(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】脂肪及び糖分の吸収抑制剤、インスリン抵抗性指数降下剤、アディポネクチン分泌促進剤、肝臓中性脂肪(TG)濃度降下剤、胆汁酸吸着剤、これらの剤の製造方法、並びにこれらの剤を有する飲料物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/888 20060101AFI20220608BHJP
A61K 31/736 20060101ALI20220608BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220608BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220608BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220608BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220608BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220608BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220608BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A61K36/888
A61K31/736
A61P43/00 111
A61P3/06
A61P3/10
A61P3/04
A61P1/16
A23L33/105
A23L2/00 F
(21)【出願番号】P 2020143431
(22)【出願日】2020-08-27
(62)【分割の表示】P 2017142298の分割
【原出願日】2017-07-21
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2016144199
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591120295
【氏名又は名称】石橋 新一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】501275466
【氏名又は名称】株式会社 下仁田物産
(73)【特許権者】
【識別番号】507149707
【氏名又は名称】学校法人和洋学園
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(72)【発明者】
【氏名】石橋 新一郎
(72)【発明者】
【氏名】室田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】▲鬘▼谷 要
(72)【発明者】
【氏名】本 三保子
(72)【発明者】
【氏名】仲村 麻恵
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034244(JP,A)
【文献】特開平05-246860(JP,A)
【文献】特開平02-222659(JP,A)
【文献】Am. J. Clin. Nutr., (2008), 88, [4], p.1167-1175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の球茎であるコンニャク
の粉砕によって得た精粉から得られる低分子精粉、
及び植物の球茎であるコンニャクの粉砕によって得たトビコの少なくとも一方
を含む脂肪及び糖分の吸収抑制剤であって、
前記低分子精粉は、精粉に含まれる食物繊維であるグルコマンナン
を酸加水分解により分子量10,000~50,000に低分子化した低分子精粉であることを特徴とする脂肪及び糖分の吸収抑制剤。
【請求項2】
請求項
1に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴とするインスリン抵抗性指数降下剤。
【請求項3】
請求項
1に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項4】
請求項
1に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴とする肝臓TG濃度降下剤。
【請求項5】
請求項
1に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴とする胆汁酸吸着剤。
【請求項6】
請求項
1に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤の製造方法であって、
前記球茎のコンニャクの粉砕によって得た精粉と、この精粉の35~40質量倍の水と、前記精粉の0.5~1.0質量倍の酢酸との混合物を90~100℃で350~370分間撹拌した後、
当該90~100℃で前記混合物を50~70分間保持してから、
前記混合物を105~115℃に加熱し、
その105~115℃の温度状態で50~70分保持した後、
前記混合物を更に130~140℃に加熱し、
その130~140℃の温度で170~190分間加水分解を継続してから、
前記混合物を室温まで冷却することで、
前記グルコマンナンを低分子化した低分子精粉とすることを特徴とする脂肪及び糖分の脂肪及び糖分の吸収抑制剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含有することを特徴とする
脂肪及び糖分の吸収抑制用飲料物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の球茎としてのコンニャク(Amorphophallus konjac)由来の胆汁酸吸着剤、脂肪及び糖分の吸収抑制剤、インスリン抵抗性指数降下剤、アディポネクチン分泌促進剤、肝臓中性脂肪降下剤(以下肝臓TG濃度降下剤と称す。)、これらの剤の製造方法、並びにこれらの剤を有する飲料物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣病である内蔵脂肪型肥満に高血糖や高血圧等が合併した状態のメタボリックシンドローム(以下「メタボ」という。)が社会問題となって久しいが、そのメタボの主たる原因としては、飲食の過剰摂取によるエネルギー過多や運動不足等が上げられる。飲食の過剰摂取については、特に脂質の過剰摂取によるものが大きく影響していると考えられる。脂質は腸内で胆汁酸により効率よく吸収されることになることから、過剰な脂質の摂取が生活習慣病の原因となりメタボ体質を作るともいえる。
【0003】
また、胆汁酸は、上述のように脂質の分解を促進する上で重要な働きをするが、この働きを抑制することができれば、メタボを改善する上で有効である。
【0004】
胆汁酸の抑制に関する研究としては、食品として加工されたコンニャク(以下「食品コンニャク」という。)に胆汁酸の吸着作用があることが報告されている(例えば非特許文献1)。
【0005】
但し、食品コンニャクの原料である植物の球茎としてのコンニャクの粉体(以下「コンニャク粉」という。)を用いて胆汁酸の吸着作用を研究したものはない。即ち、コンニャク粉に胆汁酸の吸着作用があるか否かは不明である。
【0006】
一方、コンニャク粉を水やジュース等の飲料物に混ぜると、その飲料物の粘性を高めることになる。これは、コンニャク粉に含まれる食物繊維の機能性としての増粘性が発現されることにより、飲料物の粘性が高められたためであるといえる。即ち、コンニャク粉は、当該コンニャク粉に含まれる食物繊維に基づく増粘性を有している。
【0007】
また、上述のように、コンニャク粉に胆汁酸の吸着作用があるか否かは不明であるが、仮にコンニャク粉に胆汁酸の吸着作用があるとした場合、その吸着作用の原因物質は、上述した食物繊維であると予想される。
【0008】
一方、コンニャク粉の増粘性は、食物繊維の低分子化により低減することが可能である。しかし、食物繊維を分断して低分子化した場合には、その食物繊維による吸着作用も解消されると考えられる。即ち、仮に低分子化前のコンニャク粉に胆汁酸の吸着作用があるとした場合でも、低分子化により食物繊維としての機能が失われ、増粘性がなくなると共に、胆汁酸の吸着作用もなくなると考えられる。
