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特許7084706複合素材、プリプレグ、炭素繊維強化成形体、および複合素材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】複合素材、プリプレグ、炭素繊維強化成形体、および複合素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/74 20060101AFI20220608BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220608BHJP
   D06M 13/355 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
D06M11/74
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
D06M13/355
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017185925
(22)【出願日】2017-09-27
(65)【公開番号】P2019060050
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】特許業務法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 麻季
(72)【発明者】
【氏名】小向 拓治
【審査官】荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528056(JP,A)
【文献】特表2013-509503(JP,A)
【文献】特開2010-042942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の連続した炭素繊維が配列した炭素繊維束と、
前記炭素繊維のそれぞれの表面に付着したカーボンナノチューブと、
前記カーボンナノチューブを部分的に前記炭素繊維の表面に固定する複数の固定樹脂部とを備え、
前記カーボンナノチューブは、前記炭素繊維の表面に分散して絡み合うことで互いに直接接触または直接接続されてネットワーク構造を形成し、
前記炭素繊維の長手方向に沿った21μmの領域において、1μm□の枠のいずれか1辺を横切る前記カーボンナノチューブは、少なくとも50%が1μm以上の長さを有し、前記1μm□の枠のいずれか1辺を横切る前記カーボンナノチューブの本数の標準偏差が5以下であり、
前記複数の固定樹脂部は、前記カーボンナノチューブが付着した前記炭素繊維の表面の7%以上30%以下を覆っており、前記カーボンナノチューブが付着した表面に5μm□当たり10~40個の割合で設けられていることを特徴とする複合素材。
【請求項2】
前記固定樹脂部は、反応硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂の硬化物であることを特徴とする請求項に記載の複合素材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合素材と、前記複合素材に含浸されたマトリックス樹脂とを含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項に記載のプリプレグの硬化物からなることを特徴とする炭素繊維強化成形体。
【請求項5】
複数の連続した炭素繊維が配列した炭素繊維束における前記炭素繊維のそれぞれの表面にカーボンナノチューブを付着させる工程と、
前記カーボンナノチューブが付着した前記炭素繊維にエマルジョンタイプのサイジング剤でサイジング処理を施して、前記カーボンナノチューブを前記炭素繊維の表面に部分的に固定し、前記カーボンナノチューブが付着した前記炭素繊維の表面の7%以上30%以下を覆い、前記カーボンナノチューブが付着した表面に5μm□当たり10~40個の割合で設けられている固定樹脂部を形成する工程とを備え
前記カーボンナノチューブは前記炭素繊維の表面に分散して絡み合うことで互いに直接接触または直接接続されてネットワーク構造を形成し、前記炭素繊維の長手方向に沿った21μmの領域において、1μm□の枠のいずれか1辺を横切る前記カーボンナノチューブは、少なくとも50%が1μm以上の長さを有し、前記1μm□の枠のいずれか1辺を横切る前記カーボンナノチューブの本数の標準偏差が5以下である
ことを特徴とする複合素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合素材、プリプレグ、炭素繊維強化成形体、および複合素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した炭素繊維を数千~数万の単位で束ねた炭素繊維束は、低密度、高比強度、高比弾性率といった優れた特性を有している。こうした炭素繊維束に樹脂を含浸させて得られるプリプレグは、性能に対する要求が厳しい用途(航空・宇宙関連用途など)への適用が期待されている。
