(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】手裂き可能な吸着テープ
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20220608BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220608BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20220608BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20220608BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220608BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20220608BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/00 101
C08G18/62 016
C08G18/10
C09J7/38
C09J7/22
C09J183/04
(21)【出願番号】P 2018142690
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆史
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-097173(JP,A)
【文献】特開2016-033175(JP,A)
【文献】特開2007-136985(JP,A)
【文献】特開2015-140375(JP,A)
【文献】特開2017-197749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08G18/00-18/87
71/00-71/04
C09J7/00-7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂層に吸着層を直接積層してなる吸着テープであって、前記樹脂層が、水酸基含有アクリル樹脂と、1分子中にイソシアネート基を2基以上含有する硬化剤を熱により硬化してなるアクリル系樹脂層からなり、前記硬化剤中にアダクト骨格のイソシアネート系化合物をアクリル系樹脂層全体の4.5~30.0重量%含有し、
且つ、前記樹脂層中における水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基と、硬化剤中のイソシアネート基の比率が、イソシアネート基/水酸基=0.25~3.20であり、前記吸着層が付加反応型シリコーン樹脂からなることを特徴とする吸着テープ。
【請求項2】
前記水酸基含有アクリル樹脂が、アクリルポリオールであることを特徴とする
請求項1に記載の吸着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑な被着体に貼り付けたり、取り外しが可能で、基材と吸着層の密着力が十分である吸着テープに関するもので、より詳細には、切り込み等のきっかけがなくても手でまっすぐ裂くことが可能な吸着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムやシート等を被着体に固定する場合に、基材の一方の面に粘着剤層を設けた粘着テープが使用されている。これらは紙またはプラスチック製のコアに巻かれた状態で供給され、一般的には前記テープを回転可能に保持する機構と、巻き出したテープをカットするための歯を設けた、いわゆるテープディスペンサーに取り付けられた状態で、またはテープ単独で用いられている。
【0003】
前記粘着テープは、必要な長さに切断されて用いられるが、通常はテープディスペンサーに付属するカット用の歯を用いて、または工具や器具を用いて切断したり、直接手で切断して使用されている。テープディスペンサーの歯は、一般には安全性の点から鋸歯状の薄い金属板やプラスチック構造物でできており、ナイフの刃のような切断性能はない。一般の粘着テープは、このようなテープディスペンサーの歯や、手だけでも切断できるような易裂性をもっている。
【0004】
粘着テープを用いる用途のうち、仮止めを行う用途においては、一度貼り付けた粘着テープを取り外したり、再度使用したいという要求もある。しかしながら被着体からの取り外しを考慮していない一般的な粘着テープは、被着体からテープを取り外す際に粘着剤が被着体に残る、いわゆる糊残りが発生したり、被着体を破損してしまうことがあり、このような用途には不向きである。
【0005】
被着体に貼り付けたテープを取り外したり、再度使用することを目的としたものとしては、基材の一方の面に付加反応型シリコーン樹脂からなる吸着層を設けた、いわゆる吸着テープが存在する。このような吸着テープは被着体から糊残りなく、かつ被着体を破損することなく取り外することができ、また取り外したテープを再度使用することも可能であるので前記の仮止め用途に適している。
【0006】
しかしながら、付加反応型シリコーン樹脂は、その製造工程において付加反応を行うために加熱工程が必須であり、その条件としては、例えば150℃での加熱が必要である。前記の粘着テープには、基材として易裂性の点からセロハンやポリプロピレンのフィルムが用いられているが、これらの易裂性をもつ基材は耐熱性が低く、前記の加熱条件では収縮したり、軟化、溶解したりするために付加反応型シリコーン樹脂を吸着層とする吸着テープの基材としては使用できない。