【0009】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、コンニャク粉の食物繊維を低分子化することによって得られた低分子コンニャク粉にも胆汁酸の吸着作用があることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0010】
一方、近年美食など高脂質でかつ栄養価の高い食事の摂取によりメタボ体質の人が増加し、糖尿病(II型糖尿病)や脂質異常症(高脂血症)になる人が増える傾向がある。糖尿病発症の原因の多くは食事中に含まれる糖分であり、また脂質異常症(高脂血症)の原因の多くは、食事中に含まれる脂肪である。
【0011】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、コンニャク粉に、脂肪及び糖分の吸収抑制作用、インスリン抵抗性指数降下作用、アディポネクチン分泌促進作用、肝臓TG濃度降下作用があることを見出し、本発明を開発するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】北村奈穂、渡辺光博著「糖・脂質代謝を改善する食品素材」Food Style 21 Vo1.18 No.7 Page.50-55(発行年月目2014.07.01)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低分子コンニャク粉を用いた胆汁酸吸着剤、胆汁酸吸着剤の製造方法及び胆汁酸吸着剤を有する飲料物を提供することを第1の課題としている。
【0014】
また、本発明は、コンニャク粉及びトビコを用いた脂肪及び糖分の吸収抑制剤、インスリン抵抗性指数降下剤、アディポネクチン分泌促進剤、肝臓TG濃度降下剤、胆汁酸吸着剤、これらの剤の製造方法、並びにこれらの剤を有する飲料物を提供することを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る脂肪及び糖分の吸収抑制剤は、植物の球茎であるコンニャクが粉砕されたコンニャク粉を用いたことを特徴とする、脂肪及び糖分の吸収抑制剤であって、前記コンニャク粉は、前記球茎のコンニャクが粉砕された精粉及びトビコの少なくとも一方からなり、前記精粉は、当該精粉に含まれる食物繊維であるグルコマンナンが低分子化された低分子精粉であることを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載の発明に係る脂肪及び糖分の吸収抑制剤は、請求項1に記載の発明において、前記低分子精粉は、前記グルコマンナンの分子量が加水分解により10,000~50,000に低減されたものであることを特徴としている。なお、分子量の単位としては、質量平均分子量としての[Da]を使用している。但し、分子量の単位については記載を省略する。
【0017】
請求項3に記載の発明に係るインスリン抵抗性指数降下剤は、請求項1または2に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載の発明に係るアディポネクチン分泌促進剤は、請求項1または2に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴としている。
【0019】
請求項5に記載の発明に係る肝臓TG濃度降下剤は、請求項1または2に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴としている。
【0020】
請求項6に記載の発明に係る胆汁酸吸着剤は、請求項1または2に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含むことを特徴としている。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1若しくは2に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤の製造方法であって、前記球茎のコンニャクの粉砕によって得た精粉と、この精粉の35~40質量倍の水と、前記精粉の0.5~1.0質量倍の酢酸との混合物を90~100℃で350~370分間撹拌した後、当該90~100℃で前記混合物を50~70分間保持してから、前記混合物を105~115℃に加熱し、その105~115℃の温度状態で50~70分保持した後、前記混合物を更に130~140℃に加熱し、その130~140℃の温度で170~190分間加水分解を継続してから、前記混合物を室温まで冷却することで、前記グルコマンナンを低分子化した低分子精粉を製造することを特徴としている。
【0022】
請求項8に記載の発明に係る飲料物は、請求項1若しくは2に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本願発明者の鋭意検討の結果、植物の球茎であるコンニャクを単に粉砕してなるコンニャク粉について、胆汁酸を吸着する大きな効果があることが実験(後述の表2参照)により確認することができた。また、コンニャク粉に含まれるグルコマンナンが低分子化された低分子コンニャク粉についても、胆汁酸を吸着する大きな効果があることが実験(後述の表2参照)により確認することができた。そして、グルコマンナンの低分子化により、水等の液体に混合した場合、その液体の粘性が増加するのを十分に低く抑えることができる。従って、大きな胆汁酸吸着効果を有し、例えば水等の液体に混合することで、粘性が十分に抑えられた極めて飲みやすい胆汁酸吸着剤を提供することができる。しかも、植物の球茎であるコンニャクを原料としていることから、極めて安全性の高い胆汁酸吸着剤を提供することができる。
【0024】
また、コンニャク粉が球茎のコンニャクを粉砕することによって形成された精粉及びトビコの少なくとも一方からなるものであるので、精粉によるコンニャク粉、トビコによるコンニャク粉、精粉及びトビコの双方を含むコンニャク粉のそれぞれを低分子化することで低分子コンニャク粉を得ることができる。この場合、精粉とトビコとでは、グルコマンナンの含有量がほぼ同じであるので、低分子コンニャク粉については、同等の胆汁酸吸着効果を有すると共に、液体に混合した際にも粘性の十分に抑えられたものとすることができる。また、トビコを利用する場合には、食用コンニャクを製造する際に通常廃棄するものを有効に活用することになるので、資源の有効活用を図ることができるという優れた副効果を奏することにもなる。更に、トビコの割合は精粉とトビコの合計重量の40~50%であるので、トビコを利用することで、資源の有効活用に大いに貢献することができる。
【0025】
請求項1に記載の発明に係る脂肪及び糖分の吸収抑制剤においては、糖分の腸内での吸収抑制による糖尿病発症の予防効果を期待して、コンニャク粉である高分子の精粉、コンニャク粉を加水分解により低分子化した低分子精粉及び精製した高分子のトビコをマウスに与えて飼育する実験を行なったところ、高分子の精粉と比較して低分子精粉及びトビコでは、糖尿病の予防に繋がる血清グルコース値の低減結果を得た(表6及び
図8参照)。この実験における精粉(表6 及び
図8の「高分子コンニャク群(M1群)」に対応)及び飛粉(表6及び
図8の「トビコ群(M3群)」に対応)は、グルコマンナンを高分子のまま含むものであり、低分子精粉(表6及び
図8の「低分子コンニャク群(M2群)」に対応)については、精粉のグルコマンナンが低分子化されたものである。
【0026】
なお、この実験においては、高血糖マウスを3群に分け、高脂肪・高ショ糖飼料を共通飼料とし、1群目には5%の高分子の精粉を添加(以後高分子コンニャク群またはM1群と称す。)、2群目には5%の低分子の精粉を添加(以後低分子コンニャク群又はM2群と称す。)、3群目には5%のトビコを添加(以後トビコ群又はM3群と称す。)して3
週間飼育した。
【0027】
表6及び
図8は、血清グルコース濃度に関する実験結果である。なお、血液中の糖(血糖)はほとんどがグルコース(ブドウ糖)で、哺乳類にとっては重要なエネルギー源である。この血糖値が高くなっている状態のことを糖尿病という。この表6及び
