脱水素及び選択的部分酸化
大幅に高いエネルギー貯蔵容量を生じ得る本発明の第2の実施形態は、燃料の電気化学的酸化脱水素及び電気化学的選択的部分酸化の両方を含み、電気化学的選択的部分酸化は、酸素の取り込みを含む。水は、反応の少なくとも一部の副生成物である。この概念の例示として、メチルシクロヘキサン(C11CH)に起こる可能性のある酸化反応を検討する:
1.環水素の電気化学的酸化脱水素によるトルエンの生成
11CH+1.5O→CCH+3HO;ΔG(25C)=-591kJ/mol
2.側鎖の電気化学的部分酸化によるベンジルアルコールの生成
CH+0.5O→CCHOH;ΔG(25C)=-133kJ/mol
3.側鎖の更なる電気化学的部分酸化によるベンズアルデヒドの生成
4.CCHOH+0.5O→CCHO+HO;ΔG(25C)=-195kJ/mol
5.側鎖の更に深い部分酸化による安息香酸の生成
CHO+O→CCOOH;ΔG(25C)=-233kJ/mol
6.全体
11CH+3O→CCOOH+4HO;ΔG(25C)=-1152kJ/mol、
その結果、シクロヘキサン/安息香酸ペアでは、エネルギー密度は1152/98.19=11.65kJ/g(メチルシクロヘキサン)である。
【0054】
部分酸化(ここでは、酸素原子nの取り込み)反応工程は、燃料のエネルギー密度を最大で95%増加させ、工程1のみの-591kJ/molから、工程1~5の合計の-1152kJ/molとなる。ベンズアルデヒドのみが生成物として得られる、より穏和な酸化(工程1、2及び3)でも、メチルシクロヘキサン/ベンズアルデヒド燃料ペアに関して9.36kJ/g(メチルシクロヘキサン)のエネルギー密度が得られる。おそらく、燃料の電気化学的変換は、メチルシクロヘキサンの側鎖の第1の部分酸化、及びその後の環の脱水素と共にも起こる。これらの個別反応のエネルギーは、上記の工程1及び2の場合とわずかに異なると考えられるが、ベンズアルデヒド及び安息香酸への全エネルギー変化は変わらないであろう。トルエンの電気化学的酸化は、数名の研究者によって研究されており、触媒及び条件の選択により選択的とすることができ、例えば、主生成物としてベンズアルデヒドを得ることができる(非特許文献9)。特許文献11には、燃料電池を使用したトルエンの電気化学的酸化による、ベンズアルデヒド及び安息香酸の製造方法が開示されている。
【0055】
このエネルギー貯蔵増強のための電気化学的部分酸化アプローチの別の例として、エチルシクロヘキサンの環水素の酸化脱水素によるエチルベンゼンの生成、その後の側鎖の逐次的部分酸化によるフェニルメチルカルビノール及びフェニルメチルケトンの生成を考える。
1.環水素の酸化脱水素によるエチルベンゼンの生成
11CHCH+1.5O→CCHCH+3HO;ΔG=-594kJ/mol
2.エチルベンゼンの部分酸化によるフェニルメチルカルビノールの生成
CHCH+1/2O→CCH(OH)CH;ΔG=-143kJ/mol
3.フェニルメチルカルビノールの部分酸化によるアセトフェノンの生成
CH(OH)CH+1/2O→CC(O)CH+HO;ΔG=-213kJ/mol
全体
11CHCH+2.5O→CC(O)CH+4HO;ΔG=-952kJ/mol
その結果、エチルベンゼン/アセトフェノン燃料ペアに関して、利用可能なエネルギー密度は、952kJ/mol又は8.48kJ/g又は2441Wh/kg(エチルベンゼン)である。
【0056】
当該概念の更なる例示として、ジシクロヘキシルメタンの電気化学的酸化脱水素によるジフェニルメタンの生成、その後の部分酸化によるジフェニルカルビノールの生成、及び最終的なベンゾフェノンの生成を考える。
1.(C11CH+3O→(CCH+6HO;ΔG=-1208kJ/mol
2.(C+1/2O→(CCHOH;ΔG-126kJ/mol
3.(CCHOH+1/2O→(CCO+HO;ΔG-217kJ/mol
全体:(C11CH+4O→(CCO+7HO;ΔG-1551kJ/mol
その結果、ジシクロヘキシルメタン/アセトフェノン燃料ペアに関して、エネルギー密度は、1551kJ/mol又は8.60kJ/g(ジシクロヘキシルメタン)である。これらの実施例から、シクロヘキサン環上の置換基の部分酸化は、電気化学的デバイスへの入力燃料の潜在的に利用可能なエネルギーを、シクロヘキサン環の酸化脱水素のエネルギーを超えて、大幅に増加できることが明らかである。ジフェニルメタンなどのアルキルベンゼンの選択的電解による側鎖酸化で、対応するケトンを生成することが報告されている:(非特許文献10)。
【0057】
電気化学的部分酸化反応は、好ましくはワンステッププロセスとして(下記参照)、接触水素化又は電気化学的還元(電解又は水素による)が可能な反応生成物が得られるように選択的に進行することが望ましい。したがって、電気化学的部分酸化反応は、炭素-炭素結合開裂反応のような、分子の事実上不可逆の分解を最少にするか又は排除するために十分に選択的であるべきである。炭素-炭素結合開裂反応は、回収が難しく燃料再生の出発点として実用的ではない、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO)などの望ましくない高揮発性副生成物も生成する可能性がある。
【0058】
PEM燃料電池のようなプロトン伝導性電解質を用いた電気化学的変換デバイスにおける部分酸化反応は、下記の半電池反応によって一般項として例示されるように、アノード区画に燃料と共に水を添加することが常に要求される。
正味の反応:[S]H+yO→[S]Ha-2y+yHO――(2)
式中、2y≦aである。
【0059】
電気化学的部分酸化反応シーケンスの少なくとも1つの工程において、水の正味の生成なく、燃料に酸素が取り込まれる可能性もある。これは、例えば、上記のメチルシクロヘキサンの電気化学的部分酸化の工程2及び4の場合であり、ベンジルアルコール及び安息香酸が反応生成物である。一般的に、ヒドロキシ(-OH)基含有部分、例えば、アルコール、カルボン酸又はフェノールが、得られる反応生成物である。故に、炭化水素反応体燃料[S]Hの半電池反応は、次のように例示できる。
正味の反応:[S]H+0.5yO→[S]Ha-y(OH)――(2’)
類似の半電池反応は、初期燃料がいくらかの酸素を取り込んで、アルデヒドになるなどの場合に関して書かれている場合がある。酸素源として、水はカソードで常に必要になるが、理想的には、デバイスによる正味の消費はなくなる。
【0060】
ほとんどの場合(上記の最後の3例について)、燃料は、電気化学的酸化脱水素及び部分酸化の両方のプロセスを経ると予想され、部分酸化は、燃料分子への酸素の付加を伴う。この場合、全体反応は、式1及び式2の反応の組み合わせとして、式3によって記述される。
正味の反応:2[S]H+1/2xO+yO→[S]Ha-2x+[S]Ha-2y+(x+y)HO――(3)
