(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】バイノーラル補聴器でのビームフォーミングのための方法
(51)【国際特許分類】
H04R 25/00 20060101AFI20220608BHJP
G10K 11/34 20060101ALI20220608BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20220608BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
H04R25/00 K
G10K11/34 100
G10K11/34 110
H04R3/00 320
H04R1/40 320A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019200949
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2020-01-30
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2018年11月5日にhttps://arxiv.org/abs/1811.01133にて発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】508115093
【氏名又は名称】シバントス ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】ハラ アサド
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ブシャール
(72)【発明者】
【氏名】ホマヨウン カムカー パルシ
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-186494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
H04R 1/20- 1/40
H04R 3/00- 3/14
H04R 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイノーラル補聴器(4)でのビームフォーミングのための方法であって、前記バイノーラル補聴器(4)が、第1のローカルユニット(1)及び第2のローカルユニット(2)を備え、前記方法が、
前記第1のローカルユニット(1)において、環境音(12)から第1の主信号(18)及び第1の補助信号(14)を生成し、前記第2のローカルユニット(2)において、前記環境音(12)から第2の主信号(32)及び第2の補助信号(28)を生成するステップと、
前記環境音(12)中の有用な音声信号(20)の到来方向(α)を推定するステップと、
第1の周波数範囲(40)及び第2の周波数範囲(42)を割り当てるステップと、
第1の範囲ビームフォーマ信号(44)を生成するステップであって、推定された前記到来方向(α)に関連する少なくとも1つの空間条件を前記第1の範囲ビームフォーマ信号(44)の指向特性に課すことによって、前記第1のローカルユニット(1)では、前記第1の周波数範囲(40)内で、前記第1の主信号(18)、前記第1の補助信号(14)、及び前記第2の主信号(32)から前記第1の範囲ビームフォーマ信号(44)を生成し、前記第2のローカルユニット(2)では、前記第1の周波数範囲(40)内で、前記第1の主信号(18)、前記第2の補助信号(28)、及び前記第2の主信号(32)から前記第1の範囲ビームフォーマ信号(44)を生成するステップと、
第2の範囲ビームフォーマ信号(46)を生成するステップであって、推定された前記到来方向(α)に関連する少なくとも1つの空間条件を前記第2の範囲ビームフォーマ信号(46)の指向特性に課すことによって、前記第1のローカルユニット(1)及び前記第2のローカルユニット(2)で、前記第2の周波数範囲(42)内で、前記第1の主信号(18)及び前記第2の主信号(32)から前記第2の範囲ビームフォーマ信号(46)を生成するステップと、
前記第1の範囲ビームフォーマ信号(44)及び前記第2の範囲ビームフォーマ信号(46)から第1のローカル出力信号(50)を導出するステップと、を含み、前記第1のローカル出力信号(50)が、前記第1のローカルユニット(1)の第1の出力変換器(54)によって第1の出力音(52)に変換され、
前記第1のローカルユニット(1)において、
第1のローカル前方信号(10)が、第1の前方入力変換器(6)によって前記環境音(12)から生成され、
第1のローカル後方信号(14)が、第1の後方入力変換器(8)によって前記環境音(12)から生成され、
前記第2のローカルユニット(2)において、
第2のローカル前方信号(24)が、第2の前方入力変換器(22)によって前記環境音(12)から生成され、
第2のローカル後方信号(28)が、第2の後方入力変換器(26)によって前記環境音(12)から生成され、
前記第1の主信号(18)が、前記第1のローカルユニット(1)の第1のローカルビームフォーマ(16)によって前記第1のローカル前方信号(10)及び前記第1のローカル後方信号(14)から生成され、
前記第2の主信号(32)が、前記第2のローカルユニット(
2)の第2のローカルビームフォーマ(30)によって前記第2のローカル前方信号(24)及び前記第2のローカル後方信号(28)から生成され、
前記第1の補助信号(14)が、前記第1のローカルビームフォーマ(16)を経由しない前記第1のローカル後方信号(14)であり、
前記第2の補助信号(28)が、前記第2のローカルビームフォーマ(30)を経由しない前記第2のローカル後方信号(28)である、
方法。
【請求項2】
前記第1の範囲ビームフォーマ信号(44)を生成するために、推定された前記到来方向(α)から第1の角度距離(α1)での第1の減衰値、及び推定された前記到来方向(α)から第2の角度距離(α2)での第2の減衰値が、前記第1の範囲ビームフォーマ信号(44)の前記指向特性に対する前記少なくとも1つの空間条件として与えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の減衰値及び前記第2の減衰値が、