【0007】
前記付加反応における耐熱性の点から、前記吸着テープの基材としてはポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系フィルムが良好に用いられているが、これらのポリエステル系フィルムは機械的な強度が高く、通常の吸着テープに用いられる厚さ、例えば25~100μmでは、前記テープディスペンサーの歯や、手などでの切断は困難である。切断が容易になる厚さまで基材を薄くすると、テープの取り扱いが困難になる。
【0008】
前記の易裂性と耐熱性の要求を同時にみたす基材としては、水酸基含有アクリル樹脂をイソシアネート系化合物よりなる硬化剤で硬化したアクリル系樹脂層からなる基材がある。このようなアクリル系樹脂層は耐熱性が良好であり(特許文献1参照)、かつこの樹脂をもって作製した基材は易裂性を有している。(特許文献2参照)このため前記付加反応型シリコーン樹脂からなる吸着層を設けた吸着テープの基材として適当であるが、本発明者らが前記アクリル系樹脂層を基材とし、付加反応型シリコーン樹脂からなる吸着層を設けた吸着テープを作製して手で切断する実験を行ったところ、破断部分がまっすぐ切れず、基材が塑性変形する場合があることが判明した。また、作製した基材が白濁する場合や、基材上に設置した前記吸着層が基材から容易に剥離する場合があることも判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-14945号公報
【文献】特開2001-290426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、被着体に、貼り付けたり、取り外しが可能で、かつ容易に手で裂くことが可能で透明度が高く、基材と吸着層が十分な密着力を持つ吸着テープを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、水酸基含有アクリル樹脂とイソシアネート系化合物よりなる硬化剤を熱硬化してなるアクリル系樹脂層を基材とし、前記イソシアネート系化合物中のアダクト骨格をもつイソシアネート系化合物の含有量を規定することで、前記基材に吸着層を設けた吸着テープを手で切断した際に、まっすぐ切断でき、かつ基材が白濁しないことを見出した。さらに前記水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基(OH基)と、前記硬化剤中のイソシアネート基(NCO基)の比率を特定の値とすることで、前記アクリル系樹脂層と設置した前記吸着層との十分な密着力が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
第1発明は、少なくとも樹脂層に吸着層を直接積層してなる吸着テープであって、前記樹脂層が、水酸基含有アクリル樹脂と、1分子中にイソシアネート基を2基以上含有する硬化剤を熱により硬化してなるアクリル系樹脂層からなり、前記硬化剤中にアダクト骨格のイソシアネート系化合物をアクリル系樹脂層全体の4.5~30.0重量%含有し、且つ、前記樹脂層中における水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基と、硬化剤中のイソシアネート基の比率が、イソシアネート基/水酸基=0.25~3.20であり、前記吸着層が付加反応型シリコーン樹脂からなることを特徴とする吸着テープである。
【0013】
第2発明は、前記水酸基含有アクリル樹脂が、アクリルポリオールであることを特徴とする第1発明に記載の吸着テープである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の吸着テープは、水酸基含有アクリル樹脂とイソシアネート系化合物からなる硬化剤を熱硬化してなるアクリル系樹脂層を基材として、吸着層を設けた吸着テープにおいて、前記硬化剤中のアダクト骨格を持つイソシアネート系化合物の量を規定することで、テープディスペンサーの歯や、手で容易に切断することができ、かつ透明な吸着テープが得られ、さらに前記樹脂層中の水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基と、前記硬化剤中のイソシアネート基の比率を特定の値とすることで、前記アクリル系樹脂層と積層した前記吸着層との密着力が向上するものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の吸着テープを、その構成要素に基づいて、さらに詳しく説明する。
【0016】
(全体構成)
本発明の吸着テープは、水酸基含有アクリル樹脂と硬化剤を熱硬化してなるアクリル系樹脂層を基材とし、前記樹脂層に吸着層を直接積層してなる吸着テープである。
【0017】
(アクリル系樹脂層)
本発明の吸着テープの構成要素のうち、基材となるアクリル系樹脂層は、少なくとも水酸基含有アクリル樹脂と硬化剤を熱で硬化させてなる樹脂層である。
【0018】
(水酸基含有アクリル樹脂)
本発明に使用可能な水酸基含有アクリル樹脂としては、アクリルポリオールが良好に使用することができる。また、前記水酸基含有アクリル樹脂は1種類だけでなく2種類以上を混合して使用しても良い。
【0019】
