IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-飛行データ記録システム 図1
  • 特許-飛行データ記録システム 図2
  • 特許-飛行データ記録システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】飛行データ記録システム
(51)【国際特許分類】
   B64D 47/00 20060101AFI20220608BHJP
   B64D 43/00 20060101ALI20220608BHJP
   B64D 47/08 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
B64D47/00
B64D43/00
B64D47/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017250021
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2019116127
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓
(72)【発明者】
【氏名】永井 祐一
(72)【発明者】
【氏名】村田 巌
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-065812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0324437(US,A1)
【文献】米国特許第08319666(US,B2)
【文献】特表2017-537832(JP,A)
【文献】特表2015-515628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0208111(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 43/00
B64D 47/00
G01C 1/00
G01C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロットに装着可能に構成され、航空機の操縦室内の計器を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置によって撮像された前記計器の画像を示す画像データを記録する記録部と、
前記記録部に記録された画像データから前記計器によって示される飛行時の飛行データを抽出する抽出部と、
前記撮像装置による画像データから抽出された飛行データである抽出飛行データに加工を施して前記抽出飛行データとは異なる飛行データである加工飛行データを導出するデータ加工部と、
を備え
前記抽出飛行データは、前記航空機の位置データおよび高度データの少なくともいずれかであり、
前記加工飛行データは、前記航空機が通った移動経路を示す移動経路データ、および、前記航空機の飛行環境の推移を示す環境データの少なくともいずれかであり、
前記移動経路データは、前記航空機の位置データおよび高度データの少なくともいずれかの推移に基づいて導出され、
前記環境データは、前記航空機の位置データと気象データとの推移、および、前記航空機の高度データと気象データとの推移の少なくともいずれかに基づいて導出される飛行データ記録システム。
【請求項2】
前記撮像装置は、前記パイロットが操縦する操縦装置を撮像し、
前記記録部は、前記撮像装置によって撮像された前記操縦装置の画像を示す画像データを記録し、
前記抽出部は、前記記録部に記録された画像データから前記操縦装置によって示される飛行時の飛行データを抽出する請求項1に記載の飛行データ記録システム。
【請求項3】
前記抽出部は、前記航空機が飛行を終了した後において、前記記録部に記録された画像データに基づいた飛行時の飛行データの抽出を行う請求項1または2に記載の飛行データ記録システム。
【請求項4】
前記データ加工部は、前記航空機が飛行を終了した後において、前記加工飛行データを導出する請求項1から3のいずれか1項に記載の飛行データ記録システム。
【請求項5】
前記撮像装置と一体的に構成され、前記撮像装置の位置を検出する位置検出装置を備え、
前記記録部は、前記位置検出装置によって検出された前記撮像装置の位置を示す位置データを記録し、
前記データ加工部は、前記記録部に記録された前記位置データと、前記記録部に記録された前記撮像装置による画像データとに基づいて前記航空機の位置を導出する請求項1から4のいずれか1項に記載の飛行データ記録システム。
【請求項6】
前記撮像装置と一体的に構成され、前記撮像装置の姿勢および移動態様を検出する慣性計測装置を備え、
前記記録部は、前記慣性計測装置によって検出された姿勢を示す姿勢データおよび移動態様を示す移動態様データを記録し、
