(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/18 20060101AFI20220608BHJP
【FI】
G01N27/18
(21)【出願番号】P 2019015445
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松倉 佑介
(72)【発明者】
【氏名】北野谷 昇治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】市川 大祐
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-124716(JP,A)
【文献】特開2006-284498(JP,A)
【文献】特開平10-197470(JP,A)
【文献】特開2015-132591(JP,A)
【文献】特開2017-36936(JP,A)
【文献】特開2019-174332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - 27/24
G01N 25/00 - 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導式の一対の第1ガス検出素子及び第2ガス検出素子と、
内側に前記第1ガス検出素子が配される第1内部空間を有し、前記第1内部空間と被検出雰囲気に曝された外側とを繋ぐ第1開口部を有する第1格納部と、
内側に前記第2ガス検出素子が配される第2内部空間を有し、前記第2内部空間と前記外側とを繋ぐ第2開口部を有する第2格納部と、
水蒸気を透過させかつ被検出ガスを実質的に透過させない素材からなり、前記第1開口部を塞ぐように配される第1膜体と、
前記第1ガス検出素子及び前記第2ガス検出素子からの各出力に基づいて、前記第2内部空間に進入した前記被検出雰囲気に含まれる前記被検出ガスの濃度を演算する演算部とを備えるガスセンサであって、
前記第1膜体と同種の素材からなり、前記第1膜体よりも厚みが大きく、前記第2開口部を塞ぐように配される第2膜体を有し、
前記第2膜体は、前記外側と前記第2内部空間とが連通するように厚み方向に貫通する連通孔を含み、
前記被検出雰囲気の水蒸気濃度が2体積%の状態において、前記被検出雰囲気に含まれる被検出ガス濃度を、25℃の温度条件で、0%から2%に急変させた場合に、前記被検出ガスの応答時間が3秒以内となり、かつ前記被検出雰囲気が前記被検出ガスを含まない状態において、前記被検出雰囲気に含まれる水蒸気濃度を、60℃の温度条件で、2体積%から18体積%に急変させた場合に、前記第1内部空間と前記第2内部空間との間の水蒸気濃度の差が、7体積%以下となるガスセンサ。
【請求項2】
前記被検出ガスは、水素であり、
前記第1内部空間と前記第2内部空間との間の水蒸気濃度の差が、水素濃度換算で、6,300ppm以下となる請求項1に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
水素やメタン等の可燃性ガスを検出するガスセンサとして、水分(つまり、湿度)の影響が抑制されたガスセンサが知られている(特許文献1参照)。特許文献1のガスセンサでは、被検出雰囲気(検知対象ガス)に開放した一方の空間に検知用のガス検出素子が配置され、その被検出雰囲気中に含まれる水蒸気を透過しかつ被検出ガスを透過しない膜体で開口部が覆われた他方の空間に参照用のガス検出素子が配置される。これら一対のガス検出素子の湿度条件は、互いに同じになるため、前記ガスセンサは、湿度の影響を受けずにガスを検出できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ガスセンサの使用環境によっては、大量の水蒸気が発生し、その水蒸気の影響で、湿度が急激に高くなることがある。このようなガスセンサにおいて、被検出雰囲気の湿度が大きく変化した場合、被検出雰囲気に開放した空間内の湿度は被検出雰囲気の湿度変化に応じて、直ちに変化することができる。これに対し、前記膜体で開口部が覆われた空間には、直接ではなく前記膜体の内部を通過して水蒸気が導入される。そのため、前記膜体で開口部が覆われた空間内の湿度は被検出雰囲気の湿度変化に応じて直ちに変化することができず、被検出雰囲気の湿度変化に遅れて変化することになる。その結果、一対のガス検知素子が配置された2つの空間内の湿度(即ち、水蒸気濃度)の間に、大きな差が発生することがあった。そのような大きな湿度差が発生していると、その間のガスセンサでは、検知用のガス検出素子が検知する水蒸気の影響を無視することができず、その結果、被検出ガス濃度を正しく測定することができない。
【0005】
本発明は、被検出雰囲気の湿度が大きく変化した場合においても、被検出ガス濃度を精度よく測定できるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 熱伝導式の一対の第1ガス検出素子及び第2ガス検出素子と、内側に前記第1ガス検出素子が配される第1内部空間を有し、前記第1内部空間と被検出雰囲気に曝された外側とを繋ぐ第1開口部を有する第1格納部と、内側に前記第2ガス検出素子が配される第2内部空間を有し、前記第2内部空間と前記外側とを繋ぐ第2開口部を有する第2格納部と、水蒸気を透過させかつ被検出ガスを実質的に透過させない素材からなり、前記第1開口部を塞ぐように配される第1膜体と、前記第1ガス検出素子及び前記第2ガス検出素子からの各出力に基づいて、前記第2内部空間に進入した前記被検出雰囲気に含まれる前記被検出ガスの濃度を演算する演算部とを備えるガスセンサであって、前記第1膜体と同種の素材からなり、前記第1膜体よりも厚みが大きく、前記第2開口部を塞ぐように配される第2膜体を有し、前記第2膜体は、前記外側と前記第2内部空間とが連通するように厚み方向に貫通する連通孔を含み、前記被検出雰囲気の水蒸気濃度が2体積%の状態において、前記被検出雰囲気に含まれる被検出ガス濃度を、25℃の温度条件で、0%から2%に急変させた場合に、前記被検出ガスの応答時間が3秒以内となり、かつ前記被検出雰囲気が前記被検出ガスを含まない状態において、前記被検出雰囲気に含まれる水蒸気濃度を、60℃の温度条件で、2体積%から18体積%に急変させた場合に、前記第1内部空間と前記第2内部空間との間の水蒸気濃度の差が、7体積%以下となるガスセンサ。
