(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】放射性同位体にキレートされたオクトレオチド誘導体を用いるソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 51/08 20060101AFI20220607BHJP
A61K 33/241 20190101ALI20220607BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20220607BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20220607BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20220607BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220607BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
A61K51/08 100
A61K33/241
A61K38/12
A61K47/64
A61K51/04 100
A61P35/00
C07K7/00
(21)【出願番号】P 2019558997
(86)(22)【出願日】2018-01-12
(86)【国際出願番号】 US2018013640
(87)【国際公開番号】W WO2018132751
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2019-09-12
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519255702
【氏名又は名称】ラジオメディックス インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514297969
【氏名又は名称】オラノ メッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【氏名又は名称】中村 和美
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥワロースカ,イザベラ
(72)【発明者】
【氏名】ワック,ニレシュ
(72)【発明者】
【氏名】デルパッサンド,エブラヒム エス
(72)【発明者】
【氏名】ロハス-キハノ,フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】ジュレック,ポール
(72)【発明者】
【氏名】キーファー,ギャリー イー
(72)【発明者】
【氏名】スタロンズ,タニア エー
(72)【発明者】
【氏名】セイディ,アマル
(72)【発明者】
【氏名】トルグ,ジュリアン
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0196673(US,A1)
【文献】特表2008-513533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0251378(US,A1)
【文献】国際公開第2016/179529(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03111959(EP,A1)
【文献】特表2015-501654(JP,A)
【文献】Clinical Cancer Research,2004年,Vol.10,pp.8674-8682
【文献】Nuclear Medicine & Biology,2000年,Vol.27,pp.93-100
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
A61K 47/00 ~ 47/69
A61K 38/00 ~ 38/58
C07K 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):M-Ch-L
1
-Tmの分子またはその薬学的に許容される塩を含むがん標的化組成物であって、
式(I)中、Mは
212Pbおよび
203Pbからなる群から選択される放射性同位体であり;
Chは式(V)の構造を有するキレート剤であり:
【化1】
(式(V)中、R
5、R
6、およびR
8は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26であり;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26、およびL
1
からなる群から独立に選択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、およびL
1からなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH-(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH
、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-(O-CH
2-CH
2)
1~20-C(=O)-NHからなる群から独立に選択される);かつ
Tmは式(VI)の構造:
【化2】
(式(VI)中、R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)を持ち;かつ
R
7、R
13、R
14のうちの1つのみがL
1である、組成物。
【請求項2】
式(VII)で表される構造:
【化3】
(式中、Mは
212Pbおよび
203Pbからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26であり;R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH-(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH
、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-(O-CH
2-CH
2)
1~20-C(=O)-NHからなる群から独立に選択され;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)
またはその薬学的に許容される塩の構造を持つ、請求項1に記載のがん標的化組成物。
【請求項3】
式(VIII)で表される構造:
【化4】
(式中、Mは
212Pbおよび
203Pbからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26であり;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26であり;
R
13はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NHであり;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)
またはその薬学的に許容される塩の構造を持つ、請求項1に記載のがん標的化組成物。
【請求項4】
式(IX)の構造:
【化5】
(式中、Mは
212Pbおよび
203Pbからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26であり;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選
択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)
またはその薬学的に許容される塩の構造を持つ、請求項1に記載のがん標的化組成物。
【請求項5】
式:
【化6】
で表される構造を有する、請求項2に記載のがん標的化組成物。
【請求項6】
式:
【化7】
で表される構造を有する、請求項3に記載のがん標的化組成物。
【請求項7】
式(X)の構造:
【化8】
(式中、Mは
212Pbおよび
203Pbからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26であり;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選
択され;
R
7は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から独立に選択され;
R
13はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)
またはその薬学的に許容される塩の構造を持つ、請求項1に記載のがん標的化組成物。
【請求項8】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化キットであって、
請求項1~3のいずれか1項に記載のがん標的化組成物と;
医薬的に許容される緩衝剤、抗酸化剤、および捕捉剤のうちの少なくとも1つを含む、キット。
【請求項9】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するための医薬として使用するための、請求項1~3のいずれか1項に記載のがん標的化組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願との相互参照】
【0001】
本願は、2017年1月12日出願の米国仮特許出願第62/445,541号の利益を主張する。同出願の全内容は本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
本開示は一般にがん治療に関する。より詳細には、本開示は放射標識された結合体を用いるがん患者の標的放射線治療に関する。
【0003】
がん細胞の治療のため様々な薬物が開発されてきた。がん細胞を特異的に標的化するために、がん細胞の付近に存在し得る健常細胞に影響を与えることなくがん細胞を治療するための標的化組成物が開発されてきた。がん細胞を標的化するために、標的化組成物はがん細胞の一部に特異的に結合するよう設計された化学物質を含んでいる。そのような組成物は、がん細胞では健常細胞に比べて過剰発現されている可能性がある。これらの組成物はまた、患者の他の細胞を損傷することなくがん細胞に結合してこれを損傷するように設計されている。
【0004】
がん治療に使用される結合体の例は、米国特許出願公開第2016/0143926号、第2015/0196673号、第2014/0228551号、第9408928号、第9217009号、第8858916号、第7202330号、第6225284号、第6683162号、第6358491号、および国際公開第2014/052471号に記載されている。その全内容は本明細書に援用される。腫瘍標的化組成物の例は、米国特許出願第2007/0025910号および米国特許第5804157号に記載されている。その全内容は本明細書に援用される。
【0005】
がん治療に関するさらなる情報は以下の文献に記載されている:MilenicらによるBench to Bedside: Stability Studies of GMP Produced Trastuzumab-TCMC in Support of a Clinical Trial(基礎から臨床へ:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)によって製造された治験を裏付けるトラスツズマブ-TCMCの安定性試験)(Pharmaceuticals, vol. 8, pp. 435-454 (2015));TanらによるBiodistribution of 212Pb Conjugated Trastuzumab in Mice(マウスにおける212Pb結合トラスツズマブの体内分布)(J Radioanal Nucl. Chem., Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry、2012年4月);BoudousqらによるComparison between Internalizing Anti-HER2 mAbs and Non-Internalizing Anti-CEA mAbs in Alpha-Radioimmunotherapy of Small Volume Peritoneal Carcinomatosis Using 212Pb(212Pbを用いる体積の小さな腹膜がんのα線放射免疫療法における内部移行性の抗HER2mAbと非内部移行性の抗CEAmAbの比較(2013年7月);Dr. FisherによるDevelopment and Testing of a 212Pb/212Bi Peptide for Targeting Metastatic Melanoma(転移性黒色腫を標的化するための212Pb/212Biペプチドの開発と試験)(米国エネルギー省、2012年10月);MeredithらによるDose Escalation and Dosimetry of First in Human Alpha Radioimmuno-therapy with 212Pb-TCMC-trastuzumab(ヒトでは初の212Pb-TCMC-トラスツズマブを用いるα線放射免疫療法における用量増加と初の線量測定)(J Nucl Med. 55(10):1636~1642頁(2014年10月));ElgqvistらによるThe Potential and Hurdles of Targeted Alpha Therapy-Clinical Trials and Beyond(標的α線治療の可能性と障害-治験と予後)(Frontiers In Oncology、2014年1月14日);MiaoらによるMelanoma Therapy via Peptide-Targeted A-Radiation(ペプチドで標的化されたα線放射による黒色腫治療)(Clinical Cancer Research, 11(15), www.aacrjournals.org,2005年8月1日);MeredithらによるPharmacokinetics and Imaging of 212Pb-TCMC-Trastuzumab After Intraperitoneal Administration in Ovarian Cancer Patients(卵巣がん患者への腹腔内投与後の212Pb-TCMC-トラスツズマブの薬物動態と画像化)(Cancer Biotherapy and Radiopharmaceuticals、第29巻、第1号、(2014年));YongらによるTowards Translation of 212Pb as a Clinical Therapeutic: Getting The Lead In!(212Pbの臨床治療としての橋渡しに向けて:鉛の導入)(National Institute of Health, Dalton Trans., 40(23)(2011年6月21日));MilenicらによるToxicological Studies of 212Pb Intravenously or Intraperitoneally Injected into Mice for a Phase 1 Trial(第1相試験のためマウスに静脈注射または腹腔内注射された212Pbの毒性学的研究)(Pharmaceuticals、第8巻、416~434頁(2015)に記載されている。これらの文献の全内容は本明細書に援用される。
【0006】
がん治療の進歩にもかかわらず、がん患者の健常細胞を損傷することなくがん細胞を除去する有効かつ安全な標的放射線治療が必要とされている。本開示はこの需要性を満たすことを目的とする。
【発明の概要】
【0007】
少なくとも一側面では、本開示は、ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化組成物に関する。この組成物は放射性同位体とキレート剤と標的化部分を含む。このキレート剤は窒素環構造を含み、窒素環構造は、テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、テトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体からなる群から選択される誘導体を含む。標的化部分は、ソマトスタチン受容体標的化ペプチドを含む。ソマトスタチン受容体標的化ペプチドは、オクトレオチド誘導体を含んでおり、放射性同位元素を配位するキレート剤に結合されており、それによってがん細胞が除去の標的となり治療される。
【0008】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化組成物が本明細書に開示されている。このがん標的化組成物は、放射性同位元素と;テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体からなる群から選択される誘導体を含む窒素環構造を含むキレート剤と;オクトレオチド誘導体を含むソマトスタチン受容体標的化ペプチドを含み、かつ前記放射性同位体を配位する前記キレート剤に結合されており、それによってがん細胞が除去対象となり治療される標的化部分またはその生成物とを含む。
【0009】
前記組成物は以下の化学構造を持つ。
【化1】
ここで、Mは放射性同位体である。
【0010】
前記組成物は以下の化学構造を持つ。
【化2】
ここで、Mは放射性同位体である。
【0011】
前記放射性同位体は、α線放射体、β線放射体、γ線放射体、陽電子放射体、およびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。前記放射性同位体は、
212Bi、
212Pb、
203Pb、およびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。前記キレート剤は、以下の一般式のうちの1つを含む:
【化3】
【0012】
前記放射性同位体は
64Cuおよび
67Cuのうちの少なくとも1つを含む。前記キレート剤は以下の一般式のうちの1つを含む:
【化4】
【0013】
前記放射性同位体は以下からなる群から選択される1種である:225Ac、231Am、243Am、211At、217At、247Bk、212Bi、213Bi、248Cf、250Cf、251Cf、240Cm、243Cm、245Cm、154Dy、252Es、253Es、255Es、252Fm、253Fm、221Fr、148Gd、174Hf、258Md、144Nd、237Np、186Os、190Pt、236Pu、238Pu、213Pa、231Pa、223Ra、224Ra、219Rn、146Sm、147Sm、149Tb、227Th、229Th、230U、236U、およびその組み合わせ。前記キレート剤は、1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカンまたは1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ(カルバモイルメチル)-10-酢酸を含む。前記キレート剤は、(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10-テトラ-(2-カルバモイルメチル)-シクロドデカン)、S-2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10-テトラ(2-カルバモイルメチル)シクロドデカン、または2-(4,7,10-トリス(2-アミノ-2-オキソエチル)-3-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)酢酸を含む。前記がん標的化組成物はリンカーをさらに含み、前記標的化部分はキレート剤とのリンカーを介して前記放射性同位体にキレートされる。リンカーは、直鎖(C1~C6)アルキル、分岐鎖(C1~C6)アルキル、ポリエチレングリコール、およびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。一態様では、前記オクトレオチド誘導体は、オクトレオチン酸の結合体(H-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr-OH、C49H64N10O11S2)、(Tyr3)-オクトレオチン酸の結合体、オクトレオチド(H2N-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr-オール、C49H66N10O10S2)、およびそれらの組み合わせのうちの1つを含む。前記がん標的化組成物は、メチルカルボキシル、アセトアミド、アルカン類、アルケン類、酢酸、およびカルボキシルアミンからなる群から選択される末端基をさらに含む。
【0014】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化キットが本明細書に開示されている。このがん標的化キットは、がん標的化組成物と緩衝剤を含む。前記組成物は、放射性同位元素と;テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体からなる群から選択される誘導体を含む窒素環構造を含むキレート剤と;オクトレオチド誘導体を含むソマトスタチン受容体標的化ペプチドを含み、かつ前記放射性同位体を配位する前記キレート剤によって前記放射性同位体にキレートされており、それによってがん細胞が除去対象となり治療される、標的化部分またはその生成物を含む。
【0015】
前記がん標的化キットは、25~50μgの前記がん標的化組成物と0.4Mの酢酸アンモニウムを含む。一態様では、前記緩衝剤は酢酸アンモニウムを含む。前記がん標的化キットは、アスコルビン酸、ゲンチジン酸、エタノール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の抗酸化剤をさらに含む。前記がん標的化キットは、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン四酢酸、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の捕捉剤をさらに含む。
【0016】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療する方法が本明細書に開示されている。この方法は、がん標的化組成物を提供することと;前記がん細胞を有する患者に前記がん標的化組成物を投与することを含む。前記がん標的化組成物は、放射性同位元素と;テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体からなる群から選択される誘導体を含む窒素環構造を含むキレート剤と;オクトレオチド誘導体を含むソマトスタチン受容体標的化ペプチドを含み、かつ前記キレート剤によって前記放射性同位体にキレートされており、それによって前記がん細胞が除去対象となり治療される、標的化部分とを含むか、それらの生成物である。
