(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】磁気センサを用いた磁性体の漏洩磁束検出装置及び漏洩磁束検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/83 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
G01N27/83
(21)【出願番号】P 2018010256
(22)【出願日】2018-01-25
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2017023678
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390009667
【氏名又は名称】セイコーNPC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【氏名又は名称】千葉 太一
(72)【発明者】
【氏名】星野 佑太
(72)【発明者】
【氏名】森平 浩史
(72)【発明者】
【氏名】新谷 恒弘
(72)【発明者】
【氏名】松村 修美
(72)【発明者】
【氏名】塩道 行正
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博史
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/197239(WO,A1)
【文献】特開2016-170059(JP,A)
【文献】特開平06-281625(JP,A)
【文献】特開2010-014701(JP,A)
【文献】特開2011-013087(JP,A)
【文献】特開平05-072180(JP,A)
【文献】特開平06-294853(JP,A)
【文献】特開2002-022705(JP,A)
【文献】特開2016-061709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を励磁する磁化器と、前記磁性体に対向配置されて前記磁性体の内部介在物・キズ・空
隙に起因した漏洩磁束を検出するTMR磁気センサを有する磁気センサモジュールと、前記TMR磁気センサの感磁方向にバイアス磁界を印加するバイアス付与手段とを備え
、前記磁気センサモジュールは、前記複数のTMR磁気センサを搭載する配線基板を有し、前記磁性体と前記TMR磁気センサを構成するセンサチップとの距離を小さくするために、当該センサチップを前記磁性体の表面に対向する前記配線基板の端部に沿って複数配置したことを特徴とする磁気センサを用いた磁性体の漏洩磁束検出装置。
【請求項2】
前記バイアス付与手段は、前記磁化器が兼ねるか、または前記磁化器に加えてバイアス付与補助手段を有してなることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサを用いた磁性体の漏洩磁束検出装置。
【請求項3】
前記磁気センサモジュール
を高感度で使用できるように、前記バイアス付与手段によって前記TMR磁気センサに印加されるバイアス磁界が0エルステッド付近の低感度領域に隣接する前記TMR磁気センサの感度が線形領域の範囲である高感度領域となるように印加されることを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載の磁気センサを用いた磁性体の漏洩磁束検出装置。
【請求項4】
前記磁
性体を所定方向に動かして漏洩磁束を検出する装置であり、前記磁性体からの垂直方向の漏洩磁束を検出するために、前記複数のTMR磁気センサは、前記磁性体の動く方向と直角の方向に配置され、前記動く方向に励磁されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の磁気センサを用いた磁性体の漏洩磁束検出装置。
【請求項5】
前記磁
気センサモジュールの感度が最も高い付近にバイアス磁界を与えるために、前記磁化器のN極とS極の間の中心位置から適正に離れた位置に当該磁気センサモジュールを配置することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気センサを用いた磁性体の漏洩磁束検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の漏洩磁束検出装置を用いて前記磁性体の漏洩磁束を検出する方法において、前記磁化器により前記磁性体を磁化すると共に、前記バイアス付与手段によって前記TMR磁気センサの感磁方向に0エルステッド付近の低感度領域を超えて、前記TMR磁気センサの感度が線形領域の範囲である高感度領域となるようにバイアス磁界を印加することを特徴とす
