(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-06
(45)【発行日】2022-06-14
(54)【発明の名称】導通損失の少ない逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20220607BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20220607BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 655D
H01L29/78 655B
H01L29/78 655G
H01L29/78 653A
H01L29/78 655F
(21)【出願番号】P 2021556777
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2020056779
(87)【国際公開番号】W WO2020193180
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-18
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519431812
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・スウィツァーランド・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY SWITZERLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パパドプーロス,ハラランポス
(72)【発明者】
【氏名】ラヒモ,ムナフ
(72)【発明者】
【氏名】コルバシェ,キアラ
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096222(JP,A)
【文献】特開2018-152426(JP,A)
【文献】国際公開第2015/118714(WO,A1)
【文献】特開2016-058636(JP,A)
【文献】特開2013-161918(JP,A)
【文献】特開2015-213163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面(11)および前記第1の主面(11)と反対側の第2の主面(12)を有するウエハ(10;10’)と、前記第1の主面(11)上の第1の主電極(21)と、前記第2の主面(12)上の第2の主電極(22)とを備える逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスであって、前記ウエハ(10;10’)は、
第1の導電型のベース層(31)と、
前記第1の導電型のベース層(31)と直接接触して第1のpn接合を形成し、かつ、前記第2の主電極(22)と直接接触する第2の導電型のコレクタ層(32)とを含み、前記第2の導電型は前記第1の導電型とは異なり、前記ウエハ(10;10’)はさらに、
前記第1の導電型のベース層(31)を前記第2の主電極(22)に電気的に接続する少なくとも1つのコレクタ短絡部(33)と、
前記第1の主面(11)に隣接する複数のアクティブユニットセル(40;40’)と、
前記第1の主面(11)から第1の深さ(d1)まで延在する第2の導電型のアノード領域(51;51’)を含むパイロットダイオードユニットセル(50;50’)とを含み、前記アノード領域(51;51’)は、前記第1の主電極(21)と直接接触し、かつ、前記第1の導電型のベース層(31)と直接接触して第2のpn接合を形成し、
前記アノード領域(51;51’)の第1の横側面に第1の絶縁層(52a;52a’)が配置され、前記アノード領域(51;51’)の前記第1の横側面に対向する前記アノード領域(51;51’)の第2の横側面に、前記第1の主面(11)に平行かつ垂直面に平行な方向に、第2の絶縁層(52b、52b’)が配置され、前記アノード領域(51;51’)は、前記垂直面を有する前記パイロットダイオードユニットセル(50;50’)の縦断面図において、前記第1の絶縁層(52a;52a’)から前記第2の絶縁層(52b、52b’)まで横方向に延在し、
前記第1の絶縁層(52a;52a’)は、前記第1の主面(11)から第2の深さ(d2)まで縦方向に延在し、前記第2の絶縁層(52b、52b’)は、前記第1の主面(11)から第3の深さ(d3)まで縦方向に延在し、前記第1の深さ(d1)は、前記第2の深さ(d2)よりも小さく、かつ、前記第3の深さ(d3)よりも小さく、
各アクティブユニットセル(40;40’)は、
前記第1の主面(11)上の前記第1の主電極(21)と直接接触する第1の導電型の第1のソース層(41a;41a’)と、
前記コレクタ層(32)と反対側の前記第1の導電型のベース層(31)の側の第2の導電型のベース層(42;42’)とを含み、前記第1の導電型のベース層(31)は、前記第2の導電型のベース層(42;42’)と直接接触して第3のpn接合を形成し、前記第2の導電型のベース層(42;42’)は前記第1のソース層(41a;41a’)と直接接触して第4のpn接合を形成し、各アクティブユニットセル(40;40’)はさらに、
前記第1のソース層(41a;41a’)、前記第2の導電型のベース層(42;42’)および前記第1の導電型のベース層(31)から第1のゲート絶縁層(46a;46a’)によって分離されて第1の電界効果トランジスタ構造を形成する第1のゲート電極(47a;47a’)を含み、
前記第1の主面(11)に垂直な前記垂直面に対する正射影における前記アノード領域(51;51’)の横方向サイズ(W)は1μm以下で
あり、前記横方向サイズは前記垂直面に平行な方向で測定され、横方向は前記第1の主面(11)に平行な方向と定義され、
前記縦断面図において、前記第1の絶縁層(52a;52a’)と前記第2の絶縁層(52b、52b’)との間の距離は1μm以下であることを特徴とする、逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項2】
隣接するアクティブユニットセル(40;40’)の前記第2の導電型のベース層(42;42’)内の任意の第1の点を前記アノード領域(51;51’)内の任意の第2の点と結ぶ任意の直線が、前記第1のまたは第2の絶縁層(52a、52b;52a’、52b’)に交差し、前記隣接するアクティブユニットセル(40;40’)は、前記複数のアクティブユニットセル(40;40’)のうちの、前記第2の導電型のベース層(42;42’)が前記アノード領域(51)までの最小の横方向距離を有するアクティブユニットセル(40;40’)である、請求項1に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項3】
各アクティブユニットセル(40;40)の前記第2の導電型のベース層(42;42’)までの前記アノード領域(51;51’)の横方向距離(D;D’)は、少なくとも15μmである、請求項1または2に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項4】
