(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】無線機、通信システム及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20220607BHJP
H04B 7/0413 20170101ALI20220607BHJP
H04L 27/26 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
H04B7/06 890
H04B7/06 670
H04B7/0413 400
H04L27/26 112
(21)【出願番号】P 2021526875
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023953
(87)【国際公開番号】W WO2020262188
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2019119146
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】本江 直樹
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-521358(JP,A)
【文献】特開2008-048093(JP,A)
【文献】特表2008-527950(JP,A)
【文献】特開2008-236428(JP,A)
【文献】特開2013-123241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H04B 7/0413
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定無線アクセスシステムで用いられ、複数のアンテナを備え、OFDM変調方式で送受信を行う無線機であって、
前記複数のアンテナでの受信信号に基づいて直接波の有無を検出する直接波検出部と、
前記複数のアンテナに対応して設けられ、前記アンテナからの送信信号を特定のシフト量でシフトさせる複数の巡回シフト部と、
前記アンテナからの送信信号に位相回転を施して狭小ビームを生成するビームフォーミング部とを備え、
前記直接波検出部が、直接波を検出した場合には、前記複数の巡回シフト部と前記ビームフォーミング部とを制御して狭小ビームを生成させ、直接波を検出しない場合には、前記巡回シフト部と前記ビームフォーミング部とを制御して、狭小ビームを生成させずに巡回シフトダイバーシティを行わせることを特徴とする無線機。
【請求項2】
直接波検出部は、複数のアンテナでの受信信号の相関係数を算出する相関演算部と、前記相関係数の値に基づいて直接波の有無を判定し、直接波を検出した場合には、複数の巡回シフト部に同一のシフト量を設定し、直接波を検出しない場合には、前記複数の巡回シフト部に異なるシフト量を設定する巡回シフト制御部とを有することを特徴とする請求項1記載の無線機。
【請求項3】
巡回シフト制御部が、相関係数の値が予め設定された閾値以上の場合は、直接波を検出したと判定し、前記相関係数の値が前記閾値より小さい場合は、直接波を検出しないと判定することを特徴とする請求項2記載の無線機。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の第1の無線機と、複数のアンテナを備えた第2の無線機を備えた固定無線アクセスシステムであって、
前記第1の無線機が、受信信号に基づいて、ビームフォーミング
を行うビームフォーミングの送信モード又は巡回シフトダイバーシティ
を行う巡回シフトダイバーシティの送信モードのいずれかの
送信モードで送信を行うと、当該送信モード
を指示する情報を、前記第2の無線機に送信し、
前記第2の無線機が、前記第1の無線機から受信した
前記ビームフォーミング又は前記巡回シフトダイバーシティのいずれかの送信モード
を指示する情報に基づいてビームフォーミング又は巡回シフトダイバーシティを行って送信することを特徴とする通信システム。
【請求項5】
OFDM変調方式で送受信を行う固定無線アクセスシステムで用いられる通信方法であって、
複数のアンテナを備える無線機が、前記複数のアンテナでの受信信号に基づいて直接波の有無を検出し、直接波を検出した場合には、ビームフォーミングを行って狭小ビームを生成して送信し、直接波を検出しない場合には、巡回シフトダイバーシティを行って送信することを特徴とする通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを備えた固定無線アクセスシステムの無線機に係り、特に高速伝送及び長距離伝送を可能としつつ、遮蔽物があっても無線通信の断絶を回避することができる無線機、通信システム及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
無線アクセスシステムの一つとして固定無線アクセス(FWA:Fixed Wireless Access)システムがある。FWAは見通し通信を前提とする場合がほとんどであり、見通し外通信を前提とした移動体通信であるMWA(Mobile Wireless Access)とは異なる。
また、NWA(Nomadic Wireless Access)は、非定住型ではあるができるだけ見通し通信となるエリアが広範囲になるよう設置されるため、無線通信を行っている短期的にはFWAと無線環境が類似する場合が多い。
【0003】
FWAシステムの一例として、電気通信事業者の交換局や中継系回線とオフィスや一般世帯との間を直接無線接続するために用いられるものがある。
このようなシステムには、電気通信事業者側の基地局と複数の利用者側の加入者局とを結ぶ1対多方向型(P-MP;Point to MultiPoint)と、電気通信事業者側と利用者側とを1対1で結ぶ対向型(P-P;Point to Point)とがある。
