(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-07
(45)【発行日】2022-06-15
(54)【発明の名称】エボラウイルス阻害剤の調製におけるベルバミン二塩酸塩の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4745 20060101AFI20220608BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20220608BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220608BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61P31/14
A61P31/12 171
(21)【出願番号】P 2020542492
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 CN2019091838
(87)【国際公開番号】W WO2020024719
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-04-17
(31)【優先権主張番号】201810863809.5
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520140844
【氏名又は名称】インスティテュート オブ メディシナル バイオテクノロジー, チャイニーズ アカデミー オブ メディカル サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】ツェン シャン
(72)【発明者】
【氏名】リ チュアンジェ
(72)【発明者】
【氏名】イー ドンロン
(72)【発明者】
【氏名】シー イー
(72)【発明者】
【氏名】ワン ハン
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ ジンミン
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-537171(JP,A)
【文献】Biological and Pharmaceutical Bulletin,1999年,Vol.22, No.3,pp.268274
【文献】Science,2015年,Vol.347, No.6225,pp.995-998
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染を阻害するウイルス阻害剤の調製におけるベルバミン二塩酸塩の使用であって、前記ウイルスは、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスである、ベルバミン二塩酸塩の使用。
【請求項2】
非ヒト動物に対する、ウイルス感染の阻害のためのベルバミン二塩酸塩の使用であって、前記ウイルスは、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスである、ベルバミン二塩酸塩の使用。
【請求項3】
ウイルス性出血熱の予防のための製品の調製におけるベルバミン二塩酸塩の使用であって、前記ウイルス性出血熱は、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスによって引き起こされる疾患である、ベルバミン二塩酸塩の使用。
【請求項4】
非ヒト動物に対する、ウイルス性出血熱の予防におけるベルバミン二塩酸塩の使用であって、前記ウイルス性出血熱は、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスによって引き起こされる疾患である、ベルバミン二塩酸塩の使用。
【請求項5】
エボラウイルス活性化エンベロープ糖タンパク質と結合することによりエボラウイルスの感染を阻害するための製品の調製におけるベルバミン二塩酸塩の使用。
【請求項6】
エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスによる動物のウイルス感染を阻害するウイルス阻害剤であって、ベルバミン二塩酸塩を含む、ウイルス阻害剤。
【請求項7】
非ヒ
ト動物にベルバミン二塩酸塩を投与することによって非ヒト動物のウイルス感染を阻害することを含み、
前記ウイルスは、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスである、非ヒト動物のウイルス感染を阻害する方法。
【請求項8】
非ヒ
ト動物にベルバミン二塩酸塩を投与してウイルス性出血熱の予防を行うことを含み、
前記ウイルス性出血熱は、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスによって引き起こされる疾患である、ウイルス性出血熱の予防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年8月1日に中国特許庁に出願され、出願番号201810863809.5、発明の名称「エボラウイルス阻害剤の調製におけるベルバミン二塩酸塩の使用」の中国特許出願の優先権を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ベルバミン二塩酸塩の使用に関し、特にエボラウイルス阻害剤の調製におけるベルバミン二塩酸塩の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ウイルス性出血熱は、ウイルスによって引き起こされる自然な流行病のグループであり、発熱、出血、ショックが主な臨床的特徴である。このような病気は世界中に広く分布しており、臨床症状はより重症であり、死亡率は高く、現在、世界で十数種類が発見されている。一般的なウイルス性出血熱は、エボラ出血熱、マールブルグ出血熱、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、リフトバレー熱、デング出血熱、黄熱病及び天然痘等を含む。
