(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】ヌクレオシド誘導体又はその塩、及びそれを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 473/32 20060101AFI20220608BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20220608BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
C07D473/32 CSP
A61K31/52
A61P31/20 ZNA
(21)【出願番号】P 2019509758
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2018011987
(87)【国際公開番号】W WO2018181102
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2017064946
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017150784
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「感染症実用化研究事業 肝炎等克服実用化研究事業」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】満屋 裕明
(72)【発明者】
【氏名】紺野 奇重
(72)【発明者】
【氏名】杉原 匠
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-505768(JP,A)
【文献】米国特許第06001840(US,A)
【文献】国際公開第90/006671(WO,A2)
【文献】特表平07-504185(JP,A)
【文献】特開平06-056877(JP,A)
【文献】特開昭63-258891(JP,A)
【文献】ELDRUP,A.B. et al.,Structure-Activity Relationship of Purine Ribonucleosides for Inhibition of Hepatitis C Virus RNA-De,Journal of Medicinal Chemistry,2004年,Vol.47, No.9,p.2283-2295,ISSN 0022-2623, 全文
【文献】HICKS,N. et al.,The enzymatic synthesis and anti-HIV activity of 9-β-D-2'-deoxy and 9-β-D-2',3'-dideoxynucleosides,Antiviral Chemistry and Chemotherapy,1992年,Vol.3, No.3,p.153-156,ISSN 2040-2066, 全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で表される化合物、又はその医薬として許容される塩。
【化1】
【請求項2】
請求項
1に記載の化合物、又はその医薬として許容される塩、及び医薬として許容される添加剤を含む、医薬組成物。
【請求項3】
ウイルス感染症を処置するための、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
HBV感染症を処置するための、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
アデホビル耐性、及びエンテカビル耐性からなる群より選択されるいずれかを獲得した耐性HBV感染症を処置するための、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ラミブジン、テノホビル、及びエンテカビルからなる群より選択されるいずれかと組み合わせて使用するための、請求項
1に記載の化合物、又はその医薬として許容される
塩。
【請求項7】
ラミブジン耐性、アデホビル耐性、及びエンテカビル耐性からなる群より選択されるいずれかを獲得した耐性HBV感染症を処置するための、請求項
6に記載の
化合物、又はその医薬として許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヌクレオシド誘導体、及び該誘導体を有効成分とする医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス(HBV)が感染すると、急性又は劇症的に肝炎が生じ、時に死に至ることがある。また、慢性的に肝炎を発症させ、肝硬変、そして肝細胞癌へと進行する場合もある。その感染者数は全世界で約4億人いると推定され、東南アジアを中心として罹患率は非常に高く、その有効な治療方法の開発が世界的に希求されている。
【0003】
HBVは、不完全2本鎖DNAウイルスであり、その生活環においてRNAからDNAを合成する逆転写を行うことが知られている。一方、宿主となるヒトにおいては、逆転写は行われないので、この段階を阻害することにより、HBVの複製のみを阻止することが可能となる。そして、このような観点からのHBV感染症の治療薬として、ヌクレオシド誘導体製剤(核酸アナログ製剤)が開発されている(例えば、特許文献1及び2、並びに非特許文献1参照)。
【0004】
