(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】シート状エポキシ樹脂組成物およびその硬化物、ならびに封止用シート
(51)【国際特許分類】
C08G 59/24 20060101AFI20220607BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20220607BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220607BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220607BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
C08G59/24
C08G59/68
C08L63/00 A
B32B27/38
H05B33/04
(21)【出願番号】P 2020511716
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013183
(87)【国際公開番号】W WO2019194041
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2018070961
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 正利
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐五
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031465(JP,A)
【文献】特開2013-227420(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129670(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/014037(WO,A1)
【文献】特開2016-179564(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235824(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00-59/72
G09F 9/00
H01L27/32
H01L51/50
H05B33/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるエポキシ系化合物と、
【化1】
(B)芳香環を有し、かつ重量平均分子量が3000~100000である、エポキシ樹脂と、
(C)下記一般式(2)で表されるカチオン重合開始剤と、
【化2】
(一般式(2)中、R
1は炭素数1~4のアルキル基またはナフチルメチル基を表し、
R
2は炭素数1~4のアルキル基を表す)
を含み、
前記(B)エポキシ樹脂の含有量が
60質量%以上である、
シート状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)エポキシ樹脂のエポキシ当量が900g/eq以上である、
請求項1に記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
示差走査熱量計により測定される発熱開始温度が、60℃以上90℃以下であり、かつ85℃で50分加熱したときのエポキシ反応率が80%以上である、
請求項1または2に記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
溶融温度が35℃以上60℃以下であり、かつ
40℃で17時間保存後の溶融温度の変化が10℃以内である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
厚さ20μmのシート状エポキシ樹脂組成物を85℃で50分間硬化させたときの、波長550nmの光の透過率が、90%以上である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を含む、
封止用シート。
【請求項7】
前記シート状エポキシ樹脂組成物からなる層の少なくとも一方の面に、保護フィルムを有する、
請求項6に記載の封止用シート。
【請求項8】
表示素子の面封止に用いられる、
請求項6または7に記載の封止用シート。
【請求項9】
前記表示素子が有機EL素子である、
請求項8に記載の封止用シート。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載のシート状エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状エポキシ樹脂組成物およびその硬化物、ならびに封止用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro-Luminescence)素子は、消費電力が少ないことから、近年、ディスプレイや照明装置などに多く用いられている。有機EL素子は、大気中の水分や酸素によって劣化しやすいことから、封止材等によって封止して使用することが一般的である。
【0003】
従来、有機EL素子を封止するための封止用シートとして、エポキシ樹脂を含むシート状樹脂組成物が提案されており、例えば、低分子量エポキシ樹脂と、高分子量エポキシ樹脂と、潜在性イミダゾール系化合物と、シランカップリング剤と、を含むシート状エポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【0004】
一方、各種表示素子を封止するための液状のシール材として、ジシクロペンタジエンジオールジグリシジルエーテルと、オキセタン環を有する化合物と、光カチオン重合開始剤と、を含む組成物が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-112956号公報
