(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ、及びこれを用いた生体物質検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20220608BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20220608BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
G01N27/02 D
G01N33/483 F
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2021500449
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 KR2019008461
(87)【国際公開番号】W WO2020013590
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】10-2018-0080348
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520471841
【氏名又は名称】エックスワイジ プラットホーム インク
【氏名又は名称原語表記】XYZ PLATFORM INC.
【住所又は居所原語表記】254ho, 2F, 10, Yeonmujang 11-gil, Seongdong-gu Seoul 04783 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ファン、キョソン
(72)【発明者】
【氏名】キム、へジン
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/142166(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0034434(KR,A)
【文献】特開2018-009993(JP,A)
【文献】特開2013-257348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0131204(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0079147(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0209299(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0157587(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/251695(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
G01N 33/48 - G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の突出電極が基板上に櫛(Comb)状に配列されている第1のマイクロ電極と;
前記第1のマイクロ電極の各第1の突出電極と交互に配置され、櫛状を有する複数の第2の突出電極が配列されている第2のマイクロ電極と;
前記第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間の空間に形成される導電性材質のマイクロパターンと;
前記第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間の空間に固定され、標的生体物質に特異的に反応する複数の受容体と;
を備える、誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ
であって、
前記第1のマイクロ電極及び第2のマイクロ電極には、誘電泳動力を発生させるための交流電圧が印加され、
前記第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間で測定されたインピーダンス値に基づいて前記標的生体物質の存在有無および濃度の少なくとも一方を算出する、誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ。。
【請求項2】
前記マイクロパターンは、正方形、長方形、および線形のいずれかの形状に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ。
【請求項3】
前記正方形の大きさは、各辺の長さが2.0μm~3.0μmであることを特徴とする、
請求項2に記載の誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ。
【請求項4】
前記長方形の大きさは、一方の辺の長さが2.0μm~3.0μmであり、他方の辺の長さが7.0μm~8.0μmであることを特徴とする、
請求項2に記載の誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ。
【請求項5】
前記線形マイクロパターンの幅は、2.0μm~3.0μmであることを特徴とする、