前記データ加工部は、前記記録部に記録された前記姿勢データおよび前記移動態様データと、前記撮像装置による画像データとに基づいて、前記航空機の姿勢および移動態様を導出する請求項1から5のいずれか1項に記載の飛行データ記録システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行データ記録システムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機には、航空機の水平位置、高度、姿勢、速度などの各種の飛行データを記録する飛行データ記録装置(フライトデータレコーダ)が搭載される場合がある。
【0003】
また、特許文献1には、計器盤に操舵量表示装置を取り付けて、その表示量と、計器盤の複数の計器の指針の指示とを、操縦席の後方の位置において機体に固定されたカメラによって撮像する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-166499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飛行データ記録装置が搭載されていない航空機に、飛行データ記録装置を後から搭載する場合がある。この場合、後から搭載される飛行データ記録装置は、機体の構成、電線の配線、電子機器室(アビオベイ)の位置などにより、設置位置および設置作業について制約を受ける。このため、飛行データ記録装置を追加する改修作業が大掛かりとなり、煩雑な作業を強いられていた。
【0006】
そこで、本発明は、簡易に飛行データを記録可能な飛行データ記録システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の飛行データ記録システムは、パイロットに装着可能に構成され、航空機の操縦室内の計器を撮像する撮像装置と、撮像装置によって撮像された計器の画像を示す画像データを記録する記録部と、記録部に記録された画像データから計器によって示される飛行時の飛行データを抽出する抽出部と、撮像装置による画像データから抽出された飛行データである抽出飛行データに加工を施して抽出飛行データとは異なる飛行データである加工飛行データを導出するデータ加工部と、を備え、抽出飛行データは、航空機の位置データおよび高度データの少なくともいずれかであり、加工飛行データは、航空機が通った移動経路を示す移動経路データ、および、航空機の飛行環境の推移を示す環境データの少なくともいずれかであり、移動経路データは、航空機の位置データおよび高度データの少なくともいずれかの推移に基づいて導出され、環境データは、航空機の位置データと気象データとの推移、および、航空機の高度データと気象データとの推移の少なくともいずれかに基づいて導出される
【0008】
また、撮像装置は、パイロットが操縦する操縦装置を撮像し、記録部は、撮像装置によって撮像された操縦装置の画像を示す画像データを記録し、抽出部は、記録部に記録された画像データから操縦装置によって示される飛行時の飛行データを抽出してもよい。
【0009】
また、抽出部は、航空機が飛行を終了した後において、記録部に記録された画像データに基づいた飛行時の飛行データの抽出を行ってもよい。
【0011】
また、データ加工部は、航空機が飛行を終了した後において、加工飛行データを導出してもよい。
【0012】
また、撮像装置と一体的に構成され、撮像装置の位置を検出する位置検出装置を備え、記録部は、位置検出装置によって検出された撮像装置の位置を示す位置データを記録し、データ加工部は、記録部に記録された位置データと、記録部に記録された撮像装置による画像データとに基づいて航空機の位置を導出してもよい。
【0013】
また、撮像装置と一体的に構成され、撮像装置の姿勢および移動態様を検出する慣性計測装置を備え、記録部は、慣性計測装置によって検出された姿勢を示す姿勢データおよび移動態様を示す移動態様データを記録し、データ加工部は、記録部に記録された姿勢データおよび移動態様データと、撮像装置による画像データとに基づいて、航空機の姿勢および移動態様を導出してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易に飛行データを記録することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態による飛行データ記録システムが適用される航空機の操縦室内を示す概略図である。
図2】第1実施形態による飛行データ記録システムの構成を示すブロック図である。
図3】第2実施形態による飛行データ記録システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による飛行データ記録システム10が適用される航空機1の操縦室内を示す概略図である。
【0018】