【0004】
また、FWAシステムは、MWAシステムの基地局とネットワーク側を接続するバックホール回線として用いられる。従来は、大容量で安定した通信を提供できる光ファイバにより構成されるのが一般的であった。しかし、光ファイバの新設には高いコストと工事日数が要求されるため、低コストで簡易に設置可能な無線回線が求められており、光回線と併用する形で広帯域FWAシステムが利用されるようになってきている。
【0005】
その他、FWAシステムは、ビル間通信の専用回線、災害時やイベントの臨時回線、光ケーブルの敷設が困難だった場所へのネットワークの供給を比較的容易に実現でき、事故や災害により通信回線が切断されにくいという利点がある。
【0006】
[ビームフォーミング]
FWAシステムにおいて、更なる高速伝送、長距離化を図る技術として、複数のアンテナを用いて送受信するビームフォーミング(BF:Beam Forming)技術が知られている。
送信BFでは複数のアンテナから放射する送信信号の位相を制御して空間合成することにより、ある場所では各アンテナから放射された電波の位相が同相に近くなって電力を強め合い、またある場所では各アンテナから放射された電波が電力を打ち消しあう。その結果、電力を強め合う場所では合成利得を得ることができるため、電波伝搬損失を補償し、長距離伝送が可能となる。
あるいは、受信機での所望信号電力対雑音電力比(C/N比:Carrier to Noise Ratio)が大きくなるため、直交振幅変調の多値数を大きくして高速伝送が可能となる。
【0007】
[デジタルビームフォーミングを用いる無線機の送信ブロック:
図5]
ビームフォーミングを用いる無線機の送信ブロックについて
図5を用いて説明する。
図5は、デジタルビームフォーミングを用いる送信ブロックの概略構成図である。ここでは、アンテナ数が4の場合を例として説明する。また、
図5では、ビームフォーミングに関係する機能ブロックを中心に記載しており、一般的に無線機に設けられている他の機能ブロックの図示は省略している。
【0008】
図5に示すように、ビームフォーミングを用いる送信ブロック(送信機構、送信部)は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重方式)変調部201と、4つのGI(Guard Interval)付加部203と、4つのデジタル移相器208と、4つのD/A変換部204と、4つの送信アナログ部205と、アンテナ制御部206と、4つのアンテナ207とを備えている。また、D/A変換部204と送信アナログ部205で送信機能部200を構成している。
【0009】
デジタル移相器208は、ビームフォーミング部210の構成要素であり、デジタル信号の位相回転を行う。デジタル移相器は、一例として複素乗算器で構成される。
OFDM変調部201は、送信データをOFDM変調する。
GI付加部203は、OFDM変調された信号にCP(Cyclic Prefix:サイクリックプレフィクス)を付加する。
CPの付加としては、OFDMシンボルの後方の一定部分をコピーしてOFDMシンボルの先頭より前に付加する方法がある。付加する量は、OFDMシンボル長の1/4や1/8など、考慮するマルチパスの遅延時間によってシステムごとに設計される。
【0010】
デジタル移相器208は、各アンテナ207から送信されるOFDMシンボルにビームフォーミングを行うために4つの信号に位相差を与える。
D/A変換部204は、位相差を与えられた信号をアナログ信号に変換する。
送信アナログ部205は、周波数変換部、アナログフィルタ、電力増幅器等を備え、各D/A変換部204から出力された信号毎にアナログ信号処理を行う。
アンテナ制御部206は、アンテナ207の制御を行う。
アンテナ207は、複数設けられ、電波を放射する。
【0011】
当該送信ブロックにおける動作を簡単に説明する。
送信データは、OFDM変調部201でOFDM変調され、GI付加部203でCPを付加される。
CPが付加された信号は、デジタル移相器208で4つの信号に位相差を与えられて、送信機能部200のD/A変換部204でD/A変換されて、送信アナログ部205で周波数変換及び増幅が行われ、アンテナ制御部206を介して送信アンテナ207から放射される。
【0012】
[アナログビームフォーミングを用いる無線機の送信ブロック:
図6]
アナログビームフォーミングを用いる無線機の送信ブロックについて
図6を用いて説明する。
図6は、アナログビームフォーミング技術を用いる送信ブロックの概略構成図である。送信機能部200の後段にアナログ移相器209を備える。
アナログ移相器209はビームフォーミング部210の構成要素であり、アナログ信号の位相回転を行う。
図5と異なるのは、アナログ部でビームフォーミングを行うことである。
【0013】
[アンテナ指向性の例:
図7]
アンテナ指向性の例について、
図7を用いて説明する。
図7は、アンテナ指向性の例を示す模式説明図である。
図7(b)~(d)はビームフォーミング(BF)による狭小ビームを形成した場合の送信アンテナの指向性であり、図(e)は後述するCDD(Cyclic Delay Diversity)を行った場合の送信アンテナの指向性を示している。
ここでは、アンテナはマイクロ波帯やミリ波帯において多く採用されているパッチアンテナ等の平面アンテナを例とした。複数のアンテナから成るサブアレイを単位として配列した場合も同様である。
【0014】
図7(a)は、1素子であり、単独の平面アンテナの指向性である。
図7(b)は、4素子でビームフォーミングを行った場合であり、1素子と比較して指向性は鋭くなり、正面方向の合成電力は大きくなる。
図7(c)は16素子でビームフォーミングを行った場合であり、さらに指向性は鋭くなり、正面方向の合成電力は大きくなる。