請求項2に記載の誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ。
【請求項6】
前記誘電泳動力を発生させるための交流電圧の大きさは0.25V~0.35Vであり、周波数は50MHzであることを特徴とする、請求項1に記載の誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ。
【請求項7】
前記標的生体物質はアミロイドβタンパク質を含み、前記受容体はアミロイドβ抗体を含むことを特徴とする、請求項1に記載の誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ。
【請求項8】
請求項1に記載の誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサの第1のマイクロ電極及び第2のマイクロ電極に電圧を印加するステップと;
前記第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間のインピーダンスを測定するステップと;
前記測定されたインピーダンス値に基づいて標的生体物質の存在有無および濃度の少なくとも一方を算出するステップと;
を含む、バイオセンサを用いた生体物質検出方法
であって、
前記第1のマイクロ電極及び第2のマイクロ電極に印加される電圧は、誘電泳動力を発生させるための交流電圧である、バイオセンサを用いた生体物質検出方法。
【請求項9】
電圧の大きさが0.25V~0.35Vであり、周波数が50MHzであることを特徴とする、
請求項8に記載のバイオセンサを用いた生体物質検出方法。
【請求項10】
前記標的生体物質の重量は、4.0kDa~5.0kDaであることを特徴とする、
請求項8に記載のバイオセンサを用いた生体物質検出方法。
【請求項11】
前記標的生体物質は、アミロイドβタンパク質を含むことを特徴とする、
請求項8に記載のバイオセンサを用いた生体物質検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサに係り、さらに詳しくは、マイクロ電極同士の間に標的生体物質と特異的に反応する受容体を形成し、誘電泳動現象による濃縮効果を利用して、標的生体物質と特異的に反応できる確率を高めることにより、センサの感度及び検出幅を向上させることができる、誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ、及びこれを用いた生体物質検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、遺伝子、タンパク質などの様々な生体物質の存在有無及び濃度を電気的な方法により検出するためのバイオセンサが多く開発されている。
【0003】
その例として、櫛形電極(IDE:Interdigitated Electrode)を用いるが、これは、生体物質と特異的結合をする受容体が固定されている領域がジグザグ状で実質的に非常に広いため、生体物質の濃度が低くても良好に測定できるという評価を受けている。
【0004】
図1を参照すると、基本的なIDEセンサは、金属電極で櫛(comb)が両側に重なっている形状をしており、隣接する電極間で発生するインピーダンス変化を測定することで標的を感知する。
【0005】
すなわち、電極間に抗体が固定されており、電場が形成されてインピーダンス成分が決定されるが、この場合、標的分子が抗体に特異的に結合すると、生体バッファ溶液を押し出して標的分子が位置することになり、電極間に形成されている電場に乱れが生じて、インピーダンスの変化を誘導する。
【0006】
このようなインピーダンスの変化量は、標的生体分子の量に応じて決定されるため、インピーダンスの変化量を確認することで、サンプル中の標的生体分子を定量的に分析することができる。
【0007】
一方、上記のようなIDEセンサの感度を改善するために、韓国登録特許第10-1727107号の「誘電体電気泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサ」は、IDEセンサが誘電泳動現象を利用できるようにする技術を開示している。
【0008】
ここで、誘電泳動とは、不均一な交流電場に無極性粒子が存在する場合、粒子に双極子(Dipole)が誘導されることで、電場内で正味の力が発生する現象のことをいう。誘電泳動力は、IDEセンサの電極間の距離や印加電圧の強度を変えることで形成される不均一な電場の大きさを調整することにより増加させることができる。
【0009】
しかしながら、バイオセンサが誘電泳動現象を利用するように構成する場合、誘電泳動効果を得るために印加される電圧の強度が増加すると、生体分子への損傷が発生する可能性が生じる。
【0010】
