(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】汚れ除去用繊維製品
(51)【国際特許分類】
A47L 13/20 20060101AFI20220608BHJP
A47L 23/22 20060101ALI20220608BHJP
D06M 11/79 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A47L13/20 A
A47L23/22 E
D06M11/79
(21)【出願番号】P 2019202313
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2020-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】519398076
【氏名又は名称】株式会社和倉ダスキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100118625
【氏名又は名称】大畠 康
(72)【発明者】
【氏名】永浜 勇二
(72)【発明者】
【氏名】高塚 俊二
(72)【発明者】
【氏名】桐木 勝彦
【審査官】程塚 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-086317(JP,A)
【文献】実開昭59-082462(JP,U)
【文献】特開平02-142527(JP,A)
【文献】実公昭50-026512(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0119275(US,A1)
【文献】特開2008-000564(JP,A)
【文献】特表2016-514627(JP,A)
【文献】特開2007-239110(JP,A)
【文献】特開2017-170534(JP,A)
【文献】特開2010-150708(JP,A)
【文献】特開2001-169986(JP,A)
【文献】特開2008-301926(JP,A)
【文献】特開昭51-116296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/00-13/26
A47L 23/22-23/26
B24D 11/00
D06M 11/00
D06M 11/79
D06M 23/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚れが付着している対象面に清掃面を接触させることによって前記対象面から汚れを除去する、汚れ除去用繊維製品において、
前記繊維製品が
、繊維を撚り合わせて構成されたパイルを有するモップであり、又は、前記繊維を撚り合わせて構成されたパイルを、基布にタフトして、構成された、マットであり、
前記清掃面が、多数の繊維の表面で構成されており、
前記繊維の表面には、研磨用ナノ粒子が付着しており、
前記研磨用ナノ粒子が付着した前記繊維の表面が、平滑な前記対象面に対して0.4~0.8の動摩擦係数を有しており、
前記研磨用ナノ粒子が、酸化ケイ素(SiO
2)粒子、炭酸カルシウム(CaCO
3)粒子、炭酸マグネシウム(MgCO
3)粒子、又は水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)粒子であり、
前記研磨用ナノ粒子が、5nm~500nmの粒径を有している、
ことを特徴とする汚れ除去用繊維製品。
【請求項2】
前記平滑な対象面は、メラミン塗装平滑板の表面である、
請求項1記載の汚れ除去用繊維製品。
【請求項3】
前記繊維の材質が、コットン、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、又はアクリルである、
請求項1
又は2に記載の汚れ除去用繊維製品。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一つに記載の汚れ除去用繊維製品を、製造する方法であって、
前記清掃面を構成する前記多数の繊維の表面を、前記研磨用ナノ粒
子を含むコロイド溶液に浸漬する、浸漬工程と、
前記コロイド溶液から取り出した前記繊維の表面を、乾燥させる、乾燥工程と、
を有しており、
前記浸漬工程において用いる前記研磨用ナノ粒子が、酸化ケイ素(SiO
2)粒子、炭酸カルシウム(CaCO
