(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】磁歪材料の特性測定方法及び磁歪材料の特性測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/18 20060101AFI20220608BHJP
G01R 33/14 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
G01R33/18
G01R33/14
(21)【出願番号】P 2018196573
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業/ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業(風力発電その他未利用エネルギー)/環境発電デバイスの実用化に向けた、磁歪材料の結晶組成、形状制御作製技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】南谷 保
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101118277(CN,A)
【文献】特開昭61-048779(JP,A)
【文献】吉川隆,河守章好,超磁歪振動子の特性解析,沖電気研究開発,沖電気工業株式会社,第174号,Vol.64,No.2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/18
G01R 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の強度である第一磁場を発生させる第一励磁ステップと、
前記第一磁場に置かれ
圧力をかけられていない磁歪材料が挿入されたコイルのインピーダンスを測定するインピーダンス測定ステップと、
前記インピーダンスの測定結果から前記磁歪材料の特性を算出する算出ステップと、
強度が連続的に変化する第二磁場を発生させる第二励磁ステップと、
前記第二磁場に置かれ圧力をかけられていない前記磁歪材料における磁束密度を測定することで、磁化曲線を算出する磁化曲線算出ステップとを含み、
前記所定の強度を変更しながら、前記第一励磁ステップ、前記インピーダンス測定ステップ及び前記算出ステップを繰り返
し、
前記第一励磁ステップでは、前記磁化曲線算出ステップで算出された磁化曲線に基づいて前記所定の強度を決定する
磁歪材料の特性測定方法。
【請求項2】
前記磁歪材料の特性は、
力学的エネルギーから電気的エネルギーへの変換率である力係数と、
ヤング率と、
透磁率とを含む
請求項1に記載の磁歪材料の特性測定方法。
【請求項3】
所定の強度である第一磁場を発生させる第一励磁部と、
前記第一磁場に置かれ
圧力をかけられていない磁歪材料が挿入されたコイルのインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、
前記インピーダンスの測定結果から前記磁歪材料の特性を算出する算出部と、
前記所定の強度を変更しながら、前記第一励磁部、前記インピーダンス測定部及び前記算出部の動作を繰り返させる制御部と、
強度が連続的に変化する第二磁場を発生させる第二励磁部と、
前記第二磁場に置かれ圧力をかけられていない前記磁歪材料における磁束密度を測定することで、磁化曲線を算出する磁化算出部とを備え、
前記制御部は、前記磁化算出部で算出された磁化曲線に基づいて前記第一励磁部における前記所定の強度を決定する
磁歪材料の特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪材料の特性測定方法及び磁歪材料の特性測定装置に関し、特に、簡便かつ迅速に、磁歪材料の特性を測定できる磁歪材料の特性測定方法及び磁歪材料の特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪材料は、圧縮や引張りなどの力を加えることで、磁化が大きく変化する逆磁歪効果などの特徴を持ち、振動発電素子などへ応用が期待されている。振動発電素子の発電効率は磁歪材料の特性に依存することが明らかとなっており、高効率化を目的として、高い特性をもつ磁歪材料を選定するための特性測定方法が求められている。
【0003】