式中、2x≦a及び2y≦aである(-OH基含有生成物の生成(2’のような)は、簡素化のため省略する)。
【0061】
「使用済み」液体燃料の再生及びリサイクル
本発明の第3の実施形態は、少なくとも部分的に電気化学的脱水素化された、及び少なくとも部分的に電気化学的選択酸化された、有機液体燃料をリサイクル及び再生する方法に関する。反応は、電気化学的変換デバイスの電極で起こり、その結果、電流、すなわちアノードからカソードへの電子の流れは、電流が逆方向に流れるように外部電位を与えること(電気分解条件)によって、反転することができる。「背景技術」の節で引用したように、Kariyaら、及びLiuらは、PEM燃料電池をイソプロパノールからアセトン及び水への電気化学的酸化脱水素に使用し、その後、電気分解によって反応を部分的に反転させた。電気化学電池の場合、電極は、電子の流れる方向によって「アノード」及び「カソード」と定義され、電子は常にアノード(酸化が起こる)からカソード(還元が起こる)へと流れる。この電気分解プロセスにおいて、アノード区画の水は、電気化学的に酸化されて、プロトン及び副生成物としての酸素を生成する。すなわち、上記の半電池反応1bの逆である。プロトンは、膜を通過してカソード側に行き、カソード側で「使用済み燃料」は電気化学的に再生される(反応1aの逆)。酸素含有燃料の電解再生(反応2aの逆)では、水が副生成物になる。最も一般的な場合、電気化学的脱水素化及び電気化学的部分酸化された「使用済み」燃料で、水の電気分解を含む全体的な変換、及び「使用済み」燃料の電気化学的水素化及び電気化学的還元は反応4(式3の逆)で記述される。
[S]Ha-2x+[S]Ha-2y+(x+y)HO→[S]H+1/2xO+yO――(4)
このような、同じ電気化学的変換デバイスによる液体燃料のin-situ再生は、例えば、車両の電気的燃料補給に、又はホームユニット若しくはより大規模なソーラー/風力再生可能エネルギー貯蔵システムの一部として、用いることができる。
【0062】
本発明の更なる実施形態では、「使用済み」液体燃料は、独立型の電気化学的デバイスである、電力及び水の入力によって作動する電気分解反応器によって再生される。デバイスの作動原理は、再生モードで作動する燃料電池の原理と同じである。使用済み燃料は、カソード側で還元され、アノード側で水の電気分解が起こり、全体反応は式4により定義されるとおりである。同じ電池内で水の電気分解と共に作用するトルエンからメチルシクロヘキサンへの非常に電気的に効率のよい電気化学的還元(電子水素化)に関する最近の報告が数件ある。例えば、非特許文献11、非特許文献12である。これらの報告は、使用済み燃料の芳香族構造から飽和シクロヘキサン部分への電気化学的変換の実現可能性の予想を十分に支持する。カルボニル=CO、及びその他の極性官能基の電気化学的水素化に関する文献のうち、最も関連性のあるものは、PEM電池内でのアセトフェノンC-C(O)CHから1-フェニルエタノール、C-CH(OH)CHへの電気的水素化の報告である(非特許文献13)。ただし、このケースの場合、水素Hがアノードに供給される。このシステムは、アノード側の燃料として水素の代わりに水(及び電気)を使用するために異なる触媒電極を用いることなどによって、改良及び工夫する必要があった。
【0063】
本発明のこの実施形態の電気水素化デバイスは、数個の電気化学的エネルギー変換ユニットのための中央燃料再生施設として機能する、局所的な「再生可能液体燃料ミニグリッド」の一部となり得る。あるいは、好ましくは再生可能な電気エネルギー源と一体化された、遠隔の、より大きな施設であってもよい。再生可能液体燃料は、必要な距離に応じて、トラックによっても、既存の燃料インフラストラクチャ又は新たな専用パイプラインによっても、いずれの方法でも輸送できる。この再生アプローチをin-situ方法と比べたときの利点は、それぞれの電気化学的デバイスを別々に、最大性能に最適化できることである。
【0064】
本発明の別の実施形態において、使用済み燃料は、使用又は分配サイトで回収され、化学処理サイトに輸送及び「リサイクル」され、そこで好ましくは単一の処理工程で接触水素化により再生される。電解再生法の場合、プロセスは、再生燃料をユーザーの限られたコミュニティに提供するパイロット~プラントスケールで、その地域で、場合によっては配電網からの電気と共に、実施されてもよい。しかし、(好ましくは「グリーンな」)電気エネルギー源に近い、より離れた場所で、規模の経済をもたらす大規模プラントで実施されることが好ましい。有機化合物の接触水素化に関しては、かなりの研究知識及び広範な産業技術が存在する。具体的には、Nishimuraは(非特許文献14において)アルデヒド、ケトン、カルボン酸などの官能基が結合しているベンゼン、トルエン及び芳香族分子を含む本発明の「使用済み」燃料の分子の直接的(ワンステップ)選択的水素化の方法及び推奨される触媒を説明している(非特許文献14、Nakamura,Ch.11,414-425;Ch.5 170-178;190-193;Ch.10,387-392参照)。工業スケールのプロセスでは、「ワンステップ」の触媒化学変換は、実際には複数の逐次的単位操作を含んでもよいことに注意する。
【0065】
この場合、反応物質の水素は、燃料に付与されたエネルギー源である。部分脱水素化及び部分酸化された有機液体燃料の水素化に関する一般的な反応化学量論は以下のとおりである。
[S]Ha-2x-2y+(x+2y)H→[S]H+yHO――(5)
【0066】
ほとんどの場合、この水素化反応は自発的かつ発熱的(すなわち、ΔG≒0又は<0及びΔΗ<0)であり、発熱的であることは、水素の内在エネルギーの損失に相当し(気体「含有」の熱力学コスト)、これは原則的に、この反応の発熱を空間加熱又は冷却に使用するなど、複合サイクルプロセスによって、部分的に回収される可能性がある。
【0067】
現在、ほとんどの水素は、水蒸気-メタン改質のような大規模プロセスで製造されているが、風力又はソーラー発電を用いた水の電気分解によって再生可能資源から効率的に製造するための開発途中の技術が存在する。本発明の電気化学的エネルギー変換及び貯蔵の概念の環境面での利益は、かかる「グリーン」エネルギー源からの液体燃料の再生から得られる。
【0068】
液体燃料組成物
上記の例示は、電気化学的エネルギー変換デバイス(ECD)用の燃料は、(a)ペルヒドロ化芳香族分子/芳香族分子ペア、及び好ましくは、(b)潜在的により高いエネルギー密度のための、環結合した還元/酸化された官能基ペアを、様々な濃度の導入又は初期含有酸素で、含むと考えられることを示す。ただし、実際の燃料は、低い水溶解度、極小の蒸気圧及び準大気温度までの広範な操作条件における優れた流動性など、他の数項目の物理的特性に適合する必要がある。
