(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】薬物複合体、ミセル、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/59 20170101AFI20220608BHJP
A61K 31/551 20060101ALI20220608BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220608BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220608BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220608BHJP
C08G 69/10 20060101ALI20220608BHJP
C08G 69/42 20060101ALI20220608BHJP
C07D 495/14 20060101ALN20220608BHJP
【FI】
A61K47/59
A61K31/551
A61K9/107
A61P35/00
A61P43/00 111
C08G69/10
C08G69/42
C07D495/14 E
(21)【出願番号】P 2018030200
(22)【出願日】2018-02-22
【審査請求日】2020-11-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「スマートライフケア社会への変革を先導するものづくりオープンイノベーション拠点」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願;平成28年度、29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「DDS技術を基盤とした革新的がん治療法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514299594
【氏名又は名称】公益財団法人川崎市産業振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】片岡 一則
(72)【発明者】
【氏名】喜納 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】カダール サビーナ
(72)【発明者】
【氏名】カブラル オラシオ
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/084693(WO,A1)
【文献】Colloids and Surfaces B: Biointerfaces,Vol.108,2013年,pp.205-211
【文献】Colloids and Surfaces B: Biointerfaces,2014年,Vol.116,pp.41-48
【文献】Applied Materials & Interfaces,2016年,Vol.8,pp.17109-17117
【文献】Macromolecular Rapid Communications,2012年,Vol.33,pp.760-766
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-33/44
A61P 47/00-47/69
C08G 69/00-69/50
C07D 495/14
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有するポリマー、並びに
前記ポリマーに結合した下記一般式(J)で表される化合物(J)又はその薬学的に許容される塩
を含
む薬物複合体
を含むミセル。
【化1】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【化2】
[式中、
Rj
1は炭素数1~4のアルキル基、
Rj
2は水素原子
;ハロゲン原子
;又はハロゲン原子若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、
Rj
3はハロゲン原子
;炭素数1~4のアルキル基
;炭素数1~4のアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されていてもよいフェニル基;-NRj
5-(CH
2)
mj-Rj
6(Rj
5は水素原子
;又は炭素数1~4のアルキル基、m
jは0~4の整数、R
j
6はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)
;又は-NRj
7-CO-(CH
2)
nj-Rj
8(Rj
7は水素原子
;又は炭素数1~4のアルキル基、njは0~2の整数、Rj
8はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)、
Rj
4は-(CH
2)
aj-CO-NH-Rj
9(ajは1~4の整数、Rj
9は炭素数1~4のアルキル基;炭素数1~4のヒドロキシアルキル基;炭素数1~4のアルコキシ基;炭素数1~4のアルキル基
;炭素数1~4のアルコキシ基
;アミノ若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基;又はアミノ基)
;又は-(CH
2)
bj-COORj
10(bjは1~4の整数、Rj
10は炭素数1~4のアルキル基)を表す。]
【請求項2】
前記薬物複合体が、
下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(Ia)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有するポリマーを含む、請求項1に記載の
ミセル。
【化3】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
Rj
1は炭素数1~4のアルキル基、
Rj
2は水素原子
;ハロゲン原子
;又はハロゲン原子若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、
Rj
3はハロゲン原子
;炭素数1~4のアルキル基
;炭素数1~4のアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されていてもよいフェニル基;-NRj
5-(CH
2)
mj-Rj
6(Rj
5は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、m
jは0~4の整数、R
j
6はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基);又は-NRj
7-CO-(CH
2)
nj-Rj
8(Rj
7は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、njは0~2の整数、Rj
8はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)、
Rj
4’は炭素数1~4のアルキレン基を表す。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載
のミセルを含有する、医薬組成物。
【請求項4】
がんを治療又は予防するための医薬組成物である、請求項
3に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物複合体、ミセル、及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒド基又はケトン基を含有するポリマー(以下、「アルデヒド/ケトン含有ポリマー」という場合がある。)は、アミノ基、イミノ基、ヒドラジド基等の官能基を有する生理活性分子を、pH感受性シッフ塩基形成により結合させるのに用いることが出来る。
また、アルデヒド基含有ポリマーは、カチオン性ポリペプチドのコア架橋にも用いることが出来る。このため、アルデヒド/ケトン含有ポリマーは、薬物送達のキャリアとして、特に医薬分野において注目されている。
アルデヒドをポリマーに導入する方法として、4-ビニルベンズアルデヒドのRAFT重合によりアルデヒド導入ポリマーを得る方法が知られている(例えば、非特許文献1~4参照)。
【0003】
一方、ブロモドメイン阻害剤であるJQ-1は、抗腫瘍効果が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Synthesis of Aldehyde functionalized and degradable block copolymer and their bioconjugation. Jian-bing Huang, Zhong-peng Xiao, Hui Liang, Jiang Lu, Acta Polymerica SInica, 2015, issue 4, 459-465
【文献】Synthesis of Functional Core, Star Polymers via RAFT Polymerization for Drug Delivery Applications. Jinna Liu, Hien Duong, Michael R. Whittaker, Thomas P. Davis, Cyrille Boyer, Macromolecular Rapid Communications, Volume 33, Issue 9 Pages, 760-766
【文献】A Well-Defined Novel Aldehyde-Functionalized Glycopolymer: Synthesis, Micelle Formation, and Its Protein Immobilization. Nai-Yu Xiao, An-Long Li, Hui Liang, and Jiang Lu, Macromolecules, 2008, 41, 2374-2380.
