(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】起立補助椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 9/00 20060101AFI20220608BHJP
A61G 5/14 20060101ALI20220608BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A47C9/00 Z
A61G5/14 711
A47C7/02 Z
(21)【出願番号】P 2018036144
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】391014114
【氏名又は名称】三惠工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081547
【氏名又は名称】亀川 義示
(72)【発明者】
【氏名】安田 府佐雄
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-300612(JP,A)
【文献】特開2003-260097(JP,A)
【文献】特開平10-179644(JP,A)
【文献】特開平10-52332(JP,A)
【文献】米国特許第5536067(US,A)
【文献】実開昭52-75315(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 9/00
A47C 7/02
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子の座部に前部を枢着した座前部材と、該座前部材の後部に枢着した摺動フレームと、上記座前部材と摺動フレーム
の後部を上方に
押し上げて回動させる駆動手段と、該摺動フレームの回動位置を規制する制御リンクと、座前部材に固定した前座部と、該前座部に
屈曲可能に連結した後座部を有し、上記後座部は、上記摺動フレーム
の後部が押し上げられて前傾する際
前座部に引っ張られて摺動フレームに沿って前後方向に摺動するよう連結部材で摺動フレームに連結されていることを特徴とする起立補助椅子。
【請求項2】
椅子の座部には椅子フレームが固定され、上記座前部材は前座部の座前芯板を固定する板状の本体を有し、該本体の前部には、椅子フレームに枢着する前方ヒンジが設けられ、後部には摺動フレームを枢着する後方ヒンジが設けられている請求項1に記載に起立補助椅子。
【請求項3】
上記摺動フレームは一対の側パイプを有し、上記連結部材は側パイプに嵌着するよう略U字状に形成された摺動片を有する請求項1又は2に記載の起立補助椅子。
【請求項4】
上記前座部と後座部を連結する座ヒンジのピンが挿通する連結孔は、長孔に形成されている請求項1~3のいずれかに記載に起立補助椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子の座面を前後に傾斜できるようにした起立補助椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
着座している人の起立を補助するため座面を分割して前後に傾斜できるようにした椅子が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の椅子は、座板を座面前部支持リンクと座面後部支持リンクによって支承し、座面前部支持リンクと座面後部支持リンクを連結ピンで回動自在に連結し、座面後部支持リンクをアクチュエータで上方に回動することにより座面前部支持リンクを前傾させ、座面後部支持リンクをそれより後方に屈曲し、着座者の臀部を押し上げるよう構成されている。このように、座部を前座部と後座部に分離した従来の椅子は、座面前部支持リンクと座面後部支持リンクのそれぞれ上面に前座部と後座部を一体的に形成した構造である。
【0003】
上記の構成により、特許文献1に記載の椅子では、座面前部支持リンクと座面後部支持リンクを回動して傾斜させる際、上記前座部の後部上端と後座部の前部上端間の間隔は、連結ピン部分を中心として離れ、大きな隙間が生じる。また、前座部と後座部の上面にわたってクッション材や表皮を連続して設けた構造であると、前座部と後座部が傾斜するとき前座部と後座部の上端間に生じた隙間部分でクッション材や表皮が引っ張られたり、着座したときに挟み込まれて、損傷しやすい。