【文献】特開2006-179318号公報
【文献】特開2003-327951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、有機EL素子等の封止用シートは通常、表示素子と密着させた後、当該封止用シートを硬化させて用いられる。しかしながら、封止用シートを硬化させる際の温度が高すぎると、硬化時の熱によって有機EL素子が影響を受けてしまったり、表示装置の生産性が低下する、との課題が生じる。
【0007】
一方で、封止用シートの硬化性が高すぎると、封止用シートの保管時に、封止用シートが硬化してしまい、表示素子と十分に貼り合わせることができない、という課題が生じる。また特に、封止用シートは、シート状に加工したり、表示素子に貼り合わせるための装置にセットしたりする必要があり、液状の封止材より製造環境温度に晒される時間が長い。そのため、液状の封止材と比較して、より高い保存安定性が求められる。しかしながら、従来の封止用シートでは良好な硬化性と、高い保存安定性との両立が難しく、これらの要求を同時に満たすシート状の樹脂組成物は得られていないのが実状であった。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものである。具体的には、比較的低温で硬化が可能であり、さらには保存安定性に優れるシート状エポキシ樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第1は、以下のシート状エポキシ樹脂組成物に関する。
[1](A)下記一般式(1)で表されるエポキシ系化合物と、(B)芳香環を有し、かつ重量平均分子量が3000~100000である、エポキシ樹脂と、(C)下記一般式(2)で表されるカチオン重合開始剤と、を含み、前記(B)エポキシ樹脂の含有量が45質量%以上である、シート状エポキシ樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(一般式(2)中、R
1は炭素数1~4のアルキル基またはナフチルメチル基を表し、
R
2は炭素数1~4のアルキル基を表す)
【0010】
[2]前記(B)エポキシ樹脂のエポキシ当量が900g/eq以上である、[1]に記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
[3]示差走査熱量計により測定される発熱開始温度が、60℃以上90℃以下であり、かつ85℃で50分加熱したときのエポキシ反応率が80%以上である、[1]または[2]に記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
【0011】
[4]溶融温度が35℃以上60℃以下であり、かつ40℃で17時間保存後の溶融温度の変化が10℃以内である、[1]~[3]のいずれかに記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
[5]厚さ20μmのシート状エポキシ樹脂組成物を85℃で50分間硬化させたときの、波長550nmの光の透過率が、90%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のシート状エポキシ樹脂組成物。
【0012】
また、本発明の第2は、以下の封止用シートおよび硬化物に関する。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を含む、封止用シート。
[7]前記シート状エポキシ樹脂組成物からなる層の少なくとも一方の面に、保護フィルムを有する、[6]に記載の封止用シート。
[8]表示素子の面封止に用いられる、[6]または[7]に記載の封止用シート。
[9]前記表示素子が有機EL素子である、[8]に記載の封止用シート。
[10]上記[1]~[5]のいずれかに記載のシート状エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシート状エポキシ樹脂組成物は、比較的低温で硬化が可能であり、その一方で高い保存安定性を有する。したがって、各種表示素子を封止するための封止材等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.シート状エポキシ樹脂組成物
本発明のシート状エポキシ樹脂組成物は、例えば封止用シート(面封止用シート)、透明コート用シートなどに用いられ、特に封止用シート(面封止用シート)に好適に用いられる。以下、シート状エポキシ樹脂組成物が封止用シート(面封止用シート)に用いられる場合を例に説明する。なお、透明コート用シートとは、例えば、などの基板と液晶パネル等の画像表示装置の間を埋める透明性が要求される材料のことをいう。
【0015】
表示素子等を面封止するためのシート状エポキシ樹脂組成物には、表示素子に影響を及ぼさないよう、比較的低温で軟化して表示素子と密着したり、比較的低い温度で硬化が可能であることが求められる。一方で、シート状エポキシ樹脂組成物には、表示素子に貼り合わせる前には変形したり硬化したりし難いこと、すなわち保存安定性も求められる。しかしながら、従来のシート状エポキシ樹脂組成物では、良好な硬化性と、貼り合わせ前の保存安定性との両立が難しい、との課題があった。
【0016】
これに対し、本発明者らの鋭意検討によって、(A)特定の構造を有するエポキシ系化合物と、(B)芳香環を有し、かつ重量平均分子量が3000~100000であるエポキシ樹脂と、(C)特定の構造を有するカチオン重合開始剤と、を組み合わせることで、適度な温度(例えば60℃程度)で表示素子との貼り合わせが可能であること、さらには比較的低温(例えば90℃以下)で硬化可能であること、表示素子との貼り合わせ前の保存安定性が非常に良好であることが見出された。