【文献】Well-defined polymers with activated ester and protected aldehyde side chains for bio-functionalization. Jungyeon Hwang, Ronald C. Li, Heather D. Maynard, Journal of Controlled Release 122 (2007) 279-286
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1~4の方法では、芳香族アルデヒドしか導入出来ないため、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、脂肪族ケトン及び芳香族ケトンを選択的に導入することが出来ないという問題があった。また、非特許文献1~4の方法はRAFT重合のため、ホモポリマーしか得られず、他の官能基を導入する場合、反応工程が煩雑になるという問題もあった。
非特許文献4では、アセタール基導入メタクリレートが用いられている。しかし、エステル結合を介してベースポリマーに結合しているため、生理的pH(pH7.4)では解離してしまい、薬物送達には不適切であった。
また、JQ-1は、血中半減期が短いため、JQ-1単独では臨床効果が得られにくい。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規ポリマー及びJQ-1若しくはその類縁体を含む薬物複合体、前記薬物複合体を含むミセル、並びに前記薬物複合体又はミセルを含有する医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を含む。
〔1〕下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有するポリマー、並びに
前記ポリマーに結合した下記一般式(J)で表される化合物(J)
を含むことを特徴とす薬物複合体。
【0009】
【化1】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0010】
【化2】
[式中、
Rj
1は炭素数1~4のアルキル基、
Rj
2は水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、
Rj
3はハロゲン原子;ハロゲン原子;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されていてもよいフェニル基;-NRj
5-(CH
2)
mj-Rj
6(Rj
5は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、mJは0~4の整数、RJ
6はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基);又は-NRj
7-CO-(CH
2)
nj-Rj
8(Rj
7は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、njは0~2の整数、Rj
8はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)、
Rj
4は-(CH
2)
aj-CO-NH-Rj
9(ajは1~4の整数、Rj
9は炭素数1~4のアルキル基;炭素数1~4のヒドロキシアルキル基;炭素数1~4のアルコキシ基;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基;又はアミノ基)又は-(CH
2)
bj-COORj
10(bjは1~4の整数、Rj
10は炭素数1~4のアルキル基)を表す。]
〔2〕下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(Ia)、及び
下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)
を有するポリマーを含む、〔1〕に記載の薬物複合体。
【0011】
【化3】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
Rj
1は炭素数1~4のアルキル基、
Rj
2は水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、
Rj
3はハロゲン原子;ハロゲン原子;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されていてもよいフェニル基;-NRj
5-(CH
2)
mj-Rj
6(Rj
5は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、mJは0~4の整数、RJ
6はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基);又は-NRj
7-CO-(CH
2)
nj-Rj
8(Rj
7は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、njは0~2の整数、Rj
8はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)、
Rj
4’は炭素数1~4のアルキレン基を表す。]
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の薬物複合体を含むミセル。
〔4〕〔1〕又は〔2〕に記載の薬物複合体、又は前記薬物複合体を含むミセルを含有する、医薬組成物。
〔5〕がんを治療又は予防するための医薬組成物である、〔4〕に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規ポリマー及びJQ-1若しくはその類縁体を含む薬物複合体、前記薬物複合体を含むミセル、並びに前記薬物複合体又はミセルを含有する医薬組成物を提供が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、芳香族アルデヒド基含有ポリマー及び脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成スキームである。
【
図2】
図2は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーの中間体であるアセタール基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】
図3は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】
図4は、脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの中間体であるアセタール基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図5】
図5は、脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図6】
図6は、芳香族ケトン基含有ポリマー及び脂肪族ケトン基含有ポリマーの合成スキームである。
【
図7】
図7は、脂肪族ケトン基含有ポリマーの
1H-NMRスペクトルである。
【
図8】
図8は、JQ-1及びJQ-1ヒドラジド(JQ-1-H)の
1H-NMRスペクトルである。
【
図9】
図9は、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体(JQ-1-H結合芳香族ポリマーミセル)の
1H-NMRスペクトルである。