そのため、従来の椅子では、座板にクッション材や表皮を設ける場合、前座部と後座部にそれぞれ別々にクッション材や表皮を設け、この前座部と後座部をそれぞれ前部支持リンクと後部支持リンンクに固定しているので、上記のようにして生じた隙間が表面に現れ、この隙間に衣服や手指を挟む込むおそれがあり、良好な使用感が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-295731号公報(特許請求の範囲、段落0009,0010、図面)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題は、椅子の座を前座部と後座部に分割して前座部と後座部を前後に傾斜できるようにした椅子において、前座部と後座部を傾斜させた際、前座部の後端と後座部の前端間に生じる隙間を、従来のように前座部と後座部を独立してそれぞれの支持フレームに固定した椅子に比べてより少なくし、前座部と後座部にわたってクッション材や表皮を設けても損傷しにくく、衣服や手指の挟み込みを防止できるようにした起立補助椅子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、椅子の座部に前部を枢着した座前部材と、該座前部材の後部に枢着した摺動フレームと、上記座前部材と摺動フレームを上方に回動させる駆動手段と、該摺動フレームの回動位置を規制する制御リンクと、座前部材に固定した前座部と、該前座部に枢着した後座部を有し、上記後座部は、上記摺動フレームが回動する際、摺動フレームに沿って前後方向に摺動するよう連結部材で摺動フレームに連結されていることを特徴とする起立補助椅子が提供され、上記課題が解決される。
【0007】
また、本発明によれば、椅子の座部には椅子フレームが固定され、上記座前部材は前座部の座前芯板を固定する板状の本体を有し、該本体の前端には、椅子フレームに枢着するための前方ヒンジが設けられ、後端には摺動フレームを枢着するための後方ヒンジが設けられ、上記連結部材は摺動フレームに嵌着するよう略U字状に形成されている上記起立補助椅子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記のように構成され、駆動手段により座前部材と摺動フレームを回動させると、座前部材に固定された前座部は座前部材とともに前傾する。摺動フレームも座前部材とともに回動するが、制御リンクにより所定位置で回動が停止する。このとき摺動フレームに連結部材で摺動可能に連結した後座部は、傾斜しながら上記前座部に引かれて前進するから、従来のように前座部と後座部をそれぞれ前後の支持リンクと一体的に固定した場合に比べて、前座部の後部上端と後座部の前部上端間に大きな隙間が生じないようにできる。その結果、前座部と後座部にわたってクッション材を設けても損傷することが少なくなる。また、上記後座部は連結部材により摺動フレームに摺動可能に連結されているので、該摺動フレームから分離しないようにでき、椅子を搬送するときにバタバタすることもなく、取り扱いやすい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1に示す椅子をほぼ中央で断面した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、各種の椅子の座部に適用することができるが、一実施例を示す
図1においては、椅子1は、前脚2、後脚3、座枠4及びひじ掛け5を有し、座枠4には座部6が形成され、後脚3の上部には背凭れ部7が形成されている。
【0011】
上記座枠4には、略U字状にパイプを屈曲形成した椅子フレーム8が固定され、該椅子フレーム8の前端には、座前部材9が設けられ、該座前部材9の前部は前ピン10を有する前方ヒンジ11により椅子フレーム8に枢着されている。該座前部材9は、板状の本体12の両側を屈曲して形成した略L字状の側板部13を有し、該側板部13の前部下方に延びる突片14には、上記椅子フレーム8と枢着するための上記前方ヒンジ11が有り、該前方ヒンジ11を中心として、座前部材9は椅子フレーム8の上方に回動可能である。また、上記本体12の裏面には、上記側板部13との間に挿入間隙をあけて補助片15が固定され、該挿入間隙に摺動フレーム16の前端が挿入され、該摺動フレーム16を、後ピン17により座前部材の後部に枢着する後方ヒンジ18が設けられている。該摺動フレーム16は、該後方ヒンジ18を中心として、椅子フレーム8方向に回動自在である。
【0012】
上記摺動フレーム16は、両側に延びる一対の側パイプ19を連結枠20で固定した略H字状の枠体に形成されている。この連結枠20と椅子フレーム8間には、摺動フレーム16と座前部材9の後端を上方に押し上げて回動させるための駆動手段が設けられている。該駆動手段としては、各種のシリンダー機構やモーターやリンクによる駆動機構その他適宜の機構を用いることができるが、図に示す実施例ではガスシリンダー21を用いた機構
が示されている。該ガスシリンダー21は、シリンダー22の基端とピストンロッド23の先端を、上記連結枠20と椅子フレーム8の適宜位置に連結してピストンロッドの長手方向に伸縮可能に設けられている。なお、この連結部の位置を選択可能に設けておけば、摺動フレーム16の移動位置を調整することができる。
