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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】動力伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/08 20060101AFI20220607BHJP
   C08F 8/04 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
F16G1/08 Z
C08F8/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019530104
(86)(22)【出願日】2017-12-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 IB2017057650
(87)【国際公開番号】W WO2018104860
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】16202303.0
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514100304
【氏名又は名称】ダイコ・ヨーロッパ・エッセ・エッレ・エッレ
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャコモ・カサグランデ
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンネ・ルッケーゼ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・ディ・メコ
(72)【発明者】
【氏名】マッシミリアーノ・デッリ・ロッキオリ
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ・ダウリア
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/190213(WO,A1)
【文献】特表2013-505308(JP,A)
【文献】特表2015-500961(JP,A)
【文献】特表2016-536394(JP,A)
【文献】特表2019-505635(JP,A)
【文献】特表2016-534173(JP,A)
【文献】国際公開第97/036956(WO,A1)
【文献】特開昭62-1537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/08
C08F 8/04
F16G 1/28
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝動ベルトであって、
a)25質量%~38質量%の、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
b)40質量%~60質量%の少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
c)10質量%~25質量%の、一般式(I):
【化1】
(式中、
Rは、水素、又は分岐状もしくは非分岐状のC-C20アルキルであり、
nは2~8であり、
は、水素、又はCH-である。)
のPEGアクリレートから誘導された少なくとも1種のPEGアクリレート単位
を含む水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含、動力伝動ベルト。
【請求項2】
前記α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)が、29質量%~33質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の動力伝動ベルト。
【請求項3】
前記α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)が、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、又はそれらの混合から誘導された単位であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の動力伝動ベルト。
【請求項4】
前記共役ジエン単位(b)が、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)、又はそれらの混合から誘導された単位であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の動力伝動ベルト。
【請求項5】
前記PEGアクリレート単位(c)が、2~8個の繰り返しエチレングリコール単位を有するメトキシ-、エトキシ-、ブトキシ-、又はエチルヘキシルオキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の動力伝動ベルト。
【請求項6】
前記共役ジエン単位(b)の水素化度が、50%を超えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の動力伝動ベルト。
【請求項7】
前記共役ジエン単位(b)の水素化度が、90%以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の動力伝動ベルト。
【請求項8】
前記水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーが、前記動力伝動ベルトの本体を形成する混合物内にあることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の動力伝動ベルト。
【請求項9】
前記水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーが、前記動力伝動ベルトの本体を形成する混合物のエラストマー材料の総質量に基づいて計算して、50質量%超を占めることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の動力伝動ベルト。
【請求項10】
前記エラストマー材料が、非エラストマー材料の総量の1質量%~50質量%の量の繊維で充填されていることを特徴とする、請求項9に記載の動力伝動ベルト。
【請求項11】
請求項1、3~9のいずれか一項に記載の動力伝動ベルトであって、
a)27質量%~37質量%の、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
b)42質量%~58質量%の、少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
c)11質量%~22質量%の、一般式(I):
【化2】
(式中、
Rは、水素、又は分岐状もしくは非分岐状のC-C20アルキルであり、
nは2~8であり、
は、水素、又はCH-である。)
のPEGアクリレートから誘導された少なくとも1種のPEGアクリレート単位
を含む水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含む、動力伝動ベルト。
【請求項12】
請求項1、3~9のいずれか一項に記載の動力伝動ベルトであって、
a)29質量%~36質量%の、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