【0007】
<2> 前記被検出ガスは、水素であり、前記第1内部空間と前記第2内部空間との間の水蒸気濃度の差が、水素濃度換算で、6,300ppm以下となる前記<1>に記載のガスセンサ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被検出雰囲気の湿度が大きく変化した場合においても、被検出ガス濃度を精度よく測定できるガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係るガスセンサの構成を模式的に表した断面図
【
図2】ガスセンサの第1格納部及び第2格納部近傍の構成を模式的に表した部分拡大断面図
【
図3】ガスセンサが備える第1ガス検出素子の構成を模式的に表した平面図
【
図6】被検出ガス応答試験の内容(切り換え前)を模式的に表した説明図
【
図7】被検出ガス応答試験の内容(切り換え後)を模式的に表した説明図
【
図9】湿度過渡試験用のガスセンサの第1格納部及び第2格納部の構成を模式的に表した部分拡大断面図
【
図10】湿度過渡試験の内容を模式的に表した説明図
【
図12】試験番号1~4における湿度過渡試験の結果を示すグラフ
【
図13】試験番号1~4における湿度過渡試験の結果(水素濃度換算)を示すグラフ
【
図14】試験番号2,5における湿度過渡試験の結果を示すグラフで
【
図15】試験番号2,5における湿度過渡試験の結果(水素濃度換算)を示すグラフ
【
図16】試験番号3,6における湿度過渡試験の結果を示すグラフ
【
図17】試験番号3,6における湿度過渡試験の結果(水素濃度換算)を示すグラフ
【
図18】試験番号7~11における湿度過渡試験の結果を示すグラフ
【
図19】試験番号7~11における湿度過渡試験の結果(水素濃度換算)を示すグラフ
【
図20】試験番号7~11における水素ガス応答試験の結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1を、
図1~
図5を参照しつつ説明する。
図1は、実施形態1に係るガスセンサ1の構成を模式的に表した断面図であり、
図2は、ガスセンサ1の第1格納部4及び第2格納部5近傍の構成を模式的に表した部分拡大断面図である。ガスセンサ1は、被検出雰囲気中の水素ガス(被検出ガス)を検出するための装置である。このガスセンサ1は、
図1及び
図2に示されるように、主として、第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3と、第1格納部4及び第2格納部5と、ケーシング6と、回路基板10と、演算部12とを備えている。
【0011】
第1ガス検出素子2は、自身の温度変化により抵抗値が変化する発熱抵抗体を有する熱伝導式の検出素子である。第1ガス検出素子2は、被検出ガスに曝されない参照側の検出素子として使用される。
図3は、ガスセンサ1が備える第1ガス検出素子2の構成を模式的に表した平面図であり、
図4は、
図3のA-A線断面図である。第1ガス検出素子2は、
図3及び
図4に示されるように、発熱抵抗体20と、絶縁層21と、配線22と、一対の第1電極パッド23A,23Bと、基板26とを有する。
【0012】
発熱抵抗体20は、渦巻き形状にパターン化された導体であり、絶縁層21の中央部分に埋設されている。また、発熱抵抗体20は、配線22を介して第1電極パッド23A,23Bに電気的に接続されている。
【0013】
第1ガス検出素子2の第1電極パッド23A,23Bは、絶縁層21の表面に形成されている。また、第1電極パッド23A,23Bの一方は、後述する第2ガス検出素子3に設けられた第2電極パッド(不図示)の一方に接続される。なお、
図4に示されるように、絶縁層21の第1電極パッド23A,23Bと反対側の表面には、シリコン製の基板26が積層されている。基板26は、発熱抵抗体20が配置される領域には存在しない。この領域は、絶縁層21が露出する凹部27となり、ダイアフラム構造を構成している。
【0014】
発熱抵抗体20は、自身の温度変化により抵抗値が変化する部材であり、温度抵抗係数が大きい導電性材料で構成される。発熱抵抗体20の材料としては、例えば、白金(Pt)が使用される。
【0015】
なお、絶縁層21は、単一の材料で形成されてもよいし、異なる材料を用いた複数の層から構成されてもよい。絶縁層21を構成する絶縁性材料としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、窒化珪素(Si3N4)等が挙げられる。
【0016】
第2ガス検出素子3は、第1ガス検出素子2と同様、自身の温度変化により抵抗値が変化する発熱抵抗体30(
図5参照)を有する熱伝導式の検出素子である。第2ガス検出素子3は、被検出ガスに曝され、被検出ガスを検知する検知側の検出素子として使用される。第2ガス検出素子3は、図示しないが第1ガス検出素子2と同様に、発熱抵抗体30と、絶縁層と、配線と、一対の第2電極パッドと、基板とを有する。第2電極パッドの一方は、グランドに接続される。なお、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20と第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30(
図5参照)とは、抵抗値が同じであることが好ましい。
【0017】