3)粒子、炭酸マグネシウム(MgCO
3)粒子、又は水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)粒子であり、5nm~500nmの粒径を有している、
ことを特徴とする、汚れ除去用繊維製品の製造方法。
【請求項5】
前記コロイド溶液におけるアルカリ金属成分の含有割合が、500ppm以下に制御されている、
請求項
4記載の汚れ除去用繊維製品の製造方法。
【請求項6】
前記コロイド溶液における固形結合剤の含有割合が、前記研磨用ナノ粒子の含有割合の20%以下に制御されている、
請求項
4又は
5に記載の汚れ除去用繊維製品の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬工程の前に、前記清掃面を構成する前記多数の繊維の表面をプライマーで処理するプライマー処理工程を、有している、
請求項
4~
6のいずれか一つに記載の汚れ除去用繊維製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れが付着している対象面に清掃面を接触させることによって対象面から汚れを除去する、汚れ除去用繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されている汚れ除去用クロスは、汚れが付着している対象面を清掃面で払拭することによって、対象面を傷付けることなく、対象面から汚れを除去するものであり、優れた汚れ除去効果を発揮できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、市場では、クロスに限ることなく、更に優れた汚れ除去効果を発揮できる汚れ除去用繊維製品が、要望されている。
【0005】
本発明は、より優れた汚れ除去効果を発揮できる汚れ除去用繊維製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、汚れが付着している対象面に清掃面を接触させることによって前記対象面から汚れを除去する、汚れ除去用繊維製品において、
前記清掃面が、多数の繊維の表面で構成されており、
前記繊維の表面には、研磨用ナノ粒子が付着しており、
前記研磨用ナノ粒子が付着した前記繊維の表面が、平滑な前記対象面に対して0.4~0.8の摩擦係数を有している、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の汚れ除去用繊維製品によれば、汚れ除去効果を飛躍的に向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
本実施形態の繊維製品は、クロスである。
【0009】
(クロスの構成)
本実施形態の汚れ除去用クロスは、次の構成(a)及び構成(b)を有している。
【0010】
<構成(a)>
平織り構造を有する布である。この布の表裏両面は、清掃面として利用される。この布は、単繊維を用いて撚糸を作製し、該撚糸を平織りすることによって、作製されている。具体的には、例えば、次のとおりである。
・単繊維
・材質‥コットン
・太さ‥590デシテックス
・80回下撚り
・撚糸
・単繊維2本を100回/m上撚り
・太さ‥1180デシテックス
・平織り
・縦横各20本/インチの密度
【0011】
<構成(b)>
構成(a)の布の表裏両面が、ナノ表面処理されることによって、メラミン塗装平滑板又は平滑ガラス板の表面に対して0.4~0.8の摩擦係数を有している。
・ナノ表面処理は、具体的には、布を、研磨用ナノ粒子を含むコロイド溶液に浸漬した後、乾燥することによって、実行され、それによって、研磨用ナノ粒子が、布の清掃面を構成している繊維の表面に、付着する。
・研磨用ナノ粒子
・酸化ケイ素(SiO2)粒子
・粒径‥12nm
・構成(a)の布を、60℃のSiO2水溶液(固形分20%)に30分間浸漬した(浸漬工程)後、弱く脱水することによって、固形分が0.5~13owf%となるように調整し、その後、90℃で40分間乾燥した(乾燥工程)。
【0012】
なお、研磨用ナノ粒子としては、炭酸カルシウム(CaCO3)粒子、炭酸マグネシウム(MgCO3)粒子、又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)粒子を、用いてもよい。
【0013】