b)44質量%~59質量%の、少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
c)12質量%~20質量%の、一般式(I):
【化3】
(式中、
Rは、水素、又は分岐状もしくは非分岐状のC-C20アルキルであり、
nは2~5であり、
は、水素、又はCH-である。)
のPEGアクリレートから誘導された少なくとも1種のPEGアクリレート単位
を含む水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含む、動力伝動ベルト。
【請求項13】
歯付きベルトであることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の動力伝動ベルト。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の動力伝動ベルトと、エンジンを潤滑するオイルであって、前記動力伝動ベルトの使用中に前記動力伝動ベルトに継続的に接触するオイルと、を含む、組み立て物。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の動力伝動ベルトの、その中で前記動力伝動ベルトがオイルと直接接触しているか又はオイルに部分的に浸漬されているシステムにおける使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含む動力伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝動ベルトは、一般に、エラストマー材料で作られた本体を含み、その中に、「コード」としても知られる複数の長手方向の糸状の耐久性のある挿入体が埋め込まれ、被覆布で覆われる。
【0003】
動力伝動ベルトの各構成要素は、動力伝動ベルトの故障(例えば、破断)の危険性を低減すると共に固有の伝達能力を増大するための、機械的抵抗の点での性能の向上に寄与している。
【0004】
特に、コードは、動力伝動ベルトに要求される機械的特性を確実にすることに寄与し、動力伝動ベルトの弾性率の確定に本質的な貢献をし、特に経時的に安定した性能を確実にする。コードは一般に、高弾性率繊維を数回巻くことによって得られる。
【0005】
コードは通常、適切な材料で処理されて、その繊維の、コードを囲む本体コンパウンドとの相溶性が高められる。本体コンパウンドは、上述した様々な要素を結合することを可能にし、それらが動力伝動ベルトの最終性能に相乗的に寄与することを確実にする。
【0006】
本体コンパウンドは、1種又は複数種のエラストマー材料であって、好ましくは硬さを増すために繊維で強化されているものをベースとしている。
【0007】
動力伝動ベルトの被覆布は、耐摩耗性を高める役割を有し、したがって、動力伝動ベルトの作用面を、動力伝動ベルトの歯と動力伝動ベルトが相互作用するプーリとの間の摩擦による摩耗から保護する。被覆布は通常、接着剤、例えばRFL(レゾルシノール及びホルムアルデヒド格子)で処理されて、本体コンパウンドと被覆布自体との間の接着性が高められる。
【0008】
さらに、被覆布は、作用面の摩擦係数を減少させ、歯の変形能を低下させ、そして何よりも歯の根元を強化し、それによって歯の破損を回避するように適合させることができる。
【0009】
最後に、本体コンパウンドは、上述した様々な要素を結合し、動力伝動ベルト自体を形成するこれらの様々な要素が動力伝動ベルト自体の最終性能に相乗的に寄与することを確実にすることを可能にする。
【0010】
本体コンパウンドは、典型的には、例えば米国特許第2699685号のように、1種以上のエラストマー材料であって、場合によりその硬度を高めるために繊維で強化されているものを含む。
【0011】
しかし、性能が著しく向上した最近のエンジンでは、動力伝動ベルトは高温にさらされ、これらの温度は、動力伝動ベルトの様々な構成要素を形成する材料のより迅速な劣化をもたらし、動力伝動ベルトは、より長い平均耐用期間を有するために、より優れた機械的特性を備えていなければならない。
【0012】
通常、タイミングベルトは「乾式」で使用される。「乾式」使用では、動力伝動ベルトがエンジンブロックの外部にあり、偶発的にエンジンオイルと接触するだけであり、通常、燃料又は他のオイル汚染物質と混合されたオイルとは接触しないことが意図される。
【0013】
近年、エンジンは、タイミング伝動システムを含む動力車用に開発されてきた。タイミング伝動システムでは、チェーンが、動力伝動ベルトに、それと同じ作業環境で、したがって、オイルと連続的に接触するかまたはオイルミスト中の環境で、置き換えられている。
【0014】
この種のシステムは、本出願人による特許、例えば国際公開第2005/080820号で説明されている。これらの伝動システムでは、動力伝動ベルトは、「油浴ベルト」又は「湿式ベルト」として知られており、同等のチェーン伝動システムと同じ寿命要件を満たすことが可能でなければならない。本発明の範囲内で、「油浴ベルト」又は「湿式ベルト」は、静止時及び/又は動作中に少なくとも部分的にオイルに浸される伝動システム、又は、動力伝動ベルトが連続的にオイルと接触しているか又はオイルミスト中にある伝動システム、例えば、オイルが動力伝動ベルトに(例えば特別に備えられたノズルを介するスプレーとして、もしくは伝動ベルト及びプーリの動きに起因する振動によって)供給される伝動システムに使用される動力伝動ベルトであると理解される。
【0015】
特に、これらの伝動システムでは、エンジンを潤滑するオイルと、伝動システムとの間を分離する手段が全くない。
【0016】
したがって、オイル中の動力伝動ベルトは、エンジン作動中に高温オイルとの連続的な接触に耐え、高い作動温度においても非常に低い温度においても損傷を受けないものでなければならない。
【0017】
特に、高温においてもオイル中で耐えなければならない本体コンパウンドにとって、オイルの吸収を回避するか又は少なくとも減少させること、並びに高い耐摩耗性を維持することが基本的なことである。
【0018】
さらに、動力伝動ベルトがオイルに直接接触するか又は部分的にオイルに浸漬されて使用されるシステムでは、エンジンオイルは、燃料で汚染されることが多い。特に、高い割合でもオイルと混ざり合う燃料による汚染は、燃料が、オイル自体を希釈し、動力伝動ベルトを形成する材料を攻撃するため、動力伝動ベルトの体積膨潤において重要である。
【0019】
例えば、いくつかの用途では、オイルが混合され、最高で30%までの燃料を含むことさえあり得る。燃料の割合は、エンジンの運転条件によって変動し、エンジンの負荷が高く温度が低いほど高くなる。
【0020】
知られているように、燃料はまた、それによって動力伝動ベルトが通常製造されるコンパウンドを損傷し得る、多くの添加物を含有する。
【0021】
チェーン伝動に対して、ベルト伝動は、一般に、摩擦損失がより低く、より安価でもある。加えて、ベルト伝動はより静かであり、ベルトの伸びはチェーンの伸びの最高でも4分の1である。これにより、内燃エンジンの弁をはるかにより正確に制御することが可能になり、燃料節約にもつながる。
【0022】
一般に、動力伝動ベルトがチェーンを代用する動力伝動システムの基本的な問題は、少なくとも240,000kmすなわち150,000マイル持ちこたえ得る動力伝動ベルトを製造すること、又はむしろ、通常の動作条件下で動力伝動ベルトが車両の全耐用年数にわたって交換を必要としないことを確実にすることである。
【0023】
そのために、動力伝動ベルトは、現在市場にあるものよりも優れた、オイル膨潤と低温特性との組み合わせを有しなければならない。
【0024】