操縦室内の前方側には、計器盤3が設けられている。計器盤3には、航空機1の操縦に必要な各種の数値や指示値を表示する計器4が配置されている。計器4としては、例えば、航空機1の機体の水平面での位置を表示する位置表示計、機体の高度を表示する高度表示計、機体の姿勢を表示する姿勢表示計、磁方位を表示する磁方位計、機体内の温度を表示する温度計、機体の上昇率および下降率を表示する昇降計、エンジンの出力を表示する出力計などがある。なお、計器盤3には、例示した計器4に限らず、パイロット2が航空機1の操縦において確認する必要のあるすべてのデータについての計器4が配置されている。
【0019】
計器盤3の近傍には、操縦装置5が設けられている。操縦装置5は、例えば、操縦桿である。パイロット2は、操縦装置5を通じて航空機1を操作する。なお、操縦装置5は、操縦桿に限らず、例えば、計器盤3やその近傍に配置される各種のレバーやスイッチなどの人の操作を受け付ける装置であればよい。例えば、操縦装置5は、ラダーペダル、エンジンスロットルレバー、フラップレバー、各種スイッチなどを含んでもよい。
【0020】
パイロット2は、ヘルメット6を装着した状態で航空機1を操作する。ヘルメット6の頂部には、飛行データ記録システム10を構成する記録装置100が固定されている。記録装置100は、撮像装置110を含んで構成される。撮像装置110は、例えば、CCDカメラなどである。
【0021】
撮像装置110は、操縦室内の計器4および操縦装置5を撮像する。撮像装置110は、パイロット2の前後左右に360°の範囲で撮像することが可能となっている。また、撮像装置110は、パイロット2の上方の+90°からパイロット2の下方の-90°の範囲で撮像することが可能となっている。例えば、撮像装置110は、パイロット2の前方側を撮像する前方撮像装置と、パイロット2の後方側を撮像する後方撮像装置とから構成される。前方撮像装置は、前方側において左右方向に180°の範囲および上下方向に180°の範囲の画角を有する。また、後方撮像装置は、後方側において左右方向に180°の範囲および上下方向に180°の範囲の画角を有する。なお、撮像装置110は、例示した範囲で撮像可能なものに限らず、少なくとも、計器盤3(計器4および操縦装置5)を撮像することができればよい。また、撮像装置110は、計器盤3だけでなく、操縦室内から見える機外の様子を撮像してもよい。
【0022】
図2は、第1実施形態による飛行データ記録システム10の構成を示すブロック図である。図2中、信号の流れを破線の矢印で示す。飛行データ記録システム10は、記録装置100および抽出装置200を含んで構成される。
【0023】
記録装置100は、パイロット2が装着するヘルメット6に固定される。記録装置100は、撮像装置110、位置検出装置120、慣性計測装置130、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)140、収音装置150、機内記録部160、機内インターフェース部170、機内制御部180およびバッテリ190を含んで構成される。
【0024】
位置検出装置120は、撮像装置110との位置関係が変化しないように、撮像装置110と一体的に構成(固定)されている。位置検出装置120は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機である。位置検出装置120は、複数の衛星から送信される電波を受信する。位置検出装置120は、受信した電波に基づいて、位置検出装置120の位置、つまり、撮像装置110の位置(緯度および経度)を示す位置データを取得する。
【0025】
また、位置検出装置120は、複数の衛星の原子時計に基づいた時刻を測定する。記録装置100では、位置検出装置120によって測定された時刻が用いられる。位置検出装置120によって得られた位置データは、時刻に関連付けられて機内記録部160に格納される。なお、位置検出装置120では、1秒周期で時刻が更新されるため、位置検出装置120による時刻が、機内制御部180に内蔵されているリアルタイムクロックによって補間されてもよい。また、記録装置100では、位置検出装置120によって測定された時刻が用いられるが、機内制御部180のリアルタイムクロックによる時刻が用いられてもよい。
【0026】
撮像装置110が撮像した画像データは、位置データと同様に、時刻に関連付けられて機内記録部160に格納される。
【0027】
慣性計測装置130は、撮像装置110と一体的に構成(固定)されている。慣性計測装置130は、例えば、IMU(Inertial Measurement Unit)である。慣性計測装置130は、撮像装置110の姿勢および移動態様を検出する。撮像装置110の姿勢は、具体的には、撮像装置110における互いに直交する3軸の各軸周りの角度(ロール、ピッチ、ヨー)である。撮像装置110の移動態様は、例えば、撮像装置110における互いに直交する3軸の各軸方向の加速度、および、速度などである。
【0028】
具体的には、慣性計測装置130は、撮像装置110の各軸方向の加速度を検出する加速度計と、撮像装置110の各軸周りの角速度を検出する角速度計とを含んで構成される。
【0029】