図7(d)は16素子であるが、デジタル移相器208によって、
図7(c)とは各アンテナの送信信号の位相が異なるよう位相回転が施され、正面よりも左側に指向性が向くように制御されている。
【0015】
P-P(Point to Point)通信の場合、指向性を鋭くすることによって他の無線機に与える干渉を小さくでき、同じ周波数を使って対向通信を行うことができるため周波数利用効率が良くなるという利点もある。
P-MP(Point to Multipoint)通信の場合は同様に、指向性を鋭くすることによって、異なる方向の複数の局に対して同じ周波数で同時に複数のビームを送信することができる。
MWAでは無線機が移動するため、指向性を鋭くするほどビーム追従が困難になるが、FWAやNWAでは基本的に無線機は移動しないためBF技術との相性が良い。
【0016】
受信BFは、各アンテナの受信信号を合成する際に、所望波の到来方向のゲインを最大化する方法や、干渉波の到来方向のゲインを最小化する方法などがある。
また、複数のアンテナを備えて空間ダイバーシティを行うと受信性能が良くなることも知られている。伝搬環境の変化に応じて、これらの受信技術の内で最適な方法を選択して行うアルゴリズムについても種々の研究や実用化が行われている。
【0017】
[循環遅延ダイバーシティ]
ここで、送信ダイバーシティ技術の一つである循環遅延ダイバーシティ(CDD;Cyclic Delay Diversity)について簡単に説明する。尚、CDDは、巡回シフトダイバーシティ(CSD;Cyclic Shift Diversity)とも称され、ここでは、循環遅延ダイバーシティ(CDD)は、巡回シフトダイバーシティ(CSD)と同義であるものとして記載する。
CDDは、複数のアンテナからの送信信号に対して、同一のデータ信号に異なる巡回遅延量を付与して送信するものである。
【0018】
OFDM変調は、互いに直交する狭帯域な複数のサブキャリアによってOFDMシンボルを構成し、また、CP(Cyclic Prefix:サイクリックプレフィクス)と呼ばれるガードインターバルを付加することによって、遅延時間を持つマルチパスに対する耐性が強い方式として様々な無線システムに採用されている。
【0019】
[CDDを用いる無線機の送信ブロック:
図8]
CDDを用いる無線機の送信ブロックについて
図8を用いて説明する。
図8は、CDDを用いる送信ブロックの概略構成図である。ここでは、アンテナ数が4の場合を例として説明する。また、
図8では、CDDに関係する機能ブロックを中心に記載しており、一般的に無線機に設けられている他の機能ブロックの図示は省略している。
【0020】
図8に示すように、CDDを用いる送信ブロック(送信機構、送信部)は、
図5,6に示したビームフォーミングを行う送信ブロックと同様のOFDM変調部201、GI付加部203、送信機能部200、アンテナ制御部206を備え、
図5,6のビームフォーミング部210の代わりに、巡回シフト部202を備えた構成である。
図5,6と同様の構成部分については説明を省略する。
【0021】
巡回シフト部202は、OFDM変調された信号を巡回シフトする。ここで、4つの巡回シフト部202における巡回シフト量は、それぞれ異なる値とする。巡回シフト量は、予め設定されているか、図示しない制御部から設定される。
巡回シフト部202によって、各アンテナ207から送信されるOFDMシンボルに異なる巡回シフト量が与えられることにより、送信ダイバーシティ効果が得られるものである。具体的には、アンテナ間の距離を無線周波数の波長より十分大きく配置すると、受信側ではそれぞれの受信信号の相関が小さくなるためマルチパスフェージングに対してダイバーシティ効果を得ることができるものである。
【0022】
当該送信ブロックにおける動作を簡単に説明する。
送信データは、OFDM変調部201でOFDM変調され、4つに分岐されて、巡回シフト部202で互いに異なる巡回シフト量でシフトされる。巡回シフトされた信号は、GI付加部203でCPを付加される。
CPが付加された信号は、送信機能部200のD/A変換部204でD/A変換されて、送信アナログ部205で周波数変換及び増幅が行われ、アンテナ制御部206を介して送信アンテナ207から放射される。
【0023】
[CDDを用いた場合のアンテナ指向性:
図7(e)]
CDDを用いて送信する場合のアンテナ指向性について
図7(e)を用いて説明する。
上述したように、CDDを用いて送信する場合、それぞれのアンテナから送信する信号を異なる巡回シフト量で巡回シフトするが、これは、同じ信号を複数のアンテナから送信すると、意図しないBFが行われてダイバーシティ効果が得られなくなるためである。
【0024】
適切に巡回シフトすると、アンテナの指向性は、
図7(e)に示すように、それぞれ独立した1アンテナの場合と等しくなる。CDDはCPを用いるOFDM変調を用いる場合に有効な技術である。
CDDもビームフォーミングの一種であるが、以降では狭小ビームを形成することをBFと称するものとし、CDDと区別する。
【0025】
[無線機の受信ブロック:
図9]
無線機の受信ブロック(受信機構、受信部)について
図9を用いて説明する。
図9は、無線機の受信ブロックの概略構成図である。送信ブロックと同様、アンテナ数が4の場合を例として説明する。
アンテナ207は、無線信号を受信する。
アンテナ制御部206は、各アンテナ207を制御し、受信信号を対応する受信アナログ部301に出力する。
受信アナログ部301は、LNA(Low Noise Amplifier)、アナログフィルタ、周波数変換部を含み、受信した信号のアナログ処理を行う。
A/D変換部302は、受信アナログ部301から出力された信号をデジタル信号に変換する。
【0026】