動力伝動ベルトがオイルで濡れ、かつ/あるいはオイル中で連続的に作動する伝動システムは、一般に、チェーンが運動伝達に使用される伝動システムと非常に類似している。
動力伝動ベルトの本体内での使用に適した材料、例えば、水素化ニトリルゴム(HNBR)すなわちHNBRターポリマーはよく知られている。
【0025】
例えば、欧州特許第2 868 677号には、-20℃未満のTg及び20%未満のオイル膨潤を有する、1~9質量%のモノカルボン酸モノマー単位を有するニトリル基含有コポリマーが記載されている。このターポリマーは、4.8質量%及び7.7質量%のメトキシエチルアクリレート(例えば、PEG-1-アクリレート)又は4.1質量%のPEG - 5-メタクリレートを含む。欧州特許第2 868 676号には、1~9質量%のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸基含有モノマーを有するニトリル基含有コポリマーが記載されている。 PEG-11-モノマーを有する水素化ターポリマーが明示的に記載されている。
【0026】
しかし、この解決法は、オイル膨潤特性と低温特性との組み合わせが依然として高性能動力伝達のために満足のいくものではないため不利である。
【0027】
既知の動力伝動ベルトの更なる主要な欠点は、非常に良好な柔軟性及び耐オイル膨潤性を互いに独立に調整することができないことである。典型的には、HNBRには、ACN含有量、ガラス転移温度、及びオイル膨潤の間に関係がある。これは、ACN含有量の増加、すなわち極性の上昇と共に、オイル膨潤が低下することを意味する。しかし、同時に、ガラス転移温度が上昇する。一定のオイル膨潤でのガラス転移温度の低下又は一定のガラス転移温度でのオイル膨潤の低減を、様々なモノマーを組み込むことによって達成しようとする過去の試みは、高性能動力伝動用の動力伝動ベルトを提供するのに十分ではなかった。したがって、既知のHNBRポリマーは、オイルと接触して、特に低温で動作するベルトにはまだ不満足である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】米国特許第2699685号
【文献】国際公開第2005/080820号
【文献】欧州特許第2 868 677号
【文献】欧州特許第2 868 676号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の第1の目的は、オイルと接触して連続的に使用される場合、又はオイルに部分的に浸される場合でも高温に耐える優れた特性を有する動力伝動ベルト、特に歯付き動力伝動ベルトであって、同時に、容易に製造されそして安価であるものを得ることである。
【0030】
本発明のさらなる目的は、長い耐用年数を有しそしてそれ故に高温抵抗性、オイル膨潤性及び低温特性に関して優れた特性を有する動力伝動ベルト、特に歯付き動力伝動ベルトを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明によれば、これらの目的は、請求項1に記載の伝動ベルトによって達成される。
【0032】
本発明によれば、さらに想定されるのは、請求項13に特定されるような使用である。
【0033】
本発明をよりよく理解するために、添付の図面を参照しながら本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本発明による歯付き動力伝動ベルトの一部分の側面図である。
図2図2は、本発明による動力伝動ベルトの柔軟性試験のための装置である。
図3図3は、本発明による動力伝動ベルトのオイル膨潤試験のための装置である。
図4図4は、本発明の柔軟性試験の結果を示すグラフである。
図5図5は、本発明のオイル膨潤試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、参照番号1で全体として示す動力伝動ベルトを示す。この動力伝動ベルト1は、水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含むエラストマー材料製の本体2を含み、その中に長手方向の糸状耐久性挿入体3が複数埋め込まれている。好ましい代替形態では、本体2は歯部4を有し、この歯部4は被覆布8で覆われている。
【0036】
動力伝動ベルトは、作用面5とは反対側に背面7を含む。
【0037】
以下、動力伝動ベルトという表現は、歯付きベルトだけでなく、Vベルト、ポリVベルト、台形ベルト、平ベルト等のあらゆる公知の動力伝動ベルトをも含むものとする。
【0038】
以下、「エラストマー材料は・・・基本的に構成されている」という表現は、エラストマー材料が、混合物の化学物理的特性を変えることなくエラストマー材料に添加することができ、したがって、本発明の範囲から逸脱することがない、少ない割合の他のポリマー又はコポリマーを含むことができることを意味する。
以下、「エラストマー材料のための添加剤」は、その化学的及び物理的特性を変えるためにエラストマー材料に添加されるある種の材料を意味すると理解される。
【0039】
「オイル中」又は「オイルミスト中」での使用とは、動力伝動ベルトを部分的に油浴(oil bath)中に浸漬させて使用するか、あるいはオイルと直接接触させて使用することを意味し、一般に、使用中の動力伝動ベルトは、エンジンブロック内にあり、例えばチェーンやギアシステムの代わりとして存在する。
【0040】
「乾燥状態」での使用は、動力伝動ベルトが、エンジンブロックの外側にあり、偶発的にエンジンオイルと接触するだけであり、一般に、燃料混合オイルとは接触していないことを意味する。
【0041】
「燃料混合オイル中」での使用は、動力伝動ベルトが、30%超という割合ですら含まれるオイルの混合物中で使用されることを意味する。
【0042】
本動力伝動ベルトは、
a)25質量%~38質量%、好ましくは27質量%~37質量%、より好ましくは29質量%~36質量%の、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、
b)40質量%~60質量%、好ましくは42質量%~58質量%、より好ましくは44質量%~56質量%の、少なくとも1種の共役ジエン単位、及び
c)10質量%~25質量%、好ましくは11質量%~22質量%、より好ましくは12質量%~20質量%の、一般式(I):
【化1】
(式中、
Rは、水素、又は分岐状もしくは非分岐状のC-C20アルキル、好ましくはメチル、エチル、ブチル、又はエチルヘキシルであり、
nは1~8、好ましくは2~8、より好ましくは2~5、最も好ましくは3であり、
は、水素、又はCH-である。)
のPEGアクリレートから誘導された少なくとも1種のPEGアクリレート単位
を含む水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含み、
ここで、前記水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、nが1である場合には、遊離のカルボン酸基を有するいかなるさらなる共重合可能なモノマー単位も含まない。
好ましくは、上述したエラストマーは、本体2内に使用されるが、動力伝動ベルトの任意の他の部分、例えば、布地処理組成物中、歯を形成するコンパウンド中、動力伝動ベルトの裏面のみを形成するが本体全部を形成しないさらなるコンパウンド中にも使用することができる。
好ましくは、動力伝動ベルトに含まれる、本体、又は任意のさらなるエラストマー混合物は、主エラストマーとしての1種または複数種のエラストマー材料及び様々な添加剤を含むコンパウンドで作られている。
【0043】