図8において、高血糖マウスに対して高分子の精粉を与えたM1群と比較して、低分子精粉を与えたM2群と、高分子のトビコを与えたM3群では血清グルコース値(即ち、血糖値)の低下が見られた。
【0028】
即ち、高分子のトビコは高分子の精粉より更に血糖値降下剤としての効果があり、低分子精粉は高分子のトビコより有意に血糖値降下剤としての効果がある。
【0029】
請求項2に記載の発明に係る脂肪及び糖分の吸収抑制剤においては、低分子精粉におけるグルコマンナンの分子量が加水分解により10,000~50,000に低減されたものであるので、当該低分子精粉の血糖値降下剤としての効果を十分に発揮することができる。
【0030】
請求項3に記載の発明に係るインスリン抵抗性指数降下剤においては、表8及び
図10に示すように、M2群で用いた低分子精粉も、M3群で用いた高分子のトビコも、インスリン抵抗性指数(HOMA-R)値を低減する効果がある。なお、表8及び
図10は、HOMA-R値に関する実験結果である。HOMA-R値とは、インスリン抵抗性の指標と言われインスリンの効力を示すものである。
【0031】
この表8及び
図10においては、M3群で用いた高分子のトビコは、M1群で用いた高分子の精粉より優れたHOMA-R値の低減傾向を示した。即ち、高分子のトビコは、高分子の精粉に比べて、より少ない量のインスリンで血糖値を下げる効果がある。また、M2群で用いた低分子精粉は、高分子のトビコより更にHOMA-R値を有意に低減する効果がある。
【0032】
また、当該インスリン抵抗性指数降下剤は、低分子精粉におけるグルコマンナンの分子量が加水分解により10,000~50,000に低減されたものであっても、当該低分子精粉のインスリン抵抗性指数降下剤としての効果を十分に発揮することができる。
【0033】
請求項4に記載の発明に係るアディポネクチン分泌促進剤においては、表9及び
図11に示すように、高分子の精粉を与えたM1群と比較して、M2群で用いた低分子精粉も、M3群で用いた高分子のトビコも、アディポネクチンを血中に分泌する効果があることが判明した。このことは注目に値することである。なお、表9及び
図11は、血清アディポネクチン値に関する実験結果である。アディポネクチンとは、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの一種で、人間の健康維持に最も重要な役割を持つものとして、現在注目されている物質であり、糖尿病や動脈硬化などを予防する効果がある。また、アディポネクチンは、生物の活動を活発にし、老化の進行を抑制し、細胞を若がえらせる若がえりホルモンであり、高分子のトビコ、又は低分子精粉によって、胆汁酸の吸着、糖分の吸収の抑制などの過程で産生されると考えられる。
【0034】
この表9及び
図11においては、M3群で用いた高分子のトビコは、M1群で用いた高分子の精粉より優れた血清アディポネクチン値の増大傾向が見られた。即ち、高分子のトビコは、高分子の精粉に比べて、糖尿病等を予防する効果が高いといえる。また、M2群で用いた低分子精粉は、高分子のトビコより有意に血清アディポネクチン値を増大する効果がある。
【0035】
また、当該アディポネクチン分泌促進剤ては、低分子精粉におけるグルコマンナンの分子量が加水分解により10,000~50,000に低減されたものであっても、当該低分子精粉のアディポネクチン分泌促進剤としての効果を十分に発揮することができる。
【0036】
請求項5に記載の発明に係る肝臓TG濃度降下剤においては、表10及び
図12に示すように、M2群で用いた低分子精粉及びM3群で用いた高分子のトビコには、肝臓TG濃度を低減する効果がある。なお、表10及び
図12は、肝臓TG濃度に関する実験結果である。TGは、中性脂肪のことで、生体のエネルギーの貯蔵と運搬を担っており、インスリン抵抗性の悪化により肝臓TG濃度が増加し、肝機能が低下する。
【0037】
この表10及び
図12においては、M3群で用いた高分子のトビコは、M1群で用いた高分子の精粉より優れた肝臓TG濃度の低減傾向を示した。また、M2群で用いた低分子精粉は、高分子のトビコより更に肝臓TG濃度を低減する効果がある。
【0038】
また、当該肝臓TG濃度降下剤は、低分子精粉におけるグルコマンナンの分子量が加水分解により10,000~50,000に低減されたものであっても、当該低分子精粉の肝臓TG濃度降下剤としての効果を十分に発揮することができる。
【0039】
請求項6に記載の発明に係る胆汁酸吸着剤においては、表13に示すように、M1群と比較して、M3群で用いた高分子のトビコは、胆汁酸を吸着し糞中排泄を促進する効果がある。なお、表13は、糞中総胆汁酸排泄量に関する実験結果である。胆汁酸は、脂肪分を乳化し、吸収を促すものであり、胆嚢から分泌されるものである。即ち、飲食をすると食物中に含まれる脂肪分を乳化する為に胆嚢から胆汁酸が腸内に分泌されて脂肪を乳化し、腸から体内に再吸収される。高分子のトビコは胆汁酸を腸内で吸着し、糞便として一緒に体外へ排出する作用がある。
【0040】
この表13においては、M1群で用いた高分子の精粉は、M2群で用いた低分子精粉より糞中総胆汁酸排泄量が増大する結果となった。また、M3群で用いた高分子のトビコは、高分子の精粉より更に糞中総胆汁酸排泄量が増大する結果となった。これは、胆汁酸を腸内で吸着し、糞便として体外に排出する効果は、高分子のトビコが優れていることを示している。
【0041】
また、当該胆汁酸吸着剤は、低分子精粉におけるグルコマンナンの分子量が加水分解により10,000~50,000に低減されたものであっても、当該低分子精粉の胆汁酸吸着剤としての効果を奏する。
【0042】
請求項7に記載の発明に係る脂肪及び糖分の吸収抑制剤の製造方法においては、加熱温度、加熱時間等を管理することにより、分子量が10,000~50,000の低分子精粉を加水分解により製造することができる。
【0043】
請求項8に記載の発明に係る飲料物によれば、請求項1若しくは2に記載の脂肪及び糖分の吸収抑制剤を例えば水等の液体に混合することにより、当該脂肪及び糖分の吸収抑制剤を飲料物として体内に取り込むことができるので、脂肪及び糖分の吸収抑制剤、インスリン抵抗性指数降下剤、アディポネクチン分泌促進剤、肝臓TG濃度降下剤又は胆汁酸吸着剤に関する優れた効果を手軽に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】文献Aの分析結果を示す図であって、(a)は文献Aの[
図6]の分析結果を示す図であり、(b)は文献Aの[
図7]の分析結果を示す図であり、(c)は文献Aの[
図8]の分析結果を示す図である。
【
図2】第1の実施形態として示した胆汁酸吸着剤における低分子コンニャク粉を得るための加水分解の手順を示す流れ図である。
【
図3】第1の実施形態として示した胆汁酸吸着剤の吸着効果を確認する実験で用いられる胆汁酸の精製手順を示す流れ図である。
【
図4】第1の実施形態として示した胆汁酸吸着剤を用いた胆汁酸の吸着実験の流れ図である。
【
図5】本発明である第2の実施形態で用いた低分子精粉についての精製低分子化グルコマンナンのGPC分析結果を示す図である。
【
図6】本発明である第2の実施形態における実験で用いたマウスに投与した飼料に関し、投与期間中の摂取量の変化及び総摂取量を示すグラフである。
【
図7】本発明である第2の実施形態における実験で用いたマウスに投与した飼料に関し、解析に使用するマウスを特定した後の投与期間中の摂取量の変化及び総摂取量を示すグラフである。
【
図8】本発明である第2の実施形態における実験結果として示した投与終了後の血清グルコース値を示すグラフである。
【
図9】本発明である第2の実施形態における実験結果として示した投与終了後の血清インスリン値を示すグラフである。
【
図10】本発明である第2の実施形態における実験結果として示した投与終了後のHOMA-R値を示すグラフである。
【
図11】本発明である第2の実施形態における実験結果として示した投与終了後の血清アディポネクチン値を示すグラフである。
【
図12】本発明である第2の実施形態における実験結果として示した投与終了後の肝臓TG濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