【0004】
エボラ出血熱(エボラウイルス病)は、フィロウイルス科のエボラウイルス(Ebola virus、EBOV)によって引き起こされる急性出血性感染症で、死亡率は90%と高く、これは人間にとって最も致命的なウイルス感染症の一つである。EBOVは5つの種に分けられ、つまりザイール型(Zaire ebolavirus、ZEBOV)、スーダン型(Sudanebolavirus、SUDV)、タイフォレスト型(Tai Forest ebolavirus,TAFV)、ブンディブギョ型(Bundibugyoebolavirus、BDBV)及びレストン型(Reston ebolavirus、RESTV)である。そのうち、ザイール型エボラウイルスは最も病原性がある。
【0005】
マールブルグ出血熱は、マールブルグウイルス(Marberg virus、MARV)によって引き起こされる急性発熱性疾患であり、重度の出血症状がある。それはエボラ出血熱と同じファミリーに属し、いずれも非常に致命的な感染症である。マールブルグウイルスとエボラウイルスは、フィロウイルス科(Filoviridae)の糸状ウイルス(Filovirus)属に属する。
【0006】
ラッサ熱は、ラッサウイルス(LASV)によって引き起こされ、げっ歯類をホストとして伝染する急性感染症である。ラッサウイルスは、アレナウイルス科(Arenaviridae)のマンマレナウイルス(Mammarenavirus)属に属する。
【0007】
エンベロープ糖タンパク質(Glycoprotein、GP)とは、ウイルス自体によってエンコードされ、ウイルスの外層にコーティングされている糖タンパク質のことである。GPは、ウイルスの吸着と宿主細胞への浸透、病原性、宿主細胞表面タンパク質発現のダウンレギュレーション及びウイルスの組み立てと出芽の増加中に重要な役割を果たす多機能タンパク質である。
【0008】
現在では、対症療法と支持療法が主にウイルス性出血熱に使用されており、体系的で臨床的に証明された効果的な特定の治療薬やワクチンはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題は、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスなどのウイルス性出血熱を引き起こすウイルスをいかに阻害するかである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の技術的課題を解決するために、本発明はベルバミン二塩酸塩の用途を提供する。
【0011】
ベルバミン二塩酸塩の構造式は
図1に示すとおり、そのCAS登録番号は6078-17-7である。
【0012】
本発明によって提供されるベルバミン二塩酸塩の用途は、U1からU5までのいずれか一種であり、
U1.ウイルス阻害剤の調製におけるベルバミン二塩酸塩又は薬学的に許容されるその塩の使用であって、前記ウイルスは、活性化されたエンベロープ糖タンパク質を介してベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩に結合できるウイルスであってもよく;
U2.ウイルス阻害におけるベルバミン二塩酸塩又は薬学的に許容されるその塩の使用であって、前記ウイルスは、活性化されたエンベロープ糖タンパク質を介してベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩に結合できるウイルスであってもよく;
U3.ウイルス性出血熱の治療及び/又は予防のための製品(例えば薬物、ワクチン又は薬物製剤)の調製におけるベルバミン二塩酸塩又は薬学的に許容されるその塩の使用であって、前記ウイルス性出血熱は、活性化されたエンベロープ糖タンパク質を介してベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩に結合できるウイルスによって引き起こされる疾患であってもよく;
U4.ウイルス性出血熱の治療及び/又は予防におけるベルバミン二塩酸塩又は薬学的に許容されるその塩の使用であって、前記ウイルス性出血熱は、活性化されたエンベロープ糖タンパク質を介してベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩に結合できるウイルスによって引き起こされる疾患であってもよく;
U5.ウイルス活性化エンベロープ糖タンパク質と結合する製品(例えば薬物、ワクチン又は薬物製剤)の調製におけるベルバミン二塩酸塩又は薬学的に許容されるその塩の使用である。
【0013】
上記用途において、前記ウイルスは、フィロウイルス科及び/又はアレナウイルス科のウイルス、例えばウイルス性出血熱を引き起こすウイルスであってもよい。ウイルス性出血熱を引き起こす前記ウイルスは、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスであってもよい。
【0014】
上記用途において、前記ウイルス性出血熱は、エボラ出血熱、マールブルグ出血熱及び/又はラッサ熱であってもよい。
【0015】
