(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】送風機用羽根車
(51)【国際特許分類】
F04D 17/04 20060101AFI20220608BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
F04D17/04 A
F04D29/66 M
F04D17/04 Z
(21)【出願番号】P 2018094266
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】709002303
【氏名又は名称】日清紡メカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】永田 武司
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-049689(JP,A)
【文献】特開2011-190749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 17/04
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の羽根部材を円盤状部材にランダムピッチで円筒状に成形して構成ユニット化し、前記構成ユニットの羽根部材を別の構成ユニットの前記円盤状部材に接続して形成される送風機用の羽根車であって、
前記構成ユニットの羽根部材のうち、基準となる基準羽根の幅
又は肉厚を他の羽根部材
とは異ならせ、
前記円盤状部材の羽根部材が成形された側と反対面に、羽根部材先端を嵌合する嵌合溝を前記羽根部材と同数設け、
前記嵌合溝のうち前記基準羽根を嵌合する嵌合溝は、基準羽根の断面と同一形状とし、他の羽根部材が挿入されない様にしたことを特徴とする送風機用羽根車。
【請求項2】
前記基準羽根の幅は、羽根車の回転軸側の端の位置を羽根車の外周側に移動して幅を狭くしたことを特徴とする請求項1に記載の送風機用羽根車。
【請求項3】
前記基準羽根の幅は、羽根車の回転軸側の端の位置を羽根車の回転軸側に移動して幅を長くしたことを特徴とする請求項1に記載の送風機用羽根車。
【請求項4】
前記基準羽根は、その幅を基準羽根以外の羽根部材と同一とし、その断面の羽根部材の羽根車の外周側及び/または回転軸側の肉厚を基準羽根以外の羽根部材よりも厚くし、
前記基準羽根を嵌合する嵌合溝は、基準羽根の断面と同一形状とし、
他の羽根部材が挿入されない様にしたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の送風機用羽根車。
【請求項5】
前記基準羽根は、その幅を基準羽根以外の羽根部材と同一とし、その断面の羽根部材の羽根車の外周側及び/または回転軸側の肉厚を基準羽根以外の羽根部材よりも薄くし、
前記基準羽根を嵌合する嵌合溝は、基準羽根の断面と同一形状とし、
他の羽根部材が挿入されない様にしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の送風機用羽根車。
【請求項6】
前記基準羽根を嵌合する嵌合溝の両側に識別マークを設けたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の送風機用羽根車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫流送風機などの送風機に用いられる羽根車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貫流送風機用羽根車は、同一の軸線の周りに間隔を空けて配置した複数のブレード(羽根部材)を有し、当該回転軸周りに回転することにより、静かな層流風を広い範囲に供給することができる。このため、エアコンの送風系統(又は、送風部分)等の様々な装置に採用されている。
【0003】
送風機用の羽根車の羽根部材は、円盤状部材に羽根部材を円筒状に等ピッチで配置し一体成型されたもの(以下、構成ユニットと略称する)を複数個超音波溶着等で接続して製造している。しかし、稼働時の騒音低減のため、羽根部材を等ピッチではなくランダムピッチとしたものが使用されている。この場合、円盤状部材の羽根部材が成形されていない反対側に、別の構成ユニットを接続するために、嵌合溝が同数設けられている。この嵌合溝も羽根部材と同一のピッチで設けられている。
【0004】
従来技術とその問題点について
図8及び
図9により説明する。