以上により、本実施形態のクロスは、表裏両面すなわち清掃面を構成している繊維の表面に、研磨用ナノ粒子が付着しており、当該繊維の表面が、メラミン塗装平滑板又は平滑ガラス板の表面に対して0.4~0.8の摩擦係数を有している。
【0014】
(摩擦係数の測定方法)
摩擦係数は、JIS-K7125に準じて測定し、動摩擦係数の値を採用した。具体的には、次のとおりである。
・すべり片として、63mm×63mmで厚さ1mmのアルミニウム平滑板を用い、これと同一サイズのクロスである試験片を用意し、試験片をアルミニウム平滑板と張り合わせ、メラミン塗装平滑板の上に載せ、10kgの荷重を掛けて、1000mm/分の試験速度で、測定を行った。
【0015】
(汚れ除去効果)
摩擦係数が0.4、0.6、0.8である実施例1~3のクロスと、摩擦係数が0.3、1.0である比較例1、2のクロスとを用意し、各クロスについて、汚れサンプルに対する拭き取り試験を行って、汚れ除去効果を測定した。
【0016】
<クロスの用意>
実施例1~3及び比較例1、2のような摩擦係数が異なるクロスは、コロイド溶液における研磨用ナノ粒子の固形分を調節することによって、作製した。
【0017】
<汚れサンプルの作製>
汚れ成分を、メラミン塗装平滑板の表面(対象面)に付着させて60℃で30分間定着させる。そして、この作業を、5回繰り返す。これを汚れサンプルとした。なお、汚れ成分としては、成分Aと成分Bの2種類を使用した。
・成分A…醤油及びカーボンからなる汚れ
・成分B…黒クレヨンからなる汚れ
【0018】
<汚れ除去(拭き取り)試験>
22cm×13cmの大きさのクロスを2枚用意した。これらのクロスを水で濡らして水分率60owf%に調整した。そして、2枚のクロスを重ねて用いて、汚れサンプルに対して3往復の拭き取り作業を行った。
【0019】
<効果の測定>
カラーメーターによって、次の(i)~(iii)のL*a*b*値を測定した。そして、(ii)と(i)との差であるΔE*0を求めるとともに、(iii)と(i)との差であるΔE*を求めた。
(i)汚れ成分を付着させる前のメラミン塗装平滑板の表面
(ii)汚れ成分が付着したメラミン塗装平滑板の表面
(iii)拭き取り作業が実行されたメラミン塗装平滑板の表面
【0020】
<測定結果>
表1に示される結果を得た。
【0021】
【0022】
拭き取り作業性について、「〇」は“正常”を示し、「△」は“やや抵抗有”を示し、「×」は“動かしにくい”を示す。
【0023】
<結果の考察>
表1によれば、実施例1~3のクロスでは、「汚れ除去効果」及び「拭き取り作業性」が共に良好であるが、比較例1のクロスでは「汚れ除去効果」が悪く、比較例2のクロスでは“拭き難い”。
比較例1では、クロスを強く押さえても滑り易いので、力が対象面に伝わり難く、それ故、汚れを掻き取る効果が低いと考えられる。
比較例2では、払拭抵抗が強いので、手とクロスとの間の摩擦力が対象面とクロスとの間の摩擦力を上回る状態になり、クロスを押さえて移動させることができない。これは、一般的な払拭作業では、手とクロスとの間の接触面積が対象面とクロスとの間の接触面積よりも必ず小さくなるので、摩擦係数が大きくなると、手からクロスが外れ易くなり、その結果、清掃効率が悪くなる、ということも原因であると考えられる。
【0024】
<本実施形態のクロスの効果>
清掃面の摩擦係数がメラミン塗装平滑板又は平滑ガラス板の表面(対象面)に対して0.4~0.8である本実施形態のクロスによれば、小さい力によって対象面に効率良く力を伝えることができるので、対象面に付着している汚れに対する汚れ除去効果を飛躍的に向上できる。
【0025】
なお、本実施形態のクロスは、油性汚れでも、水性汚れでも、除去でき、更には、固体化した汚れでも、高粘度の汚れでも、除去できる。しかも、本実施形態のクロスは、繊維表面が親水化されているので、水を含む汚れの吸収効果を損なうことなく、好適に使用できる。
【0026】
[第2実施形態]
本実施形態の繊維製品は、モップである。
【0027】
(モップの構成)
本実施形態の汚れ除去用モップは、単繊維を用いて撚糸すなわちパイルを作製し、該パイルの表面をナノ表面処理し、ナノ表面処理したパイルをキャンバスに植設することによって、作製されている。具体的には、例えば、次のとおりである。
・単繊維
・材質‥コットン
・太さ‥590デシテックス
・80回下撚り
・撚糸(パイル)
・単繊維10本を120回/m上撚り
・太さ‥1180デシテックス
【0028】
・ナノ表面処理