推定された前記到来方向(α)に対して3°~10°で与えられた第1の角度範囲内で、0.5dB未満の減衰を有する第1の角度(α1)が存在し、
推定された前記到来方向(α)に対して-10°~-3°で与えられた第2の角度範囲内で、0.5dB未満の減衰を有する第2の角度(α2)が存在する
ように設定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の範囲ビームフォーマ信号(46)を生成するために、推定された前記到来方向(α)から第3の角度距離(α3)での第3の減衰値が、前記第2の範囲ビームフォーマ信号(46)の前記指向特性に対する前記少なくとも1つの空間条件として与えられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第3の減衰値が、推定された前記到来方向(α)に対して-2°~2°で与えられた第3の角度範囲内で、0.5dB未満の減衰を有する第3の角度(α3)が存在するように設定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の周波数範囲(40)及び前記第2の周波数範囲(42)が、推定された前記到来方向(α)に応じて割り当てられる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
負の開き角から正の開き角までの角度範囲内で推定される前記到来方向(α)に関して、各開き角が、前記第1のローカルユニット(1)及び前記第2のローカルユニット(2)の位置によって定義される正面方向(34)に対して定義され、
第1のクロスオーバ周波数が割り当てられ、
前記第1の周波数範囲(40)が、前記第1のクロスオーバ周波数を超える周波数範囲として割り当てられ、
前記第2の周波数範囲(42)が、前記第1のクロスオーバ周波数未満の周波数範囲として割り当てられる、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のクロスオーバ周波数が、250Hz~2kHzの周波数として割り当てられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のローカルユニット(1)及び前記第2のローカルユニット(2)の位置によって定義される横方向の周りでの前記正の開き角に対する余角の2倍の角度範囲内で推定される前記到来方向(α)に関して、
第2のクロスオーバ周波数が割り当てられ、
前記第1の周波数範囲(40)が、前記第2のクロスオーバ周波数未満の周波数範囲として割り当てられ、
前記第2の周波数範囲(42)が、前記第2のクロスオーバ周波数を超える周波数範囲として割り当てられる、
請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のクロスオーバ周波数が、250Hz~2kHzの周波数として割り当てられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記負の開き角が、前記正面方向(34)に対して[-85°,-65°]の角度範囲から選択され、前記正の開き角が、前記正面方向(34)に対して[65°,85°]の角度範囲から選択される、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の範囲ビームフォーマ信号(44)が、線形拘束付最小分散型ビームフォーマによって、前記第1の主信号(18)、前記第1の補助信号(14)、及び前記第2の主信号(32)から生成され、及び/又は前記第2の範囲ビームフォーマ信号(46)が、最小分散無歪応答ビームフォーマによって、前記第1の主信号(18)及び前記第2の主信号(32)から生成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
環境音(12)を少なくとも1つの第1の入力信号(10、14)に変換するための少なくとも第1の入力変換器(6、8)を備える第1のローカルユニット(1)と、前記環境音(12)を少なくとも1つの第2の入力信号(24、28)に変換するための少なくとも第2の入力変換器(22、26)を備える第2のローカルユニット(2)と、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成された信号処理ユニットと、を備えるバイノーラル補聴器(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイノーラル補聴器でのビームフォーミングのための方法であって、バイノーラル補聴器が、第1のローカルユニット及び第2のローカルユニットを備え、方法が、第1のローカルユニットにおいて、環境音から第1の主信号及び第1の補助信号を生成し、第2のローカルユニットにおいて、環境音から第2の主信号を生成するステップと、第1の主信号、第2の主信号、及び第1の補助信号から第1のローカル出力信号を生成するステップとを含み、第1のローカル出力信号が、第1のローカルユニットの第1の出力変換器によって第1の出力音に変換される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
補聴器において、入力信号のノイズ低減の重要性が常にある。通常、補聴器の使用者としての聴覚障害者は、特定の周波数帯域を聞き取るのが困難である。非常に多くの場合、聴力は、特に、より高い周波数帯域で低下する。そのような帯域には、発話理解に重要なフォルマントが位置しており、したがって、補聴器使用者にとって発話の理解は重要な問題である。特に、この文脈で、補聴器使用者は、信号対雑音比(SNR)の向上につながるノイズ低減の恩恵を受けることがある。最近では、ビームフォーミング技法によるノイズ低減が、補聴器のSNRを高めるために不可欠になっている。ビームフォーミング技法の利点は、「ビーム」であり、すなわちマイクロフォンアレイの感度を有用な信号の発信源の方向へ向け、それにより、ノイズと仮定される他の方向からの音を減衰することができることである。