【0017】
本発明のシート状エポキシ樹脂組成物が、これらを兼ね備える理由は、以下のように考えられる。シート状エポキシ樹脂組成物に(B)エポキシ樹脂が一定量含まれるため、保存時にはシート状エポキシ樹脂組成物が過度に軟化したり溶融したりし難く、その形状を保持することが可能となる。また(B)エポキシ樹脂のみであると、硬化温度が高くなりやすいが、(A)エポキシ系化合物が共に含まれているため、比較的低温(例えば90℃以下)でもエポキシ基が反応しやすくなり、シート状エポキシ樹脂組成物の硬化性が良好になる。
【0018】
また、(C)特定の構造を有するカチオン重合開始剤が、上記(A)エポキシ系化合物および(B)エポキシ樹脂と組み合わされているため、室温等では(A)エポキシ系化合物や(B)エポキシ樹脂の硬化反応が促進され難く、シート状エポキシ樹脂組成物の保存安定性が良好になる。一方で、(C)カチオン重合開始剤は、90℃以下で活性化するため、シート状エポキシ樹脂組成物を比較的低温でも硬化させることが可能となる。以下、本発明のシート状エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分について、詳しく説明する。
【0019】
(A)エポキシ系化合物
(A)エポキシ系化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であり、ジシクロペンタジエン骨格を有する。ここで、ジシクロペンタジエン骨格に結合する基の結合位置は、特に制限されない。シート状エポキシ樹脂組成物には、下記一般式(1)で表される構造の化合物が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【化3】
【0020】
上記(A)エポキシ系化合物は、23℃で液状である。上記(A)エポキシ系化合物がジシクロペンタジエン構造を有するため、エポキシ基の反応性が良好になりやすく、上述のように、シート状エポキシ樹脂組成物が比較的低温でも硬化しやすくなる。
【0021】
(A)エポキシ系化合物は、公知の方法で調製したものであってもよいが、市販品であってもよい。(A)エポキシ系化合物の市販品の例には、ADEKA社製EP-4088L、EP-4088S等が含まれる。
【0022】
ここで、シート状エポキシ樹脂組成物100質量部に含まれる(A)エポキシ系化合物の量は、10~50質量部であることが好ましく、10~40質量部であることがより好ましく、15~30質量部であることがさらに好ましい。(A)エポキシ系化合物の量が10質量部以上であると、90℃以下で(A)エポキシ化合物および(B)エポキシ樹脂が反応しやすくなり、シート状エポキシ樹脂組成物の硬化性が良好になりやすい。一方、(A)エポキシ系化合物の量が50質量部以下であると、相対的に(B)エポキシ樹脂の量が十分になりやすく、シート状エポキシ樹脂組成物の保存安定性が高まりやすくなる。
【0023】
(B)エポキシ樹脂
(B)エポキシ樹脂は、分子内に芳香環およびエポキシ基をそれぞれ1つ以上有し、かつ重量平均分子量が3000~100000である樹脂であれば特に制限されない。シート状エポキシ樹脂組成物には、(B)エポキシ樹脂が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0024】
(B)エポキシ樹脂組成物は、通常、常温(23℃)で固形である。(B)エポキシ樹脂の重量平均分子量は、6000~60000であることが好ましく、7000~40000であることがより好ましい。(B)エポキシ樹脂の分子量が3000以上であると、(B)エポキシ樹脂が常温で固形になりやすい。一方、(B)エポキシ樹脂の重量平均分子量が1000000以下であると、シート状エポキシ樹脂組成物を表示素子等と貼り合わせる際に、シート状エポキシ樹脂組成物の流動性を高めることができ、表示素子等と密着させやすくなる。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算値である。
【0025】
また、(B)エポキシ樹脂のエポキシ当量は、900g/eq以上20000g/eq以下であることが好ましく、1000g/eq以上200000g/eq以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が900g/eq以上であると、シート状エポキシ樹脂組成物の常温でのタック性が小さくなる。その結果、シート状エポキシ樹脂組成物を表示素子と貼り合わせる際のハンドリング性が良好になりやすく、表示素子上に正確に貼り合わせやすくなる。一方、(B)エポキシ樹脂のエポキシ当量が過度に大きくなると、シート状エポキシ樹脂組成物作製時に、溶剤への溶解性が低下したり、(A)エポキシ系化合物との相溶性が悪くなったりする等という課題が生じることがある。そこで、(B)エポキシ樹脂のエポキシ当量は20000g/eq以下であることが好ましい。(B)エポキシ樹脂のエポキシ当量が上記範囲であると、シート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度が適度な範囲となり、所望の温度で表示素子と貼り合わせることが可能となる。なお、上記(B)エポキシ樹脂に、複数のエポキシ樹脂が含まれる場合、各エポキシ樹脂のエポキシ当量が上記範囲であることが好ましい。
【0026】
(B)エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基を1つ以上含んでいればよいが、上述のエポキシ当量を満たすように、複数のエポキシ基を含むことが好ましい。また、(B)エポキシ樹脂は、分子中に芳香環を1つ以上含んでいればよく、芳香環の数は特に限定されない。
【0027】