また、IDEセンサを疾病診断用のヘルスケアセンサとして商用化したり、携帯用に製造したりするなど多方面に応用するときを考えると、誘電泳動効果を得るために電圧の強度を増加させるということは、また別の問題を引き起こす虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国登録特許第1727107号(2017.04.17.公告)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するために案出されたものであり、その目的は、誘電泳動を用いた濃縮効果により、標的生体物質と特異的に反応できる確率を高めることにより、センサの感度及び検出幅をさらに向上させ、また、誘電泳動現象を利用するための電圧の強度を低減できる、誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサを提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、誘電泳動現象を利用するバイオセンサを用いて生体物質を検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサは、複数の第1の突出電極が基板上に櫛(Comb)状に配列されている第1のマイクロ電極と;前記第1のマイクロ電極に形成された各第1の突出電極と交互に配置され、櫛状を有する複数の第2の突出電極が配列されている第2のマイクロ電極と;前記第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間の空間に形成される導電性材質のマイクロパターンと;前記第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間の空間に固定され、標的生体物質に特異的に反応する複数の受容体と;を備えてなる。
を備える
【0015】
前記第1のマイクロ電極及び第2のマイクロ電極には、誘電泳動力を発生させるための交流電圧が印加されてもよい。
【0016】
前記マイクロパターンは、正方形、長方形、および線形のいずれかの形状に形成されてもよい。
【0017】
前記誘電泳動力を発生させるための交流電圧の大きさは0.25V~0.35Vであり、周波数は50MHzであってもよい。
【0018】
本発明に係るバイオセンサを用いた生体物質検出方法は、前記誘電泳動を用いたマイクロ電極バイオセンサの第1のマイクロ電極及び第2のマイクロ電極に電圧を印加するステップと;前記第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間のインピーダンスを測定するステップと;前記測定されたインピーダンス値に基づいて標的生体物質の存在有無および濃度の少なくとも一方を算出するステップと;を含んでなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、誘電泳動を用いた濃縮効果により、標的生体物質と特異的に反応できる確率を高めることが可能であり、これにより、バイオセンサの感度及び検出幅を向上させることができる。
【0020】
サンプル中の標的生体物質を収集することにより、バイオセンサのインピーダンス信号が増加し、これはバイオセンサの感度向上につながり、サンプル中の非特異的結合を効果的に抑制することができるので、血漿や血清などの環境ではより大きな効果を発揮することができる。
【0021】
特に、電極の間にマイクロパターンを使用することにより、マイクロパターンのないバイオセンサに比べてより大きな電場強度を得ることができ、これにより、標的生体物質をより効果的に濃縮することができる。さらに、誘電泳動現象のための電圧の強度を低減して生体分子の損傷を防止することができ、バイオセンサを疾病診断用のヘルスケアセンサとして商用化したり、携帯用に製造したりするなど、多方面に容易に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】IDEセンサの基本原理を説明する例である。
【
図2】本発明に係るバイオセンサの一実施形態である。
【
図4】正と負の電気泳動による粒子の移動状態を説明する例である。
【
図5】正と負の電気泳動による粒子の移動状態を説明する例である。
【
図6】誘電泳動力を用いた標的分子の濃縮現象とIDEセンサのインピーダンス信号の変化を説明する例である。
【
図7】マイクロパターンの有無による誘電泳動現象を説明する例である。
【
図8】本発明のバイオセンサを用いた生体物質検出方法の一実施形態である。
【
図9】標的生体分子の濃縮条件を確立するシミュレーション結果の例である。
【
図10】マイクロ電極に印加された電圧に応じた不均一な交流電場の大きさを説明する例である。
【
図11】実験に使用されたバイオセンサを説明する例である。
【
図13】本発明に係るバイオセンサの実物例である。
【
図14】センサの表面処理方法と蛍光検出法を用いて表面処理を確認した後の写真の例である。
【
図15】生体分子の大きさに応じた誘電泳動電圧条件を示す例である。
【
図16】印加電圧に応じた誘電泳動効果によるインピーダンス変化量を説明する例である。
【
図17】アミロイドβの定量分析に関連した誘電泳動効果を確認した結果の例である。
【
図18】誘電泳動効果によるIDEセンサの感度分析の例である。
【
図19】血漿中のアミロイドβ定量分析に関する例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本願が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本願の実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本願は、種々の態様で実現することが可能であり、後述する実施形態により限定されるものではない。また、図面において、本願を明確に説明するために、説明と関係ない部分は省略する。