第1格納部4は、台座7と保護キャップ8とで構成される一方向に開口した箱状の部分であり、内側に第1ガス検出素子2が配される第1内部空間4Aと、その第1内部空間4Aと被検出雰囲気に曝された第1格納部4の外側(後述の内部空間6C)とを繋ぐ第1開口部4Bとを有する。また、第2格納部5は、第1格納部4と同様、後述する台座7及び保護キャップ8によって構成される一方向に開口した箱状の部分であり、内側に第2ガス検出素子3が配される第2内部空間5Aと、その第2内部空間5Aと被検出雰囲気に曝された第2格納部5の外側(後述の内部空間6C)とを繋ぐ第2開口部5Bとを有する。第1格納部4及び第2格納部5は、台座7に保護キャップ8を被せるように取り付けることで形成される。
【0018】
台座7は、一方向に開口した開口部7a1を有し、かつ第1ガス検出素子2が載置される凹部7aと、一方向に開口した開口部7b1を有し、かつ第2ガス検出素子3が配置される一方向に開口した凹部7bとを有する。2つの凹部7a、7bは、隣同士で並ぶように配置されている。このような台座7は、回路基板10の表面に設置されている。台座7の材質は、絶縁性セラミックである。台座7を構成する好適な絶縁性セラミックとしては、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア等が挙げられる。本実施形態では、台座7は保護キャップ8と同一の絶縁性セラミックで構成される。
【0019】
保護キャップ8は、2つの凹部7a,7bに載置された第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3を覆うように、台座7に接着されている。
【0020】
保護キャップ8の材質は、絶縁性セラミックである。保護キャップ8を構成する好適な絶縁性セラミックとしては、例えばアルミナが挙げられる。上述したように、本実施形態では、台座7と保護キャップ8とは同一の絶縁性セラミックで構成される。
【0021】
台座7と保護キャップ8とは絶縁性接着剤により接着されている。この絶縁性接着剤としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化樹脂等を主成分とするものが使用できる。これらの中でも台座7と保護キャップ8との密着性を高める等の観点から、熱硬化性樹脂を主成分とする絶縁性接着剤が好ましい。具体的な熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂等が挙げられる。なお、「主成分」とは、絶縁性接着剤中に、80質量%以上含有される成分を意味する。
【0022】
このような保護キャップ8には、第1格納部4に対するガスの出入口となる第1開口部4Bと、第2格納部5に対するガスの出入口となる第2開口部5Bとが形成されている。保護キャップ8は、一定の厚みを有する部分を含み、かつ凹部7aの開口部7a1及び凹部7bの開口部7b1に対して、それぞれ宛がわれる本体部8Aを有する。そして、この本体部8Aを厚み方向に貫通する形で、第1開口部4B及び第2開口部5Bが形成されている。
【0023】
第1開口部4Bは、第1格納部4の外側から内側(凹部7a側)まで、同じ大きさで開口している。また、第2開口部5Bも、第1開口部4Bと同様、第2格納部5の外側から内側(凹部7b)まで、同じ大きさで開口している。このような第1開口部4Bの開口面積と第2開口部5Bの開口面積とは、互いに同じ大きさに設定されている。
【0024】
本明細書において、第1格納部4の第1内部空間4Aは、台座7の一方の凹部7aと、保護キャップ8の本体部8Aとで囲まれた空間と、その空間と続く第1開口部4Bの内側にある空間とからなる。また、第2格納部5の第2内部空間5Aは、台座7の他方の凹部7bと、保護キャップ8の本体部8Aとで囲まれた空間と、その空間と続く第2開口部5Bの内側にある空間とからなる。本実施形態の場合、第1内部空間4Aと、第2内部空間5Aとは、互いに同じ大きさ(体積)に設定されている。
【0025】
第1格納部4及び第2格納部5は、
図2に示されるように、1枚の壁を共有するように互いに隣接した形で設けられている。そして、それらの内部にある第1内部空間4A及び第2内部空間5Aは、互いに近接した状態となっている。そのため、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の温度差が低減される。ガスセンサ1は、このような構成を備えることにより、温度変化による出力変動が小さくなり、センサ出力の誤差が抑制される。
【0026】
第1膜体4Cは、水蒸気を透過させかつ被検出ガス(水素ガス、メタンガス等の可燃性ガス)を実質的に透過させない性質を有する素材(固体高分子電解質)からなる膜体である。なお、本明細書において「実質的に透過させない」とは、体積ベースで、被検出ガス(水素ガス等)の透過量が水蒸気の50分の1以下であることを意味する。第1膜体4Cは、
図2に示されるように、所定の厚み(一定の厚み)を有する膜体であり、第1開口部4Bの全体を塞ぐように、保護キャップ8の本体部8Aに対して、接着剤等を利用して固定されている。保護キャップ8の本体部8Aには、外側(後述の内部空間6C)に向かって開口した2つの凹部8a、8bが設けられており、その一方の凹部8aに収容される形で、第1膜体4Cが本体部8Aに取り付けられている。
【0027】
このような第1膜体4Cとしては、フッ素樹脂系のイオン交換膜が好適に使用できる。具体的には、例えば、Nafion(登録商標)、Flemion(登録商標)、Aciplex(登録商標)等が挙げられる。また、第1膜体4Cとしては、被検出ガスと水蒸気とを分離できる中空糸膜を用いてもよい。
【0028】
第1膜体4Cは、第1格納部4の外側(後述の内部空間6C)にある被検出雰囲気に含まれる水分(水蒸気)を、第1内部空間4Aへ向けて透過させることができる。また、第1膜体4Cは、第1内部空間4Aにある水分(水蒸気)を、第1格納部4の外側へ向けて透過させることもできる。
【0029】
なお、本実施形態の第1膜体4Cには、被検出ガス(水素ガス等)を酸化するための触媒層14が積層されている。触媒層14は、第1膜体4Cの第1内部空間4A側の表面に、積層されている。なお、触媒層14は、水蒸気を透過させる機能を備えている。