【0003】
炭素繊維の表面に、複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する)が絡み付いてCNTネットワーク薄膜が形成された構造を有するCNT/炭素繊維複合素材が、強化繊維として提案されている(例えば、特許文献1)。このような複合素材は、炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRPとも称する)のような炭素繊維強化成形体の基材として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-76198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、CNTを含む分散液中に炭素繊維を浸漬して、振動、光照射、熱等のエネルギーを付与することにより、炭素繊維表面にCNTネットワークを形成している。CNTの効果を十分に発揮させることができれば、より優れた特性の複合素材を得ることができる。CFRPを用いた構造部材の破壊のモードの大部分は、層間剥離である。このため、CFRPは、層間剥離亀裂の進展抵抗が大きいことが求められる。
【0006】
そこで本発明は、カーボンナノチューブの効果を十分に発揮できる複合素材、これを用いたプリプレグ、層間剥離亀裂の進展抵抗がより大きい炭素繊維強化成形体、および複合素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る複合素材は、複数の連続した炭素繊維が配列した炭素繊維束と、前記炭素繊維のそれぞれの表面に付着したカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブを部分的に前記炭素繊維の表面に固定する複数の固定樹脂部とを備え、前記複数の固定樹脂部は、前記カーボンナノチューブが付着した前記炭素繊維の表面の7%以上30%以下を覆っていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るプリプレグは、前述の複合素材と、前記複合素材に含浸されたマトリックス樹脂とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る炭素繊維強化成形体は、前述のプリプレグの硬化物からなることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る複合素材の製造方法は、複数の連続した炭素繊維が配列した炭素繊維束における前記炭素繊維のそれぞれの表面にカーボンナノチューブを付着させる工程と、前記カーボンナノチューブが付着した前記炭素繊維にエマルジョンタイプのサイジング剤でサイジング処理を施して、前記カーボンナノチューブを前記炭素繊維の表面に部分的に固定し、前記カーボンナノチューブが付着した前記炭素繊維の表面の7%以上30%以下を覆う固定樹脂部を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合素材は、表面にCNTが付着した炭素繊維の束を含んでいる。炭素繊維の表面へのCNTの固定は部分的であるので、固定されていない箇所では炭素繊維の表面から離れて浮き上がることができる。炭素繊維の表面から浮き上がった自由な状態のCNTが存在することにより、CNTの効果が十分に発揮される。
【0012】
本発明の複合素材にマトリックス樹脂が含浸したプリプレグにおいては、炭素繊維から浮き上がったCNTがマトリックス樹脂と直接接触する。こうしたプリプレグを硬化させて得られる炭素繊維強化成形体においては、CNTとマトリックス樹脂とが複合化したCNT複合樹脂層が形成される。CNT複合樹脂層を有することによって、本発明の炭素繊維強化成形体は、層間剥離亀裂の進展抵抗が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る複合素材の構成を示す部分概略図である。
図2】複合素材における炭素繊維の表面の電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真である。
図3】炭素繊維の表面の一部を示す模式図である。
図4図3中の直線Lに沿った断面における領域P1,P2,P3の模式図である。
図5】本実施形態に係るプリプレグの長手方向から見た縦断面図である。
図6】本実施形態に係る炭素繊維強化成形体の斜視図である。
図7】CNT複合樹脂層を説明する模式図である。
図8】CNT付着炭素繊維束における炭素繊維の表面のSEM写真である。
図9】実施例の複合素材の表面における固定樹脂部が占める面積割合を説明するSEM写真である。
図10】固定樹脂部の個数と、固定樹脂部が占める面積割合とを示すグラフである。