(B)エポキシ樹脂の例にはビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールE型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAD型、またはこれらの混合型等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビフェニルノボラック型、ビスフェノールノボラック型、ナフトールノボラック型、トリスフェノールノボラック型、ジシクロペンタジエンノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフチル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型、トリフェノールエタン型、トリフェノールプロパン型等のトリフェノールアルカン型エポキシ樹脂;等が含まれる。
【0028】
(B)エポキシ樹脂は、上記の中でもビスフェノール型エポキシ樹脂、またはビフェニル型エポキシ樹脂が好ましい。ただし、エポキシ樹脂中のビスフェノールF骨格の量が多くなると、(B)エポキシ樹脂の軟化点が低下する傾向にある。したがって、シート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度を比較的高い温度とする場合には、ビスフェノールF骨格の少ないエポキシ樹脂とすることが好ましい。
【0029】
シート状エポキシ樹脂組成物100質量部に含まれる(B)エポキシ樹脂の量は、45質量部以上であり、50~85質量部であることが好ましく、60~75質量部であることがより好ましい。(B)エポキシ樹脂の量が50質量部以上であると、シート状エポキシ樹脂組成物の保存安定性が高まりやすく、さらにはシート状エポキシ樹脂組成物の貼り合わせ温度が適度な範囲に収まりやすくなる。
【0030】
(C)カチオン重合開始剤
(C)カチオン重合開始剤は、下記一般式(2)で表される化合物である。シート状エポキシ樹脂組成物に(C)カチオン重合開始剤は1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【化4】
上記一般式(2)中、R
1は炭素数1~4のアルキル基またはナフチルメチル基を表し、ナフチルメチル基が特に好ましい。一方、R
2は炭素数1~4のアルキル基を表し、メチル基が特に好ましい。
【0031】
すなわち、(C)カチオン重合開始剤は、特に下記式(2a)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
【0032】
上記一般式(2)(もしくは式(2a))で表されるように、スルホニウムに結合する基がヒドロキシフェニル基であると、シート状エポキシ樹脂組成物の硬化速度が過度に高まらず、シート状エポキシ樹脂組成物の保存安定性が高まる。また、上記(C)カチオン重合開始剤のアニオンが、SbF6
-であると、比較的低温でシート状エポキシ樹脂組成物を硬化させることが可能となる。
【0033】
(C)カチオン重合開始剤は、公知の方法で調製したものであってもよく、市販品であってもよい。市販品の例には、三新化学工業社製 商品名SI-60等が含まれる。
【0034】
シート状エポキシ樹脂組成物100質量部に含まれる(C)カチオン重合開始剤の量は、1~10質量部であることが好ましく、2~8質量部であることがより好ましく、2~5質量部であることがさらに好ましい。(C)カチオン重合開始剤の量が1質量部以上であると、シート状エポキシ樹脂組成物の硬化性が良好になりやすい。一方、(C)カチオン重合開始剤の量が10質量部以下であると、シート状エポキシ樹脂組成物の保存安定性が高まりやすくなる。
【0035】
(D)その他の成分
シート状エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を大きくは損なわない範囲において、上述の(A)エポキシ系化合物、(B)エポキシ樹脂、および(C)カチオン重合開始剤以外の成分が含まれていてもよい。
【0036】
その他の成分の例には、その他の樹脂や、充填材、改質剤、安定剤等が含まれる。
その他の樹脂の例には、上記(A)エポキシ化合物および(B)エポキシ樹脂に相当しないエポキシ樹脂や、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエーテル、ポリエステル、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、キシレン樹脂、ケトン樹脂、セルロース樹脂、フッ素系オリゴマー、シリコン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマー等が含まれる。シート状エポキシ樹脂組成物には、これらが1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0037】
充填材の例には、ガラスビーズ、スチレン系ポリマー粒子、メタクリレート系ポリマー粒子、エチレン系ポリマー粒子、プロピレン系ポリマー粒子等が含まれる。シート状エポキシ樹脂組成物には、充填材が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0038】
改質剤の具体例には、重合開始剤、老化防止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、溶剤、シランカップリング剤等が含まれる。これらの改質剤は1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0039】
一方、安定剤の具体例には、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤等が含まれる。シート状エポキシ樹脂組成物には、これらが1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0040】