上記用途において、前記ウイルス阻害剤、ウイルス性出血熱の治療及び/又は予防のための前記製品及びウイルス活性化エンベロープ糖タンパク質に結合する製品は、ベルバミン二塩酸塩又は薬学的に許容されるその塩を含む以外、さらに適切な担体又は賦形剤を含むことができる。ここでの担体材料は、水溶性担体材料(例えばポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、有機酸など)、難溶性担体材料(例えばエチルセルロース、ステアリン酸コレステリルなど)、腸溶性担体材料(例えば酢酸セルロースフタル酸エステル及びカルボキシメチルエチルセルロースなど)を含むが、これらに限定されない。このうち、水溶性担体材料が好ましい。これらの材料を使用して複数の剤形にすることができ、錠剤、カプセル剤、滴下丸剤、エアゾール剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、リポソーム、経皮吸収剤、バッカル錠剤、坐剤、凍結乾燥粉末注射剤等を含むが、これらに限定されない。それは、一般的な製剤、徐放性製剤、放出制御製剤、及びさまざまな微粒子薬物送達システムであってもよい。
【0016】
単位剤形を錠剤にするために、本分野で知られている様々な担体を広く使用することができる。担体に関する例は、例えば澱粉、デキストリン、硫酸カルシウム、乳糖、マンニトール、スクロース、塩化ナトリウム、グルコース、尿素、炭酸カルシウム、白粘土、微結晶セルロース、ケイ酸アルミニウムなどの希釈剤及び吸収剤、例えば水、グリセリン、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、澱粉スラリー、デキストリン、シロップ、蜂蜜、グルコース溶液、アラビアゴム粘液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロースナトリウム、シェラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの湿潤剤及び結合剤、例えば乾燥澱粉、アルギン酸塩、寒天粉末、褐藻澱粉、炭酸水素ナトリウム及びクエン酸、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレン、ソルビトール脂肪酸エステル、ドデシルスルホン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロースなどの崩壊剤、例えばスクロース、グリセリルトリステアレート、ココアバター、硬化油などの崩壊抑制剤、例えば四級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤、例えばタルク粉、シリカ、コーンスターチ、ステアリン酸塩、ホウ酸、流動パラフィン、ポリエチレングリコールなどの潤滑剤である。錠剤はまた、例えば糖衣錠、フィルムコーティング錠、腸溶性コーティング錠、又は二層錠及び多層錠などの被覆錠にすることができる。
【0017】
単位剤形を丸剤にするために、本分野で知られている様々な担体を広く使用することができる。担体に関する例は、例えばグルコース、ラクトース、澱粉、ココアバター、硬化植物油、ポリビニルピロリドン、Gelucire、カオリン、タルク粉などの希釈剤及び吸収剤、例えばアラビアゴム、トラガカント、ゼラチン、エタノール、蜂蜜、液糖、米シリアル又はバッターなどの結合剤、例えば寒天粉末、乾燥澱粉、アルギン酸塩、ドデシルスルホン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロースなどの崩壊剤である。単位剤形を坐剤にするために、本分野で知られている様々な担体を広く使用することができる。担体に関する例は、例えばポリエチレングリコール、レシチン、ココアバター、高級アルコール、高級アルコールのエステル、ゼラチン、半合成グリセリドなどである。
【0018】
単位投与剤型を、例えば液剤、乳剤、凍結乾燥粉末注射剤及び懸濁剤といった注射用製剤にするために、本分野において一般的に使用されるすべての希釈剤、例えば、水、エタノール、ポリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリ酸化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等を使用することができる。また、等張注射液を調製するために、注射用製剤に適切な量の塩化ナトリウム、グルコース又はグリセロールを添加することができ、また、従来の共溶媒、緩衝剤、pH調整剤等も添加できる。また、必要に応じて、着色剤、防腐剤、香味料、矯味剤、甘味剤又は他の材料も薬物製剤に添加することができる。上記剤形は、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射及び腔内注射などを含む注射、直腸及び膣などの腔内投与、鼻腔などの経気道投与、経粘膜投与によって投与することができる。
【0019】
本発明はさらに医薬化合物を提供する。
【0020】
本発明によって提供される医薬化合物は、ベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩である。
【0021】
上記医薬化合物において、前記医薬化合物は、動物のウイルス感染を阻害するために使用することができる。前記ウイルスは、活性化されたエンベロープ糖タンパク質を介してベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩に結合できるウイルスであってもよい。前記ウイルスは、フィロウイルス科及び/又はアレナウイルス科のウイルス、例えばウイルス性出血熱を引き起こすウイルスであってもよい。ウイルス性出血熱を引き起こす前記ウイルスは、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスであってもよい。
【0022】
本発明はさらに、動物のウイルス感染を阻害する方法を提供する。
【0023】