「主エラストマー」は、本体を構成するコンパウンド中に、コンパウンド中の全てのエラストマーの総質量に基づいて、したがって動力伝動ベルトの全ての他の非エラストマー成分を除外して計算して、50質量%超で存在することが意図される。
【0044】
好ましくは、本発明のエラストマーは、主エラストマーである。
本発明の1つの実施形態では、共役ジエン単位の少なくとも一部が水素化されている。 好ましくは、水素化度は、50%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0045】
本発明の範囲は、上で言及し、以下に記述した、成分、数値範囲、及び/又はプロセスパラメーターのあらゆる可能な組合せを、一般的な用語又は好ましい範囲内において含むことに留意されたい。
【0046】
用語「ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマー」は、本発明の文脈において、少なくとも1種のα,β-エチレン性不飽和ニトリルモノマー単位と、少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位と、一般式(I)のPEGアクリレートから誘導される少なくとも1種のPEGアクリレート単位とを含むコポリマーに関する。
【0047】
用語「コポリマー」には、2つ以上のモノマー単位を有するポリマーが包含される。本発明の1つの実施形態では、コポリマーは、例えば先に述べた3種のモノマーのタイプ(a)、(b)及び(c)から誘導され、したがって、ターポリマーであることが好ましい。用語「コポリマー」には、同様に、例えば先に述べた3種のモノマーのタイプ(a)、(b)及び(c)と、さらなるモノマー単位(d)とから誘導される四元ポリマーもさらに包含される。
【0048】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)を形成する、使用するα,β-エチレン性不飽和ニトリルは、公知のいかなるα,β-エチレン性不飽和ニトリルであってもよい。好ましいものは、以下のものである:(C~C)-α,β-エチレン性不飽和ニトリル、例えばアクリロニトリル、α-ハロアクリルニトリル(例えばα-クロロアクリルニトリル及びα-ブロモアクリルニトリル)、α-アルキルアクリロニトリル(例えばメタクリロニトリル、エタクリロニトリル)、又は、2種以上のα,β-エチレン性不飽和ニトリルの混合物。特に好ましいのは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル又はそれらの混合物である。極めて特に好ましいのは、アクリロニトリルである。
【0049】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)の量は、全部のモノマー単位を合計した100質量%の総量を基準にして、典型的には25質量%~38質量%、好ましくは27質量%~37質量%、より好ましくは29質量%~36質量%の範囲である。最も好ましい範囲は、29質量%~33質量%である。
【0050】
共役ジエン
共役ジエン単位(b)を形成する共役ジエンは、いかなるタイプであってもよく、特に共役C~C12ジエンである。特に好ましいのは、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)、又はそれらの混合物である。特に好ましいのは、1,3-ブタジエン及びイソプレン又はそれらの混合物である。極めて特に好ましいのは1,3-ブタジエンである。
【0051】
共役ジエンの量は、全部のモノマー単位を合計した100質量%の総量を基準にして、典型的には40質量%~60質量%、好ましくは42質量%~58質量%、より好ましくは44質量%~56質量%の範囲である。
【0052】
PEGアクリレート
α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位及び共役ジエン単位に加えて、水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、第三の単位として、一般式(I):
【化2】
(式中、
Rは、水素、又は分岐状もしくは非分岐状のC~C20-アルキル、好ましくはメチル、エチル、ブチル、もしくはエチルヘキシルであり、
nは、1~8、好ましくは2~8、より好ましくは2~5、最も好ましくは3であり、
R1は、水素又はCH-である)
のPEGアクリレートから誘導される少なくとも1種のPEGアクリレート単位を含む。
【0053】
「(メタ)アクリレート」という用語は、本発明の文脈において、「アクリレート」及び「メタクリレート」を表す。一般式(I)のR基がCH-である場合、その分子はメタクリレートである。
「ポリエチレングリコール」又は略して「PEG」という用語は、本発明の文脈において、1個のエチレングリコール繰り返し単位を有するモノエチレングリコール部分(PEG-1;n=1)と、2~8個のエチレングリコール繰り返し単位を有するポリエチレングリコール部分(PEG-2~PEG-8;n=2~8)との両方を表す。
【0054】
「PEGアクリレート」という用語は、略してPEG-X-(M)Aとも略され、ここで、「X」は、エチレングリコール繰り返し単位の数を表し、「MA」は、メタクリレートを表し、「A」は、アクリレートを表す。
一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるアクリレート単位は、本発明の文脈において、「PEGアクリレート単位」と称される。
【0055】
好ましいPEGアクリレート単位は、以下の式番号1~式番号10のPEGアクリレートから誘導され、ここで、nは、1、2、3、4、5、6、7、又は8、好ましくは2、3、4、5、6、7、又は8、より好ましくは3、4、5、6、7、又は8、最も好ましくは3である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
メトキシポリエチレングリコールアクリレート(式番号3)の他の一般的に使用される名称は、例えば、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、アクリロイル-PEG、メトキシ-PEGアクリレート、メトキシポリ(エチレングリコール)モノアクリレート、ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテルモノアクリレート、又はmPEGアクリレートである。
【0059】
これらのPEGアクリレートは、市場で購入することが可能であり、例えばArkemaからSartomer(登録商標)の商品名として、EvonikからVisiomer(登録商標)の商品名として、又はSigma Aldrichから販売されている。
【0060】
本発明のコポリマー中のPEGアクリレート単位の量は、合計して100質量%の全モノマー単位の100質量%の総量を基準にして、10質量%~25質量%、好ましくは11質量%~22質量%、より好ましくは12質量%~20質量%の範囲である。
【0061】
好ましい本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーでは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位(a)は、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル、より好ましくはアクリロニトリルから誘導され、共役ジエン単位(b)は、イソプレン又は1,3-ブタジエン、より好ましくは1,3-ブタジエンから誘導され、かつ、PEGアクリレート単位(c)は、一般式(I)のPEGアクリレート(式中、n=3~8である)であり、より好ましくはn=3である一般式(I)のPEGアクリレートから誘導される。