第1の実施形態としての胆汁酸吸着剤、胆汁酸吸着剤の製造方法及び胆汁酸吸着剤を有する飲料物について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この第1の実施形態は、分割特許出願に関わる本発明の範囲外の具体例であり、実質的な参考例として開示するものである。
【0046】
この実施形態で示す胆汁酸吸着剤は、植物の球茎であるコンニャクを機械的に粉砕することによって形成されたコンニャク粉に含まれる水溶性食物繊維であるグルコマンナンを低分子化し、その低分子グルコマンナンを含有する低分子コンニャク粉を用いたものとなっている。この実施形態では、コンニャク粉は、球茎のコンニャクを粉砕することで得られた精粉及びトビコのうちトビコを用いたものとなっている。トビコの割合は、精粉とトビコとを合計したもの40~50重量%に相当する。(なお、コンニャク粉としては、トビコに代えて精粉を用いてもよく、また精粉及びトビコの双方を含んだものを用いてもよい。)
【0047】
上述した低分子グルコマンナンは、加水分解により低分子化されたものである。加水分解の条件は、触媒が塩化鉄(III)、温度が115~160℃、反応時間が0.5~10時間(好ましくは1~3時間、より好ましくは約2時間)である。このような条件の下での加水分解でグルコマンナンを低分子化し、かつその分子量が1,000以上に設定された場合にも、表2に示したように、十分大きな胆汁酸吸着効果を有し、かつ液体に混合した場合でもその粘性の増加を十分に低く抑えることができる効果がある。
【0048】
なお、加水分解後のグルコマンナンの分子量は、後述する分画分子量1,000の透析膜を用いることで、下限値を1,000に特定することができる。また、上限についても、他の透析膜を用いることで所定の値に特定することが可能である。しかし、加水分解によって分子量の低減が図られることは自明である以上、上限値を設定してそれ以上のグルコマンナンを含む低分子コンニャク粉を排除する必要がない。即ち、上限値は設定する必要がないので、1,000以上の分子量について、触媒(塩化鉄(III))、温度(115~160℃)、反応時間(0.5~10時間(好ましくは1~3時間、より好ましくは約2時間))の加水分解の条件をもって特定することとした。
【0049】
また、反応時間を0.5時間以上としたのは、0.5時間未満にすると分子量が1,000に近い分布とならず、例えば分子量が10,000超える分布のものが含まれるおそれが生じてくるからである。一方、反応時間を10時間以下としたのは、10時間を超えると分子量が1,000未満のものが相当多くなり、収量が低下してしまうからである。
更に、反応時間を1時間以上とした場合には、分子量が10,000未満のものをほぼ確保することができる利点がある。そして、反応時間を3時間以下とすることにより、分子量が1,000未満となるものの割合を抑えることができ、収量の低減を抑制することができるからである。
そして、反応時間を約2時間とすることにより、分子量が1,000近辺のものを十分に確保し、かつ収量の向上を図ることができる。
【0050】
また、この胆汁酸吸着剤の製造方法によれば、グルコマンナンの分子量が1,000以上で、触媒(塩化鉄(III))、温度(115~160℃)、反応時間(0.5~10時間(好ましくは1~3時間、より好ましくは約2時間))の加水分解の条件によって特定される分子量の低分子コンニャク粉を得ることができる。これは、分画分子量1,000の透析膜で塩化鉄(III)を完全に除去することにより、分子量が1,000以上の純粋な低分子コンニャク粉を得ることができることに基づくものである。なお、反応時間については、上述の通りである。
【0051】
このようにして製造された胆汁酸吸着剤を含む飲料物は、粘性の増加が抑制されて飲みやすく、かつ胆汁酸の吸着効果の高い例えば水やお茶や各種ジュース等を得ることができる。
【0052】
以下、他の文献の記載内容についても示しながら、更に詳細に説明する。
【0053】
食品コンニャクは、上述した球茎であるコンニャクを粉砕することで得られた主成分がグルコマンナンであるコンニャク粉のうち、通常は精粉を原料として作られる。トビコは、コンニャクを粉砕する過程で廃棄される物質で、コンニャクの多糖類であるグルコマンナンは殆ど含まれていない。精粉とトビコの割合は6:4から5:5である(文献:石川 香織 高知工科大学大学院2002年度修士論文)。即ち、トビコの割合は、コンニャク粉(精粉及びトビコの合計重量)の40~50重量%となっている。
【0054】
また、トビコに含まれるグルコマンナンの割合は、60~65重量%である(文献:石川 香織 高知工科大学大学院2002年度修士論文)。一方、精粉に含まれるグルコマンナンの割合は、特等粉が63.98重量%、一等粉が61.70重量%等(文献:福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センター 県産農作物の品質特性の把握と加工適正に関する研究-こんにゃく精粉-)であるから、60重量%以上であるといえる。即ち、精粉とトビコとは、これらの精粉及びトビコを上述した割合で存在するものであると定義した場合、グルコマンナンの含有量に関する限り、同等のものであると判断できる。
【0055】
また、コンニャクマンナンの分子量は、1,000,000から2,000,000であるという報告がある(清水寿夫、New Food Industry 35,17-25,1993)。なお、コンニャクマンナンは、グルコマンナンと同一である。また、特開2013-63051号公報(以下「文献A」という。)には、段落番号[0060]に、「グルコマンナンの分子量は、約100万以上(重合度:約6200)」という記載がある。以上から、グルコマンナンの分子量は、1,000,000以上であると判断できる。
【0056】
グルコマンナンについては、加水分解によって低分子化することが可能である。特開2004-254646号公報(以下「文献B」という。)には、段落番号[0023]に「分子量が1,000~6,000程度のマンナンオリゴ糖類を高純度で効率よく製造することができる。」という記載がある。また、文献Aには、触媒として塩化鉄(III)を用い、温度及び反応時間を種々に変化させて、グルコマンナンを加水分解した実験例が示されており、段落番号[0113]には「以上の結果から、反応温度を140℃に設定し、反応時間を30分~2時間に設定することによって、所望の高純度なマンナンオリゴ糖が得られることが確認できた。また、反応温度を130℃に設定し、反応時間を1~2時間に設定することによっても、所望の高純度なマンナンオリゴ糖が得られることが確認できた。」という記載がある。この中で、「高純度なマンナンオリゴ糖」の分子量についての具体的な数値は記載されていないが、上記文献Bの記載を考慮すると、「高純度なマンナンオリゴ糖」の分子量は、1,000~6,000程度であると推察される。
【0057】
文献Aにおける段落番号[0082]~[0113]及び
図6~8に示す実験例18~26をまとめると、下記の表1及び
図1の通りとなる。
【0058】
【0059】
上記表1における温度の欄、時間の欄、収量(g)の欄、実験例の欄に記載された各数値は、文献Aにおける段落番号[0082]~[0113]に記載されたものである。
【0060】
また、上記表1における単糖ピーク値(%)の欄は、
図1(a)に示す実験例20(140℃、1時間)の単糖ピーク部位におけるピークの値を100とした場合に、この実験例20に対して他の実験例18、19、21~26の単糖ピーク値がどのような値になるかを示したものである。単糖ピーク値(%)の欄に示す各数値は、
図1(a)~(c)から読み取ったものである。
【0061】
更に、上記表1におけるオリゴ糖量(目視)の欄に示す各データは、
図1(a)~(c)におけるマンナンオリゴ糖のピークの明確性及び高さ等に基づいて目視をもって感覚的に数値化したものである。実験例24は温度が低いために加水分解反応が遅れていることからオリゴ糖量の数値が低くなっている。実験例22は時間が短いために加水分解反応が十分に行われていないことからオリゴ糖量の数値が低くなっている。実験例26は温度が高く時間も十分であるため加水分解反応が進行しすぎたためにオリゴ糖量の数値が低くなっている。以上のように考察される。
【0062】