ここで、検出された角速度を積分することで、撮像装置110の各軸周りの角度を導出することができる。また、検出された角速度を微分することで、撮像装置110の各軸周りの角加速度を導出することができる。また、検出された加速度を積分することで、撮像装置110の各軸方向の速度を導出することができる。このとき、積分によって導出される角度および速度については、時間とともにドリフトするため、位置検出装置120を用いて補正が行われる。なお、補正は、位置検出装置120および重力センサを用いて行われてもよい。補正方法は、既存の技術を用いればよいため、説明を省略する。
【0030】
慣性計測装置130による撮像装置110の姿勢を示す姿勢データ(具体的には、撮像装置110の角度を示す角度データ)、および、移動態様を示す移動態様データ(具体的には、撮像装置110の速度を示す速度データ、加速度を示す加速度データ、角速度を示す角速度データ、角加速度を示す角加速度データ)は、時刻に関連付けられて機内記録部160に格納される。
【0031】
MEMS140は、撮像装置110と一体的に構成(固定)されている。MEMS140は、各種のセンサ、アクチュエータおよび電子回路を微細加工して集積したデバイスである。MEMS140は、例えば、機内の圧力、機内の温度および磁方位を検出する。検出された圧力を示す圧力データ、温度を示す温度データ、磁方位を示す磁方位データは、時刻に関連付けられて機内記録部160に格納される。なお、MEMS140は、慣性計測装置130と同様に、撮像装置110の各軸方向の加速度および各軸周りの角速度を検出してもよい。
【0032】
収音装置150は、例えば、マイクロフォンであり、操縦室内の音を収音する。収音装置150によって得られた音データは、時刻に関連付けられて機内記録部160に格納される。
【0033】
機内記録部160は、例えば、フラッシュメモリである。機内記録部160には、撮像装置110による画像データ、位置検出装置120による位置データ、慣性計測装置130による姿勢データおよび移動態様データ、MEMS140による圧力データ、温度データおよび磁方位データ、収音装置150による音データが時刻に関連付けられて格納される。
【0034】
機内インターフェース部170は、例えば、USB(Universal Serial Bus)端子である。機内インターフェース部170は、USBケーブルなどによって抽出装置200に接続されることで、抽出装置200との間でデータの送受信を行う。
【0035】
機内制御部180は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成される。機内制御部180は、記録装置100全体を統括制御する。バッテリ190は、記録装置100の各部を動作させるための電力を記録装置100の各部に供給する。
【0036】
抽出装置200は、例えば、地上におけるパーソナルコンピュータなどである。なお、抽出装置200は、パーソナルコンピュータに限らず、例えば、専用装置として構成されてもよいし、タブレットコンピュータのような持ち運び可能なデバイスに組み込まれてもよい。抽出装置200は、機外インターフェース部210、機外制御部220、機外記録部230を含んで構成される。
【0037】
機外インターフェース部210は、例えば、USB端子である。機外インターフェース部210は、例えば、USBケーブルなどによって記録装置100に接続されることで、記録装置100との間でデータの送受信を行う。ここでは、記録装置100の機内インターフェース部170と抽出装置200の機外インターフェース部210とが、航空機1の飛行が終了した後(つまり、着陸後)において接続される。これにより、記録装置100によって飛行時に記録された各種のデータ(画像データなど)が、飛行が終了した後において、抽出装置200に送信される。なお、機内インターフェース部170および機外インターフェース部210は、有線によってデータの送受信を行う態様に限らず、無線によってデータの送受信を行ってもよい。
【0038】
機外制御部220は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成される。機外制御部220は、抽出装置200全体を統括制御する。機外制御部220は、プログラムを実行することで、抽出部222およびデータ加工部224として機能する。
【0039】
機外記録部230は、例えば、ハードディスクドライブである。機外記録部230は、機外インターフェース部210を介して記録装置100から受信した各種のデータ(画像データなど)を記録する。また、機外記録部230は、抽出部222によって得られたデータおよびデータ加工部224によって得られたデータを記録する。
【0040】
抽出部222は、記録装置100によって記録された画像データから、計器4および操縦装置5によって示される飛行時の飛行データを抽出する。飛行データは、航空機1の運行に関する各種のデータ(例えば、姿勢データや高度データなど)である。以下、抽出部によって抽出された飛行データを抽出飛行データと呼ぶことがある。抽出飛行データは、撮像装置110による画像から直接に導き出されるデータである。