【0003】
当初は、有用な音声信号の発信源の方を使用者が見ていると仮定して、補聴器使用者の正面方向にビームを向けることしかできなかったが、現在では、特に、それぞれが複数のマイクロフォンを備える2つのローカルユニットを備えるバイノーラル補聴器でのバイノーラルビームフォーミングの場合、他の方向へのビームも実現可能である。したがって、各ローカルユニットにおいて少なくとも2つの入力信号が生成され、それにより、全ての入力信号から非常に高度なマイクロフォンアレイを構成することができる。
【0004】
ビームフォーミング技法の主な問題の1つは、ビームが有用な音声信号の発信源の方に真に向いている場合にだけ、ノイズ低減が適切に機能することである。しかし、特に、音響的に複雑な高ノイズの背景にわたる発話の休止を伴う発話信号の場合、有用な信号(すなわち所望のターゲットソース信号)のいわゆる「到来方向」(DOA)の推定は、誤差を含むことがある。さらに、通常のコミュニケーションジェスチャとしての会話中の補聴器使用者の小さく自然な頭部の動きは、タイムラグを伴ってしかDOAの推定が追従できなくなるような偏差をもたらすことがあり、又はDOAが小さな偏差に対して十分には正確ではない。通常、これらの偏差は小さい角度範囲内でのみ生じるが、結果として、有用な信号は減衰され、ノイズの寄与がわずかに高められ(すなわちノイズ低減がより小さく)、SNRの改良を悪化させる。
【0005】
適応ブロッキングマトリックスを伴う一般化されたサイドローブキャンセラアルゴリズム、又は可動のバイノーラルビームフォーマと組み合わせたDOAの適応推定など、DOAの推定の誤差に対してよりロバストなビームフォーミングを使用したノイズ低減手法が存在する。しかし、一般化されたサイドローブキャンセラ手法は、等方性の周囲ノイズに対してはあまり良好に機能しない。上記の方法は、等方性の周囲ノイズ及び指向性の干渉源が存在する状況に適合させることができるが、しかしこれは、音源の存在確率の計算を必要とし、計算オーバーヘッドが増加する。しかしまた、音源の存在確率は、有用な信号源から生じる音と指向性干渉源から生じる音とを区別する必要がある。実際には、これはかなり難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、ターゲット信号のDOAの推定のより小さい又は中程度の誤差に対して特にロバストなバイノーラル補聴器におけるビームフォーマのロバスト性を高めるための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、この目的は、バイノーラル補聴器でのビームフォーミングのための方法であって、上記バイノーラル補聴器が、第1のローカルユニット及び第2のローカルユニットを備え、方法が、第1のローカルユニットにおいて、環境音から第1の主信号及び第1の補助信号を生成し、第2のローカルユニットにおいて、環境音から第2の主信号を生成するステップと、環境音中の有用な音声信号の到来方向を推定するステップと、第1の周波数範囲及び第2の周波数範囲を割り当てるステップと、推定された到来方向に関連する少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの空間条件を第1の範囲ビームフォーマ信号の指向特性に課すことによって、第1の周波数範囲内で、第1の主信号、第1の補助信号、及び第2の主信号から第1の範囲ビームフォーマ信号を生成するステップと、推定された到来方向に関連する少なくとも1つの空間条件を第2の範囲ビームフォーマ信号の指向特性に課すことによって、第2の周波数範囲内で、第1の主信号及び第2の主信号から第2の範囲ビームフォーマ信号を生成するステップと、第1の範囲ビームフォーマ信号及び第2の範囲ビームフォーマ信号から第1のローカル出力信号を導出するステップと、を含み、第1のローカル出力信号が、第1のローカルユニットの第1の出力変換器によって第1の出力音に変換される方法によって実現される。特定の利点を示し、それ自体に進歩性があり得る実施形態は、従属請求項及び以下の説明によって与えられる。
【0008】
特に、第1のローカルユニット及び第2のローカルユニットは、それぞれ補聴器使用者の左耳と右耳に装着されるべきである。これに関して、第1のローカルユニットは、バイノーラル補聴器の使用者の左耳にある1つのローカルユニットによって、又は使用者の右耳にある1つのユニットによって与えられる。第1及び第2のローカルユニットはそれぞれ、環境音を電気入力信号に変換するための少なくとも1つの入力変換器を備える。特に、第1及び第2のローカルユニットはそれぞれ、少なくとも2つの入力変換器を備えていることがあり、したがって、各ローカルユニットにおいて、それぞれの入力変換器によって環境音から2つの異なる入力信号が生成される。
【0009】
特に、第1の主信号は、第1のローカルユニットにおいて、そこで第1の入力変換器によって生成された第1の入力信号から直接、すなわち別の信号からの信号寄与なしで導出されてよい。代替形態として、第1の主信号は、第1のローカルユニットでの2つの異なる入力変換器によってそれぞれ生成される2つのローカル信号から導出されてよい。例えば、第1のローカルユニットは、環境音から前方入力信号及び後方入力信号をそれぞれ生成する前方入力変換器及び後方入力変換器を備えることがあり、第1の主信号は、場合によっては周波数依存のゲイン調整など何らかの前処理の後に、これらの2つの信号からの信号寄与を含むことがある。同様の条件が、第2のローカルユニットにおいて生成される第2の主信号にも当てはまることがある。好ましくは、第1の主信号を導出するために使用される第1のローカルユニットにおける入力信号の数は、第2の主信号を導出するために使用される第2のローカルユニットにおける入力信号の数に対応する。最も好ましくは、それぞれの入力信号から第1の主信号及び第2の主信号を生成するためのアルゴリズムは、互いに一致している。これは、第1の主信号が遅延和ビームフォーミングによって第1のローカルユニットでの2つの入力信号から生成される場合、第2の主信号も遅延和プロセスによって第2のローカルユニットでの2つの入力信号から生成されることを含む。
【0010】