【
図10】
図10は、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体(JQ-1-H結合芳香族ポリマーミセル)のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図11】
図11は、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体(JQ-1-H結合脂肪族ポリマーミセル)のミセルサイズと、分散度(Polydispersion index:PDI)の解析結果である。
【
図12】
図12は、本発明の1実施形態にかかる薬物複合体の肺癌細胞に対する細胞毒性試験の結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、JQ-1―H結合脂肪族ポリマーミセルのin vivo抗腫瘍試験の結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、JQ-1―H結合脂肪族ポリマーミセルのin vivo抗腫瘍試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[薬物複合体]
1実施形態にいおいて、本発明は、薬物複合体を提供する。本実施形態の薬物複合体は、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマー、並びに前記ポリマーに結合した下記一般式(J)で表される化合物(J)を含むことを特徴とする。
【0015】
【化4】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0016】
【化5】
[式中、
Rj
1は炭素数1~4のアルキル基、
Rj
2は水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、
Rj
3はハロゲン原子;ハロゲン原子;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されていてもよいフェニル基;-NRj
5-(CH
2)
mj-Rj
6(Rj
5は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、mJは0~4の整数、RJ
6はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基);又は-NRj
7-CO-(CH
2)
nj-Rj
8(Rj
7は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、njは0~2の整数、Rj
8はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)、
Rj
4は-(CH
2)
aj-CO-NH-Rj
9(ajは1~4の整数、Rj
9は炭素数1~4のアルキル基;炭素数1~4のヒドロキシアルキル基;炭素数1~4のアルコキシ基;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基;又はアミノ基)又は-(CH
2)
bj-COORj
10(bjは1~4の整数、Rj
10は炭素数1~4のアルキル基)を表す。]
【0017】
<ポリマー>
本実施形態の薬物複合体は、前記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)、及び前記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有する。
【0018】
前記一般式(I)及び(II)中、mは1又は2であり、1が好ましい。
前記一般式(I)中、Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。
Lの2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ベンジレン基等が挙げられる。
Lの2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ニトロ基、ハロゲン化物等が挙げられる。
Lの2価の脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基等が挙げられる。Lの2価の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。
該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ハロゲン化物等が挙げられる。
中でも、Lとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ベンジレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はベンジレン基がより好ましい。Lは、抗腫瘍活性の観点からは、2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基より好ましく、メチレン基又はエチレン基がさらに好ましい。
【0019】
前記一般式(I)中、R1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
R1の脂肪族炭化水素基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。R1の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基等が挙げられる。
R1の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
なかでも、R1としては、水素原子又は脂肪族炭化水素基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0020】
前記一般式(II)中、XはORx、SRx又はNRx1Rx2を表す。
Rxは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Rxの脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
Rxの芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
Rx1及びRx2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
Rx1及びRx2の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、シクロヘキシル基、トリハロメチル基挙げられる。
Rx1及びRx2の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ベンジル基、ピリジル基、ナフチル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、キシリル基、メチルフェニル基、ヒトロフェニル基、クロロフェニル基、フロオロフェニル基、ヨードフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
中でも、XとしてはORxが好ましく、OH(ヒドロキシ基)がより好ましい。
【0021】
本実施形態のポリマーは、前記繰り返し単位(I)及び(II)以外の他の繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(III)」という場合がある)を有していてもよい。
