(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】フェンシング用手袋
(51)【国際特許分類】
A41D 19/00 20060101AFI20220608BHJP
A41D 19/015 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A41D19/00 K
A41D19/015 210
(21)【出願番号】P 2019104820
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】514137517
【氏名又は名称】細川 勝弘
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 勝弘
【審査官】森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3194391(JP,U)
【文献】米国特許第09918504(US,B1)
【文献】特表2016-531211(JP,A)
【文献】特開2013-085641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 19/00
A41D 19/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の掌側に配される掌部を備えたフェンシング用手袋であって、
前記掌部が、装着者の人差指、中指、薬指及び小指の4本の指に対応する四指領域と、装着者の親指から母指球に亘って対応する親指領域と、該四指領域及び該親指領域の間に位置し、且つ装着者の人差指及び親指の間の位置から装着者の小指球に亘って対応する中間領域とを有し、
前記四指領域における下方周縁部と前記中間領域における上方周縁部と
は、互いに反対側に凸の略円弧状に切り欠かれた形状を有し、該下方周縁部と該上方周縁部とが第1縫製部により互いに縫い付けられ、且つ前記中間領域における前記親指領域側の側縁部と該親指領域における該中間領域側の側縁部とが第2縫製部により互いに縫い付けられており、
前記フェンシング用手袋を前記掌部側から平面視して、前記四指領域を構成する人差指部及び中指部の間の底部と、該四指領域を構成する薬指部及び小指部の間の底部とを結ぶ仮想線の傾きよりも急になるように、前記第1縫製部が該人差指部の根元側から斜め下方に直線状に延びており、前記第2縫製部が該第1縫製部側に凸の円弧状に延びる部分を有し
、
前記第2縫製部の接合強度が、前記第1縫製部の接合強度よりも大きい、フェンシング用手袋。
【請求項2】
剣を握ったときに、該剣のグリップの延びる方向と、前記第1縫製部の延びる方向とが略一致している、請求項1に記載のフェンシング用手袋。
【請求項3】
前記フェンシング用手袋を前記掌部側から平面視して、前記第1縫製部と、前記第2縫製部とは、装着者の人差指側において、互いに平行に延びる部分を有している、請求項1又は2に記載のフェンシング用手袋。
【請求項4】
剣を握ったときに、該剣のグリップの延びる方向と、前記平行に延びる部分の延びる方向とが略一致している、請求項3に記載のフェンシング用手袋。
【請求項5】
前記第1縫製部と前記仮想線とがなす鋭角は、5°以上60°以下である、請求項1~4の何れか1項に記載のフェンシング用手袋。
【請求項6】
前記四指領域、前記中間領域及び前記親指領域の中で、該親指領域の剛軟度が最も低い、請求項1~5の何れか1項に記載のフェンシング用手袋。
【請求項7】
前記四指領域、前記中間領域及び前記親指領域の中で、該親指領域の貫通強さが最も大きい、請求項1~6の何れか1項に記載のフェンシング用手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェンシング用手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
フェンシング用の手袋には、練習や試合等において、相手の攻撃時の剣から手を保護する機能のみならず、剣を操作し易くする機能が要求される。特に剣の操作性を向上させるためには、フェンシング用の手袋を装着して剣を持ったときの装着者の掌と剣との一体感が大切となる。フェンシングとは別のスポーツであるが、フェンシングと同様に剣を操作するスポーツとしては、剣道が挙げられる。剣道用の籠手として、例えば、特許文献1に記載の剣道用籠手が知られている。
【0003】