好ましくは、第1の補助信号は、第1のローカルユニットにおいて、第1の主信号とは異なるやり方で生成される。これは、第1の主信号が少なくとも2つの入力信号から導出される場合、第1の補助信号を第1のローカルユニットのただ1つの入力信号から直接導出することを含む。同様に、第1の主信号が第1のローカルユニットのただ1つの入力信号から導出される場合、第1の補助信号は、少なくとも2つの入力信号(場合によっては、そのうちの1つは、第2のローカルユニットから第1のローカルユニットに向かって伝送される)から生成されることがある。
【0011】
特に、有用な音声信号のDOA(到来方向)は、第1の主信号、第1の補助信号、及び第2の主信号、及び/又はそれぞれの基になっている第1のローカルユニット及び/又は第2のローカルユニットの入力信号のうちの1つを使用して推定されてよい。この推定は、当技術分野で知られている技法によって、例えば様々な方向からのあり得る有用な信号の信号パワーを使用して、又は有用な音声信号の性質について特定の仮定(例えば、有用な音声信号が発話であるという仮定)を立てることによって実施することができる。
【0012】
特に、推定された到来方向に関連する少なくとも2つの空間条件を課すことによって、第1の周波数範囲内で、第1の主信号、第1の補助信号、及び第2の主信号から第1の範囲ビームフォーマ信号が生成される。これに関し、第1の範囲ビームフォーマ信号の生成は、例えば制約ベースの方程式アレイを解くことによって、第1の主信号、第1の補助信号、及び第2の主信号をある種のアレイとして処理し、得られる第1の範囲ビームフォーマ信号は、推定されたDOAに関連するその課された空間条件を満たさなければならない指向特性を示す。例えば、第1の範囲ビームフォーマ信号は、3つの前述の成分信号の重み付きの重ね合わせとして生成されてよく、得られる第1の範囲ビームフォーマ信号の指向特性に課される推定されたDOAに関連する空間条件は、指向特性での一対の減衰値として与えられ、すなわち、DOAからのそれぞれの特定の角度距離において、得られるビームフォーミングに対する2つのそれぞれの感度値として与えられる。これは、推定されたDOAに関して、2つの特定の角度距離が与えられることを意味し、好ましくは、1つの小さい正の角度距離及び1つの小さい負の角度距離が、DOA内で楔状に広がり、上記楔の2つの縁部で、得られるビームフォーミングの感度が、課された空間条件として固定される。
【0013】
同様に、第2の範囲ビームフォーマ信号は、得られる第2の範囲ビームフォーマ信号の指向特性、したがって得られたビームフォーマに対して少なくとも1つ、好ましくは正確に1つの空間条件を課すことによって、第2の周波数範囲内で第1の主信号及び第2の主信号から生成されてよい。したがって、上記空間条件は、DOAから特定の角度距離での指向特性に関する特定の減衰又は感度値として与えられてよい。
【0014】
第1のローカル出力信号は、第1の範囲ビームフォーマ信号及び第2の範囲ビームフォーマ信号を例えば重ね合わせとして直接採用して、これら2つの信号から生成することができ、又は、第1及び第2の範囲ビームフォーマ信号から中間信号を生成することができ、中間信号に対して、周波数依存ゲイン係数などのさらなる補聴器特有の信号処理、しかしまたフィードバック抑制も適用した後、第1のローカル出力信号を第1の出力音に変換してよい。本発明に関して、出力変換器は、特に電気信号によって刺激される機械的な振動によって電気信号を音に変換するように構成された電気音響変換器によって特に与えられることがある。同様に、入力変換器は、環境音を電気入力信号に変換するように構成された電気音響変換器、例えばマイクロフォンによって特に与えられる。
【0015】
第1の周波数範囲及び第2の周波数範囲の割当て、並びにそれぞれ第1の範囲ビームフォーマ信号及び第2の範囲ビームフォーマ信号の生成は、根底にあるノイズ低減問題の周波数依存処置を可能にする。特に、第2の周波数範囲は、物理的な理由により、所与のDOAに関して、音声信号の指向性があまり顕著でない周波数のセット又は範囲に割り当てられ、したがって、DOAの推定におけるより小さい又は中程度の誤差はまた、より低い指向性により、それぞれ有用な信号のより小さい減衰及びノイズ成分のより小さい増加をもたらす。このために、仮定される有用な信号の指向性がより低い状況では、ここでは2つのローカルユニットから2つの主信号の形で与えられる2つの基になる信号からの第2の範囲ビームフォーマ信号の構成は、空間分解能並びにリソース及びCPU時間の最小化に関して十分であると考えられる。
【0016】
一方、有用な信号がより高い指向性を持つと仮定される周波数に関しては、第1の範囲ビームフォーマ信号として生成されるそれぞれのビームフォーミング信号は、第1の補助信号の形での1つの追加信号を考慮に入れ、したがって空間分解能を高め、得られた第1の範囲ビームフォーマ信号の第2の条件を課すことを可能にする。したがって、高いリソース効率で、ビームフォーミングのプロセス中のより高い空間分解能は、有用な信号のより高い指向性により、これが大幅な相違につながる可能性がある周波数範囲でのみ適用される。周波数依存の指向性パターンは、異なるDOAに関して変化することがあるため、推定されるDOAに依存する2つの周波数範囲の割当ては、提案される方法を、DOAに関する推定プロセス中のより小さい又は中程度の誤差に対して特にロバストにすることができる。
【0017】
2つのローカルユニットに対して対称的にこの方法を実施すること、すなわち、2つの周波数範囲を割り当て、2つの主信号を使用して、各側で、すなわち各ユニットにおいて第2の範囲ビームフォーマ信号をローカルで生成し、さらに第1の補助信号を用いて、第1のローカルユニットにおいて第1の範囲ビームフォーマ信号をローカルで生成し、第2の補助信号を用いて、第2のローカルユニットにおいて第1の範囲ビームフォーマ信号をローカルで生成し、第1及び第2のユニットにおいて、ローカルで生成された第1の範囲ビームフォーマ信号及び第2の範囲ビームフォーマ信号から、それぞれの第1及び第2の出力信号を生成することが特に有利となり得る。しかし、有益ではあるものの、そのような対称的な実装は、DOAにロバストなノイズ低減ビームフォーミングに必ずしも必要ではない。DOAが使用者の正面方向に対してかなりの角度距離、例えば±45°超を有する場合、ローカルユニットの一方は、(特に両耳間の音量差に関して)有用な信号発信源に実質的に「より近く」なる。したがって、このローカルユニットにおいて実施される方法は、ノイズ低減と、小さい及び中程度のDOA推定誤差に対するロバスト性とのどちらに関しても既に肯定的な結果をもたらすが、他方のローカルユニットは、上述したように同じ方法を対称的に実装することもしないこともある。