繰り返し単位(III)としては、親水性の繰り返し単位が好ましく、例えば、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位、ポリ(エチルエチレンホスフェート)から誘導される繰り返し単位、ポリビニルアルコールから誘導される繰り返し単位、ポリビニルピロリドンから誘導される繰り返し単位、ポリ(オキサゾリン)から誘導される繰り返し単位、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)から誘導される繰り返し単位等が挙げられる。中でも、繰り返し単位(III)としては、ポリエチレングリコールから誘導される繰り返し単位が好ましい。
【0022】
本実施形態において、繰り返し単位(I)~(III)の含有量は特に限定されない。
繰り返し単位(I)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、5~100モル%が好ましく、10~80モル%がより好ましく、20~50モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(II)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0~80モル%が好ましく、10~60モル%がより好ましく、20~40モル%が更に好ましい。
繰り返し単位(III)の含有量は、ポリマーを構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対し、0~95モル%が好ましく、20~90モル%がより好ましく、50~80モル%が更に好ましい。
【0023】
本実施形態のポリマーの分子量は、2000~1000000Dが好ましく、5000~100000Dがより好ましく、10000~40000Dがさらに好ましい。
【0024】
(ポリマーの製造方法(1))
本実施形態のポリマーの製造方法(以下、「製造方法(1)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と下記一般式(1a)で表される化合物(1a)とを反応させて、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、前記ポリマー(P2)を弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)及び下記一般式(II-1)で表される繰り返し単位(II-1)を有するポリマーを得る工程(2)と、を含む。
【0025】
【化6】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0026】
前記式一般式(I’)、(II’)、(I)及び(II-1)中、m、L、R1及びRxは前記一般式(I)及び(II)中のm、L、R1及びRxと同様である。
前記一般式(1a)及び(I’)中、Ra11及びRa12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa11及びRa12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。Ra11及びRa12が相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す場合、化合物(1a)は環状アセタール又は環状ケタールとなる。
前記一般式(1a)中、n1及びn2はそれぞれ独立に0又は1であり、1が好ましい。
【0027】
〔工程(1)〕
製造方法(1)の工程(1)は、ポリマー(P1)と化合物(1a)とのアミノリシス反応である。工程(1)により、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される。
工程(1)の反応温度は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されないが、通常4℃~100℃であり、室温~40℃が好ましい。
工程(1)の反応時間は、ポリマー(P1)の側鎖に化合物(1a)のアセタール構造又はケタール構造が導入される条件であれば特に限定されず、反応時間、化合物(1a)の種類や量によって選択できるが、通常4時間~5日間である。
【0028】
〔工程(2)〕
製造方法(1)の工程(2)において、ポリマー(P2)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換する。
加水分解は、ポリマー(P2)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒド、又はケタール構造をケトンに変換できる条件であれば特に限定されない。例えば、(i)0.1N塩酸で30分程度処理する方法、(ii)アセトン及びインジウム(III)トリフルオロメタンスルホネート(触媒)の存在下で処理する方法、(iii)30℃の水中で触媒量のテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸ナトリウムを用いる方法、(iv)室温でウェットニトロメタン中、1~5モル%のEr(OTf)3を用いる方法、(v)ほぼ中性のpH条件下、室温でウェットニトロメタン中、触媒量のセリウム(III)トリフレートを用いる方法等、公知の方法が挙げられる。
【0029】
(ポリマーの製造方法(2))
本実施形態のポリマーの製造方法(以下、「製造方法(2)」という場合がある)は、下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P1)と下記一般式(1a)で表される化合物(1a)とを反応させて、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位及び前記繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P2)を得る工程(1)と、
前記ポリマー(P2)をアルカリ条件下の加水分解、エステル交換反応、アミノリシス、並びにアルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングからなる群より選ばれる少なくとも1種の処理に付し、下記一般式(I’)で表される繰り返し単位(I’)及び下記一般式(II’)で表される繰り返し単位(II’)を有するポリマー(P3)を得る工程(2a)と、
前記ポリマー(P3)を中性条件下又は弱酸性条件下で加水分解して、下記一般式(I)で表される繰り返し単位(I)及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位(II)を有するポリマーを得る工程(2b)と、
を含む。
【0030】
【化7】
[式中、mは1又は2を表す。R
2は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。Ra
11及びRa
12はそれぞれ独立にメチル基若しくはエチル基を表す、又はRa
11及びRa
12は相互に結合してエチレン基若しくはプロピレン基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。]
【0031】
前記一般式(I’)、(II’)、(I)及び(II)中、m、L,X、Rx、Rx1及びRx2は、前記一般式(I)及び(II)中のm、L,X、Rx、Rx1及びRx2と同様である。
前記一般式(1a)及び(I’)中、R1、Ra11、Ra12は前記と同様である。
【0032】
〔工程(1)〕
製造方法(2)の工程(1)は、製造方法(1)の工程(1)と同様である。
【0033】
〔工程(2a)〕