当該受信ブロックでは、アンテナ207で受信された信号は、アンテナ207毎に受信アナログ部301で周波数変換されて受信処理が施され、A/D変換部302でデジタル信号に変換されて、受信信号#1~受信信号#4として出力される。
そして、各種のMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)処理が行われて、OFDM復調される。OFDM変調の前に直交振幅変調等が施されている場合には、その復調も行われる。
【0027】
[遮蔽物による通信障害]
送信ビームフォーミングを行う場合、アンテナ数(又はアンテナサブアレイ数、あるいはアンテナ素子数)を多くしてビーム指向性を鋭くするほど、高速伝送及び長距離伝送の性能が増大する。
しかしながら、見通し内に遮蔽物が出現した場合には、直接波が受信機に到達しなくなってしまう。
指向性が鋭いほど遮蔽物の影響を受けやすく、通信が断絶してしまう場合があり、断絶時間が長いと重大な通信障害となってしまう。
【0028】
[関連技術]
尚、P-P通信を行う無線通信装置の従来技術としては、特開2013-172377号公報「無線通信装置、無線通信方法、及び無線通信システム」(特許文献1)がある。
また、複数の送信アンテナを備えた基地局に関する従来技術としては、特開2015-126271号公報「基地局」(特許文献2)がある。
【0029】
特許文献1には、電波通信を「見通し」する範囲を撮像し、撮像された画像を基準画像と比較して障害物を検知して通知する無線通信装置が記載されている。
特許文献2には、伝搬路の実効的な状態を推定し、伝搬路の通信品質を推定し、推定結果に基づいて送信ダイバーシチ、送信ビームフォーミング、Closed-Loop MIMO、Open-Loop MIMOのいずれかの送信モードを決定する基地局が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【文献】特開2013-172377号公報
【文献】特開2015-126271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
上述したように、従来の無線機では、ビームフォーミングを行った場合、見通し内に遮蔽物があると、通信が断絶してしまい、重大な通信障害が発生する恐れがあるという問題点があった。
【0032】
尚、特許文献1及び特許文献2には、複数のアンテナでの受信信号の相関係数の値に基づいて直接波の有無を検出して、送信モードをビームフォーミング又はCDDに切り替えることは記載されていない。
【0033】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、高速伝送及び長距離伝送を可能としつつ、通信の断絶を防いで信頼性を向上させることができる無線機、通信システム及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、固定無線アクセスシステムで用いられ、複数のアンテナを備え、OFDM変調方式で送受信を行う無線機であって、複数のアンテナでの受信信号に基づいて直接波の有無を検出する直接波検出部と、複数のアンテナに対応して設けられ、アンテナからの送信信号の位相を特定のシフト量でシフトさせる複数の巡回シフト部と、アンテナからの送信信号に位相回転を施して狭小ビームを生成するビームフォーミング部とを備え、直接波検出部が、直接波を検出した場合には、複数の巡回シフト部とビームフォーミング部とを制御して狭小ビームを生成させ、直接波を検出しない場合には、巡回シフト部とビームフォーミング部とを制御して、狭小ビームを生成させずに巡回シフトダイバーシティを行わせることを特徴としている。
【0035】
また、本発明は、上記無線機において、直接波検出部は、複数のアンテナでの受信信号の相関係数を算出する相関演算部と、相関係数の値に基づいて直接波の有無を判定し、直接波を検出した場合には、複数の巡回シフト部に同一のシフト量を設定し、直接波を検出しない場合には、複数の巡回シフト部に異なるシフト量を設定する巡回シフト制御部とを有することを特徴としている。
【0036】
また、本発明は、上記無線機において、巡回シフト制御部が、相関係数の値が予め設定された閾値以上の場合は、直接波を検出したと判定し、相関係数の値が閾値より小さい場合は、直接波を検出しないと判定することを特徴としている。
【0037】
また、本発明は、上記いずれか記載の第1の無線機と、複数のアンテナを備えた第2の無線機を備えた固定無線アクセスシステムであって、第1の無線機が、受信信号に基づいて、ビームフォーミングを行うビームフォーミングの送信モード又は巡回シフトダイバーシティを行う巡回シフトダイバーシティの送信モードのいずれかの送信モードで送信を行うと、当該送信モードを指示する情報を、第2の無線機に送信し、第2の無線機が、第1の無線機から受信したビームフォーミング又は巡回シフトダイバーシティのいずれかの送信モードを指示する情報に基づいてビームフォーミング又は巡回シフトダイバーシティを行って送信することを特徴としている。
【0038】
また、本発明は、OFDM変調方式で送受信を行う固定無線アクセスシステムで用いられる通信方法であって、複数のアンテナを備える無線機が、当該複数のアンテナでの受信信号に基づいて直接波の有無を検出し、直接波を検出した場合には、ビームフォーミングを行って狭小ビームを生成して送信し、直接波を検出しない場合には、巡回シフトダイバーシティを行って送信することを特徴としている。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、固定無線アクセスシステムで用いられ、複数のアンテナを備え、OFDM変調方式で送受信を行う無線機であって、複数のアンテナでの受信信号に基づいて直接波の有無を検出する直接波検出部と、複数のアンテナに対応して設けられ、アンテナからの送信信号の位相を特定のシフト量でシフトさせる複数の巡回シフト部と、アンテナからの送信信号に位相回転を施して狭小ビームを生成するビームフォーミング部とを備え、直接波検出部が、直接波を検出した場合には、複数の巡回シフト部とビームフォーミング部とを制御して狭小ビームを生成させ、直接波を検出しない場合には、巡回シフト部とビームフォーミング部とを制御して、狭小ビームを生成させずに巡回シフトダイバーシティを行わせる無線機としているので、見通し上に遮蔽物がない場合には高速伝送及び長距離伝送を可能とし、遮蔽物が出現した場合には、マルチパスによるダイバーシティ効果で通信の断絶を防ぎ、信頼性を向上させることができる効果がある。
