(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】ウイルス感染症予防用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20220608BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220608BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220608BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20220608BHJP
A23L 33/185 20160101ALI20220608BHJP
A23G 4/14 20060101ALI20220608BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20220608BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220608BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20220608BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220608BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220608BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220608BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P31/16
A61P31/14
A61P31/22
A23L33/185
A23G4/14
A23G3/34 101
A23L2/00 F
A23L2/52
A23K20/147
A61K9/12
A61K9/20
A61K9/08
A61K9/06
(21)【出願番号】P 2019103894
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2018109031
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518136073
【氏名又は名称】株式会社マナHSコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100152250
【氏名又は名称】峰松 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100094226
【氏名又は名称】高木 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100087066
【氏名又は名称】熊谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 征也
(72)【発明者】
【氏名】古田 一徳
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-145777(JP,A)
【文献】国際公開第2007/105565(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/018617(WO,A1)
【文献】特開2014-201587(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2017-0020708(KR,A)
【文献】特表2009-528270(JP,A)
【文献】特表2010-539918(JP,A)
【文献】特開平07-067634(JP,A)
【文献】特開2004-262847(JP,A)
【文献】BIO INDUSTRY, 2014, Vol.31, No.6, pp11-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 38/00-38/58
A61K 35/00-35/768
A23L 2/00- 2/84
A23L 33/00-33/29
A23G 3/00- 3/56
A23G 4/00- 4/20
A23K 20/00-20/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又は非ヒト動物の気道、消化管又は眼組織の上皮細胞に投与され、該上皮細胞表面のウイルスレセプター又は糖タンパク質に結合する拮抗物質を有効成分として含有する、ヒト又は非ヒト動物用のウイルス感染症予防用組成物であって、
前記拮抗物質が、コンカナバリンA(ConA
)であり、
該コンカナバリンA(ConA)の濃度が、60μg/mL(0.006重量%)以上であり、
その形態が、鼻腔、口腔又は眼を経由して投与される医薬品又は医薬部外品であり、スプレー剤、含嗽剤、口腔内洗浄剤、トローチ剤、内服液剤、点眼剤、及び眼軟膏からなる群より選ばれる1種、又は
口腔を経由して投与される食品又は飼料であり、ガム、飴、飲料、粉末飲料、流動食品、及び流動又は液体の飼料からなる群より選ばれる1種であり、