【0062】
加えて、水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、1種又は複数種のさらなる共重合性モノマーを、全モノマー単位の100質量%の総量を基準にして、0.1質量%~10質量%、好ましくは0.1質量%~5質量%の量で含み得る。その場合、残りのモノマー単位の量を適切な方法で減らし、合計が常に100質量%になるようにする。
【0063】
使用し得るさらなる好ましい共重合性モノマーとしては、例えば以下のものが挙げられる:
・芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン、α-メチルスチレン、及びビニルピリジン、
・フッ素化ビニルモノマー、好ましくはフルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o-フルオロメチルスチレン、ビニルペンタフルオロベンゾエート、ジフルオロエチレン、及びテトラフルオロエチレンなど、
・α-オレフィン、好ましくはC~C12オレフィン、例えばエチレン、1-ブテン、4-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、又は1-オクテン、
・非共役ジエン、好ましくはC~C12ジエン、例えば1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、4-シアノシクロヘキセン、4-ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエンなど、
・アルキン、例えば1-ブチン又は2-ブチン、
・α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、又はケイ皮酸、
・α,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル、好ましくはアクリル酸ブチル、
・α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、
・α,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル、例えば:
○アルキル、特にC~C18-アルキル、好ましくはn-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル又はn-ヘキシル、より好ましくはマレイン酸モノ-n-ブチル、フマル酸モノ-n-ブチル、シトラコン酸モノ-n-ブチル、イタコン酸モノ-n-ブチル、
○アルコキシアルキル、特にC~C18-アルコキシアルキル、好ましくはC~C12-アルコキシアルキル、
○ヒドロキシアルキル、特にC~C18-ヒドロキシアルキル、好ましくはC~C12-ヒドロキシアルキル、
○シクロアルキル、特にC~C18-シクロアルキル、好ましくはC~C12-シクロアルキル、より好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチル、シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチル、イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、及びイタコン酸モノシクロヘプチル、
○アルキルシクロアルキル、特にC~C12-アルキルシクロアルキル、好ましくはC~C10-アルキルシクロアルキル、より好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル及びマレイン酸モノエチルシクロヘキシル、フマル酸モノメチルシクロペンチル及びフマル酸モノエチルシクロヘキシル、シトラコン酸モノメチルシクロペンチル及びシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル及びイタコン酸モノエチルシクロヘキシル、
○アリール、特にC~C14-アリール、モノエステル、好ましくはマレイン酸モノアリール、フマル酸モノアリール、シトラコン酸モノアリール又はイタコン酸モノアリール、より好ましくはマレイン酸モノフェニルもしくはマレイン酸モノベンジル、フマル酸モノフェニルもしくはフマル酸モノベンジル、シトラコン酸モノフェニルもしくはシトラコン酸モノベンジル、イタコン酸モノフェニルもしくはイタコン酸モノベンジル、又はそれらの混合物、
○不飽和ポリアルキルポリカルボン酸エステル、例えばマレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、又はイタコン酸ジエチル、あるいは
○アミノ基を有するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸エステル、例えばアクリル酸ジメチルアミノメチル又はアクリル酸ジエチルアミノエチル、
・共重合性抗酸化剤、例えばN-(4-アニリノフェニル)アクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)メタクリルアミド、N-(4-アニリノフェニル)シンナミド、N-(4-アニリノフェニル)クロトンアミド、N-フェニル-4-(3-ビニルベンジルオキシ)アニリン、N-フェニル-4-(4-ビニルベンジルオキシ)アニリン、又は
・架橋性モノマー、例えばジビニル成分、例えばジビニルベンゼン;ジ(メタ)アクリル系エステル、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、又はポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はトリ(メタ)アクリル系エステル、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;自己架橋性モノマー、例えばN-メチロール(メタ)アクリルアミド又はN,N’-ジメチロール(メタ)アクリルアミド。
【0064】
いくつかのさらなる共重合性モノマーは、本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーの物理的性質に影響を与える。
【0065】
少なくとも1種の遊離カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル又はエチレン性不飽和ジカルボン酸の基を有するモノマー単位が共重合されると、一般的に、耐老化性の低下がもたらされる。ポリマー中に遊離酸基があることの結果として、高温での老化試験後の伸びの低下が見出された。同時に、ガラス転移温度の上昇も観察され、これは、本明細書で達成される優れた低温可撓性の要件に対して悪影響を及ぼす。耐老化性への影響は、共重合されたPEGアクリレート単位の長さも含めた因子に依存し、特にPEG-1単位、すなわち、(アルコキシ)モノエチレングリコール(メタ)アクリレートから誘導されたPEGアクリレート単位が共重合される場合、耐老化性における劣化が顕著となる。
【0066】
1つの実施形態では、本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位、及びnが1である一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位の他に、遊離カルボン酸基を含むモノマー単位を全く含まない。
【0067】