前記第1の主面(11)上で、前記アノード領域(51;51’)から前記隣接するアクティブユニットセル(40;40’)の前記第2の導電型のベース層(42;42’)まで延在する前記ウエハ(10;10’)の表面部分は、前記第1の主電極(21)から電気的に絶縁されている、請求項2または3に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項5】
前記第1の深さ(d1)は、前記第2の深さ(d2)の50%より小さく前記第3の深さ(d3)の50%より小さい、または、前記第2の深さ(d2)の3分の1より小さく前記第3の深さ(d3)の3分の1より小さい、請求項1~4のいずれか1項に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項6】
各アクティブユニットセル(40;40’)の前記第2の導電型のベース層(42;42’)および前記第1のゲート電極(47a;47a’)は、前記第1の主面(11)に平行な平面に対する正射影においてストライプ形状を有し、前記ストライプ形状の長手方向主軸はそれぞれ、前記第1の主面(11)に平行な第1の方向(Y)に平行である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項7】
前記パイロットダイオードユニットセル(50;50’)はストライプ形状であり、前記アノード領域(51;51’)、前記第1の絶縁層(52a;52a’)および前記第2の絶縁層(52b;52b’)は、前記第1の主面(11)に平行な平面に対する正射影においてストライプ形状を有し、前記ストライプ形状の長手方向主軸はそれぞれ、前記第1の方向(Y)に平行である、請求項
6に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項8】
複数のストライプ形状のパイロットダイオードユニットセル(50)を備え、前記第1の主面(11)に平行かつ前記第1の方向(Y)に垂直な第2の方向において、前記パイロットダイオードユニットセル(50)はアクティブユニットセル(40;40’)のグループと交互になり、前記アクティブユニットセル(40;40’)の各グループは複数のアクティブユニットセル(40;40’)を含む、請求項
7に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項9】
各アクティブユニットセル(40’)の前記電界効果トランジスタ構造は、前記第1のゲート電極(47a’)が第1のトレンチゲート電極として構成されているトレンチ電界効果トランジスタ構造である、請求項
6~
8のいずれか1項に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項10】
各パイロットダイオードユニットセル(50)と、隣接するアクティブユニットセル(40’)の前記第2の導電型のベース層(42’)との間に横方向に、前記隣接するアクティブユニットセル(40’)の前記第1のゲート電極(47a’)が配置され、前記隣接するアクティブユニットセル(40’)は、前記複数のアクティブユニットセル(40’)のうちの、前記第2の導電型のベース層(42’)がそれぞれの前記パイロットダイオードユニットセル(50)の前記アノード領域(51)までの最小の横方向距離を有するアクティブユニットセル(40)である、請求項
9に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項11】
各アクティブユニットセル(40’)は、
前記第1の主面(11)上の前記第1の主電極(21)と直接接触し、かつ、前記第2の導電型のベース層(42’)と直接接触して第5のpn接合を形成する第1の導電型の第2のソース層(41b’)と、
前記第2のソース層(41b’)、前記第2の導電型のベース層(42’)および前記第1の導電型のベース層(31)から第2のゲート絶縁層(46b’)によって分離されて、前記アクティブユニットセル(40’)において第2の電界効果トランジスタ構造を形成する第2のゲート電極(47b’)とを含み、
各アクティブユニットセル(40’)の前記第1のゲート電極(47a’)および前記第2のゲート電極(47b’)はトレンチゲート電極であり、前記トレンチゲート電極の間に、前記第2の導電型のベース層(42’)および記第1のソース層(41a’)および前記第2のソース層(41b’)が横方向に挿入されている、請求項
9または
10に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項12】
各アクティブユニットセル(40’)の前記第2のゲート電極(47b’)は、前記第1の主面(11)に平行な平面に対する正射影においてストライプ形状を有し、前記ストライプ形状の長手方向主軸は前記第1の方向(Y)に平行である、請求項
11に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項13】
前記第1のソース層(41a’)は複数の別々の第1のソース層領域(410a)を含み、前記第2のソース層(41b’)は複数の別々の第2のソース層領域(410b)を含み、前記第1の方向(Y)に平行な方向に沿って、前記第1のソース層領域(410a)は前記第2のソース層領域(410b)と交互になっている、請求項
12に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【請求項14】
前記パイロットダイオードユニットセル(50)と隣接するアクティブユニットセル(40)との間にダミーセル(60)が横方向に配置され、前記ダミーセル(60)は少なくとも第2の導電型のベース層とソース層とを有し、前記第2の導電型のベース層およびソース層は、前記ダミーセルの前記第2の導電型のベース層と前記ソース層とが前記第1の主電極(21)に電気的に接続されていないことを除いて、前記アクティブユニットセル(40)内の対応する層と同じ構造を有し、前記隣接するアクティブユニットセル(40)は、前記複数のアクティブユニットセル(40)のうちの、前記第2の導電型のベース層(42)が前記アノード領域(51)までの最小の横方向距離を有するアクティブユニットセル(40)である、請求項1~
13のいずれか1項に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
発明の分野
本発明は、パワーエレクトロニクス分野に関し、特に、請求項1のプリアンブルに記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
従来技術でよく知られている逆導通(RC)絶縁ゲートパワー半導体デバイスは、逆導通絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(RC-IGBT)である。RC-IGBTでは、ダイオードおよびIGBTは、n+ドープコレクタ短絡部をIGBT構造のp+ドープコレクタ層の一部に導入することによって、同じウエハまたはチップにモノリシックに集積されている。RC-IGBTは、そのエミッタ側に平面MOSFET構造を有する平面RC-IGBT、またはデバイスのエミッタ側にトレンチMOSFET構造を有するトレンチRC-IGBTでもよい。
