(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】トイレットペーパー
(51)【国際特許分類】
A47K 10/16 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
A47K10/16 A
(21)【出願番号】P 2017252551
(22)【出願日】2017-12-27
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保井 秀太
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-161900(JP,A)
【文献】特開2015-126771(JP,A)
【文献】特開2010-202986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3又は4プライのトイレットペーパーであって、
巻き硬さが0.55~1.17kgfのトイレットロールのトイレットペーパーであり、
トイレットペーパーの1プライあたり坪量が14.9g/m
2以上16.2g/m
2以下であり、全体としての紙厚が297μm以上435μm以下であり、
その繊維素材がNBKPとLBKPで構成されているとともに、その比率(NBKP/LBKP)が50/50 ~ 30/70であり、保湿剤が塗布されておらず、
片側に平坦な頂面を有し、頂面の面積が0.50~2.50mm
2
、エンボス凹部深さが0.05~0.50mmであるエンボスを、エンボス付与面積が全体の5~20%となるように10mm四方あたりに5~30個形成したものであり、
乾燥引張強度縦が451cN/25mm以上1001cN/25mm以下であり、かつ、
横方向の乾燥引張強度に対する横方向の湿潤引張強度の比が0.09以上である、ことを特徴とするトイレットペーパー。
【請求項2】
吸水速度が
2.4秒以下である請求項1記載のトイレットペーパー。
【請求項3】
水解性が36秒以内である請求項1記載のトイレットペーパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレットペーパーに関する。特に、排泄後の人体の清拭及び人体以外の拭き取りに用いられるトイレットペーパーに関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパーは、主に排泄後の清拭用途に用いられるが、その他の用途は、地方、地域や国によって異なる。そして、トイレットペーパー製品の中には、ほぼ排泄後の清拭用途専用のもののほか、鼻かみなどのフェイシャル用途や各種物品やテーブル等、人体以外の拭き取りなどにもよく用いられる汎用性の高いティシュペーパーの代替品としても用いられるものがある。
【0003】
この種のトイレットペーパーは、使用頻度として高い汎用的なティシュペーパーとしての破れにくさが重要視される一方で、排泄後の清拭用途にも用いられるため、柔らかさ、ふんわり感も求められる。さらに、水洗トイレに廃棄されることも想定して水解性も求められる。
【0004】
しかし、このようなティシュペーパー代替性の性格を強く有するトイレットペーパーは、破れにくさを高めるため厚みがあって硬く、肌ざわり面が専用品に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の主たる課題は、排泄後の清拭用途以外の物品の拭き取り用途など汎用性に優れる強度を有しつつ、肌ざわりにも優れるトイレットペーパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は次のとおりである。
【0008】
その第一の手段は、
3又は4プライのトイレットペーパーであって、
巻き硬さが0.55~1.17kgfのトイレットロールのトイレットペーパーであり、
トイレットペーパーの1プライあたり坪量が14.9g/m2以上16.2g/m2以下であり、全体としての紙厚が297μm以上435μm以下であり、
その繊維素材がNBKPとLBKPで構成されているとともに、その比率(NBKP/LBKP)が50/50 ~ 30/70であり、保湿剤が塗布されておらず、