【0018】
好ましくは、第1の範囲ビームフォーマ信号を生成するために、推定された到来方向から第1の角度距離での第1の減衰値、及び推定された到来方向から第2の角度距離での第2の減衰値が、第1の範囲ビームフォーマ信号の指向特性に対する少なくとも1つの空間条件として与えられる。これは、推定されたDOAに関連する2つの空間条件が、得られる第1の範囲ビームフォーマ信号の指向特性に課せられ、これらの2つの空間条件が、DOAからの2つの異なる角度に関するそれぞれの減衰値によって減衰を固定する形で課せられることを意味する。このとき、減衰値は、指示された角度方向で第1の範囲ビームフォーマ信号を形成するビームフォーマの感度を示すものとする。この減衰値のスケーリングに関して、好ましくは、ビームフォーマ自体とは別のさらなる信号処理(周波数依存増幅など)を考慮に入れず、ビームフォーマの空間特性だけを変数として有する。
【0019】
有利には、第1の減衰値及び第2の減衰値は、推定された到来方向に対して3°~10°までの第1の角度範囲において、0.5dB未満の減衰を有する第1の角度が存在し、推定された到来方向に対して-10°~-3°までの第2の角度範囲において、0.5dB未満の減衰を有する第2の角度が存在するように設定される。これは特に、DOAに対して[3°,10°]の範囲内で第1の角度φ1を与えること、DOAに対して[-10°,-3°]の範囲内で第2の角度φ2を与えること、並びに第1及び第2の角度φ1、φ2での減衰値a1、a2を間隔[0dB,0.5dB]内に設定する、例えばa1=0dB、a2=0dBに設定することによって、空間条件を設定することができることを意味する。
【0020】
また、これら2つの空間条件を定式化する代替の且つ同様の方法があり、減衰が値a1∈[0dB,0.5dB]によって与えられる少なくとも1つの角度φ1∈[3°,10°]、及び減衰が値a2∈[0dB,0.5dB]によって与えられる少なくとも1つの角度φ2∈[-10°,-3°](DOAに対して)を有する同様の結果をもたらす。技法的には、2つの条件を使用して、DOAを囲む2つの角度に対して、好ましくは0dB近くに減衰を設定することができる。次いで、DOA自体に関して、知覚可能な減衰はまだないが、「リアル」な知覚可能な減衰が生じない角度範囲は、第1の周波数範囲内で第1の角度及び第2の角度によって拡大される。このために、第1の周波数範囲は、仮定される有用な信号が第2の周波数範囲内よりも高い指向性を示す周波数として割り当てられることが好ましい。
【0021】
好ましくは、第2の範囲ビームフォーマ信号を生成するために、推定された方向からの第3の角度距離での第3の減衰値が、第2の範囲ビームフォーマ信号の指向特性の少なくとも1つの空間条件として与えられる。これは、推定されたDOAに関連する1つの空間条件が、得られた第2の範囲ビームフォーマ信号の指向特性に課せられ、この空間条件が、DOAに関連する所与の角度に関するそれぞれの減衰値によって減衰を固定する形で課せられることを意味する。次いで、減衰値は、指示された角度方向で第2の範囲ビームフォーマ信号を形成するビームフォーマの感度を示すものとする。この減衰値のスケーリングに関して、好ましくは、ビームフォーマ自体とは別のさらなる信号処理(周波数依存増幅など)を考慮に入れず、ビームフォーマの空間特性だけを変数として有する。特に、第3の角度距離は、第3の角度が推定されたDOAと一致するようにゼロに設定されてよい。
【0022】
有利には、推定到来方向に対して-2°~2°で与えられる第3の角度範囲で、0.5dB未満の減衰を伴う第3の角度が存在するように、第3の減衰値が設定される。これは、DOAに対して[-2°,2°]の範囲内で第3の角度φ3を与え、第3の角度φ3での減衰値a3を間隔[0dB,0.5dB]内で、例えばa3=0dBに設定することによって空間条件を設定することができることを特に意味する。
【0023】
また、この空間条件を定式化する代替及び同等の形があり、減衰が値a3∈[0dB,0.5dB]によって与えられる少なくとも1つの角度φ3∈[-2°,2°](DOAに対して)を有する同様の結果をもたらす。技法的には、この条件を使用して、DOA自体に対して、好ましくは0dBに近い減衰を設定することができる。このために、第2の周波数範囲は、仮定される有用な信号が第1の周波数範囲内よりも低い指向性を示す周波数として割り当てられることが好ましい。次いで、DOA自体に関して、及びまたDOAの周りでの小さい角度範囲に関して、知覚可能な減衰はまだないが、「リアル」な知覚可能な減衰が生じない上記角度範囲は、第2の周波数範囲内での音の比較的低い指向性によって拡大される。
【0024】
一実施形態では、第1の周波数範囲及び第2の周波数範囲は、推定されたDOAに応じて割り当てられる。2つのローカルユニットにより、バイノーラル補聴器は、周囲の音響空間で非等方性のアプリオリな構造を定める。2つのローカルユニットは、使用者が耳に装着するとき、使用者の頭部のシャドーイング効果と共に、好みの正面方向及び横方向を定義する。実際の状況では、バイノーラル補聴器に入る音響信号の指向性パターンは、バイノーラル補聴器の正面方向に対してDOAに依存して周波数が大きく変化することがある。正面方向に対して最大で±45°、さらには±60°の何らかの角度範囲内のDOAを有するよく定義された有用な音声信号に関して、通常、指向性は、1500Hz超の周波数範囲でより顕著であるが、この周波数未満では、音の指向性はあまり強くない。
【0025】