【0003】
M.Rahimoらによる論文「The Bi-mode Insulated Gate Transistor (BiGT) A potential technology for higher power applications(二重モード絶縁ゲートトランジスタ(BiGT)高出力用途のための有望な技術)」(2009年パワー半導体デバイスおよびIC国際シンポジウムの会報、バルセロナ、スペイン、2009、283~286頁)では、二重モード絶縁ゲートトランジスタ(BIGT)に言及された高性能のRC-IGBTコンセプトが開示されている。BIGTは、高電圧およびハードスイッチング用途のための共通のRC-IGBTの特定の制約を克服することを目指している。具体的に、RC-IGBTにおけるアノード短絡部の影響の1つは、デバイスIGBTモードI-V特性における負抵抗領域として観察される電圧スナップバックの影響である。そのような電圧スナップバックの影響は、デバイスが特に低温で平行に並んでいる場合、とりわけ悪影響を及ぼす。BIGTは基本的には、1つのチップにおいてRC-IGBTおよび標準的なIGBT(パイロットIGBTとも呼ばれる)からなるハイブリッド構造である。
【0004】
図1は、公知の実現例に係る平面ゲート電極147を有する従来技術のRC-IGBT150を示す。
図1に示すように、RC-IGBT150は、ウエハ100内に、内蔵還流ダイオードを有する絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を備える。より詳細に、ウエハ100は、集積IGBTのエミッタ側および内蔵還流ダイオードのアノード側である第1の主面111と、IGBTのコレクタ側および内蔵還流ダイオードのカソード側である第2の主面112とを有する。第2の主面112は、第1の主面111と反対側に位置する。n型ドリフト層131aは、第1の主面111と第2の主面112との間に配置され、p型ベース層142は、ウエハ100の第1の主面111におけるドリフト層131a内のウェル領域として配置される。また、ドリフト層131と比較してより高いドーピングを有するn型ソース領域141は、ウエハ100の第1の主面111におけるp型ベース層142内の領域として形成される。
【0005】
電気絶縁ゲート絶縁層146が第1の主面111に配置され、p型ベース層142、ドリフト層131およびソース領域141の一部を覆う。平面ゲート電極147は、ゲート絶縁層146に形成されて、ゲート絶縁層146およびベース層142を有するMOS構造を形成する。第1の主電極121が第1の主面111に配置されて、ソース領域141およびp型ベース層142に直接電気接触する一方で、平面ゲート電極147を覆う他の絶縁層149によって平面ゲート電極147から電気的に絶縁されている。
【0006】
n型バッファ層131bが第2の主面112におけるドリフト層131aに配置され、p型コレクタ層132が、ドリフト層131aと反対側のバッファ層131bの側に配置される。複数のn型コレクタ短絡部133がコレクタ層132を貫通するように配置されて、バッファ層131bを第2の主電極122に電気的に接続し、第2の主電極122は、第2の主面112に配置されて、コレクタ層132およびコレクタ短絡部133に直接電気接触している。コレクタ短絡部133およびバッファ層131bは、ドリフト層131aと比較して高いドーピング濃度を有する。
【0007】
コレクタ短絡部133、バッファ層131b、ドリフト層131aおよびp型ベース層142は、内蔵還流ダイオードのカソード電極を形成する第2の主電極122と、内蔵還流ダイオードのアノード電極を形成する第1の主電極121との間にピン構造を有する内蔵還流ダイオードを形成する。
【0008】
そのような従来技術のRC-IGBT150では、デバイスがダイオードモードのときに、IGBTセルのp型ベース層142は、内蔵還流ダイオードのアノードとして用いられる。しかしながら、p型ベース層142はn型ソース領域141と接触しており、n型ソース領域141は、ゲート電圧が閾値を超えると、ゲート電極147下方のベース層142に形成されるn型導通チャネルを介して、ドリフト層131aと接続され得る。導通チャネルは、p型ベース層142とドリフト層131aとの間のpn接合を短絡させる。その結果、p型ベース層142とドリフト層131aとの間のpn接合は順方向にバイアスされないことがあり、ベース層142からドリフト層131aへの正孔注入が防止されない場合がある。電流は、導通チャネルを流れる単極性電子流によって維持される。ベース層142とドリフト層131aとの間のpn接合は、電位差がpn接合の内蔵電圧に到達すると、最終的に正孔の注入を開始する。しかしながら、接点における電圧ははるかに高くなることがある。正孔注入が開始すると、ドリフト層131aの導電率は調整され、電圧降下が減少する。したがって、ゲート電極に応じて、ダイオードは、I-V特性における特徴的なMOS制御負抵抗領域(電圧スナップバック)を示す。ゲート電圧が閾値よりも高い状態ではスナップバックは最大である一方で、電圧が閾値よりも低いまたは負である状態では、導通チャネルは形成されず、スナップバックは完全に存在しない。これに加えて、導通チャネルは、内部ダイオードが導通している間はp型ベース層142下方のプラズマ濃度を制御している。閾値よりも高いゲート電圧を印加することによって、プラズマは誘起されたチャネルを通過して抽出され、これによってp型ベース層142下方のプラズマが減少して、ゲートエミッタ電圧VGEが閾値よりも低い状況と比較して、オン状態の損失が多くなる。さまざまな用途ではダイオードモード中のゲート制御を自由に選択することはできないため、デバイスは、ゲート電極に印加される正のゲート電圧においても良好な性能を提供可能でなければならない。
【0009】
US 2013/099279 A1では、さらに別のp型ウェルがベース層と同じ平面だがアクティブセルの外側に配置されている平面RC-IGBTについて説明されている。p型ウェルは、エミッタ電極に直接またはベース層を介して電気的に接続されている。アクティブセルの外側のp型ウェルによって形成されるダイオードは、パイロットダイオードと呼ばれることもあり、p型ウェルが配置される領域は、パイロットダイオード領域と呼ばれることもある。パイロットダイオード領域は、注入レベルを改善し、ゲート電極に印加される任意のゲート電圧でのRC-IGBTのダイオードモード(逆導通状態)で導通損失が少ない。しかしながら、RC-IGBTのIGBTモード(順方向導通状態)では、パイロットダイオード領域において、ドリフト層からp型ウェル内へ正孔が流出することによってIGBTオン状態損失が非常に多くなり、そのため、ドリフト層においてプラズマ濃度が低くなって、ドリフト層の抵抗が高くなる。
【0010】