前記アクリルポリオールとしては、例えば、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル(以下(メタ)アクリル酸エステルという)と、少なくとも分子内に1個以上の水酸基を有するアクリル酸ヒドロキシ化合物及び/又はメタクリル酸ヒドロキシ化合物(以下(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物という)を共重合させたものが用いられる。
【0020】
((メタ)アクリル酸エステル)
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、炭素数1~20のアルキルエステルを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリル酸の脂環属アルコールとのエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジルのような(メタ)アクリル酸アリールエステルを挙げることができる。このような(メタ)アクリル酸エステルは、単独又は2種類以上組み合わせたものを使用しても良い。
【0021】
((メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物)
(メタ)アクリル酸ヒドロキシ化合物の具体例としては、硬化剤と反応する水酸基を分子内に1個以上含有しており、具体的には、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどのアクリル酸ヒドロキシ化合物が挙げられる。また、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレートなどのメタクリル酸ヒドロキシ化合物が挙げられる。これらアクリル酸ヒドロキシ化合物やメタクリル酸ヒドロキシ化合物は、単独、又は2種以上を組み合わせたものを使用することができる。
【0022】
(硬化剤)
本発明のアクリル系樹脂層の硬化に使用可能な硬化剤は、前記水酸基含有アクリル樹脂を熱硬化できるものを用いる。熱硬化できる硬化剤としては、硬化後の樹脂層の柔軟性が得られることからイソシアネート系化合物が好適である。
【0023】
前記イソシアネート系化合物の硬化剤としては、前記水酸基含有アクリル樹脂中の水酸基とイソシアネート系化合物中のNCO基を熱による付加重合にて硬化させる必要性があるため、イソシアネート系化合物1分子中にNCO基を2つ以上含むものが好適に用いられる。例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、または1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4‘-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、1,2-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルネンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。なかでも脂肪族、および脂環族ジイソシアネートが、無黄変型であることや樹脂層の適度な柔軟性が得られやすい点で好適に用いられ、特にヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好適である。なお、イソシアネート系化合物の種類は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0024】
また、前記イソシアネート系化合物としてはアダクト骨格をもつイソシアネート系化合物の含有が必須である。アダクト骨格を持つイソシアネート系化合物としては、前記のジイソシアネート3分子が3官能のアルコール(トリオール)、例えばトリメチロールプロパンやグリセリンに付加した形のものを用いることができる。
【0025】
前記のアダクト骨格をもつイソシアネート系化合物の含有量は、アクリル系樹脂層全体の4.5~30重量%が好適である。含有量が4.5重量%未満であると、吸着テープを手で切断した際にまっすぐに切断することが困難になる。また、含有量が30.0重量%を超えると、水酸基含有アクリル樹脂との相溶性が悪くなり、アクリル系樹脂層が白濁する。
【0026】
本発明において、硬化剤としてはアダクト骨格をもつイソシアネート系化合物の1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。2種以上を併用する場合は、同じ系統の硬化剤を2種以上(例えばアダクト骨格のイソシアネート系化合物を2種)組み合わせてもよいし、異なる系統の硬化剤をそれぞれ1種以上(例えば、アダクト骨格のイソシアネート系化合物を1種とイソシアヌレート骨格のイソシアネート系化合物を一種)組み合わせても構わない。
【0027】
本発明の基材として用いられるアクリル系樹脂層の厚みは、5μm~200μmが好適で
あり、10~150μmがより好適である。樹脂層の厚みが5μm未満では、吸着フィル
ムとしての強度が不足し、情報表示画面等の被着体に貼り付けたり、取り外したりする際
に破損する場合がある。200μmを超えると、基材としての柔軟性が失われてしまい、
基材に吸着層を積層する際の加工が困難になる。
【0028】