【0041】
ここで、計器4の画像には、計器4における数値や指針の指示値などが表示されている。そこで、抽出部222は、計器4の画像についての画像解析を行って、計器4によって示される飛行データを抽出する。例えば、抽出部222は、姿勢表示計の画像から目盛りと姿勢を示す指針とを抽出し、抽出した目盛りと指針とによって姿勢データを導出する。また、抽出部222では、位置検出装置120、慣性計測装置130およびMEMS140から検出することができないデータ(例えば、エンジンの出力を示す出力データ)を抽出することができる。
【0042】
また、操縦装置5の画像には、操縦装置5の操作量や操作状態などが表示されている。そこで、抽出部222は、操縦装置5の画像についての画像解析を行って、操縦装置5によって示される飛行データを抽出する。例えば、抽出部222は、操縦桿の画像から操縦桿の傾倒方向と傾倒角度とを抽出し、抽出した傾倒方向と傾倒角度とによって旋回方向および旋回角度を導出する。なお、抽出部222は、操縦室内から見える機外の様子を示す画像の時間変化に基づいて、旋回方向および旋回角度を導出してもよい。
【0043】
抽出部222は、抽出飛行データの抽出を、画像データに含まれるすべての計器4およびすべての操縦装置5の画像について行う。このため、抽出装置200は、航空機1の飛行時の飛行データをすべて取得することができる。抽出部222による抽出飛行データは、時刻に関連付けられて機外記録部230に格納される。
【0044】
なお、抽出部222は、計器4や操縦装置5がパイロット2の手によって遮られて一時的に撮像されていない場合、撮像されていない期間の飛行データを、撮像されている期間の飛行データから補完して生成してもよい。また、抽出部222は、撮像されていない期間の飛行データ(例えば、姿勢表示計の画像から抽出されるべき姿勢データ)を、撮像装置110以外の装置により取得された飛行データ(例えば、慣性計測装置130により取得された姿勢データ)によって補完してもよい。
【0045】
データ加工部224は、抽出部222による抽出飛行データに加工を施して、抽出飛行データとは異なる飛行データである加工飛行データを導出する。加工飛行データは、複数の抽出飛行データに基づいて間接的に導出されるデータである。データ加工部224による加工飛行データは、時刻に関連付けられて機外記録部230に格納される。
【0046】
例えば、データ加工部224は、抽出飛行データのうちの位置データや高度データの推移に基づいて、航空機1が通った移動経路を示す移動経路データを導出する。また、データ加工部224は、位置データや高度データとそれらに対応する気象データとの推移に基づいて、航空機1の飛行環境の推移(例えば、台風内を通過したかなど)を示す環境データを導出する。このような加工飛行データは、航空機1のトラブルの原因調査などにおいて、有効に利用される。
【0047】
ここで、抽出装置200は、撮像装置110による画像データだけでなく、位置検出装置120による位置データ、慣性計測装置130による姿勢データおよび移動態様データも受信する。これら位置データ、姿勢データおよび移動態様データは、画像データから抽出されたものではなく、位置検出装置120および慣性計測装置130によって検出されたものである。位置検出装置120および慣性計測装置130は、撮像装置110と一体的に構成されているため、位置データ、姿勢データおよび移動態様データは、撮像装置110を基準とした値となる。しかし、位置検出装置120、慣性計測装置130および撮像装置110は、パイロット2の動きに応じて動く。このため、撮像装置110の各軸と航空機1の各軸とは異なる。
【0048】
そこで、データ加工部224は、撮像装置110を基準とした位置データ、姿勢データおよび移動態様データを、撮像装置110による画像データに基づいて、航空機1を基準とした位置データ、姿勢データおよび移動態様データに座標変換する。つまり、データ加工部224は、撮像装置110を基準とした位置データ等から、パイロット2の動き分を引いて、航空機1を基準とした位置データ等を導出する。以下、座標変換された飛行データ(位置データ、姿勢データおよび移動態様データ)を変換飛行データと呼ぶことがある。データ加工部224による変換飛行データは、時刻に関連付けられて機外記録部230に格納される。
【0049】
まず、画像データにより示される画像において基準点の設定が行われる。基準点は、パイロット2の動きを導出するための指標となる位置である。基準点は、例えば、計器盤3自体における上側中央、下側中央、左側中央、右側中央の4箇所に設定される。なお、基準点の数は、4個に限らず、2個以上の複数個であればよい。また、基準点は、この例に限らず、例えば、所定の計器4の中央などに設定されてもよい。また、基準点の設定については、データ加工部224が画像解析を行うことで自動的に設定してもよいし、抽出装置200を使用するユーザが手動で設定してもよい。データ加工部224は、時間の経過に応じて変化する画像において基準点の位置を追従することで座標変換を行う。なお、座標変換が不十分である場合、基準点の再設定を行った後に、座標変換を再度行ってもよい。