製造方法(2)の工程(2a)では、ポリマー(P2)を所定の処理に付すことにより、繰り返し単位(I’)がアセタール構造で保護された状態で、繰り返し単位(II’)の側鎖に所望の官能基を導入することができる。
アルカリ条件下の加水分解は、例えば、0.5NのNaOH溶液とDMSOとの混合物(体積比:50/50)中、室温で30分処理する方法、DMSO中トリエチルアミンで室温にて1時間処理する方法、DMSO中ジイソプロピルエチルアミンで室温にて1時間処理する方法等が挙げられる。アルカリ条件下の加水分解により得られるカルボン酸残基は、後述するミセルのコア中のプロトンを引き寄せ、ヒドラゾン結合の加水分解を容易にし、低pH条件下において生体材料の放出を可能とする。
アミノリシスは、例えば、エチレンジアミン又はジアミノプロパンによりエステルを開裂してアミノ官能基を導入することができる。アミノ基導入により、蛍光色素と結合させることができる。また、他のカルボン酸基を有する画像診断剤と、公知のアミノカップリングに付すこともできる。アセタール構造及びケタール構造は、このようなアミノ基導入条件下では安定なので、ポリマーの多官能ナノキャリアデザインに供することができる。
アルカリ条件下の加水分解及びアミドカップリングは、例えば、アルカリ条件下の加水分解によりエステル残基を処理後、生成したカルボン酸をエステル交換反応もしくは公知のカップリング剤を用いたアミドカップリングに付すことができる。ヒドロキシ/アミン官能基による適切な構造モチーフにより、ポリマーの親水性/疎水性のバランスを所望のものとすることができ、極性又は非極性溶媒中での自己組織化に寄与する。
【0034】
〔工程(2b)〕
製造方法(2)の工程(2b)において、ポリマー(P3)を弱酸性条件下で加水分解し、ポリマー(P3)の繰り返し単位(I’)のアセタール構造をアルデヒドに変換する。加水分解の条件は、製造方法(1)の工程(2)と同様である。
【0035】
<化合物(J)>
本実施形態の薬物複合体は、前記ポリマーに結合した下記一般式(J)で表される化合物(J)又はその薬学的に許容される塩を含む。
【0036】
【化8】
[式中、
Rj
1は炭素数1~4のアルキル基、
Rj
2は水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、
Rj
3はハロゲン原子;ハロゲン原子;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されていてもよいフェニル基;-NRj
5-(CH
2)
mj-Rj
6(Rj
5は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、mJは0~4の整数、RJ
6はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基);又は-NRj
7-CO-(CH
2)
nj-Rj
8(Rj
7は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、njは0~2の整数、Rj
8はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)、
Rj
4は-(CH
2)
aj-CO-NH-Rj
9(ajは1~4の整数、Rj
9は炭素数1~4のアルキル基;炭素数1~4のヒドロキシアルキル基;炭素数1~4のアルコキシ基;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基;又はアミノ基)又は-(CH
2)
bj-COORj
10(bjは1~4の整数、Rj
10は炭素数1~4のアルキル基)を表す。]
【0037】
上記一般式(J)において、炭素数1~4のアルキル基とは、直鎖状又は分枝鎖のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等を挙げることができる。
【0038】
上記一般式(J)において、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を意味する。
【0039】
上記一般式(J)において、炭素数1~4のアルコキシ基とは、直鎖又は分枝鎖のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基等を挙げることができる。
【0040】
上記一般式(J)において、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基とは、1~9個の水酸基で置換されている上述した炭素数1~4のアルキル基を意味し、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等を挙げることができる。
【0041】
RJ1の好ましい例としてはメチル基を挙げることができる。
【0042】
RJ2の好ましい例としては、ハロゲン原子、メチル基及びヒドロキシメチル基を挙げることができ、塩素原子、メチル基及びヒドロキシメチル基をより好ましい例として挙げることができる。最も好ましい例としてはメチル基を挙げることができる。
【0043】
Rj3の好ましい例としては、ハロゲン原子、メトキシフェニル基、シアノフェニル基、-NRj5’-(CH2)mj’-Rj6’(ここで、Rj5’は水素原子又はメチル基、mj’は0又は1、Rj6’はフェニル基、ピリジル基又はフッ素原子で置換されたフェニル基)及び-NRj7’-CO-(CH2)nj’-Rj8’(ここで、Rj7’は水素原子、nj’は2、Rj8’はフェニル基)を挙げることができ、塩素原子、シアノフェニル基、フェニルアミノ基及びフェネチルカルボニルアミノ基をより好ましい例として挙げることができる。最も好ましい例としては、塩素原子を挙げることができる。
【0044】
Rj4の好ましい例としては、-(CH2)aj’-CO-NH-Rj9’(ここで、aj’は1、Rj9’はメチル基、ヒドロキシエチル基、メトキシ基、アミノフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ピリジル基、メトキシピリジル基又はアミノ基)及び-(CH2)bj’-COORj10’(ここで、bj’は1、Rj10’はメチル基、エチル基、t-ブチル基)を挙げることができ、ヒドロキシフェニルアミノカルボニルメチル基、メトキシカルボニルメチル基、-CH2COOC(CH3)、-CH2CO-NH-NH2をより好ましい例として挙げることができる。最も好ましい例としては、-CH2COOC(CH3)、-CH2CO-NH-NH2を挙げることができる。また、R4が結合している炭素原子は不斉炭素原子であり、その立体配置はS配置、R配置及びそれらの混合物のいずれでも良いが、S配置であることが望ましい。
【0045】
化合物(J)の具体例としては、JQ-1、JQ-1ヒドラジド(以下、「JQ-1-H」ということがある。)、OTX015、I-BET762等が挙げられる。中でも、化合物(J)は、JQ-1及びJQ-1-Hが好ましい。
【0046】
【0047】
化合物(J)は、薬学的に許容可能な塩の形態であってもよい。本明細書において、「薬学的に許容される塩」とは、化合物(J)の薬理作用(抗がん活性、ブロモドメイン阻害活性など)を阻害しない塩を意味する。薬学的に許容される塩は、生体に投与した場合に、副作用を生じないものであることが好ましい。薬学的に許容可能な塩は、特に制限されず、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)との塩;アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)との塩;有機塩基(ピリジン、トリエチルアミンなど)との塩、アミンとの塩、有機酸(酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸など)との塩、及び無機酸(塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)との塩等が挙げられる。