特許文献1に記載の剣道用籠手には、剣としての竹刀を握ったときに、該剣道用籠手における装着者の掌側の手平部に多数の皺が生じて握り難くならないように、手平部の長さ寸法を縮小する縮寸加工が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/014123号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フェンシング用の手袋は、ピストル型のベルギアンスタイルの剣におけるグリップにも、ストレート型のフレンチスタイルの剣におけるグリップにも対応するように形成する必要がある。そしてフェンシングは、片手の手袋のみで剣を操作する必要がある。一方、特許文献1に記載の剣道用籠手は、竹刀のストレートなグリップしか想定していない。また同文献には、施した縮寸加工の配置位置に関しては何ら具体的に開示されていない。剣道は、フェンシングと異なり、両手の籠手を介して剣を操作するものである。フェンシング用の手袋は、剣道用籠手以上に、剣を持ったときの装着者の掌と剣との一体感が重要となる。
【0006】
したがって本発明の課題は、剣を持ったときの装着者の掌と剣との一体感が得られ易く、剣の操作性が向上するフェンシング用手袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、装着者の掌側に配される掌部を備えたフェンシング用手袋であって、
前記掌部が、装着者の人差指、中指、薬指及び小指の4本の指に対応する四指領域と、装着者の親指から母指球に亘って対応する親指領域と、該四指領域及び該親指領域の間に位置し、且つ装着者の人差指及び親指の間の位置から装着者の小指球に亘って対応する中間領域とを有し、
前記四指領域における下方周縁部と前記中間領域における上方周縁部とが第1縫製部により互いに縫い付けられ、且つ前記中間領域における前記親指領域側の側縁部と該親指領域における該中間領域側の側縁部とが第2縫製部により互いに縫い付けられており、
前記フェンシング用手袋を前記掌部側から平面視して、前記四指領域を構成する人差指部及び中指部の間の底部と、該四指領域を構成する薬指部及び小指部の間の底部とを結ぶ仮想線の傾きよりも急になるように、前記第1縫製部が該人差指部の根元側から斜め下方に直線状に延びており、前記第2縫製部が該第1縫製部側に凸の円弧状に延びる部分を有している、フェンシング用手袋を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、剣を持ったときの装着者の掌と剣との一体感が得られ易く、剣の操作性が向上するフェンシング用手袋を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明のフェンシング用手袋の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すフェンシング用手袋を装着した状態を掌部側から視た平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す装着者の手を掌側から視た平面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すフェンシング用手袋の掌部を形成する前の四指領域の部分、中間領域の部分及び親指領域の部分、それぞれの平面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す四指領域の部分、中間領域の部分及び親指領域の部分を互いに縫製してなる掌部の平面図である。
【
図6】
図6は、
図1に示すフェンシング用手袋を掌部側から平面視した一部破断平面図である。
【
図7】
図7(a)は、
図1に示すフェンシング用手袋によりベルギアンスタイルの剣のグリップを握った状態を示す斜視図であり、
図7(b)は、
図1に示すフェンシング用手袋によりフレンチスタイルの剣のグリップを握った状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2には本発明のフェンシング用手袋の一実施形態であるフェンシング用手袋1の斜視図が示されている。本実施形態のフェンシング用手袋1(以下、単に「手袋1」ともいう)は、
図1及び
図2に示すように、装着者の手を収容して、フェンシングの練習中や試合中等の競技中において、相手の攻撃時の剣から手を保護する役割を担うものである。手袋1は、装着者の手の指先側から手首側に延びる縦方向Xと、これに直交する横方向Yとを有する縦長の形状をしている。同図に示す手袋1は、右手用の手袋である。左手用のフェンシング用手袋の場合には、右手用の手袋1と左右対称の構造となる。
【0011】
手袋1は、
図1及び
図2に示すように、装着者の指を収容する指袋2を備え、指袋2が、5本の指の形に分枝しており、親指部21、人差指部22、中指部23、薬指部24及び小指部25を有している。このように、手袋1は、装着者の指である親指、人差指、中指、薬指及び小指をそれぞれ収容する親指部21、人差指部22、中指部23、薬指部24及び小指部25がそれぞれ独立した形態となっている。
【0012】