図8は従来の構成ユニットの基準羽根の説明図、
図9は従来の構成ユニットの成形用金型の基準羽根を成形する部分の説明図である。
【0005】
構成ユニット同士を超音波溶着にて接続する場合に、両者が正しく接合される必要がある。このため誤組付(誤溶着)の防止のために基準羽根499の先端部に切欠きKを設けている。基準羽根499が嵌合する嵌合溝899の長さは切欠き先端部分の長さとなっている。このように騒音低減で羽根部材をランダムピッチとする場合に基準羽根先端に切欠きを設けることは当業者ではよくなされていることである。
【0006】
このよう羽根部材(49、499)をランダムピッチに配置した場合、誤組立を防止するために基準羽根499の位置を識別する必要がある。このために基準羽根499の先端部に切欠きKを設けた場合、切欠きKを形成するために金型には突起部Tが必要である。構成ユニットを多数成形すると切欠きKを形成するための突起部TにバリB(付着物)が形成され、徐々に金型を摩耗させ、羽根部材(499)の表面に筋L等が形成される。このような現象は、羽根車を軽量化するために羽根部材の平均肉厚を薄くすると更に顕著になる。基準羽根でこのような現象が起こると金型の改修が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術における上記の問題点である送風機用羽根車の成形用の金型の寿命を改善した基準羽根形状を有する送風機用羽根車を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1発明の送風機用羽根車は、以下の特徴を有している。
複数の羽根部材を円盤状部材にランダムピッチで円筒状に成形して構成ユニット化し、前記構成ユニットの羽根部材を別の構成ユニットの前記円盤状部材に接続して形成される送風機用の羽根車であって、
前記構成ユニットの羽根部材のうち、基準となる基準羽根の幅を他の羽根部材よりも狭くし、
前記円盤状部材の羽根部材が成形された側と反対面に、羽根部材先端を嵌合する嵌合溝を前記羽根部材と同数設け、
前記嵌合溝のうち前記基準羽根を嵌合する嵌合溝は、基準羽根の断面と同一形状とし、他の羽根部材が挿入されない様にした。
【0009】
第1発明の送風機用羽根車は、その構成ユニットの基準羽根は他の羽根部材とは幅を狭くしたストレート形状である。従来は、基準羽根の先端には切欠きが存在しており、成形用金型にも切欠き部に相当する突起部が設けられていた。構成ユニットを多数回に亘り成形するとこの突起部の角部に付着物が付着してバリ状になる。このバリは、基準羽根の表面に筋状の傷を発生させる原因となる。この傷が顕著になると送風機用羽根車の性能に支障をきたすこととなる。第1発明の送風機用羽根車によればそのような不具合は皆無となる。
【0010】
第2発明の送風機用羽根車は、第1発明において以下の特徴を有している。
前記基準羽根の幅は、送風機用羽根車の回転軸側の端の位置を送風機用羽根車の外周側に移動して幅を狭くした。
【0011】
第2発明によれば、基準羽根の幅を送風機用羽根車の外周側の位置は変更せず回転軸側の位置を変更して幅を狭くしているので送風機用羽根車の送風性能(風量)を低下させることなく第1発明の効果を発現することができる。
【0012】
第3発明の送風機用羽根車は、第1発明において以下の特徴を有している。
前記基準羽根の幅は、羽根車の回転軸側の端の位置を羽根車の回転軸側に移動して幅を長くした。
【0013】
第3発明によれば、第1発明と第2発明の効果が発現する。
【0014】
第4発明の送風機用羽根車は、第1発明から第3発明のいずれかにおいて以下の特徴を有する。
前記基準羽根は、その幅を基準羽根以外の羽根部材と同一とし、その断面の羽根部材の羽根車の外周側及び/または回転軸側の肉厚を基準羽根以外の羽根部材よりも厚くし、
前記基準羽根を嵌合する嵌合溝は、基準羽根の断面と同一形状とし、
他の羽根部材が挿入されない様にした。
【0015】
第4発明によれば、第1発明から第3発明の効果が発現する。
【0016】
第5発明の送風機用羽根車は、第1発明から第4発明のいずれかにおいて以下の特徴を有する。
前記基準羽根は、その幅を基準羽根以外の羽根部材と同一とし、その断面の羽根部材の羽根車の外周側及び/または回転軸側の肉厚を基準羽根以外の羽根部材よりも薄くし、
前記基準羽根を嵌合する嵌合溝は、基準羽根の断面と同一形状とし、
他の羽根部材が挿入されない様にした。
【0017】
第5発明によれば、第1発明から第3発明の効果が発現する。
【0018】