【0050】
例えば、パイロット2が前方に平行移動したとすると、計器盤3の右側中央の基準点は右側に移動し、計器盤3の左側中央の基準点は左側に移動する。このとき、右側中央の基準点および左側中央の基準点の画像が拡大されるため、撮像装置110と右側中央の基準点との距離、および、撮像装置110と左側中央の基準点との距離が短くなる。このため、データ加工部224は、撮像装置110と基準点との距離の変化量から撮像装置110が前後方向に移動していることを判断する。そして、データ加工部224は、位置検出装置120による位置データから、右側中央の基準点の位置の変化量または左側中央の基準点の位置の変化量を引く。これにより、パイロット2の前後方向の移動分を除いた航空機1の位置データが導出される。
【0051】
また、例えば、パイロット2が右方向に平行移動したとすると、計器盤3の右側中央の基準点および左側中央の基準点は左方向に移動する。このとき、右側中央の基準点の画像が拡大され、左側中央の基準点の画像が縮小される。つまり、撮像装置110と右側中央の基準点との距離が短くなり、撮像装置110と左側中央の基準点との距離が長くなる。このため、データ加工部224は、撮像装置110と右側中央の基準点との距離の変化量、および、撮像装置110と左側中央の基準点との距離の変化量から、撮像装置110が左右方向に移動していることを判断する。そして、データ加工部224は、位置検出装置120による位置データから、右側中央の基準点の位置の変化量または左側中央の基準点の位置の変化量を引く。これにより、パイロット2の左右方向の移動分を除いた航空機1の位置データが導出される。なお、パイロット2が上下方向に平行移動する場合については、左右方向の平行移動の場合と同様にして、計器盤3の上側中央の基準点および下側中央の基準点に基づいて、航空機1の位置データが導出される。
【0052】
また、例えば、パイロット2がヨー方向に右回転したとすると、計器盤3の右側中央の基準点および左側中央の基準点は左方向に移動する。このとき、右側中央の基準点の画像が縮小され、左側中央の基準点の画像が拡大される。つまり、撮像装置110と右側中央の基準点との距離が長くなり、撮像装置110と左側中央の基準点との距離が短くなる。このため、データ加工部224は、撮像装置110と右側中央の基準点との距離の変化量、および、撮像装置110と左側中央の基準点との距離の変化量から、撮像装置110がヨー方向に回転していることを判断する。そして、データ加工部224は、慣性計測装置130による姿勢データから、右側中央の基準点の位置の変化量に応じた角度の変化量、または、左側中央の基準点の位置の変化量に応じた角度の変化量を引く。これにより、パイロット2のヨー方向の回転分を除いた航空機1の姿勢データが導出される。なお、パイロット2がピッチ方向に回転する場合については、ヨー方向の回転の場合と同様にして、計器盤3の上側中央の基準点および下側中央の基準点に基づいて、航空機1の姿勢データが導出される。
【0053】
また、例えば、パイロット2がロール方向に右回転したとすると、撮像装置110と右側中央の基準点との距離、および、撮像装置110と左側中央の基準点との距離はほとんど変わらない。このため、データ加工部224は、撮像装置110と右側中央の基準点との距離の変化量、および、撮像装置110と左側中央の基準点との距離の変化量から、撮像装置110がロール方向に回転していることを判断する。そして、データ加工部224は、慣性計測装置130による姿勢データから、右側中央の基準点の位置の変化量に応じた角度の変化量、または、左側中央の基準点の位置の変化量に応じた角度の変化量を引く。これにより、パイロット2のロール方向の回転分を除いた航空機1の姿勢データが導出される。
【0054】
また、データ加工部224は、撮像装置110が平行移動していると判断した場合、慣性計測装置130による速度データから、単位時間あたりの基準点の位置の変化量を引き、慣性計測装置130による加速度データから、単位時間あたりの基準点の位置の変化量を微分した値を引く。これにより、パイロット2の動きを除いた航空機1の速度データおよび加速度データが導出される。
【0055】
また、データ加工部224は、撮像装置110が回転していると判断した場合、慣性計測装置130による角速度データから、単位時間あたりの基準点の角度の変化量を引き、慣性計測装置130による角加速度データから、単位時間あたりの基準点の角度の変化量を微分した値を引く。これにより、パイロット2の動きを除いた航空機1の角速度データおよび角加速度データが導出される。
【0056】
このようにして導出された変換飛行データは、例えば、抽出飛行データにおける姿勢データなどのバックアップデータとして利用できる。なお、変換飛行データの利用態様は、抽出飛行データのバックアップに限らない。例えば、変換飛行データと抽出飛行データとにおける同種のデータについての平均値を、その種の飛行データとして用いてもよい。