核酸アナログ製剤は強力なHBV DNA増殖抑制作用を有し、ほとんどの症例で抗ウイルス作用を発揮し、肝炎を鎮静化させる。現在第一選択薬となっている核酸アナログ製剤の一つが、2'-デオキシグアノシンアナログであるエンテカビル(特許文献3、非特許文献2、3)である。核酸アナログ製剤による治療に関しては、投与中止により肝炎の再燃を起す可能性があること、薬剤耐性株が出現する場合があることが知られている。耐性株に対しても効果を有する核酸アナログ製剤も検討されてきている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-244422号公報
【文献】特開2008-273960号公報
【文献】特開平4-282373号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Yuki Takamatsu et al., HEPATOLOGY, 62(4), 2015, 1024-1036
【文献】G S Bisacchi et al., Bioorg Med Chem Lett. 7(2), 1997, 127-132
【文献】S F Innaimo et al., Antimicrob Agents Chemother. 41(7), 1997, 1444-1448
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現状の核酸アナログ製剤において、その多くが宿主細胞、すなわち服用するヒトの細胞に対しても毒性を有しており、中長期の服用による副作用が問題となっている。また、服用期間に核酸アナログ製剤への耐性株が生じることもある。以前の核酸アナログ製剤で耐性株が出現した場合には、新たな別の核酸アナログ製剤を用いることにより耐性株を抑えることも検討される。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくともHBVに対して抗ウイルス活性を有し、宿主細胞に対する毒性が低い、新たなヌクレオシド誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を提供する。
【0010】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物、又はその医薬として許容される塩。
【化1】
式中、
Rは、水素原子、シアノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又はアジド基である。
[2] 一般式(1)中、Rが水素原子である、下記式(2)で表される化合物、又はその医薬として許容される塩。
【化2】
[3] 1又は2に記載の化合物又はその医薬として許容される塩、及び医薬として許容される添加剤を含む、医薬組成物。
[4] ウイルス感染症を処置するための、3に記載の医薬組成物。
[5] HBV感染症を処置するための、3に記載の医薬組成物。
[6] ラミブジン耐性、アデホビル耐性、及びエンテカビル耐性からなる群より選択されるいずれかを獲得した耐性HBV感染症を処置するための、5に記載の医薬組成物。
[7] 1又は2に記載の化合物又はその医薬として許容される塩と、ラミブジン、テノホビル、及びエンテカビルからなる群より選択されるいずれかとの組み合わせ。
[8] ラミブジン耐性、アデホビル耐性、及びエンテカビル耐性からなる群より選択されるいずれかを獲得した耐性HBV感染症を処置するための、7に記載の組み合わせ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規なヌクレオシド誘導体を提供することができる。また本発明によれば、少なくともHBVに対して抗ウイルス活性を有し、宿主細胞に対して毒性が低い化合物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(新規化合物、その塩)
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物、又はその医薬として許容される塩を提供する。
【0013】
【0014】
式中、Rは、水素原子、シアノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、又はアジド基である。
【0015】
「置換基を有していてもよいアルキル基」におけるアルキル基としては特に制限はないが、炭素数1~6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。「置換基を有していてもよいアルキル基」における置換基としては特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、アミノ基が挙げられるが、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。より具体的には、「置換基を有していてもよいアルキル基」は、モノフルオロメチル基が好ましい。
【0016】
「置換基を有していてもよいアルケニル基」におけるアルケニル基としては特に制限はないが、炭素数2~6の直鎖状、分岐状、又は環状のアルケニル基が好ましく、エテニル基がより好ましい。「置換基を有していてもよいアルケニル基」における置換基としては特に制限はなく、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シアノ基、アミノ基が挙げられる。
【0017】
一般式(1)で表される化合物、又はその医薬として許容される塩のうち、特に好ましいものの一つは、一般式(1)においてRが水素原子である化合物、又はその医薬として許容される塩である。一般式(1)においてRが水素原子である化合物は、下記式(2)の構造を有する。
【0018】
【0019】
上記の、一般式(1)で表される化合物の医薬として許容される塩としては、通常知られているアミノ基などの塩基性基における塩を挙げることができる。
【0020】