第6発明の送風機用羽根車は、第1発明から第5発明のいずれかにおいて以下の特徴を有する。
前記基準羽根を嵌合する嵌合溝の両側に識別マークを設けた。
【0019】
第6発明の送風機用羽根車によれば、基準羽根を嵌合する嵌合溝の両側に識別マークが設けられているので、基準羽根を嵌め込むべき嵌合溝の識別が容易になる。このため構成ユニットを組み付ける作業が容易になり送風機用羽根車の製造効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明の送風機用羽根車の構成ユニットの説明図である。
【
図3】本発明の実施形態1の基準羽根と嵌合溝の説明図である。
【
図4】本発明の実施形態2の基準羽根と嵌合溝の説明図である。
【
図5】本発明の実施形態3の基準羽根と嵌合溝の説明図である。
【
図6】本発明の実施形態4の基準羽根と嵌合溝の説明図である。
【
図7】本発明の実施形態の基準羽根に付与する識別マークの説明図である。
【
図8】従来の構成ユニットの基準羽根の説明図である。
【
図9】従来の構成ユニットの成形用金型の基準羽根を成形する部分の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を図により説明する。なお、本実施形態の説明において、「羽根車」とは「送風機用羽根車」を指すものとする。
図1は本発明の送風機用羽根車の説明図、
図2は本発明の送風機用羽根車の構成ユニットの説明図、
図3は本発明の実施形態1の基準羽根と嵌合溝の説明図、
図4は本発明の実施形態2の基準羽根と嵌合溝の説明図、
図5は本発明の実施形態3の基準羽根と嵌合溝の説明図、
図6は本発明の実施形態4の基準羽根と嵌合溝の説明図、
図7は本発明の実施形態の基準羽根に付与する識別マークの説明図である。
【実施例】
【0022】
<1>本発明の羽根車の構造
図1に示すように、実施例1の羽根車1は、複数の
図2の羽根車の構成ユニット2、エンドプレート(ボス側円盤状固定板)5、軸部6及びボス部7から構成されている。軸部6は、羽根車1の一方側の端部の構成ユニット2の円盤状部材3に取り付けされている。エンドプレート(ボス側円盤状固定板)5は、羽根車1のボス側の端部の構成ユニットのブレード4側に取り付けされている。ボス部7は、エンドプレート5に設けられている。
【0023】
<2>羽根部材(構成ユニット2)の構造
羽根車1の構成ユニット2は、
図2に示すように、円盤状部材3、羽根部材4から構成されている。材質は、AS樹脂、ABS樹脂、PS樹脂およびPP樹脂などの合成樹脂を使用することができる。ここに記載した樹脂は一例であり、通常使われる合成樹脂として成形品に一定の強度をもたらす合成樹脂であれば十分使用することができる。またエンドプレート5も同一素材で成形することができる。また構成ユニット2、エンドプレート5、及び軸部側円盤状固定板3は、それぞれ、射出成形、プレス法又は押出法などにより成形されている。各構成ユニット2同士の接続は、超音波溶着法等の接着法により接合することができる。
【0024】
構成ユニット2の羽根部材は、騒音低減のために等ピッチではなくランダムピッチで円盤状部材3に設けられている。一方構成ユニットを超音波溶着等で接続するために円盤状部材3の羽根部材が成形されている側と反対側に羽根部材の先端が嵌り込む嵌合溝8が羽根部材と同数設けられている。羽根部材がランダムピッチで設けられているので、嵌合溝も羽根部材と同一ピッチで設けられている。羽根部材は、ランダムピッチに配置されているとはいえそのピッチの差が微妙な差であると羽根部材は軽量化のために平均肉厚が0.6mm程度であるため変形して嵌り込んでしまうことがある。このような状況になると羽根部材が正規の位置に配置されない状態となり超音波溶着時に羽根を破損させたり、送風機の騒音特性等に支障をきたすことになる。このため羽根部材が正しく組み付けられるようにするために基準羽根を設けている。基準羽根の実施形態の詳細は以下詳述するが、基準羽根(
図3から
図7の411から441)とそれ以外の羽根部材と形状を変更して誤組付の防止を図っている。従って嵌合溝も、基準羽根が嵌り込む嵌合溝(
図3から
図7の811から841)のみ形状を変更し他は同一である。
【0025】
また基準羽根は、従来は他の羽根部材と区別するために羽根部材の先端に切欠きを設けていた。しかし基準羽根の先端に切欠きを設けることは成形用金型寿命の低下をきたすことから、本発明においては基準羽根の先端部には識別用の切欠きは無くストレート形状である。
【0026】
<3>具体的な実施形態