る磁気センサを用いた磁性体の漏洩磁束検出
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを用いた磁性体の内部介在物・キズ・空隙などに起因した漏洩磁束を検出する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気センサを用いる検査装置は、漏洩磁束などの磁気特性を検出するものであるが、検査の対象としては磁性を有する磁性体或いは非磁性体がある。また、磁気センサとしては、ホール素子やTMR(Tunneling Magneto Resistance)素子、その他の素子を用いた磁気センサが知られている。特許文献1には、磁気ラインセンサを用いて、非磁性体である紙幣や有価証券等の紙葉類に磁気インクで印刷された磁気パターンを検出することが記載されている。前記磁気ラインセンサは、回路基板の表面側に、磁性体に対する感磁方向が長手方向である磁気センサ素子が、センサ素子長手方向に対して垂直に狭ピッチで多数配置されて構成される。また、前記回路基板の裏面側には、各磁気センサ素子にバイアス磁界を加える永久磁石が配置されている。
【0003】
特許文献1に記載された発明は、分解能を高めて、磁気パターンをその存在を検出するだけではなく、磁気画像としての検出にも適用できる磁気ラインセンサを提供するものであって、当該磁気ラインセンサは、磁性体の感磁方向が長手方向である磁気センサ素子を用いた磁気センサを磁気センサ素子の長手方向に対してほぼ垂直に狭ピッチで多数配置してなるものである。この磁気ラインセンサは、磁気パターンを設けた被検出媒体の搬送方向と磁気センサ素子の長手方向が一致するように配置して使用する。
【0004】
また、特許文献2には、磁性体である薄鋼板の表面や内部の欠陥検出において、磁気センサを用いて磁場を検出する漏洩磁束探傷法に係る発明が開示されている。この発明は、試験体を磁化する磁化器と、欠陥に起因して発生した磁場を検出する磁気検出部と、前記磁気検出部に対応した発光素子を備えた磁気探傷用プローブを有し、前記磁気検出部からの出力信号の演算結果により、前記発光素子の点灯を判定する機能を備えた磁場可視化センサ及び当該磁場可視化センサを備えた磁気探傷用プローブを提供するものである。この発明は、磁化器から磁気センサに漏洩する磁束と試験体内の欠陥に起因して試験体外に漏洩する磁束を識別し、さらに欠陥をその場で視認できる機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の磁気ラインセンサは、非磁性体である紙葉類に磁気インクで印刷された磁気パターンを検出することを目的とするものであって、特許文献1には、磁性体(例えば薄鋼板)の製造時に内在する異物に対する検査については何も記載されていない。特許文献1の磁気ラインセンサを磁性体の内部介在物・キズ・空隙などの検査に適用した場合には、このような検査に精度よく適合するように、磁性体とセンサとの位置関係、素子構成、磁界印加手段などについて創意工夫をする必要がある。また、特許文献2に記載された漏洩磁束探傷法を磁性体の内部介在物・キズ・空隙などの検査に適用するためには、基板デザイン、素子構成、磁界印加手段等において更なる創意工夫が必要である。
【0008】
また、特許文献1に開示された発明では、TMR磁気センサを用いて発明を説明しているが、使用される磁気センサは、これに限るものではないとしている(特許文献1の段落0028参照)。また、特許文献2に開示された発明では、ホール素子を用いて発明を説明しているが、磁気センサは、ホール素子に限るものではないとしている(特許文献2の段落0014参照)。ホール素子は、磁気センサとして、良好な直線性感度を有しているが、感度が低く、周辺温度の影響を受け易いという短所がある。これに対して、前記TMR磁気センサは、高感度であり、温度特性に優れている。