非特許文献1においては、一定の磁場強度の下で磁歪材料に関するインピーダンスを測定することで、特性を導出し、その良否を評価している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Comparison of transduction behavior of polycrystalline gallium-iron alloys and Terfenol-D(Proceedings Volume 5387,Smart Structures and Materials 2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で磁歪材料の特性は、磁場強度依存性をもつ。非特許文献1のような一定の磁場強度の下で特性を測定する方法では、特性が最高値を示す磁場の下で測定しない可能性があり、本来であれば、高い特性を発揮する磁歪材料を見出すことができない。
【0006】
また、非特許文献1においては、数10MPaもの圧力をかける工程も開示されており、非常に煩雑で時間のかかる作業が求められる。
【0007】
振動発電素子の更なる高効率化には、簡便で迅速に、高い特性を示す磁歪材料を選定し、かつ、その磁歪材料が最も高い特性を示す磁場強度を明らかにできる特性測定方法が求められている。
【0008】
そこで本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、簡便かつ迅速に、磁歪材料の特性の磁場強度依存性を測定できる磁歪材料の特性測定方法及び磁歪材料の特性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁歪材料の特性測定方法の一態様においては、所定の強度である第一磁場を発生させる第一励磁ステップと、前記第一磁場に置かれた磁歪材料が挿入されたコイルのインピーダンスを測定するインピーダンス測定ステップと、インピーダンスの測定結果から前記磁歪材料の特性を算出する算出ステップとを含み、前記所定の強度を変更しながら、前記第一励磁ステップ、前記インピーダンス測定ステップ及び前記算出ステップを繰り返す。
【0010】
また、本発明に係る磁歪材料の特性測定装置の一態様においては、所定の強度である第一磁場を発生させる第一励磁部と、前記第一磁場に置かれた磁歪材料が挿入されたコイルのインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記インピーダンスの測定結果から前記磁歪材料の特性を算出する算出部と、前記所定の強度を変更しながら、前記第一励磁部、前記インピーダンス測定部及び前記算出部の動作を繰り返させる制御部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る磁歪材料の特性測定方法及び磁歪材料の特性測定装置により、簡便かつ迅速に、磁歪材料の特性の磁場強度依存性を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】
図1Aは実施の形態における磁歪材料の特性測定装置の概観図である。
【
図2】
図2は実施の形態における磁歪材料の特性測定方法のフローチャートである。
【
図3】
図3は実施の形態における計測コイルの等価回路を示す図である。
【
図4A】
図4Aは実施の形態における計測コイルのインピーダンスループの図である。
【
図4B】
図4Bは実施の形態における計測コイルのインピーダンスループから電気成分を取り除いた成分のループを示す図である。
【
図5】
図5は実施の形態における磁場強度を変更して測定したインピーダンスループを示す図である。
【
図6】
図6は実施の形態におけるインピーダンスループから得られた特性の磁場強度依存性を示す図である。
【
図7】
図7は実施の形態における振動発電素子の出力電圧と力係数の相関性を示した図である。
【
図8】
図8は実施の形態の変形例における磁歪材料の特性測定装置の概観図である。
【
図9】
図9は実施の形態の変形例における磁歪材料の特性測定方法のフローチャートである。
【
図10】
図10は実施の形態の変形例における磁歪材料の磁化曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
[装置構成]
以下、本発明の実施の一形態について、
図1A~7を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示す。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、動作の順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明する。
【0014】
図1Aは実施の形態における磁歪材料の特性測定装置100Aの概観図である。この磁歪材料の特性測定装置100Aは、第一励磁部10と、インピーダンス測定部20と、算出部30と、制御部40を備える。また、