【0040】
また、本発明によれば、巡回シフト制御部が、相関係数の値が予め設定された閾値以上の場合は、直接波を検出したと判定し、相関係数の値が閾値より小さい場合は、直接波を検出しないと判定する上記無線機としているので、簡易な構成及び処理で直接波の有無を検出することができる効果がある。
【0041】
また、本発明によれば、上記いずれか記載の第1の無線機と、複数のアンテナを備えた第2の無線機を備えた固定無線アクセスシステムであって、第1の無線機が、受信信号に基づいて、ビームフォーミングを行うビームフォーミングの送信モード又は巡回シフトダイバーシティを行う巡回シフトダイバーシティの送信モードのいずれかの送信モードで送信を行うと、当該送信モードを指示する情報を、第2の無線機に送信し、第2の無線機が、第1の無線機から受信したビームフォーミング又は巡回シフトダイバーシティのいずれかの送信モードを指示する情報に基づいてビームフォーミング又は巡回シフトダイバーシティを行って送信する通信システムとしているので、一方の無線機が直接波の有無に基づいて送信モードを選択し、それを他方の無線機に伝えることで、遮蔽物がない場合には高速伝送及び長距離伝送を可能とし、遮蔽物が出現した場合には通信の断絶を防ぐシステムを簡易に構成することができる効果がある。
【0042】
また、本発明によれば、OFDM変調方式で送受信を行う固定無線アクセスシステムで用いられる通信方法であって、複数のアンテナを備える無線機が、当該複数のアンテナでの受信信号に基づいて直接波の有無を検出し、直接波を検出した場合には、ビームフォーミングを行って狭小ビームを生成して送信し、直接波を検出しない場合には、巡回シフトダイバーシティを行って送信する通信システムとしているので、遮蔽物がない場合には高速伝送及び長距離伝送を可能とし、遮蔽物が出現した場合には通信の断絶を防ぐことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本無線機の動作概要を示す模式説明図である。
【
図3】巡回シフト制御部における処理を示すフローチャートである。
【
図4】別の無線機のアンテナ指向性を示す説明図である。
【
図5】デジタルビームフォーミング技術を用いる送信ブロックの概略構成図である。
【
図6】アナログビームフォーミング技術を用いる送信ブロックの概略構成図である。
【
図7】アンテナ指向性の例を示す模式説明図である。
【
図8】CDDを用いる送信ブロックの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線機(本無線機)は、複数のアンテナと、アンテナに対応して設けられ、アンテナ毎の送信信号に巡回シフトを与える複数の巡回シフト部と、各巡回シフト部における送信信号のシフト量を制御する巡回シフト制御部と、各アンテナからの受信信号について相関係数を算出する相関演算部とを備え、相関演算部が各アンテナからの受信信号について相関係数を算出し、巡回シフト制御部が、相関係数に基づいて直接波の有無を検出し、直接波がある場合には巡回シフト部に対して各アンテナの送信信号に共通のシフト量を与えて、ビームフォーミングにより狭小ビームを形成して送信させ、直接波がない場合には巡回シフト部に対して異なるシフト量を与えて巡回シフトダイバーシティを行わせるものであり、見通し上に遮蔽物がない場合には高速伝送及び長距離伝送を可能とし、遮蔽物が出現した場合には、マルチパスによるダイバーシティ効果で通信の断絶を防ぎ、信頼性を向上させることができるものである。
【0045】
また、本発明の実施の形態に係る通信システム(本通信システム)は、本無線機を備えた固定無線アクセスシステムであり、本発明の実施の形態に係る通信方法は、本無線機で行われる通信方法である。
【0046】
[本無線機の動作概要:
図1]
本無線機の構成について説明する前に、動作の概要について
図1を用いて説明する。
図1は、本無線機の動作概要を示す模式説明図である。
図1は、FWAにおける通信を模式的に表したものであり、右側のアンテナを備えた無線機401と、左側のアンテナを備えた無線402とがP-P通信を行う状態を示しており、ここでは無線機401から無線機402に向けて送信する場合を示している。無線機401が本無線機である。
【0047】
図1(a)は、通信が見通し内である場合(見通し通信)であり、無線機401は、ビームフォーミングにより狭小ビームを生成して、送信を行う。この状態では、高速伝送及び長距離伝送が可能である。
図1(b)は、見通し内に遮蔽物403が出現した場合(見通し外通信)であり、狭小ビームは遮蔽物403に阻まれて無線機402に到達せず、通信が断絶してしまう。
【0048】
そこで、無線機401では、
図1(c)に示すように、見通し外となった場合には、CDDに切り替えて通信を行う。通信の切り替えは、直接波の有無を検出することにより行われる。これにより、遮蔽物403があっても、反射波等のマルチパスが無線機402に到達するため、通信の断絶を避けることができるものである。
このようにして本無線機の動作が行われる。
【0049】
[本無線機の構成:
図2]
次に、本無線機の構成について
図2を用いて説明する。