本発明において、前記アクリル系樹脂層中における水酸基含有アクリル系樹脂中の水酸基と、硬化剤中のイソシアネート基の比率は、イソシアネート基/水酸基=0.25~3.20であることが好適である。この範囲内においては硬化後のアクリル系樹脂層よりなる基材の強度が十分であり、かつ未反応の水酸基が樹脂層表面に残存する為、吸着層中に水酸基と反応するSiH基を持たせることで、これらの官能基と樹脂層中の水酸基が反応して結合することが可能となり、樹脂層と吸着層の十分な密着力を得ることができる。前記比率が0.25未満だと、硬化が不十分となり、樹脂層強度が不足する。また、基材としての柔軟性が劣り割れやすくなるので好ましくない。前記比率が3.20を超えると樹脂層表面に残存する水酸基の量が少なくなり、前記の吸着層との十分な密着力が得られない。
【0029】
本発明の基材となるアクリル系樹脂層には、目的に応じて各種の添加剤を含有してもよい。例えば、耐候性の向上を目的とした紫外線吸収剤や、着色を目的とした顔料、染料等の着色剤、表面形状に凹凸を与える目的での無機、有機の粒子等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0030】
(吸着層)
本発明の吸着層は被着体に貼り付けたり、取り外しが可能なものであり、天然、合成ゴムやシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂や、これらの個々の樹脂を硬化剤で硬化したものが使用可能であるが、水酸基と反応可能な官能基を持たせることが可能で、柔軟性がある点から付加反応型のシリコーン樹脂が特に好適に使用可能である。
【0031】
本発明の吸着層に用いる前記付加反応型のシリコーン樹脂としては、1分子中に2個以上のビニル基を有するポリオルガノシロキサンと硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応により熱硬化させてなるものが好適に用いられる。前記ポリオルガノシロキサンと前記SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの比率を特定の値とすることで、吸着層として好適であり、かつ吸着層中にSiH基を有するシリコーン樹脂からなる吸着層を得ることができる。この吸着層中のSiH基と、前記アクリル系樹脂層よりなる基材フィルムの表面に残存する水酸基が反応し結合することで基材フィルムと吸着層との十分な密着力が得られる。
【0032】
以下にシリコーン樹脂を使用した吸着層について、更に詳しく説明する。
【0033】
(シリコーン樹脂吸着層)
本発明の吸着層に用いるシリコーン樹脂の性状としては、透明性が高く、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体の表面に対しても、吸着層の面が被着体表面に沿うことが求められる。さらに剥離の際には、小さい剥離力で容易に剥離できることが求められる。また、少なくとも厚み5μm以上で、目付け加工の方法を用いることなく塗布及び加熱処理だけで吸着層を設けるためには、シリコーン組成物の硬化反応に際して、白金触媒等のもとで、150℃以下の低温短時間で深部まで硬化し、透明で耐熱性、圧縮永久歪み特性に優れかつ低粘度で液状タイプである、1分子中に2個以上のビニル基を有するポリオルガノシロキサンと硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応により熱硬化する付加反応型液状シリコーン組成物の使用が好ましい。
【0034】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンとしては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、末端にのみビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンと、末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンとから選ばれる少なくとも1種を用いると良い。
【0035】
これらのジオルガノポリシロキサンの1形態としては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンで、下記一般式(化1)で表わされる化合物である。
【0036】
【0037】
(式中Rは下記の有機基、nは整数を表す。)
【0038】
【0039】
(式中Rは下記の有機基、n、mは整数を表す。)
【0040】
このビニル基以外のケイ素原子に結合した有機基(R)は異種でも同種でもよいが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した同種、または異種の非置換または置換の脂肪族不飽和基を除く1価炭化水素基で、好ましくはその少なくとも50モル%がメチル基であるものなどが挙げられるが、このジオルガノポリシロキサンは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0041】
両末端および側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンは、上記一般式(化1)中のRの一部がビニル基である化合物である。末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)で表わされる化合物である。末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)中のRの一部がビニル基である化合物である。