【0069】
熱伝達流体は、熱流体としても知られ、石油、ガス、ソーラーエネルギー及び化学プロセス産業で広く使用されており、上記の液体燃料の望ましい物理的特性のいくつかを有する。組成物では、流体は、冷却用途に通常用いられるグリコールから、分留された炭化水素油、更にはより厳しい高温用途に使用されるような合成有機液体までの範囲に及ぶ。広い温度範囲での流動性又は液体範囲は、「アルキル化芳香族」類の合成熱伝達流体の組成物、例えば、C14~C30長鎖アルキル炭化水素鎖から誘導体化されたベンゼンからなるDOWTHERM(登録商標)Tのような、関連組成物の複雑な混合物を用いることによって実現されることが最も多い。追加成分が存在する場合があり、同じくDow Chemical Co.からのDOWTHERM(登録商標)Q流体の場合、アルキル化芳香族とジフェニルエタンの混合物からなり、液体範囲は-35℃~330℃である(非特許文献15)。DOWTHERM(登録商標)Aではビフェニル(C1216)及びジフェニルエーテル(C1210O)成分も存在する(非特許文献16)。1-フェニルナフタレン(これは驚くべきことに室温で液体である)のような縮合芳香族は、熱伝達流体として研究されてきた(非特許文献17)。産業界で使用及び提唱されている合成熱伝達流体は、電気化学的エネルギー変換燃料の設計に有用な背景知識基盤を提供する。更に、既知の熱伝達流体の一部は、現在市販されていないものでも、本発明の電気化学的エネルギー変換システムのための燃料に望ましい特性を、現に有している可能性があるか、あるいは化学的に官能化されて有することができる。
【0070】
前述のように、Bruechner、Mueller及び特許文献12は、ベンジルトルエン又はジベンジルトルエンの異性体の混合物からなる液体(SASOL社の工業用熱伝達流体)を触媒プロセスに使用して、水素を結合及び/又は放出することを提案している。この場合、流体は、水素ガスを貯蔵及び消費者向けに放出するための従来のLOHC組成物として用いられている。しかし、組成物(ペルヒドロ化分子として)を、電気化学的エネルギー変換デバイス、例えば燃料電池に、直接燃料として直接使用するという教示はない。
【0071】
電気化学電池の燃料要件への適合の考察において、上記(a)及び(b)並びに、デバイスのための望ましくは低蒸気圧及び広い流動範囲、還元された環ペルヒドロ化分子/環脱水素化若しくは部分酸化された「分子ペア」については以下の一般組成及び分子構造が、本発明の電気化学的デバイス用の燃料として提案される。これらの組成物を、以下に、図1を参照して定義する。
【0072】
燃料は、様々に連結し、様々に置換された6員環を2又は3種含んでもよく、これは置換シクロヘキサン分子(シクロヘキシル(C11-基)及びシクロヘキシレン(-C10-二価基)として)、構造1、3及び5、並びに対応する連結及び置換ベンゼン分子と、構造2、4及び6を指す。これらの構造はそれぞれ、還元されたエネルギーリッチな状態及び電気化学的脱水素化又は選択的に酸化されたエネルギー枯渇状態の燃料を表す。燃料が3種の6員環を含む場合、当該6員環は「分枝状」(構造1及び2)に配列されていても「線状」(構造3~6)配列であってもよい。
【0073】
基R~Rは、構造1、3及び5において水素の置換基であり、様々に、1つの環につき0~4個のR~R置換基で、炭素原子6個以下であるが好ましくは炭素原子1~3個のみのアルキル基、すなわち、メチル、エチル、プロピル及びイソプロピル基であってもよい。しかし、構造1及び2については、それぞれ少なくとも1個の置換基R及びR’が存在しなければならない。X連結基は、様々にメチレン(-CH-)、エタン-1,2-ジイル(-CHCH-)、プロパン-1,3-ジイル、プロパン-1,2-ジイル、又はオキシド、-O-であってもよく、又は連結基がなく、この場合、環構造が炭素-炭素結合で直接連結していてもよい。図1に示す構造のそれぞれにおいて、X連結の少なくとも1つの結合は、6員環の中心方向を指しており、環の残りの位置のいずれか1つに結合し得ることを意味する。-X-基が、各鎖の特定の炭素原子への結合によって2個の6員環を連結する場合、これは、分子の特定の構造を画定する。他の構造(異性体)は、-X-基が環の炭素原子の異なるペアを連結することによって可能となる。かかる構成のそれぞれは、当該分子に存在し得る位置異性体の1つを構造的に画定する。燃料分子は、位置異性体のうちの1つ、2つ、又は位置異性体の混合物からなってもよい。位置異性体混合物に内在する位置的「ランダムさ」は、低温での結晶化の阻害に有用となることがあり、したがって、燃料のより広い液体範囲をもたらす可能性がある。
【0074】
燃料の電気化学的変換により、シクロヘキサン環の部分的のみの又は完全な電気化学的酸化脱水素が得られる場合、置換基R基及び-X-連結基は、不変のままである。
(R~R ≡R’~R ’及びX≡X’)
ただし、プロセスが、環置換基及び連結基の電気化学的部分酸化を追加的に含む場合、R’~R ’及び-X’-(構造2、4及び6)は、シクロヘキサン及びベンゼン部分のメチル、エチル及びメチロール置換基に関する予測熱化学的データと共に上に例示したように、様々な度合で、部分的に酸化された形態であってもよい。限定するものではないが、一般的に、R~R基及び-X-連結に起こり得る部分酸化シーケンスは、
メチル→メチロール(-CHOH)、→メタナール(-CHO)→カルボン酸(-COOH)
エチル→エチロール(-CHCHOH)又は1-メチル-メチロール(-CH(OH)CH)→エタナール(-CHCHO)又は1メチルメタノール(-C(OH)CH)→カルボン酸-CHCOOH
である。
【0075】
X連結(オキシド以外)は、電気化学的に部分的に酸化される場合もある。
メチレン(-CH-)→ケトン(-C(O)-);及びエタン-1,2-ジイル(-CHCH-)→ケトン(-C(O)CH-)又は1,2-ジケトン(-C(O)C(O))-基
【0076】
燃料は、メチルシクロヘキサンC11CH、エチルシクロヘキサンC11CHCH、及びペルヒドロ化キシレンC10(CHの異性体の混合物も含んでもよい。メチルシクロヘキサンは、電気化学的に酸化脱水素化されてトルエンCCHとなり、場合によっては、更にアノード部分酸化を起こして、ベンジルアルコールCCHOH、ベンズアルデヒドCCHO及び安息香酸CCOOHを生成する。同様に、キシレンは環のアノード脱水素と、場合によってはメチル置換基の1つ又は2つの電気化学的選択的酸化を起こし、対応するアルコール、アルデヒド及びカルボン酸を生成する。エチルシクロヘキサンに起こり得る電気化学的環脱水素及び電気化学的部分酸化反応は、上に詳述されている。
【0077】
実施例1~4(コンピュータ計算に基づく)
【実施例1】