本発明は、このような事情によりなされたものであり、TMR磁気センサを磁気センサとして高感度で用いることによって特性を向上させた磁性体の漏洩磁束検出装置及びこの検出装置を使用した漏洩磁束検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁性体の漏洩磁束検出装置の一態様は、磁性体を励磁する磁化器と、前記磁性体に対向配置されて前記磁性体の内部介在物・キズ・空隙などに起因した漏洩磁束を検出するTMR磁気センサを有する磁気センサモジュールと、前記TMR磁気センサの感磁方向にバイアス磁界を印加するバイアス付与手段とを備えたことを特徴としている。前記バイアス付与手段は、前記磁化器が兼ねると好適であるが、磁化器に加えて永久磁石などのバイアス付与補助手段を有するようにしても良い。前記磁気センサモジュールは、前記複数のTMR磁気センサを搭載する配線基板を有し、前記磁性体と前記TMR磁気センサを構成するセンサチップとの距離を小さくするために、当該センサチップを前記磁性体の表面に対向する前記配線基板の端部に沿って複数配置するようにしても良い。前記磁気センサモジュールを高感度で使用できるように、前記バイアス付与手段によってTMR磁気センサに印加されるバイアス磁界が0Oe(以下「エルステッド」という場合もある。)付近の低感度領域に隣接する前記TMR磁気センサの感度が線形領域の範囲である高感度領域となるように印加されるようにしても良い。前記磁性体からの垂直方向の漏洩磁束を検出するために、前記複数のTMR磁気センサは、前記磁性体の動く方向と直角の方向に配置され、前記動く方向に励磁されるようにしても良い。前記磁気センサモジュールの感度が最も高い付近にバイアス磁界を与えるために、前記磁化器のN極とS極の間の中心位置から適正に離れた位置に当該磁気センサモジュールを配置するようにしても良い。
【0010】
本発明の磁性体の漏洩磁束検出方法の一態様は、上述のように構成した漏洩磁束検出装置を用いて前記磁性体の漏洩磁束を検出する方法において、前記磁化器により前記磁性体を磁化すると共に、前記バイアス付与手段によって前記TMR磁気センサの感磁方向に0エルステッド付近の低感度領域を超えて、前記TMR磁気センサの感度が線形領域の範囲である高感度領域となるようにバイアス磁界を印加することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の磁性体の漏洩磁束検出装置は、TMR磁気センサを磁気センサとして高感度状態で用いることによって特性を向上させ、磁性体の漏洩磁束を確実に検出することができ、また、本発明の漏洩磁束検出方法によれば、この漏洩磁束検出装置を使用して磁性体の漏洩磁束を高感度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に係る磁性体の漏洩磁束検出装置の断面図。
【
図2】
図1の漏洩磁束検出装置による磁性体への励磁と漏洩磁束検出を説明する断面図。
【
図3】
図1に示す漏洩磁束検出装置を構成する磁気センサモジュールの平面図。
【
図4】
図3に示す磁気センサモジュールを構成するセンサチップであるTMR磁気センサ及び磁気ラインセンサを拡大して示す平面図。
【
図5】
図3に示す磁気センサモジュール及び当該磁気センサモジュールに接続される画像装置の回路図。
【
図6】実施例2に係る磁気センサモジュール及び当該磁気センサモジュールに接続される画像装置の回路図。
【
図7】実施例1に係る磁気センサモジュールの出力特性図(印加磁界-40Oe~40Oe)。
【
図8】実施例1に係る磁気センサモジュールの出力特性図(印加磁界-0.5Oe~0.5Oe)。
【
図9】実施例1に係る磁気センサモジュールの出力特性図(印加磁界9.5Oe~10.5Oe)。
【
図10】実施例1に係る磁気センサモジュールの各感度領域における空隙検出時の出力電圧を示す特性図。
【
図11】実施例1に係る磁気センサモジュールを構成する磁気ラインセンサが磁性体中に空隙を検出したときの検出信号の波形図。
【
図12】バイアス付与手段が磁気ラインセンサに与えるバイアス磁界の分布図及び励磁ヨーク位置と磁束密度の関係図。
【
図13】磁性体の別の実施例を示す漏洩磁束検出装置の断面図。
【
図14】
図13と同じく磁性体を断面として示す磁気センサモジュールの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ライン状に配列されたTMR磁気センサ(「磁気ラインセンサ」という。)を用いて薄鋼板などの磁性体の内部介在物・キズ・空隙などに起因した漏洩磁束を検出する漏洩磁束検出装置に関するとともに、前記TMR磁気センサの特性を有効に利用して磁性体の漏洩磁束を高感度に検出する方法に関するものである。
以下、
図1-
図5、
図7-
図12を参照して実施例1を説明する。
【実施例1】
【0014】
この実施例における漏洩磁束検出装置は、