前記ウイルス感染症が、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、おたふくかぜウイルス、単純ヘルペスウイルス1型及び2型、鳥インフルエンザウイルス、並びにニューカッスル病ウイルスからなる群より選ばれる1種による感染症である、
前記ウイルス感染症予防用組成物。
【請求項2】
非ヒト動物がウイルス感染症に罹患する前に、請求項
1に記載のウイルス感染症予防用組成物を投与して、ウイルスレセプター又は糖タンパク質を拮抗物質で予め処置すること
により、非ヒト動物のウイルス感染症を予防する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザなどウイルス感染症の予防用組成物に関する。より詳しくは、気道や消化管等の上皮細胞に投与して予め処置しておくことにより、注射をする必要が無く、簡便で安価に感染を抑制することができる、ヒト又は非ヒト動物用のウイルス感染症予防用組成物とそれを用いた予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療が発達した現代においても、毎年冬期になるとA型及びB型インフルエンザなどが世界的に流行しており、病原性の高いウイルスの発生によるパンデミックスも懸念されている。また、人畜共通感染症である鳥インフルエンザも人への感染が懸念され、養鶏場で発生が認められると大規模な殺処分が行われている。
【0003】
外部から体内に侵入したインフルエンザなどの病原性ウイルスは、人や動物の宿主細胞表面に発現している特異的レセプターに結合することにより細胞内に侵入して増殖する。現代のウイルス感染症の予防対策の中心は予防接種であり、これは弱毒化又は不活化したウイルスやその成分を予め注射して、特定のウイルスに対する免疫を誘導して生体の防御力を高めておく方法である。
【0004】
ここで、糖結合性蛋白質であるレクチンは、その構造に由来する結合特異性を有しており、細胞表面の複合糖質の検索や糖蛋白質及び糖脂質の精製等に利用されている。近年では、レクチンのインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス作用が注目され、治療薬や予防薬への応用が研究されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、マンノース結合型レクチン(MBL)などを含み、呼吸器への吸入や他の表皮細胞の感染部位に直接伝達するのに適合した、微生物感染性疾患の治療及び予防用の噴霧乾燥粉末組成物等が開示されている。この噴霧乾燥粉末組成物を投与することにより、MBLが免疫系を活性化して感染部位を治療でき、またウイルスや細菌の侵入を遮断して感染を予防できるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、植物由来のレクチンを有効成分として含むインフルエンザ治療剤等が開示されている。この治療剤を投与することにより、インフルエンザ感染の初期の段階で患者が重篤となる事態を効果的に防止することができるとされている。
【0007】
同文献ではレクチンの作用点が解析されており、ヘアリーベッチレクチン及びフジレクチンには、ウイルス吸着以降の過程において感染抑制効果が認められ、治療的用途への可能性が示されている。また、ヒイロチャワンタケレクチン及び麹菌レクチンには、ウイルス吸着以前の過程で感染抑制効果が認められ、予防的用途への可能性が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2008-526735号公報
【文献】特開2014-201587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された治療及び予防用の噴霧乾燥粉末組成物では、効果が確認されているレクチンは遺伝子組み換えヒトMBLであり、大量に安定して調製することが難しくコストが嵩んでしまう。また、予防の作用機序はMBLがウイルスや細菌の表面に結合することで、宿主細胞への侵入を物理的に遮断して感染を抑制できるとされているが、その結合が確認されているのはウイルスではなく黄色ブドウ球菌等の一部の細菌のみである。
【0010】
また、特許文献2に開示されたインフルエンザ治療剤では、治療や予防用途への可能性が示唆されているものの、スクリーニング的に各種レクチンの抗ウイルス活性を確認するに止まり、その作用機序は明らかにされていない。さらに、アマリリスレクチン及びコンカナバリンA(ConA)には、顕著な抗ウイルス活性が認められなかったと記載されている。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、従来考えられていなかったレクチンと宿主細胞のウイルスレセプターとの結合性に着目して、その抗ウイルス効果の作用機序を明らかにすることを第一の目的とする。そして、その作用機序を応用することにより、種々のウイルス感染症に適応することができ、簡便で安価に感染を抑制することができる、ヒト又は非ヒト動物用のウイルス感染症予防用組成物とそれを用いた予防方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、レクチンは宿主細胞のウイルスレセプターと親和性が高く、ウイルスの宿主細胞への結合を物理的に阻害できることを見出した。そして、気道や消化管等の上皮細胞のウイルスレセプターに特異的に結合する拮抗物質を、ウイルス感染症に罹患する前に投与してウイルスレセプターを予め包埋しておくことにより、ウイルスの宿主細胞への侵入を抑制できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明はヒト又は非ヒト動物の気道、消化管又は眼組織の上皮細胞に投与され、該上皮細胞のウイルスレセプターに結合する拮抗物質を有効成分として含有する、ヒト又は非ヒト動物用のウイルス感染症予防用組成物である。本発明により、注射をすること無く、簡便で安価にウイルス感染症を予防することができる。