【0078】
ペルヒドロ化ベンジルトルエン異性体の混合物の電気化学的酸化脱水素によるベンジルトルエン異性体の混合物の生成(ΔSの予測のため、コンピュータ上で3-ベンジルトルエンとしてモデル化)。
【0079】
図1の組成物及び構造を参照して、
構造1の組成物(唯一の環置換基としてR=CH、及びX=-CH-)+3O→構造2の組成物(唯一の環置換基としてR’=CH、及びX’=-CH-)+6HO:ΔG=-1208kJ/mol。開路電圧(OCV)=1.259V(n=12)、エネルギー密度=6.215kJ/g又は1726Wh/kg(ペルヒドロ化ベンジルトルエン異性体/ベンジルトルエン異性体の混合物の分子ペア)。
非特許文献18で12H MLHとしてラベリングされたペルヒドロベンジルトルエンのΔ (気体)実験データ、及びSSPDデータベースから得たエントロピー、ΔS(気体)からの予測、EFD2/6-31Gレベルで、SPARTAN(登録商標)2016 Quantum Chem.Package(Wavefunction Inc.)で計算。Muellerらの同じ(気相)エントロピー値の12H-MLHのΔ (液体)データを用いて、ΔGの-1214kJ/molへのごくわずかな変化が得られた。ただし、ここで水(液体)が生成物の場合、ΔG=-1265kJ/molである。
【実施例2】
【0080】
実施例1と同じペルヒドロ化ベンジルトルエン異性体の混合物を、ベンジルトルエン異性体の混合物に変換し、更に、メチレン基をカルボニル基に選択的に酸化する。
構造1(R=メチル(CH)及びX=メチレン(-CH-))+4O→構造2(X’は架橋カルボニル、C(O))+7HO;ΔG=-1564kJ/mol;OCV=1.013V(n=16)。エネルギー密度=8.047kJ/g又は2235Wh/kg(ペルヒドロ化ベンジルトルエン異性体/ベンゾイルトルエン異性体の混合物の分子ペア)。
【0081】
架橋メチレンから架橋カルボニルへの酸化により、燃料のエネルギー密度、すなわち最大エネルギー貯蔵容量が29%増加する。
【実施例3】
【0082】
実施例2で、更に、メチル基からアリールカルボン酸基(-COOH)への選択的電気化学酸化。
構造1(R=メチル(CH)、X=-CH-)+5.5O→構造2(X’=C(O)及びR’=COOH);ΔG=-2122kJ/mol,OCV=1.0V(n=22)エネルギー密度=10.92kJ/g又は3030Wh/kg
メチル基からカルボン酸基への酸化により、エネルギー密度が更に35%増加する。上記の2つの酸化工程により、当初の燃料のエネルギー貯蔵容量から合計で75%の増加が得られた。付加官能基(R~R)の選択的酸化により、燃料の電気化学的エネルギー貯蔵容量の更なる増強が得られると予想される。
【実施例4】
【0083】
ペルヒドロ化ベンジル-ベンジルアルコールの異性体混合物の電気化学的酸化脱水素、更に、ベンジルアルコール基からカルボン酸基へ及び架橋メチレンからカルボニルへの電気化学的酸化。
構造1(R=CHOH及びX=-CH-)+5O→構造2(R’=COOH及びX’=C(O))+8HO、ΔG=-1989kJ、OCV=1.031V、エネルギー密度=9.45kJ/g又は2626Wh/kg
【0084】
この実施例は、構造1で、-CHの代わりに別の官能置換基-CHOHを用いた例として提供される。予想どおり、構造1(R=CHOH及びX=-CH-)/構造2(R’=COOH及びX’=C(O))分子ペア)のエネルギー貯蔵密度は、わずかに小さいが、構造1のメチロール基は、メチルよりも容易に電気化学的酸化を受けると予想される点で、潜在的利点を有する可能性がある。
【0085】
車両エネルギー貯蔵に対する実施例1~4のデータの重要性
本発明の代表的燃料の上記エネルギー密度データを、以下の分析によって、有用性、実用性の観点からとらえる。実施例1の燃料ペアのエネルギー密度は、ΔG=6.215kJ/g又は5.42MJ/L、又は1.51kWh/L(Muellerの参考文献からのペルヒドロ化ベンジルトルエン異性体混合物の密度)。最終的な目標は、DOEの2020年システム体積水素貯蔵目標の1.3kWh/Lに好ましくは匹敵することである(非特許文献19)。あるいは、上記はガソリン又はディーゼルの既知のエネルギー密度に匹敵し得るが、これらの炭化水素の燃料-車両効率(fuel to wheels efficiency)、及び本発明の再生可能燃料の使用効率を、モデルの一般的車両に関して仮定する必要があるだろう。
【0086】
より有意義なアプローチは、(数例の入手可能な)現在市販の水素燃料電池自動車(FCV)の性能と関係づけることであり、16年式ヒュンダイ・ツーソン小型SUV及び2016年式トヨタ・ミライの燃料経済性はそれぞれ50マイル/kgH及び66マイル/kgH、一充電走行距離はそれぞれ265マイル及び312マイルである(非特許文献20のサイトからのデータ)。「代表的な」(おそらく小型)FCVは、現在、300マイル走行するために圧縮ガスとして4~5kgの水素を必要とする。使用可能エネルギーの全貯蔵量は、4.5kgのHが燃焼して80℃(代表的なFCの作動温度)の水蒸気になったときのΔGとして計算され、504MJである。本発明の電気化学的エネルギー変換デバイスを燃料電池の代わりに用いた車両は、実施例1の液体燃料を504MJ/5.42MJL-1=93L又は24.5USガロン必要とすることとなる。実施例3のように、10.91kJ/g又は9.52MJ/Lのエネルギー密度の場合、同じ一充電走行距離に必要な液体燃料は、わずか53L又は14ガロンである。液体燃料の「より深い」かつ選択的電気化学的部分酸化により、更に高いエネルギー貯蔵容量が可能となるはずである。
【0087】
実施例5~7(実験による燃料電池性能データ)
装置及び実験手順
膜/電極接合体(MEA)-(図2)を、Scribnerテストスタンド及び燃料電池テクノロジーハードウェアを用いて試験した。この試験に使用したMEA2はそれぞれ、25cmの活性面積を有した。アノード12及びカソード14は、いずれも、疎水性気体拡散層上にコーティングされた1.56mg-Pt/cmを含有した。複合材膜10は、ポリベンゾイミダゾール(PBI)/20%12-ケイタングステン酸(HSiW)/リン酸(PA)で構成された。MEAを、1.5トン、100℃で3分間ホットプレスした後、組み立て及び試験を実施した。この初期実験では、メチルシクロヘキサン又はペルヒドロジベンジルトルエン-異性体の混合物として(上記Muellerらの参照文献における化合物18H-MSH)を燃料16として使用し、酸素18を酸化剤として使用した。130℃に予熱した燃料は、130℃に維持したバブル加湿器を通したN2流に導入された後、電池のアノード区画に入り、アノード区画からの流出液は大気圧で排出した。酸素流は、0.2L/分、80℃でバブル加湿器に通された後、電池のカソード室に入った。この条件で、メチルシクロヘキサン(沸点101℃)は大部分が気相にあると予想され、ペルヒドロジベンジルトルエン(沸点390℃)は主に液体状態にあると考えられる。MEAを活性化するため、燃料電池を、電流密度0.2A/cmで、Hを供給しながら、予想OCVに達するまで約3時間作動した。活性化プロセスの後、分極曲線(電池電圧対電流密度)を、160℃、スキャン速度5mV/sで記録した。