【0048】
前記ポリマーと前記化合物(J)との結合は、化合物(J)にアルデヒド基又はケトン基とシッフ塩基を形成し得る窒素原子含有基(以下、「シッフ塩基形成基」という場合がある)がある場合には、当該シッフ塩基形成基と、前記ポリマーの繰り返し単位(I)に含まれるアルデヒド基又はケトン基とを反応させることにより行うことができる。そのようなシッフ塩基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジド基等が挙げられる。また。化合物(J)がシッフ塩基形成基を有しない場合には、シッフ塩基形成基を化合物(J)に導入すればよい。シッフ塩基形成基の導入は、公知の方法により行うことができる。
【0049】
本実施形態の薬物複合体の好ましい例としては、下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位(Ia)、及び下記一般式(II)で表される繰り返し単位を有するポリマーを含有する薬物複合体が挙げられる。
【0050】
【化10】
[式中、mは1又は2を表す。Lは2価の芳香族炭化水素基又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。R
1は水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。XはOR
x、SR
x又はNR
x1R
x2を表す。R
xは水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。R
x1及びR
x2はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。
Rj
1は炭素数1~4のアルキル基、
Rj
2は水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子若しくはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基、
Rj
3はハロゲン原子;ハロゲン原子;炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基若しくはシアノ基で置換されていてもよいフェニル基;-NRj
5-(CH
2)
mj-Rj
6(Rj
5は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、mJは0~4の整数、RJ
6はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基);又は-NRj
7-CO-(CH
2)
nj-Rj
8(Rj
7は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、njは0~2の整数、Rj
8はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基若しくはピリジル基)、
Rj
4’は炭素数1~4のアルキレン基を表す。]
【0051】
前記一般式(Ia)及び(II)中、m、L、R1、X、Rx、Rx1及びRx2は、前記一般式(I)及び(II)中のm、L、R1、X、Rx、Rx1及びRx2と同様である。
【0052】
前記一般式(Ia)中、Rj1~Rj3は、前記一般式(J)中のRj1~Rj3と同様である。
前記一般式(Ia)中、Rj4は、炭素数1~4のアルキレン基を表す。炭素数1~4のアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。Rj4としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、メチレン基又はエチレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0053】
前記繰り返し単位(Ia)の好ましい例としては、下記一般式(Ia-1)で表される繰り返し単位(Ia-1)が挙げられる。
【0054】
【化11】
[式中、m、L、及びR
1は、前記一般式(I)中のm、L、及びR
1と同様である。]
【0055】
本実施形態の薬物複合体によれば、化合物(J)をポリマーに担持して生体内に搬送できる。そのため、化合物(J)の血中半減期を延長して、化合物(J)の有効量を標的部位まで到達させることができる。前記ポリマーでは、導入するアルデヒド基又はケトン基の量を制御することができ、アルデヒド基又はケトン基に結合させる化合物(J)の量も制御することができる。そのため、化合物(J)の投与量を適切に制御することができる。
また、前記ポリマーにおいては、導入するアルデヒド基又はケトン基を、芳香族アルデヒド基、脂肪族アルデヒド基、芳香族ケトン基、脂肪族ケトン基から選択することができる。
芳香族アルデヒド基又は芳香族ケトン基のシッフ塩基は、脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基のシッフ塩基よりも安定であるため、芳香族アルデヒド基を導入した場合には、化合物(J)がより安定に保持される。そのため、導入するアルデヒド基又はケトン基の種類を選択することにより、化合物(J)の徐放性を制御することができる。さらに、本実施形態の薬物複合体では、化合物(J)が前記ポリマーに保持されている間、化合物(J)は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減して治療効果を高めることができる。本実施形態の薬物複合体においては、生体内に投与したときの抗腫瘍効果の観点から、脂肪族アルデヒド基を導入することが好ましい。
【0056】
本実施形態の薬物複合体は、ミセルの形態としてもよい。本実施形態の薬物複合体を含むミセルは、公知の手法により調製することができる。例えば、本実施形態の薬物複合体を親油性又は親水性の溶媒に溶解又は懸濁し、当該溶解液又は懸濁液を親水性又は親油性の溶媒に滴下して撹拌することにより、本実施形態の薬物複合体を含有するミセルを調製することができる。
【0057】
[医薬組成物]
1実施形態において、本発明は、上記実施形態の薬物複合体、又は前記薬物複合体を含むミセルを含有する、医薬組成物を提供する。
【0058】
上記実施形態の薬物複合体又は前記薬物複合体のミセルは、そのまま生体に投与することもできるが、公知の手法により、適宜他の成分と混合して製剤化されてもよい。上記実施形態の薬物複合体又は前記薬物複合体のミセルが製剤化される場合、剤型は特に限定されず、乳剤、エマルション剤、液剤、ゲル状剤、カプセル剤、軟膏剤、貼付剤、バップ剤、顆粒剤、錠剤等とすることができる。
本実施形態の医薬組成物は、任意に前記薬物複合体加えて、他の成分を含んでもよい。他の成分は、医薬品分野において一般的に使用される成分を特に制限なく使用することができる。例えば、前記医薬組成物は、前記薬物複合体を薬学的に許容される担体に溶解又は懸濁したものであってもよい。薬学的に許容される担体としては、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができ、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、DMSO、ジメチルアセトアミド、エタノール、グリセロール、ミネラルオイル等を挙げることができる。また、他の成分としては、その他に、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤、賦形剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、防腐剤、着色剤、香料等が挙げられる。