図1Bは、
図1Aにおいて、インピーダンス測定部20に関わる磁歪材料21と計測コイル22を拡大した図である。
【0015】
【0016】
第一励磁部10は、所定の強度である第一磁場を発生させる。具体的には、励磁コイル11と、直流電流源12と、ヨーク13を含む。
【0017】
励磁コイル11は、第一磁場を発生させるために用いられるコイルである。後述するが、この第一磁場によって磁歪材料21を磁化させる。具体的には、励磁コイル11は、その両端を直流電流源12に接続され、所定の電流を流すことで磁歪材料21を磁化させる第一磁場を発生させる。また、励磁コイル11の中心部にはヨーク13が挿入されており、ヨーク13に巻き付けられた構造を持つ。励磁コイル11の材質は、周囲を絶縁材料で被覆された導線であり、例えばエナメル線で構成されている。励磁コイル11の線径、巻き数、直流抵抗値は任意であるが、それぞれ0.05mm~0.2mm、1000ターン~5000ターン、50Ω~500Ωが好ましい値となるが、これらに限られるものではない。また、例えば、100mAの電流を流したときに、1000A/m~20000A/mの磁界が得られるようにすればよい。さらに、同様の電流を流したときに、5000A/m~15000A/mの磁界でもよく、さらに、8000A/m~12000A/mの磁界であれば好ましい。
【0018】
直流電流源12は、第一磁場を発生させるための電流を流すために用いられる。具体的には、直流電流源12は、励磁コイル11の両端と接続され、設定に従って所定の電流を流すことができる。また、この電流値は任意の値をとることができるが、実施の形態においては、10~100mAの電流値から選択する。励磁コイル11に発生する第一磁場の強度は、励磁電流値に依存する。そのため、測定前に励磁電流値を設定することで、発生する第一磁場の強度を制御することができる。
【0019】
ヨーク13は、発生した第一磁場の磁束をヨーク13へ集中させ、効率よく磁歪材料21を励磁するために用いられる。具体的には、ヨーク13は、磁性材料で構成され、特に軟磁性を示す材料が望ましい。例えば、ヨーク13は、鉄、フェライトなどが用いられるが、実施の形態では鉄を用いる。実施の形態で示した形状は、Cの字型であるが、その他Uの字型でもよい。ヨーク13は、磁歪材料21を効率よく励磁するために用いられるため、磁歪材料21をCの字型の離間した端面に保持でき、その結果、閉磁気回路になる構造であれば好ましい。また、ヨーク13の一部に励磁コイル11が巻き付けられている。
【0020】
インピーダンス測定部20は第一磁場に置かれた磁歪材料21が挿入されたコイルのインピーダンスを測定する。具体的には、計測コイル22、インピーダンスアナライザー23とを含む。
【0021】
はじめに、インピーダンス測定部20には含まれないが、測定の対象となる磁歪材料21について説明する。磁歪材料21は、振動発電素子へ適用されうる材料であり、実施の形態においては鉄-ガリウム合金を用いた。この材料は応力を加えることで、1テスラ以上も磁化が変化するため、振動発電素子の重要部材として期待されている。また、実施の形態においては、磁歪材料21の形状として、振動発電素子に用いる形状である板状の構造を用いた。しかしながら、その他形状を用いてもよい。さらに、磁歪材料21は引張り、圧縮などの圧力をかけることなくヨーク13に保持されている。
【0022】
計測コイル22は、磁歪材料21の磁場の強さに対するコイルのインピーダンスを測定するために設けられている。具体的には、コイルの中心部に磁歪材料21が挿入されており、コイルの両端はインピーダンスアナライザー23に接続されている。計測コイル22の材質は、周囲を絶縁材料で被覆された導線であり、例えばエナメル線で構成されている。計測コイル22の線径、巻き数、直流抵抗値は任意であるが、それぞれ0.05mm~0.1mm、10ターン~1000ターン、0.5Ω~100Ωが好ましい値となる。計測コイル22の中心部に磁歪材料21が存在しているため、磁歪材料21の磁場の強さによって、計測コイル22のインピーダンスは変化する。
【0023】
また、
図1Bで示したように、磁歪材料21の計測コイル22に挿入する部分の長さ、すなわち、磁歪材料21において計測コイル22が巻き付けられている長さをL
1、磁歪材料21の長さをL
2とする。
【0024】
このとき、L1を、実際の振動発電素子に使用する場合と同じ長さにすると、得られる磁歪材料21の特性と、実際の振動発電素子の特性との相関性の向上が期待できる。
【0025】