【0014】
本発明のウイルス感染症予防用組成物は、拮抗物質をマンノース結合型レクチン(MBL)としてもよく、その濃度を30μg/mL以上としてもよい。MBLはウイルスレセプターとの親和性が高く優れた効果が期待でき、また低コストで安全性が高い植物由来のMBLを利用することができる。
【0015】
また、本発明のウイルス感染症予防用組成物は、拮抗物質を不活化ウイルスとしてもよく、不活化ウイルスの濃度をHA含量として6μg/mL以上としてもよい。不活化ウイルスはウイルスレセプターと親和性が高く優れた効果が期待でき、また既に医薬品として製造承認されている不活化ワクチンを利用することができる。
【0016】
さらに、本発明のウイルス感染症予防用組成物は、ウイルス感染症を、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、おたふくかぜウイルス、単純ヘルペスウイルス1型及び2型、鳥インフルエンザウイルス、並びにニューカッスル病ウイルスからなる群より選ばれる1種による感染症としてもよい。これらの感染症は感染力が強く各地で流行が繰り返されており、その予防剤は医療分野において大きな社会貢献が期待される。
【0017】
また、本発明のウイルス感染症予防用組成物は、医薬品又は医薬部外品であり、鼻腔、口腔又は眼を経由して投与される形態としてもよく、スプレー剤、含嗽剤、トローチ剤、内服液剤、内服固形剤、及び点眼剤からなる群より選ばれる1種としてもよい。これらの剤形とすることにより、簡便で効率よく気道、消化管又は眼組織の上皮細胞に投与することができる。
【0018】
さらに、本発明のウイルス感染症予防用組成物は、食品又は飼料であり、口腔を経由して投与される形態としてもよく、ガム、飴、飲料、及び粉末飲料からなる群より選ばれる1種としてもよい。これらの形態とすることにより、安価で簡便に消化管の上皮細胞に投与することができる。
【0019】
また、本発明は非ヒト動物がウイルス感染症に罹患する前に、上記ウイルス感染症予防用組成物を投与して、ウイルスレセプターを拮抗物質で予め処置することにより、非ヒト動物のウイルス感染症を予防する方法である。本発明により、簡便で安価にペットや家畜の健康状態を維持することができ、人畜共通感染症を予防することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のウイルス感染症予防用組成物を、ウイルス感染症に罹患する前に気道、消化管又は眼組織の上皮細胞に投与して、ウイルスレセプターを拮抗物質で予め処置することにより、注射をする必要が無く、簡便で安価に感染を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】インフルエンザウイルス及びコンカナバリンA(ConA)とウイルスレセプターとの結合性を示す説明図である。
【
図2】本発明のウイルス感染症予防用組成物の抗ウイルス効果の作用機序を示す説明図である。
【
図3】実施例1における鳥インフルエンザウイルスに対するConAの抗ウイルス効果を示すグラフである。
【
図4】実施例2におけるニューカッスル病ウイルスに対するConAの抗ウイルス効果を示すグラフである。
【
図5】ConA濃度の定量試験における吸光度と添加したConA濃度との関係を示すグラフである。
【
図6】ConA濃度の定量試験において算出した吸光度とConA濃度との関係を表す標準曲線を示すグラフである。
【
図7】標準曲線を用いて定量した細胞表層のConA濃度と添加したConA濃度との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例3におけるインフルエンザウイルスに対する不活化全粒子ウイルスの抗ウイルス効果を示すグラフである。
【
図9】実施例3におけるインフルエンザウイルスに対するConAの抗ウイルス効果を示すグラフである。
【
図10】実施例4における風疹ウイルスに対するConAの抗ウイルス試験の評価結果を示す概略図である。
【
図11】実施例4における麻疹ウイルスに対するConAの抗ウイルス試験の評価結果を示す概略図である。
【
図12】実施例4におけるおたふくかぜウイルスに対するConAの抗ウイルス試験の評価結果を示す概略図である。
【
図13】実施例4における単純ヘルペスウイルス1型に対するConAの抗ウイルス試験の評価結果を示す概略図である。
【
図14】実施例4における単純ヘルペスウイルス2型に対するConAの抗ウイルス試験の評価結果を示す概略図である。
【
図15】実施例4におけるRSウイルスに対するConAの抗ウイルス試験の評価結果を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のウイルス感染症予防用組成物とそれを用いた予防方法について、詳細に説明する。なお、説明が省略されている成分、組成、製法等については、当該技術分野の当業者に知られているものと同一又は実質的に同一のものとすることができる。