さらにより好ましくは、水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位、及び一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位の他に、遊離カルボン酸基を含むモノマー単位を含まない。
【0068】
最も好ましくは、本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位、及び一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位の他に、さらなるモノマー単位を全く含まない。これは、この実施態様が、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位、及び一般式(I)のPEGアクリレートから誘導されるPEGアクリレート単位のみで構成されることを意味する。
【0069】
本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、典型的には10000~2000000g/mol、好ましくは50000~1000000g/mol、より好ましくは100000~500000g/mol、最も好ましくは150000~300000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。
【0070】
本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、典型的には1.5~6、好ましくは2~5、より好ましくは2.5~4の多分散性指数(PDI=Mw/Mn、ここで、Mwは質量平均分子量である)を有する。
【0071】
本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、典型的には10~150、好ましくは20~120、より好ましくは25~100のムーニー粘度(ML1+4@100℃)を有する。
【0072】
本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含む動力伝動ベルトは、高温耐性に関してのみならず、特に低いオイル膨潤特性及び低温特性において最適な結果を得た。
【0073】
有利には、動力伝動ベルトが部分的に油浴中にあるか、又はオイル及び不純物と直接接触している伝動システムを作るために使用される水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、高いレベルの水素化度を有しており、例えば、いわゆる完全に水素化された水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを使用することができる。これらの水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、最高で0.9%までの残留二重結合の割合を有する。あるいは、より低いレベルの不飽和度を有する水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマー、例えば、4%又は5.5%の不飽和度を有する、いわゆる部分不飽和水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーなどを使用することもできる。
【0074】
水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを調製するためのプロセスを提供する。
【0075】
水素化のために必要とされるニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーの調製は、上述したモノマーを重合させることにより行うことができる。この調製は、文献(例えば、Houben-Weyl,Mehoden der Organischen Chemie[Methods of Organic Chemistry],vol.14/1,30,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,1961)に詳細に記載されており、特に制限されない。一般に、プロセスは、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単位、共役ジエン単位、及びPEGアクリレート単位が必要に応じて共重合されるプロセスである。使用される重合プロセスは、任意の公知の乳化重合プロセス、懸濁重合プロセス、バルク重合プロセス、及び溶液重合プロセスであってよい。乳化重合は、そこで使用される反応媒体が通常水である、それ自体公知のプロセスを意味すると特に理解される(特にRoempp’s Lexikon der Chemie[Roempp’s Chemistry Lexicon],volume 2,10th edition,1997;P.A.Lovell,M.S.El-Aasser,Emulsion Polymerization and Emulsion Polymers,John Wiley&Sons,ISBN:0471 96746 7;H.Gerrens,Fortschr.Hochpolym.Forsch.1,234(1959)を参照されたい)。本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーが得られるようなターモノマーの組み込み比率は、当業者によって直接調節され得る。これらのモノマーは、最初に仕込むことができ、あるいはいくつかの工程に分けて漸増させながら転化させることができる。
【0076】
ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを共重合させた後、それらを少なくとも部分的に水素化させる(水素付加反応)。その少なくとも部分的に水素化されたニトリル-ブタジエンコポリマーでは、共役ジエンから誘導された繰り返し単位のC=C二重結合の少なくとも一部が特異的に水素化されている。本発明の水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマー中の共役ジエン単位(b)の水素化のレベルは、50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である。
【0077】
ニトリル-ブタジエンコポリマーの水素化は、例えば以下から知られている:米国特許第3700637号、独国特許出願公開第2539132号、独国特許出願公開第A-3046008号、独国特許出願公開第A-3046251号、独国特許出願公開第3227650号、独国特許出願公開第3329974号、欧州特許出願公開第111412号、仏国特許第2540503号。水素化ニトリル-ブタジエンコポリマーは、高い破壊強度、低い摩耗性、加圧及び引張応力後の一貫した低変形性、良好な耐オイル性を特色としているが、特に熱的及び酸化的作用に対する安定性に優れている。
【0078】
動力伝動ベルトの本体は、有利には、以下:天然ゴム(NR)、ポリクロロプレン(CR)、アクリロニトリルブタジエン(NBR)、及び水素化アクリロニトリルブタジエン(HNBR)として知られる関連する水素化エラストマー又は不飽和カルボン酸のエステルで継ぎ合わされた水素化アクリロニトリルブタジエンの亜鉛塩、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレン-α-オレフィンエラストマー、EPDM、ポリウレタン、フルオロエラストマー、エチレンアクリルエラストマー(AEM)、ブロモブチル、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)又はクロロスルホン化アルキル、塩素化ポリエチレン、エポキシ化天然ゴム、SBR、NBRカルボキシレート、HNBRカルボキシレート、ACM、及びこれらのコンパウンドの混合物、からなる群から選択される1種以上のさらなるエラストマー材料を含むことができる。