片側に平坦な頂面を有し、頂面の面積が0.50~2.50mm
2
、エンボス凹部深さが0.05~0.50mmであるエンボスを、エンボス付与面積が全体の5~20%となるように10mm四方あたりに5~30個形成したものであり、
乾燥引張強度縦が451cN/25mm以上1001cN/25mm以下であり、かつ、
横方向の乾燥引張強度に対する横方向の湿潤引張強度の比が0.09以上である、ことを特徴とするトイレットペーパーである。
【0009】
第二の手段は、吸水速度が2.4秒以下である上記第一の手段のトイレットペーパーである。
【0010】
第三の手段は、水解性が36秒以内である上記第一の手段に係るトイレットペーパーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排泄後の清拭用途以外の物品の拭き取り用途など汎用性に優れる強度を有しつつ、肌ざわりにも優れるトイレットペーパーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係るトイレットロールの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係るトイレットペーパーは、例えば、長尺帯状に形成され、紙管に巻かれたロール状のトイレットロールの形態とされているものである。トイレットロールの形態とする場合、その大きさ等は、幅L1が101~106mm、直径L2が100~117mm、巻き長さ(トイレットペーパーの全長)が20~30m、紙管内径L3が35~50mmであるのが望ましい。この大きさであれば一般的なトイレットロール用のペーパーホルダーが利用でき、トイレ空間における排泄後の清拭用途に使用しやすく、また、トイレットペーパーの長さも、上記排泄後の清拭用途のほか、ティシュペーパーのように汎用的に使用するにも十分な長さである。
【0014】
本発明に係るトイレットペーパーは、実質的に保湿剤が塗布等によって外添されていない保湿剤非塗布のものである。外添剤としての保湿剤は、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、ソルビトール、グルコース、キシリトール、マルトース、マルチトール、マンニトール、トレハロース等の糖類といったポリオールが例示できる。但し、保湿性のトイレットペーパーというに値しない程度にしか影響を与えない程度であれば、上記成分が含有されていることは否定されない。保湿剤が塗布されていると強度を確保するのが難しくなる。但し、抄紙時に内添する原紙自体の柔らかさや紙力を定める柔軟剤や柔軟保湿剤は添加されていてもよい。柔軟剤としては脂肪酸エステル系化合物、脂肪酸アミド系化合物が挙げられる。この中でも脂肪酸アミド系化合物は、繊維表面をコーティングする効果を有している。
【0015】
本実施形態に係るトイレットペーパーは、3プライ又は4プライである。つまり、3枚が重ねられて一組となっているか又は4枚が重ねられて一組となっている。3プライ又は4プライのような多プライ構造とすることで、各プライを薄くしつつも全体の紙厚を厚くでき、特に「柔らかさ」と「ふんわり感」といった肌ざわりを高めつつ破れにくくすることができる。なお、2プライであると厚み感が発現し難く、汎用品として物品の清拭に使用する際における破れにくさにおいて弱さを感じやすくなる。また、5プライ以上となると各プライを薄くしても、全体として肌の清拭の際に柔らかさを感じにくくなり、肌ざわりの良さが発現し難くなるとともに、各プライを薄くしすぎると破れやすくなる。また、特に、5プライ以上の場合、エンボスを付与すると剛性感が強く感じられるようになる。本実施形態に係るトイレットペーパーは、3プライ又は4プライの何れかにおいて次のような特性とすることで、破れにくさと肌ざわりに優れるものとなる。
【0016】
本実施形態に係るトイレットペーパーは、3プライ又は4プライであって、下記の坪量、紙厚、縦方向の乾燥引張強度及び横方向の乾燥引張強度に対する横方向の湿潤引張強度の比をすべて満たす場合に、破れにくさと肌ざわりに優れるものとなる。
【0017】
その本実施形態に係るトイレットペーパーは、1プライあたり坪量が14.9g/m2以上16.2g/m2以下である。1プライの坪量がこの範囲内であれば上記3又は4プライの際に、十分な破れにくさと肌ざわりの良さとすることができ、また、水解性を発現させやすくなる。