【実施例5】
【0088】
燃料としてのメチルシクロヘキサン(CCH)の使用
(気体)の流れは、130℃に維持したバブル加湿器に0.05L/分で通され、次いで、130℃で気化したメチルシクロヘキサンと混合された後、燃料電池2のアノード区画に入った。最も高い性能は、流体を定形のサーペンタイン流路を介して電池のアノードに入れること、及びリン酸含量に最適化されたDanish Power Systemの高温Pt/炭素電極を使用することによって実現された。作動温度は、アノード、電池及びカソードでそれぞれ130℃、160℃及び80℃であった。電池の性能を、1回約6時間の3回の実験の平均として報告し、図3に分極曲線として示す。これは、電池電圧対電流密度及び電池電圧対パワー密度(電圧×活性電池表面積当たりの電流)のプロットである。全ての燃料電池で、電圧は、ゼロに近い電流で最大(開放電圧、OCV)となり、その後負荷の増大と共に徐々に低下する。
【実施例6】
【0089】
燃料としてのペルヒドロジベンジルトルエンの使用
(気体)の流れは、130℃に維持したバブル加湿器に0.05L/分で通され、次いで、130℃に予熱した0.18mL/分の液体ペルヒドロジベンジルトルエン(異性体の混合物として)の流れと合わせて、この混合物が燃料電池のアノード12区画に供給された。この温度で、ペルヒドロジベンジルトルエン(標準沸点390℃)は、大部分が液相にあると予想される。流体を、サーペンタイン流路を介して電池のアノードに入れた。リン酸に最適化されたDanish Power Systemの高温Pt/炭素電極を使用した。作動温度は、アノード、電池及びカソードでそれぞれ130℃、160℃及び80℃である。1回約6時間の3回の実験の平均としての電池の性能を、図4に示す分極曲線として報告する。
【実施例7】
【0090】
性能が改善されたペルヒドロジベンジルトルエン供給FC
ペルヒドロジベンジルトルエン(異性体の混合物として)を用いるごく最近のFCを、供給液体を平行流路を用いてアノード区画に入れたことを除き、上記実施例6と同じ条件下で運転した。更に、電池内ペルヒドロジベンジルトルエン貯蔵容量を増やすために、カーボンフェルト層を使用した。結果を、分極曲線(電圧対電流密度のみ)として図5に与える。電池電圧対電流密度のプロットは、白丸(○)としてデータポイントと共に示す。図5に示すように、その前の実験-実施例6で得られたペルヒドロジベンジルトルエン電池電圧対電流のデータを、同じ「電流密度」の軸上に黒丸としてプロットしている。このデータを、図4図5の左に見えるプロットとして再度図示)のデータと比較すると、性能が約1桁改善されていることが明らかである(例えば、0.2Vにおける電流密度は100mA/cm対8mA/cm)。
【0091】
電気化学的エネルギー変換デバイス(ECD)
ECDは、燃料電池又はフロー電池であってもよい。いずれの電気化学的デバイスにも共通なのは、イオン伝導性電解質によって分離されたアノード及びカソード電極である。燃料電池では、アノード及びカソードは、ごく接近しているが固体の電解質によって分離された状態で向き合っている。フロー電池では、液相電解質は、電池のカソード区画とアノード区画との間を再循環する。
【0092】
燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤とを触媒混合することによって使用可能な電気を生産する電気化学電池である。典型的な膜/電極接合体(MEA)としては、固体電解質として機能するポリマー電解質膜(PEM)10(イオン伝導膜(ICM)としても知られる)が挙げられる。PEMの片面はアノード電極層12と接触し、反対側の面はカソード電極層14と接触している。一般的な電池では、プロトンは水素またはその他の燃料の酸化によってアノードで生成し、PEMを通ってカソードに移動して酸素と反応し、それによって電極に接続する外部開路への電流を生じる。各電極層は、電気化学的触媒(図2のアノード触媒20及びカソード触媒22)を含み、典型的には白金金属を含む。PEM10は、耐久性、無孔性で、非導電性の機械的障壁を反応物質気体又は液体の間に形成するが、イオンを容易に通す。気体拡散層(GDL)は、アノード及びカソード電極材料への、及びアノード及びカソード電極材料からの、気体の輸送を促進し、電流を伝導する。GDLは、多孔性かつ導電性であり、典型的には炭素繊維を含む。GDLは、流体輸送層(FTL)(液体の輸送も可能にする)又は拡散/集電装置(DCC)とも呼ばれることがある。いくつかの実施形態において、MEAに適用されるアノード及びカソード電極層の順序は、アノードFTL、アノード電極層、PEM、カソード電極層、及びカソードGDLである。他の実施形態において、アノード及びカソード電極層は、PEMのいずれかの側に適用され、得られる触媒被覆膜(CCM)は、2つのGDLの間に挟まれて、5層MEAを形成する。
【0093】
本発明によるPEM10(図2)は、任意の好適なポリマー又はポリマーのブレンドを含んでもよい。典型的なポリマー電解質は、共通の主鎖に結合したアニオン性官能基を有し、当該官能基は典型的にはスルホン酸基であるが、カルボン酸基、イミド基、アミド基、又はその他の酸性官能基も含んでもよい。ポリマー電解質は、本発明によると、ポリオキソメタレートを含む官能基を含んでもよい。ポリマー電解質は、典型的にはフッ素化されており、より典型的には高度にフッ素化されており、最も典型的には全フッ素化されているが、非フッ素化物であってもよい。ポリマー電解質は、典型的にはテトラフルオロエチレンと、1つ以上フッ素化された酸官能性コモノマーとのコポリマーである。典型的なポリマー電解質としては、Nafion(登録商標)(DuPont Chemicals、デラウエア州ウィルミントン)及びフレミオン(登録商標)(旭硝子株式会社、東京)が挙げられる。ポリマー電解質は、特許文献13、特許文献14、特許文献15に記載のように、テトラフルオロエチレン(TFE)とFSO-CFCFCFCF-O-CF=CFのコポリマーであってもよい。ポリマーの当量(WE)は、典型的には1200以下、より典型的には1100以下、より典型的には1000以下、より典型的には900以下、より典型的には800以下である。非フッ素化ポリマーとしては、限定するものではないが、スルホン化PEEK、スルホン化ポリスルホン、及びスルホン酸基含有芳香族ポリマーが挙げられる。