図11】亀裂の進展に伴う層間破壊靱性値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
1.全体構成
図1に示すように、本実施形態の複合素材10は、複数の連続した炭素繊維12aが配列した炭素繊維束12を備えている。炭素繊維12aの直径は、約5~20μmである。炭素繊維12aは、化石燃料由来の有機繊維、または木材や植物繊維由来の有機繊維を焼成して得ることができる。図面には、説明のために10本のみの炭素繊維12aを示しているが、本実施形態における炭素繊維束12は、1千~10万本の炭素繊維12aを含むことができる。
【0016】
各炭素繊維12aの表面には、CNT14aが付着している。複数のCNT14aは、炭素繊維12aの表面に分散して絡み合うことで、互いに直接接触または直接接続されてネットワーク構造を形成することができる。CNT14a同士の間には、界面活性剤などの分散剤や接着剤等の介在物が存在しないことが好ましい。
【0017】
CNT14aは、炭素繊維12aの表面に直接付着している。ここでいう接続とは、物理的な接続(単なる接触)を含む。また、ここでいう付着とは、ファンデルワールス力による結合をいう。さらに「直接接触または直接接続」とは、複数のCNTが単に接触している状態を含む他に、複数のCNTが一体的になって接続している状態を含む。
【0018】
CNT14aは炭素繊維12aの表面に均一に付着している。具体的には、実際の測定例を参照して後述するが、以下の手順で均一性を評価することができる。まず、炭素繊維12aの長手方向に沿った21μmの領域において、等間隔で1μm□の12個の枠を設定する。次いで、前記枠ごとに、いずれかの1辺を横切るカーボンナノチューブの本数を測定する。最後に上記測定結果に基づく標準偏差を求める。本実施形態の場合、上記本数の標準偏差は、5以下である。
【0019】
CNT14aは、長さが1μm以上であることが好ましい。CNT14aの長さは、上記均一性を測定した際のカーボンナノチューブの長さである。また、CNT14aの長さは、光学顕微鏡写真から求めてもよい。CNT14aは長さが1μm以上であると、各炭素繊維12aの表面にわたって均等に付着し易くなる。CNT14aは、長さが3μm以上であってもよい。CNT14aの付着状態は、SEMにより観察し、得られた画像を目視により評価することができる。測定されたCNT14aの少なくとも50%は、長さが1μm以上であることが好ましい。長さが1μm以上のCNT14aの割合は、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることが最も好ましい。
【0020】
CNT14aは、平均直径が約30nm以下であるのが好ましい。平均直径が30nm以下のCNT14aは、柔軟性に富み、各炭素繊維12aの表面でネットワーク構造を形成することができる。CNT14aの直径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を用いて測定した平均直径とする。CNT14aは、平均直径が約20nm以下であるのがより好ましい。
【0021】
複数のCNT14aは、複数の固定樹脂部16aによって部分的に炭素繊維12aの表面に固定されている。図2には、複合素材10における炭素繊維12aの表面のSEM写真を示す。炭素繊維12aの表面には、複数のCNT14aが付着している。写真中に点在している黒色の領域が、固定樹脂部16aである。固定樹脂部16aは、反応硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂の硬化物からなる。追って詳細に説明するように、固定樹脂部16aは、粒子径が0.05~1μm程度の液滴状の樹脂を含むエマルジョンタイプのサイジング剤でサイジング処理を施して形成される。
【0022】
図2に示した炭素繊維12aの表面の一部を、図3に模式的に示す。固定樹脂部16aはCNT14aが付着している炭素繊維12aの表面の7%以上30%以下を覆っている。本実施形態においては、固定樹脂部16aは、CNT14aが付着している炭素繊維12aの表面に、5μm□当たり10~40個の割合で存在する。炭素繊維12a表面に付着している全てのCNT14aは、それぞれの全長のいずれかの箇所で、固定樹脂部16aによって炭素繊維12aに固定されている。
【0023】
炭素繊維12aの表面における固定樹脂部16aの面積割合が7%未満の場合には、CNT14aを炭素繊維12aの表面に十分に固定することができないため、プリプレグを作製する際にCNT14aが炭素繊維12aの表面から剥がれ落ちてしまう。固定樹脂部16aの面積割合が30%を超えた場合、CNT14aの全体が炭素繊維12aに固定されてしまう。固定樹脂部16aの面積割合が7%以上30%以下の場合でも、5μm□当たりの個数が上述の範囲から外れると、所望の効果が得られない。10個未満の場合には、大面積の固定樹脂部16aがまばらに配置されて、炭素繊維12aに全く固定されないCNT14aが発生する。40個を超えた場合、1個当たりの固定樹脂部16aの面積が小さ過ぎて、CNT14aを炭素繊維12aに十分に固定することができない。上記いずれの場合も、得られる炭素繊維強化成形体の強度の低下につながる。