これは、推定誤差によるノイズ低減ビームフォーマでの推定されたDOAからの5~10°の小さい偏差が、より高い周波数範囲では出力信号の可聴歪をもたらすことがあるが、より低い周波数範囲では、そのような偏差が、バイノーラルでノイズ減少された出力に対する知覚可能な結果をほとんど有さないことがあることを意味する。しかし、この関係は、完全に横方向の信号、及び最大で±15°(すなわち、正面方向に対して75°超の角度)の横方向からの信号については逆になり、頭部のシャドーイング効果は、最大で500Hzの低周波数範囲内での指向性を高くし、この周波数範囲を超える音声信号の指向性はあまり生じさせない。明らかに、所与の角度及び周波数範囲の間の移行は滑らかであり、個々の使用者の頭部と耳部の解剖学的構造に依存して特に変化することがある。推定されたDOAに依存して、第1の周波数範囲(より高い指向感度の処理を伴うもの)と第2の周波数範囲(より高い指向ロバスト性の処理を伴うもの)との両方の帯域幅及び周波数位置を割り当てることによって、これらの影響を考慮に入れることが可能である。
【0026】
好ましくは、負の開き角から正の開き角までの角度範囲で推定された到来方向に関して、それぞれの角度は、第1のローカルユニット及び第2のローカルユニットの位置によって定義される正面方向に対して定義され、第1のクロスオーバ周波数が割り当てられ、第1の周波数範囲は、第1のクロスオーバ周波数を超える周波数範囲として割り当てられ、第2の周波数範囲は、第1のクロスオーバ周波数未満の周波数範囲として割り当てられる。これにより、上で説明した観察される指向性効果を考慮する簡単な実装が可能になる。好ましくは、負の開き角は、[-85°,-65°]の角度範囲から選択され、正の開き角は、[65°,85°]の角度範囲から選択される。
【0027】
一実施形態では、第1のクロスオーバ周波数は、250kHz~2kHz、好ましくは1Hz~2kHzの周波数として割り当てられる。これは、本質的に正面の有用な音声信号に対して指向性効果が始まり得る周波数範囲と、使用者の個々の解剖学的構造による周波数の起こり得る変動との両方を考慮に入れている。
【0028】
好ましくは、第1のローカルユニット及び第2のローカルユニットの位置によって定義される横方向の周りでの正の開き角に対する余角の2倍の角度範囲内で推定された到来方向に関して、第2のクロスオーバ周波数が割り当てられ、第1の周波数範囲は、第2のクロスオーバ周波数未満の周波数範囲として割り当てられ、第2の周波数範囲は、第2のクロスオーバ周波数を超える周波数範囲として割り当てられる。これは、正の開き角がβによって与えられる場合、DOAが90°±|90°-β|の角度範囲内で、又は-90°±|90°-β|の角度範囲内で推定される場合に、第2のクロスオーバ周波数が割り当てられ、有用な信号は、横方向信号であるとみなされ、第1の周波数範囲は、第2のクロスオーバ周波数未満になるように割り当てられ、第2の周波数範囲は、第2のクロスオーバ周波数を超えるように割り当てられることを意味する。これにより、上で説明した観察される指向性効果を考慮する簡単な実装が可能になる。
【0029】
一実施形態では、第2のクロスオーバ周波数は、250Hz~2kHz、好ましくは250Hz~1kHzの周波数として割り当てられる。これは、本質的に正面の有用な音声信号に対して指向性効果が始まり得る周波数範囲と、使用者の個々の解剖学的構造による周波数の起こり得る変動とのどちらも考慮に入れている。
【0030】
好ましくは、第1のローカルユニットでは、第1のローカル前方信号は、第1の前方入力変換器によって環境音から生成され、第1のローカル後方信号は、第1の後方入力変換器によって環境音から生成され、第2のローカルユニットでは、第2のローカル前方信号は、第2の前方入力変換器によって環境音から生成され、第2のローカル後方信号は、第2の後方入力変換器によって環境音から生成される。次いで、第1の主信号は、第1のローカル前方信号及び第1のローカル後方信号から生成され、第2の主信号は、第2のローカル前方信号及び第2のローカル後方信号から生成され、第1の補助信号は、第1のローカル前方信号又は第1のローカル後方信号から生成される。これにより、各ローカルユニットでの音声信号のローカルでの前処理が可能になる。
【0031】
第1の主信号及び第2の主信号はそれぞれ、使用者の背面半球からの音がノイズである可能性が高いと仮定して、正面半球の感度を高めるようにローカルビームフォーマ信号として設計されてよい。基になる入力信号と比較して、開始時のSNRが2つの主信号において既に改良されていることがあるため、これによりノイズ低減が簡素化される。第1及び第2の主信号を生成するプロセスでは、使用される各入力信号に対して、周波数依存の圧縮及び/又は音量調整などの追加の前処理を行うことができる。
【0032】
一実施形態では、第1のローカルユニットにおいて、第1のローカル前方信号又は第1の主信号から第1の空間参照信号が生成され、第1の周波数範囲では、第1の範囲ビームフォーマ信号及び第1の空間参照信号の第1のコヒーレンスパラメータが計算され、第1のコヒーレンスパラメータから第1の混合パラメータが導出され、第1の混合パラメータに従って第1の範囲ビームフォーマ信号と第1の空間参照信号とを混合することによって第1の範囲出力信号が生成され、第1の範囲出力信号から第1の周波数範囲内の第1のローカル出力信号が生成される。これは、第1の周波数範囲でのバイノーラルキューを復元するために役立つ。好ましくは、同様の信号処理が第2のローカルユニットで実施される。
【0033】
追加若しくは代替の又は独立した実施形態では、第1のローカルユニットにおいて、第1のローカル前方信号又は第1の主信号から第1の空間参照信号が生成され、第2の周波数範囲内で、第2の範囲ビームフォーマ信号及び第2の空間参照信号の第2のコヒーレンスパラメータが計算され、第2のコヒーレンスパラメータから第2の混合パラメータが導出され、第2の混合パラメータに従って、第2の範囲ビームフォーマ信号と第2の空間参照信号とを混合することによって、第2の範囲出力信号が生成され、第2の範囲出力信号から、第2の周波数範囲での第1のローカル出力信号が生成される。これは、第2の周波数範囲のバイノーラルキューを復元するために役立つ。好ましくは、同様の信号処理が第2のローカルユニットで実施される。