【0017】
前記方法は、前記標的化部分を前記がん細胞に結合することをさらに含む。前記方法は、前記がん細胞による前記がん標的化組成物の取り込みをさらに含む。前記方法は、β粒子の放出によって前記放射性同位体を崩壊させることをさらに含む。この崩壊は、β粒子の放出による212Pbから212Biへの崩壊と、α粒子の放出による212Biから208Tiへの崩壊を含む。前記方法の一態様では、崩壊は前記がん細胞内またはその表面で起こる。前記方法は、α粒子で前記がん細胞を死滅させることをさらに含む。前記方法は、前記患者から前記がん標的化組成物を除去することをさらに含む。
【0018】
前記組成物は、以下の化学構造を持っていてもよい。
【化5】
ここで、Mは前記放射性同位体である。前記組成物は以下の化学構造を持っていてもよい:Mにキレートされた((4R,7S,10S,13R,16S,19R)-13-((1H-インドール-3-イル)メチル)メチル)-10-(4-アミノブチル)-16-(4-ヒドロキシベンジル)-7-((R)-1-ヒドロキシエチル)-6,9,12,15,18-ペンタオキソ-19-((R)-3-フェニル-2-(2-(4,7,10-トリス(2-アミノ-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)アセトアミド)プロパンアミド)-1,2-ジチア-5,8,11,14,17-ペンタアザシクロイコサン-4-カルボニル)-L-スレオニン;Mにキレートされた2,2’,2”-(10-(2-(((R)-1-(((4R,7S,10S,13R,16S,19R)-13-((1H-インドール-3-イル)メチル)-10-(4-アミノブチル)-4-(((2R,3R)-1,3-ジヒドロキシブタン-2-イル)カルバモイル)-16-(4-ヒドロキシベンジル)-7-((R)-1-ヒドロキシエチル)-6,9,12,15,18-ペンタオキソ-1,2-ジチア-5,8,11,14,17-ペンタアザシクロイコサン-19-イル)アミノ)-1-オキソ-3-フェニルプロパン-2-イル)アミノ)-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリアセトアミド;またはMにキレートされた((4R,7S,10S,13R,16S,19R)-13-((1H-インドール-3-イル)メチル)-10-(4-アミノブチル)-16-(4-ヒドロキシベンジル)-7-((R)-1-ヒドロキシエチル)-6,9,12,15,18-ペンタオキソ-19-((R)-3-フェニル-2-(3-(4-(((S)-1,4,7,10-テトラキス(2-アミノ-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-2-イル)メチル)フェニル)チオウレイド)プロパンアミド)-1,2-ジチア-5,8,11,14,17-ペンタアザシクロイコサン-4-カルボニル)-L-スレオニン(ここでMはそれぞれ放射性同位体である)。
【0019】
本発明に関して、本明細書で使用する「放射性同位体」という用語はそのイオンを含む。したがって、当業者はたとえば鉛、Pb、212Pbまたは203Pbという用語はその放射性同位元素のイオン形態も包含するという意味であることが分かっている。
【0020】
前記放射性同位体は、α線放射体、β線放射体、γ線放射体、および/または陽電子放射体を含んでいてもよい。前記放射性同位体は、212Bi、212Pb、203Pb、64Cu、67Cu、225Ac、231Am、243Am、211At、217At、247Bk、212Bi、213Bi、248Cf、250Cf、251Cf、240Cm、243Cm、245Cm、154Dy、252Es、253Es、255Es、252Fm、253Fm、221Fr、148Gd、174Hf、258Md、144Nd、237Np、186Os、190Pt、236Pu、238Pu、213Pa、231Pa、223Ra、224Ra、219Rn、146Sm、147Sm、149Tb、227Th、229Th、230U、および/または236Uを含んでいてもよい。
【0021】
前記キレート剤は以下の一般式のうちの1つを含んでもよい:
【化6】
【0022】
前記キレート剤は、2-(4,7,10-トリス(2-アミノ-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)酢酸;2,2’,2’’,2’’’-(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラアセトアミド;2-(4,7,10-トリス(2-アミノ-2-オキソエチル)-3-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)酢酸;6-(2-(4,7,10-トリス(2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)アセトアミド)ヘキサン酸;2,2’,2’’,2’’’-((2,2’,2’’,2’’’-(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラキス(アセチル))テトラキス(アザンジイル))四酢酸;2,2’,2’’-(4-(4-イソチオシアナトベンジル)-3,6,9-トリアザ-1(2,6)-ピリジンアシクロデカファン-3,6,9-トリイル)三酢酸;2,2’,2’’-(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)三酢酸;2,2’,2’’-(10-(2-((2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ)-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸;および2-(11-(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン-4-イル)-4-(4-イソチオシアナトフェニル)ブタン酸をそれぞれ含むことができる。前記キレート剤は、DOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)および/またはTCMC(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10-テトラ-(2-カルバモイルメチル)-シクロドデカン)を含むことができる。
【0023】
前記がん標的化組成物はまた、リンカーを含んでいてもよい。前記標的化部分はこのリンカーを介して放射性同位体にキレートされてもよい。リンカーは、直鎖C1-C6アルキル、分岐鎖C1-C6アルキル、および/またはポリエチレングリコ-ルを含んでいてもよい。
【0024】
前記オクトレオチド誘導体は、オクトレオチン酸(H-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr-OH、C49H64N10O11S2)、(Tyr3)-オクトレオチン酸の結合体、および/またはオクトレオチド(H2N-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr-オ-ル、C49H66N10O10S2)を含んでもよい。前記がん標的化組成物はまた、末端基を含んでいてもよい。この末端基は、メチルカルボキシル、アセトアミド、アルカン類、アルケン類、酢酸、および/またはカルボキシルアミンであってもよい。特に他の記述がない限り、「オクトレオチド誘導体」という用語はメチルカルボキシル、アセトアミド、アルカン類、アルケン類、酢酸、および/またはカルボキシルアミンからなる群から選択される1つ以上の末端基を有するオクトレオチドを指す。
【0025】
別の側面では、本開示は、ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化キットに関する。前記キットは、ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化組成物と緩衝剤を含む。前記組成物は、放射性同位体と、キレート剤と、標的化部分とを含む。前記キレート剤は窒素環構造を含む。この窒素環構造は、テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体からなる群から選択される誘導体を含む。これらの誘導体の例としては、2-(4,7,10-トリス(2-アミノ-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)酢酸;2,2’,2’’,2’’’-(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラアセトアミド;2-(4,7,10-トリス(2-アミノ-2-オキソエチル)-3-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)酢酸;6-(2-(4,7,10-トリス(2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)アセトアミド)ヘキサン酸;2,2’,2’’,2’’’-((2,2’,2’’,2’’’-(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラキス(アセチル))テトラキス(アザンジイル))四酢酸;2,2’,2’’-(4-(4-イソチオシアナトベンジル)-3,6,9-トリアザ-1(2,6)-ピリジンアシクロデカファン-3,6,9-トリイル)三酢酸;2,2’,2’’-(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)三酢酸;2,2’,2’’-(10-(2-((2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)オキシ)-2-オキソエチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸;および2-(11-(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン-4-イル)-4-(4-イソチオシアナトフェニル)ブタン酸;DOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン);および/またはTCMC(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10-テトラ-(2-カルバモイルメチル)-シクロドデカン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
前記標的化部分はソマトスタチン受容体標的化ペプチドを含む。ソマトスタチン受容体標的化ペプチドは、オクトレオチド誘導体を含んでおり、放射性同位元素を配位するキレート剤に結合されており、それによってがん細胞が除去の標的となり治療される。前記キットはまた、抗酸化剤および/または捕捉剤を含んでいてもよい。前記がん標的化キットは約25~約50μgの前記がん標的化組成物と約0.4Mの酢酸アンモニウムを含んでいてもよい。
【0027】
別の側面では、本開示は、ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞の標的治療方法に関する。この方法は、がん標的化組成物を提供することと、前記がん細胞を有する患者に前記がん標的化組成物を投与することを含む。前記がん標的化組成物は、放射性同位体と、キレート剤と、標的化部分とを含む。キレート剤は窒素環構造を含む。窒素環構造は、テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体からなる群から選択される誘導体を含む。他に記述がない限り、窒素環構造に関して用いられる「誘導体」という用語は、CH2C(=O)-OHおよびCH2C(=O)-NH2からなる群から選択される1つ以上の末端基を有する窒素環構造を指す。たとえば、テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体は、窒素原子のうち少なくとも1個がCH2C(=O)-OHおよびCH2C(=O)-NH2からなる群から選択される末端基を有する、テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体を指す。
【0028】
前記標的化部分は、ソマトスタチン受容体標的化ペプチドを含む。ソマトスタチン受容体標的化ペプチドはオクトレオチド誘導体を含み、かつ前記放射性同位体を配位する前記キレート剤に結合されており、それによって前記がん細胞が除去対象となり治療される。
【0029】
この概要は図面に示されている特徴を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
添付の図面に示されている態様を参照すれば本開示のより詳細な説明が得られる。ただし、添付の図面は実施例を示しており、したがって本開示の範囲を制限するものとみなされるべきではない。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、明確・簡潔にするために特定の特徴や図面の特定の図を大きさや概略図において誇張する場合がある。
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、ソマトスタチン受容体標的化キレート剤結合体を含むがん標的化組成物の様々な構成を示す概略図である。
【
図2】
図2A1~2A4および
図2B1~2B4は、がん標的化組成物のキレート剤の化学構造の例である。
【
図5】
図5A~
図5Bは、それぞれDOTATOCおよびDOTATATEを含むがん標的化組成物の化学構造の例である。
【
図6】
図6A~
図6Cは、それぞれ、メチルカルボキシル末端基(CH
2-C(=O)-OH)、アセトアミド末端基(CH
2-C(=O)-NH
2)、およびアセトアミド末端基とリンカーを含むがん標的化組成物の化学構造の例である。
【
図7】
図7A~
図7Cは
203Pb-DOTAMTATE結合体の放射線化学的安定性を示すクロマトグラフである。
【
図8】
図8A~
図8Bは
203Pb-TCMCTATEの放射線化学的安定性を示すクロマトグラフである。
【
図9】
図9はAR42Jがん細胞株の
203Pb-DOTAMTATEおよび
203Pb-TCMCTATEの細胞取り込み(%ID/g)を示すグラフである。
【
図10】
図10はAR42Jがん細胞株の生体内での
203Pb-DOTAMTATEおよび
203Pb-DOT
ATATEの細胞取り込みと競合の結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、様々な薬剤投与量で試験した
203Pb-DOTAMTATEおよび
203Pb-TCMCTATEの細胞取り込みと放射標識薬剤の蓄積の増加の比較を示すグラフである。
【
図12】
図12は、腫瘍のないマウスで注射後に確認した
203Pb-DOTAMTATEおよび
203Pb-TCMCTATEの体内分布の結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、腫瘍のないマウスで注射後に確認した
203Pb酢酸塩の体内分布の結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、AR42J腫瘍マウスの
212Pb-DOTAMTATEの経時的な体内分布の結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、AR42J腫瘍マウスCB17-SCID株の
212Pb-DOTAMTATEの経時的な体内分布の結果の比較を示すグラフである。
【
図16】
図16は、胸腺欠損ヌードマウスの
203Pb-DOTAMTATEの経時的な体内分布の結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、雌雄のAR42Jマウスの
212Pb-DOTAMTATEの4時間後、24時間後の体内分布の結果を示すグラフである。
図17Bは、オクトレオチドの経時的な腎臓内保持の雌雄の比較を示す。
図17Aおよび
図17Bは、オクトレオチドの経時的な腎臓内保持の雌雄の比較に関するグラフを示す。(B)はラット、(C)はマウスの注射後4、24、96、168時間後の[
111In-DTPA]オクトレオチドの平均腎取り込み(%IA/g)を雌雄での比較を示す。ラット(各群n=2)には6MBq/0.5μgの放射標識ペプチド、マウス(各群n=4)には10MBq/0.1μgの放射標識ペプチドを与えた。雌雄のマウスの腎取り込みの違いは全時点で有意であった(P<.001)(Melisら、2007)。
【
図18】
図18は、AR42J異種移植腫瘍マウスで行った用量設定実験における
212Pb-DOTAMTATEの効能研究の経時的な結果を示すグラフである。
【
図19】
図19A~
図19Bは、各異種移植マウスの腫瘍成長量に対する対照(非放射標識DOTAMTATEまたはリン酸緩衝液-リン酸緩衝生理食塩水)の効果を示すグラフである。
【
図20】
図20A~
図20Eは、各異種移植マウスの腫瘍成長量に対する
212Pb-DOTAMTATE用量の効果を示すグラフである。
【
図21】
図21は、がん患者に投与するためのがん標的化組成物のキットと調製方法を示す模式図である。
【
図22】
図22はがん細胞の標的放射線治療方法を示す流れ図である。
【
図23】
図23は、
212Pb-DOTAMTATEのAR42J細胞への結合のグラフである。薬品の量を増加させたときのカウント毎分(cpm)の増加で測定した
212Pb-DOTAMTATEのAR42J細胞への結合を示す。各群4個のウェル(250,000細胞/ウェル)の平均である。
【
図24】
図24は、
212Pb-DOTAMTATEで治療したAR42J細胞の細胞毒性のグラフである。AR42J腫瘍サイズは胸腺欠損ヌードマウス株で一定のレベルの変動を示している。3つの群は各群の平均腫瘍サイズが同じになるように構成された。各群の異常値にアスタリスク(*)を付けて示す。
【
図25】
図25は注射の日のAR42J腫瘍体積のグラフである。AR42J腫瘍サイズは胸腺欠損ヌードマウス株で一定のレベルの変動を示す。3つの群は平均腫瘍サイズが同じになるように構成された。各群の異常値にアスタリスク(*)を付けて示す。
【
図26】
図26は、腫瘍取り込みと腫瘍体積の相関性のグラフである。各時点(1時間後、4時間後、24時間後)の各群の5匹の動物それぞれの%ID/gを示す。
【
図27】
図27は、胸腺欠損ヌードマウスの腫瘍取り込みに対する比放射能の影響を示すグラフである。
212Pb-DOTAMTATEの3種の異なる比放射能での各器官の%ID/gを示す(各器官について左から順に、10μCi/4.1ng、n=3、10μCi/22ng、n=4、10μCi/110ng、n=3)。
【
図28】
図28A~
図28Cは2種類の周期間隔で
212Pb-DOTAMTATEで治療したマウスの個々の効能を示すグラフである。
図28Aは生理食塩水のみ、
図28Bは3回×10μCi(2週間間隔)、
図28Cは3回×10μCi(3週間間隔)の場合を示す。
【
図29】
図29は212Pb-DOTAMTATEで治療したマウスのカプラン・マイヤー生存曲線のグラフである。
【
図30】
図30は212Pb-DOTAMTATEの血中クリアランスのグラフである。注射の15分後、1時間後、4時間後のCD-1マウスの
212Pb-DOTAMTATEの血中%IDを示す。
【
図31】
図31はCD-1マウスの212Pb-DOTAMTATEの体内分布のグラフである。注射の15分後(n=5)、1時間後(n=8)、4時間後(n=7)、24時間後(n=8)、48時間後(n=5)の多数の器官で、3回の試験の平均の%ID/gを示す。
【
図32】
図32は、CD-1マウスの
212Pb-DOTAMTATEと
203Pb-DOTAMTATEの体内分布のグラフである。薬物注射の4時間後および24時間後のCD-1マウスにおける
212Pb-DOTAMTATEと
203Pb-DOTAMTATEの体内分布を示す。値は%ID/gで示されている。
【
図33】
図33はマウスの
212Pb-DOTAMTATEの累積排泄のグラフである。経時的な尿中・便中の
212Pb-DOTAMTATEの累積排泄を示す。薬物注射の1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、24時間後の尿中・便中の薬物の%IDを示す。
【
図34】
図34Aおよび
図34Bは腎保護剤を伴う場合の212Pb-DOTAMTATEの体内分布のグラフである。CD-1マウスに212Pb-DOTAMTATEと共に腎保護剤を注射する。腎保護剤なし、あるいは2.5%lys-arg混合物、AminomedixまたはClinisolを伴う場合の注射の1時間後(
図34A)、4時間後(
図34B)の様々な器官での212Pb-DOTAMTATEの%ID/gを示す。
【
図35】
図35は、カプラン・マイヤー生存曲線(212Pb-DOTAMTATEで治療したマウスの急性毒性)のグラフである。212Pb-DOTAMTATEで治療したマウスのカプラン・マイヤー生存曲線を示す。動物に、10μCi、20μCi、40μCi、または60μCiの212Pb-DOTAMTATEを単回投与した。4週間の試験期間の動物の生存期間を注射後の日数で示す。
【
図36】
図36は212Pb-DOTAMTATEで治療(単回投与による急性毒性試験)したマウスの体重のグラフである。10μCi、20μCi、40μCi、または60μCiの212Pb-DOTAMTATEの単回投与で治療したマウスの体重をグラムで示す。1ヶ月の試験中、マウスの体重を週に3回測定した。
【
図37】
図37は腫瘍のないCD-1マウスに関する分割投与対単回投与の212Pb-DOTAMTATEの毒性試験のグラフである。PBSのみ(n=10)、1回×40μCi(n=10)、2回×20μCi(n=10)、3回×15μCi(n=10)の治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を示す。薬物の周期1、2、3を灰色の点で示す。
【
図38】
図38は単回投与対分割投与の212Pb-DOTAMTATEの白血球数のグラフである。PBSのみ、1回×40μCi、2回×20μCi、3回×15μCiの212Pb-DOTAMTATEで治療した動物の白血球数を示す。薬物の周期1、2、3を灰色の点で示す。
【
図39】