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素塩、硝酸塩、硫酸水素酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、樟脳スルホン酸塩、スルファミン酸塩、マンデル酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、ステアリン酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、パモン酸塩、フェニル酢酸塩、グルタミン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、スルファニル酸塩、2-アセトキシ安息香酸塩、エタンジスルホン酸塩、シュウ酸塩、イセチオン酸塩、ギ酸塩、トリフルオロ酢酸塩、エチルコハク酸塩、ラクトビオン酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、アスパラギン酸塩、アジピン酸塩、ヨウ化水素酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、ピクリン酸塩、チオシアン酸塩、ウンデカン酸塩等が挙げられる。
【0021】
一般式(1)で表される化合物、又は医薬として許容される塩は、水和物、溶媒和物、種々の型の結晶である場合がある。水和物又は溶媒和物としては、特に制限はなく、例えば、化合物1分子に対し、0.1~3分子の水又は溶媒が付加したものが挙げられる。
一般式(1)で表される化合物、又は医薬として許容される塩には、互変異性体、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、立体異性体等の総ての異性体及び異性体混合物が含まれる。さらに、本発明の化合物又は塩が生体内で酸化、還元、加水分解、アミノ化、脱アミノ化、水酸化、リン酸化、脱水酸化、アルキル化、脱アルキル化、抱合等の代謝を受けてなお所望の活性を示す化合物をも包含し、また本発明は生体内で酸化、還元、加水分解等の代謝を受けて本発明の化合物又は塩を生成する化合物(所謂、プロドラッグの形態)をも包含する。
【0022】
(製造)
一般式(1)で表される化合物又はその塩は、入手可能な化合物を出発物質として、公知の方法を組み合わせることにより製造することができる。
【0023】
例えばRがシアノ基の場合、具体的には、入手可能な化合物を出発物質として下記に例示されるような方法で製造することができる。
【0024】
【0025】
(1)シクロペンタンメタノール部2位水酸基への保護基導入工程(出発物質→A→B→C)
出発物質のシクロペンタンメタノール部2位水酸基に保護基を導入する。すなわち、シクロペンタンメタノール部1位ヒドロキシメチル基にジメトキシトリチル基等の保護基を一旦導入し、その後、2位に保護基を導入する。保護基としては公知の基を用いることができ、例えば、tert-ブチルジメチルシリル基(TBS)、ジメトキシトリチル基、トリイソプロピルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基などを、通常の方法を参考に導入することができる。
なお必要に応じ、塩基部2位のアミノ基に対してイソブチリル基などの保護基を導入してもよい。2位アミノ基のイソブチリル化は、出発物質を氷冷下でイソブチルクロリドと反応させる等の方法によって行うことができる。
【0026】
(2)シクロペンタンメタノール部1位への置換基導入工程(C→D→E→F)
シクロペンタンメタノール部2位に保護基を導入した後、シクロペンタンメタノール部1位に置換基を導入する。ヒドロキシメチル基を導入する場合、たとえば、1位ヒドロキシメチル基の保護基を除去した後、酸化により1位のアルデヒド体への変換を行い、塩基触媒存在下でアルドール反応に処する等の方法により、ヒドロキシメチル基を導入することができる。
【0027】
(3)シクロペンタンメタノール部1位β-ヒドロキシメチル基への保護基導入工程(F→G→H)
さらにシクロペンタンメタノール部1位β-ヒドロキシメチル基に保護基を導入する工程である。すなわち、1位α-ヒドロキシメチル基にジメトキシトリチル基等の保護基を一旦導入し、その後、β-ヒドロキシメチル基に保護基を導入する。β-ヒドロキシメチル基への保護基の導入については(1)の工程と同様に行うことができる。
【0028】
(4)シクロペンタンメタノール部1位α-ヒドロキシメチル基のシアノ化工程(H→I→J→K)
次に、シクロペンタンメタノール部1位α-ヒドロキシメチル基を目的とする置換基に変換する工程である。シアノ基に変換する場合には、α-ヒドロキシメチル基の保護基を除去した後、当該水酸基を酸化反応によりアルデヒド化し、ヒドロキシルアミン等と反応させてオキシム化した後、さらに脱水させることでシアノ基に変換する方法などをとることができる。
【0029】
(5)塩基部6位のクロロ基除去工程(K→L)
塩基部6位のクロロ基を除去する工程である。例えば、パラジウム炭素にメタノールを加えた後、トリエチルアミンを加え、反応させることでクロロ基を除去することができる。
【0030】
(6)脱保護工程(L→M)
最後に、塩基部2位アミノ基およびシクロペンタンメタノール部2位水酸基、1位β-ヒドロキシメチル基の保護基を適宜除去することで、本発明の化合物を得られる。保護基の除去は、使用した保護基に応じ、酸性加水分解、アルカリ性加水分解、フッ化テトラブチルアンモニウム処理、接触還元などの通常の処理方法から適宜選択して行えばよい。
【0031】
また、上で示した好ましい化合物の一つである式(2)で表される化合物は、下記のように、入手可能な化合物を出発物質として、水酸化パラジウム (Pd(OH)2) を活性炭に担持させた触媒を用い、芳香環に結合した塩素の水素への置換を行い、製造することができる。