【0024】
本願明細書の全般に亘って、ある部分がある構成要素を「備える」としたとき、これは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含んでいてもよいということを意味する。
【0025】
本願明細書の全般に亘って使われる程度の用語「約」、「実質的に」などは言及された意味に固有の製造および物質許容誤差が提示されるとき、その数値でまたはその数値に近い意味で使用され、本願の理解を助けるために正確または絶対的な数値が記載されて開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0026】
第1の、第2のなどの用語は、様々な構成要素を説明するために使用できるが、前記構成要素は、前記用語により限定されものではない。前記用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別するための目的のみで使用できる。
【0027】
図2は、本発明に係るバイオセンサ100の一実施形態を示すものであり、
図2(b)は、
図2(a)の斜線部分を拡大して示すものである。
【0028】
バイオセンサ100は、第1のマイクロ電極110と、第2のマイクロ電極120と、マイクロパターン130と、複数の受容体と、を備えてなる。
【0029】
図2(a)に示すように、第1のマイクロ電極110は、複数の第1の突出電極が基板上に櫛(Comb)状に配列されるように構成され、第2のマイクロ電極120も、櫛状を有する複数の第2の突出電極が配列されるように構成される。このとき、第1のマイクロ電極110に形成された各第1の突出電極と、第2のマイクロ電極120に形成された各第2の突出電極とは、互いに交互に配置される構造をなす。
【0030】
第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間は、反応領域140(Reaction Region)を形成する。
【0031】
マイクロパターン130は、
図2(b)に示すように、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間に形成され、導電性材質からなり、様々な形状や形態に構成可能である。
【0032】
マイクロパターン130は、
図3に示すように、正方形、長方形、または線形で構成されてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0033】
図3(a)は、正方形マイクロパターン131が、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間の中間部分において電極に沿って断続的に形成された例を示すものであり、
図3(b)は、長方形マイクロパターン132が、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間の中間部分において電極に沿って断続的に形成された例を示すものである。
【0034】
また、
図3(c)は、線形マイクロパターン133が、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間の中間部分において電極に沿って連続的に形成された例を示すものである。
【0035】
正方形マイクロパターン131、長方形マイクロパターン132、線形マイクロパターン133の大きさは、様々に構成可能である。
【0036】
具体的な例として、正方形マイクロパターン131は、一辺が約2.5μmであってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、正方形マイクロパターン131は、一辺が2.0μm~3.0μmであってもよい。
【0037】
また、長方形マイクロパターン132は、一方の辺が約2.5μmであり、他方の辺が約7.5μmであってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、長方形マイクロパターン132は、一方の辺が2.0μm~3.0μmであり、他方の辺が7.0μm~8.0μmであってもよい。
【0038】
線形マイクロパターン133の幅は、2.5μmであってもよいが、これに限定されるものではない。例えば、線形マイクロパターン133の幅は、2.0μm~3.0μmであってもよい。
【0039】
複数の受容体は、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間に固定され、標的生体物質に特異的に反応する役割を果たす。
【0040】
受容体、およびこの受容体が特異的に反応する標的生体物質は、多様に構成されてもよい。例えば、バイオセンサ100によって検出される標的生体物質は、アミロイドβタンパク質であってもよく、この場合、受容体は、アミロイドβ抗体、アプタマー、ペプチドなどから構成されてもよい。
【0041】
標的生体物質の反応を用いたバイオセンサのインピーダンス検出特性を調べてみると、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間のインピーダンスは、以下の式(1)で表せる。
【0042】
