(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】吸着材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/24 20060101AFI20220608BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220608BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20220608BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220608BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20220608BHJP
C08B 15/04 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
B01J20/24 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
A61L9/01 K
A61L9/014
C08B15/04
(21)【出願番号】P 2018023395
(22)【出願日】2018-02-13
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】515309449
【氏名又は名称】真庭バイオケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】網屋 繁俊
(72)【発明者】
【氏名】井口 勉
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-218117(JP,A)
【文献】特開2017-193793(JP,A)
【文献】特開2014-014734(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106362699(CN,A)
【文献】特開平10-251975(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125498(WO,A1)
【文献】米国特許第06481442(US,B1)
【文献】米国特許第03359990(US,A)
【文献】特開2010-167411(JP,A)
【文献】特許第6229090(JP,B1)
【文献】特開平10-235130(JP,A)
【文献】特開平11-046965(JP,A)
【文献】特開昭63-112970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
A61L 9/00-9/22
C08B 1/00-37/18
B01D 53/14-53/18
B01D 53/02-53/12
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
C01B 15/00-23/00
A23L 3/00-3/3598
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性セルロース繊維からなる吸着材であって;
前記変性セルロース繊維を構成するセルロース分子が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有し、
前記セルロース分子がカルボキシラート基を有し、該カルボキシラート基を介してヒドラジド基又はヒドラジン基が結合してなり、かつ
前記変性セルロース繊維の平均繊維径が2~1000nmであることを特徴とする、吸着材。
【請求項2】
前記カルボキシラート基が、前記セルロース分子の構成単位であるグルコース単位のC6位の1級水酸基が酸化されてなるものである請求項
1に記載の吸着材。
【請求項3】
前記カルボキシラート基が、ヒドラジニウムカルボキシラート基又はアンモニウムカルボキシラート基である請求項
1又は2に記載の吸着材。
【請求項4】
変性セルロース繊維からなる吸着材であって;
前記変性セルロース繊維を構成するセルロース分子が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有し、
前記セルロース分子が、さらに遊離のカルボキシル基を有し、かつ
前記変性セルロース繊維の平均繊維径が2~1000nmであることを特徴とする、吸着材。
【請求項5】
アルデヒドの吸着材である請求項1~
4のいずれかに記載の吸着材。
【請求項6】
さらにアンモニア又はアミンを吸着できる請求項
5に記載の吸着材。
【請求項7】
変性セルロース繊維からなる吸着材
の存在下で果実を保存する果実の保存方法であって;
前記変性セルロース繊維を構成するセルロース分子が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有し、かつ
前記変性セルロース繊維の平均繊維径が2~1000nmであることを特徴とする、
果実の保存方法。
【請求項8】
平均繊維径が2~1000nmであるセルロース繊維と、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有する含窒素化合物とを混合して反応させることを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の吸着材の製造方法。