【0032】
【0033】
このような一般式(1)で表される化合物及びその塩の合成方法は後述の実施例において詳細に示されているので、当業者であれば、実施例の記載を参照しつつ、反応原料、反応試薬、反応条件(例えば、溶媒、反応温度、触媒、反応時間)等を適宜選択しつつ、必要に応じてこれらの方法に適宜、修飾ないし改変を加えることにより、一般式(1)で表される化合物及びその塩を合成することは可能である。また、このようにして合成された一般式(1)で表される化合物及びその塩は、一般のヌクレオシド、ヌクレオチドの単離・精製に使用されている方法(逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、再結晶法)を適宜単独又は組み合わせて用いることにより、分離、精製することができる。
【0034】
(医薬用途)
一般式(1)で表される化合物及びその塩は、少なくともB型肝炎ウイルス(HBV)に対して抗ウイルス活性を発揮しうる。本発明において「HBV」は、B型肝炎を発症させる能力を有するウイルスを意味する。HBVとしては、A(A2/Ae、A1/Aa)、B(Ba、B1/Bj)、C(Cs、Ce)、D~H及びJの遺伝子型が知られているが、本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、少なくとも1つの遺伝子型のHBVに対して抗ウイルス活性を有するものであればよい。上記の遺伝子型のうちHBV/Ceは、既存の核酸アナログ製剤であるエンテカビルに対して耐性を示す遺伝子型であることが知られている。本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、HBV/Ceに対して抗ウイルス活性を発揮しうる。
【0035】
また、発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、エンテカビル耐性HBVおよびアデホビル耐性HBVの少なくとも一方、好ましくは双方に対して、抗ウイルス活性を発揮しうる。
【0036】
本発明において「抗ウイルス活性」とは、HBV等のウイルスが感染した細胞(宿主細胞)において、当該ウイルスを消滅させる、又はその増殖を抑制する活性を意味し、例えば、宿主細胞におけるウイルス複製を抑制する活性が挙げられる。また、かかる抑制等の対象がゲノムとしてDNAを有するDNAウイルス(ウイルス)である場合には、「抗DNAウイルス活性」と称する。さらに、かかる活性は、後述の実施例に示すように、宿主細胞におけるウイルスのコピー数等を指標として算出されるEC50値にて評価することができる。本発明のヌクレオシド誘導体は、抗ウイルス活性のEC50値が0.1μM以下であることが好ましく、0.06μM以下であることがより好ましく、0.04μM以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、一般式(1)で表される化合物及びその塩は、細胞毒性が低いことが好ましい。本発明において「細胞毒性」とは、細胞を殺傷する、その機能を阻害する、又はその増殖を抑制する活性を意味する。かかる活性は、後述の実施例に示すように、細胞の生存数等を指標として算出されるCC50値にて評価することができる。本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、CC50値が10μM以上であることが好ましく、50μM以上であることがより好ましく、100μM以上であることが更に好ましく、200μM以上であることが特に好ましい。
【0038】
後述の実施例において示すとおり、本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、少なくともB型肝炎ウイルスに対して抗ウイルス活性を有する。また後述の実施例において示すとおり、本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、HBVの野生株のみならず、HBVの耐性株に対して抗ウイルス活性を有する。したがって、本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、ウイルス感染症の、とくにHBV感染症の処置のための医薬の有効成分として用いることができ、また耐性HBV感染症の処置のための医薬の有効成分として用いることができる。なお、処置は、予防又は治療などを意味する。予防は、発症の阻害、発症リスクの低減、発症の遅延等を意味する。治療は、対象となる疾患又は状態の改善又は進行の抑制(維持又は遅延)などを意味する。耐性株の例は、エンテカビル耐性株、アデホビル耐性株、ラミブジン耐性株等が挙げられる。
【0039】
また、本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩は、ウイルス感染症の、とくにHBV感染症の処置のために有用な化合物を探索するための、シード化合物、リード化合物又は中間体として有用でありうる。
【0040】
本発明の医薬組成物並びに後述の予防方法、治療方法が対象とするウイルス感染症としては特に制限はなく、例えば、HBV感染症が挙げられる。HBV感染症としては、より具体的には、B型肝炎(慢性肝炎、急性肝炎、劇症肝炎)、それに伴う肝硬変、肝繊維化、肝細胞癌が挙げられる。
【0041】
本発明の医薬組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、咀嚼剤、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、塗布剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、経皮吸収型製剤、ローション剤、吸引剤、エアゾール剤、注射剤、坐剤等として、経口的又は非経口的に使用することができる。