【0094】
本発明の燃料の飽和炭化水素分子は、脱水素及び部分酸化を起こす傾向が比較的低いことから、好ましいのは、従来の水素/空気燃料電池の約80℃よりも高温(つまり、ポリ(2,5-ベンゾイミダゾール)(PBI)ポリマー膜の場合、約200℃までの温度)で機能できる(非特許文献21)、リン酸がドープされているか又は長鎖ペルフルオロスルホン酸を有するプロトン伝導膜(リン酸燃料電池でリン酸に添加されている(そのカリウム塩として)(非特許文献22、特許文献16))、ビニルホスホン酸/リン酸ジルコニウム膜(特許文献17)、及び更にいくらか高い温度までの無機-有機複合材料膜(非特許文献23)である。
【0095】
ポリマー電解質膜(PEM)は、任意の好適な方法によって膜状に形成されてよい。ポリマーは、典型的には、懸濁液からキャスティングされる。バーコーティング、スプレーコーティング、スリットコーティング、ブラシコーティング等の任意の好適なキャスティング法を使用できる。あるいは、膜は、押出などの溶融プロセスで、ニートポリマーから形成してもよい。形成後、膜を、典型的には、120℃以上、より典型的には130℃以上、最も典型的には150℃以上の温度でアニールしてもよい。PEM10(図4)は、典型的には、50μm未満、典型的には40μm未満、より典型的には30μm未満、及び最も典型的には約25μmの厚さを有する。
【0096】
本発明によるポリマー電解質膜は、レドックスシステムとして、燃料電池の電極における電子移動プロセスを潜在的に促進し得るポリオキソメタレート(POM)又はヘテロポリ酸(HPA)を含んでもよい。ポリオキソメタレートは、酸素が配位した遷移金属カチオン(金属酸化物多面体)を含む化学種の一分類であり、集合して、明確に定義された(別個の)クラスタ、鎖、又はシートを形成し、その際少なくとも1個の酸素原子が2個の金属原子に配位する(架橋酸素)。ポリオキソメタレートは、その構造に1個を超える金属カチオンを含有しなければならず、その金属は同じ元素でも異なる元素でもよい。ポリオキソメタレートのクラスタ、鎖、又はシートは、別個の化学物質として、典型的には正味の電荷を帯び、適切に帯電した対イオンと共に固体として又は溶液中に存在し得る。アニオン性ポリオキソメタレートは、溶液又は固体形態で、正に帯電した対イオン(対カチオン)によって電荷平衡されている。金属元素を1種だけ含むポリオキソメタレートは、イソポリオキソメタレートと呼ばれる。2種以上の金属元素を含むポリオキソメタレートは、ヘテロポリオキソメタレートと呼ばれる。任意に、ポリオキソメタレートは、第13族、14族、又は15族の金属カチオンを追加的に含んでもよい。第13族、14族、又は15族の金属カチオン(ヘテロ原子)を含むアニオン性ポリオキソメタレート、及びプロトンによって電荷平衡されているアニオン性ポリオキソメタレートは、ヘテロポリ酸(HPA)と呼ばれる。ヘテロポリ酸は、プロトンが他の対カチオンによってイオン交換されている場合、HPA塩又はHPAの塩と呼ばれる。
【0097】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリオキソメタレート(POM)及びヘテロポリ酸(HPA)を組み込んだポリマー電解質が提供され、これも、多少のプロトン伝導性を提供する。ポリオキソメタレート及び/又はその対イオンは、タングステン及びマンガン、更にはセリウムも包含する遷移金属原子を含む。
【0098】
膜/電極接合体(MEA)又は触媒被覆膜(CCM)を作製するために、手作業及び機械的方法の両方を含む、任意の好適な手段によって触媒をPEMに適用してもよく、その例としては、ハンドブラッシング、ノッチバーコーティング、流体ベアリングダイコーティング、巻線ロッドコーティング、流体ベアリングコーティング、スロット供給ナイフコーティング、3ロールコーティング、又はデカール転写が挙げられる。コーティングは、1回で適用されても複数回適用されてもよい。
【0099】
本発明の実施において、任意の好適な触媒を使用してもよい。典型的には、炭素担持触媒粒子が、Pt、Ru、Rh及びNi並びにこれらの合金からなる触媒として使用される。従来、触媒は、非常に小さいナノスケール粒子として、炭素に物理的に支持される。典型的な炭素担持触媒粒子は、50~90重量%が炭素で、10~90重量%が触媒金属であり、触媒金属は典型的にはカソード用にPt、アノード用にPT及びRuを重量比2:1で含む。
【0100】
金属配位化合物を含む分子触媒は、有機金属錯体としても知られ、炭素表面に共有結合し、それによって金属を最大限に拡散し、通常は錯体の一部は配位子として残る。直接メタン燃料電池では、有機配位子を介して共有結合によりメソ細孔性炭素にテザーされた白金有機金属錯体による炭素-水素結合の電気化学的酸化で、これまでにないほどの触媒活性が見られた(非特許文献24)。この研究で用いられたMEA及びPt有機金属錯体触媒は、シクロアルカン環のやや無反応性が弱いC-H結合の、及び本発明の燃料の置換アルキル基の、電気化学的脱水素及び/又は部分酸化を実現のために適用可能である。電池のアノードにおけるC-H結合の活性化に有用となり得るその他の電解触媒としては、ニッケル、並びに、Pt族金属(Ru、Os、Rh、Ir及びPd、Pt)又は金と、酸化銅(CuO)及びその他のレドックス酸化物-例えば、酸化バナジウム(V)との組み合わせ、例えば、導電性酸化スズ支持体にアノード触媒として使用されているもの(非特許文献25)が挙げられる。
【0101】
典型的には、触媒は触媒インクの形態でPEM又は流体輸送層(FTL)に、適用される。あるいは、触媒インクを転写基材に適用し、乾燥させ、その後にPEMに又はFTLに、デカールとして適用してもよい。触媒インクは、典型的には、ポリマー電解質材料を含み、当該材料はPEMを構成するポリマー電解質材料と同じであっても同じでなくてもよい。触媒インクは、典型的には、ポリマー電解質の分散液中に触媒粒子の分散液を含む。触媒インクは、典型的には5~30%の固体(すなわちポリマー及び触媒)、より典型的には10~20%の固体を含有する。電解質分散液は、典型的には水性分散液であり、これは、アルコール、並びにグリセリン及びエチレングリコールのような多価アルコールを更に含有してもよい。水、アルコール、及び多価アルコールの含有量は、インクのレオロジー特性を変えるように調整してもよい。インクは、典型的には、0~50%のアルコール及び0~20%の多価アルコールを含有する。加えて、インクは0~2%の好適な分散剤を含有してもよい。インクは、典型的には、熱と共に撹拌することで製造し、その後、20倍希釈してコーティング可能な稠度にする。
【0102】