【0023】
本発明のウイルス感染症予防用組成物は、ヒト又は非ヒト動物用である。非ヒト動物とは、気道、消化管又は眼組織の上皮細胞にウイルスが感染する哺乳類又は鳥類であれば特に限定されない。具体的には、家畜となる牛、豚、馬、羊、山羊等の哺乳動物、鶏、鴨、鶉、七面鳥等の鳥類、愛玩動物となる犬、猫、ウサギなどの哺乳動物、インコ、ジュウシマツなどの鳥類が例示される。
【0024】
また、本発明のウイルス感染症予防用組成物は、気道、消化管又は眼組織の上皮細胞に投与される。気道とは鼻から肺に通じる空気の通り道であり、上気道と下気道に分けられる。上気道とは鼻から鼻腔、鼻咽腔、咽頭、喉頭まで、下気道とは喉頭よりも肺側の気管、気管支、細気管支、肺である。
【0025】
消化管とは口から肛門までの食物とその消化物の通り道であり、上部消化管と下部消化管に分けられる。上部消化管とは口から口腔、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸)まで、下部消化管とは十二指腸よりも肛門側の小腸(空腸、回腸)、大腸(盲腸、虫垂、結腸、直腸)である。
【0026】
眼とは眼窩に位置する視覚器であり、眼球とその付属器に分けられる。本発明が投与される眼組織は外界と接している部分又は外界に近い部分であり、眼瞼、眼角、結膜、涙器、角膜、強膜、眼窩組織等が対象となる。
【0027】
本発明のウイルス感染症予防用組成物が投与される標的組織は、予防対象となるウイルス感染症の原因ウイルスが特異的に結合するレセプターが多く発現している気道、消化管又は眼組織の上皮細胞である。ウイルスの種類により主要な標的組織は異なり、例えば、インフルエンザウイルスであれば、人の鼻咽腔、咽頭、喉頭等の上気道の上皮細胞である。また、鳥インフルエンザウイルスであれば、鳥類の小腸、大腸等の下部消化管の上皮細胞である。
【0028】
本発明のウイルス感染症予防用組成物は、ヒト又は非ヒト動物の気道、消化管又は眼組織の上皮細胞表面に存在するウイルスレセプターに結合する拮抗物質(アンタゴニスト)を有効成分として含有する組成物(予防剤)である。ウイルス感染症に罹患する前に本発明のウイルス感染症予防用組成物を投与して、ウイルスレセプターを拮抗物質で予め包埋しておくことにより、ウイルスの結合が物理的に阻害されるため感染が予防される。
【0029】
なお、本発明のウイルス感染症予防用組成物の主な用途は予防であるが、感染が疑われる場合や感染初期の段階で、症状の発症や症状の悪化を抑制するため投与される治療の用途も含むものとする。
【0030】
ここで、
図1はインフルエンザウイルス及びコンカナバリンA(ConA)とウイルスレセプターとの結合性を示す説明図であり、
図2は本発明のウイルス感染症予防用組成物の抗ウイルス効果の作用機序を示す説明図である。ウイルスが宿主細胞に吸着して内部に侵入する際に、多くのウイルスは宿主細胞の細胞膜上に発現している糖鎖を特異的レセプターとして認識して結合する。
【0031】
図1に示すように、インフルエンザウイルスが特異的に結合するウイルスレセプターは、上気道等の上皮細胞表面に存在する、マンノース、グルコサミン、ガラクトースなどの単糖類が縮合して末端にシアル酸が縮合した糖鎖構造からなるレセプターである。
【0032】
ウイルス粒子の外殻(エンベロープ)には、ヘマグルチニン (HA)やノイラミニダーゼ(NA)などの蛋白質がスパイク状に突出している。このヘマグルチニン (HA)がレセプター末端のシアル酸残基と親和性が高いため、インフルエンザウイルスがレセプターに特異的に結合することができる。
【0033】
一方、
図1に示すように拮抗物質であるコンカナバリンA(ConA)は、レセプターを構成するマンノースと親和性が高い。したがって、
図2に示すようにウイルスがレセプターに結合して感染が成立する前にConAを投与して、ウイルスレセプターをConAで予め包埋しておくことにより、ウイルスの結合が物理的に阻害されるため感染を阻止することができる。
【0034】
本発明のウイルス感染症予防用組成物が有効物質として含有する拮抗物質は、上記の通りウイルスレセプターに特異的に結合してアンタゴニストとして作用する物質である。具体的には、糖鎖のマンノース部位と親和性の高いマンノース結合型レクチン(Mannose binding lectin,MBL)が例示される。低コストで製造でき安全性が高く、医薬品や食品等に添加しても香りや味への影響が少ない植物由来のMBLが好ましい。
【0035】
植物由来のMBLとしては、Makelaの単糖認識に基づくレクチン分類において第3類に分類される、ナタマメ由来(ConA)、エンドウマメ由来(PSA)、レンズマメ由来(LCA)、ソラマメ由来(VFA)のMBL、及びそれらの誘導体が好ましく、中でもコンカナバリンA(ConA)がより好ましい。
【0036】
本発明のウイルス感染症予防用組成物が含有するマンノース結合型レクチン(MBL)の濃度(含有量)は、所定の抗ウイルス効果を発揮でき、好適な香りや味が得られ、製造コストが低廉であれば特に限定されない。好ましくは30μg/mL(0.003重量%)以上、より好ましくは60μg/mL(0.006重量%)以上、さらに好ましくは125μg/mL(0.0125重量%)以上、さらにより好ましくは250μg/mL(0.025重量%)以上である。