図39は単回投与対分割投与の212Pb-DOTAMTATEの赤血球数のグラフである。PBSのみ、1回×40μCi、2回×20μCi、3回×15μCiの212Pb-DOTAMTATEで治療した動物の赤血球数を示す。薬物の周期1、2、3を灰色の点で示す。
【
図40】
図40は雌のCD-1マウスの212Pb-DOTATOCの体内分布を示すグラフである。CD-1マウスの212Pb-DOTATOCの体内分布を示す。10μCiの薬物を投与し、各時点(注射の30分後と4時間後)の3匹のマウスから器官を採取した。
【
図41】
図41は212Pb-DOTATOCの放射測定のグラフをDOTATOCシステム適合性クロマトグラムに重ねたものである。HPLCクロマトグラムはDOTATOC単独の保持時間が5.357分であることを示し、プロットされた212Pb-DOTATOCの画分を重ねたものはピーク活性(CPM)が6.5分であることを示している。
【
図42】
図42A~
図42Fは212Pb-DOTAMTATEとADRUCIL(登録商標)で2週間および3週間の間隔で治療したマウスの個々の有効性のグラフを含む。
【
図43】
図43は、212Pb-DOTAMTATEで治療したマウスのカプラン・マイヤー生存曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の説明は、本発明の技術を具現化する装置、方法、技術、および/または操作手順の例を含む。ただし当然のことだが、記載された態様はこれらの具体的な詳細以外の状態で実施されてもよい。
【0032】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化組成物が本明細書に開示されている。このがん標的化組成物は、式(I):M-Ch-L
1-Tmの分子またはその薬学的に許容される塩を含む。式(I)中、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;Chは式(II)、式(III)、式(IV)、および式(V)からなる群から選択される構造を有するキレート剤であり:
【化7】
(式(II)~(V)中、R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26、およびL
1からなる群から独立に選択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、およびL
1からなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH-(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、C(-CO
2H)-(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-(O-CH
2-CH
2)
1~20-C(=O)-NHからなる群から独立に選択される);かつ
Tmは式(VI)の構造:
【化8】
(式(VI)中、R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)を持ち;かつ
R
7、R
13、R
14のうちの1つのみがL
1である。他に記載のない限り、括弧内のL
1を用いる場合、そのL
1は、形式的にたとえばTmの一部であるのではなく、関連する結合点を示すTmの一部として示されている。
【0033】
前記がん標的化組成物は、R
5、R
6、R
8のうちの1つ、2つ、または3つが(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26であってもよい。Mは、
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択されてもよい。Mは、
212Pb、
203Pb、
64Cu、および
67Cuからなる群から独立に選択されてもよい。Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cuおよび
212Biからなる群から選択されてもよく;かつChは式(V)の構造を持っていてもよく;かつR
27はCH
2-OHである。また、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Biおよび
213Biからなる群から選択されてもよく;Chは式(V)の構造を持っていてもよく;かつR
27はC(=O)-OHである。前記式(I)の分子は、少なくとも1種の化合物をキレート剤と反応させることによって生成され、前記キレート剤は、
【化9】
からなる群から選択される。
【0034】
前記がん標的化組成物は、式(VII)で表される構造またはその薬学的に許容される塩の構造を持っていてもよい:
【化10】
(式(VII)中、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH-(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、C(-CO
2H)-(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-(O-CH
2-CH
2)
1~20-C(=O)-NHからなる群から独立に選択され;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)。
【0035】
前記がん標的化組成物は、式(VIII)で表される構造またはその薬学的に許容される塩の構造を持っていてもよい:
【化11】
(式中、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24は、H、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキルおよび(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から独立に選択され;
R
13はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から独立に選択され;
R
25およびR
26は、H、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NHであり;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)。
【0036】
前記がん標的化組成物は、式(IX)で表される構造またはその薬学的に許容される塩の構造を持っていてもよい:
【化12】
(式中、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)。
【0037】
前記がん標的化組成物は、式(X)の構造またはその薬学的に許容される塩の構造を持っていてもよい:
【化13】
(式中、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;
R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキルおよび(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から独立に選択され;
R
13はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;かつ
R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)。
【0038】
前記組成物は、式(I):M-Ch-L
1-Tmの分子またはその薬学的に許容される塩を含んでいてもよい:
式(I)中、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;
Chは式(V)の構造を有するキレート剤であり:
【化14】
(式(V)中、R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26、およびL
1からなる群から独立に選択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、およびL
1からなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH-(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、C(-CO
2H)-(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-(O-CH
2-CH
2)
1~20-C(=O)-NHからなる群から独立に選択される);
Tmは式(VI)の構造:
【化15】
(式(VI)中、R
27はCH
2-OHである)を持ち;かつ
R
7、R
13、またはR
14のうちの1つのみがL
1である。
【0039】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化キットが本明細書に開示されている。このがん標的化キットは、本明細書に開示されているがん標的化組成物と、医薬的に許容される緩衝剤、抗酸化剤、および捕捉剤のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。前記がん標的化キットは、25~50μgの前記がん標的化組成物と0.4Mの酢酸アンモニウム緩衝剤を含んでいてもよい。前記がん標的化キットは、酢酸アンモニウム緩衝剤を含んでいてもよい。一態様では、前記緩衝剤は酢酸アンモニウム緩衝剤を含んでいる。前記抗酸化剤はアスコルビン酸、ゲンチジン酸、エタノール、またはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。前記捕捉剤は、ジエチレントリアミノ五酢酸;エチレンジアミン四酢酸;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸;およびそれらの組み合わせからなる群から選択される1種であってもよい。
【0040】
医薬製剤が本明細書に開示されている。この医薬製剤は、本明細書に開示されているがん標的化組成物と医薬的に許容される緩衝剤を含んでいてもよい。ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療する医薬として使用するためのがん標的化組成物が本明細書に開示されている。
【0041】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化組成物を必要な患者に投与する方法が本明細書に開示されている。この方法は、治療に有効な用量のがん標的化組成物を投与することを含んでいてもよく、前記がん標的化組成物は、式(I)の分子またはその薬学的に許容される塩を含み、
式(I)中、Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;
Chは式(II)、式(III)、式(IV)、および式(V)からなる群から選択される構造を有するキレート剤であり:
【化16】
(式(II)~(V)中、R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26、およびL
1からなる群から独立に選択され;
R
13およびR
14は、H、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、およびL
1からなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26はH、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH-(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、C(-CO
2H)-(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-(O-CH
2-CH
2)
1~20-C(=O)-NHからなる群から独立に選択される);かつ
Tmは式(VI)の構造:
【化17】
(式(VI)中、R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)を持ち;かつ
R
7、R
13、R
14のうちの1つのみがL
1である。
【0042】
前記がんはソマトスタチン受容体を過剰発現している細胞を含んでいてもよい。前記がんは、心臓のがん、肺がん、消化管がん、尿生殖器がん、肝臓がん、骨がん、神経系がん、婦人科がん、血液がん、またはその組み合わせを含んでもよい。前記患者はヒト、イヌ、ネコ、ウマ、またはその他の哺乳動物であってもよい。前記がん標的化組成物は、少なくとも1種の制がん化合物と併用投与されてもよい。前記少なくとも1種の制がん化合物としては、アルデスロイキン;アレムツズマブ;アリトレチノイン;アロプリノール;アルトレタミン;アミフォスチン;アナストロゾール;三酸化二ヒ素;アスパラギナーゼ;BCG生;ベキサロテンカプセル;ベキサロテンゲル;ブレオマイシン;ブスルファン静脈剤;ブスルファン経口剤;カルステロン;カペシタビン;カルボプラチン;カルムスチン;カルムスチンとポリフェプロサン20留置剤;セレコキシブ;クロラムブシル;シスプラチン;クラドリビン;シクロフォスファミド;シタラビン;シタラビンリポソーム剤;ダカルバジン;ダクチノマイシン;アクチノマイシンD;ダルベポエチンアルファ;ダウノルビシンリポソーム剤;ダウノルビシン;ダウノマイシン;デニロイキン・ディフティトックス;デクスラゾキサン;ドセタキセル;ドキソルビシン;ドキソルビシンリポソーム剤;プロピオン酸ドロモスタノロン;エリオットB溶液剤;エピルビシン;エポエチンアルファ;エストラムスチン;エトポシドリン酸塩;エトポシド(VP-16);エキセメスタン;フィルグラスチム;フロクスウリジン(動脈剤);フルダラビン;フルオロウラシル(5-FU);フルベストラント;ゲムシタビン;ゲムツズマブ・オゾガマイシン;グリベック(イマチニブ);酢酸ゴセレリン;ヒドロキシ尿素;イブリツモマブ・チウキセタン;イダルビシン;イホスファミド;イマチニブメシル酸塩;インターフェロンアルファ-2a;インターフェロンアルファ-2b;イリノテカン;レトロゾール;ロイコボリン;レバミソール;ロムスチン(CCNU);メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード);酢酸メゲストロール;メルファラン(L-プロトスペーサー隣接モチーフ);メルカプトプリン(6-MP);メスナ;メトトレキサート;メトクサレン;マイトマイシンC;ミトタン;ミトキサントロン;フェンプロピオン酸ナンドロロン;ノフェツモマブ;LOddC;オプレルベキン;オキサリプラチン;パクリタキセル;パミドロネート;ペガデマーゼ;ペガスパルガーゼ;ペグフィルグラスチム;ペントスタチン;ピポブロマン;プリカマイシン;ミトラマイシン;ポルフィマーナトリウム;プロカルバジン;キナクリン;ラスブリカーゼ;リツキシマブ;サルグラモスチム;ストレプトゾシン;スラフェニブ;テルビブジン(LDT);タルク;タモキシフェン;タルセバ(エルロチニブ);テモゾロミド;テニポシド(VM-26);テストラクトン;チオグアニン(6-TG);チオテパ;トポテカン;トレミフェン;トシツモマブ;トラスツズマブ;トレチノイン(ATRA);ウラシルマスタード;バルルビシン;バルトルシタビン(一価LDC);ビンブラスチン;ビノレルビン;ゾレドロナート;またはその混合物が挙げられる。前記制がん化合物は治療に有効な用量で投与されてもよい。
【0043】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化組成物を必要な患者に投与する方法が開示されている。この方法は、治療に有効な用量の式(I):M-Ch-L
1-Tmの分子またはその薬学的に許容される塩と、
医薬的に許容できる担体に入れられた少なくとも1種の制がん化合物を投与することを含んでもよく、前記式(I)の分子において、
Mは
212Pb、
203Pb、
64Cu、
67Cu、
212Bi、
68Ga、
213Bi、
225Ac、
243Am、
211At、
217At、
154Dy、
148Gd、
146Sm、
147Sm、
149Tb、
227Th、
229Th、
59Fe、
60Cu、
61Cu、
62Cu、
67Ga、
86Y、
111In、
153Gd、
153Sm、および
166Hoからなる群から選択される放射性同位体であり;
Chは式(II)、式(III)、式(IV)および式(V)からなる群から選択される構造を有するキレート剤であり:
【化18】
(式(II)~(V)中、R
5、R
6、およびR
8はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OR
25、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26からなる群から各々独立に選択され;
R
9、R
10、R
11、R
12、R
15、R
16、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21、R
22、R
23、およびR
24はH、D、F、Cl、および(C
1~C
6)アルキルからなる群から各々独立に選択され;
R
7はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-N(-R
25)-R
26、およびL
1からなる群から独立に選択され;
R
13およびR
14はH、D、F、Cl、(C
1~C
6)アルキル、およびL
1からなる群から各々独立に選択され;
R
25およびR
26は、H、D、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHからなる群から各々独立に選択され;
L
1は(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH-(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、C(-CO
2H)-(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-NH、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-(O-CH
2-CH
2)
1~20-C(=O)-NHからなる群から独立に選択される);かつ
Tmは式(VI)の構造:
【化19】
(式(VI)中、R
27はCH
2-OHおよびC(=O)-OHからなる群から独立に選択される)を持ち;かつ
R
7、R
13、またはR
14のうちの1つのみがL
1である。
【0044】
前記少なくとも1種の制がん化合物は、アルデスロイキン;アレムツズマブ;アリトレチノイン;アロプリノール;アルトレタミン;アミフォスチン;アナストロゾール;三酸化二ヒ素;アスパラギナーゼ;BCG生;ベキサロテンカプセル;ベキサロテンゲル;ブレオマイシン;ブスルファン静脈剤;ブスルファン経口剤;カルステロン;カペシタビン;カルボプラチン;カルムスチン;カルムスチンとポリフェプロサン20留置剤;セレコキシブ;クロラムブシル;シスプラチン;クラドリビン;シクロフォスファミド;シタラビン;シタラビンリポソーム剤;ダカルバジン;ダクチノマイシン;アクチノマイシンD;ダルベポエチンアルファ;ダウノルビシンリポソーム剤;ダウノルビシン;ダウノマイシン;デニロイキン・ディフティトックス;デクスラゾキサン;ドセタキセル;ドキソルビシン;ドキソルビシンリポソーム剤;プロピオン酸ドロモスタノロン;エリオットB溶液剤;エピルビシン;エポエチンアルファ;エストラムスチン;エトポシドリン酸塩;エトポシド(VP-16);エキセメスタン;フィルグラスチム;フロクスウリジン(動脈剤);フルダラビン;フルオロウラシル(5-FU);フルベストラント;ゲムシタビン;ゲムツズマブ・オゾガマイシン;グリベック(イマチニブ);酢酸ゴセレリン;ヒドロキシ尿素;イブリツモマブ・チウキセタン;イダルビシン;イホスファミド;イマチニブメシル酸塩;インターフェロンアルファ-2a;インターフェロンアルファ-2b;イリノテカン;レトロゾール;ロイコボリン;レバミソール;ロムスチン(CCNU);メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード);酢酸メゲストロール;メルファラン(L-プロトスペーサー隣接モチーフ);メルカプトプリン(6-MP);メスナ;メトトレキサート;メトクサレン;マイトマイシンC;ミトタン;ミトキサントロン;フェンプロピオン酸ナンドロロン;ノフェツモマブ;LOddC;オプレルベキン;オキサリプラチン;パクリタキセル;パミドロネート;ペガデマーゼ;ペガスパルガーゼ;ペグフィルグラスチム;ペントスタチン;ピポブロマン;プリカマイシン;ミトラマイシン;ポルフィマーナトリウム;プロカルバジン;キナクリン;ラスブリカーゼ;リツキシマブ;サルグラモスチム;ストレプトゾシン;スラフェニブ;テルビブジン(LDT);タルク;タモキシフェン;タルセバ(エルロチニブ);テモゾロミド;テニポシド(VM-26);テストラクトン;チオグアニン(6-TG);チオテパ;トポテカン;トレミフェン;トシツモマブ;トラスツズマブ;トレチノイン(ATRA);ウラシルマスタード;バルルビシン;バルトルシタビン(一価LDC);ビンブラスチン;ビノレルビン;ゾレドロナート;あるいはその組み合わせまたは混合物を含んでもよい。前記方法の一態様では、前記少なくとも1種の制がん化合物は治療に有効な用量で投与されてもよい。
【0045】
式(I)またはその薬学的に許容される塩は、R5、R6、およびR8のうち少なくとも1つが(C1~C6)アルキル-C(=O)-OR25(R25はHまたは(C1~C6)アルキルである)であってもよい。
【0046】
式(I)またはその薬学的に許容される塩は、R5、R6、およびR8のうち少なくとも1つが(C1~C6)アルキル-C(=O)-N(-R25)-R26(R25およびR26はHおよび(C1~C6)アルキルからなる群から各々独立に選択される)であってもよい。Mが213Biである場合、R5、R6、およびR8はC1アルキル-C(=O)-OHではないことが好ましい。Mが213Biである場合、R5、R6、およびR8のうち1つ、2つ、または3つがCH2-C(=O)-NH2であることが好ましい。
【0047】
式(I)またはその薬学的に許容される塩は、R9、R10、R11、R12、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、およびR24のうちの少なくとも1つが、Hおよび(C1~C6)アルキルからなる群から各々独立に選択されてもよい。式(I)またはその薬学的に許容される塩は、R9、R10、R11、R12、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、およびR24のうちの少なくとも1つが、HおよびDからなる群から各々独立に選択されてもよい。