トレンチRC-IGBTでは、p型ベース層からドリフト層への正孔の注入レベルはより強い短絡効果のためにトレンチゲート電極に沿って導通チャネルによってさらにより効果的に低減され得るため、トレンチゲート電極に正のゲート電極が印加されると、ダイオードモード(すなわち、逆導通モード)の導通損失は、平面RC-IGBTと比較してさらに高くなる場合がある。
【0011】
US 2014/070270 A1、US 2016/0093725 A1またはUS 2015/0236143 A1ではそれぞれ、パイロットダイオード領域がアクティブセルの外側に配置されてダイオードモードにおける導通損失を低減するトレンチRC-IGBTが知られている。パイロットダイオード領域はp型層を含み、p型層は、エミッタ電極に接続され、アクティブセルにおけるp型ベース層に類似した2つの近隣のトレンチゲート電極間で横方向に挟まれている。しかしながら、パイロットダイオード領域を採用するUS 2013/099279 A1で知られる平面RC-IGBTと同様に、RC-IGBTのIGBTモード(すなわち、順方向オン状態)の導通損失は比較的多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の概要
本発明の目的は、ダイオードおよびIGBTモード、すなわち、逆方向導通モードおよび順方向導通モードにおける導通損失のトレードオフが改善された逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスを提供することである。本発明のこの目的は、請求項1に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスによって達成される。本発明のさらに他の展開が、従属項において特定される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスは、第1の主面および第1の主面と反対側の第2の主面を有するウエハと、第1の主面上の第1の主電極と、第2の主面上の第2の主電極とを備える。ウエハは、第1の導電型のベース層と、第1の導電型のベース層と直接接触して第1のpn接合を形成し、かつ、第2の主電極と直接接触する第2の導電型のコレクタ層と、第1の導電型のベース層を第2の主電極に電気的に接続する少なくとも1つのコレクタ短絡部と、第1の主面に隣接する複数のアクティブユニットセルと、パイロットダイオードユニットセルとを含む。パイロットダイオードユニットセルは、第1の主面から第1の深さまで延在する第2の導電型のアノード領域を含み、アノード領域は第1の主電極と直接接触し、かつ、第1の導電型のベース層と直接接触して第2のpn接合を形成する。各アクティブユニットセルは、第1の主面上の第1の主電極と直接接触する第1の導電型の第1のソース層と、コレクタ層と反対側の第1の導電型のベース層の側の第2の導電型のベース層とを含み、第1の導電型のベース層は、第2の導電型のベース層と直接接触して第3のpn接合を形成し、第2の導電型のベース層は第1のソース層と直接接触して第4のpn接合を形成し、各アクティブユニットセルはさらに、第1のソース層、第2の導電型のベース層および第1の導電型のベース層から第1のゲート絶縁層によって分離されて第1の電界効果トランジスタ構造を形成する第1のゲート電極を含む。第1の主面に垂直な垂直面に対する正射影におけるアノード領域の横方向サイズは1μm以下であり、横方向は第1の主面に平行な方向と定義される。アノード領域の第1の横側面に第1の絶縁層が配置され、アノード領域の第1の横側面に対向するアノード領域の第2の横側面に、第1の主面に平行かつ垂直面に平行な方向に、第2の絶縁層が配置される。垂直面を有するパイロットダイオードユニットセルの縦断面図において、第1の絶縁層と第2の絶縁層との間の距離は1μm以下であり、第1の絶縁層は第1の主面から第2の深さまで縦方向に延在し、第2の絶縁層は第1の主面から第3の深さまで縦方向に延在し、第1の深さは、第2の深さよりも小さく、かつ、第3の深さよりも小さい。
【0014】
新しいパイロットダイオードのコンセプトは、ダイオードモードとIGBTモードとの導通損失のトレードオフを改善することである。新しいパイロットダイオード領域は、1μm以下の距離を有する2つの隣接する絶縁層間で採用される。これによって、公知の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスと比較して、ダイオードモードにおける正孔注入レベルが高くなり、IGBTモードにおける正孔放出レベルがはるかに低くなる。
【0015】
例示的な実施形態では、隣接するアクティブユニットセルの第2の導電型のベース層内の任意の第1の点をアノード領域内の任意の第2の点と結ぶ任意の直線が、第1のまたは第2の絶縁層に交差し、隣接するアクティブユニットセルは、複数のアクティブユニットセルのうちの、第2の導電型のベース層がアノード領域までの最小の横方向距離を有するアクティブユニットセルである。アクティブセルとパイロットダイオード領域のアノード領域との間の第2の絶縁層のそのような配置によって、アクティブセルからアノード領域への正孔の放出をより効率的に防止できる。
【0016】
例示的な実施形態では、各アクティブユニットセルの第2の導電型のベース層までのアノード領域の横方向距離は、少なくとも15μmである。そのような例示的な実施形態では、アクティブユニットセルとパイロットダイオード領域との間の交差効果をより効率的に回避できる。
【0017】
例示的な実施形態では、第1の主面上で、アノード領域から隣接するアクティブユニットセルの第2の導電型のベース層まで延在するウエハの表面部分は、第1の主電極から電気的に絶縁されている。このような例示的な実施形態では、パイロットダイオード領域間の領域は、第1の主電極と直接接触していない領域によって、アクティブユニットセルからより効果的に分離されている。
【0018】
例示的な実施形態では、アノード領域は、垂直断面において第1の絶縁層から第2の絶縁層まで横方向に延在する。
【0019】
例示的な実施形態では、第1の深さは、第2の深さの50%より小さく第3の深さの50%より小さい、例示的に、第2の深さの3分の1より小さく第3の深さの3分の1より小さい。
【0020】
例示的な実施形態では、各アクティブユニットセルの第2の導電型のベース層および第1のゲート電極は、第1の主面に平行な平面に対する正射影においてストライプ形状を有し、ストライプ形状の長手方向主軸はそれぞれ、第1の主面に平行な第1の方向に平行である。本明細書を通じて、ストライプ形状とは、第1の方向の幅が第1の方向に垂直な第2の方向の幅の少なくとも2倍である任意の平面形状でもよい。ストライプ形状の長手方向主軸とは、本明細書を通じて、ストライプ形状が最も長く延在する方向に沿って延在する平面ストライプ形状の軸と定義される。
【0021】
後半の例示的な実施形態では、パイロットダイオードユニットセルはストライプ形状でもよく、アノード領域、第1の絶縁層および第2の絶縁層は、第1の主面に平行な平面に対する正射影においてストライプ形状を有し、ストライプ形状の長手方向主軸はそれぞれ、第1の方向に平行である。ここで、複数のストライプ形状のパイロットダイオードユニットセルが設けられてもよく、第1の主面に平行かつ第1の方向に垂直な方向において、パイロットダイオードユニットセルは、アクティブユニットセルのグループと交互になっており、アクティブユニットセルの各グループは複数のアクティブユニットセルを含む。