図2は、本無線機の構成ブロック図である。尚、従来と同様の構成部分については同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
図2に示すように、本無線機は、従来と同様の構成部分として、OFDM変調部201と、巡回シフト部202と、GI付加部203と、ビームフォーミング部211と、送信機能部200と、アンテナ制御部206と、アンテナ207と、受信機能部300とを備え、本無線機の特徴部分として、相関演算部501と、巡回シフト制御部502とを備えている。
相関演算部501と巡回シフト制御部502とを合わせた構成が、請求項に記載した直接波検出部に相当している。
尚、ここでは、アンテナ207としてアンテナを4つ備えた場合を例として説明する。また、AGC(Automatic Gain Control:自動利得制御)、AFC(Automatic Frequency Control:自動周波数制御)等の機能ブロックを挿入してもよい。
【0050】
更に、ここでは、デジタル移相器208を備えたビームフォーミング部211を送信機能部200の前段に設けた構成としているが、送信機能部200の後段にアナログ移相器209を備えたビームフォーミング部211を備えた構成としてもよい。また、デジタル移相器208とアナログ移相器209を、それぞれ、送信機能部200の前後に挿入してもよい。
そして、本無線機の特徴として、ビームフォーミング部211は、後述する巡回シフト制御部502からの指示に従ってビームフォーミングを行う。この動作については後述する。
【0051】
巡回シフト部202は、従来と同様にアンテナ207毎に対応して設けられ(ここでは4つ)、OFDM変調された送信信号をシンボル単位で巡回シフトさせるものであるが、本無線機では、各巡回シフト部202の巡回シフト量は、巡回シフト制御部502から与えられたシフト量とする。
【0052】
アンテナ207は、送受信兼用のアンテナであり、アンテナ制御部206によって送受が分離される。
アンテナ制御部206は、アンテナ毎に送受信を切り替える制御を行うものであり、TDD(Time Division Duplex:時分割複信)システムの場合にはTDDスイッチ等で送受信を切り替え、FDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)システムの場合には、デュプレクサを備えて送信用と受信用の周波数を切り替える。
【0053】
尚、
図8に示した送信ブロックと同様に、GI付加部203も4つ設けられ、送信機能部200には、D/A変換部と、送信アナログ部が4つずつ設けられている。
同様に、受信機能部300には、受信アナログ部と、A/D変換部が4つずつ設けられている。
【0054】
本無線機の特徴部分について具体的に説明する。
相関演算部501は、複数のアンテナ207で受信された信号間の相関を求めるものである。
具体的には、アンテナ207で受信された受信信号は、受信機能部300にて受信処理を施され、A/D変換されて相関演算部501に入力され、相関演算部501で、各アンテナ間の受信信号の相関係数を算出する。
相関係数の算出は、受信信号の時間相関を求める方法や、参照信号(既知信号)を用いて伝達関数を求める方法等、様々な方法があり、いずれの方法でもよい。
【0055】
相関係数は、一般的に0.0~1.0に正規化されており、0.0は無相関、1.0は同一の信号とされる。
FWAシステムにおいて、見通し通信となる場合には、直接波の電力が支配的となって、自由空間伝搬に近くなり、各アンテ207ナの受信信号間の相関係数は大きくなる。
一方、見通し外通信の場合には、反射波等のマルチパス通信となり、アンテナ207間の距離を無線周波数の波長より十分大きく配置すると、各アンテナ207の受信信号の相関係数は小さくなる。
【0056】
巡回シフト制御部502は、本無線機の特徴部分であり、相関演算部501からの相関係数を入力して、それに基づいて各アンテナ207に対応する巡回シフト部202における巡回シフト量を設定するものである。
具体的には、巡回シフト制御部502は、入力された相関係数を予め設定された閾値と比較して、しきい値以上であれば直接波ありと判定して、各アンテナ207に対応する巡回シフト部202に同一の巡回シフト量を設定すると共に、ビームフォーミング部211に対して、各アンテナの送信信号に位相差を与えて狭小ビームを生成する(BFの処理を施す)よう指示する。これにより、送信ブロックからの送信では狭小ビームで送信される。
【0057】
また、入力された相関係数が閾値より小さい場合には、直接波がないものと判断して、各巡回シフト部202にすべて異なる巡回シフト量を設定すると共に、ビームフォーミング211に対してBFの処理を施さないよう指示する。これにより、CDDが行われ、BFは行われない。
【0058】
例えば、閾値を0.4とした場合、相関係数が0.4以上であればBFを行うため、巡回シフト制御部502は、アンテナ207の送信信号の巡回シフト量を同一にする。BFによって狭小ビームを生成して送信することにより、高速伝送を可能とし、また、他の無線機に与える干渉を低減できるものである。
【0059】
相関係数が0.4未満の場合にはCDDを行うため、巡回シフト制御部502は、各アンテナ207の送信信号の巡回シフト量を少なくとも1サンプル以上異なる値とし、ビームフォーミング211にBFを実施しないよう指示する。つまり、全ての巡回シフト部202の巡回シフト量が異なるように設定する。アンテナ間の相関が無相関に近いほど空間ダイバーシティの効果が大きくなる。
【0060】
[本無線機における動作:
図2]
本無線機における動作について
図2を用いて簡単に説明する。
本無線機では、受信信号に基づく動作が特徴となっているため、受信ブロックの動作から説明する。