【0018】
本実施形態に係るトイレットペーパーは、3プライ又は4プライの全体としての紙厚が297μm以上435μm以下である。紙厚がこの範囲であれば上記坪量で3又は4プライの際に、十分な破れにくさを確保でき、さらに肌ざわり、特に柔らかさの良さとすることができる。
【0019】
なお、本発明に係る坪量とは、JIS P 8124(1998)の坪量測定方法によるものである。紙厚は、試験片をJIS P 8111(1998)の条件下で十分に調湿した後、同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて測定した値とする。具体的には、プランジャーと測定台の間にゴミ、チリ等がないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし、前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ、次いで、プランジャーを上げて試験片を測定台の上におき、プランジャーをゆっくりと下ろしそのときのゲージを読み取る。測定時には、金属製のプランジャーの端子(直径10mmの円形の平面)が紙平面に対し垂直に当たるように留意する。なお、この紙厚測定時の荷重は、約70gfである。
【0020】
本実施形態に係るトイレットペーパーは、縦方向の乾燥引張強度が451cN/25mm以上1001cN/25mm以下である。この乾燥引張強度は、排泄後の拭き取り専用品と比較すると非常に高い値である。まず、本実施形態のトイレットペーパーは、このような高い乾燥引張強度であることにより汎用的に使用した際において十分に破れにくい。また、縦方向の乾燥引張強度が高いと肌ざわりの特に滑らかさが発現しやすくなる。
【0021】
本実施形態のトイレットペーパーでは、横方向の乾燥引張強度に対する横方向の湿潤引張強度の比が0.09以上である。これは従来品より高い値である。ここで、特に「横方向の乾燥引張強度」は、「柔らかさ」、「ふんわり感」といった個別の官能性ではなく、総括的な「肌ざわり」の官能性に影響があるとされる。被験者に対して「柔らかさ」、「ふんわり感」といった具体的な評価基準ではなく、試料に対して自由に触れさせた後に「肌ざわり」という総合的な評価基準のみでティシュペーパーを評価すると、この「肌ざわり」の評価と「横方向の乾燥強度」とに一定の相関があることが知見されている。横方向の乾燥引張強度は、180cN/25mm以上395cN/25mm以下であることが望ましい。一方で、横方向の湿潤紙力は、紙の強度を表す指標の中で最も弱い値を示す傾向にある。この横方向の湿潤紙力が高い場合には、濡れた状態での拭き取りの丈夫さや、いわゆるシャワートイレ使用後の清拭時において安心感に優れる。本実施形態に係るトイレットロールは、横方向の乾燥引張強度に対する横方向の湿潤引張強度の比が0.09以上と高い。つまりは、肌ざわりと丈夫さとのバランスに優れるものである。ここで、横方向の湿潤引張強度については、トイレ空間における排泄後の清拭用途等の実使用において破れないこと、拭き取り時の安心感があることが必要であるという点から、25cN/25mm以上40cN/25mm以下であることが望ましい。この範囲において、上記湿潤引張強度横/乾燥引張強度横の比率が、0.09以上となっていると、使用時の柔らかさを確保するうえで非常に好ましい。
【0022】
なお、紙の縦方向とは、MD方向とも呼ばれ、抄紙の際の流れ方向である。紙の横方向は、CD方向とも呼ばれ、抄紙の際の流れ方向(MD方向)に直行する方向である。また、本発明に係る乾燥引張強度は、JIS P 8113(2006)に基づいて測定した値であり、次のようにして測定する。試験片は縦・横方向ともに巾25mm(±0.5mm)×長さ150mm程度に裁断したものを用いる。試験片は複数プライのまま測定する。試験機は、ミネベア株式会社製ロードセル引張り試験機TG-200N及びこれに相当する相当機を用いる。なお、つかみ間隔100mm、引張速度は100mm/minに設定する。測定は、試験片の両端を試験機のつかみに締め付け、紙片を上下方向に引張り荷重をかけ、紙が破断する時の指示値(デジタル値)を読み取る手順で行う。縦方向、横方向ともに各々5組の試料を用意して各5回ずつ測定し、その測定値の平均を各方向の乾燥引張強度とする。製品は製品のプライ数に合わせて、複数枚重ねて乾燥引張強度を測定した。原紙についても製品のプライ数に合わせて、複数枚重ねて乾燥引張強度を測定した。