本発明によって提供される動物のウイルス感染を阻害する方法は、動物のウイルス感染を阻害するために動物へのベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩の投与を含み、前記ウイルスは、活性化されたエンベロープ糖タンパク質を介してベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩に結合できるウイルスであってもよい。さらに、前記ウイルスは、フィロウイルス科及び/又はアレナウイルス科のウイルス、例えばウイルス性出血熱を引き起こすウイルスであってもよい。ウイルス性出血熱を引き起こす前記ウイルスは、エボラウイルス、マールブルグウイルス及び/又はラッサウイルスであってもよい。
【0024】
本発明はさらに、ウイルス性出血熱の治療及び/又は予防方法を提供する。
【0025】
本発明により提供されるウイルス性出血熱の治療及び/又は予防方法は、動物にベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩を投与してウイルス性出血熱の治療及び/又は予防を行うことを含み、前記ウイルス性出血熱は、活性化されたエンベロープ糖タンパク質を介してベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩に結合できるウイルスによって引き起こされる疾患であってもよい。
【0026】
本発明において、前記動物は、ヒトなどの哺乳動物であってもよく、前記動物はまた、哺乳動物以外の前記ウイルスに感染した鳥類などの他の動物であってもよい。
【0027】
本発明において、用語「薬学的に許容される塩」は、信頼性の高い医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などのない、ヒト及び下等動物の組織との接触に適し、且つ合理的な効果/リスク比に見合った塩である。薬学的に許容される塩は、本分野で公知のものである。例えば、S.M.Berge,et al.,J.Pharmaceutical Sciences,1977,66:1において、薬学的に許容される塩が詳細に記載されている。
【0028】
本発明において、前記エボラウイルスは、ザイール型、スーダン型、タイフォレスト型、ブンディブギョ型及び/又はレストン型エボラウイルスであってもよい。
【0029】
本発明において、前記ウイルス阻害は抗ウイルスとも呼ばれる。前記ウイルス阻害は、細胞へのウイルス侵入の阻害であってもよい。前記細胞へのウイルス侵入の阻害は、ウイルス活性化エンベロープ糖タンパク質(GPcl)を介した細胞へのウイルス侵入の阻害であってもよい。
【0030】
本発明では、エボラウイルス活性化エンベロープ糖タンパク質(EBOV-GPcl)を標的として使用し、EBOV-GPclに結合する能力を有する抗ウイルス活性化合物を、構造に基づく仮想スクリーニングにより取得し、該化合物はベルバミン二塩酸塩である。ベルバミン二塩酸塩は、標的タンパク質EBOV-GPclに結合することによりエボラ組換えウイルスの侵入を特異的に阻害し、エボラウイルス感染に抵抗する効果を達成できる。抗EBOVのベルバミン二塩酸塩の半最大効果濃度(EC50)は0.49μMであり、ベルバミン二塩酸塩はEBOVに対して強い阻害効果があることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】実施例1のベルバミン二塩酸塩は、EBOV-Zaire GP/HIV-luc組換えウイルスの侵入に対して特異的な阻害効果を有し、
図2では、VSVGはVSV-G/HIV-lucを示し、Ebola-GPはEBOV-Zaire GP/HIV-luc、ウイルス感染率=1-阻害率、DMSOはブランクコントロール処理を示し、TETはテトランドリン処理を示し、1-22はそれぞれ22種類の化合物処理を示し、そのうち10はベルバミン二塩酸塩処理である。
【
図3】実施例2の細胞増殖実験は、293T細胞の増殖に対するベルバミン二塩酸塩の効果を検証し、
図3において、DMSOはブランクコントロール処理を示し、TETはテトランドリン処理を示し、EEI-10はベルバミン二塩酸塩処理を示す。
【
図4】実施例3のEBOV-Zaire GP/HIV-luc組換えウイルスに対するベルバミン二塩酸塩の阻害効果は、良好な用量依存効果を持つ。
【
図5】実施例4の薬物の作用点の実験は、ベルバミン二塩酸塩がウイルスの侵入段階に作用することを示し、
図5において、TETはテトランドリン処理を示し、EEI-10はベルバミン二塩酸塩処理を示し、RTはエファビレンツ処理を示す。
【
図6】実施例5では、ベルバミン二塩酸塩は、MARV-GP/HIV-luc組換えウイルス及びLASV-GP/HIV-luc組換えウイルスの両方に対して阻害効果を示した。
【
図7】バイオレイヤーの光学干渉技術を使用して、異なる濃度のベルバミン二塩酸塩と標的タンパク質GPclのキネティック結合曲線をインビトロで測定した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、発明を実施するための形態を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、これらの例は本発明を説明するためだけに与えられ、本発明の範囲を限定するものではない。以下に提供される実施形態は、当業者がさらなる改善を行うためのガイドとして機能することができるが、いかなる形においても本発明に対する制限を構成するものではない。
【0033】
特に明記しない限り、以下の実施例の実験方法は、当業者に知られている従来の方法であるか又は製造業者が推奨する条件に従っている。以下の実施例で使用されている材料、試薬などは、特に指定がない限り、商業的供給源から入手することができる。
【0034】
ベルバミン二塩酸塩は公知の化合物であり、市販品から購入することができ、具体的な取得手段は従来技術であり、本発明はこれを特に限定しない。下記実施例におけるベルバミン二塩酸塩は、TargetMol社の製品である。
下記実施例における真核生物発現ベクターpcDNA3.1(+)は、Invitrogen社の製品である。