また、本実施形態の医薬組成物は、上記薬物複合体以外の抗がん剤、又は抗がん剤以外の活性成分を含んでいてもよい。抗がん剤以外の活性成分としては、抗炎症剤、鎮痛剤、解熱剤、消炎剤、血行促進剤、刺激緩和剤、抗生物質、生薬等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。なお、非経口経路は、経口以外の全ての投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、点眼、脳内、直腸内、腟内及び腹腔内等への投与を包含する。また、投与は、局所投与であっても全身投与であってもよい。
本実施形態の医薬組成物は、単回投与又は複数回投与を行うことが可能であり、その投与期間及び間隔は、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。投与間隔としては、例えば、1日1~3回、2~3日に1回、週1~3回、10日1回等が例示できるが、これらに限定されない。
本実施形態の医薬組成物の投与量は、その投与期間及び間隔は、疾患の種類及び状態等、投与経路、投与対象の年齢、体重及び性別等によって、適宜選択することができる。本実施形態の医薬組成物の投与量は、化合物(J)の治療的有効量とすることができる。「治療的有効量」とは、疾患の治療又は予防のために有効な化合物(J)の量を意味する。例えば、投与1回につき、化合物(J)の投与量として、体重1kgあたり0.01~1000mg程度、0.1~100mg程度、0.5~50mg程度、1~10mg程度とすることができる。
【0060】
本実施形態の医薬組成物は、がんを治療又は予防するために用いることができる。がんの種類は特に限定されない。がんとしては、例えば、グリオーマ、NUT midline carcinoma、肺癌、膵臓癌、頭頸部癌、中皮腫、神経芽腫、肝臓癌、悪性黒色腫、子宮癌、膀胱癌、胆道癌、食道癌、骨肉腫、精巣腫瘍、甲状腺癌、急性骨髄性白血病、脳腫瘍、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、大腸癌、腎癌、卵巣癌、及び乳癌等が挙げられる。例えば、グリオーマ、NUT midline carcinoma、頭頸部癌を好ましく例示できる。
【0061】
JQ-1は、c-mycを高発現するがん、BRD4-NUT融合遺伝子を有するがんに効果が高い。したがって、本実施形態の医薬組成物は、c-mycを高発現するがん、及びBRD4-NUT融合遺伝子を有するがん等に好適に適用することができる。
【0062】
上記施形態の薬物複合体は、特にミセルの形態とした場合、pH感受性薬剤リリースの特性を示す。特に、生体内の環境を考えると、酸性化しているがんの周辺環境(pH6.6)および細胞質内に取り込まれた後エンドソーム(pH5)での薬剤リリースは、脂肪族アルデヒド基又は脂肪族ケトン基を導入した薬物複合体、特に脂肪族アルデヒド基が優れている。
【0063】
上記実施形態の薬物複合体は、特にミセルの形態とした場合、化合物(J)が前記ポリマーに保持されている間、化合物(J)は安定に維持され、毒性も緩和されるため、副作用を軽減できる。本実施形態の医薬組成物は、上記実施形態の薬物複合体又はそのミセルを含有するため、化合物(J)単体よりも最大耐性用量(MTD)が伸びる。
【0064】
[他の態様]
他の態様において、本発明は、1)がんを治療又は予防するための医薬組成物の製造における、上記ポリマー及び上記ポリマーに結合した化合物(J)を含む薬物複合体若しくはそのミセルの使用、2)上記ポリマー及び上記ポリマーに結合した化合物(J)を含む薬物複合体若しくはそのミセル、を対象(例、がんに罹患した患者)に投与することを含む、がんを治療又は予防する方法、3)がんの治療又は予防に使用するための上記ポリマー及び上記ポリマーに結合した化合物(J)を含む薬物複合体若しくはそのミセル、4)がんを治療又は予防するための上記ポリマー及び上記ポリマーに結合した化合物(J)を含む薬物複合体若しくはそのミセルの使用、を提供する。
【実施例】
【0065】
本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明の実施態様は、これら実施例の記載に限定されるものではない。
【0066】
[合成例1]メトキシ-ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(β-ベンジル-アスパルタミド)の合成
α-メトキシ-ω-アミノ ポリ(エチレングリコール)の末端第一級アミノ基によって開始される、β-ベンジルアスパラギン酸 N-カルボキシアルデヒドの開環重合により、メトキシ-ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(β-ベンジル-アスパルタミド)(MeO-PEG-PBLA;PEG分子量=12kDa;PBLAの重合度=40)コポリマーを合成した。ω-アミン基は、アセチル化によりブロックした。
【0067】
[合成例2]芳香族アセタール基導入ポリマーの合成
PEG-PBLAポリマー(220mg、0.011mmol)をDMF(2mL)で溶解し、{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}(100μL、0.58mmol)を添加して、徐々に温度を上げて40℃で4日間撹拌した。特性分析のために、反応混合物の一部をエーテル沈殿し、芳香族アセタール基導入ポリマーを回収した。
反応スキームを
図1に示す。また、得られた芳香族アセタール基導入ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図2に示す。
1H-NMR解析により25個のベンジルエステルユニットのアミドへの置換が、確認された。残りのベンジルエステル(40-25=15)は、おそらくエーテル沈殿操作中に、加水分解された。
【0068】
[合成例3]芳香族アルデヒド基含有ポリマーの合成
アミノリシス反応後、反応混合物を酸性化し(0.1N HCl、100μL、30分)、その後、水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、透析袋からアルデヒド基導入ポリマーを回収した。反応スキームを
図1に示す。また、得られた芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図3に示す。27個のアルデヒドユニットが
1H-NMRスペクトラムで確認された。
【0069】
[合成例4]脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成
脂肪族アルデヒド基含有ポリマーの合成は、{〔4-(ジメトキシメチル)フェニル〕メタンアミン}に替えて、1-アミノ-3,3-ジエトキシプロパンを使用した以外は、芳香族アルデヒド基含有ポリマーの合成と同様の方法で行った。反応スキームを
図1に示す。また、中間体である脂肪族アセタール基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図4に示す。また、得られた芳香族アルデヒド基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図5に示す。23個のアルデヒドユニットが