(数1)
Z=R+jX=R+j(XL-XC)=R-jXC=R-j(1/wC)...(1)
【0043】
ここで、Zはインピーダンス(Impedance)、Rは抵抗(Resistance)、Xはリアクタンス(Reactance)、Cは静電容量(Capacitance)、wは角周波数(Angular Frequency)である。リアクタンスXは、インダクタ成分XLとコンデンサ成分XCとに分けられる。第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120は電気的に直接接続されていないので、インダクタ成分XLは無視され、コンデンサ成分XCのみが存在するといえる。
【0044】
第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間に複数の受容体が固定配置されている場合、複数の受容体を挟んで第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120が配置された水平方向にほとんどの電場とインピーダンスの変化が起こる。このような抵抗とリアクタンスの変化量を確認して標的生体物質の量を検出することができる。
【0045】
すなわち、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間の空間に複数の受容体を固定し、標的生体物質が受容体に反応したときの、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120とが対向する空間のインピーダンス変化を確認すると、標的生体物質の定量分析が可能になる。
【0046】
一方、第1のマイクロ電極110及び第2のマイクロ電極120には、誘電泳動力を発生させるための交流電圧が印加される。
【0047】
図4を参照すると、電場の勾配が均一である場合とは異なり、不均一な電場内では、一定の方向への力が存在する。誘電泳動(Dielectrophoresis:DEP)は、不均一な交流電場に無極性粒子が存在する場合、粒子に双極子が誘導されることで、電場内で正味の力(Net Forces)が発生する現象と定義される。
【0048】
ここで生成される正味の力は、誘電泳動力(Dielectrophoresis Forces:FDEF)として定義されてもよい。
【0049】
すなわち、バイオセンサ100に交流電圧が印加されると、電気的に不均一な交流電場が形成され、この電場内に存在する無極性粒子が双極性を持つようになり、一定の方向の誘電泳動力の影響を受けることになる。
【0050】
標的生体物質をなす各粒子に誘導される誘電泳動力の大きさと方向は、印加された電場の電圧、周波数、粒子と媒質(Medium:媒体)の導電率(Conductivity、σ)、誘電率(Permittivity、ε)などの誘電特性(Dielectric Properties)によって変わる。
【0051】
したがって、球状粒子が誘電泳動によって受ける力は、以下の式(2)で表せる。
【0052】
【0053】
ここで、εmは媒質の誘電率であり、rは粒子の半径であり、Re[k(ω)]はクラウジウス・モソッティ因子(Clausius Mossotti factor)の実数部であり、Ersmは電場の二乗平均平方根(Root-Mean Square)である。このとき、k(ω)は、粒子の相対的な誘電率(ε*
p)及び媒質の相対的な誘電率(ε*
m)に基づいて、以下の式(3)によって値が決定され、この値によって粒子の極性が決定される。
【0054】
【0055】
k(ω)値が0よりも大きい場合、粒子は、電場勾配の大きい方向に力を受けて移動する。
【0056】
逆に、k(ω)値が0よりも小さい場合、粒子は、形成される電場の形態に応じて、電場勾配の小さい方向に力を受けて移動する。このような現象を、それぞれ正(Positive)の誘電泳動および負(Negative)の誘電泳動という。
【0057】
したがって、誘電泳動を用いて、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間に電場により誘電泳動力が発生するように電圧を印加すると、第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間に形成される電場の形態に応じて、電場勾配の大きい方向または電場勾配の小さい方向に、粒子を移動させることができる。
【0058】
図5は、マイクロ電極の正・負泳動による粒子の移動状態を示すものであり、第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間に電圧が印加されると、第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間には、
図5(a)に示すように、不均一な電場が形成さされて誘電泳動力を引き起こす。
【0059】
図5(b)は、発生した正(+)の誘電泳動力により、粒子が、形成される電場の形態に応じて、電場勾配の大きい方向(電極の表面部分)に移動する現象を示し、これを粒子の集束(Focusing)という。
【0060】
逆に、
図5(c)は、負(-)の誘電泳動力により、粒子が、形成される電場の形態に応じて、電場勾配の小さい方向(電極間部分)に移動する現象を示し、粒子のトラッピング(Trapping)という。