【0037】
また、拮抗物質として不活化ウイルスを用いてもよい。ウイルスのエンベロープ蛋白質であるヘマグルチニン (HA)は、ウイルスレセプター末端のシアル酸残基と親和性が高いため、マンノース結合型レクチン(MBL)と同様にアンタゴニストとして作用することができる。具体的には、ウイルス粒子の構造が保持されたまま不活化された不活化全粒子ウイルス、ウイルス粒子を破壊して不活化された不活化スプリットウイルスが例示される。医薬品として製造承認済みのホルマリンで不活化された全粒子型ワクチン(Whole virus vaccine)及びSPワクチン(HAワクチン)を用いるのが好ましい。
【0038】
本発明のウイルス感染症予防用組成物が含有する不活化ウイルスの濃度(含有量)は、所定の抗ウイルス効果を発揮でき、一定の条件下での安定性を有し、製造コストが低廉であれば特に限定されない。HA含量として、好ましくは6μg/mL(0.0006重量%)以上、より好ましくは12μg/mL(0.0012重量%)以上、さらに好ましくは23μg/mL(0.0023重量%)以上、さらにより好ましくは47μg/mL(0.0047重量%)以上である。
【0039】
本発明のウイルス感染症予防用組成物の商品形態は、所定の抗ウイルス効果を発揮でき、簡便で効率よく安価に投与できる形態であれば特に限定されない。医薬品等に関する法律で規定される人又は動物用の医薬品、医薬部外品でもよい。また、食品等に関する法律で規定される食品、健康食品、特定保健用食品でもよい。さらに、家畜用の飼料、ペット用のペットフードでもよい。
【0040】
医薬品又は医薬部外品では、鼻腔、口腔又は眼を経由して投与される形態をとる。気道の上皮細胞に投与される剤形としては、鼻腔又は口腔内に噴霧するスプレー剤、口腔から吸入するエアロゾル製剤(MDI)又はドライパウダー製剤(DPI)、口腔内に含むトローチ剤、用時希釈又は溶解して用いる含嗽剤、口腔内洗浄剤等が挙げられる。消化管の上皮細胞に投与される剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の固形内服剤、シロップ剤、エリキシル剤、煎剤等の内服液剤、坐剤、浣腸剤等が挙げられる。眼組織の上皮細胞に投与される剤形としては、点眼剤、眼軟膏等が挙げられる。
【0041】
上記各種製剤の製剤設計では、医薬品分野の当業者に知られている公知の手段を用いることができる。例えば、スプレー剤では組織への付着性を改善するために粘稠化剤の種類と含量により粘度と性状を調整してもよい。吸入剤では組織への伝達性を改善するために薬剤の粒径や粒度分布を最適化してもよい。固形内服剤では消化液による有効成分の失活を防止するために腸溶性カプセルや腸溶性コーティングを用いてもよい。
【0042】
例えば、スプレー剤としては、純水95~99重量%、界面活性剤(ポリソルベート80など)0.01~0.5重量%、保存剤(ベンザルコニウム塩化物等)0.01~0.5重量%、酸化防止剤(エデト酸ナトリウム水和物等)0.01~0.5重量%、等張化剤(塩化ナトリウムなど)適量、緩衝剤(クエン酸ナトリウム水和物等)適量、pH調整剤(希塩酸等)適量、粘稠化剤(カルメロースナトリウムなど)適量等、及び有効成分としてコンカナバリンA(ConA)0.25重量%を、常法により混合して薬液を調製し所定の容器に充填した定量噴霧式スプレー剤が例示される。これを1日1回~数回鼻腔又は口腔内に噴霧してConAを上気道の上皮細胞に投与する。
【0043】
有効成分として不活化ウイルスを含むスプレー剤では、ホルマリン、チメロサールなどのワクチン由来の成分を適量含んでいてもよい。また、不活化ウイルスを経鼻、経口等の経路で生体に投与すると、局所免疫系が刺激されて局所抗体が誘導されることが知られているが、そのような局所免疫効果を増強するアジュバントを添加してもよい。
【0044】
含嗽剤としては、純水90~97重量%、界面活性剤(ポリソルベート80など)0.01~0.5重量%、保存剤(エタノールなど)0.5~5重量%、保湿剤(グリセリンなど)0.5~5重量%、香料(天然植物精油等)0.05~1重量%、酸化防止剤(エデト酸ナトリウム水和物等)0.01~0.5重量%、緩衝剤(リン酸水素ナトリウム水和物等)適量等、及び有効成分としてコンカナバリンA(ConA)2.5重量%を、常法により混合して原液を調製し所定の容器に充填した用時希釈の含嗽剤が例示される。これを水で十数倍に希釈し1日1回~数回含嗽してConAを上気道の上皮細胞に投与する。
【0045】
また、食品又は飼料では、口腔を経由して投与される形態をとる。食品としては、固形食品、半固形食品、流動食品、飲料、粉末飲料、飴やガムなどの菓子類等が挙げられる。飼料又はペットフードとしては、固形、半固形、流動、液体等の各種性状の飼料やペットフードが挙げられる。
【0046】
例えば、ガムとしては、ガムベース(植物性樹脂、酢酸ビニル樹脂、エステルガム等)20~40重量%、甘味料(砂糖、ブドウ糖、水飴等)50~80重量%、香料(天然植物精油等)0.05~1重量%、酸味料(クエン酸、リンゴ酸等)0.05~1重量%、軟化剤(水、グリセリンなど)適量、酸化防止剤(アスコルビン酸等)適量等、及び有効成分としてコンカナバリンA(ConA)0.25重量%を、常法により混合してガム生地を調製し所定量を成形して糖衣をコーティングした粒状ガムが例示される。これを1日数回口腔内で噛みConAを上気道又は消化管の上皮細胞に投与する。