1H-NMRスペクトラムで確認された。
【0070】
[合成例5]脂肪族ケトン基含有ポリマーの合成
PEG-PBLAポリマー(318mg、0.016mmol)をDMF(3mL)で溶解し、得られた溶液に3,3-ジメトキシブタン(200μL)を添加した。反応液を40℃で72時間撹拌し、HCl溶液(100μL、0.1N)添加して1時間撹拌した。水で透析し、ポリマーを凍結乾燥することにより、側鎖に脂肪族ケトンが導入されたポリマーを回収した。
反応スキームを
図6に示す。また、得られた脂肪族ケトン基含有ポリマーの
1H-NMR解析結果を
図7に示す。35個の脂肪族ケトンユニットがポリマーに導入されていることが確認された。
【0071】
[実施例1]JQ-1-ヒドラジド(JQ-1-H)との薬物複合体の調製
<JQ-1-Hの合成>
JQ-1は、BOC Science(US)から購入した。JQ-1(20mg)を無水メタノール(500μL)に溶解し、無水ヒドラジン(500μL)に添加した。反応混合物を40℃で一晩撹拌した。反応混合物をエバポレートして乾燥体を得た。エバポレーションでは、トルエンを共エバポレーション溶媒として用いた。得られた生成物を、さらなる精製を行うことなく、薬物複合体とミセルの調製に使用した。得られたJQ-1-Hの
1H-NMR解析結果を
図8に示す。
なお、JQ-1からのJQ-1-Hの合成スキームを以下に示す。
【0072】
【0073】
<薬物複合体の調製>
上記のように得られた生成物(JQ-1-H)と芳香族アルデヒド基含有ポリマー又は脂肪族アルデヒド基含有ポリマーとの反応をDMSO溶液中で35~40℃で72時間行い、その後、透析により溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)に交換した(4時間透析、透析溶媒は1度交換)。この溶媒交換により透明なDMAc溶液が生成された。
【0074】
<JQ-1-H結合ポリマーミセルの調製>
上記のように得られたDMAc溶液をミセルの調製に使用した。薬物複合体のDMAc溶液を、容量比で水10に対して1の割合で、水に滴下してボルテックスし、ミセルを調製した。この溶液を、分画分子量(MWCO)3500Daの透析バッグで24時間、水で透析した。透析媒体は、透析中に5回交換した。透析バッグ中の溶液をフィルター(0.22μm)ろ過し、100kDa MWCOのフィルターメンブランを用いた限外濾過により濃縮した。得られたJQ-1-Hと芳香族アルデヒド基含有ポリマーとの薬物複合体ミセルの
1H-NMR解析結果を
図9に示す。以下、JQ-1-Hと芳香族アルデヒド基含有ポリマーとの薬物複合体のミセルを、「JQ-1-H結合芳香族ポリマーミセル」ということがある。JQ-1-Hと脂肪族アルデヒド基含有ポリマーとの薬物複合体のミセルを、「JQ-1-H結合脂肪族ポリマーミセル」ということがある。また、これらを合わせて「JQ-1-H結合ポリマーミセル」ということがある。
【0075】
<ミセルサイズとPDIの測定>
ミセルのサイズと多分散指数(PDI)を、動的光散乱(DLS)手法により求めた。測定は、入射ビームとして緑色レーザー(532nm)を用い、173°の検出角度で、Zetasizer nano ZS(Malvern instruments,UK)を使用して、25℃の温度条件で行った。結果を
図10及び
図11に示す。
図10は、JQ-1-H結合脂肪族ポリマーミセルの結果を示す。粒径は52nm、Pdlは0.137であった。
図11は、JQ-1-H結合芳香族ポリマーミセルミセルの結果を示す。粒径は50nm、Pdlは0.181であった。
【0076】
[実施例2]JQ-1-H結合芳香族ポリマーミセルの肺癌細胞に対する細胞毒性試験
表1に示す肺癌細胞株を用いて、JQ-1、JQ-1-H及びJQ-1-H結合芳香族ポリマーミセル(以下、まとめて「JQ-1類」ということがある。)の細胞毒性試験を行った。なお、使用した細胞株はアメリカン・タイプ・. カルチャー・コレクション(American Type Culture. Collection, ATCC)もしくはJCRB(医薬基盤研)の細胞バンクより購入した。
【0077】
【表1】
JQ-1類の添加濃度は、H1975が5μg/ml、A549が30μg/mlとし、72時間インキュベート後の生存%を確認した。
【0078】
結果を
図12に示す。
図12の結果から、JQ-1-H結合芳香族ポリマーミセルは、5μg/mLの濃度では、JQ-1及びJQ1-Hと同等の細胞傷害活性を示すことが確認された。
【0079】
[実施例3]JQ-1-H結合ポリマーミセルの各種癌細胞に対する細胞毒性試験
(細胞株)
癌細胞は、Ty-82は、ATCCより購入した。GL261.lucは、千葉大学 岩立先生より供与された。SAS.luc、SAS.L1.lucは、昭和大学歯学部口腔外科教室より入手した。
【0080】
(抗癌剤)
JQ-1、OTX-015、I-Bet 762は、フナコシより購入した。
(細胞毒性の測定方法)
試験薬剤の細胞毒性は、cell counting kit8(DOJINDO,JAPAN)を用いて、以下の方法で測定した。1~3×103cell/ウェルで癌細胞株を播種した。翌日、培地を交換し、50μLの培地を加えた。さらに、試験薬剤の希釈シリーズを作製し、50μLをウェルに添加して攪拌した。72時間後、10μLのcell counting kit 8を加え、1時間経過後、マイクロプレートリーダー(TECAN)で450nmの吸光度を測定した。測定した吸光度に基づき、下記の式(1)により、試験薬剤毎に各希釈率における細胞生存率を算出した。前記算出された細胞生存率に基づき、試験薬剤のIC50を算出した。
【0081】
【0082】
IC50の値をを表2に示す。JQ-1-H結合脂肪族ポリマー及びJQ-1-H結合芳香族ポリマーは、いずれも表2に示す癌細胞株で高い細胞毒性を示した。GL261.lucは、BRD4の下流にあるc-mycの発現が高いという特徴がある。Ty-82は、NUT midline carcinomaのようにBRDとNUTとが染色体融合を起こして癌化しているという特徴がある。したがって、JQ-1-H結合脂肪族ポリマー及びJQ-1-H結合芳香族ポリマーは、前記のような特徴を有する癌への効果が期待される。
【0083】
【0084】
[実施例4]JQ-1-H結合脂肪族ポリマーミセルのin vivo抗腫瘍活性
マウスグリオーマ細胞(GL261)を雌ヌードマウスに皮下移植した皮下移植モデルを作製し、薬効を評価した。GL261を培養し、1×106cellを、マウス皮下に移植した。20~30日間経過後、10~20mmの大きさになったものを2~3mmの立方体に細片化した。大きさを揃えた断片を、雌ヌードマウスの皮下に移植した。移植後5日目(直径4~5mm)を0日目として、一週間に2回、薬剤(JQ-1又はJQ-1-H結合脂肪族ポリマーミセル)を所定の用量(5mg/kg)で尾静注投与した。
陰性対照には、HEPESを用いた。週2回、腫瘍の長径a:短径bをノギスで計測し、同時に、マウスの体重を計測した。腫瘍の長径a及び短径bの計測結果から、腫瘍体積(mm3)をab2/2として計算した。
【0085】
結果を
図13及び
図14に示す。
図13は、腫瘍体積の経時変化を示す。
図14は、28日目の腫瘍体積を比較した結果を示す。JQ-1を投与群では、HEPES投与群と有意な差がなかったのに対し、JQ-1-H結合脂肪族ポリマーミセル投与群では、HEPES投与群と比較して、腫瘍体積が有意に低下した。この結果は、JQ-1-H結合脂肪族ポリマーミセルとすることにより、in vivoにおける抗腫瘍効果が高くなることを示している。