【0042】
これら製剤化においては、薬理学上許容される担体又は媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、あるいはその他の添加剤等と適宜組み合わせることができる。より具体的には、担体として、乳糖、カオリン、ショ糖、結晶セルロース、コーンスターチ、タルク、寒天、ペクチン、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、レシチン、塩化ナトリウム等の固体状担体、グリセリン、落花生油、ポリビニルピロリドン、オリーブ油、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、水等の液状担体も挙げられる。
【0043】
また、本発明の医薬組成物は、公知の他の医薬組成物と併用してもよい。このような公知の医薬組成物としては、対象疾患がHBV感染症である場合には、例えば、エンテカビル、3TC(ラミブジン)、アデホビル等の公知の核酸アナログ製剤、インターフェロン(IFN)が挙げられる。また、このような薬剤を用いた抗ウイルス療法の他、免疫療法(副腎皮質ステロイドホルモン離脱療法、プロパゲルニウム製剤内服等)、肝庇護療法(グリチルリチン製剤の静注、胆汁酸製剤の内服等)との併用療法に、本発明の医薬組成物を用いることもできる。
【0044】
本発明の特に好ましい態様の一つは、一般式(1)で表される化合物又はその医薬として許容される塩と、ラミブジン、テノホビル、及びエンテカビルからなる群より選択されるいずれかとを組み合わせて使用することである。このような組み合わせは、特にラミブジン耐性、アデホビル耐性、及びエンテカビル耐性からなる群より選択されるいずれかを獲得した耐性HBV感染症を処置するために有効であろう。「組み合わせ」は、それぞれを含む組成物を、同時に、又は順に使用することを含む。
【0045】
本発明の医薬組成物の好ましい投与形態としては特に制限はなく、経口投与又は非経口投与、より具体的には、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気道内投与、直腸投与及び筋肉内投与、輸液による投与が挙げられる。経口投与が好ましい。
【0046】
本発明の医薬組成物は、主にヒトを対象として使用することができるが、実験用動物等のヒト以外の動物も対象とすることができる。
【0047】
本発明の医薬組成物を投与する場合、その投与量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、重篤状態、薬物に対する忍容性、投与形態等に応じて、適宜選択される。1日当たりの本発明の医薬組成物の投与量は、有効成分である一般式(1)で表される化合物及びその塩の量として、通常0.00001~1000mg/kg体重、好ましくは0.0001~100mg/kg体重であり、1回又は複数回に分けて対象に投与される。本発明の医薬組成物の製品又はその説明書は、ウイルス感染症を治療又は予防するために用いられる旨の表示を付したものであり得る。ここで「製品又は説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装等に表示を付したこと、又は製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、その他の印刷物等に表示を付したことを意味する。また、ウイルス感染症を治療するために用いられる旨の表示においては、本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩を投与することにより、ウイルスの逆転写酵素反応を阻害し、当該ウイルスの複製を抑制できることも本発明の医薬組成物の作用機序に関する情報として含むことができる。
【0048】
このように本発明は、本発明の医薬組成物を対象に投与することによって、感染症を予防又は治療することができる。したがって、本発明は、本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩を投与することを特徴とする、ウイルス感染症を予防又は治療するための方法をも提供するものである。
【0049】
本発明の一般式(1)で表される化合物及びその塩を投与する対象としては特に制限はなく、例えば、HBV等のウイルス感染症患者、感染症が発症する前のウイルス保有者、感染する前の者が挙げられる。
【実施例】
【0050】
[合成例1:(1R,2S,4R)-4-(2-アミノ-9H-プリン-9-イル)-2-ヒドロキシ-シクロペンタンメタノールの合成]
【0051】
【0052】
上記のスキームの左方に示した出発物質を公知の方法(米国特許第4,543,255号)にしたがって得た。出発物質(91.1mg,0.321mmol)と水素化パラジウム-活性炭素(Pd20%)(約50%含水)にメタノール(3.2mL)を加え、水素雰囲気下室温にて2日間撹拌した。反応終了後、セライトでろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール=3/1)にて精製し、式(2)の化合物(55.8mg,61%)を得た。
【0053】
1H-NMR(MeOH):δ8.54(1H,s),8.19(1H,s),5.07(1H,tt,J=9.4,8.0Hz),4.31-4.28(1H,m),3.76-3.65(2H,m),2.52-2.46(1H,m),2.44-2.38(1H,m),2.22-2.14(2H,m),1.92(1H,td,J=9.7,12.8Hz).