【0030】
第2膜体5Cは、第1膜体4Cと同種の素材(固体高分子電解質)からなる。また、第2膜体5Cは、第1膜体4Cよりも厚みが大きい膜体からなる。第2膜体5Cは、一定の厚みを有する。具体的な第2膜体5Cの素材としては、第1膜体4Cの素材として例示したものを使用することができる。第2膜体5Cも、第1膜体4Cと同様、水蒸気を透過させかつ被検出ガス(水素ガス、メタンガス等の可燃性ガス)を実質的に透過させない性質を有する。
【0031】
また、第2膜体5Cは、湿度に応じて、水分(水蒸気)の吸収及び放出を行う調湿機能を備えている。第2膜体5Cは、厚みが大きくなるほど、大きな効果(調湿効果)が得られる。なお、第2膜体5Cは、第1膜体4Cと比べて、厚みが大きいため、調湿機能の効果が顕著に表れる。
【0032】
第2膜体5Cは、
図2に示されるように、第2開口部5Bの全体を塞ぐように、保護キャップ8の本体部8Aに対して、接着剤等を利用して固定されている。第2膜体5Cは、本体部8Aに設けられた他方の凹部8bに収容される形で、本体部8Aに取り付けられている。
【0033】
また、第2膜体5Cは、被検出雰囲気に曝された第2格納部5の外側(後述の内部空間6C)と、第2内部空間5Aとを連通させる厚み方向に貫通した連通孔5C1を有する。第2膜体5Cは、連通孔5C1が第2開口部5Bと連通するように、保護キャップ8の本体部8Aに取り付けられている。連通孔5C1は、外部から第2格納部5の第2内部空間5Aを視認可能な大きさの孔であり、被検出雰囲気中に含まれる被検出ガス及び水蒸気を、第2格納部5の外側から、第2内部空間5Aへ直接、導入させることができる。また、反対に、連通孔5C1は、第2内部空間5Aにある被検出ガス及び水蒸気を、第2格納部5の外側へ排出することもできる。なお、本実施形態の場合、連通孔5C1の開口面積は、第2開口部5Bの開口面積よりも小さい。また、本実施形態の連通孔5C1は、平面視した際に、円形状の開口部を有し、厚み方向に同じ大きさで形成されている。連通孔5C1は、平面視で、第2開口部5Bの略中心に配される。平面視で、連通孔5C1と重ならない箇所の第2開口部5Bは、第2膜体5Cと重なっている。
【0034】
なお、第2膜体5Cの場合、第2格納部5の外側と第2内部空間5Aとの間の水蒸気の出入りは、上述した連通孔5C1を通過することで行われると共に、第2膜体5Cの内部を透過することでも行われる。つまり、第2膜体5Cは、第2格納部5の外側にある水蒸気を、第2内部空間5Aへ向けて透過させることができる共に、第2内部空間5Aにある水蒸気を、第2格納部5の外側へ向けて透過させることができる。
【0035】
ケーシング6は、第1格納部4及び第2格納部5を収容する部材である。ケーシング6は、被検出ガスを含む被検出雰囲気を内部に導入する開口6Aと、その開口6Aに配置されたフィルタ6Bとを有する。
【0036】
具体的には、第1格納部4及び第2格納部5(つまり、台座7及び保護キャップ8)は、ケーシング6と回路基板10との間に設けられた内部空間6Cに収容されている。内部空間6Cは、ケーシング6の内部に突出した内枠6Dにシール部材11を介して回路基板10を固定することで形成されている。つまり、内部空間6Cは、ケーシング6と、回路基板10と、それらを固定するシール部材11とで囲まれた空間である。
【0037】
また、開口6Aは、被検出雰囲気と内部空間6Cとを連通するように形成されている。つまり、第1格納部4及び第2格納部5の外側は、被検出雰囲気に曝される。開口6Aから内部空間6Cに取り入れられた被検出雰囲気は、第1内部空間4A及び第2内部空間5Aの双方に供給される。
【0038】
フィルタ6Bは、被検出ガス等を透過しかつ液状の水を透過しない(つまり、被検出ガスに含まれている水滴を除去する)撥水フィルタである。フィルタ6Bにより、開口6Aから内部空間6Cに、水滴及びその他の異物が侵入することが抑制される。なお、本実施形態では、フィルタ6Bは、開口6Aを塞ぐようにケーシング6の内面に取り付けられている。
【0039】
図5は、ガスセンサ1の模式的な回路図である。回路基板10は、ケーシング6内に配置される板状の基板であり、
図5に示される回路を備えている。この回路は、第1ガス検出素子2の第1電極パッド23A,23Bと、第2ガス検出素子3の第1電極パッドと電気的に接続されている。
【0040】
演算部12は、第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3からの各出力に基づいて、第2内部空間5Aに進入した被検出雰囲気に含まれる被検出ガスの濃度を演算する。具体的には、
図5に示されるように、演算部12は、直列に接続された第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20及び第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30に一定の電圧Vccを印加したときの、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20と第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30との間の電位から濃度を演算する。
【0041】
より詳細には、演算部12は、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20と第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30との間の電位と、発熱抵抗体20,30と並列に配置された固定抵抗R3と固定抵抗R4との間の電位との電位差を作動増幅回路により増幅させた電位差Vdを取得する。そして、演算部12は、その電位差Vdから被検出ガス(水素ガス)の濃度Dを算出し、出力する。
【0042】