【0023】
また、湿潤引張強度は、JIS P 8135(1998)に基づいて測定した値であり、次のようにして測定する。試験片は縦・横方向ともに巾25mm(±0.5mm)×長さ150mm程度に裁断したものを用いる。ティシュペーパーは複数プライの場合は複数プライのまま測定する。試験機は、ミネベア株式会社製ロードセル引張り試験機TG-200N及びこれに相当する相当機を用いる。なお、つかみ間隔100mm、引張速度は50mm/minに設定する。試験片は、105℃の乾燥機で10分間のキュアリングを行ったものを用いる。試験片の両端を試験機のつかみに締め付けた後、水を含ませた平筆を用い、試験片の中央部に約10mm幅で水平に水を付与し、その後、直ちに紙片に対して上下方向に引張り荷重をかけ、紙が破断する時の指示値(デジタル値)を読み取る手順で測定を行う。縦方向、横方向ともに各々5組の試料を用意して各5回ずつ測定し、その測定値の平均を各方向の湿潤引張強度とする。湿潤引張強度においても製品のプライ数に合わせて、複数枚重ねて湿潤引張強度を測定した。
【0024】
本実施形態のトイレットペーパーは、表面性を示す指標であるMMDの値は6.6以上10.3以下であることが望ましい。MMDが6.6未満であると表面が滑り過ぎて拭き取り性が低下し、10.3超であると肌触りが悪くトイレットペーパーとしての用途に適さないおそれがある。なお、MMDの測定は、
図2に示す測定装置100を用い、摩擦子の接触面を所定方向に20g/cmの張力が付与された測定試料の表面に対して25gの接触圧で接触させながら、張力が付与された方向と略同じ方向に速度0.1cm/sで2cm移動させ、このときの、摩擦係数を、摩擦感テスター KES-SE(カトーテック株式会社製)又はその相当機を用いて測定する。その摩擦係数を摩擦距離(移動距離=2cm)で除した値がMMDである。摩擦子は、直径0.5mmのピアノ線Pを20本隣接させてなり、長さ及び幅がともに10mmとなるように形成された接触面を有するものとする。接触面には、先端が20本のピアノ線P(曲率半径0.25mm)で形成された単位膨出部が形成されているものとする。
【0025】
本実施形態のトイレットペーパーは、ソフトネスは、1.8cN/100mm以上3.5cN/100mm以下であるのが望ましい。ソフトネスは、その値が低いほど柔らかいとされる柔らかさの指標の一つである。ティシュペーパーやトイレットペーパーであれば、1.0cN/100mm以下であれば十分に柔らかいとされる。ソフトネスの測定は、JIS L 1096 E法(1990)に準じたハンドルオメータ法に基づいて測定した値をいう。但し、試験片は100mm×100mmの大きさとし、クリアランスは5mmとする。1プライで縦方向、横方向の各々5回ずつ測定し、その全10回の平均値とする、なお、ソフトネスは、無単位であるが、試験片の大きさを考慮して、cN/100mmを単位として表されることもある。
【0026】
トイレットペーパーの原料パルプ、つまりはトイレットペーパーを構成する繊維素材は、グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;セミケミカルパルプ(CP)、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプなどが挙げられる。パルプ以外の繊維が含まれていてもよい。
【0027】
パルプは、一種または二種以上を選択して用いることができる。好適には填料や異物を含まない化学パルプが好ましい。特には、NBKP(N材あるいは針葉樹パルプともいわれる。)よりもLBKP(L材あるいは広葉樹パルプともいわれる。)を多く含むものを用いる。すなわち、NBKPとLBKPとの比率(NBKP/LBKP)が50/50 ~ 30/70である化学パルプが好適である。LBKPよりもNBKPのほうが、繊維太さが太いため、NBKPが多いほうが嵩高になる。また、原料パルプ中には、藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類が含まれていてもよい。また、古紙パルプが配合されていてもよいが、古紙パルプは「柔らかさ」を発現させがたいことから、バージンパルプのNBKPとLBKPのみから構成されているのが極めて望ましい。