MEAを製造する際に、気体拡散層(GDL)を触媒被覆膜(CCM)のいずれかの側に任意の好適な手段によって適用してもよい。任意の好適なGDLを使用してもよい。典型的には、GDLは、炭素繊維を含むシート材料を含む。典型的には、GDLは、織及び不織炭素繊維構造から選択される炭素繊維構造である。有用となり得る炭素繊維構造としては、東レ(登録商標)カーボンペーパー、SPECTRACARB(登録商標)35カーボンペーパー、AFN(登録商標)不織カーボンクロス、ZOLTEK(登録商標)カーボンクロスなどが挙げられる。GDLは、炭素粒子コーティング、親水性化処理、及び、ポリテトラフルオロエチレン40(PTFE)またはFEPのようなテトラフルオロエチレンのコポリマーでのコーティングなどの疎水性化処理を含めて、様々な材料でコーティング又は含浸することができる。
【0103】
使用の際に、従来技術によるMEAは、典型的には、分配プレートとして知られ、また、バイポーラプレート(BPP)又はモノポーラプレートとして知られる2つの剛性プレートの間に挟まれる。GDLと同様に、分配プレートは導電性でなければならない。分配プレートは、典型的には、炭素複合体材料、金属材料、又はめっき金属材料から製造される。分配プレートは、典型的には、MEAに面する表面に彫られたか、ミリングされたか、型成形されたか、スタンピングされた1つ以上の流体伝導チャネルを通じて、MEA電極表面に、及びMEA電極表面から、反応物流体又は生成物流体を分配する。これらのチャネルは、時には流れ場と呼ばれ、様々な設計、例えば、1組の平行チャネル、サーペンタイン流路、又は更に複雑なパターンであってもよい。液体が供給される燃料電池は、多くの場合、金属スポンジ又はカーボンフェルトなどの多孔質媒体への単一マニホルドを用いる。トルエン-メチルシクロヘキサン電気化学的水素化デバイスにおいて、カーボンペーパーの流れ場/拡散層の使用によって、平行、サーペンタイン、又はインターデジタルの流れ場を液体供給材料の導入に用いた場合よりもはるかに優れた電池性能が得られた(非特許文献26(印刷中))。
【0104】
分配プレートは、スタック中の2つの連続的MEAに、及び当該MEAから、流体を分配してもよく、1つの面は燃料を第1MEAのアノードに導き、もう1つの面は酸化剤を次のMEAのカソードに導く(かつ、生成水を除去する)。典型的な燃料電池スタックは、分配プレートと交互に積み重ねられた多数のMEAを含む。
【0105】
電気化学的エネルギー変換システム
電気化学的エネルギー変換システムを、図2に概略的に示す。電気化学的デバイス2は、膜/電極接合体(MEA)をその中心的特徴として有する燃料電池として示されている。左側に表示されているのは貯蔵タンク24で、フレッシュな燃料16と使用済み燃料液体26の両方が、可撓性ダイアフラム又はブラダー28で分離されて入っている。更に、電気化学的部分酸化が酸素を導入するときに、必要に応じて試薬として使用できる水をアノード区画12に供給するためのリザーバ30がある(式3参照)。図示のとおり、電池2は、負荷32の下で燃料を消費し、発電を行っている。燃料再生モードで作動したとき、電池2は逆方向に作動し、負荷の代わりに電気が入力される。
【0106】
タンク24への、及びタンク24からの燃料供給及び補給は、特許文献18に詳述されるとおり、デュアルノズル燃料ポンプを用いた単一操作で簡便に実施できる。
【0107】
本明細書で概説するシステムは、十分に確立された炭化水素燃料送達用インフラストラクチャを用いて固定又は車両用のいずれのエネルギー貯蔵にも使用できるが、ここでは、使用済み燃料26を中央処理施設に戻し、接触水素化プロセスによって再生するようにも再構成できる。電気分解法による、すなわち燃料電池を逆方向に運転することによる、燃料再生は、ソーラー発電が利用できる場所では特に有利となるであろう。この電気的再生モードで作動するシステムは、電気負荷の均一化に理想的である。本発明の燃料は、特に比較的不活性な(非酸化的)雰囲気下で貯蔵したときに長期間安定であると予想され、季節的貯蔵用途に理想的であり、数ある利点の中でも特に、(非特許文献27に記載のような)従来技術のLOHC及び関連システムよりも高いエネルギー貯蔵密度が得られる可能性がある。
【0108】
ウインドファーム及びソーラーファームは、本質的に過渡的な発電装置である。電気的再生モードでは、本発明の貯蔵システムを、電気エネルギーバッファとして使用し、それにより、日間から夜間の電力需要のかけはしとなり、これらのエネルギー源の「無風」期間の運転のバッファとなる。発生及び貯蔵されたエネルギーリッチな液体燃料の一部、又は大部分さえもが、固定エネルギー貯蔵「ハブ」へ輸送するための液体輸送インフラストラクチャに導入され、このハブから地域又は車両消費者への送達が行われる。「使用済み」燃料26(図2)は、電気的に再構成された、又は好ましくは再生可能に発電された電力を用いて水の電気分解から誘導された水素で再構成されたときと同じ輸送インフラストラクチャを経て戻される。
【0109】
上記は単に本発明の原理を例示するものである。したがって、本明細書では明示的に説明又は図示していないが、本発明の原理を具現化し、その精神及び範囲内に含まれる様々な構成を当業者が考案することができることが理解されよう。更に、本明細書で列挙した例及び条件説明は全て、原則的に、単なる教育的目的、並びに技術の促進のために発明者によって提供された本発明の原理及び概念の理解における読者の支援を明示的に意図しており、かかる具体的に列挙した例及び条件に限定するものではないと解釈するべきである。更に、本発明の原理、態様、及び様々な実施形態並びにそれらの具体例を挙げている本願中の全ての記述は、それらの構造上及び機能上の両方の等価物を包含するよう意図される。加えて、そのような等価物は、現在知られている等価物及び将来開発される等価物の両方、すなわち、構造にかかわらず、同じ機能を果たす開発されたあらゆる要素を含むことが意図される。
【0110】
この例示的実施形態の説明は、添付の図面と併せて解釈されることを意図しており、図面は記述説明全体の一部と考えられる。説明において、相対的な用語、例えば「下方」、「上方」、「水平」、「垂直」、「上の」、「下の」、「上」、「下」、「上部」、「底部」など、並びにその派生語(例えば「水平に」「下方に」「上方に」など)は、考察において述べられた又は図に示された方向を指すものと解釈されるべきである。これらの相対的な用語は、記載の便宜のためであり、装置は特定の方向で構成又は作動される必要はない。「接続」及び「相互接続」などの付着、接合などに関する用語は、構造が、介在する構造によって直接的又は間接的に相互に固定又は付着される関係を指しており、特に明記されない限り、可動的又は固定の両方の付着が関係する。
【0111】