手袋1は、
図1及び
図2に示すように、装着者の掌側に配されるシート状の掌部3と、装着者の手の甲側に配されるシート状の甲部4と、掌部3と甲部4との間に配されるシート状の襠部5とを備えている。手袋1は、掌部3の周縁部と甲部4の周縁部とを、襠部5を介して縫製により縫い付けて形成されている。手袋1を立体的に形成する観点から、襠部5は、手袋1の親指部21に加えて、人差指部22に配されている。
【0013】
甲部4は、
図1に示すように、装着者の手の甲側における5本の指を含む手形に形成されている。甲部4は、1枚のシート状の部材を用いて形成されていてもよく、2枚以上のシート状の部材を用い、それらを例えば手袋1の縦方向Xに繋ぎ合わせて形成されていてもよい。
【0014】
掌部3は、
図2に示すように、装着者の人差指、中指、薬指及び小指の4本の指に対応するシート状の四指領域6と、装着者の親指から母指球に亘って対応するシート状の親指領域7と、四指領域6及び親指領域7の間に位置し、且つ装着者の人差指及び親指の間の位置から装着者の小指球に亘って対応するシート状の中間領域8との少なくとも3つのシート部材を有している。ここで「母指球」とは、
図3に示すように、装着者の掌における親指の付け根よりも手首側において肉が盛り上がっている部分のことを意味する。また「小指球」とは、
図3に示すように、装着者の掌における小指の付け根よりも手首側において肉が盛り上がっている部分のことを意味する。
【0015】
掌部3を形成する前の四指領域6は、
図4に示すように、掌部3における主に指袋2部分に対応しており、装着者の手における人差指、中指、薬指及び小指という4本の指の形に分岐して形成されている。四指領域6は、縦方向Xにおいて、その手首側の下方周縁部6kが指先側に凸の略円弧状に形成されている。
【0016】
掌部3を形成する前の親指領域7は、
図4に示すように、掌部3における主に親指部21側の側部部分に対応しており、装着者の手における親指と母指球とを含む形に形成されている。親指領域7は、母指球に対応する部分が外方に凸の略円弧状に形成されている。
【0017】
掌部3を形成する前の中間領域8は、
図4に示すように、掌部3における四指領域6と親指領域7との間に位置する部分であり、装着者の手における人差指及び親指の間の位置から、該手における小指側の側部部分及び手首側の下方部分を含む形に形成されている。中間領域8は、縦方向Xにおいて、その指先側の上方周縁部8jが手首側に凸の略円弧状に形成されている。
【0018】
図5に示すように、四指領域6の下方周縁部6kと中間領域8の上方周縁部8jとを重ね合わせ、重ね合わせた部分が第1縫製部11により互いに縫い付けられ縫着している。下方周縁部6k及び上方周縁部8jが、互いに反対側に凸の略円弧状に切り欠かれているので、重ね合わせた部分にシートの弛みが少なくなり易く、第1縫製部11が直線状に延び易くなる。更に、中間領域8における親指部21を含む親指領域7側の側縁部8sと親指領域7における中間領域8側の側縁部7sとを重ね合わせ、重ね合わせた部分が第2縫製部12により互いに縫い付けられ縫着している。中間領域8の側縁部8s及び親指領域7の側縁部7sが、同方向に凸の略円弧状に形成されているので、第2縫製部12が略円弧状に延び易くなる。このように四指領域6、中間領域8及び親指領域7が縫い付けられて、全体としてシート状の掌部3が形成されている。
【0019】
第1縫製部11及び第2縫製部12は、1本の連続するミシン縫いで形成されていてもよく、互いに平行に延びる2本以上の連続するミシン縫いで形成されていてもよい。四指領域6の下方周縁部6kと中間領域8の上方周縁部8jとを重ね合わせた部分の幅、又は中間領域8の側縁部8sと親指領域7の側縁部7sとを重ね合わせた部分の幅は、それぞれ、縫製強度の観点と手袋1を装着した際の履き心地の観点から、2mm以上10mm以下であることが好ましく、3mm以上5mm以下であることが更に好ましい。
【0020】
四指領域6の下方周縁部6kと中間領域8の上方周縁部8jとを重ね合わせる順番は、装着者の肌側に、四指領域6及び中間領域8の何れの領域が配されていても良いが、競技中に相手の剣から手を保護する観点から、装着者の肌側に中間領域8が配されていることが好ましい。中間領域8の側縁部8sと親指領域7の側縁部7sとを重ね合わせる順番は、装着者の肌側に、中間領域8及び親指領域7の何れの領域が配されていても良いが、同様な観点から、装着者の肌側に親指領域7が配されていることが好ましい。
【0021】