【0042】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量としては、20,000~700,000の範囲のものが好ましい。前記のジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が20,000未満であると、硬化性が低下したり、被着体への吸着力が低下してしまう。また、700,000を超えてしまうと、組成物の粘度が高くなりすぎて製造時の撹拌が困難になる。
【0043】
ここでシリコーン樹脂の硬化反応に用いる硬化剤の例として、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するものであるが、実用上からは分子中に2個の≡SiH結合を有するものをその全量の50重量%までとし、残余を分子中に少なくとも3個の≡SiH結合を含むものとすることがよい。分子の形状としては、直鎖状、分岐状、環状のものを使用できる。
【0044】
前記ビニル基を有するジオルガノポリシロキサン中のビニル基(A)に対する、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基(B)のモル比(A)/(B)が1.0~2.0の範囲となるように配合することが好ましい。モル比(A)/(B)が1.0未満では硬化密度が不足して、これに伴い凝集力、保持力が低くなってしまうことがあり、逆に2.0を超えると硬化密度が高くなり、適度な吸着力、及びタック性が得られず、また前記アクリル系樹脂層よりなる基材フィルム表面の水酸基とSiH基との結合による十分な密着力が得られづらくなる。
【0045】
硬化反応に用いる付加反応触媒は、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体などが挙げられる。また、これらのものをイソプロパノール、トルエンなどの溶剤や、シリコーンオイルなどに溶解、分散させたものを用いてもよい。硬化した吸着層は、シリコーンゴムのような柔軟性を持ったものとなり、この柔軟性が被着体との密着を容易にさせるものである。
【0046】
前記付加反応触媒の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、貴金属分として5~2,000ppm、特に10~500ppmとすることが好ましい。5ppm未満では硬化性が低下して硬化密度が低くなり、保持力が低下することがあり、2,000ppmを超えると塗工液の使用可能時間が短くなる場合がある。
【0047】
本発明に係るシリコーン組成物の市販品の形状は、無溶剤型、溶剤型、エマルション型があるが、いずれの型も使用できる。なかでも、無溶剤型は、溶剤を使用しないため、安全性、衛生性、大気汚染の面で非常に利点がある。但し、無溶剤型であっても、所望の膜厚を得るための粘度調節のために、必要に応じてトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1、4-ジオキサンなどのエーテル系溶剤、またはこれらの混合溶剤などが使用される。
【0048】
前記溶剤の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、20~1,000重量部、特に25~900重量部とすることが好ましい。20重量部未満では、吸着層と基材の密着性が低下して剥離する場合があり、1,000重量部を超えると、シリコーン組成物の塗工液の粘度が低くなりすぎるので、塗工後から硬化までの間に、塗工された吸着層が一部流動し、吸着層表面の平滑性が低下してしまう。
【0049】
本発明の吸着層の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体への貼着時に被着体の表面の凹凸に追従して密着力を確保することが求められる。そして、例えば前記情報表示画面の保護部材として使用する場合、吸着層の膜厚は、被着体に対する吸着層の密着面方向の剪断力を確保するために少なくとも5μm以上、通常は10~100μmが好ましく、20~50μmであることがより好ましい。5μm未満であると被着体に対する保護部材の密着面方向の剪断力が確保できず、特に長期貼り付け時には、保護部材が被着体から剥がれ易い。また、吸着層の厚みが100μmを超える場合には、吸着層を構成する樹脂の使用量が多くなり、吸着テープの製造コストの上昇を招いてしまう。
【0050】
本発明における吸着層の形成方法としては、吸着層を構成する樹脂を有機溶剤に溶解し粘度を調整した樹脂溶液を塗工する方法や、吸着層を構成する樹脂を水に分散し塗工する方法等の公知の方法を用いることができる。前記有機溶剤としては一般の有機溶剤を特に制限無く用いることができる。例えば、前記の粘度調節のための有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本発明の吸着層のコーティング法としては、コンマナイフコーター、ダイコーター、リバースコーターなどが挙げられる。
【0052】
(セパレータ)