【0048】
式(I)またはその薬学的に許容される塩で、Mは212Pb、203Pb、64Cu、および67Cuからなる群から独立に選択されてもよく;Chは式(V)(式中、R5、R6、およびR8は(C1~C6)アルキル-C(=O)-N(-R25)-R26である)であり;R9、R10、R11、R12、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、およびR24はHおよびDから各々独立に選択され;R7はL1であり;L1は(C1~C6)アルキル-C(=O)-NHであり;R13およびR14はHおよびDからなる群から各々独立に選択され;R25およびR26はHおよびDからなる群から各々独立に選択され;Tmは式(VI)の構造を持ち;かつR27はC(=O)-OHである。
【0049】
式(I)またはその薬学的に許容される塩で、Mは212Pb、203Pb、64Cu、および67Cuからなる群から独立に選択されてもよく;Chは式(V)(式中、R5、R6、およびR8は(C1~C6)アルキル-C(=O)-N(-R25)-R26である)であり;R9、R10、R11、R12、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、およびR24はHおよびDから各々独立に選択され;R7は(C1~C6)アルキル-C(=O)-N(-R25)-R26であり;R13はHおよびDからなる群から独立に選択され;R14はL1であり;L1は(C1~C6)アルキル-(C6H4)-NH-C(=S)-NHであり;かつR27はC(=O)-OHである。
【0050】
「アルキル」という用語は、他に記載のない場合、それ自体または別の置換基の一部として、指定の数の炭素原子(たとえば、(C1~C6)は1~6個の炭素原子を指す)を有する直鎖、分岐鎖(キラルまたはアキラル)、または環状鎖炭化水素を指し、直鎖状、分岐鎖状、または環状の基を包含する。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、およびシクロプロピルメチル(特にエチル、メチル、イソプロピル)が挙げられる。この用語は置換基とリンカー基の両方に関して用いられる。
【0051】
文脈に応じて、式中で用いられる括弧は、枝に関する情報を一列に並べて伝えることができる。たとえば、(C
1~C
6)アルキル-C(=O)-OHを以下のように表すこともできる。
【化20】
あるいは、(C
1~C
6)アルキル-(C
6H
4)-NH-C(=S)-NHを以下のように表すこともできる。
【化21】
他に記載のない限り、(C
6H
4)は2個の置換基を有するベンジル基を指す。この2個の置換基は、メタ置換基、オルト置換、またはパラ置換基であってもよい。
【0052】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化キットが本明細書に開示されている。このソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化キットは、上で定義した式(I)、(VII)、(VIII)、(IX)、および/または(X)のがん標的化組成物またはその医薬的に許容される塩と;医薬的に許容される緩衝剤、抗酸化剤、および捕捉剤のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。前記がん標的化キットは、25~50μgの前記がん標的化組成物と0.4Mの酢酸アンモニウム緩衝剤を含んでいる。前記がん標的化キットで、前記緩衝剤は酢酸アンモニウム緩衝剤を含む。前記がん標的化キットで、前記抗酸化剤はアスコルビン酸、ゲンチジン酸、エタノール、またはそれらの組み合わせを含む。前記がん標的化キットで、前記捕捉剤はジエチレントリアミノ五酢酸;エチレンジアミン四酢酸;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸;およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0053】
医薬製剤が開示されている。この医薬製剤は、上で定義した式(I)、(VII)、(VIII)、(IX)、および/または(X)のがん標的化組成物またはその医薬的に許容される塩と;医薬的に許容される緩衝剤を含む。
【0054】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療する医薬として使用するためのがん標的化組成物が本明細書に開示されている。このソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療する医薬として使用するためのがん標的化組成物は、上で定義した式(I)、(VII)、(VIII)、(IX)、および/または(X)の組成物またはその医薬的に許容される塩を含む。
【0055】
ソマトスタチン受容体を過剰発現しているがん細胞を治療するためのがん標的化組成物を必要な患者に投与する方法が本明細書に開示されている。この方法は、ある用量のがん標的化組成物を投与することを含み、前記がん標的化組成物は、上で定義した式(I)、(VII)、(VIII)、(IX)、および/または(X)の分子またはその医薬的に許容される塩を含む。前記がんはソマトスタチン受容体を過剰発現している細胞を含んでもよい。前記がんは、心臓のがん、肺がん、消化管がん、尿生殖器がん、肝臓がん、骨がん、神経系がん、婦人科がん、血液がん、またはその組み合わせを含んでもよい。前記患者はヒト、イヌ、ネコ、ウマ、またはその他の哺乳動物であってもよい。
【0056】
本発明の化合物は、塩を形成できる基または原子で適切に置換されたときに塩の形態をとってもよい。このような基および原子は有機化学分野の当業者には周知である。「塩」という用語は、本発明の化合物である遊離酸または遊離塩基の付加塩を包含する。「医薬的に許容される塩」という用語は、医薬用途で利用できる範囲内の毒性を有する塩を指す。しかし、医薬的に許容されない塩は、本発明の実施に役立つ(たとえば、本発明の化合物の合成、精製、または製剤工程での有用性など)高結晶度などの特性を有する場合がある。
【0057】
好適な医薬的に許容される酸付加塩は、無機酸または有機酸から調製できる。無機酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。適切な有機酸は、脂肪族、脂環式、芳香族、芳香脂肪族、複素環の有機酸類、カルボキシ基を有する有機酸類、スルホン基を有する有機酸類から選択されてもよい。これらの例としては、たとえば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、4-ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β-ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸、ガラクツロン酸が挙げられる。医薬的に許容されない酸付加塩の例としては、たとえば、過塩素酸塩およびテトラフルオロホウ酸塩が挙げられる。
【0058】
本発明の化合物の好適な医薬的に許容される塩基付加塩としては、たとえば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などの金属の塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩など)が挙げられる。医薬的に許容される塩基付加塩には、たとえば、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)、プロカインなどの塩基性アミンから形成された有機酸塩も含まれる。医薬的に許容されない塩基付加塩の例としては、たとえば、リチウム塩およびシアン酸塩が挙げられる。
【0059】
本開示には、ソマトスタチン受容体(SSTR)を過剰発現している神経内分泌腫瘍(NET)を治療(たとえば、画像化、診断、治療、放射線治療など)する組成物、キット、および方法が記載されている。この治療は、キレート剤「CA」または「Ch」によってソマトスタチン受容体標的化ペプチド(たとえば、「Tm」を含むオクトレオチン酸、オクトレオチド、および/またはその他の誘導体)を含む標的化部分にキレートされた放射線同位体(たとえば、α線放射体、β線放射体、γ線放射体、陽電子放射体、および/またはその他の放射線放射体)を含むがん標的化組成物の使用を含む。前記キレート剤は、テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、および/またはテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体(たとえば、DOTAM、TCMC、DOTAなど)などの窒素環構造を持っていてもよい。式(I)のTmを参照のこと。
【0060】
特に、DOTAMおよびTCMCを用いて、放射性同位体およびその放射性崩壊生成物を安定に配位できるような方法で放射性同位体(たとえば、鉛(Pb)または銅(Cu))を標的化部分(たとえば、オクトレオチン酸、オクトレオチド誘導体)にキレートしてもよい。本明細書の実験は、標的部分とキレート剤(たとえばDOTAM、TCMC)を含む分子が健常細胞への細胞傷害効果を制限しながら放射性同位体をがん細胞へ選択的に送達できることを示している。
【0061】
放射標識された結合体は、放射性同位体を配位するキレート剤の誘導体と、がん細胞にある受容体または輸送体を認識するがん特異的な標的化リガンドである。この方法は、健常な細胞および組織に及ぼす影響を制限しながら放射性同位体をがん細胞へ選択的に送達するために用いられてもよい。本明細書の組成物は、がん細胞内のSSTRを標的とするペプチドで修飾されたキレート剤の結合体を提供することを目的とする。この組成物は、この組成物の放射性複合体の溶液を注射することで投与されてもよい。本明細書に記載の結合体は、がん治療のためにα線、β+線、β-線、および/またはγ線を放射する放射性核種との安定な複合体を生成するための基盤を提供することを目的とする。本明細書に記載の技術は、医薬的に許容できる注射液を患者に投与することで患者の病状を治療することを目的とする。
【0062】
本明細書に記載の方法および組成物は特定のがん治療に関するが、循環器疾患、感染症、糖尿病、がん、および/または他の状態にも応用できる可能性がある。がんに関連する場合、がんは、たとえば、原発性または転移性の、肝臓がん、前立腺がん、膵臓がん、頭頚部がん、乳がん、脳がん、大腸がん、腺様がん、口腔がん、皮膚がん、肺がん、精巣がん、卵巣がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、膀胱がん、胃がん、上皮がんなどのがんに由来する固形腫瘍であってもよい。
【0063】
別の側面では、細胞増殖性障害、特にがんを罹患した個体を治療する方法が提供される。この方法は、前記個体に有効量の少なくとも1種の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を単独または医薬的に許容できる担体と組み合わせて投与することを含む。
【0064】
さらに別の側面では、がんに罹患した個体の腫瘍細胞などのがん細胞のアポトーシスを誘導する方法が提供される。この方法は、前記個体に有効量の少なくとも1種の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を単独または医薬的に許容できる担体と組み合わせて投与することを含む。
【0065】
式(I)の化合物は経口投与、直腸投与、舌下投与、非経口投与などの任意の経路で投与されてもよい。非経口投与の例としては、たとえば、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、膣内投与、膀胱内投与(たとえば、膀胱への投与)、皮内投与、経皮投与、局所投与、皮下投与などが挙げられる。管理された処方で患者の体内に薬物を滴下注入し後からその薬物を全身放出または局所放出させることも本発明の範囲内だと考えられる。たとえば、薬物を血行路への徐放または腫瘍成長の局所部位への放出のため徐放性製剤に局在させてもよい。
【0066】
本開示の実用に有用な1種以上の化合物は、治療中、同じ経路または異なる経路で同時に投与されてもよいし別の時点で投与されてもよい。化合物は、他の薬品(他の抗増殖性化合物など)の前後に投与されてもよいし、それと同時に投与されてもよい。
【0067】
治療は、中断のない一つの期間でも、別々の期間でも、必要な長さの期間で実施されてもよい。治療医は患者の反応に基づいて治療を増減または中断する方法が分かっている。治療は約4週間~約16週間かけて実施されてもよい。必要に応じて治療予定を繰り返してもよい。
(標的がん治療)
1.DOTATATE
【0068】
がん治療は、患者のがん細胞を標的化し細胞死(アポトーシス)を誘発する組成物の使用を含んでもよい。がん細胞の標的治療の形態によっては、がん細胞の特異的な抗原に結合する分子を有する組成物を用いてもよい。たとえば、がん細胞表面に配置できる特異的な細胞抗原を使用し、低分子量タンパク質またはモノクローナル抗体などの標的化部分を用いてがん細胞を認識させ、がん細胞に結合させてもよい。このペプチド類に細胞傷害性薬剤または同位体/金属でタグを付け、これらを標識し、かつ/またはアポトーシスを誘導することができる。このペプチド類の結合によって、画像化および/または治療に使用してもよいがん抗原提示細胞を特異的に認識できる。たとえば、ペプチド類、抗体、抗体断片などの標的化薬剤を化学療法薬および/または他のアポトーシス促進物質などの様々な細胞傷害性薬剤と結合させてもよい。
【0069】
DOTATATEなどのがん標的化組成物は、特異的なソマトスタチン受容体を過剰発現している神経内分泌腫瘍(NET)などのがんの治療に使用されてもよい。本明細書で用いられるDOTATATEは、オクトレオチン酸などの標的化部分と結合されたDOTAキレート剤を指す。本明細書で用いられるDOTAは、式(CH2CH2NCH2CO2H)4を有する有機化合物を指し、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸である。DOTAは、テトラカルボン酸およびその様々な共役塩基を指す場合がある。DOTAは、リガンドが結合できる状態にある末端基を有する窒素原子のテトラアザ環を含む。DOTAは金属イオンと放射性同位体を結合するためのキレート剤として用いられてもよい。本明細書で用いられる標的化部分は、がん細胞などの標的細胞にある抗原に結合する、たとえばペプチド、タンパク質、抗体、ヌクレオシド、ヌクレオチド、アルコール、複素環式化合物、および/または他のリガンドを指す。標的化部分は標的がん細胞に入りアポトーシスを誘導してもよい。
【0070】
DOTATATEは、キレート剤であるDOTAと、配位された金属すなわち放射性同位体を含む。放射性同位体はがん標的化組成物によって配位(たとえば、含まれ、組み合わせられている)されていてもよく、がん細胞に選択的に送達されてもよい。この配位は、遊離放射性同位体および/またはその放射性崩壊生成物の副作用を最小にするために用いられてもよい。たとえば、90Y-DOTATOCまたは177Lu-DOTATATEなどの放射標識されたSSTR-リガンドをNETの治療に用いてもよい。安全性を高める可能性があることから、DOTATATEは多くの臨床試験に用いられてきた。たとえば、Bushnellらの 90Y-Edotreotide for Metastatic Carcinoid Refractory to Octreotide(オクトレオチド抵抗性の転移性カルチノイド)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・;およびKwekkeboom DJ, Bakker WH, Kam BLらのTreatment of Patients With Gastro-Entero-Pancreatic (GEP) Tumors With The Novel Radiolabelled Somatostatin Analogue [177Lu-DOTA0,Tyr3] Octreotate(新規な放射標識付きソマトスタチン類似体[177Lu-DOTA0,Tyr3]オクトレオチン酸による膵消化管(GEP)腫瘍患者の治療),European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging, 2003;・・・・・・・・・・・・・を参照のこと。これらの文献の全内容は本明細書に援用される。実験は、無増悪生存率の中央値(mPFS)の増加や病勢コントロール率(DCR:安定、部分奏功または完全奏功が見られる患者の割合)の増加などの好ましい効果を示している。
【0071】
本明細書にさらに記載されるように、DOTATATEは診断用放射性同位体および放射性同位体の前駆体と、放射性崩壊後の消費された原子および任意の中間の原子のいずれもキレートしてもよい。たとえば、DOTATATEは初めに放射性同位体をキレートし、後にその崩壊生成物のキレート化を保持してもよい。このことによって、遊離の(キレートされていない)放射性同位体が担体(DOTATATE)から分離して血中に入るのを防ぐことができる。キレート剤はさらに、生体内での崩壊後の消費された放射性同位体をキレートしてもよい。このことによって、遊離した放射性かつ/または毒性の崩壊原子がキレート剤から分離して血中に入るのを潜在的に防ぐことができる。
2.DOTAMTATEおよびTCMCTATE
【0072】
同位体を安定に配位するために、DOTAM、TCMC-一酸、およびTCMC(本明細書でさらに定義する)などのその他のキレート剤を用いてもよい。このようなキレート剤は、診断用と治療用の両方の放射性同位体を配位でき、がん細胞の治療に使用されてもよい。DOTAMおよびTCMCはDOTAと似ているが、たとえば特定の放射性同位体および標的化部分と共に用いられた場合に配位安定性と放射線化学的安定性の特性を高める末端基が異なる。標的放射線療法は、放射性同位体を保持する(たとえば、分離を防ぐ、遅らせるなど)ように設計された組成物(オクトレオチン酸ペプチドなど)と組み合わせてDOTAMやTCMCなどのキレート剤を用いてもよい。これらの組成物は、放射性同位体を標的がん細胞に選択的に送達することと放射性同位体がキレート剤から分離するのを防ぐことを目的とする。
【0073】
特に、がん標的化組成物は、治療特性をさらに高めるために放射性同位体およびオクトレオチン酸ペプチド標的化部分と併用されるDOTAM、TCMC、およびTCMC-一酸キレート剤を含んでいてもよい。212Pb、203Pb、64Cu、および/または他の放射性核種α線放射体などの放射性同位体は、放射の線エネルギー付与(LET)が高く、路長が短い(たとえば約1~2細胞径の短距離を照射し、かつ/または酸素化や再生の必要なく腫瘍細胞を不可逆的に損傷する(たとえば死滅させる)かもしれない)。
【0074】
本明細書に示されているように、これらの成分は同位体との安定な錯体を形成し、この錯体は、生体内などの穏やかな酸性条件で鉛の放射性同位体が結合体から分離するのを防ごうとする。本明細書に記載の実施例では、がんの標的画像化および治療のために212Pb、203Pb、または64Cuを放射性同位体としてDOTAM、TCMC、およびTCMC-一酸に結合させて用いている。他の放射性同位体としては、たとえば、鉄、コバルト、亜鉛、および密度が約3.5g/cm3を超えるその他の金属が挙げられる。
【0075】
DOTAM、TCMC、およびTCMC-一酸に基づくがん標的化組成物はさらに、他の放射性同位体との安定な錯体を形成することによってその放射性同位体を選択的にがん細胞に送達し、正常細胞に細胞傷害効果を起こす可能性のある放射性同位体の分離を防いでもよい。それらの特性から、このような組成物は、標的化部分(オクトレオチン酸、オクトレオチド、またはその他のソマトスタチン類似体など)によって同位体がSSTRを発現するがん細胞へ選択的に送達される特異的ながん治療でNET腫瘍の治療に用いられてもよい。オクトレオチン酸に基づく化合物は、たとえばγ線を放射する同位体を使用してSSTR陽性のNET患者の診断に用いられてもよく、かつ/またはβ線を放射する同位体(たとえば177Luおよび90Y)を使用してNET患者の治療に用いられてもよい。たとえば、Kwekkeboom, D.J. らのRadiolabeled Somatostatin analogue 177Lu-DOTA-tyr3 Octreotate in Patients with Endocrine Gastoentoeropancreatic Tumors(膵消化管内分泌腫瘍患者における放射標識付きソマトスタチン類似体177Lu-DOTA-Tyr3オクトレオチン酸), J Clin Oncol 23:2754-2762, (2005);van Essen, M. Krenning EPらのPeptide Receptor Radionuclide Therapy With 177Lu-Octreotate Foregut Carcinoid Tumors of Bronchial, Gastric and Thymic Origin(気管支、胃、胸腺を起源とする前腸のカルチノイド腫瘍の患者に対する177Lu-オクトレオチン酸を用いるペプチド受容体放射性核種治療)、European Jnl. of Nuclear Medicine and Molecular Imaging (2007)を参照のこと。これらの文献の全内容は本明細書に援用される。式(I)の分子またはその医薬的に許容される塩を含む組成物では、R5、R6、およびR8のうちの少なくとも1つは(C1~C6)アルキル-C(=O)-N(-R25)-R26であり、それによって、たとえば特定の放射性同位体および標的化部分と共に用いられた場合に配位安定性および放射線化学的安定性の特性を高めることができる。
【0076】
放射性同位体は、たとえば間接的放射によりα線放射源を提供するために用いられてもよい。放射性同位体(たとえば212Pb、203Pb、64Cuなど)をキレート剤(たとえばDOTAM、TCMCなど)および標的化部分(たとえばオクトレオチン酸)と組み合わせてがん標的化組成物とし、組成物ががん細胞に迅速に取り込まれるようにしてもよい。患者の体内などの穏やかな酸性条件で放射性同位体が結合体から分離するのを避けるため、DOTAMおよびTCMCキレート剤を用いてもよい。
【0077】
標的がん治療は、特定のがん細胞で発現されている(または増加している)細胞表面受容体を認識してこれに結合する標的化部分と結合されたキレート剤に放射性同位体を結合して使用することを含んでいてもよい。このことは放射性同位体-キレート剤を特定のがん細胞に結合させることによって放射性同位体に放射性崩壊が起きたときにその特定のがん細胞の標的放射を起こすことができる。