【請求項9】
前記セルロース繊維がカルボキシル基を有し、かつ
前記含窒素化合物が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有するとともにカルボキシル基と反応しうる基を有する請求項
8に記載の吸着材の製造方法。
【請求項10】
前記カルボキシル基と反応しうる基が、ヒドラジニウム基又はアンモニウム基である請求項
9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性セルロース繊維からなる吸着材に関する。また本発明は、その吸着材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活環境には様々な臭気が存在していて、その中で不快なものは悪臭と呼ばれている。悪臭の原因となる物質としては、アンモニア、トリメチルアミンなどの含窒素化合物、メチルメルカプタン、硫化水素などの含硫黄化合物、アセトアルデヒドなどのアルデヒド、イソ吉草酸などの脂肪酸などが挙げられる。
【0003】
これまで本発明者は、セルロース繊維を構成するセルロース分子と金属フタロシアニン誘導体とが結合してなり、平均繊維径が2~300nmである変性セルロース繊維を作製した。そして、このセルロース繊維がメチルメルカプタン、硫化水素の消臭材として利用できることを報告した(特許文献1)。
【0004】
特許文献1における消臭材は、メチルメルカプタンや硫化水素の消臭性能に優れている。しかしながら、悪臭の原因となる物質のうち、特にアルデヒドを十分に消臭させることはできず改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、悪臭の原因となる物質の吸着性能に優れた吸着材を提供することを目的とするものである。また本発明は、このような吸着材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、変性セルロース繊維からなる吸着材であって;前記変性セルロース繊維を構成するセルロース分子が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有し、かつ前記変性セルロース繊維の平均繊維径が2~1000nmであることを特徴とする、吸着材を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、前記セルロース分子がカルボキシラート基を有し、該カルボキシラート基を介してヒドラジド基又はヒドラジン基が結合してなることが好ましい。前記カルボキシラート基が、前記セルロース分子の構成単位であるグルコース単位のC6位の1級水酸基が酸化されてなるものであることも好ましい。
【0009】
また、前記カルボキシラート基が、ヒドラジニウムカルボキシラート基又はアンモニウムカルボキシラート基であることが好ましい。
【0010】
さらに、前記セルロース分子が、さらに遊離のカルボキシル基を有することが好ましい。
【0011】
アルデヒドの吸着材が本発明の好適な実施態様である。さらにアンモニア又はアミンを吸着できる吸着材も本発明の好適な実施態様である。
【0012】
また、本発明の吸着材の存在下で果実を保存する果実の保存方法が本発明の好適な実施態様である。
【0013】
また、上記課題は、平均繊維径が2~1000nmであるセルロース繊維と、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有する含窒素化合物とを混合して反応させることを特徴とする吸着材の製造方法を提供することによっても解決される。
【0014】
このとき、前記セルロース繊維がカルボキシル基を有し、かつ前記含窒素化合物が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有するとともにカルボキシル基と反応しうる基を有することが好ましい。前記カルボキシル基と反応しうる基が、ヒドラジニウム基又はアンモニウム基であることも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の吸着材は、悪臭の原因となる物質に対して優れた吸着性能を有する。特にアルデヒドの吸着性能に優れているのでアルデヒドの吸着材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1で得られたTEMPO酸化CNFの赤外分光測定結果を示した図である。
【
図2】実施例1において、原料として用いたアジピン酸ジヒドラジドの赤外分光測定結果を示した図である。
【
図3】実施例1で得られた変性CNF-1の赤外分光測定結果を示した図である。
【
図4】実施例1において、室温で15日間放置したブドウを示す写真である。
【
図5】比較例1において、室温で15日間放置したブドウを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、変性セルロース繊維(変性CNF)からなる吸着材に関する。本発明において、変性セルロース繊維を構成するセルロース分子が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有することが重要である。本発明者らは鋭意検討した結果、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有する変性セルロース繊維が、悪臭の原因となる物質に対して優れた吸着性能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。ここで、ヒドラジド基とは、-CO-NH-NH2で示される含窒素官能基のことをいい、ヒドラジン基とは、-NH-NH2で示される含窒素官能基のことをいう。