さらに、L1を短くすると、より微小範囲の特性を計測し、磁歪材料21における分布を調査することができる。
【0026】
インピーダンスアナライザー23は、計測コイル22の両端へ接続され、励磁コイル11によって励磁された磁歪材料21の磁場の強さに対する計測コイル22のインピーダンスを測定する。このインピーダンスは抵抗成分とリアクタンス成分に分けて測定することが可能である。さらに、周波数を変えながらインピーダンスを測定することで、インピーダンスの周波数依存性を測定することができる。実施の形態においては、周波数を50~150k[Hz]の値に変更しながら測定を実施する。
【0027】
なお、実施の形態で用いたインピーダンスアナライザー23は、以下のような点において、既存のインピーダンスアナライザーと異なっていてもよい。既存のインピーダンスアナライザーは、電流にバイアスを加える機能を持つ。実施の形態で用いたインピーダンスアナライザー23との相違点として、この既存のインピーダンスアナライザーは、上記バイアスが小さい電流値での利用を想定されている点、さらに、外部から磁場が印加されることを想定されていない点、の2点が挙げられる。例えば、上記バイアスを加える機能では、永久磁石が作る磁場を再現することはできない。
【0028】
算出部30はインピーダンスの測定結果から磁歪材料21の特性を算出する。具体的には、CPU、ROM、RAM、ディスプレイ31を含むパーソナルコンピューターなどである(CPU、ROM、RAMは図示しない)。
【0029】
CPUは、ROMに格納されたプログラムを実行するプロセッサである。このプログラムは、得られた計測コイル22のインピーダンスを用いて磁歪材料21の特性を算出するためのプログラムである。
【0030】
ROMは、プログラム等を保持する読み出し専用メモリである。
【0031】
RAMは、CPUがプログラムを実行するときに使用する不揮発性の記憶領域等を有する読み書き可能なメモリである。
【0032】
ディスプレイ31は、液晶表示装置(LCD)等であり、測定者との対話に使用されたり、磁歪材料の特性測定装置100Aの動作状態を表示したりする。
【0033】
制御部40は第一磁場の強度を変更しながら、第一励磁部10、インピーダンス測定部20及び算出部30の動作を繰り返させる。具体的には、CPU、ROM、RAM、ディスプレイ41を含むパーソナルコンピューターなどである(CPU、ROM、RAMは図示しない)。
【0034】
CPUは、ROMに格納されたプログラムを実行するプロセッサである。このプログラムは、磁場の強度を変更しながら、第一励磁部10、インピーダンス測定部20、算出部30の動作を制御し、繰り返し実行させるためのプログラムである。
【0035】
ROMは、プログラム等を保持する読み出し専用メモリである。
【0036】
RAMは、CPUが制御プログラムを実行するときに使用する不揮発性の記憶領域等を有する読み書き可能なメモリである。
【0037】
ディスプレイ41は、液晶表示装置(LCD)等であり、測定者との対話に使用されたり、磁歪材料の特性測定装置100Aの動作状態を表示したりする。
【0038】
[装置の動作]
次に、以上のように構成された実施の形態における磁歪材料の特性測定装置100Aの動作について、実施例を用いて詳細に説明する。
【0039】
図2は、
図1Aで示された磁歪材料の特性測定装置100Aを用いて、計測コイル22のインピーダンスを測定する方法、すなわち磁歪材料の特性測定方法のフローチャートである。以下のステップは、測定者またはプログラムに基づく制御部40によって実行される。
【0040】
初めに、直流電流源12が流す直流電流値を設定する(S10)。励磁コイル11は、所定の直流電流が流されることで、励磁電流値に応じた第一磁場を発生させる(S11)。励磁コイル11により発生した磁束は、励磁コイル11内のヨーク13を通じ、ヨーク13に保持された磁歪材料21へと到達し、磁歪材料21を磁化させる(S12)。次に、インピーダンス測定部20は、このときの磁歪材料21の磁場の強さに対応する計測コイル22のインピーダンスを測定する(S13)。さらに、算出部30は、得られたインピーダンスを基に特性を算出する(S14)。また、これら特性は磁歪材料21の磁場の強さに依存する。特性について磁場の強さの依存性を明らかにするためには、再度第一磁場の強度を変えて、すなわち、磁歪材料21の磁場の強さを変えて、計測コイル22のインピーダンスを測定する必要がある。そこで、一定回数以上測定していない場合(S15にてnoの場合)、制御部40は、計測コイル22へ流す電流値を変更し(S16)、S11からS14を繰り返す。また、特性の磁場強度依存性について十分得られた場合、すなわち、一定回数以上測定した場合(S15にてyesの場合)、測定は終了となる。