【0054】
上述の通りに合成して得られた化合物について、以下に示す方法にて、抗ウイルス活性及び細胞毒性を評価した。
【0055】
[試験例1:抗HBV活性の評価(2週間評価系)]
供試細胞として、ヒト肝ガン由来細胞株(HepG2細胞)にHBV遺伝子を導入することにより、持続的にHBVを産生するように調製された、HepG2 2.2.15細胞を用いた。なお、HepG2 2.2.15細胞は、10%胎児ウシ血清含有DMEMにおける継続培養にて維持した。また、当該細胞は、エピソームとして産生するHBV遺伝子を有するため、このエピソームHBVのDNAを定量し、上記化合物の存在下における当該量の減少度によって抗HBV活性を評価とした。
【0056】
より具体的には、HepG2 2.2.15細胞を、12穴細胞培養皿の各ウェルに1.5×105cells/2mLの濃度になるよう播種した。細胞が80%コンフルエントに達した段階で、化合物を様々な濃度にて添加した。化合物を添加した培養液は4日毎に交換し、当該誘導体の存在下で12日間培養した。その後、各HepG2 2.2.15細胞から、QIAamp DNA Blood Mini Kit(QIAGEN社製)を用い、全細胞DNAを抽出し、200μLの1×TEバッファーに溶解した。次いで、このようにして抽出したDNAを鋳型として、リアルタイムPCRでHBV DNAを定量した。すなわち、HepG2 2.2.15細胞からの抽出DNAのうち2μLを2×SYBR PCR master mix(Applied Biosystems社製)を用いて増幅した。その増幅(PCR)反応には、HBVポリメラーゼ領域を検出する下記のプライマーセットを用いた:
5'-GCGAGGACTGGGGACCCTGTGACGAAC-3'(配列番号:1)、及び 5'-GTCCACCACGAGTCTAGACTCTGC-3'(配列番号:2)。また、PCRの反応は、95℃で10分間、その後、95℃で15秒と60℃で1分間とを40サイクル行った。
【0057】
このようなPCR反応によって得られたデータを、StepOneTM Software Version2.0(Applied Biosystems社製)で解析し、CT値を得た。次いで、既知濃度のHBVプラスミドを10倍ごとに希釈(20から2×108コピー)したものを用いて作成された検量線により、前記CT値を化合物存在下におけるHBVのコピー数(HBVのDNA量)へと変換した。そして、化合物の非存在下にて培養した対照におけるそれと比較し、その減少度からEC50値を算出し、化合物の抗HBV活性を評価した。
なお、参照例1の化合物は非特許文献4、参照例2の化合物(エンテカビル)は非特許文献2、参照例3の化合物は米国特許第4,543,255号に記載の方法に従ってそれぞれ合成することができる。
【0058】
[試験例2:細胞毒性試験(1)]
化合物に関し、HepG2細胞に対する細胞毒性試験を行った。段階希釈後の各濃度の化合物を添加した培地と共に、HepG2細胞を1×104cells/mlの濃度になるよう播種した。このようにして様々な濃度の化合物の存在下、37℃、5%CO2の標準培養条件で7日間、これら細胞を培養した後、各ウェルの生存細胞数をMTTアッセイで定量化した。そして、得られた生存細胞数に基づき、化合物に関し、CC50を算出した。
【0059】
上記の試験例で得られた結果を下表に示した。なお下表には、SI値として、HepG2を用いた試験によるCC50値をEC50値で除した値も示している。この選択性指数が大きいほど、毒性/活性比が大きく、医薬として好適である。
【0060】
【0061】
表に示した結果から明らかな通り、合成例1で得た式(2)の化合物はHBVに対する優れた抗ウイルス活性を有し、また参照例1及び2と比較して、毒性がより低いことが明らかとなった。
【0062】
[試験例3:細胞毒性試験(2)]
化合物に関し、MT-2細胞に対する細胞毒性試験を行った。段階希釈後の各濃度の化合物を添加した培地と共に、MT-2細胞を1×104cells/mlの濃度になるよう播種した。このようにして様々な濃度の化合物の存在下、37℃、5%CO2の標準培養条件で7日間、これら細胞を培養した後、各ウェルの生存細胞数をMTTアッセイで定量化した。そして、得られた生存細胞数に基づき、化合物に関し、CC50を算出した。
【0063】
上記の試験例で得られた結果を下表に示した。なお下表には、SI値として、MT-2を用いた試験によるCC50値をEC50値で除した値も示している。この選択性指数が大きいほど、毒性/活性比が大きく、医薬として好適である。
【0064】
【0065】
表に示した結果から明らかな通り、合成例1で得た式(2)の化合物は参照例1及び3と比較して、毒性がより低いことが明らかとなった。
【0066】