【0018】
以下、本発明の吸着材の製造方法について説明する。本発明の吸着材は、セルロース繊維と含窒素化合物とを混合して反応させて、セルロース分子と含窒素化合物とを結合させることで得ることができる。好適な製造方法は、平均繊維径が2~1000nmであるセルロース繊維と、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有する含窒素化合物とを混合して反応させる方法である。
【0019】
本発明で用いられるセルロース繊維は、その平均繊維径が2~1000nmであり、パルプなど通常のセルロース繊維よりも繊維径が小さい。このように微細なセルロース繊維は「セルロースナノファイバー(CNF)」と呼ばれていて、通常のセルロース繊維を高度にフィブリル化させることによって製造される。平均繊維径は800nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。一方、平均繊維径が2nm未満のセルロース繊維は通常の方法で得ることが難しく、工業的に使用するのは現実的でない。平均繊維径は5nm以上であることが好ましい。上記平均繊維径は、走査型電子顕微鏡を用いてセルロース繊維を観察することにより求めた値である。
【0020】
本発明で用いられるCNFは上述の平均繊維径を有するものであれば特に限定されず、一般的なフィブリル化セルロース繊維を使用することができる。フィブリル化セルロース繊維の原料としては、木材、藁、竹、バガス、笹、葦、籾殻などが挙げられる。フィブリル化は、パルプなど通常の径を有するセルロース繊維にディスクミルや叩解機やホモジナイザー等を用いて機械的なせん断力をかけることにより行うことができる。また、化学的処理により、セルロース繊維のフィブリル化を行うこともできる。
【0021】
本発明で用いられるCNFのセルロース分子が遊離のカルボキシル基を有することが好ましい。このとき、前記カルボキシル基が、前記セルロース分子の構成単位であるグルコース単位のC6位の1級水酸基が酸化されてなるものであることが好ましい。グルコース単位のC6位の1級水酸基が酸化されたセルロース繊維は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)を用いることにより容易に合成することができる。セルロース分子とTEMPOとを反応させることにより、グルコース単位のC6位の1級水酸基を選択的に酸化させてカルボキシル基にすることができる。
【0022】
このとき、セルロース分子における遊離のカルボキシル基の含有量が、変性CNF1gあたり0.1mmol以上であることが好ましい。含有量が0.1mmol未満の場合、セルロース分子に所定量のヒドラジド基又はヒドラジン基を導入できないおそれがある。また、アンモニア又はアミンに対して優れた吸着性能が得られないおそれがある。含有量は0.5mmol以上であることがより好ましい。一方、カルボキシル基の含有量は、通常、5mmol以下である。上記含有量は、滴定法によって得られる。
【0023】
CNFと混合して反応させる含窒素化合物は、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有するものであれば特に限定されない。ヒドラジド基を有する含窒素化合物としては、分子中に1個のヒドラジド基を有するモノヒドラジド化合物、分子中に2個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物などが挙げられる。中でも、分子中に2個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物が好適であり、分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物がより好適である。
【0024】
ジヒドラジド化合物としては、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドなどが挙げられる。中でも、アジピン酸ジヒドラジドが好適である。
【0025】
ヒドラジン基を有する含窒素化合物としては、分子中に1個のヒドラジン基を有するモノヒドラジン化合物、分子中に2個以上のヒドラジン基を有するポリヒドラジン化合物などが挙げられる。中でも、分子中に1個のヒドラジン基を有するモノヒドラジン化合物であることが好ましい。
【0026】
本発明において、前記CNFがカルボキシル基を有し、かつ当該CNFと反応させる含窒素化合物が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有するとともにカルボキシル基と反応しうる基(以下、反応基と称す)を有することが好ましい。当該反応基としては、カルボキシル基とイオン結合しうる基、カルボキシル基と共有結合しうる基が挙げられる。中でも、反応基が、カルボキシル基とイオン結合しうる基であることが好ましい。
【0027】
カルボキシラート基との反応性の観点から、前記反応基がヒドラジニウム基又はアンモニウム基であることが好ましい。中でも、前記反応基がヒドラジニウム基であることがより好ましい。