【0022】
例示的な実施形態では、各アクティブユニットセルの電界効果トランジスタ構造は、第1のゲート電極が第1のトレンチゲート電極として構成されているトレンチ電界効果トランジスタ構造である。したがって、本例示的な実施形態では、逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスはトレンチ型デバイスである。トレンチゲート電極は、本明細書を通じて、第1の主面からウエハ内に第2の主面に向かう方向において延在するゲート電極として理解され、第2の導電型のベース層はトレンチゲート電極の側面に配置される一方で、平面ゲート電極は、明細書を通じて、第1の主面上に延在するゲート電極として理解され、第2の導電型のベース層は、第1の主面に垂直な方向に第2の主面に向かって対向する平面ゲート電極の面に配置される。
【0023】
例示的な実施形態では、各パイロットダイオードユニットセルと、隣接するアクティブユニットセルの第2の導電型のベース層との間に横方向に、隣接するアクティブユニットセルの第1のゲート電極が配置され、隣接するアクティブユニットセルは、複数のアクティブユニットセルのうちの、第2の導電型のベース層がそれぞれのパイロットダイオードユニットセルのアノード領域までの最小の横方向距離を有するアクティブユニットセルである。
【0024】
例示的な実施形態では、各アクティブユニットセルは、第1の主面上の第1の主電極と直接接触し、かつ、第2の導電型のベース層と直接接触して第5のpn接合を形成する第1の導電型の第2のソース層と、第2のゲート電極とを含み、第2のゲート電極は、第2のゲート絶縁層および第2の導電ゲート層を有し、第2のソース層、第2の導電型のベース層および第1の導電型のベース層から第2のゲート絶縁層によって分離されて、アクティブユニットセルにおいて第2の電界効果トランジスタ構造を形成し、各アクティブユニットセルの第1のおよび第2のゲート電極はトレンチゲート電極であり、トレンチゲート電極の間に、第2の導電型のベース層、第1のソース層および第2のソース層が横方向に挿入されている。
【0025】
後半の例示的な実施形態では、各アクティブユニットセルの第2のゲート電極は、第1の主面に平行な平面に対する正射影においてストライプ形状を有し、ストライプ形状の長手方向主軸は第1の方向に平行である。
【0026】
ここで、第1のソース層は複数の別々の第1のソース層領域を含み、第2のソース層は複数の別々の第2のソース層領域を含み、第1の方向に平行な方向に沿って、第1のソース層領域は第2のソース層領域と交互になっている。そのような例示的な実施形態では、IGBTモードにおいて、第2の導電型のベース層内のプラズマの導電率変調が改善される。
【0027】
例示的な実施形態では、パイロットダイオードユニットセルと隣接するアクティブユニットセルとの間にダミーセルが横方向に配置され、ダミーセルは少なくとも第2の導電型のベース層とソース層とを有し、これらの層は、第2の導電型のベース層とソース層とが第1の主電極に電気的に接続されていないことを除いて、アクティブユニットセル内の対応する層と同じ構造を有し、隣接するアクティブユニットセルは、複数のアクティブユニットセルのうちの、第2の導電型のベース層がアノード領域までの最小の横方向距離を有するアクティブユニットセルである。そのような例示的な実施形態では、ダミーセルは、パイロットダイオードユニットセルを隣接するアクティブユニットセルから分離するための効率的な手段を提供する。例示的に、ダミーセルは、第1の主電極と電気的に接続されていないことを除いて、アクティブユニットセルと同じ構造を有する。
【0028】
本発明の主題は、以下の実施形態の詳細な説明から添付の図面を参照して、当業者にとって明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】従来技術の平面RC-IGBTの縦断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの、
図3のI-I’線に沿った縦断面図である。
【
図3】
図2の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの上面図である。
【
図4】第2の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの、
図5のII-II’線に沿った縦断面図である。
【
図5】
図4の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの上面図である。
【
図6】第3の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの上面図である。
【
図7】第4の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面で用いられる参照符号およびそれらの意味は、参照符号のリストに簡潔に一覧表示されている。原則として、同じ部分または同じように機能する部分には同じ参照符号が付されている。説明される実施形態は例であることを意味し、以下の請求項で定義されるように発明の範囲を制限するものではない。
【0031】
例示的な実施形態の詳細な説明
以下では、本発明に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの第1の実施形態について、
図2および
図3を参照して説明する。
図2は、
図3のI-I’線に沿った第1の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの縦断面図であり、
図3は、
図2の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの上面図である。
【0032】
第1の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスは、平面RC-IGBT1である。RC-IGBT1は、第1の主面11と、第1の主面11と反対側の第2の主面12とを有するウエハ10を備える。第1の主電極21が第1の主面11に形成され、第2の主電極22が第2の主面12に形成される。第1の主電極21はRC-IGBT1のエミッタ電極を形成し、第2の主電極22はRC-IGBT1のコレクタ電極を形成する。ウエハ10は、第1の主電極21と第2の主電極22との間に、(n-)型ドリフト層31a、(n+)型バッファ層31b、p型コレクタ層32、少なくとも1つの(n+)型コレクタ短絡部33、第1の主面11に隣接する複数のアクティブユニットセル40、およびパイロットダイオードユニットセル50を含む。ドリフト層31aおよびバッファ層31bは、n型の第1のベース層31を形成する。コレクタ層32は、n型の第1のベース層31に直接接触して第1のpn接合を形成し、第2の主電極22に直接接触している。コレクタ短絡部33は、n型の第1のベース層31を第2の主電極22に電気的に接続する。
【0033】