【0024】
固定樹脂部16aの実質的な1個当たりの面積は、0.03~1.12μm2程度である。固定樹脂部16aの個々の面積が下限未満の場合、付着力が弱く、CNT14aを炭素繊維12a表面に十分に固定することができない。この場合も、上述と同様、得られる炭素繊維強化成形体の強度の低下につながる。液滴状の樹脂の粒子径が1μm以下であれば、CNT14aが固定樹脂部16aに埋もれることは避けられる。液滴状の樹脂の粒子径は0.05μm以上であれば、CNT14aを炭素繊維12aの表面に固定することができる。液滴状の樹脂の粒子径は、0.1~0.4μm程度であることが好ましい。複数の液滴状の樹脂が、炭素繊維の表面で一体化する場合があるので、固定樹脂部16aの面積の上限は上記のとおりとなる。
【0025】
CNT14aの長さが1μm以上である場合、CNT14aは固定樹脂部16aに完全に覆われることはなく、固定樹脂部16aの外側に延びて存在する。例えば、炭素繊維12a表面の5μm□における固定樹脂部16aの総面積は、1.75~7.5μm2程度である。
【0026】
図4を参照して、炭素繊維12aの表面におけるCNT14aの状態を説明する。図4は、図3中の直線Lに沿った断面における領域P1,P2,P3の模式図である。領域P1では、炭素繊維12a上に付着した2本のCNT14aが、固定樹脂部16aで覆われている。領域P2では、炭素繊維12a上に付着した1本のCNT14aが、固定樹脂部16aで覆われている。領域P1,P2では、CNT14aがこのようにして炭素繊維12aに固定されている。
【0027】
領域P3には、領域P1,P2のような固定樹脂部16aが存在しない。領域P3内のCNT14aは、炭素繊維12aに固定されておらず、ファンデルワールス力のみで炭素繊維12aの表面に付着している。このため、領域P3内のCNT14aは、炭素繊維12aの表面から離れて浮き上がることができる。この場合でも、CNT14aは、全長のいずれかの箇所が固定樹脂部16aによって炭素繊維12a表面に固定されている。
【0028】
上述したとおり、複合素材10に含まれている炭素繊維12aの表面にはCNT14aが付着し、さらに、固定樹脂部16aが所定の面積割合で設けられている。こうした複合素材10を含む本実施形態のプリプレグの長手方向から見た縦断面図を、図5に示す。プリプレグ30は、本実施形態の複合素材10と、マトリックス樹脂層20とを含む。
【0029】
マトリックス樹脂層20に用いるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、シアネートエステル樹脂およびビスマレイミド樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。
【0030】
図6は、本実施形態の炭素繊維強化成形体の斜視図である。炭素繊維強化成形体130は、プリプレグ30の硬化物であるので、マトリックス樹脂層20が硬化した硬化樹脂層120と複合素材10とを含む。炭素繊維強化成形体130は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。炭素繊維強化成形体130は、試験を行う際のJIS規格に合わせた任意の寸法とすることができる。
【0031】
2.製造方法
次に、本実施形態に係る複合素材10、プリプレグ30、および炭素繊維強化成形体130の製造方法を説明する。
【0032】
<複合素材の製造>
複合素材10は、CNT14aが単離分散したCNT分散液(以下、単に分散液とも称する)中に、複数の炭素繊維12aを含む炭素繊維束12を浸漬して炭素繊維12aのそれぞれの表面にCNT14aを付着させた後、サイジング処理を施すことにより製造することができる。以下、各工程について順に説明する。
【0033】
(分散液の調製)
分散液の調製には、以下のようにして製造されたCNT14aを用いることができる。CNT14aは、例えば特開2007-126311号公報に記載されているような熱CVD法を用いてシリコン基板上にアルミニウム、鉄からなる触媒膜を成膜し、CNTの成長のための触媒金属を微粒子化し、加熱雰囲気中で炭化水素ガスを触媒金属に接触させることによって、作製することができる。
【0034】
不純物を極力含まないCNTであれば、アーク放電法、レーザ蒸発法などその他の方法により作製されたCNTを使用してもよい。製造後のCNTを不活性ガス中で高温アニールすることで、不純物を除去することができる。こうして製造されるCNTは、直径が30nm以下で長さが数100μmから数mmという高いアスペクト比と直線性とを備えている。CNTは、単層および多層のいずれでもよいが、好ましくは多層である。
【0035】