[試験例4:耐性株に対する活性の評価]
以下の方法で、耐性株に対する活性を評価した。
野生株(pHBVWT)、エンテカビル耐性株(pHBVETV-R
L180M/S202G/M204V)、及びアデホビル耐性株(pHBVADV-R
A181T / N236T)の1.24倍HBVゲノムを保有するプラスミドを、in vitro試験のために構築した(非特許文献5参照)。100万個のHuh-7細胞を直径10cmのディッシュに播種し、24時間後、Fugeneトランスフェクション試薬(Promega、Madison、WI)を使用して5μgのプラスミドを製造者の指示に従ってトランスフェクションした。トランスフェクションの4~5時間以内にトランスフェクション細胞に異なる濃度の各化合物を添加し、トランスフェクション後72時間以内に回収した。トランスフェクション効率は、分泌胚性アルカリホスファターゼ(secreted embryonic alkaline phosphatase, SEAP)を発現する0.5μgのレポータープラスミドとの同時トランスフェクションにより測定し、SEAP Reporter Gene Assay(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany)を用いて培養上清からのSEAP測定で標準化した(非特許文献5参照)。
【0067】
DNA抽出後、サザンブロットハイブリダイゼーションを行った(非特許文献5参照)。簡潔に述べると、採取した細胞を、50mM Tris-HCl(pH7.4)、1mM EDTA及び1%IGEPAL CA-630(Sigma-Aldrich、Japan G.K.)を含む1.5mLの溶解緩衝液中で溶解させた。全細胞溶解物を6mM Mg2+アセテートの存在下、120μg/ mLのRNアーゼA及び30μg/ mLのDNアーゼIで3時間、37℃で処理した。次いで、HBV DNAをプロテイナーゼK消化に供し、フェノール及びエタノールを用いて抽出した。 DNAを1%アガロースゲルで分離し、正に荷電したナイロン膜(Roche Diagnostics GmbH、Mannheim、Germany)に移し、ジゴキシゲニン(DIG)-dUTP-標識全長HBV遺伝子型C断片とハイブリダイズさせ、DIG High Prime DNA Labeling and Detection Starter Kit II(Roche Diagnostics GmbH)を使用し、HBV DNAを、アルカリホスファターゼ標識抗DIG抗体によって製造者の指示に従って検出した。検出は、既製のCDP-Star(Roche Diagnostics GmbH)を用いて行った。ImageQuant LAS 4000mini(GE Healthcare UK Ltd、Buckinghamshire、UK)を用いてシグナルを分析した。
【0068】
各化合物について、処理された細胞における一本鎖(SS)複製中間体DNAの相対量を、化学発光検出システムLAS4000ミニ生体分子イメージャ(GE Healthcare)を用いたサザンブロット分析により決定した。IC50値は、処理後に細胞内SS HBV DNAの50%の減少が達成された薬物濃度として決定され、Microsoft Excelの予測機能を用いて未処理細胞と比較した。結果を下表に示した。
【0069】
【0070】
上表に示した結果から明らかなように、合成例1で得た式(2)の化合物は、エンテカビル耐性株に対して抗ウイルス活性を示すことが明らかとなった。
【0071】
[実施例で引用した文献]
非特許文献4:Y F Shealy et al. Carbocyclic analogs of guanosine and 8-azaguanosine. J Pharm Sci. 62(9), 1973, 1432-1434
非特許文献5:Sugiyama M, Tanaka Y, Kato T, Orito E, Ito K, Acharya SK, et al. Influence of hepatitis B virus genotypes on the intra- and extracellular expression of viral DNA and antigens. HEPATOLOGY 2006;44:915-924.
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、新規な化合物及びその塩が提供され、これらは、ウイルス感染症の予防又は治療、そのための医薬品の研究・開発の分野等において極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号:1及び2
<223>人工的に合成されたプライマーの配列
【配列表】