【0041】
以上をまとめると、励磁電流値を変更して、すなわち印加磁場強度を変更して繰り返してインピーダンスを測定することで、磁歪材料21の特性の磁場強度依存性を測定することができる。また、このとき、磁歪材料21に圧力をかけるなどの工程は必要としない。
【0042】
このような構成、及び方法を用いることで、簡便かつ迅速に、磁歪材料21の磁場の強さに対する計測コイル22のインピーダンスを測定することができ、得られたインピーダンスを用いて磁歪材料21の特性を導出することが可能となる。すなわち、簡便かつ迅速に、磁歪材料21の特性の磁場強度依存性を測定できる。
【0043】
図3は、
図2でインピーダンスを測定した計測コイル22の等価回路を示す図である。
図3の(a)は機械的な回路、
図3の(b)は電気的な回路を示している。また、この等価回路は、磁歪材料21が仲立ちとなり、機械的な回路と電気的な回路が結合したかたちとなっている。
【0044】
計測コイル22の等価回路は機械的な部分と電気的な部分に分けて示されている。
図3の(a)が示すように機械的な部分は1自由度の共振系であり、磁歪材料21の等価質量と、ばね定数、及び磁歪材料自体と測定系として組み上げたことによる粘性減衰係数の直列接続である。また、
図3の(b)で示すように電気的な部分は計測コイル22の直流抵抗とインダクタンスとの直列接続である。
【0045】
この回路の等価インピーダンスZは式(1)にて、表すことができる。
【0046】
【0047】
このとき、ZEは電気インピーダンス、ZMは機械インピーダンス、αは力学的エネルギーから電気的エネルギーへの変換率である力係数である。また、機械系では、kはばね定数、mは等価質量、cは粘性減衰係数、電気系では、Rはコイルの巻き線抵抗、Lはインダクタンスである。さらにjは虚数である。
【0048】
図4Aは、
図3の等価回路から得られた一定の電流値の下の計測コイル22におけるインピーダンスの周波数依存性を表すインピーダンスループの図である。また、
図4Bは
図4Aで得られたインピーダンスループから電気回路成分を取り除いた成分のループを示す図である。インピーダンスアナライザー23の測定周波数を50~150k[Hz]に変化させ、各周波数に対応するインピーダンスの値について、実数部(抵抗成分)を横軸、虚数部(リアクタンス成分)を縦軸として示している。
【0049】
この
図4Bから得られる数値と式(2)~式(6)を用いることで、磁歪材料21の特性を得ることができる。
【0050】
【0051】
このとき、f
0は共振周波数、f
1は機械インピーダンスの偏角が+45°となる周波数、f
2は機械インピーダンスの偏角が-45°となる周波数、R
mは円の直径、X
50は50[Hz]でのリアクタンスである。さらに、
図1Bで示したように、L
1は磁歪材料21において計測コイル22が巻き付けられている長さ、L
2は磁歪材料21の長さである。また、Sは磁歪材料21の断面積、nは計測コイル22の巻数である。さらに、Eは磁歪材料21のヤング率、μ
sは磁歪材料21の比透磁率である。また、等価質量mについては、有限要素法の静解析と共振解析により事前に計算しておく。なお実施の形態においては、磁歪材料21の特性とは、力係数α、比透磁率μ
s、ヤング率Eを表しているが、上記に示すような粘性減衰係数cを含んでもよいし、さらには、これらに限られるものではない。
【0052】
図5は、
図2のステップS16で示されたように、電流値を変更して、すなわち印加磁場強度を変更して、繰り返し測定したインピーダンスループを示す図である。さらに、
図6の(a)、
図6の(b)、
図6の(c)は、
図5のインピーダンスループから得られた力係数α、比透磁率μ
s、ヤング率Eの磁場強度依存性を示す図である。
【0053】
図5からわかるように、インピーダンスループの形状は磁場に依存している。その結果、式(2)~式(6)で得られた磁歪材料21の特性は、
図6の(a)、
図6の(b)、
図6の(c)が示すように磁場に依存することがわかる。
【0054】
図7は、振動発電素子の出力電圧と力係数αの相関性を示した図である。
【0055】
種々の力係数αをもつ磁歪材料21を用いて、振動発電素子を作製し、素子を振動させながら出力電圧を測定した。
図7の横軸は用いた磁歪材料21の力係数α、縦軸は出力電圧を振動加速度で除した数値であり、発電効率とみなすことができる。力係数αが増大するにつれて出力電圧を振動加速度で除した数値も増大し、これらは、高い相関性があることが明らかである。すなわち、力係数αは振動発電素子の発電効率と高い関係性があり、振動発電素子の発電効率を高めるには、力係数αを高める必要があることが示されている。