(E)シート状エポキシ樹脂組成物の製造方法
上述のシート状エポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、任意の方法で製造することができる。本発明のシート状エポキシ樹脂組成物は、例えば(A)エポキシ系化合物、(B)エポキシ樹脂、および(C)カチオン重合開始剤を含む樹脂組成物を、各種溶剤等に30℃以下で溶解させてワニスとし、これを基材上にシート状に塗布し、乾燥させることで作製することができる。
【0041】
溶剤の例には、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;エーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコ-ルモノアルキルエーテル、エチレングリコ-ルジアルキルエーテル、プロピレングリコールまたはジアルキルエーテル等のエーテル類;N-メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルフォルムアルデヒド等の非プロトン性極性溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等が含まれる。
【0042】
なお(A)エポキシ系化合物、(B)エポキシ樹脂、(C)カチオン重合開始剤、および溶剤は一度に混合してもよく、溶剤に(B)エポキシ樹脂等を溶解させた後、他の成分を添加してもよい。混合方法の例には、公知の攪拌法や、三本ロールで混練する方法等が含まれる。
【0043】
また、ワニスの塗布方法は特に限定されず、その例には、スクリーン印刷や、ディスペンサー塗布、各種ロール法等が含まれる。また、ワニスを塗布する基材の種類に特に制限されず、公知の離型フィルム等とすることができる。また、ワニスの塗布厚みは、目的とするシート状エポキシ樹脂組成物の膜厚に応じて適宜選択され、乾燥後のシート状エポキシ樹脂組成物の膜厚に合わせて適宜選択される。
【0044】
ワニスの乾燥温度および乾燥時間は、(A)エポキシ系化合物および(B)エポキシ樹脂が硬化しない温度および時間とする。例えば乾燥温度は、20~100℃であり、乾燥時間は、例えば1分~3時間程度とすることができる。乾燥方法は、特に限定されず、例えば熱風乾燥、真空乾燥等がある。
【0045】
(F)シート状エポキシ樹脂組成物の物性等
シート状エポキシ樹脂組成物の厚みは、用途に応じて適宜選択されるが、例えば表示素子の封止材とする場合には、1~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましく、10~30μmであることがさらに好ましい。
【0046】
シート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度は、35℃以上60℃以下であることが好ましく、シート状エポキシ樹脂組成物の作業時のタック性をより低くする場合には、40~56℃であることが好ましい。シート状エポキシ樹脂組成物と表示素子とを貼り合わせる際、シート状エポキシ樹脂組成物を軟化(溶融)させることで、表示素子との隙間が生じ難く、密着させることが可能となる。シート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度が60℃以下であると、シート状エポキシ樹脂組成物を比較的低い温度(60℃以下)で表示素子に貼り合わせることが可能となる。一方で、シート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度が35℃以上であると、シート状エポキシ樹脂組成物の作業時のタック性が低く、作業性が良好になりやすい。また、シート状エポキシ樹脂組成物の保存時等には、シート状エポキシ樹脂組成物が変形したりし難く、その形状を維持することが可能となる。
【0047】
溶融温度は、以下のように測定することができる。シート状エポキシ樹脂組成物を、長さ約30mm、幅約5mmに切り出して短冊状の試験片を作製する。この試験片を、ホットプレート上で加熱したガラス板上に密着させる。その後、当該試験片を180°方向へ徐々にガラス板から剥離する。この操作を、ホットプレートの設定温度40℃から始め、設定温度を1℃上げる毎に短冊状の試験片を新たに用意して繰り返し、剥離時にシート状エポキシ樹脂組成物からなる層の粘着剥離性が最も大きくなる温度を、溶融温度とする。ただし40℃で、すでに粘着剥離性の大きいものは25℃より溶融温度の測定を実施する。
【0048】
また、40℃で17時間保存した後のシート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度は、保存前のシート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度±10℃の範囲に収まることが好ましく、±5℃以内であることがより好ましい。当該温度変化は、シート状エポキシ樹脂組成物の保存安定性の指標となり、温度変化が10℃以下であれば、保存時に硬化反応等が生じ難いといえる。また、保存時にシート状エポキシ樹脂組成物の溶融温度が大きく変化すると、その変動に合わせてシート状エポキシ樹脂組成物を表示素子等に貼り合わせるときの温度や圧力等を変更する必要が生じる。これに対し、40℃で17時間保存した後の溶融温度変化が10℃以内であれば、貼り合わせ時の条件を大きく変更する必要がなく、効率よく表示素子等の封止を行うことが可能となるという利点もある。
【0049】