上述のようにして作製されたCNT14aを用いて、CNT14aが単離分散した分散液を調製する。単離分散とは、CNT14aが1本ずつ物理的に分離して絡み合わずに分散媒中に分散している状態をいい、2以上のCNT14aが束状に集合した集合物の割合が10%以下である状態をさす。
【0036】
分散液は、ホモジナイザーやせん断力、超音波分散機などによりCNT14aの分散の均一化を図る。分散媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いることができる。
【0037】
分散液の調製には、分散剤、界面活性剤等の添加剤は必ずしも必要とされないが、炭素繊維12aおよびCNT14aの機能を阻害しない範囲であれば、こうした添加剤を用いてもよい。
【0038】
(CNTの付着)
上述のようにして調製した分散液中に炭素繊維束12を浸漬し、分散液に機械的エネルギーを付与して炭素繊維12a表面にCNT14aを付着させる。機械的エネルギーとしては、振動、超音波、搖動などが挙げられる。機械的エネルギーを付与することによって、分散液中では、CNT14aが分散する状態と凝集する状態とが常時発生する可逆的反応状態が作り出される。
【0039】
可逆的反応状態にある分散液中に、複数の連続した炭素繊維12aを含む炭素繊維束12が浸漬されると、炭素繊維12a表面においてもCNT14aの分散状態と凝集状態との可逆的反応状態が起こる。CNT14aは、分散状態から凝集状態に移る際、炭素繊維12a表面に付着する。
【0040】
凝集する際は、CNT14aにファンデルワールス力が作用しており、このファンデルワールス力により炭素繊維12a表面にCNT14aが付着する。こうして、炭素繊維束12中の炭素繊維12aそれぞれの表面にCNT14aが付着した炭素繊維束(CNT付着炭素繊維束)が得られる。本実施形態においては、CNT14aを付着させる際、平衡状態の時間が従来より長くなるように調節する。これによって、炭素繊維12aの表面におけるCNT14aの付着均一性を高めることができる。
【0041】
(サイジング処理)
サイジング処理には、エマルジョンタイプのサイジング剤が用いられる。エマルジョンタイプのサイジング剤は、粒子径が0.05~1μmの液滴状の樹脂を含有するサイジング剤である。粒子径は、レーザ解析法により求めることができる。樹脂としては、例えば反応性樹脂が挙げられる。反応性樹脂は、カルボキシル基との反応性が高い官能基を有する樹脂であり、具体的にはオキサゾリン基を有する樹脂である。反応性樹脂エマルジョンとしては、例えばエポクロス((株)日本触媒製)が挙げられる。このエポクロスは、反応性樹脂の濃度が40質量%程度である。
【0042】
サイジング剤は、溶媒で希釈してサイジング液として用いることができる。溶媒としては、例えば、水、エタノール、アセトン、MEK、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、トルエンおよびスチレンなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で、あるいは2種類以上を併用して用いることができる。希釈後における樹脂の濃度は、乾燥後の炭素繊維表面におけるサイジング剤の付着量が所定量になるように適宜調整する。
【0043】
溶媒としては、取り扱い性および安全性の面から水溶媒が好適である。サイジング液におけるサイジング剤の濃度は、目的とされるサイジング剤の付着量に応じて適時変更すればよい。乾燥後の炭素繊維表面におけるサイジング剤の付着量は、0.4~3質量%程度、好ましくは1質量%程度である。
【0044】
サイジング処理は、CNT付着炭素繊維束にサイジング液を塗布し、次いで、乾燥して樹脂を硬化させることによって行うことができる。サイジング液の塗布法としては、例えばローラー浸漬法およびローラー接触法等が挙げられる。炭素繊維の表面へのサイジング剤の付着量は、サイジング液の濃度調整や絞り量調整によって調節することができる。乾燥手段としては、例えば熱風、熱板、加熱ローラー、および各種赤外線ヒーターなどが挙げられる。
【0045】
エマルジョンタイプのサイジング剤を用いて、CNT付着炭素繊維束にサイジング処理を施すことによって、本実施形態の複合素材10が得られる。複合素材10においては、CNT14aが付着している炭素繊維12aの表面の7%以上30%以下が、複数の固定樹脂部16aで覆われている。
【0046】
本実施形態においては、粒子径が0.1~0.4μmの液滴状の樹脂を含有するエマルジョンタイプのサイジング剤を用いる。上述したように液滴状の樹脂の粒子径が1μm以下であれば、炭素繊維12aの表面に付着してネットワーク構造を形成しているCNT14a同士の間に樹脂が入り込むことができる。こうして、それぞれの面積が0.03~1.12μm2程度の固定樹脂部16aが形成される。
【0047】