なお、演算部12及び回路基板10には直流電源40から電流が供給される。直流電源40は、第1ガス検出素子2の発熱抵抗体20及び第2ガス検出素子3の発熱抵抗体30に電圧を印加する。
【0043】
本実施形態のガスセンサ1は、被検出ガス応答試験を行った場合に、被検出ガスの応答時間が3秒以内となるように設定される。被検出ガス応答試験は、被検出雰囲気の水蒸気濃度が2体積%の状態において、被検出雰囲気に含まれる被検出ガス濃度(例えば、水素濃度)を、25℃の温度条件で、0%から2%に急変させで、ガスセンサ1の被検出ガスに対する応答時間Y(秒)を測定する試験である。ガスセンサ1では、応答時間Y(秒)が3秒以内となるように、例えば、第2膜体5Cの連通孔5C1の大きさ(特に、開口面積)等が適宜、調整される。被検出ガス応答試験の詳細は後述する。
【0044】
また、ガスセンサ1は、湿度過渡試験を行った場合に、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(最大水蒸気濃度差X)が、7体積%以下となるように設定される。湿度過渡試験は、被検出雰囲気が被検出ガス(例えば、水素ガス)を含まない状態において、被検出雰囲気に含まれる水蒸気濃度を、60℃の温度条件で、2体積%から18体積%に急変させて、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差を測定する試験である。ガスセンサ1では、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(最大水蒸気濃度差X)が、7体積%以下となるように、例えば、第2膜体5Cの厚み、第2膜体5Cの連通孔5C1の大きさ(特に、開口面積)、第1膜体4Cの厚み等が適宜、調整される。湿度過渡試験の詳細は後述する。
【0045】
なお、被検出ガスが水素の場合、上記湿度過渡試験を行った場合に、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差は、水素濃度換算で、6,300ppm以下となることが好ましい。
【0046】
以上のような構成を備えた本実施形態のガスセンサ1は、ガスセンサ1の周囲で大量の水蒸気が発生等して、被検出雰囲気の湿度が低い状態から高い状態へ大きく変化した場合でも、被検出ガス濃度(水素ガス濃度等)を精度よく測定することができる。以下、その原理を説明する。
【0047】
被検出雰囲気中の水蒸気濃度が低い状態から高い状態へ大きく変化した場合(例えば、60℃の温度条件で、被検出雰囲気中の水蒸気濃度が2体積%から18体積%へ変化した場合)、参照側の第1ガスセンサ素子2を収容する第1格納部4の第1内部空間4Aに、第1格納部4の外側にある被検出雰囲気中の水蒸気が、第1膜体4Cを透過し、かつ第1開口部4Bを通過して、第1内部空間4Aに進入する。その結果、第1内部空間4Aの水蒸気濃度は、進入前と比べて高くなる。なお、被検出雰囲気中の被検出ガスは、実質的に第1膜体4Cを透過することができず、被検出ガスの第1内部空間4Aへの進入が抑制される。
【0048】
また、上記のように、被検出雰囲気中の水蒸気濃度が低い状態から高い状態へ大きく変化した場合、検出側の第2ガス検出素子3を収容する第2格納部5の第2内部空間5Aに、第2格納部5の外側にある被検出雰囲気中の水蒸気が、主に、第2膜体5Cに設けられた連通孔5C1及び第2開口部5Bを通過して、第2内部空間5Aへ直接、進入する。連通孔5C1を通過する水蒸気量は、第1膜体4Cを透過する水蒸気量と比べて、多くなることが予想される。しかしながら、本実施形態の第2膜体5Cは、上述したように、その厚みに応じた調湿機能を備えているため、そのような第2膜体5Cによって、第2内部空間5Aに進入した水蒸気等が、適宜、吸収等されることにより、第2内部空間5Aの水蒸気濃度が、第1内部空間4Aと比べて、高くなり過ぎないように調整される。なお、被検出雰囲気中の被検出ガスは、第2膜体5Cに設けられた連通孔5C1及び第2開口部5Bを通過して、第2内部空間5Aへ直接、進入することになる。
【0049】
以上のように、本実施形態のガスセンサ1は、その周囲で大量の水蒸気が発生等して、被検出雰囲気の湿度が低い状態から高い状態へ大きく変化した場合でも、被検出ガス濃度(水素ガス濃度等)を精度よく測定することができる。また、本実施形態のガスセンサ1は、被検出雰囲気の湿度が高い状態から低い状態へ大きく変化した場合でも、被検出ガス濃度(水素ガス濃度等)を精度よく測定することができる。
【0050】
本実施形態のガスセンサ1は、例えば、自動車のエンジンルーム内(例えば、ボンネット裏)に設置して用いられる。
【0051】
次いで、被検出ガス応答試験について、
図6~
図8を参照しつつ説明する。被検出ガス応答試験は、被検出雰囲気の水蒸気濃度が2体積%の状態において、被検出雰囲気に含まれる被検出ガス濃度(例えば、水素ガス濃度)を、25℃の温度条件で、0%から2%に急変させで、ガスセンサ1の被検出ガスに対する応答時間Yを測定する試験である。この被検出ガス応答試験では、参照側の第1開口部4Bの開口面積、及び検知側の第2開口部5Bの開口面積が共に、3.4mm
2(1.7mm×2.0mm)に設定され、かつ参照側の第1内部空間4Aの体積、及び検知側の第2内部空間5Aの体積が共に、8.1mm
3に設定されたガスセンサ1が用いられる。具体的な試験方法の内容は、以下の通りである。
【0052】
図6及び
図7は、被検出ガス応答試験の内容を模式的に表した説明図である。
図6及び
図7には、所定の測定チャンバー100に設置されたガスセンサ1と、測定チャンバー100にガスを供給する2種類のラインL1,L2と、測定チャンバー100に供給されるガスの種類を切り替える2つの三方弁(電磁弁)101,102とが示されている。ラインL1は、被検出ガス(ここでは、水素ガス)の濃度が0%であるエア(空気)を供給する。これに対し、ラインL2は、被検出ガス(水素ガス)の濃度が2%であるエア(空気)を供給する。
図6には、測定チャンバー100に対して、ラインL1より被検出ガス(水素ガス)の濃度が0%であるエア(空気)が供給される様子が示されている。