【0047】
飴としては、糖原料(砂糖、ブドウ糖、水飴等)90~95重量%、酸味料(クエン酸、リンゴ酸等)0.05~3重量%、香料(天然植物精油等)0.05~1重量%、着色料(天然色素等)適量、酸化防止剤(アスコルビン酸等)適量等、及び有効成分としてコンカナバリンA(ConA)0.25重量%を、常法により混合して飴生地を調製し所定量を成形したハードキャンディーが例示される。これを1日数回口腔内で溶かしConAを上気道又は消化管の上皮細胞に投与する。
【0048】
さらに、本発明は非ヒト動物がウイルス感染症に罹患する前に、上記ウイルス感染症予防用組成物を投与して、ウイルスレセプターを拮抗物質で予め処置することより、非ヒト動物のウイルス感染症を予防する方法である。非ヒト動物とは前述の通りである。投与される予防用組成物は、商品として流通している予防用組成物を投与する場合と、自家調製の予防用組成物を投与する場合の両方を含むものとする。
【0049】
なお、上記本発明の医薬品及び医薬部外品、食品及び飼料において、その原材料、各種添加物、組成比率、収容容器、製造方法等に関しては、マンノース結合型レクチンや不活化ウイルスなどの有効成分の作用を損なわない範囲内で適宜設定され、医薬品や食品分野等において汎用されている一般的なものを採用することができる。
【0050】
また、本発明のウイルス感染症予防組成物の1日当たりの投与回数及び投与量は、本発明の効果を最大限に発揮させるために、種別、性別、体重、年齢、症状等に応じて適宜増減される。
【実施例】
【0051】
以下、本発明のウイルス感染症予防用組成物について、実施例等を参照して具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0052】
[実施例1]
<コンカナバリンAの抗鳥インフルエンザウイルス試験>
供試材料としてコンカナバリンA(ConA)(生化学用、和光純薬工業(株)製)を、供試ウイルスとして低病原性鳥インフルエンザウイルス(A/duck/Aomori/395/04[H7N1])(AIV)を、感受性細胞としてイヌ腎臓継代細胞(MDCK細胞)を用いた。
【0053】
ConAはPBS(10mM、pH7.2)に溶解し25mg/mLの濃度に調整した。このConA液をさらに最小必須培地(MEM)で希釈して、1000、500、250、125、62.5、31.25μg/mLの6段階の濃度に調整した。
【0054】
MDCK細胞は60mmシャーレ上で培養して単層シートを形成させた。この単層シートをMEMで2回洗浄した。次に、6段階の濃度のConA液を1シャーレ当たり4mL加えて、37℃、5%CO2インキュベータ内で30分間感作させた。その後、2mLのPBSでシャーレを3回洗浄してConAを除去した。
【0055】
続いて、希釈して感染価を調整した攻撃ウイルス(AIV)を1シャーレ当たり200μL接種して感染させ、単層シート上に伸ばし1時間培養してウイルス吸着を行った。MEMで洗浄して接種液を除去した後、トリプシンを添加した一次寒天培地を重層して、34℃、5%CO
2インキュベータ内で48時間培養した。さらに、同条件で二次寒天培地を重層して24時間培養した。ホルマリン固定とメチレンブルー染色をした後、同心円状に形成されたプラーク数を計測した。感染ウイルス量(プラーク数)が多い場合及び少ない場合に分けて、評価結果を下記表1及び2並びに
図3に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
[実施例2]
<コンカナバリンAの抗ニューカッスル病ウイルス試験>
供試ウイルスとしてニューカッスル病ウイルスSato株(NDV)を、感受性細胞として鶏胚線維芽細胞(CEF細胞)を用いた。重層した一次及び二次寒天培地にトリプシンを添加しないこと、一次寒天培地を重層して72時間培養したこと以外は実施例1と同一の条件で試験を行った。同様に感染ウイルス量(プラーク数)が多い場合及び少ない場合に分けて、評価結果を下記表3及び4並びに
図4に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
AIVに対しては、表1及び
図3の結果より、感染ウイルス量(プラーク数)が比較的多い場合でも、ConAの濃度が125μg/mLにおいて約90%のプラーク減少が認められ、高い抗ウイルス効果を示すことが分かる。また、表2及び
図3の結果より、感染ウイルス量(プラーク数)が比較的少ない場合には、ConAの濃度が62.5μg/mLの低濃度であっても100%のプラーク減少が認められ、ウイルスを不活化できたことが分かる。
【0062】
NDVに対しては、表3及び4並びに
図4の結果より、感染ウイルス量(プラーク数)に関わらず、約85~98%のプラーク減少が認められ、高い抗ウイルス効果を示すことが分かる。
【0063】
上記結果より、コンカナバリンA(ConA)を細胞にあらかじめ添加することで、その後の細胞へのウイルス感染が抑制されることが示された。この抑制効果は、PBSを用いてConAを細胞から洗い流した後でも認められたことから、ConAが直接ウイルスに作用するのではなく、MDCK及びCEF細胞表面のレセプター又は糖タンパク質にConAが特異的に結合し、ウイルスの特異的レセプターへの結合を阻害していると考えられる。
【0064】