【0078】
がん細胞の治療(たとえば画像化および/またはアポトーシス)は、放射体(たとえばα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線、および/または陽電子を放射する放射性同位体など)を放射性同位体として使用することを含んでいてもよい。α線を放射する放射性同位体はSSTR標的化部分(オクトレオチン酸またはその他のオクトレオチド誘導体など)を介して標的がん細胞(たとえば、NET)へ送達されてもよい。これらのα線を放射する放射性同位体は特定の目的をもっていてもよい、というのもそれらは他の放射性同位体(177Lu、90Y、および/または他のβ線放射体)に比べてLETが高く、約1~約2個のがん細胞集団を追跡する約70~約100μmの長い経路で高いエネルギーを蓄積できる。この高LETの放射線は活発な細胞増殖または酸素化に依存しないかもしれないし、かつ/またはα粒子によって生じたデオキシリボ核酸(DNA)の損傷は、β線を放射する放射性同位体によって生じるものよりも修復が難しいかもしれない。というのも、α線を放射する放射性同位体の方が高いLETを有するからである。
【0079】
α線を放射する放射性同位体は、強力でありさらにがん細胞の内部領域にほぼ限定されるLETを持っていてもよい。α線を放射する放射性同位体による放射はさらに、がん細胞に対してその生活環を待つ必要のない不可逆的な損傷(酸素化または再生など)を起こす能力を持っていてもよい。さらに、α線を放射する放射性同位体は、β線放射体治療に抵抗性をもつようになったがん細胞の死滅やアポトーシスを起こすことができる。
【0080】
α粒子を放射する放射性同位体は、たとえば、鉛の放射性同位体(212Pb放射性同位体など)の崩壊時に生成されてもよい。212Pbはβ粒子を放射する放射性同位体で、半減期が約10.6時間であり、その放射線放射特性は、α線を放射する放射性同位体の特性を有するα線放射体である崩壊生成物を含む。212Pbは崩壊して212Bi(α線を放射する放射性同位体であり半減期が約60分である)になる。212Biは、α線放射によって崩壊して208Tl(半減期は約3分)になるか、β線放射によって崩壊して212Po(半減期は約0.3μ秒である)になる。208Tlは、β線放射によって崩壊して208Pb(安定である)になる。212Poは、α線放射によって崩壊して208Pbになる。
【0081】
半減期が比較的長い放射性同位体(半減期が約10.6時間である212Pbなど)を用いることによって、放射標識された組成物を放射性医薬品薬局で集中的に生産してその組成物を患者に投与する診療所へ輸送することができる。がん細胞内での212Biによるα線放射による崩壊の発生を最大にすることによって、一度がん細胞に入ると最大のα線放射線損傷とがん細胞のアポトーシスおよび死滅をもたらすことができる。212Biがα線放射した後、最終的な結果は安定な208Pbである。
【0082】
本明細書に記載の実験データが示すとおり、オクトレオチド誘導体であるソマトスタチン受容体標的化部分に結合したDOTAMまたはTCMCを用いてキレートされた特定の放射性同位体の組み合わせは、放射線化学的安定性の向上、がん細胞による結合や取り込みの改善、および/またはがん細胞内での高LET放射(その結果がん細胞のアポトーシスおよび/または標的体内分布につながる)などの治療特性を提供する。たとえば、放射標識されたオクトレオチン酸であるオクトレオチド結合体は、β線またはα線を放射する放射性同位体で放射標識されたキレート剤(たとえばTCMC、DOTAM)で修飾されたSSTR標的化ペプチドからなっていてもよい。
(組成物)
【0083】
図1Aおよび1Bは、がん患者のがん細胞を治療するためのがん標的化組成物100および100’の例の概略図である。
図1Aの例に示されているように、組成物100は放射性同位体102と、キレート剤104と、標的化部分108とを含む。
【0084】
この放射性同位体(すなわち放射性原子またはイオン)102は、α線放射体、β線放射体、γ線放射体、陽電子放射体、および/またはその他の放射線放射体など、患者の体内で放射性崩壊を起こすことができる原子またはイオンであってもよい。放射性同位体102はたとえば、212Pb、203Pb、64Cu、67Cu、212Bi、および/またはその他の放射線放射体などの放射線放射体であってもよい。前記放射性同位体として用いてもよい放射線放射体の非限定的な例としては、68Ga、177Lu、213Bi、および90Yが挙げられる。用いてもよい他の放射性同位体の例としては、225Ac、231Am、243Am、211At、217At、247Bk、248Cf、250Cf、251Cf、240Cm、243Cm、245Cm、154Dy、252Es、253Es、255Es、252Fm、253Fm、221Fr、148Gd、174Hf、258Md、144Nd、237Np、186Os、190Pt、236Pu、238Pu、213Pa、231Pa、223Ra、224Ra、219Rn、146Sm、147Sm、149Tb、227Th、229Th、230U、および/または236Uを挙げることができる。可能性のある他の放射性核種としては、45Ti、59Fe、60Cu、61Cu、62Cu、67Ga、89Sr、86Y、94mTc、99mTc、111In、149Pm、153Gd、153Sm、166Ho、186Re、188Re、211Atを挙げることができる。
【0085】
キレート剤[CA]104は放射性同位体102および標的化部分108に結合できる化学物質(たとえば有機化学物質)である。キレート剤104は環構造110と複数の末端基112を持つ。キレート剤104としては、たとえば、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)、DOTAM(1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)、TCMC(2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10-テトラ-(2-カルバモイルメチル)-シクロドデカン)、および/または他のキレート剤などのテトラアザ環110を挙げることができる。標的化部分108に結合すると、キレート剤104は、DOTAMTATE、DOTATATE、TCMCTATE、および/または他のキレート化合物などの化合物を形成してもよい。
【0086】
キレート剤104として使用できるキレート剤204a~hの化学構造例を
図2A1~2B4に示す。
図2A1~2A4は、
212Pb、
203Pb、および
212Biと共に使用できるキレート剤の例を示す。
図2B1~2B4は、
64Cuおよび
67Cuと共に使用できるキレート剤の例を示す。
【0087】
再び
図1Aを参照すると、環構造110は、炭素原子で結合された複数の窒素原子(N)を含んでいる(たとえば、
図1Aの直線で結ばれた頂点で示されるアルカン類、アルケン類など)。環構造110はたとえば、4個の窒素原子を有するテトラアザ環であってもよい。
図1Aの例が示すように、末端基112のうちの1つは環構造110の窒素原子の各々と結合していてもよい。
図1Aに示されているように、末端基112のうちの少なくとも1つは標的化部分108で置き換えられていてもよい。末端基112の各々は、キレート化に用いられる1種以上の化学物質を含んでいてもよい。たとえば、末端基112は、がん標的化組成物100に結合能を与えるアルカン類、アルケン類、酢酸、カルボキシルアミン、および/または他の化学物質を含んでいてもよい。
【0088】
標的化部分108は、患者の体内のがん細胞に結合するソマトスタチン受容体(SSTR)標的化ペプチド(ソマトスタチン類似体)などの化学物質である。標的化部分108は、たとえば、オクトレオチン酸(H-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr-OH、C49H64N10O11S2)、オクトレオチド(H2N-D-Phe-Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys-Thr-オ-ル、C49H66N10O10S2)、他のオクトレオチン酸/オクトレオチド誘導体、および/または他のがん標的化化学物質などのペプチドであってもよい。
【0089】
標的化部分108は、共有結合114によってキレート剤104に結合されていてもよい。この共有結合は、実線の結合114が概略的に示すようにアミド基に結合されていてもよいし、点線の結合114’が概略的に示すようにテトラアザ環構造110のうち別の部分(炭素など)に結合されていてもよい。
【0090】
必要に応じて、リンカー[L]x116もキレート剤104を標的化部分108に結合するために含まれていてもよい。リンカー116は、たとえば、アミノ酸、アルカン、アルキンなどの有機化合物であってもよい。リンカーは、アミノ酸、ペプチド類、アミノアルコール、ポリエチレングリコール、アルカン、アルケン、アルキン、アジド芳香族化合物、炭水化物、カルボン酸、エステル、リン酸基を含む有機化合物、およびスルホン酸塩の群から選択されてもよい。リンカー116は、キレート剤104と標的化部分108の間にたとえばイオン相互作用を避けるためにスペーサーを設けるよう定義されてもよい。
【0091】
図1Bは、がん標的化組成物100'の別の構造例を示す。がん標的化組成物100'は、さらに定義される様々な末端基を除いて
図1Aの組成物100と似ていてもよい。放射性同位体102'(一般にMと表される)は、
図1Aの放射性同位体102に似たα線、β
+線、β
-線、γ線放射体および/または他の放射性同位体であってもよい。キレート剤104'は、
図1Aのキレート剤104と同様に複数の窒素原子が互いに結合された環構造110'であってもよい。
【0092】
この型では、末端基11
2と標的化部分108はいずれも環構造110’の各窒素原子と結合した酸素原子およびR
2として示されている。
図1Bの説明に示されているように、R
2はOH、NH、N-(C
1~C
6)アルキル(直鎖または分岐鎖)、Nとポリエチレングリコールの組み合わせ、L
1、Nと
図3Aおよび3Bの官能基304a、bの組み合わせなど、可能性のある定義が複数あってもよい。
【0093】
図3Aの官能基304aは、OとR
4の組み合わせを含むようさらに定義される。R
4はH、直鎖(C
1~C
6)アルキル、または分岐鎖(C
1~C
6)アルキルであってもよい。
図3Bの官能基304bは、Cと二重結合したOと、Nと一重結合したR
4を含むようさらに定義される。
【0094】
再び
図1Bを参照すると、標的化部分108'はリンカー116’によって環構造110’と結合されているように示されている。説明に示されているように、リンカー116'はキレート剤に結合されたリンカー([L]x-[CA])を包含するR
2として示されている。キレート剤[CA]は、
図1A、2A1~2B4のキレート剤104、204a~h(または本明細書に記載のその他のキレート剤)に似ていてもよい。リンカー116'は、
図1Aのリンカー116(または本明細書に記載のその他のリンカー)に似ていてもよい。
【0095】
図4Aに示されているように、リンカー116'は、標的化部分116'(CO
2Hとして図示)と環構造110'(H
2Nとして図示)の間に結合された酸素(O)などのリンカー[L]x416aであってもよい。
図4Bに示されているように、リンカー116'は、標的化部分116'(CO
2Hとして図示)と環構造110'(H
2Nとして図示)の間に直接結合などのリンカー416bであってもよい。
【0096】
図1A~4Bには、がん標的化組成物、標的化部分、キレート剤、および/または他の成分の具体的な構成が示されているが、様々な配置や組み合わせが設けられてもよい。たとえば、標的化部分はキレート剤に関して様々な位置にあってもよく、1個以上の様々な末端基が含まれていてもよい。その他の変形が施されてもよい。たとえば、上で本明細書に援用された米国特許/出願第2016/0143926号、第2014/0228551号、および第9408928号を参照のこと。
【0097】
図5Aおよび5Bは、がん標的化組成物(たとえば100、100')の化学構造例500a、500bを示す。化学構造500a、bはそれぞれ、キレート剤[CA]504と標的化部分508a、bと、リンカー([L]x)516とを含んでいる。キレート剤504とリンカー516は、それぞれ
図1Aおよび1Bに関して説明したキレート剤104、104'およびリンカー116、116'([L]x-[CA])に似ていてもよい。
【0098】
これらの型では、標的化部分508a、bはそれぞれ、TOCとTATEを含んでいる。DOTATOC(すなわちエドトレオチド、SMT487、DOTA0-Phe1-Tyr3-オクトレオチドまたはDOTA-Tyr3-オクトレオチド)は、化学式C65H92N14O18S2を有する。DOTATATE(すなわちDOTA-TATE、DOTA-オクトレオチン酸またはDOTA-(Tyr3)-オクトレオチン酸)はキレート剤として作用し化学式C65H90N14O19S2を有する酸DOTAのアミドである。TCMCTATE(本明細書でさらに説明する)は化学式S-2-(4-イソチオシアナトベンジル)-1,4,7,10-テトラアザ-1,4,7,10=テトラ(2-カルバモイルメチル)シクロドデカンを有するキレート剤である。
【0099】
DOTAMTOC、DOTAMTATE、およびTCMCTATEは本明細書でさらに説明する方法で合成されてもよい。
【0100】
図6A~6Cは、それぞれDOTATATE、DOTAMTATE、およびTCMCTATEを含むがん標的化組成物(たとえば100、100')のさらなる化学構造600a~cを示す。これらのがん標的化組成物600a~cはそれぞれPb放射性同位体602、602'と、テトラアザ環610と、キレート剤604、604'、604’’と、末端基612、612'、612’’と、オクトレオチン酸標的化部分608とを含んでいる。
【0101】
図6AのDOTATATEがん標的化組成物600aでは、放射性同位体(M)602は
212Pbであり、末端基612はメチレンカルボン酸である。キレート剤604は4個の窒素原子を有するテトラアザ環610を含んでいる。各窒素原子はエタン基に結合しテトラアザ環610を形成している。3個の末端基612はテトラアザ環610に結合している。末端基612の各々は、メチルカルボキシル基を含み、テトラアザ環の窒素原子の1つと結合している。テトラアザ環610の残りの窒素原子は、結合614によってオクトレオチン酸標的化部分608に結合されている。
【0102】
図6BのDOTAMTATE型では、組成物600bは、キレート剤604'がDOTAMであり、末端基612が末端基612'、放射性同位体(M)602が放射性同位体602'に置き換えられている点を除いて
図6Aのものに似ている。末端基612'はアセトアミド基を含み、放射性同位体602'は
203Pbを含む。
【0103】
図6CのTCMCTATE型では、標的化部分608がイソチオシアナート基リンカー616に結合され、末端基612'が末端基612’’に置き換えられている点を除き、組成物600cは
図6Bのものに類似している。リンカー616は結合614’によってキレート剤604'に結合されている。この場合の末端基612’’はH
2Nである。
【0104】
図6A~6Cはがん標的化組成物の具体例を示しているが、当然ながら、様々な放射性同位体、キレート剤、標的化部分、リンカー、および/または他の成分が含まれていてもよい。成分の例は、米国特許出願第2009/0087377号、2014/228551号、2012/0052008号、および2010/0316566号に記載されている。これらの全内容は本明細書に援用される。成分の組み合わせは、本明細書でさらに説明されるように、所望のがん標的化特性が得られるように選択されてもよい。たとえば、様々なキレート剤を鉛の放射性同位体と組み合わせて用いてもよい。TCMCTATEおよびDOTAMTATEはDOTATATEと似た分子量を持っていてもよいが、分子全体の電荷が
203Pb-DOTATATEの場合の(-1)から
203Pb-TCMCTATEと
203Pb-DOTAMTATEの場合の(+2)に変わってもよい。別の例では、
図6A~6CのDOTATATE、DOTAMTATE、およびTCMCTATE組成物はオクトレオチン酸に結合された状態で図示されているが、標的化部分はがん細胞に結合できる任意のペプチドまたは他の標的化基であってもよい。
【実施例】
【0105】
(ペプチド合成)
本明細書に記載の実施例はペプチド合成を含んでもよい。たとえば、フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)方法を用いる固相ペプチド合成によって環状ペプチドを合成してもよい。固相担体から切断した後、テトラヒドロフラン(THF)および5mMの酢酸アンモニウム緩衝液(NH4OAc)に溶解した過酸化物によってジスルフィド結合が形成できる。最終生成物を液体クロマトグラフ-質量分析法(LC-MSまたはHPLC-MS)などの予備処理によって精製してもよい。使用できる合成の例はSchotteliusらのH.J. Wester Tetrahedron Letters vol. 44, pp. 2393-2396(2003)に記載されている。この文献の全内容は本明細書に援用される。
【0106】
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7(2-カルバモイルメチル)-10(モノ-N-ヒドロキシコハク酸イミドエステル[DOTAM-モノカルボン酸]を以下のように合成してもよい。
1.1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリス(t-ブトキシカルボニル)をアセトニトリルに溶解し、炭酸カリウムを添加する。ベンジルブロモ酢酸を原液で添加し、この溶液を室温で撹拌する。4日後、固形物を濾別する。溶媒を40℃で回転蒸発させて除去する。残留物をジクロロメタンに溶解し、水で洗浄する。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させる。乾燥剤を濾別する。回転蒸発によって濾液から溶媒を除去する。得られた固体を高真空で乾燥させ、生成物を得る。
2.工程1で分離した生成物をトリフルオロ酢酸(TFA)原液に溶解し、この溶液を1日撹拌する。TFAを回転蒸発で除去し、得られた油状物を水に溶解し、クロロホルムで洗浄する。水層を水酸化ナトリウムを用いてpH=11まで塩基性にする。生成物をクロロホルムで抽出する。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶液を濾過する。溶媒を回転蒸発で除去する。残留物を高真空で乾燥させ、油状生成物を得る。
3.工程2で分離した生成物をエタノールに溶解し、ジイソプロピルエチルアミンを添加する。次いでエタノールに溶解した2-ブロモアセトアミドを添加し、溶液を4時間以上撹拌する。溶媒を35℃で回転蒸発させて除去する。残留油状物をクロロホルムに溶解し、形成する固形物をすべて濾別し廃棄する。回転蒸発によって濾液から溶媒を除去し、残留物を高真空で2時間以上乾燥させる。残留物をアセトンに入れる。固形物が沈殿する。この固形物を濾別し、冷アセトンで洗浄する。固形物を高真空で乾燥させ、生成物を得る。
4.工程3で分離した生成物を、活性炭に担持させた10%Pd(パラジウム)の存在下、水素圧力30psi(207kPa)で水中で水素化する。溶液を濾過し、溶媒を回転蒸発で除去する。残留物をエタノールに入れ、激しく撹拌する。生成物が沈殿する。これを濾別し、高真空で乾燥させる。
【0107】
TCMCTATEを以下のように合成してもよい。TATEを固相ペプチド合成(SPPS)により合成し、側鎖の保護基を外さずに樹脂から切断する。次いでTATEをジイソプロピルエチルアミン(2倍モル過剰)と共にアセトニトリルに溶解する。TCMCの溶液(Macrocyclics社の製品B-1005)を添加し、反応混合物を室温で撹拌する。反応の進行を液体クロマトグラフ-質量分析法(LC/MS)で監視する。反応完了後に溶液を真空濃縮する。トリフルオロ酢酸および遊離基捕捉剤の混合物で側鎖の保護基を外し、生成物をジエチルエーテルで沈殿させる。鎖状ペプチドを溶液中で環化し、粗生成物を分取逆相液体クロマトグラフィー(RP/LC)で精製する。
【0108】
DOTAMTATEを以下のように合成してもよい。TATEをSPPSによって合成し、樹脂に結合したままのペプチドにDOTAM-モノカルボン酸(Macrocyclics社の製品B-170)を結合させる。ペプチド結合体をトリフルオロ酢酸(TFA)および遊離基捕捉剤の混合物で樹脂から切断し、生成物をジエチルエーテルで沈殿させる。鎖状ペプチドを溶液中で環化し、粗生成物を分取逆相液体クロマトグラフィー(RP/LC)で精製する。
【0109】
DOTAMTOCを以下のように合成してもよい。TOCをSPPSによって合成し、樹脂に結合したままのペプチドにDOTAM-モノカルボン酸(Macrocyclics社の製品B-170)を結合させる。ペプチド結合体をトリフルオロ酢酸(TFA)および遊離基捕捉剤の混合物で樹脂から切断し、生成物をジエチルエーテルで沈殿させる。鎖状ペプチドを溶液中で環化し、粗生成物を分取逆相液体クロマトグラフィー(RP/LC)で精製する。
【0110】
TCMCTOCを以下のように合成してもよい。TOCを固相ペプチド合成(SPPS)によって合成し、側鎖の保護基を外さずに樹脂から切断する。次いでTOCをジイソプロピルエチルアミン(2倍モル過剰)と共にアセトニトリルに溶解する。TCMCの溶液(Macrocyclics社の製品B-1005)を添加し、反応混合物を室温で撹拌する。反応の進行を液体クロマトグラフ-質量分析法(LC/MS)で監視する。完了したら溶液を真空濃縮する。トリフルオロ酢酸および遊離基捕捉剤の混合物で側鎖の保護基を外し、生成物をジエチルエーテルで沈殿させる。鎖状ペプチドを溶液中で環化し、粗生成物を分取逆相液体クロマトグラフィー(RP/LC)で精製する。
図7A~20Eは、
図6A~6Cのがん標的化組成物600a~cなどの様々な化合物を用いて得られた実験データを示す。これらの実験からわかるように、オクトレオチン酸標的化部分に結合したテトラアザ環でキレートした放射性同位体(たとえば鉛)を用いることでがん標的化組成物の治療効果を高めることができる。これらの実験結果から、
212Pbを用いる標的がん治療のためのDOTAMTATEまたはTCMCTATEオクトレオチン酸結合体の選択基準が得られた。
(実験1-キレート剤への放射性同位体の結合)
【0111】
図7A~8Bは、