【0057】
以上のように、第1実施形態による飛行データ記録システム10では、パイロット2に装着される撮像装置110によって計器4および操縦装置5が撮像され、計器4および操縦装置5の飛行時の画像を示す画像データが機内記録部160に記録される。そして、飛行データ記録システム10では、飛行が終了した後において、機内記録部160に記録された画像データから計器4および操縦装置5によって示される飛行時の飛行データが抽出される。このように、飛行データ記録システム10では、記録装置100が固定されたヘルメット6をパイロット2が装着するだけで、飛行データの記録が可能となる。つまり、飛行データ記録システム10では、飛行データ記録装置を追加する大掛かりな改修作業を行う必要がない。
【0058】
したがって、第1実施形態による飛行データ記録システム10によれば、簡易に飛行データを記録することが可能となる。
【0059】
また、飛行データ記録システム10では、撮像装置110がパイロット2に装着されるため、撮像装置110が操縦席の後方の位置において機体に固定される態様に比べ、パイロット2自身によって計器4および操縦装置5の撮像が遮られることを抑えることができる。
【0060】
また、飛行データ記録システム10では、抽出飛行データだけでなく、変換飛行データが導出される。このため、飛行データ記録システム10では、抽出飛行データの一部が十分に取得できなかった場合などにおいて、変換飛行データで補完することができる。したがって、飛行データ記録システム10では、抽出飛行データのみを取得する態様に比べ、飛行データを確実に取得することが可能となる。
【0061】
なお、飛行データ記録システム10では、慣性計測装置130およびMEMS140が記録装置100に設けられていた。しかし、慣性計測装置130およびMEMS140は、記録装置100に設けられなくてもよい。必要な飛行データは、撮像装置110による画像データによって得られるからである。なお、航空機1の位置を計器盤3に表示させる構成とするのであれば、画像データによって位置データが得られるようになるため、記録装置100に位置検出装置120が設けられなくてもよい。
【0062】
また、飛行データ記録システム10では、抽出部222とデータ加工部224とが設けられていた。しかし、飛行データ記録システム10は、抽出部222とデータ加工部224との両方が設けられる態様に限らず、少なくとも抽出部222が設けられていればよく、データ加工部224については、設けられていなくてもよい。
【0063】
また、飛行データ記録システム10では、撮像装置110がパイロット2の頭部に装着されるため、撮像された画像は、パイロット2の向いている方向に対応付けられる。このため、飛行データ記録システム10では、撮像された画像の画像データを、航空機1の飛行データの抽出に用いるだけでなく、パイロット2の視線に関するデータとして用いることが可能である。例えば、飛行データ記録システム10は、パイロット2が所定のタイミングで所定の計器4の確認を行ったか否かを判断する指標として利用することが可能である。また、飛行データ記録システム10は、未熟練のパイロット2の操縦教育などに利用することが可能である。
【0064】
また、記録装置100は、バッテリ190から供給される電力によって動作する。このため、飛行データ記録システム10では、機体から記録装置100に電力を供給するための電源線を設ける必要がなく、配線作業などを行う必要がない。その結果、簡易に飛行データ記録システム10を導入することができる。また、飛行データ記録システム10では、記録装置100がヘルメット6に固定され、機体と記録装置100との間に電源線が設けられないため、パイロット2の飛行操作が妨げられない。
【0065】
なお、慣性計測装置130により得られる角度などのドリフトを補正する方法は、既存の技術に限らず、例えば、抽出飛行データを用いた補正が行われてもよい。
【0066】
(第2実施形態)
第1実施形態による飛行データ記録システム10は、飛行が終了した後において画像データから飛行データを抽出していた。これに対し、第2実施形態による飛行データ記録システムは、飛行時において画像データからリアルタイムに飛行データを抽出する。
【0067】
図3は、第2実施形態による飛行データ記録システム30の構成を示すブロック図である。第2実施形態による飛行データ記録システム30は、第1実施形態における抽出装置200が設けられず、記録装置100に代えて記録装置300が設けられている点において第1実施形態の飛行データ記録システム10と異なる。飛行データ記録システム30では、記録装置300に抽出装置200の機能が含まれている。
【0068】
記録装置300は、機内制御部180に代えて機内制御部380が設けられている。機内制御部380は、プログラムを実行することで、抽出部382およびデータ加工部384として機能する。