本明細書において参照又は記載された全ての特許、出版物、科学論文、ウェブサイト、並びに他の文献及び資料は、本発明の属する分野における当業者の技術レベルを示し、このような参照された文献及び資料の各々は、あたかも参照によりその全体がそれぞれ組み込まれ、又はその全体が本明細書に示されている場合と同じ程度で、参照により組み込まれる。
【0112】
出願人らは、いかなるこのような特許、出版物、科学論文、ウェブサイト、電子的に入手可能な情報、及び他の参照される資料又は文献からのいかなる及び全ての資料及び情報も、かかる資料及び情報が本明細書の記述と矛盾しない範囲で、本明細書に物理的に組み込む権利を留保する。
【0113】
本特許の記述説明部分は全ての特許請求の範囲を包含する。更に、全ての特許請求の範囲は、全ての当初の特許請求の範囲並びに任意の及び全ての優先権書類からの全ての特許請求の範囲を含み、言及することにより、本明細書の記述説明部分にその全体が組み入れられる。また、出願人らは任意の及び全てのそのような特許請求の範囲を本出願の記述説明部分又は任意の他の部分に物理的に組み入れる権利を留保する。それゆえ、例えば、いかなる場合であっても、本特許は、請求項の表現が本特許の記述説明部分中に厳密にその通りの言葉で記載されていないという主張にもとづいて、根拠なく、その請求項に対する記述説明が与えられていないとは解釈されない。
【0114】
特許請求の範囲は法律に従って解釈される。しかし、任意の特許請求の範囲又はその一部の解釈が容易である又は難解であるという主張又は認識にもかかわらず、特許をもたらす出願(単数又は複数)の手続の間に任意の特許請求の範囲又はその一部を修正又は補正することは、いかなる場合であっても、先行技術の一部を形成しない本特許の任意の及び全ての等価物に対する権利が放棄されたと解釈されない。
【0115】
本明細書に開示されている全ての特徴は任意の組み合わせで組み合わせることができる。したがって、特に明記しない限り、開示された各特徴は、包括的な一連の等価又は類似の特徴の一例にすぎない。
【0116】
本発明はその詳細な説明に関連して記載されているが、前述の詳細な説明は例示を意図するものであって、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって規定されるということが理解されるべきである。それゆえ、本発明の具体的な実施形態は、説明を目的として本明細書に記載されてはいるが、種々の修正形態が本発明の精神及び範囲から逸脱することなくなされ得ることは、上記から理解されるであろう。他の態様、利点、及び修正形態は以下の特許請求の範囲の範囲内にあり、本発明は添付の特許請求の範囲による場合以外は限定されない。
【0117】
明細書に記載した特定の方法及び組成物は、好ましい実施形態を表し、例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。他の課題、態様、及び実施形態は本明細書を考慮することにより当業者に想起されるものであり、特許請求の範囲によって規定される本発明の精神に包含される。当業者には、本明細書に開示した本発明には、本発明の範囲及び精神から逸脱せずに、様々な置き換え及び変更を加えられることは容易に明白になろう。本明細書に例証的に記載された本発明は、本質的なものとして本明細書に詳細に開示されていない、任意の要素(単数又は複数)又は限定(単数又は複数)がない場合において適切に実施されてもよい。それによって、例えば、本明細書中の各事例、本発明の実施形態又は実施例において、用語「構成する」、「含む」、「含有する」などは、限定されることなく広く解釈されるべきである。本明細書に例示的に記載した方法及びプロセスは、好適には、異なる工程の順序で実施されてもよく、本明細書又は特許請求の範囲に示された工程の順序に必ずしも制限されない。
【0118】
利用されてきた用語及び表現は、説明の用語として使用され、制限するものではなく、そのような用語及び表現の使用において示され、説明される特性及びその一部のいずれの等価物を除外する意図はなく、むしろ主張される特許請求される本発明の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。したがって、本発明を種々の実施形態及び/又は好ましい実施形態並びに任意の特徴によって具体的に開示したが、当業者が用いる可能性のある本明細書の概念の任意の及び全ての変更及び変形は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0119】
本発明を、本明細書で広く一般的に説明した。包括的開示に含まれる、より狭義の種又は下位の分類も、それぞれ本発明の一部を形成する。これは、任意の内容をその種類から除くという条件又は消極的な限定を伴う本発明の包括的な記載を含み、これは削除されたものが本明細書中に詳細に列挙されているか否かには拘らない。
【0120】
本明細書、及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「ある」、「1つの」、「当該」は、そうではないことが文脈に明白に示されていない限り複数形を含み、「X及び/又はY」は「X」又は「Y」、又は、「X」及び「Y」を意味し、名詞の後「s」は、その名詞の複数形と単数形の両方を含む。更に、本発明の特徴又は様態がマーカッシュ群の形式で記載されるところでは、本発明は、マーカッシュ群の任意の個々の要素又は要素の下位概念を包含し、当該項目に関して記載されることは、意図するところであり、かつ当業者に理解されるであろう。
【0121】
その他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。したがって、特許は、本明細書に詳細に及び/又は明示的に開示された特定の実施例又は実施形態又は方法に限定されると解釈してはならない。いかなる場合も、審査官又は特許商標庁の任意のその他の職員又は職員による陳述が詳細であり、出願人による応答書面に明示的に採用した資格又は留保のない限り、特許は、かかる陳述によって制限されると解釈されない。
【0122】
本発明を代表的実施形態に関して記載したが、本発明はこれらに限定されない。むしろ、添付の特許請求の範囲は、当業者が本発明の範囲及び等価物の範囲から逸脱することなく実施できる本発明の他の変形及び実施形態を含めるように、広く解釈されるべきである。
【0123】
当業者は、特許請求された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、その他の変更及び実施を行うであろう。したがって、本明細書で上に記載した説明は、添付の特許請求に示されているものを除き、本発明を限定することを意図するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5