図6に示すように、手袋1を掌部3側から平面視して、四指領域6を構成する人差指部22及び中指部23の間の底部26と、四指領域6を構成する薬指部24及び小指部25の間の底部27とを結ぶ仮想線ILに対して、仮想線ILの傾きよりも急になるように、第1縫製部11が人差指部22の根元側から斜め下方に直線状に延びている。第1縫製部11の傾きが仮想線ILの傾きよりも急になっているとは、言い換えれば、第1縫製部11の傾き(変化の割合)の絶対値が、仮想線ILの傾き(変化の割合)の絶対値よりも大きくなっていることである。ここで「底部26」とは、手袋1を掌部3側から平面視したときに、人差指部22と中指部23との間の谷における底を意味する。同様に、「底部27」とは、手袋1を掌部3側から平面視したときに、薬指部24と小指部25との間の谷における底を意味する。
【0022】
第1縫製部11が直線状に延びているとは、
図6に示すように手袋1を掌部3側から平面視して、第1縫製部11が一直線に延びていることのみならず、曲線等で延びていることも含む意味である。
【0023】
図6に示すように、手袋1を掌部3側から平面視して、第2縫製部12は、第1縫製部11側に凸の円弧状に延びる部分12aを有している。円弧状に延びる部分12aは、装着者の母指球に沿って延びている。
【0024】
手袋1の掌部3が、斜め下方に直線状に延びる第1縫製部11と、第1縫製部11側に凸の円弧状に延びる部分12aとを有しているので、手袋1の装着者が、
図7(a)及び(b)に示すように、手袋1を介してフェンシングの剣のグリップ10a,10bを握ったときに、掌部3に皺が発生し難く、装着者の掌と剣のグリップ10a,10bとの間に隙間が生じ難くなり、グリップ10a,10bとの一体感が得られ易くなっている。手袋1の掌部3を介して装着者の掌が剣のグリップ10a,10bの形状に沿い易くなり、グリップ10a,10bとの一体感が向上すると、手袋1を介してフェンシングの剣の操作性が向上する。掌部3が第1縫製部11と第2縫製部12とを有しているので、手袋1は、
図7(a)に示すピストル型に形成されたベルギアンスタイルの剣のグリップ10aにも、
図7(b)に示すストレート型に形成されたフレンチスタイルの剣のグリップ10bにも対応することができる。
【0025】
図6に示す手袋1においては、第1縫製部11が装着者の人差指における親指側の根元近傍から装着者の小指球に向かって斜め下方に直線状に延びており、円弧状に延びる部分12aが装着者の母指球に沿って延びている。その為、掌部3を介して装着者の掌が剣のグリップ10a,10bの形状に沿い易く、グリップ10a,10bとの一体感が更に向上するので、フェンシングの剣の操作性が更に向上する。
【0026】
フェンシングの剣の操作性を向上させる観点から、
図6に示すように手袋1を掌部3側から平面視して、第1縫製部11と仮想線ILとがなす鋭角αは、5°以上、60°以下であることが好ましく、20°以上、45°以下であることが更に好ましい。尚、第1縫製部11が曲線等で延びているときには、装着者の人差指における根元側の始点と装着者の小指球側の終点とを結ぶ第2仮想線を引き、該第2仮想線と仮想線ILとのなす鋭角を、鋭角αとする。
【0027】
手袋1の装着者が手袋1を介してフェンシングの剣のグリップ10a,10bを握ったときに、掌部3に皺が発生し難く、グリップ10a,10bとの一体感が得られ易くなる観点から、
図7(a)及び(b)に示すように剣を握ったときに、剣のグリップ10a,10bの延びる方向GLと、第1縫製部11の延びる方向とが略一致していることが好ましい。
【0028】
図6に示すように、手袋1を掌部3側から平面視して、第1縫製部11と円弧状に延びる部分12aとの間隔Wは、装着者の人差指側よりも装着者の小指球側の方が大きくなっている。その為、手袋1の装着者が、手袋1を介してフェンシングの剣のグリップ10a,10bを握ったときに、装着者の掌とグリップ10a,10bとの一体感が更に得られ易くなっている。この効果を一層奏する観点から、間隔Wは、装着者の人差指側から小指球側に向かって、段階的に大きくなっていることが好ましく、漸次大きくなっていることが更に好ましい。「間隔W」とは、第1縫製部11を形成するミシン縫いの位置と、第2縫製部12を形成するミシン縫いの位置との間隔を意味し、ミシン縫いが複数本である場合には、互いに最も近接する第1縫製部11のミシン縫いの位置と、第2縫製部12のミシン縫いの位置との間隔を意味する。
【0029】
特に
図7(b)に示すストレート型に形成されたフレンチスタイルの剣のグリップ10bに対して一体感が得られ易く、フェンシングの剣の操作性を向上させる観点から、
図6に示すように手袋1を掌部3側から平面視して、第1縫製部11と第2縫製部12とは、装着者の人差指側において、互いに平行に延びる部分Pを有していることが好ましい。この効果を一層奏する観点から、該部分Pは、剣を握ったときに、剣のグリップ10bの延びる方向GLと、平行に延びる部分Pの延びる方向とが略一致していることが好ましい。
【0030】