【0035】
下記実施例におけるルシフェラーゼレポーター遺伝子を運ぶHIV-lucプラスミドpNL4-3Luc(R-E-)(Ma,L.,et al.(23May 2018).「Identification of small molecule compounds targeting theinteraction of HIV-1Vif and human APOBEC3G by virtual screening andbiological evaluation.」Sci Rep 8(1):8067)について、一般市民は、中国医学アカデミーの医療バイオテクノロジー研究所(中国語表記:中国医学科学院医薬生物技術研究所)から該生物学的材料を入手できる。該生物学的材料は、本発明の実験を繰り返すためにのみ使用され、他の目的には使用できない。
【0036】
以前の研究によれば、エボラウイルスのエンベロープ糖タンパク質(EBOV-GP)は、リソソームに入った後に酵素消化され、酵素消化後の活性化されたエンベロープ糖タンパク質(Primed GP、GPcl)は、エンドソーム受容体-ヒトコレステロール輸送体(Niemann-Pick C1,NPC1)と直接相互作用し、それによりウイルスと宿主細胞間の膜融合プロセスを開始することとなる。本発明において、発明者は、EBOV-GPcl(エボラウイルス活性化エンベロープ糖タンパク質)とNPC1-Cの相互作用に応じて、新しい薬物設計法を使用して、EBOV-GPclに特異的に結合し、細胞へのエボラウイルスの侵入を阻害できる活性ペプチドを設計及び合成する。発明者は、活性ポリペプチドとEBOV-GPclとの間の水素結合、静電相互作用及び疎水性相互作用等に基づいてファーマコフォアモデルを構築し、EBOV-GPclを標的とするエボラウイルス侵入阻害剤の仮想スクリーニング法を確立し、それによりEBOV-GPclに特異的に結合した低分子化合物を見つけ、それによってEBOV-GPclのNPC1-Cへの結合を阻害し、さらにエボラウイルスの複製を阻害する。このモデルを利用してデータベースをスクリーニングし、複数のソフトウェアを使用してスコアリングした後、最終的に標的化合物が取得され、それを生物学的活性について試験し、最終的にEBOV-GPclを標的とする抗ウイルス活性化合物が得られ、該化合物はベルバミン二塩酸塩であり、それはEBOV-GPclと結合する能力を有する。
【0037】
EBOVは、危険性で言えばレベル4のウイルスに分類されるため、本発明は、インビトロで低分子化合物の生物学的活性を評価するための安全で効果的な研究手段として偽ウイルス技術を使用する。最も毒性の高いザイール型EBOVのGPタンパク質を使用してHIVコアをコーティングして、複製欠損型偽ウイルスEBOV-GP/HIV-lucを調製し、サンプルの抗ウイルス活性をフェラーゼレポーター遺伝子検出技術によって判定した。それと同時に、VSVG/HIV-luc組換えウイルスモデルを使用して、低分子化合物の特異性を分析した。細胞毒性を除外した後、薬物の作用点実験により、低分子化合物の作用メカニズムをさらに検証した。最後に、光ファイバーバイオセンサーに基づくバイオレイヤーの光学干渉技術を使用して、標的タンパク質GPclへの低分子化合物の結合能力をインビトロで測定し、低分子化合物のターゲティングを確認した。具体的な実験方法及び結果は下記のとおりである。
【実施例】
【0038】
実施例1
EBOVが阻害剤スクリーニングモデルに入り、ベルバミン二塩酸塩がEBOV活性を特異的に阻害できることを検証した。
【0039】
細胞レベルでの組換えウイルス技術を使用して、Zaire-EBOVのGPをHIVコアプラスミド(pNL4-3.Luc)と共発現させ、組換えウイルスを調製し、GPタンパク質を標的とするEBOV侵入阻害剤のハイスループットスクリーニングモデルを使用して、化合物の抗ウイルス活性を評価した。具体的な手順は以下のとおりである。
【0040】
293T細胞を培養用に取り、細胞を培養フラスコで満たした後、古い培地を廃棄し、0.25%トリプシンと0.02%EDTAを含む消化液で消化する。細胞が丸くなった後、消化液を捨て、10%FBS(GIBCOから購入)を含む高グルコースDMEM培地(GIBICOからを直ちに添加し、ボトルの底をピペットで優しく吹くことにより、ボトルの底から細胞を完全に放出し且つ単一の細胞懸濁液に分散させる。カウント後、細胞濃度を培地で2.2×105細胞/mlに調整し、6ウェルプレート、2mL/ウェルに播種する。24h後(細胞の量は約70%)にトランスフェクトし、プラスミド投与量:2μgpZEBOV-GP及びルシフェラーゼレポーター遺伝子を運ぶ3μgのHIV-lucプラスミドpNL4-3Luc(R-E-)、トランスフェクション試薬はLipofectamine 2000(Invitrogen株式会社)であり、取扱説明書に従ってトランスフェクションを行い、エボラ偽型ウイルスを生成し、該エボラ偽型ウイルスをEBOV-Zaire GP/HIV-lucと名付ける。トランスフェクション後の48時間に偽型ウイルスを含む上清を収集し、結合し、低速遠心分離により浮遊細胞及び細胞破片から清澄化し、且つ0.45μm孔径フィルターで濾過した。ELISAアッセイを使用してウイルス関連HIV p24レベルを測定することにより偽ウイルス粒子を定量化した。
【0041】
ここで、pZEBOV-GPはZaire ebolavirus isolate H.sapiens-wt/GIN/2014/Makona-Gueckedou-C07のGP遺伝子(GenBank Accession No.KJ660347.2(Update Date Dec18,2014 01:25PM)の第5900-8305位置をベクターpcDNA3.1(+)に挿入して得られた、Zaire-EBOVの糖タンパク質(GP)を発現する組換え発現プラスミドである。