一方、シート状エポキシ樹脂組成物の示差走査作熱量計(DSC)により測定される発熱開始温度は60℃以上90℃以下であることが好ましく、65~85℃であることがより好ましい。発熱開始温度が60℃以上であると、シート状エポキシ樹脂組成物の成形時や、シート状エポキシ樹脂組成物の保存時等に(A)エポキシ系化合物や(B)エポキシ樹脂が硬化し難く、保存安定性が良好となる。一方、発熱開始温度が90℃以下であると、シート状エポキシ樹脂組成物を90℃以下で硬化させることが可能となり、表示素子等に影響を及ぼし難くなる。上記発熱開始温度は、以下の方法で測定することができる。まず、シート状エポキシ樹脂組成物10mgを採取し、DSC測定用アルミセルに詰め、測定試験サンプルを準備する。そして、当該測定試験サンプルについて、昇温速度5℃/分、測定温度範囲:20℃~300℃にて温度特性を測定することで、発熱開始温度を特定することができる。
【0050】
一方、シート状エポキシ樹脂組成物を85℃で50分加熱したときのエポキシ反応率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。当該エポキシ反応率は、85℃でシート状エポキシ樹脂組成物を硬化させたときの硬化性の指標であり、その値が高いほど、シート状エポキシ樹脂組成物が低温でも硬化しやすいことを表す。そして、上記エポキシ反応率が80%以上であれば、シート状エポキシ樹脂組成物を90℃以下でも、十分に硬化可能であるといえる。
【0051】
上記エポキシ反応率は、以下のように測定することができる。まず、あらかじめ85℃に設定したオーブン中にシート状エポキシ樹脂組成物(サンプル)を載置する。そして、サンプル投入から50分後に測定サンプルを取り出す。そして、昇温速度5℃/分、測定温度範囲:20℃~300℃にてDSCで硬化品の発熱量を特定する。そして、測定された発熱量および上述の未硬化の状態の発熱量に基づき、下記に示す式でエポキシ反応率を求める。
エポキシ反応率(%)=(未硬化品の発熱量-硬化後の発熱量)/未硬化品の発熱量×100
【0052】
また、厚さ20μmのシート状エポキシ樹脂組成物を85℃で50分間硬化させたときの、波長550nmの光の透過率が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上であることがさらに好ましい。シート状エポキシ樹脂組成物の硬化物の光の透過率が90%以上であると、シート状エポキシ樹脂組成物を、光透過性が要求される用途にも用いることが可能となる。
【0053】
シート状エポキシ樹脂組成物の硬化物の光線透過率は、以下の手順で測定することができる。
基材フィルムと、当該基材フィルム上に作製された厚み20μmのシート状エポキシ樹脂組成物とからなる積層体を、長さ約60mm、幅約40mmに切り出して試験片を得る。この試験片のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を、70℃に加熱したホットプレート上で加熱したガラス板(松浪硝子製No.3、厚さ0.3mm、70mm×50mm)に気泡の入らぬようにロールにて転写して貼り合わせる。当該試験片をホットプレート上から外し、3分間放冷する。その後、基材フィルムを剥離して、ガラス板上のシート状エポキシ樹脂組成物をオーブンにて85℃で50分間加熱して、硬化物とする。シート状エポキシ樹脂組成物の硬化物が形成されたガラス板の、波長550nmにおける光線透過率を、紫外可視光分光光度計(島津製作所 UV-2550)を用いて測定する。測定では、ガラス板単独の光線透過率をベースラインとする。なお、透過率の測定は、厚み20μm以外のシート状エポキシ樹脂組成物を用いて行ってもよい。この場合、得られた透過率をシート状エポキシ樹脂組成物の厚みが20μmであるときの透過率に換算する。
【0054】
2.封止用シート
本発明の封止用シートは、上述のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を含む。本発明の封止用シートは、基材フィルムと、当該基材フィルム上に配置された上述のシート状エポキシ樹脂組成物と、当該シート状エポキシ樹脂組成物上に配置された保護フィルムとの積層体等とすることができる。
【0055】
基材フィルムまたは保護フィルムの例には、公知の離型フィルムが含まれる。これらのフィルムは水分バリア性やガスバリア性を有するフィルム等であることが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム等とすることができる。基材フィルムの厚さは、フィルム材質にもよるが、有機EL素子等の被封止材への追従性の観点から、50μm程度とすることができる。一方、保護フィルムは、シート状エポキシ樹脂組成物からなる層上にラミネートされていることが好ましく、ラミネートは、例えばラミネーターを用いて70℃程度で行うことができる。保護フィルムの厚さも、フィルム材質によるが、20~40μm程度とすることができる。
【0056】
本発明の封止用シートは、用途に応じてガスバリア層をさらに含んでいてもよい。ガスバリア層は、水分やガスの透過を抑制する層である。このようなガスバリア層は、例えばシート状エポキシ樹脂組成物に隣接して配置すること等ができる。
【0057】
ガスバリア層を構成する材料の例にはAl、Cr、Ni、Cu、Zn、Si、Fe、Ti、Ag、Au、Co等の金属;これら金属の酸化物;これら金属の窒化物;これら金属の酸化窒化物;ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート等の樹脂等が含まれる。ガスバリア層は、1種の材料で構成されてもよいし、2種以上の材料で構成されてもよい。なお、封止用シートに光反射性が要求される場合(例えば、ボトムエミッション方式の有機EL素子の封止等に用いられる場合)、ガスバリア層を光反射率の高い層とすることが好ましく、ガスバリア層は、例えばAlやCu等からなる層とすることができる。一方、封止用シートに光透過性が要求される場合(例えばトップエミッション方式の有機EL素子等の封止に用いられる場合)、ガスバリア層を光透過性の高い層とすることが好ましく、ガスバリア層は、例えばポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート等からなる層とすることができる。ガスバリア層の厚みは、10~3000μm程度とすることができる。