図7には、測定チャンバー100に対して、ラインL2により被検出ガス(水素ガス)の濃度が2%であるエア(空気)が供給される様子が示されている。測定チャンバー100に供給された前記エアは、適宜、排気される。
【0053】
被検出ガス応答試験では、
図6に示されるように、測定チャンバー100にラインL1より所定のエア(被検出ガス濃度:0%)が供給されている状態から、三方弁101,102を切り替えて、
図7に示されるように、測定チャンバー100にラインL2より、被検出ガスを含む所定のエア(被検出ガス濃度:2%)を供給した時の被検出ガス応答時間Y(秒)を測定する。
【0054】
なお、被検出ガス応答試験を行っている間、測定チャンバー100内の水蒸気濃度(絶対湿度)は、2体積%に設定される。また、ラインL1及びラインL2のガス流量は共に、5L/分に設定される。
【0055】
図8は、被検出ガス応答試験の結果を示すグラフである。
図8の縦軸は、ガスセンサ1のセンサ出力(H
2ppm)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。ここでは、被検出ガスが水素ガスの場合を説明する。
図8に示されるように、応答時間Y(秒)は、以下に示される始点a(秒)と、終点b(秒)とによって求められる。始点a(秒)とは、上記のように、三方弁101,102によってラインL1からラインL2に切り替えた時のガスセンサ1が、水素ガス(被検出ガス)に反応し始めた時間(センサ出力が増加し始めた時間)のことである。また、三方弁101,102による切り替えの後、ラインL2により所定のガス(水素濃度:2%)が測定チャンバー100に供給された状態において、ガスセンサ1のセンサ出力が一定の値(安定点S)で安定した場合、その安定したセンサ出力の90%の値(S×0.9)に到達した時間(秒)が、終点b(秒)となる。このような終点b(秒)から始点a(秒)を引いた値が、ガスセンサ1の水素ガス(被検出ガス)に対する応答時間Y(秒)となる。
【0056】
次いで、湿度過渡試験について、
図9~
図11を参照しつつ説明する。湿度過渡試験は、被検出雰囲気が被検出ガス(例えば、水素ガス)を含まない状態において、被検出雰囲気に含まれる水蒸気濃度を、60℃の温度条件で、2体積%から18体積%に急変させて、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差を測定する試験である。
図9は、湿度過渡試験用のガスセンサ1Tの第1格納部4及び第2格納部5の構成を模式的に表した部分拡大断面図である。湿度過渡試験では、上述したガスセンサ1の第1ガス検出素子2及び第2ガス検出素子3に代えて、それぞれ温湿度センサ2T,3Tが取り付けられたガスセンサ1Tが使用される。温湿度センサ2T,3Tは、静電容量式で相対湿度を検出する半導体素子等からなる。ガスセンサ1Tの温湿度センサ2T,3T以外の基本的な構成は、上述したガスセンサ1の構成と同じである。
図9において、ガスセンサ1Tにおけるガスセンサ1と同一の構成については、ガスセンサ1の各構成と同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0057】
湿度過渡試験用のガスセンサ1Tは、上述した被検出ガス応答試験用のガスセンサ1と同様、参照側の第1開口部4Bの開口面積、及び検知側の第2開口部5Bの開口面積が共に、3.4mm2(1.7mm×2.0mm)に設定され、かつ参照側の第1内部空間4Aの体積、及び検知側の第2内部空間5Aの体積が共に、8.1mm3に設定される。
【0058】
図10は、湿度過渡試験の内容を模式的に表した説明図である。
図10には、所定の測定チャンバー200に設置された湿度過渡試験用のガスセンサ1Tと、測定チャンバー200に設置された湿度過渡試験用のガスセンサ1Tを収容する恒温槽201と、測定チャンバー200にエア(空気)を供給するラインL3と、測定チャンバー200に水蒸気を含むエア(空気)が供給するラインL4と、ラインL3の途中に設けられ、ラインL3により供給されるエア(空気)の流量を調節するマスフローコントローラ202と、ラインL4の途中に設けられ、ラインL4により供給される水蒸気を含むエア(空気)の流量を調節するマスフローコントローラ203とが示されている。
【0059】
恒温槽201内の温度は、60℃に設定される。ラインL3と、ラインL4は、それぞれマスフローコントローラ202,203よりも下流側において、互いに接続されている。測定チャンバー200には、ラインL3より供給され、かつマスフローコントローラ202により流量が調節されたエアと、ライン4より供給され、かつマスフローコントローラ203により流量が調節された水蒸気を含むエアとが合流し、互いに混合して得られるエアが供給される。各マスフローコントローラ202,203を作動させて、各ラインL3,L4の流量を適宜、調節することにより、測定チャンバー200に供給されるエア中の水蒸気濃度を調節することができる。この湿度過渡試験では、測定チャンバー200内に被検出ガス(水素ガス)は供給されず、被検出ガス濃度(水素濃度)が0%である。測定チャンバー200に供給されるエアの流量は一定であり、5L/分に設定される。なお、測定チャンバー200に供給されたエアは、適宜、排気される。
【0060】
湿度過渡試験では、先ず、60℃に設定された恒温槽201内において、測定チャンバー200に、水蒸気を含むエアが供給され、測定チャンバー200内の水蒸気濃度(絶対湿度)を、2体積%の状態で安定させる。次いで、マスフローコントローラ203を作動させて、水蒸気を含むエアを供給するラインL4の流量の設定を変更し、測定チャンバー200内に、水蒸気濃度(絶対湿度)が18体積%のエアを供給する。湿度過渡試験では、このように水蒸気濃度が2体積%の状態から、18体積%の状態へ急変させた際のガスセンサ1Tにおける第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差が測定される。