【0042】
EBOV-Zaire GP/HIV-luc偽ウイルス粒子を293T細胞とともに96ウェルプレートにインキュベートした。48時間後、細胞を収集して溶解し、ホタルルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性の値は、ウイルス感染を表す。
【0043】
化合物をDMSOに溶解した後にそれぞれEBOV-Zaire GP/HIV-luc偽ウイルスと混合し、化合物の含有量が10μMになるように293T細胞に添加した。48時間後、293T細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定することにより、ウイルスに対する化合物の阻害率を評価した。溶媒DMSOをブランクコントロールとして使用し、同時にEBOV侵入阻害剤テトランドリン(tetrandrine、TET)をコントロールとして導入した。テトランドリンをDMSOに溶解した後にEBOV-Zaire GP/HIV-luc偽ウイルスと混合し、293T細胞に添加した。テトランドリンの含有量は1μMである。48時間後、293T細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定することにより、ウイルスに対する化合物の阻害率を評価した。ウイルスに対する化合物の阻害率=1-相対ルシフェラーゼ活性。相対ルシフェラーゼ活性は、ブランクコントロールに対するルシフェラーゼ活性を指す。ルシフェラーゼ活性は、実際にはウイルス感染性を表す。
【0044】
現在では知られているEBOV阻害剤のほとんどは、広域スペクトルの抗ウイルス薬であり、EBOVに対する狭スペクトル阻害剤を見つけるには、スクリーニングされた活性化合物の特異性を分析することが必要である。水疱性口内炎ウイルスコート糖タンパク質(vesicular stomatitis virus glycoprotein、VSVG)とEBOV-GPclは同様に作用し、ウイルス及び受容体の認識に重要な役割を果たすため、VSVGを発現する偽ウイルスVSV-G/HIV-lucを使用して化合物の特異性を分析する。細胞毒性因子を除外した後、同様にルシフェラーゼの原理を使用して、VSV-G/HIV-luc偽ウイルスに対する化合物の阻害活性を検出し、方法は上記と同じである。化合物がEBOV-GPclを介したウイルス侵入に対して有意な阻害効果のみを持ち、VSVを阻害しない場合、又は阻害率が非常に低い場合、この化合物はEBOVに特異的であることを示す。
【0045】
実験を3回繰り返した結果を
図2に示す。化合物のベルバミン二塩酸塩は、EBOV-Zaire GP/HIV-luc偽ウイルスを80%以上阻害し、同じ濃度でのVSV-G/HIV-luc偽ウイルスに対する抑制効果はほとんどない。これは、ベルバミン二塩酸塩がEBOV-Zaire GP/HIV-luc偽ウイルスに対して特異的な阻害効果があることを示す。ポジティブコントロールとして、EBOV侵入阻害剤であるテトランドリン(TET)は、ベルバミン二塩酸塩と同様の選択的阻害効果がある。
【0046】
ここで、VSV-GPを発現する偽ウイルスVSV-G/HIV-lucの調製方法は、EBOV-Zaire GP/HIV-lucの調製方法における、pZEBOV-GPをpVSV-GPに置き換えることのみがEBOV-Zaire GP/HIV-lucの調製方法と相違しており、他の操作はまったく同じである。pVSV-GPは、水疱性口内炎ウイルスコート糖タンパク質GP遺伝子(GenBankAccession No.V01214.1(Update Date Feb 4,2011)の第14-1567位をベクターpcDNA3.1(+)に挿入して得られた、水疱性口内炎ウイルスコート糖タンパク質を発現する組換え発現プラスミドである。
【0047】
実施例2
ベルバミン二塩酸塩の抗ウイルス活性は、その細胞毒性とは関係がない。
【0048】
化合物の毒性による非特異的な違いを除外するために、細胞カウントキット-8(cellCounting Kit-8,CCK-8)を使用して、293T細胞の増殖に対するベルバミン二塩酸塩の効果を評価した。
【0049】
CCK-8キットは、細胞増殖、細胞生存、細胞毒性を検出するためのキットで、WST-8(水溶性テトラゾリウム塩、化学名:2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホベンゼン)-2H-テトラゾリウム一ナトリウム塩)に基づくMTT法の代替法として広く使用されている高速高感度検出キットである。キットは、水溶性テトラゾリウム塩-WST-8を使用し、電子カップリング試薬の存在下では、ミトコンドリア内のいくつかのデヒドロゲナーゼによって還元され、オレンジ-黄色のホルマザンを生成することができる。増殖する細胞が多ければ多いほど、色は濃くなり、細胞毒性が高いほど、色が薄くなる。同じ細胞の場合、色深度と細胞の数の間には良好な線形関係がある。450nmの波長で酵素結合免疫測定器によってその光吸収値を測定し、生細胞の数を間接的に反映できる。具体的な手順は以下のとおりである。
【0050】
293T細胞を96ウェルプレートで培養し且つベルバミン二塩酸塩(DMSOに溶解)でインキュベートした。培地中のベルバミン二塩酸塩の含有量は、それぞれ10μM、2.5μM、0.625μMである。48時間後、細胞上清を10%CCK-8試薬含有細胞培養液に交換し、細胞をさらに37°C、5%CO2のインキュベーターで1h培養した。450nmでの各ウェルの光学密度(OD)値をマイクロプレートリーダー(Thermo、Varioskan Flash)で記録した。
【0051】