固定樹脂部16aの面積は、エマルジョン中の液滴の粒子径に応じて変化する。サイジング剤は、適宜希釈して用いられる。乾燥後に炭素繊維表面におけるサイジング剤の付着量が0.4~3質量%程度となるように調整したサイジング液を用いる場合、炭素繊維12a表面の5μm□当たりの固定樹脂部16aの個数は10~40個となる。単位面積当たりの固定樹脂部16aの個数は、例えば、サイジング液中における樹脂の濃度に応じて変化する。
【0048】
<プリプレグの製造>
本実施形態のプリプレグ30は、複合素材10にマトリックス樹脂を含浸させて製造することができる。プリプレグ30は、例えばウェット法により製造することができる。ウェット法の場合には、マトリックス樹脂をMEKやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度のマトリックス樹脂溶液を調製し、ここに複合素材10に含浸させる。その後、複合素材10をマトリックス樹脂溶液から引き上げ、オーブンなどにより溶媒を蒸発させて、プリプレグ30が得られる。
【0049】
プリプレグ30は、ホットメルト法により製造してもよい。ホットメルト法では、マトリックス樹脂を加熱して低粘度化して、複合素材10に含浸させる。具体的には、マトリックス樹脂を離型紙などの上にコーティングして作製した樹脂フィルムを用いる。複合素材10の両側または片側に樹脂フィルムを載置し、加熱加圧してマトリックス樹脂を複合素材10に含浸させる。ホットメルト法では、溶媒の残留なしにプリプレグ30を得ることができる。
【0050】
<炭素繊維強化成形体の製造>
本実施形態の炭素繊維強化成形体130を得るには、例えば、プリプレグ30を所定の長さに切断し、必要に応じて積層して積層体を作製する。この積層体に圧力を付与しつつマトリックス樹脂を加熱硬化させることによって、炭素繊維強化成形体130を製造することができる。熱および圧力を付与する方法は、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などから選択することができる。
【0051】
3.作用及び効果
本実施形態に係る複合素材10は、CNT14aが表面に付着し、さらに複数の固定樹脂部16aが設けられた炭素繊維12aの束(炭素繊維束12)からなる。CNT14aが付着した炭素繊維12aの表面の7%以上30%以下は、複数の固定樹脂部16aによって覆われている。図3,4中に領域P1.P2として示したように、CNT14aは、固定樹脂部16aによって炭素繊維12aの表面に部分的に固定されている。このため、CNT14aは、炭素繊維12aの表面から剥がれることはない。
【0052】
CNT14aには、炭素繊維12aの表面に固定されていない箇所が存在する(例えば、図3,4中の領域P3)。領域P3内のCNT14aは、固定樹脂部16aなしでファンデルワールス力により炭素繊維12aの表面に付着しているので、炭素繊維12aの表面から離れて浮き上がることができる。この場合のCNT14aは自由な状態であるため、後述するような効果が得られる。
【0053】
すなわち、複合素材10にマトリックス樹脂が含浸したプリプレグ30においては、炭素繊維12aの表面から浮き上がったCNT14aは、マトリックス樹脂層20と直接接触する。こうしたプリプレグ30を硬化させてなる成形体130においては、図7に示すように、硬化樹脂層120と炭素繊維12aとの界面に、CNT複合樹脂層18が形成される。CNT複合樹脂層18中のCNT14aは、炭素繊維12a側に高濃度で存在する。CNT14aの濃度は、炭素繊維12aから離れるにしたがって低くなる。
【0054】
CNT複合樹脂層18では、CNT14aとマトリックス樹脂とが複合化されていることによって、CNT複合樹脂層18はCNT14aに由来する高い強度および柔軟性を備える。CNT複合樹脂層18は、応力集中を緩和する効果も有する。しかも、CNT14aは、固定樹脂部16aによって炭素繊維12aの表面に部分的に固定されて、CNT14aの残りの部分はマトリックス樹脂と複合化しているので、炭素繊維12aと硬化樹脂層120との接着強度が向上する。
【0055】
こうしたCNT複合樹脂層18は、炭素繊維強化成形体130における層間剥離の進展を抑制する。これによって、本実施形態に係る炭素繊維強化成形体130は、亀裂進展過程における開口モード層間破壊靱性値(GIR)が、大きくなる。
【0056】
上述したとおり、本実施形態に係る複合素材10においては、炭素繊維12aの表面にCNT14aが均一に付着している。このことも、GIRを高める一因となっている。例えば、付着しているCNT14aが極端に少ない領域が存在する場合には、炭素繊維12aの表面に部分的に固定されたCNT14aが少ないので、CNT複合樹脂層18の効果も不十分となる。本実施形態においては、CNT14aが炭素繊維12aの表面に均一に付着していることによって、CNT複合樹脂層18の効果をより確実に得ることができる。
【0057】
4.実施例