図6Bおよび6Cの組成物について
203Pb放射性同位体の安定性を実証する。
図7A~8Bのグラフに示されているように、
203Pb-DOTAMTATEおよび
203Pb-TCMCTATEはいずれも高い放射線化学的収率で合成される。これらの組成物を、時間をかけいくつかの時点で試験したところ、室温のPBS緩衝液中での保持で高い化学的・放射線化学的安定性を示している。
【0112】
特に、
図7A~7Cは放射能検出器付き高速液体クロマトグラフィー(放射線HPLC)のクロマトグラム700a~cを示す。これらのグラフ700a~cはそれぞれ、DOTAMTATEを
203Pbで標識してから0時間後、1時間後、24時間後に得た
203Pb-DOTAMTATE(15μCi)(555kBq)を示す。各グラフ700a~cは、放射能検出器付きHPLC(高速液体クロマトグラフィー)の保持時間(x軸、分)に対する放射線強度(y軸、mV(検出器で測定))である。
【0113】
これらのグラフはさらに、薬剤の放射線化学的収率および放射線化学的安定性を決定する後標識を示している。203Pb-DOTAMTATEは99.9%以上の放射線化学的収率で合成される。700a~cの3つのクロマトグラフすべてのピークは、203Pb-DOTAMTATEの高い放射線化学的安定性を示している。特に、遊離203Pbを示す第二のピークがないことから、これらのクロマトグラフは標識の少なくとも24時間後までは放射線化学的収率が98%以上であることを示す。これらのグラフからわかるように、203Pb-DOTAMTATEは試験期間の間は放射線化学的・化学的安定性を保っている。
【0114】
図8Aおよび8Bは、それぞれ、TCMCTATEを
203Pbで標識してから0時間後、18時間後に得た
203Pb-TCMCTATE(555kBqまたは15μCi)の放射能検出器付きHPLCのクロマトグラム800a、bを示す。これらのグラフからわかるように、
203Pb-TCMCTATEも試験時間の間は安定性を保っている。
203Pb-TCMC-TATEの放射線化学的収率および放射線化学的安定性を決定するため、後標識のデータも得る。
203Pb-TCMCTATEは99.9%以上の放射線化学的収率で合成される。
図8Bに示されるように、
203Pb-TCMCTATEは標識の18時間後までは高い放射線化学的安定性(たとえば約96%以上)を持っている。
【0115】
図7A~8Bの実験は、DOTAMTATEおよびTCMCTATEの
203Pbに対する結合親和性が高いことを示す。これらの図はさらに、
203Pb放射性同位体は一度結合すると少なくとも数時間は結合したままであることを示している。
(実験2-放射性同位体の取り込み)
【0116】
図9~11は放射性同位体で標識したDOTAMTATEとTCMCTATEのSSTR標的化特性を実証する試験結果を示す。
図9は、
64Cuで標識したDOTAMTATEおよびTCMCTATEと比べた場合の
203Pbで標識したDOTAMTATEおよびTCMCTATEに関する取り込み試験を示す。
図9は、様々なキレート剤(x軸)について1ミリグラムあたりの初期線量の割合(%ID/mg)(y軸)を示す棒グラフ900である。特に、細胞取り込み試験は、20%ウシ胎児血清(FBS)を含むATCC(登録商標)処方のF-12K培地中、37℃で1.5時間保温したAR42Jがん細胞株(100,000細胞/ウェル)における、
203Pb標識した場合と
64Cu標識した場合のDOTAMTATEおよびTCMCTATE(10μgの薬剤を37MBq(1mCi)の同位体で標識;888kBq(24μCi)/ウェル)を含む。本試験ではDOTAキレート剤(たとえば、標的化部分も放射性同位体もないDOTA)を陰性対照とする。
【0117】
TCMCTATEおよびDOTAMTATEキレート剤は、203Pbおよび64Cu同位体のいずれについても安定なキレートを示している。グラフ900は、203Pbで標識した場合と64Cuで標識した場合のTCMCTATE結合体およびDOTAMTATE結合体のいずれについても、AR42Jがん細胞株(SSTRを発現する)に特異的なSSTR選択性を示す。AR42J細胞株で、64Cuで標識した結合体は203Pbで標識した結合体と類似の取り込み率と蓄積、および類似のSSTR選択性を示している。生体外での203Pb-DOTAMTATEおよび203Pb-TCMCTATEのAR42Jがん細胞株への蓄積は、それぞれ21.4±2.26%ID/mgおよび33.41±0.49%ID/mgである。両方の結合体の蓄積と類似の傾向が64Cuで標識したこれらの類似体についても観察される(64Cu-DOTAMTATEの蓄積が33.41±0.49%ID/mgであり64Cu-TCMCTATEの蓄積が41.59±1.79%ID/mgであることなど)。このことから、放射標識したDOTAMTATEおよびTCMCTATEはSSTRを発現するがん細胞に選択的に蓄積することがわかる。
【0118】
図10は
203Pbで標識したDOTAMTATEと標識のないDOTATATE(放射性同位体のないDOTATATE)の競合試験を示す。
図10は様々なキレート剤(x軸)の細胞取り込み(%ID/mg)(y軸)を示すグラフ1000である。この図は、標識のないDOTATATE(放射性同位体のないDOTATATE)(5μg/ウェル)を、量を増やしながら
203Pb-DOTAMTATEと共に加えることで実施した生体外での取り込みと競合試験を示す。いずれの組成物も、試験したがん細胞でSSTR特異的な蓄積を示している。競合試験には、20%FBSを含有するATCC処方のF-12K培地中37℃で2時間保温したAR42Jがん細胞株(100,000細胞/ウェル)で
203Pb-DOTAMTATE(5μgの薬剤を17MBq(0.46mCi)の
203Pbで標識;370kBq(10μCi)/ウェル)と標識のないDOTATATE(放射性同位体のないDOTATATE)を用いる。競合試験は、標識のないDOTATATEの量を増やしながら(10μg/ml;20μg/ml;50μg/ml)
203Pb-DOTATATEと共に保温することで実施される。
【0119】
図10は、2種類を共保温したときのAR42Jがん細胞への
203Pb-DOTAMTATEの取り込みとその競合(この場合、標識のないDOTATATE)の量との反比例関係を示す。存在するDOTATATEの量を増やす(10μg/ml、20μg/ml、50μg/ml)と、
203Pb-DOTAMTATEの蓄積はそれぞれ、14%、36%、65%減少する。このことは、DOTAMTATEがDOTATATEと同じSSTRに結合していることを示す。
【0120】
図11は、両方の組成物の用量を増やしたときの
203Pb-DOTAMTATEと
203Pb-TCMCTATEの取り込みの比較を示す。これらの図は、SSTR陽性のAR42J膵臓がん細胞(AR42J、ATCC(登録商標)CRL-1492(商標))で実施した細胞取り込み試験と標識のないDOTATATEの存在下で実施した競合試験における、放射標識したTCMCTATEおよびDOTAMTATEのSSTR標的化の特性を示している。
図11は、様々なキレート剤(x軸)について、細胞1mgあたりのバックグラウンド補正済みのカウント毎分(CPM)(y軸)のグラフ1100を示す。この図は、AR42Jがん細胞株(100,000細胞/ウェル)への
203Pb-TCMCTATEおよび
203Pb-DOTAMTATEの細胞取り込みを示す。AR42Jがん細胞は、20%FBSを含有するATCC(商標)処方のF-12K培地中、37℃で3時間保温される。
【0121】
TCMCTATE(10μg)を37MBq(1mCi)、152MBq(4.1mCi)、または233MBq(6.3mCi)の203Pb放射性同位体で標識することで203Pb-TCMCTATEを調製する。DOTAMTATE(5μg)を5.1MBq(0.14mCi)、21.4MBq(0.58mCi)、または26.6MBq(0.72mCi)の203Pb同位体で標識することで203Pb-DOTAMTATEを調製する。これらの試験では、標的化部分のない203Pb-TCMCを陰性対照とする。
【0122】
203Pb-TCMCTATEおよび203Pb-DOTAMTATEのAR42J細胞で細胞1mgあたりのCPMとして測定した蓄積の増加は、試験細胞に加えたオクトレオチン酸結合体の量の増加(TCMCTATEについては0.018μg、0.029μg、0.12μg;DOTAMTATEについては0.108μg、0.453μg)と相関性がある。棒グラフは細胞1mgあたりのCPM値(バックグラウンド補正済み)を表す。線は試験に用いたペプチド結合体1mg毎の細胞1mgあたりのCPM値を表す。線の傾きが類似していることからわかるように、203Pb-DOTAMTATEと203Pb-TCMCTATEはいずれも濃度の増加につれた類似の挙動を持つ。
【0123】
図11は、AR42Jがん細胞株へのがん標的化組成物の蓄積と取り込み試験に用いたがん標的化組成物の量の間に直接の相関性があることを示唆している。AR42Jがん細胞株において、
203Pb-TCMCTATEと
203Pb-DOTAMTATEの両者の取り込みはがん細胞に加える
203Pb-DOTAMTATEおよび
203Pb-TCMCTATEの量が増えるにつれて増加している。これらの結果は、放射性同位体で標識したDOTAMTATEおよびTCMCTATEのSSTR標的化の特性を示している。添加するペプチドの量を増やすにつれて受容体が飽和していること(ペプチド1mg毎の細胞1mgあたりのCPMが減少することによってわかる)によって特異性が実証されている。
(詳細)
(AR42J異種移植片をもつ胸腺欠損マウスの体内分布試験)
方法:
【0124】
雌の胸腺欠損ヌードマウス(約20g)に、50%RPMI培地および50%マトリゲルに入れた2×106個のAR42J細胞を皮下注射する。およその腫瘍体積が300mm3に達するまで腫瘍を成長させる。投与量(5μCi)の212Pb-DOTAMTATEをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で調製し、200μlをマウスに静脈注射で投与する。薬物を注射してから1時間後、4時間後、24時間後の所定の時点で動物を屠殺する。各動物の組織を採取し、自動γ線計測器で各臓器の放射性物質の量を評価する。具体的には、臓器を採取し、秤量して12×55mmのポリプロピレンチューブに移す。較正したWizard2型γ線計測器(PerkinElmer(コネチカット州シェルトン))にチューブを入れ、3分間計測する(204~274keV)。注射量の20分の1からなる標準物質を各時点で計測する。バックグラウンドは自動的に計測値から引かれる。崩壊の補正にも標準物質を用いる。採取した各臓器について%ID/gを計算する。
結果と結論:
【0125】
腫瘍取り込みは薬物投与の1時間後に20%を超え、4時間後から24時間後まで一定であった。標的でない他の臓器では、注射の1時間後には薬物の蓄積は最大であるが投与の24時間後までに有意に減少した。膵臓と腎臓は標的以外で取り込みが最大であった2つの臓器であるが、これらの臓器は注射の24時間後までに蓄積の有意な減少を示した。この所見は、発明者らがこれまでに蓄積してきた毒性学データや効果のデータに基づけば懸念事項ではない。また、これらの臓器は、(ヒトの試験で有害作用にはなっていない)α線放射体に関する齧歯類を使った他の非臨床試験でも高い薬物取り込みを示している(Kratochwilらの文献、2014年;Norenbergらの文献、2006年)。
(実験3-体内分布)
【0126】
図12~13は、患者におけるがん標的化組成物の体内分布試験を示す。
図12は腫瘍のないマウスに関する
203Pb-DOTAMTATEおよび
203Pb-TCMCTATEの体内分布を示す。
図13は、腫瘍のないマウスに関する
203Pb-酢酸塩、すなわちキレート剤も標的化部分も含まない放射性同位体の体内分布を示す。これらの図は、キレートされた放射性同位体の体内分布が腎臓に集中することを示しており、したがってこの放射性同位体がDOTAMTATEやTCMCTATEにキレートされるとより安全になる可能性があることを示唆している。
【0127】
図12は様々な臓器(x軸)に関する体内分布(%ID/g)(y軸)を示す棒グラフ1200である。腫瘍のないマウスに関する注射4時間後の
203Pb-TCMCTATEおよび
203Pb-DOTAMTATEの体内分布を示す。腫瘍のないマウス(CD-1マウス、雌、体重20g、4~5週齢)中の、
203Pb-TCMCTATEおよび
203Pb-DOTAMTATEの体内分布試験をがん標的化組成物の注射の4時間後に完了する。
【0128】
203Pb-DOTAMTATEの場合も203Pb-TCMCTATEの場合も、骨髄、肝臓、またはその他の臓器では、取り込みが見られないかわずかしか見られない。このことは、これらの特定のがん標的化組成物の放射線化学的安定性を示している。腎臓では薬剤の蓄積が増加しているが、他の臓器でのがん標的化組成物の貯留は2%ID/g未満である(臓器1グラムあたりの初期線量の割合(%))。両組成物は薬物動態学的特性が類似しており、骨髄、肝臓、および肺では薬剤の取り込みが見られないかわずかしか見られないことからわかる高い放射線化学的安定性を持っている。特に、腎臓は203Pbで標識したTCMCTATEおよび203Pb-DOTAMTATEの貯留がより高く、それぞれ23.53±1.54%ID/gおよび9.79±2.9%ID/gである。放射標識されたDOTATATE類似体の高い腎貯留は、ペプチド受容体放射性核種治療(PRRT)で正の電荷をもつアミノ酸を同時投与することによって減少する。このことは、放射性同位体が体内でキレート剤-標的化部分にしっかりと結合したままであることと、がん標的化組成物が標的以外の細胞に結合しないことを示している。
【0129】
比較すると、
図13は、腫瘍のないマウスで注射4時間後に実施した
203Pb-酢酸塩(キレート剤も標的化部分もない鉛の放射性同位体)の体内分布試験であることを除けば
図12のグラフに類似の棒グラフ1300である。
図12のキレート化放射性同位体に比べて高い血液、腎臓、肝臓、および肺中に同位体の蓄積が観察される。
203Pb-酢酸塩の体内分布試験は、注射の4時間後の骨髄、血液、および肝臓での同位体の貯留を示す。
【0130】
図12と
図13を比較してわかるように、
203Pb-DOTAMTATEと
203Pb-TCMCTATEの臓器内分布(
図12)は、遊離の
203Pb同位体の場合(
図13)に観察された分布とは異なる。このことは、DOTAMTATEおよびTCMCTATEにキレートされた鉛の同位体の生体内での安定性を示している。
【0131】
図14および15は、2種の異なるAR42J株の腫瘍をもつマウスの
212Pb-DOTAMTATEの体内分布を示す。これらの図は、異なる株の被験マウスでは組成物の臓器内分布がいくらか異なることを示している。
【0132】
図14は、様々な臓器(x軸)での組成物の体内分布の結果(%ID/g)(y軸)を時間関数で示す棒グラフ1400である。グラフは、腫瘍をもつマウス(AR42J腫瘍モデル)で注射後の様々な時点(1時間後、4時間後、24時間後)に得られた
212Pb-DOTAMTATEの体内分布の結果を示す(棒)。
【0133】
同様に、
図15は様々な臓器(x軸)での組成物の体内分布の結果(%ID/g)(y軸)を示す棒グラフ1500である。
図15は、注射の4時間後および24時間後に実施したAR42JマウスのCB17-SCID株における
212Pb-DOTAM-TATEの体内分布の結果を示す(棒)。この実験は、
図15では腫瘍をもち重症複合免疫不全(SCID)ももつマウスに組成物を投与している点を除き、
図14の実験と似ている。
【0134】
図14および15からわかるように、組成物
212Pb-DOTAM-TATEはSSTRを発現している腫瘍に蓄積し、SSTRの発現が多いと知られている正常な臓器(膵臓など)にも蓄積する。この組成物は膀胱および腎臓から排出されるため、これらの臓器に薬剤がより多く貯留する。
図14と
図15に示されているように、AR42Jマウス株間で組成物の体内分布の差異はあるが、いずれの場合も経時的に腫瘍に組成物が蓄積かつ貯留されている。このことは、対象の株(重症複合免疫不全(SCID)など)が違っても、SSTRを発現している腫瘍に組成物が集中する可能性があることを示す。
【0135】
図16は、腫瘍のない胸腺欠損ヌードマウスの経時的な
203Pb-DOTAMTATEの体内分布の結果を示す。
図16は様々な臓器(y軸)での
203Pb-DOTAMTATEの体内分布の結果(%ID/g)を示す棒グラフ1600である。注射の4時間後、24時間後、および48時間後に体内分布データを取る。
図16は、
203Pb-DOTAMTATEが初期には胸腺欠損ヌードマウスのSSTRを発現している臓器(膵臓、胃など)に蓄積することを示している。腎クリアランスによって組成物が除去されるため、腎臓や膀胱にも組成物の蓄積が観察される。これらの図からわかるように、組成物は腫瘍のないマウスで測定したすべての臓器から経時的に除去される。
(詳細)
胸腺欠損ヌードマウスにおける
203Pb-DOTAMTATEの体内分布
【0136】
発明者らのグループは動物とヒトの両方のモデルで203Pb-DOTAMTATEについて試験する。212Pb-DOTAMTATEの代替物として203Pb-DOTAMTATEを使用することは最近の探索的新薬臨床試験(eIND)(130,960)の対象である。
方法:
【0137】
雌の胸腺欠損ヌードマウス(約20g)に単回用量の203Pb-DOTAMTATEを注射する。具体的には、10μCiの203Pb-DOTAMTATEをPBSに希釈し、100μlをマウスに静脈注射で投与する。薬物を注射してから4時間後、24時間後、48時間後の所定の時点で動物を屠殺する。各動物の組織を採取し、自動γ線計測器で各臓器の放射性物質の量を評価する。具体的には、臓器を採取し、秤量してポリプロピレンチューブに移す。較正したWizard2型γ線計測器(PerkinElmer(コネチカット州シェルトン))にチューブを入れ、3分間計測する(204~274keV)。注射量の20分の1からなる標準物質を各時点で計測する。バックグラウンドは自動的に計測値から引かれる。崩壊の補正にも標準物質を用いる。採取した各臓器について%ID/gを計算する。
結果と結論:
【0138】
図16を参照すると、
203Pb-DOTAMTATEで治療した胸腺欠損ヌードマウスの臓器内取り込みは、この株のマウスで
212Pb-DOTAMTATEに関して見られたもの(初期に膵臓および腎臓の薬物の取り込みが高いが経時的に減少し続ける)と類似している。このことは、
203Pb-DOTAMTATEおよび
212Pb-DOTAMTATEが同じペプチドと金属であることから予測されるとおり、体内での作用が類似していることを示している。
【0139】
図17は、腫瘍のない雌雄のマウスの
212Pb-DOTAM-TATEの体内分布の比較である。
図17は様々な臓器(x軸)での組成物の体内分布の結果(%ID/g)(y軸)を示す棒グラフ1700である。注射の4時間後と24時間後の両方で腫瘍のない雌雄のCD-1マウスの
212Pb-DOTAM-TATE体内分布試験を行う。雌雄のマウスはいずれも類似の体内分布パターンを持っており、化合物の分布が対象の性別に大きく左右されないことを示している。
(詳細)
(腫瘍のない雌雄のマウスの
212Pb-DOTAMTATEの体内分布)
【0140】
多くの試験、特に優良試験所基準(GLP)毒性試験のための雌マウスの選択基準として、雌雄のマウスでほとんど差異がないことを裏付けるため広範な文献調査を行う。また、ほとんどないものの差異が観察されるということは雌マウスの感受性がより高いことを示しており、雌マウスが2つの性別における最悪の事態の想定であり(Lipnickらの文献、1995年)、結果的により一般的に安全性評価に用いられる(OECD、2000年)ことが示唆されている。
【0141】
68Ga-DOTATATEの陽電子放射断層撮影・コンピュータ断層撮影(PET/CT)のいくつかの臨床試験では雌雄の患者間で放射性トレーサーの分布と臓器内貯留に差異は見られなかった。しかし、68Ga-DOTATATEのPET/CTの臨床試験に記載されている161名の患者のデータの最近の遡及評価から、いくつかの臓器で放射性トレーサーの蓄積に年齢や性別に関連する差異があることがわかった(Watts, Singh, Shukla, Sharma, & Mittal, 2014)。女性患者(n=31)は脳下垂体、甲状腺、耳下腺、脾臓、腎臓で男性(n=34)に比べて標準取込値(SUV)が高い(p<0.05)ことを示した。
【0142】
111In-DTPA-オクトレオチドを注射した雌ラットの腎臓の放射活性は異なる局在化パターンを示した。雌ラットは、皮質に比べて髄質外層で高い取り込みを示した(Melisらの文献、2007年)。
【0143】
放射線治療薬の腎貯留は腎毒性や腎不全につながる可能性がある。毒性試験に雌マウスを選択することによって、特に雌マウスでより高い薬剤貯留が予想される場合の腎機能に及ぼす212Pb-DOTAMTATEの影響を確認できる。
【0144】
この特定の放射線治療薬212Pb-DOTAMTATEの雌雄のマウスにおける類似性をよりよく説明するため、腫瘍のないCD-1マウスで2つの所定の時点で体内分布を実施する。
方法:
【0145】
雌雄のCD-1マウス(約20g)に単回用量の212Pb-DOTAMTATEを注射する。具体的には、5μCiの212Pb-DOTAMTATEをPBSに希釈し、100μlをマウスに静脈注射で投与する。薬物を注射してから4時間後および24時間後の所定の時点で動物を屠殺する。各動物の組織を採取し、自動γ線計測器で各臓器の放射性物質の量を評価する。具体的には、臓器を採取し、秤量してポリプロピレンチューブに移す。較正したWizard2型γ線計測器(PerkinElmer(コネチカット州シェルトン))にチューブを入れ、3分間計測する(204~274keV)。注射量の20分の1からなる標準物質を各時点で計測する。バックグラウンドは自動的に計測値から引かれる。崩壊の補正にも標準物質を用いる。採取した各臓器について%ID/gを計算する。
結果と結論:
【0146】
図17AおよびBを参照すると、
212Pb-DOTAMTATEの雌雄のマウスの臓器内取り込みに有意な差はない。観察できる程度のわずかな差があるが、これは雄の方が質量が大きいことで説明できる。注射の4時間後および24時間後の両方で、雌雄のマウスの薬物取り込みはすべての臓器で類似していた。この雌マウスでわずかに高い%ID/g(したがって吸収される線量)により、毒性学的試験に雌マウスを用いることがさらに裏付けられる。
(実験4-効果)
【0147】
図18、19A~B、および20A~20Eは、AR42J腫瘍マウスに関する様々な投与量の