テトランドリン(TET)をコントロールとして使用して、293T細胞を96ウェルプレートで培養し且つテトランドリン(DMSOに溶解)でインキュベートした。培地中のテトランドリンの含有量は、それぞれ10μM、2.5μM、0.625μMである。48時間後、細胞上清を10%CCK-8試薬含有細胞培養液に交換して、細胞をさらに37°C、5%CO2のインキュベーターで1h培養した。450nmでの各ウェルの光学密度(OD)値をマイクロプレートリーダー(Thermo、Varioskan Flash)で記録した。
溶媒DMSOをブランクコントロール(DMSO)として使用した。ブランクコントロールのOD450nmを100%細胞生存率として記録した。
【0052】
実験を3回繰り返した。結果を
図3に示す。
図3に示すとおり、10μMの最高濃度(測定されたIC 50値よりもはるかに高い)では、ベルバミン二塩酸塩は細胞の生存率に有意な影響を与えない。これは、ベルバミン二塩酸塩の抗ウイルス活性がその細胞毒性とは関係がないことを示す。
【0053】
実施例3
EBOVに対するベルバミン二塩酸塩の阻害効果は、良好な用量依存がある。
【0054】
実施例1における方法を参照して、ベルバミン二塩酸塩をDMSOで溶解した後にそれぞれ実施例1のEBOV-Zaire GP/HIV-lucと混合し、その後に293T細胞に添加した。ベルバミン二塩酸塩含有量をそれぞれ0.15625、0.3125、0.625、1.25、2.5、5、10、20μMにした。48時間後、293T細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を測定することによりベルバミン二塩酸塩の抗EBOV活性を評価した。溶媒DMSOをブランクコントロール(DMSO)として使用し、ブランクコントロールのルシフェラーゼ活性を細胞生存率の100%とした。実験を3回繰り返した結果を
図4に示す。
図4に示すとおり、ベルバミン二塩酸塩は、用量依存的にEBOV-Zaire GP/HIV-luc偽ウイルス活性を大幅に阻害した。抗EBOVのベルベラミン二塩酸の半最大効果濃度(EC50)は0.49μMであった。
【0055】
実施例4
薬物の作用点実験により、ベルバミン二塩酸塩がウイルスの侵入段階に作用することが確認された。
【0056】
EBOV-Zaire GP/HIV-luc偽ウイルスに対するベルバミン二塩酸塩の特異的阻害効果は、それらがEBVO侵入阻害剤として作用する可能性があることを示す。これを確認するために、薬物の作用点(Time of addition、TOA)実験により、ウイルス感染サイクルにおいてベルバミン二塩酸塩が作用する段階を調べた。具体的な手順は以下のとおりである。
【0057】
感染の1日前に、293T細胞を細胞数6×104細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、実施例1のEBOV-Zaire GP/HIV-luc50μL感染細胞をそれぞれ添加する。感染(-1時間)、感染中(0時間)及び感染後2、4、6、8、10、12、14及び16時間に、ベルバミン二塩酸塩(DMSOで溶解、培地における含有量(最終濃度)は1×10-5 mol・L-1)を添加し、EBOV侵入阻害剤テトランドリン(tetrandrine,TET)(DMSOで溶解、培地での含有量は1×10-7mol・L-1)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤エファビレンツ(efavirenz、EFV)(DMSOで溶解、培地での含有量は1×10-9mol・L-1)をコントロールとし、DMSOを溶媒コントロールとした。感染の48h後、レポーター遺伝子ルシフェラーゼ活性の検出は、組換えウイルス複製のレベルを反映する。
【0058】
EBOVの1回の感染中の薬物の有効期限を測定することにより、薬物の作用段階を予備的に判断できる。
図5に示すように、ベルバミン二塩酸塩は、ウイルス侵入の初期段階で非常に強力な阻害効果を示し、ウイルスが吸着プロセスを完了した後、ウイルス感染に対する阻害効果はない。これは、EBOV侵入阻害剤テトランドリンの作用時間と一致する。非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤エファビレンツは、6h後にも依然としてウイルスを阻止する作用がある。これらの結果は、ウイルスが宿主に結合した後且つそれらが膜融合する前に、ベルバミン二塩酸塩が機能することを示す。
【0059】
実施例5
マールブルグ組換えウイルス及びラッサ組換えウイルスモデルを使用して化合物を評価した。
【0060】
エボラウイルスは糸状ウイルス科に属し、組換えウイルス技術に基づき、他の2つの糸状組換えウイルスのモデルを確立し、それぞれマールブルグ組換えウイルス(MARV-GPを発現する偽ウイルスMARV-GP/HIV-luc)及びラッサ組換えウイルス(LASV-GPを発現する偽ウイルスLASV-GP/HIV-luc)である。ここで、MARB-GPを発現する偽ウイルスMARV-GP/HIV-luc及びLASV-GPを発現する偽ウイルスLASV-GP/HIV-lucの調製方法は、いずれもEBOV-Zaire GP/HIV-lucの調製方法とEBOV-Zaire GP/HIV-lucの調製方法におけるpZEBOV-GPを、それぞれpMARV-GP及びpLASV-GPに置き換えることのみが相違しており、他の操作はまったく同じである。
【0061】
pMARV-GPは、マールブルグウイルスコート糖タンパク質GP遺伝子(GenBank Accession No.NC_001608.3)(Update Date 12-NOV-2014)の第5941-7986位をベクターpcDNA3.1(+)に挿入して得られた、マールブルグウイルスコート糖タンパク質を発現する組換え発現プラスミドである。
【0062】