【0028】
他方、パルプ以外の繊維として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらのコポリマー等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維、モダクリル等のアクリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ウレタン繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維等の半合成繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックレーヨン、リヨセル等の再生セルロース系繊維、コラーゲン、アルギン酸、キチン質などを溶液にしたものを紡糸した再生繊維などの化学繊維を含ませることができる。化学繊維を構成するポリマーは、ホモポリマー、変性ポリマー、ブレンド、共重合体などの形であってもよい。
【0029】
他方、本実施形態のトイレットペーパーは、吸水速度が2.4秒以下であるのが望ましい。吸水速度が2.4秒以下であるとこぼした水分の拭き取り時や、いわゆるシャワートイレ使用後の清拭時において迅速に水分を吸収することができる。また、排泄後の清拭用途以外の物品の拭き取り用途、つまり洗面台やトイレの縁、あるいはテーブル上や床のほこり取りなどにおいても使用しやすいものとなる。さらに、トイレットペーパーをロール状の製品とする場合に、製造過程においてテールと称される巻きの末端部分をテール糊で止着することが行われるが、そのテール糊の浸透が迅速となりテール部分の止着が安定して行えるようになる。吸水速度の測定は、旧JIS S 3104(1985)による。吸水度の試験は、滴下する1滴が約0.1mLになるように調整されたピペットなどを使用し、中央部に直径40mm以上の穴のある支持台に試験片(複数枚重ね一組)を置き、役10mmの高さから温度20±1℃の蒸留水1滴を滴下する。水滴が試験片に接触したときから、完全に吸収されて反射光が消えるまでの時間を、0.1秒単位で測定する。試験は5回行い、その平均で判定する。
【0030】
また、本実施形態のトイレットペーパーは、水解性が36秒以内であるのが望ましい。水解性が36秒以内であれば、水洗トイレ等に流水廃棄した際に配管を詰まらせるおそれが各段に小さくなる。この水解性(ほぐれやすさ)の測定は、JIS P 4501(1993)による。ほぐれやすさの試験は、水300mL(水温20±5℃)を入れた300mLのビーカーをマグネチックスターラーに載せ、回転子の回転数を600±10回転/分になるように調整する。その中に一辺が114±2mm角の試験片を投入し、ストップウォッチを押す。回転子の回転数は試験片の抵抗によって、いったん約500回転に下降し、試験片がほぐれるに従い回転数は上昇する。この回転数が540回転までに回復した時点でストップウォッチを止め、その時間を1秒単位で測定する。ほぐれやすさの結果は、試験を5回行い、その平均で表す。回転子は、直径35mm、厚さ12mmの円盤状のものとする。
【0031】
本実施形態のトイレットペーパーにおいて、乾燥引張強度及び湿潤引張強度の調整は、乾燥紙力増強剤や湿潤紙力増強剤を紙料或いは湿紙に内添することにより容易に行うことができ望ましいが、プライ数、パルプ種及びパルプ配合比率等の紙力剤を用いない方法によって調整してもよい。湿潤紙力増強剤は、湿潤紙力と水解性とのバランスをとりやすい。
【0032】
乾燥紙力増強剤としては、澱粉、ポリアクリルアミド、CMC(カルボキシメチルセルロース)若しくはその塩であるカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース亜鉛等が挙げられる。乾燥紙力増強剤を内添する場合、パルプスラリーに対して、1.0kg/パルプt以下程度添加すればよい。
【0033】