212Pb-DOTAMTATEの治療効果を示す実験である。
図18は、AR42J腫瘍マウスに組成物の用量を増やして投与した後の注射後の経時的な生存曲線のグラフ1800を示す。グラフ1800は、腫瘍をもつマウスの経時的な(週、x軸)生存(生存している割合(%))(y軸)を
212Pb-DOTAMTATE用量の関数として示す。
図18は、185kBq(5μCi)、2×185kBq(2×5μCi)、370kBq(10μCi)、2×370kBq(2×10μCi)、または3×370kBq(3×10μCi)の
212Pb-DOTAMTATEを注射したAR42Jマウスの生存曲線を示す。また、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)単独と放射標識のない非放射性DOTAMTATEのいずれかを投与される2つのマウス対照群を用いる。各群の生存しているマウスの割合は時間の関数として決定される。グラフは、
212Pb-DOTAMTATEの用量の増加はマウスの生存率の増加と相関性があることを示している。組成物を投与したすべてのマウス群は対照群に比べて生存率が高い。
【0148】
図19A~Bおよび20A~Eは、試験群の個々のマウスの腫瘍体積変化を時間と注射線量の関数として示す。
図19A~20Eは様々な投与量の
212Pb-DOTAMTATEを投与した後の各試験群の個々のマウスの経時的な(x軸)腫瘍体積(mm
3)の変化(y軸)を示すグラフ1900a~2000eである。
図19A~19Bは、
図18の対照と同様に、陰性対照として使用されたPBSおよび非放射性DOTAMTATEの場合をそれぞれ示すグラフ1900a~1900bである。
【0149】
図20A~20Eは、それぞれ
212Pb-DOTAMTATEを185kBqで単回(5μCi)(20A)、185kBqで2回(2回×5μCi)(20B)、370kBqで単回(10μCi)(20C)、370kBqで2回(2回×10μCi)(20D)、370kBqで3回(3回×10μCi)(20E)注射した各AR42J腫瘍マウスで確認した、
212Pb-DOTAMTATEの線量の腫瘍体積に及ぼす影響のグラフ2000a~eを示す。
図18のデータと同様、
図20A~20Eは
212Pb-DOTAMTATEの用量の増加は経時的な腫瘍体積の減少に相関性があることを示している。
【0150】
図19A~19Bおよび20A~20Eは、組成物はSSTRを発現している腫瘍の治療に有効である可能性があることを示している。これらの実験は、
212Pb-DOTAMTATEの用量の増加は経時的な生存率の増加にも腫瘍体積の減少にも相関性があることを示している。
【0151】
AR42J細胞の生体外での取り込み、DOTATATEとの競合試験、DOTATATE、DOTAMTATE、およびTCMCTATEの類似の体内分布特性(類似の腎クリアランスなど)の結果に基づき、DOTAMTATEおよびTCMCTATEについてはがん標的化組成物の探索的臨床試験のさらなる調査を考慮してもよい。
【0152】
本明細書に記載の実験は特定の放射性同位体を用いるが、本開示は他の様々な放射性同位体を含む組成物への応用が意図されている。たとえば、α線を放射する放射性同位体のLETは、がん細胞または小さながん細胞クラスターに近いサイズの領域を照射する。このことは、標的がん細胞を超えて放射される過剰な放射線がほとんどないか全くない可能性があることを示している。それに比べて他の放射線放射は体内で長距離を移動し標的以外の細胞を損傷する可能性がある。
【0153】
また、本明細書のデータはキレート剤(DOTAMなど)の鉛放射性同位体を配位する能力を示しているため、放射性同位体の置き換えは重要ではないと考えてもよい。本明細書に記載のように、DOTAMおよびTCMCは、他のキレート剤(DOTAなど)に比べて鉛放射性同位体の分離がほとんどないか、全く見られない。このことはさらに、これらのキレート剤による放射性同位体の配位の安定性からキレート剤の放射性同位体との結合を推定できることを示している。
【0154】
図21は、がん治療キット2100と、関連する製造法および/使用法の概略図である。キット2100は、本明細書に記載の組成物(たとえば
図5A~6Cを参照のこと)などの、キレート剤104および標的化部分108(たとえばDOTAMTATE、TCMCTATEなど)と放射性同位体102(たとえば
203Pb、
212Pbなど)とを含む組成物を含んでいる。組成物は、緩衝剤1124(たとえば酢酸アンモニウムなど)と混合されていてもよい。この混合物は、たとえば25~50μgのがん標的化組成物と0.4Mの酢酸アンモニウムを含んでいてもよい。
【0155】
キットはまた、捕捉剤1126(たとえば、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、DOTAなど)および/または酸化防止剤1128(たとえばアスコルビン酸、ゲンチジン酸、エタノール、ビタミンCなど)を必要に応じて含んでいてもよい。必要に応じて様々な添加剤を様々な用途のために含まれていてもよい。図にも示されているように、組成物を単独で混合してもよいし、それ以外の成分と組み合わせて混合して患者に投与してもよい。
【0156】
この方法はまた、必要に応じて混合および/または加熱を含んでいてもよい。加熱の温度と時間はキットの成分に基づいて変化してもよい。たとえば、キレート剤がDOTAMである場合、混合物を15分かけて室温に加熱してもよい。別の例では、キレート剤がDOTAである場合、混合物を15分かけて85℃に加熱してもよい。
【0157】
キットは、たとえば放射性医薬品の調製に使用されてもよい。キットは、所定量の組成物を含む密封された小びんまたは袋、あるいは他の任意の種類の適切な容器を含んでいてもよい。キットの成分は、液状、凍結形態、乾燥形態、および/または凍結乾燥形態などの任意の適切な形態であってもよい。
【0158】
図22はがん細胞の標的放射線治療方法2200を示す流れ図である。この方法は、放射性同位体とキレート剤と、標的化部分とを含むがん標的化組成物を提供(たとえば混合)すること(2230)を含む。キレート剤は窒素環構造を含み、窒素環構造は、テトラアザシクロドデカン誘導体、トリアザシクロノナン誘導体、およびテトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン誘導体の群から選択される誘導体を含んでいる。標的化部分は、ソマトスタチン受容体標的化ペプチドを含んでいる。ソマトスタチン受容体標的化ペプチドはオクトレオチド誘導体を含んでいる。標的化部分はキレート剤によって放射性同位体にキレートされている。標的化組成物は、本明細書に記載のうちのいずれの組成物であってもよい。たとえば、
図6Bおよび6Cを参照のこと。
【0159】
この方法はまた、がん細胞を持つ患者にがん標的化組成物を投与すること(2232)と、標的化部分をがん細胞に結合すること(2234)と、がん細胞内でがん標的化組成物を取り込むこと(2236)と、β粒子の放射を伴う放射性同位体の崩壊(2238)と、患者からがん標的化組成物を除去すること(2242)とを含む。崩壊2238は、β粒子の放射を伴う212Pbの212Biへの崩壊と、α粒子の放射を伴う212Biの208Tiへの崩壊(崩壊はがん細胞内で起こる)、および/またはα粒子でがん細胞を死滅させること(2240)を含んでいてもよい。
(詳細)
(212Pb-DOTAMTATEで治療したAR42J異種移植片を持つ胸腺欠損ヌードマウスに関する有効性試験)
方法:
【0160】
200万(2×106)個のAR42J細胞を各マウスの右側腹部に皮下移植し、約300mm3の腫瘍体積に達するまで腫瘍を成長させる。次に動物に5μCiまたは10μCiの212Pb-DOTAMTATE、非放射性DOTAMTATE、またはPBSを100μl注射する。動物を毎日監視し、週に3回ノギスで測定して腫瘍体積を監視する。腫瘍体積が2000mm3に達するか、他の所定の終了基準(2日間連続での15%を超える体重減少、重篤な出血、腫瘍の壊死または潰瘍化、5日間にわたる被毛の汚れまたは毛づくろいをしないこと、3日間にわたる嗜眠、5日間にわたる脱力感/平衡の問題、猫背の現れ、下痢または低体温)に達したときにマウスを屠殺する。
【0161】
3週間後、212Pb-DOTAMTATE(10μCi)群または212Pb-DOTAMTATE(5μCi)群のうち残っている動物の3分の2に、2回目のそれぞれ10μCiまたは5μCiの212Pb-DOTAMTATEの注射を行う。これらのマウスの監視データおよび腫瘍体積データを上記のように集める。腫瘍体積が2000mm3に達するか、上記の終了基準に達するまで動物を維持する。
【0162】
3週間後、212Pb-DOTAMTATE(2×10μCi)群の残っている動物の半分に、3回目の10μCiの212Pb-DOTAMTATEの注射を行う。これらのマウスの監視データおよび腫瘍体積データを上記のように集める。腫瘍体積が2000mm3に達するか、上記の終了基準に達するまで動物を維持する。初回の注射の29週後に試験を終了する。
結果と結論:
【0163】
非放射性DOTAMTATEを注射した動物は、生存期間中央値が注射から3.4週間であった。PBSで処置した動物は生存期間中央値がこれと類似の注射後わずか3.5週間であった。5μCiの212Pb-DOTAMTATEを1回注射したマウスの生存期間中央値は6.3週間であるが、10μCiの212Pb-DOTAMTATEを1回注射したマウスの生存期間中央値は、8.5週間であり、線量が高い方がより有効な効果を持つことがわかる。5μCiの212Pb-DOTAMTATEを2回注射したマウスは生存期間中央値が7.1週間である。薬物1×10μCiを投与した動物と2×5μCiを投与した動物とでは生存期間中央値は類似している。10μCiの212Pb-DOTAMTATEを2回注射したマウスは生存期間中央値が10.9週間であり、試験終了時にマウスの20%は腫瘍を持っていなかった。3×10μCiを投与したマウスは、生存期間中央値が11.6週間であり、試験終了時(6か月)にこの群の動物の33%は腫瘍を持っていなかった。このことは、1回の注射が有毒となるかもしれない(試験NET0016を参照のこと)量で繰り返し注射することに、線量依存的な有効な効果があることを示唆している。カプラン・マイヤー生存曲線は、各注射群の生存期間の要約である。
SSTR発現細胞への212Pb-DOTAMTATEの結合効率
方法:
【0164】
ペプチドのソマトスタチン受容体2(SSTR2)への結合とKdを、SSTR2を発現するAR42J細胞で、250,000個の細胞を24ウェルプレートのウェルで48時間増殖させることにより評価する。AR42J細胞の入ったウェルの濃度0.5nM~64nMの212Pb‐DOTAMTATEを10分間、37°Cで保温する。各濃度について同じことを4回行う。次いで細胞をPBSで洗浄し、各ウェルの細胞の放射活性の有無を計測する。次いで結合曲線を作成し、Kdを計算する。
結果と結論:
【0165】
図23を参照する。GraphPad Prismで一部位の全飽和結合曲線を作成し、12.9nMのK
dが得られている。これは他の研究者がDOTATATEについて観察してきたことと一致している(Ullrichら、2016年)。したがって、発明者らはAR42J細胞のSSTR2受容体への
212Pb-DOTAMTATEの特異的結合を確認している。
(
212Pb-DOTAMTATEがSSTR発現細胞に及ぼす細胞傷害効果)
方法:
【0166】
30,000(3×104)個のAR42J細胞を96ウェルプレートのウェルで2日間培養する。次いで212Pb-DOTAMTATEの用量を0nCi/ml~800nCi/mlの範囲で増加しながら細胞を4時間保温する。各群8個のウェルを処理する。細胞をPBSで洗浄して薬物を除去し、次いで新鮮な培地を導入する。細胞を37℃で6日間保温する。次いで細胞を洗浄し二酢酸フルオレセインと共に30分間保温し、485/535nmで蛍光光度計で読み取る。未処理の細胞(対照)に基づく生細胞の割合を計算する。
結果と結論:
【0167】
図24を参照すると、800nCi/mlで完全な細胞死が起こる用量依存的な細胞傷害効果がわかる。12.5nCi/ml~25nCi/mlでは50%の生存率が観察される。このことは、AR42J細胞のSSTR2に特異性を示すペプチドによって標的化された細胞死滅を示唆している。DOTAM単独で処理した細胞(陰性対照)は用量依存的な効果を示さず、未処理の対照の47%~156%の範囲の生存率である(データは図示せず)。このことは、キレート単独は用量依存的に生存期間を短縮せず、SSTR2受容体に特異的ではないことを示唆している。したがって、ペプチドにはがん細胞の適切かつ有効な標的化と死滅が求められる。
(AR42J腫瘍体積と薬物取り込みの相関性)
方法:
【0168】
試験NET001の胸腺欠損ヌードマウスのAR42J腫瘍体積を薬物投与の日に電子ノギスで1/2×長さ×幅
2を測定することにより計算する。
図25に示されているように、約300mm
3の腫瘍体積が理想的であるが、いくらかの変動があった。
結果と結論:
【0169】
図26を参照すると、腫瘍の大きさには変動があるものの、腫瘍の大きさと1グラムあたりの注射用量の割合(%)の間には目に見える相関性はない。ある群で最小の腫瘍は、より大きな腫瘍に比べて高い%ID/gを持っていたが、別の群で最小の腫瘍は、同じ群のより大きな腫瘍に対して低い%ID/gを持っていた。このことは、腫瘍の大きさの変動性を腫瘍取り込みの変動性に変換できるわけではないことを示唆している。
(胸腺欠損ヌードマウスについて、比放射能が減少しても受容体の飽和は起こらない)
方法:
【0170】
雌の胸腺欠損ヌードマウス(約20g)に、50%RPMI培地および50%マトリゲルに入れた2×106個のAR42J細胞を皮下注射する。およその腫瘍体積が300mm3に達するまで腫瘍を成長させる。投与量(10μCi)の212Pb-DOTAMTATEを3つの異なる比放射能でPBS中で調製し、200μlをマウスに静脈注射で投与する。薬物を注射してから24時間後に動物を屠殺する。各動物の組織を採取し、自動γ線計測器で各臓器の放射性物質の量を評価する。具体的には、臓器を採取し、秤量してポリプロピレンチューブに移す。較正したWizard2型γ線計測器(PerkinElmer(コネチカット州シェルトン))にチューブを入れ、3分間計測する(204~274keV)。注射量の20分の1からなる標準物質を各時点で計測する。バックグラウンドは自動的に計測値から引かれる。崩壊の補正にも標準物質を用いる。採取した各臓器について%ID/gを計算する。
結論と結果:
【0171】
図27を参照する。体内分布試験で3つの比放射能を試験する。これまでほとんどの
212Pb-DOTAMTATE試験に10μCi/4.1ngが用いられているが、比放射能の減少が腫瘍内取り込みに有意な影響を及ぼすようには見えない。このことは、これらの試験で主に用いられてきた比放射能の25分の1未満の比放射能でも受容体の飽和は起こっていないことを示唆している。
(
212Pb-DOTAMTATEで治療したAR42J異種移植を持つ胸腺欠損ヌードマウスの2週間および3週間の治療周期の有効性試験)
方法:
【0172】
200万(2×106)個のAR42J細胞を各マウスの右側腹部に皮下移植し、約200~300mm3の腫瘍体積に達するまで腫瘍を成長させる。次に動物に10μCiの212Pb-DOTAMTATEまたは生理食塩水を100μl注射する。動物を毎日監視し、週に3回ノギスで測定して腫瘍体積を監視する。腫瘍体積が3000mm3に達するか、他の所定の終了基準(2日間連続での15%を超える体重減少、最初の体重から20%の体重減少、重篤な出血、腫瘍の壊死または潰瘍化、5日間にわたる被毛の汚れまたは毛づくろいをしないこと、3日間にわたる嗜眠、5日間にわたる脱力感/平衡の問題、猫背の現れ、下痢または低体温)に達したときにマウスを屠殺する。
【0173】
2週間後または3週間後、動物に2回目の10μCiの212Pb-DOTAMTATEの投与を行う。これらのマウスの監視データおよび腫瘍体積データを上記のように集める。腫瘍体積が3000mm3に達するか、上記の終了基準に達するまで動物を維持する。
【0174】
2週間後または3週間後、動物に10μCiの212Pb-DOTAMTATEを投与する。これらのマウスの監視データおよび腫瘍体積データを上記のように集める。腫瘍体積が3000mm3に達するか、上記の終了基準に達するまで動物を維持する。試験は継続中である。
結果と結論:
【0175】
図28A~Cおよび29を参照すると、生理食塩水を注射した動物は、生存期間中央値が生理食塩水の注射後2.3週間であった。
212Pb-DOTAMTATEを3回注射したマウスの生存期間中央値は細胞の注射後9.1週間であるが、11.1週間後までにすべての動物が死亡している。2週間の間隔で
212Pb-DOTAMTATEを3回注射したマウスの生存期間中央値は11.9週間であり、細胞注射の21週間後に45%の動物が生存している。このデータから、薬物治療のタイミングが腫瘍体積に及ぼす影響にとって重大な意味をもつことがわかる。腫瘍体積は管理できるが、周期の間隔が長すぎる場合には治療の効果はより低い。
(CD-1マウスに静脈(IV)注射した
212PB-DOTAMTATEの動物血中薬物動態)
方法:
【0176】
体内分布試験の一環としてCD-1マウスに10μCiの212Pb-DOTAMTATEを注射する。血液を、注射の15分後、1時間後、および4時間後に採取する。7週齢(本試験のマウスの週齢)のCD-1マウス10匹の平均をとることで体重を決定し、この体重を用いて、LeeとBlaufox(1985年)による式で血液量を推定する。次に、各群5匹のマウスについてマウス血中の%IDを計算する。
結果と結論:
【0177】
図30および表1を参照すると、
212Pb-DOTAMTATEの注射の15分後、平均血中%IDは6.7%であり、急速なクリアランスが示唆される。注射の1時間後、血中の%IDはさらに1.8%まで減少する。注射の4時間後、血中の薬物のレベルは0.1%IDでほとんど検出できない。データを以下の表に示し、時間に対するグラフを作成する。
【表1】
【0178】
212Pb-DOTAMTATEの分布を腫瘍のないCD-1マウスの15分後から48時間後の複数の時点の体内分布試験で評価する。
方法:
【0179】
雌のCD-1マウス(約20g)に212Pb-DOTAMTATEを単回注射する。具体的には、10μCiの212Pb-DOTAMTATEをPBSに希釈し、100μlをマウスに静脈注射で投与する。薬物を注射してから15分後、1時間後、4時間後、24時間後、および48時間後の所定の時点で動物を屠殺する。各動物の組織を採取し、自動γ線計測器で各臓器の放射性物質の量を評価する。具体的には、臓器を採取し、秤量してポリプロピレンチューブに移す。較正したWizard2型γ線計測器(PerkinElmer(コネチカット州シェルトン))にチューブを入れ、3分間計測する(204~274keV)。注射量の20分の1からなる標準物質を各時点で計測する。バックグラウンドは自動的に計測値から引かれる。崩壊の補正にも標準物質を用いる。採取した各臓器について%ID/gを計算する。
結果と結論:
【0180】
図31を参照すると、記載されている各時点について、腎臓以外のすべての臓器で、1gあたりの注射用量の割合(%)は10%未満である。
212Pb-DOTAMTATEの最大の蓄積は腎臓で起こり、注射の1時間後に最大量が観察されている(約30%注射用量/g)。これは注射の24時間後までに約10%注射用量/gまで有意に減少し、48時間後には減少を続けている。腎臓は薬物のクリアランスの第1の方法であるため、これは予想外の所見ではなく、他のデータ(主に、発明者らが得てきた毒性学的データや有効性のデータ)に基づけば懸念の原因ではない。
(腫瘍のないCD-1マウスの
203PB-DOTAMTATEおよび
212PB-DOTAMTATEの体内分布)
方法:
【0181】
雌のCD-1マウス(約20g)に203Pb-DOTAMTATEまたは212Pb-DOTAMTATEを単回注射する。具体的には、10μCiの203Pb-DOTAMTATEまたは212Pb-DOTAMTATEを生理食塩水に希釈し、100μlをマウスに静脈注射で投与する。薬物を注射してから4時間後および24時間後の所定の時点で動物を屠殺する。各動物の組織を採取し、自動γ線計測器で各臓器の放射性物質の量を評価する。具体的には、臓器を採取し、秤量して12×55mmのポリプロピレンチューブに移す。較正したWizard2型γ線計測器(PerkinElmer(コネチカット州シェルトン))にチューブを入れ、3分間計測する(204~274keV)。注射量の20分の1からなる標準物質を各時点で計測する。バックグラウンドは自動的に計測値から引かれる。崩壊の補正にも標準物質を用いる。採取した各臓器について%ID/gを計算する。「%ID」は注射量の割合(%)を意味する。
結果と結論:
【0182】
図32を参照すると、
203Pb-DOTAMTATEで治療したCD-1マウスの臓器内取り込みは、いずれの決定臓器でも
212Pb-DOTAMTATEで治療したマウスの臓器内取り込みと有意な差はない。このことから、これら2種の同位体は類似の薬物動態学的特性を持っていることが直接対照比較でさらに確認される。
【0183】
これらのデータや他のデータに基づき、eIND(探索的新薬臨床試験)を実施してソマトスタチンを発現する神経内分泌がんの患者に関して212Pb-DOTAMTATEの代替物としての203Pb-DOTAMTATEの線量測定と体内分布を評価する。203Pb-DOTAMTATEの分布と排泄特性は、市販のオクトレオチン酸薬物のPK(薬物動態)特性と非常に類似しており、腎臓は線量制限臓器である。
(212Pb-DOTAMTATE累積排泄)
方法:
【0184】
雌のCD-1マウスに10μCiの212Pb-DOTAMTATEを静脈注射する。次いで、排泄物を採取しやすくするために動物を個々の代謝ケージに入れる。注射の1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、および24時間後の所定の間隔で動物を代謝ケージから出し、新しい代謝ケージに入れる。次いでケージの漏斗をPBSで洗い流し、各マウスから採取した1mlを自動γ線計測器で計測する。便を採取し、別個の自動γ線計測チューブで分析する。
結果と結論:
【0185】
図33を参照すると、
212Pb-DOTAMTATE試験の結果は、薬物が腎臓によって代謝され尿や便になっていることを示す。24時間後の排泄物中の薬物の量は、同じくCD-1マウスで実施した体内分布試験の24時間後のデータから予想されるものと一致している。
(腎保護剤を含む
212PB-DOTAMTATEの体内分布)
【0186】