pLASV-GPは、ラッサウイルスコート糖タンパク質GP遺伝子(GenBank Accession No.J04324.1)(Update Date Jun 23,2010)の第1872-3347位をベクターpcDNA3.1(+)に挿入して得られた、ラッサウイルスコート糖タンパク質を発現する組換え発現プラスミドである。
【0063】
実施例3の方法を参照して、MARV-GP/HIV-luc及びLASV-GP/HIV-luc組換えウイルスモデルを使用して、マールブルグウイルス及びラッサウイルスに対するベルバミン二塩酸塩の半最大効果濃度を測定した。
図6に示すように、ベルバミン二塩酸塩はマールブルグウイルスとラッサウイルスの宿主への侵入を阻害できる。EC50は、それぞれ0.99μMと2.64μMである。本研究は、ベルバミン二塩酸塩が広域スペクトルの抗ウイルス効果を持っていることを示唆する。タンパク質配列比較の結果は、エボラウイルスとマールブルグウイルスGPタンパク質の2つの株間の配列相同性がわずか23%であることを示す。化合物を評価するためにウイルスモデルの複数の株を使用すると、広域スペクトルの抗ウイルス薬の発見に有利であり、且つ薬物の作用メカニズムの研究に役立つ。
【0064】
実施例6
バイオレイヤーの光学干渉技術を使用して、ベルバミン二塩酸塩の標的タンパク質GPclへの結合能力をインビトロで測定した。
【0065】
エボラウイルスエンベロープの表面の糖タンパク質GPは、エンドソームで宿主プロテアーゼ カテプシン(Cathepsin)によって消化され、活性化された糖タンパク質GPclになり、受容体結合部位を露出させる。ベルバミン二塩酸塩が標的タンパク質GPclに結合することによってウイルスの侵入を特異的に阻害することを検証するために、光ファイババイオセンサーベースのバイオレイヤー光学干渉(BioLayer Interferometry、BLI)技術を使用して、ベルバミン二塩酸塩と標的タンパク質GPclの結合能力をインビトロで測定した。BLI技術は、生体分子間の相互作用をリアルタイムで追跡でき、タンパク質と他の生体分子間の相互作用の研究に最適である。具体的な手順は以下のとおりである。
【0066】
実験には、スーパーストレプトアビジン(Super streptavidin、SSA)バイオセンサーが選択されているため、先ず、標的タンパク質GPclをビオチン化する必要がある。ビオチン(EZ-Link TM NHS-LC-LC-Biotin、Cat.#21343,ThermoScientific TM)を精製後の標的タンパク質GPclとモル比3:1で混合し、室温で1時間反応させた後に脱塩カラム(Zeba TM Spin Desalting Columns、Cat.#89883、Thermo)で未反応のビオチンを除去し、ビオチン化標的タンパク質GPclを取得する。
【0067】
結合実験は、Octet RED96(ForteBio、Inc.,CA、USA)機器を使用し、主に、
ステップ1)ベースラインの検出:SSAセンサーを緩衝溶液に浸漬して120秒間静置して平衡状態にする;
ステップ2)センサーでビオチン化標的タンパク質GPclをインキュベートして、センサープローブをビオチン化GPclタンパク質溶液(50μg/ml)に移動して600秒間静置し、タンパク質をSSAセンサーに固定する;
ステップ3)センサーのブロック:センサーを5μMビオシチン(EZ-Biocytin、Cat.#28022、Thermo)含有溶液に移動して60sブロックする;
ステップ4)二回目のベースライン検出:センサーを緩衝溶液に移動して120s静置して平衡状態にする;
ステップ5)結合:センサーを化合物溶液に移動し、60s静置してKon値を測定する;
ステップ6)解離:センサーを緩衝溶液に移動し、60s静置してKoff値を得る;
というステップで実験を行う。実験で使用した緩衝液は、PBS(タンパク質の溶解用)及びPBS+5%DMSO(ベルバミン二塩酸塩の溶解用)である。今回の実験では、サンプルのロードと検出を別々に行い、第1のマイクロプレートには3列が含まれ、第1列ではPBSをベースラインとして使用し、第2列はビオチン化標的タンパク質GPclのロードに用い、第3列では5μMビオシチンはブロックに用いられる。センサーにロードした後に2枚目のマイクロプレートを検出する。その第1~第6列は、PBS+5%DMSOで、第7~第12列は、低濃度から高濃度の勾配(31.25μM-500μM)のベルバミン二塩酸塩である。このプロセス中に、濃度が異なる5種類のベルバミン二塩酸塩溶液を使用して、最終的なキネティック曲線を取得する。ForteBioデータ分析ソフトウェアDataAnalysis 9.0を使用して実験データを分析する。解離速度定数KD=K off/K on。
【0068】
図7における横座標は反応時間で、その単位は秒である。縦座標はGPclと化合物ベルバミン二塩酸塩の相互作用の信号強度で、その単位はnmである。結果は、ベルバミン二塩酸塩がGPclタンパク質に結合できることを示す。
【0069】
本発明はEBVOを例として本発明の技術的解決手段の抗ウイルスメカニズムを具体的に説明するが、本発明では、ベルバミン二塩酸塩又はその薬学的に許容される塩の用途の保護範囲はEBOVに限定されない。上記抗ウイルスメカニズムに適用するいかなるウイルスは、いずれも本発明の前記ウイルスの範囲内のものであり、例えばEBOVの他の4種類のサブタイプ及びマールブルグウイルス(Marburg virus、MARV)、ラッサウイルス(Lassa virus、LASV)等の他の糸状ウイルスであってもよい。
【0070】
以上は、特別な実施例を与えて本発明を詳しく説明したが、言うまでもなく、本発明をさらに改善できる。要約すると、本発明の原理に従って、本出願は、本発明に対するいかなる変更、用途又は改善を含むことを意図し、本出願の開示範囲から逸脱し、本分野の既知の従来技術で行われる変更を含む。以下の添付の特許請求の範囲に従って、いくつかの基本的な特徴の応用を行うことができる。