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
上記製造方法に示す手順で、実施例の複合素材を作製した。CNT14aとしては、熱CVDによりシリコン基板上に直径10~15nm、長さ100μm以上に成長させたMW-CNT(Multi-walled Carbon Nanotubes、多層カーボンナノチューブ)を用いた。
【0059】
CNT14aは、硫酸と硝酸の3:1混酸を用いて洗浄して触媒残渣を除去した後、濾過乾燥した。分散媒としてのMEKにCNT14aを加えて、分散液を調製した。CNT14aは、超音波ホモジナイザーを用いて粉砕して約3μmの長さに切断した。分散液中におけるCNT14aの濃度は、0.01wt%とした。この分散液には、分散剤や接着剤が含有されていない。
【0060】
次いで、分散液に対し28kHzおよび40kHzの超音波振動を印加しながら、炭素繊維束12を投入した。炭素繊維束12としては、T700SC-12000(東レ(株)製)を用いた。この炭素繊維束12には、12000本の炭素繊維12aが含まれている。炭素繊維12aの直径は7μm程度であり、長さは100m程度である。炭素繊維束12は、分散液中で10秒間保持した。上述したとおり、付着の際には平衡状態の時間が従来より長くなるように調節した。こうして、CNT付着炭素繊維束が得られた。
【0061】
CNT付着炭素繊維束に含まれる炭素繊維の表面の一部のSEM写真を、図8に示す。炭素繊維12aの表面には、複数のCNT14aが周方向および長手方向にわたって均一に付着している。CNT14aの付着均一性を評価した結果を、以下に説明する。まず、図8に示すように、炭素繊維12aの長手方向に沿った21μmの領域において、1μm□の枠を等間隔で複数箇所設定した。隣接する枠同士の最近接距離は、3μmとした。
【0062】
図8に示した枠は、炭素繊維12aの長手方向に沿って均等に設定しているが、必ずしも限定されない。枠は、炭素繊維12aの周方向の中心線から両側に均等であれば、任意の配置で設定することができる。ここでは、枠の数は12箇所としたが、上述の条件を満たしていれば任意の数の枠を設定することができる。
【0063】
各枠について、いずれかの1辺を横切るCNT14aの長さおよび本数を測定した。測定されたCNT14aの約30%は、長さが1μm未満であった。隣接する枠同士の最近接距離がCNT14aの長さより短ければ、2箇所以上の枠の辺を横切るCNT14aが存在する場合もある。枠のいずれか1辺を横切るCNT14aの本数は、辺毎に1本としてカウントするので、この場合、辺を横切るCNT14aの本数は2本となる。1つの枠の2辺を横切るCNT14aについても同様に、2本とカウントする。各枠で測定された本数を、下記表1にまとめる。
【0064】
【表1】
【0065】
測定結果から、各枠のいずれか1辺を横切るCNTの本数の平均および標準偏差は、それぞれ26.42本および4.15と算出された。このようにして求めた本数の標準偏差が5以下であれば、CNTは炭素繊維の表面のほぼ全域にわたって均一に付着している。上述の方法によりCNT14aを炭素繊維12aの表面に付着させたので、CNTの付着均一性が高められた。
【0066】
CNT付着炭素繊維束は、サイジング処理を施し、約80℃のホットプレート上で乾燥させた。こうして、実施例の複合素材10を得た。用いたサイジング剤は、エポクロス((株)日本触媒製)である。サイジング剤中には、粒子径0.1~0.4μm程度の液滴状の反応性樹脂が含まれている。サイジング剤は、乾燥後の炭素繊維表面における付着量が1質量%程度になるように、純水で希釈して用いた。
【0067】
図9のSEM写真を参照して、実施例の複合素材10の表面における固定樹脂部16aが占める面積割合について説明する。図9に示すように、CNT14aが付着した炭素繊維12aの表面に5μm□の領域Xを設定し、この領域X内に存在する固定樹脂部16aの数、および各固定樹脂部16aの面積をWinroof2015(三谷商事(株)製)により求める。ここでは、固定樹脂部16aの数は、35個である。確認された各固定樹脂部16aの面積は、0.03~1.12μm2である。複合素材10における領域Xは、25μm2の面積のうちの27%が、固定樹脂部16aで覆われている。
【0068】
固定樹脂部の個数と面積割合との傾向を調べるため、サイジング剤の付着量が異なる5種類の試料を作製した。CNT付着炭素繊維束および処理条件等、サイジング剤の希釈率以外の条件は、前述と同様とした。得られた試料について、図9の場合と同様の5μm□の領域を設定して、それぞれの領域内に存在する固定樹脂部の数、および各固定樹脂部の面積を同様に測定した。
【0069】
各領域内の固定樹脂部の数と固定樹脂部が占める面積割合とを、図10のグラフにプロットした。CNT14aが付着した炭素繊維12a表面の5μm□内の領域の7%以上30%以下は、固定樹脂部16aが占めることが好ましい。CNT14aが付着した炭素繊維12a表面の5μm□内の領域に存在する固定樹脂部16aの数は、10~40個であることが好ましい。