・パイルを、研磨用ナノ粒子を含むコロイド溶液に浸漬した後、乾燥することによって、実行され、それによって、研磨用ナノ粒子が、パイルの表面に、付着する。
・研磨用ナノ粒子
・酸化ケイ素(SiO2)粒子
・粒径‥12nm
・具体的には、パイルを、60℃のSiO2水溶液(固形分20%)に30分間浸漬した(浸漬工程)後、弱く脱水することによって、固形分が0.5~13owf%となるように調整し、その後、90℃で40分間乾燥した(乾燥工程)。
【0029】
なお、研磨用ナノ粒子としては、炭酸カルシウム(CaCO3)粒子、炭酸マグネシウム(MgCO3)粒子、又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)粒子を、用いてもよい。
【0030】
・キャンバス
・ポリエステル平織布
・植設
・キャンバスであるポリエステル平織布200g/m2に、パイルを植設した。パイルの本数は、キャンバスの幅方向25.4mmに対して3本、キャンバスの長さ方向25.4mmに対して4本とした。パイルの長さは50mmとした。
【0031】
以上により、本実施形態のモップは、清掃面を構成しているパイルの表面に、研磨用ナノ粒子が付着しており、当該パイルの表面が、メラミン塗装平滑板又は平滑ガラス板の表面(対象面)に対して0.4~0.8の摩擦係数を有している。
【0032】
(摩擦係数の測定方法)
パイルの表面で構成された、モップの清掃面を、クロスと同様に扱うことによって、第1実施形態と同様にしてモップの清掃面の摩擦係数を測定した。
【0033】
(汚れ除去効果)
摩擦係数が0.4、0.6、0.8である実施例4~6のモップと、摩擦係数が0.3、1.0である比較例3、4のモップとを用意し、各モップについて、汚れサンプルに対する汚れ除去試験を行って、汚れ除去効果を測定した。
【0034】
<モップの用意>
実施例4~6及び比較例3、4のような摩擦係数が異なるモップは、コロイド溶液における研磨用ナノ粒子の固形分を調節することによって、作製した。
【0035】
<汚れサンプルの作製>
第1実施形態と同様に行った。
【0036】
<汚れ除去試験>
22cm×13cmの大きさの清掃面を有するモップを用意した。このモップを水で濡らした後、5分間脱水した。そして、モップの清掃面を汚れサンプルに接触させて3往復させた。
【0037】
<効果の測定>
第1実施形態と同様に行った。
【0038】
<測定結果>
表2に示される結果を得た。
【0039】
【0040】
清掃作業性について、「〇」は“正常”を示し、「×」は“動かしにくい”を示す。特に、比較例3では、汚れ除去効果が低いだけでなく、除去した汚れがモップの清掃面から離脱しやすかった。比較例4では、汚れ除去効果は高かったが、パイルが絡み合うために動かしにくかった。
【0041】
本実施形態のモップも、第1実施形態のクロスと同様の効果を発揮できる。
【0042】
[第3実施形態]
本実施形態の繊維製品は、マットである。
【0043】
(マットの構成)
本実施形態の汚れ除去用マットは、単繊維を用いて撚糸すなわちパイルを作製し、該パイルの表面をナノ表面処理し、ナノ表面処理したパイルをマット基材の基布にタフトすることによって、作製されている。具体的には、例えば、次のとおりである。
・単繊維
・材質‥ナイロン66
・太さ‥1320デシテックス
・180回下撚り
・撚糸(パイル)
・単繊維2本を180回/m上撚り
・太さ‥2640デシテックス
【0044】
・ナノ表面処理
・パイルを、研磨用ナノ粒子を含むコロイド溶液に浸漬した後、乾燥することによって、実行され、それによって、研磨用ナノ粒子が、パイルの表面に、付着する。
・研磨用ナノ粒子
・酸化ケイ素(SiO2)粒子
・粒径‥12nm
・具体的には、パイルを、60℃のSiO2水溶液(固形分20%)に30分間浸漬した(浸漬工程)後、弱く脱水することによって、固形分が0.5~13owf%となるように調整し、その後、90℃で40分間乾燥した(乾燥工程)。
【0045】
なお、研磨用ナノ粒子としては、炭酸カルシウム(CaCO3)粒子、炭酸マグネシウム(MgCO3)粒子、又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)粒子を、用いてもよい。
【0046】
・基布
・ポリエステル平織布
・タフト