本実施形態においては、上述した植物の球茎であるコンニャクを機械的に粉砕することによって形成されたコンニャク粉に含まれるグルコマンナンを次の条件で加水分解した。
(1)加水分解の対象:トビコ:15g
(2)加水分解の条件:
(i)触媒:塩化鉄(III)(FeCl3)
濃度:10mMの塩化鉄(III)水溶液500mL
(ii)加水分解温度及び時間:
(a)115℃で2時間
(b)145℃で2時間
(c)160℃で2時間
(3)実験装置及び試薬類:
(i)実験装置:
(a)反応装置:耐圧硝子株式会社 TEM-D型
(b)遠心分離器:株式会社コクサン H-105FN
(c)凍結乾燥機:東京理化器械株式会社 FDU-1100
(d)恒温槽:株式会社生田産業 A0602
(e)pH測定器:東亜ディーケーケー株式会社 HM-30G
(f)電子天秤:株式会社島津製作所 AEX-2008
(g)透析膜(精製用):フナコシ株式会社 FED-132105
FED-132105:スペクトラ/ポア 7,MWCO 1,000,
φ29mm×45mm×5m
(ii)試薬類:
(a)クロロホルム:和光純薬工業株式会社 和光一級
(b)エタノール:純正化学株式会社 純正一級
(c)炭酸ナトリウム:純正化学株式会社 試薬特級
(d)塩化鉄(III)(無水):和光純薬工業株式会社 和光一級
【0063】
グルコマンナンは
図2に示す手順で加水分解を行う。
(SP1)まず、実験に使用するトビコを乾燥処理する。即ち、トビコをあらかじめ恒温槽(60℃/0.1MPa)に放置し、トビコの水分を完全に除去する。水分量の同定は以下に示す要領で行う。恒温槽内に収容したトビコ約100gについて、重量を一定の時間間隔で測定し、時間の経過に伴う重量の変化をグラフ化し、当該重量が0.1g単位で一定になった時点でトビコの含水率がほぼ0重量%(恒量)と判断する方法をとった。
【0064】
(SP2)次に、乾燥したトビコ15gについて、10mMの塩化鉄(III)水溶液500mLで115℃、2時間の条件で、加水分解を行う。この加水分解は反応装置内で行う。
(SP3)加水分解後、低分子化した低分子コンニャク粉を凍結乾燥機で乾燥する。
(SP4)乾燥後の低分子コンニャク粉を純水に投入し、透析により塩化鉄(III)を除去する。透析は、分子量が1,000未満の物質を通す分画分子量1,000の透析膜による容器の内側に低分子コンニャク粉の含有水を挿入し、その透析膜の容器の外側にバッファーとしての純水を満たして行った。バッファー水は2回交換することで、低分子コンニャク粉から塩化鉄(III)を完全に除去した。この結果、透析膜による容器の内側には、分子量が1,000以上の低分子コンニャク粉が残ることになる。
(SP5)水を含む低分子コンニャク粉を乾燥させることにより、塩化鉄(III)が除去された乾燥した低分子コンニャク粉を得る。この透析膜による低分子コンニャク粉の精製は、同一工程を3回繰り返し、分子量1,000未満の成分を完全に除去した。
【0065】
そして、上記(SP2)において、145℃で2時間、160℃で2時間のそれぞれの条件下においても加水分解を行うことにより、これらの条件に対応する乾燥した低分子コンニャク粉を得る。
【0066】
一方、胆汁酸については、
図3に示すように、所定の分子量以下に精製した上で、低分子コンニャク粉による吸着試験に用いることになる。なお、胆汁酸として、その代表的な物質であるコール酸ナトリウムを用いる。即ち、精製したコール酸ナトリウムを用いて低分子コンニャク粉による吸着試験を行う。
【0067】
コール酸ナトリウムの精製は、
図3に示すコール酸ナトリウムの精製手順に沿って行われる。
(SP1)まず、2gのコール酸ナトリウムを純水200mLに溶解する。
(SP2)そして、コール酸ナトリウムの溶解水を分画分子量1,000の透析膜による容器の内側に挿入し、かつその透析膜の容器の外側にバッファーとしての純水を満たすことで行う。透析開始から2時間後及び4時間後にバッファー水を交換し、その2時間後、4時間後及び24時間後のそれぞれのバッファー水を回収する。
(SP3)2時間、4時間、24時間をそれぞれ経過した後のバッファー水を蒸発させて乾燥させることにより、分子量が1,000未満の乾燥したコール酸ナトリウムを得る。なお、コール酸ナトリウムの分子量は、430.55である。
【0068】
塩化鉄(III)が除去されかつ分子量が1,000以上に精製された低分子コンニャク粉によるコール酸ナトリウムの吸着効果については、
図4に示す手順により行う。
【0069】
(SP1)まず、分子量が1,000以下に精製されたコール酸ナトリウム0.1g近辺と、分子量が1,000以上に精製された低分子コンニャク粉1g近辺を電子上皿天秤で秤量した上で、更にそれぞれを0.1000g及び1.000gまで電子天秤により正確に秤量して500mLのビーカーに収容する。
【0070】
(SP2)そして、そのビーカーに温度37℃の純水200mLを投入することにより、コール酸ナトリウム及び低分子コンニャク粉の混合溶解水を得る。
(SP3)その溶解水については、振とう器付き恒温槽で温度37.0℃を保ちながら、振とう速度80RPMで2時間振とうする。この場合、ビーカー側を旋回することにより、溶解水を振とうする。
【0071】
(SP4)振とう後の溶解水を分画分子量1,000の有底筒状に形成された3本の透析膜による容器の内側に収容し、これらの透析膜の容器の外側にバッファーとしての37℃の純水350mLを満たした状態で透析を行う。この透析においても、恒温槽を用いて温度37℃の雰囲気で、振とう速度60RPMで振とうしながら行う。この場合の透析時間は2時間である。また、この場合の振とうは、筒状の各透析膜側を振とうすることにより、溶解水全体を程よく混合させることになる。
【0072】
(SP5)各透析膜の容器からその外側のバッファー水としての純水側に抜け出したコール酸ナトリウムを乾燥処理することにより回収する。この場合、エバポレータで容量を減らした上で、凍結乾燥させる。
【0073】
低分子コンニャク粉によりコール酸ナトリウムの吸着率については、実験当初のコール酸ナトリウムの投入量が0.1000gと既知であるから、(SP5)の凍結乾燥により得られたコール酸ナトリウムの重量を得ることにより、次の式(数1)によって計算することができる。即ち、実験当初のコール酸ナトリウムの投入重量をW1とし、(SP5)の凍結乾燥後のコール酸ナトリウムの重量をW2とすると、吸着率Eは次の式(数1)の通りとなる。
【0074】
【0075】
加水分解前のコンニャク粉や、115℃で2時間の条件、145℃で2時間の条件及び160℃で2時間の条件で加水分解した後の低分子コンニャク粉を用いてコール酸ナトリウムの吸着効果を実験した結果を示すと下記の表2に示す通りとなる。
【0076】
下記表2中の「コンニャク粉」については、コンニャク粉に含まれる脂質を溶剤で脱脂し、乾燥させた未加水分解コンニャク粉末を示す。
【表2】
【0077】
まず、加水分解前のコンニャク粉(即ち、食品コンニャクの原料である植物の球茎としてのコンニャクの粉体)について、胆汁酸を吸着する大きな効果があることが確認できた。また、加水分解により低分子化した各低分子コンニャク粉についてもコンニャク粉と同程度の吸着効果があることが確認できた。但し、いずれの低分子コンニャク粉の分子量も、本実験においては1,000以上となる。
【0078】
また、表1に示すように、加水分解の温度及び時間の増加に伴って分子量が小さくなることが明らかであることから、115℃2時間より160℃2時間の条件で加水分解した低分子コンニャク粉の方が1,000に偏った分子量の分布になっているといえる。この場合、160℃2時間の条件のものは、表1から考察すると、大部分が1,000程度の分子量になっていると推定される。即ち、分子量を少なくとも1,000程度まで低減しても、胆汁酸の吸着作用を大きな状態に維持することができるといえる。
【0079】
更に、通常のコンニャクマンナンの分子量が1,000,000程度であり、これを1,000程度の分子量まで減少させた低分子コンニャク粉については、水やジュース等の飲料物に混ぜた場合の食物繊維に基づく増粘性を激減させることができるという利点がある。即ち、低分子コンニャク粉を水やお茶やオレンジジュース等に混ぜてもサラッとした感じのものとなり全く違和感なく飲用することができる。
【0080】