バッファ層31bは、第2の主面12に向けてドリフト層31a上に配置されて、コレクタ層32をドリフト層31aから分離する。そのため、
図2および
図3に示すようなRC-IGBT1は、パンチスルー(PT)構成を有する。バッファ層31bは、均一のドーピング濃度プロファイルを有してもよい、または、第2の主面12に向かう方向にドーピング濃度プロファイルが次第に上昇してもよい。より高い阻止電圧におけるRC-IGBT1の動作では、ドリフト層31aとバッファ層31bとの間の界面における電界はゼロに到達していることはない。電界はその後、バッファ層31bにおいて短距離に沿って、ドーピング濃度が比較的高いために急激にゼロに低下する。
【0034】
パイロットダイオードユニットセル50は、第1の主面11から第1の深さd1まで延在するp型のアノード領域51を含む。アノード領域51は、第1の主電極21と直接接触し、かつ、n型の第1のベース層31に直接接触して第2のpn接合を形成する。
【0035】
各アクティブユニットセル40は、n型の第1のソース層41a、n型の第2のソース層41b、およびコレクタ層32と反対側のn型の第1のベース層31側に配置されたp型の第2のベース層42を含む。n型の第1のベース層31は、p型の第2のベース層42に直接接触して第3のpn接合を形成し、p型の第2のベース層42は、第1のソース層41aに直接接触して第4のpn接合を形成し、かつ、第2のソース層41bに直接接触して第5のpn接合を形成する。p型の第2のベース層42は、第1の主面11に隣接するn型の第1のベース層31においてウェル領域として形成され、第1のソース層41aおよび第2のソース層41bは、第1の主面11に隣接するp型の第2のベース層42においてウェル領域として形成される。各アクティブユニットセル40はさらに第1のゲート電極47aを含み、第1のゲート電極47aは、第1のソース層41a、p型の第2のベース層42およびn型の第1のベース層31から第1のゲート絶縁層46aによって分離されて、第1の主面11に隣接した第1の金属絶縁体半導体(MIS)電界効果トランジスタ(FET)構造を形成する。さらに、各アクティブユニットセルは第2のゲート電極47bを含み、第2のゲート電極47bは、第2のソース層41b、p型の第2のベース層42およびn型の第1のベース層31から第2のゲート絶縁層46bによって分離されて、第1の主面11に隣接した第2の平面MISFET構造を形成する。第1のMISFET構造および第2のMISFET構造は、第1の主面11において二重拡散MOS(DMOS)構造を形成してもよい。
【0036】
第1の主面11に垂直な垂直面に対する正射影におけるアノード領域51の横方向サイズwは1μm以下であり、横方向は、第1の主面11に平行な方向として定義される。第1の主面11に垂直な前述の垂直面は、
図2の図面の平面である。アノード領域51の第1の横側面には(
図2のアノード領域51の左側には)第1の絶縁層52a が配置され、第1の主面11に平行かつ垂直面に平行な方向のアノード領域51の第1の横側面と対向するアノード領域51の第2の横側面には(
図2のアノード領域51の右側には)、第2の絶縁層52bが配置される。第1の絶縁層52aと第2の絶縁層52bとの間の距離は、アノード領域51の横方向サイズwに等しい。すなわち、上述の垂直面を有するパイロットダイオードユニットセル50の縦断面図では、第1の絶縁層52aと第2の絶縁層52bとの間の距離は1μm以下である。したがって、アノード領域51は、第1の絶縁層52aと第2の絶縁層52bとの間で横方向に挟まれている。アノード領域51は、第1の絶縁層52aから第2の絶縁層52bまで横方向に延在する。
【0037】
第1の絶縁層52aは第1の主面11から第2の深さd2まで縦方向に延在し、第2の絶縁層52bは第1の主面11から第3の深さd3まで縦方向に延在する。第1の深さd1は第2の深さd2より小さく、かつ、第3の深さd3より小さい。
図2に示すような第1の実施形態では、第2の深さd2と第3の深さd3とは同じである。しかしながら、第2の深さd2と第3の深さd3とは互いに異なってもよい。例示的に、第1の深さd1は第2の深さd2の50%より小さく、第3の深さd3の50%より小さい、より例示的に、第1の深さd1は第2の深さd2の3分の1より小さく、第3の深さd3の3分の1より小さい。
【0038】
図2および
図3から分かるように、各パイロットダイオードユニットセル50のアノード領域51は、第1の絶縁層52aまたは第2の絶縁層52bによって、各々の直接近接する(すなわち、隣接する)アクティブユニットセル40のp型の第2のベース層42から横方向に分離される。これは、隣接するアクティブユニットセル40のp型の第2のベース層42における任意の第1の点をアノード領域51における任意の第2の点と結ぶ任意の直線が、第1の絶縁層52aまたは第2の絶縁層52bに交差することを意味し、隣接するアクティブユニットセル40は、複数のアクティブユニットセル40のうちの、p型の第2のベース層42がアノード領域51まで最も短い横方向距離Dを有するアクティブユニットセル40である。
【0039】
アノード領域51と、隣接するアクティブユニットセル40のp型の第2のベース層42との間の横方向距離Dは、少なくとも15μmである。したがって、RC-IGBT1において各アクティブユニットセル40のp型の第2のベース層42までのアノード領域51の横方向距離は、少なくとも15μmである。
【0040】
ウエハ10の第1の主面11に、アノード領域51の上方から隣接するアクティブユニットセル40のp型の第2のベース層42まで延在する領域において絶縁層72が連続して形成されて、ウエハ10はこの領域で第1の主電極21から電気的に絶縁されている。
【0041】
図3から最もよく分かるように、各アクティブユニットセル40のp型の第2のベース層42、第1のゲート電極45aおよび第2のゲート電極45bは、第1の主面11に平行な平面に対する正射影においてそれぞれストライプ形状を有し、ストライプ形状の長手方向主軸はそれぞれ、第1の主面11に平行な第1の方向Yに平行である。
図3では、第1の方向Yは図面の平面において上下方向である。
【0042】
図3からさらに分かるように、RC-IGBT1は、複数のストライプ形状のパイロットダイオードユニットセル50を備え、第1の主面11に平行かつ第1の方向Yに垂直な第2の方向Xでは、パイロットダイオードユニットセル50はアクティブユニットセル40のグループと交互になり、アクティブユニットセル40の各グループは、複数のアクティブユニットセル40を含む。例示的に、アクティブユニットセルの各グループは、
図3に示すような2つのアクティブユニットセル40を含む。
【0043】
次に、本発明に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの第2の実施形態について、
図4および
図5を参照して説明する。第1の実施形態と第2の実施形態との多くの類似点を考慮して、第1のおよび第2の実施形態の相違点について主に説明するが、両方の実施形態に関して同じ特徴は必ずしも説明されない。具体的に、同じ参照符号を有する要素の詳細な説明は繰り返さないが、第1の実施形態の上述の説明が参照される。以下の説明で明示的に説明されない場合、第2の実施形態は第1の実施形態と同じであり得る。