図7(b)に示すフレンチスタイルの剣のグリップ10bに対して一体感が得られ易く、剣の操作性を向上させる観点から、平行に延びる部分Pは、フレンチスタイルの剣のグリップ10bを握ったときに、グリップ10bにおける下方の端部の位置と一致するように形成されていることが好ましい。平行に延びる部分Pは、その延びる方向の長さが、5mm以上40mm以下であることが好ましく、10mm以上25mm以下であることが更に好ましい。平行に延びる部分Pにおいて、第1縫製部11と第2縫製部12との間隔Wは、3mm以上15mm以下であることが好ましく、5mm以上10mm以下であることが更に好ましい。
【0031】
手袋1の形成材料について説明する。
四指領域6、中間領域8及び親指領域7の形成材料としては、同じシート材であってもよく、異なるシート材であってもよい。
図7(a)及び(b)に示すフェンシングの剣のグリップ10a,10bを握ったときのグリップとの一体感が得られ易くなる観点から、四指領域6、中間領域8及び親指領域7のシート材の中で、親指領域7のシート材の剛軟度が最も低いことが好ましい。そして、四指領域6及び中間領域8のシート材の剛軟度は、同じであってもよく、四指領域6のシート材の剛軟度が中間領域8のシート材の剛軟度よりも低くてもよい。フェンシングの剣のグリップ10a,10bを握ったときのグリップとの一体感が得られ易くなる観点から、中間領域8のシート材の剛軟度が四指領域6のシート材の剛軟度よりも低いことが好ましい。即ち、親指領域7のシート材の剛軟度 << 中間領域8のシート材の剛軟度 ≦ 四指領域6というシート材の剛軟度の関係となっていることが最も好ましい。シート材の剛軟度は、JIS L 1096A法の45°カンチレバー法に基づいて測定することができる。測定値は小さいほど、剛軟度が低く、柔らかいことを意味する。四指領域6、中間領域8及び親指領域7のシート材の剛軟度を測定するときの測定サンプルの寸法は、20mm×150mmである。四指領域6、中間領域8及び親指領域7のシート材を手袋1から切り出すときに、前記寸法に切り出せない場合には、幅20mmで且つ長手方向に可能な限り長い寸法に切り出したものを測定サンプルとする。測定サンプルの幅方向は、シート材を構成する繊維の配向方向や、シート材を製造する際の機械方向がわかる場合には、配向方向又は機械方向に一致させることが好ましい。
【0032】
フェンシングの剣のグリップを握ったときに破れ難く耐久性を向上させ、且つ競技中に相手の剣から手を保護する観点から、四指領域6、中間領域8及び親指領域7のシート材の中で、親指領域7のシート材の貫通強さが最も大きいことが好ましい。また、四指領域6及び中間領域8のシート材の貫通強さは、同じであってもよく、四指領域6のシート材の貫通強さが中間領域8のシート材の貫通強さよりも大きくてもよい。競技中に相手の剣から手を保護する観点から、中間領域8のシート材の貫通強さが四指領域6のシート材の貫通強さよりも大きいことが好ましい。即ち、親指領域7のシート材の貫通強さ >> 中間領域8のシート材の貫通強さ ≧ 四指領域6というシート材の貫通強さの関係となっていることが最も好ましい。シート材の貫通強さは、JIS L 8051法に準じ、手袋1から切り出した四指領域6、中間領域8又は親指領域7のシート材に、EN13567準用の試験錘(針)を試験速度1000mm/minで突き刺し、針が貫通するときの貫通強さ(N)を引張り試験機(例えばインストロン社製の品番「3360」)を用いて測定することができる。測定値は大きいほど、貫通強さに優れ、耐久性が向上することを意味する。
【0033】
フェンシングの剣のグリップを握ったときに破れ難く耐久性を向上させ、且つ競技中に相手の剣から手を保護する観点から、親指領域7のシート材の貫通強さは、100N以上であることが好ましく、300N以上であることが更に好ましい。親指領域7におけるシート材の貫通強さの上限は、特に制限されるものではなく、大きければ大きい程好ましいが、800N程度であれば、十分に満足すべき効果が得られる。中間領域8のシート材の貫通強さは、10N以上、120N以下であることが好ましく、25N以上、75N以下であることが更に好ましい。四指領域6のシート材の貫通強さは、10N以上、100N以下であることが好ましく、25N以上、50N以下であることが更に好ましい。
【0034】
掌部3を構成する四指領域6、中間領域8及び親指領域7のシート材としては、天然皮革、合成皮革、合成繊維製の織編物、若しくはニット等が挙げられ、又はこれらのシート材を積層した積層シート等が挙げられる。また、天然皮革、合成皮革、合成繊維製の織編物、又はニットの裏面に合成樹脂のエアーフォームシート、又はウレタンシート等を積層した積層シートが挙げられる。手袋1の耐久性の観点から、四指領域6及び中間領域8のシート材としては、天然皮革又は合成皮革を用いたシートが好ましく用いられる。通気性が良好で柔らかい観点から、親指領域7のシート材としては、合成繊維製の織編物が好ましく用いられる。親指領域7の該織編物を構成する合成繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロプレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維等が挙げられ、柔らかさと耐久性の両立の観点から、ポリアミド繊維が好ましく用いられる。