【0056】
なお、実施の形態における磁歪材料の特性測定方法においては、特性の一つとして磁歪材料の透磁率μを変換した比透磁率μsを用いた。磁歪材料の透磁率μは、比透磁率μsと、真空の透磁率μ0とを含む式(7)により導出することができる。
【0057】
【0058】
式(7)を用いて、実施の形態における磁歪材料の特性測定方法において、特性の一つとして透磁率μを導出してもよい。
【0059】
以上のように、実施の形態における磁歪材料の特性測定方法は、所定の強度である第一磁場を発生させる第一励磁ステップS11と、第一磁場に置かれた磁歪材料21が挿入されたコイルのインピーダンスを測定するインピーダンス測定ステップS13と、インピーダンスの測定結果から磁歪材料21の特性を算出する算出ステップS14とを含み、所定の強度を変更しながら、第一励磁ステップS11、インピーダンス測定ステップS13及び算出ステップS14を繰り返す。
【0060】
また、実施の形態における磁歪材料の特性測定装置100Aは、所定の強度である第一磁場を発生させる第一励磁部10と、第一磁場に置かれた磁歪材料21が挿入されたコイルのインピーダンスを測定するインピーダンス測定部20と、インピーダンスの測定結果から磁歪材料21の特性を算出する算出部30と、所定の強度を変更しながら、第一励磁部10、インピーダンス測定部20及び算出部30の動作を繰り返させる制御部40とを備える。
【0061】
以上のような方法、及び装置を用いることで、簡便かつ迅速に、磁歪材料21の特性の磁場強度依存性を測定できる。
【0062】
また、実施の形態における磁歪材料の特性測定方法は、磁歪材料21の特性として、力学的エネルギーから電気的エネルギーへの変換率である力係数αと、ヤング率Eと、透磁率μとを含む。
【0063】
以上のような方法を用いることで、簡便かつ迅速に、振動発電素子の発電効率の因子である力係数α、透磁率μ、ヤング率Eの磁場強度依存性を測定できる。さらに、特に重要な因子である力係数αが最も高くなる印加磁場強度も明らかにすることができるため、振動発電素子へ適用した際に、高い発電効率を発揮することが容易になる。つまりは、高い力係数αを示す磁歪材料を迅速かつ簡単に見出すことができるため、高い発電効率を持った振動発電素子を容易に作製することが可能となる。
【0064】
(変形例)
[装置構成]
図8は実施の形態の変形例における磁歪材料の特性測定装置100Bの概観図である。この磁歪材料の特性測定装置100Bは、第一励磁部10と、インピーダンス測定部20と、算出部30と、制御部40と、第二励磁部50と、磁束算出部60とを備える。
【0065】
本変形例に係る磁歪材料の特性測定装置100Bは、基本的には実施の形態に係る磁歪材料の特性測定装置100Aと同様の構成を備えるが、新たな構成要素として第二励磁部50と、磁束算出部60とを備える点が実施の形態と異なる。以下、実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0066】
第二励磁部50は、強度が連続的に変化する第二磁場を発生させる。具体的には、第二励磁部50は、交流電流源51を含む。さらに、第一励磁部10に含まれる励磁コイル11は、第二励磁部50の一部として兼用される。
【0067】
励磁コイル11は、第二励磁部50として使用する場合においては、第二磁場を発生させるために用いられるコイルである。後述するように、この第二磁場が磁歪材料21を磁化させる。具体的には、励磁コイル11は、その両端を直流電流源12ではなく、交流電流源51と接続され、所定の電流を流すことで磁歪材料21を磁化させる第二磁場を発生させる。また、第一磁場発生時と同じく、励磁コイル11は、その中心部にヨーク13が挿入されており、ヨーク13に巻き付けられた構造を持つ。
【0068】
このように励磁コイル11は、第一磁場を発生させるときは直流電流源12に接続され、第二磁場を発生させるときは交流電流源51に接続されるため、これらを切替えるスイッチ71を有していることが好ましい。また、このスイッチ71の接続先を切り替える手段として、制御部40による制御を用いてもよい。
【0069】
交流電流源51は、第二磁場を発生させるための電流を流すために用いられる。具体的には、交流電流源51は、励磁コイル11の両端と接続され、設定に従って所定の電流を流すことができる。また、この電流値、及び周波数は任意の値をとることができるが、本変形例においては、200mA、0.1Hzとする。
【0070】