また、MDCK(イヌ由来)及びCEF(ニワトリ由来)細胞で、同様の結果が得られたことから、ConAは、人や犬等の哺乳類の糖鎖のみならず鳥類の糖鎖にも結合し、ウイルスの宿主細胞への吸着を抑制すると考えらる。
なお、ConAを1000μg/mLの濃度で細胞に感作しても、細胞の死滅は認められず、その細胞毒性は極めて低いと考えられる。
【0065】
次に、上記コンカナバリンA(ConA)の抗ウイルス効果の作用機序を実証するために、細胞表面へ結合したConAの定量試験を行った。
[試験例1]
<細胞表面に結合したコンカナバリンAの定量試験>
96穴マイクロプレートに吸着させたMDCK細胞に対し、2倍段階希釈により4μg/mLから0.003906μg/mLまで11段階に調整したConA溶液を、1穴当たり100μLずつ添加してConAを細胞表面に結合させた。
【0066】
未結合のConAをPBS-Tで洗浄して除去し、細胞固定液を用いてプレートに細胞を固定化させた。96穴マイクロプレートの表層をブロッキングした後、1000倍に希釈したHRP標識抗ConA二次抗体溶液を添加した。450nmにおける吸光度を測定して、MDCK細胞表層のConA量を測定した。測定結果を下記表5中欄及び
図5に示す。
【0067】
また、上記と同様の手法により、2倍段階希釈により500μg/mLから11段階に調整したConA溶液を、96穴マイクロプレートに添加して固定化させた。HRP標識抗ConA二次抗体溶液を添加して、450nmの吸光度を測定し、ConAの標準曲線(検量線)を算出した。標準曲線のグラフを
図6に示す。この標準曲線と上記測定結果から定量したMDCK細胞表層のConA濃度を下記表5右欄に示す。また、添加したConA溶液の濃度と細胞表層のConA濃度の相関性を表すグラフを
図7に示す。
【0068】
【0069】
表5及び
図5に示すように、添加したConA溶液の濃度に依存して、細胞表層のConA量が増加していることが分かる。また、
図7に示すように、両者の相関係数はR
2=0.9435となり高い相関性が認められた。上記結果より、添加したConAがMDCK細胞表面のレセプター又は糖タンパク質に結合していることは確実であると考えられる。
【0070】
以上の結果より考察されたConAの抗ウイルス効果の作用機序により、ウイルスレセプターと親和性が高い物質であれば拮抗物質(アンタゴニスト)として働き、同様の抗ウイルス効果を示すことが推測される。これを実証するために、ウイルスレセプター末端のシアル酸残基と親和性が高いヘマグルチニン(HA)を保持したまま不活化されている不活化全粒子ウイルスを用いて抗ウイルス試験を行った。
【0071】
[実施例3]
<不活化全粒子ウイルスの抗インフルエンザウイルス試験>
供試材料として、不活化全粒子ウイルス液(A/Singapore/GP190/2015(IVR-190)(H1N1)pdm09)を用いた。この不活化ウイルス液はHA含量として150μg/mLを含有しているが、光電比色計でタンパク量の測定を行ったところ、4640μg/mL(BSA換算)を示した。
【0072】
不活化ウイルス液に含まれるチメロサールやホルマリンなどの保存剤を除去するために、不活化ウイルス液5mLをアミコンウルトラ-15(50K)に入れて遠心濾過を行い100μLに濃縮した。この濃縮液をPBSで5mLに復元してタンパク量の測定を行ったところ、1450μg/mL(BSA換算)を示し、タンパク量が約1/3に減少していた。この濃縮復元して保存料を除去した不活化ウイルス液を、PBSで2倍段階希釈して原液から32倍まで6段階の溶液を調製した。
【0073】
供試ウイルスとして、MDCK細胞で15代継代し、MDCK細胞で高い増殖性を持ったインフルエンザウイルス(A/California/07/09(H1N1)pdm09)(IV)を用いた。この攻撃ウイルスの感染価は6.6LogPFU/0.1mLであるが、この試験に用いる感染価の濃度は100PFU/0.1mLであるため、1×10-5及び2×10-5に希釈して試験に用いた。なお、ウイルスのタイプは不活化ウイルス液と同じpdm09ウイルスである。
【0074】
感受性細胞としてMDCK細胞を用いた。また、抗ウイルス効果の比較材料としてConAを用いた。ConAをPBSで2倍段階希釈して、500μg/mLから15.6μg/mLまで6段階の溶液を調製した。なお、対照としてMEM培地を用いた。
【0075】
6穴プレート内でMDCK細胞を3日間培養した後、細胞増殖用培養液を除去してMEMで1回洗浄した。次に、上記の不活化全粒子ウイルス液、ConA溶液、対照MEMの各細胞処理液を、1穴当たり200μLずつ添加した。細胞処理液が細胞面に広く接触するようにプレートを繰り返し揺り動かし、37℃、5%CO2インキュベータ内で60分間感作させた。その後、MEMで3回洗浄して各細胞処理液を除去した。
【0076】
続いて、上記の感染価を調整した攻撃ウイルス(HV)を1穴当たり100μL接種して感染させた。1時間培養してウイルス吸着を行った。MEMで洗浄して接種液を除去した後、トリプシン2μg/mL及びDEAEデキストラン0.01%含有するMEM寒天培地を細胞上に重層した。寒天培地が固形化後プレートを反転し、37℃、5%CO
2インキュベータ内で48時間培養を行った。ホルマリン固定とメチレンブルー染色をした後、同心円状に形成されたプラーク数を計測した。不活化全粒子ウイルスの評価結果を下記表6及び