【0061】
このように、第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間の不均一な電場の形態おおびその勾配に応じて、負の誘電泳動が発生するように第1および第2のマイクロ電極に電圧が印加されると、誘電泳動力により粒子が移動及び濃縮できる。
【0062】
特に、負の誘電泳動力により、標的生体物質を、形成される電場の形態に応じて、電場勾配の小さい方向(電極間部分)に移動及び濃縮させて反応させることができる。
【0063】
すなわち、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間に、移動する生体物質を検出するために、標的生体物質(Target Bio Molecules)に対して特異的に結合(Specific Binding)する受容体を固定し、標的生体物質が受容体に反応したときのインピーダンス変化を確認することにより、標的生体物質を定量的に分析することができる。
【0064】
図6は、誘電泳動力を用いて、受容体が形成された箇所に標的生体物質を収集する生体分子濃縮効果(負のK(ω)値)を誘導することにより、バイオセンサのインピーダンス変化量が増加する現象を示すものである。
【0065】
サンプル中の標的生体分子を収集することにより、誘電泳動力が作用していない場合に比べて、インピーダンス信号が増加し、これはバイオセンサ100の感度向上につながる。また、サンプル中の非特異的結合を効果的に抑制することができるので、血漿や血清などの環境でより大きな効果を発揮することができる。
【0066】
図7(a)は、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間にマイクロパターンのないバイオセンサの例を示すものであり、
図7(b)は、第1のマイクロ電極110と第2のマイクロ電極120との間にマイクロパターン130のあるバイオセンサの例を示すものである。
【0067】
図7(b)に示すように、不均一な交流電場が、バイオセンサ100の表面だけでなくマイクロパターン130の表面にも形成されて、より大きな誘電泳動力が発生する。
【0068】
誘電泳動力は、バイオセンサ内の電極間の距離や印加電圧の強度を変えることで形成される不均一な電場の大きさを調整することにより増加させることができる。
【0069】
特に、生体分子を濃縮するために必要な電圧を下げることにより、誘電泳動効果のために印加される電圧による生体分子の損傷を防ぐだけでなく、今後、バイオセンサが疾病診断用のヘルスケアセンサとして商用化されるとき、バッテリーや通信要素などとの組み合わせをさらに容易にすることができる。
【0070】
図8を参照して、本発明に係るバイオセンサを用いた生体物質検出方法を説明する。
【0071】
まず、バイオセンサの各マイクロ電極に、誘電泳動力を発生させるための電圧を印加する(S210)。ここで、バイオセンサとは、上記の各実施形態のように、第1のマイクロ電極と第2のマイクロ電極との間に形成されたマイクロパターンのあるバイオセンサ100を指す。
【0072】
ステップS210で印加される電圧は、誘電泳動力を発生させるための交流電圧であり、約0.3Vであってもよく、周波数は約50MHzであってもよいが、これらに限定されるものではない。例えば、誘電泳動力を発生させるための交流電圧は0.25V~0.35であってもよい。
【0073】
ステップS210で交流電圧が印加されると、誘電泳動力により、標的生体物質は、形成される電場の形態に応じて、電場勾配の小さい方向(各電極間部分)に移動し、電極の間に濃縮される。
【0074】
次に、各電極間のインピーダンスを測定する(S220)。
【0075】
次いで、ステップS220で測定されたインピーダンス値に基づいて、標的生体物質の存在有無や濃度などを算出する(S230)。
【0076】
ステップS230において、インピーダンス値に基づいて標的生体物質の存在有無やその濃度などを算出する方法は、様々に構成可能である。
【0077】
本発明により検出される標的生体物質は、様々な種類のものであり得、特に、約4.5kDaの重量を有してもよいが、これに限定されるものではない。例えば、本発明により検出される標的生体物質の重量は、4.0kDa~5.0kDaであってもよい。ここで、約4.5kDaの重量を有する生体物質の例としては、アミロイドβタンパク質が挙げられる。
【0078】
一方、各電極間にアミロイドβを蓄積するための位置条件は、印加電圧によって決定されてもよい。
【0079】
図9は、各電極間にマイクロパターンの存在しないIDEセンサの例であり、アミロイドβの大きさと同様の約4.5kDaの生体物質は、50MHz、0.5Vを有する交流信号が印加されるとき、電極間の中央に位置することが予想される。
【0080】
本発明のバイオセンサは、前記アミロイドβタンパク質よりも重いタンパク質または軽いタンパク質を検出するために用いられることはもとより、検出するためのタンパク質の重量に応じて、電圧条件を変えて調整することができる。
【0081】
図10は、マイクロパターンの存在有無に応じて、印加電圧によって形成される不均一な交流電場の大きさを示すものである。
【0082】