【0044】
図4は、
図5のII-II’線に沿った、第2の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの縦断面図であり、
図5は、
図4の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの上面図である。第2の実施形態に係る逆導通絶縁パワー半導体デバイスは、トレンチRC-IGBT2である。第2の実施形態のトレンチRC-IGBT2内のパイロットダイオードユニットセル50は、第1の実施形態におけるパイロットダイオードユニットセル50と同じ構造および特徴を有する。また、ウエハ10’は、ドリフト層31a、バッファ層31b、コレクタ層32およびコレクタ短絡部33に関して同じ特徴を有する。しかしながら、アクティブユニットセル40’はトレンチ型のアクティブユニットセルである一方で、第1の実施形態におけるアクティブユニットセル40は平面アクティブユニットセルである。
【0045】
各トレンチ型のアクティブユニットセル40’は、n型の第1のソース層41a’、n型の第2のソース層41b’、およびコレクタ層32と反対側のn型の第1のベース層31の側に配置されたp型の第2のベース層42’を含む。n型の第1のベース層31はp型の第2のベース層42に直接接触して第3のpn接合を形成し、p型の第2のベース層42は第1のソース層41a’に直接接触して第4のpn接合を形成し、かつ、第2のソース層41b’に直接接触して第5のpn接合を形成する。p型の第2のベース層42’は、第1の主面11に隣接するn型の第1のベース層31においてウェル領域として形成され、第1のソース層41aおよび第2のソース層41bは、第1の主面11に隣接するp型の第2のベース層42’においてウェル領域として形成される。各アクティブユニットセル40’はさらに、第1のソース層41a’、p型の第2のベース層42’およびn型の第1のベース層31から第1のゲート絶縁層46a’によって分離されて、第1の主面に隣接する第1の垂直金属絶縁体半導体(MIS)電界効果トランジスタ(FET)構造を形成する第1のゲート電極47a’を含む。さらに、各アクティブユニットセル40’は、第2のソース層41b’、p型の第2のベース層42’およびn型の第1のベース層31’から第2のゲート絶縁層46b’によって分離されて、第1の主面11に隣接する第2の垂直MISFET構造を形成する第2のゲート電極47b’を含む。第1のゲート電極47a’は、第1のトレンチにおいて第1の主面11からウエハ10’内に延在するトレンチゲート電極であり、その側壁は第1のゲート絶縁層46a’によって覆われている。同様に、第2のゲート電極47b’は、第2のトレンチにおいて第1の主面11からウエハ10’内に延在するトレンチゲート電極であり、その側壁は第2のゲート絶縁層46b’によって覆われている。
図4に示すように、第1のゲート絶縁層46a’および第1のゲート電極47a’で充填された第1のトレンチは、第1の主面11からウエハ10’内に第4の深さd4まで延在する。同様に、
図4に示すように、第2のゲート絶縁層46b’および第2のゲート電極47b’で充填された第2のトレンチは、第1の主面11からウエハ10’内に第4の深さd4まで延在する。アクティブユニットセル40’において、第2のベース層42’、第1のソース層41a’および第2のソース層41b’は、第1のゲート電極47a’と第2のゲート電極47b’との間で横方向に挟まれている。
【0046】
図4に示す例示的な実施形態では、第2の深さd2、第3の深さd3および第4の深さd4はすべて同じである。しかしながら、第4の深さは第2の深さd2および/または第3の深さd3より小さくてもよい。d2およびd3をd4より大きくすることによって、RC-IGBTの順方向導通オン状態(IGBTモード)におけるアノード領域51への正孔の流出をさらに低減し得るという、付加的なデカップリング効果がもたらされる。2つの近隣のアクティブセル40’は、
図5に示すように共通トレンチゲート電極47’を共有してもよい。代替的に、第1のトレンチおよび第2のトレンチは、ウエハ10’において異なる深さまで延在してもよい。
【0047】
RC-IGBT2において、各パイロットダイオードユニットセル50と、隣接するアクティブユニットセル40’の第2の導電型のベース層42’との間で横方向に、隣接するアクティブユニットセル40’の第1のゲート電極47aが配置されており、この隣接するアクティブユニットセル40’は、複数のアクティブユニットセル40’のうちの、第2の導電型のベース層42’がそれぞれのパイロットダイオードユニットセル50のアノード領域51までの最小の横方向距離を有するアクティブユニットセル40’である。
【0048】
図5に示すように、各アクティブユニットセル40’の第1のゲート電極47a’、第2のゲート電極47b’は、第1の主面11aに平行な平面に対する正射影においてストライプ形状を有し、ストライプ形状の長手方向主軸は第1の方向Yに平行である。
【0049】
第1の実施形態と同様に、RC-IGBT2は複数のストライプ形状のパイロットダイオードユニットセル50を備え、第1の主面11に平行かつ第1の方向Yに垂直な第2の方向Xでは、パイロットダイオードユニットセル50はアクティブユニットセル40’のグループと交互になり、アクティブユニットセル40’の各グループは2つのアクティブユニットセル40’を含む。
図5に示す例示的な実施形態では、各グループは、共通ゲート電極47bを共有する2つのアクティブユニットセル40’を含む。代替的に、アクティブユニットセルの各グループは、1つのアクティブユニットセル40’または3つ以上のアクティブユニットセル40’を含んでもよい。
【0050】
第2の実施形態では、パイロットダイオードユニットセル50は、隣接するアクティブユニットセル40’からダミーセル60によって分離され、ダミーセル60は、アクティブユニットセル40’と同様にp型ベース層、第1のソース領域および第2のソース領域を含むが、これらの層は第1の主電極21に接続されていない。第1の実施形態と同様に、アノード領域51の上方から隣接するアクティブユニットセル40’のp型の第2のベース層42’まで延材する領域に絶縁層72が連続して形成されて、ウエハ10’はこの領域において、第1の主電極21から電気的に絶縁される。
【0051】
図6では、第3の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスが示されている。第3の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスは、第2の実施形態に係るRC-IGBT2に類似したトレンチRC-IGBT3である。
図6の上面図に示すRC-IGBT3は、第1のゲートソース層41a’が複数の別々の第1のソース層領域470aに分離され、第2のゲートソース層41b’が複数の別々の第2のソース層領域410bに分離されるという点においてのみ、RC-IGBT2と異なる。第1の方向Yに平行な方向に沿って、第1のソース層領域410aは第2のソース層領域410bと交互になっている。