図8に、ConAの評価結果を下記表7及び
図9に各々示す。
【0077】
【0078】
【0079】
表6及び
図8の結果より、不活化全粒子ウイルスの4倍希釈液において約90%のプラーク減少が認められ、高い抗ウイルス効果を示すことが分かる。ここで、原液~32倍希釈液のHA含量を推定すると、最初の不活化全粒子ウイルス液のHA含量が150μg/mLであり、濃縮復元後はタンパク量が約1/3に減少していることから、各々、46.9(原液)、23.4(2倍)、11.7(4倍)、5.86(8倍)、2.93(16倍)、1.46(32倍)μg/mLと推定される。なお、不活化全粒子ウイルスの原液を細胞に感作しても、細胞の死滅は認められず、その細胞毒性は極めて低いと考えられる。
【0080】
また、表7及び
図9の結果より、ConAの濃度が62.5μg/mLにおいて約90%のプラーク減少が認められ、AIVやNDVと同様にIVに対しても高い抗ウイルス効果を示すことが分かる。これらの抗ウイルス効果は、接種した攻撃ウイルス量(感染価)を変えても大きな差は認められなかった。
【0081】
上記のウイルス抑制効果は細胞処理液の濃度に依存しており、PBSで細胞処理液を洗い流した後でも認められたことから、シアル酸残基と親和性が高い不活化全粒子ウイルス、及びマンノース部位と親和性の高いConAが、MDCK細胞表面のウイルスレセプターを包埋して攻撃ウイルスの結合を阻害していることは確実であると考えられる。
【0082】
また、不活化ウイルスを経鼻、経口などの経路で生体内に投与すると、局所免疫系を刺激して局所抗体(IgAなど)が誘導されることが知られており、不活化ウイルスを有効成分として含有する本発明の予防剤を生体内に投与すると、ウイルスレセプター包埋による局所感染防御と、局所免疫賦活による局所抗体誘導の2つの効果が期待できる。
【0083】
[実施例4]
<コンカナバリンAのヒト感染ウイルスに対する抗ウイルス試験>
供試材料としてコンカナバリンA(ConA)(生化学用、和光純薬工業(株)製)を用いた。ConAはPBS(10mM、pH7.2)に溶解して25mg/mLの濃度に調整し無菌濾過した。このConA液をさらに199M-Md培地で2倍段階希釈して、1000、500、250、125、62.5、31.25μg/mLの6段階の溶液を調製した。
【0084】
供試ウイルスとして次の6種類、風疹ウイルス(Baylor株)、麻疹ウイルス(Edmonston株)、おたふくかぜウイルス(Enders株)、単純ヘルペスウイルス1型(HF株)、単純ヘルペスウイルス2型(UW-238株)、RSウイルス(Long株)を用いた。各ウイルス株を199M-Md培地を用いて10-3~10-7に希釈して感染価を調整した。
【0085】
供試細胞としてVero560を用いた。Vero細胞をE-MEM(5%FBS)培地で希釈して1×105cell/mLの濃度に調整した。この細胞液を24穴プレートに1穴当たり1mL加え、37℃、CO2インキュベータで3日間培養してシートを形成させた。このシートをPBSで1回洗浄した。
【0086】
次に、6段階の濃度のConA液を1穴当たり0.1mL添加して、室温25℃で30分間感作させた。その後、PBSで1回洗浄してConAを除去した。
続いて、希釈した各ウイルス液を24穴プレートに1穴当たり0.1mL接種して感染させ、37℃、CO
2インキュベータ内で60分間培養してウイルス吸着を行った。対照には199M-Md培地を1穴当たり0.1mL加えた。なお、24穴プレートへのConA液の添加と各ウイルス希釈液の接種は、
図10~15に図示する4×6のマス目通りに行った。
【0087】
さらに、199M-Md培地を1穴当たり1mL添加し、37℃、CO
2インキュベータ内で培養した。細胞変性効果(CPE)の状態を確認し4~7日後に判定を実施した。結果を下記表8及び
図10~15に示す。
【0088】
【0089】
表8及び
図10~15の結果より、ConAは、麻疹、おたふくかぜ及び単純ヘルペスウイルス1型ウイルスに対しては、低濃度領域から増殖抑制効果を示すことが分かる。また、単純ヘルペスウイルス2型に対しては、高濃度領域において増殖抑制効果を示すことが分かる。一方、風疹及びRSウイルスに対しては、1000μg/mL以下では増殖抑制効果が認められなかった。
【0090】
これらの抑制効果は、ConAの濃度に依存しており、PBSでConAを洗い流した後でも認められることから、前記実施例1~3と同様にConAがVero細胞表面のウイルスレセプターを包埋して、各攻撃ウイルスの結合を阻害しているためと考えられる。多種のウイルスに対して抑制効果が認められたことから、本発明の作用機序は特定のウイルスに限定されることなく、気道、消化管、眼組織等の外界と接する上皮細胞を最初の宿主細胞として生体内に侵入する多様なウイルスに適応でき、その感染を抑制できる可能性が示唆されている。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のウイルス感染症予防用組成物等は、インフルエンザなどのウイルス感染症に罹患する前に、気道、消化管又は眼組織の上皮細胞に投与して予め処置しておくことにより、注射をする必要が無く、簡便で安価に感染防御を実現できる。したがって、人又は動物の医療分野のみならず、人又は動物用の医薬品、医薬部外品、食品、健康食品、特定保健用食品、ペットフード、飼料等の産業分野において特に有用である。