【0028】
CNFと反応させる含窒素化合物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、ヒドラジド基及びヒドラジン基以外の官能基を有していてもかまわない。当該官能基としては、水酸基、ハロゲン基、エステル基、アミド基、ニトリル基、ニトロ基などが挙げられる。
【0029】
このように、CNFと含窒素化合物とを混合して反応させることにより変性CNFを得ることができる。本発明の変性CNFにおいて、元素分析(燃焼法)から求められる窒素元素の含有量が0.05質量%以上であることが好ましい。0.05質量%未満の場合、悪臭の原因となる物質に対して優れた吸着性能が得られないおそれがある。含有量は、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが特に好ましい。
【0030】
一方、窒素元素の含有量は、通常、20質量%以下であり、好適には15質量%以下である。CNFは窒素元素を含まないため、上記元素分析により検出される窒素元素は、変性CNFの製造に用いた含窒素化合物に含まれる窒素元素に由来するものである。
【0031】
本発明において、変性CNFを構成するセルロース分子が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有する。このとき、前記セルロース分子がカルボキシラート基を有し、該カルボキシラート基を介してヒドラジド基又はヒドラジン基が結合してなることが好ましく、ヒドラジド基を介して結合してなることがより好ましい。
【0032】
また、前記カルボキシラート基が、ヒドラジニウムカルボキシラート基又はアンモニウムカルボキシラート基であることが好ましく、ヒドラジニウムカルボキシラート基であることがより好ましい。
【0033】
本発明の吸着材は、変性CNFからなり、当該変性CNFを構成するセルロース分子が、ヒドラジド基又はヒドラジン基を有する。ヒドラジド基又はヒドラジン基はアルデヒドと容易に結合するので、本発明の吸着材はアルデヒドの吸着材として好適である。中でも、アルデヒドの吸着性能の観点から、セルロース分子がヒドラジド基を有することが好ましい。
【0034】
また、本発明におけるセルロース分子が、さらに遊離のカルボキシル基を有することが好ましい。カルボキシル基は、アンモニア又はアミンと容易に結合する。したがって、セルロース分子が遊離のカルボキシル基を有することで、本発明の吸着材はアルデヒドに加えてアンモニア又はアミンも吸着できる吸着材としても用いることができる。
【0035】
本発明の吸着材は、悪臭の原因となりうる物質に対して優れた吸着性能を有するので、好適な用途の一つが消臭材である。このとき、消臭材の形態は特に限定されず、粉末状であってもよいし、固形状であってもよい。また、吸着材を水などの分散媒に分散させた分散液であってもよい。
【0036】
使用方法も特に限定されず、固体又は分散液をそのまま消臭材として用いることができるし、吸着材を基材に塗布してその基材を消臭材として用いることもできる。基材の種類は特に限定されず、織布、編布、不織布等の布帛、紙、木材、木粉、プラスチック、ゴム、活性炭、セメント、漆喰などが挙げられる。消臭材の使用場所としては、化学工場、清掃工場、下水処理場、病院、介護施設、住宅(特にトイレ)、農産物加工場、畜産加工場などが挙げられる。
【0037】
また、本発明の吸着材を塗布した布帛を用いることにより消臭性能を有する衣料を得ることもできる。さらに、本発明の吸着材を含む建材を用いることによりシックハウス症候群の予防も期待できる。
【0038】
本発明の別の好適な実施態様は、上記吸着材の存在下で果実を保存する果実の保存方法である。後述する実施例でも実証されているように、吸着材の存在下で果実を保存することにより、果実の腐敗が抑制された。この理由は現時点で必ずしも明らかではないが、本発明の吸着材が、果物から発生したガスを効果的に吸着することができたことによるものではないかと推測している。
【0039】
吸着材の存在下で保存させる果実は特に限定されない。本発明者らは、ブドウについて、その腐敗を抑制することができることを確認した。しかしながら、ブドウに限らず、様々な果実に対しても腐敗抑制効果が期待される。
【実施例】
【0040】
実施例1
[試料の合成]
(TEMPO酸化CNFの合成)
セルロース繊維と2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)とを反応させて、TEMPOで酸化処理されたセルロース繊維(TEMPO酸化CNF)を合成した。合成スキームを下記式(1)に示す。
【0041】
【0042】
具体的な合成方法は以下の通りである。
容量10Lのフラスコに、セルロース繊維の水分散液688g(乾燥セルロース繊維の含有量36g)、テトラブチルアンモニウムブロミド672mg(2.08mmol)、及び臭化ナトリウム1.02g(9.9mmol)を加えた後、水2.5L、及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液300mLを加え、混合液を得た。ここで用いたセルロース繊維の水分散液は、モリマシナリー株式会社製のセルロースナノファイバー水分散液(平均繊維径:20~200nm、平均繊維長:500μm、水分散液のセルロース繊維含有率:5.26質量%)であった。
【0043】