図9から予想されるように、マイクロパターンのないバイオセンサでは、各電極に印加される電圧が0.5Vであるとき、標的生体物質(例えば、アミロイドβ)が電極間の中央に位置し、このときの電場の強度が示されている。
【0083】
一方、マイクロパターンのあるバイオセンサでは、電極間の間隔が10μmでより広くなったにもかかわらず、同じ印加電圧で5μmの電極幅を有するマイクロパターンのないバイオセンサよりも大きな電場が形成されることがわかる。
【0084】
ここで、本発明に係るバイオセンサ100に関連する実験例について説明する。本実験は、血清中のアミロイドβを検出するための定量分析を行うことにより、バイオセンサの性能向上の可能性を確認するためのものである。
【0085】
このために、マイクロパターンを有するバイオセンサ100内にアミロイドβを濃縮するための最適の電圧条件を確立した。
【0086】
バッチプロセス(Batch Process)が可能なMEMS(Micro Electro Mechanical System:マイクロエレクトロメカニカルシステム)工程法を用いてバイオセンサを製造し、抗体を固定するためのセンサ表面活性化を行った。様々なマイクロパターン構造を有するバイオセンサを用いて、1×PBSバッファ中のアミロイドβの定量分析によりバイオセンサの感度を比較した後、最適化されたバイオセンサを用いて、血清中のアミロイドβを定量分析した。
【0087】
(1)マイクロパターンのあるIDEマイクロ電極センサの製造
図11に示すように、マイクロパターンの構造によるバイオセンサの性能を確認するために、3つの構造のマイクロパターンをデザインした。
【0088】
図11には、マイクロパターンのないバイオセンサ(Original Deviceとして表示する)及びマイクロパターンのあるバイオセンサ(Type#1~3)の構造の模式図と、電極の厚さ、幅、長さ、および電極の数が示されている。
【0089】
マイクロパターン130は、一辺2.5μmの正方形構造、一方の辺2.5μm、他方の辺7.5μmの長方形構造、幅2.5μmの線形構造でそれぞれ製造された。Type#1は、正方形マイクロパターンを有するバイオセンサを示し、Type#2は、長方形マイクロパターンを有するバイオセンサを示し、Type#3は、線形マイクロパターンを有するバイオセンサを示す。
【0090】
図12に示すように、バイオセンサは、MEM工程を用いて製造された。酸化シリコン膜(SiO
2)が蒸着されたシリコン(Si)ウエハに、厚さ150nmを有するPt(Platinum)膜をスパッタリング法で蒸着した(a)(b)。次いで、白金薄膜の蒸着後、フォトリソグラフィプロセスを経て製造されたマスクを用いてパターニングし(c)、ドライエッチング法でパターンを完成させた(d)。
【0091】
図13は、製造されたバイオセンサの実物例であり、同じサンプルの分析時に発生する可能性のあるエラーを最小限に抑えるために、6つのバイオセンサがユニットチップ(Unit Chip)に形成されていることを示す。
【0092】
MEMS工程の特性上、マスク製造により、1つのチップに多数のIDEセンサを形成する集積化が容易であり、1つのチップから多数のタンパク質を分析するための多重分析も可能になる。
【0093】
(2)抗体固定化によるセンサ表面活性化
図14は、抗体固定化による表面処理方法の模式図を示し、表面処理後に抗体が固定化されたバイオセンサの表面を示すものである。同図に示すように、各マイクロ電極の間に「-OH」結合基が活性化されたSiO
2表面に自己組織化単分子層を形成するために、気相(Vapour Phase)のAPMEMSを用いており、自己組織化単分子層を形成した後、抗体を固定するためのリンカー(Linker)として「EDC/NHs」を使用した。
【0094】
円の内側と外側の明るさの違いにより抗体が固定化されることが確認される。また、円の外側の明るさが全体的に均一であり、これにより抗体が表面処理領域全体に均等に固定化されることが確認できる。
【0095】
(3)マイクロパターンを有するバイオセンサの生体分子濃縮の可能性確認
マイクロパターンを有するバイオセンサの性能を評価するために、表面活性化条件を適用し、誘電泳動力の効果を確認することをまず実行しなければならないので、誘電泳動効果が現れる最適の条件を確立し、これを用いて定量分析する順序で実験を行った。
【0096】
このために、重量約4.5kDaのアミロイドβの特性を確認し、誘電泳動効果を発生させるための電圧条件をシミュレーションで確認した。
【0097】
図15は、生体分子の大きさに応じて、各マイクロ電極の間で生体物質を収集するための誘電泳動電圧条件を示している。同図に示すように、マイクロパターンのあるバイオセンサの場合、アミロイドβが電極の間に濃縮されるためには、約0.2V付近で誘電泳動力が作用すると推定される。
【0098】
したがって、その周辺電圧である0.1、0.2、0.3、0.5、1.0Vの5つの条件下でアミロイドβが濃縮されるか否かを確認した。確認実験では、同じプロトコルで抗体をバイオセンサに固定し、10pg/mLのアミロイドβタンパク質を反応させながら、各条件に対応する誘電泳動電圧及び周波数条件を適用することで効果を確認した。周波数は、50MHzを同様に印加した。
【0099】