【0079】
本体コンパウンドにおけるさらなるエラストマー材料としても、動力伝動ベルトを形成する多様な要素の様々な処理においても使用することができるHNBRコポリマーのいくつかの例には、34%のニトリル基及び最高で0.9%までの水素化度を有するテルバン(THERBAN)(登録商標)3407、34%のニトリル基及び最高で0.9%までの不飽和度を有するテルバン(登録商標)3406、36%のニトリル基及び最高で0.9%までの不飽和度を有するテルバン(登録商標)3607、34%のニトリル基及び最高で4%までの不飽和度を有するテルバン(登録商標)3446、34%のニトリル基及び最高で5.5%までの不飽和度を有するテルバン(登録商標)3447、36%のニトリル基及び最高で2%までの不飽和度を有するテルバン(登録商標)3627、36%のニトリル基及び最高で2%までの不飽和度を有するテルバン(登録商標)3629、ならびに、39%のニトリル基及び最高で0.9%までの不飽和度を有するテルバン(登録商標)3907などの、アランセオ(ARLANXEO)社によって作られるテルバン(登録商標)のファミリーに属するコポリマーがある。
【0080】
代替的に、日本ゼオンによって作られるゼットポール(ZETPOL)(登録商標)の名称のHNBRを、さらなるエラストマーとして使用することも可能である。具体的には、36%のニトリル基及び最高で0.9%までの不飽和度を有するゼットポール(登録商標)2000、36%のニトリル基及び最高で0.9%までの不飽和度を有するゼットポール(登録商標)2000L、36%のニトリル基及び最高で4%までの不飽和度を有するゼットポール(登録商標)2010、36%のニトリル基及び最高で4%までの不飽和度を有するゼットポール(登録商標)2010L、36%のニトリル基及び最高で4%までの不飽和度を有するゼットポール(登録商標)2010H、36%のニトリル基及び最高で5.5%までの不飽和度を有するゼットポール(登録商標)2020、ならびに、36%のニトリル基及び最高で5.5%までの不飽和度を有するゼットポール(登録商標)2020Lである。
【0081】
さらに有利には、さらなるエラストマーにおけるアクリロニトリル単位は、オイル中での用途のためには33質量%~51質量%、例えば50質量%である一方、乾式の用途のためには、15質量%~25質量%、例えば21質量%である。
【0082】
さらにより有利には、1つ又は複数のコポリマーの混合物によって形成され、ジエン単量体及びニトリル基を含む単量体から始まって、不飽和カルボン酸の酸又は塩がこれらのコポリマーのうちの1つ又は複数に添加されて得られるポリマーが、第1のポリマーと組み合わされて使用される。より有利には、不飽和カルボン酸はメタクリル酸又はアクリル酸であり、前記塩はメタクリル酸又はアクリル酸の亜鉛塩である。さらにより有利には、メタクリル酸の亜鉛塩が使用される。さらにより有利には、メタクリル酸の亜鉛塩が、10phr~60phrの範囲の量で添加される。
【0083】
例えば、ゼオンにより販売されている以下の名称のエラストマーが、有利に使用され得る:ZSC1295、ZSC2095、ZSC2195、ZSC2295、ZSC2295L、ZSC2295R、及びZSC2395。より有利には、ZSC2095が使用される。
【0084】
具体的には、先に記載したHNBR、すなわちゼットポール(登録商標)及び/又はテルバン(登録商標)を、不飽和カルボン酸と酸化亜鉛とを含むZSC、及び/又は、不飽和カルボン酸塩を含むテルバン(登録商標)ARTに、部分的に置き換えることが可能である。
【0085】
ポリオレフィンと、アクリロニトリル単位を含むゴムとの混合されたコンパウンドも好ましく、エチレンとNBRもしくはHNBRとのコポリマー又は前述した変性HNBRを含有するコンパウンドがより好ましい。例えば、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)又はEPM(エチレンプロピレンモノマー)を含むゴムを、好ましくは1%~30%の範囲の量でアクリロニトリル単位を含むポリマーに添加することができる。
【0086】
エラストマー材料に加えて、本体コンパウンドは、従来の添加物、例えば、強化剤、増量剤、顔料、ステアリン酸、促進剤、加硫剤、酸化防止剤、活性剤、開始剤、可塑剤、ワックス、早期加硫阻害剤、劣化防止剤、プロセス油、及び同様のものなどを含むことができる。
【0087】
当業者であれば、具体的要求に応じて様々な添加剤の量を変更することができる。
【0088】
有利には、カーボンブラックを充填剤として用いることができ、有利には0phr~80phrの範囲、より有利には約40phrの量で添加される。有利には、明色強化充填剤、例えばタルク、炭酸カルシウム、シリカ、及びケイ酸塩などを、有利には0phr~80phrの範囲、有利には約40phrの量で添加される。シランを0phr~5phrの範囲の量で有利に使用することも可能である。
【0089】
有利には、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが、0phr~15phrの範囲の量で添加される。
【0090】
有利には、エステル可塑剤、例えば、トリメリテート、エチルエステル、又はエチレングリコールエーテルエステル(例えば、ADK sizer 700又はADK sizer 735)などが、有利には0phr~20phrの範囲の量で添加される。
【0091】
有利には、早期加硫助剤、例えばシアヌル酸トリアリルなど、及び、有機又は無機のメタクリレート、例えば金属塩などが、有利には、0phr~20phrの範囲の量で添加されるか、あるいは有機過酸化物、例えばイソプロピルベンゼン過酸化物などが、例えば有利には0phr~15phrの範囲の量で添加される。
【0092】
有利には、エラストマー材料における混合物はさらに、強化繊維を、2~40phr、より有利には20phrの量で含む。有利には、強化繊維は、0.1~10mmの範囲の長さを有する。
【0093】
繊維を使用することにより、本体を構成する混合物の機械的特性をさらに高めることが可能になる。
【0094】
有利には、強化繊維は芳香族ポリアミド、より有利にはアラミド、例えばTechnola(登録商標)繊維を使用することができ、これはRFLベースの処理によって混合物に接着することができる。例えば、使用される格子はVP-SBRベースを有することができ、すなわちビニルピリジンとスチレンブタジエンとのコポリマーであることができる。
【0095】
特に有効なのは、アラミド繊維、例えば、長さ1mmのTeijnのTechnora(登録商標)繊維などであることが証明された。
好ましくは、動力伝動ベルトは、歯付き動力伝動ベルトである。
【0096】
好ましくは、歯付き動力伝動ベルトのピッチは、5~10mm、より好ましくは8~10mmである。
【0097】
本発明による動力伝動ベルトは、公知の製造方法を用いて製造される。
【0098】
動力伝動ベルトの製造方法は、繊維を充填したコンパウンドをカレンダーに通して、繊維がカレンダー加工の方向に配列されている材料のストリップを形成するようにする工程を含む。次に、カレンダー加工の方向に配向した繊維を有するコンパウンドを、ローラー上に集める。
【0099】