本発明においては、吸着層の表面の汚れや異物付着を防いだり、吸着テープのハンドリングを向上させる目的で、プラスチックフィルムからなるセパレータを吸着層面に貼り合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明の吸着テープのセパレータには、プラスチックフィルムが用いられる。例えば、セロハンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム等を挙げることができる。これらの中で、吸着テープにセパレータを貼り合せたままでテープディスペンサーの歯や手にて容易に切断するためには、易裂性をもったフィルム、例えばセロハンフィルムやポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルムが良好に用いられる。また、市販の易裂性プラスチックフィルムを用いても良い。セパレータ用フィルムの厚さとしては、25~200μmが好ましく用いられる。25μmより薄いとフィルム強度が不足し、十分な保護性能が得られなかったり、剥離時にフィルムが破れる等の問題が発生する。また、200μmより厚いと吸着テープにセパレータを貼り合せたままの状態では、テープディスペンサーの歯や手での切断が容易でなくなる等の問題が発生する。
【実施例】
【0054】
以下、実施例と比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各実施例中の「部」は特に断ることのない限り重量部を示したものである。
【0055】
(実施例1~7、比較例1~5)
厚さ100μmの離型処理したPETフィルムの離型処理面上に、表1に記載の処方にて混合した実施例、比較例の各種樹脂層塗工液を、乾燥後の厚みが表1記載の各々の値になるように調整して塗工し、65℃で2分間有機溶剤を除去する為に加熱乾燥した後、150℃で4分間加熱硬化して、各種樹脂層からなる基材を作製した。
【0056】
シリコーン樹脂吸着層(実施例1~7、比較例1~5)
前記樹脂層の上に、下記のシリコーン樹脂吸着層塗工液をダイコーターにて塗工して設けた後、オーブンにて150℃、100秒で加熱硬化させて、実施例1~7、比較例1~5記載の各々の厚みの吸着層を形成した。
(シリコーン樹脂吸着層塗工液)
分子末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン 68.59部
(重量平均分子量Mw:540,000)/無溶剤型
オルガノハイドロジェンシロキサン-ジオルガノシロキサンコポリマー 0.41部
(重量平均分子量Mw:2,000)/無溶剤型
白金触媒(信越ポリマー製、PL-56) 1.00部
トルエン 30.00部
合 計 100.00部
【0057】
(実施例1~7、比較例1~5)
前記の吸着層が形成された各吸着テープの吸着層面に、厚さ50μmのポリプロピレンフィルムをセパレータとして設置して100μm離型処理PETフィルム/樹脂層/吸着層/50μmポリプロピレンフィルムの状態とし、2本のロール(ゴムロールとメタルロール)にて挟み込み、空気を逃がしながら両者を貼り合わせた後、100μm離型処理PETフィルムを剥離して、樹脂層の片面に吸着層、セパレータが積層された吸着テープを得た。
【0058】
各実施例、比較例の材料構成比、評価結果を表1に、各評価方法を下記に示す。
【0059】
【0060】
(評価方法)
(樹脂層と吸着層の密着性評価)
上記作製した吸着テープを断裁し、セパレータ剥離後に断裁端部を指でこすり、吸着層の剥がれを確認した。
評価基準
○:吸着層の剥がれがない。
×:吸着層の剥がれがある。
【0061】
(基材の柔軟性評価)
上記作製した実施例1~7、比較例1~5の水酸基含有樹脂からなる基材を、吸着層を設置する前の段階で100μm離型処理PETフィルムから剥離し、長さ100mm×幅25mmに断裁して試験片を作製した。これらの試験片を180°折り曲げた際に、基材が割れるかを目視確認した。(
図1参照)
評価基準
○:割れが発生しない。
×:割れが発生した。
【0062】
(吸着テープの手切り性評価)
上記作製した実施例1~7、比較例1~5の吸着テープを長さ100mm×幅25mmに断裁して試験片を作製し、セパレータ剥離後に幅方向に手で切断したときの状態を目視観察し、下記基準にて評価を行った。(
図2参照)
評価基準
◎:断面の塑性変形がなく、断面がまっすぐである。
○:断面の塑性変形が少なく、断面がまっすぐである。
△:断面の塑性変形があり、断面がまっすぐにならない。
×:断面が大きく変形し、容易に手で切断できない。または割れが発生し、断面がまっすぐにならない。
【0063】
(吸着テープの破断伸度評価)
上記作製した実施例1~7、比較例1~5の吸着テープを長さ150mm×幅25mmに断裁して試験片を作製し、セパレータ剥離後にJIS K7127に準拠した方法にて、引張試験機をもちいて速度500mm/minにて引張試験を行い、試験片が破断したときの伸びから破断伸度を求めて、下記基準にて評価を行った。
破断伸度を算出する式は以下の通り。
破断伸度(%)=(L-Lo)÷Lo×100
L:破断時の試験片試験部分長さ Lo:試験前の試験片試験部分長さ
評価基準
◎:破断伸度が100%未満
○:破断伸度が100%以上、200%未満
×:破断伸度が200%以上
比較例2の基材は非常に脆く、破断伸度測定を開始すると、即時に破断してしまい、破断伸度の測定が不可能であった。
【0064】
(吸着テープのヘーズ評価)
上記作製した実施例1~7、比較例1~5の吸着テープを、長さ50mm×幅50mmに断裁して試験片を作製し、セパレータ剥離後にJIS K7136に準拠した方法にてヘーズ値を測定し、下記基準にて評価を行った。
評価基準
◎:ヘーズ値が2.00%未満
○:ヘーズ値が2.00%以上、3.00%未満
×:ヘーズ値が3.00%以上
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】本発明における基材の柔軟性評価方法の図である。
【
図2】本発明における吸着テープの手切り性評価方法の図である。