アンテナ207で受信された信号は、受信機能部300でダウンコンバートされ、A/D変換されて2つに分岐され、分岐された一方は、図示しない復調部に入力されて通常の復調が行われ、受信データを得る。
【0061】
分岐された他方の信号は、本無線機の特徴として、相関演算部501に入力されて、各アンテナ207における受信信号間の相関係数が算出され、巡回シフト制御部502に入力される。
そして、巡回シフト制御部502において相関係数が閾値と比較されて、閾値以上の場合には、巡回シフト制御部502は、各アンテナ207に対応する巡回シフト部202に、同一の巡回シフト量を設定し、ビームフォーミング部211にBF動作を行わせる。
また、相関係数が閾値未満であれば、巡回シフト制御部502は、各アンテナ207に対応する巡回シフト部202に、それぞれ異なる巡回シフト量を設定し、ビームフォーミング部211にBFを行わないよう指示する。
【0062】
送信ブロックの動作は、巡回シフト部202が巡回シフト制御部502から設定された巡回シフト量で送信信号をシフトさせる以外は、従来と同様であるため、説明は省略する。
各アンテナ207に対応する巡回シフト部202において、同一の巡回シフト量で送信信号をシフトさせた場合には、送信時に、アンテナ207においてBFが行われ、高速伝送が可能となる。
一方、各巡回シフト部202において、それぞれ異なる巡回シフト量で送信信号をシフトさせた場合は、CDDとなり、空間ダイバーシティの効果を得ることができる。
このようにして、本無線機における動作が行われるものである。
【0063】
[本無線機の送信方法(送信モード)の選択]
ここで、本無線機におけるBF又はCDDの送信モードの選択について説明する。無線機Aと無線機Bとが対向してP-P通信を行うものとする。
無線機Aと無線機Bは、いずれも本無線機であり、それぞれ独立して、送信モードをBF又はCDDのいずれかに切り替える。次の(1)~(4)の状態について説明する。
【0064】
(1)無線機Aの送信モードがBFで、遮蔽物がない場合、無線機Bにおける受信信号の相関は大きいので、無線機BはBFを選択する。
(2)無線機Aの送信モードがBFで、遮蔽物がある場合、無線機Bにおける受信信号の相関は小さいので、無線機BはCDDを選択する。
(3)無線機Aの送信モードがCDDで、遮蔽物がない場合、無線機Bにおける受信信号電力は(1)より小さいものの、受信信号の相関は大きいので、無線機BはBFを選択する。
(4)無線機Aの送信モードがCDDで、遮蔽物がある場合、無線機Bにおける受信信号の相関は小さいので、無線機BはCDDを選択する。
無線機Bが送信側、無線機Aが受信側になる場合も同様であり、無線機Aが受信信号の相関係数に基づいて自装置での送信モードをBF又はCDDに切り替える。
【0065】
(1)は遮蔽物がない場合の定常状態で、無線機A,B共にBFを行う。(4)は遮蔽物がある場合の定常状態で、無線機A,B共にCDDを行う。
(2)は、遮蔽物が出現した場合の移行状態で、やがて(4)の状態となる。
(3)は、遮蔽物が消滅した場合の移行状態で、やがて(1)の状態となる。
【0066】
[巡回シフト制御部における処理:
図3]
本無線機の巡回シフト制御部502における処理について
図3を用いて説明する。
図3は、巡回シフト制御部における処理を示すフローチャートである。
図3に示すように、巡回シフト制御部502は、相関演算部501から相関係数が入力されると(S11)、当該相関係数が予め設定された閾値以上かどうかを判断する(S12)。
【0067】
処理S11で、相関係数が閾値以上であれば(Yesの場合)、巡回シフト制御部502は、各巡回シフト部202の巡回シフト量を同一に設定すると共に、ビームフォーミング部211に各アンテナの送信信号に位相差を与えるよう指示し(S13)、処理S11に戻る。この場合には、アンテナ207でBFが行われ、狭小ビームが生成されて送信される。
【0068】
また、処理S11で、相関係数が閾値未満であれば(Noの場合)、巡回シフト制御部502は、各巡回シフト部202にそれぞれ異なるシフト量を設定すると共に、ビームフォーミング部211に各アンテナの送信信号に位相差を与えないよう指示し(S14)、処理S11に戻る。この場合には、狭小ビームは生成されず、CDDによって各アンテナ207はそれぞれ単独の場合と同じ指向性で送信する。
相関係数の値に応じたシフト量は、予め巡回シフト制御部502に設定されている。
このようにして巡回シフト制御部502における処理が行われる。
【0069】
[実施の形態の効果]
本無線機及び本通信方法によれば、無線信号を送受信する複数のアンテナ207と、各アンテナ207に対応して設けられ、アンテナ207毎の送信信号に巡回シフトを与える複数の巡回シフト部202と、各巡回シフト部202における送信信号のシフト量を制御する巡回シフト制御部502と、各アンテナ207からの受信信号について相関係数を算出する相関演算部501とを備え、相関演算部501が各アンテナ207からの受信信号について相関係数を算出し、巡回シフト制御部502が、当該相関係数と閾値とを比較して、相関係数が閾値以上であれば、直接波があるものと判定して巡回シフト部202に対して共通のシフト量を与え、ビームフォーミングで狭小ビームを形成して送信させ、相関係数が閾値未満であれば、直接波がないものと判定して巡回シフト部202に対して異なるシフト量を与えて、巡回シフトダイバーシティを行わせるようにしているので、見通し上に遮蔽物がない場合には高速伝送及び長距離伝送を可能とし、遮蔽物が出現した場合には、マルチパスによるダイバーシティ効果で通信の断絶を防ぎ、信頼性を向上させることができる効果がある。
【0070】
また、本通信システムによれば、本無線機を備えた固定無線アクセスシステムとしているので、見通し上に遮蔽物がない場合にはビームフォーミングを行って送信して、高速伝送及び長距離伝送を可能とし、遮蔽物が出現した場合には、巡回シフトダイバーシティを行って送信して、マルチパスによるダイバーシティ効果で通信の断絶を防ぎ、信頼性を向上させることができる効果がある。
