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  • 特許-生体適合性高分子材料のマーキング方法 図1
  • 特許-生体適合性高分子材料のマーキング方法 図2
  • 特許-生体適合性高分子材料のマーキング方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】生体適合性高分子材料のマーキング方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/30 20060101AFI20220608BHJP
   A61L 27/14 20060101ALI20220608BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220608BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20220608BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20220608BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A61L27/30
A61L27/14
A61L27/36 100
A61L27/04
A61F2/02
C23C14/34 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017105843
(22)【出願日】2017-05-29
(65)【公開番号】P2018198867
(43)【公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】522040252
【氏名又は名称】創生ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 武雄
(72)【発明者】
【氏名】大家 渓
(72)【発明者】
【氏名】岸田 晶夫
(72)【発明者】
【氏名】舩本 誠一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 良秀
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/080143(WO,A1)
【文献】特表2010-508942(JP,A)
【文献】特開2015-160040(JP,A)
【文献】特表2007-507284(JP,A)
【文献】特開2007-021208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
C23C 14/00-14/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性高分子材料をマーキングする方法であって、
生体適合性高分子材料の表面に金属モードでの反応性スパッタリングにより金属または金属の化合物の薄膜をパターン状に形成することを特徴とするマーキング方法。
【請求項2】
前記金属は、Ti、Zr、Au、Pt、Mg、Alから選択される金属である、
請求項1に記載のマーキング方法。
【請求項3】
前記生体適合性高分子材料は、生体由来材料である、
請求項1又は請求項2に記載のマーキング方法。
【請求項4】
前記生体由来材料は、脱細胞化組織である、
請求項3に記載のマーキング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性高分子材料のマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の一環として、患者の病変部位を脱細胞化組織で代替して再生を図ることが広く行われている。
【0003】
脱細胞化組織とは、ヒトやブタなどのドナーから採取した生体組織から細胞を除去した後に残る細胞外マトリクスであり、コラーゲンなどのタンパク質を主成分とする構造体である(例えば、特許文献1)。脱細胞化組織は、その作製過程で細胞膜抗原が完全に除去されるので、免疫拒絶反応を起こしにくいという利点を持つ。
【0004】
一方、脱細胞化組織を利用した施術には、以下の問題がある。すなわち、レシピエントの体内に埋植した脱細胞化組織には、レシピエント由来の細胞が入り込んで生着・自己組織化するが、脱細胞化組織が生体と一体化した後においては、超音波検査などの非侵襲的な方法では、生体内の脱細胞化組織をうまく識別することができなくなる。つまり、これまでは、施術後の脱細胞化組織の状態(例えば、脱細胞化組織が周囲の組織に癒着していないこと)を非侵襲的に観察することが困難であったため、施術の結果の善し悪しを客観的に評価することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-160040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、非侵襲的な検査方法に対応した生体適合性高分子材料のマーキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、非侵襲的な検査方法に対応した生体適合性高分子材料のマーキング方法につき鋭意検討した結果、以下の構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、生体適合性高分子材料をマーキングする方法であって、生体適合性高分子材料の表面にスパッタリングにより金属または金属の化合物の薄膜をパターン状に形成することを特徴とするマーキング方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、表面に金属または金属の化合物の薄膜がパターン状に形成されていることを特徴とする生体適合性高分子材料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、非侵襲的な検査方法に対応した生体適合性高分子材料のマーキング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】TiおよびTi酸化物のドットパターンを形成した脱細胞化組織の写真。