磁束算出部60は、第二磁場に置かれた磁歪材料21の磁束密度を算出することで、磁化曲線を導出する。具体的には、磁束算出部60は、DCアンプ61と、電圧計62を含む。さらに、インピーダンス測定部20に含まれる計測コイル22は、磁束算出部60の一部として兼用される。
【0071】
計測コイル22は、磁束算出部60として使用する場合においては、磁歪材料21の磁束密度変化に対応する誘導起電圧を測定するために用いられるコイルである。具体的には、計測コイル22は、その中心部に磁歪材料21が挿入されており、磁歪材料21に巻き付けられた構造を持つ。さらに計測コイル22の両端は、インピーダンスアナライザー23ではなく、DCアンプ61に接続されている。第二磁場によって磁歪材料21の磁束密度が変化するため、磁歪材料21の周囲に存在する計測コイル22には誘導起電圧が生じる。DCアンプ61、及び電圧計62は、この誘導起電圧を計測する。
【0072】
このように計測コイル22は、コイルのインピーダンスを測定するときはインピーダンスアナライザー23に接続され、磁歪材料21の磁束密度を測定するときはDCアンプ61に接続されるため、これらを切替えるスイッチ72を有していることが好ましい。また、このスイッチ71の接続先を切り替える手段として、制御部40による制御を用いてもよい。
【0073】
DCアンプ61は、計測コイル22の誘導起電圧を増幅するために用いられる。具体的には、計測コイル22の両端と接続されており、計測コイル22が入力した電圧を増幅し、電圧計62へと出力する。また、ノイズなどの高周波数成分をカットし、低周波数成分を通過させる100Hzのローパスフィルターを備えている。
【0074】
電圧計62は、DCアンプ61が入力した計測コイル22の誘導起電圧を測定するために用いられる。具体的には、DCアンプ61と接続されている。電圧計62は、DCアンプ61から入力された電圧を基に、第二磁場によって変化した磁歪材料21の磁束密度を算出する。また、この得られた磁歪材料21の磁束密度の算出は、算出部30で実行してもよい。
【0075】
またこのとき、ヨーク13に保持されている磁歪材料21は、引張り、圧力などの力は掛けることなく測定する。
【0076】
このような構成とすることで、印加磁場に対する磁歪材料21の磁束密度を測定することができ、いわゆる、磁歪材料21の磁化曲線(B-Hカーブ)を算出することができる。
【0077】
さらに、磁歪材料21に対して引張り、圧縮など力をかけていないため、簡便かつ迅速に測定することができる。
【0078】
[装置の動作]
次に、以上のように構成された本変形例における磁歪材料の特性測定装置100Bの動作について詳細に説明する。
【0079】
図9は、
図8で示された磁歪材料の特性測定装置100Bを用いて、計測コイル22のインピーダンスを測定する方法、すなわち磁歪材料の特性測定方法のフローチャートである。以下のステップは、測定者またはプログラムに基づく制御部40によって実行される。
【0080】
初めに、交流電流源51が流す交流電流値、周波数を設定する(S20)。励磁コイル11は、所定の交流電流が流されることで、電流値と周波数に応じた第二磁場を発生させる(S21)。励磁コイル11により発生した磁場の磁束は、励磁コイル11内のヨーク13を通じ、ヨーク13に保持された磁歪材料21へと到達し、磁歪材料21を磁化させる(S22)。次に、変化する第二磁場における磁歪材料21の磁束密度の変化(つまりB-Hカーブ)を測定する(S23)。得られた磁化曲線(B-Hカーブ)を基に、ステップS10の第一磁場を発生されるための直流電流値を設定する。
【0081】
さらに、繰り返し測定するためのステップS16における直流電流値の変更についても、ステップS23で得られた磁束密度を基に変更する。
【0082】
ここでステップS23で示した磁化曲線を得るための具体的な手順を示す。
【0083】
ステップS21で発生した第二磁場の強度を縦軸、時間を横軸とすると、ステップS20で設定した交流電流値、周波数に従い、正弦関数を描く。上述したように、磁歪材料21の磁束密度は、第二磁場の強度によって変化する。そのため、例えば、交流電流源51の設定値を200mA、0.1Hzとし、0.1秒に1回の頻度で、サンプリングを実行することで、10秒で1周期となり、0.1秒毎の第二磁場強度と対応する磁束密度を100ポイントの測定結果を得ることができる。
【0084】
図10は、
図9のステップS23で得られた第二磁場に対する磁歪材料21の磁束密度の変化、いわゆる磁化曲線を表す図である。
【0085】