本発明の動力伝動ベルトは、車両の伝動システムに使用するために特に向けられている。より好ましくは、本発明による動力伝動ベルトは、使用時にそれらがオイルと直接接触するか又は部分的にオイルに浸される伝動システムに使用するのにも適している。
【0100】
特に、動力伝動ベルトがクランクケース内の伝統的なギア又はチェーンのシステムの代わりとして使用される場合、動力伝動ベルトがその全動作寿命にわたって、それをオイルに連続的に接触した状態又は油浴に部分的に浸漬した状態に配置する手段に曝すシステムにおいて、優れた結果が達成された。
【0101】
特に、本発明の動力伝動ベルトは、一般にバランスシャフトとして知られている伝動システムに使用されるときに特に効果的であることが証明されている。
【0102】
使用中、各制御システム内の動力伝動ベルトは、オイルと直接接触している。
【0103】
あるいは、本発明による動力伝動ベルトは、乾式タイミングベルトとして使用することもできる。
【0104】
さらに、本発明の伝動ベルトを、カムを駆動するため及びディーゼルエンジンの噴射ポンプを駆動するための、主変速機において使用することも可能である。
【0105】
本発明に従って製造された伝動ベルトの特性試験から、それによって達成され得る利点は明らかである。
【0106】
水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含む本発明による動力伝動ベルトを使用すると、高温耐性を維持しながらの低温特性を著しい改善、及び既知の動力伝動ベルトと比較してオイル中での同等又はより低い膨潤を確実にすることが実験的に確認された。
【0107】
このようにして、本発明による動力伝動ベルトは、車両の全耐用期間にわたって動力伝動ベルトを交換する必要がないことを確実にする。
【0108】
本発明による動力伝動ベルトは、高温でも有効な耐オイル性を達成し、その結果自動車に使用するために動力伝動ベルトに課される耐久性試験に合格し、したがって、動力伝動ベルトがオイルと連続的に接触して使用される場合の問題、特に機械的特性の低下、接着性の低下、噛み合いの悪化及び耐摩耗性の低下の問題のすべてを回避することも可能にする。
【0109】
さらに、本発明の動力伝動ベルトは、高い動作温度が130℃を超える温度として意図される高温動作タイミングシステムにおける乾式動力伝動ベルトとして使用できることも確認された。
【0110】
さらに、本発明による動力伝動ベルトは、非常に低い膨潤度を、特に燃料混合オイル中での使用において有する。
【0111】
本発明を説明するためにいくつかの実施態様を開示してきたが、当業者であれば、繊維の種類およびそれを形成する材料、並びに本体コンパウンドの材料及び動力伝動ベルトの他の構成要素に、本発明の範囲から逸脱することなく変更を加えることができることは明らかである。
【実施例
【0112】
[実施例1及び比較例2]-低温柔軟性試験
4種の歯付きベルトを、様々な試験にかけた。
2つの歯付きベルト(A)及び(B)は、エラストマー材料NHMR テルバン(登録商標)3907を有するコンパウンドを含む完全な本体を含む。
さらなる2つの歯付きベルト(C)及び(D)は、前述した歯付きベルトと同じであるが、本発明のエラストマー材料である水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含む。
より正確には、水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーは、31質量%のアクリロニトリル(ACN)含量を有し、54.9質量%のブタジエン、及び14.1質量%の、n=3であり、R=エチルであり、R=-CHであるPEGを含む、水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーである。
【0113】
この水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーに、通常の添加剤を、当業者に知られている量で、比較動力伝動ベルト及び本発明による動力伝動ベルトの両方に添加する。自動車用の標準的なガラス繊維コードと、自動車用として知られているものであり、欧州特許第0965771号の他の例に以前に記載したものと同様である歯付きベルト用の標準的な布と、を有する歯付き動力伝動ベルトを形成する。欧州特許第1157813号の実施例と同様の組成を有する抵抗層も加える。
【0114】
歯付きベルトは幅15mmであり、歯形(tooth profile)として既知のRPPプラス形、すなわち歯の標準的な形状を有する。ピッチは9.525mm、ベルトの歯数は118である。
低温特性の性能は、100時間間隔の時間経過後のTgの変動として測定した。 より高いTgはより低い性能に対応する。
【0115】
Tgの尺度としての曲げ又は柔軟性試験は、歯付きベルトの低温柔軟性についての指標を与える。この歯付きベルトの低温柔軟性は、エンジンが低温で始動する際の歯付きベルトの破裂を防ぐことが知られている。
【0116】
低温柔軟性は、Tgの変動、すなわちガラス転移温度の変動として測定される。 通常、より高いTgは、低温でのより低い性能に対応する。
【0117】
測定は図2に示すリグを用いて行い、歯付きベルトは常にオイルと直接接触して作動していた。
【0118】
この動的試験の試験条件を、以下のTable 1(表3)に報告する。
【表3】
リグに描かれている荷重は、300Nであった。
【0119】
Tg値は、以下の試験条件で、DSC TA計器Q200により試験した。
【表4】
【0120】
5~10mgの少量の試料を歯付きベルトの裏から採取し、歯付きベルトのその後の性能を犠牲にすることなくDSCで走査した。
【0121】
図4のグラフから分かるように、本発明による水素化ニトリル-ブタジエン-PEGアクリレートコポリマーを含む歯付きベルトのTgは、比較歯付きベルトよりも大幅に低い。
【0122】
得られた数値結果を、下記のTable 2(表5)にも報告する。
【表5】
【0123】
[実施例3及び比較例4]-オイル膨潤試験
4つの歯付きベルト(ベルト1~4)を試験した。2つは、実施例1の本発明の歯付きベルトとしての組成を有し(ベルト1及びベルト2)、2つは、比較例2のベルトの組成を有していた(ベルト3及びベルト4)。
違いは、歯付きベルトの寸法のみである:このテストでは、歯付きベルトは10mm幅、RPPプラス形、9.525のピッチ、43の歯数を有している。
【0124】
膨潤特性は、以下の試験条件で歯付きベルト幅を測定することによって測定した。
【表6】
【0125】
エンジンの速度を10秒間2500rpmに設定し、次いで90秒間で4500rpmにまで上げる。この第2段階の後、エンジンは10秒間4500rpmを維持し、引き続き90秒間で速度が再び2500rpmにまで低下し、次いでサイクルが再び開始する。
【0126】
オイル膨潤を、歯付きベルトの幅の相対的な差異として測定した。図5から分かるように、オイル膨潤は、標準的なHNBR THERBAN 3907を用いる比較の歯付きベルトのオイル膨潤と比較して、少なくとも同等のままであるか又はそれよりも低い。
得られた結果を、以下のTable 3(表7)にも報告する。
【表7】
【0127】
実施例から、本発明のターポリマーを有する本体を含む歯付きベルトは、オイル膨潤特性及び低温柔軟特性の最良のバランスを達成することができると結論付けることができる。
【符号の説明】
【0128】
1・・・動力伝動ベルト
2・・・本体
3・・・糸状耐久性挿入体
4・・・歯部
5・・・作用面
7・・・背面
8・・・被覆布
図1
図2
図3
図4
図5