図2】評価試験の手順を説明するための図。
図3】評価試験の結果を示すエコー像。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、非侵襲的な検査方法に対応した生体適合性高分子材料のマーキング方法を開示する。以下、本実施形態のマーキング方法の手順を説明する。
【0013】
まず、生体適合性高分子材料を用意する。ここでいう生体適合性高分子材料とは、主にヒトに埋植することを前提とした生体材料であって、生体親和性ならびに耐久性に優れた高分子材料を意味する。本実施形態における生体適合性高分子材料は、合成高分子材料であってもよいし、生体由来材料であってもよい。なお、生体由来材料の場合は、必要に応じて、凍結乾燥などにより水分を十分に除去しておく。
【0014】
生体由来材料としては、脱細胞化組織を例示することができる。脱細胞化組織とは、ヒトやブタなどのドナーから採取した生体組織(例えば、心臓弁、動脈、気管、肝臓、真皮、骨髄、軟骨、角膜など)から細胞を除去した後に残る細胞外マトリクスを意味する。
【0015】
次に、マーキング材料として、金属を用意する。本実施形態では、マーキング材料として、生体親和性ならびに耐久性に優れた金属を用いることが望ましく、そのような金属として、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Au(金)、Pt(白金)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)などを例示することができる。なお、マーキング材料として用いる金属は合金や、酸化物、窒化物などの化合物であってもよい。
【0016】
特に、Ti(チタン)は、生体環境内でその表面がただちに酸化されて不働態化するため安全性が高く、また、耐久性も高いため、マーキング材料として好適である。
【0017】
次に、用意した生体適合性高分子材料の表面にスパッタリングによりマーキング材料の薄膜をパターン状に形成する。具体的には、スパッタリング装置の基板ホルダーに用意した生体適合性高分子材料をセットし、基板ホルダーの上に所定のパターンを有するパターンマスクを被せた上で、ターゲット材として用意したマーキング材料をセットしてスパッタリングによる成膜を実施する。その結果、生体適合性高分子材料の表面に金属または金属の化合物の薄膜がパターン状に形成される。本実施形態においては、生体適合性高分子材料の表面に形成されたこのパターン状薄膜が非侵襲的な検査方法(特に、超音波検査)に対応するマーカーとして機能することになる。
【0018】
本実施形態では、マーカーが形成された表面から入射した超音波が生体適合性高分子材料を透過することができる限りにおいて、マーカーのパターン(すなわち、生体適合性高分子材料に被せるパターンマスクのパターン)を、任意のパターンとすることができる。
【0019】
また、本実施形態では、基板である生体適合性高分子材料に熱変性を生じさせない限りにおいて、直流スパッタリング、ECRスパッタリング、高周波スパッタリング、中周波スパッタリング、パルススパッタリング、反応性スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲットスパッタリング、回転カソードスパッタリング、デュアルカソードスパッタリングといった既存の方法のうち、任意のスパッタリング法を利用することができる。
【0020】
本実施形態では、脱細胞化組織のような生体由来材料をマーキングする場合、反応性スパッタリングを利用することができる。その場合、反応ガスの流量とスパッタ電力を適切に制御することにより、ターゲット材を金属モードまたはそれに近い状態に維持することが望ましい。金属モードまたはそれに近い状態で反応性スパッタリングを実施した場合、金属または金属と反応ガスの化合物(金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物など)が、酸化物モードにおけるそれの数倍から数十倍の堆積速度で基板上に堆積するので、雰囲気が高温化する前に、すなわち、生体由来材料が熱変性する前に、生体由来材料の表面に金属または金属化合物の薄膜が形成される。さらに、マグネトロンを形成する磁場を最適化することにより、プラズマをターゲット近傍に閉じ込めて、基板へのプラズマ照射による加熱を低減化することも可能である。また、水冷機構をスパッタリング装置に実装することにより、基板への熱の影響を軽減することもできる。
【0021】