次いで上記混合液の液温を22~25℃に保ち撹拌しながら、TEMPO508mg(3.25mmol)及び次亜塩素酸ナトリウム水溶液140mL(市販品:Cl含有率8.5~13.5%)を2.5時間かけて滴下した。滴下後、混合液の液温を22~25℃に保持したまま、さらに2.5時間撹拌し、一夜放置した。
【0044】
反応終了後、フラスコに1.0Mチオ硫酸ナトリウム水溶液13mLを添加し、未反応の次亜塩素酸ナトリウムを分解した後、6N塩酸153mLを添加した。このときの混合液のpHは1.58であった。次いで、この混合液を減圧ろ過して固形物を得て、この固形物を水で洗浄することによりTEMPO酸化CNFを得た。
【0045】
得られたTEMPO酸化CNFにおけるカルボキシル基含有量を測定した。測定方法は以下の通りである。
凍結乾燥させたTEMPO酸化CNF190.7mgをビーカーにとり、イオン交換水70mLを加えた。そこに、1M塩化ナトリウム水溶液1.0mLを加えて撹拌することによりTEMPO酸化CNFの分散液を調製した。この分散液に0.1N塩酸を1.0mLを加えてpHを2.98に調整した。そして、ビュレットを用いて、0.01N水酸化ナトリウム水溶液を分散液に滴下して、pHが10.9になるまで電導度及びpHを測定して電導度曲線を得た。得られた電導度曲線からTEMPO酸化CNFにおけるカルボキシル基含有量を求めた。その結果、TEMPO酸化CNFにおけるカルボキシル基含有量は、TEMPO酸化CNF1gあたり1.6mmolであった。
【0046】
また、得られたTEMPO酸化CNFについて赤外分光測定(全反射法(ATR))を行った。結果を
図1に示す。
図1に示すように、1726cm
-1にTEMPO酸化CNFのカルボキシル基のC=Oの伸縮によるピークが確認された。
【0047】
(変性CNF-1の合成)
TEMPO酸化CNFとアジピン酸ジヒドラジドとを反応させて、変性CNF-1を合成した。合成スキームを下記式(2)に示す。
【0048】
【0049】
ここで、原料として用いたアジピン酸ジヒドラジドについて赤外分光測定(ATR)を行った。結果を
図2に示す。
図2に示すように、1531cm
-1、1626cm
-1にアミドC=Oによるピークが確認された。
【0050】
変性CNF-1の合成方法は以下の通りである。
4Lの水にTEMPO酸化CNF54g(固形分換算重量)(カルボキシル基含有量:TEMPO酸化CNF1gあたり1.6mmol)を分散させた分散液を調製した。この分散液に0.1Mアジピン酸ジヒドラジド水溶液810mLを加え撹拌した。アジピン酸ジヒドラジド水溶液を加えることにより分散液のpHは3.73から4.91に変化した。分散液を5時間撹拌した後、水を加えて全量を5.4Lとして、変性CNF-1を得た。
【0051】
得られた変性CNF-1について赤外分光測定(ATR)を行った。結果を
図3に示す。
図3に示すように、1598cm
-1、1630cm
-1にC=Oに由来するピークが観測された。この内、1630cm
-1のピークはアミドのC=Oに由来するものである。また、1598cm
-1のピークはTEMPO酸化CNFカルボン酸からカルボキシラートが生じたことを示している(
図1参照)。このことから、TEMPO酸化CNFにアジピン酸ジヒドラジドが結合したことがわかった。
【0052】
また、
図3において矢印で示したように、1700cm
-1に付近にショルダーピークが観測された。このショルダーピークは、TEMPO酸化CNFにおけるカルボキシル基のC=Oによるショルダーピークであり、得られた変性CNF-1が未反応のカルボキシル基を含むこともわかった。
【0053】
(変性CNF-1を塗布した布の作製)
100mLの水に変性CNF-1を1g(乾燥重量換算)分散させた水分散液を調製した。この分散液を、ポリエステル・レーヨン混合不織布(日本製紙クレシア株式会社製:9cm×18cm)の両面に均一にスプレーした後、不織布を乾燥させた。次いで、分散液をスプレーした後の不織布の重量と、分散液をスプレーする前の不織布の重量との差から、不織布に付着した変性CNF-1の量を求めた。付着した変性CNF-1の量は110mgであった。
【0054】
[ガスの吸着試験]
(アンモニアガス吸着試験)
容量2.8Lの密閉瓶に、変性CNF-1を塗布した布、及び28%アンモニア水を入れたビーカーを入れた。次いで、アンモニア水を入れたビーカーに水酸化カリウム水溶液を滴下してアンモニアガスを発生させた後、密閉瓶の蓋を閉めた。検知管を用いて密閉瓶内のアンモニアガスの濃度を測定したところ、実験開始時の濃度は80ppmであった(表1の「実験開始(0分)」)。そして、15分後、30分後、60分後における、密閉瓶内のアンモニアガスの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(アセトアルデヒドガス吸着試験)
容量2.8Lの密閉瓶に、変性CNF-1を塗布した布、及びアセトアルデヒド水溶液(原液を1.5/10000に希釈)1mLを入れたビーカーを入れた。このとき、ビーカーにマグネット撹拌子も入れた。次いで、密閉瓶の蓋を閉めた後、当該密閉瓶をマグネチックスターラーに載せ、ビーカー内のマグネット撹拌子を回転させることにより、密閉瓶内にアセトアルデヒドガスを発生させた。撹拌子の回転を止めた後、検知管を用いて密閉瓶内のアセトアルデヒドガスの濃度を測定したところ、実験開始時の濃度は18ppmであった(表1の「実験開始(0分)」)。そして、15分後、30分後、60分後における、密閉瓶内のアセトアルデヒドガスの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