以上より、低分子化されたグルコマンナンを有する各低分子コンニャク粉を用いた胆汁酸吸着剤においては、優れた胆汁酸吸着効果を奏する。また、この胆汁酸吸着剤は、水やジュース等の液体に混合した場合でも、その液体の粘性が増加するのを十分に低く抑えることができる。従って、水等の液体に混合することで、極めて飲みやすいものにすることができる。しかも、植物の球茎であるコンニャクを原料としていることから、極めて安全性の高いものを提供することができる。即ち、胆汁酸吸着効果が高く、極めて飲みやすく、かつ極めて安全性の高い飲料物を得ることができる。
【0081】
また、各低分子コンニャク粉を用いた胆汁酸吸着剤の製造方法においては、分画分子量が1,000の透析膜を用いることで、1,000以上の分子量の低分子コンニャク粉を得ることができると共に、加水分解の触媒としての塩化鉄(III)を完全に除去した純粋な低分子コンニャク粉を得ることができるという利点がある。
【0082】
なお、上記実験例ではコンニャク粉のうちトビコから低分子コンニャク粉を得た例を示しているが、精粉から低分子コンニャク粉を得るようにしてもよい。また、コンニャク粉全体のトビコ及び精粉の双方から低分子コンニャク粉を得るようにしてもよい。但し、トビコを利用する場合には、食用コンニャクを製造する際に通常廃棄するものを有効に活用することになるので、資源の有効活用を図ることができるという点がある。
【0083】
また、上記実験例では、加水分解の反応時間を2時間に設定した例を示したが、上記表
1を考慮すると、この反応時間としては0.5~10時間(好ましくは1~3時間)としてもよい。この場合、反応時間を0.5時間以上としたのは、0.5時間未満にすると分子量が1,000に近い分布とならず、例えば分子量が10,000超える分布のものが含まれるおそれが生じてくるからである。一方、反応時間を10時間以下としたのは、10時間を超えると分子量が1,000未満のものが相当多くなり、収量が低下してしまうからである。
【0084】
一方、反応時間を1時間以上とした場合には、分子量が10,000未満のものをほぼ確保することができる利点がある。そして、反応時間を3時間以下とすることにより、分子量が1,000未満となるものの割合を抑えることができ、収量の低減を抑制することができるからである。
【0085】
そして、反応時間を約2時間とすることにより、分子量が1,000近辺のものを十分に確保し、かつ収量の向上を図ることができる。
【0086】
次に、本発明である第2の実施形態としての脂肪及び糖分の吸収抑制剤、脂肪及び糖分の吸収抑制剤の製造方法、脂肪及び糖分の吸収抑制剤を有する飲料物について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0087】
脂肪及び糖分の吸収抑制剤は、植物の球茎であるコンニャクが粉砕されたコンニャク粉を用いたものとなっている。コンニャク粉は、球茎のコンニャクが粉砕された精粉及びトビコを有するものである。精粉及びトビコは、その双方を用いても、その一方のみを用いてもよい。即ち、精粉及びトビコは、少なくとも一方を用いることになる。
【0088】
また、精粉については、当該精粉に含まれる食物繊維であるグルコマンナンを低分子化した低分子精粉を用いてもよい。低分子精粉は、グルコマンナンの分子量が加水分解により10,000~50,000に低減されたものである。なお、単に「精粉」として示した場合は、低分子化前の高分子(上述のように100万から200万の分子量)のグルコマンナンを有する精粉を意味する。
【0089】
低分子精粉については、球茎のコンニャクの粉砕によって得た精粉と、この精粉の35~40質量倍の水と、前記精粉の0.5~1.0質量倍の酢酸との混合物を90~100℃で350~370分間撹拌した後、当該90~100℃で前記混合物を50~70分保持(撹拌してもよい)してから、前記混合物を105~115℃に加熱し、その105~115℃の温度状態で50~70分保持(撹拌してもよい)した後、前記混合物を更に130~140℃に加熱し、その130~140℃の温度で170~190分保持(撹拌してもよい)してから、混合物を室温まで冷却する工程を経る製造方法により、製造されることになる。即ち、この製造方法が脂肪及び糖分の吸収抑制剤の製造方法に該当する。
【0090】
精粉、低分子精粉及びトビコの少なくとも一つのコンニャク粉を用いた脂肪及び糖分の吸収抑制剤を水やお茶や各種ジュース等の液体で溶くことにより、当該脂肪及び糖分の吸収抑制剤を含有する飲料物としてもよい。
【0091】
以下、実験例を示しながら、更に詳細に説明する。
【0092】
コンニャク粉としての精粉、低分子精粉及びトビコを用いた脂肪及び糖分の吸収抑制剤に関するマウスの実験は次の通りである。
(1)実験場所
和洋女子大学、明治大学、株式会社下仁田物産の本社及び工場
(2)精粉、低分子精粉及びトビコの調整方法
精粉及びトビコは、株式会社下仁田物産の提供によるものである。
マウスに与える精粉及びトビコは、株式会社下仁田物産から提供された精粉及びトビコに対して乾燥処理、エタノール沈殿による精製処理を行ったものである。これらの乾燥処理、及びエタノール沈殿による精製処理の方法については更に後述する。
マウスに与える低分子精粉は、株式会社下仁田物産から提供された精粉に対して上記精製処理をした上で、上述した製造方法を用いて製造したものである。この低分子精粉の製造方法についても更に後述する。
【0093】
(2-1)精粉及びトビコの乾燥処理
株式会社下仁田物産提供の精粉及びトビコは、50℃における真空減圧下で、48時間の乾燥処理を行った。この乾燥処理により得た物質収支の結果を表3に示す。なお、表3において、「トビコ」はトビコを示し、「コンニャク」は精粉を示す。この表3によると、乾燥前の株式会社下仁田物産から提供されたトビコ及び精粉には、それぞれ3.47質量%及び2.59質量%の水分が含まれることが分かる。
【表3】
【0094】
(2-2)精粉及びトビコのエタノール沈殿による精製処理
乾燥処理後の精粉及びトビコは、80%エタノール水溶液中で48時間撹拌しアミン系化合物の除去などの精製処理を行った。表4は、上記50℃真空減圧下での48時間の乾燥処理から80%エタノール水溶液中での48時間撹拌の精製処理までの乾燥精製処理により得た物質収支の結果を示す。なお、この表4において、「トビコ」はトビコを示し、「コンニャク」は精粉を示す。この表4によると、乾燥精製処理がなされた後の質量減少量(質量減少率)がトビコで7.60質量%であり、精粉で5.5質量%である。これらの質量減少率には上記表3で示した水分が含まれているので、この水分を控除した水分補正後の質量減少率を計算すると、トビコについては4.13質量%であり、精粉については2.91質量%である。即ち、トビコについての4.13質量%及び精粉についての2.91質量%は、株式会社下仁田物産から提供された精製処理前の精粉及びトビコに含まれていたアミン系化合物の含有率に相当すると推定される。上記乾燥精製処理で得られた精粉及びトビコを後述の動物実験におけるマウスに与えている。
【表4】
【0095】
(2-3)低分子精粉の製造
(i)予備加水分解による低粘度下
コンニャクの主成分であるグルコマンナンの分子量(Da)が上述のように100万~200万であり、その溶液は高粘度を示すことから、当該グルコマンナンの加水分解の際に行う撹拌などの操作が困難となり、均一な反応条件を維持するのが甚だしく難しくなる。そ
こで、本試験においては、予めグルコマンナンを温浴中で撹拌可能になるまで低粘度化し、更に液面が波立つまで高温状態で加水分解した後、所定の温度での加水分解反応を行った。
【0096】
(ii)予備加水分解
上記乾燥精製処理後の精粉(40g)に水(1500mL(1500g))と酢酸(AcOH)(30mL(30g))を添加し、95℃の湯浴中で6時間(360分間)撹拌することで、低粘度化(やっと撹拌可能な状態(反応装置TV1000により撹拌可能な状態)まで低粘度化)した。この操作を予備加水分解と称する。この予備加水分解における精粉と水と酢酸の質量比は、精粉:水:酢酸=1:37.5:0.75である。即ち、水は精粉の37.5質量倍であり、酢酸は精粉の0.75質量倍である。
【0097】
なお、水については精粉の35~40質量倍とし、酢酸は精粉の0.5~1.0質量倍としてもよい。また、更に好ましくは、水については精粉の36.5~38.5質量倍とし、酢酸は精粉の0.65~0.85質量倍としてもよい。