【0061】
図11は、湿度過渡試験の結果を示すグラフである。
図11の縦軸は、被検出雰囲気の水蒸気濃度(体積%)を表し、横軸は、時間を表す。
図11には、測定チャンバー200に供給されるエア(つまり、被検出雰囲気)中の水蒸気濃度(体積%)が示されている。また、
図11には、2つの内部空間(第1内部空間4A、第2内部空間5A)における水蒸気の濃度差が、曲線Wによって示されている。また、
図11には、2つの内部空間(第1内部空間4A、第2内部空間5A)における最大水蒸気濃度差Xが示されている。湿度過渡試験では、上記のように、60℃の温度条件において、測定チャンバー200に供給されるエア(つまり、被検出雰囲気)中の水蒸気濃度(体積%)を、2体積%から18体積%に急変させた時の、第1内部空間4Aと第2内部空間との間における水蒸気濃度差が測定され、その測定結果より、最大水蒸気濃度差X(体積%)が求められる
【0062】
〔第2膜体の厚みの違いによる検証〕
次いで、ガスセンサ1における第2膜体の厚みが、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差に与える影響を検証した。具体的には、表1に示される各試験番号1~4の各条件の第1膜体及び第2膜体を備える試験用のガスセンサ1Tを用意し、それらについて、湿度過渡試験を行った。湿度過渡試験の結果は、
図12及び
図13に示した。
【0063】
【0064】
なお、表1中の「種類」は、第1膜体及び第2膜体を構成する素材の種類を表す。表1中の「タイプA」とは、延伸性のあるテフロン(登録商標)骨格とスルホン酸基とを含むパーフルオロスルホン酸膜(市販品)のことである。そして、タイプAの前記パーフルオロスルホン酸膜に、更に、触媒層が形成されているもの(市販品)を、「タイプA(触媒層付)」と表す。なお、表1以外の他の表においても、同様の方法で、第1膜体及び第2膜体を構成する素材の種類を表す。
【0065】
また、各試験番号1~4の各条件の第1膜体及び第2膜体を備えるガスセンサ1において、水素を被検出ガスとする被検出ガス応答試験を行い、応答時間Yが3秒以内となるように、各第2膜体に形成される連通孔の大きさを設定した。なお、各試験番号1~4の応答時間Yの結果は、表1に示される通りである。
【0066】
図12及び
図13は、試験番号1~4における湿度過渡試験の結果を示すグラフである。
図12の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(体積%)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
図13の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差を、水素濃度に換算したセンサ出力(H
2ppm)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
図12及び
図13に示されるように、検知側の第2膜体の厚みが、参照側の第1膜体の厚みよりも大きく、かつそれらの厚みの差が大きくなるにしたがって、湿度過渡試験時における参照側の第1内部空間4Aと、検知側の第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度差は小さくなることが確かめられた。
【0067】
〔第1膜体の素材の違いによる検証〕
次いで、ガスセンサ1における第1膜体の素材の違いが、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差に与える影響を検証した。具体的には、表2に示される各試験番号2,5の各条件の第1膜体及び第2膜体を備える試験用のガスセンサ1Tを用意し、それらについて、湿度過渡試験を行った。なお、試験番号2は、上述した試験番号2と同じである。湿度過渡試験の結果は、
図14及び
図15に示した。
【0068】
【0069】
表2中の「タイプB」とは、デュポン社製のパーフルオロスルホン酸膜(Nafion(登録商標))のことである。
【0070】
また、各試験番号2,5の各条件の第1膜体及び第2膜体を備えるガスセンサ1において、水素ガスを被検出ガスとする被検出ガス応答試験を行い、応答時間Yが3秒以内となるように、各第2膜体に形成される連通孔の大きさを設定した。なお、各試験番号2,5の応答時間Yの結果は、表2に示される通りである。
【0071】
図14及び
図15は、試験番号2,5における湿度過渡試験の結果を示すグラフである。
図14の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(体積%)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
図15の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差を、水素濃度に換算したセンサ出力(H
2ppm)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。試験番号2と試験番号5とでは、第1膜体の厚み及び第2膜体の厚みが、互いに同じ値に設定されている。なお、試験番号2と試験番号5とでは、検知側の第2膜体を構成する素材の種類が、互いに異なっている。しかしながら、試験番号2のタイプAの第2膜体5Cと、試験番号5のタイプBの第2膜体5Cは、共に、フッ素樹脂系のイオン交換膜の一種であるため、
図14及び
図15に示されるように、試験番号2と試験番号5とでは、殆ど同じ湿度過渡試験の結果が得られた。
【0072】
〔第1膜体の厚みの違いによる検証〕
次いで、ガスセンサ1における第1膜体4Cの厚みが、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差に与える影響を検証した。具体的には、表3に示される各試験番号3,6の各条件の第1膜体及び第2膜体を備える試験用のガスセンサ1Tを用意し、それらについて、湿度過渡試験を行った。なお、試験番号3は、上述した試験番号3と同じである。湿度過渡試験の結果は、