【0069】
抽出部382は、抽出飛行データの抽出を、飛行時において画像データが蓄積されるごとに行う。このようにリアルタイムで抽出された抽出飛行データは、時刻に関連付けられて機内記録部160に格納されるとともに、送信部370に送られる。
【0070】
データ加工部384は、加工飛行データの導出を、飛行時において画像データが蓄積されるごとに行う。例えば、航空機1の離陸位置から現在位置までの移動経路を示す移動経路データを導出する。また、データ加工部384は、変換飛行データの導出を、画像データが蓄積されるごとに行う。このようにリアルタイムで導出された加工飛行データおよび変換飛行データは、時刻に関連付けられて機内記録部160に格納されるとともに、送信部370に送られる。
【0071】
送信部370は、記録装置300が取得した各種データを、飛行の終了後において、地上に設けられるパーソナルコンピュータなどに送信する。また、送信部370は、記録装置300が取得した各種のデータを、航空管制室の受信装置などの所定の装置宛てに無線によってリアルタイムで送信してもよい。送信されるデータは、例えば、抽出飛行データ、加工飛行データ、変換飛行データなどである。
【0072】
以上のように、第2実施形態による飛行データ記録システム30では、抽出飛行データ、加工飛行データおよび変換飛行データが飛行時に得られる。このため、第2実施形態による飛行データ記録システム30によれば、飛行の終了後における抽出飛行データ、加工飛行データおよび変換飛行データの導出時間を削減することができ、飛行が終了(着陸)して直ぐに、これら各データを利用することが可能となる。
【0073】
また、飛行データ記録システム30では、抽出飛行データ、加工飛行データおよび変換飛行データをリアルタイムに地上に送信すれば、これら各データを航空機1の飛行中においても利用することができ、航空機1の事故を未然に防止することが可能となる。
【0074】
また、第2実施形態において、航空機1における予め決められた飛行計画が機内記録部160に格納されており、抽出部382は、抽出飛行データが所定の許容範囲内で飛行計画に一致するか否かを判断してもよい。そして、記録装置300には、抽出飛行データが所定の許容範囲を超えて飛行計画と異なる場合にその旨を報知する報知部が設けられてもよい。なお、加工飛行データおよび変換飛行データについても、抽出飛行データと同様に、飛行計画と異なる場合に報知されてもよい。
【0075】
なお、第2実施形態では、抽出部382およびデータ加工部384の両方の機能が記録装置300に設けられていた。しかし、抽出部382およびデータ加工部384の両方の機能が記録装置300に設けられる態様に限らず、例えば、抽出部382の機能を記録装置300に設け、データ加工部384の機能を記録装置300に設けないようにしてもよい。この場合、データ加工部384は、第1実施形態の抽出装置200のような地上に設けられる装置に搭載されてもよい。また、第2実施形態において、データ加工部384の一部の機能(例えば、変換飛行データを導出する機能)を記録装置300に設け、データ加工部384の他の機能(例えば、加工飛行データを導出する機能)を記録装置300に設けないようにしてもよい。この場合、データ加工部384の他の機能が、地上に設けられる装置に搭載されてもよい。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
上記各実施形態において、撮像装置110は、計器盤3(計器4および操縦装置5)および操縦室内から見える機外の様子を撮像していた。しかし、撮像装置110によって少なくとも計器4の撮像が行われればよく、操縦装置5および機外の様子の撮像が行われていなくてもよい。
【0078】
上記各実施形態において、記録装置100、300は、ヘルメット6に固定されていた。しかし、記録装置100、300は、ヘルメット6を介してパイロット2に装着される態様に限らない。例えば、記録装置100、300は、パイロット2の頭部に装着されるバンドに固定されてもよい。また、記録装置100、300が固定される位置は、ヘルメット6の頂部に限らない。撮像装置110は、計器4および操縦装置5を撮像可能であればよく、例えば、ヘルメット6におけるパイロット2の目の近傍に固定されてもよい。また、記録装置100は、ヘルメット6等を介してパイロット2に装着される態様に限らず、操縦室内の機体に固定されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、飛行データ記録システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 航空機
2 パイロット
4 計器
5 操縦装置
10、30 飛行データ記録システム
110 撮像装置
120 位置検出装置
130 慣性計測装置
160 機内記録部
222、382 抽出部
224、384 データ加工部
図1
図2
図3