印加される第二磁場の強度の絶対値が増大するにつれて、磁束密度も増大し、一定強度以上の第二磁場が印加されると磁束密度の限界点である飽和磁束密度へ達する。このとき飽和磁束密度の2分の1となる磁束密度に対応する第二磁場の強度(以下H
Bと表す)を選定し、第一磁場の強度がH
Bとなるように励磁コイル11へ流す電流値を設定し、
図9に示すフローチャートのステップS10へと測定を続ける。
【0086】
さらに、繰り返し測定するためのステップS16における直流電流値の変更についても、ステップS23で得られた磁束密度を基に変更する。具体的には、第一磁場の強度がHBに対して50%、80%、120%、150%となるように、励磁コイル11へ流す電流値を変更して、計測コイル22のインピーダンスを測定する。
【0087】
以上のように、実施の形態の変形例における磁歪材料の特性測定方法は、さらに、強度が連続的に変化する第二磁場を発生させる第二励磁ステップS21と、第二磁場に置かれた磁歪材料21における磁束密度を測定することで、磁化曲線を算出する磁化曲線算出ステップS23とを含み、第一励磁ステップS11では、磁化曲線算出ステップS23で算出された磁化曲線に基づいて所定の強度を決定する。
【0088】
このような構成、及び方法とすることで、より、簡便かつ迅速に、磁歪材料21の特性の磁場強度依存性を測定できる。具体的には、磁歪材料21を用いた振動発電素子が動作する場合、その動作範囲で磁歪材料21に加わる磁場が変化する。この磁場が変化する範囲で、高い力係数αを磁歪材料21が持つ場合、振動発電素子は、高い電圧を発生する。すなわち、性能がよい振動発電素子となる。つまり、この動作磁場範囲での力係数αの数値を把握することができるため、より、簡便かつ迅速に、磁歪材料21の特性の磁場強度依存性を測定できる。
【0089】
なお、実施の形態においては、効率よくかつ簡便に磁歪材料21を励磁するために、励磁部として直流電流源12、励磁コイル11、Cの字型のヨーク13を用いたが、他の方法を用いてもよい。例えば、Cの字型のヨーク13の代わりに棒状の鉄心を用いてもよい。すなわち、棒状の鉄心の一部に励磁コイル11を、磁歪材料21に計測コイル22を巻き付け、鉄心から磁歪材料21へ磁束が向かう構造とすることも可能である。または、励磁コイル11及びヨーク13を用いないで、外部から磁場をかける装置により磁歪材料21を励磁してもよい。さらには、磁歪材料21を、ヨーク13ではなく計測コイルで保持する構造でもよい。すなわち、ヨーク13と接触させないが、励磁磁場の影響を実質的に受け得る距離において、計測することも可能である。こうすることでヨーク13と磁歪材料21の摩擦を抑制する効果がある。
【0090】
さらに、磁歪材料21の形状は板状に限らず、棒状などほかの形状を用いてもよい。
【0091】
また、
図2、9のフローチャートにて第一磁場の強度を変更しながら繰返し測定を実行することを示した。この繰返し数は、実施の形態の変形例については、第一磁場の強度が、H
Bに対して50%、80%、100%、120%、150%の5回としたが、任意の回数であって構わない。繰り返し数が少ない場合は、より簡便かつ迅速に測定が可能となり、多い場合は、より精密な測定が可能となる。さらに、第一磁場の強度の値も上記に限定されるものではない。
【0092】
実施の形態においては、算出部30、及び制御部40は別体のパーソナルコンピューターとしてあらわしたが、同一のパーソナルコンピューターを用いて、それぞれの動作を実行させてもよい。また、算出部30、及び制御部40はパーソナルコンピューター以外のハードウェアを用いて実行してもよい。
【0093】
また、等価質量は有限要素法の静解析と共振解析により事前に計算したが、その他の方法を用いてもよい。例えば、実施の形態で開示した磁歪材料21の特性測定をする際に、磁歪材料21へ既知の質量のおもりを積載し、複数回測定すれば、計測することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、運動と磁気に関する機器等、例えば、振動発電装置、アクチュエータなどに適用できる磁歪材料の特性を測定する装置として、有用である。優れた特性を有する磁歪材料の選定に特に高い効果を発揮する。
【符号の説明】
【0095】
10 第一励磁部
11 励磁コイル
12 直流電流源
13 ヨーク
20 インピーダンス測定部
21 磁歪材料
22 計測コイル
23 インピーダンスアナライザー
30 算出部
31 ディスプレイ
40 制御部
41 ディスプレイ
50 第二励磁部
51 交流電流源
60 磁束算出部
61 DCアンプ
62 電圧計
71、72 スイッチ
100A 磁歪材料の特性測定装置
100B 磁歪材料の特性測定装置