【0034】
好ましくは、第1及び/又は第2のコヒーレンスパラメータは、複素コヒーレンス関数とみなされる。比較的高いコヒーレンスでは、ノイズ低減の程度が、それぞれのビームフォーマ信号内のノイズ低減の程度に近い可能性が高いので、第1/第2の範囲出力信号の大きさは、第1/第2の空間参照信号の大きさのより高い寄与を伴って取ることができる。より低い度合いのコヒーレンスに関して、ビームフォーマ出力は、空間参照信号よりも良好なノイズ低減を実現する可能性がかなり高く、したがって、第1/第2の範囲出力信号は、より良好なノイズ低減のためにそれぞれのビームフォーマ信号からのより高い寄与を含むことがある。第1/第2の範囲出力信号に関する位相は、それぞれの空間参照信号又はビームフォーマ信号の位相とみなされてよい。複素コヒーレンス関数の位相の絶対値が小さい場合、ビームフォーマ信号は、空間参照信号の空間キューを非常に良好に保持し、したがってビームフォーマ信号の位相を取ることができる。複素コヒーレンス関数の位相の絶対値が所与の閾値を超えている場合、空間参照信号の位相を取ることができる。
【0035】
一実施形態では、第1の範囲ビームフォーマ信号は、線形拘束付最小分散型ビームフォーマによって、第1の主信号、第1の補助信号、及び第2の主信号から生成され、及び/又は第2の範囲ビームフォーマ信号は、最小分散無歪応答ビームフォーマによって、第1の主信号及び第2の主信号から生成される。これらの方法は、実装が特に簡単であり、DOA誤差に対して非常にロバストな出力信号をもたらすことを実証している。
【0036】
本発明の別の態様は、環境音を少なくとも1つの第1の入力信号に変換するための少なくとも第1の入力変換器を備える第1のローカルユニットと、環境音を少なくとも1つの第2の入力信号に変換するための少なくとも第2の入力変換器を備える第2のローカルユニットと、上述した方法を実施するように構成された信号処理ユニットと、を備えるバイノーラル補聴器によって与えられる。バイノーラル補聴器でのノイズ低減のための提案される方法の利点、及びその好ましい実施形態に関する利点は、バイノーラル補聴器自体にも容易に転用し得る。
【0037】
次に、上述した本発明の属性及び特性並びに利点を、実施形態の例の図面を用いて示す。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】ビームフォーミングによるDOAにロバストなノイズ低減を実施する2つのローカルユニットを備えるバイノーラル補聴器の概略ブロック図である。
【
図2】
図1のバイノーラル補聴器の第1の周波数範囲内のビームフォーマ信号に対する2つの角度条件を示す概略上面図である。
【
図3】
図1のバイノーラル補聴器の第2の周波数範囲内のビームフォーマ信号に対する1つの角度条件を示す概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
全ての図において、互いに対応する部分及び変数には、それぞれ同一の参照番号が付されている。
【0040】
図1は、第1のローカルユニット1及び第2のローカルユニット2の概略ブロック図を示し、これらのローカルユニットはどちらも、バイノーラル補聴器4の一部を成す。この実施形態では、第1のローカルユニット1は、バイノーラル補聴器4の使用者の左耳に装着され、第2のローカルユニット2は、使用者の右耳に装着される。バイノーラル補聴器4の使用者が第1のローカルユニット1を右耳に装着する異なる実施形態も可能である。第1のローカルユニット1は、第1の前方入力変換器6及び第1の後方入力変換器8を備え、本実施形態では、これらの入力変換器はどちらも、それぞれのマイクロフォンよって与えられる。第1の前方入力変換器6は、環境音12から第1のローカル前方信号10を生成する。第1の後方入力変換器8は、環境音12から第1のローカル後方信号14を生成する。第1のローカルビームフォーマ16は、遅延和法などのローカルビームフォーミング技法、及び場合によってはローカルでの前処理によって、第1のローカル前方信号10及び第1のローカル後方信号14から第1の主信号18を生成する。この意味で、ビームフォーミング信号としての第1の主信号18は、環境音12に含まれるノイズ成分に比べて、環境音12中の有用な信号20の成分を既に増加していることがある。
【0041】
同様に、第2の前方入力変換器22は、環境音12から第2のローカル前方信号24を生成し、第2の後方入力変換器26は、環境音12から第2のローカル後方信号28を生成する。第2の前方入力変換器22と第2の後方入力変換器26とはどちらも、第2のローカルユニット2内に位置し、本実施形態に関して、それぞれのマイクロフォンによって与えることができる。第2のローカルビームフォーマ30は、第1のローカルユニット1の第1のローカルビームフォーミング16で使用されるものと同様のビームフォーミング技法によって、第2のローカル前方信号24及び第2のローカル後方信号28から第2の主信号32を生成する。
【0042】
第1のローカルユニット1及び第2のローカルユニット2は、それぞれバイノーラル補聴器4の使用者の左耳及び右耳に装着されるとき、第1のローカルユニット1と第2のローカルユニット2との対称性により、音響シーンの正面方向34を定義する。例えば、バイノーラル補聴器4の使用者に話しかけている話者からの発話信号によって与えられることがある環境音12中の有用な信号20は、正面方向34に対して角度αを成す発信源36、すなわち話者の位置を有する。このとき、角度αは、正面方向34に対する有用な信号20のDOAである。ここで、ビームフォーミング技法によって、第1のローカル前方信号10、第1のローカル後方信号14、第2のローカル前方信号24、及び第2のローカル後方信号28を使用してノイズ低減を行うために、まず、有用な信号20のDOA、すなわちその角度αが推定される。これは、当技術分野で知られている方法によって、例えば、第1及び第2のローカル前方信号及びローカル後方信号10、14、24、28から推測することができる両耳間のレベル差及び/又は位相差を取ることによって行うことができる。有用な信号20のDOAαが正面方向34に対して75°以下であると仮定すると、第1の周波数範囲40が割り当てられ、第1の周波数範囲40は、バイノーラル補聴器4によって処理される1.5kHz超の全ての周波数を含む。同様に、第2の周波数範囲42が、0~1.5kHzの周波数範囲として割り当てられる。第1のローカルユニット1では、第1の主信号18、第2の主信号32、及び第1の補助信号としての第1のローカル後方信号14から、後述のようにして第1の範囲ビームフォーマ信号44が生成される。さらに、第1のローカルユニット1において、第2の周波数範囲42に関して、第1の主信号18及び第2の主信号32から、後述のように第2の範囲ビームフォーマ信号46が生成される。