212Pb-DOTAMTATEが主要な薬物動態決定分子(酵素、薬物の輸送体、またはオーファン核内受容体など)と相互作用することは予想されないが、高用量の放射性核種治療に関して腎毒性は高線量の放射性核種治療について報告されている懸念事項である。薬物を正の電荷を持つアミノ酸と共に注入すると腎臓中の放射標識されたオクトレオチドの用量が25%減少することがわかっている(Hammondら、1993年)。その結果、212Pb-DOTAMTATEと様々な薬剤を用いて腎保護試験を実施し、治療中の腎臓の被ばくを最小にできるかを判断する。
方法:
【0187】
雌のCD-1マウス(約20g)に212Pb-DOTAMTATEを単回注射する。具体的には、5μCiの212Pb-DOTAMTATEをPBS(対照)、2.5%リシン-アルギニン混合物Aminomedix(600mg/kgのLys-Arg、15mg/kgのアミフォスチンをPBSで2分の1に希釈)、または4.2%Clinisolに希釈し、マウスに静脈注射で投与する。薬物を注射してから1時間後および4時間後の所定の時点で動物を屠殺する。各動物の組織を採取し、自動γ線計測器で各臓器の放射性物質の量を評価する。具体的には、臓器を採取し、秤量してポリプロピレンチューブに移す。較正したWizard2型γ線計測器(PerkinElmer(コネチカット州シェルトン))にチューブを入れ、3分間計測する(204~274keV)。注射量の20分の1からなる標準物質を各時点で計測する。バックグラウンドは自動的に計測値から引かれる。崩壊の補正にも標準物質を用いる。採取した各臓器について%ID/gを計算する。
結果と結論:
【0188】
図34Aおよび34Bを参照すると、2.5%リシン-アルギニンからなる腎保護剤は、特に注射の1時間後の
212Pb-DOTAMTATEの腎取り込みを減少させるのに最も有効である。2.5%Lys-Argを投与した動物では、肝臓中の薬物の取り込みの減少も観察される。それ以外の薬剤は、腎保護剤なしの対照に比べて有意な差を示していない。このことは、正荷電したアミノ酸(2.5%Lys-Arg)の併用が
212Pb-DOTAMTATEの腎取り込みを減少させるのに最も有効な方法であることを示唆している。
(胸腺欠損ヌードマウスに関する用量範囲設定試験(非GLP))
方法:
【0189】
雌の胸腺欠損ヌードマウス(約20g)に、10μCi、20μCi、40μCi、または60μCiの212Pb-DOTAMTATEを、あるいは対照のPBSを単回静脈注射する。各群5匹の動物を割り当てる。動物の体重を週に3回測定し、終了基準(2日間連続での15%の体重減少、5日間にわたり毛づくろいをしない、3日間にわたる嗜眠/脱力感、運動性の低下、背中を丸める、下痢、低体温)の兆候について毎日監視する。4週間後に試験を結論づける。
結果と結論:
【0190】
図35および36を参照すると、より活性の高い
212Pb-DOTAMTATE用量では急性毒性が観察されている。60μCiの
212Pb-DOTAMTATEを投与した群の動物はすべて注射の7日後に死亡し、体重が有意に減少している。40μCi治療群の動物はすべて注射の8日後までに死亡し、死亡まで毎日体重が減少していた。対照群、10μCiおよび20μCiの
212Pb-DOTAMTATE治療群の動物の100%は、4週間の試験の終了時まで生存し、体重が増加している。このことは、最大耐線量が20μCi~40μCiであることを示唆している。これらのデータに基づき、GLP毒性試験を最大40μCiの線量で開始する。
(マウスに関する静脈注射(IV)および腹腔内注射(IP)による遊離の
212Pbの毒性試験)
【0191】
本試験の目的は、Balb/cマウスに静脈注射または腹腔内注射で投与した場合の生体内での遊離212Pbの急性・慢性毒性を評価することである。動物を7日目(急性)および90日目(慢性)に屠殺し、試験物質によって起こる急性および遅発性の作用(放射標識キレートの分離の完全な失敗という「最悪の場合」に起こる放射性核種の影響など)を評価する。放射性核種の使用に静脈注射は予定されていないが、可能性のあるいかなる毒性についても強調し対象臓器を特定するため、静脈注射と腹腔内注射の両方の経路について試験する。
結果:
【0192】
2.5μCi以上の線量レベルの試験物質のIVまたはIP注射による単回投与は、骨髄毒性を示す急性(7日目までに)の顕著な血液指標値の減少を伴う。さらに、最大線量では放射線による腎毒性を意味する腎損傷と、おそらくいくらかの肝損傷がある。本試験の所見は、IVとIPのいずれの投与経路の場合も、2.5μCiはマウス体内の遊離212Pbの無毒性量(NOAEL)であり、死亡は20μCiのIV用量で、15μCiのIP用量で起こっていることを示している。
【0193】
IV経路でもIP経路でも、2.5μCi、5μCi、7.5μCi、10μCiでは死亡は起こらない。しかし、15μCiのIP用量では11日後、40日後、90日後に死亡が起こり(10匹中3匹)、20μCiのIV用量では16日後に死亡が起きている(5匹中2匹)。死亡はさらに、IP経路の場合は10μCiのとき69日後(5匹中1匹)、40μCiのとき8日後、11日後、および記録されていない日(4匹中3匹)、50μCiのとき9日後(5匹中3匹)に起こっている。20および30μCiの用量でIV投与した7日後に体重減少が観察されており、その変化は、IV投与量2.5μCiの場合と30μCiの場合(P<0.01)、または7.5μCiの場合と30μCiの場合(P<0.05)を比べると有意である)。90日後までにはそれ以上減少しなかったが、30μCiの場合の体重減少の有意性は後の時点も続いた(処置を受けていない対照に対しP<0.01)。両方の時点で、体重はIV用量レベルと逆相関性がある。10μCi以上のIP投与の7日後にもいくらかの体重減少が観察されるが、その効果は有意ではない。15μCiのIP投与では体重増加の弱まりが有意になっている(処置を受けていない対照に対しP<0.05)が90日後までに体重の回復が見られる。
【0194】
用量に関連する血液指標値の減少はIV群でもIP群でも起こった。最小の用量レベル(2.5μCi)で開始したIV投与とIP投与の7日後、用量に関連する白血球数および血小板数の平均値の低下がある。すべての群で90日後に部分的に回復している。高線量の群で90日後にいくらか増加したと見られる肝臓指標ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)とAST(アスパラギン酸塩アミノトランスフェラーゼ)を除き、全体的に臨床化学レベルは正常範囲のままであった。腎臓指標値は正常範囲内である。
【0195】
本試験の対象臓器は骨髄、腎臓、および肝臓である。この試験の組織病理学的所見は、5μCi以上の試験物質のIVおよびIP投与はいずれも骨髄中の赤血球、骨髄球および巨核球系の予想される減少に関連しており、かつ対応する血液指標値の変化に関連することを示している。放射線によって誘発される腎症と一致して7日後と90日後の両方で腎炎性変化もあり(Cohen&Robbins、2003)、それは時間が経つと不可逆性腎不全やエリスロポエチン不足による貧血を引き起こす可能性がある。腎臓は実質的な修復能力を持っているが、放射線感受性臓器であり、放射線治療により不可逆性の腎毒性が起こる可能性がある。おそらく治療に関連していると考えられる肝臓の変化は、7日後と90日後の両方で明らかであり、90日後のALTおよびASTの増加(50μCi、IP)と関連している。
結論:
【0196】
2.5μCi以上の用量レベルの212PbのIVまたはIP注射による単回投与は、骨髄毒性を示す顕著な血液指標値の減少を伴う。さらに、最大用量では放射線による腎毒性を意味する腎損傷と、おそらくいくらかの肝損傷がある。本試験の所見は、IVとIPのいずれの投与経路の場合も、2.5μCiは無毒性量(NOAEL)であり、死亡は20μCiのIV用量で、15、30、40、および50μCiのIP用量で起こり始めることを示している。
【0197】
IV経路でもIP経路でも、2.5μCi、5μCi、7.5μCi、10μCiでは死亡は起こらない。しかし、15μCiのIP用量では11日後、40日後、90日後に死亡が起こり(10匹中3匹)、20μCiのIV用量では16日後に死亡が起きている(5匹中2匹)。死亡はさらに、IP経路の場合は30μCiのとき69日後(5匹中1匹)、40μCiのとき8日後、11日後、および記録されていない日(4匹中3匹)、50μCiのとき9日後(5匹中3匹)に起こっている。血液学的検査用の採血に用いられたマウスのうち、IV注射群のすべてのマウスは90日間の試験期間中、生存している。IP注射群では、死亡は30μCiのとき69日後(5匹中1匹)、40μCiのとき10日後および16日後(5匹中2匹)、50μCiのとき7日後、10日後、16日後(それぞれ、5匹中3匹、1匹、1匹)に起こっている。20および30μCiの用量でIV投与した7日後に体重減少が観察されており、その変化は、IV投与量2.5μCiの場合と30μCiの場合(P<0.01)、または7.5μCiの場合と30μCiの場合(P<0.05)を比べると有意である)。90日後までにはそれ以上減少しなかったが、30μCiの場合の体重減少の有意性は後の時点も続いた(処置を受けていない対照に対しP<0.01)。両方の時点で、体重はIV用量レベルと逆相関性がある。10μCi以上のIP投与の7日後にもいくらかの体重減少が観察されるが、その効果は有意ではない。15μCiのIP投与では体重増加の弱まりが有意になっているが(処置を受けていない対照に対しP<0.05)90日後までに体重の回復が見られる。
【0198】
用量に関連する顕著な血液指標値の減少はIV群でもIP群でも起こった。最小の用量レベル(2.5μCi)でも、IV投与またはIP投与の7日後、用量に関連する白血球数および血小板数の平均値の低下が観察される。群の中で(動物間で)値の変動は見られるが、すべての群で90日後に部分的に回復している。最大用量の群で90日後に増加したと見られる肝臓指標ALTとASTを除き、全体的に臨床化学レベルは正常範囲のままである。腎臓指標値は正常範囲内である。本試験の対象臓器は骨髄、腎臓、おそらく肝臓である。この試験の組織病理学的所見は、5μCi以上の212PbのIVおよびIP投与はいずれも骨髄中の赤血球、骨髄球および巨核球系の予想される減少に関連しており、かつ対応する血液指標値の変化に関連することを示している。放射線によって誘発される腎症と一致して7日後と90日後の両方で腎炎性変化もあり(Cohen&Robbins、2003)、それは時間が経つと不可逆性腎不全やエリスロポエチン不足による貧血を引き起こす可能性がある。腎臓は実質的な修復能力を持っているが、放射線感受性臓器であり、放射線治療と共に不可逆性の腎毒性が起こる可能性がある。おそらく治療に関連していると考えられる肝臓の変化は、7日後と90日後の両方で明らかであり、90日後のALTおよびASTの増加(50μCi、IP)と関連している。膀胱、肺、腸、およびリンパ系で特に慎重な試験を実施し、これらのその他の臓器では治療に関連する所見は検出されていない。鉛(元素)の毒性によると考えられる変化はない。
(反復投与毒性)
方法:
【0199】
腫瘍のない雌のCD-1マウスに40μCiの212Pb-DOTAMTATEを1回、20μCiの212Pb-DOTAMTATEを2回、または15μCiの212Pb-DOTAMTATEを3回、注射する。複数回の治療を受ける動物については、投与の間隔を3週間とする。動物の体重を週に3回測定し、終了基準(2日間にわたる15%の体重減少または最初の体重から20%の減少、5日間にわたり毛づくろいをしない、3日間にわたる嗜眠/脱力感、運動性の低下、背中を丸める、下痢、低体温)の兆候について毎日監視する。血液学的分析用の血液を週に1回採取する。
結果と結論:
【0200】
単回投与と分割の場合を比較するため、非GLP反復投与試験で急性毒性の兆候について試験する(後述)。本試験は胸腺欠損ヌードマウスで行われた観察に基づき設計されている。胸腺欠損ヌードマウスには40μCiの線量は深刻な有毒性を持ち、8日後には動物の100%が終了基準に達し、40μCiを2回に分けて20μCi注射として3週間空けて投与しても同じ毒性特性が得られるが、3週間空けた3回の15μCi注射は有意または不可逆的な毒性の兆候を示さない。この所見は、高線量群の生き残った動物の血液毒性が1ヶ月以内に回復可能であるというGLPの知見と関連している。腎臓や肝臓の毒性は累積するため、単回投与による治療と、同じ累積線量になる複数回投与による治療は類似しているはずである(Barendsen、1964年)。3週間空けて放射性物質を分割投与することは、単回注射と比較すると非常に類似した毒性特性を持っていた。これらの結果に基づき、腫瘍のないCD-1マウスでこれら3つの投与計画を比較する新しい試験を行う。
【0201】
212Pb-DOTAMTATEの分割投与と単回投与を比べる毒性試験を腫瘍のないCD-1マウスで実施する(
図37)。動物に単回用量の薬物または3週間ごとに2~3周期の薬物を与える。1回×40μCi群の動物のほぼ40%が注射の9日後に死亡したが、生存していた動物は残りの試験の間生き残ることができる。2回×20μCi群の動物の50%が試験の4週間以内、2回目の投与を受けてから1週間以内に死亡した。最初の2回の注射で生き残った動物は、試験終了まで生き残ることができる。3回・15μCiの
212Pb-DOTAMTATEを投与した動物群では死亡しない。治療を受けた動物はすべて、処置しなかった対照と同じ比率で体重が増加するわけではなく、体重が減少して回復する各治療の後を除き、試験中ずっと類似の体重を維持しているようである。血液毒性が最初に述べた2つの群の死亡原因だと思われる。初期の毒性から回復できる動物は生き残ることができる。これは、薬物注射後の1×40μCi群および2×20μCi群の白血球数が少ないことから明らかである(
図38)。3×15μCiの
212Pb-DOTAMTATE投与を受けた動物でもWBC数は減少するが、各投与後に回復できる。本試験は、薬物の分割投与が同じ累積線量を可能にしながらも回復できる血液学的作用を伴うため最適であると示唆している。
(CD-1マウスの
212Pb-DOTATOCの体内分布試験)
方法:
【0202】
注射時に必要な活性に基づき212Pb-DOTATOCを調製する。チューブに10μCiの212Pbあたり4.1ngのペプチドを添加する。混合物を振盪しながら50℃で10分間保温する。ITLC(即時薄層クロマトグラフィー)でキレート化が>95%であることを確認する。100μlの212Pb-DOTATOCを各マウスの尾に静脈注射する。自動γ線計測器を用いて各臓器と対照のチューブの計測値を決定する。
結果:
【0203】
腫瘍のない雌のCD-1マウスで10μCiの212Pb-DOTATOCを用いて30分後および4時間後の体内分布試験を実施する。データ(
図40)は、腎臓で観察された最大の蓄積に関する急速な薬物クリアランスを示しており、薬物注射の30分後には19%ID/g、4時間後には22%ID/gが観察されている。このデータは、オクトレオチド誘導体および他の同位体で観察されたものと一致している(1、2)。この薬物は、
212Pb-DOTATOCを注射してから4時間後までに他のすべての臓器でほぼ検出できなくなる。DOTATOCおよび
212Pb-DOTATOCについてHPLCを実施する。システム適合性試験は、DOTATOCの保持時間が5.357分(
図41)であり、Pb-DOTATOCの保持時間が5.54分(図示せず)であることを示している。
212Pb-DOTATOCをHPLCに供し、画分を15秒間隔で合計10分間採取する。画分を自動γ線計測器で定量し、放射性測定のプロットをHPLCクロマトグラムに重ね合わせる。放射性測定の最大値は6.5分で観察される。このことは、
212Pb-DOTATOCが非放射性Pb-DOTATOCで観察された保持時間の15%以内であることを示唆している。
(ADRUCIL(登録商標)と
212Pb-DOTAMTATEで2週間・3週間の治療周期で治療した場合のAR42J異種移植片を持つ胸腺欠損ヌードマウスに関する併用治療効果試験)
方法:
【0204】
胸腺欠損ヌードマウスにAR42J腫瘍を与え、腫瘍が約300mm
3に達するまで成長させる。治療群のマウスに、100μlのADRUCIL(登録商標)(15mg/kg)を週に1回、合計9回注射する。10μCiの
212Pb-DOTAMTATEを2週間または3週間の間隔で合計3回の治療で投与する。ADRUCIL(登録商標)治療の後24時間以内に
212Pb-DOTAMTATEを投与する。ペプチド4.1ngあたり10μCiを使用し、累積注射線量は30μCiである。動物を毎日監視し、週に3回ノギスで測定し、体重を測定する。終了基準を満たすと動物を屠殺する。
結果:
【表2】
【0205】
図42および43を参照すると、細胞注入後、ADRUCIL(登録商標)を単独で注射した動物の生存期間中央値は2.4週間であったのに対し、生理食塩水単独投与群の生存期間中央値は3.1週間であった。3週間の間隔で
212Pb-DOTAMTATEのみを3回注射したマウスの生存期間中央値は9.14週間であるのに対し、ADRUCIL(登録商標)との併用治療の結果、より長い11.1週間という生存期間中央値が得られ、20%のマウスは細胞注入の21週間後も生存している。このことは、ADRUCIL(登録商標)放射線増感剤の添加によって3週間の
212Pb-DOTAMTATE治療周期では生存期間中央値が18%改善することを示唆している。
【0206】
興味深いことに、212Pb-DOTAMTATEの注射の間隔を短縮することによって、より高い効果が観察される。2週間の間隔で3×10μCiの212Pb-DOTAMTATEを投与した治療群は生存期間中央値が11.9週間であり、動物の46%が細胞注入の21週間後でも残っていた。マウスを2週間の間隔で放射線増感剤ADRUCIL(登録商標)と212Pb-DOTAMTATEで治療したときに最大の効果が観察される。動物の85%が細胞注入の21週間後に生存しており、腫瘍はすべて200mm3の定量限界を下回っていた。
(ソマトスタチンを発現する神経内分泌腫瘍の患者に関する203PB-DOTAMTATEの線量測定と体内分布)
方法:
【0207】
ヒトでは初の非盲検の203Pb-DOTAMTATE単回投与、線量測定、および体内分布試験に合計6名の患者が登録されている。
【0208】
すべての患者(女性1名、男性5名)に平均線量4.94(4.66~5.26)mCiの203Pb-DOTAM-TATEを与え、注射の1時間後、4時間後、24時間後、および48時間後にSPECT-CT走査を行う。全6名の患者の民族はコーカサス人種である。
【0209】
203Pb-DOTAMTATE画像化から得た薬物動態学的データを用いて、203Pb-DOTAMTATE画像化による吸収線量を計算する。次に、このデータを外挿して将来の標的α粒子治療(TAT)のために212Pb-DOTAMTATEの投与後の組織吸収線量の予測値を計算する。
【0210】
203Pb-DOTAM-TATEの線量測定から得た測定値データによれば、212Biおよび212Poのα粒子放射に関して生物学的効果比(RBE)を3とした場合、腎臓と肝臓は212Pbについて最大吸収線量(それぞれ、平均で19mGy/MBq、17mGy/MBq)を受ける。外部照射療法の経験は、全腎臓体積に対する18~23Gyの照射は5年間で5%の腎損傷リスクをもたらすことを示唆している。肝臓は27~30Gyに耐えることができる(1日2回に分割、1回あたり1.5Gy)。脾臓は最大吸収線量を受けるが、それは生命維持に関わる臓器ではないため、線量制限臓器ではない。この投与された活性では、骨髄、肺、心臓壁、骨形成細胞および脾臓への線量はそれぞれ1.6Gy、2.5Gy、3.7Gy、0.5Gy、31Gyだと考えられる。毒性限度が十分に確立されていない脾臓を除き、これらの線量はすべてこれらの臓器の毒性限度を下回っている。
(68GA-DOTATATEの陽電子放射断層撮影・コンピュータ断層撮影(PET/CT)走査と203Pb-DOTAMTATEの単一光子放射断層撮影・X線断層撮影(SPECT/CT)走査の比較)
【0211】
これらの2つの画像診断方式に関する報告を、6名の登録患者に関する他の試験の結果を知らない2名の核医学の医師が独立して読む。68Ga-DOTATATE走査によって総数で177個の6名の患者の病変が検出されるのに対し、109個の病変が203Pb-DOTAMTATEによって検出できる。これらの2つの方式で検出された病変の間には非常に密接な相関(相関係数0.89)がある。臓器ごとの発見された病変の総数は、内臓病変(42対38)と結節病変(12対13)では同程度であるが、骨格病変(123対58)では一致しない。68Gaを用いるPET/CT走査は、203Pb-DOTAMTATE(合計34)と比べて、中軸骨格(椎骨、胸郭、骨盤)領域(合計95)の骨格病変の検出により感受性が高い。
結果:
【0212】
68Ga-DOTATATEのPET/CTと203Pb-DOTAMTATEのSPECT/CTとの間に統計的に有意な差は観察されず、それにより、68Ga-DOTATATEを203Pb-SPECT/CTの代わりに使用して212Pb-DOTAMTATEを用いる標的α線治療(TAT)を受ける患者の適格性を評価できることが示される。
【0213】
線量測定分析に基づき、腎臓に対する理論上の最大吸収線量は23Gyと推定され、これは212Pb-DOTA-MTATEの累積線量32.7mCiに相当する(合計3周期に対して治療周期あたり10.9mCi)。
【0214】
本明細書の方法は任意の順序で実施されてもよく、必要に応じて繰り返されてもよい。
【0215】
実施態様は様々な実装例および実施例を参照して説明されているが、当然ながら、これらの実施形態は例示的なものであり、本発明の対象の範囲はそれらに限定されるものではない。多くの変形、修正、追加および改良が可能である。たとえば、本明細書に記載の技術の一部または全体の様々な組み合わせを実施してもよい。
【0216】
本明細書に単一の例として記載されている構成要素、操作、または構造について、複数の例を提供してもよい。一般に、例示的な構成において別々の構成要素として提示された構造および機能を、組み合わせた構造または構成要素として実施してもよい。同様に、単一の構成要素として提示された構造および機能を別々の構成要素として実施してもよい。これらやその他の変形、修正、追加、および改良は本発明の対象の範囲内となり得る。
【0217】
本明細書および添付の図面が、本明細書の特許請求の範囲にない任意のさらなる対象を開示する限り、本発明は公共に捧げられるものではなく、このような追加の発明について1件以上の出願を提出し特許請求する権利は守られている。なお、本明細書では非常に狭い特許請求の範囲が提示される場合があるが、本発明の範囲は請求項によって提示される範囲よりもはるかに広い。本出願の優先権の利益を主張する出願でより広い特許請求の範囲が提出される可能性がある。