【0098】
上述の「95℃の湯浴中で6時間(360分間)撹拌すること」については、「90~100℃の湯浴中で350~370分間撹拌すること」としてもよい。また、更に好ましくは、「92.5~97.5℃の湯浴中で355~365分間撹拌すること」としてもよい。
【0099】
(iii)ガラス製耐熱反応装置による高温・高圧下での加水分解
ガラス製耐熱反応装置(耐圧ガラス社製:TV1000)に上記予備加水分解を施した精粉含有の溶液750mLを投入し、反応温度を95℃まで上昇し、この反応温度を1時間(60分間)保持(撹拌してもよい)した。(なお、上記95℃の反応温度は、90~100℃としてもよく、更に好ましくは92.5~97.5℃としてもよい。また、上記60分間の反応時間は、50~70分間としてもよく、更に好ましくは55~65分間としてもよい。)
【0100】
さらに、所定の時間が経過後、110℃まで昇温し、この温度状態で1時間(60分間)保持(撹拌してもよい)した。(なお、上記110℃の反応温度は、105~115℃としてもよく、更に好ましくは107.5~112.5℃としてもよい。また、上記60分間の反応時間は、50~70分間としてもよく、更に好ましくは55~65分間としてもよい。)
【0101】
その後、更に、135℃に昇温し、この温度で3時間(180分間)加水分解を継続した(この間、撹拌してもよい)。この加水分解の反応終了後は、直ちにガラス製耐熱反応装置の反応容器を冷却し、精粉含有の反応溶液の温度を室温にまで低下させた。(なお、上記135℃の反応温度は、130~140℃としてもよく、更に好ましくは132.5~137.5℃としてもよい。また、上記180分間の反応時間は、170~190分間としてもよく、更に好ましくは175~185分間としてもよい。)
【0102】
(iv)反応溶液の中和
精粉含有の反応溶液は、5%-炭酸ナトリウム溶液で、pH≒8.0付近になるまで中和を行った。
【0103】
(v)中和終了後の反応溶液は、凍結乾燥し、茶色の粗製の低分子量化した精粉を得た。
【0104】
(vi)粗製の低分子量化した精粉を少量に純水に溶かし、酢酸酸性(pH=4.6付近)中
で約70℃に加温し、5%亜塩素酸ナトリウム溶液を少しずつ添加することで、溶液の色が薄い黄色を示すまで溶液を添加することで脱色反応を行った。脱色反応後の溶液は、5%-炭酸ナトリウム溶液でPHが8.0付近となるように中和を行い、透析膜による精製を行った。透析膜による精製は、排除限界:1000Da(スペクトラ/ポアRC透析用チューブ(再生セルロース製)スペクトラ/ポア7)の透析膜を用い、2時間後、4時間後、6時間後に膜外の純水を交換し24時間連続で行った。
【0105】
(vii)透析膜内の溶液を凍結乾燥することで得られた精製低分子量化精粉、即ち低分子精粉の分子量の測定を以下の方法で行った。即ち、ここで得られた低分子精粉を少量の0.1mol/LNaCl溶液に溶かし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析に供し、GPC計算ソフトにより重量平均分子量(Mw[Da])を求めた。また、HPLC分析装置、分析カラム、分析諸条件および重量平均分子量計算のソフトウエア名を以下に示す。
【0106】
(HPLC装置および分析諸条件)
Agilent製 1100バイナリーポンプ
Agilent製 1100デガッサ
RI検出器:JASCO製 示差屈折計 2031 plus
カラム:SHODEX製 KS-804(排除限界:400000)、
SHODEX製 KS-802(排除限界:10000)、
SHPDEX製 KS-G(ガドカラム)
サンプルループ:PHEOMYNE 500μLループ
溶離液:0.1mol/L NaCl
流速:0.700mL/分
カラム温度:40.0℃
重量平均分子量計算ソフトウエア:Chromato-PRO-GPC(ランタイムインスツルメント社製)
【0107】
(viii)低分子精粉のグルコマンナンの分子量測定結果
低分子精粉のグルコマンナンの分子量測定結果を
図5に示す。この図において、「精製低分子化グルコマンナン」及び「コンニャク」は低分子精粉のグルコマンナンを意味する。即ち、低分子精粉のグルコマンナンについての質量平均分子量(Mw)は12、300(Da)であり、数平均分子量(Mn)は11、000(Da)である。
【0108】
(ix)マウスに与える低分子精粉
以上より、後述の動物実験におけるマウスに与える低分子精粉は、質量平均分子量(Mw)が12300(Da)のものとなる。
【0109】
(精粉、低分子精粉及びトビコの効果を確認するための動物実験)
I.実験方法
(1)実験動物、飼料および飼育条件
4週齢のKK-Ay/Ta Jcl雄性マウス(日本クレア)を、市販固形飼料(CE-2、日本クレア)にて1週間の予備飼育を行い、1群8~9匹として、対照群、高分子コンニャク群(精粉群)、低分子コンニャク群(低分子精粉群)、トビコ群(トビコ群)の4群に群分けを行った。
【0110】
高分子コンニャク群のマウスには高脂肪・高ショ糖食(F2HFHSD、オリエンタル酵母)に、上述した乾燥精製処理後の精粉(Mw=100万~200万Da)を5%の割合で混餌したものを、低分子コンニャク群のマウスには上述した低分子精粉(Mw=12300Da)を高脂肪・高ショ糖食に5%の割合で混餌したものを、トビコ群のマウスにはコンニャク製造時に破棄されるコンニャク外皮粉末であるトビコであって乾燥・精製処理後のトビコを高脂肪・高
ショ糖食に5%の割合で混餌したものを、それぞれ3週間摂取させた。
【0111】
動物実験は、総理府告示の実験動物の飼養および保管等に関する基準に従い、和洋女子大学動物実験委員会の審議、承認を経て実施した(承認番号1602)。
【0112】
実験動物であるマウスは、ケージに個別に入れ、室温23±2℃、湿度55±5%の12時間明暗サイクル(明期7:00~19:00、暗期19:00~7:00)の環境下で飼育した。飼料は毎日17:00に与え、翌日9:00まで摂取させ、摂食量を秤量した。飲料は水道水を自由飲用させた。
【0113】
(2)血清グルコースおよび血清インスリン値の測定
投与終了時、絶食8~10時間後に、イソフルラン吸引麻酔下で腹部大動脈から全採血し、安楽死させた。採取した血液は、遠心分離(3000rpm、10min)を行い、得られた血清中のグルコース濃度を生化学自動分析装置(富士ドライケム4000、富士フィルムメディカル)および検体スライド(富士フィルムメディカル)を用いて測定した。血清インスリン濃度の測定は、市販の測定キット(レビスRインスリン-マウス(Uタイプ)、シバヤギ)を用いて測定した。
【0114】
(3)インスリン抵抗性指数の算出
インスリン抵抗性指数(HOMA-R)は、血清グルコースおよび血清インスリン値を用いて以下の計算式で算出した。
【0115】
HOMA-R=(血清グルコース値)×(血清インスリン値)/405
【0116】
(4)血清アディポネクチン値の測定
血清アディポネクチン値(濃度)の測定は、市販の測定キット(レビスR高分子アディポネクチン-マウス/ラット、シバヤギ)を用いて測定した。
【0117】
(5)肝臓TG濃度の測定
上記(1)で示した全採血後、肝臓を摘出し、生理食塩水で洗浄した後、湿重量を測定した。摘出した肝臓の脂肪の抽出はFolchらの方法を用い、一定量の2-プロパノールにて溶解した。市販の測定キット(トリグリセライドE-テストワコー、和光純薬)を用い測定した。
【0118】
(6)糞中の総胆汁酸の測定
投与3週目に1日の糞を個別採取し、凍結乾燥後糞中脂質の抽出を行った。Hashimotoらの方法で抽出した後、一定量のエタノールにて溶解した。市販の測定キット(総胆汁酸-テストワコー、和光純薬)を用い測定した。
【0119】
(7)統計処理
実験結果は各群の平均値±標準誤差(Mean±SE)で示した。差の検定は、p<0.05を統計的に有意であると判断し、p<0.1を傾向があると判断した。高分子コンニャク群(M1群)に対する低分子コンニャク群(M2群)、トビコ群の3群(M3群)の検定は、Dunnettの検定を行い、高分子コンニャク群に対する低分子コンニャク群の2群の検定は、unpaired t-検定を行った。