【0043】
次いで、1つのローカルユニットの第1の範囲ビームフォーマ信号44と第2の範囲ビームフォーマ信号46とが合成され、場合によっては何らかのさらなる信号処理48(バイノーラル補聴器4の使用者の聴覚障害を補正するための周波数依存の増幅など)で処理され、第1のローカル出力信号50が得られ、第1のローカル出力信号50は、第1のローカルユニットの第1の出力変換器54によって第1の出力音52に変換される。同様に、第1の周波数範囲40及び第2の周波数範囲42においてローカルユニット1に関して示されるステップと同様の信号処理ステップを使用して、第1の主信号18、第2の主信号32、及び第2の補助信号としての第2のローカル後方信号28から、第2のローカル出力信号56が導出されてよい。しかし、見やすくするために、これらのステップは、
図1の図面では割愛する。
【0044】
図2は、
図1の第1の範囲ビームフォーマ信号に対する空間条件を設定する方法を概略上面図で示す。
図2に示すように、バイノーラル補聴器4の使用者60が中心にいる音響シーンにおいて、有用な信号20は、正面方向34に対して推定されたDOAαを有する。有用な信号20の発信源36は、使用者60と会話をしている話者によって与えられるものとする。典型的なジェスチャとしての、会話中の使用者60のわずかな頭部の動きにより、しかしまた、場合によっては、音響シーンの高ノイズ背景による小さな推定誤差により、推定されたDOAαは、「真の」DOAと完全には一致しないことがある。したがって、第1の範囲ビームフォーマ信号44は、その得られる方向特性に特定の空間条件を課すことによって構成され、
図1の第1の周波数範囲では、すなわち1.5kHz以上の周波数に関しては、真のDOA値からの推定されたDOAの小さい又は中程度の偏差に対するより高いロバスト性が実現される。
【0045】
このために、DOAαに対して第1の角度α1=α+5°及び第2の角度α2=α-5°が設定され、これらの角度では、減衰が0dBになるように固定されており、すなわち、第1の主信号18、第2の主信号32、及び第1の補助信号14(第1のローカル後方信号によって与えられる)から導出されて得られる第1の範囲ビームフォーマ信号は、第1の角度α1=α+5°及び第2の角度α2=α-5°で、1.5kHz以上の第1の周波数範囲内での入射信号の減衰をなんら示さない。したがって、わずかな頭部の動き、又はDOAに関する推定誤差は、推定されたDOAに対して±5°のこの範囲内に収まる可能性が高い。構造上、α1とα2との間のDOAを有する指向音に関して、第1の周波数範囲内で生じ得る任意の減衰は無視できるが、α1とα2によって成される円錐の実質的に外側から来る音はノイズとみなされて減衰される。第1の範囲ビームフォーマ信号は、線形拘束付最小分散型ビームフォーマによって、第1の主信号18、第2の主信号32、及び第1の補助信号14から構成されてよい。
【0046】
図3は、
図1の第2の範囲ビームフォーマ信号に対する空間条件を設定する方法を概略上面図で示す。正面方向34に対して±75°の範囲内にある真のDOAに関して、真のDOA値からの推定されたDOAの小さい又は中程度の偏差(例えば最大約±5°)のみを仮定すると、第2の周波数範囲内での有用な信号20の指向性はあまりよく確立されず、したがって、空間条件に関する参照値として推定されたDOAを取る、すなわち第3の角度α3=αを設定し、得られる第2の範囲ビームフォーマ信号においてα3で減衰が生じないことを課すことによって、ロバスト性を実現することができる。構造上、第2の周波数範囲内では、有用な音がそこにあまり指向されないので、わずかな頭部の動き又はDOAに関する推定誤差の結果は無視することができる。第2の範囲ビームフォーマ信号は、最小分散無歪応答ビームフォーマによって、第1の主信号18及び第2の主信号32から構成されてよい。
【0047】
推定されたDOAが横方向に近い、すなわちα∈[±90°-15°,±90°+15°]である場合、第1の周波数範囲は、好ましくは500Hz未満の周波数として設定され、一方、第2の周波数範囲は、好ましくは500Hz超の周波数として設定される。次いで、
図1~3に示したプロセスを同様に適用することができる。
【0048】
好ましい実施形態の例を用いて本発明を詳細に図示して説明してきたが、本発明はこの例に限定されない。当業者は、本発明の保護の範囲を逸脱することなく他の変形形態を導出することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 第1のローカルユニット
2 第2のローカルユニット
4 バイノーラル補聴器
6 第1の前方入力変換器
8 第1の後方入力変換器
10 第1のローカル前方信号
12 環境音
14 第1のローカル後方信号
16 第1のローカルビームフォーマ
18 第1の主信号
20 有用な信号
22 第2の前方入力変換器
24 第2のローカル前方信号
26 第2の後方入力変換器
28 第2のローカル後方信号
30 第2のローカルビームフォーマ
32 第2の主信号
34 正面方向
36 発信源(有用な信号の)
40 第1の周波数範囲
42 第2の周波数範囲
44 第1の範囲ビームフォーマ信号
46 第2の範囲ビームフォーマ信号
48 信号処理
50 第1のローカル出力信号
52 第1の出力音
54 第1の出力変換器
56 第2のローカル出力信号
58 使用者
α DOA
α1、α2、α3 第1/第2/第3の角度