図16に示すように、0.3Vの電圧を印加したときにインピーダンス変化が最大になることが確認され、この条件を定量分析時の印加信号条件として活用した。最適化された誘電泳動電圧の大きさは、5μmの電極間距離を有するIDEセンサ(マイクロパターンのないバイオセンサ)で使用された0.5Vよりも約50%小さいことが確認された。
【0100】
(4)生体分子定量分析によるセンサ構造別感度評価
確立された誘電泳動電圧条件を用いてアミロイドβタンパク質を定量分析し、100fg/mLから100pg/mLに濃度を10倍に増加させたアミロイドβサンプルを、1×PBSに溶解して準備した。
【0101】
分析手順は、バッファ内の信号安定化、反応および誘電泳動のための信号印加、ウォッシング及び信号安定化の3つのステップで行われた。
【0102】
図17に示すように、誘電泳動効果を用いて各電極間でアミロイドβタンパク質を集めた場合、マイクロパターンのないIDEセンサでは、インピーダンスが、アミロイドβタンパク質の濃度に応じて約3~5%変化した。
【0103】
一方、マイクロパターンのあるバイオセンサでは、マイクロパターンの構造に関係なく、全体のインピーダンスの変化値が0.5%以上増加した。すなわち、インピーダンスは、アミロイドβタンパク質の濃度に応じて約3.5~5.5%変化した。
【0104】
図18は、誘電泳動効果によるバイオセンサの感度(定量分析の傾き、dZ/Conc.)を示したものであり、各バイオセンサのタイプ別に誘電泳動現象を用いたか否かによる感度を比較したものである。
【0105】
マイクロパターンのないバイオセンサ(IDT社製)では、誘電泳動の効果により、感度が0.146±0.005から0.545±0.049に増加した。
【0106】
一方、マイクロパターンが形成されたバイオセンサでは、マイクロパターンの構造に応じて、Type#1(正方形パターン)の場合、感度が0.337±0.043から0.724±0.027に増加し、Type#2(長方形パターン)の場合、感度が0.281±0.083から0.731±0.033に増加し、Type#3(線形パターン)の場合、感度が0.337±0.031から0.757±0.051に増加したことが確認された。
【0107】
これにより、マイクロパターンが形成されたIDEセンサが、誘電泳動の効果により、マイクロパターンのないIDEセンサよりも高い感度を示すことが分かる。
【0108】
本実験の各結果は、PBSバッファ中の環境で測定されたものであり、最適化されたバイオセンサの構造は、線形マイクロパターンを有するType#3であり、このバイオセンサでは、感度が0.757±0.051であり、検出限界が100fg/mLであり、検出区間(ダイナミックレンジ)が100fg/mL~100pg/mLであることが確認された。
【0109】
(5)標準血漿環境における生体分子の定量分析評価
最適化された誘電泳動効果に基づくアミロイドβ定量分析センサを用いて、血漿中のアミロイドβの定量分析を実施し、ここに使用されたバイオセンサのタイプは、Type#3(線形マイクロパターンを用いたセンサ)である。
【0110】
血漿中のアミロイドβの定量分析のために、濃度を100fg/mLから100pg/mLに10倍に増加させたアミロイドβサンプルを血漿に溶かして準備した。
【0111】
分析法では、前述した1×PBS中でのアミロイドβの分析プロセスをそのまま使用した。分析の結果、
図19に示すように、最適化されたバイオセンサを用いて血漿中のアミロイドβを定量分析した場合、アミロイドβによるインピーダンスの変化が約5.5~7.5%であることが確認された。
【0112】
本実験による血漿中のアミロイドβの分析では、最適化されたバイオセンサの感度が0.628±0.032、検出限界が100fg/mL、検出区間が100fg/mL~100pg/mLであることが確認された。
【0113】
血漿中のアミロイドβ分析時のセンサの感度は、PBS中での分析時に確認された感度の約83%であり、これは、血漿中に存在する様々な生体物質による感度の低下であると推定されているが、従来の検出技術よりもはるかに優れた性能を示すので、実際のサンプル中のバイオマーカーの検出に有効に利用できる。
【0114】
前述した本願の説明は例示のためのものであり、本願が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本願の技術的思想や必須特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形可能であるということが理解できるであろう。
【0115】
よって、以上で記述した実施形態は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないことを理解しなければならない。例えば、単一型に説明されている各構成要素は分散して実施してもよく、同様に、分散して説明されている構成要素も結合された形態で実施してもよい。
【0116】
本願の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導出される全ての変更または変形された形態が本願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0117】
100 バイオセンサ
110 第1のマイクロ電極
120 第2のマイクロ電極
130 マイクロパターン