湿潤紙力増強剤としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素樹脂、酸コロイド・メラミン樹脂、熱架橋性塗工PAM等が挙げられる。湿潤紙力剤を用いる場合、一時性湿潤紙力剤(一過性湿潤紙力剤)がより望ましい。特にカチオン性の一時性湿潤紙力剤が望ましい。一時性湿潤紙力剤は、水と接触した直後の紙の強度を本質的に維持しつつ、その後速やかに紙の湿潤強度を低下させる。よって、水分を拭き取り時の水分量程度では表面が粗くなったり破れたりせず、汎用性、特に汎用的に行う水分の拭き取りに優れる強度を有しつつ、肌ざわりにも優れるものとなるとともに、廃棄時の多量の水、例えば水洗トイレでの水流で崩壊させることができる。一時性湿潤紙力剤としては、例えば、星光PMC株式会社社製のTS-20、グリオキシル化ポリアクリルアミド、カチオン性グリオキシル化ポリアクリルアミドなどのポリマーアルデヒド-官能性化合物、グリオキザールの二価のアルデヒドで変性したアクリルアミドモノマーと他の共重合可能な不飽和モノマーの共重合体又はジアルデヒド澱粉等が挙げられる。これらは複数種もちいてもよい。湿潤紙力増強剤を添加する場合、紙中の含有量は0.5~20.0kg/パルプt程度である。好ましい含有量は、1.0~12.0kg/パルプtである。より好ましい含有量は、4.0~8.0kg/パルプtである。0.5kg/パルプt未満であると湿潤紙力が十分に高まらない場合があり、20.0kg/パルプt超であると水解性が遅すぎることになる場合がある。
【0034】
他方、本実施形態に係るティシュペーパーは、3プライ又は4プライのティシュペーパーであるが、エンボス加工がされていてもよい。より好ましくは、エンボス加工による凸部がプライの積層内側に向くダブルエンボスであるのが望ましい。ダブルエンボスの場合、3プライの場合であれば1~2プライについてエンボス加工がされ、4プライの場合であれば、1~3プライにエンボス加工がされているのが望ましい。つまり、プライ中にエンボス加工されていないプライがあってもよい。また、凸部の頂部にデンプン、カルボキシメチルセルロース、水性インキ等の公知のラミネート糊を付与して凸部頂部を介してプライ同士を接着した構造を有するラミネートエンボス加工されているのが望ましい。エンボス加工における個々のエンボスの面積、深さ、範囲は必ずしも限定されないが、片側に実質的に平坦な頂面を有し、頂面の面積が0.50~2.50mm2、エンボス凹部深さが0.05~0.50mmであるエンボスを、エンボス圧付与面積が全体の5~20%となるように10mm四方あたりに5~30個形成したものであるのが望ましい。エンボス凹部深さは、株式会社キーエンス社製ワンショット3D測定マクロスコープ VR-3200又はその相当機と、画像解析ソフトウェア「VR-H1A」又はその相当ソフトウェアにより測定した値である。測定は、倍率12倍、視野面積24mm×18mmの条件で測定する。但し、倍率と視野面積は、エンボスの大きさによって、適宜変更することができる。具体的な測定手順は、上記ソフトウェアを用いて、画像中の一つのエンボスの周縁の最長部を横切る線分におけるエンボス凹部深さ(測定断面曲線)プロファイルを得る。このエンボス凹部深さプロファイルの断面曲線からλc:800μm(但し、λcはJIS-B0601「3.1.1.2」に記載の「粗さ成分とうねり成分との境界を定義するフィルタ」)より短波長の表面粗さの成分を低域フィルタによって除去して得られる「輪郭曲線」のうち、上に凸となる2つの変曲点P1,P2と、変曲点P1,P2で挟まれる最小値を求め、深さの最小値Minとする。さらに、変曲点P1,P2の深さの値の平均値を深さの最大値Maxとする。このようにして、エンボス凹部深さ=最大値Max-最小値Minとする。又、変曲点P1,P2のX-Y平面上の距離(長さ)を最長部の長さと規定する。同様にして、最長部に垂直な方向での最短部についてもエンボス凹部深さを測定し、大きい方の値をエンボス凹部深さとして採用する。以上の測定を、トイレットペーパー表面の任意の10個のエンボスについて行い、その平均値を最終的なエンボス凹部深さとする。
【0035】