以下、本実施例における基準羽根による誤組付の防止の方法について説明するが下記の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
<3-1>実施形態1
図3は、実施形態1の基準羽根と嵌合溝の形状の説明図である。本図に示すように、基準羽根411は他の羽根部材41とその幅(長さ)のみを狭くしている。また基準羽根411の嵌め込まれる嵌合溝811はその形状を基準羽根411の断面と同一形状としている。このため誤組付けを防止できる。基準羽根411の幅は、他の複数の羽根41の外周側の位置と同じとし、羽根車1の回転軸側の位置を外周側に移動させて狭くしている。このため基準羽根の幅(長さ)を狭くしても送風機の送風性能(風量)の低下をきたすことはない。
【0028】
本実施形態における基準羽根411の幅(長さ)は他の羽根部材41よりも狭くなっているが、その幅を極端に狭くすることは基準羽根411の強度低下等をきたすため好ましくはない。このため、
図7に示すように基準羽根411と嵌め込む嵌合溝811を識別するためにその嵌合溝811の両側に識別用に凹部等Sを設けても良い。このように基準羽根411を嵌め込む嵌合溝811の位置を分かり易くするために、識別用の凹部等Sを設けると、構成ユニットを組み付ける作業の際に他の嵌合溝81との区別が容易になり羽根車1の製造効率が向上するという効果が発現する。
【0029】
<3-2>実施形態2
図4は、実施形態2の基準羽根と嵌合溝の形状の説明図である。本図に示すように、基準羽根421は他の羽根部材42とその幅(長さ)を回転軸側に長くしている。また基準羽根421の嵌め込まれる嵌合溝821も基準羽根の断面と同一形状とし、誤組付けを防止できる。この場合、基準羽根421の断面の肉厚は
図4のとおり回転軸側を厚くしても良いし、他の羽根部材42と同一としても良い。また本実施形態においても、基準羽根421と嵌め込む嵌合溝821を他の嵌合溝82と識別するためにその嵌合溝の両側に識別用に凹部等Sを設けることが好ましい。
【0030】
<3-3>実施形態3
図5は、実施形態3の基準羽根と嵌合溝の形状の説明図である。本図に示すように、基準羽根431は他の羽根部材43と幅(長さ)は同じとし、その断面形状において羽根車1の回転軸側の肉厚を厚くしている。また基準羽根431の嵌め込まれる嵌合溝831も基準羽根の断面と同一の形状をしている。従って基準羽根431が他の羽根部材43の嵌合溝83に嵌合されるという誤組付けを防止できる。この実施形態は、基準羽根431の断面の羽根車1の外周側の肉厚を厚くしてもよく、また羽根車1の外周側と回転軸側の両方の肉厚を厚くしても良い。また本実施形態においても、基準羽根431と嵌め込む嵌合溝831を識別するためにその嵌合溝の両側に識別用に凹部等Sを設けることが好ましい。
【0031】
<3-4>実施形態4
図6は、実施形態4の基準羽根441と嵌合溝841の形状の説明図である。本図に示すように、基準羽根441は他の羽根部材44に対して幅(長さ)は同じとし、その断面形状において外周側と回転軸側の肉厚を薄くしている。また基準羽根の断面の肉厚を羽根車の外周側と回転軸側のいずれか一方を薄くすることでも良い。基準羽根441が嵌め込まれる嵌合溝(841)は、基準羽根と同一の形状をしている。従って基準羽根441が他の羽根部材44の嵌合溝84に嵌合されるという誤組付けを防止できる。また本実施形態においても、基準羽根441と嵌め込む嵌合溝841を識別するためにその嵌合溝の両側に識別用に凹部等Sを設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0032】
1 羽根車
2 羽根車の構成ユニット
3 円盤状部材
4 羽根部材(ブレード)
41 羽根部材(実施形態1)
42 羽根部材(実施形態2)
43 羽根部材(実施形態3)
44 羽根部材(実施形態4)
411 基準羽根(実施形態1)
421 基準羽根(実施形態2)
431 基準羽根(実施形態3)
441 基準羽根(実施形態4)
5 エンドプレート(ボス側円盤状固定板)
6 軸部
7 ボス部
8 嵌合溝
81 嵌合溝(実施形態1)
82 嵌合溝(実施形態2)
83 嵌合溝(実施形態3)
84 嵌合溝(実施形態4)
811 基準羽根用の嵌合溝(実施形態1)
821 基準羽根用の嵌合溝(実施形態2)
831 基準羽根用の嵌合溝(実施形態3)
841 基準羽根用の嵌合溝(実施形態4)
C 空洞(基準羽根成形部)
K 切欠き
L 筋
M 金型部
S 識別マーク
T 金型突起部
B バリ