図2に示す実施例では、上記椅子フレーム8に、座部の前後方向に調整孔24を並んで分散させて有する調整板25を固定し、この調整孔24に係合するシリンダー22若しくはピストンロッド23の連結位置を前後に選択することにより調整している。
【0013】
なお、図示を省略したが、摺動フレーム16が椅子フレーム8に沿った水平位置に停止しているとき、該摺動フレーム16が駆動手段により勝手に上方に上昇しないように適宜のロック部材を設けてロックしている。そのようなロック装置は、駆動手段の構成に応じて適宜に構成することができ、例えばガスシリンダーの場合は、摺動フレーム16が水平位置にあるとき、該フレームに着脱可能に掛け止めできる適宜のフックであってもよい(図示略)。
【0014】
上記ガスシリンダー21による摺動フレーム16の回動位置は、制御リンク26により規制される。上記ガスシリンダー21と制御リンク26は、摺動フレーム16が椅子フレーム8の上面に重なる水平位置で停止し、ガスシリンダー21で座前部材9と摺動フレーム16が上昇する際に、上記座前部材9の傾斜角度よりも摺動フレーム16の傾斜角度が少なくなる位置で摺動フレーム16の回動を停止するように制御される。この制御リンク26は、
図2に示す実施例では、上記椅子フレーム8に囲まれる位置内に対向状態に設けられ、その両端は、上記椅子フレーム8に設けたピン27と上記連結枠20に固定した取付板28に設けたピン29で支承されている。なお、該制御リンクの長さを可変可能に設けて、摺動フレームの傾斜角度を調整できるようにしてもよい。
【0015】
上記座前部材9と摺動フレーム16の上面には座が設けられる。該座の芯板は、
図4に示すように、前座部30の一部となる座前芯板31と、後座部32の一部となる座後芯板33に分割され、座前芯板31の後部と座後芯板33の前部に、ヒンジ片34をそれぞれ形成し、このヒンジ片34に設けた連結孔35にピン36を挿通した座ヒンジ37により屈曲可能に連結されている。この際、好ましくは、ヒンジ片34の一方若しくは両方の連結孔35を長孔に形成して座後芯板33が座前芯板31に対し上下方向に遊動して前進できるようにすると、芯板の屈曲が一層スムーズである。上記芯板の上部には、クッション材38や表皮39が連続して設けられるが、所望によりこれらのクッション材等を設けなくてもよい。上記座前芯板の裏面には適宜のボス44が形成されており、該ボス44を座前部材9の本体12上に着座させて適宜の止着具で固定してある。
【0016】
上記座ヒンジ37と上記後方ヒンジ18は、座が水平位置にあるとき、後方ヒンジ18の直上に座ヒンジ37が位置するようにしてもよいが、好ましくは座ヒンジ37が後方ヒンジ18の直上よりも前方に位置するようにすると、芯板の回動が容易である。
【0017】
上記後座部32は、連結部材40により上記摺動フレーム16に、前後方向に摺動可能に連結されている。該連結部材40は、
図3に示す実施例では、プラスチック材料で形成され、取付基部41の下面に断面略U字状の摺動片42を設けた形状であり、この連結部材40の基部41を座後芯板33に固定し、摺動片42を摺動フレーム16の側パイプ19に摺動可能に嵌着している。なお、摺動フレームの側パイプの下部周面を囲んで摺動片を設け、その上部に取付部を形成して座後芯板に固定するようにしてもよい(図示略)。
【0018】
上記椅子1は、前座部30と後座部32が水平位置にある着座状態から、駆動手段のロックを解除すれば、座前部材9と摺動フレーム16の後部が駆動手段で押し上げられ、前方ヒンジ11部分を中心として回動し、座前部材9と摺動フレーム16は前傾し、かつ後方ヒンジ18部分を中心として摺動フレーム16が屈曲し、着座者の臀部を押し上げ、起立を補助することができる。そして、前座部30は座前部材9と一緒に大きく前傾するが、後座部32は座ヒンジ37部分で屈曲するとともに前座部30に引っ張られ、摺動フレーム16に沿って摺動可能であるから、摺動フレーム16に対する相対位置が、水平状態のときの位置よりも前進する。そのため、傾斜状態における前座部30と後座部32の上端間の間隙は、従来のように前座部を座面前部支持リンクに固定しかつ後座部を座面後部支持リンクに固定し支持リンクに対して座部の相対位置を不変に設けた椅子よりも少なくすることができる。これにより、座部にクッション材を設けても損傷しにくくすることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 椅子
2 前脚
3 後脚
4 座枠
8 椅子フレーム
9 座前部材
11 前方ヒンジ
16 摺動フレーム
18 後方ヒンジ
21 ガスシリンダー
26 制御リンク
30 前座部
31 座前芯板
32 後座部
33 座後芯板
37 座ヒンジ
40 連結部材
42 摺動片