以上、生体適合性高分子材料にスパッタリングによってマーキングする方法について説明してきた。スパッタリングによれば、対象が大面積であっても、歪みやばらつきの少ない均一な薄膜をパターン形成することができる。また、スパッタリングによって形成された薄膜は、付着力が高いため、生体内で剥がれにくいという利点を有する。
【0022】
上述した手順で形成された金属または金属化合物の薄膜は、超音波検査(エコー検査)、レントゲン、CT、MRIといった非侵襲的な検査方法で検出可能なマーカーとして機能し、特に、超音波検査に対応する超音波マーカーとして有効に機能する。ここで、本実施形態の方法によれば、超音波マーカーがパターン状に形成されるので、超音波は、超音波マーカーのパターンの隙間を透過して深部に伝播する。これにより、脱細胞化組織(マーカー)とその周囲の組織のエコー像の同時的な観察が可能になり、その結果、脱細胞化組織の癒着の状態などの正確な評価が可能になる。
【0023】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうるその他の実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0024】
以下、本発明の生体適合性高分子材料のマーキング方法について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0025】
<脱細胞化組織の作製>
東京芝浦臓器から購入したウシ心膜の脂肪組織を除去した後、生理食塩水で洗浄した。洗浄後のウシ心膜組織(2 cm×2 cm)をプラスチックパックに入れ、5 mLの生理食塩水を加えてシーリングした後、冷間等方加圧装置で30℃、10000気圧の高静水圧処理(昇圧15分、圧力維持10分、減圧15分)を行った。
【0026】
その後、処理後のウシ心膜組織を清潔環境下で200 mLの滅菌カップにいれ、洗浄液1(0.2mg/mL DNase Iと50mM MgCl2・6H2Oの混合液)を100 mL加えて4℃下で3日間振とう洗浄した。
【0027】
その後、洗浄液2(80%EtOH)100 mLに組織を入れ替え、4℃下で3日間振とう洗浄し、さらに、0.1Mクエン酸ナトリウムバッファーと1%P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)の混合洗浄液3に組織を入れ替え、4℃下で1日以上振とう洗浄し、さらに加えて、生理食塩水に組織を入れ替えて、2時間洗浄した。
【0028】
最後に、洗浄後の組織を滅菌パックに入れて凍結乾燥させることによって、本実施例で使用する脱細胞化組織を得た。
【0029】
<Tiのパターン成膜>
スパッタリング装置の基板ホルダーに上述した手順で得た脱細胞化組織をセットし、基板ホルダーの上にドット形状のパターンマスクを被せ、Ti(チタン)をターゲット材としてセットし、反応性スパッタリング(不活性ガス:Ar、反応性ガス:O2)を実施した。なお、本実験では、電力100 W、O2流量0.1 sccm、Ar圧力1 Pa、T-S距離50.0 mmという条件の下、ターゲット材を金属モードに維持した状態で、5つの脱細胞化組織をそれぞれ異なる成膜時間でスパッタリングすることにより、5つの試料(Ti薄膜のパターンが形成された脱細胞化組織)を得た。
【0030】
各試料のTi薄膜の膜厚を測定した。下記表1は、各試料の成膜時間と膜厚をまとめて示す。
【0031】
【表1】
【0032】
図1(a)~(e)は、各試料の写真を示す。図1(a)~(e)に示すように、全ての試料において、Ti由来の金属光沢を持つドットパターンの形成に成功した。また、いずれの試料においても、脱細胞化組織の熱変性は確認されなかった。
【0033】
併せて、比較例として、脱細胞化組織に対して酸化物モードで反応性スパッタを行った。図1(f)は、その結果写真を示す。図1(f)に示すように、比較例では、脱細胞化組織の熱変性により、Ti薄膜を形成することができなかった。
【0034】
<評価試験>
冷間等方加圧装置を使用して、上述した試料(Ti薄膜をパターン成膜した脱細胞化組織)を生理食塩水で水戻しを行った。その後、ポリウレタンで作製した疑似生体(ファントム)の内部に、上述した試料を埋植し、当該試料の直下に金属クリップを埋植した。
【0035】
その後、図2に示すように、埋植した試料の直上に当たる疑似生体の表面に超音波検査装置のプローブを当ててエコー造影を行った。図3(a)は、試料1(Ti膜厚75nm)を埋植した疑似生体のエコー像を示し、図3(b)は、試料2(Ti膜厚100nm)を埋植した疑似生体のエコー像を示す。
【0036】
併せて、比較例として、試料の代わりにTi薄膜を形成していない脱細胞化組織を埋植した疑似生体と、試料の代わりにシリコン基板を埋植した疑似生体を用意して、同様の手順でエコー造影を行った。図3(c)は、Ti薄膜なしの脱細胞化組織を埋植した疑似生体のエコー像を示し、図3(d)は、シリコン基板を埋植した疑似生体のエコー像を示す。
【0037】
図3(c)に示すエコー像では、金属クリップの像を確認することはできたが、脱細胞化組織の像をはっきりと確認することができなかった。また、図3(d)に示すエコー像では、シリコン基板の像を確認することはできたが、シリコン基板の直下に埋植された金属クリップの像を確認することができなかった。
【0038】
一方、図3(a)、(b)に示すエコー像では、脱細胞化組織の表面に成膜されたTi薄膜の像(ドット状のハレーション)と、その直下に埋植された金属クリップの像を同時に観察することができた。
図1
図2
図3