【0070】
複合素材10を用いて、図5に示したようなプリプレグ30を作製した。複合素材10を一方向に引き揃えて並べ、炭素繊維シート(繊維目付け125g/m2)とした。マトリックス樹脂としてのエポキシ樹脂を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。樹脂含有量は30質量%とした。2枚の樹脂フィルムで前述の炭素繊維シートを挟み、ヒートロールにより130℃、4気圧で加熱加圧した。マトリックス樹脂が複合素材10に含浸して、マトリックス樹脂層20を有する実施例のプリプレグ30が得られた。
【0071】
得られたプリプレグを切断し、所定の寸法となるように積層した。得られた積層体をオートクレーブにより加熱加圧して、マトリックス樹脂を硬化させて、図6に示したような実施例の炭素繊維強化成形体130を得た。炭素繊維強化成形体130は、JIS規格に沿った大きさとした。
【0072】
サイジング剤としてARE-ST-13(ADVANCED RESIN LABOLATORYS製)を用いる以外は前述と同様の手法で、比較例の複合素材を作製した。ここで用いたサイジング剤は、エマルジョンタイプではない。比較例の複合素材をSEM観察した。CNTが付着した炭素繊維の表面は、樹脂硬化物で均一に覆われていることが確認された。
【0073】
比較例の複合素材を用いて、実施例と同様の手法により比較例のプリプレグを作製した。さらに、得られたプリプレグを用いて、実施例と同様の手法により比較例の炭素繊維強化成形体を作製した。
【0074】
<層間破壊靱性値の評価>
実施例の炭素繊維強化成形体および比較例の炭素繊維強化成形体を層間破壊靱性モードIの試験片として用いて、層間破壊靱性値を測定した。層間破壊靱性試験は、オートグラフ精密万能試験機AG5-5kNX((株)島津製作所製)を用い、それぞれ2本の試験片について、JIS K7086に準拠して行った。
【0075】
試験法としては、双片持ち梁層間破壊靱性試験法(DCB法)を用いた。まず、試験片の先端から2~5mmの予亀裂(初期クラック)を発生させ、その後、さらに亀裂を進展させた。予亀裂の先端から、亀裂進展長さが60mmに到達した時点で試験を終了させた。試験機のクロスヘッドスピードは、亀裂進展量に応じて変更した。具体的には、亀裂進展量が20mmまでのクロスヘッドスピードは、0.5mm/分とした。亀裂進展量が20mmを超えた際には、クロスヘッドスピードは1mm/分とした。亀裂進展長さは顕微鏡を用いて試験片の両端面から測定し、荷重、および亀裂開口変位を計測することにより、層間破壊靱性値(GIC)を算出した。
【0076】
亀裂の進展に伴う層間破壊靱性値の変化を、図11のグラフに示す。層間破壊靱性値は、荷重-COD(Crack Opening Displacement)曲線から求めた。実施例および比較例の炭素繊維強化成形体について、亀裂進展量20~60mmにおける層間破壊靱性値の平均をGIRとした。実施例の炭素繊維強化成形体のGIRは0.53kJ/m2である。比較例の炭素繊維強化成形体の場合、GIRは、0.32kJ/m2である。
【0077】
実施例の炭素繊維強化成形体は、比較例の炭素繊維強化成形体より層間剥離亀裂の進行抵抗が大きく、GIRは60%程度向上している。実施例の炭素繊維強化成形体には、固定樹脂部によりCNTが部分的に炭素繊維の表面に固定された複合素材が用いられている。こうした複合素材を用いることで、実施例の成形体にはCNT複合樹脂層が形成され、それによって層間剥離亀裂の進展が抑制されたものと推測される。
【0078】
5.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0079】
エマルジョンタイプのサイジング剤に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であってもよい。こうした樹脂を含むエマルジョンタイプのサイジング剤としては、例えばエポキシ樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、およびウレタン樹脂エマルジョンが挙げられる。
【0080】
サイジング剤は、二種類以上を組み合わせて使用することもできる。また、炭素繊維の取扱性や、耐擦過性、耐毛羽性、含浸性を向上させるため、分散剤、界面活性剤等の補助成分をサイジング剤に添加してもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 複合素材
12 炭素繊維束
12a 炭素繊維
14a カーボンナノチューブ(CNT)
16a 固定樹脂部
18 CNT複合樹脂層
20 マトリックス樹脂層
30 プリプレグ
120 硬化樹脂層
130 炭素繊維強化成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11