【0071】
また、本無線機によれば、各無線機が自立的に判断してBFとCDDとを切り替えるため、特別な参照信号を必要とせず、また、TDD方式でもFDD方式でも適用でき、多様なシステムに容易に適用することができる効果がある。
【0072】
尚、上述した例では複数のアンテナでの受信信号間の相関係数を求めて直接波の有無を検出しているが、受信信号から受信電界強度を求め、受信電界強度の強弱に基づいて直接波の有無を検出するようにしてもよい。
【0073】
[応用例]
本通信システムの応用例について説明する。
上述した通信システムでは、各無線機がそれぞれ相関係数を算出して、直接波の有無を検出し、BFかCDDかを判断していたが、例えば主局と従局のように、一方の無線機が無線リンクを制御する場合には、主局のみがその動作を行うようにしてもよい。
【0074】
例えば、主局が本無線機である場合、主局は、上述した方法で、受信信号の相関係数に基づいて直接波の有無を検出し、直接波があればBFで送信し、直接波がなければCDDを行う。
そして、それと共に、決定した送信モードを従局に指示する。送信方法の指示は、制御情報等に含めて送信する。
【0075】
つまり、P-P通信の場合、2台とも本無線機でなくても、いずれか1台が本無線機であればよく、受信信号から直接波の有無を検出してBF又はCDDを選択し、他方の無線機にも当該送信モードを指示するように構成すればよい。
【0076】
これにより、本システムを簡易に構築することができ、遮蔽物がない場合にはBFで送信して高速伝送を可能とし、遮蔽物がある場合にはCDDで送信して、通信の断絶を防いで信頼性を向上させることができる効果がある。
【0077】
[別の実施の形態]
次に、本発明の別の実施の形態に係る無線機(別の無線機)について
図4を用いて説明する。
図4は、別の無線機のアンテナ指向性を示す説明図である。
別の無線機は、送信ダイバーシティ効果を得ながらBFを行うものであり、基本的な構成は上述した本無線機と同様であるが、アンテナの構成が異なっている。
【0078】
別の無線機は、
図4に示すように、複数のアンテナから成るグループを複数備えている。
ここでは、4個の平面アンテナから成るグループを4つ備えているものとする。
別の無線機の特徴として、巡回シフト部202は、各グループに対応して設けられ、巡回シフト制御部502から設定された巡回シフト量を、当該グループ内の全てのアンテナの送信信号に与える。つまり、同一グループ内のアンテナからの送信信号は同一の巡回シフト量となる。
【0079】
また、別の無線機では、巡回シフト制御部502が、相関係数が閾値以上で直接波ありと判定した場合には、異なるグループ同士にも同一の巡回シフト量を与える。
また、別の無線機では、ビームフォーミング部211は、同一グループ内では常にBFを行う。
それに加えて、巡回シフト部502が直接波ありと判定した場合には、ビームフォーミング部211は、グループ間でもBFを行うよう、位相差を与える。
この場合には、16アンテナ全てが同一の巡回シフト量となり、更にグループ間でもBFが行われるため、例えば、
図7(c)のような鋭い指向性が得られ、高速伝送が可能となる。
【0080】
一方、巡回シフト制御部502が、相関係数が閾値未満で直接波なしと判定した場合には、各巡回シフト部202に1サンプル以上異なる巡回シフト量を与える。これにより、異なるグループ同士は異なる巡回シフト量が与えられ、グループ間でCDDを行うことになる。直接波なしの場合でも、上述したように、グループ内でBFが行われる。
この場合、別の無線機のアンテナ指向性は、
図4に示すように、
図7(c)と
図7(e)の中間の特性となる4ビームが生成されて、ダイバーシティ効果が得られ、遮蔽物が出現した場合でも、通信の切断を防ぐことができるものである。
【0081】
[別の実施の形態の効果]
別の無線機によれば、複数のアンテナから成るグループを複数備え、グループ毎に対応してグループ内のアンテナの送信信号に同一の巡回シフト量を与える巡回シフト部202と、グループ内でBFを行うビームフォーミング部が設けられ、巡回シフト制御部502が、直接波ありと判定した場合には、全ての巡回シフト部202に同一の巡回シフト量を与えると共にビームフォーミング部に対してグループ間でもBFを行うよう制御し、直接波なしと判定した場合には、全ての巡回シフト部202に異なる巡回シフト量を与えると共に、ビームフォーミング部に対してグループ間のBFを行わないよう制御するようにしているので、見通し上に遮蔽物がない場合の指向性を鋭くして一層高速伝送及び長距離伝送を可能とすると共に、遮蔽物がある場合でもグループ間ではダイバーシティ効果が得られるため、通信の断絶を防ぎ、信頼性を向上させることができる効果がある。
【0082】
この出願は、2019年6月26日に出願された日本出願特願2019-119146を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、高速伝送及び長距離伝送を可能としつつ、遮蔽物があっても無線通信の断絶を回避することができる固定無線アクセスシステムの無線機、通信システム及び通信方法に適している。
【符号の説明】
【0084】
200…送信機能部、 201…OFDM変調部、 202…巡回シフト部、 203…GI付加部、 204…D/A変換部、 205…送信アナログ部、 206…アンテナ制御部、 207…アンテナ、 208…デジタル移相器、 209…アナログ移相器、 210,211…ビームフォーミング部、 300…受信機能部、 301…受信アナログ部、 302…A/D変換部、 401,402…無線機、 403…遮蔽物、 501…相関演算部、 502…巡回シフト制御部