[ブドウの保存性評価]
(玉落ち評価)
市販のブドウ(岡山県産の品種デラウェア)を入手した。このブドウとともに、変性CNF-1を塗布した布をポリプロピレン製の容器に入れ蓋(ポリエチレン製)で密閉した。そして、この容器を室温に30日間放置した後、穂梗を持って容器からブドウを取り出した。このとき房から外れて容器に残ったブドウの粒を数えることで玉落ち評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
(鮮度評価)
市販のブドウ(岡山県産の品種マスカット)を入手した。このブドウとともに、変性CNF-1を塗布した布をポリプロピレン製の容器に入れ蓋(ポリエチレン製)で密閉した。そして、この容器を室温に15日間放置した後、穂梗を持って容器からブドウを取り出し、目視にてブドウの鮮度を評価した。結果を表2及び
図4に示す。
【0058】
実施例2
(変性CNF-2の合成)
TEMPO酸化CNFと、下記に示すカチオン化ヒドラジンとを反応させることで、変性CNF-2を合成した。まず、カチオン化ヒドラジンの合成方法について説明する。合成スキームは下記式(3)の通りである。
【0059】
【0060】
具体的な合成方法は以下の通りである。
2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドの80%水溶液1.01mg(5.35mmol)にメタノール5mLを加えた混合液を得た。この混合液の液温を0~4℃に冷やし、ヒドラジン一水和物(NH2NH2・H2O)702mg(14mmol)を滴下した。次いで、混合液の液温を0~4℃に保持したまま1時間撹拌した後、液温を室温まで上昇させてから、さらに1時間撹拌した。
【0061】
得られた混合液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、この濃縮液にテトラヒドロフラン5mLを加え共蒸発させて水を除去した。共蒸発させる操作は数回繰り返した。共蒸発させて得られた濃縮液を高真空下で乾燥し、ペースト状の油状物としてカチオン化ヒドラジンクロリド((3-ヒドラジノ-2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド)を930mg得た。
【0062】
得られたカチオン化ヒドラジンをDMSO-d6に溶解してNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6) δ 2.54 (m, 1H), 3.14 (s, 9H), 3.15-3.32 (m, 2H), 3.41 (m, 1H), 4.22 (m, 1H)
13C NMR (DMSO-d6) δ 53.5 (3C), 58.6, 63.2, 69.9
【0063】
また、得られたカチオン化ヒドラジンクロリドについて赤外分光測定(ATR)を行った。その結果、3272cm-1に水酸基に由来するピークが観測された(図示せず)。
【0064】
次いで、TEMPO酸化CNFと上記カチオン化ヒドラジンヒドロキシドを反応させることで変性CNF-2を合成した。合成スキームを下記式(4)に示す。ここで用いたTEMPO酸化CNFは実施例1で説明した合成方法により得られたものである。
【0065】
【0066】
具体的な合成方法は以下の通りである。
メタノール10mLに上記カチオン化ヒドラジンクロリドを溶解させた混合液を得た。この混合液の液温を0~4℃に冷やし、冷水酸化カリウムメタノール溶液4.8mL(1N、4.8mmol)を滴下した。次いで、メンブレンフィルター(PTFE製、0.45μm)を用いて混合液をろ過し、メンブレンフィルターを少量の冷メタノールで洗い、カチオン化ヒドラジンヒドロキシド((3-ヒドラジノ-2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドヒドロキシド)のメタノール溶液を得た。このカチオン化ヒドラジンヒドロキシドは不安定なので、直ちに次のTEMPO酸化CNFとの反応に用いた。
【0067】
TEMPO酸化CNF(カルボキシル基含有量:TEMPO酸化CNF1gあたり1.6mmol)3gを水300mLに分散させた分散液を調製した。この分散液に、上述したカチオン化ヒドラジンヒドロキシドのメタノール溶液を加え撹拌した。1時間撹拌して、変性CNF-2を得た。得られた変性CNF-2において、セルロース分子が有する含窒素官能基はヒドラジン基である。
【0068】
得られた変性CNF-2について、燃焼法による元素分析を行った。結果を以下に示す(数値は質量%)。
C(炭素):41.10、H(水素):5.76、N(窒素):2.03
【0069】
次いで、実施例1と同様にして、変性CNF-2を塗布した布を作製するとともに、その布を用いて消臭試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
比較例1
「消臭試験」において、変性CNF-1を塗布していない布を入れた以外は実施例1と同様にして消臭試験を行った。結果を表1に示す。また、「ブドウの保存性評価」において、変性CNF-1を塗布していない布をポリプロピレン製の容器に入れた以外は実施例1と同様にしてブドウの保存性評価を行った。結果を表2及び
図5に示す。
【0071】
【0072】