図1に示すように、磁性体である薄鋼板30を励磁する磁化器21と、薄鋼板30の内部介在物・キズ・空隙などに起因した漏洩磁束を検出する複数のTMR磁気センサ1(
図4参照)をライン状に配列した磁気ラインセンサ10を配線基板5に搭載した磁気センサモジュール20(
図3参照)と、TMR磁気センサ1の感磁方向にバイアス磁界を印加するバイアス付与手段とを備えている。このバイアス付与手段は、前記磁化器21が兼ねている。また、31は
図1上時計方向に回転可能なロールであり、このロール31にガイドされて、前記薄鋼板30は前記ロール31を含む図示していない搬送装置により
図1上右方向に搬送される。
磁気センサモジュール20は、
図3に示されている。配線基板5の一辺には、その縁に近接して配列された多数のTMR磁気センサ1からなる磁気ラインセンサ10が形成されている。各TMR磁気センサ1は、センサチップとして構成されているので、以下にはセンサチップ1という場合もある。この漏洩磁束検出装置による測定時には対象物の薄鋼板30が配線基板5の複数のTMR磁気センサ1からなる磁気ラインセンサ10が形成された1辺に近接して配置される。また、配線基板5にはアンプICもしくはアンプチップからなる増幅部11が形成されている。増幅部11の位置は、特に限定されないが、磁気ラインセンサ10に近接していることが望ましい。配線基板5の他の辺には端子部7が設けられている。端子部7が設けられる辺は限定されないが、本実施例では、磁気ラインセンサ10が近接して形成されている辺の対向辺に設けられている。端子部7からは、リード18が前記磁気センサモジュール20の外部に延びており、磁気ラインセンサ10によって得られた信号は、配線基板5内部の配線を介して前記端子部7から前記リード18に伝えられる。
配列されたTMR磁気センサ1からなる磁気ラインセンサ10が形成された配線基板5の一部を拡大した平面図が
図4に示されている。
図4において、漏洩磁束検出装置は、測定時、対象物である搬送される薄鋼板30に近接させる必要がある。薄鋼板30の磁気特性、漏洩磁束を効率良く有効に検出するには、磁気センサモジュール20の構成要素である配線基板5の薄鋼板30に近接対向する辺縁に各TMR磁気センサ1の端部を近づける必要がある。
図4では前記辺縁から前記端部までの距離を0.05mmにしている。
【0015】
図4に示すように、磁気ラインセンサ10は、配線基板5の主面に同一構成のTMR磁気センサ1を多数、狭ピッチで一直線上に配置してなるものである。各TMR磁気センサ1は、同一構成の固定抵抗又は低感度TMR素子2と高感度TMR素子3から構成され、両素子2,3共通の出力端子OUTが直列接続された両素子2,3間に形成されてTMR磁気センサ1の長手方向の一端に位置し、電源端子VDDが高感度TMR素子3に接続され前記長手方向の前記一端側に位置して配置され、接地端子GNDが低感度TMR素子2に接続されて前記一端側に接続されている(
図5参照)。
ここで、例えば、磁気ラインセンサ10のTMR磁気センサ1数は154個で、磁気ラインセンサ10における各TMR磁気センサ素子2,3の幅方向のピッチは0.5mmである。
TMR磁気センサ1の長手方向の前記一端とは反対側である他端側は、配線基板5が薄鋼板30に対向した辺と一致している。各TMR磁気センサ1は、配線基板5の薄鋼板30と対向する辺に沿って一列に配置されて磁気ラインセンサ10を構成する。
本実施例における漏洩磁束検出装置は、TMR磁気センサ1により得られた薄鋼板30の漏洩磁束情報を増幅して端子部7から画像処理装置に送り、この画像処理装置で送られた漏洩磁束情報を画像化することができる。
【0016】
次に、
図5の磁気センサモジュール20の回路配線接続図及び画像処理部と画像表示部から構成された画像処理装置のブロック図を参照して、前記磁気センサモジュール20をさらに説明する。
磁気ラインセンサ10において、電源端子VDDから各高感度TMR素子3に電源電圧が供給され、各低感度TMR素子2には接地端子GNDが接続されている。
磁気ラインセンサ10における各TMR磁気センサ1をチャンネル(以下「ch」という場合もある。)と称し、
図5上、上から下に向けて、チャンネル1からチャンネル154まで並んでいるが、
図5ではこれを1ch、2ch、3ch、・・・、154chと表記している。
【0017】
図5において、磁気ラインセンサ10からのアナログ信号は、各TMR磁気センサ1の出力端子OUT(
図4参照)から増幅部11を構成する各増幅器に入力する。