他方、本実施形態のトイレットペーパーは、特にトイレットロールの形態とするに適する。本実施形態のトイレットペーパーによるトイレットロールの好ましい形態は、巻き硬さが0.55~1.17kgfであり、巻き長さが20~30mであり、巻径が100~117mmであるのが望ましい。巻き硬さは、ムラテックKDS株式会社製πゲージ又はその相当機により測定する。具体的には、πゲージをロール円周に巻き付けてロール接線方向に左右に引っ張ることでロール中央部を絞り、ロール中央部の径が元の状態から3mm縮んだ時の張力をプッシュプルゲージで測定した。巻径の同様にπゲージにより測定した。ここで云うπゲージとは、ステンレス製のメジャーでロール円周に巻き付け、その長さから直径を読み取るものである。
【0036】
以下、実施例を参照しながらさらに本発明にかかるトイレットペーパーの効果について説明する。
【実施例】
【0037】
本発明の実施例(実施例1~9)、比較例1~4さらに従来例1~6にかかるトイレットペーパーに係るトイレットロールを製造し、そのトイレットロールに巻かれたトイレットペーパーについて物性値及び組成値を測定するとともに、「濡れたときの丈夫さ/破れにくさ(対物)」、「肌さわりの柔らかさ」、「ふんわり感」、「滑らかさ」について官能試験を行った。坪量、紙厚、乾燥及び湿潤の引張強度、MMD、ソフトネス、巻き硬さ、吸水速度及び水解性の測定方法は上述のとおりである。
【0038】
官能評価の試験方法は下記のとおりである。試験は、評価者15名で行い、評価者1名あたり各試料について5回評価し、異常値点数を排除したその平均をある試料におけるその評価者の点数とする。また、従来例1の点数を4点として、各試料1~7点で点数付けし各評価者の平均値を算出して点数化する。なお、本評価は、評価者9名で、評価者1名あたり各試料について5回評価すれば、十分に偏りのない評価ができる。
【0039】
試料となるトイレットペーパーは、比較例4種、実施例9種、市販品である従来例6種の合計19種とした。なお、基準試料となる市販品の従来例1は、最もシェアの高いトイレットペーパーであり、最も多くの消費者が触れている試料である。
【0040】
官能評価の項目は、「濡れたときの丈夫さ/破れにくさ(対物)」、「肌さわりの柔らかさ」、「ふんわり感」、「滑らかさ」の4項目である。
【0041】
「濡れたときの丈夫さ/破れにくさ(対物)」は、洗面台(TOTO コンパクト手洗器(ハンドル式水栓)LSL870AP)の内側部分の陶器表面の水分を拭き取り、そのときに破れがなくしっかりと拭き取れたかどうかを、基準試料の点数を4として7段階で点数付けした。
【0042】
「肌さわりの柔らかさ」は、評価者がトイレットペーパーを引き出し、手でなぞって触ったときの肌さわりの柔らかさを、基準試料の点数を4として7段階で点数付けした。
【0043】
「ふんわり感」は、評価者がトイレットペーパーを引き出し、丸めて、触ったときのふんわり感を、基準試料の点数を4として7段階で点数付けした。
【0044】
「滑らかさ」は、評価者がトイレットペーパーを引き出し、手でなぞって触ったときの滑らかさを、基準試料の点数を4として7段階で点数付けした。
【0045】
【0046】
表1の官能評価の結果を確認すると、本発明に係る実施例は、「濡れたときの丈夫さ/破れにくさ(対物)」、「肌さわりの柔らかさ」、「ふんわり感」、「滑らかさ」の各官能評価において各従来例よりも格段に優れた値となっている。他方で、比較例と比較してみても「濡れたときの丈夫さ/破れにくさ(対物)」、「ふんわり感」、「滑らかさ」については各段に優れる結果となった。「肌さわりの柔らかさ」については比較例3の評価が高いが、実施例は3プライ又は4プライに対して比較例3は2プライであることを考慮すると、実施例は多プライでありながら2プライの比較例3と同等以上の「肌さわりの柔らかさ」になっていると評価できる。さらに、本発明に係る実施例は、官能評価に優れるとともに吸水速度が従来例及び比較例より各段に高く丈夫さもある。つまり、本発明に係るトイレットペーパーは、人体以外の拭き取り用途において破れにくく、さらに人の清拭時における肌ざわりに優れるトイレットペーパーとなっている。
【符号の説明】
【0047】
1…トイレットロール、10…トイレットペーパー、20…紙管、L1…トイレットロールの幅、L2…トイレットロールの直径、L3…紙管径、100…MMD測定装置。