・基布であるポリエステル平織布120g/m2に、パイルをタフトした。パイルの本数は、基布の幅方向25.4mmに対して8本、基布の長さ方向25.4mmに対して8本とした。パイルの長さは10mmとした。
【0047】
以上により、本実施形態のマットは、清掃面を構成しているパイルの表面に、研磨用ナノ粒子が付着しており、当該パイルの表面が、メラミン塗装平滑板又は平滑ガラス板の表面(対象面)に対して0.4~0.8の摩擦係数を有している。
【0048】
(摩擦係数の測定方法)
パイルの表面で構成された、マットの清掃面を、クロスと同様に扱うことによって、第1実施形態と同様にしてマットの清掃面の摩擦係数を測定した。
【0049】
(汚れ除去効果)
摩擦係数が0.4、0.6、0.8である実施例7~9のマットと、摩擦係数が0.3、1.0である比較例5、6のマットとを用意し、各マットについて、汚れサンプルに対する汚れ除去試験を行って、汚れ除去効果を測定した。
【0050】
<マットの用意>
実施例7~9及び比較例5、6のような摩擦係数が異なるマットは、コロイド溶液における研磨用ナノ粒子の固形分を調節することによって、作製した。
【0051】
<汚れサンプルの作製>
第1実施形態と同様に行った。
【0052】
<汚れ除去試験>
22cm×13cmの大きさの清掃面を有するマットを用意した。このマットを水で濡らした後、5分間脱水した。そして、汚れサンプルをマットの清掃面に3回押し当てた。
【0053】
<効果の測定>
第1実施形態と同様に行った。
【0054】
<測定結果>
表3に示される結果を得た。
【0055】
【0056】
清掃作業性について、「〇」は“正常”を示し、「×」は“動かしにくい”を示す。特に、比較例5では、汚れ除去効果が低いだけでなく、除去した汚れがマットの清掃面から離脱しやすかった。比較例6では、汚れ除去効果は高かったが、清掃面のパイルが絡み合って圧縮状態になりやすいために形態変化が大きくなり、その結果、保水性能等の性能が低下した。
【0057】
本実施形態のマットも、第1実施形態のクロスと同様の効果を発揮できる。
【0058】
[別の実施形態]
(1)第1実施形態においては、コロイド溶液におけるアルカリ金属成分の含有割合が500ppm以下に制御されているのが好ましい。何故なら、ナトリウム、カリウム等の、アルカリ金属成分は、繊維に付着して固化すると、水溶性となるので、付着している研磨用ナノ粒子が繊維から外れるのを促進してしまい、その結果、摩擦係数の低下をもたらすからである。すなわち、アルカリ金属成分が多すぎると、摩擦係数が低下して、汚れ除去効果が低下する。
【0059】
<具体例>
構成(a)の布を、アルカリ金属成分を500ppm含有するSiO2水溶液(固形分20%、粒径12nm)に、60℃で30分間浸漬した後、弱く脱水することによって、固形分が6owf%となるように調整し、その後、90℃で40分間乾燥した。こうして作製されたクロスを、家庭用洗濯機に入れて、中性洗剤を用いて、40℃10分間の洗浄作業を5回繰り返した。そして、洗浄後のクロスの摩擦係数を測定した。
なお、アルカリ金属成分を3000ppm含有する場合についても、同様にした。
表4は、その結果を示す。
【0060】
【0061】
表4から明らかなように、アルカリ金属成分の含有割合が500ppmの場合には、洗浄を繰り返しても、摩擦係数を維持できた。すなわち、耐久性の優れたクロスを得ることができた。
【0062】
なお、第2及び第3実施形態においても、同様である。
【0063】
(2)第1実施形態においては、コロイド溶液における固形結合剤の含有割合が、研磨用ナノ粒子の含有割合の20%以下に制御されているのが好ましい。すなわち、固形結合剤を用いると、繊維に対する研磨用ナノ粒子の付着性が高まるので、耐久性の優れたクロスを得ることができる。しかしながら、固形結合剤は繊維表面において研磨用ナノ粒子と競合するので、固形結合剤の含有量が増えるに従って、研磨用ナノ粒子の含有量が減少することとなる。したがって、固形結合剤の含有割合は、研磨用ナノ粒子の含有割合の20%以下が好ましい。なお、固形結合剤すなわちバインダーとしては、例えば、アクリル酸エステル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、NBR系エマルジョンを、好適に使用できる。
【0064】
なお、第2及び第3実施形態においても、同様である。
【0065】