【0035】
甲部4及び襠部5のシート材としては、天然皮革、合成皮革、合成繊維製の織編物、若しくはニット等が挙げられ、又はこれらのシート材を積層した積層シート等が挙げられる。また、天然皮革、合成皮革、合成繊維製の織編物、又はニットの裏面に合成樹脂のエアーフォームシート、又はウレタンシート等を積層した積層シートが挙げられる。競技中に相手の剣から手を保護する観点から、甲部4のシート材としては、天然皮革又は合成皮革の裏面に合成樹脂のエアーフォームシート又はウレタンシートを積層した積層シートが好ましく用いられる。競技中に相手の剣から手を保護する観点から、襠部5のシート材としては、天然皮革、合成皮革、又はポリアミド繊維製の織編物が好ましく用いられる。
【0036】
フェンシングの剣のグリップを握ったときに破れ難く耐久性を向上させる観点から、第2縫製部12の接合強度が、第1縫製部11の接合強度よりも大きいことが好ましい。破断強度は、手袋1から第1縫製部11又は第2縫製部12を含むように切り出したものを測定サンプルとして求めることができる。具体的に測定サンプルは、その長手方向を手袋1の縦方向Xに一致させ、長手方向の中央に第1縫製部11又は第2縫製部12が位置するように、幅10mmで手袋1から切り出したものとする。この測定サンプルを引張り試験機(例えばインストロン社製の品番「3360」)に取り付けて引っ張ったときの最大破断強度を接合強度とする。測定条件としては、チャック間距離を50mmとし、引張速度を50mm/minとする。
【0037】
第1縫製部11又は第2縫製部12を構成するミシン縫いの縫い目のピッチは、手袋1の耐久性の観点から、3個/10mm以上10個/10mm以下であることが好ましく、4個/10mm以上7個/10mm以下であることが更に好ましい。
【0038】
第2縫製部12の接合強度を第1縫製部11の接合強度よりも大きくする方法としては、例えば、第2縫製部12を構成するミシン縫いの本数を、第1縫製部11を構成するミシン縫いの本数よりも多くしたり、第2縫製部12を構成するミシン縫いの縫い目のピッチを、第1縫製部11を構成するミシン縫いの縫い目のピッチよりも細かくしたりすることが挙げられる。見栄えの観点から、第2縫製部12におけるミシン縫いの縫い目のピッチを第1縫製部11におけるミシン縫いの縫い目のピッチよりも細かくすることが好ましい。
【0039】
第1縫製部11及び第2縫製部12を構成するミシン縫いのミシン糸としては、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ビニロン、レーヨン、ポリプロピレン等の化合繊維、綿、絹、麻、毛等の天然繊維、又はそれらの混紡繊維等が挙げられる。手袋1において、甲部4と襠部5との縫製、掌部3と襠部5との縫製等に用いるミシン糸としても、同様な繊維を用いることができる。
【0040】
以上、本発明の手袋をその好ましい実施形態の手袋1に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
【0041】
例えば上述した本実施形態の手袋1は、掌部3と甲部4との間に襠部5が配されているが、襠部5が配されておらず、掌部3と甲部4とが直接縫製により縫い付けられていてもよい。また、手袋1は、四指領域6、中間領域8及び親指領域7の3つのシート材を縫製により縫い付けて掌部3を形成しているが、掌部3を補強する観点から、3つのシート材に加えて、他のシート材が縫い付けられていてもよい。
【0042】
また、手袋1は、掌部3の周縁部と甲部4の周縁部とを、襠部5を介して縫製により縫い付けて形成されているが、該縫製による部分を補強する観点から、掌部3、甲部4及び襠部5に加えて、別のシート材が縫い付けられていてもよい。具体的には、親指部21から人差指部22に亘る別のシート材が、該縫製による部分上に更に縫い付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 フェンシング用手袋
2 指袋
21 親指部、22 人差指部、23 中指部、24 薬指部、25 小指部
26,27 底部
3 掌部
6 四指領域
7 親指領域
8 中間領域
11 第1縫製部
12 第2縫製部
12a 円弧状に延びる部分
IL 仮想線
GL 剣のグリップの延びる方向