【0120】
II.実験結果
(1)飼料摂取量
飼料投与期間中の一匹当たりの飼料の摂取量の変化と、一匹当たりの総摂取量を
図6に示した。高分子コンニャク群(M1群、n=9)の摂取量は、他の2群に比べて有意に低値を示した。そこで、摂取量の少なかったマウスを解析から除外した結果、
図7に示したとおり高分子コンニャク群(M1群、n=4)の1週目の摂取量のみ低値となったが、2週目以降の摂取量および総摂取量に有意差は見られなかった。これ以降の結果において摂取量の少なかったマウスを解析から除外することとした。
【0121】
(2)体重および体重増加量
投与期間中の体重の変化および増加量を表5に示した。体重および体重増加重は3群間に有意な差は認められなかった。
【表5】
【0122】
(3)投与終了時の血清グルコース値
投与終了後の血清グルコース値を表6及び
図8に示した。血清グルコース値は、トビコ群(M3群)では、高分子コンニャク群(M1群)に比べて低値を示した。また、表6及び
図8に示したとおり、低分子コンニャク群(M2群)の血清グルコース値は、高分子コンニャク群(M2群)に比べて有意に低値を示した(p<0.05)。
【表6】
【0123】
(4)投与終了時の血清インスリン値
投与終了後の血清インスリン値を表7及び
図9に示した。血清インスリン値は、トビコ群(M3群)は、高分子コンニャク群(M1群)に比べて低値を示した。
図9に示したとおり、低分子コンニャク群(M2群)の血清インスリン値は、高分子コンニャク群(M1群)に比べて低値傾向を示した(p<0.1)。
【表7】
【0124】
(5)投与終了時のインスリン抵抗性指数
投与終了後の (HOMA-R)値を表8及び
図10に示した。HOMA-R値は、トビコ群(M3群)は、高分子コンニャク群(M1群)に比べて低値を示した。
図10に示したとおり、低分子コンニャク群(M2群)のHOMA-R値は、高分子コンニャク群(M1群)に比べて有意に低値を示した(p<0.05)。即ち、低分子精粉又はトビコを用いた脂肪及び糖分の吸収抑制剤はインスリン抵抗性指数降下剤としての特徴も有する。
【表8】
【0125】
(6)投与終了時の血清アディポネクチン値
投与終了後の血清アディポネクチン値を表9及び
図11に示した。血清アディポネクチン値は、トビコ群は、高分子コンニャク群に比べて高値を示した。
図11に示したとおり、低分子コンニャク群の血清アディポネクチン値は、高分子コンニャク群に比べて有意に高値を示した(p<0.05)。低分子精粉又はトビコにはアディポネクチン分泌促進剤としての特徴も有する。
【表9】
【0126】
(7)投与終了時の肝臓TG濃度
投与終了時(後)の肝臓TG濃度を表10及び
図12に示した。低分子コンニャク群およびトビコ群の肝臓TG濃度は、高分子コンニャク群に比べて低値を示した。低分子精粉又はトビコを用いた脂肪及び糖分の吸収抑制剤は肝臓TG濃度降下剤進剤としての特徴も有する。
【表10】
【0127】
(8)投与3週目の乾燥糞重量
投与3週目の乾燥糞重量を表11に示した。低分子コンニャク群及びトビコ群の乾燥糞重量は、高分子コンニャク群に比べて低値を示した。低分子コンニャク群の乾燥糞重量は、高分子コンニャク群に比べて有意に低値を示した(p<0.01)。
【表11】
【0128】
(9)投与3週目の糞中TG排泄量
投与3週目の糞中TG排泄量を表12に示した。低分子コンニャク群およびトビコ群は
高分子コンニャク群と比べて低値を示した。特に、低分子コンニャク群の糞中TG排泄量は、高分子コンニャク群に比べて有意に低値を示した(p<0.01)。
【表12】
【0129】
(10)投与3週目の糞中総胆汁酸排泄量
投与3週目の糞中総胆汁酸排泄量を表13に示した。トビコ群の糞中総胆汁酸排泄量は、高分子コンニャク群に比べて有意に高値を示した(p<0.05)。即ち、トビコは胆汁酸の吸着効果が最も高いことが確認できた。即ち、低分子精粉又はトビコを用いた脂肪及び糖分の吸収抑制剤は胆汁酸吸着剤としての特徴も有する。
【表13】
【0130】
マウス実験についての考察
本研究では、2型糖尿病モデルマウスであるKK-Ayマウスを用いて高分子コンニャクを対照群として、低分子コンニャクおよびトビコの抗糖尿病作用を検討した。
【0131】
KK-Ayマウスは、若齢より高血糖を呈する2型糖尿病モデルマウスであり、新薬開発や食品の機能性評価において広く用いられている系統である。さらにKK-Ayマウスは、高脂肪食を摂取させることで肥満、高インスリン血症、インスリン抵抗性を引き起こしメタボリックシンドロームのモデルマウスともなる。
【0132】
そこで、KK-Ayマウスに高脂肪・高ショ糖食を摂取させ、同時に未処理の高分子コンニャク、加水分解により得た低分子コンニャク及びトビコを摂取させることによる血清グルコース値、血清インスリン値、インスリン抵抗性に及ぼす影響を検討した。
【0133】
その結果、低分子コンニャクまたはトビコを摂取させると、高分子コンニャクを摂取させた場合に比べて血清グルコース値、血清インスリン値が低値を示した。
【0134】
さらにインスリン抵抗性の指標として広く用いられているHOMA-Rを算出した結果、低分子コンニャク群、トビコ群のHOMA-Rは、高分子コンニャク群に比べて低値であった。なお
、高分子コンニャクについても、相対的な数値を実験データとして示していないが、HOMA-Rが低値となる効果がある。従って、低分子コンニャク、トビコの摂取によって、高分子コンニャクを摂取させた場合よりさらにインスリン抵抗性の悪化が軽減されたと考えられる。
【0135】
特に、低分子コンニャク群では、血清グルコース値およびインスリン抵抗性指数は、高分子コンニャク群に比べて有意に低値であったことから、インスリン抵抗性の悪化が有意に軽減されたと考えられる。
【0136】
コンニャクの主成分は多糖類の一種であるグルコマンナンである。グルコマンナンは、吸水性が高く消化管内で膨潤することから、糖質の消化・吸収を抑制あるいは遅延させると考えられている。グルコマンナンの吸水性や膨潤性は、分子量によって変化し、低分子量化によって低下する。実際、本研究で調製した低分子コンニャクは、高分子コンニャクに比べて粘性が低いことを確認している。しかし、低分子コンニャクの摂取によって抗糖尿病作用が認められた。従って、低分子コンニャクの抗糖尿病作用は、グルコマンナンの吸水性や膨潤以外の機序に起因するとも考えられる。
【0137】
肥満を伴うメタボリックシンドロームの重要な原因として、アディポネクチンの分泌低下が考えられている。アディポネクチン分泌低下によって更なるインスリン抵抗性の悪化、糖尿病病態の悪化を引き起こすことからアディポネクチンの分泌促進が肝要となる。低分子コンニャク群、及びトビコ群の血清アディポネクチン値は、高分子コンニャク群に比べて分泌が促進されることでその濃度低下が抑制されており、特に低分子コンニャク群では高分子コンニャク群に比べて有意に高値であった。ただ、トビコ群についても、低分子コンニャク群に近い血清アディポネクチン値を示している。
【0138】
従って、特に低分子コンニャクについては、これを摂取することによってアディポネクチン分泌低下の抑制又は分泌促進効果に伴う、抗メタボリックシンドローム作用が、より期待できると考えられる。また、トビコについても、低分子コンニャクに近い血清アディポネクチンの分泌低下の抑制又は分泌促進効果を有することが確認されていることから、通常廃棄されるトビコを極めて価値の高いものとして有効利用することができるという点で大きな効果を有する。
【0139】
以上の実験結果等より、低分子コンニャクおよびトビコの2型糖尿病モデルマウスに対する抗糖尿病作用が、高分子コンニャクより高くなることが明らかになった。特に血清グルコース値の上昇抑制、インスリン抵抗性の軽減、血清アディポネクチン値の分泌低下の抑制又は分泌促進が相対的に顕著にみられた低分子コンニャクについては、特に注目に値すると思われる。また、トビコ(トビコ)については本来廃棄されるものを極めて価値の高いものとして有効利用することができる点で重要な効果を有する。
【0140】
また、精粉、低分子精粉及びトビコを一種類以上含有する飲料物によれば、脂肪及び糖分の吸収抑制剤、インスリン抵抗性指数降下剤、アディポネクチンの分泌低下抑制剤又は分泌促進剤、肝臓TG濃度降下剤又は胆汁酸吸着剤に関する優れた効果を手軽に得ることができる。