各増幅器の出力は、画像処理装置のA/D変換部12の各A/D変換器に入力されてデジタル変換される。A/D変換部12でデジタル変換されたデジタル信号は、画像処理部13に入力して画像が生成され、生成された画像は画像表示部17に表示される。
画像処理部13は、デジタル化されたTMR磁気センサ出力の各チャンネル1~154間のばらつきをなくすべく正規化する正規化部14と、正規化したデジタル信号を最大値から最小値の間で量子化して階調データを生成する階調データ生成部15と、各チャンネル1~154での階調データに基づいて画像を生成する画像生成部16とからなる。
【0018】
次に、
図1及び
図2を参照して、上述した漏洩磁束検出装置を用いた磁性体の漏洩磁束の検出方法を説明する。
図1に示すように、対象物となる薄鋼板30は、ロール31上を走行している。磁化器21は、ロール31上の薄鋼板30に近接して配置される。そして、磁化器21の励磁ヨークN極22とS極23との間には、磁気ラインセンサ10が配置されている。励磁ヨーク22,23によって、薄鋼板30内部には磁性体内磁束、即ち、磁界が形成される。このとき、
図2に示すように、薄鋼板30の内部に非磁性体の介在物32があれば、その部分から漏洩磁束が生じ、磁気ラインセンサ10で検出される。
【0019】
次に、TMR磁気センサ1の感磁方向にバイアス磁界を印加するバイアス付与手段は、
図2,
図12に示すように、この実施例では磁化器21が兼ねている。しかしながら、バイアス付与手段は、磁化器21に換えて他の磁化装置を使用しても良いし、磁化器21に加えてバイアス付与補助手段として永久磁石を付加しても良い。
薄鋼板30の漏洩磁束を検出する方法において、磁化器21により薄鋼板30を磁化すると共に、前記バイアス付与手段を兼ねる磁化器21によってTMR磁気センサ1の感磁方向に0エルステッド付近の低感度領域を超えて、TMR磁気センサ1の感度が線形領域の範囲である高感度領域となるようにバイアス磁界(空間磁束)を印加することを特徴とするものである。
【0020】
以下、
図7乃至9を参照して、漏洩磁束検出に用いる磁気センサモジュール20の特性を説明する。
TMR磁気センサ1は、印加磁界(Oe)によって出力電圧が大きく変化する。
図7は、TMR磁気センサ1を搭載した磁気センサモジュール20の出力特性を示している。横軸は、磁気センサモジュール20のTMR磁気センサ1に印加された磁界(Oe)、縦軸は、印加された磁界に反応する出力端子OUT(
図4参照)からの出力電圧(V)を表わしている。なお、
図7、
図8、
図9は共に、電源電圧が5Vであり、TMR磁気センサ出力を増幅部11で10倍した数値を出力電圧に記載している。
図7では、印加磁界-40~40Oeの領域の感度特性を示している。この感度特性の中で、-2~2Oeの領域が低感度域であり、
図8の特性図がその領域に含まれる。また、2~13Oeの領域が高感度域であり、
図9の特性図がその領域に含まれる。この実施例ではこの高感度域でTMR磁気センサ1を用いる。
【0021】
次に、薄鋼板30内の空隙(図示せず)を検出した場合の磁気センサモジュール20の動作を説明する。
図10は、磁気センサモジュール20のTMR磁気センサ1の各感度領域における空隙検出時の出力(縦軸:出力電圧)とその起磁力(横軸)との関係を表わしている。ここで、高い感度を示す領域は●で示す領域であり、上述したように、この高感度領域でTMR磁気センサ1を用いる。
図11は、検出信号の状態を説明するものであり、漏洩磁束検出装置を動作させ、ロール31でガイドして薄鋼板30を所定方向に搬送する(
図1参照)と、空隙通過時に漏洩磁束が生じることで、磁気ラインセンサ10の出力電圧が大きく変化し、空隙が検出される。
【0022】
図12(a)は磁化器21がセンサチップ1を配列してなる磁気ラインセンサ10に与えるバイアス磁界の分布図で、
図12(b)は励磁ヨーク22,23位置と磁束密度の関係図である。
図12において、磁気センサモジュール20の磁気ラインセンサ10を高感度で使用できるように、バイアス磁界が、0エルステッド付近の低感度領域に隣接するTMR磁気センサ1の感度が線形領域の範囲である高感度領域となるように印加される。
薄鋼板30からの垂直方向の漏洩磁束を検出するために、磁気ラインセンサ10を構成する複数のTMR磁気センサ1は前記薄鋼板30の幅方向、換言すると薄鋼板30の動く方向とは直角の方向に配置され、前記幅方向とは直角の方向、換言すると前記動く方向に励磁される。
磁気ラインセンサ10の感度が最も高い付近にバイアス磁界を与えるために、磁化器21のN極22とS極23の間の中心位置から少し離れた位置(バイアス磁界7Oe付近)に磁気センサモジュール20、とりわけ磁気ラインセンサ10を配置すると良い。