【0058】
ガスバリア層の形成方法は、特に制限されず、ドライプロセスとしては、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の各種PVD法;プラズマCVD等のCVD法等が含まれる。ウエットプロセスとしては、めっき法、塗布法等が含まれる。
【0059】
本発明の封止用シートは、シート状エポキシ樹脂組成物からなる層を所望の被封止材と密着させた後、シート状エポキシ樹脂組成物からなる層を硬化させて用いられる。封止対象である被封止材は、特に限定されないが、例えば有機EL素子や、液晶素子、LED素子等が含まれる。
【実施例】
【0060】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0061】
[材料]
実施例および比較例では、以下の材料を用いた。
【0062】
(A)エポキシ系化合物
・EP-4088L:ADEKA社製 下記一般式で表されるジシクロペンジエン型エポキシ系化合物 エポキシ当量165g/eq
【化6】
【0063】
(B)エポキシ樹脂
・jER4005P:三菱ケミカル社製 ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量950g/eq、Mw7582
・YX6954B35:三菱ケミカル社製 ビフェニル型エポキシ樹脂、エポキシ当量10,000g/eq、Mw36691
・jER4275:三菱ケミカル社製 ビスフェノールA/ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量8,400g/eq、Mw58287
【0064】
(その他のエポキシ樹脂)
・YL-983U:三菱ケミカル社製 ビスフェノールF型エポキシ樹脂 エポキシ当量 165g/eq、Mw398
・CEL2021P:ダイセル化学社製 シクロアルケンオキサイド型エポキシ樹脂、エポキシ当量128g/eq、Mw252
・jER1001:三菱ケミカル社製 ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量 450g/eq、Mw2322
【0065】
(C)カチオン重合開始剤
・SI-60:三新化学工業社製 下記一般式(2a)で表される六フッ化アンチモン型カチオン重合開始剤
【化7】
【0066】
(その他のカチオン重合開始剤)
・SI-80:三新化学工業社製 下記一般式(2b)で表される六フッ化アンチモン型カチオン重合開始剤
【化8】
・SI-300:三新化学工業社製 下記一般式(2c)で表される、六フッ化リン型カチオン重合開始剤
【化9】
・SI-B2A:三新化学工業社製 下記一般式(2d)で表される、フッ化ボレート型カチオン重合開始剤
【化10】
・SI-B7:三新化学工業社製 下記一般式(2e)で表される、フッ化ボレート型カチオン重合開始剤
【化11】
【0067】
(D)安定剤
・SI助剤:三新化学工業社製 カチオン重合用ポットライフ安定剤
・PEG4000:ポリエチレングリコール4000 和光純薬工業社性 和光1級
・1,4-BD:1,4-ブタンジオール 和光純薬工業社製 和光特級
【0068】
(E)カップリング剤
・KBM-403:信越化学工業株式会社製
【0069】
(F)溶剤
・メチルエチルケトン(MEK)
【0070】
[実施例1]
フラスコに、30質量部のEP-4088Lと、50質量部のjER4005Pと、20質量部(固形分換算)のYX6954B35とを投入し、これに100質量部のメチルエチルケトンを加え、室温で攪拌溶解した。この溶液に、2.5質量部のカチオン重合開始剤SI-60と1質量部のKBM-403、とを添加して室温で攪拌し、ワニスを調製した。
【0071】
調製したワニスを、塗工機を用いて、基材フィルム(離型処理PETフィルム A53(帝人フィルムソリューション社製)厚み50μm)に、乾燥後厚みが約20μmとなるようにアプリケーターで塗工した。このフィルムを90℃イナートオーブン中で、3分間乾燥させて、ワニス塗工膜中のMEKを乾燥除去して、基材フィルム上にシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を形成した。さらに、シート状エポキシ樹脂組成物からなる層上に、保護フィルム(離型処理PETフィルム A31(帝人フィルムソリューション社製)厚み38μm)を70℃で熱圧着し、封止用シートを得た。なお、保護フィルムは適宜剥がし、シート状エポキシ樹脂組成物からなる層の表面を露出させて使用した。
【0072】
[実施例2~10、および比較例1~10]
表1および表2に示す組成比率(質量比)で実施例1と同様にワニスを調製した。これを、塗工し乾燥させて、シート状エポキシ樹脂組成物からなる層を有する封止用シートを得た。
【0073】
[評価]
実施例および比較例で得られたシート状エポキシ樹脂組成物からなる層の物性値を以下の方法で評価した。結果を表1および表2に示す。
【0074】
(1)溶融温度
1)ブランク値測定(0時間)
実施例または比較例で得られた封止用シートを、長さ約30mm、幅約5mmに切り出して短冊状の試験片を得た。この試験片のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を、ホットプレート上で加熱したガラス板上に密着させた。その後、当該試験片を180°方向へ徐々にガラス板から剥離した。この操作を、ホットプレートの設定温度40℃から始め、設定温度を1℃上げる毎に短冊状の試験片を新たに用意して繰り返し、剥離時にシート状エポキシ樹脂組成物からなる層の粘着剥離性が最も大きくなる温度を、溶融温度とした。ただし40℃で、すでに粘着剥離性の大きいものは再度25℃より溶融温度の測定を実施した。