(3)第1実施形態においては、構成(a)の布を、浸漬工程で処理する前に、プライマーで処理する(プライマー処理工程)のが好ましい。すなわち、布をプライマーで処理すると、繊維と研磨用ナノ粒子との接着性を高めることができ、その結果、耐久性の優れたクロスを得ることができる。
【0066】
用いるプライマーとしては、繊維に対して親和性及び接着性が良好であり、且つ、SiO2等の無機塩類である研磨用ナノ粒子に対して親和性及び接着性が良好である、成分を、用いるのが好ましく、そのような成分は、接着補助剤として良好に機能する。
【0067】
なお、プライマーとしては、水溶性の成分が好ましい。加工に適しているからである。しかし、油溶性の成分であっても、エマルジョン化等することによって繊維に吸着させることができるので、使用できる。また、プライマーの構成や官能基は、対象となる布の、繊維の材質や必要とする耐久性に応じて、選定するのが好ましい。
【0068】
<具体例>
構成(a)の布を、プライマーであるN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを3%含有する水溶液に、浸漬した後、90℃30分間乾燥した。これをプライマー処理工程とした。これにより、耐久性の優れたクロスを得ることができた。
【0069】
なお、第2及び第3実施形態においても、同様である。
【0070】
(4)第1実施形態においては、研磨用ナノ粒子が5nm~500nmの粒径を有しているのが好ましい。何故なら、5nm~500nmの粒子は、繊維の表面の凹凸に入り易く且つ出難いので、繊維表面に強固に付着するからである。この結果、研磨用ナノ粒子が繊維表面から脱落し難いので、摩擦係数を維持でき、耐久性の優れたクロスを得ることができる。
【0071】
<具体例>
構成(a)の布を、60℃のSiO2水溶液(固形分20%、粒径5nm)に、30分間浸漬した後、弱く脱水することによって、固形分が0.5~13owf%となるように調整し、その後、90℃で40分間乾燥した。
なお、SiO2水溶液(固形分20%、粒径500nm)を用いた場合についても、同様にした。
【0072】
両方の場合とも、耐久性の優れたクロスを得ることができた。
【0073】
なお、第2及び第3実施形態においても、同様である。
【0074】
(5)本発明で用いる研磨用ナノ粒子は、水溶性であり且つ乾燥すると繊維表面に析出する性質を有するものが、好ましい。これによれば、研磨用ナノ粒子が、溶解レベルの粒子サイズで付着することができ、その結果、付着耐久性を向上できる。更に、研磨用ナノ粒子は、繊維表面に析出した後に熱水で容易には溶解しない性質を有するものが、好ましい。何故なら、容易に溶解すると、耐久性が低下するからである。具体的には、20℃、1気圧における溶解度(g/100gH2O)が0.0006~0.05の無機塩類が好ましい。よって、研磨用ナノ粒子として好適に使用できる無機塩類としては、酸化ケイ素(SiO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、及び水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を挙げることができる。それらの溶解度は、順に、0.012、0.0006、0.039、0.0001である。
【0075】
(6)本発明においては、用いる繊維の材質が汚れ除去効果に影響を与えることは殆ど無いと考えられる。しかしながら、耐久性は繊維表面のミクロ形状の影響を受けるので、凹凸形状が顕著であるコットンを用いるのが最適であると考えられる。なお、合成繊維では、異形断面の繊維を除けば、汚れ除去効果に大差は無く、例えば、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、又はアクリルを好適に使用できる。
【0076】
(7)本発明において、クロスの形態は、平織り構造に限るものではなく、編み構造でもよい。また、モップ又はマットの清掃面は、カットパイル又はループパイルで構成されてもよい。
【0077】
(8)本発明における「0.4~0.8の摩擦係数」は、汚れ除去の対象となる平滑な対象面に対するものであるが、対象面は、メラミン塗装平滑板又は平滑ガラス板の表面に限らない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の汚れ除去用繊維製品は、汚れ除去効果を飛躍的に向上できるので、産業上の利用価値が大である。