【0052】
図7は、第4の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスの上面図である。第4の実施形態に係る逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスはトレンチRC-IGBT4であり、トレンチRC-IGBT4は、ストライプ形状のパイロットダイオードユニットセル50’がストライプ形状のアクティブユニットセル40’に対して異なる向きを有するという点においてのみ、RC-IGBT2と異なる。主軸がストライプ形状のアクティブユニットセル40’に平行な状態で配置されているのではなく、ストライプ形状のパイロットダイオード領域50’は、ストライプ形状のアクティブユニットセル40’に垂直に向けられている。他の態様では、RC-IGBT4の構造は上述のRC-IGBT2と同様である。特に、ストライプ形状のパイロットダイオードユニットセル50’の構造は、第1~第3の実施形態におけるパイロットダイオードユニットセル50の構造と同じである。上述の実施形態と同様に、アノード領域51’から各アクティブユニットセル40’のp型の第2のベース層42’までの最小距離D’は、少なくとも15μmである。
【0053】
本発明は、以下の請求項によって定義されるような本発明の範囲から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化され得るということが、当業者に理解されるであろう。
【0054】
たとえば、上述の実施形態では、隣接するトレンチ型アクティブユニットセル40、40’は必ずしも共通のゲート電極47bを共有しなくてもよいが、互いに物理的に分離され間隔をあけられていてもよい。
【0055】
上述の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスは、バッファ層31bを有するパンチスルー(PT)RC-IGBT1~4であったが、本発明の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスは、バッファ層31bを有さないノンパンチスルー(NPT)デバイスでもよい。
【0056】
上述の実施形態では、アクティブユニットセル40、40’のセル構造はストライプ形状のセル構造であると説明された。しかしながら、本発明の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスでは、アクティブユニットセル40、40’は、第1の主面11に平行な平面に対する正射影において、六角形または多角形などの他の形状を有してもよい。たとえば、トレンチゲート電極の他のデザインも同様に、正方形のデザイン、円形のデザイン、リングのデザイン、六角形のデザインなども可能である。同様に、上述の実施形態ではパイロットダイオードユニットセル50、50’はストライプ形状を有すると説明された。しかしながら、パイロットダイオードユニットセルは、第1の主面11に平行な平面に対する正射影において、六角形または多角形などの他の形状を有してもよい。
【0057】
絶縁層52a、52b、52a’および52b’は絶縁材料で連続して充填されたトレンチに配置されていると説明されたが、これらの絶縁層は、トレンチの底部および側壁を覆う層としてゲート絶縁層46a、46bと同じ態様で設けられてもよく、他の態様では、トレンチは導電性材料で充填されてもよい。例示的に、導電性材料は第1の主電極21に電気的に接続されてもよい。
【0058】
上述の実施形態では、本発明の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスはRC-IGBT1、2、3、4であると説明された。しかしながら、本発明の逆導通絶縁ゲートパワー半導体デバイスは、二重モード絶縁ゲートトランジスタ(BIGT)などの他の半導体デバイスでもよく、IGBTでは、IGBTおよびRC-IGBTが1つのウエハにおいて集積されている、すなわち、コレクタ層は、コレクタ短絡部を有する領域とコレクタ短絡部を有さない領域とを含む(例示的に、コレクタ短絡部を有さない広い領域は、横方向において、直接隣接するコレクタ短絡部の各ペア間の平均距離の少なくとも3倍の幅を有し、第1のコレクタ短絡部よりも第2のコレクタ短絡部に近接している他のコレクタ短絡部がない場合、第1のコレクタ短絡部は、第2のコレクタ短絡部に直接隣接する)。二重モードという用語は、トランジスタ(IGBT)モードおよび還流ダイオードモードにおいて同じ使用可能シリコン量を用いることによって、両方の動作モードにおいて同じ電力濃度でデバイスが動作可能であることを示す。
【0059】
これに加えて、上述のRC-IGBT1、2、3、4は、ドリフト層31aと同じ導電型を有する層であるがより高いドーピング濃度を有する、強化層などのさらに他の特徴を含んでもよい。強化層は、ドリフト層31aと第2のベース層42、42’との間に配置されてもよい。高電界からトレンチゲート電極を保護するために、たとえばトレンチゲート電極の底面側のドリフト層におけるトレンチRC-IGBT内に、付加的なp型領域が配置されてもよい。
【0060】
すべての実施形態において、導電型を切り替えてもよい、すなわち、代替的な実施形態では、n型として説明されたある特定の実施形態内のすべての層はp型であり、p型と説明されたすべての層はn型である。
【0061】
なお、「備える/含む(comprising)」という単語は、その他の要素またはステップを除外せず、不定冠詞「a」または「an」は、複数を除外しない。異なる実施形態と関連して説明された要素も、組合わされてもよい。なお、請求項における参照符号は、請求項の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0062】
参照符号のリスト
【符号の説明】
【0063】
1、150:平面RC-IGBT、2、3、4:トレンチRC-IGBT、10、10’、100:ウエハ、11、111:第1の主面、12、112:第2の主面、21、121:第1の主電極、22、122:第2の主電極、31:n型の(第1の)ベース層、31a、131a:ドリフト層、31b、131b:バッファ層、32、132:コレクタ層、33、133:コレクタ短絡部、40、40’:アクティブユニットセル、41a、41a’:第1のソース層、41b、41b’:第2のソース層、42、42’、142:p型の(第2の)ベース層、46a、46a’:第1のゲート絶縁層、46b、46b’:第2のゲート絶縁層、47a、47a’:第1のゲート電極、47b、47b’:第2のゲート電極、50、50’:パイロットダイオードユニットセル、51、51’:アノード領域、52a、52a’:第1の絶縁層、52b、52b’:第2の絶縁層、60:ダミーセル、72:絶縁層、135:バッファ層、141:n型ソース領域、145:ゲート電極、146:ゲート絶縁層、147:ゲート電極、149:絶縁層、d1:第1の深さ、d2:第2の深さ、d3:第3の深さ、D、D’:横方向距離、X:第2の方向、Y:第1の方向、w:横方向サイズ。