【0075】
2)40℃17時間加熱後測定
実施例または比較例で得られた封止用シートを、長さ約30mm、幅約5mmに切り出して短冊状の試験片を得た。この試験片を、40℃オーブン中で17時間保存した。保存後の試験片のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層の溶融温度を、上述のブランク値測定と同様にして測定した。ただし溶融温度の最大測定温度は硬化進行の影響を受けるため80℃までとした。
【0076】
(2)硬化性
1)未硬化品の発熱量測定および発熱開始温度測定
実施例または比較例で得られた封止用シートを、約50mm角に切り出して試験片を得た。この試験片のシート状エポキシ樹脂層からなる層を、ピンセットにて基材より剥離して10mgを採取し、DSC測定用アルミセルに詰め、測定試験サンプルを準備した。そして、昇温速度5℃/分、測定温度範囲:20℃~300℃にてDSCで未硬化品の発熱開始温度および発熱量を特定した。
【0077】
2)硬化温度85℃におけるエポキシ反応率(%)
未硬化品と同様にして測定サンプルを準備した。硬化はあらかじめ85℃に設定したオーブン中で行い、サンプル投入から50分後に測定サンプルを取り出した。そして、昇温速度5℃/分、測定温度範囲:20℃~300℃にてDSCで硬化品の発熱量を特定した。そして、測定された発熱量から、下記に示す式より、硬化温度85℃におけるエポキシ反応率(%)を求めた。
反応率(%)=(未硬化品の発熱量-硬化後の発熱量)/未硬化品の発熱量×100
【0078】
(3)転写性評価
実施例または比較例で得られた封止用シートを、長さ約150mm、幅約40mmに切り出して短冊状の試験片を得た。この試験片のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を、70℃に加熱したホットプレート上で加熱したガラス板上に気泡の入らぬようにロールにて転写して貼り合わせた。当該試験片をホットプレート上から外し、3分間放冷した。その後、基材フィルムを剥離して、転写性の評価を以下のように行った。
〇:樹脂層がガラス全面に転写
△:基材側に樹脂層の残りあり
×:樹脂層がガラスに密着せず
【0079】
(4)硬化物の光線透過率の測定
実施例または比較例で得られた封止用シートを、長さ約60mm、幅約40mmに切り出して試験片を得た。この試験片のシート状エポキシ樹脂組成物からなる層を、70℃に加熱したホットプレート上で加熱したガラス板(松浪硝子製No.3、厚さ0.3mm、70mm×50mm)に気泡の入らぬようにロールにて転写して貼り合わせた。当該試験片をホットプレート上から外し、3分間放冷した。その後、基材フィルムを剥離して、ガラス板上のシート状エポキシ樹脂組成物をオーブンにて85℃で50分間加熱して、硬化物とした。シート状エポキシ樹脂組成物の硬化物が形成されたガラス板の、波長550nmにおける光線透過率を、紫外可視光分光光度計(島津製作所 UV-2550)を用いて測定した。測定では、ガラス板単独の光線透過率をベースラインとした。
【0080】
【0081】
【0082】
表1に示されるように、(A)所定の構造を有するエポキシ系化合物と、(B)芳香環を有し、かつ平均分子量が3000~100000であるエポキシ樹脂と、(C)特定の構造を有するカチオン重合開始剤と、を含む実施例1~10のエポキシ樹脂組成物によれば、加熱試験前と加熱試験後の溶融温度の変化が少なかった。これは、加熱試験によって影響を受け難く、保存安定性が優れていたといえる。またこれらは、85℃でのエポキシ反応率も高く、いずれも90℃以下で十分に硬化させることが可能であった。
【0083】
これに対し、脂環式構造を有するエポキシ系化合物を含まない比較例1では、硬化温度85℃でのエポキシ反応率が80%未満であり、硬化のための温度が低いと十分に硬化反応を進めることができなかった。
【0084】
また、脂環式構造を有するエポキシ系化合物を含んでいたとしても、本願の(A)エポキシ系化合物のようにジシクロペンタジエン骨格を有さない場合には(比較例2)、シート状に成形しただけで硬化してしまった。その結果、溶融温度が80℃を超えてしまい、発熱開始温度を測定できなかった。また、70℃で転写できなかったため、硬化後の光線透過率を測定できなかった。
【0085】
また、カチオン重合開始剤として、SI-300(フェニル基にアセチル基が結合し、アニオンがPF6
-である)を用いた場合(例えば比較例3~6)、40℃17時間保持の加熱試験後の溶融温度が80℃を超えた。加熱試験前後での溶融温度の変化が10℃以上であり、保存安定性が悪かったといえる。また、加熱試験後の転写性の評価でも、ガラスへ貼り合わせることができなかった。また、カチオン重合開始剤として、SI-B2A(フェニル基にアセチル基が結合し、アニオンがB(C6F5)4
-である)場合(比較例8)も、シート状に成形しただけで硬化してしまった。カチオン重合開始剤の反応性が高すぎ、保存安定性が悪かった。また、70℃で転写できなかったため、硬化後の光線透過率を測定できなかった。
【0086】
さらに、カチオン重合開始剤として、本発明で特定する構造以外のSI-B7やSI-80を用いた場合(比較例9および10)には、保存安定性は良好であったものの、85℃でのエポキシ反応率が低く、85℃で十分に硬化させることができなかった。
【0087】
本出願は、2018年4月2日出願の特願2018-070961号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の表示素子用封止材は比較的低温で硬化が可能であり、さらには保存安定性に優れる。したがって、種々の表示素子の封止等に適用可能である。