図16及び
図17に示した。
【0073】
【0074】
各試験番号3,6の各条件の第1膜体及び第2膜体を備えるガスセンサ1において、水素ガスを被検出ガスとする被検出ガス応答試験を行い、応答時間Yが3秒以内となるように、各第2膜体に形成される連通孔の大きさを設定した。なお、各試験番号3,6の応答時間Yの結果は、表3に示される通りである。
【0075】
図16及び
図17は、試験番号3,6における湿度過渡試験の結果を示すグラフである。
図16の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(体積%)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
図17の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差を、水素濃度に換算したセンサ出力(H
2ppm)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
図16及び
図17に示されるように、参照側の第1膜体の厚みを小さくすると、水蒸気(水分子)が第1膜体を移動する際の時間も短くなるため、湿度過渡試験時における参照側の第1内部空間4Aと、検知側の第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度差は、検知側の第2膜体の厚みが同じ条件であれば、小さくなることが確かめられた。
【0076】
〔第2膜体の連通孔径の違いによる検証〕
次いで、ガスセンサ1における第2膜体の連通孔の大きさ(連通孔径)が、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差に与える影響を検証した。具体的には、表4に示される各試験番号7~11の各条件の第1膜体及び第2膜体を備える試験用のガスセンサ1Tを用意し、それらについて、湿度過渡試験を行った。湿度過渡試験の結果は、
図18及び
図19に示した。
【0077】
また、各試験番号7~11の各条件の第1膜体及び第2膜体を備えるガスセンサ1において、水素ガスを被検出ガスとする被検出ガス応答試験(水素ガス応答試験)を行い、応答時間Yを測定した。各試験番号7~11の応答時間Yの結果は、表5及び
図20に示した。
【0078】
【0079】
【0080】
図18及び
図19は、試験番号7~11における湿度過渡試験の結果を示すグラフである。
図18の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(体積%)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
図19の縦軸は、第1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差を、水素濃度に換算したセンサ出力(H
2ppm)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
図20は、試験番号7~11における水素ガス応答試験の結果を示すグラフである。
図20の縦軸は、ガスセンサ1のセンサ出力(H
2ppm)を表し、横軸は、時間(秒)を表す。
【0081】
表5及び
図19~
図20に示されるように、検知側における第2膜体の連通孔の大きさ(連通孔径)が大きいほど、水素ガスが検知側の第2内部空間5Aに進入し易くなるため、水素ガスの応答時間Yは短くなるが、湿度過渡試験時における参照側の第1内部空間4Aと、検知側の第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(最大水蒸気濃度差X)は大きくなることが確かめられた。つまり、水素ガスの応答時間Yと、最大水蒸気濃度差Xとは、所謂、トレードオフの関係にあることが理解される。
【0082】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0083】
(1)上記実施形態1のガスセンサ1では、第2膜体5Cに形成される連通孔5C1は、平面視で円形状をなしていたが、本発明の目的を損なわない限り、連通孔の形状は特に制限されない。また、第2膜体5Cに形成される連通孔の数についても、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、2個以上(複数個)であってもよい。
【0084】
(2)上記実施形態1のガスセンサ1では、第1膜体4Cに対して、触媒層14が形成されていたが、他の実施形態においては、触媒層14が形成されていない第1膜体が使用されてもよい。
【0085】
(3)上記実施形態1において、1内部空間4Aと第2内部空間5Aとの間の水蒸気濃度の差(最大水蒸気濃度差X)は、7体積%以下となるように設定されていたが、他の実施形態においては、更に、6.5体積%以下に設定されてもよいし、また更に、6体積%以下に設定されてもよい。最大水蒸気濃度差Xが、6.5体積%以下であれば、第1内部空間と第2内部空間との間の水蒸気濃度の差が、水素濃度換算で、5,900ppm以下となるため、被検出ガス濃度をより精度よく測定することができる。また、最大水蒸気濃度差Xが、6体積%以下であれば、第1内部空間と第2内部空間との間の水蒸気濃度の差が、水素濃度換算で、5,400ppm以下となるため、被検出ガス濃度を更に精度よく測定することができる。
【符号の説明】
【0086】
1…ガスセンサ、2…第1ガス検出素子、3…第2ガス検出素子、4…第1格納部、4A…第1内部空間、4B…第1開口部、4C…第1膜体、5…第2格納部、5A…第2内部空間、5B…第2開口部、5C…第2膜体、5C1…連通孔、6…ケーシング、7…台座、8…保護キャップ、10…回路基板、11…シール部材、12…演算部