以上、総合するとこの実施例では、薄鋼板30の漏洩磁束を検出する方法において、磁化器21により薄鋼板30を磁化すると共に、磁化器21によってTMR磁気センサ1の感磁方向に0エルステッド付近の低感度領域を超えて、TMR磁気センサ1の感度が線形領域の範囲である高感度領域となるようにバイアス磁界を印加する。これにより、磁気ラインセンサ10の最大感度が引き出せる。
【0023】
なお、本実施例における磁性体は、上述の薄鋼板30に限定されず、薄鋼板30の加工品も含まれる。具体的には、例えば、
図13及び
図14に示すように、薄鋼板30から円筒状や有底円筒状に成型加工された、缶やケース等の鋼板加工品33も対象となる。鋼板加工品33は回転装置34の回転ヘッド35に、円筒軸が回転軸と一致するように支持され、磁気ラインセンサ10及び磁化器21と鋼板加工品33の前記磁気ラインセンサ10に対向する外周面が、
図1と同様の配置関係となるように設定されている。
図14に示すように、回転装置34によって鋼板加工品33が回転されることによって、動く方向と直角の方向である回転軸方向に配置された磁気ラインセンサ10が、鋼板加工品33の表面を走査して漏洩磁束を検出する。
図1及び
図2と同様に、鋼板加工品33の内部に非磁性体の介在物32があれば、この介在物32を検出することができ、また、
図10及び
図11と同様に、鋼板加工品33の内部に空隙があれば、この空隙を検出することができる。
さらに、鋼板以外の磁性体にも本発明を適用可能なことはもちろんである。
【実施例2】
【0024】
次に、
図6を参照して実施例2を説明する。
実施例1を説明する
図5と同様に、磁気センサモジュール40の回路配線接続図及び画像処理部44と画像表示部48から構成された画像処理装置のブロック図を参照してこの実施例の磁気センサモジュール40を説明する。
磁気ラインセンサ10において、種類の異なる2対のTMR素子が1つのチャンネル(
図6ではchと表示)を構成し、2つの出力端子OUT(
図4参照)は、それぞれ増幅部42の同じ増幅器の2つの入力端子に接続される。一対のTMR素子は、電源端子VDDから高感度TMR素子3aに電源電圧が供給され、低感度TMR素子2aには接地端子GNDが接続されている。もう一方のTMR素子の対は、電源端子VDDから低感度TMR素子2bに電源電圧が供給され、高感度TMR素子3bには接地端子GNDが接続されている。つまり、各チャンネル1~154はブリッジ構造であり、本実施例におけるTMR磁気センサ1の数は、実施例1と比較して、154ch×2個、すなわち2倍の308個必要になる。
【0025】
磁気ラインセンサ10からのアナログ信号は、各TMR磁気センサ1の出力端子OUT(
図4参照)から増幅部42を構成する各増幅器に入力する。
各増幅器の出力は、画像処理装置のA/D変換部43の各A/D変換器に入力されてデジタル変換される。A/D変換部43でデジタル変換されたデジタル信号は、画像処理部44に入力して画像が生成され、生成された画像は、画像表示部48に表示される。画像処理部44は、デジタル化されたTMR磁気センサ出力の各チャンネル1~154間のばらつきをなくすべく正規化する正規化部45と、正規化したデジタル信号を最大値から最小値の間で量子化して階調データを生成する階調データ生成部46と、各チャンネル1~154での階調データに基づいて画像を生成する画像生成部47とからなる。
この実施例ではフルブリッジ構造を説明したが、この構造は、差動動作させることが出来る。
【0026】
以上、これらの実施例で説明したとおり、TMR磁気センサで構成される磁気ラインセンサにおいて、薄鋼板などの磁性体に内在する介在物・キズ・空隙などによる漏洩磁束の検出を、確実かつ効率的に行うことができる。
【符号の説明】
【0027】
1・・・TMR磁気センサ
2,2a,2b・・・低感度TMR素子
3,3a,3b・・・高感度TMR素子
5・・・配線基板
7・・・端子部
10・・・磁気ラインセンサ
11,42・・・増幅部
12,43・・・A/D変換部
13,44・・・画像処理部
14,45・・・正規化部
15,46・・・階調データ生成部
16,47・・・画像生成部
17,48・・・画像表示部
20,40・・・磁気センサモジュール
21・・・磁化器
22・・・励磁ヨーク(N極)
23・・・励磁ヨーク(S極)
30・・・薄鋼板
31・・・ロール
32・・・介在物
33・・・鋼板加工物
34・・・回転装置
35・・・回転ヘッド